説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】
ポリマーアロイが有する高強度、高剛性に加えて、低比重で寸法安定性に優れた成形品を得ることのできる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(C)中空充填材を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量%として、(A)ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂1〜99重量%であり、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量部として、(C)中空充填材が0.1〜50重量部からなる熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂とを配合してなるポリマーアロイに中空充填材を含有せしめてなる熱可塑性樹脂組成物であって、ポリマーアロイが有する高強度、高剛性に加えて、低比重の成形品を得ることのできる熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂からなるポリマーアロイは、優れた機械特性、寸法安定性、耐薬品性を有し各種工業分野に広く使用されており、中でも、自動車部品として広く使用されている。自動車分野において、使用部位によっては、特に高い機械的性質が必要となることから、これらの改良を目的に、無機粒子、ガラス繊維に代表される充填材を配合することが有効であることは周知である。
【0003】
特許文献1、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂と、ポリブチレンテレフタレート樹脂をスピノーダル分解により、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造とすることで、機械強度が改良されることを示しており、さらにタルク、ガラス繊維等種々の強化材、非板状充填材を配合することが記載されている。しかし上記特許文献に記載されている様に単に強化材、非板状充填材を配合するのみでは、充填する無機材料、無機フィラー等の強化材の比重が大きいために、得られる樹脂組成物の剛性、強度等の機械的特性を向上させることができるものの、その重量までもが大幅に増加するという問題がある。
【0004】
一方、中空充填材を熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂に充填して軽量化、剛性の向上を図る方法は広く行われている。例えば特許文献3には、ポリカーボネート樹脂に中空ガラスを添加した樹脂組成物が開示されている。ところが、かかる場合その粘度が著しく高く、流動性が十分でないため、成形品サイズが大きいときに成形することが困難であり、機械的強度が著しく低下し、本来の特性が大きく損なわれる問題がある。また特許文献4には、ポリカーボネート樹脂にエポキシシラン処理されたガラス中空体を配合する方法が示され、ポリカーボネート樹脂にポリエチレンフタレートおよびエポキシシラン処理ガラスバルーンを配合した樹脂組成物が開示されている。しかしながら得られる樹脂組成物は、剛性及びウェルド強度などの機械的物性は向上するものの十分でなく、成形時や長期耐久試験時に収縮が生じやすいため、実用上、十分な寸法安定性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−286414号公報
【特許文献2】特開2005−336410号公報
【特許文献3】特開平6−345953号公報
【特許文献4】特開平7−258528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決し、軽量でかつ強度、剛性および寸法安定性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂およびポリブチレンテレフタレートからなる樹脂組成物に中空充填材を配合することにより、軽量でかつ強度、剛性および寸法安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるにいたった。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(C)中空充填材を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量%として、(A)ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂1〜99重量%であり、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量部として、(C)中空充填材が0.1〜50重量部からなる熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、
(2)(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂とが構造周期0.01〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
(3)さらに(D)充填剤を配合してなる(1)〜(2)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(4)(D)中空充填材を除く充填剤が、板状および/または粒状である(3)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
(5)(B)中空充填材がガラスバルーンであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(6)(B)中空充填材の耐圧強度が100MPa以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、軽量でかつ強度、剛性および寸法安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。加えて、上記の熱可塑性組成物は、各種成形品として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で用いる(A)ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA、つまり2,2'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた1種以上のジヒドロキシ化合物を主原料とするものが好ましく挙げられる。なかでもビスフェノールA、つまり2,2'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主原料として製造されたものが好ましい。具体的には、上記ビスフェノールAなどをジヒドロキシ成分として用い、エステル交換法あるいはホスゲン法により得られたポリカーボネートが好ましい。さらに、上記ビスフェノールAは、これと共重合可能なその他のジヒドロキシ化合物、例えば4,4'−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどと併用することも可能であり、その他のジヒドロキシ化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物の総量に対し、10モル%以下であることが好ましい。
【0012】
また上記ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性と成形性の観点から、ポリカーボネート樹脂0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定したときの比粘度が0.1〜2.0、特に0.5〜1.5の範囲にあるものが好適であり、さらには0.8〜1.5の範囲にあるものが最も好ましい。
【0013】
本発明で用いる(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし重縮合反応によって得られる重合体であって、特性を損なわない範囲において共重合成分を含んでも良く、共重合成分の共重合量は全単量体に対して20モル%以下であることが好ましい。
【0014】
これら重合体および共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上混合して用いても良い。またこれら重合体および共重合体は、成形性、機械的特性の観点からo−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜1.60、特に0.52〜1.25の範囲にあるものが好適であり、さらには0.6〜1.0の範囲にあるものが最も好ましい。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いるポリマーアロイは、少なくとも上記ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂とを配合してなるポリマーアロイからなり、かかるポリマーアロイが、構造周期0.001〜1μm未満の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μm未満の分散構造を形成していることが好ましい。かかる構造を有するポリマーアロイを得る方法としては、後述のスピノーダル分解を利用する方法が好ましい。
【0016】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、相溶系、非相溶系および半相溶系がある。相溶系は、平衡状態である非剪断下において、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な温度の全領域において相溶な系である。非相溶系は、相溶系とは逆に、全領域で非相溶となる系である。半相溶系は、ある特定の温度および組成の領域で相溶し、別の領域で非相溶となる系である。さらにこの半相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するものと、核生成と成長によって相分離するものがある。
【0017】
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶である系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶な相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が半相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる半相溶系に分配される系などがある。本発明においては、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂以外の3成分以上からなるポリマーアロイの場合、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂以外の3成分目が、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂の少なくともいずれかに分配される系であることが好ましい。この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる非相溶系の構造と同等になる。以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
【0018】
上記非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発することが可能であり、それには、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1 の剪断下で一旦相溶化し、その後非剪断下とすることにより相分解するいわゆる剪断場依存型スピノーダル分解により相分離する。この剪断場依存型スピノーダル分解様式の基本部分については、上述の一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解と同様であることから、以下一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解について説明した後、本発明に特徴的な部分を付記する形で説明する。
【0019】
一般にスピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図において、スピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指す。一方、核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0020】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶な場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことである。スピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、スピノーダル曲線の外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0021】
またバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶な領域と非相溶な領域の境界の曲線のことである。
【0022】
ここで相溶状態とは、分子レベルで均一に混合している状態のことである。具体的には異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成していない場合を指す。また、非相溶状態とは、相溶状態でない場合のことである。すなわち異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成している状態のことを指す。ここで、0.001μm以上の構造物とは、例えば、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造や粒子間距離0.001〜1μmの分散構造などのことである。相溶か否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanser Publishers,MunichViema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0023】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶化した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速に変化させた場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0024】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]−1/2
(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)。
【0025】
ここで両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0026】
上記剪断場依存型スピノーダル分解では、剪断を賦与することにより相溶領域が拡大する。つまりはスピノーダル曲線が剪断を賦与することにより大きく変化するため、スピノーダル曲線が変化しない上記一般的なスピノーダル分解に比べて、同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなる。その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の構造周期を小さくすることが容易となる。
【0027】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行する。本発明においては、本発明で規定する範囲内の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には本発明で規定する範囲内の所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。ここで分散構造とは、片方の相が連続相であるマトリックスの中に、もう片方の相である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0028】
またこの初期過程から構造発展させる方法に関しては、特に制限はないが、ポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち、最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。さらにはポリマーアロイが相溶状態で単一のガラス転移温度を有する場合や、相分解が進行しつつある状態で、ポリマーアロイのガラス転移温度がポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度間にある場合には、そのポリマーアロイ中のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。
【0029】
またスピノーダル分解による構造を固定化する方法としては、急冷等により、相分離相の一方または両方の相の構造を固定する方法や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用する方法、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用する方法が挙げられる。中でも結晶性樹脂を用いた場合、結晶化による構造固定が好ましく用いられる。
【0030】
一方、核生成と成長により相分離する系では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
【0031】
かかる両相連続構造、もしくは分散構造が得られていることを確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。そのためには、例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることを確認する。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造が存在することの証明であり、その周期Λmは、両相連続構造の場合構造周期に対応し、分散構造の場合粒子間距離に対応する。またその値は、散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θm を用いて次式
Λm=(λ/2)/sin(θm/2)
により計算することができる。
【0032】
スピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上の樹脂を、一旦相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解においては、相溶条件下で溶融混練後、非相溶域に温度ジャンプさせることによって、スピノーダル分解を生じさせ得る。一方、上記剪断場依存型スピノーダル分解においては、非相溶系において、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1 の範囲の剪断下で相溶化しているため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなるポリマーアロイは、上記剪断場依存型スピノーダル分解に属し、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化するため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。なお、上記において剪断速度は、例えば平行円盤型剪断賦与装置を用いる場合、所定の温度に加熱し溶融状態とした樹脂を平行円盤間に投入し、中心からの距離(r)、平行円盤間の間隔(h)、回転の角速度(ω)から、ω×r/hとして求めることが可能である。
【0033】
かかるポリマーアロイの具体的な製造方法としては、上記剪断場依存型スピノーダル分解を利用する方法が好ましい例として挙げられ、溶融混練時の相溶化を実現させる方法として、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を、2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、高剪断応力下で溶融混練する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0034】
かかる2軸押出機を用いる場合、ニーディングブロックを多用したスクリューアレンジにしたり、樹脂温度を下げたり、スクリュー回転数を高くしたり、使用ポリマーの粘度を上げることによってより高剪断応力状態を形成することにより、適宜調節することができる。
【0035】
使用ポリマーの粘度を上げ高剪断応力状態を形成する場合、好ましいポリカーボネート樹脂の比粘度は、0.5〜1.5の範囲であり、さらに好ましくは、0.8〜1.5の範囲である。ここでポリカーボネート樹脂の比粘度は、ポリカーボネート0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定することによって求めることができる。
【0036】
かかる(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂との配合量は、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量%として、(A)ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂1〜99重量%であり、(A)ポリカーボネート樹脂5〜95重量%、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂95〜5重量%が好ましく、(A)ポリカーボネート樹脂10〜90重量%、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂90〜10重量%が最も好ましい。(A)ポリカーボネート樹脂の配合量が1重量%未満であると、熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下する傾向にあり、99重量%を超えると流動性が低下したり、熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性が低下する。
【0037】
また、上記ポリマーアロイに、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどの第3成分を添加することは、相分離した相間における界面の自由エネルギーを低下させ、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましい。この場合、通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。
【0038】
また、本発明のポリマーアロイには、さらに他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を本発明の構造を損なわない範囲で含有させることもできる。これらの熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
これらの他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、本発明のポリマーアロイを製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂とを配合する際に同時に添加する方法や、予めポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂とを溶融混練した後に添加する方法や、始めにポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、いずれか片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0040】
本発明で用いる(C)中空充填材は、無機系及び有機系のいずれを用いてもよい。無機系の中空充填材としては、シラスバルーン、パーライト、ガラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、カーボンバルーン等がある。有機系の中空充填材としては、フェノール樹脂バルーン、エポキシ樹脂バルーン、尿素樹脂バルーン、サランバルーン、ポリスチレンバルーン、ポリメタクリレートバルーン、ポリビニルアルコールバルーン、スチレン・アクリル系バルーン等がある。
【0041】
本発明で用いる(C)中空充填材は、剛性と耐衝撃性の観点から、無機系中空充填材が好ましく、ガラスバルーンがより好ましい。
【0042】
本発明に用いる(C)中空充填材は、その平均粒子径が1〜100μmであることが好ましく、5〜80μmであることがより好ましく、10〜50μmが最も好ましい。平均粒子径が1μm未満の場合、空球の肉厚が薄く耐圧強度が低下することで、軽量化の効果が得られないことがあり。100μmを超える場合、熱可塑性樹脂組成物および成形品の表面外観が低下することがある。なお、中空充填材の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を使用し、乾式測定法により測定したD50値を平均粒子径とする。
【0043】
本発明に用いる(C)中空充填材は、比重が0.1〜1.0が好ましく、より好ましくは0.3〜0.8である。比重が0.1より小さいと中空球の肉厚が薄く耐圧強度が低下することで成形加工中に軽量化の効果が得られないことがあり、1.0よりも大きいと軽量化の効果が少なく大量に添加する必要があり、成形品の耐衝撃性が損なわれることがある。なお、比重はASTM−D2840(エアーコンパリソンピクノメーター使用)に準拠して測定する。
【0044】
本発明に用いる(C)中空充填材は、その耐圧強度(体積減少率が10重量%以下となる静水圧)が5MPa以上であることが好ましく、100MPa以上がより好ましく、150MPa以上がさらに好ましい。耐圧強度が5MPa未満の場合、一般的な押出機による押出成形中に、中空充填材が樹脂の圧力により破壊されないようにするのが難しくなることがある。なお、耐圧強度はASTM−D3102(グリセロール使用)に準拠して測定された平均耐圧強度の値である。
【0045】
本発明における(C)中空充填材はシランカップリング剤を用いて表面処理を行ったものを用いることができる。
【0046】
シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤、エポキシ基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、イソシアネート基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0047】
アミノ基を有するシランカップリング剤には、例えば、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを用いることができる。
【0048】
エポキシ基を有するシランカップリング剤には、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを用いることができる。
【0049】
メルカプト基を有するシランカップリング剤には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることができる。
【0050】
イソシアネート基を有するシランカップリング剤には3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。
【0051】
本発明に用いる(C)中空充填材の添加方法としては、特に制限はないが、溶融状態の樹脂へ、サイドフィーダー等を用いて配合する方法が、微小中空球体の破砕を最小限に抑えると言う点で好ましい方法である。
【0052】
本発明に用いる(C)中空充填材の配合量は、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量部として、0.1〜50重量部であり、1〜30重量部であることが好ましく、3〜10重量部がより好ましい。
【0053】
(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計100重量部に対して0.1重量部未満であると、熱可塑性樹脂組成物の低比重化に対する効果が小さく、50重量部%超であると熱可塑性樹脂組成物の全体の体積に占める中空ガラス球の体積が過大になり、混練性、成形性が著しく低下し、中空ガラス球及び強化繊維が破損することがある。
【0054】
本発明において、樹脂組成物の機械強度等、その他の特性を付与するために、(D)中空状充填材を除く充填剤を配合することができる。
【0055】
(D)中空状充填材を除く充填剤の種類としては、繊維状、針状、板状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維等の繊維状の充填剤、ワラステナイト、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの針状の充填剤、タルク、マイカ、ガラスフレーク、合成ハイドロタルサイト、グラファイト、カオリン、クレー等の板状の充填剤、二硫化モリブデン、モンモリロナイト、酸化チタン、硫酸バリウムなどの粒状の充填剤が例示される。
【0056】
本発明の((D)中空状充填材を除く充填材でタルクを用いる場合、タルクの嵩密度は、0.1〜2.0が好ましく、0.3〜1.5がより好ましく、0.5〜1.0であることが最も好ましい。嵩比重が0.1以上であることで樹脂組成物の剛性、耐衝撃性、熱安定性がより向上する傾向にあり、嵩比重が2.0以下であることで樹脂組成物の成形品外観や耐衝撃性がより向上する傾向にある。
【0057】
ここで嵩密度とは、以下の方法により求めた値である。
(1)タルクを目開きが1.4mmの篩上に乗せ、ハケで均等に軽く掃きながら篩を通す。
(2)篩に通したタルクをJISK5101に規定された嵩密度測定装置に付属する受器に山盛りになるまで投入する。
(3)受器の投入口から上部の山盛りになったタルクをヘラで削り取り、受器内のタルクの重量を測定し、下式にて嵩密度を算出する。
嵩密度= 受器内のタルクの重量(g)/受器の容量(ml)。
【0058】
原料タルクを用いて嵩密度を高くする方法としては従来公知の任意の造粒方法を使用でき、バインダーを使用しない場合とバインダーを使用する方法とがある。
【0059】
バインダーを使用しない方法の例として、通常脱気圧縮の方法が挙げられる。かかる方法は、脱気しながらブリケッティングマシーンなどでローラー圧縮する方法を代表例として挙げることができる。
【0060】
バインダーを使用する方法の例として、バインダーとなる樹脂などが溶解または分散した液体とタルクをスーパーミキサーなどの混合機で均一に混合し、造粒機を通して造粒する方法がある。更にその後かかるタルクを乾燥処理をして十分に水などの成分をそこから取り除くことが好ましい。
【0061】
前記タルクは、予め表面処理をすることもできる。表面処理としては例えば、シランカップリング剤、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、およびポリアルキレングリコールなどの各種処理剤での化学的処理のほか、メカノフュージョン法、高速気流中衝撃法などの物理的な表面処理も可能である。
【0062】
好適なタルクの具体的な事例としては、ハリマ化成(株)製HT−7000、松村産業(株)製B−10、R−10が挙げられる。
【0063】
本発明の(D)中空状充填材を除く充填材で炭素繊維を用いる場合、特に制限がなく、公知の各種炭素繊維、例えばポリアクリロニトリル、ピッチ、レーヨン、リグニン、炭化水素ガス等を用いて製造される炭素質繊維や黒鉛質繊維であり、また、これらの繊維を金属でコートした繊維でもよい。炭素繊維は通常チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状であり、直径15μm以下、好ましくは5〜10μmである。
【0064】
本発明に用いる炭素繊維はチョップドストランドを用いることが好ましく、チョップド炭素繊維の前駆体である炭素繊維ストランドのフィラメント数は1,000〜150,000本が好ましい。フィラメント数が1,000本未満であると、製造コストが上昇し、150,000本を越えると製造コストが上昇するとともに、生産工程における安定性が大きく損なわれることがある。
【0065】
本発明に用いる炭素繊維は各種のサイジング剤で集束されたものが好適に使用できる。サイジング剤としてはエポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ変性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアクリル樹脂、及びポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂成分からなるものである。本発明では、かかる樹脂成分の中でも、エポキシ樹脂とポリウレタン樹脂を含むものが、熱可塑性樹脂との相溶性の観点から好適に用いられる。
【0066】
本発明の(D)中空状充填材を除く充填材でガラス繊維を用いる場合、特に制限はないが、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維を用いることができ、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられ、シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていても良い。また、繊維径は1〜30μm、好ましくは5〜15μmである。また、前記の繊維断面は円形状であるが任意の縦と横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、ソリの少ない成形品が得られる特徴がある。
【0067】
これら(D)中空状充填材を除く充填剤のうち、得られる熱可塑性樹脂組成物において、良好な表面外観、優れた面衝撃強度および低線膨張率が必要である場合は、板状または粒状の充填材が好ましく、板状の充填材がより好ましく、タルクが特に好ましい。また、高剛性および低線膨張率が必要な場合は、繊維状の充填材が好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。更には高剛性、低比重および低線膨張率が必要な場合は、繊維状の充填材が好ましく、炭素繊維が特に好ましい。
【0068】
上記の((D)中空状充填材を除く充填剤は、2種以上を併用して使用することもでき、タルク/ガラス繊維、タルク/炭素繊維の2種を併用することにより、良好な表面外観と高剛性とを高度に両立することが可能になる。
【0069】
上記の(D)中空状充填材を除く充填材の配合量は、(A)(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量部として、0.1〜200重量部の範囲で配合することが機械物性の点で好ましく、1〜150重量部の範囲で配合することがより好ましく、5〜100重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。
【0070】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物の熱安定性、耐衝撃性等を向上する目的で、(E)有機酸を用いることができる。
【0071】
(E)有機酸には種々のタイプのものを使用することができ、例えば、炭素数6〜30の脂肪酸が挙げられ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、無水マレイン酸、酸変性のシロキサンなどが代表的な化合物として例示される。とりわけ無水マレイン酸、カプリン酸が好適に用いられる。
【0072】
(E)有機酸の配合量は、熱安定性の向上効果と流動性の点から、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計100重量部に対し、0.001〜〜5重量部であることが好ましく、0.01〜1重量部であることがより好ましい。(E)有機酸の配合量が0.001重量部未満であると溶融安定性の向上効果が発現せず、5重量部を超えると流動性、耐衝撃性が低下する。
【0073】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに他の各種の添加剤を含有せしめることもできる。これら他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、発泡剤、カップリング剤(エポキシ基、アミノ基メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基を一種以上含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤)、抗菌剤等が挙げられる。
【0074】
これらの添加剤は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、少なくとも2成分の樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予め2成分の樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0075】
本発明から得られる熱可塑性樹脂組成物の成形方法は、任意の方法が可能であり、成形形状は、任意の形状が可能である。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形などを挙げることができるが、中でも射出成形は射出時の可塑化工程で相溶解させ、射出後、スピノーダル分解し金型内で熱処理と構造固定化が同時にできることから好ましく、またフィルムおよび/またはシート押出成形であれば、押出時に相溶解させ、吐出後、スピノーダル分解しフィルムおよび/またはシート延伸時に熱処理し、その後の巻き取り前の自然冷却時に構造固定ができることから好ましい。もちろん上記成形品を別途熱処理し構造形成させることも可能である。またかかるフィルムおよび/またはシート化の製造方法としては、単軸あるいは2軸押出機を用いてTダイから溶融押出し、キャストドラムで冷却固化してシート化する方法、溶融押出シートを2つのロール間で成形するポリッシング方法やカレンダーリング方法などがあるが、ここでは特に限定されるものではない。またキャストドラムにキャストする際、溶融樹脂をキャストドラムに密着させるには、静電印加を与える方法、エアーナイフを用いる方法、キャストドラムに対向する押さえのドラムを用いる方法等を用いることもできる。さらにはフィルムおよび/またはシート化用の押出機に供給する前に、予め2軸押出機を用いて相溶化させその構造を凍結させたペレットを用いることがより好ましい。また延伸してフィルム化する方法は、特に制限はなく、逐次2軸延伸、同時2軸延伸でも構わなく、また通常延伸倍率は2〜8倍の間、延伸速度は500〜5000%/分の間が多く用いられる。さらに延伸時の熱処理温度は、熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられるが、熱可塑性樹脂組成物が相溶化状態で単一のガラス転移温度を有する場合や、相分解が進行しつつある状態で熱可塑性樹脂組成物中でのガラス転移温度が、熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度間にある場合には、その熱可塑性樹脂組成物中のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。また熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分として結晶性樹脂を用いる場合、該熱処理温度を結晶性樹脂の昇温結晶化温度以下とすることは、結晶性樹脂の結晶化による延伸の阻害を受けにくくする観点から好ましい。
【0076】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、一般にその構成成分の特徴によって様々な利用方法があるが、中でも片方の樹脂として、耐衝撃性に優れる樹脂を用いて耐衝撃性を高めた構造材料や、片方の樹脂として、耐熱性に優れる樹脂を用いて耐熱性を高めた耐熱樹脂材料や、片方の樹脂に磁性体や触媒等を坦時させ機能性成分を微細分散化させた機能性樹脂材料に好適に用いることができる。また本発明の構造制御が、可視光の波長以下も可能であることを利用した透明性樹脂材料にも好適に用いることができる。
【0077】
かかる耐衝撃性を高めた構造材料は、例えば自動車部品や電機部品などに好適に使用することができる。
【0078】
自動車部品の例としては、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エアフローメーター、エアポンプ、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、サーモスタットハウジング、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブ−スター部品、各種ケース、燃料関係・排気系・吸気系等の各種チューブ、各種タンク、燃料関係・排気系・吸気系等の各種ホース、各種クリップ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、各種パイプ、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、ブレーキパッド摩耗センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコンパネルスイッチ基板、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、スタータースイッチ、スターターリレー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、デュストリビューター、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、ホーンターミナル、ウィンドウォッシャーノズル、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプソケット、ランプハウジング、ランプベゼル、ドアハンドル、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクターなどの各種コネクターなどが挙げられる。
【0079】
また電気部品の例としては、コネクター、コイル、各種センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネット、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク・DVD等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、携帯電話関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライター関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等の光学機器/精密機械関連部品などが挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
実施例および比較例の評価方法を次に示す。なお特に断りがない限り、「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。
【0082】
(1)落球衝撃強度
上記で作製した厚み3mmの角板を、(縦)85mm×(横)85mm×(高さ)50mmの受け台上に置き、その中心に100cmの高さより500gの剛球を落下し、割れや亀裂発生の有無を確認した。−30℃に調製したサンプル10枚について試験を行った後、高さを変更して同様の試験を行い、5枚以上の試験片が破壊した高さを求めた。
【0083】
(2)成形収縮率
上記で作製した成形品の流れ方向(MD方向)と流れに直角な方向(TD方向)の寸法を測定し、金型原寸に対する比として求めた。
【0084】
(3)成形外観
上記で作製した厚み3mmの角板について、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いてRa(中心線平均粗さ、μm)を測定することにより表面外観の評価を行った。
【0085】
(4)密度
引張試験片を用いてASTM D−792に準拠して測定した。なお、計算で求めた理論値と比較し、ガラスバル−ンの破壊状態を考察した。
【0086】
(5)構造周期または粒子間距離の測定
上記で作成した厚み3mmの角板から、厚み100μmの切片を切り出し、ヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて1万倍に拡大して観察を行い、構造の観察が可能な箇所を任意で100箇所選び出し、それぞれの構造周期を測定した上で、平均値を計算した。
【0087】
以下に実施例および比較例に使用した配合組成物を示す。
(A)ポリカーボネート樹脂;商品名「“タフロン”A1900」、出光興産(株)製、粘度均分子量19、000
(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂;商品名「“トレコン”1100M」、東レ(株)製、融点225℃
(B’)ポリエチレンテレフタレート樹脂;商品名「TSB900」、東レ(株)製
(C)中空状充填材
C−1:ガラスバルーン;商品名「グラスバブルズiM30K」真比重0.60、平均粒子径18μm、耐圧強度190MPa)
C−2:ガラスバルーン;商品名「グラスバブルズS60HS」(真比重0.60、平均粒子径30μm、耐圧強度124MPa)
(D)中空状充填材以外の充填剤
D−1:タルク;商品名「B−10」、松村産業(株)製
D−2:タルク;商品名「LMS200」、富士タルク工業(株)製
D−3:ガラス繊維;商品名「CS3J948」、日東紡績(株)製、繊維径約10μmのチョップドストランド状
D−4:炭素繊維;商品名「TS−15」、東レ(株)製
E−1:無水マレイン酸;商品名「CRYSTAL MAN AB」、日油(株)製。
【0088】
実施例1〜5、実施例7〜15、比較例1〜2
表1〜2に示す組成になるように原料を配合し、ドライブレンドした後、シリンダー温度を220℃、スクリュー回転数を200rpmに設定した、3ヶ所のニーディングブロ
ック部を有するTEX30α二軸押出機(日本製鋼所製)でダイ部の樹脂圧力が2〜5MPaとなるよう溶融混練したところへ、サイドフィーダーより(C)中空充填材をフィードし、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各ペレットは、110℃の熱風乾燥機で8時間乾燥した後、前記の評価方法で成形し、評価を行った。
【0089】
実施例6、実施例16、比較例3
表1〜2に示す組成になるように原料を配合し、シリンダー温度を220℃、スクリュー回転数を200rpmに設定したニーディングブロック部を有しないPCM30押出機を用いた以外は、実施例1と同様の方法により溶融混練し、ペレットを作製した。この時の樹脂圧力は0.2MPaであった。得られた各ペレットを用い、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
表1、2に示すように、実施例1〜16の熱可塑性樹脂組成物は軽量でかつ、低温耐衝撃性、表面外観、寸法安定性に優れている。一方比較例1〜3の熱可塑性樹脂組成物は上記特性のいずれかが劣っていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(C)中空充填材を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量%として、(A)ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂1〜99重量%であり、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂の合計を100重量部として、(C)中空充填材が0.1〜50重量部からなる熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂とが構造周期0.01〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(D)中空充填材を除く充填剤を配合してなる請求項1〜2のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(D)中空充填材を除く充填剤が、板状および/または粒状である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(B)中空充填材がガラスバルーンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
(B)中空充填材の耐圧強度が100MPa以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2011−127062(P2011−127062A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289052(P2009−289052)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】