説明

熱可塑性樹脂組成物及びその成形体

【課題】優れた流動性を発揮することができると共に、その成形体は優れた外観及び耐衝撃性を発揮することができる熱可塑性樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物は、次に示す成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有する。成分(A):ポリカ−ボネ−ト系樹脂、成分(B):ポリ乳酸樹脂、成分(C):ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とする質量平均分子量が10,000〜300,000のビニル系重合体セグメント(C2)とからなり、一方のセグメントにより形成された連続相中に他方のセグメントにより形成された分散相が微細に分散されている多相構造を示すグラフト共重合体。この熱可塑性樹脂組成物を射出成形法等の成形法で成形することにより、所定形状の成形体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びそれを成形して得られる成形体に関する。さらに詳しくは、優れた流動性を発揮することができ、その成形体が優れた外観及び耐衝撃性を発揮することができる熱可塑性樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート系樹脂と熱可塑性ポリエステル系樹脂のアロイは、自動車分野をはじめ様々な分野で使用されている。この場合、熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂であるポリブチレンテレフタレートが主であるが、係る芳香族ポリエステル樹脂は、機械的物性、耐熱性、外観、ウエルド強度及び耐衝撃性は優れるが、流動性が不十分であるため、近年の傾向である成形体の薄肉化の樹脂としては適していない。
【0003】
一方、ポリカーボネート系樹脂の高流動化を図るため、スチレン系樹脂とのアロイ化や可塑剤の添加などが行なわれている(例えば、特許文献1を参照)。ポリカーボネート系樹脂とスチレン系樹脂とのアロイにおいて、流動性をさらに向上させるために、スチレン系樹脂の含有量を増やしたり、ポリカーボネート系樹脂の分子量を下げたりする方法が一般的であるが、これらの方法によって耐衝撃性が低下してしまい、流動性と物性のバランスを維持することができなかった。また、ポリカーボネート系樹脂の可塑剤として一般的なリン酸エステルの添加によって流動性、耐衝撃性及び難燃性を改良できるが、リン酸エステルを添加すると材料の耐熱性低下、成形時の金型付着や成形体の外観不良が生じるため好ましくない。
【0004】
このような状況下で、流動性が高く、成形体の薄肉化が可能な脂肪族ポリエステル樹脂としてのポリ乳酸樹脂をポリカーボネート系樹脂に導入することで、流動性に優れたアロイの検討がなされている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、このアロイでは流動性の改良はできるが、相溶性と耐衝撃性の点で改良の余地が残されており、さらなる改良が望まれている。
【0005】
一方、ポリカーボネート系樹脂とポリ乳酸系樹脂アロイについて、相溶化剤を添加して衝撃強度と、真珠光沢のない白色性に優れた外観を持たせる検討も行われている(例えば、特許文献3を参照)。しかし、このアロイでは相溶化剤としてエポキシ基や酸基の構造を持った化合物を添加剤として使用するため、本質的に流動性が低くなってしまうといった欠点があった。
【0006】
加えて、ポリカ−ボネ−ト樹脂、ポリ乳酸系樹脂及びビニル系グラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。しかしながら、この熱可塑性樹脂組成物に含まれるビニル系グラフト共重合体は、具体的にはアクリトニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)等である。そのため、係るグラフト共重合体はポリ乳酸系樹脂に若干相溶性を示すとしても、ポリカ−ボネ−ト樹脂に対する相溶性が不十分であり、熱可塑性樹脂組成物の流動性やその成形体の耐衝撃性は満足できるものではなかった。
【特許文献1】特公平7−68445号公報(第1頁及び第2頁)
【特許文献2】特許第3279768号公報(第2頁及び第3頁)
【特許文献3】特開2006−111858号公報(第2頁及び第5頁)
【特許文献4】特開2006−199743号公報(第2頁、第3頁及び第13頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、優れた流動性を発揮することができると共に、その成形体は優れた外観及び耐衝撃性を発揮することができる熱可塑性樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、第1の発明の熱可塑性樹脂組成物は、下記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有することを特徴とする。
成分(A):ポリカ−ボネ−ト系樹脂
成分(B):ポリ乳酸樹脂
成分(C):ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とする質量平均分子量が10,000〜300,000のビニル系重合体セグメント(C2)とからなり、一方のセグメントにより形成された連続相中に他方のセグメントにより形成された分散相が微細に分散されている多相構造を示すグラフト共重合体
第2の発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1の発明において、前記成分(C)中におけるポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)の割合が40〜80質量%であり、ビニル系重合体セグメント(C2)の割合が20〜60質量%であることを特徴とする。
【0009】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1又は第2の発明において、前記成分(C)のビニル系重合体セグメント(C2)中に占めるメタクリル酸メチル単位の割合が60〜100質量%であることを特徴とする。
【0010】
第4の発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1から第3のいずれか1項の発明において、前記成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対する成分(C)の割合が1〜30質量部であることを特徴とする。
【0011】
第5の発明の成形体は、第1から第4のいずれか1項の発明に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(C)のグラフト共重合体は、ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とする質量平均分子量が10,000〜300,000のビニル系重合体セグメント(C2)とから構成されている。ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)は高い耐衝撃性を発現することができるが、単体では通常ポリ乳酸樹脂とは相溶しないため、導入することができない。一方、メタクリル酸メチルを主成分とするビニル系重合体セグメント(C2)はポリ乳酸樹脂との相溶性には優れるが、通常単体で添加しても、良好な流動性を発現することはできない。しかし、第1の発明ではこれら2つのセグメントでグラフト共重合体を形成したことから、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂とが良好に相溶し、成形体には界面剥離等が生じることなく、良好な物性を発現することができる。
【0013】
従って、熱可塑性樹脂組成物は、優れた流動性を発揮することができると共に、その成形体は優れた外観及び耐衝撃性を発揮することができる。
第2の発明の熱可塑性樹脂組成物では、成分(C)中におけるポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)の割合が40〜80質量%であり、ビニル系重合体セグメント(C2)の割合が20〜60質量%である。このため、成分(A)のポリカ−ボネ−ト系樹脂と成分(B)のポリ乳酸樹脂との相溶性をバランス良く高めることができ、第1の発明の効果を向上させることができる。
【0014】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物では、成分(C)のビニル系重合体セグメント(C2)中に占めるメタクリル酸メチル単位の割合が60〜100質量%である。従って、第1又は第2の発明の効果に加え、成分(C)のグラフト共重合体が成分(B)のポリ乳酸樹脂に一層高い相溶性を示し、熱可塑性樹脂組成物の流動性を高めることができる。
【0015】
第4の発明の熱可塑性樹脂組成物では、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対する成分(C)の割合が1〜30質量部である。このため、成分(A)のポリカ−ボネ−ト系樹脂と成分(B)のポリ乳酸樹脂との相溶性を十分に高めることができ、第1から第3のいずれかの発明の効果を十分に発揮することができる。
【0016】
第5の発明の成形体では、第1から第4のいずれかの発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる。従って、成形体は優れた外観及び耐衝撃性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、下記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有する。
【0018】
成分(A):ポリカ−ボネ−ト系樹脂
成分(B):ポリ乳酸樹脂
成分(C):ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とする質量平均分子量が10,000〜300,000のビニル系重合体セグメント(C2)とからなり、一方のセグメントにより形成された連続相中に他方のセグメントにより形成された分散相が微細に分散されている多相構造を示すグラフト共重合体
上記成分(C)のグラフト共重合体を成分(A)のポリカ−ボネ−ト系樹脂及び成分(B)のポリ乳酸樹脂に配合することにより、成分(A)と成分(B)との相溶性を格段に改善することができ、熱可塑性樹脂組成物の流動性、熱可塑性樹脂組成物より得られる成形体の耐衝撃性等の物性を向上させることができる。以下に、成分(A)、成分(B)、成分(C)、熱可塑性樹脂組成物の調製及び成形体について順に説明する。
[成分(A):ポリカ−ボネ−ト系樹脂]
成分(A)のポリカーボネート系樹脂は常法により製造されるものであり、その全てが使用可能である。このポリカーボネート系樹脂は、一般に二価フェノール系化合物とホスゲン又は炭酸ジエステル系化合物との反応によって製造される。二価フェノール系化合物として好ましいものは、具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン等が例示される。
【0019】
ポリカーボネート系樹脂としては、反応性の不飽和末端基を有するポリカーボネート系樹脂であってもよい。この不飽和末端基を有するポリカーボネート系樹脂は、分子量調整剤又は末端停止剤として、二重結合を有する一官能性化合物を、又はこれと従来の末端停止剤を併用する他は、従来のポリカーボネート系樹脂と同様の製法、すなわち界面重合法、ピリジン法、さらにはクロロホルメート法等の溶液法で製造される。
【0020】
不飽和末端基を導入するための二重結合を有する一官能性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、2−ペンテン酸、3−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、9−デセン酸、9−ウンデセン酸等の不飽和カルボン酸;アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、ソルビン酸クロライド、アリルアルコールクロロホルメート、イソプロペニルフェノールクロロホルメート又はヒドロキシスチレンクロロホルメート等の酸クロライド又はクロロホルメート;イソプロペニルフェノール、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシフェニルマレイミド、ヒドロキシ安息香酸アリルエステル又はヒドロキシ安息香酸メチルアリルエステル等の不飽和酸を有するフェノール類等が挙げられる。
【0021】
これらの化合物は従来の末端停止剤と併用しても良いものであり、上記した二価フェノール系化合物1モルに対して、末端停止剤が通常1〜25モル%、好ましくは1.5〜10モル%の範囲で使用される。
【0022】
ポリカーボネート系樹脂は、上記の成分を必須成分として製造されるが、分岐化剤を二価フェノール系化合物に対して好ましくは0.01〜3モル%、より好ましくは0.1〜1モル%の範囲で併用して分岐化ポリカーボネート系樹脂とすることもできる。このような分岐化剤としては、フロログリシン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、1,3,5−トリ(2−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノ−ル、α,α’,α”−トリ(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン等で例示されるポリヒドロキシ化合物、及び3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(すなわち、イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ブロムイサチン、5−ブロムイサチン等が例示される。
【0023】
このポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは2,000〜10,0000、さらに好ましくは5,000〜50,000、特に好ましくは6,000〜30,000である。ポリカーボネート系樹脂の質量平均分子量が前記下限値を下回ると、得られる成形体の強度、弾性率等の機械的物性が不十分となる傾向にある。その一方、前記上限を上回ると、熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が不十分となる傾向にある。
[成分(B):ポリ乳酸樹脂]
成分(B)のポリ乳酸樹脂は、L体、D体及びDL(ラセミ)体の3種の光学異性体のいずれでも良く、またこれらの光学異性体の共重合体も用いられる。さらに、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸、及びカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オン等のラクトン類が挙げられる。このような共重合成分の含有量は、全単量体成分中通常30モル%以下であり、好ましくは10モル%以下である。
【0024】
ポリ乳酸樹脂としては、相溶性の点から乳酸成分の光学純度の高いポリ乳酸樹脂を用いることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸樹脂の総乳酸成分の内、L体が80質量%以上含まれるか又はD体が80質量%以上含まれることが好ましく、L体が90質量%以上含まれるか又はD体が90質量%以上含まれることがさらに好ましく、L体が95質量%以上含まれるか又はD体が95質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0025】
ポリ乳酸樹脂の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、質量平均分子量としては、通常10,000〜1,000,000、好ましくは40,000〜600,000、さらに好ましくは80,000〜400,000である。ポリ乳酸樹脂の質量平均分子量が10,000未満の場合には、得られる成形体の強度、弾性率等の機械的物性が不十分となる傾向にある。一方、1,000,000を超える場合には、熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が不十分となる傾向にある。
【0026】
ポリ乳酸樹脂の融点については、特に制限されるものではないが、120〜210℃であることが好ましく、150〜200℃であることがさらに好ましい。
[成分(C):グラフト共重合体]
成分(C)のグラフト共重合体は、ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とする質量平均分子量が10、000〜300,000のビニル系重合体セグメント(C2)から構成される。そして、一方のセグメントにより形成された連続相中に他方のセグメントにより形成された分散相が微細に分散されている多相構造を示すものである。すなわち、グラフト共重合体は、ポリカーボネート系樹脂セグメント(C1)に基づく連続相中に、メタクリル酸メチル単位を主成分とするビニル系重合体セグメント(C2)が微細に分散されているものである。或いは、メタクリル酸メチル単位を主成分とするビニル系重合体セグメント(C2)に基づく連続相中に、ポリカーボネート系樹脂セグメント(C1)が微細に分散されているものである。
【0027】
連続相中に分散されている分散相を形成する樹脂粒子の粒子径については特に制限されないが、0.001〜10μmであれば成形体の耐衝撃性の改良効果が非常に高いため好ましく、0.01〜10μmがより好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。なお、この粒子径の範囲は、最小粒子径と最大粒子径の範囲を意味する。
【0028】
グラフト共重合体中のポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)を形成するポリカ−ボネ−ト系樹脂としては、前述した成分(A)ポリカーボネート系樹脂が使用可能である。このポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)を形成するポリカ−ボネ−ト系樹脂としては、成分(A)ポリカ−ボネ−ト系樹脂と同種(特に同一)のものを使用することが成分(C)と成分(A)との相溶性を高める上で好ましい。
【0029】
グラフト共重合体中のメタクリル酸メチル単位を主成分とするビニル系重合体セグメント(C2)は、メタクリル酸メチルの単独重合体、又はこれと他の共重合性ビニル系単量体との共重合体より形成される。
【0030】
メタクリル酸メチルと共重合する他の共重合性ビニル系単量体としては、アルキル鎖長の炭素数が2〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、酸基を有するビニル単量体、ヒドロキシル基を有するビニル単量体、エポキシ基を有するビニル単量体、シアノ基を有するビニル単量体及びスチレン単量体より選択される少なくとも1種の単量体である。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。
【0031】
さらに具体的には、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン等が挙げられる。これらの中でも、ポリ乳酸樹脂との高い親和性の点から、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系単量体のほか、アクリロニトリル及びスチレンが好ましい。
【0032】
ビニル系重合体セグメント(C2)中に占めるメタクリル酸メチル単位の割合は主成分となる量であればよいが、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%である。メタクリル酸メチル単位の割合が50質量%未満の場合、ポリ乳酸樹脂に対するグラフト共重合体の相溶性が不十分となり、成形体の外観が悪化するため好ましくない。なお、メタクリル酸メチル単位はメタクリル酸メチルが重合して形成される重合体単位であり、このメタクリル酸メチル単位と、共重合性単量体が重合して形成される重合体単位とによってビニル系重合体セグメントが形成される。
【0033】
ビニル系重合体セグメント(C2)を形成するビニル系重合体の質量平均分子量は、通常10,000〜1,000,000、好ましくは15,000〜800,000、最も好ましくは20,000〜500,000である。但し、質量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)中、スチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定値である。この質量平均分子量が10,000未満の場合には、グラフト共重合体の耐熱性が低下すると共に、成形体の耐衝撃性が低下する傾向がある。その一方、質量平均分子量が1,000,000を超える場合には、グラフト共重合体の溶融粘度が高くなり、流動性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0034】
また、グラフト共重合体のメルトフローレート(MFR)又はメルトインデクス(MI)は好ましくは0.01〜200g/10分、さらに好ましくは0.05〜100g/10分、最も好ましくは7〜70g/10分である。このMFRは樹脂温度230℃、測定荷重50N(5kg・f)の条件で測定したものである。MFRが0.01g/10分未満又は200g/10分を超えると、グラフト共重合体とポリ乳酸樹脂との親和性が低下し、得られる成形体の外観が悪化する傾向にあるので好ましくない。
【0035】
前述のように、グラフト共重合体は多相構造型のもので、ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とビニル系重合体セグメント(C2)の一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成しているものである。分散相を形成するポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)又はビニル系重合体セグメント(C2)の粒子径が0.001μm未満の場合及び10μmを超える場合のいずれも、グラフト共重合体をポリ乳酸樹脂に混合したときの分散性が悪く、得られる成形体の外観が悪化する傾向にある。
【0036】
グラフト共重合体は、ポリカーボネート系樹脂セグメント(C1)が通常5〜99質量%、好ましくは20〜95質量%、特に好ましくは40〜80質量%、ビニル系重合体セグメント(C2)が通常1〜95質量%、好ましくは5〜80質量%、特に好ましくは20〜60質量%である。ポリカーボネート系樹脂セグメント(C1)が5質量%未満又はビニル系重合体セグメント(C2)が95質量%を超える場合、ポリカーボネート系樹脂へのグラフト共重合体の相溶性が低下し、得られる成形体の外観が悪化する傾向にある。一方、ポリカーボネート系樹脂セグメント(C1)が99質量%を超える場合又はビニル系重合体セグメント(C2)が1質量%未満の場合、ポリ乳酸樹脂へのグラフト共重合体の相溶性が低下し、得られる成形体の外観が悪くなる傾向を示す。
【0037】
グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般に知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法でも良いが、下記に示す含浸グラフト共重合法が最も好ましい。なぜならば、グラフト効率が高く、熱によるビニル系重合体セグメント(C2)の二次的凝集が起こらず、製造方法が簡便であるためである。
【0038】
具体的には、まずポリカーボネート系樹脂のペレット100質量部を水中に懸濁させる。そこへメタクリル酸メチルを主成分とするビニル系単量体1〜400質量部、ラジカル重合性有機過酸化物を、メタクリル酸メチルを主成分とするビニル系単量体100質量部に対し0.01〜20質量部、及び10時間半減期を得るための分解温度40〜90℃のラジカル重合開始剤をメタクリル酸メチルを主成分とするビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物との合計100質量部に対し0.01〜8質量部の溶液を加える。ここで、ラジカル重合性有機過酸化物とは、過酸化物結合とラジカル重合性の官能基を一分子中に有する化合物をいう。このラジカル重合性有機過酸化物として、例えば下記一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物の1種又は2種以上の混合物が使用される。ラジカル重合性有機過酸化物の使用量は、ビニル系単量体100質量部に対して0.01〜15質量部であることが好ましい。
【0039】
次に、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件で加熱し、メタクリル酸メチルを主成分とするビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤を前記ポリカーボネート系樹脂のペレット中に含浸させる。その含浸率が添加量の20質量%以上、好ましくは30質量%以上に達した時点で、この水性懸濁液の温度を上昇させ、メタクリル酸メチルを主成分とするビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とを前記ポリカーボネート系樹脂ペレット中で共重合させることによりグラフト化前駆体を得る。このグラフト化前駆体を100〜300℃で溶融、混合することにより、ポリカーボネート系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とするビニル系重合体セグメント(C2)とからなるグラフト共重合体が得られる。
【0040】
前記一般式(1)又は一般式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、次の化合物である。
【0041】
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基又はエチル基、Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)
また、前記一般式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、次の化合物である。
【0042】
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)
前記一般式(1)又は一般式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物として、具体的に好ましい化合物は例えばt−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリルカーボネートである。
[熱可塑性樹脂組成物の調製]
熱可塑性樹脂組成物は、前記成分(A)ポリカーボネート系樹脂、成分(B)ポリ乳酸樹脂及び成分(C)グラフト共重合体を好ましくは150〜300℃、より好ましくは200〜290℃で溶融、混合することによって製造される。この温度が150℃未満の場合、溶融が不完全になったり、溶融粘度が高いため混合が不十分になったり、相分離や層状剥離が現れたりして好ましくない。その一方、300℃を超える場合、ポリ乳酸樹脂やグラフト共重合体が分解するため好ましくない。溶融、混合方法としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリー、ニーダー、ロール等を用いた混練法など公知の方法が採用される。
【0043】
また、成分(C)のグラフト共重合体は必ずしもグラフト共重合体として混合しなくても良く、グラフト化前駆体の状態で成分(A)ポリカーボネート系樹脂と成分(B)ポリ乳酸樹脂に混合しても良い。これはグラフト化前駆体を溶融、混合することにより、成分(C)のグラフト共重合体に変換されるからである。なお、グラフト化前駆体の状態で溶融、混合した場合、その一部が成分(A)ポリカーボネート系樹脂及び成分(B)ポリ乳酸樹脂と共重合してグラフト共重合体となる可能性があるが、差し支えない。
【0044】
成分(A)ポリカーボネート系樹脂と成分(B)ポリ乳酸樹脂の割合は、成分(A)0.1〜99.9質量%に対して成分(B)0.1〜99.9質量%が好ましく、成分(A)10〜90質量%に対して成分(B)10〜90質量%がより好ましい。成分(A)の割合が0.1質量%未満の場合、成分(A)のポリカーボネート系樹脂に由来する耐衝撃性の改質効果が十分に得られなくなる。その一方、成分(A)ポリカーボネート系樹脂が99.9質量を超える場合、成分(B)のポリ乳酸樹に由来する流動性の改質効果が減少するため好ましくない。これらの割合は、その改質目的、特に流動性と耐衝撃性とにより適宜決定される。
【0045】
成分(A)ポリカーボネート系樹脂と成分(B)ポリ乳酸樹脂に対する成分(C)グラフト共重合体の割合は、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がさらに好ましい。グラフト共重合体の割合が0.1質量部未満のときには、得られる成形体の耐衝撃性の発現が不十分になって好ましくない。一方、50質量%を超えるときには、得られる成形体の生分解性が低下するため好ましくない。
【0046】
成分(C)のグラフト共重合体を配合するに当たり、成分(A)ポリカ−ボネ−ト系樹脂の割合が成分(B)ポリ乳酸樹脂の割合より多い場合には、ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)の含有量が多いグラフト共重合体を用いることが好ましい。この場合、成分(A)ポリカ−ボネ−ト系樹脂に対する成分(C)グラフト共重合体の相溶性を高めることができ、成形体の耐衝撃性を向上させることができる。一方、成分(B)ポリ乳酸樹脂の割合が成分(A)ポリカ−ボネ−ト系樹脂の割合より多い場合には、ビニル系重合体セグメント(C2)の含有量が多いグラフト共重合体を用いることが好ましい。この場合、成分(B)ポリ乳酸樹脂に対する成分(C)グラフト共重合体の相溶性を高めることができ、熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させることができる。
【0047】
熱可塑性樹脂組成物には、その目的を損なわない範囲で他の樹脂を配合してもよい。そのような他の樹脂としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体等の汎用プラスチック類、エチレン・アクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メタクリル酸グリシジル共重合体等のエポキシ基含有オレフィン系樹脂類、エチレン・アクリル酸エチル共重合体の酸変性物、エチレン・プロピレン共重合体の酸変性物、エチレン・ブテン共重合体の酸変性物、エチレン・プロピレン・ブタジエンの酸変性物等の酸変性オレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート等のエンジニアリングプラスチック類、澱粉系樹脂、セルロース系樹脂、キトサン系樹脂等の天然系生分解プラスチック、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート系樹脂等の化学合成系生分解プラスチック、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等のエラストマー類などが挙げられる。
【0048】
熱可塑性樹脂脂組成物には、さらにその目的を損なわない範囲で無機充填剤を配合することができる。無機充填剤の具体例としては、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、クレ−、珪藻土、タルク、アルミナ、珪砂、ガラス粉、酸化鉄、金属粉、グラファイト、炭化珪素、窒化珪素、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カ−ボンブラックなどの粉粒状充填材、雲母、ガラス板、セリサイト、パイロフィライト、アルミフレ−クなどの金属箔、黒鉛などの平板状もしくは鱗板状充填材、シラスバル−ン、金属バル−ン、ガラスバル−ン、軽石などの中空状充填材、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、ウィスカ−、金属繊維、シリコ−ンカ−バイト繊維、アスベスト、ウオストナイトなどの鉱物繊維等が挙げられる。
【0049】
この無機充填剤の形状は、粉粒状、平板状、鱗片状、針状、球状又は中空状及び繊維状等である。また、無機充填剤を、ステアリン酸、オレイン酸、パルチミン酸又はそれらの金属塩、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はそれらの変性物、有機シラン、有機ボラン、有機チタネ−ト等により表面処理することが望ましい。
【0050】
無機充填剤の配合量は、熱可塑性樹脂成組成物100質量部に対して150質量部未満であることが好ましい。無機充填剤の配合量が150質量部を超えると、得られる成形体の耐衝撃性が低下するため好ましくない。
【0051】
加えて、熱可塑性樹脂組成物には水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機難燃剤、ハロゲン系、リン系等の有機難燃剤、木粉等の有機充填剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、架橋剤、着色剤等の添加剤を添加しても差し支えない。その他、熱可塑性樹脂成組成物には、その目的を損なわない範囲で公知の耐熱安定剤、老化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、分散剤、発泡剤、紫外線防止剤、着色剤、可塑剤、鉱物油系軟化剤等を配合することができる。
[成形体]
成形体は、前述の熱可塑性樹脂組成物を通常の成形方法に従って成形することにより得られる。成形方法は特に制限されず、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、異形押出成形法、射出ブロー成形法、真空圧空成形法、紡糸法などのいずれの方法も採用される。成形体の形態も特に制限されず、シート状、フィルム状、ボトル状、糸状、ファブリック状等のいずれでも良い。成形体の用途としては、自動車部品用、家電部品用、製品包装用、防水用、各種液体収納用等が挙げられる。
【0052】
この成形体をシートとして使用する場合、該シートを樹脂シート、紙、金属シート等と積層し、多層構造の積層体として使用することができる。本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂の成形機で成形して成形体を得ることが可能という特徴を生かして、得られる成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等をはじめとする幅広い分野に容易に利用することができる。
[実施形態によって発揮される作用、効果のまとめ]
・ 本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、成分(C)のグラフト共重合体は、ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とする質量平均分子量が10,000〜300,000のビニル系重合体セグメント(C2)とから構成されている。ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)は高い耐衝撃性を発現することができるが、単体では通常ポリ乳酸樹脂とは相溶しないため、導入することができない。一方、メタクリル酸メチルを主成分とするビニル系重合体セグメント(C2)はポリ乳酸樹脂との相溶性には優れるが、通常単体で添加しても、良好な流動性を発現することはできない。しかし、第1の発明ではこれら2つのセグメントでグラフト共重合体を形成したことから、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂とが良好に相溶し、成形体には界面剥離等が生じることなく、良好な物性を発現することができる。
【0053】
従って、熱可塑性樹脂組成物は、優れた流動性を発揮することができると共に、その成形体は優れた外観及び耐衝撃性を発揮することができる。
・ 前記成分(C)中におけるポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)の割合が40〜80質量%であり、ビニル系重合体セグメント(C2)の割合が20〜60質量%であることにより、成分(A)のポリカ−ボネ−ト系樹脂と成分(B)のポリ乳酸樹脂との相溶性をバランス良く高めることができる。その結果、上記効果を一層向上させることができる。
【0054】
・ また、成分(C)のビニル系重合体セグメント(C2)中に占めるメタクリル酸メチル単位の割合が60〜100質量%であることにより、成分(C)のグラフト共重合体が成分(B)のポリ乳酸樹脂に一層高い相溶性を示し、熱可塑性樹脂組成物の流動性を高めることができる。
【0055】
・ さらに、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対する成分(C)の割合が1〜30質量部であることにより、成分(A)のポリカ−ボネ−ト系樹脂と成分(B)のポリ乳酸樹脂との相溶性を十分に高めることができ、前記効果を十分に発揮することができる。
【0056】
・ 前記成形体は熱可塑性樹脂組成物を成形してなり、優れた外観及び耐衝撃性を発揮することができる。
【実施例】
【0057】
以下に、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。各例中の部及び%は特に断らない限り質量部及び質量%を表す。実施例及び比較例における物性測定に用いた試験方法は以下の通りである。
(1)アイゾット衝撃試験
熱可塑性樹脂組成物を造粒した樹脂(ペレット)を用い、射出成形機〔田端機械工業(株)製〕によって試験片を作製した。試験片の大きさを次に示す。
【0058】
アイゾット衝撃試験片:縦64mm、横12.7mm及び厚さ3.2mm(ノッチ付き)
アイゾット試験は、JIS K 7110に準拠して実施し、アイゾット衝撃値(kgf・cm/cm)を求めた。
(2)流動性(MFR)試験
JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件にて測定を行い、流動性(g/10分)を求めた。
(3)成形体の外観
アイゾット衝撃試験で作製された試験片の成形体の外観を、下記評価基準で評価した。
【0059】
○:界面剥離が全く観察されない状態。×:界面剥離が観察される状態。
(4)分散粒子径
グラフト共重合体の分散粒子の粒子径(μm)を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。
【0060】
また、各例における略号を以下に示す。
PC1:ポリカーボネート系樹脂〔カリバー200−30、住友ダウ(株)製〕
PC2:ポリカーボネート系樹脂〔タフロンA1900、出光石油化学(株)製〕
PLA1:ポリ乳酸樹脂1〔荷重たわみ温度(0.45MPa)110℃、融点170℃、テラマックTE−7000、ユニチカ(株)製〕
PLA2:ポリ乳酸樹脂2〔荷重たわみ温度(0.45MPa)140℃、融点170℃、テラマックTE−7300、ユニチカ(株)製〕
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸ブチル
St:スチレン
MAA:メタクリル酸
GMA:メタクリル酸グリシジル
AN:アクリロニトリル
(参考例1、グラフト共重合体の製造)
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール1.5gを溶解させた。この中にPC1を700g入れ、攪拌、分散した。そこに、ラジカル重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート9g、ビニル系単量体としてMMA300g、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン〔日油(株)製、NDM−1〕1.5gを前記オートクレーブ中に投入して攪拌した。
【0061】
次いで、オートクレーブを80℃に昇温し、2時間攪拌することによりラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をPC1中に含浸させた。続いて、含浸されたラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体の合計量が添加量の30質量%以上になっていることを確認後、ラジカル重合開始剤としてのジベンゾイルパーオキサイド〔日油(株)製、ナイパーBW〕1.2gを投入し、5時間維持して重合を完結させ、水洗及び乾燥してグラフト化前駆体を得た。このグラフト化前駆体からテトラヒドロフランでMMA重合体を抽出し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で質量平均分子量(THF中、スチレン換算による)を測定したところ、60,000であった。
【0062】
次に、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機〔(株)東洋精機製作所製〕で210℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト共重合体を得た。このグラフト共重合体について走査型電子顕微鏡〔(株)日立製作所製〕で観察したところ、粒子径0.3〜0.4μmの真球状樹脂が均一に分散された多相構造型の熱可塑性樹脂であった。
(参考例2、グラフト共重合体の製造)
参考例1のMMA300gを、MMA200g及びBA100gとした他は参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例3、グラフト共重合体の製造)
参考例1のt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート9gを15gに、PC1700gを500gに、MMA300gをMMA350g、St150gに、n−ドデシルメルカプタン1.5gを0.5gとした他は参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例4、グラフト共重合体の製造)
参考例1のMMA300gを、MMA250g及びGMA50gとした他は参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例5、グラフト共重合体の製造)
参考例3のSt150gを、St100g及びMAA50gとした他は参考例3と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例6、グラフト共重合体の製造)
参考例1のn−ドデシルメルカプタン1.5gを2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン〔日油(株)製、ノフマーMSD〕0.3gに、ジベンゾイルパーオキサイド1.2gを2gに、MMAをStとした他は参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例7、グラフト共重合体の製造)
参考例1のn−ドデシルメルカプタン1.5gを2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン〔日油(株)製、ノフマーMSD〕0.3gに、ジベンゾイルパーオキサイド1.2gをジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド〔日油(株)製、パーロイル355〕2gに、MMA300gをSt210g及びAN90gとした他は参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例8、グラフト共重合体の製造)
参考例7のPC1700gを545gに、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート9gを13.65gに、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.3gを0.46gに、ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド〔日油(株)製、パーロイル355〕2gを3.03gに、St210g及びAN90gをSt255g、AN109g及びGMA9.1gとした他は参考例8と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例9、グラフト共重合体の製造)
参考例1のn−ドデシルメルカプタン1.5gを9g、ジベンゾイルパーオキサイド1.2gをジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド10gとした他は参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例10、グラフト共重合体の製造)
参考例1のジベンゾイルパーオキサイド1.2gを0.6g、n−ドデシルメルカプタン〔日油(株)製、NDM−1〕1.5gを0gとした他は参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例11、グラフト共重合体の製造)
参考例6のSt300gを、St250g及びMMA50gにした他は参考例6と同様にしてグラフト共重合体を得た。
(参考例12、メタクリル酸メチル重合体の製造)
参考例1のPC1を0g、MMAを1000g、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートを0gとしてPMMAを得た。
【0063】
上記参考例1〜11のグラフト共重合体のポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメントとビニル系重合体セグメントの割合、ビニル系重合体セグメントの質量平均分子量及び分散粒子径を表1に示す。
【0064】
【表1】

(実施例1〜6及び比較例1〜10、熱可塑性樹脂組成物の製造)
実施例1〜6及び比較例4〜10では、表2に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度210℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0065】
また、比較例1としてPC1単独、比較例2としてPLA1単独及び比較例3としてPC1が70質量%とPLA1が30質量%との混合物を用い、実施例1と同様にしてペレットを得た。
【0066】
そして、これら実施例1〜6及び比較例1〜10の熱可塑性樹脂組成物について、アイゾット衝撃試験、流動性試験及び成形体の外観を測定し、それらの結果を表2に示した。
【0067】
【表2】

表2に示したように、実施例1〜6の熱可塑性樹脂組成物では、アイゾット衝撃値が7〜15kgf・cm/cm、流動性(MFR)が15〜55g/10分及び成形体外観が全て良好であるという結果が得られ、耐衝撃性、流動性及び外観がいずれも優れていることが明らかになった。
【0068】
一方、比較例1はポリカーボネート樹脂単体であったため、流動性が乏しい結果であった。比較例2ではポリ乳酸樹脂単体であったため、成形体の耐衝撃性が劣る結果であった。比較例3ではポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂とのブレンド系であり、流動性は優れているが、成形体の外観が悪く、耐衝撃性にも劣る結果であった。
【0069】
比較例4では、ポリメタクリル酸メチルを添加しただけであったため、成形体の外観が悪く、耐衝撃性も低い結果であった。比較例5、6及び7では、グラフト共重合体のビニル系重合体セグメントをポリメタクリル酸メチル以外のビニル系樹脂にしたため、比較例5及び6では成形体の外観と耐衝撃性とで劣り、比較例7では流動性で劣る結果であった。比較例8ではグラフト共重合体を構成するビニル系重合体セグメントのポリメタクリル酸メチルの質量平均分子量が10,000未満であったため、流動性は高いが成形体の外観と耐衝撃性で劣る結果を示した。比較例9ではグラフト共重合体を構成するビニル系重合体セグメントのポリメタクリル酸メチルの質量平均分子量が300,000より高いため、耐衝撃性は高いが、熱可塑性樹脂組成物の流動性と成形体の外観が不良であった。比較例10ではグラフト共重合体を構成するビニル系重合体セグメントのポリメタクリル酸メチルの割合が50%未満で主成分ではなかったため、流動性は高いが、成形体の耐衝撃性と外観が劣る結果であった。
【0070】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 成分(A)ポリカ−ボネ−ト系樹脂及び成分(B)ポリ乳酸樹脂を目的に応じて複数種類のものを適宜組合せて使用することができる。さらに成分(C)グラフト共重合体も成分(A)及び成分(B)に対応させて複数種類のものを使用することができる。
【0071】
・ 成分(A)、成分(B)及び成分(C)を溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物を調製する場合、成分(A)と成分(C)及び成分(B)と成分(C)とをそれぞれ溶融、混合した後、それらを溶融、混合し、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の混合性を向上させるように構成することもできる。
【0072】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
〇 前記成分(C)グラフト共重合体は、ビニル系重合体セグメント(C2)がメタクリル酸メチル単独又はメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル系単量体の混合物より形成されるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかの発明の効果に加えて、ポリ乳酸樹脂に対するグラフト共重合体の親和性を高めることができ、熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させることができる。
【0073】
〇 前記成分(C)のグラフト共重合体を形成するポリカ−ボネ−ト系樹脂は、成分(A)のポリカ−ボネ−ト系樹脂と同種のものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかの発明の効果に加えて、成分(A)のポリカ−ボネ−ト系樹脂に対する成分(C)のグラフト共重合体の相溶性を高めることができ、成形体の耐衝撃性等の物性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
成分(A):ポリカ−ボネ−ト系樹脂
成分(B):ポリ乳酸樹脂
成分(C):ポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)とメタクリル酸メチル単位を主成分とする質量平均分子量が10,000〜300,000のビニル系重合体セグメント(C2)とからなり、一方のセグメントにより形成された連続相中に他方のセグメントにより形成された分散相が微細に分散されている多相構造を示すグラフト共重合体
【請求項2】
前記成分(C)中におけるポリカ−ボネ−ト系樹脂セグメント(C1)の割合が40〜80質量%であり、ビニル系重合体セグメント(C2)の割合が20〜60質量%であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(C)のビニル系重合体セグメント(C2)中に占めるメタクリル酸メチル単位の割合が60〜100質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対する成分(C)の割合が1〜30質量部であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2010−90212(P2010−90212A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259506(P2008−259506)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】