説明

熱可塑性樹脂組成物

【目的】 高靱性及び耐熱老化性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【構成】 相対粘度1.8〜3.2を有する熱可塑性共重合ポリエステル樹脂100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.05〜5重量部、リン系酸化防止剤0.05〜5重量部及びチオエーテル系酸化防止剤0.05〜5重量部を配合して成り、該熱可塑性共重合ポリエステル樹脂がテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と水素添加ダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体とを酸成分とし、1,4−ブタンジオールをグリコール成分として得られる重合体であり、且つ水素添加ダイマー酸成分の割合が、酸成分中0.5〜30モル%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、更に詳しくは高靱性及び耐熱老化性に優れており、各種電気電子部品,自動車部品,工業部品等に好適な熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエステル,特にポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐熱性,機械特性及び成形性に優れており、種々の分野に使用されている。しかし、靱性が不充分であり、用途制約の一因となっている。この解決手段として、ゴム成分とのブレンドが挙げられるが、相分離等の問題が有るため最近ではポリアルキレングリコールやダイマー酸を共重合させたポリマーが新しく提案されている(米国特許第3954689号明細書、米国特許第4254001号明細書)。
【0003】しかし、ポリアルキレングリコールやダイマー酸を共重合させたポリマーは、初期の靱性は著しく向上するも、耐熱老化性は著しく不良である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的とするところは、上記従来技術の問題点を解決し、高靱性及び耐熱老化性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上述の目的は、相対粘度1.8〜3.2を有する熱可塑性共重合ポリエステル樹脂100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.05〜5重量部、リン系酸化防止剤0.05〜5重量部及びチオエーテル系酸化防止剤0.05〜5重量部を配合して成り、該熱可塑性共重合ポリエステル樹脂がテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と水素添加ダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体とを酸成分とし、1,4−ブタンジオールをグリコール成分として得られる重合体であり、且つ水素添加ダイマー酸成分の割合が、酸成分中0.5〜30モル%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物によって達成される。
【0006】以下本発明を詳細に説明する。本発明に使用する熱可塑性共重合ポリエステル樹脂の酸成分は、テレフタル酸及び水素添加ダイマー酸からなる。水素添加ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の粘土触媒による低重合体から分離及び水素添加によってトリマー酸,モノマー酸等の副生成物を除去した後に得られ、好ましい純度としては99重量%以上である。
【0007】好ましい具体例としては、ユニケマ社製のPRIPOL1008〔炭素数36で、芳香族タイプ/脂環族タイプ/直鎖脂肪族タイプ=9/54/37(モル%)のダイマー酸〕,PRIPOL1009〔炭素数36で、13/64/23(モル%)のダイマー酸〕,さらにエステル形成性誘導体としてユニケマ社製のPRIPLAST3008(PRIPOL1008のジメチルエステル)が挙げられる。
【0008】本発明に使用する熱可塑性共重合ポリエステル樹脂の構成成分である水素添加ダイマー酸の共重合組成比は、酸成分の合計に対し0.5〜30モル%であることが好ましく、特に好ましくは1〜20モル%である。
【0009】水素添加ダイマー酸の共重合組成比が0.5モル%未満の場合、靱性及び軟質性が不充分であり、一方、30モル%を超える場合には、剛性が低下してくる。
【0010】本発明の熱可塑性共重合ポリエステル樹脂のグリコール成分としては、1,4−ブタンジオールを主成分とする(例えば70モル%以上)ことが成形性の点で肝要である。
【0011】本発明における熱可塑性共重合ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、テレフタル酸、又はそのエステル形成性誘導体、水素添加ダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体、1,4−ブタンジオールを、同時に又は段階的に直接エステル化するか、或いはエステル交換反応させた後重合する方法を採用することができる。これらの重合或いはエステル化反応、エステル交換反応の際に公知の各種触媒,安定剤,改質剤あるいは添加剤などを使用してもよい。
【0012】本発明の熱可塑性共重合ポリエステル樹脂は、相対粘度ηrel が後述する条件で測定して、1.8〜3.2であることが肝要である。ηrel が1.8未満の場合、組成物の靱性は不良であり、一方ηrel が3.2を超える場合には射出成形が困難となる。
【0013】本発明に用いるヒンダードフェノール系酸化防止剤とは、例えば、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(化1)、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(化2)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(化3)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(化4)、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン(化5)等が挙げられる。
【0014】
【化1】


【0015】
【化2】


【0016】
【化3】


【0017】
【化4】


【0018】
【化5】


【0019】ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量は熱可塑性共重合ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部であることが肝要であり、特に好ましくは0.1〜3重量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量が0.1重量部未満の場合、十分な耐熱老化性が得られず、一方5重量部を超える場合には、酸化防止剤の滲み出し等により成形品に好ましくない影響を及ぼす。
【0020】本発明に用いるリン系酸化防止剤とは、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(化6)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンフォスファイト(化7)、トリスノニルフェニルフォスファイト(化8)、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(化9)、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト(化10)等が挙げられる。
【0021】
【化6】


【0022】
【化7】


【0023】
【化8】


【0024】
【化9】


【0025】
【化10】


【0026】リン系酸化防止剤の配合量は熱可塑性共重合ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部であることが肝要であり、特に好ましくは0.1〜3重量部である。リン系酸化防止剤の配合量が0.1重量部未満の場合、十分な耐熱老化性が得られず、一方5重量部を超える場合には酸化防止剤の滲み出し等により、成形品に好ましくない影響を及ぼす。
【0027】本発明に用いるチオエーテル系酸化防止剤とは、ジラウリル3,3′−チオジプロピオネート(化11)、ジミリスチル3,3′−チオジプロピオネート(化12)、ジステアリル3,3′−チオジプロピオネート(化13)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(化14)、ジトリデシル3,3′−チオジプロピオネート(化15)等が挙げられる。
【0028】
【化11】


【0029】
【化12】


【0030】
【化13】


【0031】
【化14】


【0032】
【化15】


【0033】ヒンダードフェノール系酸化防止剤,リン系酸化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤は、熱可塑性共重合ポリエステル樹脂の重縮合時に所定量を配合しておいてもかまわないが、反応中に飛散したり、また一部が分解したりする可能性があるので、一軸混練機や二軸混練機で溶融混合した後、成形に供したり、熱可塑性共重合ポリエステル樹脂のペレットとドライブレンドした後、成形に供する方法等が挙げられる。
【0034】本発明の組成物には、更に他の酸化防止剤,紫外線吸収剤,顔料,染料,離型剤,そり抑制剤,ガラス繊維,炭素繊維等の強化材,難燃剤等を添加溶融混合しても本発明の効果はかわらない。
【0035】
【発明の効果】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高靱性及び耐熱老化性に優れており、各種電気電子部品,自動車部品,工業部品等に好適である。
【0036】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。尚、物性評価は表1に従って行った。
【0037】
【表1】


【0038】
熱可塑性共重合ポリエステル樹脂の製造例テレフタル酸ジメチル、水素添加ダイマー酸(ユニケマ社製、PRIPLAST3008)、1,4−ブタンジオール、エステル交換及び重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを表2に示す組成で添加し、210℃に加熱して生成するメタノールを系外に留去し、エステル交換反応を行った。メタノール留去がほぼ完了してから反応生成物を重合器に移し、1時間かけて温度250℃、真空度0.5mmHg迄もっていき、その後重縮合を行った。得られた熱可塑性共重合ポリエステル樹脂のサンプル名称及び相対粘度ηrel もあわせて表2に示した。
【0039】
【表2】


【0040】実施例1〜4,比較例1〜2上記の方法で得られた熱可塑性共重合ポリエステル樹脂100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・ガイギー社製IRGANOX1010)0.5重量部、リン系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(チバ・ガイギー社製IRGAFOS168)0.5重量部及びチオエーテル系酸化防止剤として、ジステアリル3,3′−チオジプロピオネート(住友化学社製SUMILIZER TPS)0.5重量部を成形時にドライブレンドして成形に供し、サンプルを得、物性評価に供した。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】


【0042】実施例5〜8,比較例3〜8上記の方法で得られた熱可塑性共重合ポリエステル樹脂サンプル「C」100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン(住友化学社製SUMILIZER GA−80)、リン系酸化防止剤としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンフォスファイト(チバ・ガイギー社製IRGAFOS P−EPQ FF)及びチオエーテル系酸化防止剤としてペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(住友化学社製SUMILIZER TP−D)を表4に示す組成で配合し、一軸混練機で溶融混合してペレットを得、成形に供した。得られた試験片を物性評価に供し、その結果を表4に示す。尚、比較例4,6,8は成形品の表面に酸化防止剤の滲み出しが見られた。
【0043】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 相対粘度1.8〜3.2を有する熱可塑性共重合ポリエステル樹脂100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.05〜5重量部、リン系酸化防止剤0.05〜5重量部及びチオエーテル系酸化防止剤0.05〜5重量部を配合して成り、該熱可塑性共重合ポリエステル樹脂がテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と水素添加ダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体とを酸成分とし、1,4−ブタンジオールをグリコール成分として得られる重合体であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】 熱可塑性共重合ポリエステルの水素添加ダイマー酸成分が酸成分の合計に対し、0.5〜30モル%を占める請求項1記載の組成物。

【公開番号】特開平5−214219
【公開日】平成5年(1993)8月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−48086
【出願日】平成4年(1992)2月3日
【出願人】(000000952)鐘紡株式会社 (120)