説明

熱影響が極小で微細形状が形成された管,軸材及びその加工方法

【課題】レーザ照射による熱的影響層や溶融凝固物が発生せず、血小板の付着量を削減し、血管・赤血球の損壊を低減できるステントの加工方法を提供する。
【解決手段】金属製管の外表面全体に絶縁被膜を形成し、次に、パターン孔を形成する部分の絶縁被膜を除去し、次に、電解加工により金属を除去しパターン孔を形成し、前記電解加工を続けているうちにパターン孔内面全体に不動態膜が生成され、それが絶縁被膜として作用するようになったら、パターン孔底面の絶縁被膜をレーザ照射により除去し、次に、パターン孔底面の絶縁被膜が除去された部分から、電解加工により金属を除去し、以下、パターン孔が貫通するまで、電解加工、レーザ照射を繰り返すステントの加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱影響が極小で微細形状が形成された管、軸材の加工方法に関し、特に、医療用ステントに好適な加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用ステントは、例えば、血管などの狭窄部に挿入したのち拡開して狭窄した血管などをひろげる医療器具として従来から知られており、ステントを拡開させるためには管状のステント周壁に微細なパターン孔を形成する加工技術が必要となる。
従来、微細なパターン孔を形成する加工技術としては、例えば、次のようなものが知られている。
【0003】
特許文献1には、ステントのパターン孔を形成する同一箇所にフェトム秒レーザ(超短パルスレーザ)を繰り返し重畳して照射してパターン孔を形成する加工技術が記載されている。
特許文献2には、ステントの金属製管状部材の外面を感光性レジスト材料で被覆し、感光性レジスト材料で被覆された管状部材の一部分を紫外光に露光し硬化させ、露光した後、管状部材を現像液に浸漬して未硬化のレジストを洗い流し、その後、電気化学的または化学的処理によりレジストに被覆されない部分の金属を除去することによりパターン孔を形成する加工技術が記載されている。
特許文献3には、リードフレームの加工技術であって、金属板の両面に耐電解加工性のレジスト膜を被覆しておき、レーザ光を照射して金属板を貫通する切断溝をリードフレームの形状に従って形成し、続いてレーザ加工後の金属板に電解加工を施し、組織の異なる金属板の地金と加工変質層の界面を選択的に腐食し、最後にレジスト膜を除去してリードフレームのパターン溝を形成する加工技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−95610号公報
【特許文献2】特表2002−511779号公報
【特許文献3】特開平8−70073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ加工を用いてパターン孔を形成すると、溶融凝固物、熱影響層が発生し、機能の低下が起こるという問題点がある。溶融凝固物は、例えば、ステントを血管内に挿入した場合、血管や赤血球などを破壊する恐れがある。
電解加工等の電気化学的処理あるいは化学的処理は、電気化学作用あるいは化学作用を用いて材料を除去するために、加工影響が材料に残留しにくい加工法として知られており、実際に上記特許文献3でも、レーザ加工後の溶融凝固物、熱影響層の除去に用いられている。しかし、電解加工は電流の流れた材料を溶解する特性を持つため、加工・非加工領域をコントロールすることが難しく、このため電解加工で微細形状を効率よく形成することができないという問題点がある。
電解加工等の電気化学的処理あるいは化学的処理によりパターン孔を形成すると、加工材料表面は等方的に除去されるため、高アスペクト比の加工ができないという問題点がある。
本発明は、上記問題点を解決し、レーザ加工による熱的影響層が存在せず、かつ、微細なパターン孔形状を精度良く効率的に金属製管に形成できる加工方法を提供することにあり、特に、レーザ加工による熱的影響層が存在せず、血小板の付着量を削減し、血管・赤血球の損壊を低減できる、医療用ステントに好適な加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のパターン孔を有する金属製管の加工方法は、金属製管の外表面全体に絶縁被膜を形成する第1の工程と、前記絶縁被膜のうち、パターン孔を形成する部分の絶縁被膜を除去する第2の工程と、前記絶縁被膜を除去した部分から電解加工により金属を除去しパターン孔を形成する第3の工程と、前記電解加工を続けているうちにパターン孔内面全体に不動態膜が生成され、それが絶縁被膜として作用するようになった絶縁被膜コート工程である第4の工程と、前記第4の工程でパターン孔内面全体に生成された被膜のうち、パターン孔底面の被膜をレーザ照射により除去する第5の工程と、前記第5の工程でパターン孔底面の被膜が除去された部分から、電解加工により金属を除去する第6の工程と、以下、パターン孔が貫通するまで、上記第4の工程、上記第5の工程、上記第6の工程を繰り返すことを特徴とする。
さらに、本発明のパターン孔を有する金属製管の加工方法は、金属製管は、Fe,Ni,Co,Cr,Ti,Nb,Ta,Alなど、及び、これらを主体とする合金からなることを特徴とする。
さらに、本発明のパターン孔を有する金属製管の加工方法は、パターン孔を有する金属製管が、医療用ステントであることを特徴とする。
また、本発明のパターン孔を有する金属製管は、上記いずれか1つのパターン孔を有する金属製管の加工方法により加工されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加工方法によれば、レーザ照射は、パターン孔底部の不動態膜(絶縁被膜)の除去のために照射されるものであり、レーザ照射により金属の除去を行うものではないから、レーザ照射による熱的影響層や溶融凝固物が発生せず、特に、ステントにおいては、血小板の付着量を削減し、血管・赤血球の損壊を低減できる。
また、電解加工時に、パターン孔の全内面には、次第に不動態膜が生成され、該不動態膜が絶縁被膜として作用するが、レーザ照射によりパターン孔底面の不動態膜だけを除去し、さらに電解加工を続行するから、パターン孔周面に生成された不動態膜は絶縁被膜として作用するので高アスペクト比のパターン孔が高精度で効率良く形成できる。さらに、電解加工の電解生成物が発生しパターン孔内に堆積することがあるが、パターン孔底面の不動態膜をレーザ照射により除去する際に、パターン孔内に堆積した電解生成物も一緒に除去され、効率良くパターン孔が形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の加工方法を説明する説明図である。
【図2】図2は、本発明の加工方法を実施するための加工装置の一例を示した図である。
【図3】図3は、本発明の加工方法を実施するための加工装置の他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、レーザ照射を用いるのは、パターン孔底部の不動態膜(絶縁被膜)の除去のために用い、金属の除去には専ら電解加工を用いることにより、レーザ加工による熱的影響層や溶融凝固物が発生しない微細なパターン孔を高アスペクト比で形成する加工方法を実現した。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明の加工方法を説明する図であって、加工工程を、工程順に示した図である。
図1において、1の工程は、金属製管の外表面全体に絶縁被膜を形成する絶縁被膜コート工程である。絶縁被膜の形成法としては、例えば、塗布、スパッタリング、蒸着などを用いることができ、また、絶縁被膜の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、フォトレジスト樹脂、エナメル樹脂、パレリン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂、アルミナ、窒化珪素などのセラミックを用いることができる。さらには、電解加工により生成される不動態膜を絶縁被膜として利用することもできる。
2の工程は、1の工程でコートした絶縁被膜のうち、パターン孔を形成する部分の絶縁被膜を除去する絶縁被膜除去工程である。2の工程における絶縁被膜の除去は、パターン孔を形成する部分の絶縁被膜にレーザ照射して除去しても良く、また、絶縁被膜の材料としてフォトレジスト樹脂を採用した場合には、露光・現像のフォトレジスト法によって除去しても良い。
3の工程は、2で絶縁被膜を除去した部分から電解加工により金属を除去しある程度の深さのパターン孔を形成する電気化学的除去工程である。
4の工程は、3の電解加工により電気化学的除去工程を続けているうちにパターン孔内面全体に不動態膜が生成されてそれが絶縁被膜として作用するようになった絶縁被膜コート2工程である。電解加工中に表面に不動態膜を生成するものとしては、Fe,Ni,Co,Cr,Ti,Nb,Ta,Alなど、及び、これらを主体とする合金がある。ステントとして用いる場合には、ステンレス、ナイチノール(NiTi合金)などの合金が代表的なものである。
5の工程は、4でパターン孔内面全体に生成された不動態膜による絶縁被膜のうち、パターン孔底面の絶縁被膜をレーザ照射により除去する絶縁被膜除去2工程である。このとき、パターン孔内底部に堆積していた電解加工の電解生成物があれば、前記レーザ照射によって電解生成物も同時に除去されるので、その後の電解加工が支障なく行え、また、電解生成物除去の工程を別途設ける必要がない。なお、レーザ照射によりパターン孔内に堆積した電解生成物のみを除去するにとどめた場合であっても、次の工程で電解加工を行うことによりパターン孔をさらに深く形成することができる。
5の工程の後、パターン孔が貫通するまで3〜5の工程を繰り返す。すなわち、再び3に戻って、5でパターン孔底面の絶縁被膜が除去された部分から、電解加工により金属を除去する。このとき、パターン孔周面は絶縁被膜で覆われたままであるので、アスペクト比の高い孔の形成が可能となる。電解加工を続けていると、再び4のように、パターン孔内面全体に不動態膜が生成されてそれが絶縁被膜として作用するようになる。そこで、再び5のように、パターン孔底面の絶縁被膜をレーザ照射により除去し、電解加工を行い、パターン孔が貫通するまで繰り返す。
【0011】
図2は、本発明の加工方法を実施するための加工装置の一例を示した図であって、金属製管にパターン孔を形成する場合に適用したものである。
図において、加工物である金属製管の外表面全体には、既に前記1の工程で絶縁被膜が形成されているものを用いる。金属製管は、電解槽の電解液中に一部浸漬した状態で、図中の矢印の向きに回転されて順次各工程ステージを繰り返しおこなえるように、管軸を回転軸として、管軸を水平な状態で回転支持されている。電解槽中には電極が設けられ、該電極(負極)と金属製管(陽極)とに、電解加工のための電圧を印加する電源を備えている。
レーザ照射ステージには、レーザ照射装置が設けられており、レーザ照射装置はパターン孔形成位置に沿って移動して、前記2の工程の絶縁被膜除去、及び、前記5の工程のパターン孔底面の絶縁被膜をレーザ照射により除去する絶縁被膜除去2工程を実施する。このとき、パターン孔内底部に堆積していた電解加工の電解生成物があれば、前記レーザ照射によって電解生成物も同時に除去されるので、その後の電解加工が支障なく行え、また、レーザ照射によりパターン孔内に堆積した電解生成物のみを除去するにとどめた場合であっても、次の工程で電解加工を行うことによりパターン孔をさらに深く形成することができる。なお、レーザ照射ステージには、レーザ照射位置に酸化防止のために不活性ガス等のガス供給2を吹き付けるノズルを備えている。また、電解液中から回転上昇してきた金属製管の表面に付着している電解液を吹き飛ばし乾燥するためのガス供給1を吹き付けるノズルが設けられている。
【0012】
上記の装置を用いて本発明の加工方法を実施するには、まず、前記1の工程を別途実施して、金属製管の外表面全体に絶縁被膜を形成しておく。外表面全体に絶縁被膜が形成された金属製管を、上記装置に装着する。なお、電解加工により生成される不動態膜を絶縁被膜として利用する場合には、電解槽で電解加工を施して生成された不導体膜を絶縁被膜として利用する。
次に、レーザ照射ステージにおいて、レーザ照射装置をパターン孔形成位置に沿って移動して、前記2の工程の絶縁被膜除去を行う。このとき、レーザ照射位置に、不活性ガスなどのガス供給2のガスをノズルで吹き付け、酸化防止をはかる。なお、絶縁被膜としてフォトレジスト樹脂を用いる場合には、露光・現像のフォトレジスト法によって予めパターン孔形成部分の絶縁被膜は除去しておくので、前記2の工程までが別途既に実施されている。
次に、金属製管を回転移動し、前記2の工程が実施された部分を電解液中に浸漬して電解加工を行い、電解液中で、前記3の工程及び4の工程を行う。電解加工により不動態膜が生成され、生成された不動態膜が絶縁被膜として機能するようになったら、金属製管を回転し、ガス供給1のガスをノズルから吹き付けて電解液を吹き飛ばし乾燥させる。
次に、レーザ照射ステージにおいて、レーザ照射装置をパターン孔形成位置に沿って移動して、前記5の工程のパターン孔底部の絶縁被膜除去2を行う。なお、酸化防止のために不活性ガス等のガス供給2を、レーザ照射位置に吹き付ける。
次に、金属製管を回転移動し、前記5の工程が実施された部分を電解液中に浸漬して電解加工を行い、電解液中で、前記3の工程及び4の工程を行う。電解加工により不動態膜が生成され、生成された不動態膜が絶縁被膜として機能するようになったら、前記5の工程→前記3の工程→前記4の工程を繰り返し実施して、パターン孔が貫通するまで行う。
【0013】
なお、本発明の加工方法の説明は、ステントのパターン孔を形成することを前提に説明したが、ステントの加工に限らず、電解加工により不動態膜が形成される金属材料であれば、孔(非貫通孔及び貫通孔)を形成する加工方法として、適用可能であり、また、形状についても、管以外の形状であっても適用可能である。
また、レーザ照射に代えて、イオンビーム照射を採用してもよい。
【0014】
図3は、本発明の加工方法を実施するための加工装置の他の例を示した図である。図3の装置で、図2と異なる主な点は、加工物である金属製管は、管軸を回転軸として、管軸を垂直な状態で回転支持されており、レーザ照射装置は、電解槽の壁に設けた窓を通して、電解液中に浸漬している部分にレーザ照射を行うよう配置されている点が異なっている。また、2の工程、3の工程、4の工程、5の工程は、電解液中で行われるので、ガス供給1及びガス供給2のためのノズルは無い。
【0015】
図3の装置を用いて本発明の加工方法を実施するには、図2の装置と同様に、まず、上記1の工程を別途実施して、金属製管の外表面全体に絶縁被膜を形成しておき、外表面全体に絶縁被膜が形成された金属製管を、図3の装置に装着する。
次に、レーザ照射ステージにおいて、電解槽の槽壁に設けた窓から電解液中を通して、レーザをパターン孔形成位置に沿って照射して、上記2の工程の絶縁被膜除去を行う。
次に、金属製管を回転移動し、上記2の工程が実施された部分を電極に対向させて電解加工を行い、電解液中で、上記3の工程及び4の工程を行う。
次に、電解加工により不動態膜が生成され、生成された不動態膜が絶縁被膜として機能するようになったら、金属製管を回転し、レーザ照射ステージにおいて、レーザ照射装置をパターン孔形成位置に沿って移動して、上記5の工程のパターン孔底部の絶縁被膜除去2を行う。このとき、パターン孔内底部に堆積していた電解加工の電解生成物があれば、前記レーザ照射によって電解生成物も同時に除去されるので、その後の電解加工が支障なく行え、また、レーザ照射によりパターン孔内に堆積した電解生成物のみを除去するにとどめた場合であっても、次の工程で電解加工を行うことによりパターン孔をさらに深く形成することができる。
次に、金属製管を回転移動し、上記5の工程が実施された部分を電極に対向させて電解加工を行い、上記3の工程及び4の工程を行う。電解加工により不動態膜が生成され、生成された不動態膜が絶縁被膜として機能するようになったら、前記5の工程→前記3の工程→前記4の工程を繰り返し実施して、パターン孔が貫通するまで行う。
なお、上記図2の装置と同様に、1の工程の絶縁被膜として、電解加工により生成される不動態膜を絶縁被膜として利用することもできるし、また、絶縁被膜としてフォトレジスト樹脂を用いる場合には、露光・現像のフォトレジスト法によって予めパターン孔形成部分の絶縁被膜は除去しておくこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の加工方法により、レーザ加工による熱的影響層や溶融凝固物が発生しない微細なパターン孔を形成する加工方法を実現でき、血小板の付着量を削減し、血管・赤血球の損壊を低減したステントの加工方法として好適であるが、ステント以外にも、電解加工により不動態膜が形成される金属材料であれば、孔(非貫通孔及び貫通孔)を形成する加工方法として、適用可能であり、また、管以外の形状であっても適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製管の外表面全体に絶縁被膜を形成する第1の工程と、
前記絶縁被膜のうち、パターン孔を形成する部分の絶縁被膜を除去する第2の工程と、
前記絶縁被膜を除去した部分から電解加工により金属を除去しパターン孔を形成する第3の工程と、
前記電解加工を続けているうちにパターン孔内面全体に不動態膜が生成され、それが絶縁被膜として作用するようになった絶縁被膜コート工程である第4の工程と、
前記第4の工程でパターン孔内面全体に生成された被膜のうち、パターン孔底面の被膜をレーザ照射により除去する第5の工程と、
前記第5の工程でパターン孔底面の被膜が除去された部分から、電解加工により金属を除去する第6の工程と、
以下、パターン孔が貫通するまで、上記第4の工程、上記第5の工程、上記第6の工程を繰り返すことを特徴とするパターン孔を有する金属製管の加工方法。
【請求項2】
上記金属製管は、Fe,Ni,Co,Cr,Ti,Nb,Ta,Alなど、及び、これらを主体とする合金からなることを特徴とする請求項1記載のパターン孔を有する金属製管の加工方法。
【請求項3】
上記パターン孔を有する金属製管は、医療用ステントであることを特徴とする請求項1又は2記載のパターン孔を有する金属製管の加工方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のパターン孔を有する金属製管の加工方法により加工されたことを特徴とするパターン孔を有する金属製管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−24741(P2011−24741A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172626(P2009−172626)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】