説明

熱式流量計

【課題】耐腐食性を備えた、測定精度の高い熱式流量計を提供する。
【解決手段】流体の流れにより生じる温度差を検出して、流路を流れる流体の流量を測定する熱式流量計であって、流路となる溝部が形成された第1ガラス基板と、溝部を覆う第2ガラス基板と、第2ガラス基板の溝部と反対側の面の流路に対応する位置に、ボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成された温度検出素子とを備えたことを特徴とする。温度検出素子は、流路の上流側と下流側とに形成され、上流側に形成された温度検出素子と下流側に形成された温度検出素子との中間の位置に、ボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成された伝熱素子をさらに備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を流れる流体の温度を制御し、温度制御部分の上流側と下流側の流体の温度差に基づいて流量を測定する熱式流量計に係り、特に、耐腐食性を備えた、測定精度の高い熱式流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
流路を流れる流体の温度を制御し、温度制御部分の上流側と下流側の流体の温度差に基づいて流体の流量を測定する熱式流量計が知られている。
【0003】
図3は、このような熱式流量計の構成例を示すブロック図である。本図に示すように、熱式流量計は、測定部200と演算制御部300とを備えている。測定部200は、流路211を有する基板210に、伝熱部220、上流側温度検出部230、下流側温度検出部240が形成されて構成され、演算制御部300により、流路211を流れる被測定流体の流量が算出される。
【0004】
伝熱部220は、ヒータ等によって構成され、流路211を矢印方向に流れる被測定流体を加熱する。上流側温度検出部230、下流側温度検出部240は、流路211に沿って伝熱部220から等距離に配置されており、上流側温度検出部230は上流側の流体温度を直接的あるいは間接的に検出し、下流側温度検出部240は、下流側の流体温度を直接的あるいは間接的に検出する。
【0005】
演算制御部300は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置によって構成され、伝熱部220の加熱制御を行なうとともに、上流側温度検出部230、下流側温度検出部240の温度検出結果に基づいて流体の流量を算出する。
【0006】
演算制御部300による流量の算出法について図4を参照して説明する。図4は流路211内の被測定流体の温度分布の一例を示す特性曲線図である。本図において横軸は流路211の位置であり、HT11は、伝熱部220の設置位置に対応し、TS11は、上流側温度検出部230の設置位置に対応し、TS12は、下流側温度検出部240の設置位置に対応している。
【0007】
演算制御部300は、あらかじめ測定された被測定流体の温度に対して、被測定流体が数度程度高い一定温度になるように伝熱部220を制御する。このような状態で、被測定流体の流量がゼロの場合には、図4における実線グラフCH11が示すように、伝熱部220の設置位置HT11を中心にして対称な温度分布を示す。このため、上流側温度検出部230、下流側温度検出部240の検出温度は等しくなり、温度差はゼロになる。
【0008】
一方、被測定流体が流路211を流れると、図4における破線グラフCH12が示すように、温度分布のピークが下流側にシフトする。このため、上流側温度検出部230、下流側温度検出部240の検出温度に差が生じることになる。
【0009】
この温度差は被測定流体の流量に対応した値となるので、演算制御部300は、上流側温度検出部230、下流側温度検出部240の検出結果から得られる温度差に基づいて流路211を流れる被測定流体の流量を算出することができる。
【0010】
被測定流体が流れる流路211は、金属の細管等が用いられる場合もあるが、金属を腐食するような流体の測定を行なえないことから、耐腐食性に優れたガラス基板に流路211を形成することが提案されている。
【0011】
図5は、ガラス基板を用いて構成した熱式流量計の測定部200の構成を模式的に示した図であり、図5(a)は、上面方向から見た模式図であり、図5(b)は正面方向から見た模式図である。
【0012】
本図に示すように、ガラス基板210は、流路211となる溝が形成された第1ガラス基板210aと、溝を覆う第2ガラス基板210bとが接合されて構成される。このため、被測定流体は、測定部200において、耐腐食性に優れたガラスにのみ接して流れることになる。
【0013】
第2ガラス基板210bの流路211と反対側の面には、伝熱部220、上流側温度検出部230、下流側温度検出部240が形成される。伝熱部220は、伝熱素子220aと電極220bとを備え、上流側温度検出部230は、上流側温度検出素子230aと電極230bとを備え、下流側温度検出部240は、下流側温度検出素子240aと電極240bとを備えており、各電極が演算制御部300と接続される。
【0014】
伝熱素子220a、上流側温度検出素子230a、下流側温度検出素子240aは、白金やニッケル等の抵抗温度係数の大きい金属から構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−10322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のように、ガラス基板に流路を形成して、伝熱素子と温度検出素子とを流路外に設置することで、耐腐食性に優れた熱式流量計を構成することができる。しかしながら、温度検出素子が、熱伝導率が比較的低いガラスを介して被測定流体の温度を検出することになるため、温度検出信号のS/N比が低くなってしまい、熱式流量計の精度が低下するという問題が生じる。
【0017】
そこで、本発明は、耐腐食性を備えた、測定精度の高い熱式流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明の熱式流量計は、流体の流れにより生じる温度差を検出して、流路を流れる流体の流量を測定する熱式流量計であって、流路となる溝部が形成された第1ガラス基板と、前記溝部を覆う第2ガラス基板と、前記第2ガラス基板の前記溝部と反対側の面の前記流路に対応する位置に、ボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成された温度検出素子とを備えたことを特徴とする。
【0019】
ここで、前記温度検出素子は、前記流路の上流側と下流側とに形成することができる。このとき、前記上流側に形成された温度検出素子と下流側に形成された温度検出素子との中間の位置に、ボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成された伝熱素子をさらに備えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐腐食性を備えた、測定精度の高い熱式流量計が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ガラス基板を用いて構成した本実施形態の熱式流量計の測定部の構成を模式的に示した図である。
【図2】TOF式の流量計の測定部の構成を模式的に示した図である。
【図3】熱式流量計の構成を示すブロック図である。
【図4】流路の位置に対する流路内の被測定液体の温度分布の一例を示す特性曲線図である。
【図5】ガラス基板を用いて構成した従来の熱式流量計の測定部の構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の熱式流量計の測定部100の構成を模式的に示した図であり、図1(a)は、上面方向から見た模式図であり、図1(b)は正面方向から見た模式図である。なお、本実施形態の測定部100は、従来と同様に、図3に示すように演算制御部300と接続され、熱式流量計として機能する。
【0023】
本図に示すように、熱式流量計の測定部100は、ガラス基板110を備えており、ガラス基板110は、流路111となる溝が形成された第1ガラス基板110aと、溝を覆う第2ガラス基板110bとが接合されて構成される。このため、被測定流体は、測定部100において、耐腐食性に優れたガラスにのみ接して流れることになる。
【0024】
第1ガラス基板110aは、例えば、流路111の深さに見合った厚さのホウケイ酸ガラス基板を用いることができ、ドライあるいはウェットエッチング、サンドブラスト、レーザ加工等の方法によって溝を刻むことで流路111を形成することができる。
【0025】
第2ガラス基板110bもホウケイ酸ガラス基板を用いることができ、第1ガラス基板110aに形成された溝を覆うように、熱圧着等により第1ガラス基板110aと接合する。第2ガラス基板110bの厚さは、流体の圧力に耐える必要はあるが、被測定流体の温度検出のためには薄い方が望ましい。また、後述するように、流路211と反対側の面(表面)は、半導体プロセスにより成膜するために、光学研磨面とする。
【0026】
第2ガラス基板110bの表面には、伝熱部120、上流側温度検出部130、下流側温度検出部140が形成される。伝熱部120は、伝熱素子120aと電極120bとを備え、上流側温度検出部130は、上流側温度検出素子130aと電極130bとを備え、下流側温度検出部140は、下流側温度検出素子140aと電極140bとを備えており、各電極が演算制御部300と接続される。
【0027】
本実施形態では、上流側温度検出素子130a、下流側温度検出素子140aを、金属測温抵抗体よりも温度に対する感度が高く、半導体プロセスとの親和性が高いボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成する。
【0028】
すなわち、第2ガラス基板110bの表面にボロンドープのダイヤモンド薄膜を成膜し、パターニングして、上流側温度検出素子130a、下流側温度検出素子140aを形成する。パターニングは、通常ドライエッチングにより行なうことができる。
【0029】
これにより、上流側温度検出素子130a、下流側温度検出素子140aから出力される温度検出信号のS/N比を高め、熱式流量計の精度を向上させることができる。このとき、被測定流体は、ガラスにのみ接するため、耐腐食性も維持される。
【0030】
なお、半導体プロセスを簡略化するために、電極を含めた上流側温度検出部130、下流側温度検出部140および伝熱部120の全体または一部をボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成するようにしてもよい。また、必要に応じてダイシング等を行なうようにしてもよい。
【0031】
また、上流側温度検出素子130a、下流側温度検出素子140aの温度に対する感度が高まることにより、第2ガラス基板110bの厚さを従来より厚くしても精度を確保することができるため、測定部100の強度を得たり、ガラス基板210の製造の簡易化を図るようにしてもよい。
【0032】
なお、本発明は、熱式のみならず、Time of Flight(TOF)式の微小流量計等に適用することもできる。図2はTOF式の微小流量計に適用した場合の測定部の構成を模式的に示した図である。本図の例では、測定部400のガラス基板410の表面には、伝熱部420、上流側温度検出部430、第1下流側温度検出部440、第2下流側温度検出部450が形成される。
【0033】
上流側温度検出部430、第1下流側温度検出部440は、熱式の測定に使用され、第1下流側温度検出部440、第2下流側温度検出部450は、TOF式の測定に使用される。
【0034】
また、伝熱部420は、伝熱素子420aと電極420bとを備え、上流側温度検出部430は、上流側温度検出素子430aと電極430bとを備え、第1下流側温度検出部440は、第1下流側温度検出素子440aと電極440bとを備え、第2下流側温度検出部450は、第2下流側温度検出素子450aと電極450bとを備えており、各電極が図示しない演算制御部と接続される。
【符号の説明】
【0035】
100…測定部、110…ガラス基板、110a…第1ガラス基板、110b…第2ガラス基板、111…流路、120…伝熱部、120a…伝熱素子、120b…電極、130…上流側温度検出部、130a…上流側温度検出素子、130b…電極、140…下流側温度検出部、140a…下流側温度検出素子、140b…電極、200…測定部、210…ガラス基板、210a…第1ガラス基板、210b…第2ガラス基板、211…流路、220…伝熱部、220a…伝熱素子、220b…電極、230…上流側温度検出部、230a…上流側温度検出素子、230b…電極、240…下流側温度検出部、240a…下流側温度検出素子、240b…電極、300…演算制御部、400…測定部、410…ガラス基板、420…伝熱部、420a…伝熱素子、420b…電極、430…上流側温度検出部、430a…上流側温度検出素子、430b…電極、440…第1下流側温度検出部、440a…第1下流側温度検出素子、440b…電極、450…第2下流側温度検出部、450a…第2下流側温度検出素子、450b…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流れにより生じる温度差を検出して、流路を流れる流体の流量を測定する熱式流量計であって、
流路となる溝部が形成された第1ガラス基板と、
前記溝部を覆う第2ガラス基板と、
前記第2ガラス基板の前記溝部と反対側の面の前記流路に対応する位置に、ボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成された温度検出素子と、
を備えたことを特徴とする熱式流量計。
【請求項2】
前記温度検出素子は、前記流路の上流側と下流側とに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱式流量計。
【請求項3】
前記上流側に形成された温度検出素子と下流側に形成された温度検出素子との中間の位置に、ボロンドープのダイヤモンド薄膜により形成された伝熱素子をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の熱式流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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