説明

熱可塑性樹脂組成物および成形品

【課題】衝撃特性およびウェルド強度に優れ、成形加工性および金型離型性が良好な熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部、ポリカーボネート樹脂(B)5〜92重量部および、ポリエーテルエステルアミド(C)3〜45重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であり、好適には、その熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、有機イオン導電剤(D)を0.01〜20重量部とシリコーン化合物(E)を0.2〜5重量部配合してなる制電性の熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリレート系樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエーテルエステルアミドを含有し、好適にはさらに、有機イオン導電剤とシリコーン系化合物を配合してなる、衝撃特性およびウェルド強度に優れ、成形加工性および金型離型性が良好な熱可塑性樹脂組成物、およびその熱可塑性樹脂組成物からなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭電気機器、OA機器および自動車などの精密な電気・電子制御製品を備えた各種機器およびその構成部品において、発生する静電気の除電を目的として、様々な制電性熱可塑性樹脂材料が広く使用されている。本来、電気絶縁性である熱可塑性樹脂に持続的な制電性能を付与する方法として、熱可塑性樹脂にカーボンや金属系の導電性フィラーを混合する方法や、ポリエーテルエステルアミド等の導電性樹脂を配合する方法が知られている。
【0003】
熱可塑性樹脂にポリエーテルエステルアミド等の導電性樹脂を配合する後者の方法によって得られる制電性熱可塑性樹脂は、導電性フィラーを用いることなく持続的な制電性を付与することができ、フィラーの脱落等のパーティクルの発生が少ない上、色調自由度があるために、特に家庭電気機器やOA機器の外装部材として特に好適であり広く用いられている。
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂は、優れた剛性、耐熱性、耐衝撃性および寸法安定性を有し、家庭電気機器や自動車の内外装部品に留まらず、一般雑貨にも広く使用されている熱可塑性樹脂材料である。しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、溶融粘度が高いこと、金型からの離型が悪いこと、そして比重が大きいこと等の欠点があり、それらの欠点を補うために、近年ではABS樹脂等のスチレン系樹脂をアロイした熱可塑性樹脂材料の使用が拡大しており、前述した制電性能付与技術を適用した制電グレードも数多く開発されてきた。
【0005】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイは、特別な相溶化剤を用いずともある程度混ざって互いの欠点を補い合うが、相溶性は必ずしも十分ではなく、それに起因して、ウェルド接着性が悪くウェルド強度が低いという問題があった。
【0006】
また、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイに、ポリエーテルエステルアミド等の導電性樹脂を配合した制電性熱可塑性樹脂は、成形加工性および耐熱性に優れているものの、配合するポリエーテルエステルアミド等の制電性樹脂を敢えて非相溶若しくは半相溶の形で分散させて導通パスを形成させる必要があることから、一般的なポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイと比較し、ウェルド接着性が悪くウェルド強度が低いという上記の問題に加えて、制電性樹脂の相溶性の悪さに起因する衝撃特性の著しい低下が問題であった。
【0007】
ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂の相溶性とウェルド強度を改善する方法には、例えば、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのブレンドにおいて、相溶化剤として、エポキシ基含有オレフィン共重合体を用いる方法(特許文献1参照。)や、エチレンとメタクリル酸グリシジルとの共重合体を用いる方法(特許文献2参照。)等が提案されている。しかしながら、相溶化剤にエポキシ基を含有する重合体を使用した場合、ゲル化、変色、および成形加工性の低下を引き起こす等、エポキシ基の反応性に伴う不具合が発生する可能性が常につきまとうものであった。
【0008】
また別に、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂にアクリレート樹脂を配合する方法(非特許文献1参照。)や、ブタジエンゴムやアクリレートゴムにビニル系単量体やアクリレート系単量体をグラフト共重合したゴム含有弾性重合体を用いる方法(特許文献3参照。)等が提案されているが、いずれも制電グレードまで踏み込んでその効果を上げているものではなかった。
【0009】
また、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂または(メタ)アクリレート系単量体を共重合したスチレン系樹脂(MABS樹脂、MBS樹脂、MAS樹脂、MS樹脂)とポリエーテルエステルアミド樹脂からなる制電性樹脂組成物(特許文献4参照。)が提案されているが、この文献には、アクリレート成分を含有するスチレン系樹脂を用いた場合の効果に関する具体的な開示が一切なく、その適用可能性は不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許平1−16434号公報
【特許文献2】特開昭61−174257号公報
【特許文献3】特許平6−23304号公報
【特許文献4】特開2008−222902号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Jong Choel Lim, Jung-Ki Park Jouranl of Applied Polymer Science, Vol95, 689-699(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の目的は、上記の従来の技術的課題を解決せんとするものであり、従来と同等以上の制電性を有しながら、衝撃特性およびウェルド強度に優れ、かつ成形加工性および金型離型性が良好な熱可塑性樹脂組成物と、それからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(メタ)アクリレート系樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエーテルエステルアミドから成る熱可塑性樹脂組成物により、好適にはさらに有機イオン導電剤とシリコーン系化合物を配合することにより、上記目的が効率的に達成されることを見出し本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部、ポリカーボネート樹脂(B)5〜92重量部およびポリエーテルエステルアミド(C)3〜45重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【0015】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部、ポリカーボネート樹脂(B)5〜92重量部およびポリエーテルエステルアミド(C)3〜45重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、有機イオン導電剤(D)を0.01〜20重量部とシリコーン化合物(E)を0.2〜5重量部配合してなる(制電性)熱可塑性樹脂組成物である。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の(メタ)アクリレート系樹脂(A)は、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の単独重合体、若しくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体を含有するものであるか、または、
ゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有するものであるか、または、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の重合体、若しくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体、並びにゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体の混合物を含有するものである
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の有機イオン導電剤(D)は、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の有機イオン導電剤(D)は、次の一般式(1)または(2)
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、アニオン成分[X]を構成するXは(CFSON、(CSON、(CFSOCまたはCFSOを表す。)で示されるいずれかの化合物である。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の有機イオン導電剤(D)は、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナートまたは1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のポリエーテルエステルアミド(C)は、数平均分子量200〜6000のポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび数平均分子量が1,000〜3,000である次の一般式(I)〜(III)
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、R、Rはそれぞれ独立にエチレン基またはプロピレン基を示し、Yは共有結合、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルキリデン基、炭素数7〜17のシクロアルキリデン基、炭素数7〜17のアリールアルキリデン基、O、SO、SO、CO、S、CF、C(CFまたはNHを示し、X〜X12はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン、SOHまたはその金属塩を表し、m、nはそれぞれ「−(RO)−」と「−(RO)−」の重合度を表す。)で示されるジオール化合物からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を構成成分として含有するものである。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のポリエーテルエステルアミド(C)は、数平均分子量200〜6000のポリエチレンオキシドグリコールを構成成分として含有するものである。
【0025】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のポリエーテルエステルアミド(C)は、炭素原子数6以上のアミノカルボン酸もしくは炭素原子数6以上のラクタム、または炭素原子数6以上のジアミンとジカルボン酸との反応物を構成成分として含有するものである。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の(メタ)アクリレート系樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の単独重合体(PMMA樹脂等)、若しくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体(MS樹脂やMAS樹脂等)を含有するものである。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の(メタ)アクリレート系樹脂(A)は、ゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体(MBS樹脂やMABS樹脂等)を含有しているものである。
【0028】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の(メタ)アクリレート系樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の重合体(PMMA樹脂等)、若しくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体(MS樹脂やMAS樹脂等)、並びにゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体(MBS樹脂やMABS樹脂等)を含有しているものである(すなわち、PMMA樹脂、MS樹脂、MAS樹脂、MBSおよびMABS樹脂等の混合物である。)。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のシリコーン系化合物(E)は、2種以上のシリコーン系化合物の併用であり、その内の少なくとも1種に、25℃における粘度が100〜100000CSのシリコーンオイルを含有するものである。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のポリカーボネート樹脂(B)は、ビスフェノールA骨格を含有してなるものである。
【0031】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、それを成形し任意形状の成形品に成形することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、良好な持続型制電性を有しながら、衝撃特性およびウェルド強度に優れ、かつ成形加工性および金型離型性が良好な制電性熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、静電気を嫌う電気・電子機器部品に好適である上、機械的負荷のかかる家電・OA機器等の内外装部品用途にも好適な成形品を得ることができる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物はウェルド強度に優れているので、ウェルドの多い複雑な形状の成形品にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部、ポリカーボネート樹脂(B)5〜92重量部およびポリエーテルエステルアミド(C)3〜45重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【0034】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部、ポリカーボネート樹脂(B)5〜92重量部およびポリエーテルエステルアミド(C)3〜45重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、有機イオン導電剤(D)を0.01〜20重量部とリコーン化合物(E)を0.1〜5重量部配合してなる(制電性)熱可塑性樹脂組成物である。
【0035】
本発明で使用される(メタ)アクリレート系樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体がその成分として含まれる重合体からなるものである。この(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、およびアクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられるが、中でも(メタ)アクリル酸メチルが好ましく用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、1種の使用でも良くまたは2種以上の併用でも良い。
【0036】
また、(メタ)アクリレート系樹脂(A)は、必ずしも(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体同士の重合体である必要はなく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能な芳香族ビニル系単量体およびその他のビニル系単量体との共重合体であっても良い。芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられ、中でもスチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。芳香族ビニル系単量体は、1種の使用でもよくまたは2種以上を併用しても良い。
【0037】
その他のビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、エタアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、無水イタコン酸、フタル酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミニプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、および2−スチリル−オキサゾリンなどが挙げられる。これらの中でも、特にアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0038】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)に含有される(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合は、ポリカーボネート樹脂とのアロイ後の衝撃特性とウェルド強度の観点から、3〜100重量部の範囲であり、20〜100重量部であることが好ましく、より好ましくは50〜100重量部である。
【0039】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)のポリスチレン換算の重量平均分子量は、物性バランスを維持する上で、5万〜30万であることが好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による一般的に公知な手法で測定することができる。
【0040】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)の製造方法としては、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法および塊状−懸濁重合法など通常の製造方法を用いることができる。また、これらのいずれかの方法で得られた1種または2種以上のスチレン系樹脂を溶融混練して製造しても良い。
【0041】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)の耐衝撃性などの特性を向上させることを目的とする場合には、(メタ)アクリレート系樹脂(A)およびポリカーボネート樹脂(B)からなるマトリックス中に、(メタ)アクリレート系樹脂として、ゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能な芳香族ビニル系単量体および/またはその他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有しているゴム含有グラフト共重合体を好ましく用いることができる。
【0042】
また、(メタ)アクリレート系樹脂として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および該(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能な芳香族ビニル系単量体および/または他のビニル系単量体とが共重合した(メタ)アクリレート系共重合体、並びにゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および該(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能な芳香族ビニル系単量体および/またはその他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有しているゴム含有グラフト共重合体を好ましく用いることができる。
【0043】
ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体およびアクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、ポリイソプレン、およびエチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合体などが挙げられるが、中でもポリブタジエンとブタジエン共重合体が好ましく用いられる。
【0044】
ゴム質重合体は、耐衝撃性に優れるという観点から、平均粒子径が0.15〜0.60μmの範囲のゴム粒子が好ましく、平均粒子径はより好ましくは0.2〜0.55μmの範囲である。中でも、耐衝撃性および薄肉成形品の落錘衝撃が著しく優れていることから、平均粒子径が0.20〜0.25μmの範囲のゴム粒子と、0.50〜0.65μmの範囲のゴム粒子との重量比が、90:10〜60:40であるゴム質重合体が特に好ましく用いられる。
【0045】
ここで、ゴム粒子の平均重量粒子径は、「Rubber Age、Vol.88、p.484〜490、(1960)、by E.Schmidt,P.H.Biddison」に記載の、アルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率から累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0046】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)として、上記のゴム含有グラフト共重合体を用いる場合には、ゴム質重合体とマトリックスである(メタ)アクリレート系樹脂およびポリカーボネート樹脂とは非相溶であるため、ゴム質重合体にマトリックスと相溶する成分をグラフト重合させると、耐衝撃性をより一層向上させることができる。すなわち、ゴム質重合体に(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体または単量体混合物を、グラフト重合したグラフト共重合体を用いることが好ましい。グラフト重合に用いられる単量体としては、上記のマトリックスである(メタ)アクリレート系樹脂中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体成分と同様の単量体成分を同様の割合で使用することが好ましい。
【0047】
本発明において、上記の組成とグラフト量については、ゴム質重合体の分散性を損なわないような組成とグラフト量に調整することが好ましい。グラフト率は、5〜200重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜100重量%である。ここでいうグラフト率とは、次の(式1)により算出される値である。
【0048】
【数1】

【0049】
グラフト重合していない(共)重合体の特性については、優れた耐衝撃性を有する樹脂組成物が得られるという観点から、メチルエチルケトン可溶分の還元粘度ηsp/c(30℃の温度で測定)は、好ましくは0.10〜0.60dl/gの範囲であり、さらに好ましくは0.20〜0.50dl/gの範囲である。
【0050】
ゴム含有グラフト共重合体の製造方法としては、具体的には、ゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を含有する単量体または単量体混合物をグラフト重合して得られるグラフト共重合体と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体または単量体混合物を重合して得られる(メタ)アクリレート系樹脂とを溶融混練してゴム含有グラフト共重合体を製造する方法が、工業的および経済的に好適である。
【0051】
上記のゴム含有グラフト共重合体は、乳化重合や塊状重合などの重合法により得ることができる。中でも、ゴム質重合体ラテックスの存在下に、単量体または単量体混合物、ラジカル発生剤および連鎖移動剤の混合物を、連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法が、操業上好適である。
【0052】
本発明で用いられる(メタ)アクリレート系樹脂(A)の具体例としては、例えば、PMMA樹脂、MAS樹脂、MS樹脂、MBS樹脂およびMABS樹脂等があり、またこれらの樹脂と他の樹脂とのアロイなど挙げられる。
【0053】
本発明で用いられる(メタ)アクリレート系樹脂(A)の配合割合は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)およびポリエーテルエステルアミド(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、5〜92重量部であり、好ましくは10〜70重量部、より好ましくは20〜60重量部である。(メタ)アクリレート系樹脂(A)が5重量部未満では、最終的に得られる制電性熱可塑性樹脂組成物の衝撃特性およびウェルド強度が低くなる上、ポリカーボネート樹脂(B)の割合が多くなり流動性に劣る傾向がある。また、(メタ)アクリレート系樹脂(A)が92重量部を超えると、ポリカーボネート樹脂(B)の割合が少なくなり衝撃特性が劣ることになる。
【0054】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物には、得られる組成物の衝撃特性およびウェルド強度を損なわない範囲で、(メタ)アクリレート系樹脂(A)をスチレン系樹脂(F)に置き換えることができる。置き換えられる具体的な数量は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部中の0〜87重量部の範囲である。
【0055】
本発明で用いることができるスチレン系樹脂(F)は、芳香族ビニル系単量体がその成分として含まれる重合体からなるものである。この芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられるが、中でもスチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。芳香族ビニル系単量体は、1種の使用でもよくまたは2種以上を併用しても良い。
【0056】
また、スチレン系樹脂(F)は、耐薬品性や耐熱性などの特性を付与する目的で、芳香族ビニル系単量体およびその芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステルを除く他のビニル系単量体を共重合したビニル系共重合体を含有していても良い。これらの他のビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、無水イタコン酸、フタル酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミニプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、(メタ)アリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、および2−スチリル−オキサゾリンなどが挙げられる。これらの中でも、特にアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0057】
スチレン系樹脂(F)に含有される芳香族ビニル系単量体の割合は、成形加工性の観点から10〜100重量部であることが好ましく、より好ましくは20〜90重量部である。
【0058】
スチレン系樹脂(F)のポリスチレン換算の重量平均分子量は、物性バランスを維持する上で、5万〜30万であることが好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による一般的に公知な手法で測定することができる。
【0059】
スチレン系樹脂の製造方法には、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法および塊状−懸濁重合法など通常の製造方法を用いることができる。また、これらのいずれかの方法で得られた1種または2種以上のスチレン系樹脂を溶融混練して製造しても良い。
【0060】
スチレン系樹脂の耐衝撃性などの特性を飛躍的に向上させることを目的とする場合には、スチレン系樹脂(F)として、芳香族ビニル系(共)重合体からなるマトリックス中に、ゴム質重合体が分散したゴム変性スチレン系樹脂を用いることが好ましい。すなわち、スチレン系樹脂として、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有しているゴム変性スチレン系樹脂を好ましく用いることができる。また、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体、並びにゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有しているゴム変性スチレン系樹脂も好ましく用いることができる。なお、本発明において、上記のように(共)重合体と表示するときは、重合体および/または共重合体を意味している。
【0061】
ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体およびアクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、ポリイソプレン、およびエチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合体などが挙げられるが、中でもポリブタジエンとブタジエン共重合体が好ましく用いられる。
【0062】
ゴム質重合体は、耐衝撃性に優れるという観点から、平均粒子径が0.15〜0.60μmの範囲のゴム粒子が好ましく、平均粒子径が0.2〜0.55μmの範囲のゴム粒子がより好ましく用いられる。中でも、耐衝撃性及び薄肉成形品の落錘衝撃が著しく優れていることから、平均粒子径が0.20〜0.25μmの範囲のゴム粒子と、0.50〜0.65μmの範囲のゴム粒子との重量比が、90:10〜60:40であるゴム質重合体が特に好ましく用いられる。
【0063】
ここで、ゴム粒子の平均重量粒子径は、「Rubber Age、Vol.88、p.484〜490、(1960)、by E.Schmidt,P.H.Biddison」に記載の、アルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率から累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0064】
スチレン系樹脂として、上記のゴム変性スチレン系樹脂を用いる場合には、ゴム質重合体とマトリックスであるスチレン系樹脂とは非相溶であるため、ゴム質重合体にマトリックスと相溶する成分をグラフト重合させると、耐衝撃性をより一層向上させることができる。すなわち、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体または単量体混合物をグラフト重合したグラフト共重合体を用いることが好ましい。グラフト重合に用いられる単量体としては、上記のマトリックスである芳香族ビニル系(共)重合体中の単量体成分と同様の単量体成分を同様の割合で使用することが好ましい。
【0065】
上記の組成とグラフト量については、ゴム質重合体の分散性を損なわないような組成とグラフト量に調整することが好ましい。グラフト率は5〜200%であることが好ましく、より好ましくは20〜100%である。ここでいうグラフト率とは、次の(式1)により算出される値である。
【0066】
【数2】

【0067】
グラフト重合していない(共)重合体の特性については、優れた耐衝撃性を有する樹脂組成物が得られるという観点から、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃の温度で測定)が、好ましくは0.25〜0.60dl/gの範囲であり、さらに好ましくは0.25〜0.50dl/gの範囲である。
【0068】
ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法としては、具体的には、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体を含有する単量体または単量体混合物をグラフト重合して得られるグラフト共重合体と、芳香族ビニル系単量体を含有する単量体または単量体混合物を重合して得られるスチレン系(共)重合体とを溶融混練してゴム変性スチレン系樹脂を製造する方法が、工業的および経済的に好適である。
【0069】
上記のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるグラフト共重合体は、乳化重合や塊状重合などの重合法により得ることができる。中でも、ゴム質重合体ラテックスの存在下に、単量体または単量体混合物、ラジカル発生剤および連鎖移動剤の混合物を、連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法が、操業上好適である。
【0070】
本発明で用いることができるスチレン系樹脂(F)の具体例としては、例えば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂およびABS樹脂等があり、またこれらの樹脂と他の樹脂とのアロイなども挙げられる。
【0071】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(B)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂および脂肪族−芳香族ポリカーボネート樹脂などが挙げられ、これらは単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。機械的特性などのバランスに優れた芳香族ポリカーボネート樹脂が、特に好ましく用いられる。
【0072】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂としては、下記のビスフェノールA骨格のものの他、ビスフェノールS骨格のものなどが挙げられる。
【0073】
ポリカーボネート樹脂(B)の市販品としては、帝人化成(株)製ポリカーボネート樹脂“パンライト”(登録商標)1250WPや、出光興産(株)製ポリカーボネート樹脂“タフロン”(登録商標)A1900などが挙げられる。
【0074】
ポリカーボネート樹脂(B)の製造方法については、公知の方法を利用することができる。例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称、ビスフェノールA)のポリカーボネートの製造には、ジオキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを用いて、苛性アルカリ水溶液および溶剤存在下にホスゲンを吹き込んで製造するホスゲン法などを利用することができる。
【0075】
ポリカーボネート樹脂(B)は、その粘度平均分子量が10000〜40000の範囲のもの、特に15000〜30000の範囲のものが好ましく用いられる。粘度平均分子量が10000未満では機械的特性が低下する傾向にあり、また粘度平均分子量が40000を超えると成形性が悪くなる傾向にある。
【0076】
本発明で用いられるポリカーボネート樹脂(B)の配合割合は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)およびポリエーテルエステルアミド(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、5〜92重量部である。ポリカーボネート樹脂(B)の好ましい含有量は10〜70重量部であり、より好ましくは20〜60重量部である。ポリカーボネート樹脂(B)の配合割合が5重量部未満では、最終的に得られる制電性熱可塑性樹脂組成物の衝撃特性が低くなる。また、ポリカーボネート樹脂(B)の配合割合が92重量部を超えると、流動性と成形加工性が劣ることになる。
【0077】
本発明で使用されるポリエーテルエステルアミド(C)は、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールやアルキレンオキシドが付加されたジオール化合物および炭素原子数6以上のラクタム等により構成され、これらがブロック結合またはグラフト結合等した共重合体である。
【0078】
ポリエーテルエステルアミド(C)は、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび次の一般式(I)〜(III)
【0079】
【化3】

【0080】
(ここで、一般式(I)〜(III)中、R、Rはそれぞれ独立にエチレン基またはプロピレン基を表し、Yは共有結合、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルキリデン基、炭素数7〜17のシクロアルキリデン基、炭素数7〜17のアリールアルキリデン基、O、SO、SO、CO、S、CF、C(CFまたはNHを表し、X〜X12はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン、SOHまたはその金属塩(SONa、SOK等)を表し、m、nはそれぞれ「−(RO)−」と「−(RO)−」の重合度を表す。表す。)で示されるジオール化合物からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を構成成分として含有する共重合体であることが好ましい。
【0081】
上記の一般式(I)〜(III)中のm、nは、それぞれ「−(RO)−」と「−(RO)−」の重合度を表す。その和である(m+n)は、使用される一般式(I)〜(III)のジオール化合物に依存するが、8〜65の範囲となることが好ましい。(m+n)の平均値は、一般式(I)〜(III)のジオール化合物の構造(単量体の分子量)と数平均分子量から計算により求めることができるものである。
【0082】
本発明において、数平均分子量は、試料1gを過剰なアセチル化剤、例えば、無水酢酸と加熱してアセチル化を行い、生成したアセチル化物を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg数)をG、アセチル化前の試料1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg数)をHとしたときに、次の(式2)によって計算することができる。
【0083】
【数3】

【0084】
本発明で用いられるポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、例えば、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリ(1、2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1、3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックまたはランダム共重合体、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランのブロックまたはランダム共重合体などが挙げられ、中でも、ポリエチレンオキシドグリコールが好ましく用いられる。
【0085】
ポリ(アルキレンオキシド)グリコールの数平均分子量は、好ましくは200〜6000の範囲であり、より好ましくは300〜4000の範囲である。また、必要に応じてポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分の両末端は、アミノ化またはカルボキシ化されていてもよい。
【0086】
上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物としては、R、Rがそれぞれ独立にエチレン基またはプロピレン基であって、Yが炭素数1〜6のアルキレン、X〜X12がそれぞれ独立に水素または炭素数1〜6のアルキル基であるジオール化合物が好ましく、これらの中でも特にX〜X12が水素であるジオール化合物が好ましく用いられる。
【0087】
具体的なジオール化合物としては、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシフェニル−3,3’−スルホン酸ナトリウム)プロパン、ビスフェノールS、ジメチルビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールS、4,4’−(ヒドロキシ)ビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アミン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキノン、1,4−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム等のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加物、およびジヒドロキシナフタレンまたはそれらのブロック共重合体等が挙げられる。
【0088】
これらの中でさらに好ましいジオール化合物は、ヒドロキノンのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物、ジヒドロキシナフタレンのエチレンオキシド付加物、およびそれらブロック共重合体である。特に、重合性と経済性の点で、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物またはそのブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0089】
上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるこれらジオール化合物の数平均分子量は、1,000〜3,000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にある場合には、得られるポリエーテルエステルアミドの帯電防止性の一層の向上および重合時間の短縮を図ることができる。
【0090】
本発明で用いられるポリエーテルエステルアミド(C)としては、炭素原子数6以上のアミノカルボン酸、炭素原子数6以上のラクタム、または炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物と、上記のポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物を構成成分として含むグラフト共重合体またはブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0091】
ポリエーテルエステルアミド(C)を構成する炭素数が6以上のアミノカルボン酸としては、炭素数が6以上20以下のアミノカルボン酸が好ましく、具体的には、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、および12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸が挙げられる。また、炭素数が6以上のラクタムとしては、炭素数が6以上20以下のラクタムが好ましく、具体的には、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、およびラウロラクタムなどが挙げられる。
【0092】
また、炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物としては、炭素原子数6以上20以下のジアミンと炭素原子数6以上20以下のジカルボン酸との反応物が好ましく、具体的には、ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−セバシン酸塩、およびヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸塩などのジアミンとジカルボン酸との塩(ナイロン塩)の反応物が挙げられる。
【0093】
ポリエーテルエステルアミド(C)において、炭素数が6以上のアミノカルボン酸、炭素数が6以上のラクタム、または炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物と、上記ジオール化合物との結合は、エステル結合またはアミド結合であることが好ましい。
【0094】
また、ポリエーテルエステルアミド(C)は、ジカルボン酸やジアミンなどの第三成分を反応成分としてさらに含有していてもよい。この場合のジカルボン酸成分としては、重合性、色調および物性の点から、炭素数4〜20のカルボン酸が好ましく、その例として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、および1,10−デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。一方、ジアミン成分としては、芳香族、脂環族または脂肪族のジアミンが用いられ、中でも脂肪族ジアミンであるヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。
【0095】
ポリエーテルエステルアミド(C)の含有量は、熱可塑性樹脂中の3〜45重量部である。ポリエーテルエステルアミド(C)の好ましい含有量は5〜40重量部であり、より好ましくは10〜30重量部である。ポリエーテルエステルアミド(C)の含有量が3重量部未満、すなわち(メタ)アクリレート系樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の配合量の合計が97重量部を超える場合は、熱可塑性樹脂の制電特性が低くなる。また、ポリエーテルエステルアミド(C)の配合量が45重量部を超える場合は、熱可塑性樹脂の曲げ弾性率が低下すると共に、衝撃特性およびウェルド強度が低下する。
【0096】
本発明で使用されるポリエーテルエステルアミド(C)の製造方法については、公知の製造方法を利用することができる。例えば、ポリエーテルエステルアミドの場合、アミノカルボン酸、ラクタムまたは炭素数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との塩と、上記の第三成分として含有可能なジカルボン酸とを反応させて両末端がカルボン酸基のポリアミドプレポリマーを作り、このプレポリマーにポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物を、真空下に反応させる方法を適用することができる。
【0097】
また、アミノカルボン酸、ラクタムまたは炭素数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との塩、上記の第三成分として含有可能なジカルボン酸、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物の3つの化合物を反応槽に仕込み、水の存在下または不存在下に、高温で加熱反応させることによりカルボン酸末端のポリアミドエラストマーを生成させ、その後、常圧または減圧下で重合を進める方法も適用することができる。さらに、これら3つの化合物を同時に反応槽に仕込み、溶融重合した後、高真空下で一挙に重合を進める方法も適用することができる。
【0098】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基およびオキサゾリン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を含有する変性ビニル系(共)重合体(以下、変性ビニル系重合体と略称することがある。)を含有することもできる。この変性ビニル系重合体としては、一種または二種以上のビニル系単量体と、上記の官能基(カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基およびオキサゾリン基から選ばれる少なくとも一種の官能基)を導入するためのビニル系単量体とを重合または共重合して得られる重合体を用いることができる。変性ビニル系重合体中におけるこれらの官能基を有する化合物の含有量は、変性ビニル系重合体100重量部当たり0.01〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0099】
変性ビニル系重合体の製造で用いられる上記のビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレン、およびo,p−ジクロロスチレンなどの芳香族ビニル系単量体が挙げられる。また、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体を併用することも可能である。上記の他のビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、エタアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−P−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、無水イタコン酸、フタル酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミニプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、および2−スチリル−オキサゾリンなどを用いることもできる。
【0100】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてカルボキシ基を導入するためのビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸、およびイタコン酸などの不飽和結合を有するカルボン酸またはカルボン酸無水物を用いることができる。
【0101】
また、γ,γ´−アゾビス(γ−シアノバレイン酸)、α,α´−アゾビス(α−シアノエチル)−p−安息香酸、および過酸化サクシン酸などのカルボキシ基を有する重合発生剤および/またはチオグリコール酸、α−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプト−イソ酪酸、および2,3または4−メルカプト安息香酸などのカルボキシ基を有する重合度調節剤を用いて、これらに上記のビニル系単量体を(共)重合する方法も用いることができる。さらに、メタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体と芳香族ビニル系単量体の共重合体、または(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体の共重合体を、アルカリによってケン化する方法も用いることができる。
【0102】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてヒドロキシ基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、および4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0103】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてエポキシ基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、およびp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0104】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてアミノ基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、およびp−アミノスチレンなどのアミノ基またはアミド基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0105】
また、変性ビニル系重合体に、上記官能基としてオキサゾリン基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、および2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0106】
変性ビニル系重合体としては、メチルエチルケトン溶媒中、30℃の温度で測定した極限粘度[η]が0.20〜0.65dl/gの範囲のものが好ましく、より好ましくは0.35〜0.60dl/gの範囲のものである。また、N,N−ジメチルホルムアミド溶媒中、30℃の温度で測定した場合には、極限粘度[η]が0.30〜0.90dl/gの範囲のものが好ましく、より好ましくは0.40〜0.75dl/gの範囲のものである。これら範囲の極限粘度を有する変性ビニル系重合体を用いることにより、より優れた耐衝撃性および成形加工性を有する本発明の熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0107】
本発明で使用される有機イオン導電剤(D)は、有機物でありながらイオン的な特性を有する有機化合物塩であり、融点が低くて常温で液体であるイオン性液体またはイオン液体とも呼ばれている有機化合物塩を含む。このような有機化合物塩としては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムおよびホスホニウムなどの陽イオンと、フッ化物イオンやトリフラートなどのフッ素を含む陰イオンからなるものなどが挙げられる。
【0108】
本発明で使用される有機イオン導電剤(D)としては、常温で液体のイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩等のイオン性液体といわれている有機化合物塩が好ましく用いられる。
【0109】
具体的には、有機イオン導電剤(D)としては、次の一般式(3)〜(6)
【0110】
【化4】

【0111】
(ここで、一般式(3)〜(6)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはトリデカフルオロオクチル基を表し、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、R10はそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R11、R12はそれぞれ独立に炭素数1〜15のアルキル基を表す。)で示される化合物が挙げられる。
【0112】
また、これらのアニオン成分[X]を構成するXは、(CFSON、(CSON、(CFSOC、CFSO、I、Br、Cl、PF、BF、NO、CHSO、p−CHSO(トシル)、CHO(CO)SO、C17SO、SCN、CHSO、CH(CHCO、N(CN)、CF(CFSO、CF(CFSO、[(CHCCHCH(CH)CH]POまたはAlClを表す。)で示される有機化合物塩が好ましく用いられる。
【0113】
より具体的には、イミダゾリウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウム・メチルスルファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ニトラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トシラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・2−(2−メトキシエトキシ)エチルスルファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・メチルスルファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム・クロリド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1,2−ジメチル−3−プロピルオクチルイミダゾリウム・トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・クロリド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−メチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、および1−ブチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。
【0114】
ピリジニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、3−メチル−1−プロピルピリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−プロピル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・ブロミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・クロリド、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・ヘキサフルオロホスファート、および1−ブチル−4−メチルピリジニウム・テトラフルオロボラート等が挙げられる。
【0115】
アンモニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、テトラブチルアンモニウム・ヘプタデカフルオロオクタンスルホナート、テトラブチルアンモニウム・ノナフルオロブタンスルホナート、テトラペンチルアンモニウム・メタンスルホナート、テトラペンチルアンモニウム・チオシアナート、およびメチル−トリ−n−ブチルアンモニウム・メチルスルファート等が挙げられる。
【0116】
ホスホニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、テトラブチルホスホニウム・メタンスルホナート、テトラブチルホスホニウム・p−トルエンスルホナート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィナート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ブロミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・クロリド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・デカノアート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ヘキサフルオロホスフィナート、トリエチルテトラデシルホスホニウム・テトラフルオロボラート、およびトリブチルメチルホスホニウム・トシラートが挙げられる。
【0117】
このような有機イオン導電剤の中でも、イミダゾリウム塩とピリジニウム塩が好適であり、中でも、下記の一般式(1)または(2)
【0118】
【化5】

【0119】
(式中、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは(CFSON、(CSON、(CFSOCまたはCFSOを表す。)のいずれかで示されるイミダゾリウム塩またはピリジニウム塩が好ましく用いられる。
【0120】
上記の一般式(1)または(2)において、アニオン成分を構成するXとしては、本発明の熱可塑性樹脂組成物の熱安定性の面から、フルオロ基を有するものが好ましく、XがCFSO(トリフルオロメタンスルホナート)または(CFSON[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド]のものが特に好ましく用いられる。
【0121】
上記の有機イオン導電剤(D)の配合量は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)およびポリエーテルエステルアミド(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜20重量部である。有機イオン導電剤(D)の好ましい配合量は0.05〜10重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部である。有機イオン導電剤(D)の添加量が0.01重量部未満の場合には、本発明の熱可塑性樹脂組成物の制電特性が低くなり、含有量が20重量部を超える場合は、耐熱性、衝撃特性、ウェルド強度が低下する。コストの面からも、上記の配合量の範囲が好ましい。
【0122】
本発明では、有機イオン導電剤(D)は、商業的に入手可能なものをそのまま使用することができる。市販品として、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本カーリット社製)や1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート(日本カーリット社製)等が挙げられる。
【0123】
また、公知の方法、例えば、第三級アミンをハロゲン化アルキルで四級化した後、目的のアニオン成分を有する塩を用いてアニオン交換反応を行う方法等を利用することにより製造した有機イオン導電剤を用いることができる。
【0124】
本発明で使用されるシリコーン系化合物(E)としては、ポリカーボネート樹脂およびスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂に滑剤用途として一般的に用いられる公知のものが使用でき、ポリオルガノシロキサン樹脂状重合体または共重合体が好適である。また、これらは、本発明の熱可塑性樹脂の性能を損なわない範囲で、分子中あるいは分子末端に反応性の官能基として、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、フェニル基およびN−β−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル−γ−アミノアルキルヒドロクロリド基を含有したものを使用しても良い。また、シリカ充填剤を配合したシリコーン系化合物を使用することもできる。シリカ充填剤の混合方法としては、公知の方法を適用することができ、さらにこれら配合組成物には、アルコキシシランカップリング剤を配合することも出来る。このようなシランカップリング剤としては、分子中に炭素原子が1〜4のアルコキシ基を少なくとも一つ、さらにはエポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、フェニル基およびN−β−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル−γ−アミノアルキルヒドロクロリド基およびヒドロキシル基などのいずれかを含有したシランカップリング剤を使用することができるが、なかでもエポキシ基および(メタ)アクリロキシ基のいずれかを含有したシランカップリング剤を好ましく使用することができる。本発明で使用されるシリコーン系化合物(E)の配合量は、(メタ)アクリレート系樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)およびポリエーテルエステルアミド(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して好ましくは0.1〜5重量部であり、より好ましくは0.3〜3重量部であり、さらに好ましくは0.5〜2.5重量部である。シリコーン系化合物(E)の配合量が0.1重量部未満では、金型離型性の改善効果が不十分であり、5重量部を超えるとウェルド強度と衝撃特性が低下する。
【0125】
シリコーン系化合物(E)は1種または2種以上を併用しても良く、特に併用する場合に25℃の温度での粘度が100〜100000CSであるシリコーンオイルを用いることが好ましい。上記粘度範囲にあると、得られる成形品の金型離型性向上および成形品表面の滑り性向上と成形加工時のブリード物による金型汚染性低減効果のバランスが良好になる。
【0126】
シリコーンオイルの組成としては、ポリジメチルシロキサンやポリフェニルメチルシロキサンまたはジメチルシロキサンとジフェニルシロキサンの共重合物やこれらの混合物が具体例として挙げられ、ポリジメチルシロキサンが好ましく用いられる。さらには、接点不良問題等の懸念を排除するため低分子量物を除去したものが好ましく用いられる。
【0127】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、バンバリミキサー、ロール、エクストルーダーおよびニーダー等で溶融混練することによって製造することができるが、配合成分の分散性の観点から二軸押出機を用いることが好ましい。また、溶融混練時の温度は、配合成分にもよるが通常180〜260℃程度である。
【0128】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、表面固有抵抗値、帯電圧および帯電圧減衰半減期が低く制電性を有する。
【0129】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の熱可塑性樹脂を配合してもよい。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、その他のポリエステル樹脂、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド樹脂、変性PPE樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、またはこれらの変性物やエラストマー類を配合することにより、成形用樹脂組成物として性能をさらに改良することができる。
【0130】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系または含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系やアクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系またはサリシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系などの光安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類などの可塑剤、臭素化化合物、リン酸エステルまたは赤燐等の各種難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどの難燃助剤、アルキルカルボン酸やアルキルスルホン酸の金属塩、カーボンブラック、顔料、および染料などを添加することができる。また、各種強化材、充填材および各成分が酸・塩基性であった場合の中和剤などを添加することができる。
【0131】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形およびガスアシスト成形などの現在熱可塑性樹脂の成形に用いられる成形方法によって成形体とすることができる。
【0132】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、衝撃特性およびウェルド強度に優れ、表面固有抵抗値が低く、安定した持続型制電性を有するとともに、成形加工性と表面外観に優れている。かかる特性を活かして、本発明の成形品は、電気・電子部品、電気・電子部品の搬送用部品およびディスプレイ関連部品の搬送用部品として好適に使用することができる。
【0133】
電気・電子機器部品としては、例えば、精密な電気・電子制御装置を備えた各種機器の部品を指し、例えば、カーナビゲーションシステムやカーオーディオシステム、また電気自動車に搭載される燃料電池周辺機器などの自動車用電装部品、ICが搭載された業務用または家庭用電子玩具などのIC周辺部品または筐体、業務用または家庭用デジタル電子機器部品、スロットマシン、およびパチンコまたは電子ゲーム装置などの業務用遊技・娯楽機器部品などが挙げられる。電気・電子部品の搬送用部品としては、例えば、ICチップトレイ、IC搬送トレイ、シリコーンウェハー搬送ボックスなどが挙げられる。ディスプレイ関連部品の搬送用部品としては、例えば、キャリアリール、TABテープリール、COFテープリールや液晶ディスプレイ搬送トレイ、およびプラズマディスプレイ搬送トレイなどが挙げられる。
【実施例】
【0134】
本発明の熱可塑性樹脂組成物をさらに具体的に説明するために、以下、実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。下記の実施例および比較例中、特にことわりのない限り「部」および「%」で表示したものは、それぞれ重量部および重量%を表す。まず、制電性熱可塑性樹脂組成物の各種物性の評価方法を下記する。
【0135】

(1)表面固有抵抗値(Ω)
シリンダー設定温度250℃、金型温度60℃に設定した日精樹脂工業(株)製PS60E成形機で、射出成形により得た40×50×3mm厚みの角板成形品について、温度23℃、湿度50%Rh環境下で24時間放置した後、ASTM D257(1990年)に準拠して表面固有抵抗値を測定した。印加電圧500V、1分後の表面固有抵抗値を読みとった。試験片数は3個とした。
【0136】
(2)シャルピー衝撃強さ(kJ/m
ISO 179の規定(2000年)に準拠し、80×10×4mm、タイプAノッチ、23℃の温度の条件でシャルピー衝撃強さを測定した。試験片数は5個とした。
【0137】
(3)ウェルド曲げ強さ(MPa)
ISO 178の規定(2000年)に準拠し、曲げ弾性率を評価した。試験片数は5個とした。
【0138】
[参考例1](メタ)アクリレート系樹脂(A)
・(メタ)アクリレート樹脂(A−1)
住友化学(株)製ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)“スミペックス”(登録商標)HT54Xを使用した。
【0139】
・(メタ)アクリレート系樹脂(A−2)
容量が20Lで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(特公昭45−24151号公報記載)0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、メタクリル酸メチル70重量部、スチレン25重量部、アクリロニトリル5重量部、t−ドデシルメルカプタン0.2重量部および2,2‘−アゾビスイソブチルニトリル0.4重量部を攪拌しながら添加し、60℃の温度に昇温し重合を開始した。15分かけて反応温度を65℃まで昇温した後、50分かけて100℃の温度まで昇温した。以降、公知の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、(メタ)アクリレート系樹脂(A−2)を得た。
【0140】
・(メタ)アクリレート系樹脂(A−3)
ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.2μm、固形換算分)50重量部、オレイン酸カリウム0.5重量部、ブドウ糖0.5重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、硫酸第一鉄0.005重量部および脱イオン水120重量部を重合容器に仕込み、攪拌しながら65℃の温度に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、メタクリル酸メチル70部、スチレン25部、アクリロニトリル5部およびt−ドデシルメルカプタン0.3部からなる混合物50重量部を5時間かけて連続滴下した。平行して、クメンハイドロパーオキサイド0.25部、オレイン酸カリウム2.5部およびイオン交換水25部かならる水溶液を、7時間かけて連続滴下し、反応を完結させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和後、公知の方法で洗浄、濾過、乾燥して(メタ)アクリレート系樹脂(A−3)を得た。
【0141】
[参考例2]ポリカーボネート樹脂(B)
出光興産(株)製ポリカーボネート樹脂“タフロン”(登録商標)A2500を使用した(B−1)。
出光興産(株)製ポリカーボネート樹脂“タフロン”(登録商標)A1900を使用した(B−2)。
【0142】
[参考例3]ポリエーテルエステルアミド(C)の調製
ε−カプロラクタム45部、数平均分子量1,800のビスフェノールAのエチレンオキシド付加物45部、数平均分子量が1,800のポリエチレングリコール5部、テレフタル酸5.2部および“イルガノックス”(登録商標)1098(酸化防止剤)0.2部を反応容器に仕込み、窒素パージして260℃の温度で60分間加熱攪拌して透明な均質溶液とした後、0.07kPa以下まで減圧した。テトラブチルチタネート0.1部を加えて、圧力は0.07kPa以下、温度は260℃の条件で2時間反応させた。得られたポリマーをストランド状に吐出させ、カットしてペレット状のポリエーテルエステルアミド(C−1)を得た。
【0143】
[参考例4]有機イオン導電剤(D)
・有機イオン導電剤(D−1)
1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本カーリット社製)を使用した。
【0144】
・有機イオン導電剤(D−2)
1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート(日本カーリット社製)を使用した。
【0145】
[参考例5]シリコーン系化合物(E)
・シリコーン系化合物(E−1)
東レ・ダウコーニング(株)製DOW CORNING SH200 30000CSを使用した。
【0146】
・シリコーン系化合物(E−2)
東レ・ダウコーニング(株)製DOW CORNING(R) 4−7081 RESIN MODIFIERを使用した。
【0147】
[参考例6]スチレン系樹脂(F)の調製
各グラフト共重合体のグラフト率は、次の方法で求めた。グラフト共重合体の所定量(m)に、アセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(遠心力10,000G(約100×10m/s))の回転で30分遠心分離した後、不溶分を濾過した。この不溶分を、70℃の温度で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は、次式で求めた。
グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
(式中、Lはグラフト共重合体のゴム含有率である。)。
【0148】
・スチレン系樹脂(F−1)の調製
ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)60部(固形分換算)に、スチレン70%とアクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、濾過、乾燥することにより、パウダー状のグラフト共重合体(F−1)を得た。
【0149】
得られたグラフト共重合体(F−1)のグラフト率は36%であった。このグラフト共重合体(F−1)は、スチレン構造単位70%およびアクリロニトリル構造単位30%からなる非グラフト性の共重合体を18.1%含有するものであった。また、N,N−ジメチルホルムアミド可溶分の極限粘度は、0.48dl/gであった。
【0150】
・スチレン系樹脂(F−2)の調製
スチレン75%とアクリロニトリル25%からなる単量体混合物を懸濁重合して、ビニル系共重合体(F−2)を得た。得られたビニル系共重合体(F−2)のN,N−ジメチルホルムアミド可溶分の極限粘度は、0.73dl/gであった。
【0151】
・変性ビニル系共重合体(F−3)
スチレン70部、アクリロニトリル25部、メタクリル酸5部を懸濁重合して、ビーズ状の変性ビニル系共重合体(F−3)を得た。
【0152】
[実施例1〜7、比較例1〜7]
上記の参考例1〜6に示した(メタ)アクリレート系樹脂(A−1)〜(A−3)、ポリカーボネート樹脂(B−1)、ポリエーテルエステルアミド(C−1)、および有機イオン導電剤(D−1)と(D−2)、シリコーン系化合物(E−1)と(E−2)、スチレン系樹脂(F−1)〜(F−3)を、それぞれ表1(実施例1〜10)および表2(比較例1〜8)に示した配合比で配合し、ベント付30mmφ2軸押出機((株)池貝製PCM−30)を使用して溶融混練(バレル設定温度250℃)し、押出しを行うことによって、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。次いで、射出成形機を用い、シリンダー温度250℃、金型温度60℃で射出成形し、上記の熱可塑性樹脂組成物からなる試験片を成形した。試験片について、上記の条件で物性を測定し、結果を表1(実施例1〜10)と表2(比較例1〜8)に併せて示した。
【0153】
【表1】

【0154】
【表2】

【0155】
表1に示すように、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物(実施例1〜10)は、衝撃特性およびウェルド強度に優れているとともに、いずれも表面固有抵抗値および成形加工性が良好であった。
【0156】
一方、表2に示すように、(メタ)アクリレート系樹脂を含まない熱可塑性樹脂組成物(比較例1〜3)、および(メタ)アクリレート系樹脂の添加量が5重量部未満の熱可塑性樹脂組成物(比較例4、5)はウェルド強度が低かった。シリコーン系化合物の添加量が5重量部を超える熱可塑性樹脂組成物(比較例6)は、衝撃特性とウェルド強度が共に低下した。また、有機イオン導電剤を含まない熱可塑性樹脂組成物(比較例6、7)は表面固有抵抗値が高かった。有機イオン導電剤が20重量部を超える熱可塑性樹脂組成物(比較例8)は、押出性に問題があり造粒することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部、ポリカーボネート樹脂(B)5〜92重量部およびポリエーテルエステルアミド(C)3〜45重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)5〜92重量部、ポリカーボネート樹脂(B)5〜92重量部およびポリエーテルエステルアミド(C)3〜45重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、有機イオン導電剤(D)を0.01〜20重量部およびシリコーン系化合物(E)を0.2〜5重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリレート系樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の単独重合体、若しくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体を含有するものであるか、または、ゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有するものであるか、または、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の重合体、若しくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体、並びにゴム質重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル系単量体および該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を除く他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体の混合物を含有するものである、請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
有機イオン導電剤(D)が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩である請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
有機イオン導電剤(D)が、次の一般式(1)または(2)
【化1】

(式中、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは(CFSON、(CSON、(CFSOCまたはCFSOを表す。)で示される化合物である請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
有機イオン導電剤(D)が、一般式(1)または(2)において、XがCFSOまたは(CFSONである請求項5記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
有機イオン導電剤(D)が、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナートまたは1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
ポリエーテルエステルアミド(C)が、数平均分子量200〜6000のポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび数平均分子量が1,000〜3,000である次の一般式(I)〜(III)
【化2】

(式中、R、Rはそれぞれ独立にエチレン基またはプロピレン基を表し、Yは共有結合、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルキリデン基、炭素数7〜17のシクロアルキリデン基、炭素数7〜17のアリールアルキリデン基、O、SO、SO、CO、S、CF、C(CFまたはNHを表し、X〜X12はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン、SOHまたはその金属塩を表し、mおよびnは重合度を表し、m、nはそれぞれ「−(RO)−」と「−(RO)−」の重合度を表す。)で示されるジオール化合物からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物を構成成分として含有する請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
ポリエーテルエステルアミド(C)が、数平均分子量200〜6000のポリエチレンオキシドグリコールを構成成分として含有する請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
ポリエーテルエステルアミド(C)が、炭素原子数6以上のアミノカルボン酸、炭素原子数6以上のラクタム、または炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物を構成成分として含有する請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
ポリカーボネート樹脂(B)が、ビスフェノールA骨格を含有してなる請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
シリコーン系化合物(E)が2種以上のシリコーン系化合物の併用であり、そのうちの少なくとも1種が25℃における粘度が100〜100000CSのシリコーンオイルであることを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2011−184649(P2011−184649A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54093(P2010−54093)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】