説明

熱延鋼板およびその製造方法

【課題】材質均一性および冷間圧延性に優れ、かつ590MPa以上の引張強度を有する冷延鋼板用または溶融亜鉛めっき鋼板用に供して好適の、熱延鋼板について提供する。
【解決手段】化学成分は、質量%で、C:0.060〜0.120%、Si:0.10〜0.70%、Mn:1.00〜1.80%、P:0.10%以下、S:0.010%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.010%以下およびNb:0.010〜0.100%を、固溶Nb量が全Nb量の5%以上となる範囲にて含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織は、平均結晶粒径:15μm以下のフェライトを体積分率で75%以上含み、残部は低温生成相からなる組織とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車産業の分野で使用される部材として好適な、特に高い降伏比を有し、かつ材質均一性並びに冷間圧延性に優れる冷延鋼板用または溶融亜鉛めっき鋼板用の熱延鋼板およびその製造方法に関する。なお、降伏比(YR)とは、引張強度(TS)に対する降伏強度(YS)の比を示す値であり、YR=YS/TSで表される。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保護意識の高まりから、自動車のCO排出量削減に向けた燃費改善が強く求められている。これに伴い、車体材料の高強度化での薄肉化を図り、車体を軽量化しようとする動きが活発となっており、プレス加工して製造される部品に用いられる冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板には、TSが590MPa以上の高強度鋼板が多く用いられるようになってきている。さらに、自動車に要求される衝突安全性を確保するために、衝突吸収エネルギー特性が大きいという特性が求められている。この衝突吸収エネルギー特性を向上させるためには、降伏比を高めることが有効であり、降伏比が高くなれば、低い変形量であっても効率よく衝突エネルギーを吸収させることが可能である。
【0003】
ここに、590MPa以上の引張強度を得るための鋼板の強化機構としては、母相であるフェライトの硬化、もしくはマルテンサイトのような硬質相を利用する方法がある。上記の中で、Nbなど炭化物生成元素を添加した析出強化型の高強度鋼板は、高降伏比を得やすく、かつ、所定の強度を確保するために必要な合金元素が少量で済むため、廉価に製造可能である。
【0004】
しかし、熱間圧延後に冷間圧延して焼鈍を行う工程において、析出強化型の高強度冷延鋼板は析出物がまばらに粗大化し、強度や伸びの特性ばらつきが大きくなるという問題点があった。ところで、鋼板の高強度化、薄肉化により形状凍結性は著しく低下するため、プレス成形時に、離型後のプレス部品の形状変化を予め予測し、形状変化量を見込んでプレス金型を設計することが広く行われている。ここで、鋼板の引張強度が著しく変化すると、これらを一定とした見込み量からのずれが大きくなり、形状不良が発生し、プレス成形後に一個一個形状を板金加工する等の手直しが不可欠となり、量産効率を著しく低下させる。このため、冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板の強度のばらつきを可能な限り小さくすること、すなわち材質均一性に優れることが要求されている。
【0005】
以上述べたように、冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板の強度と伸びのばらつきを可能な限り小さくし、さらには冷間圧延性を向上することが要求されている。また、高強度の冷延鋼板は、熱延鋼板の鋼板組織や析出量の影響が大きく、熱延鋼板における高強度化が有利であり、この熱延板について、特許文献1には、NbおよびTiの含有量を調整することにより、高延性を有し、かつ材質均一性に優れた熱延鋼板を製造する方法が開示されており、さらに特許文献2には、Ti含有量を調整することにより、材質均一性および穴広げ性が改善された熱延鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3767132号公報
【特許文献2】特開2000−212687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に開示の技術では、高延性もしくは穴広げ性に優れた熱延鋼板の製造方法が提示されており、冷延鋼板を製造するための、特に冷間圧延性を踏まえた熱延素材および溶融亜鉛めっきを製造するための熱延素材としては考慮されていない。そのため、焼鈍後に材質均一性に優れ、しかも冷間圧延性に優れた冷延鋼板用熱延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の開発が課題となる。
【0008】
したがって、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、材質均一性および冷間圧延性に優れ、かつ590MPa以上の引張強度を有する冷延鋼板用または溶融亜鉛めっき鋼板用に供して好適の、熱延鋼板およびその製造方法について提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、材質均一性および冷間圧延性に優れ、かつ高降伏比を有する冷延鋼板用または溶融亜鉛めっき鋼板用の熱延鋼板を得るべく鋭意検討を重ねたところ、以下のことを見出した。すなわち、熱間圧延を終了後に室温まで冷却した熱延板において、Nbを全て析出物(炭窒化物)として析出させずに、Nbを5%以上固溶した状態で熱延鋼板とし、その後の焼鈍過程にて、熱延鋼板時に固溶していたNbを炭窒化物として析出させることにより、鋼板内にNbが微細に析出する結果、強度および伸びの材質ばらつきが抑えられ、さらに、熱延鋼板のフェライトの平均結晶粒径を制御することにより、焼鈍後の強度確保と材質ばらつきがさらに抑制されることが明らかとなった。
また、熱延鋼板中の固溶Nbを5%以上含有し、さらにフェライトの体積分率を75%以上に制御することにより、析出強化や低温生成相である硬質相による強度上昇が抑えられ、冷間圧延性が向上するという効果も見出した。
以上のことより、焼鈍後の強度および伸びが安定した高降伏比を有する冷延鋼板用熱延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の創製が可能となった。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その構成は次のとおりである。
(1)化学成分が、質量%で、C:0.060〜0.120%、Si:0.10〜0.70%、Mn:1.00〜1.80%、P:0.10%以下、S:0.010%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.010%以下およびNb:0.010〜0.100%を、固溶Nb量が全Nb量の5%以上となる範囲にて含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織が、平均結晶粒径:15μm以下のフェライトを体積分率で75%以上含み、残部は低温生成相からなる複合組織であることを特徴とする熱延鋼板。
【0011】
(2)Fe成分の一部に代えて、さらに質量%で、Ti:0.05%未満を含有することを特徴とする前記(1)に記載の熱延鋼板。
【0012】
(3)Fe成分の一部に代えて、さらに質量%で、V:0.10%以下、Cr:0.50%以下、Mo:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、B:0.0030%以下から選択される一種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の熱延鋼板。
【0013】
(4)Fe成分の一部に代えて、さらに質量%で、Ca:0.001〜0.005%およびREM:0.001〜0.005%から選択される一種以上を含有することを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の熱延鋼板。
【0014】
(5)前記熱延鋼板が、冷延鋼板用または溶融亜鉛めっき鋼板用である前記(1)から(4)のいずれかに記載の熱延鋼板。
【0015】
(6)前記(1)から(4)のいずれかに記載の成分組成を有するスラブを、熱間圧延開始温度:1150〜1270℃、仕上げ圧延の終了温度:900℃以上の条件で熱間圧延し、650℃までの温度域を平均冷却速度20〜90℃/sで冷却し、その後、470〜640℃の温度域にて巻取る際の該巻取り温度まで平均冷却速度5〜30℃/sで冷却し前記巻取りを行うことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、材質均一性並びに冷間圧延性に優れ、しかも高い降伏比を有する冷延鋼板用熱延鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板を提供することができる。そして、この熱延鋼板を冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板に供することによって得られる、冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することにより、自動車における衝突安全性を確保しつつ車体軽量化による燃費改善を図ることができる。さらに、冷間圧延での圧延負荷も軽減可能なため、量産安定性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の熱延鋼板の各成分の含有量の限定理由を説明する。なお、以下において、鋼の化学成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0018】
C:0.060〜0.120%
炭素(C)は、鋼板の高強度化に有効な元素であり、特に、Nbのような炭化物形成元素と微細な合金炭化物、あるいは、合金炭窒化物を形成して鋼板の強化に寄与する。この効果を得るためには、0.060%以上の添加が必要である。一方、C含有量を0.120%よりも多く含有させると、スポット溶接性が低下することから、C含有量の上限は0.120%とする。なお、より良好な溶接性を確保する観点からは、C含有量を0.100%以下とすることが好ましい。
【0019】
Si:0.10〜0.70%
珪素(Si)は、高い加工硬化能をもつことから強度上昇に対して延性の低下が比較的少なく、焼鈍後の強度−延性バランスの向上にも寄与する元素である。また、熱延段階でのフェライト変態の促進により、所望のフェライトの結晶粒径および体積分率が確保されるため、材質均一性を向上させるために必要な元素である。この効果を得るためには、Si含有量を0.10%以上とすることが必要である。さらに材質均一性を高めるためには、Si含有量を0.35%以上とすることが好ましい。一方、Si含有量が0.70%よりも多いと、焼鈍後の溶融亜鉛めっき性の劣化が著しくなるため、Si含有量を0.70%以下とし、より好ましくは0.60%以下である。
【0020】
Mn:1.00〜1.80%
マンガン(Mn)は、固溶強化により焼鈍後の高強度化に寄与する元素である。その効果を得るためにはMn含有量は1.00%以上とすることが必要であり、好ましくは1.20%以上である。一方、Mn含有量が1.80%よりも多いと、熱延段階でのフェライト変態とパーライト変態を遅延し、所望のフェライトの結晶粒径および体積分率を確保することが難しく、材質均一性が低下する懸念があるため、その含有量は1.80%以下、好ましくは1.70%以下とする。
【0021】
P:0.10%以下
リン(P)は、固溶強化により高強度化に寄与する元素であり、この効果を得るためにはPの含有量は0.005%以上とすることが好ましい。また、P含有量が0.10%よりも多いと、粒界への偏析が著しくなって粒界を脆化させ、また溶接性が低下し、材質均一性が劣化するため、Pの含有量の上限値は0.10%とする。好ましくは、0.05%以下である。
【0022】
S:0.010%以下
硫黄(S)の含有量が多い場合には、MnSなどの硫化物が多く生成し、焼鈍後の伸びフランジ性に代表される局部伸びが低下するため、含有量の上限を0.010%とする。より好ましくは、0.005%以下である。なお、S含有量の下限値については特に限定する必要は無いが、極低S化は製鋼コストの上昇をまねくため、0.0005%以上の範囲において低減すればよい。
【0023】
Al:0.01〜0.10%
アルミニウム(Al)は、脱酸に必要な元素であり、この効果を得るためには0.01%以上含有することが必要であるが、0.10%を超えて含有しても効果が飽和するため、0.10%以下とする。好ましくは、0.05%以下である。
【0024】
N:0.010%以下
窒素(N)は、Cと同様にNbと化合物を形成して、合金窒化物や合金炭窒化物となり、高強度化に寄与する。しかし、窒化物は比較的高温で生成しやすいため粗大になりやすく、炭化物に比べ強度への寄与が相対的に小さい。このため、焼鈍後の高強度化にはN含有量を低減して合金炭化物をより生成した方が有利である。このような観点から、Nの含有量は0.010%以下、好ましくは0.005%以下とする。
【0025】
Nb:0.010〜0.100%
ニオブ(Nb)は、CやNと化合物を形成して炭化物や炭窒化物となり、炭窒化物の析出強化により焼鈍後の高降伏比および高強度化を得るために必要な元素である。また、Nbは熱延冷却時の結晶粒微細化に効果があり、材質均一性確保のためのフェライトの結晶粒径および体積分率を制御するのに重要な元素である。この効果を得るためには、Nb含有量を0.010%以上とすることが必要であり、好ましくは0.020%以上である。しかし、Nb含有量が0.100%よりも多いと、熱延鋼板中の炭窒化物が過剰に生成し、冷間圧延性を低下させるため、Nb含有量の上限値を0.100%とした。好ましくは、0.080%以下であり、より好ましくは0.050%未満である。
【0026】
固溶Nb量が全Nb量の5%以上
また、焼鈍後に良好な材質均一性および冷間圧延性を確保するために、熱延板における固溶Nb量が全Nb量の5%以上とすることが肝要である。固溶Nb量が全Nb量の5%未満では、焼鈍後にNbの炭窒化物が不均一に粗大化し、強度や伸びのばらつきが大きくなる上、熱延板強度が高くなり、冷間圧延性が劣化するため、熱延板の固溶Nb量を全Nb量で除した値は5%以上とし、好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。全Nb量に対する固溶Nbの割合の上限は、特に限定はされないが、高強度化を確保する観点から70%以下が好ましい。
【0027】
本発明では、上記の基本成分に加え、以下に示す任意成分を、必要に応じて所定の範囲で含有しても良い。
Ti:0.05%未満
チタン(Ti)は、Nbと同様に、微細な炭窒化物を形成し、結晶粒微細化にも効果があり、強度上昇に寄与することができることができるため、必要に応じて含有することが出来る元素であるが、Ti含有量が0.05%以上であると、成形性が著しく低下するため、Ti含有量は0.05%未満とし、好ましくは0.035%以下である。なお、焼鈍後の強度上昇効果を発揮する上で、Tiを含有させる場合には、0.005%以上含有させることが好ましい。
【0028】
V:0.10%以下
バナジウム(V)もまた、Nbと同様に、微細な炭窒化物を形成し、結晶粒微細化にも効果があり、強度上昇に寄与することができることができるため、必要に応じて含有することが出来る元素であるが、V含有量を0.10%よりも多くしても、0.10%を超えた分の強度上昇効果は小さく、そのうえ、合金コストの増加も招いてしまう。このため、V含有量は0.10%以下とする。なお、強度上昇効果を発揮する上で、Vを含有させる場合には、0.005%以上含有させることが好ましい。
【0029】
Cr:0.50%以下
クロム(Cr)は、焼鈍時の焼入れ性を向上させ、第2相を生成することで高強度化に寄与する元素であり、必要に応じて添加することができる元素であるが、この効果を発揮させるためには、Cr含有量を0.10%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量を0.50%より多くしても、効果の向上は認められなくなるため、Cr含有量は0.50%以下とする。
【0030】
Mo:0.50%以下
モリブデン(Mo)は、焼鈍時の焼入れ性を向上させ、第2相を生成することで高強度化に寄与する元素であり、必要に応じて添加することができる元素であるが、この効果を発揮させるためには、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量を0.50%より多くしても、効果の向上は認められなくなるため、Mo含有量は0.50%以下とする。
【0031】
Cu:0.50%以下
銅(Cu)は、固溶強化により高強度化に寄与し、また、焼鈍時の焼入れ性を向上させ、第2相を生成することでも高強度化に寄与する元素であり、必要に応じて添加することができる元素である。この効果を発揮させるためには、Cu含有量は0.05%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が0.50%より多くしても、効果の向上は認められなくなり、さらに、Cuに起因する表面欠陥が発生しやすくなるため、Cu含有量は0.50%以下とする。
【0032】
Ni:0.50%以下
ニッケル(Ni)もまた、Cuと同様に、固溶強化により高強度化に寄与し、また、焼鈍時の焼入れ性を向上させ、第2相を生成することでも高強度化に寄与し、さらに、Cuとともに添加すると、Cu起因の表面欠陥を抑制する効果があるため、必要に応じて添加することができる元素である。この効果を発揮させるためには、Ni含有量を0.05%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量を0.50%より多くしても、効果の向上は認められなくなるため、Ni含有量は0.50%以下とする。
【0033】
B:0.0030%以下
ボロン(B)は、焼鈍時の焼入れ性を向上させて第2相を生成することによって、高強度化に寄与する元素であり、必要に応じて添加することができる。この効果を発揮するためには、0.0005%以上含有させることが好ましい。一方、0.0030%超を含有させても効果が飽和するため、その含有量を0.0030%以下とする。
【0034】
Ca:0.001〜0.005%およびREM:0.001〜0.005%から選択される一種以上
カルシウム(Ca)および希土類元素(REM)は、硫化物の形状を球状化し、穴広げ性への硫化物の悪影響を改善するのに寄与する元素であり、必要に応じて添加することができる。これらの効果を発揮するためには、それぞれ0.001%以上含有させることが好ましい。一方、0.005%超含有させても効果が飽和するため、その含有量をそれぞれ0.005%以下とする。
【0035】
上記化学成分の他の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
ここで、不可避的不純物としては、例えば、Sb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下である。また、本発明では、Ta、Mg、Zrを通常の鋼組成の範囲内で含有しても、その効果は失われない。
【0036】
次に、本発明の熱延板のミクロ組織について詳細に説明する。
熱延板組織は、フェライトが平均結晶粒径15μm以下かつ体積分率が75%以上であることを特徴とする。ここで述べる体積分率は鋼板の組織全体に対する体積分率であり、以下同様である。
熱延板組織のフェライトの体積分率が75%未満では、硬質な第2相が多く存在することになるため、冷間圧延性が劣化する。そのためフェライトの体積分率は75%以上とする。フェライトの体積分率の上限が特に限定されないが、99%以下が好ましい。
また、フェライトの平均粒径が15μm超では、焼鈍後の冷延鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板の組織においてもフェライトの粗大な結晶粒がまばらに存在することになり、強度および伸びのばらつきが大きくなるため、フェライトの平均結晶粒径は15μm以下とする。フェライトの平均結晶粒径の下限は特に限定はされないが、焼鈍後の冷延鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板の良好な材質均一性を確保するためには、3μm以上が好ましい。
【0037】
このフェライト以外の残部組織は、パーライト、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトおよび球状セメンタイト等から選択される1種あるいは2種以上の低温生成相を組み合わせた混合組織である。上記フェライトの体積分率および平均結晶粒径、さらには固溶Nb量と全Nb量との割合が満たされていれば、残部組織の体積分率および平均結晶粒径は特に限定されないが、硬質な残部組織が多量に存在すると、冷間圧延性が低下するため、残部組織の体積分率は25%以下とする。
【0038】
次に、熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高降伏比を有する冷延鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板の素材である熱延鋼板は、上記の成分組成範囲に適合した成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延開始温度:1150〜1270℃、仕上げ圧延の終了温度:900℃以上の条件で熱間圧延し、650℃までの温度域を平均冷却速度:20〜90℃/sで冷却し、その後、470〜640℃の温度域にて巻取る際の該巻取り温度まで平均冷却速度5〜30℃/sで冷却し前記巻取りを行うことによって製造できる。
【0039】
熱間圧延工程では、鋼スラブを鋳造後、再加熱することなく1150〜1270℃で熱間圧延を開始するか、若しくは1150〜1270℃に再加熱した後、熱間圧延を開始する。ここで使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法によっても製造することが可能である。
本発明では、鋼スラブを製造したのち、一旦室温まで冷却し、その後再加熱する従来法に加えて、冷却することなく温片のままで加熱炉に装入する、均熱を行った後に直ちに圧延する、あるいは鋳造後そのまま圧延する等、直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0040】
[熱間圧延工程]
・熱間圧延開始温度:1150〜1270℃
熱間圧延開始温度は、1150℃よりも低くなると圧延負荷が増大し、生産性が低下し、一方1270℃より高くしても加熱コストが増大するだけであるため、1150〜1270℃とする。
【0041】
・仕上げ圧延終了温度:900℃以上
熱間圧延中のNbの歪誘起析出を抑制するため、熱間圧延の仕上げ圧延終了温度は900℃以上とする。Nbの歪誘起析出を抑制することにより、熱延巻取り後の熱延鋼板中の固溶Nbが全Nb中の5%以上確保可能となり、材質均一性および冷間圧延性が向上するため、熱間圧延の仕上げ圧延終了温度は900℃以上とし、好ましくは950℃以上とする。
【0042】
・650℃までの温度域を平均冷却速度20〜90℃/sで冷却
平均冷却速度が20℃/s未満での冷却では、Nbの析出が進行し、所望の固溶Nb量が得られないため、材質均一性および冷間圧延性が低下する。また、平均冷却速度が90℃/s超えでの冷却では、熱延板組織において、フェライト変態が十分に進行せず、所望のフェライト結晶粒径および体積分率を得られず、焼鈍板の材質均一性が低下する。好ましくは、平均冷却速度30〜70℃/sである。
【0043】
・巻取り温度までの温度域を平均冷却速度5〜30℃/sで冷却
平均冷却速度が5℃/s未満での冷却では、Nbの析出が進行し、所望の固溶Nb量が得られないため、材質均一性および冷間圧延性が低下する。また、平均冷却速度が30℃/s超での冷却では、熱延板組織中にベイナイトやマルテンサイトなどの硬質相が過剰に生成するため、所望のフェライト結晶粒径および体積分率を得られず、焼鈍板の材質均一性および冷間圧延性が低下する。好ましくは、平均冷却速度10〜25℃/sである。
【0044】
・巻取り温度: 470〜640℃
巻取り温度が470℃未満の場合、熱延板組織において、マルテンサイトやベイナイトの低温変態相(硬質相)を含む組織となり、熱延板の強度が上昇し、冷間圧延性が低下する。また、巻取り温度が640℃を超えた場合、巻取り中にもNbの析出物が析出するため、所望の固溶Nb量が得られず、材質均一性および冷間圧延性が低下する。そのため、巻取り温度は470〜640℃とする。好ましくは470〜550℃である。
【0045】
以上の工程を経て得られた熱延鋼板は、通常公知の方法で酸洗し、必要に応じて、脱脂などの予備処理を実施したのち、冷間圧延工程、あるいはさらに溶融亜鉛めっき工程へ供される。冷間圧延工程では、冷間圧延を行い、焼鈍処理を施す。あるいはその後、溶融亜鉛めっき処理を行うことによって、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
冷間圧延を行う場合、冷間圧延の圧下率が30%未満になると、焼鈍時にフェライトの再結晶が促進されず、未再結晶フェライトが残存し、焼鈍板の延性が低下する場合があるため、冷間圧延の圧下率は30%以上が好ましい。焼鈍処理は、750〜900℃の温度域で15〜600s保持することが好ましい。焼鈍温度が750℃未満または750〜900℃の温度域での保持時間が15s未満になると、未再結晶組織が残存し、延性が低下する場合があり、焼鈍温度が900℃を超え、または750〜900℃の温度域での保持時間が600sを超えると、オーステナイト粒の成長が著しく、最終的に不均一な組織が形成され、材質安定性が低下する場合があるためである。
なお、一連の熱処理においては、熱履歴条件さえ満足されれば、鋼板はいかなる設備で熱処理を施されてもかまわない。加えて、溶融亜鉛めっき後に、合金化処理を施す場合は合金化処理後に形状矯正のため本発明の鋼板に調質圧延をすることも可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを、表2に示す熱間圧延条件(熱間圧延開始温度および仕上げ圧延終了温度)で板厚が3.2mmまで熱間圧延を行い、表2に示す巻取り温度で巻き取った。
【0047】
次いで、得られた熱延板を酸洗し、すべての熱延板に対して同じ条件下で冷間圧延を行った。すなわち、冷間圧延は、ロール直径が500mmのロールを用いて5回圧延(5パス)を実施し、そのときの圧延荷重を測定し、板厚が1.2mmまで圧延を施した。その際、圧延荷重を板幅で除した線荷重を算出し、5回平均の線荷重が1.3ton/mmより超えた鋼板を冷間圧延性が「×(劣化)」とし、線荷重が1.3ton/mm以下の鋼板を冷間圧延性が「○(良好)」と判断した。線荷重が1.3ton/mmより超えると、目標とする板厚(特に1.2mm以下)まで圧延するために、多大なパス数が必要となり、量産性が問題になるほか、ロール自身の磨耗による劣化が早まり、コストの増大を招くため、線荷重の基準を1.3ton/mmとした。
【0048】
冷間圧延後は、焼鈍温度が800℃で焼鈍し、必要に応じて、溶融亜鉛めっき処理、またはさらに亜鉛めっきの合金化処理を施し、冷延鋼板(CR)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の焼鈍板を得た。溶融亜鉛めっき浴は溶融亜鉛めっき鋼板(GI)では、Al:0.19質量%含有亜鉛浴を使用し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)では、Al:0.14質量%含有亜鉛浴を使用し、浴温は460℃とし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)については、550℃で合金化処理を施した。めっき付着量は片面あたり45g/m(両面めっき)とし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)は、めっき層中のFe濃度を9〜12質量%とした。
【0049】
ここで、熱延板の固溶Nb量は、電解抽出用試験片を採取し、該試験片について電解液:10v/v%アセチルアセトン−1w/v%塩化テトラメチルアンモニウム−メタノール(AA系)を用いた電解処理を実施し、ろ過により残渣を抽出した。抽出された残渣について、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma)発光分光法によりNb量を測定し、析出物となっている析出Nb量とし、添加した全Nb量から析出Nb量(Nb(C,N)析出物中のNb量)を差し引くことにより、固溶Nb量を算出した。
鋼板のミクロ組織は、3%ナイタール試薬(3%硝酸+エタノール)を用いて、鋼板の圧延方向に平行な垂直断面(板厚1/4の深さ位置)を腐食し、500〜1000倍の光学顕微鏡および1000〜10000倍の電子顕微鏡(走査型および透過型)により観察、撮影した組織写真を用いて、フェライトの体積分率および平均結晶粒径を定量化した。各12視野の観察を行い、ポイントカウント法(ASTM E562−83(1988)に準拠)により、面積率を測定し、その面積率を体積分率とした。平均結晶粒径は、JIS G 0552(1998)の規定に準拠した切断法で算出した。
【0050】
また、残部の低温生成相については、走査型および透過型電子顕微鏡の観察において判別可能である。すなわち、フェライトがやや黒いコントラストであるのに対し、マルテンサイトは白いコントラストが付いているものである。また、パーライトは、層状の組織で、板状のフェライトとセメンタイトが交互に並んでいる組織であり、ベイナイトは、ポリゴナルフェライトと比較して転位密度の高い板状のベイニティックフェライトとセメンタイトを含む組織である。また、球状セメンタイトは、球状化した形状を有するセメンタイトである。残留オーステナイトの有無については、表層より深さ方向に板厚1/4の厚さ分だけ研磨した面で、MoのKα線を線源として、加速電圧50keVにて、X線回折法(装置:Rigaku社製 RINT2200)によって、鉄のフェライトの{200}面、{211}面、{220}面と、オーステナイトの{200}面、{220}面、{311}面のX線回折線の積分強度を測定し、これらの測定値を用いて、「X線回折ハンドブック」(2000年)理学電機株式会社、p.26、62−64に記載の計算式から残留オーステナイトの体積分率を求め、体積分率が1%以上の場合、残留オーステナイトがありと判断し、体積分率が1%未満の場合、残留オーステナイトがなしと判断した。
【0051】
引張試験は、引張方向が鋼板の圧延方向と平行となるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z2241(2010年)に準拠して引張試験を行ない、熱延板および焼鈍板(冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)のYS(降伏強度)、TS(引張強度)、EL(全伸び)、YR(降伏比)を測定した。材質均一性に関しては、熱延板および焼鈍板(冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の板幅中心部と両幅端からそれぞれ1/8幅の位置(全幅の1/8の位置)とのYS、TSおよびELを測定し、板幅中心部の特性値と幅1/8位置の特性値(幅1/8位置は両端部あわせて2箇所あるが、その平均値)との差(板幅中心部の特性値−幅1/8位置の特性値の絶対値)をそれぞれΔYS、ΔTSおよびΔELとして算出した。なお、上記焼鈍板のYSおよびTSは、板幅中心部と1/8幅の位置(両端部からそれぞれ全幅の1/8位置)の3箇所の平均値とした。なお、本発明では、前記ΔYS≦40MPa、ΔTS≦30MPaおよびΔEL≦4.0%の場合を材質均一性の観点で良好と判定した。また、YR≧70%の場合が高降伏比を有する観点で良好と判定した。
【0052】
なお、材質バラツキを、幅中心部と幅1/8位置の2点で評価するのは、例えば、熱延板の幅方向の中心部と熱延板幅端部(エッジ)から板幅の1/4に相当する位置(幅1/4位置)との引張強度の差では、エッジ付近の材質が評価されないため、十分な幅方向の材質安定性の評価が困難であるが、さらにエッジ寄りの幅1/8位置と幅中心部の引張強度の差で評価することで、焼鈍板の材質安定性の適切な評価が可能になるためである。
以上により得られた結果を表3に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
本発明例の冷延鋼板用熱延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板は、その後の焼鈍後の冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のTSが590MPa以上であり、高降伏比を有し、材質均一性および冷間圧延性にも優れている。一方、比較例では、引張強度、降伏比、材質均一性、冷間圧延性のいずれか一つ以上が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分が、質量%で、C:0.060〜0.120%、Si:0.10〜0.70%、Mn:1.00〜1.80%、P:0.10%以下、S:0.010%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.010%以下およびNb:0.010〜0.100%を、固溶Nb量が全Nb量の5%以上となる範囲にて含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
ミクロ組織が、平均結晶粒径:15μm以下のフェライトを体積分率で75%以上含み、残部は低温生成相からなる複合組織であることを特徴とする熱延鋼板。
【請求項2】
Fe成分の一部に代えて、さらに質量%で、Ti:0.05%未満を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
Fe成分の一部に代えて、さらに質量%で、V:0.10%以下、Cr:0.50%以下、Mo:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、B:0.0030%以下から選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱延鋼板。
【請求項4】
Fe成分の一部に代えて、さらに質量%で、Ca:0.001〜0.005%およびREM:0.001〜0.005%から選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱延鋼板。
【請求項5】
前記熱延鋼板が、冷延鋼板用または溶融亜鉛めっき鋼板用である請求項1から4のいずれか1項に記載の熱延鋼板。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の成分組成を有するスラブを、熱間圧延開始温度:1150〜1270℃、仕上げ圧延の終了温度:900℃以上の条件で熱間圧延し、650℃までの温度域を平均冷却速度20〜90℃/sで冷却し、その後、470〜640℃の温度域にて巻取る際の該巻取り温度まで平均冷却速度5〜30℃/sで冷却し前記巻取りを行うことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。




【公開番号】特開2013−76116(P2013−76116A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215615(P2011−215615)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】