説明

熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 幅広い非架橋熱可塑性樹脂において、その熱可塑性樹脂本来の特性を損なうことなく、押出成形、ブロー成形、発泡成形などにおいて安定した成形が可能なレオロジー特性を持つ熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 溶媒と溶媒ゲルを形成する架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)とが溶融混練して得られた熱可塑性樹脂組成物であり、前記(A’)が前記(B)中に粒子径が20μm以下に分散するか又は前記(A’)と前記(B)が互いに入り組みあった共連続構造化してなり、溶融伸長粘度における非線形領域で、下記(ロ)のひずみ硬化性を持つことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(ロ)伸張粘度測定で得られる時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線において下記のひずみ硬化係数が2以上である。ひずみ硬化係数=時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線における非線形領域の傾き/時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線における線形領域の傾き

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブロー成形、発泡成形、フィルム成形、押出成形等に有利なレオロジー特性を有する熱可塑性樹脂組成物に関し、詳しくは、特定の架橋状態に変性された熱可塑性樹脂(組成物)を同じ系統の非架橋熱可塑性樹脂中に分散させて非架橋熱可塑性樹脂のレオロジー特性を改良した熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブロー成形、発泡成形、フィルム成形、押出成形等において、成形時の形状保持性に優れる、成形安定性に優れるなどの有利な熱可塑性樹脂のレオロジー特性を得る手法は樹脂によって様々であるが、手法の多くが適切な溶融張力と溶融伸長時のひずみ硬化性の発現を目的としている。溶融張力を上げる方法としては、重合段階での高分子量化や分岐構造の導入の他、例えばポリエステルやポリアミドなどの場合は多官能の反応性化合物や反応性ポリマーを添加して溶融粘度を高くすることが行われている。
【0003】
一般に溶融伸長時のひずみ硬化性を発現させる方法としては、分岐構造導入し分子の絡み合いを強化する方法のほか、高重合度ポリマーをアロイし、分散相粒子の緩和作用によってひずみ硬化性を発現させる方法がある。しかしこれらの方法は樹脂によって独自かつ特殊な手法が用いられ、必ずしも目的である樹脂に容易に適用できない。また高重合度ポリマーのアロイによる溶融張力コントロールは相溶性や分散粒子径などをコントロールする必要があり、溶融伸長粘度におけるひずみ硬化性を得るのが非常に難しい上に、その効果が十分でない場合が多い。
【0004】
また、溶融伸長時のひずみ硬化性を発現させる方法として、分子鎖に架橋構造を導入する方法がある(特許文献1、2)。
特許文献1には有機過酸化物処理もしくは電離放射線処理によってポリエチレンに歪硬化性を付与しているが、歪硬化性付与の目的は、成形後のポリエチレン微多孔膜の性能安定化のためであり、エンジニアリングプラスチックの成形安定化のための歪硬化性付与ではない。
【0005】
特許文献2にはポリ乳酸にメタクリル基含有メタクリル酸エステル化合物と過酸化物とを溶融混練して架橋構造を導入し、ポリ乳酸樹脂組成物に歪硬化性を付与することが開示され、溶融時の時間−伸張粘度曲線における歪硬化性をパラメーター化した歪硬化係数を提示しているが、特許文献2で開示された手法は、系全体が架橋されるため、樹脂本来の特性が損なわれたり樹脂組成物の流動性が悪化したりするなどの欠点があり、適用できる樹脂が限定され、幅広い熱可塑性樹脂組成物に関して歪硬化性発現の手法としては有効ではない。
【0006】
特許文献3には放射線照射架橋したポリカプロラクトンと脂肪族ポリエステルとを溶融混練した樹脂組成物を用いてフィルムを成形することが開示されている。しかしながら、具体的に開示された架橋ポリカプロラクトンは、照射放射線量が高く分子劣化も生じて生分解性を促進する程度のものであるとともに、架橋ポリカプロラクトンの分散性や分散構造に関する記述はなく、架橋ポリカプロラクトンの分散による樹脂組成物の具体的レオロジー特性の改良についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-17694号公報
【特許文献2】特開2003−128901号公報
【特許文献3】特開平2000−256471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、幅広い非架橋熱可塑性樹脂(以下、単に熱可塑性樹脂と表記することがある)において、その非架橋熱可塑性樹脂本来の特性を損なうことなく、押出成形、ブロー成形、発泡成形などにおいて安定した成形が可能なレオロジー特性を持つ熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0009】
本発明者らは、この様な課題を解決するために鋭利研究を重ねた結果、ある特定の条件を満たす架橋度に変性調整された熱可塑性樹脂を非架橋熱可塑性樹脂に溶融混練して微細分散化し構造化することによって、非架橋熱可塑性樹脂のレオロジー特性に関し非線形領域でひずみ硬化性を発現することを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、
(1) 非架橋熱可塑性樹脂(A)を架橋して得られた下記(イ)の特性を有する架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練して得られた熱可塑性樹脂組成物であり、前記(A’)が前記(B)中に大きくとも20μmの粒子径に分散するか又は前記(A’)と前記(B)が互いに入り組みあった共連続構造化してなり、溶融一軸伸長粘度における非線形領域で、下記(ロ)のひずみ硬化性を持つことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(イ)非架橋熱可塑性樹脂(A)の溶媒に溶解せずに該溶媒と溶媒ゲルを形成する。
(ロ)非架橋熱可塑性樹脂(B)の融点より少なくとも10℃以上高い温度における熱可塑性樹脂組成物の溶融一軸伸張粘度測定で得られる時間‐伸張粘度曲線において下記のひずみ硬化係数が2以上である。
ひずみ硬化係数 = a2/a1
a1: 時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線における線形領域の傾き
a2: 時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線における非線形領域の傾き
【0011】
(2) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、その線形領域における溶融粘弾性測定で得られる周波数‐貯蔵弾性率の両対数プロット曲線において、周波数0.1〜10rad/sの範囲で周波数に対する貯蔵弾性率の傾きが0.2〜1.0となる架橋状態である前記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、その線形領域における溶融粘弾性測定での周波数0.1〜10rad/s範囲において、周波数-貯蔵弾性率の両対数プロット曲線における貯蔵弾性率の傾きをα、周波数-損失弾性率の両対数プロット曲線における損失弾性率の傾きをβとしたとき、αとβとの差の絶対値が0.15以下である前記(1)又は(2)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、放射線照射されてなるものである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、非架橋熱可塑性樹脂と架橋助剤とを溶融混練して得たペレットを放射線照射されてなるものである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、非架橋熱可塑性樹脂(A)に架橋助剤及び/又は有機過酸化物を配合して、溶融混錬によって架橋されてなるものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(7) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)中の少なくとも50重量%がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリオレフィン系樹脂のいずれかである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(8) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリカプロラクトン50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部とを含む樹脂組成物を溶融混練して得たペレットを吸収線量0.5〜25kGyに放射線照射されてなるものである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(9) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリエステルエラストマー50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部を含む樹脂組成物を溶融混練して得たペレットを吸収線量0.5〜60kGyに放射線照射されてなるものである前記(1)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(10) 架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリアミド50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部を含む樹脂組成物を溶融混練して得たペレットを吸収線量0.5〜20kGyに放射線照射されてなるものである前記(1)〜(9)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(11) 非架橋熱可塑性樹脂(A)の溶媒に溶解せずに該溶媒と溶媒ゲルを形成するように架橋処理された架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)ペレットと非架橋熱可塑性樹脂(B)ペレットとを該(A’)及び(B)ペレットの融点以上の温度で溶融混練する、ひずみ硬化性を持つ熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、架橋熱可塑性樹脂と非架橋熱可塑性樹脂が均一に微細構造化しているため、架橋熱可塑性樹脂と非架橋熱可塑性樹脂のそれぞれの機能特性を低減させることなくレオロジー特性を改良することができ、溶融一軸伸長粘度(以下、単に溶融伸長粘度と表記することがある)における非線形領域でひずみ硬化性持つ。このため、機能性が高くかつブロー成形、押出成形、発泡成形において成形性の良好な熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
さらにその製造方法は各種の機能性熱可塑性樹脂組成物に対して適用可能であり、またこの製造過程で形成される架橋熱可塑性樹脂組成物と非架橋熱可塑性樹脂組成物の微細分散構造は各種機能性熱可塑性樹脂のアロイによる機能設計で有用な構造である。すなわち架橋熱可塑性樹脂と非架橋熱可塑性樹脂の幅広い組み合わせにおいて、レオロジー特性の改良だけでなく種々の機能設計に関しても有用な手法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は実施例1-1と比較例1-1の熱可塑性樹脂組成物についての180℃溶融一軸伸長粘度の時間成長曲線を示す図であり、非線形領域でひずみ硬化性を示す図である。
【図2】図2は実施例2-3と比較例2-3の熱可塑性樹脂組成物についての220℃溶融一軸伸長粘度の時間成長曲線を示す図であり、非線形領域でひずみ硬化性を示す図である。
【図3】図3は実施例2-2と比較例2-2の熱可塑性樹脂組成物について、クライオミクロトームで得た凍結切片をRuOで染色したものについてのTEM画像を示す図(写真)である。
【図4】図4は実施例1-1〜1-3および実施例2-1、2-3で配合された架橋熱可塑性樹脂組成物の190℃及び220℃における周波数‐貯蔵弾性率、損失弾性率、還元粘度についての両対数プロットを示す図である。
【図5】図5は実施例4の熱可塑性樹脂組成物について、クライオミクロトームで得た凍結切片についての位相差顕微鏡画像とSPM画像を示す図(写真)である。
【図6】図6は比較例4の熱可塑性樹脂組成物について、クライオミクロトームで得た凍結切片についての位相差顕微鏡画像とSPM画像を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を具体的に説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練によって微細分散構造化することで得られる。架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)は、非架橋熱可塑性樹脂(A)の分子鎖に橋架け構造が導入されて架橋された変性熱可塑性樹脂(組成物)であり、非架橋熱可塑性樹脂(A)の溶媒に不溶化する特定の架橋度を有することとなったものである。
この非架橋熱可塑性樹脂(A)、(B)に該当する具体的な樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)、エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EEA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のオレフィン系樹脂。ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート(PBSA)などの生分解性かつ橋かけ型ポリエステル樹脂。ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアクリレート(PAR)、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、およびポリブチレンテレフタレート/ポリラクトンブロック共重合体、ポリブチレンナフタレート/ポリラクトンブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/ポリマプロラクトン共重合体等のポリエステル系樹脂。 ナイロン6(NY6)、ナイロン66(NY66)、ナイロン46(NY46)、ナイロン11(NY11)、ナイロン12(NY12)、ナイロン610(NY610)、ナイロン612(NY612)、メタキシリレンアジパミド(MXD6)、ヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸重合体(6T)、ヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸およびアジピン酸重合体(66T)、ヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸およびε−カプロラクタム共重合体(6T/6)、トリメチルヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸(TMD−T)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸およびイソフタール酸重合体(MXD−6/I)、トリヘキサメチレンジアミンとテレフタール酸およびε−カプロラクタム共重合体(TMD−T/6)、ジアミノジシクロヘキシレンメタン(CA)とイソフタール酸およびラウリルラクタム重合体等のポリアミド系樹脂等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではなく、前述以外の熱可塑性樹脂を含めた複数樹脂の共重合体およびポリマーアロイコンパウンドもこれに含まれる。
【0015】
本発明にける熱可塑性樹脂組成物を得るためには、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋度を適切にコントロールすることが重要であり、この特有の架橋程度に調整可能としたことが、本発明の実現と様々な樹脂への容易な適用を可能にしている。以下に本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)に関してその好ましい形態を記載する。
【0016】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)は少なくとも非架橋熱可塑性樹脂(A)の溶媒に不溶化するまで架橋している必要があり、その架橋方法は放射線照射による架橋や有機過酸化物使いの溶融混錬での架橋などであらかじめ調整されていることが好ましいが、これらに限定されるものではない。橋架け構造を分子鎖内に導入する架橋方法の中では、特に放射線照射による架橋は架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋度を均一かつ架橋密度が上がり過ぎない状態でコントロールすることが容易にできるので特に好ましい。
【0017】
非架橋熱可塑性樹脂の溶媒とは、架橋前の熱可塑性樹脂を溶解可能な溶媒のことであり、各熱可塑性樹脂に適した溶媒を選択すれば良い。例えば、ナイロンではギ酸、硫酸などが挙げられるが、ギ酸が好ましい。ポリエステルに対してはフェノールとテトラクロロエタンの混合溶媒やジクロルベンゼンなどが挙げられるが、フェノールとテトラクロロエタンの混合溶媒が好ましい。
【0018】
放射線照射による架橋とは電子線やガンマ線(γ線)を照射することにより、そのエンルギーで分子間架橋を起こすことが出来る。放射線の種類によって波長が異なり、電子線より波長が短いガンマ線は厚みのある熱可塑性樹脂の内部まで架橋することが可能である。吸収したエンルギーの総量(吸収線量)はグレイ(Gy)で表される。放射線照射は吸収線量を自由にコトロールすることが出来るため、熱可塑性樹脂の架橋度もコントロール出来るので、本発明の架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋には特に好ましい。ペレット等への放射線照射による架橋は照射される上部下部とで透過線量を均一にしなければ均一な架橋度が得られない場合があるため、特にペレットの架橋を放射線で行う場合は、波長の短いガンマ線での架橋が均一な架橋度を得られるので本発明では最適な架橋法である。本発明における放射線照射の吸収線量は0.5〜50kGyが好ましい。0.5kGy未満であると、吸収線量のコントロールが難しくなり、50kGyを超えると架橋が進みすぎる上、ポリマー種によっては分子切断の進行が進みすぎて架橋部分と非架橋部分が極端に不均一なものしか得られない。
【0019】
放射線照射による架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋度調整では架橋処理を行いたい熱可塑性樹脂にあらかじめ架橋助剤を練り込むことにより架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋処理効率を促進させることが出来る。具体的な架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチルアリルイソシアヌレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTA)、トリスハイドロオキシエチルイソシアヌリックアクリレート(THEICA)およびN,N’−m−フェニレンビスマレイミド(MPBM)等の多官能性化合物を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。取り扱いやすさの点でトリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。これらの架橋助剤は一種類または二種類以上を併用することもできる。架橋助剤の配合量は架橋処理を行いたい熱可塑性樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.03〜5重量部である。0.01重量部以下では架橋効率促進の効果が少なくなる。また10重量部以上では架橋助剤自体の分散に均一性がなくなり、架橋密度の均一な架橋熱可塑性樹脂が得られない。さらに多量の架橋助剤の添加は架橋助剤としての効率が悪くなるばかりか、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の物性を低下させるので好ましくない。
【0020】
架橋したい熱可塑性樹脂に架橋助剤を配合して、良く混合した後、溶融混錬して得たペレットに放射線を照射することによって架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)を製造することが出来る。架橋助剤を溶融混錬する装置は特に限定しないが、二軸押出機を使うのが好ましい。二軸押出機のシリンダー温度は架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が結晶性樹脂の場合は融点、架橋熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂である場合はガラス転移点温度より10〜50℃、もしくはそれ以上高い温度で設定するのが好ましい。溶融混錬工程の滞留時間は一般的に30秒〜15分程度である。架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋度は使用する架橋助剤の配合量と照射される放射線の吸収線量によってコントロールすることが出来る。
【0021】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋を有機過酸化物によって架橋処理する場合は、架橋したい熱可塑性樹脂に有機過酸化物と架橋助剤を配合し、混合と溶融混錬をすることによって製造できる。架橋度は有機過酸化物および架橋助剤の種類と量および溶融混錬の温度と溶融混錬している滞留時間によって決定される。架橋剤としては一般に有機過酸化物が用いられる。有機過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジクミールパーオキサイド、ジ−(t−ブチルパーオキシ)m−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2−5−ジt−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2−5−t−ブチルパーオキシヘキサン−3等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。有機過酸化物の添加量は架橋処理したい熱可塑性樹脂100重量部に対して0.02〜5重量部である。好ましくは0.05〜3重量部である。架橋助剤としては放射線照射による架橋の時に用いた架橋助剤と同じものを使用することができる。また架橋助剤の配合量も同様である。
【0022】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋度は、例えば前述までに記述した方法によって任意の熱可塑性樹脂を架橋し、溶媒に不溶化するまで架橋度を上げることが必要である。溶媒に溶解してしまう場合は橋架け構造を導入されていてもその架橋の度合いが充分でないため目的のレオロジー改質効果が得ることができないばかりか、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)との組み合わせによっては(A)が均一かつ安定な分散構造もしくは共連続構造をとらない場合がある。
【0023】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)は溶媒に不溶となる一定以上の架橋度を持つと同時に相溶性があり、かつ、架橋していない非架橋熱可塑性樹脂との300sec-1以上のせん断速度における溶融混練りで、100μm以上のゲルを生成することなく均一に溶融分散する程度の架橋程度に抑えられていることが好ましい。さらに好ましくは2軸押出機を用いて、相溶性がありかつ架橋していない熱可塑性樹脂との300sec-1以上のせん断速度における溶融混練りで得たペレットを用いて200μm以下のフィルム成形品を溶融成形し場合、そのフィルムが良好な表面性をもち、100μm以上のゲルによる凹凸がないことである。ここで表面にゲルによる凹凸ができるような状態である場合は、分散させようとした架橋熱可塑性樹脂の架橋が進みすぎているということであり、本発明において非架橋熱可塑性樹脂(B)との溶融混練による微細構造化は不可能で好ましくない。
【0024】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の好ましい架橋状態の調整は放射線を用いて架橋を行なう場合は、架橋助剤の配合量と照射される放射線の吸収線量によってコントロールすることができ、架橋助剤と有機過酸化物との溶融混錬で行なう場合の架橋度は有機過酸化物および架橋助剤の種類と量および溶融混錬の温度と溶融混錬している滞留時間によって決定される。架橋を行いたい任意の熱可塑性樹脂および樹脂組成物に対して、それぞれ最適な架橋状態と架橋条件があり、かつ、目的の架橋度が融点以上でも一定せん断で非架橋熱可塑性樹脂に分散するソフトな状態であるため、一般的に架橋度の指標として用いられる溶媒膨潤率や、ゲル化度では明確に規定できず、良溶媒に対する不溶化(溶媒ゲルの形成)と相溶熱可塑性樹脂に対する分散性を指標として、目的の架橋状態を得ることが最も効率的かつ精度が高い。
【0025】
本発明における非架橋熱可塑性樹脂(A)の架橋処理に際し、架橋助剤を添加する場合や有機過酸化物と混練する場合の溶融混錬装置としては、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダー、バンバリー等があるが、特に好ましいのは二軸押出機である。
【0026】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)は、その架橋度が調整される過程で、架橋度が上がっていくと、溶融粘弾性測定において、溶融時の貯蔵弾性率は架橋処理を行う前よりも増大することになる。これは溶融時の周波数‐貯蔵弾性率の関係において、架橋処理後、任意の周波数に対して貯蔵弾性率が増大していることで確認できる。この貯蔵弾性率の増大は、系の架橋が均一に進行していく場合は周波数‐貯蔵弾性率両対数プロット曲線における周波数に対する貯蔵弾性率の傾きの減少で見ることができる。
【0027】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)は、橋架け構造の分子鎖内導入によってこの傾きが減少したものであることが好ましい。さらに好ましくは、少なくとも0.1〜10rad/sの範囲でその傾きが大きな変化点がなく均一で、一般的にアロイされていない単一の非架橋熱可塑性樹脂の周波数‐貯蔵弾性率両対数プロット曲線において周波数に対する貯蔵弾性率の傾きが2に近い値であるのに対して、0.2〜1.0の範囲まで増大していることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.6である。この傾きの最適な値は架橋処理される熱可塑性樹脂によって異なるが、この値が1.0より大きいと、架橋が不充分であることを示し、非架橋熱可塑性樹脂(B)と溶融混練してもレオロジー改良効果はない。また橋架け構造の導入が充分でないと、溶融分散状態での緩和挙動が早く分散構造が安定しないため、非架橋熱可塑性樹脂(B)と安定した微細分散構造をとりにくい。逆に周波数‐貯蔵弾性率両対数プロット曲線における貯蔵弾性率の傾きが0.2よりも小さくなるまで架橋している場合は、もはや硬いゲルとなって固体に近い粘弾特性であることを意味しあらかじめ粒子を分散粒子スケールまで調整しない限り、非架橋熱可塑性樹脂(B)との溶融混練によって20μm以下に微分散構造化することは困難である。
【0028】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)は融点以上での粘弾性測定における貯蔵弾性率が少なくとも0.1〜10rad/sの範囲で1E+5Pa以下であることが好ましい。1E+5Pa以上であると、溶融温度以上でも見かけ上、固体として形状を保持しえる領域であり2軸押出機による混練においても熱可塑性樹脂組成物中に20μmを超える分散不良なゲル塊状物となってしまうため1E+5Pa以下であることが好ましい。
【0029】
溶融時、非線形領域でひずみ硬化性を発現する本発明の熱可塑性樹脂組成物には、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)として適度に弾性的な挙動の分散相が構造化されていることが好ましい。一般的に溶融時の熱可塑性樹脂では貯蔵弾性率のせん断速度依存性のほうが損失弾性率のせん断速度依存性より大きい。溶融粘弾性測定で得られた少なくとも周波数0.1〜10rad/s範囲の周波数‐貯蔵弾性率の両対数プロット曲線における貯蔵弾性率の傾きをαとすると、αは貯蔵弾性率の周波数依存性パラメーターとして扱うことができる。周波数‐貯蔵弾性率の両対数プロット曲線における損失弾性率の傾きをβとすると、βは損失弾性率の周波数依存性パラメーターとして扱うことができる。さらに、α−βはtanδの周波数依存性パラメーターとして扱うことができ、一般的な熱可塑性樹脂の場合α>βでかつα−βの絶対値は1.0に近い値となる。この値が大きければ低せん断での損失弾性率に対する貯蔵弾性率が小さくなる傾向を表しており、より粘性的な挙動の分散相であることを示す。
【0030】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の適度に弾性的な挙動としてα−βはα、βの大小に関わらず、その絶対値が0.15以下であることが好ましい。さらに好ましいのはα−βの絶対値が0.10以下である。分散相となる架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)のα、βがα>βでかつα−βの絶対値が0.15を超える場合は低せん断領域での損失弾性率に対して貯蔵弾性率低すぎてひずみ硬化性の発現に寄与しない。分散相となる架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)のα、βがα<βでかつα−βの絶対値が0.15以上である場合は、もはや固体に近い粘弾特性でありこれもひずみ硬化性の発現に寄与しない。
【0031】
本発明における架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋度調整過程においては、本発明の熱可塑性樹脂組成物で発現させたいひずみ硬化性以外の機能に応じて、また、架橋を阻害したりあるいは促進しすぎたりしないで架橋度の調整が容易である範囲において、他の樹脂や機能性充填材や添加剤等を配合することが出来る。充填材および配合剤として、例えば ガラス繊維、炭素繊維、各種の無機フィラー等の強化材、熱安定剤、紫外線安定剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、難燃剤、導電性フィラー、熱伝導性フィラー、帯電防止剤、顔料、染料等の配合剤および添加剤であるが、これらに限定されるものではない。非架橋熱可塑性樹脂(A)に架橋処理をする前にこれらの機能性配合剤を配合して架橋処理を行えば、架橋熱可塑性樹脂内にのみ配合剤を拘束することができ、架橋熱可塑性樹脂成分の分散相に選択的に含有させることができる。これによりさらに高次の分散構造制御と機能設計が可能となる。
【0032】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)中の少なくとも50重量%がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリオレフィン系樹脂のいずれかであることが好ましい。
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)中の少なくとも50重量%がポリエステル系樹脂の場合、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリカプロラクトン50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部とを含む樹脂組成物を溶融混練りして得たペレットを吸収線量0.5〜25kGyに放射線照射されてなることが好ましい。
また、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)中の少なくとも50重量%がポリエステル系樹脂の場合、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリエステルエラストマー50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部を含む樹脂組成物を溶融混練りして得たペレットを吸収線量0.5〜60kGyに放射線照射されてなることが好ましい。
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)中の少なくとも50重量%がポリアミド系樹脂の場合、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリアミド50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部を含む樹脂組成物を溶融混練りして得たペレットを吸収線量0.5〜20kGyに放射線照射されてなることが好ましい。
上記の範囲をはずれた場合、所望の特性の架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が得られにくくなることがある。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練して得られる。架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)の配合割合は、(A’):(B)=1:99〜95:5が好ましい。(A’)が1未満で(B)が99を超えると、非架橋熱可塑性樹脂(B)のレオロジー改良効果が乏しくなり、(A’)が95を超えて(B)が5未満であると、(B)の特性が発現されにくくなり、コスト的にも不利である。
【0034】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練して得られた本発明の熱可塑性樹脂組成物は、非架橋熱可塑性樹脂(B)の融点より少なくとも10℃以上高い温度における一軸伸張粘度測定で得られる時間‐一軸伸張粘度の両対数プロット曲線において下記のひずみ硬化係数が2以上であることが必要である。
ひずみ硬化係数 = a2/a1
a1: 時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線における線形領域の傾き
a2: 時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線における非線形領域の傾き
ひずみ硬化係数が2未満であると、非架橋熱可塑性樹脂(B)のレオロジー改良効果が乏しい。ひずみ硬化係数は、組成物の製造のしやすさ、成形安定性の点で、4〜50程度が好ましい。
【0035】
架橋処理される前の熱可塑性樹脂である非架橋熱可塑性樹脂(A)と非架橋熱可塑性樹脂(B)とは、相溶性であることが好ましく、同じ系統の樹脂であることが好ましい。例えば、ポリエステル系樹脂同士、ポリアミド系樹脂同士、ポリオレフィン系樹脂同士などの組み合わせが好ましい。
【0036】
また、本発明における、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)との溶融混練時においても、ひずみ硬化性以外の発現させたい機能に応じて、機能性充填材や添加材等を配合することができる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、各種の無機フィラー等の強化材、熱安定剤、紫外線安定剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、難燃剤、導電性フィラー、熱伝導性フィラー、帯電防止剤、顔料、染料等の配合剤および添加剤であるが、これらに限定されるものではない。すでに架橋処理を行った架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)の溶融混練の際には、配合された充填材や添加剤は、溶融弾性率の非常に高い架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の中には溶融せん断下においても進入し難いため、選択的に非架橋熱可塑性樹脂(B)のマトリックス相に分散することとなる。これによりさらに高次の分散構造制御と機能設計が可能となる。
【0037】
さらに、本発明における熱可塑性樹脂組成物は、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)、さらに必要に応じて配合剤を混合した混合物を、射出成形機、押出製品を賦形する射出成形機、押出機等にダイレクトに投入して、溶融混錬と製品化をダイレクトに行うこともできる。このような場合でも、溶融混錬時の剪断速度は架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)を非架橋熱可塑性樹脂(B)と構造化するために重要である。溶融混錬時の剪断速度は300 sec-1以上が必要である。好ましくは剪断速度500 sec-1以上、更に好ましくは剪断速度1000 sec-1以上である。
これらの場合、射出成形機または押出機等では混合物を投入するホッパーから金型やダイスまでの間でも溶融混錬が可能であり、この間での剪断速度によって架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)および、他の配合剤が微細構造化され、成形装置の先端にある金型やダイスおよび汎で製品化されることになる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下に実施例、比較例で採用した測定法、評価法、実験方法を示す。
(1) 架橋熱可塑性樹脂の溶融時貯蔵弾性率、損失弾性率測定法
TA Instruments社製ARESと測定治具として25mmのパラレルプレートを用いて動的粘弾性測定を以下の条件で行い、周波数‐貯蔵弾性率、周波数‐損失弾性率及び周波数‐せん断粘度の両対数プロットを得た。
・Strain=10%
・Temperature=DSCの結晶融点の少なくとも10℃以上
・Initial Frequency=100rad/s
・Final Frequency=0.1rad/s
・Gap=0.7〜1.5mm
・Geometry Type=Parallel Plate(Diameter=25mm)
架橋熱可塑性樹脂調整例において架橋が進行しすぎた架橋熱可塑性樹脂組成物についてはTA Instruments社製ARESで貯蔵弾性率測定ができないため「測定不能」とした。
また、架橋熱可塑性樹脂組成物の周波数0.1〜10rad/s範囲の周波数-貯蔵弾性率両対数プロット曲線における貯蔵弾性率の傾きαと周波数-損失弾性率両対数プロット曲線における損失弾性率の傾きβとを求め、tanδの周波数依存性パラメーターとなるα−βを求めた。
【0039】
(2) 架橋処理物の溶媒溶解試験法:
径Φ約3mm×長さ約3mmカットペレット形状の架橋処理物を、ポリエステル系樹脂はフェノールとテトラクロロエタンとの混合溶媒へ常温×40hr以上浸漬、ポリアミド系は蟻酸へ常温×40hr以上浸漬し、溶媒除去した後の残存物の有無を目視で確認した。透明性のある溶媒ゲルが浸漬前ペレットの膨潤形状で残存しており、浸漬したペレット個数と同数の溶媒膨潤ゲルが確認できた場合を「不溶」と表現して○とした。溶媒に溶解し溶媒除去の際に溶媒と一緒に除去されるか、もしくは浸漬したペレット形状より溶媒膨潤ゲルの形状が大きく崩れ、分割されて形状を保持していない状態の場合「溶解」と表現して×とした。
【0040】
(3) 架橋処理物の非架橋熱可塑性樹脂への分散試験法:
任意の熱可塑性樹脂X(A)に架橋処理を行った架橋熱可塑性樹脂組成物X(A’)に関して、非架橋である熱可塑性樹脂X(A)への分散性は次のように評価した。
架橋処理を行った架橋熱可塑性樹脂X(A’)と非架橋熱可塑性樹脂X(A)とを二軸押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM30)用で両樹脂の融点より少なくとも10℃以上高いシリンダー温度設定、スクリュー回転数120rpmにて、X(A’)とX(A)の合計が100重量部としてX(A)/X(A’)=70重量部/30重量部の比率で混合および溶融混練し、水浴にストランド状に押出して冷却後、カットして樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットを真空乾燥で水分率0.05質量%以下になるまで乾燥後、厚み200μmのシート状成形品を押出成形で作成した。
【0041】
得られたシート表面状態を目視観察でゲル生成物による凹凸がないか、100μm以上のゲル生成物がないか確認した。厚み200μmのシートの場合、100μm以上のゲル生成物が存在する場合、必ず凹凸が認められることが確認できているので、シート表面が平滑となるものは「分散する」と判定した。200μmのシートに凹凸が目立つもの、シートを成形するまでもなく平滑なストランドの引けないものは「分散不良」とした。目視とゲル生成物の関係が分かりに難い場合は透過型電子顕微鏡(TEM)もしくは、走査型電子顕微鏡(SEM)で架橋熱可塑性樹脂組成物X(A’)が非架橋熱可塑性樹脂X(A)中に分散している構造を確認した。また、放射線による分解傾向の強いポリ乳酸などの樹脂に関しては電子顕微鏡における観察中に分解傾向を示すため走査型プローブ顕微鏡(SPM)で構造観察を行った。
【0042】
(4)時間‐一軸伸張粘度の両対数プロット曲線におけるひずみ硬化係数測定法:
TA Instruments社製ARESを用いて、測定治具はTA Instruments社製のEVF(Extensional Viscosity Fixture)を用いた。測定条件は測定樹脂のDSC融点より少なくとも10〜50℃高い温度までの温度でひずみ速度は少なくとも1.0(s-1)で行い、得られた時間−一軸伸張粘度の両対数プロット曲線において下記式で表されるひずみ硬化係数を得た。
ひずみ硬化係数 = a2/a1
a1: 時間‐一軸伸張粘度の両対数プロット曲線における線形領域の傾き
a2: 時間‐一軸伸張粘度の両対数プロット曲線における非線形領域の傾き
なお、ここでは、a1は、簡易法によらず以下のようにして求めた。
すなわち、TA Instruments社製ARESと測定治具として25mmのパラレルプレートを用いて、ひずみ=10%、温度=一軸伸張粘度測定と同温度、GAP=0.7〜1.5mmの測定条件で周波数0.1〜100rad/s範囲のせん断粘度の周波数依存性データを求め、これより求めたせん断粘度の3倍値:3ηsを、時間-せん断粘度の両対数プロット上にプロットし、そのプロット線の傾きを時間‐伸張粘度の両対数プロット曲線における線形領域の傾きa1とした。
【0043】
(5)分散構造観察法:
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)の構造観察には、試料の特性によって、(イ)TEM(透過型電子顕微鏡)、(ロ)SEM(走査型電子顕微鏡)、(ハ)SPM(走査型プローブ顕微鏡)、(ニ)位相顕微鏡、(ホ)微分干渉顕微鏡 などを用いた。
実施例、比較例において具体的には電子顕微鏡観察は架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)を溶融混練りして得たペレットを、光硬化型樹脂に包埋後研磨し、5〜10%リンタングステン酸水溶液で染色したものをSEMで観察するか、クライオミクロトームで得た凍結切片をRuOで染色したものをTEMで観察したが、これは構造観察の手法を限定するものではない。SPM、位相顕微鏡、および微分干渉顕微鏡に関してもクライオトームで得た凍結切片を用いて観察した。
観察されたサンプルのモルフォロジー構造に関しては以下のように判定し表記した。
分散構造、分散オーダーが均一かつ分散形状が一定のものを分散構造の均一性において「均一」とし、分散構造、分散オーダーが不均一でかつ分散形状も一定でないものを分散構造の均一性において「不均一」とした。
【0044】
分散形態に関して、溶融混錬した複数種の樹脂のうち少なくとも一種がマトリックス化し、そのマトリックス中に他樹脂が粒子状に分散している場合は「独立分散」とし、溶融混錬した複数種の樹脂が相互に入り組みあった共連続構造化している場合は「共連続」とした。「独立分散」である場合は観察された分散粒子の粒子径を分散オーダーとして記載し、共連続構造である場合はその観察された画像において見かけ上比率の少ない連続相における相の幅を分散オーダーとした。また明確なミクロンオーダーの構造が観察されない場合を「構造なし」とした。なお、分散粒子の粒子径は、観察画像の各粒子の最大直径を粒子径として観察画像から測定した。連続相における相の幅の分散オーダー及び分散粒子径は、10箇所の観察画像で確認した。
構造の有用性に関して、分散オーダーが10μm以下でかつ均一分散しており「独立分散」もしくは「共連続」であるものを機能設計に有用な構造として○とし、分散オーダー、構造の均一性、分散形態においてこれらを満足しないものを機能設計に充分に有用でない構造として×とした。
【0045】
<実施例、比較例で使用した原材料>
PA6: 相対粘度RV=2.5の6ナイロンである東洋紡社製「東洋紡ナイロンT−800」
MXD6: 相対粘度RV=2.1のMXD6ナイロン、「東洋紡ナイロンT−600」
PA66: 相対粘度RV=2.78の66ナイロン、「東レアミランCN3001N」
PCL: 分子量70000のポリカプロラクトンであるダイセル化学工業社製「PCL−H7」
PLA: 融点164℃のポリ乳酸である三井化学社製「レイシアH100」
ポリエステルエラストマー(イ): 融点約210℃、溶液粘度1.45dl/gのポリブチレンテレフタレート/ポリカプロラクトン=57/43(重量%)共重合体である東洋紡社製「GS430」
ポリエステルエラストマー(ロ): 融点約203℃、溶液粘度1.95dl/gのポリブチレンテレフタレート/PTMG=53/47(重量%)共重合体である東洋紡社製「GP84D」
PBT: 相対粘度IV=0.8のポリブチレンテレフタレートであると東レ社製「1200S」
架橋助剤A: 日本化成株式会社製トリメタリルイソシアヌレートである「TMAIC」
架橋助剤B: 日本化成株式会社製トリアリルイソシアヌレートである「TAIC」
離型剤: クラリアント社製 モンタン酸エステルワックス「WE40」
安定剤: チバスペシャリティケミカルズ社製 「イルガノックスB1171」
【0046】
<架橋熱可塑性樹脂組成物の製造及び評価>
架橋処理を行う熱可塑性樹脂と架橋助剤を表1、2中に記載した比率で混合し、2軸押出機(池貝PCM30ダイス直径4mm×2孔)を用いて表1、2中に記載の温度、スクリュウ回転混練で溶融混練しストランドを冷却後カットすることでペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られたペレットを乾燥後アルミ防湿袋に入れ、Co−60を線源とするγ線照射装置(MDS Nordion社製、型式JS10000HD)で表1、2中記載の線量に達するまでγ線を照射することによって架橋処理を行い、架橋状態を特定にコントロールされた架橋熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた架橋熱可塑性樹脂組成物の溶媒溶解性、非架橋熱可塑性樹脂への分散性について評価した。さらに、架橋熱可塑性樹脂組成物について周波数‐貯蔵弾性率および損失弾性率、せん断粘度の両対数プロットを得て、周波数に対する貯蔵弾性率の傾きを求めた。得られた評価結果を表1、2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表1の架橋熱可塑性樹脂組成物A−1〜A−4は、それぞれの良溶媒に不溶となるまで架橋が進行しており、非架橋熱可塑性樹脂に対する分散性は良好であることも確認された。
さらに、架橋熱可塑性樹脂組成物A−1〜A−4は、溶融時の粘弾特性が周波数‐貯蔵弾性率の両対数プロットにおいて少なくとも0.1〜10rad/sの範囲で周波数に対する貯蔵弾性率の傾きが0.2〜1.0となる一定の架橋状態に調整され、tanδの周波数依存性パラメーターであるα−βの絶対値が0.15以下であることから、本発明における架橋樹脂組成物(A’)として適切であることが確認され、さらに、融点以上の粘弾性測定における貯蔵弾性率が少なくとも0.1〜10rad/sの範囲で1E+5Pa以下であることが確認された。
表2の架橋熱可塑性樹脂組成物A−5〜A−8は、それぞれA−1〜A−4に対して、倍のガンマ線球吸収線量で調整され、これらは良溶媒に不溶となるまで架橋が進んでいることが確認された。また、非架橋熱可塑性樹脂に対する分散性評価においては、1mm3〜元のペレット形状(径Φ約3mm×長さ約3mmカットペレット形状)に近いゲル状の分散不良体があり、押出ストランド、カットペレット、およびその成形品において激しい凹凸が見られ、架橋の度合いが高い。このように架橋条件が過剰で架橋が進みすぎると、融点以上における形状保持性が高くなり非架橋熱可塑性樹脂との溶融混錬においては、溶融温度以上でせん断をかけても、もはや分散し難いほど架橋の進んだハードゲルとなってしまうことが確認された。A−5〜A−8の架橋熱可塑性樹脂は溶融時に変形しないためレオメーターによるレオロジー測定で貯蔵弾性率等の数値データは測定できなかった。なお、表1記載の架橋条件に対して、照射線量を半分にしたものは全て溶媒に溶解し、充分な架橋状態を得られなかった。
【0050】
実施例1、比較例1
表3の架橋熱可塑性樹脂組成物と非架橋熱可塑性樹脂との組み合わせと比率とで、2軸押出機(池貝PCM30ダイス直径4mm×2孔)を用いて表3の溶融混練条件で溶融混練しストランドを冷却およびカットして実施例1-1〜1-3、比較例1-1〜1-4の熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。得られた組成物について、(1)時間‐伸張粘度曲線におけるひずみ硬化係数、(2)分散構造観察を行い、その結果を表3に記載した。
実施例1-1、1-2、比較例1-1、1-2に関してその構造観察はクライオミクロトームで得た凍結切片を位相差顕微鏡観察とSPM観察でおこなった。実施例1-3、比較例1-3に関してはその構造観察はクライオミクロトームで得た凍結切片をRuOで染色したものをTEMで観察しその結果を記載した。
【0051】
【表3】

【0052】
実施例1-1〜1-3は、本発明の架橋熱可塑性樹脂と非架橋熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であり、その分散構造は実施例1-2の分散状態が図5で示されているようにミクロンオーダーで微細かつ均一な状態で安定化していることが示されている。さらに溶融伸長粘度における非線形領域でひずみ硬化性を持つ熱可塑性樹脂組成物であることが示されている。さらにそのひずみ硬化係数は極めて高い値であり、レオロジー的に充分改良されていることが示されている。
比較例1-1〜1-3においては架橋処理を行っていない熱可塑性樹脂同士の溶融混練りの結果を記載した。比較例1-1〜1-3において2つの異なる樹脂は微細に構造化しているが、比較例1-2においては図6にも示されるように、ひどく不均一な分散状態であり特性的にも安定しているとは言い難い。分散構造を見かけ上均一にとっているものも含め、いずれの比較例においても融伸長粘度における非線形領域でひずみ硬化性は発現せず、レオロジー的に有用な組成物ではない。
比較例1-4において、好ましくない過剰な架橋処理をおこなったPCLをPBTと溶融混練しているが、この架橋PCLは1mm3〜ペレット形状に近いままの全く微細分散化しない状態で2軸押出機(池貝PCM30ダイス直径4mm×2孔)から出てくる。これは詳細な構造観察をするまでもなく過剰な架橋処理によってできたハードゲルが見かけ上、未溶融物のような常態で押出し機から分散せずに出てきていることを示す。このように本発明における好ましい架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋程度より高い架橋状態の架橋熱可塑性樹脂組成物はあらかじめ微細粒子形状に微粒子化しない限り、非架橋熱可塑性樹脂との溶融混練において微細分散化しないことが分かる。
【0053】
実施例2、比較例2
架橋熱可塑性樹脂組成物と非架橋熱可塑性樹脂との組み合わせと比率と溶融混練条件を表4に記載のものにする以外は、実施例1、比較例1と同様にして実施例2-1〜2-3、比較例2-1〜2-4の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物について、実施例1、比較例1と同様に評価した結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
実施例2-1〜2-3は、本発明の熱可塑性樹脂組成物であり、その分散構造は実施例2-2の分散状態が図3で示されているようにミクロンオーダーで微細かつ均一な状態で安定化していることが示されている。さらに溶融伸長粘度における非線形領域でひずみ硬化性を持つ熱可塑性樹脂組成物であることが示されている。さらにそのひずみ硬化係数は極めて高い値であり、レオロジー的に充分改良されていることが示されている。
比較例2-1〜2-3においては架橋処理を行っていない熱可塑性樹脂同士の溶融混練りの結果を記載した。比較例2-1〜2-3において2つの異なる樹脂は微細に構造化しているが、比較例2-2においては図3にも示されるように、ひどく不均一な分散状態であり、PBTと溶融混練りしたポリエステルエラストマー(イ)の比率が高いため、ポリエステルエラストマー(イ)のマトリクス中にPBTが分散した不均一な海島構造が得られている。TEMで観察された径の不均一な様子より早い相分離の過程にあると考えられ、安定な構造であるとは言いがたい。比較例2-1〜2-3において、分散構造が見かけ上均一なものも含め、いずれの比較例においても融伸長粘度における非線形領域でひずみ硬化性は発現せず、レオロジー的に有用な組成物ではない。
比較例2-4において、好ましくない過剰な架橋処理をおこなったポリエステルエラストマー(イ)をPBTと溶融混練しているが、この架橋ポリエステルエラストマー(イ)は1mm3〜ペレット形状に近いままの全く微細分散化しない状態で2軸押出機(池貝PCM30ダイス直径4mm×2孔)から出てくる。これは詳細な構造観察をするまでもなく過剰な架橋処理によってできたハードゲルが見かけ上、未溶融物のような常態で押出し機から分散せずに出てきていることを示す。このように本発明における好ましい架橋熱可塑性樹脂組成物(イ)の架橋程度より高い架橋状態の架橋熱可塑性樹脂組成物はあらかじめ微細粒子形状に微粒子化しない限り、非架橋熱可塑性樹脂との溶融混練において微細分散化しないことが分かる。
【0056】
実施例3、比較例3
架橋熱可塑性樹脂組成物と非架橋熱可塑性樹脂との組み合わせと比率と溶融混練条件を表5に記載のものにする以外は、実施例1、比較例1と同様にして実施例3-1〜3-3、比較例3-1〜3-4の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様に評価した結果を表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
実施例3-1、3-2は、本発明の熱可塑性樹脂組成物であり、その分散構造はミクロンオーダーで微細かつ均一な状態で安定化していることが示されている。これに対して比較例3-1、3-2は実施例3-1、3-2に対応する2種の非架橋ポリアミドからなる樹脂組成物であるが、前述の構造観察手法でミクロンオーダーの明確な構造を確認できなかった。この原因については詳細をさらに検証する必要があるが、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6は互いに相溶性がきわめて良好であり、さらにMXD6は溶融状態でポリアミド6、ポリアミド66とアミド交換反応が早いため、溶融混練りにおいて、そのミクロンオーダーでの構造における見かけ上は均一な状態になるのが早い。このように相溶性の高いポリアミド種同士はミクロンオーダーで独立に分散することが難しく、相互単独で構造化しにくいと考えられる。しかし本発明の実施例においてはポリアミド6が適度に架橋されていることから、界面の親和性を持ちながらも極度に相溶し均一化することなくポリアミド66もしくはポリアミドMXD6中に独立分散するため相溶性のあるポリアミド種同士でも構造制御をすることができることが示されている。さらに実施例においては、その組成物が溶融伸長粘度における非線形領域でひずみ硬化性を持つ熱可塑性樹脂組成物であることが示されている。このひずみ硬化係数は極めて高い値であり、レオロジー的に充分改良されていることが示されている。
比較例3−2において、好ましくない過剰な架橋処理をおこなったPA6をMXD6と溶融混練しているが、この架橋PA6は1mm3〜ペレット形状に近いままの全く微細分散化しない状態で2軸押出し機(池貝PCM30ダイス直径4mm×2孔)から出てくる。これは詳細な構造観察をするまでもなく過剰な架橋処理によってできたハードゲルが見かけ上、未溶融物のような常態で押出し機から分散せずに出てきていることを示す。このように本発明における好ましい架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)の架橋程度より高い架橋状態の架橋熱可塑性樹脂組成物はあらかじめ微細粒子形状に微粒子化しない限り、非架橋熱可塑性樹脂との溶融混練において微細分散化しないことが分かる。
【0059】
次いで、図について補足説明する。
図1には実施例1-1と比較例1-1の180℃溶融伸長粘度における非線形領域でひずみ硬化性データを示す。本発明の熱可塑性樹脂組成物のひずみ硬化性が幅広いひずみ速度において発現しており、溶融伸長粘度の立ち上がりも非常に大きいことが示されている。比較例1-1に関しては、ひずみ硬化性が発現しやすい比較的高いひずみ速度(=1s−1)であっても溶融伸長粘度は立ち上がる挙動を示さず、ひずみ硬化性はないことが示されている。
図2には実施例2-3と比較例2-3の220℃溶融伸長粘度における非線形領域でひずみ硬化性データを示す。図1と同様に実施例2-3はひずみ硬化性が発現しているのに対して、比較例2-3においてはひずみ硬化性がない結果となっている。図1、図2のいずれにおいても、せん断粘度の3倍値である3ηsは線形領域における溶融伸長粘度に良く一致しており、粘度時間‐伸張粘度曲線における線形粘度としてその傾きをパラメーターに使用することが妥当であることを示している。
【0060】
図3には実施例2-2と比較例2-2のTEM観察写真を示した。実施例2-2は60重量%配合された架橋処理を行ったポリエステルエラストマー(イ)(黒いコントラスト部位)が40重量%配合された非架橋PBT(白いコントラスト部位)と微細かつ相互に入り組んだ共連続構造をとっており、耐熱や機械特性において良好な特性が期待できる。比較例2-2は実施例2-2に対して、ポリエステルエラストマー(イ)が架橋処理をされていない例である。ポリエステルエラストマー(イ)が架橋していないため、ポリエステルエラストマー(イ)/PBT=60/40(重量%比)ではポリエステルエラストマー(イ)がマトリクスとなりPBTが不均一に分散している状態が示されており、耐熱的に低く機械特性や成形安定性も期待できない。
図4は本発明の熱可塑性樹脂組成物の成分として必須である架橋熱可塑性樹脂組成物(A)の例として架橋熱可塑性樹脂組成物(A−1)と(A−2)の190℃、220℃における貯蔵弾性率、損失弾性率、せん段粘度の周波数依存性を示す。
これらの架橋熱可塑性樹脂組成物の貯蔵弾性率は、少なくとも0.1〜10rad/sの範囲で周波数に対する傾きが均一かつ、0.2〜1.0となる一定の好ましい架橋状態に調整されている様子が示されている。特に図示された領域でA−1の貯蔵弾性率は損失弾性率よりも高い値を示しており、架橋処理による貯蔵弾性率の増大の結果を明確に示している。
【0061】
図5は実施例1-2の位相差顕微鏡画像とSPM観察結果を示した。60重量%配合された架橋PCLと40重量%配合された非架橋のPLAが均一に微細かつ相互に入り組んだ共連続構造をとっていることが示されている。
図6は比較例1-2の位相差顕微鏡画像とSPM観察結果を示した。理由は明確化されていないが観察場所によって不均一な分散状態が観察され良好な状態であるとは言い難い。おそらく配合されたPCLが非架橋でかつPCL比率が高いことに加え、相溶性やエステル交換反応、せん断や固化冷却条件などの影響を受けやすく分散構造が安定しないと思われ良好なポリマーアロイの状態であるとは言いがたい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、マトリクスおよび分散した熱可塑性樹脂のそれぞれの機能特性を低減させることなく、良好なレオロジー特性を発現して、溶融伸長粘度における非線形領域で高いひずみ硬化性持つため、機能性が高くかつブロー成形、押出成形、発泡成形において成形性の良好な熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
これにより家電製品および自動車部品における、繊維、フィルム、ブロー成型品およびこれらの複合製品の製造など、幅広い分野において幅広いデザイン性と機能性を両立することができる。このため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、幅広い分野で有用に使用することができ、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非架橋熱可塑性樹脂(A)を架橋して得られた下記(イ)の特性を有する架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)と非架橋熱可塑性樹脂(B)とが溶融混練して得られた熱可塑性樹脂組成物であり、前記(A’)が前記(B)中に大きくとも20μmの粒子径に分散するか又は前記(A’)と前記(B)が互いに入り組みあった共連続構造化してなり、溶融一軸伸長粘度における非線形領域で、下記(ロ)のひずみ硬化性を持つことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(イ)架橋前の熱可塑性樹脂(A)の溶媒に溶解せずに該溶媒と溶媒ゲルを形成する。
(ロ)非架橋熱可塑性樹脂(B)の融点より少なくとも10℃以上高い温度における熱可塑性樹脂組成物の溶融一軸伸張粘度測定で得られる時間‐一軸伸張粘度の両対数プロット曲線において下記のひずみ硬化係数が2以上である。
ひずみ硬化係数 = a2/a1
a1: 時間‐一軸伸張粘度の両対数プロット曲線における線形領域の傾き
a2: 時間‐一軸伸張粘度の両対数プロット曲線における非線形領域の傾き
【請求項2】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、線形領域におけるその溶融粘弾性測定で得られる周波数‐貯蔵弾性率の両対数プロット曲線において、周波数0.1〜10rad/sの範囲で周波数に対する貯蔵弾性率の傾きが0.2〜1.0となる架橋状態である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、その線形領域における溶融粘弾性測定での周波数0.1〜10rad/s範囲において、周波数-貯蔵弾性率の両対数プロット曲線における貯蔵弾性率の傾きをα、周波数-損失弾性率の両対数プロット曲線における損失弾性率の傾きをβとしたとき、αとβとの差の絶対値が0.15以下である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、放射線照射されてなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、非架橋熱可塑性樹脂(A)と架橋助剤とを溶融混練して得られたペレットを放射線照射されてなるものである請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、非架橋熱可塑性樹脂(A)に架橋助剤及び/又は有機過酸化物を配合して、溶融混錬によって架橋されてなるものである請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)中の少なくとも50重量%がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリオレフィン系樹脂のいずれかである請求項1〜6のいずれかに記載の架橋熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリカプロラクトン50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部とを含む樹脂組成物を溶融混練して得たペレットを吸収線量0.5〜25kGyに放射線照射されてなるものである請求項1〜7のいずれかに記載の架橋熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリエステルエラストマー50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部を含む樹脂組成物を溶融混練して得たペレットを吸収線量0.5〜60kGyに放射線照射されてなるものである請求項1〜8のいずれかに記載の架橋熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)が、架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)100重量部に対してポリアミド50〜99.9重量部と架橋助剤0.1〜3重量部を含む樹脂組成物を溶融混練して得たペレットを吸収線量0.5〜20kGyに放射線照射されてなるものである請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
非架橋熱可塑性樹脂(A)の溶媒に溶解せずに該溶媒と溶媒ゲルを形成するように架橋処理された架橋熱可塑性樹脂組成物(A’)ペレットと非架橋熱可塑性樹脂(B)ペレットとを該(A’)及び(B)ペレットの融点以上の温度で溶融混練する、ひずみ硬化性を持つ熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−285529(P2010−285529A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139835(P2009−139835)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】