説明

熱変色性材料ベース動的光学部品

【課題】デジタルカメラ等に搭載する小型の動的光学素子を提供する。
【解決手段】ダイナミック材料面を有する実質的に透光性の基板と、基板のダイナミック材料面の少なくとも一部上に形成された熱変色性材料(TC)材料の層と、TC材料の層に熱的に結合され、TC材料の層の温度を制御可能に変化させる加熱手段とを有する、動的光学素子。TC材料は、TC材料の層の温度がTC材料の遷移温度未満のときにTC材料が取る第1の温度依存性状態と、TC材料の層の温度が遷移温度より大きいときにTC材料が取る第2の温度依存性状態とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変色性材料を利用する動的光学部品に関する。特に、これらの光学素子は、フィルタ、アパーチャ、フレネル帯板、透光性グレーティング、および動的マスクを含み得る。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ装置は、だんだんとより小さなパッケージに実装されつつある。これらの小型サイズを達成するために、より大きなシステムに比較して、いくつかの特徴部を制限するかあるいは取り除いてしまうことがしばしば必要になる。しかし、ユーザはこれらの特徴部が欲しいかもしれない。設計者が元々選択した既存の特徴部を、所望の特徴部によって置き換え得る場合もあるが、そのような交換を行うにはこれらの特徴部に用いられる所望の光学またはその他の部品が大きすぎる場合があり、また、ユーザが特徴部を交換したくない場合もある。したがって、これらのデジタルカメラに付随させるための、より小さな光学部品の需要が存在する。
【0003】
さらに、電源のためのスペースを減少することもまた望ましいため、機械的部品によるエネルギー消費は問題になり得る。例えば、新型の監視セキュリティカメラシステムにおいては、電源要求を減少しかつ設計上の制約を避けるために、モーターレスのカメラが望ましくあり得る。昼間/夜間機能および可変絞りを有するレンズも望まれ得る。これらの機能を実現するためには、電子制御赤外線(IR)および減光(ND)フィルタが望まれる。望まれるIRフィルタは、電流無印加時にはIR波長において透明であるが、電流印加時にはこれらのIR波長を遮断する(あるいはその逆の)、光学素子である。望まれるNDフィルタは、電流無印加時にはゼロまたは低ND値(可視波長において)を有し、電流印加時には高ND値を有する(あるいはその逆の)、光学素子である。
【0004】
液晶装置(LCD)は、電子制御NDフィルタとして用いられ得る。しかし、LCDNDフィルタの有する問題可能性の1つは、そのような装置は必ず入射光の50%を失ってしまい、これは、特に低光または好感度アプリケーションにおいて望ましくない場合がある。また、LCDには複数の界面が存在するために、ぎらつき/ゴースト像の可能性があり、これが問題となり得る。
【0005】
望まれる電子制御NDフィルタにおいて用いられ得るもう1つの可能性は、エレクトロクロミックデバイスである。しかし、エレクトロクロミックデバイスは典型的にはダイナミックレンジが制限される。このダイナミックレンジは、問題にならないアプリケーションもあるが、より大きなダイナミックレンジが非常に望まれるアプリケーションも存在する。
【0006】
VO2などの酸化バナジウム膜は、可逆性の半導体−金属相遷移(これは単斜晶系から正方晶系への構造的相変化と関連する)を経ることにより、温度上昇に応答する。この可逆性の相遷移は、赤外線波長光に対する膜の反射性の有意な増加をもたらす。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態例は、ダイナミック材料面を有する実質的に透光性の基板と、前記基板の前記ダイナミック材料面の少なくとも一部上に形成された熱変色性材料(TC)材料の層と、前記TC材料の層に熱的に結合され、前記TC材料の層の温度を制御可能に変化させる加熱手段とを有する、動的光学素子である。前記TC材料は、前記TC材料の層の温度が前記TC材料の遷移温度未満のときに前記TC材料が取る第1の温度依存性状態と、前記TC材料の層の温度が前記遷移温度より大きいときに前記TC材料が取る第2の温度依存性状態とを有する。
【0008】
本発明の別の実施形態例は、第1の面および前記第1の面に実質的に平行な第2の面を有する第1の実質的に透光性の基板と、第3の面および前記第3の面実質的に平行な第4の面を有する第2の実質的に透光性の基板と、前記第1の基板の前記第2の面と前記第2の基板の前記第3の面との間に配置されたTCゲル材料の層と、前記TCゲル材料の層に熱的に結合され、前記TCゲル材料の層の温度を制御可能に変化させる加熱手段と、を有する動的光学素子である。前記第2の実質的に透光性の基板は、その第3の面が、前記第1の実質的に透光性の基板の前記第2の面に近くかつ実質的に平行であるようにされる。前記TCゲル材料は、前記TCゲル材料の層の温度が前記TCゲル材料の遷移温度未満のときに前記TCゲル材料が取る第1の温度依存性状態と、前記TCゲル材料の層の温度が前記遷移温度より大きいときに前記TCゲル材料が取る第2の温度依存性状態とを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、以下の詳細な説明を添付の図面とともに読んだときもっともよく理解される。一般に行われるように、図面の様々な要素は縮尺通りではないことを強調しておく。逆に、明瞭さのために様々な要素の寸法を任意に拡大または縮小している。図面には以下の図が含まれる。
【0010】
本発明の実施形態例は熱変色性材料(TC)材料ベース動的光学素子を含み、これには動的IRおよびNDフィルタが含まれる。これら実施形態例において用いられるTC材料は望ましくは、色変化特性のみを有する材料に加え、サーモトロピック材料を含み得る。これらの光学素子例は、大きなダイナミックレンジとより小さな物理的サイズを有する、高速かつエネルギー効率の良い光学部品を提供するために用いられ得る。このような光学部品は特に、ミニカメラおよび監視アプリケーションにおける使用について望ましい。
【0011】
TC材料においては、材料の透過率は材料の温度とともに変化する。この特性により、TC材料を、光学部品の透過率をアクティブにチューニングするために用いることが可能になる。例えば図1Aおよび1Bに、本発明によるTC材料ベース動的フィルタ例を示す。図1Aおよび1Bのフィルタ例は、実質的に透光性の基板100を有しており、TC材料の層102がダイナミック材料面の一部上に形成されている。本発明の動的光学素子例はまた、TC材料の温度を制御可能に変化させるための加熱手段を有している。図1Aおよび1Bの実施形態例において、加熱手段は抵抗加熱素子104および電気的接点106を有している。加熱手段は、実質的に透光性の基板100の対向面上(図1A、1B、6Aおよび6Bに示す)、実質的に透光性の基板100とTC材料の層との間(図2A、2B、および4Aに示す)、あるいはTC材料の層上(図3A、3B、5Aおよび5Bに示す)のいずれにも形成され得ることが、当業者には理解される。
【0012】
実質的に透光性の基板100は望ましくは、ガラス、石英、石英ガラス、またはサファイアなどの、標準的な光学誘電性材料から形成される。動的フィルタが意図される波長帯に応じて、シリコン、窒化シリコン、ゲルマニウム、ダイアモンド、または様々なIII/V材料などの他の光学材料を、実質的に透光性の基板100に用い得る。実質的に透光性の基板100はまた、複数の層から形成されてもよい。例えば実質的に透光性の基板100は、光学素子の透光性を改善するために、そのダイナミック材料面(TC材料の層102が形成された面)および/またはその対向面上に形成された、反射防止コーティング(不図示)を有していてもよい。
【0013】
TC材料の層102は、第1の温度依存性状態および第2の温度依存性状態を有し、基板のダイナミック材料面の動作エリアを実質的に覆っている。したがって、TC材料がその第1の温度依存性状態にあるとき、動的光学素子は実質的に透光性であり、TC材料がその第2の温度依存性状態にあるとき、動的光学素子は減光フィルタ、赤外線フィルタ、またはカラーフィルタのうちいずれか1つである。層102のTC材料は、その温度がTC材料の遷移温度未満であるときその第1の温度依存性状態にあり、その温度が遷移温度より大きいときに第2の温度依存性状態にある。この動的フィルタ設計例を用いて、TC材料のタイプに基づいて、赤外線(IR)フィルタや、減光(ND)フィルタや、カラーフィルタなどの、複数の動的光フィルタを作製し得る。
【0014】
本発明の実施形態例において用い得るTC材料のタイプ例としては、Fe34、FeSi2、NbO2、NiS、Ti23、Ti47、Ti59、VO2、またはV23を含む、いくつかの遷移金属酸化物および関連化合物があげられる。
【0015】
VO2の膜は、可逆性の半導体−金属相遷移(これは単斜晶系から正方晶系結晶への構造的相変化と関連する)を経ることにより、温度上昇に応答する。この相遷移は、図9に示すように、赤外線波長光に対する膜の反射性の有意な増加をもたらす。VO2の臨界遷移温度は約60℃〜70℃である。スペクトル906は、臨界遷移温度より下におけるVO2膜例の反射率を示し、スペクトル904は、臨界遷移温度より上におけるこの膜例の反射率を示している。スペクトル900および902はそれぞれ、臨界遷移温度の上および下における、この膜例の対応する透過率を示している。
【0016】
VO2の臨界遷移温度は、VO2にW、Mo、Nb、またはF2の少なくとも1つをドーピングすることによって変更され得る。Wをドーパントとして用いることによる30℃と言う低い遷移温度が、VO2について報告されている。大部分のアプリケーションにおいては、遷移温度が周囲温度よりも大きくされることにより、加熱のみでTC材料が自身の2つの状態間をスイッチングできるようにすることが望ましい。しかし多くのアプリケーションにおいて周囲温度は幅広く変化し得る。例えばデジタルカメラは、−20℃から40℃あるいはそれ以上の温度に曝され得る。したがって、デジタルカメラアプリケーションに用いられるTC材料の遷移温度は45℃以上が望ましいが、この選択の場合、寒天においてTC材料を「on」にスイッチするにはより長い時間がかかり得る。これに代えて、TC材料温度を両状態において制御することで、より高速なスイッチング時間を維持するようにしてもよい。
【0017】
なお、遷移温度がより高ければ、周囲条件においてより高速な冷却が可能になるため、TC材料の第2の状態から第1の状態へとより高速にスイッチングすることが可能になる。一方、低い遷移温度は、TC材料を第1の状態から第2の状態へスイッチングするために必要な加熱を少なくするため、動的光学素子例のエネルギー消費を低減し得ることに、留意されたい。
【0018】
抵抗加熱素子104は望ましくは、抵抗特性がわかっていて、かつ動的光学素子例の動作波長帯において実質的に透光性である材料から、形成される。ただし、電気的接点106は望ましくは動的光学素子例の動作エリア外に形成されるため、この帯域において電気的接点106が実質的に透光性であることは必要ではない。抵抗加熱素子104は、酸化スズ、酸化インジウムスズ、金およびカルシウムなどの金属薄層、またはポリアニリンを含む、いくつかの材料から形成され得る。
【0019】
なお、TC材料の層102および抵抗加熱素子104を基板100の対向面上に形成することで、図1Aおよび1Bに示す実施形態例の製造を単純化することができるが、この設計を選択すると、基板100の熱質量によっては、TC材料の2つの状態がスイッチングされるスピードが減少し得ることに留意されたい。
【0020】
図2Aおよび2Bは、本発明による別の光学素子例である、TC材料ベース動的グレーティングを示している。この動的グレーティング例において、抵抗加熱素子104が実質的に透光性の基板100のダイナミック材料面上に形成されており、TC材料層200が抵抗加熱素子104上に形成されている。TC材料層200は、TC材料がその第2の温度依存性状態にあるときに、動的光学素子がグレーティングとなるようにパターニングされている。TC材料がその第2の温度依存性状態にあるとき、(i)TC材料の透光性が減少し、かつ(ii)その反射性が増加するため、この動的グレーティング構造例は、動的透光性グレーティング、動的反射性グレーティング、またはその両方として用いられ得る。
【0021】
また、本発明の実施形態例における加熱手段は、加熱素子および/またはTC材料層の温度をモニターするための温度センサ(図2Bではサーミスタ202として示す)ならびに、所望の温度を維持するための制御回路204を望ましくは有する。制御回路204は温度センサに電気的に結合され、TC材料層の温度に対応する温度信号を受け取る。そして制御回路は、TC材料層の所望の温度を維持するように加熱素子を制御する。図2Bの実施形態例の場合、制御回路204は、サーミスタ202によって生成される温度信号(すなわち、定電圧でサーミスタ202を流れる電流)に基づいて、抵抗加熱素子104を流れる電圧および/または電流を制御することにより、より多くまたはより少ない熱を所望に提供する。
【0022】
なお、多くのアプリケーションにおいて微細な温度制御は必要ではないことに留意されたい。遷移温度は、周囲温度が有意に(例えば>10℃)遷移温度を下回るように選択され、加熱手段は、遷移温度を有意に上回るようにTC材料の層を加熱するよう設定される。他のほとんどのアプリケーションにおいて、制御することが望ましいのは、動的光学素子が「on」であるとき(すなわちTC材料が第2の状態にあるとき)の温度のみである。装置が「off」であるときのTC材料は典型的には周囲温度のままにされ得るが、両方の状態において遷移温度に近くなるようTC材料の温度を制御することによって、光学素子例のオフ−オン間のより素早いスイッチングが可能になり得、これはアプリケーションによっては望ましい。
【0023】
図3Aおよび3Bは、本発明のさらなる実施形態例である、TC材料ベースマルチ径動的アパーチャ例を示す。このマルチ径動的アパーチャ例は、3つの組の電気配線312、314、および316にそれぞれ電気的に結合された、パターニングされた抵抗加熱素子の3つの別々の部分306、308、および310を有している。これにより、3つの抵抗加熱素子部分306、308、および310が独立に作動されることが可能になる。抵抗加熱素子部分306を加熱することにより、TC材料層の部分300が状態をスイッチングし、アパーチャの直径を減少させる。同様に、抵抗加熱素子部分308を加熱することによりTC材料層の部分302が状態をスイッチングし、抵抗加熱素子部分310を加熱することによりTC材料層の部分304が状態をスイッチングする。このように、様々な抵抗加熱素子部分を加熱することで、3つの減少された直径のアパーチャが形成され、3つのリング状アパーチャ構成が形成される。
【0024】
なお、図3Aおよび3BのTC材料の部分300、302、および304は、TC材料層の単一のパターニングされた部分から形成されていてもよいが、これらの部分は、TC材料の別々の部分(おそらくは異なる遷移温度を有する)から形成されてもよいことに留意されたい。後者の場合、パターニングされた抵抗加熱素子部分306、308、および310をまとめて制御し、温度を増加するにしたがって、動的アパーチャの様々な直径をたどっていくことができる。図3Aおよび3Bには図示しないが、部分306、308、および310におけるTC材料の遷移を空間的に正確に制御したければ、これらの部分間には何らかの断熱手段が存在することが望ましいことが、当業者には理解される。実質的に透光性の基板100の基板材料があまり熱伝導性でない場合は、部分間にわずかな間隔を残しておくことによって、部分306、308、および310間に有意な断熱が達成され得る。あるいは、異なる遷移温度を有するTC材料で形成された部分を用いることが望ましい。
【0025】
図4Aは、部分400、402、および404中の様々な画素が、3つの異なる遷移温度を有するTC材料で形成されている、本発明によるTC材料ベースマルチパターン動的マスク例を示す。上述のように、酸化バナジウムなどのいくつかのTC材料の遷移温度は、ドーピングによって制御し得る。図4B〜Dは、このマルチパターン動的マスク例を、部分400、402、および404(簡単さのため温度順の番号とする)のTC材料の遷移温度を通じて加熱していくことによる効果を示している。図4Bは、温度が部分400および402の遷移温度の間であるときに形成されるマスクパターン例406を示す。図4Cは、温度が部分402および404の遷移温度の間であるときに形成されるマスクパターン例408を示す。そして図4Bは、温度が部分404の遷移温度より大きいときに形成されるマスクパターン例410を示す。
【0026】
図5Aおよび5Bは、本発明の別の実施形態例である、TC材料ベース動的1次元フレネル帯板例を示す。この実施形態例において、抵抗加熱素子500は、TC材料の所定の部分にのみ熱的に結合されるようにパターニングされており、動的光学素子が動的1次元フレネル帯板であるようになっている。抵抗加熱素子500の部分は望ましくは共通の電気的接点502によって互いに電気的に結合されている。
【0027】
図6Aおよび6Bは、本発明によるさらに別のTC材料ベース動的光学素子例を示す。この動的光学素子例は、誘電体層600および光源602を含む、別の加熱手段を有している。光604が光源により発生される。誘電体層600は、動的光学素子の動作波長帯において実質的に透光性であり、かつ動作波長帯の外にある制御波長において実質的に吸光性であるような、誘電性材料から形成されている。これにより、制御波長を含む光604による照射によって誘電体層600を加熱することが可能になる。光源602は望ましくは、光を制御波長で発生し得る、レーザ源、パラメトリック光増幅器、または発光ダイオード(LED)などの狭帯域の光源である。例えばIRフィルタにおいて、誘電体層600はチタニウムドーピングされたサファイア(IRにおいて実質的に透光性である)から形成され得、光源602はアルゴンレーザまたは緑色LEDであり得る。
【0028】
図6Aおよび6Bは、動的光学素子例の全動作エリアにわたって誘電体層600が延びるように示しているが、TC材料層102の所定の部分のみを加熱するように誘電体層600をパターニングしてもよいことが、当業者には理解される。さらに、誘電体層600は、TC材料層102上またはTC材料層102と基板100との間に形成してもよい(それぞれ図3Aおよび2Aの実施形態の抵抗加熱素子と同様)。また、動的減光フィルタ、動的赤外線フィルタ、動的カラーフィルタ、動的アパーチャ、動的1次元フレネル帯板、動的2次元フレネル帯板、動的グレーティング、動的マスク、マルチ径動的アパーチャまたはマルチパターン動的マスクなどのいくつかの動的光学素子のうちの任意のいずれか間で動的光学素子がスイッチングし得るように、光源602は、制御波長の光によって照射される誘電体層600の部分を制御するための光学系を含んでいてもよいことに留意されたい。
【0029】
図7Aおよび7Bは、本発明によるTC材料ベース動的2次元フレネル帯板例を示す正面図である。TC材料の層を選択的に加熱することにより、黒い円形リング700と黒い楕円形リング702とを、動的にオンオフスイッチングし得る。この動的2次元フレネル帯板例のこれら黒いリングは、TC材料層をパターニングすること(図2A、2B、および4Aの実施形態例と同様)、加熱素子をパターニングすること(図3A、3B、5A、および5Bの実施形態例と同様)、または誘電体層のこれらの部分を制御波長の光で照射すること(図6Aおよび6Bの実施形態例と同様)によって、形成し得る。
【0030】
図8Aおよび8Bは、本発明によるさらなるTC材料ベース動的光学素子例を示す。これらの動的光学素子例は、例えば2つの基板800間に配置されたポリエーテル/エチレンオキシド/カルボキシビニルヒドロゲルなどの、TCゲル材料の層802をベースとしている。それぞれ図8Aおよび8Bに示すように、加熱素子804は、基板800のうち一方の外側面上、または基板800のうち一方の内側面とTCゲル材料802との間に形成され得る。
【0031】
基板800は望ましくは、これら基板のゲルに面する内側の面が、互いに近くかつ実質的に平行であるように構成される。典型的には、TCゲル材料の層802について約1〜10mmの間隔があれば十分であり得る。基板800は、望ましくは、ガラス、石英、石英ガラス、サファイアなどの実質的に透光性の光学材料、または、アクリル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの光学プラスチックから形成される。動的フィルタが意図される波長帯に応じて、シリコン、窒化シリコン、ゲルマニウム、ダイアモンド、または様々なIII/V材料などの他の光学材料を基板800に用い得る。基板800はまた、複数の層から形成され得る。例えば、光学素子例の透光性を改善するために、これらの基板は、その内側面(単数または複数)および/または外側面(単数または複数)上に形成された反射防止コーティングを有していてもよい。
【0032】
先の実施形態例について前述したように、加熱素子804は抵抗加熱素子、または動的光学素子の動作波長帯の外にある制御波長において実質的に吸光性である誘電体層であり得る。加熱素子804を、図8Aおよび8Bにおける光学素子例の全動作エリアを覆うように示しており、動的フィルタを形成するように用い得る。しかし、加熱素子804はまた、図3A、3B、5A、および5Bに示す加熱素子例と同様にパターニングされることによって、動的アパーチャ、動的1次元フレネル帯板、動的2次元フレネル帯板、動的グレーティング、動的マスク、マルチ径動的アパーチャおよびマルチパターン動的マスクを含む、様々な動的光学素子例を形成することを可能にし得る。
【0033】
本発明はいくつかのTC材料例ベース動的光学素子を包含する。本発明を特定の実施形態について図示および説明したが、本発明は示された詳細に限定されるものではない。むしろ、請求項の均等物の範疇・範囲内において、本発明から逸脱することなく、詳細について様々な改変をなし得る。特に、様々な具体的に説明した実施形態の多くの特徴を混合することにより、やはり本発明によって実現されるさらなるTC材料例ベース動的光学素子を形成し得ることが、当業者に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】図1Aは、図1B中の線1A〜1Aにおける破断側面図であり、本発明による熱変色性材料(TC)材料ベース動的フィルタ例を示している。
【図1B】図1Bは、図1AのTC材料ベース動的フィルタ例を示す正面図である。
【図2A】図2Aは、図2B中の線2A〜2Aにおける破断側面図であり、本発明によるTC材料ベース動的グレーティング例を示している。
【図2B】図2Bは、図2AのTC材料ベース動的グレーティング例を示す正面図である。
【図3A】図3Aは、図3B中の線3A〜3Aにおける破断側面図であり、本発明によるTC材料ベースマルチ径動的アパーチャ例を示している。
【図3B】図3Bは、図3AのTC材料ベースマルチ径動的アパーチャ例を示す正面図である。
【図4A】図4Aは、本発明によるTC材料ベースマルチパターン動的マスク例を示す正面図である。
【図4B】図4Bは、図4AのTC材料ベースマルチパターン動的マスク例の様々なパターン例を示す正面図である。
【図4C】図4Cは、図4AのTC材料ベースマルチパターン動的マスク例の様々なパターン例を示す正面図である。
【図4D】図4Dは、図4AのTC材料ベースマルチパターン動的マスク例の様々なパターン例を示す正面図である。
【図5A】図5Aは、図5B中の線5A〜5Aにおける破断側面図であり、本発明によるTC材料ベース動的1次元フレネル帯板例を示している。
【図5B】図5Bは、図5AのTC材料ベース動的1次元フレネル帯板例を示す正面図である。
【図6A】図6Aは、図6B中の線6A〜6Aにおける破断側面図であり、本発明によるTC材料ベース動的光学素子例を示している。
【図6B】図6Bは、図6AのTC材料ベース動的光学素子例を示す正面図である。
【図7A】図7Aは、本発明によるTC材料ベース動的2次元フレネル帯板例を示す正面図である。
【図7B】図7Bは、本発明によるTC材料ベース動的2次元フレネル帯板例を示す正面図である。
【図8A】図8Aは、本発明による別のTC材料ベース動的光学素子例を示す側面図である。
【図8B】図8Bは、本発明による別のTC材料ベース動的光学素子例を示す側面図である。
【図9】図9は、VO2膜の反射率および透過率スペクトル例を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイナミック材料面を有する、実質的に透光性の基板と、
前記基板の前記ダイナミック材料面の少なくとも一部上に形成された熱変色性材料(TC)材料の層であって、前記TC材料は第1の温度依存性状態および第2の温度依存性状態を有する層と、
前記TC材料の層に熱的に結合され、前記TC材料の層の温度の制御可能に変化させる加熱手段と、
を備える動的光学素子であって、
前記TC材料は、前記TC材料の層の温度が前記TC材料の遷移温度未満のとき前記第1の温度依存性状態にあり、前記TC材料は、前記TC材料の層の温度が前記遷移温度より大きいとき前記第2の温度依存性状態にある、
動的光学素子。
【請求項2】
前記TC材料の層は、前記基板の前記ダイナミック材料面の動作エリアを実質的に覆っており、
前記動的光学素子は、前記TC材料が前記第1の温度依存性状態にあるとき実質的に透光性であり、
前記TC材料が前記第2の温度依存性状態にあるとき、前記動的光学素子は減光フィルタ、赤外線フィルタ、またはカラーフィルタのうちいずれか1つである、
請求項1に記載の動的光学素子。
【請求項3】
前記TC材料の層は、Fe34、FeSi2、NbO2、NiS、Ti23、Ti47、Ti59、VO2、またはV23のうち少なくとも1つである、請求項1に記載の動的光学素子。
【請求項4】
前記TC材料の層は、W、Mo、Nb、またはF2のうち少なくとも1つがドーピングされたVO2である、請求項1に記載の動的光学素子。
【請求項5】
前記TC材料の層は、
前記TC材料が前記第1の温度依存性状態にあるとき、前記動的光学素子は実質的に透光性であり、
前記TC材料が前記第2の温度依存性状態にあるとき、前記動的光学素子は、アパーチャ、1次元フレネル帯板、2次元フレネル帯板、グレーティング、またはマスクのうち1つである、
ようにパターニングされている、請求項1に記載の動的光学素子。
【請求項6】
前記TC材料の層は複数の部分を有しており、前記TC材料の層の各部分のTC材料は、TC材料の層の他の部分の前記TC材料とは異なる遷移温度を有するように適合している、請求項1に記載の動的光学素子。
【請求項7】
前記TC材料の層の前記部分は、前記動的光学素子がマルチ径動的アパーチャまたはマルチパターン動的マスクのうち1つであるようにパターニングされている、請求項6に記載の動的光学素子。
【請求項8】
前記加熱手段は、前記動的光学素子の動作波長帯において実質的に透光性である加熱素子を含み、
前記加熱素子は、
前記TC材料の層上、
前記TC材料の層と前記基板の前記ダイナミック材料面との間、または
前記基板の前記ダイナミック材料面に実質的に平行な、前記基板の対向面上、
に形成されている、請求項1に記載の動的光学素子。
【請求項9】
前記加熱素子は、酸化スズ、酸化インジウムスズ、金、カルシウム、またはポリアニリンのうち少なくとも1つから形成された抵抗加熱素子である、請求項8に記載の動的光学素子。
【請求項10】
前記抵抗加熱素子は、前記TC材料の所定の部分に熱的に結合されるようにパターニングされていることにより、前記動的光学素子は動的アパーチャ、動的1次元フレネル帯板、動的2次元フレネル帯板、動的グレーティング、または動的マスクのうち1つである、請求項9に記載の動的光学素子。
【請求項11】
前記抵抗加熱素子は複数の個々に制御可能な部分を含んでおり、
前記抵抗加熱素子の各個々に制御可能な部分は、前記TC材料の別々の部分に熱的に結合されるようにパターニングされていることにより、前記動的光学素子はマルチ径動的アパーチャまたはマルチパターン動的マスクのうち1つである、
請求項9に記載の動的光学素子。
【請求項12】
前記加熱素子は、前記動的光学素子の前記動作波長帯の外にある制御波長において実質的に吸光性である誘電体層であり、
前記加熱手段はさらに、前記誘電体層を照射するための、前記制御波長の光を供給するための光源を含んでいる、
請求項8に記載の動的光学素子。
【請求項13】
前記光源は、前記動的光学素子が動的減光フィルタ、動的赤外線フィルタ、動的カラーフィルタ、動的アパーチャ、動的1次元フレネル帯板、動的2次元フレネル帯板、動的グレーティング、動的マスク、マルチ径動的アパーチャ、またはマルチパターン動的マスクのうち少なくとも1つであるように、前記制御波長で照射される前記誘電体層の一部を制御する光学系を含む、請求項12に記載の動的光学素子。
【請求項14】
前記加熱手段はさらに、
前記加熱素子または前記TC材料の層のうち少なくとも一方に熱的に結合されており、前記TC材料の層の温度をモニターし、前記モニターされた温度に対応する温度信号を生成する、温度センサと、
前記温度センサに電気的に結合されて温度信号を受け取り、前記加熱素子に結合されて前記TC材料の層の温度を制御する制御回路と、
を含む、請求項8に記載の動的光学素子。
【請求項15】
前記基板の前記ダイナミック材料面または、
前記基板の前記ダイナミック材料面の実質的に平行な、前記基板の対向面、
のうち少なくとも1つ上に形成された反射防止コーティングをさらに備える、
請求項1に記載の動的光学素子。
【請求項16】
第1の面および前記第1の面に実質的に平行な第2の面を有する、第1の実質的に透光性の基板と、
第3の面および前記第3の面に実質的に平行な第4の面を有する第2の実質的に透光性の基板であって、前記第2の実質的に透光性の基板の前記第3の面が前記第1の実質的に透光性の基板の前記第2の面に近くかつ実質的に平行であるように配置された、前記第2の実質的に透光性の基板と、
前記第1の基板の前記第2の面と前記第2の基板の前記第3の面との間に配置された熱変色性材料(TC)ゲル材料の層であって、前記TCゲル材料は第1の温度依存性状態および第2の温度依存性状態を有する層と、
前記TCゲル材料の層に熱的に結合され、前記TCゲル材料の層の温度を制御可能に変化させる加熱手段と、
を備える動的光学素子であって、
前記TCゲル材料は、前記TCゲル材料の層の温度が前記TCゲル材料の遷移温度未満のとき前記第1の温度依存性状態にあり、前記TCゲル材料は、前記TCゲル材料の層の温度が前記遷移温度より大きいとき前記第2の温度依存性状態にある、
動的光学素子。
【請求項17】
前記加熱手段は、前記動的光学素子の動作波長帯において実質的に透光性である加熱素子を含み、
前記加熱素子は、
前記第1の基板の前記第1の面、
前記第1の基板の前記第2の面、
前記第2の基板の前記第3の面、または
前記第2の基板の前記第4の面、
のうち少なくとも1つ上に形成されている、請求項16に記載の動的光学素子。
【請求項18】
前記加熱素子は、前記動的光学素子の動作断面を実質的に覆っており、
前記動的光学素子は、前記TCゲル材料が前記第1の温度依存性状態にあるとき実質的に透光性であり、
前記TCゲル材料が前記第2の温度依存性状態にあるとき、前記動的光学素子は減光フィルタ、赤外線フィルタ、またはカラーフィルタのうちいずれか1つである、
請求項17に記載の動的光学素子。
【請求項19】
前記加熱素子は、酸化スズ、酸化インジウムスズ、金、カルシウム、またはポリアニリンの少なくとも1つから形成された抵抗加熱素子である、請求項17に記載の動的光学素子。
【請求項20】
前記抵抗加熱素子は、前記TCゲル材料の所定の部分に熱的に結合されるようにパターニングされていることにより、前記動的光学素子は動的アパーチャ、動的1次元フレネル帯板、動的2次元フレネル帯板、動的グレーティング、または動的マスクのうち1つである、請求項19に記載の動的光学素子。
【請求項21】
前記抵抗加熱素子は複数の個々に制御可能な部分を含んでおり、
前記抵抗加熱素子の各個々に制御可能な部分は、前記TCゲル材料の別々の部分に熱的に結合されるようにパターニングされていることにより、前記動的光学素子はマルチ径動的アパーチャまたはマルチパターン動的マスクのうち1つである、
請求項19に記載の動的光学素子。
【請求項22】
前記加熱素子は、前記動的光学素子の前記動作波長帯の外にある制御波長において実質的に吸光性である誘電体層であり、
前記加熱手段はさらに、前記誘電体層を照射するための、前記制御波長の光を供給するための光源を含んでいる、
請求項17に記載の動的光学素子。
【請求項23】
前記光源は、前記動的光学素子が動的減光フィルタ、動的赤外線フィルタ、動的カラーフィルタ、動的アパーチャ、動的1次元フレネル帯板、動的2次元フレネル帯板、動的グレーティング、動的マスク、マルチ径動的アパーチャ、またはマルチパターン動的マスクのうち少なくとも1つであるように、前記制御波長で照射される前記誘電体層の一部を制御する光学系を含む、請求項22に記載の動的光学素子。
【請求項24】
前記第1の基板の前記第1の面、
前記第1の基板の前記第2の面、
前記第2の基板の前記第3の面、または
前記第2の基板の前記第4の面、
のうち少なくとも1つ上に形成された反射防止コーティングをさらに備える、
請求項16に記載の動的光学素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−310354(P2007−310354A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−17890(P2007−17890)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】