説明

熱応答補正システム

サーマルプリントヘッド素子へのエネルギ提供に対して、そのサーマルプリントヘッド素子の熱応答を時間経過とともにモデル化するサーマルプリントヘッドモデルが提供される。このサーマルヘッドプリントモデルは、(1)サーマルプリントヘッドの現在の周囲温度と、(2)プリントヘッドのエネルギ履歴と、(3)印刷媒体の現在温度とに基づいて、各プリントヘッドサイクル開始時における各サーマルプリントヘッド素子の温度予測を生成する。所望の濃度を有するスポットを生成するために、プリントヘッドサイクルの間にプリントヘッド素子のそれぞれに提供するエネルギ量は、(1)そのプリントヘッドサイクルの間に、プリントヘッド素子によって生成される所望の濃度と、(2)そのプリントヘッドサイクル開始時におけるプリントヘッド素子の予測温度とに基づいて計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景)
(発明の分野)
本発明は、感熱印刷に関する。より具体的には、サーマルプリントヘッド上での熱履歴の影響を補償することによってサーマルプリンタの出力を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術)
サーマルプリンタは、典型的には、加熱素子(本明細書では、また、「プリントヘッド素子」とも称する)の線形アレイを含む。この加熱素子は、例えば、ドナーシートから出力媒体に、ピグメントを転写することによって、あるいは、出力媒体でカラー形成反応を開始することによって、出力媒体上に印刷する。出力媒体は、典型的には、転写されたピグメントを受ける多孔性受容体、あるいはカラー形成化学を用いてコーティングされた紙である。プリントヘッド素子のそれぞれは、活性化されたとき、プリントヘッド素子の下を通る媒体上にカラーを形成し、特定の濃度を有するスポットを形成する。大きなスポットまたは濃いスポットの領域は、小さなスポットまたは濃くないスポットの領域より、より濃く認識される。デジタル画像は、非常に小さく、狭い間隔を空けたスポットの二次元アレイとしてレンダリングされる。
【0003】
サーマルプリントヘッド素子は、その素子にエネルギを提供することで活性化される。プリントヘッド素子にエネルギを提供すると、プリントヘッド素子の温度が上昇し、その結果、出力媒体へ着色剤(colorant)が転写されるか、あるいは出力媒体にカラーが形成されるかのいずれかが起こる。このような方法で、プリントヘッド素子によって生成される出力濃度は、プリントヘッド素子に提供されるエネルギ量の関数である。プリントヘッド素子に提供されるエネルギ量は、例えば、特定の時間インターバル内のプリントヘッド素子への電力量を変動させることよって、あるいは、より長い時間インターバルにわたってプリントヘッド素子に電力を提供することによって、変動し得る。
【0004】
従来のサーマルプリンタにおいて、デジタル画像が印刷されている間の時間は、本明細書にて、「プリントヘッドサイクル」と称される複数の固定時間インターバルに分けられる。典型的には、デジタル画像におけるピクセルの単一のロー(または、その一部)は、単一のプリントヘッドサイクルの間に印刷される。各プリントヘッド素子は、典型的には、デジタル画像の特定のカラムの中のピクセル(またはサブピクセル)を印刷する役目を担っている。各プリントヘッドサイクルの間、各プリントヘッド素子に提供されるエネルギ量は、そのプリントヘッド素子の温度が上昇して、その結果、所望の濃度を有する出力をプリントヘッド素子が生成するレベルになるように計算される。プリントヘッド素子によって生成されるべき所望の濃度の変動に基づいて、エネルギ量の変動が、異なるプリントヘッド素子に提供され得る。
【0005】
従来のサーマルプリンタにおける一つの問題は、そのプリントヘッド素子が、各プリントヘッドサイクル終了後に、熱を保持するという事実から生じる。この熱保持は、厄介な問題となり得る。なぜなら、一部のサーマルプリンタにおいて、特定のプリントヘッドサイクルの間、特定のプリントヘッド素子に、提供されるエネルギ量は、典型的には、プリントヘッドサイクル開始時におけるプリントヘッド素子の温度が、既知の固定温度であるという仮定に基づいて、計算されるからである。現実には、プリントヘッドサイクルの開始時におけるプリントヘッド素子の温度は、(何よりもまず)以前のプリントヘッドサイクルの間に、そのプリントヘッド素子に提供されたエネルギ量に依存するので、プリントヘッドサイクルの間に、そのプリントヘッド素子によって達成される実際の温度は、キャリブレーションされた温度とは異なり得る。それゆえ、望まれるより、高い出力濃度または低い出力濃度となる。同様に、さらなる複雑さは、特定のプリントヘッド素子の現在の温度が、それ自身の以前の温度(本明細書では、「熱履歴」と称する)に影響されるのみならず、周囲(室内)温度およびそのプリントヘッド内の他のプリントヘッド素子の熱履歴によっても影響を受けるという事実から生じる。
【0006】
上記の議論から推測され得るように、一部の従来のサーマルプリンタにおいて、デジタル画像の印刷中に、各特定のサーマルプリントヘッド素子の平均温度が、徐々に上昇する傾向にある。これは、プリントヘッド素子による熱保持と、このような熱保持を踏まえたプリントヘッド素子へのエネルギの過剰提供とが原因である。こうして徐々に温度が上昇する結果、それに対応して、プリントヘッド素子によって生成される出力の濃度も徐々に増加する。そのため、印刷画像は、暗さが増したものとして認識される。この現象は、本明細書において、「濃度シフト」と称される。
【0007】
さらに、従来のサーマルプリンタは、典型的には、高速スキャン方向と低速スキャン方向との双方で、隣接するピクセル間で、シャープな濃度勾配を正確に再現することが困難である。例えば、プリントヘッド素子が、白ピクセルに続き、黒ピクセルを印刷すると、典型的に、2つのピクセル間の理想的なシャープなエッジは、印刷されるときに、ぼやける(blurred)。この問題は、白ピクセルを印刷した後、黒ピクセルを印刷するプリントヘッド素子の温度を上昇させるのに必要とされる時間量から生じる。より一般的には、従来のサーマルプリンタは、この特性のために、濃度勾配が高い領域を有する画像を印刷すると、理想のシャープ度より悪くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、必要とされているのは、より精度の高いデジタル画像をレンダリングするために、サーマルプリンタのプリントヘッド素子の温度を制御する改善技術である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(概要)
時間経過とともに、サーマルプリントヘッド素子へのエネルギ提供に対し、そのサーマルプリントヘッド素子の熱応答をモデル化するサーマルプリントヘッドモデルが提供される。このサーマルヘッドプリントモデルは、(1)サーマルプリントヘッドの現在の周囲温度と、(2)プリントヘッドの熱履歴と、(3)プリントヘッドのエネルギ履歴と、(随意で)(4)印刷媒体の現在温度とに基づいて、各プリントヘッドサイクル開始時における各サーマルプリントヘッド素子の温度予測を生成する。所望の濃度を有するスポットを生成するために、プリントヘッドサイクルの間にプリントヘッド素子のそれぞれに提供するエネルギ量は、(1)そのプリントヘッドサイクルの間に、プリントヘッド素子によって生成される所望の濃度と、(2)そのプリントヘッドサイクル開始時におけるプリントヘッド素子の予測温度とに基づいて計算される。
【0010】
本発明による追加の局面および実施形態は、以下に、より詳細に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(詳細な説明)
本発明の一局面において、時間経過とともに、サーマルプリントヘッド素子へのエネルギ提供に対し、そのサーマルプリントヘッド素子の熱応答をモデル化するサーマルプリントヘッドモデルが提供される。サーマルプリンタのプリントヘッド素子の温度履歴は、本明細書ではプリントヘッドの「熱履歴」と称される。時間経過につれてのプリントヘッド素子へのエネルギ分布は、本明細書にて、サーマルプリンタの「エネルギ履歴」と称される。
【0012】
特に、このサーマルヘッドプリントモデルは、各プリントヘッドサイクル開始時における各サーマルプリントヘッド素子の温度予測を、(1)サーマルプリントヘッドの現在の周囲温度と、(2)プリントヘッドの熱履歴と、(3)プリントヘッドのエネルギ履歴と、および、(随意で)(4)印刷媒体の現在温度とに基づいて生成する。本発明の一実施形態において、このサーマルヘッドプリントモデルは、あるプリントヘッドサイクル開始時における特定のサーマルプリントヘッド素子の温度予測を、(1)そのサーマルプリントヘッドの現在の周囲温度と、(2)以前のプリントヘッドサイクルの開始時におけるプリントヘッド内のそのプリントヘッド素子および1つ以上の他のプリントヘッド素子の予測温度と、(3)以前のプリントヘッドサイクルの間のプリントヘッド内のそのプリントヘッド素子および1つ以上の他のプリントヘッド素子に提供されたエネルギ量とに基づいて生成する。
【0013】
本発明の一実施形態において、所望の濃度を有するスポットを生成するために、プリントヘッドサイクルの間にプリントヘッド素子のそれぞれに提供するエネルギ量は、(1)プリントヘッドサイクルの間に、プリントヘッド素子によって生成される所望の濃度と、(2)プリントヘッドサイクル開始時におけるプリントヘッド素子の予測温度とに基づいて計算される。このような技術を用いて、ある特定のプリントヘッド要素に提供されるエネルギ量は、従来のサーマルプリンタによって提供されるエネルギ量よりも、多いことも少ないこともあり得ることは理解されるべきである。例えば、濃度ドリフトを補償するために、より少ないエネルギ量が提供され得る。シャープな濃度勾配を生成するために、より多いエネルギ量が提供され得る。本発明における様々な実施形態によって用いられるモデルは、所望の出力濃度の生成に適切なように、入力エネルギを増加あるいは減少させるのに十分な融通性を有する。
【0014】
このサーマルプリントヘッドモデルを使用すると、プリントヘッドの周囲温度および以前に印刷された画像内容に対するプリントエンジンの感度は低下するが、その感度の低下は、プリントヘッド素子の熱履歴に明らかに現われる。
【0015】
例えば、図1を参照すると、画像を印刷するシステムが、本発明の一実施形態に従って示される。このシステムは逆プリンタモデル102を含み、逆プリンタモデル102は、特定のソース画像100を印刷する際に、サーマルプリンタ108の各プリントヘッド素子に提供される入力エネルギ106の量を計算するために用いられる。以下に、図2および図3に関して、より詳細に記載されるように、サーマルプリンタモデル302は、サーマルプリンタ108に提供される入力エネルギ106に基づいて、サーマルプリンタ108によって生成された出力(例えば、印刷画像110)をモデル化する。サーマルプリンタモデル302は、プリントヘッド温度モデルと、媒体応答のモデルとの双方を含むことに留意されたい。逆プリンタモデル102は、サーマルプリンタモデル302のインバースである。より具体的には、逆プリンタモデル102は、ソース画像100(これは、例えば、二次元のグレースケール、あるいはカラーのデジタル画像であり得る)およびサーマルプリンタのプリントヘッドの現在の周囲温度104に基づいて、各プリントヘッドサイクルへの入力エネルギ106を計算する。サーマルプリンタ108は、入力エネルギ106を用いて、ソース画像100の印刷画像110を印刷する。入力エネルギ106は、経過時間とともに変動し得、また各プリントヘッド素子で変動し得ることは理解されるべきである。同様に、プリントヘッドの周囲温度104は、経過時間とともに変動し得る。
【0016】
一般的に、逆プリンタモデル102は、(上記に記載されたように、濃度ドリフトに起因するもの、および媒体応答に起因するもののように)サーマルプリンタ108によって通常生成される歪みをモデル化し、ソース画像100を逆方向に「予め歪ませ」、歪みを効果的に相殺する。歪みを相殺しなければ、印刷画像110を印刷する際に、サーマルプリンタ108によって、歪みが生成される。それゆえ、サーマルプリンタ108に入力エネルギ106を提供すると、印刷画像110に所望の濃度が生成され、したがって、上述された(濃度ドリフトおよびシャープ度の劣化のような)問題を被らない。とくに、印刷画像110の濃度分布は、従来のサーマルプリンタによって典型的に生成される濃度分布よりも、ソース画像100の濃度分布と、より良く合致する。
【0017】
図3に示されるように、サーマルプリンタモデル302は、サーマルプリンタ108(図1)の挙動をモデル化するために使用される。図2においてさらに詳細に記載されるように、サーマルプリンタモデル302は、逆プリンタモデル102の展開に使用され、逆プリンタモデル102は、入力エネルギ106を発生させてサーマルプリンタ108に提供し、サーマルプリンタ108の熱履歴を考慮に入れることによって、印刷画像110の所望の出力濃度を生成する。さらに、サーマルプリンタモデル302は、以下に記載されるように、キャリブレーションの目的にも使用される。
【0018】
サーマルプリンタモデル302をより詳細に説明する前に、一定の表記法が紹介される。ソース画像100(図1)はrのロー(row)とcのカラム(column)を有する二次元の濃度分布dとして見なされ得る。本発明による一実施形態において、サーマルプリンタ108は、各プリントヘッドサイクルの間、ソース画像100の1つのロウを印刷する。本明細書において用いられているように、変数nはディスクリートな時間インターバル(例えば、特定のプリントヘッドサイクル)を表す。したがって、時間インターバルnの開始時におけるプリントヘッドの周囲温度104は、本明細書において、T(n)として表される。同様に、d(n)は時間インターバルnの間に印刷されるソース画像100のロウの濃度分布を表す。
【0019】
同様に、入力エネルギ106は、二次元のエネルギ分布Eとして見なされ得ると理解されるべきである。いま説明した表記法を用いると、E(n)は、時間インターバルnの間に、サーマルプリンタのプリントヘッド素子の線形アレイに適用される一次元エネルギ分布を表す。プリントヘッド素子の予測温度は、本明細書において、Tとして表される。時間インターバルnの開始時におけるプリントヘッド素子に対する線形アレイの予測温度は、本明細書において、T(n)として表される。
【0020】
図3に示されるように、サーマルプリンタモデル302は、各時間インターバルnの入力として、(1)時間インターバルnの開始時のサーマルプリントヘッドの周囲温度T(n)104と、(2)時間インターバルnの間にサーマルプリントヘッド素子に提供される入力エネルギE(n)106とを採る。サーマルプリンタモデル302は、出力として、1回に1つのロウ、予測印刷画像306を生成する。予測印刷画像306は、濃度d(n)の二次元分布として見なされ得る。サーマルプリンタモデル302は、(図2において、以下により詳細に述べられる)ヘッド温度モデル202と、媒体濃度モデル304とを含む。媒体濃度モデル304は、ヘッド温度モデル202によって生成された予測温度T(n)204と、入力エネルギE(n)106とを入力として採り、予測印刷画像306を出力として生成する。
【0021】
図2を参照すると、逆プリンタモデル102の一実施形態が示される。逆プリンタモデル102は、各時間インターバルnの入力として(1)時間インターバルnの開始時におけるプリントヘッドの周囲温度104T(n)と、(2)時間インターバルnの間に印刷されるソース画像100のロウの濃度d(n)とを受け取る。逆プリンタモデル102は、入力エネルギE(n)106を出力として生成する。
【0022】
逆プリンタモデル102は、ヘッド温度モデル202と、逆媒体濃度モデル206とを含む。一般的に、ヘッド温度モデル202は、印刷画像110が印刷される間に、時間の経過とともに、プリントヘッド素子の温度を予測する。より具体的には、ヘッド温度モデル202は、特定の時間インターバルnの開始時におけるプリントヘッド素子の温度T(n)の予測を、(1)プリントヘッドの現在の周囲温度T(n)104と、(2)時間インターバルn−1の間にプリントヘッド素子に提供された入力エネルギE(n−1)とに基づいて出力する。
【0023】
一般的に、逆媒体濃度モデル206は、時間インターバルnの間のプリントヘッド素子それぞれに提供するエネルギE(n)106の量を、(1)時間インターバルnの開始時のプリントヘッド素子それぞれの予測温度T(n)と、(2)時間インターバルnの間のプリントヘッド素子によって出力されるべき所望の濃度d(n)100とに基づいて、計算する。入力エネルギE(n)106は、次の時間インターバルn+1の間に用いるためにヘッド温度モデル202に提供される。逆媒体濃度モデル206は、従来のサーマルプリンタによって典型的に使用される技術とは異なり、エネルギE(n)106を計算する際に、プリントヘッド素子の現在の(予測)温度T(n)と温度依存媒体応答との双方を考慮に入れることによって、熱履歴および他のプリンタ起因の欠陥の影響に対して、改善された補償を達成することは、理解されるべきである。
【0024】
図2に明示されないが、ヘッド温度モデル202は、予測温度T(n)の少なくともいくつかを内部に格納し得、それゆえ、(T(n−1)のような)以前の予測温度も、また、T(n)を計算する際に用いるためのヘッド温度モデル202への入力であると考えられ得ることは、理解されるべきである。
【0025】
図4を参照すると、逆媒体濃度モデル206の一実施形態(図2)が、ここで、より詳細に記載される。逆媒体濃度モデル206は、各時間インターバルnの間に入力として、(1)ソース画像濃度d(n)100と、(2)時間インターバルnの開始時でのサーマルプリントヘッド素子の予測温度T(n)とを受け取る。逆媒体濃度モデル206は、入力エネルギE(n)106を出力として生成する。
【0026】
換言すると、逆媒体濃度モデル206によって定義された伝達関数は、二次元関数E=F(d,T)である。非サーマルプリンタにおいて、入力エネルギEと出力濃度dとを関連付ける伝達関数は、典型的には、一次元関数d=Γ(E)であり、本明細書で、ガンマ関数と称される。サーマルプリンタにおいて、このようなガンマ関数は、一意的ではない。なぜなら、出力濃度dは、入力エネルギEに依存するだけでなく、現在のサーマルプリントヘッド素子の温度にも依存するからである。しかしながら、ガンマ関数d=Γ(E)が測定されたときにプリントヘッド素子の温度を表す第二の関数TΓ(d)が導入される場合、関数Γ(E)とTΓ(d)との組み合わせが、サーマルプリンタの応答を一意的に記述する。
【0027】
一実施形態において、上述の関数E=F(d,T)は、数式1:
E=Γ−1(d)+S(d)(T−TΓ(d)) (数式1)
によって示される形式を用いて表される。
【0028】
この数式は、所望の濃度を提供する正確なエネルギの(T−TΓ(d))のテイラー級数展開の最初の2項と解釈され得る。数式1において、Γ−1(d)は、上述の関数Γ(E)の逆であり、S(d)は、任意の形式(その一例がより詳細に後述される)を採り得る感度関数である。数式1は、Γ−1(d)、S(d)、およびTΓ(d)という3つの一次元関数を用いる二次元関数E=F(d,T)を表すことに留意されたい。本発明の一実施形態において、逆媒体濃度モデル206は、図4に図式的に示されるように、入力エネルギE(n)106を計算するために数式1を用いる。プリントヘッド素子のリファレンス温度TΓ(d)408は、温度差ΔT(n)を求めるために、プリントヘッド素子の現在の(予測)温度T(n)(これは、例えば、ヘッド温度モデル202によって生成されるか、または、実際の温度測定値であり得る)から引かれる。温度差ΔT(n)は、補正係数ΔE(n)を生成するために、感度関数S(d)406の出力で乗算され、かつ、入力エネルギE(n)106を生成するために、Γ−1(d)404によって出力された未補正エネルギEΓ(n)に加算される。補正係数ΔE(n)は、それに従って実行されたキャリブレーションを用いて、ログドメインまたは線形ドメインのいずれかにおいて、計算され、適用され得ることは理解されるべきである。
【0029】
本発明の一実施形態に従う数式1の代替的インプリメンテーションが、ここで記載される。数式1は、数式2:
E=Γ−1(d)−S(d)TΓ(d)+S(d)T (数式2)
と、書き直され得る。
【0030】
一実施形態において、項Γ−1(d)−S(d)TΓ(d)は、1つの一次元関数G(d)として表されて、格納され、これにより、数式2は、
E=G(d)+S(d)T (数式3)
と、書き直され得る。実際、数式3を用いて、Eの値は、dの値に基づいて、2つのルックアップG(d)およびS(d)を用いて計算され得る。このような表現は、様々な理由で有利であり得る。例えば、二次元関数としてのE=F(d,T)をソフトウェアおよび/またはハードウェアで直接インプリメントすると、エネルギEを計算するために、大量のストレージ、または著しい数の計算が必要とされ得る。対照的に、一次元関数G(d)およびS(d)は、比較的小量のメモリを用いて格納され得、かつ、逆媒体濃度モデル206は、比較的少ない数の計算を用いて、数式3の結果を計算し得る。
【0031】
ヘッド温度モデル202の一実施形態(図2〜図3)は、ここで、より詳細に記載される。図5Aを参照すると、サーマルプリントヘッド500の模式的側面図が示される。プリントヘッド500は、ヒートシンク502a、セラミック502b、およびグレーズ(glaze)502cを含む幾つかのレイヤを含む。グレーズ502cの下に、プリントヘッド素子520a〜i線形アレイがある。説明を容易にするために、図5Aには9個の加熱素子520a〜iしか示されないが、典型的なサーマルプリントヘッドは、1インチ当たりに数百個の非常に小さく、狭い間隔を空けたプリントヘッド素子を有することは理解されるべきである。
【0032】
上述のように、プリントヘッド素子520a〜iを加熱するために、これらにエネルギが提供され、これにより、プリントヘッド素子は、出力媒体に色素を転写する。プリントヘッド素子520a〜iによって生成された熱は、レイヤ502a〜cを介して上方に拡散する。
【0033】
個々のプリントヘッド素子520a〜iの温度をある時間経過とともに(例えば、デジタル画像が印刷されている間)、直接測定することは、困難であり得るか、あるいは過度な負担がかかり得る。それゆえ、本発明の一実施形態において、プリントヘッド素子520a〜iの温度をある期間にわたって予測するために、プリントヘッド素子520a〜iの温度を直接測定するのではなく、むしろ、ヘッド温度モデル202が用いられる。特に、ヘッド温度モデル202は、(1)プリントヘッド500の周囲温度と、(2)プリントヘッド素子520a〜iに以前に提供されたエネルギとに関する知見を用いて、プリントヘッド素子520a〜iの熱履歴をモデル化することによって、プリントヘッド素子520a〜iの温度を予測し得る。プリントヘッド500の周囲温度は、ヒートシンク512上のあるポイントにおける温度T(n)を測定する温度センサ512を用いて測定され得る。
【0034】
ヘッド温度モデル202は、様々な方法のいずれかで、プリントヘッド素子520a〜iの熱履歴をモデル化し得る。例えば、本発明の一実施形態において、ヘッド温度モデル202は、プリントヘッド素子520a〜iの現在の温度を予測するために、温度センサ512によって測定された温度T(n)を、プリントヘッド500のレイヤを介して、プリントヘッド素子520a〜iから温度センサ512への熱拡散モデルとともに用いる。しかしながら、ヘッド温度モデル202は、プリントヘッド素子520a〜iの温度を予測するために、プリントヘッド500を介する熱拡散をモデル化する以外の技術を用い得ることが理解されるべきである。
【0035】
図5Bを参照すると、本発明の一実施形態による、ヘッド温度モデル202によって用いられる三次元空間・時間グリッド530が図式的に示される。一実施形態において、マルチ分解能熱伝播モデルは、プリントヘッド500を介する熱の伝播をモデル化するために、グリッド530を用いる。
【0036】
図5Bに示されるように、グリッド530の1つの次元がi軸でラベル付けされる。グリッド530は、3つの分解能532a〜cを含み、そのそれぞれは、iの別個の値に対応する。図5Bに示されるグリッド530に関して、i=0は、分解能532cに対応し、i=1は、分解能532bに対応し、i=2は、分解能532aに対応する。それゆえ、変数iは、本明細書中で「分解能の数(resolution number)」と称される。3つの分解能532a〜cが図5Bのグリッド530に示されるが、これは、単なる例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。むしろ、ヘッド温度モデル202によって用いられる時間・空間グリッドは、任意の数の分解能を有し得る。本明細書中で用いられるように、変数nresolutionsは、ヘッド温度モデル202によって用いられる空間・時間グリッドの分解能の数を意味する。例えば、図5Bに示されるグリッド530に関しては、nresolutions=3である。iの最大値は、nresolutions−1である。
【0037】
さらに、プリントヘッド500(図5A)において、レイヤの数と同じ数の分解能があり得るが、これは、本発明の必要条件ではない。むしろ、分解能の数は、材料の物理的レイヤよりも多いことも、少ないこともあり得る。
【0038】
三次元グリッド530の分解能532a〜cのそれぞれは、参照点の二次元グリッドを含む。例えば、分解能532cは、集合的に参照番号534と称される参照点の9×9アレイを含む(説明を容易にするために、分解能532cにおける参照点のただ1つのみが参照番号534でラベル付けされる)。同様に、分解能532bは、集合的に参照番号536と称される参照点の3×3アレイを含み、分解能532aは、単一の参照点538を含む1×1アレイを含む。
【0039】
図5Bにさらに示されるように、j軸は、分解能532a〜cのそれぞれの1つの次元(高速走査方向)をラベル付けする。一実施形態において、j軸は、j=0で開始して、左から右へと伸び、最大値のjmaxまで、各参照点で1ずつ増加する。図5Bにさらに示されるように、n軸は、分解能532a〜cのそれぞれにおける第二の次元をラベル付けする。一実施形態において、n軸は、n=0で開始して、各参照点で1ずつ大きくなる矢印に対応して示される方向に(すなわち、図5Bの平面に対して)伸びる。説明を容易にするために、以下の記載において、分解能iにおけるnの特定の値は、分解能iにおける参照点の対応する「ロウ(row)」を意味すると述べられる。
【0040】
一実施形態において、n軸は、連続したプリントヘッドサイクルのようにディスクリートな時間インターバルに対応する。例えば、n=0は、第一のプリントヘッドサイクルに対応し得、n=1は、後続のプリントヘッドサイクルに対応し得るなどである。その結果、一実施形態において、n次元は、本明細書において、空間・時間グリッド530の「時間」次元と称される。サーマルプリンタ108がオンにされるとき、あるいはデジタル画像の印刷が開始されたとき、プリントヘッドサイクルは、例えば、n=0で開始して、順次、番号付けされ得る。
【0041】
しかしながら、nは、一般的に、時間インターバルを意味し、この持続時間は、単一のプリントヘッドサイクルの持続時間と等しいことも、等しくないこともあり得ることは理解されるべきである。さらに、nが対応する時間インターバルの持続時間は、異なる分解能532a〜cのそれぞれに対して異なり得る。例えば、一実施形態において、分解能532c(i=0)における変数nによって参照される時間インターバルは、単一のプリントヘッドサイクルに等しく、これに対して、他の分解能532a〜bにおける変数nによって参照される時間インターバルは、単一のプリントヘッドサイクルよりも長い。
【0042】
一実施形態において、分解能532c(この場合、i=0)における参照点534は、特別な重要性を有する。この実施形態において、分解能532cにおける参照点の各ロウは、プリントヘッド500(図5A)におけるプリントヘッド素子520a〜iの線形アレイに対応する。例えば、i=0およびn=0の場合の参照点534a〜iのロウを考慮されたい。一実施形態において、これらの参照点534a〜iのそれぞれは、図5Aに示されるプリントヘッド素子520a〜iの1つに対応する。例えば、参照点534aは、プリントヘッド素子520aに対応し得、参照点534bは、プリントヘッド素子520bに対応し得るなどである。分解能532cにおける参照点の残りのロウのそれぞれと、プリントヘッド素子520a〜iとの間に同じ対応関係が当てはまり得る。参照点のロウ内にある参照点と、プリントヘッド500におけるロウに配置されたプリントヘッド素子との間に、この対応関係があるために、一実施形態において、j次元は、空間・時間グリッド530の「空間」次元と称され得る。ヘッド温度モデル202によって、この対応関係がどのように用いられ得るかの例は、以下に、より詳細に後述される。
【0043】
j次元およびn次元のこれらの意味を用いることによって、分解能532cにおける参照点534(この場合、i=0)のそれぞれは、特定の時点(例えば、特定のプリントヘッドサイクルの開始時)でのプリントヘッド素子520a〜iの特定の1つに対応することが見出され得る。例えば、j=3およびn=2は、時間インターバルn=2の開始時の(プリントヘッド素子520dに対応する)参照点540を意味する。
【0044】
一実施形態において、分解能532c(i=0)における座標(n,j)の参照点534のそれぞれと関連した絶対温度値Tは、時間インターバルnの開始時でのプリントヘッド素子jの予測絶対温度を表す。さらに、分解能532c(i=0)における座標(n,j)の参照点534のそれぞれと関連したエネルギ値Eは、時間インターバルnの間にプリントヘッド素子jに提供されるべきエネルギ量を表す。
【0045】
以下に、より詳細に記載されるように、本発明の一実施形態において、ヘッド温度モデル202は、時間インターバルnごとの開始時での分解能532cのロウnにおける参照点と関連した絶対温度値Tを更新し、これにより、時間インターバルnの開始時でのプリントヘッド素子520a〜iの絶対温度を予測する。以下に、さらに、より詳細に記載されるように、ヘッド温度モデル202は、更新された温度値Tおよび所望の出力濃度dに基づいて、各時間インターバルnの開始時での分解能532cのロウnにおける参照点と関連したエネルギ値Eを更新する。その後、プリントヘッド素子520a〜iにエネルギEが提供され、所望の濃度を有する出力を生成する。
【0046】
グリッド530の分解能532cの各ロウにおける参照点と、プリントヘッド500におけるプリントヘッド素子との間の1対1の対応関係は必要ないことが理解されるべきである。例えば、そのような各ロウにおける参照点の数は、プリントヘッド素子の数よりも多いことも、または少ないこともあり得る。分解能532cの各ロウにおける参照点の数がプリントヘッド素子の数と等しくない場合、参照点の温度予測は、例えば、任意の形式の補間またはデシメーション(decimation)を用いて、プリントヘッド素子にマッピングされ得る。
【0047】
より一般的には、分解能532c(i=0)は、プリントヘッド素子520a〜iの一部または全部を含む領域をモデル化する。モデル化される領域は、例えば、プリントヘッド素子520a〜iによって占められる面積と等しいことも、これよりも大きいことも、あるいはこれよりも小さいこともあり得る。分解能532cの各ロウにおける参照点の数は、モデル化された領域におけるプリントヘッド素子の数よりも大きいことも、少ないことも、あるいはこれと等しいこともあり得る。例えば、モデル化された領域が、プリントヘッド素子520a〜iの全部によって占められる面積よりも大きい場合、分解能532cにおける各ロウの各端部(end)での1つ以上の参照点は、第一のプリントヘッド素子520aの前、および最後のプリントヘッド素子520iの後に伸びる「バッファゾーン」に対応し得る。バッファゾーンが用いられ得る一つの方法は、数式8に関して、以下に、さらに詳細に記載される。
【0048】
ヘッド温度モデル202は、様々な方法のいずれかで、参照点534の温度予測を生成し得る。例えば、図5Bに示されるように、グリッド530は、さらなる参照点536および538を含む。以下に、より詳細に記載されるように、ヘッド温度モデル202は、参照点536および538の中間的な温度およびエネルギの値を生成し、これらは、参照点534と関連した最終の温度予測Tおよび入力エネルギEを生成するために用いられる。参照点536および538と関連した絶対温度値Tは、プリントヘッド500内の絶対温度の予測に対応し得るが、対応しなくてもよい。このような温度値は、例えば、分解能532cにおける参照点534の絶対温度予測Tを生成する際に用いるために有用な中間値を構成するに過ぎない。同様に、参照点536および538と関連したエネルギ値Eは、プリントヘッド500内の熱の蓄積の予測に対応し得るが、対応しなくてもよい。このようなエネルギ値は、例えば、分解能532cにおける参照点534の温度値を生成する際に用いるために有用な中間値を構成するに過ぎない。
【0049】
一実施形態において、また、相対温度値Tは、空間グリッド530における参照点のそれぞれとも関連付けられ得る。特定の分解能iにおける参照点の相対温度値Tは、上方の分解能i+1における対応する参照点の絶対温度に対して相対的な温度値である。以下に、より詳細に記載されるように、「対応する」参照点は、分解能i+1における補間された参照点を意味し得る。
【0050】
特定の分解能における参照点のn座標およびj座標は、記号表記(n,j)を用いて表現される。本明細書において用いられるように、上付き文字(i)は、分解能の数(すなわち、iの値)を示す。それゆえ、表現E(i)(n,j)は、分解能iにおける座標(n,j)を有する参照点と関連したエネルギ値を意味する。同様に、T(i)(n,j)は、分解能iにおける座標(n,j)を有する参照点と関連した絶対温度値を意味し、T(i)(n,j)は、分解能iにおける座標(n,j)を有する参照点と関連した相対温度値を意味する。分解能532c(ただし、i=0)における参照点には特別の意味を有するので、一実施形態において、表現E(0)(n,j)は、時間インターバルnの間のプリントヘッド素子jに提供された入力エネルギの量を意味する。同様に、T(0)(n,j)は、時間インターバルnの開始時におけるプリントヘッド素子jの予測絶対温度を意味し、T(0)(n,j)は、時間インターバルnの開始時におけるプリントヘッド素子jの予測相対温度を意味する。
【0051】
以下の記載において、サフィックス(suffix)(*,*)は、時間次元および空間次元の全ての参照点を意味する。例えば、E(k)(*,*)は、分解能kにおける全ての参照点のエネルギを示す。記号表記I(k)(m)は、分解能kから分解能mまでの補間演算子またはデシメーション演算子を示す。ここで、k>mのとき、I(k)(m)は、補間演算子として機能し、k<mのとき、I(k)(m)は、デシメーション演算子として機能する。グリッド530の特定の分解能の二次元アレイの値(例えば、E(k)(*,*))に適用された場合、上述のように、演算子I(k)(m)は、新しい値のアレイを生成するために、kおよびmの値に基づいて、空間(すなわち、j軸に沿う)次元および時間(すなわち、n軸に沿う)次元の双方で演算する二次元の補間演算子またはデシメーション演算子である。演算子I(k)(m)を適用することによって生成されたアレイにおける値の数は、グリッド530の分解能mにおける参照点の数に等しい。演算子I(k)(m)の適用は、プレフィクスの形式で示される。例えば、I(k)(m)(k)(*,*)は、エネルギE(k)(*,*)への演算子I(k)(m)の適用を示す。演算子I(k)(m)の使用は、以下に記載される特定の例により、さらに明確になる。
【0052】
演算子I(k)(m)は、任意の補間法またはデシメーション法を用い得る。例えば、本発明の一実施形態において、演算子I(k)(m)によって用いられるデシメーション関数は、算術平均であり、補間法は、線形補間である。
【0053】
相対温度値T(i)(n,j)は、レイヤi+1における「対応する」絶対温度値T(i+1)に対して相対的であることは上述された。ここで、この「対応する」絶対温度値が、より厳密には(I(i+1)(i)(i+1))(n,j)を意味し、アレイにおける座標(n,j)における参照点の絶対温度値は、補間演算子I(i+1)(i)をT(i+1)(*,*)に適用することによって生成されることが明らかである。
【0054】
一実施形態において、ヘッド温度モデル202は、相対温度値T(i)(n,j)を数式4:
(i)(n,j)=T(i)(n−1,j)α+A(i)(n−1,j) (数式4)
を用いて、以前の相対温度値と、以前の時間インターバルにおいて蓄積されたエネルギとの重み付き結合(weighted combination)として生成する。
【0055】
数式4における変数αおよびAは、より詳細に後述されるように、様々な方法のいずれかで推定され得るパラメータである。パラメータαは、プリントヘッドの自然冷却を表し、パラメータAは、蓄積されたエネルギに基づく、プリントヘッドの加熱を表す。また、ヘッド温度モデル202は、数式5:
(nresolutions)(n,*)=T(n) (数式5)
および帰納的数式6:
(i)(*,*)=I(i+1)(i)(i+1)(*,*)+T(i)(*,*)
(i=nresolutions−1,nresolutions−2,・・・,0に対して) (数式6)
を用いて絶対温度値T(i)(n,j)を生成する。
【0056】
より具体的には、Tnresolutions(n,*)は、数式5によってT(n)に初期化され、絶対温度は、温度センサ512によって測定される。数式6は、上述の分解能の相対温度の和として、各分解能に対する絶対温度値Tを帰納的に計算する。
【0057】
一実施形態において、媒体の冷却効果は、数式7:
(0)(n,j)=T(0)(n−1,j)α+A(0)(n−1,j)−αmedia(T(0)(n−1,j)−Tmedia) (数式7)
に示されるように、最精細分解能で、相対温度更新を改変することによって、説明され得る。
【0058】
パラメータαmediaは、媒体への熱損失を制御する。その熱損失は、媒体の導電性と、媒体がプリントヘッドを通過して移動する速度とに依存する。変数Tmediaは、媒体がプリントヘッドに接触する前の絶対温度を示す。数式7に示されるように、熱損失は、プリントヘッドと媒体との間の絶対温度差に比例する。媒体冷却は、最精細分解能にのみ影響を与えるので、数式7は、最精細分解能(すなわち、i=0)に使用されるのみで、数式4は、他のレイヤの全て(すなわち、i>0)の相対温度を更新するために使用される。
【0059】
一実施形態において、数式6および数式7によって生成された相対温度T(i)(n,j)は、j=0,・・・,jmaxに対して、数式8:
(i)(n,j)=(1−2k)T(i)(n,j)+k(T(i)(n,j−1)+T(i)(n,j+1)) (数式8)
によってさらに改変される。
【0060】
数式8は、プリントヘッド素子間の横方向の熱伝達を表す。ヘッド温度モデルに横方向の熱伝達を含めた結果、逆プリンタモデルにおける画像の横方向のシャープ度を補償する。数式8は、(参照点jと、位置j+1およびj−1にある2つの最隣接点とからなる)三点カーネル(three−point kernel)を用いるが、これは、本発明を制約するものでないことは理解されるべきである。むしろ、任意のサイズのカーネルが、数式8において用いられ得る。境界条件がT(i)(n,j)に提供されなければならず、ここで、j=0およびj=jmaxであり、これにより、j=−1およびj=jmax+1に対するT(i)(n,j)の値が、数式8において用いるために提供され得る。例えば、T(i)(n,j)は、j=−1およびj=jmax+1に対して、0に設定され得る。代替として、T(i)(n,−1)に、T(i)(n,0)の値が割り当てられ得、T(i)(n,jmax+1)にT(i)(n,jmax)の値が割り当てられ得る。これらの境界条件は、単に例の目的として提供されるに過ぎず、本発明を制約するものではない。むしろ、任意の境界条件が使用され得る。
【0061】
一実施形態において、エネルギE(0)(n,j)(すなわち、時間インターバルnの間、プリントヘッド素子520a〜iに提供されるべきエネルギ)が、数式3から導き出される数式9:
(0)(n,j)=G(d(n,j))+S(d(n,j))T(0)(n,j) (数式9)
を用いて計算される。
【0062】
数式9によって定義された値E(0)(n,j)によって、i>0におけるE(i)(n,j)の値が、i=1,2,・・・,nresolutions−1に対して、数式10:
(i)(n,j)=I(i−1)(i)(i−1)(n,j) (数式10)
を用いて再帰的に計算されることが可能になる。
【0063】
数式4〜数式10が計算され得る順序は、これら数式間の依存性によって拘束される。数式4〜数式10を適切な順序で計算する技術の例は、以下に、より詳細に記載される。
【0064】
ヘッド温度モデル202および媒体濃度モデル304は、以下のようにキャリブレーションされ得る幾つかのパラメータを含む。再び、図1を参照すると、印刷画像110を生成するためにサーマルプリンタ108が用いられ、(ソース画像100として利用される)ターゲット画像を印刷し得る。ターゲット画像を印刷する間、(1)ターゲット画像を印刷するために、サーマルプリンタ108によって使用されるエネルギと、(2)時間経過にわたってのプリントヘッドの周囲温度と、(3)媒体温度とが測定され得る。測定されたエネルギおよび温度は、次いで、入力としてサーマルプリンタモデル302に提供される。サーマルプリンタモデル302によって予測された予測印刷画像306の濃度分布は、ターゲット画像を印刷することによって生成された印刷画像110の実際の濃度分布と比較される。ヘッド温度モデル202および媒体濃度モデル304のパラメータは、次いで、この比較の結果に基づいて改変される。このプロセスは、予測印刷画像110の濃度分布が、ターゲット画像に対応する印刷画像306の濃度分布と十分に合致するまで繰り返される。こうして得られたヘッド温度モデル202および媒体濃度モデル304のパラメータは、次いで、ヘッド温度モデル202および逆プリンタモデル102の逆媒体濃度モデル206(図2)において用いられる。これらのモデルにおいて用いられ得るパラメータの例は、以下に、より詳細に記載される。
【0065】
本発明の一実施形態において、逆媒体モデルに関して検討されたガンマ関数Γ(E)が、数式11:
【0066】
【数1】

(数式11)
に示される非対称S字型関数としてパラメータ化される。ここで、ε=E−Eであり、Eは、エネルギオフセットである。a=0およびb=0のとき、数式11に示されるΓ(E)は、エネルギEに関する対称関数であり、E=Eにおける勾配dmaxσを有する。しかしながら、サーマルプリンタの典型的なガンマ曲線は、非対称的であることが多く、aおよびbの値が0でないことで、より良好に表される。図4を参照して既に記載された関数TΓ(d)は、様々な方法のいずれかで推定され得る。関数TΓ(d)は、例えば、ガンマ関数Γ(E)が測定されたとき、プリントヘッド素子の温度の推定であり得る。このような推定は、ヘッド温度モデルから取得され得る。
【0067】
一実施形態において、感度関数S(d)は、数式12
【0068】
【数2】

(数式12)
に示されるように、p次多項式としてモデル化される。
【0069】
好ましい実施形態において、p=3である三次多項式が用いられるが、これは、本発明を制約するものではない。むしろ、感度関数S(d)は、任意の次数の多項式であり得る。
【0070】
数式11および数式12に示されたガンマおよび感度関数が、単に例の目的で示されたに過ぎず、本発明を制約するものではないことは、理解されるべきである。むしろ、ガンマおよび感度関数の他の数学的形式が用いられ得る。
【0071】
ヘッド温度モデル202がプリントヘッド500の熱履歴をどのようにモデル化するかについて、一般的に記載されたが、上述の技術の適用に関する一実施形態が、ここで、より詳細に記載される。特に、図6Aを参照して、本発明の一実施形態によるソース画像100(図1)を印刷するために用いられるプロセス600のフローチャートが示される。より具体的には、プロセス600は、入力エネルギ106を生成して、ソース画像100およびプリントヘッドの周囲温度104に基づいて、サーマルプリンタ108に提供するために、逆プリンタモデル102によって実行され得る。サーマルプリンタ108は、その後、入力エネルギ106に基づいて印刷画像110を印刷し得る。
【0072】
上述のように、ヘッド温度モデル202は、相対温度T、絶対温度T、およびエネルギEの値を計算し得る。さらに上述されたように、これらの計算を実行するための数式の相互関係は、計算が実行され得る順序に拘束を課す。プロセス600は、適切な順序でこれらの計算を実行し、これにより、入力エネルギE(0)(n,*)を計算して、各時間インターバルnの間、プリントヘッド素子520a〜iに提供する。本明細書で用いられるように、ディスクリートな時間インターバルnの特定の分解能におけるサフィックス(n,*)は、全ての参照点に対する(絶対温度T、相対温度T、またはエネルギE)値を意味する。例えば、E(i)(n,*)は、ディスクリートな時間インターバルnの間の分解能iにおける全ての参照点(すなわち、jの全ての値に対して)のエネルギ値を意味する。プロセス600は、例えば、任意の適切なプログラム言語を用いるソフトウェアでインプリメントされ得る。
【0073】
一実施形態において、プロセス600は、時間インターバルnごとに、時間インターバルnおよび以前の時間インターバルn−1からのエネルギおよび温度のみを参照する。それゆえ、全てのnに対するこれらの量の持続的な格納を維持することは必要でない。二次元アレイ、T(i)(*,*)、T(i)(*,*)、およびE(i)(*,*)は、それぞれ、2つの一次元アレイでしか置換され得ず、下付き文字「new」および「old」は、時間次元の引数(argument)nおよびn−1とそれぞれ置換される。具体的には、中間値を時間インターバルnに格納するために、以下の一次元アレイ:
(1)Told(i)(*)、以前の印刷時間インターバル(すなわち、印刷時間インターバルn−1)からの分解能iにおける全ての参照点の相対温度を格納するためのアレイ(Told(i)(*)は、T(i)(n−1,*)と等価である)と、
(2)Tnew(i)(*)、現在の時間インターバルnの分解能iにおける全ての参照点の相対温度を格納するためのアレイ(Tnew(i)(*)は、T(i)(n,*)と等価である)と、
(3)STold(i)(*)、以前の時間インターバルn−1からの分解能iにおける全ての参照点の絶対温度を格納するためのアレイ(STold(i)(*)は、T(i)(n−1,*)と等価である)と、
(4)STnew(i)(*)、現在の時間インターバルn−1の分解能iにおける全ての参照点の絶対温度を格納するためのアレイ(STnew(i)(*)は、T(i)(n,*)と等価である)と、
(5)Eacc(i)(*)、現在の時間インターバルnの分解能iにおける全ての参照点の現在蓄積されたエネルギを格納するためのアレイ(Eacc(i)(*)は、E(i)(n,*)と等価である)と
が用いられる。
【0074】
補間演算子Iが上述の5つの一次元アレイのいずれかに適用されるとき、その結果は、空間ドメインの一次元の補間またはデシメーションとなることに留意されたい。時間補間は、明示的に格納されたTまたはSTの「old」値および「new」値を参照することによって別々に実行される。
【0075】
プロセス600は、ルーチンInitialize()を呼び出すことによって開始する(ステップ602)。Initialize()ルーチンは、例えば、(1)Tnew(i)(*)およびEacc(i)(*)をiの全ての値(すなわち、i=0からi=nresolutions−1まで)に対して、0(または、何らかの他の所定の値)に初期化し得て、(2)i=0からi=nresolutionsまでの全てのiの値に対して、STnew(i)(*)をT(温度センサ512から読み出す温度)に初期化し得る。
【0076】
プロセス600は、印刷されるべきソース画像100の第一のプリントヘッドサイクルに対応して、nの値を0に初期化する(ステップ604)。プロセス600は、nの値をnmaxの値(ソース画像100を印刷するために必要される印刷ヘッドサイクルの総数)と比較して、ソース画像100全体が印刷されたかどうかを判断する(ステップ606)。nがnmaxよりも大きい場合、プロセス600は終了する(ステップ610)。nがnmaxよりも大きくない場合、nresolutions−1の値でサブルーチンのCompute_Energy()が呼び出される(ステップ608)。
【0077】
Compute_Energy(i)は、入力として分解能の数iを用い、上述の数式に従って、入力エネルギEacc(i)(*)を計算する。図6Bを参照して、一実施形態において、再帰プロセス620を用いてCompute_Energy()がインプリメントされる。以下に、より詳細に記載されるように、Eacc(i)(*)を計算の過程で、プロセス620は、さらに、エネルギEacc(i−1)、Eacc(i−2)(*)、・・・Eacc(0)(*)のそれぞれを特定のパターンで再帰的に計算する。エネルギEacc(0)(*)が計算されるとき、これらのエネルギは、プリントヘッド素子520a〜iに提供され、所望の出力濃度を生成し、nの値がインクリメントされる。
【0078】
より具体的には、プロセス620は、アレイTold(i)の初期化を、これにTnew(i)を割り当てることによって行う(ステップ622)。プロセス620は、i=0であるかどうかを判断する(ステップ623)。i≠0の場合、プロセス620は、数式4を用いて一時的アレイTtemp(i)に値を割り当てることによって時間での相対温度を更新する(ステップ624)。i=0の場合、プロセスは、数式7を用いて、暫定アレイTtemp(i)に値を割り当てることによって、時間における相対温度を更新する(ステップ625)。プロセス620は、数式8を用いて、Tnew(i)に値を割り当てることによって空間における相対温度を更新する(ステップ626)。
【0079】
プロセス620は、次いで、現在および以前の絶対温度STnew(i)(*)およびSTold(i)(*)を計算する。より具体的には、STold(i)(*)の値は、STnew(i)(*)に設定される(ステップ627)。次いで、プロセス620は、数式6を用いて、分解能iにおける相対温度、および分解能i+1における絶対温度に基づいて、分解能iにおける現在の絶対温度を更新する(ステップ628)。補間演算子I(i+1)(i)は、STnew(i+1)(*)に適用され、補間された絶対温度値のアレイを生成する。このアレイの次元は、分解能iの空間次元と等しい。補間された絶対温度値のこのアレイは、Tnew(i)(*)に加算されて、STnew(i)(*)を生成する。このようにして、絶対温度値は、レイヤi+1からレイヤiまで下方に向かって伝播する。絶対温度は、Compute_Energy()によって実行される再帰の結果として、特定のパターンの連続レイヤ間で、時間経過とともに、下方に向かって伝播することは理解されるべきである。
【0080】
プロセス620は、i=0かどうかをテストして、現在、エネルギが、底の(最精細)分解能に対して計算されているかどうかを判断する(ステップ630)。このテストは、下方のレイヤのリファレンス絶対温度を提供するために、絶対温度が時間で補間される必要があるかどうかを判断するために必要である。i=0である場合、絶対温度は、最精細分解能について計算され、時間補間は必要とされない。
【0081】
iが0ではない場合、時間補間が必要とされる。量dec_factor(i)は、分解能iにおける時間次元の参照点の数に対する、分解能i−1におけるその数の比率を表す。それゆえ、dec_factor(i)で補間された絶対温度を生成することが必要である。dec_factor(i)は、iの各値に対して任意の値を有し得ることが理解されるべきである。例えば、dec_factor(i)は、iの各値に対して1と等しくなり得、この場合、当業者に明らかであるように、以下に記載される様々なステップが簡略化され得るか、あるいは省略され得る。同時に、エネルギEacc(i)(*)は、時間次元の全てのdec_factor(i)で補間された点に対して、エネルギEacc(i−1)(*)を累算することによって計算される。これらの2つのタスクは、以下のステップによって達成される。
【0082】
エネルギEacc(i)(*)は、0に初期化される(ステップ634)。アレイStep(i)(*)は、ステップ値を格納して、STold(i)とSTnew(i)との間の補間をするために用いられる。Step(i)(*)における値は、STnew(i)とSTold(i)との間の差をdec_factor(i)で除算することによって初期化される(ステップ636)。
【0083】
図6Cを参照して、プロセス620は、dec_factor(i)反復を有するループに入る(ステップ638)。Step(i)をSTold(i)に加算することによって、STnew(i)に補間値が割り当てられる(ステップ640)。Compute_Energy()は、分解能i−1に対するエネルギを計算するために再帰的に呼び出される(ステップ642)。分解能i−1に対するエネルギが計算され、取得した後、現在の分解能iに対するエネルギEacc(i)(*)が、数式10を用いて部分的に計算される(ステップ644)。
【0084】
数式10において、記号表記は、分解能i−1におけるエネルギの二次元デシメーションを空間および時間で示すことに留意されたい。Eacc(i−1)(*)は、空間次元での分解能i−1における参照点のエネルギを表す一次元アレイであるので、ステップ644は、時間次元のEacc(i)(*)を明示的に平均化することにより、段階的に(step−wise)同じ結果を達成する。ステップ638において開始されたループがその反復の全てを完了するまで、エネルギEacc(i)(*)は、その全体を計算されないことは理解されるべきである。
【0085】
STold(i)には、ステップ638において開始されたループの次の反復に備えて、STnew(i)の値が割り当てられる(ステップ646)。ループは、ステップ640〜646を、合計でdec_factor(i)回実行する。ループの完了時に(ステップ648)、分解能iに対する全てのエネルギEacc(i)(*)が計算され、全ての必要な絶対温度は、より精細な分解能へ向かって下方に伝播している。それゆえ、Compute_energy(i)は、終了し(ステップ650)、制御を開始したCompute_Energy(i+1)に制御を戻す(ステップ644)。制御が最終的にレベルi=nresolutions−1に戻された場合、Compute_Energy(i)は終了し(ステップ650)、ステップ606で制御をプロセス600に戻す。
【0086】
再び、ステップ630に戻って(図6B)、i=0の場合、従って、Compute_Energy()は、底(最精細)分解能のエネルギEacc(0)(*)を計算するよう求められている。一実施形態において、エネルギEacc(0)(*)は、プリントヘッド素子520a〜iに提供されるべきエネルギである。プロセス620は、数式3を用いて、エネルギEacc(0)(*)を計算する(ステップ652)。プロセス620は、エネルギEacc(0)(*)をプリントヘッド素子520a〜iに提供して、所望の濃度d(n,*)を生成する(ステップ654)。
【0087】
上述のように、分解能i=0における参照点の数は、プリントヘッド素子520a〜iの数とは異なり得る(これよりも多いか、あるいは少ない)。参照点が素子よりも少ない場合、絶対温度STnew(0)(*)は、プリントヘッド素子の分解能に補間され、次いで、ステップ652が適用され、ステップ654においてプリントヘッド素子に提供されるべきエネルギEacc(0)(*)を計算する。エネルギEacc(0)(*)は、次いで、分解能i=0に戻ってデシメーションされて、プロセス620が再び開始される。
【0088】
nの値がインクリメントされることは、次のプリントヘッドサイクルへと時間が進んだことを表す(ステップ656)。n>nmax(ステップ658)の場合、ソース画像100の印刷が完了し、プロセス620およびプロセス600の双方が終了する(ステップ660)。n>nmaxでない場合、Compute_Energy(i)は、終了するが(ステップ662)、このことは、Compute_Energy(i)によって用いられる再帰の底入れ(bottoming−out)を表す。ステップ662におけるCompute_Energy(i)の終了は、ステップ644(図6C)でCompute_energy(i+1)に制御を戻す。プロセス600は、デジタル画像の印刷が完了するまでステップ608を繰り返す。
【0089】
それゆえ、図6A〜図6Dに示されるプロセス600およびプロセス620が、上述の熱履歴を補償する技術に従って、デジタル画像(例えば、ソース画像100)を印刷するために用いられ得ることは、理解されるべきである。
【0090】
上述され、より詳細に後述される本発明の様々な実施形態の特徴が、多くの利点を提供することは、理解されるべきである。
【0091】
本発明の様々な実施形態の一つの利点は、これらの実施形態が、上述された「濃度ドリフト」の問題を低減または排除することである。より厳密には、プリントヘッド素子に提供されるべきエネルギを計算する場合に、プリントヘッドの現在の周囲温度、ならびにプリントヘッドの熱履歴およびエネルギ履歴を考慮に入れることによって、プリントヘッド素子は、所望の濃度を生成するために必要な温度だけ、より正確に上昇される。
【0092】
本発明の様々な実施形態のさらなる利点は、プリントヘッド素子520a〜iに提供された入力エネルギE(0)(*,*)を、所望の濃度d(*,*)を生成するのに必要とされ得るか、あるいは望まれ得るように、増加または減少させ得ることである。熱履歴の影響を補償しようとする従来のシステムは、時間の経過に伴うプリントヘッド素子の温度上昇を補償するために、通常、サーマルプリントヘッドに提供されるエネルギ量を減少させる。対照的に、本発明の様々な実施形態によって用いられるモデルは汎用性があるので、これらのモデルは、特定のプリントヘッド素子に提供されるエネルギ量を柔軟に増加または減少させることが可能である。
【0093】
例えば、図7を参照すると、2つのグラフ702および704が、プリントヘッド素子に提供されるエネルギが、時間の経過とともに示される。グラフ702および704の双方とも、2つの高濃度勾配(それぞれ25および50と番号付けされたピクセル位置付近)を含むピクセルのカラムを印刷するために、プリントヘッド素子に提供されたエネルギの量を表す。グラフ702(実線で示される)は、従来のサーマルプリンタによってプリントヘッド素子に提供されるエネルギを表し、グラフ704(破線で示される)は、逆プリンタモデル102の一実施形態によってプリントヘッド素子に提供されるエネルギを表す。グラフ704に示されるように、逆プリンタモデル102は、第一の高濃度勾配において、従来のサーマルプリンタよりも多いエネルギ量を提供する。これは、プリントヘッド素子の温度をより高速で上昇させ、これによって、出力において、よりシャープなエッジを生成する傾向がある。同様に、逆プリンタモデル102は、第二の高濃度勾配において、従来のサーマルプリンタよりも少ないエネルギ量を提供する。これは、プリントヘッド素子の温度をより迅速に低下させ、これによって、出力において、よりシャープなエッジを生成する傾向がある。
【0094】
本発明の様々な実施形態が、上述の図7の検討に基づいて、所望の出力濃度dを生成するために、必要に応じて、プリントヘッド素子に提供されるエネルギ量を柔軟に増加または減少させ得ることは、理解されるべきである。逆プリンタモデル206は柔軟性があるので、(入力エネルギE(n)を生成するために用いられる)補正係数ΔE(n)(図4)を、プリントヘッド素子ごとに、およびプリントヘッドサイクルごとに任意の適切な態様で、および任意の組み合わせで変更することが可能になる。例えば、補正係数ΔE(n)は、正、負、または0の任意の組み合わせであり得る。さらに、特定のプリントヘッド素子jに対する補正係数ΔE(n,j)は、あるプリントヘッドサイクルから次のプリントヘッドサイクルに向かって、増加することも、減少することも、あるいは同じ状態に留まることもあり得る。複数のプリントヘッド素子に対する補正係数は、プリントヘッドサイクルごとに、増加することも、減少することも、あるいは同じ状態に留まることもあり得、その任意の組み合わせである。例えば、第一のプリントヘッド素子jの補正係数は、あるプリントヘッドサイクルから次のプリントヘッドサイクルに向かって増加し得るが、第二のプリントヘッド素子jの補正係数は減少する。
【0095】
逆媒体濃度モデル206によって生成され得る様々な補正係数のこれらの例は、図4に示される逆媒体濃度モデル206の柔軟性を示す単なる例示に過ぎない。より一般的に、逆媒体濃度モデル206がサーマルプリンタ108の熱履歴の影響を正確に補償する能力によって、濃度ドリフトおよびぼやけたエッジのようなサーマルプリンタと典型的に関連した様々な問題の影響が緩和されることが可能になる。本発明の逆媒体濃度モデル206、ならびに他の局面および実施形態の様々な他の利点は、当業者に明らかである。
【0096】
本発明の様々な実施形態の別の利点は、これらがプリントヘッド素子に提供されるべきエネルギを効率的な計算方法で計算することである。例えば、上述のように、本発明の一実施形態において、入力エネルギは、2つの一次元関数(G(d)およびS(d))を用いて計算され、これによって、単一の二次元関数F(d,T)を用いるよりも入力エネルギを効率的に計算することが可能になる。
【0097】
特に、fが任意の2つの分解能間のデシメーション係数である場合、一実施形態において、ピクセルごとに実行される加算の数の上限は、大きなfに対して、数式13:
【0098】
【数3】

(数式13)
によって与えられる。
【0099】
さらに、一実施形態において、ピクセルごとに実行される乗算の数の上限は、大きなfに対して、一実施形態において、数式14:
【0100】
【数4】

(数式14)
によって与えられる。
【0101】
一実施形態において、2つのルックアップがピクセルごとに実行される。実験的使用において、本発明の様々な実施形態は、入力エネルギを十分高速で計算することが可能であり、1.6msのプリントヘッドサイクル周期を有するサーマルプリンタでリアルタイムの使用が可能なことが示された。
【0102】
本発明は様々な実施形態に関して上述されてきた。様々な他の実施形態には、以下を含むが、以下に限定されず、これらもまた、請求の範囲に含まれる。
【0103】
一部の実施形態は、本明細書で、熱転写プリンタに関して記載され得るが、このことは、本発明を制約するものではないことは、理解されるべきである。むしろ、上述の技術は、熱転写プリンタ以外のプリンタ(例えば、ダイレクトサーマルプリンタ)にも適用され得る。さらに、上述のサーマルプリンタの様々な特徴は、単に例示の目的で記載されるに過ぎず、本発明を制約するものではない。
【0104】
上述の実施形態の様々な局面は、単に例示の目的で記載されるに過ぎず、本発明を制約するものではない。例えば、サーマルプリントヘッドのモデルにおいて、プリントヘッド500におけるレイヤの数、および分解能の数は、任意であり得る。さらに、プリントヘッドレイヤと分解能との一対一対応があることは必要ない。むしろ、プリントヘッドレイヤと分解能との多対一または一対多の関係があり得る。各分解能において参照点の数は任意であり得、分解能間のデシメーション係数は任意であり得る。特定のガンマ関数および感度関数が上述されたが、他の関数も使用され得る。
【0105】
以上に示され、記載された様々な数式の結果は、様々な方法のいずれによっても生成され得ることは、理解されるべきである。例えば、このような数式(数式1のような)は、ソフトウェアにおいてインプリメントされ得、その結果はオンザフライ(on−the−fly)で計算され得る。代替として、このような数式への入力、およびそれらに対応する出力を格納するルックアップテーブルが事前に生成され得る。例えば、計算効率を高めるために、数式に対する近似もまた用いられ得る。さらに、これらの技術または他の技術の任意の組み合わせが、上述の数式をインプリメントするために用いられ得る。それゆえ、上述の記載における数式の結果を「計算する(computing)」および「計算する(calculating)」などの用語の使用は、単にオンザフライで計算することを意味するだけでなく、むしろ、同じ結果を生成するために用いられ得る任意の技術を意味することは、理解されるべきである。
【0106】
一般に、上述の技術は、例えば、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、または、これらの任意の組み合わせで、インプリメントされ得る。上述の技術は、プロセッサ、そのプロセッサで可読なストレージ媒体(例えば、揮発性メモリと不揮発性メモリ、および/または、ストレージ素子を含む)、少なくとも1つの入力デバイスおよび少なくとも1つの出力デバイスを含むプログラマブルコンピュータ、および/または、プリンタ上で実行する1つ以上のコンピュータプログラムにインプリメントされ得る。プログラムコードは、入力デバイスを用いて入力されたデータに適用され、本明細書に記載された関数を実行し、出力情報を生成し得る。この出力情報は、1つ以上の出力デバイスに適用され得る。
【0107】
本発明の様々な実施形態とともに使用されるのに適切なプリンタは、典型的には、プリントエンジンおよびプリンタコントローラを含む。プリンタコントローラは、例えば、ホストコンピュータから印刷データを受信し、その印刷データに基づいて、印刷されるべきページ情報を生成する。プリンタコントローラは、その印刷されるべきページ情報をプリントエンジンに送信する。プリントエンジンは、出力媒体上にページ情報によって特定される画像の物理的印刷を実行する。
【0108】
本明細書に記載された素子およびコンポーネントは、さらに追加のコンポーネントに分割され得ることも、あるいは、同じ機能を実行するより少ない数のコンポーネントに一緒に結合されることもあり得る。
【0109】
以下の請求項の範囲に含まれる各コンピュータプログラムは、任意のプログラム言語(例えば、アセンブリ言語、機械語、高水準手続き型プログラミング言語または目的指向プログラミング言語)で、インプリメントされ得る。プログラミング言語は、コンパイル型またはインタープリタ型プログラミング言語であり得る。
【0110】
各コンピュータプログラムは、コンピュータプロセッサによって実行される機械可読ストレージデバイスの中で、明確に具現化されたコンピュータプログラム製品でインプリメントされ得る。本発明の方法のステップは、入力で操作し、出力を生成することによって、本発明の機能を実行するために、コンピュータ可読媒体上で明確に具現化されたプログラムを実行するコンピュータプロセッサによって実行され得る。
【0111】
本発明が、特定の実施形態の観点から上述されてきたが、以上の実施形態は、例示的なものとして提供されただけであり、本発明の範囲を制約または規定するものではないことは、理解されるべきである。他の実施形態もまた、以下の請求の範囲によって規定される本発明の範囲内にある。以下の請求の範囲に含まれる他の実施形態は、含まれるが、以下に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従うデジタル画像の印刷に用いられるシステムのデータフローの図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態で用いられる逆プリンタモデルのデータフローの図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態で用いられるサーマルプリンタモデルのデータフローの図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に用いられる逆媒体濃度モデルのデータフローの図である。
【図5A】図5Aは、本発明の一実施形態に従うサーマルプリントヘッドの模式的な側面図である。
【図5B】図5Bは、本発明の一実施形態に従うヘッド温度モデルによって使用される空間/時間格子の図である。
【図6A】図6Aは、本発明の一実施形態に従うサーマルプリントヘッド素子に提供されるエネルギの計算に使用されるプロセスのフローチャートである。
【図6B】図6Bは、本発明の一実施形態に従うサーマルプリントヘッド素子に提供されるエネルギの計算に使用されるプロセスのフローチャートである。
【図6C】図6Cは、本発明の一実施形態に従うサーマルプリントヘッド素子に提供されるエネルギの計算に使用されるプロセスのフローチャートである。
【図6D】図6Dは、本発明の一実施形態に従うサーマルプリントヘッド素子に提供されるエネルギの計算に使用されるプロセスのフローチャートである。
【図7】図7は、従来のサーマルプリンタによってサーマルプリントヘッド素子に提供されるエネルギと、本発明の一実施形態によってサーマルプリントヘッド素子に提供されるエネルギとを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリントヘッド素子を含むサーマルプリンタにおいて、
(A)周囲温度と、該プリントヘッド素子に以前に提供されたエネルギと、該プリントヘッド素子が印刷する予定の印刷媒体の温度とに基づいて、該プリントヘッド素子の温度を予測するステップと、
(B)該プリントヘッド素子の該予測温度と、該プリントヘッド素子によって印刷されるべき所望の出力濃度の複数の一次元関数とに基づいて、該プリントヘッド素子に提供される入力エネルギを計算するステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記複数の一次元関数は、
入力として前記所望の出力濃度を有し、出力として未補正入力エネルギとを有する逆ガンマ関数と、
入力として前記プリントヘッド素子の現在温度を有し、出力として補正係数とを有する補正関数と
を備え、
前記ステップ(A)は、該未補正入力エネルギに該補正係数を加算することによって、前記入力エネルギを計算するステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正関数は、
前記プリントヘッド素子の前記現在温度からリファレンス温度を減算することによって、温度差値を求めるステップと、
該温度差値と、入力として前記所望の出力濃度を有し、出力として感度値とを有する感度関数の出力との積として、前記補正係数を求めるステップと
を実行することによって、該補正係数を求める、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
プリントヘッド素子と、
周囲温度と、該プリントヘッド素子に以前に提供されたエネルギと、該プリントヘッド素子が印刷する予定の印刷媒体の温度とに基づいて、該プリントヘッド素子の温度を予測する手段と、
該プリントヘッド素子の該予測温度と、該プリントヘッド素子によって印刷されるべき所望の出力濃度の複数の一次元関数とに基づいて、該プリントヘッド素子に提供される入力エネルギを計算する手段と
を備える、サーマルプリンタ。
【請求項5】
前記入力エネルギを計算する前記手段は、
入力として前記所望の出力濃度を有し、出力として未補正入力エネルギとを有する逆ガンマ関数手段と、
入力として前記プリントヘッド素子の現在温度を有し、出力として補正係数とを有する補正関数手段と、
該未補正入力エネルギに該補正係数を加算することによって、該入力エネルギを計算する手段と
を備える、請求項4に記載のサーマルプリンタ。
【請求項6】
前記補正関数手段は、
前記プリントヘッド素子の前記現在温度からリファレンス温度を減算することによって、温度差値を求める手段と、
該温度差値と、入力として前記所望の出力濃度を有し、出力として感度値とを有する感度関数の出力との積として、前記補正係数を求める手段と
を備える、請求項5に記載のサーマルプリンタ。
【請求項7】
複数のプリントヘッド素子を含むプリントヘッドを有するサーマルプリンタにおいて、
複数のプリントヘッドサイクルのそれぞれに対し、複数の出力濃度を生成するために、該プリントヘッドサイクルの間に、該複数のプリントヘッド素子に提供されるべき複数の入力エネルギを求める方法であって、該方法は、
(A)該複数のプリントヘッドサイクルのそれぞれに対して、マルチ分解能熱伝播モデルを用いて、該プリントヘッドサイクルの開始時に、周囲温度と、少なくとも1つ前のプリントヘッドサイクルの間に該複数のプリントヘッド素子に提供された複数の入力エネルギと、該プリントヘッド素子が印刷する予定の印刷媒体の温度とに基づいて、該複数のプリントヘッド素子の複数の予測温度を求めるステップと、
(B)逆媒体モデルを用いて、該プリントヘッドサイクルの間に、該複数の予測温度と、該複数のプリントヘッド素子によって出力されるべき複数の濃度とに基づいて、該複数の入力エネルギを求めるステップと
を包含する、方法。
【請求項8】
(C)i軸、n軸、およびj軸を有する三次元グリッドを規定するステップであって、該三次元グリッドは、複数の分解能を備え、該複数の分解能のそれぞれは、i軸上に個別の座標を有する平面を規定し、該複数の分解能のそれぞれは、参照点の個別の二次元グリッドを備え、該三次元グリッドにおける該参照点の任意の一つは、そのi座標、n座標、およびj座標によって一意的に参照され得る、ステップをさらに包含し、
該三次元グリッドにおける該参照点のそれぞれは、絶対温度値およびエネルギ値と関連し、
座標(0,n,j)を有する参照点と関連する該絶対温度値は、時間インターバルnの開始時における位置jでのプリントヘッド素子の予測温度に対応し、座標(0,n,j)を有する該参照点と関連する該エネルギ値は、時間インターバルnの間に位置jでの該プリントヘッド素子に提供する入力エネルギの量に対応し、
前記ステップ(B)は、
(B)(1)i座標が0を有する複数の参照点と関連する前記複数の出力濃度および該絶対温度値に基づいて、i座標が0を有する該複数の参照点と関連するエネルギ値を求めることによって、該複数の入力エネルギを求めるステップを包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(D)以下の数式:
(i)(n,j)=T(i)(n−1,j)α+A(i)(n−1,j)、および
(i)(n,j)=(1−2k)T(i)(n,j)+k(T(i)(n,j−1)+T(i)(n,j+1))
を用いて、相対温度値を計算するステップであって、T(i)(n,j)は、座標(i,n,j)を有する参照点と関連する相対温度値を意味する、ステップと、
(E)i=nresolutions−1,nresolutions−2,・・・,0に対して、以下の帰納的数式:
(i)(*,*)=I(i+1)(i)(i+1)(*,*)+T(i)(*,*)
を、
(nresolutions)(n,*)=T(n)
によって特定される初期条件とともに用いて、絶対温度値を計算するステップであって、nresolutionsは、前記三次元グリッドにおける分解能の数であり、Tは、周囲温度であり、T(i)(n,j)は、座標(i,n,j)を有する参照点と関連する絶対温度値を意味し、I(i+1)(i)は、分解能i+1から分解能iまでの補間演算子である、ステップと
をさらに包含し、
前記ステップB(1)は、
i=1,2,・・・,nresolutions−1に対して、以下の帰納的数式:
(i)(n,j)=I(i−1)(i)(i−1)(n,j)
を、
(0)(n,j)=G(d(n,j))+S(d(n,j))T(0)(n,j)
によって特定される初期条件とともに用いて、前記複数の入力エネルギを計算するステップであって、G(d(n,j))は、前記所望の出力濃度dを未補正入力エネルギEΓに関連づけ、T(0)(n,j)は、座標(0,n,j)を有する参照点と関連する絶対温度値であり、S(d(n,j))は、G(d(n,j))の温度依存性の勾配である、ステップを包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(D)は、以下の数式:
(0)(n,j)=T(0)(n−1,j)α+A(0)(n−1,j)−αmedia(T(0)(n−1,j)−Tmedia
を用いて、i=0に対する相対温度値を計算するステップであって、αmediaは、前記プリントヘッドが印刷する予定の印刷媒体への熱損失を制御し、Tmediaは、該媒体が該プリントヘッドと接触する前の該媒体の絶対温度を表す、ステップを包含する、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−519713(P2008−519713A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541283(P2007−541283)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/040520
【国際公開番号】WO2006/055356
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(591193347)ポラロイド コーポレイション (27)
【Fターム(参考)】