説明

熱成型用シート

【課題】
嵩高で、取り扱い性、物理的特性、加工性、および保形性にも優れた熱成型用シートを提案する。
【解決手段】
マトリックス成分(A成分)と補強成分(B成分)が熱可塑性樹脂からなり、A成分とB成分の重量比(A/B)が70/30〜40/60で構成され、表面積当りのエンボス加工による最密充填部の面積が5〜30%であり、縦方向の伸度が100%未満である熱成型用シートにおいて、マトリックス成分の融点TmAと補強成分の融点TmBの関係が、TmA≧120℃、TmB−TmA≧80℃を満し、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと融点TmAの関係が、60℃≦(TmA−TmfA)≦110℃、60℃≦TmfAを満たし、補強成分の繊維長が有限長であり、平均見掛密度が100kg/m〜400kg/mであることを特徴とする熱成型用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高で、取り扱い性、物理的特性、加工性、および保形性にも優れた熱成型用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱成型用シートは、フィルム、不織布、及びフィルムと不織布の積層体から形成されているものが公知である。
【0003】
低温及び低圧力下で成型性に優れるフィルムとして、共重合ポリエステルなどを使用することが提案されている(特許文献1〜3参照)。しかし、これらの提案では、嵩高性(軽量化)が不十分であるという問題がある。
【0004】
不織布と水バリア性を持つフィルムが積層された成型用積層シートとして、例えば、低結晶性樹脂シート又は熱変形容易な樹脂シートと配向結晶化していない長繊維不織布又は未延伸長繊維不織布を積層しエンボス加工で接合して、食品容器用に成型加工できる方法が提案されている(特許文献4〜6参照)。これらの提案では、熱変形が容易ではあるが、保形性が充分ではなく、成型条件も煩雑になるという問題がある。共重合ポリエステルを鞘成分にし、ホモポリエステルを芯成分とした長繊維不織布をエンボス加工してフィルムを積層接着した、不織布面にグラビア印刷する方法が提案されている(特許文献7参照)が、連続繊維で形成され芯成分がホモポリエステルのため、成型性は好ましくない問題がある。フィルムの代わりに積層不織布にポリウレタン層を設けて、真空・圧空成型が可能なクッション成型用不織布が開示されている(特許文献8参照)が、シャープな形状形成に問題がある。
【0005】
熱接着性長繊維不織布と非熱接着性長繊維不織布の積層体が開示されている(特許文献9参照)が、非熱接着性長繊維不織布の伸張変形応答性が劣るためシャープな形状形成に問題がある。また、熱接着性不織布(短繊維または長繊維の記載なし)と非熱接着性長繊維不織布の積層体が開示されている(特許文献10参照)が、非熱接着性長繊維不織布の伸張変形応答性が劣るためシャープな形状形成に問題がある。
【0006】
熱接着性短繊維と非熱接着性短繊維を混綿した不織布を熱成型に使用することが提案されている(特許文献10及び特許文献11〜16参照)。これらの成型体は従来からカタ綿と呼ばれた厚物用成型体であり、前述の長繊維積層不織布より形状形成性は改良されているが、シャープな形状形成に問題がある。
【0007】
熱接着性低融点成分と高融点成分を複合化した熱接着長繊維からなる不織布が提案されている(特許文献17〜23参照)。これらの提案では、伸張性をできるだけ保持するように低〜中速紡糸により残留伸度を高く保持させて熱成型性を維持させているが、連続繊維を低収縮化するときの煩雑さや、低収縮化処理等による熱処理で、長繊維の非熱接着成分が結晶化等により変形し難くなり、形状形成性が低下する問題がある。
【0008】
伸縮素材を混繊した長繊維不織布(特許文献24参照)が提案されているが、取り扱い性やコスト及びシャープな形状形成には問題がある。
【0009】
単一成分の長繊維不織布を熱成型に使用することが提案されている(特許文献25〜26参照)。この方法も低〜中速紡糸で残留伸度を保持させて(高伸度)変形し易くする方法であるが、高収縮性を低減する煩雑な方法を用いる必要があるのと、素材の融点が高いために熱成型温度を高くする必要があり、さらに高伸度のため取り扱い性などの問題がある。
【0010】
熱接着繊維(短繊維)を配合したもの又は全体が熱接着繊維で構成したニーパン不織布を熱プレス成型する方法(特許文献10参照)が提案されているが、具体的な開示がない。類推するに、構造がラフなため、取り扱い性が悪く、300g/m以下の低目付の場合、変形過程で引きつりや破れ(構造破壊)を生じる可能性が考えられる。
【特許文献1】特開2006−241349号公報
【特許文献2】特開2006−299282号公報
【特許文献3】特開2006−328415号公報
【特許文献4】特開昭63−162235号公報
【特許文献5】特開昭63−162238号公報
【特許文献6】特開昭63−162236号公報
【特許文献7】特開2007−62084号公報
【特許文献8】特開平9−21049号公報
【特許文献9】特開2002−327365号公報
【特許文献10】特開平11−315458号公報
【特許文献11】特開2000−119945号公報
【特許文献12】特開2004−183179号公報
【特許文献13】特開2004−293019号公報
【特許文献14】特開2004−300592号公報
【特許文献15】特開2004−300593号公報
【特許文献16】特開2006−299441号公報
【特許文献17】特開平10−37056号公報
【特許文献18】特開平11−61620号公報
【特許文献19】特開2000−96417号公報
【特許文献20】特開2000−136478号公報
【特許文献21】特開2000−136479号公報
【特許文献22】特開2001−123372号公報
【特許文献23】特開平10−226952号公報
【特許文献24】特開2006−219806号公報
【特許文献25】特開昭63−120154号公報
【特許文献26】特開平08−291457号公報
【0011】
上述の方法では、軽量で、取り扱い性、物理的特性、加工性、および保形性にも優れた熱成型用シートは得られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は熱成型時の変形特性を改良することによって、嵩高で、取り扱い性、物理的特性、加工性、および保形性にも優れた熱成型用シートを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究した結果、嵩高で、取り扱い性を付与するために低伸度にしても、熱成型時、形態を保持して、伸張変形を容易にできる構造とするために、熱接着機能を持つマトリックス成分と補強成分を特定の条件に制御することによって、物理的特性、加工性、および保形性を同時に向上できることを知見し、遂に本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、マトリックス成分(A成分)と補強成分(B成分)が熱可塑性樹脂からなり、A成分とB成分の重量比(A/B)が70/30〜40/60で構成され、表面積当りのエンボス加工による最密充填部の面積が5〜30%であり、縦方向の伸度が100%未満である熱成型用シートにおいて、マトリックス成分の融点TmAと補強成分の融点TmBの関係が、TmA≧120℃、TmB−TmA≧80℃を満し、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと融点TmAの関係が、60℃≦(TmA−TmfA)≦110℃、60℃≦TmfAを満たし、補強成分の繊維長が有限長であり、平均見掛密度が100kg/m〜400kg/mであることを特徴とする熱成型用シートである。
【0015】
本発明の熱成型用シートの好ましい態様では、熱可塑性樹脂がポリエステルからなり、厚みが0.2mm〜2mmであり、また熱成型用シートのフローテスターにおける流動挙動が、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと補強成分の流動開始温度TmfBの間でマトリックス成分の変形による歪変位が生じるが、マトリックス成分の流動による歪変位が生じないようなものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱成型用シートは、従来公知の熱接着繊維からなる熱成型用シートに比べて、高強力低伸度のため、物理特性に優れ、取り扱い性が格段に向上している。にもかかわらず、熱成型加工性、保形性にも優れる。
【0017】
即ち、熱可塑性樹脂からなるマトリックス成分(A成分)と補強成分(B成分)からなり、A成分とB成分の重量比(A/B)が70/30〜40/60で構成された、平均見掛密度100〜400kg/mの熱成型用シートにおいて、表面積当りのエンボス加工による最密充填部の面積を5〜30%にすることにより、全体が嵩高な構造でも、最密充填部が全体の形態を強固に維持しつつ、嵩高部分が、応力に応じて嵩高さを維持しつつ変形する挙動を示す。これは、加工温度がマトリックス成分の変形開始温度TmfA以上で接合したシートの状態で変形を開始し、温度上昇に伴い流動し始めるが完全に流動を生じない状態で、補強成分の繊維長が有限長(好ましくはアスペクト比が2000〜10000)なので、フローテスターにおける流動挙動が、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと補強成分の流動開始温度TmfBの間でマトリックス成分の変形による歪変位が生じるが、マトリックス成分の流動による歪変位が生じない現象から、部分的には補強成分が形態保持機能を発揮しつつ、大きな変形でも、補強成分が数万〜数十万ポイズの粘度を保持するマトリックス成分中で、補強成分が切断されているので自由度端間でズレを生じて形態を保持しつつ全体が変形して、成型が容易となっていると類推される。
【0018】
マトリックス成分の変形開始温度TmfAと融点TmAの関係が、60℃≦(TmA−TmfA)≦110℃、60℃≦TmfAを満たすことによって、60℃以上〜補強成分の流動開始温度以下の幅広い温度域まで熱成型加工を可能とし、成型加工時に構造体は形態を保持して成型加工ができると類推され、成型品は60℃以下では、塑性変形し難く、保形性にも優れる。マトリックス成分の融点TmAと補強成分の融点TmBとの関係が、TmA≧120℃、TmB−TmA≧80℃を満すことによって、マトリックス成分が、変形しても、フローテスターにおける流動挙動が、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと補強成分の流動開始温度TmfBの間でマトリックス成分の変形による歪変位が生じるが、マトリックス成分の流動による歪みの変位が生じない現象から、補強成分の流動開始温度まで嵩高な形態構造を保持して、成型性が良好になっているのではないかと類推される。
【0019】
本発明の熱成型用シートによって形成された成型加工品は、接点外れや磨耗し難く、常温での形態保持性が優れる。また、60℃≦(TmA−TmfA)≦110℃、60℃≦TmfAを満たすことによって、60℃未満では変形し難いため、熱安定性も優れる。この理由は、接着した状態でマトリックス成分と補強成分がズレにより変形しても接合状態を維持して強固な構造を保持しているためだと考えられる。
【0020】
本発明の熱成型用シートは、取り扱い性と物理的特性、加工性、および保形性に優れるので、熱成型用に最適なシートとして提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の熱成型用シートを詳細に説明する。
本発明の熱成型用シートは、マトリックス成分(A成分)と補強成分(B成分)が熱可塑性樹脂からなり、A成分とB成分の重量比(A/B)が70/30〜40/60で構成される。
【0022】
本発明におけるマトリックス成分(A成分)とは、熱成型用シート全体に分布する基質成分であり、補強成分より低融点の熱可塑性樹脂からなる。本発明における補強成分(B成分)とは、マトリックス成分中に分布して熱成型用シートの構造を補強する成分であり、マトリックス成分より高融点の熱可塑性樹脂からなる。
【0023】
本発明における熱可塑性樹脂とは、ガラス転移温度または融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形できる樹脂のことである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及び第3成分を含むそれらの共重合物などのオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン4、及び第3成分を含むそれらの共重合物などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンテレフタレート、ポリ乳酸、及び第3成分を含むそれらの共重合物などのポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンビニルアルコールなどを挙げることができる。本発明では、マトリックス成分には、融点が低いホモポリマーや共重合ポリマーが好ましく、補強成分には、融点が高いホモポリマーが好ましい。
【0024】
本発明の熱成型用シートを構成する好ましい熱可塑性樹脂の使用例としては、リサイクルが容易なポリエステルなどが挙げられ、例えば、補強成分に融点200℃以上のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどを使用し、マトリックス成分に変形開始温度50℃以上のポリブチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートの共重合物、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレート及び/または第3成分を含む共重合物などを使用することができる。
【0025】
本発明の熱成型用シートでは、マトリックス成分(A成分)と補強成分(B成分)の重量比(A/B)は70/30〜40/60で構成される。重量比(A/B)が70/30を越えると流動性が高くなり、形態保持性が低下(形状が変形しても回復する機能が低下)したり、成型時に金型に張付きやすくなる場合がある。重量比(A/B)が40/60未満では、流動性が低下して成型性が低下(シャープな形状に仕上がり難く)したり、接合頻度が減少して保形性も低下する場合がある。好ましい重量比(A/B)は、60/40〜55/45、より好ましくは、55/45〜50/50である。
【0026】
本発明の熱成型用シートは表面積当りのエンボス加工による最密充填部の面積が5〜30%である。最密充填部は、熱成型用シート全体が嵩高な構造でも、最密充填部が熱成型用シート全体の形態を強固に保持するために必要である。最密充填部の面積が5%未満では、形態保持が不充分となり、シートが大変形を受けるとシート構造を維持することが困難になる場合がある。最密充填部の面積が30%を超えると、シートが大変形を受けた場合、変形に追随し難くなる場合がある。本発明での好ましい最密充填部の面積は10〜25%、最も好ましくは12〜20%である。なお、本発明でのエンボスパターン形態は特に限定されないが、好ましくはドット形状であり、例えば、四角凸柄、格子凸柄、亀甲柄、斜子柄、横楕円柄、折目柄などが例示できる。最密充填部の各ドット面積は特に限定されないが、各ドット面積が狭すぎると構造固定点が弱くなるので、大きな変形で固定点の構造が崩れる場合がある。各ドット面積が広すぎると構造固定点が少なくなり、固定点の少ない部分は変形が大きくなり応力集中を受ける場合がある。最密充填部の各ドット面積は0.4〜2mmが好ましい。
【0027】
本発明の熱成型用シートの縦方向の伸度は、補強成分の力学特性を高くして、補強効果を発現させることによりシートの物理特性を高め、取り扱い性を向上させるために、100%未満、好ましくは20%以上である。縦方向の伸度が100%を越えると、加工時張力に依存して伸張されやすくなる場合があり、成型加工品の品質にバラツキが出る場合がある。更には、補強成分の力学特性を低下させる必要から、シートの物理特性が低下するので好ましくない。他方、20%未満では、変形応答性が悪くなり、成型加工時の成型性が低下する場合がある。本発明の好ましい縦方向の伸度は80〜30%、より好ましくは60〜40%である。
【0028】
本発明の熱成型用シートの平均見掛密度は嵩高性の観点から100kg/m〜400kg/mである。100kg/m未満では、保形性が低下する場合がある。400kg/mを越えると、加熱時の変形応答性が悪くなり、成型性が低下する場合があり、嵩高性も低下する。本発明の好ましい平均見掛密度は120〜300kg/m、特に好ましくは140〜200kg/mである。
【0029】
本発明の熱成型用シートの補強成分の繊維長は有限長である。熱成型時に有限長の場合は、変形に追随して、マトリックス成分中を補強成分がズレながら変形が容易になるが、連続繊維の場合は、変形に追随しにくくなり成型性が劣る場合がある。
【0030】
なお、本発明での補強成分の繊維長が有限長とは、補強成分が短繊維からなり、熱成型シート表面に0.3個/mm以上の繊維切断端が認められることを言う。繊維長が短いと切断端は多くなり、繊維長が長くなると切断端が少なくなる。補強成分の繊維長が実質的に長くなりすぎると、変形応答性が低下して形状形成性が低下する場合がある。本発明では、シート表面の補強成分の繊維切断端が0.5個/mm〜5個/mmが好ましく、1個/mm〜3個/mmがより好ましい。
【0031】
本発明の熱成型用シートの補強成分の線径は特に限定されないが、0.1〜40μmが好ましい。0.1μm未満では、マトリックス成分と補強成分が50/50重量比の場合、アスペクト比を満たしても線長が短くなり、たとえ構成本数が多くても保形性が低下する場合がある。補強成分の線径が40μmを越えると、成型応答性が低下して、易成型性が悪くなる場合がある。
【0032】
本発明者らの試験では、補強成分の繊維長が10〜100mmの範囲にある場合に形状形成性と保形性が共に優れる。補強成分の線径の好ましい範囲は、1μm〜30μmであり、最も好ましくは5〜20μmである。
【0033】
本発明の熱成型用シートでは、マトリックス成分の融点TmAと補強成分の融点TmBの関係が、TmA≧120℃、TmB−TmA≧80℃を満し、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと融点TmAの関係が、60℃≦(TmA−TmfA)≦110℃、60℃≦TmfAを満たす必要がある。
【0034】
本発明の熱成型用シートを構成するマトリックス成分の融点TmAは120℃以上である。融点が120℃未満では、成型加工時に流動してシート形態を保てない場合があり好ましくない。一方、融点が180℃を越えると熱成型温度を高くする必要がある。成型加工の容易性からは、本発明の好ましい融点TmAは130℃〜170℃、より好ましくは135℃〜160℃である。
【0035】
本発明の熱成型用シートの補強成分の融点TmBは200℃以上である。200℃未満では、成型時の形態保持機能からの耐熱性が劣り好ましくない。補強成分の融点TmBが300℃を越える熱可塑性樹脂は、200℃未満の温度で剛直性を示す場合、熱成型時に変形する必要があるのに変形しないため、成型性が劣る場合がある。本発明での補強成分の好ましい融点TmBは230〜300℃、より好ましくは260〜290℃である。但し、補強成分の融点TmBがマトリックス成分の融点TmAより80℃以上高くないと、マトリックス成分の融点近傍温度で熱成型した場合、補強成分も流動開始温度に達して流動する場合もあり好ましくない。本発明でのマトリックス成分と補強成分の融点差(TmB−TmA)は80℃以上、好ましくは100℃以上である。本発明でのマトリックス成分の変形開始温度TmfAは60℃以上、好ましくは150℃未満である。TmfAが60℃未満では、車両室内等での温度が高くなる場合、変形するので保型性が劣り好ましくない。TmfAが150℃以上では、成形時の加熱方法に問題が生じる場合がある。易成形性を前提とした本発明での好ましいマトリックス成分の変形開始温度TmfAは60℃以上120℃以下、より好ましくは65℃以上100℃未満である。但し、マトリックス成分の融点TmAとマトリックス成分の変形開始温度TmfAとの差(TmA−TmfA)は60℃以上110℃以下である。TmA−TmfAが60℃未満では、成形時に流動して、加工時の形態保持が悪くなり成形性が劣る場合がある。TmA−TmfAは大きいほど加工し易いが、温度差が大きいほどマトリックス成分の融点が高くなり、低温での加工変形時の接着性が低下して保形性に問題が生じる場合がある。本発明での好ましい温度差(TmA−TmfA)は62℃以上100℃以下であり、より好ましくは65℃以上90℃以下である。
【0036】
なお、本発明におけるマトリックス成分の変形開始温度とは、熱成型用シートを2mm角程度に切断したもの約0.8gを試料とし、フローテスター(島津製作所CFT−500C型)を用いて、荷重0.98MPa(10kg/cm)、ノズル径1.0mm、ノズル孔長10mmの条件で、初期温度50℃より2℃/分の割合で昇温していき、熱成型用シート成分の熱可塑性樹脂がダイから流出しないのに、シリンダーが押し込まれて歪変位を示し、シリンダー内が最密充填状態になるときの歪変位の最大勾配の接線と0点が交わる温度を変形開始温度として求めたものである(図1参照)。
【0037】
また、本発明における熱可塑性樹脂の融点とは、JIS K7121に準拠して、個々の熱可塑性樹脂を試料とし、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用いて、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点として求めたものである。
【0038】
かくして、本発明の上記の要件を満足した熱成型用シートは、シートの構造形態を保持した状態で加熱圧縮変形に応答して熱成型加工が可能となる。かかる理由は明確ではないが、熱成型温度では、補強成分が形態保持機能を発揮しつつ、大きな変形でも、補強成分がマトリックス成分間でズレを生じて形態を保持しつつ全体が変形容易となっていて、マトリックス成分が変形しても、補強成分の流動開始温度まで構造を保持するので、構造体は比較的熱的な形態保持性が高くできる特徴を示すと考えられる。
【0039】
本発明の熱成型用シートによって形成された成型加工品は、接点外れや磨耗し難く、常温での形態保持性が優れる。また、50℃未満の温度では変形し難いため、熱安定性も優れる。この理由は、接着した状態でマトリックス成分と補強成分がズレにより変形しても接合状態を維持して強固な構造を保持しているためではないかと考えられる。
【0040】
本発明の熱成型用シートのマトリックス成分と補強成分の構造形態は特に限定されないが、複合構造の繊維からなることが好ましい。特に、マトリックス成分を鞘成分とし、補強成分を芯成分とした複合繊維からなることが好ましい。各構成の繊維は、接点がマトリックス成分で接合されて一体化した構造が最も望ましい。複合繊維の繊度としては1〜6dtexが望ましい。鞘/芯の重量比は、40/60〜60/40が望ましい。最も望ましくは、他の繊維成分を混繊しないで、複合繊維のみで構成する。
【0041】
本発明の熱成型用シートの流動特性は、特に限定されないが、フローテスターにおける流動挙動が、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと補強成分の流動開始温度TmfBの間でマトリックス成分の変形による歪変位が生じるが、マトリックス成分の流動による歪変位が生じないようなものであることが好ましい。
【0042】
マトリックス成分の変形開始温度TmfAが補強成分の流動開始温度(熱可塑性樹脂がダイから流出する場合)より高い場合、熱成型時に成型体の形態が保持できないので好ましくない。また、補強成分の流動開始温度より低い温度で、補強成分以外の成分が流動開始を示すものも、熱成型温度を高くした場合の熱成型時に成型体の形態が保持できない場合があり好ましくない。
【0043】
本発明の熱成型用シートは、補強成分の流動開始温度未満の温度では流動開始を示さない。理由は明確ではないが、マトリックス成分の変形開始温度で熱成型用シートの形態が最密充填され、数10万〜100万ポイズを超える高粘度マトリックス成分中の補強成分が補強効果を発揮して、マトリックス成分の流動性を妨げており、補強成分が流動を開始するまで系全体が流動しないのではないかと推測される。
【0044】
なお、本発明における補強成分の流動開始温度とは、熱成型用シートを2mm角程度に切断したもの約0.8gを試料とし、フローテスター(島津製作所CFT−500C型)を用いて、荷重0.98MPa(10kg/cm)、ノズル径1.0mm、ノズル孔長10mmの条件で、初期温度50℃より2℃/分の割合で昇温していき、熱成型用シート成分の熱可塑性樹脂がダイから流出しないのに、シリンダーが押し込まれて歪変位を示すマトリックス成分の変形開始温度による変位が完了したのち昇温により、シリンダー内の熱可塑性樹脂が流動を開始してダイから熱可塑性樹脂が流出する温度を補強成分の流動開始温度とする。本発明において流動開始とは、シリンダー内の熱可塑性樹脂が補強成分の樹脂を含めてほぼ全てダイから押し出される状態となるときを言う。シリンダー内に補強成分の熱可塑性樹脂が残留する場合は補強成分の流動開始温度とはしない。
【0045】
本発明の熱成型用シートの厚みは特に限定されないが、0.2〜2mmが好ましい。0.2mm未満では、嵩高性を満たせば、取り扱い性が劣る場合がある。2mmを超えると成型時の圧縮変形が大となるので成型斑を生じる場合がある。
【0046】
次に本発明の熱成型用シートの製法の一例を示す。
マトリックス成分は、融点(TmA)及び変形開始温度(TmfA)が前述の条件を満たす熱可塑性樹脂であれば、任意に選択できるが、補強成分と相溶性が良好な成分が特に好ましい。補強成分も、融点(TmB)が前述の条件を満たす熱可塑性樹脂であれば、任意に選択できるが、マトリックス成分との相溶性が良好な成分が特に好ましい。例えば、補強成分にポリエチレンテレフタレート(融点265℃)を選択した場合、マトリックス成分としてポリエチレンテレフタレート共重合成分が好ましいので、イソフタル酸成分を40モル%含有するポリエチレンテレフタレート共重合ポリエステル(融点140℃、変形開始温度66℃、TmA−TmfA=74℃)をマトリックス成分に用い、マトリックス成分と補強成分の重量比を70/30〜40/60とする。なお、本発明の熱成型用シートに必要な機能として、難燃性、耐光性、着色性等を所望する場合は、改質剤等を共重合させるか、後練り込みにより添加することができる。
【0047】
まず、固有粘度0.68のマトリックス成分を鞘成分とし、固有粘度0.65の補強成分を芯成分とし、常法により、鞘芯複合ノズルを用い、鞘/芯比:50/50重量比にて、引取速度1300m/分にて溶融紡糸し、丸断面で単繊度8dtexの未延伸糸を得る。なお、得られる複合繊維を用いた熱成形用シートの特性として伸度が100%以下、補強成分が有限長で、シート表面の補強成分の繊維切断端が1個/mm〜3個/mm(短繊維であり、好ましくは、補強成分のアスペクト比が2000から10000の範囲)にできれば、複合繊維構造は、サイドバイサイド構造、海島構造等任意の構造が選択でき、また、紡糸速度は、低速紡糸、中速紡糸、高速紡糸等任意に選択できる。本発明での好ましい方法は、低速紡糸で鞘芯構造の未延伸糸を得て、通常延伸熱処理して、シート表面の補強成分の繊維端末が1個/mm〜3個/mm(芯成分のアスペクト比2000から10000、芯部成分の繊維径5〜20μm)にでき、短繊維の伸度50%以下の低伸度複合繊維を得る方法が推奨される。
【0048】
次いで、得られた未延伸糸を100万dtexになるように引き揃えて、常法にて、延伸倍率3.5倍で延伸し、連続して機械捲縮を付与して熱セット後、51mmに切断して、複合構造を持つ2.8dtexの短繊維(強度4.1cN/dtex、伸度55%、補強成分アスペクト比4300)を得る。得られた短繊維は、常法によりカードウエッブとし、クロスラッパーにて所望の目付に積層後、積層ウエッブは連続して又は非連続でエンボス加工を施される。
【0049】
エンボス加工は、上下を拘束した状態で熱処理により仮接着シート化し直接エンボス加工を行うのが望ましいが、エンボス加工を行う前工程で、必要に応じ、開繊積層ウエッブを同布に積層して直接エンボス加工を行ってもよい。また、ニードルパンチ加工を行ってシート化し、次いでエンボス加工してもよい。
【0050】
本発明では、エンボス加工でのエンボス形状はドット形状(好ましくは0.5〜1mm)であることが好ましい。また、表面積当りのエンボス加工による最密充填部の面積の割合は、5〜30%(より好ましくは12〜20%)とし、見掛密度を100kg/m〜400kg/mとする必要がある。なお、本発明では、最密充填部以外は線条をできるだけ変形させずに接合させて嵩高性を保持することが望ましい。この要件を満たすエンボス加工条件は、用いるマトリックス成分により異なるが、マトリックス成分の融点より10℃〜30℃低い温度で、線圧を30〜100kg/cmの範囲で調整しエンボス加工することが推奨される。
【0051】
具体的には、得られた短繊維をカードで開繊し、200g/mに積層して両面を金網で厚み2mmに拘束して120℃の熱風中を5秒通過させた後、120℃に加熱された横楕円エンボス文様のエンボスローラーで、線圧50kg/cmにてエンボス加工して、本発明の熱成形用シートを得る。得られたシートの特性は、平均見掛密度210kg/m、縦方向の引張強度500N/5cm、縦方向の伸度44%、補強成分が有限長(シート表面の補強成分の繊維端末が1個/mm)、厚み1mmである。
【0052】
本発明の要件を満たす熱成形用シートは、取り扱い性、物理的特性、加工性、および保形性に優れるので、そのまま所望のサイズに切断されて、各種の熱成形に供される。例えば、通気性が必要な徐放性薬剤パッケージや食品容器、通気性パッケージ用途等に最適である。所望に応じて、熱成型用シートは、樹脂コーティング加工やラミネート加工して、各種バリヤー性が必要なパッケージ用途等にも供される。なお、本発明における製法の例示は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
本発明の熱成型用シートの優れた効果を以下の実施例及び比較例を用いて示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の特性値の評価は以下の方法で行なった。
【0054】
<マトリックス成分と補強成分の重量比>
熱成型シートの任意の部位10箇所からサンプリングした試験片の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて50〜100倍でシートを観察して構造を確認して、構成単位(繊維の場合は繊維断面)を特定し、同シート断面を観察ができるように包埋して、厚み約2μmの切片を作成し、位相差顕微鏡を用いて、構成単位断面を各20点について、500〜1000倍で断面写真を撮影し、10倍に拡大した写真画像から、マトリックス成分と補強成分を含めた構成単位面積ATと補強成分面積ARを求め、以下の計算式にてマトリックス成分と補強成分の重量比を求めた。
補強成分(%)=(1/n)*(Σ(AR/AT))*100
ただし、n=20点*10箇所
マトリックス成分(%)=100−補強成分%
【0055】
<最密充填部面積比>
1mのサンプルを準備し、任意の場所10箇所を選択し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて断面を50〜100倍で撮影し、図3に示すように最密充填部との境界を確認して、図2に示すように50〜100倍で表面写真を各5点とり、全画面中の最密充填部を切り取り、全画面面積重量:W0、圧着された最密充填部面積重量:Sとし、下記式にて最密充填部面積比を求めた。(n=10*5)
最密充填部面積比(%)=(1/n)*(Σ(S/W0))*100
【0056】
<補強成分の繊維長>
最密充填部の面積測定時に撮影した表面写真から、全画面面積S中の観測可能な繊維の切断端数tを測定し、以下の計算式で補強成分の繊維切断端数を求めた(n=10*5)。
補強成分の繊維切断端数(個/mm)=(1/n)*(Σ(t/S))
そして、この値が0.3個/mm以上である場合、補強成分の繊維長は有限長であると判断した。
【0057】
<熱可塑性樹脂の融点>
JIS−K7121に準拠して、個々の熱可塑性樹脂を試料とし、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用いて、昇温速度20℃/分で融解吸収曲線を測定し、その極値を与える温度を融点として求めた。
【0058】
<マトリックス成分の変形開始温度>
熱成型用シートを2mm角程度に切断したもの約0.8gを試料とし、フローテスター(島津製作所CFT−500C型)を用いて、荷重0.98MPa(10kg/cm)、ノズル径1.0mm、ノズル孔長10mmの条件で、初期温度50℃より2℃/分の割合で昇温していき、熱成型用シート成分の熱可塑性樹脂がダイから流出しないのに、シリンダーが押し込まれて歪変位を示し、シリンダー内が最密充填状態になるときの歪変位の最大勾配の接線と0点が交わる温度を変形開始温度として求めた。
【0059】
<補強成分の流動開始温度>
熱成型用シートを2mm角程度に切断したもの約0.8gを試料とし、フローテスター(島津製作所CFT−500C型)を用いて、荷重0.98MPa(10kg/cm)、ノズル径1.0mm、ノズル孔長10mmの条件で、初期温度50℃より2℃/分の割合で昇温していき、熱成型用シート成分の熱可塑性樹脂がダイから流出しないのに、シリンダーが押し込まれて歪変位を示すマトリックス成分の変形開始温度による変位が完了したのち昇温により、シリンダー内の熱可塑性樹脂が流動を開始してダイから熱可塑性樹脂が流出する温度を補強成分の流動開始温度とした。本発明において流動開始とは、シリンダー内の熱可塑性樹脂が補強成分の樹脂を含めてほぼ全てダイから押し出される状態となるときを言う。シリンダー内に補強成分の熱可塑性樹脂が残留する場合は補強成分の流動開始温度とはしない。
【0060】
<シート厚み>
JIS−L 1906 に準拠してシート厚み(mm)を測定した。
【0061】
<シート目付(単位面積当りの質量)>
JIS−L 1906(2000)に準拠してシート目付(g/m)を測定した。
【0062】
<シート見掛密度>
JIS−L 1906(2000)に準拠して測定した厚み(t(m))及び単位面積当りの質量(M(kg/m))より、見掛密度(ρ(kg/m))を下記式にて求めた。
ρ=(M/t)
【0063】
<シートの引張強度と伸度>
JIS−L 1906 に準拠してシートの引張強度(N/5cm)と伸度(%)を測定した。
【0064】
<固有粘度>
サンプルの任意の部位から一片をサンプリングし、ポリエステルの場合はテトラクロルエタン/フェノール(40部/60部重量比)の混合溶媒に1g/100ml溶解させ、30℃雰囲気で粘度管にて測定し、0%濃度に換算した固有粘度(dl/g)を求めた。
【0065】
<成形性>
台形錐(開口側4cm*5cm、底面側3.5cm*4.5cm、厚み0.5cm)の底面側に逆台形錐(開口側0.5cm*1cm、底面側0.3cm*0.8cm、厚み0.45cm)4個を有する凹型の固定された下金型と、同形状の凸型を有する圧縮できる上金型を用い、マトリックス成分の融点TmA−5℃に加熱し、熱成型用シートを下金型上面に固定して、上金型と下金型のクリアランスが0.2mmになるように位置決めし、2秒間圧縮熱成型して、台形パッケージを作成した。
形状形成性は、作成した台形パッケージの仕上がり形状が、シャープな形状:◎、形状は出ているがコーナーエッジに若干シャープさが欠ける:○、形状は出て形崩れしないが全体にシャープさが欠ける:△、形状は出るが形崩れする又は形状が出ない:×で評価した。また、成型時の金型の張り付き具合を、金型に張り付かない:◎、金型に張り付くが簡単に外れる:○、金型に張り付き外れ難い:△、金型に張り付き外れない:×で評価した。
【0066】
<取扱性>
成型加工する際、金型にロール巻熱成型用シートを供給するときの引掛りを、問題なし:◎、シートが手等に少し引掛るが問題なし:○、引掛り少し毛羽立ちする:△、引掛り毛羽立ち顕著:×で評価した。また、セッティング性を、セッティング問題なし:◎、シートの腰が少し不足しているがセッティングに問題なし:○、シートの腰がなくセッティングが少しし難い:△、セッティングし難い:×で評価した。
【0067】
<保形性>
作成した台形パッケージの底面に、底面側から底面面積1cmあたり100gの荷重を掛けて形状変化の状態から、形状が変化しない:◎、変形するが叙重すると元の形状に戻る:○、変形して叙重しても元の形状まで戻らない:△、形状がつぶれ叙重しても形状が回復しない:×で評価した。
【0068】
実施例1
酸成分としてイソフタル酸成分を40モル%、テレフタル酸成分を60モル%含有する固有粘度0.68のポリエチレンテレフタレート共重合ポリエステル(融点TmA140℃)をマトリックス成分(鞘成分)に、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート(以下PETで記載、融点TmB265℃)を補強成分(芯成分)とし、各成分は水分率0.002重量%に乾燥し、常法により、丸断面の鞘芯複合ノズルを用い、鞘/芯比:50/50重量比、紡糸温度285℃、単孔吐出量1.05g/分にて溶融紡糸し、引取速度1300m/分にて引取り、丸断面の鞘芯未延伸糸を得た。
【0069】
次いで、得られた未延伸糸を100万dtexになるように引き揃えて、常法にて、延伸倍率3.5倍で延伸し、連続して機械捲縮を付与して熱セット後、51mmに切断して、複合構造を持つ2.8dtexの短繊維Aを得た。
【0070】
次いで、得られた短繊維をカードで開繊し、開繊ウエッブを200g/mに積層して両面を金網で厚み2mmに拘束して120℃の熱風中を5秒通過させた後、120℃に加熱された横楕円エンボス文様のエンボスローラーで、線圧50kg/cmにてエンボス加工して、本発明の熱成形用シートを得た。得られたシートの特性及び評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から、本発明の要件を満たす実施例1の熱成型用シートは、取扱い性、成型性、保形性に優れていることは明らかである。
【0073】
実施例2
酸成分としてイソフタル酸成分を50モル%、テレフタル酸成分を50モル%含有する固有粘度0.68のポリエチレンテレフタレート共重合ポリエステル(融点130℃)をマトリックス成分(鞘成分)とし、鞘/芯複合比を55/45とし、単孔吐出量を0.9g/分に変更して未延伸糸を得、延伸倍率3.2倍で延伸し、44mmに切断して2.4dtexの複合短繊維Bを得た以外、実施例1と同様にして熱成型用シートを得た。得られたシートの特性と評価結果を表1に示す。なお、シートの変形開始温度TmfAは64℃であり、TmA−TmfA=66℃であった。
表1から、本発明の要件を満たす実施例2の熱成型用シートは取扱い性、成型性、保形性に優れていることは明らかである。
【0074】
比較例1
エンボス文様を格子凸柄で圧着面積比が50%となるエンボスローラーを用いた以外、実施例1と同様にして熱成型用シートを得た。得られたシートの特性と評価結果を表1に示す。
表1から、比較例1の熱成型用シートは、最密充填部面積比が45%と本発明の要件を外れるため形状成形性がやや劣ることが明らかである。
【0075】
比較例2
エンボス文様を格子凸柄で圧着面積比が5%となるエンボスローラーを用いた以外、比較例1と同様にして熱成型用シートを得た。得られたシートの特性と評価結果を表1に示す。
表1から、比較例2の熱成型用シートは、最密充填部面積比が4%と本発明の要件を外れるため取扱性に劣ることが明らかである。
【0076】
比較例3
実施例1と同一の熱可塑性樹脂を用い、単孔吐出量0.6g/分、紡糸温度282℃で溶融紡糸して、牽引ジェットにて引取速度1500m/分で引取り、ネット上に振落して、単繊維繊度4dtexの複合長繊維Cからなる目付200g/mのウエッブを得た。次いで、得られたウエッブをペネ100本/cmでニードルパンチしてシート化し、次いで、100℃に加熱された横楕円エンボス文様の圧着面積10%エンボスローラーで、線圧30kg/cmにてエンボス加工して、熱成型用シートを得た。なお、エンボス加工時、収縮が発生して、シートは変形した。得られたシートの特性と評価結果を表1に示す。
表1から、比較例3の熱成型用シートは、連続した未延伸繊維のため、変形は容易だが、均一な成形性が劣り、成形品が脆いため保形性も劣ることが明らかである。
【0077】
比較例4
実施例1と同一の熱可塑性樹脂を用い、単孔吐出量2g/分、紡糸温度290℃で溶融紡糸して、牽引ジェットにて引取速度5000m/分で引取り、ネット上に振落して、単繊維繊度4dtexの複合長繊維Dからなる目付200g/mのウエッブを得た。次いで、得られたウエッブをペネ100本/cmでニードルパンチしてシート化し、次いで、120℃に加熱された横楕円エンボス文様の圧着面積30%エンボスローラーで、線圧50kg/cmにてエンボス加工して、熱成型用シートを得た。得られたシートの特性と評価結果を表1に示す。
表1から、比較例4の熱成型用シートは、連続繊維のため、変形し難く、シャープな成形性が劣ることが明らかである。
【0078】
比較例5
熱可塑性樹脂として固有粘度0.65のPETのみを用い、長繊維Eのウエッブ目付を100g/m、エンボスローラー温度250℃とした以外、比較例4と同様にして得たスパンボンド不織布に、実施例1で得た短繊維Aを開繊したウエッブを100g/mとなるように積層し、ペネ100本/cmでニードルパンチして接合した後、比較例4と同様にしてエンボス加工した成型シートを得た。得られたシートの特性と評価結果を表2に示す。
表2から、比較例5の熱成型用シートは、連続繊維との積層のため、変形しにくく成型性に劣り、成型が不良なため保形性も劣ることが明らかである。
【0079】
【表2】

【0080】
比較例6
固有粘度0.62のPETを用い、紡糸温度285℃にて、単孔吐出量2g/分で紡糸して引取速度1300m/分にて引取った未延伸糸を引き揃えて、多段延伸で倍率3.9倍に延伸熱処理し、機械捲縮を付与後セットして51mmに切断し、4dtexの短繊維Fを得た。得られた短繊維Fと実施例1で得た複合短繊維Aを50/50重量比で混綿開繊したウエッブを目付200g/mとなるように積層して、ニードルパンチにて交絡処理後、エンボスローラー温度150℃にした以外、実施例1と同様にしてエンボス加工して熱処理用シートを得た。得られたシートの特性及び評価結果を表2に示す。
表2から、比較例6の熱成型用シートは、混綿による斑発生に由来する成型斑とマトリックス成分が不足しており、成型性と保形性に劣ることが明らかである。
【0081】
比較例7
酸成分としてイソフタル酸成分を60モル%、テレフタル酸成分を40モル%含有する固有粘度0.48のポリエチレンテレフタレート共重合ポリエステル(融点118℃、)をマトリックス成分(鞘成分)とし、芯成分に固有粘度0.45のPETを用い、鞘/芯複合比を55/45にて、紡糸温度278℃にて、単孔吐出量を0.9g/分、引取速度1000m/分に変更して未延伸糸を得、延伸倍率2.4倍で延伸し、44mmに切断して4dtexの複合短繊維を得た以外、実施例1と同様に熱成型用シートを得た。得られたシートの特性と評価結果を表1に示す。
表2から、比較例7の熱成型用シートは、本発明の要件からマトリックス成分の融点が外れ、シートも脆いため、取扱い性、成型性、保形性とも劣ることが明らかである。
【0082】
比較例8
実施例1の短繊維Aをニードルパンチ加工して得られた目付200g/mの不織布を熱成型用シートとして用いた。このシートの特性及び評価結果を表2に示す。
表2から、比較例8の熱成型用シートは、エンボス加工されていないため、取扱性が非常に悪く、成型性、保形性も劣ることが明らかである。
【0083】
比較例9
鞘/芯比を80/20重量比とした以外、実施例2と同様にして熱成型用シートを得た。得られたシートの特性及び評価結果を表2に示す。
表2から、比較例9の熱成型用シートは、補強成分が少ないため、成型性と保形性が劣ることが明らかである。
【0084】
比較例10
補強成分にイソフタル酸成分を25モル%含有する固有粘度0.68のポリエチレンテレフタレート共重合ポリエステル(融点TmA180℃)を用い、紡糸温度230℃にて紡糸した以外、比較例7と同様にして熱成型用シートを得た。得られたシートの特性と評価結果を表2に示す。
表2から、比較例10の熱成型用シートは、マトリックス成分と補強成分の融点差が少なく、シートは脆いため、取扱性が悪く、成型性、保形性とも劣ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱成型用シートは、取り扱い性、物理的特性、加工性、および保形性に優れるので、そのまま所望のサイズに切断されて、各種の熱成形に供されることができ、例えば、通気性が必要な徐放性薬剤パッケージや食品容器、通気性パッケージ用途等に最適である。所望に応じて、本発明の熱成型用シートは、樹脂コーティング加工やラミネート加工して、各種バリヤー性が必要なパッケージ用途等にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】熱成型用シートの流動特性を示す。図中の吹き出し矢印で示す点が変形開始温度である。
【図2】熱成型用シートの表面写真を示す。
【図3】熱成型用シートの圧着された最密充填部付近の断面写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス成分(A成分)と補強成分(B成分)が熱可塑性樹脂からなり、A成分とB成分の重量比(A/B)が70/30〜40/60で構成され、表面積当りのエンボス加工による最密充填部の面積が5〜30%であり、縦方向の伸度が100%未満である熱成型用シートにおいて、マトリックス成分の融点TmAと補強成分の融点TmBの関係が、TmA≧120℃、TmB−TmA≧80℃を満し、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと融点TmAの関係が、60℃≦(TmA−TmfA)≦110℃、60℃≦TmfAを満たし、補強成分の繊維長が有限長であり、平均見掛密度が100kg/m〜400kg/mであることを特徴とする熱成型用シート。
【請求項2】
熱可塑性樹脂がポリエステルからなり、厚みが0.2mm〜2mmであることを特徴とする請求項1記載の熱成型用シート。
【請求項3】
熱成型用シートのフローテスターにおける流動挙動が、マトリックス成分の変形開始温度TmfAと補強成分の流動開始温度TmfBの間でマトリックス成分の変形による歪変位が生じるが、マトリックス成分の流動による歪変位が生じないようなものであることを特徴とする請求項1または2記載の熱成型用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−154506(P2009−154506A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338745(P2007−338745)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】