説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】
耐衝撃性や、そして弾性率の向上を図り、耐衝撃性と高い弾性率とのバランスに優れた、ポリ乳酸系の新しい熱可塑性樹脂組成物とする。
【解決手段】
次の配合;
(A)ポリ乳酸樹脂:5〜75質量%
(B)ABS樹脂:20〜60質量%
(C)(メタ)アクリル酸エステル重合体:2〜10質量%
(D)タルク:3〜25質量%
を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境問題への関心の高まりから、石油資源に過度に依存することがなく、しかも生分解性を有しているプラスチックの実現が望まれている。このようなプラスチックの候補の一つとしてポリ乳酸樹脂がある。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、一般的に硬くて脆い材料であり、耐衝撃性、そして弾性の点において実用上の改善が必要とされていた。
【0004】
そこで、このような問題を解決するための方策が様々に検討されている。
【0005】
たとえば、ポリ乳酸樹脂の耐衝撃性を改善するために、変性オレフィン系化合物を添加する方法(特許文献1)や、耐衝撃性とともに強度、剛性とのバランスの向上を図るために、ポリ乳酸とABS樹脂とのポリマーブレンドを行う方法(特許文献2)、耐衝撃性とともに耐熱性および高温高湿環境下での耐久性を向上を図るために、ゴム強化スチレン系樹脂並びにエポキシ基、イソシアナート基等の反応性官能基を有する重合体をポリ乳酸に配合すること(特許文献3)が提案されている。
【0006】
しかしながら、このような従来の改善策においても、耐衝撃性や弾性の向上は必ずしも実用的に十分でなく、また、耐衝撃性と弾性の向上とのバランスに優れたポリ乳酸系の熱可塑性樹脂組成物は実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−199883号公報
【特許文献2】特開2006−161024号公報
【特許文献3】特開2007−291171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記のとおりの背景から、従来技術の問題点を解消し、家電分野や建材、サニタリー分野等への広い範囲での実用が期待されるものとして、耐衝撃性や、そして弾性率の向上を図り、耐衝撃性と高い弾性率とのバランスに優れた、ポリ乳酸系の新しい熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は以下のことを特徴としている。
【0010】
<第1>次の配合;
(A)ポリ乳酸樹脂:5〜75質量%
(B)ABS樹脂:20〜60質量%
(C)(メタ)アクリル酸エステル重合体:2〜10質量%
(D)タルク:3〜25質量%
を有している。
【0011】
<第2> 上記組成物において、カルボジイミドを含有している。
【発明の効果】
【0012】
前記第1の本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物によれば、耐衝撃性、弾性率を向上させることができ、耐衝撃性と高い弾性性とのバランスを優れたものとすることができる。これによって、家電分野、建材、サニタリー分野等への広い利用が図られることになる。
【0013】
また第2の発明によれば、ポリ乳酸の末端基と反応するカルボジイミドをさらに含有することで、前記の効果に加えて、高温高湿環境下での耐久性の向上も図られることになる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の前記熱可塑性樹脂組成物において含有される前記(A)ポリ乳酸樹脂については、ポリ乳酸および乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体を意味する。とうもろこしなどの植物から得られたでんぷんを発酵させて、乳酸とし、化学合成にてポリマー化したものである。
【0015】
乳酸としては、L−および/またはD−乳酸、乳酸の二量体であるラクトンなどが挙げられる。さらに乳酸と共重合可能なヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸などが挙げられ、1種または2種以上使用できる。
【0016】
本発明においては、市販されているポリL−乳酸が好ましい。
【0017】
ポリ乳酸の分子量には特に制限ないが、物理的、熱的特性の面より重量平均分子量が1万以上、より好ましくは3万以上であることが考慮される。
【0018】
なお、ポリ乳酸としては、以上のポリ乳酸樹脂についてはその配合割合は5〜75重量%の範囲内とする。5%未満の場合にはポリ乳酸樹脂としての構成が失われることになり、75%を超える場合には耐衝撃性、高弾性率を実現することが難しくなる。
【0019】
一方、前記(B)ABS樹脂については、アクリロニトリル−ブタジェン−スチレンの共重合体としてよく知られているものである。ゴム質の樹脂であるが、そのゲル含有量は、通常50〜90質量%、好ましくは60〜85質量%の範囲内であることが考慮される。このABS樹脂についても市販のものを利用することもできる。
【0020】
ABS樹脂の配合割合については、20〜60質量%の範囲内とする。20%未満の場合には、耐衝撃性と弾性率の向上が図れないし、60%を超える場合には、強度、耐久性の点において難点が生じる。
【0021】
また、本発明においては、前記のとおり、(C)(メタ)アクリル酸エステル重合体を配合したところ、ここで(メタ)アクリル酸エステル重合体とは、アクリル酸エステル重合体、あるいはメタクリル酸エステル重合体、もしくはアクリル酸エステルとメタアクリル酸エステルとの共重合体のうちのいずれかであることを意味している。いずれの場合も、エステル残基としては、メチル基、エチル基等の低級アルキル基、あるいはフェニル基、ベンジル基等であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体はその平均分子量(Mw)の範囲は、50,000〜150,000とすることが好ましい。そしてこのような(メタ)アクリル酸エステル重合体については、市販のものとしても利用することができる。
【0022】
その配合割合については2〜10質量%の範囲内とする。2%未満の場合には、耐衝撃性の向上を図ることが難しく、10%を超える場合には弾性率が低くなる。
【0023】
さらに本発明においては、(D)タルクを配合する。このタルクは市販のフィラー材等としてよく知られているものである。その大きさについては、通常、粒径0.5μm〜12μmの範囲内のものとすることが好ましい。
【0024】
タルクの配合割合としては、3〜25質量%の範囲内とする。
【0025】
タルク配合量が3%未満の場合には弾性率の向上が図られず、25%を超える場合には耐衝撃性が低下することになる。
【0026】
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては前記成分以外に、ポリ乳酸の末端基と反応するカルボジイミドを含有することがさらに有効である。これによって、高温高湿環境下での耐久性の向上が図られることになる。
【0027】
カルボジイミドとしては市販のものとして利用可能であって、その配合割合は、本発明の組成物の全体量において0.1〜5質量%の範囲内とすることが好ましい。0.1%未満では前記耐久性の向上はあまり期待できず、5%を超える場合には溶融混練時に反応過剰となり溶融粘度が上昇して成形性が損なわれる恐れがある。
【0028】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、本発明の目的、効果を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂の混合時、成形時等に安定剤、顔料、染料、補強剤(マイカ、クレー、ガラス繊維等)、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0029】
以上のとおりの本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各成分の混合、混練によって製造することができる。ペレットとして製造する場合には、特に制限はなく、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂やその他の添加剤を配合することもできる。
【0030】
本発明のポリ乳酸系の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、各種成形品に成形することができる。
【0031】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
<樹脂組成物の製造>
表1に示した配合割合(単位:質量%)において組成物配分を用いる。
【0033】
樹脂成分については予め乾燥処理を行い、配合を10分間、タンブラーで混合し、2軸押出機に通す。
【0034】
2軸押出機の温度はダイス付近で190℃、投入口付近で200℃の設定とした。
【0035】
2軸押出機から出たストランドはすぐに冷却槽で冷却される。
【0036】
その後ストランドはカッターで2〜4mmのペレットに切断した。
<成形>
成形前に前記ペレットの乾燥処理を行った。
【0037】
乾燥は除湿乾燥機で120℃×4h行った。
【0038】
成形は100トン射出成形機で行った。
【0039】
シリンダーの温度はヘッド付近で200℃、材料投入口付近で190℃の設定。
【0040】
金型温度は40℃。
<評価>
1)得られた成形品試料について耐衝撃性、弾性率、耐久性について評価した。その際の方法は次のとおりとした。
(評価方法)
耐衝撃性
ISO 179に準拠し、ノッチ付きシャルピー衝撃値を測定。
【0041】
弾性率
ISO 527に準拠し、引張り弾性率を測定。
【0042】
耐久性
60℃、95%RHにて湿熱テストを実施し、引っ張り強度の保持率が80%以下となる時間を耐久性能とした。引っ張り強度はIS0527に準拠。
【0043】
2)表1に示した実施例1〜8と比較例1〜5との対比から明らかなように、本発明の実施例によれば、
耐衝撃性:10KJ/m2以上
弾性率 :3.2GPa以上
のバランスに優れた特性が得られている。しかも耐久性も70時間以上である。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の配合;
(A)ポリ乳酸樹脂:5〜75質量%
(B)ABS樹脂:20〜60質量%
(C)(メタ)アクリル酸エステル重合体:2〜10質量%
(D)タルク:3〜25質量%
を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
カルボジイミドを含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−6639(P2011−6639A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153917(P2009−153917)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】