説明

熱安定性濃縮豆乳の形成方法

少なくとも5のFを達成したときに熱安定性である、タンパク質量に基づいて約3.2倍を超える熱安定性濃縮豆乳を調製するための方法が提供されている。一つの方法においては、可溶性炭水化物を濃縮の前に除去し、他の方法においては、可溶性および不溶性炭水化物の両方を濃縮の前に除去する。さらに他の方法においては、部分加水分解した大豆タンパク質分離物を使用して濃縮豆乳を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書にこれにより組み込まれる、2007年1月11日に出願された米国特許出願第11/622225号明細書の継続出願である。
【0002】
本発明は、熱安定性濃縮豆乳の製造方法、特にタンパク質に基づいて約3.2倍の濃度より高いレベルの熱安定性濃縮豆乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液体製品の濃縮は、保存および輸送すべき容積を低減させ、それにより、保存および輸送費を減少させるため、しばしば望ましい。濃縮液は、液体製品のより効率的な包装および使用も可能にする。例えば、1杯分の温かいまたは冷たい飲料を提供する、オンデマンド飲料システムの普及と共に、飲料システムによって希釈したときに一定の濃さの飲料を提供するために、カートリッジまたはポッドで濃縮形態の飲料がしばしば利用されている。濃縮酪農乳の希釈を通して、ラッテ、カプチーノ、ならびに他の温かいおよび冷たい飲料を提供するために、オンデマンド飲料システムと共に一般に使用される酪農乳の濃縮は、そのような一例である。当然のことながら、濃縮飲料には他の用法がある。
【0004】
しかし、多くの消費者は、酪農乳より豆乳を好む。残念なことに、安定で高濃度の酪農乳を調製する技法は、安定で高濃度の豆乳の形成へと容易に転換されない。濃縮の間、大豆タンパク質のタンパク質−タンパク質相互作用は、酪農乳中のカゼインおよび/または乳清のタンパク質−タンパク質相互作用と同様には反応しないように見える。その結果、酪農乳濃縮技法を豆乳に用いても、安定な、または官能的に心地よい、高濃度豆乳は生じない。
【0005】
他方で、豆乳濃縮の伝統的方法は、不安定な、および/または官能的に不快な、高濃度豆乳を生じる。例えば、豆乳は、所望の濃縮レベルが達成されるまで、真空下で蒸発器を使用することによって一般に濃縮される。しかし、そのような方法は、一般に、熱安定性または保存安定性である、タンパク質の量に基づいて約3から約3.2倍を超える濃縮豆乳を製造することができない。
【0006】
伝統的な蒸発方法を使用して、タンパク質に基づいて3.2倍を超えて豆乳を濃縮する場合、生成した製品は、滅菌(すなわち、高温処理など)時または長期の保存期間の間にタンパク質のゲル化を受けるか、あるいはタンパク質の沈殿を示す傾向を有する。例えば、レトルト熱処理条件(すなわち、約121℃以上)にさらされると、標準的な蒸発技法を使用して、タンパク質に基づいて約3.2倍を超えて濃縮された豆乳は、ネットワークゲルを形成する大豆タンパク質凝集を示す傾向があり、または大豆タンパク質の一部が溶液から沈殿する。熱処理時のこれらの望ましくない効果は、濃縮豆乳を希釈して単一の濃さの飲料に戻すことを困難にする。さらに、消費者は、そのような製品を、視覚的および美的に魅力がないと感じよう。
【0007】
砂糖などの加工助剤は、タンパク質を可溶化する一助となるために、しばしば濃縮乳と共に用いられ、安定な濃縮物を提供する。しかし、濃縮豆乳中でのそのような加工助剤の使用は、成功が限定的であった。例えば、特許文献1では、豆乳を安定化するために砂糖を利用し、大豆固形物対砂糖の比が1:0.5から1:1.5の範囲の、約29.5パーセントの総固形物を有する濃縮大豆の製造を可能にしている。しかし、添加された砂糖が原因で、濃縮豆乳中の大豆固形物およびタンパク質量は、約2.5倍から2.9倍の濃度未満に限定される。
【0008】
熱処理を使用して豆乳を処理する他の方法は知られているが、これらの方法は、濃縮せずに、大豆を粉末形態で提供するか、または最終製品から大豆タンパク質の一部を取り除くため、一般に、上記の安定性問題に直面することはない。例えば、特許文献2から4では、豆乳を処理して熱処理する方法が開示されているが、その方法は熱処理の前に豆乳を濃縮していない。特許文献5から9では、豆乳濃縮液ではなく粉末豆乳が提供されている。粉末豆乳から調製した大豆飲料は、一般に、満足度のより低い飲料になると見込まれ、水戻しの間に凝集物が形成されると、粒の多い製品となる恐れがある。特許文献10および11では、濃縮豆乳を製造はするが、タンパク質量が減少した豆乳製品を提供することによって製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−115899号公報
【特許文献2】特開昭56−051950号公報
【特許文献3】特開昭61−040776号公報
【特許文献4】米国特許第6,103,282号明細書
【特許文献5】特開平06−153841号公報
【特許文献6】特開平06−153984号公報
【特許文献7】特開昭62−168859号公報
【特許文献8】特開平06−303901号公報
【特許文献9】国際公開第98/07329号パンフレット
【特許文献10】特開昭59−166048号公報
【特許文献11】特開昭62−166859号公報
【特許文献12】米国特許出願公開第10/763680号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Jay, “High Temperature Food Preservation and Characteristics of Thermophilic Microorganisms,” Modern Food Microbiology (D,R. Heldman, ed.), ch. 16, New York, Aspen Publishers (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、熱処理下で安定である、長期の保存期間を有する製品を提供するために、3.2倍を超えるレベルまで豆乳を濃縮する方法が依然として必要である。本発明は、そのような必要を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0012】
典型的な熱処理下で熱安定性である、タンパク質量に基づいて3.2倍を超える濃縮豆乳を調製するための方法が提供される。本発明の方法は、様々な形態で、タンパク質量に基づいて3.2倍を超える、好ましくは約3.5倍を超える、より好ましくは約3.5倍から約5.5倍の熱安定性濃縮豆乳を提供する。一方法は、可溶性炭水化物を、好ましくは可溶性および不溶性炭水化物の両方を、濃縮の前に豆乳から除去する。他の方法は、部分加水分解した大豆タンパク質分離物を使用する。本発明の方法は、少なくとも5のF、好ましくは少なくとも10のF、さらにより好ましくは少なくとも12のFで熱安定性な濃縮豆乳を提供する。
【0013】
一実施形態では、注入可能および流動可能な粘度を有する、約9.9と約10.8パーセントの間(すなわち、約3.3倍から3.6倍)のタンパク質を有する熱安定性濃縮豆乳を調製するための方法が提供される。本発明の目的のため、全ての粘度情報が、約25℃の周囲温度で測定または観察された。生成した濃縮物は、少なくとも5のF、好ましくは10のF、最も好ましくは12のFを達成するための熱処理を受けたとき、安定である。例えば、該濃縮物は、最大で123℃で約8分間の熱処理(すなわち、約10のF)、およびそのようなF値を達成するための他の熱処理を受けたとき安定である。熱安定性濃縮豆乳は、約5と約15パーセントの間の総固形物を有する豆乳中間製品を形成するために、限外濾過膜を使用して、最低でも、最初に可溶性炭水化物の約70から約99パーセントを豆乳から除去することによって調製される。次に、豆乳中間製品は、熱安定性濃縮豆乳を形成するために、好ましくは蒸発によって、所望の大豆タンパク質量まで濃縮される。一アプローチでは、追加の加工助剤または安定剤は、安定な濃縮物を形成するために使用されない。その結果、生成した濃縮物の固形物の全てが、好ましくは大豆固形物である。しかし、所望であれば、他の加工助剤、甘味料、香味料、添加剤、または成分は、濃縮豆乳の用法または用途に応じて、あるいは香味、口当たり、または他の官能特性を改善するために使用されてもよい。
【0014】
可溶性および不溶性炭水化物の両方の一部が、蒸発の前に豆乳から除去されることが好ましい。したがって、別の方法では、可溶性炭水化物の約70から約99パーセントが、限外濾過膜を使用して豆乳から除去され、不溶性炭水化物の約70から約99パーセントが、遠心分離技法および/または濾過技法を使用して豆乳から除去される。遠心分離または濾過技法のどちらが用いられるかは、一般に、不溶性物質の粒径および合計量に応じて決まる。例えば、粒径は、濾過器のメッシュ寸法を決定するであろう。不溶物が多量な場合は、濾過は、一般に、潜在的な濾過器の目詰まり、および洗浄が原因で、遠心分離ほど効率的ではないであろう。濃縮前のこの追加の前処理は、約10と約10.8パーセントの間のタンパク質(すなわち、約3.4倍から約3.6倍)を有する熱安定性濃縮豆乳の形成を可能にする。
【0015】
別の実施形態では、熱安定性濃縮豆乳は、部分加水分解した大豆タンパク質分離物(一般に、4000と40000ダルトンの間、好ましくは5500と30000ダルトンの間の分子量分布を生じるための加水分解度を有する)を使用することによって調製される。例えば、豆乳分散液を形成するために、5500と30000ダルトンの間の分子量分布を有する、約6から約13パーセントの加水分解大豆タンパク質分離物を豆乳中に分散させる方法が提供される。次いで、豆乳分散液は、熱安定性濃縮豆乳を形成するために、均質化される。この方法を使用すると、最大で約16.5パーセントのタンパク質(約5.5倍)、好ましくは約12と約15パーセントの間のタンパク質(すなわち、約4倍から約5倍)を有する熱安定性濃縮豆乳を形成することができる。一般に、そのような濃縮物の粘度は、約15から約200cpsである。この方法も、そのような安定な濃縮物を達成するために、加工助剤または安定剤を組み込まないことが好ましい。したがって、生成した熱安定性濃縮豆乳中の固形物の全ては、大豆固形物であることが好ましい。しかし、他の加工助剤、安定剤、塩、甘味料、香味料、または他の成分は、使用されてもよい。場合によって、この方法のために準備された初期の豆乳は、蒸発(および、場合によって、上記のような可溶性および/または不溶性炭水化物の除去)によって予備濃縮されてもよい。
【0016】
別の実施形態では、熱安定性濃縮豆乳は、食用油中に部分加水分解した大豆タンパク質分離物を予備分散させて、次いで、油/大豆分離物混合物を水中に分散させてプレエマルジョンを形成し、場合により、これを均質化して濃縮大豆を形成することによって調製される。例えば、この方法は、大豆タンパク質エマルジョンを調製するために、5500と30000ダルトンの間の分子量分布を有する約15から約20パーセントの加水分解大豆タンパク質分離物、約65から約75パーセントの水、および約5から約15パーセントの食用油を分散させる。次いで、大豆タンパク質エマルジョンは、熱安定性濃縮豆乳を形成するために均質化される。この方法を使用すると、熱安定性濃縮豆乳は、最大で約16.5パーセントのタンパク質(すなわち、約5.5倍)、好ましくは約12から約15パーセントのタンパク質(すなわち、約4倍から約5倍)、および約50から約500cpsの粘度を有する。該油は、乳性油でも植物油でもよい。該油は、無水乳脂肪、高オレイン酸キャノーラ油、大豆油、ココヤシパーム核油(coconut palm kernel oil)、またはそれらの混合物であることが好ましい。該油は、無水乳脂肪または高オレイン酸キャノーラ油であることが最も好ましい。所望であれば、他の加工助剤、安定剤、塩、甘味料、香味料、乳化剤、または他の成分は、安定性、クリーミング、口当たり、および/または香味を所望通りに改善するために、使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】熱安定性濃縮豆乳を提供するための例示的プロセスの流れ図である。
【図2】熱安定性濃縮豆乳を提供するための別の例示的プロセスの流れ図である。
【図3】熱安定性濃縮豆乳を提供するための別の例示的プロセスの流れ図である。
【図4】熱安定性濃縮豆乳を提供するための別の例示的プロセスの流れ図である。
【図5】熱安定性濃縮豆乳を提供するための別の例示的プロセスの流れ図である。
【図6】熱安定性濃縮豆乳を提供するための別の例示的プロセスの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
熱処理時に安定であり、長期の保存期間を有する、タンパク質量に基づいて約3.2倍を超える濃縮豆乳を形成するための方法が提供される。本明細書の該方法は、様々な形態で、タンパク質量に基づいて3.2倍を超える、好ましくは約3.5倍を超える、より好ましくは約3.5倍から5.5倍の、熱および保存安定な濃縮豆乳を提供する。濃縮豆乳は、任意選択の香味料、甘味料、および他の成分と共に使用して、許容可能な風味、口当たりを有し、不快な香味や色をさほど有していない豆乳飲料または他の製品を形成するように、高温または低温希釈をすることができる濃縮豆乳製品を提供するのに好適である。使用される特定の方法に応じて、生成した熱安定性濃縮豆乳は、少なくとも約9.9、最大で約15パーセント以上のタンパク質を有し、約10と約4000cpsの間の一般に注入可能な粘度を有すると推定される。本明細書の方法で形成される濃縮豆乳は、少なくとも5のF、好ましくは少なくとも10のF、最も好ましくは少なくとも12のFを達成するための熱処理下でも安定である。
【0019】
上で論じたように、該方法は、熱処理時に安定であり、長期の保存期間を有する、3.2倍を超える(好ましくは3.5倍を超える、さらにより好ましくは約3.5倍から5.5倍の)濃縮豆乳を提供する。本明細書の目的のために、濃縮倍率は、大豆タンパク質量に基づいており、最終的な大豆タンパク質の量を1倍の試料中の大豆タンパク質の量で除算することによって計算される。本明細書の目的のために、1倍の試料は、約3パーセントのタンパク質を有する。例えば、12パーセントの大豆タンパク質を有する濃縮大豆は、4倍の濃縮物である。
【0020】
「熱処理(heat treatment)」または「熱処理(thermal treatment)」は、少なくとも5のF、好ましくは少なくとも10のF、最も好ましくは少なくとも12のFを達成するのに十分な熱処理を含むと理解するものとする。例えば、熱処理は、最大で約8分の、最大で約121〜123℃のレトルト条件(すなわち、約10のF)、ならびに所望のF値を達成するための他の熱処理を含むことができる。
【0021】
食品または飲料の熱(heat or thermal)処理のレベルは、致死率または殺菌値(F)によってしばしば特徴付けられる。特定の殺菌プロセス(すなわち、低温殺菌、UHT、レトルトなど)に関するFは、食品または飲料の熱的過程の最遅延加熱点速度曲線の間における時間温度データの図式積分を使用して測定することができる。この図式積分によって、その製品に与えられる総致死率が得られる。その図式的方法を使用して所望のFの達成に必要な処理時間を計算するために、食品の最遅延加熱部位における熱浸透曲線(すなわち、温度対時間の図式プロット)が必要となる。次いで、加熱プロットは、小さい時間増分に細分し、各時間増分の算術平均温度を計算し、これを用いて各平均温度の致死率(L)を求める際に、式
L=10(T−121)/z
を使用する。
式中、
T=小さい時間増分の℃単位の算術平均温度、
z=特定の微生物の標準値、
L=温度Tでの特定の微生物の致死率
次に、それぞれの小さい時間増分について上で計算された致死率値に、殺菌値(F)を得るために、式
=(tT1)(L)+(tT2)(L)+(tT3)(L)+...
を使用して、時間増分を掛け、次いで、合計する。
式中、
T1、tT2、...=温度T1、T2、...での温度増分、
、L、...=時間増分1、時間増分2、...の致死率値、および
=微生物の121℃での殺菌値。
その結果、一度浸透曲線を作成すると、該プロセスに関する殺菌値Fは、任意の温度でのプロセス時間の長さを、121℃(250°F)の基準温度での等価プロセス時間に転換することによって計算することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0022】
「保存期間」は、不快な芳香、外観、風味、稠度、または口当たりなどの、不快な官能特性を発現せずに、大豆製品を70°Fで保存することができる期間を意味する。さらに、所与の保存期間での官能的に許容可能な大豆製品は、不快な臭気、不快な香味、または不快な発色をさほど有さず、塊になり、ねばねばする、またはつるつるした質感も有さず、ゲル化せずに保たれよう。「安定な」または「保存安定な」も、所与の時間での大豆製品が、上で明示したような不快な官能特性を有さず、官能的に許容可能であることを意味する。「安定な」は、熱処理の間、または長期の保存時に、タンパク質ゲルを形成しない、またはタンパク質沈殿を有していない濃縮物を含むとも理解するものとする。「保存期間」または「長期の保存期間」は、濃縮豆乳が上で明示したように安定であり、少なくとも12カ月の保存、好ましくは、約9から約18カ月の保存を含むと理解するものとする。
【0023】
本明細書で使用される場合、非濃縮形態の「豆乳」は、約2.5から約3.5パーセントの大豆タンパク質、約5.5から約7.5パーセントの大豆固形物、および約1から約2.5パーセントの脂肪を有する液体飲料を製造するために、水に浸され、微細な粒径に粉砕され、濾された大豆から調製された大豆飲料を含むと理解するものとする。
【0024】
一形態では、可溶性炭水化物の少なくとも一部を、所望のタンパク質量への濃縮の前に豆乳から除去する(好ましくは蒸発によって)ための方法が提供される。別の形態では、該方法は、不溶性炭水化物の少なくとも一部も濃縮の前に豆乳から除去する。理論によって制限されることは望まないが、炭水化物が、濃縮豆乳内の大豆タンパク質を希釈し、生成した濃縮物全体の粘度に大いに寄与すると考えられる。全体の豆乳粘度が増加するにつれて、濃縮大豆が熱処理に対して不安定になることが観察されてきた。熱処理は、タンパク質の凝集につながる、タンパク質分子の架橋結合を生み出すと考えられる。タンパク質濃度が高すぎると、凝集物はゲル化し、濃縮豆乳はゲル化する。
【0025】
理論によって制限されることはやはり望まないが、高温処理の間のタンパク質のこのゲル化効果は、より高粘度(プディング様またはカスタード様の稠度)を有する濃縮物中の水分の利用度の低下に起因して促進されるとさらに考えられる。高粘度濃縮物の水分の利用度(すなわち、自由水)の低下は、増粘剤などの水結合剤ならびにタンパク質および炭水化物などの他の固形物の存在に大いに起因しているようである。自由水の減少により、任意の変性タンパク質が、互いに接触する可能性がより高くなり、タンパク質凝集につながるタンパク質ネットワークを形成するとも考えられる。他方で、より多量の自由水を有する、より低粘度の濃縮物(水様および注入可能なサラダドレッシング様の稠度など)が、任意の変性タンパク質の間の接触を最小限にし、その結果タンパク質凝集を少なくすると考えられる。したがって、可溶性炭水化物、好ましくは可溶性および不溶性炭水化物の両方を除去することが、該製品を熱処理に対してより安定にする、より高レベルの大豆タンパク質、より低い粘度、および一般に増大した水分の利用度を有する、濃縮大豆製品を形成する。
【0026】
さらに別の形態では、所望の濃縮豆乳を形成するために、部分加水分解した大豆タンパク質分離物を、豆乳または食用油中にブレンドするための方法が提供される。本発明の目的のために、部分加水分解とは、約4000と約40000ダルトンの間の分子量分布、好ましくは約5500と約30000ダルトンの間の分子量分布を意味する。本発明の目的のために、分子量分布の最大で約95パーセント、好ましくは約99パーセント、より好ましくは約99.9パーセントが、これらの範囲内にあると予想されている。理論によって制限されることはやはり望まないが、大豆タンパク質の部分加水分解が、タンパク質の可溶性を増大させ、その結果、より多量の大豆タンパク質が、より安定に、より低粘度の濃縮物へ濃縮することができると考えられる。加水分解が、増大した表面積を有する、より小さいポリペプチドまでタンパク質を分解すると考えられており、次いで、ポリペプチドは、より容易に水和することができ、したがって非常に溶けやすくなる。大豆タンパクの加水分解のレベルが、生成した濃縮豆乳の安定性と官能特性の両方に効果を及ぼすことが観察されてきた。大豆タンパク質の部分加水分解(すなわち、約5500と約30000ダルトンの間の分子量分布)は、それがタンパク質の分子量を低下させ、その結果、濃縮製品全体の粘度がより低くなり、生成した濃縮物に所望されていない官能特性を付与しないため、好ましい。例えば、非加水分解大豆タンパク質分離物を使用する濃縮豆乳が、熱処理時に速やかにゲル化するか、または均質化およびレトルト処理するには濃すぎることが観察されてきた。他方で、広範囲に加水分解した大豆タンパク質(すなわち、約5000ダルトンより小さい分子量)は、熱処理に対して良好な安定性を示すが、ラッテまたは類似の飲料で使用されたときに、苦くて不快な風味などの許容できない特性を有する製品を形成するか、あるいは許容できないほど大きな気泡を有する泡をもたらす傾向があることが観察されてきた。例えば、約5000ダルトンより小さい分子量分布を有するVersa Whip(登録商標)(Quest International)を使用して製造された比較の濃縮豆乳は、不快な香味および不十分な泡立ち品質を示した。
【0027】
図1を参照すると、熱安定性濃縮豆乳を形成する例示的方法が図示されている。この方法では、豆乳中の可溶性炭水化物の少なくとも一部は、濃縮の前に除去される。最初に、可溶性炭水化物(スクロース、スタキオース、ラフィノースなどの可溶性糖質など)の少なくとも一部は、ダイアフィルトレーション技法と共に限外濾過膜を使用して豆乳から除去される。(限外濾過は、ダイアフィルトレーションなしでも使用することができるが、炭水化物の除去においては同様に効率的とはならず、可溶性炭水化物を透過液に洗い流すのに粘度が制限要因となる恐れがあるため、それは一般に望ましくない。)限外濾過膜は、1000より大きい、好ましくは約1000から約50000のMWCO(分子量カットオフ)を有する膜を使用して、可溶性炭水化物の約10から約100パーセントを除去することが好ましい。ダイアフィルトレーション後、豆乳は、約5から約15パーセントの総固形物を有する、可溶性炭水化物が減少した濃縮液(豆乳中間製品)を形成するために、限外濾過される。次いで、この可溶性炭水化物が減少した濃縮液は、熱安定な濃縮豆乳を形成するために、好ましくは蒸発によって、所望のタンパク質量まで濃縮される。例えば、豆乳は、回転蒸発器または他の市販の蒸発器を、約50℃、および約30〜40トル(約0.6〜0.8psi)の真空で使用して、所望の濃縮レベルまで蒸発させられてもよい。代替として、豆乳は、UF膜の使用を通して濃縮してもよい。例えば、炭水化物を除去して所望のレベルまで濃縮するために、円筒形のUF膜を使用してもよい。UF膜は豆乳への熱曝露を制限するため、固形物を除去し、濃縮するためにUF膜を使用することは、有利になり得る。
【0028】
一般に、図1の方法は、レトルト条件下で安定である、最大で約3.5倍(好ましくは、約3.3倍から約3.5倍)の濃縮豆乳を形成するのに好適である。この濃縮物は、約18と約19パーセントの間の総固形物、約18と約19パーセントの間の大豆固形物、および約9.9と約10.5パーセントの間のタンパク質を有することが好ましい。各濃縮物は、一般に注入可能な粘度も有する。そのようなレベルの安定な濃縮物を得るために、豆乳の蒸発の前または後に、加工助剤および/または安定剤が使用されないことが好ましい。すなわち、該濃縮物中の固形物の全ては、大豆固形物であることが好ましい。
【0029】
しかし、所望であれば、加工助剤または他の添加剤は使用されてもよい。例えば、砂糖、塩、クエン酸ナトリウム、他の既知の加工助剤、香味料、添加剤、甘味料、または他の成分は、蒸発の前または後に、該濃縮物に添加されてもよい。例えば、蒸発後に、該濃縮物に、約7から約20パーセントの砂糖が添加されてもよく、または約0.1から約0.6パーセントの塩が添加されてもよい。そのような任意選択の成分は、安定性を向上させ、追加の感覚に関する利点(すなわち、口当たり)をもたらすために添加されることができ、粘度増加をもたらすことによって不溶性固形物の沈降を低減することができる。
【0030】
図2を参照すると、熱安定性濃縮豆乳を形成する別の例示的方法が図示されている。この方法では、可溶性炭水化物および不溶性炭水化物(不溶性繊維、セルロース状材料など)の両方の一部は、蒸発の前に豆乳から除去される。この実施形態では、不溶性炭水化物の約70から約99パーセントが、不溶性炭水化物が減少した上澄み液(すなわち、遠心力によって堆積された材料の上にある液体)を形成するために、遠心力を使用して、最初に豆乳から除去される。豆乳は、不溶性炭水化物を分離するために、バッチ式遠心分離機または連続式遠心分離機で、約500から約20000Gで約20分、あるいは複数の流路(必要に応じて)を用いて連続プロセスで遠心分離されることが好ましい。代替として、不溶性炭水化物を分離するために、濾過方法も使用されてもよい。次に、可溶性炭水化物の約70から約99パーセントは、上で図1を用いて説明したダイアフィルトレーションおよび限外濾過技法を使用して、上澄み液から除去される。(代替として、豆乳は、遠心分離の前に濾過されてもよい。)次いで、可溶性および不溶性炭水化物が減少した製品は、熱安定性濃縮豆乳を形成するために、回収され、好ましくは蒸発によって、所望のタンパク質量まで濃縮される。豆乳は、やはり、回転蒸発器または他の市販の蒸発器を約50℃および約30〜40トル(約0.6〜0.8psi)の真空で使用して、所望の濃縮レベルまで蒸発することができる。代替として、豆乳は、UF膜を使用して濃縮されてもよい。
【0031】
一般に、図2の方法は、レトルト条件下で安定である、最大で約10.8パーセントのタンパク質、および一般に注入可能な粘度を有する、最大で約3.6倍の濃縮豆乳を形成するのに好適である。そのようなレベルの安定な濃縮物を得るために、加工助剤または他の安定剤は、蒸発の前または後に使用されないことが、やはり好ましい。すなわち、生成した濃縮物中の全ての固形物は、大豆固形物であることが好ましい。
【0032】
しかし、所望であれば、加工助剤または他の成分は、この方法と共に使用されてもよい。図1の方法と同様に、砂糖、塩、クエン酸ナトリウム、他の既知の加工助剤、香味料、添加剤、甘味料、または他の成分は、図2の方法でも使用されてもよい。例えば、約12から約18パーセントの砂糖、約0.1から約0.5パーセントの塩、約0.2パーセントから約0.6パーセントのクエン酸ナトリウム、および/または約0.01パーセントから約0.1パーセントの人工甘味料(例えば、スプレンダ(Splenda)(スクラロース))は、蒸発後に該濃縮物に添加されてもよい。
【0033】
図3を参照すると、熱安定性濃縮豆乳を形成する別の例示的方法が図示されている。この方法では、濃縮豆乳を形成するために、約9から約13パーセントの部分加水分解した大豆タンパク質分離物は、豆乳中で加水分解する。部分加水分解した大豆タンパク質分離物は、約5500と約30000ダルトンの間の分子量分布を有することが好ましい。このレベル未満(すなわち、約5000ダルトン未満)の加水分解では、生成した濃縮物は、一般に、熱処理に対する安定性を示さず、このレベルより上の加水分解では、生成した濃縮物および/またはその希釈飲料は、ラッテまたはカプチーノを作るのに使用されたときに苦味および/または許容できない泡などの所望されていない官能特性を示す恐れがある。次いで、形成された豆乳分散液は、熱安定性濃縮豆乳を形成するために、好ましくは、脂肪(すなわち、大豆油および/または他の食用油)、乳化剤(すなわち、モノグリセリド、ポリソルベート80/60、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタンなど)、安定剤(すなわち、ゲラン(gellan)、カラギーナン(carageenan)、微結晶性セルロースなど)、塩(すなわち、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸一ナトリウムまたは二ナトリウムなど)および/または砂糖などの任意選択の成分と共に、2段式ホモジナイザーを約5000/500psiで使用して均質化される。
【0034】
一般に、図3の方法は、レトルト条件下で安定である、最大で約5倍(好ましくは、約4倍から約5倍)の濃縮豆乳を形成するのに好適である。この濃縮物は、約20から約23パーセントの間の総固形物、約20と約23パーセントの間の大豆固形物、および約12と約15パーセントの間のタンパク質を有することが好ましい。この濃縮物は、一般に注入可能な粘度を有することも好ましい。その範囲の上限にある濃縮物は、より濃いが、依然として流動可能および許容可能である。他の実施形態と同様に、そのようなレベルの安定な濃縮物を得るために、加工助剤または他の安定剤は、蒸発の前または後に使用されないことが好ましい。すなわち、図3の方法で形成された濃縮豆乳中の総固形物は、大豆固形物であることが好ましい。
【0035】
しかし、所望であれば、該濃縮物、またはその後に希釈される飲料の安定性、香味、口当たり、クリーミーさ、または他の官能特性を強化するために、任意選択の成分は、やはり添加されてもよい。例えば、脂肪、油、乳化剤、安定剤、塩、および/または砂糖は、必要に応じて分散液中にブレンドされてもよい。
【0036】
例えば、以下の任意選択の成分は、濃縮大豆中にもブレンドされてもよい。約7から約20パーセントの砂糖は、該濃縮物の香味を強化するために添加されてもよい。約5から約9パーセントの食用油/脂肪(好ましくは大豆油)も、ラッテまたはカプチーノを調製するために使用される場合、該濃縮物の口当たりおよびクリーミーさを改善するため、ならびに起泡性を強化する(すなわち、一般により高い粘度に起因する泡の安定性を増大する)ために添加されてもよい。約0.25から約0.5パーセントの塩化ナトリウムおよび/または約0.3パーセントのリン酸三ナトリウムも、安定性、口当たり、およびクリーミーさを改善するために、該濃縮物に添加されてもよい。例えば、約0.5パーセントの塩化ナトリウムは、少なくとも20週間まで、クリーミングおよび沈降に対する増大した抵抗性をもたらすために、約8〜12パーセントのタンパク質(大豆タンパク質分離物から)を有する濃縮大豆に添加されてもよいことが観察されてきた。約0.1から約0.3パーセントのリン酸一ナトリウムまたは二ナトリウムも、安定性のために添加されてもよい。例えば、約8と約12パーセントの間のタンパク質(大豆タンパク質分離物から)を有する濃縮大豆への約0.3%のリン酸一ナトリウムの添加は、濃縮大豆の安定性を少なくとも20週間まで増大させたことが観察されてきた。
【0037】
しかし、キサンタンゴム、加工デンプン、アラビアゴム、およびカルボキシメチルセルロースなどのいくつかの安定剤および増粘剤を含むことは、許容できない結果をもたらした。部分加水分解大豆タンパク質を使用している濃縮大豆は、そのような安定剤および増粘剤とブレンドされると、一般に、熱処理後のクリーム層の形成、所望されていない粘度増加、および/または溶液からのタンパク質の沈殿に起因する、許容できない製品となった。
【0038】
図4および5で示しているように、部分加水分解した大豆タンパク質分離物は、先に濃縮された豆乳中にやはり分散されてもよい。例えば、豆乳は、最初に、図1もしくは図2の方法、または他の好適な濃縮技法を使用して濃縮されてもよい。次いで、部分加水分解した大豆タンパク質分離物は、その濃縮豆乳中にブレンドされ、上記したものと類似の方法で均質化される。先に濃縮された豆乳を使用すると、該方法は、レトルト条件下に、好ましくは加工助剤なしで安定であり、約1300cpsの粘度を有する、好ましくは最大で約17パーセントの総固形物、最大で約17パーセントの大豆固形物、および最大で約12パーセントのタンパク質を有する、最大で約4倍の濃縮豆乳を形成するのに好適である。他の実施形態と同様に、図4および5の方法で、そのようなレベルの安定な濃縮物を得るために、蒸発の前または後に、加工助剤または安定剤が使用されないことが好ましい。すなわち、図4および5の方法で形成された濃縮豆乳中の総固形物も、大豆固形物であることが好ましい。しかし、他の実施形態と同様に、限定はされないが、砂糖、塩、クエン酸ナトリウム、他の既知の加工助剤、香味料、添加剤、甘味料、または他の成分などの任意選択の成分は、必要に応じてやはり添加されてもよい。
【0039】
図6を参照すると、熱安定性濃縮豆乳を形成する別の例示的方法が図示されている。この方法では、約15から約20パーセントの部分加水分解大豆タンパク質分離は、プレエマルジョンを形成するために、食用油および水に分散される。先行する実施形態と同様に、部分加水分解大豆タンパク質分離は、約5500と約30000ダルトンの間の分子量分布を有することが好ましい。このレベル未満の加水分解は、十分に安定な濃縮豆乳を生成せず、このレベルを超える加水分解は、不快な香味の豆乳を生成する。次いで、形成されたプレエマルジョンは、熱安定性濃縮豆乳を形成するために、2段階ホモジナイザーを5000/500psiで使用して均質化される。
【0040】
食用油は、限定はされないが、無水乳脂肪、高オレイン酸キャノーラ油、大豆油、ココヤシパーム核油などの、任意の乳性油または植物油でもよい。該油は、無水脂肪が、豆乳飲料を酪農乳の風味に近づけることによって豆乳飲料の風味を改善し、そのことは豆乳を飲まない人々にとって重要であるため、無水乳脂肪であることが好ましい。さらに、高オレイン酸キャノーラ油も、該キャノーラ油中のオレイン脂肪酸が、大豆油中の多価不飽和油より酸化する傾向が小さいため、大豆油より好ましい。ココヤシパーム核油は、豆乳をわずかに苦くすることがあるが、約7から約15パーセントの砂糖などの任意選択の甘味料の添加により、より心地よい風味をもたらすであろう。
【0041】
一般に、図6の方法は、レトルト条件下で安定であり、好ましくは他の加工助剤を使用せずに、約450cpsの粘度を有する、最大で約28.5パーセントの総固形物、最大で約19.5パーセントの大豆固形物、および最大で約15パーセントのタンパク質を有する、最大で約5倍の濃縮豆乳の形成に好適である。しかし、他の方法と同様に、任意選択の加工助剤、安定剤、脂肪、油、乳化剤、塩、砂糖、香味料、甘味料、および/または他の成分は、濃縮豆乳ならびに/あるいは生成した希釈豆乳の安定性、口当たり、香味、および/または他の官能特性に作用することが所望であれば、やはり添加されてもよい。
【0042】
一アプローチによって、本明細書の方法で生成された熱安定性濃縮豆乳は、その全体が参照により本明細書にこれにより組み込まれる、2004年1月23日に出願された特許文献12に記載されているものなどの、オンデマンド飲料調製機用に設計されたカートリッジまたはポッドで使用することができるほど、十分に安定であることが予想されている。当然のことながら、本明細書に記載している熱安定性濃縮豆乳は、他の多くの目的のために使用され、および/または他の用途で使用されることもできる。
【0043】
以下の実施例は、本発明を例示する目的であり、制限するためのものではない。本明細書で使用される百分率は、別段の定めのない限り、全て重量換算である。本明細書で引用した全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例1】
【0044】
(比較例1)
様々な濃縮の豆乳を調製するために、滅菌包装で提供された、13パーセントの固形物を有する部分濃縮豆乳(Sun Rich Company、ミネソタ)を使用した。豆乳を、回転蒸発器を50℃および約30〜40トル(約0.6〜0.8psi)の真空で使用して濃縮した。濃縮するために、豆乳約1500グラムを丸底フラスコ中に入れ、次いで、蒸発器を使用して様々な固形物レベルまで濃縮した。マイクロ波式水分計(Buechl、スイス)を使用して、標的固形物を確認した。
【0045】
標的固形物レベルを達成すると、金属ねじ蓋を有するガラス瓶に、各試料を注いだ。各試料瓶に、濃縮豆乳200gを入れ、次いで、Surdryレトルト機(APR−95−IF型)上で、以下の条件下でレトルト処理した。運転モード:蒸気/水噴射、回転:5rpmでの全回転、サイクル時間:32分、温度:8分の温度での合計時間で123℃。レトルト処理後、各試料を、安定性について評価した。その結果を、以下の表1に示している。
【0046】
【表1】

【0047】
上記の結果は、最大で約3.2倍のレトルト安定な液体豆乳の調製は、蒸発のみを使用して達成することができることを示している。これらのレベルを超えるレベルでは、濃縮豆乳は、レトルト処理時に不安定であり、タンパク質はゲル化するか、または溶液から沈殿した。
【実施例2】
【0048】
この実施例は、蒸発の前に限外濾過膜を使用して、豆乳から可溶性炭水化物の少なくとも一部を除去することを目的とした前処理を用いて、濃縮豆乳を調製する効果を示した。可溶性炭水化物の除去は、豆乳中のタンパク質量を、固形物を基準として45から55パーセント増大させる。
【0049】
豆乳を前処理するために、約13パーセントの総固形物を有する生豆乳(Sun Rich Company、ミネソタ)約200ポンドを、R.O.水約100ポンドを用いて、ジャケット付混合タンク中で希釈して、限外濾過処理に好適な粘度の豆乳を調製した。混合物の温度を、限外濾過処理の間、約120°Fに維持した。豆乳のpHを、1NのNaOHを使用して10に調整した。豆乳を、90パーセントより多い可溶性炭水化物を除去するために、最初に、ダイアフィルトレーション処理(10000ダルトンのMWCO)して、5回の洗浄と同等にした。各洗浄は、開始バッチの約半分(透過液約150ポンド)と等しかった。ダイアフィルトレーション処理が完了した後、pHを6.5に中和し、次いで、豆乳を、約12パーセント総固形物を有する濃度に限外濾過した。次いで、濃縮豆乳を、分離タンクで回収し、185°Fで約2分バッチごとに低温殺菌した。それを冷却し、次いで、さらに使用するために冷蔵した。
【0050】
豆乳をさらに濃縮するために、限外濾過および前処理をした豆乳の試料を、実施例1と同様に回転蒸発器を使用して濃縮した。濃縮試料を、ガラス瓶に充填し、実施例1と同じ手順を使用してレトルト処理した。レトルト処理後、各試料を、安定性について評価した。結果を、以下で表2に示している。
【0051】
【表2】

【実施例3】
【0052】
この実施例は、追加の香味料および甘味料を使用している濃縮豆乳の配合物を示す。豆乳を、実施例2と同様に、約18パーセントの総固形物を有するように、または約3.3倍まで濃縮した。次いで、甘味料および香味料を、表3にまとめているように添加した。しかし、香味料(モモ、バニラ、果実など)の量は、供給される香味料濃度に基づいて変動することができる。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例1と同様にレトルト処理した後、表3の各濃縮物を、冷水を使用して1倍に希釈し、次いで、感覚的に評価した。表3の各製品を、風味試験員の一団が評価した。豆乳は、優良であり、良好な口当たりを有し、不快な香味を示さず、非常に爽快であったと報告された。
【0055】
同様に、全ての濃縮物を、オンデマンド飲料調製機(Tassimo(登録商標)、Kraft Foods)を使用して温水で希釈し、温水を直接カップに添加することでも希釈し、スプーンで混合した。希釈比は、約1:2であった。これらの温かい豆乳飲料は、風味試験員の一団によって満足に許容された。
【実施例4】
【0056】
この実施例は、蒸発を介した濃縮の前に、限外濾過膜および遠心分離法を使用して、可溶性炭水化物および不溶性炭水化物の両方の少なくとも一部を豆乳から除去することを目的とした前処理を用いて、濃縮豆乳を調製する効果を示した。
【0057】
実施例2のように限外濾過した豆乳を、濃縮の前に遠心分離した。不溶性繊維を除去するために、バッチ式遠心分離機(Beckman Coulter)で8200Gで20分、試料を回転させた。遠心分離後、上澄み液をデカントし、次いで、実施例1の手順ごとに濃縮およびレトルト処理した。レトルト処理後、各試料を、安定性について評価した。その結果を、表4に示している。
【0058】
【表4】

【0059】
上記の結果は、最大で約3.6倍の濃度のレトルト熱安定性豆乳の成功した調製を示している。
【実施例5】
【0060】
様々な濃縮豆乳を、大豆タンパク質分離物を豆乳中に添加することによって製造した。場合によっては、大豆油または砂糖も添加した。濃縮豆乳を調製するために、第1の試料を、約4.1倍の濃縮豆乳を形成するために、部分加水分解タンパク質分離物粉末(Supro XT 40、Solae Company、セントルイス、ミズーリ)27グラムを、先に超高温条件に付した豆乳(SunRich、13パーセントの総固形物、7パーセントのタンパク質)約273グラム中に分散させることによって調製した。約5.1倍の濃縮豆乳を形成するために、第2の試料を、部分加水分解した大豆タンパク質分離物粉末(XT40)約39gを、UHT豆乳約261g中に分散させることによって調製した。第3および第4の試料を、Supro XT40約27グラムを、砂糖12パーセントまたは大豆油12パーセントと共に、均質化の前に豆乳約273グラム中に分散させることによって調製した。全ての試料を、Tekmarホモジナイザー上で、1500rpmおよび22℃で2分、別々に均質化した。XT40は、5500と30000ダルトンの間の分子量分布を有する加水分解度を有する。各試料を、実施例1の手順を使用してレトルト処理した。レトルト処理後、各試料を、安定性について評価した。結果を、表5に示している。
【0061】
【表5】

【0062】
4.1倍の豆乳クリーマーが、満足に調合された。砂糖が風味を強化した一方で、大豆油は、調合時の気泡の大きさを低減させることによって、泡の品質を改善した。5.1倍の豆乳クリーマーは、より濃かったが、許容可能であった。砂糖または他の分散剤が、5.1倍の試料の分散性を強化するために、豆乳に添加されて、豆乳の低い開始総固形物比率および乳粘度に起因する結果を改善することができると考えられる。
【実施例6】
【0063】
様々な濃縮豆乳を、部分加水分解タンパク質分離物粉末(Supro XT40、Solae Company、セントルイス、ミズーリ)を、先に濃縮した豆乳中に分散させることによって調製した。豆乳を、実施例4の手順に従って濃縮した。大豆タンパク質分離物粉末(XT40)を、砂糖または香味料と共に、またはそれらなしで、Tekmar混合機を1500rpmおよび22℃で2分使用して、濃縮豆乳中に分散させた。次いで、その分散液を、APVホモジナイザーを5000psiおよび22℃で使用して均質化した。生成した製品を、実施例1の手順に従ってレトルト処理した。レトルト処理後、各試料を、安定性について評価した。その結果を、表6に示している。
【0064】
【表6】

【0065】
5500と30000ダルトンの間の分子量分布を有する部分加水分解タンパク質分離物(すなわち、XT40)は、実施例4の遠心分離した豆乳に容易に分散した。これらのSPI/豆乳分散液は、レトルト処理後に、砂糖および香味料の存在下または不在下で、依然として流動性であり、ゲル化しなかった。砂糖は、総固形物が増加したために、流体を少し濃くしたが、満足に調合し、良好な香味を有していた。SPI/豆乳も、コーヒーと共に満足に調合し、非常に安定な泡を有する良好な大豆ラッテをもたらした。
【実施例7】
【0066】
(比較例)
濃縮豆乳を、実施例6の手順を使用して調製したが、実施例6で使用した部分加水分解タンパク質分離物の代わりに、非加水分解大豆タンパク質分離物(Prolissee500)(Cargill、ミネアポリス、ミネソタ)を用いた。レトルト処理後、豆乳を、安定性について評価した。生成した濃縮豆乳は、表7の特性を有しており、レトルト処理時にゲル化した。
【0067】
【表7】

【0068】
実施例6および7を比較して、濃縮豆乳の安定性に対する部分加水分解の正の効果(すなわち、約5500と約30000ダルトンの間の分子量分布を有する加水分解度)を図示している。実施例6に示しているように、部分加水分解は、豆乳分散液中の大豆タンパク質の可溶性を増大させる。したがって、良好なタンパク質の機能性を有する、約4倍から約5倍の濃縮豆乳を製造するために、大豆タンパク質をより多量に添加するとことが可能である。他方で、この実施例の非加水分解大豆タンパク質分離物は、熱処理に対して不安定でな濃縮大豆を形成し、ゲル化した。
【実施例8】
【0069】
様々な濃縮豆乳を、部分加水分解した大豆タンパク質分離物、油、および水の均質化を通して水中油エマルジョンを形成することによって調製した。プレエマルジョンを、大豆タンパク質、油、および水を、Tekmar混合機上で1500rpmおよび22℃で2分混合することによって調製した。各プレエマルジョンを、Gaulinホモジナイザー上で5000psiおよび22℃で均質化し、次いで、実施例1の条件ごとにレトルト処理した。各エマルジョンを、PRO FAM781(ADM、Decatur、IL)(5500と20000ダルトンの間の分子量分布)、Supro XT40(Solae Company)(5500と30000ダルトンの間の分子量分布)、またはPRO FAM930(ADM)(13000と70000ダルトンの間の分子量分布)を使用して形成した。該油は、大豆油(SB)、ココヤシパーム核油(CPKO)、高オレイン酸キャノーラ油(HOCO)、または無水乳脂肪(AMF)であった。レトルト後、各試料を、安定性について評価した。その結果を、表8に示している。
【0070】
【表8】

【0071】
豆乳は、全て流体様および流動可能であり(PRO FAM930で調製したものを除く)、良好な口当たりを有していた。各試料は、5倍のレベルでも、レトルト処理時にゲル化しなかった。これらの試料は、全て、一杯分52グラム当たり大豆タンパク質7.9グラムを有していた。
【実施例9】
【0072】
(比較例)
濃縮豆乳を、実施例8の手順を使用して調製したが、実施例8で使用した部分加水分解した大豆タンパク質分離物の代わりに、非加水分解大豆タンパク質分離物(Prolissee 500、Cargill、ミネアポリス、ミネソタ)を用いた。レトルト処理後、該試料を、安定性について評価した。生成した濃縮豆乳は、表9の特性を有しており、均質化およびレトルト処理するには濃すぎた。
【0073】
【表9】

【0074】
実施例8および9を比較して、濃縮豆乳の安定性に対する大豆タンパク質の部分加水分解の正の効果(すなわち、約5500と約3000ダルトンの間の分子量分布をもたらす加水分解度)を図示している。実施例8に示しているように、部分加水分解は、水中油エマルジョン中の大豆タンパク質の可溶性を増大させる。したがって、良好なタンパク質の機能性を有する5倍の濃縮豆乳を製造するために、大豆タンパク質をより多量に添加するとことが可能であった。他方で、この実施例の非加水分解大豆タンパク質分離物は、均質化およびレトルト処理するには濃すぎる濃縮大豆を形成した。
【0075】
該方法の性質を説明するために本明細書で記載および図示してきた、配合物および成分の詳細、材料、および手はずの様々な変更は、添付の特許請求の範囲で示したような具体化した方法の原理および範囲内で、当業者がなし得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱安定性濃縮豆乳を調製する方法であって、
可溶性炭水化物の一部を豆乳から除去する手段、不溶性炭水化物の一部を豆乳から除去する手段、約5000と約40000ダルトンの間の分子量分布を有する大豆タンパク質を加水分解する手段、および、それらの手段の組合せからなる群から大豆前処理を選択するステップと、
最大で約15パーセントのタンパク質を有する前記熱安定性濃縮豆乳を形成するために、前処理した大豆を濃縮するステップと、
を含み、
前記熱安定性濃縮豆乳が、少なくとも約5のFを達成するのに十分な熱処理を受けたときに安定であることを特徴とする前記熱安定性濃縮豆乳を調製する方法。
【請求項2】
豆乳中間製品を形成するために、限外濾過膜を使用して前記可溶性炭水化物の一部を豆乳から除去するステップと、
前記熱安定性濃縮豆乳を形成するために、前記豆乳中間製品を濃縮するステップと、
をさらに含み、
前記熱安定性濃縮豆乳は、約9.5パーセントより多いタンパク質を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理は、少なくとも約10のFを達成するのに十分であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱安定性濃縮豆乳は、約15から約4000cpsの粘度を有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記熱安定性濃縮豆乳は、最大で約10.5パーセントのタンパク質を有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記可溶性炭水化物の約70パーセントから約99パーセントは、前記豆乳から除去されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記豆乳中間製品は、約11パーセントから約15パーセントの間の総固形物を有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記熱安定性濃縮豆乳の前記総固形物は、大豆固形物であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記限外濾過膜は、約1000より大きいMWCOを有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記限外濾過膜は、約1000から約50000のMWCOを有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
約0.1から約0.6パーセントの塩および約7から約20パーセントの砂糖を添加することをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
遠心力を使用して前記不溶性炭水化物の一部を豆乳から除去するステップをさらに含み、前記熱安定性濃縮豆乳は、約10パーセントより多いタンパク質を有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記熱安定性濃縮豆乳は、最大で約11パーセントのタンパク質を有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記不溶性炭水化物の約70から約99パーセントは、前記豆乳から除去されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記熱安定性濃縮豆乳の前記総固形物は、大豆固形物であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
約7から約20パーセントの砂糖をさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
約0.4から約0.8パーセントのクエン酸ナトリウムをさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
約0.1から約0.5パーセントの塩をさらに含むことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
豆乳分散液を形成するために、5500と30000ダルトンの間の分子量分布を有する加水分解大豆タンパク質分離物を豆乳中に分散させるステップと、
前記熱安定性濃縮豆乳を形成するために、前記豆乳分散液を均質化するステップと、
をさらに含み、
前記熱安定性濃縮豆乳は、約12パーセントより多いタンパク質を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記熱処理は、少なくとも約10のFを達成するのに十分であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記熱安定性豆乳は、約15から約4000cpsの粘度を有することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記熱安定性豆乳の前記総固形物は、大豆固形物であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
約9から約13パーセントの加水分解大豆タンパク質分離物をさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
約7から約20パーセントの砂糖を前記豆乳分散液中にブレンドすることをさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
約10から約15パーセントの食用油を前記豆乳分散液中にブレンドすることをさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記食用油は、大豆油を含むことを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記豆乳は、最初に、タンパク質が約9.5から約11パーセントになるまで濃縮されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記豆乳は、限外濾過膜を使用して可溶性炭水化物の約70から約99パーセントを除去すること、遠心力を使用して不溶性炭水化物の約70から約99パーセントを除去すること、およびタンパク質が約9.5から約11パーセントになるまで蒸発させることによって、最初に濃縮されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記熱安定性濃縮豆乳の前記総固形物は、大豆固形物であることを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
約0.1から約0.3パーセントのリン酸ナトリウムをさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
大豆タンパク質エマルジョンを調製するために、約5500と約30000ダルトンの間の分子量分布を有する加水分解大豆タンパク質分離物、水、および食用油をブレンドするステップと、
前記熱安定性濃縮豆乳を形成するために、前記大豆タンパク質エマルジョンを均質化するステップと、
をさらに含み、
前記熱安定性濃縮豆乳は、最大で約15パーセントのタンパク質および約50から約500cpsの粘度を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記熱処理は、少なくとも約10のFを達成するのに十分であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
約15から約20パーセントの加水分解大豆タンパク質分離物、約65から約75パーセントの水、および約5から約15パーセントの食用油をさらに含むことを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記食用油は、乳性油および植物油からなる群から選択されることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記食用油は、無水乳脂肪、高オレイン酸キャノーラ油、大豆油、ココヤシパーム核油、およびそれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記食用油は、無水乳脂肪であることを特徴とする、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記食用油は、高オレイン酸キャノーラ油であることを特徴とする、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
最大で約5パーセントの砂糖を前記大豆タンパク質エマルジョン中にさらに含むことを特徴とする、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−515462(P2010−515462A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545636(P2009−545636)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/050484
【国際公開番号】WO2008/088973
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(508247877)クラフト・フーヅ・グローバル・ブランヅ リミテッド ライアビリティ カンパニー (53)
【Fターム(参考)】