説明

熱成形品の製造方法

【課題】木型の如き初期投資を抑制可能な集成構造体から削り出した型を用いて、数多くの低歪みかつ高品質な熱成形品を提供すること。
【解決手段】下記(a)〜(c)[(a)熱可塑性樹脂製シートを準備する工程(工程(a))、(b)該シートを熱成形可能な温度まで予備加熱し軟化させる工程(工程(b))、(c)一対の雄型141および雌型101からなる型に、かかる軟化した熱可塑性樹脂製シートを狭持し、曲面を有する熱成形品121を得る工程(工程(c))]の工程を含み、工程(c)に用いる一対の雄型および雌型は、いずれもその狭持部表面において、複数の小ブロック102が接合された集成構造により接合線を有しており、両型の狭持方向を法線とする投影面に対してかかる接合線を投影したとき、雄型側の接合線143〜147と雌型側の接合線103〜107とが重ならないことを特徴とする熱成形品を得るための製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低歪みで高品質の熱成形品、殊に樹脂製グレージングの製造に好適な、特定構造を有する一対の雄型および雌型からなる型を用いた熱成形品の製造方法に関する。より詳細には、複数の小ブロックの接合により構成された集成構造体から削り出した型において、狭持部表面の接合線を所定の条件とすることを特徴とした熱成形品を得るための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からガラス製グレージングを透明な熱可塑性樹脂製グレージングに代替する試みは、軽量化、安全性の向上、およびガラスでは不可能な態様での利用を達成するために盛んに行なわれてきた。自動車に代表される輸送機の分野においては、特にガラス製グレージングから耐衝撃性の良好なポリカーボネート樹脂製グレージングへの代替の試みが盛んである。輸送機の分野において、その軽量化は必須かつ緊急の課題となっている。そのためかかるガラス代替の試みには更に拍車がかかっている。しかしながら数多くの提案がある一方で、特に自動車分野におけるその代替はあまり進んでいない。軽量化の強い要求がある中で代替が進まない主因の1つは、樹脂製グレージングのコスト高にある。
【0003】
例えば、透視歪の少ない樹脂製グレージングを射出成形法により得るためには、表面精度に優れ、かつ大型の金型を用いる必要がある。かかる金型の製造には相当のコストがかかり、樹脂製グレージングのコスト高の一因となっていた。殊に不定形状の湾曲面は手磨き仕上げを避けられないため、かかる仕上げ工程による金型表面の微妙なうねりが生じやすい。その結果、不定形状の湾曲面でかつ表面精度に優れた大型の金型の作製には、相当に高い技術や時間を必要とし、結果かかる金型は特別高価になる。即ち、車種毎に形状が異なる自動車用グレージングの場合、その金型製造の初期投資額は大変大きく、樹脂製グレージングの更なるコスト高を招いていた。
【0004】
一方で、熱可塑性樹脂からなるシートを熱成形することにより湾曲面を構成する方法は従来から広く知られるところであり、自動二輪車の風防のごとき分野において利用されている。かかる熱成形は必ずしも金型を必要とせず、木型の如き初期投資を抑制可能な型を利用でき、極めて少量の試作などにおいて、広く利用されている。
【0005】
かかる木型は、通常、直方体の元ブロックを準備し、かかる元ブロックをNCマシンで所定形状に切削し作成される。ここで、大型の成形品においては大型の元ブロックを低コストで入手することが困難であるため、一定形状の小ブロック体を、例えば角材形状のものを、接着剤で接合した集成構造体を利用することが多い。また、木型が雄型および雌型の一対の組合せから構成される場合、同一の集成構造体から切削されるのが一般的である。かような雄型および雌型から形成された木型では、図1に示すとおり、かかる型の狭持表面における雄型および雌型の接合線が重なっている。
【0006】
本発明者らは、通常、少量の試作型として利用される木型の如き初期投資を抑制可能な型を用いて、より多くの生産が可能か否かを検討した。該検討では従来法に従い、同一の集成構造体から切削された一対の雄型および雌型を使用した。かかる検討において、熱成形の数が増えていくと、通常の目視では問題がないものの、偏光観察をすると得られた熱成形品には不均一な歪みが生じることを見出した。更に、該歪みの生ずる部分は、雄型および雌型の狭持部表面における集成構造体の接合線部分であるとの知見を得た。更に、かかる歪みが生じた熱成形品に対応する木型には、複数の小ブロックを接合した集成構造体の狭持部表面における接合線の拡大もしくは変形が、雄型および雌型の両面で生じていた。この原因は、一方の型表面で接合線の拡大や変形が生じた場合、熱の拡散が不均一となって、かかる部分の蓄熱分が他方の型表面に影響するため生じるものと推測される。
従って、これまで木型の如き初期投資を抑制可能な型を用いて、数多くの低歪みかつ高品質な熱成形品を得ることはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、木型の如き初期投資を抑制可能な集成構造体から削り出した型を用いて、数多くの低歪みかつ高品質な熱成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、複数の小ブロックを接合した集成構造体より切削して形成された雄型および雌型を用いて熱成形する際、それぞれの型の狭持部表面における接合線が重ならないように両型を組み合わせることにより、上記課題を解決できることを見出し、更に鋭意検討を進めて、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.下記(a)〜(c)
(a)熱可塑性樹脂製シートを準備する工程(工程(a))、
(b)該シートを熱成形可能な温度まで予備加熱し軟化させる工程(工程(b))、
(c)一対の雄型および雌型からなる型に、かかる軟化した熱可塑性樹脂製シートを狭持し、曲面を有する熱成形品を得る工程(工程(c))、
の工程を含み、
工程(c)に用いる一対の雄型および雌型は、いずれもその狭持部表面において、複数の小ブロックが接合された集成構造により接合線を有しており、両型の狭持方向を法線とする投影面に対してかかる接合線を投影したとき、雄型側の接合線と雌型側の接合線とが重ならないこと
を特徴とする熱成形品を得るための製造方法。
2.雄型側の接合線と雌型側の接合線とは、投影面において互いに平行である上記構成1の製造方法。
3.上記の型は、少なくともその狭持部表面が、実質的に同一材質の四角柱形状の小ブロックを接着剤により接合して形成された集成構造体から所定の形状に削り出されたものである上記構成1〜2の製造方法。
4.上記の接着剤は、水性高分子イソシアネート系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、およびレゾルシノール系接着剤からなる群から選択される少なくとも1種の接着剤である上記構成3の製造方法。
5.上記の熱可塑性樹脂製シートは、透明性を有するものである上記構成1〜4の製造方法。
6.上記の熱可塑性樹脂製シートは、射出圧縮成形法により製造されたものである上記構成1〜5の製造方法。
7.上記構成1〜6の製造方法により得られた樹脂製グレージング。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱成形品の製造方法では、木型の如き初期投資を抑制可能な型を用いて、数多くの低歪みかつ高品質な熱成形品を提供することが可能となった。そのため、その奏する工業的効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来法で複数の小ブロックを接合した集成構造体から切削加工した雄型および雌型を用いた熱成形の状態の概要図である。
【図2】上記図1の従来法における成形品表面(両型の挟持方向を法線とする投影面に対応)の雄型および雌型の接合線の関係(接合線が重なる)を示す概要図である。
【図3】本発明の実施例1で使用した、複数の小ブロックを接合した集成構造体から切削加工した雄型および雌型を用いた熱成形の状態の概要図である。
【図4】上記図3の本発明の実施例1で使用した成形品表面(両型の挟持方向を法線とする投影面に対応)の雄型および雌型の接合線の関係(接合線が重ならない)を示す概要図である。
【図5】実施例2の印刷後に熱成形を行った熱成形品の概要図である。
【図6】上記図5の熱成形品をハードコート処理し、その後トリム処理を行った樹脂製グレージングの概要図である(ハードコート層は記載していない)。[6−I]は正面図、[6−II]は断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明において使用する型は、雄型と対応する雌型との一対の構成からなり、いずれも少なくともその狭持表面においては、複数の小ブロックが接合された集成構造を有する。かかる小ブロックを接合する集成構造体とすることで、安価に製造可能な小ブロックから、大型サイズの型を作成することができる。その結果、大型サイズの型を安価に製造可能である。したがって、本発明の型材質は特に限定されるものでなく、木材、樹脂、および金属のいずれも利用できる。木材は、天然木およびケミカルウッド(本発明ではケミカルウッドを木材として分類する)のいずれも利用可能であり、樹脂は好ましくは熱硬化性樹脂であり、金属では、切削性に優れるアルミニウム系合金が好ましい。かかる各種型材質の中でも、木材がより安価であるため好ましく、特に天然木が、安価かつ本発明の効果がより発揮されることから好ましい。
【0013】
天然木は、従来木型に利用される各種の木材を利用できるが、通常各種の堅木(hardwood)が好適に利用され、例えば、メープル材、ヒッコリー材、バーチ材、チェリー材、およびアッシュ材などが例示される。またヒメコマツの如きパイン材や、マホガニー材などの軟木(softwood)の場合は十分な乾燥の上利用できる。かかる材の含水率は、木型を製造する段階において、15%以下にしておくことが好ましい。木材の乾燥には、従来公知の方法が利用でき、例えば、高温乾燥、除湿乾燥、減圧乾燥、蒸気式加熱乾燥、高周波加熱乾燥、マイクロ波加熱乾燥、遠赤外線乾燥、燻煙乾燥、液体浸漬乾燥、液体噴霧乾燥、および太陽熱乾燥などが例示される。
【0014】
ケミカルウッドは、従来公知のものが利用でき、例えば、ハンツマンジャパン(株)製レンシェープ(Ren Shape(登録商標))、三洋化成工業(株)製サンモジュール(登録商標)、ナガセケムテックス(株)製デナブロック、および(株)ソニックス製サイコウッドなどが例示できる。
【0015】
天然木の小ブロックを接合するための接着剤としては、シアノアクリレート系接着剤、水性高分子イソシアネート系接着剤、およびレゾルシノール樹脂系接着剤などを使用することができる。かかるシアノクリレート系接着剤としては、エチル−2−シアノアクリレートの如き2−シアノアクリレート類を主成分とし、更に好適には可塑剤および増粘剤を含有することが好ましい。かかる可塑剤としては、フタル酸エステル類、および(メタ)アクリロイル基含有のモノマーもしくはオリゴマーを利用することができる。また増粘剤としては、メチルメタクリレートポリマーおよびブチルメタクリレートポリマーなどの(メタ)アクリロイル基含有(コ)ポリマーが好ましい。
【0016】
集成構造体を構成する小ブロックの形状は、同一であっても異なっていてもよいが、より高い精度を確保するため、本発明の製造方法を用いる際に必要な小ブロックを除いて、ほぼ同一形状であることが好ましい。小ブロックを目的とする型の大きさに適したサイズになるよう接合して集成構造体を作成した後、通常NCマシンを用いて切削加工を行い、目的とする木型を製造する。収縮率の見込みは、通常0.7%前後とすることが好ましい。切削加工後の表面は、木型の防湿、および木型からの樹脂成分の溶出防止などを目的として、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂などによる表面コートをすることが好ましい。またかかるコートには、旭化成ケミカルズ(株)製サランラテックスの如き、ガスバリア製に優れた樹脂をコーティングすることも可能である。好ましくは、これらの表面コートをした型表面上に、綿フランネル、フェルト、ベルベット、およびスエード等の空気分を多く含む可撓性弾褥層で表面被覆をする。可撓性弾褥層には、エラストマー生地上にフロック加工やスエード加工したものも利用できる。かかる綿フランネル等の可撓性弾褥層は、成形品の木型表面との強い圧着を防止するので、型痕をつけることなく良好な面質を有する成形品を提供する。一方で、成形品の精度を高めるために、木型表面と成形品表面との距離はできるだけ近づけることが好ましいため、それらを勘案してかかる可撓性弾褥層の厚みを調整するようにする。
【0017】
本発明の熱成形品の製造方法は、雄型および雌型の狭持方向を法線とする投影面に対して、それぞれの型の接合線を投影したとき、かかる接合線が重ならないことを特徴とする。いずれか片面において接合線部の変化に起因する放熱の不均質さが生じた場合であっても、かかる特徴が反対面の接合線部への悪影響を抑制すると考えられ、結果として長期の製造にわたり良好な型特性を保持し、品質の良好な成形品を提供可能とする。従来のように接合線が表裏面で重なる場合には、放熱の不均質さが一旦生じると、直接に反対側の接合線にも影響を与え、接合線の不具合を助長とすると考えられる。
尚、雄型側の接合線と雌型側の接合線とは、互いに平行であっても非平行であってもよい。平行の場合は、製造の容易さ、型の寿命、および成形品の品質維持の利点を有することから、本発明においてより好ましい。
【0018】
小ブロックの大きさは、あまりに小さいと接合線の間隔が小さくなり、該線部分の不具合に起因した成形品の歪が生じやすくなるため好ましくなく、一方、小ブロックが大きすぎる場合には、該ブロックの製造に使用する原材料コストが高くなり、本発明の目的が十分に達成できない場合がある。したがって、本発明に用いる小ブロックの大きさは、少なくとも型表面を構成する部分において、次の範囲が好ましい。即ち、好ましくは、幅は20〜500mm、厚みは10〜150mm、および長さは200〜6000mmの範囲である。幅は、より好ましくは30〜150mm、更に好ましくは40〜100mmであり、厚みは、より好ましくは30〜100mm、更に好ましくは40〜100mmである。
【0019】
雄型側の接合線と雌型側の接合線との関係の好ましい態様は次のとおりである。即ち、雄型側の接合線と雌型側の接合線とは、投影面において互いに10mm以内の範囲になく、200mm以内の範囲にあることがより好ましい。200mmを超えて互いの接合線が存在しない構成にするためには、いずれかの大きな単一ブロックが必要であるか、もしくは、雄型および雌型と構造の大きく異なる集成構造体を準備する必要があるため、コストが上昇し本発明の目的を十分に達しない場合がある。かかる接合線相互間の距離の上限は、好ましく100mm以内、より好ましくは50mm以内である。一方、下限としては20mm以内の範囲に互いの接合線が存在しない構成とすることがより好ましい。
【0020】
また型は、少なくともその狭持部表面が、実質的に同一材質の四角柱形状の小ブロックを接着剤により接合して形成された集成構造体から所定の形状に削り出されたものであることが、より安価な小ブロックを利用して効率的に集成構造体を形成できることから好ましい。ここで、実質的に同一材質とは、最低限、天然木、ケミカルウッド、樹脂、および金属などの材種が同一でことをいうが、より好ましくは各材種において次のレベルにあるものをいう。天然木の場合には木材の種類が同一であるものをいい、ケミカルウッドの場合には、その組成が同一であるものをいう。樹脂の場合には同様にその組成および構成が同一であるものをいい、また、金属の場合にも種類および組成が同一であるものをいう。
【0021】
接合線部の変化は、成形時のシートの温度が高いほど影響が大きくなる。したがって、本発明の効果は、成形時のシートの温度がより高い方が発揮されやすい。より具体的には、本発明の製造方法は、成形時のシートの温度範囲(I)が、好ましくは130〜250℃、より好ましくは、155〜220℃、更に好ましくは160〜200℃とすることが好ましい。かかる温度範囲(I)の下限以上で本発明の効果は発揮されやすく、上限以下では長期の製造にわたり良好な型特性を保持することが可能となる。
【0022】
本発明の製造方法では、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、[Tg+5]℃〜[Tg+70]℃の温度範囲(II)で熱可塑性樹脂製シートを予備加熱し軟化させることが好ましい。したがって、シートの温度範囲は、上記の温度範囲(I)と温度範囲(II):[Tg+5]℃〜[Tg+70]℃のいずれをも満足する範囲が好適である。したがって、熱可塑性樹脂のTgは、60〜245℃の範囲を満足することが好ましい。尚、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg(℃))は、JIS K7121に規定される方法にて測定されたものであり、DSCなどのチャートにおいて認識できるガラス転移温度をいう。
【0023】
シートの加熱方法は、従来公知の各種の加熱方法が利用できる。例えば、空気強制循環式加熱炉、赤外線ヒーター、およびマイクロ波加熱などが例示される。尚、複数の加熱方法を順次および同時に併用することもできる。上記温度範囲(II)は、好ましくは[Tg+10]℃〜[Tg+55]℃、より好ましくは[Tg+15]℃〜[Tg+50]℃である。例えば、Tgが150℃であるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂材料の場合(1重量%程度の添加材を含む)、上記温度は155〜220℃であり、好ましくは160〜205℃、より好ましくは160〜200℃である。上記温度範囲(II)の下限未満では、十分な軟化に至るまでに時間がかかりすぎて製造効率が低下するか、強制的な曲げ加工をすることによる成形品の歪みや寸法精度の低減などを招く。一方、上記温度範囲(II)の上限を超える場合には、特にシート表面において分子鎖の緩和が急速に生じ、初期の高品位な表面性状を保てなくなる。一方で、シート表面における樹脂流動に起因する分子鎖の乱れが少ない場合には、かかる緩和によっても表面性状への不具合は減少し、より高温の熱成形加工に供しやすくなる。高温での熱成形加工は、製造効率や加工後の精度の点で有利である。
【0024】
本発明における熱成形品の大きさは、その厚みが好ましくは1〜9mmである。かかる厚みの下限は、より好ましくは2mm、更に好ましくは3mmである。かかる厚みの上限は、より好ましくは7mm、更に好ましくは6mmである。熱成形品の最大投影面積は、好ましくは200〜60,000cm、より好ましくは1,000〜40,000cmである。熱成形品の長さは好ましくは15〜300cm、より好ましくは30〜250cmである。かかる比較的大きな成形品であるほど、本発明の型を用いた成形法のコスト上の利点がより発揮される。尚、かかる熱成形品の最大投影面積や長さは、熱成形時の大きさをいい、トリム処理後にかかる条件を満足しない場合を含む。また成形品の湾曲の程度は、曲率半径(mm)で表わして、好ましくは500〜30,000mm、より好ましくは1,000〜25,000mm、より好ましくは1,500〜10,000mmの範囲である。
【0025】
熱成形における雄型および雌型の駆動は、通常、機械的な駆動装置を用いて、型およびその他必要とされる機械装置を動かす。かかる駆動装置としては、圧空または油圧ピストン、圧空または油圧モータ、電気モータ、および超音波モータなどが利用できる。かかる方法において高いプレス圧力を作用させる部分のプレス圧力は、好ましくは0.05〜2MPaである。型温度は、特に温度制御することなく、常温で利用できるが、適宜ヒーターおよび熱媒等を用いて温度制御することも可能である。
【0026】
本発明におけるシートを形成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないものの、熱成形においても透明性を確保できるものが、本発明の効果がより発揮されることから好ましい。したがって、本発明の熱可塑性樹脂は、非晶性の熱可塑性樹脂であることが好ましい。また結晶性熱可塑性樹脂であっても、十分な透明性を確保できるものであればシートを形成する熱可塑性樹脂として使用できる。かかる結晶性熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、および結晶性を低下させた共重合ポリエステル樹脂などが例示される。
【0027】
非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、変性PPE樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂などが例示される。これらの中でも透明性や強度の点で、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂が好ましく、特に、加えて比較的成形時のシートの温度が高く、かつ強度に優れたポリカーボネート樹脂が好ましい。特にビスフェノールA型ポリカーボネートが好ましい。
【0028】
本発明では偏光観察した場合にも、不均一な歪みがない成形品を熱成形して製造する場合に好適であることから、その成形品は透明性を有することが好ましい。かかる透明性は、JIS K7105に準拠する方法で測定されたヘーズ値が、好ましくは0.1〜20%の範囲であり、かかる上限は好ましくは10%、より好ましくは5%である。また全光線透過率は、透視像が観察可能な透明性を有すればよいが、より具体的には、JIS K7105に準拠する方法で測定された全光線透過率が好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上である。
【0029】
上記のポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート以外にも、他の二価フェノールで重合された、各種のポリカーボネート樹脂であってもよい。ポリカーボネート樹脂はいかなる製造方法によって製造されたものでもよく、界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。ポリカーボネート樹脂はまた3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二価の脂肪族または脂環式アルコールを重合または共重合させたポリカーボネートまたは共重合ポリカーボネートであってもよい。脂環式アルコールとしてはイソソルビドが好適に利用される。更には、ポリオルガノシロキサン単位、ポリアルキレン単位、およびポリフェニレン単位などポリカーボネート以外の単位が共重合された共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は13,000〜40,000の範囲であると、幅広い分野に適用可能となる。粘度平均分子量が20,000未満であると切削性に優れ、装飾用途や精密彫刻用途に好適となる。粘度平均分子量が20,000以上であると強度に優れ、樹脂製グレージングに好適となる。本発明の好適な用途である樹脂製グレージングにおいては、粘度平均分子量の下限はより好ましくは22,000、更に好ましくは23,000である。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の上限は、汎用性の点からより好ましくは35,000、更に好ましくは30,000である。尚、かかる粘度平均分子量はポリカーボネート樹脂全体として満足すればよく、分子量の異なる2種以上の混合物によりかかる範囲を満足するものを含む。
【0031】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。ポリカーボネート樹脂の詳細については、例えば、特開2002−129003号公報に記載されている。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0032】
上記のポリカーボネート樹脂に代表される熱可塑性樹脂は、好ましくは透明性を損なわない範囲において、従来公知の各種の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、離型剤、摺動剤、赤外線吸収剤、光拡散剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、強化充填材、衝撃改質剤、光触媒系防汚剤、酸抑制剤、加水分解安定剤、およびフォトクロミック剤等が例示される。尚、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、および離型剤などは、従来上記の熱可塑性樹脂における公知の適正量を配合できる。
本発明の熱成形品は、上述のとおり各種の樹脂製グレージングに好適であることから、上記の中でも特に熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、および赤外線吸収剤などを含有することが好ましい。
【0033】
熱成形に使用する熱可塑性樹脂製シートは、射出成形、および押出成形を用いて製造することができるが、射出成形がより好ましく、中でも射出圧縮成形を利用することが好ましい。本発明は、大量生産とはいえ少量多品種の対応により適したものである。樹脂原料の切替えおよび製造時の条件出しまでのロスなどの製造上の小回りを考慮すると射出成形が有利な場合がある。また平板成形品の場合、射出成形用金型の方が低コストで製造できる場合があり、かつ面精度の上でも高い品質を達成することができる。
かかる射出圧縮成形は、特開2009−220554号公報に記載された装置および条件に準拠して行うことができる。かかる公報には2層が積層された態様についての詳細が記載されるが、その第1層を形成する1次成形における条件を適用することができる。即ち、射出圧縮成形の詳細は、特開2009−220554号公報に記載され、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0034】
本発明の熱成形品のより好ましい態様は、成形品中で透視像を視認する面において下記の条件を満足するものである。すなわち、熱成形品の透視像を視認する面の両面において、表面粗さ(Ra):0.06μm以下、表面うねり成分の平均振幅y:0.5μm以下、かつ表面うねり成分の平均波長xが検出される場合、yは下記式(1)を満足することが好ましい。
y ≦ 0.0004x+0.0002x (1)
(式(1)において、yはシートのJIS B0610に規定するろ波うねり曲線の平均振幅Waを表し、その単位はμmであり、xはシートのろ波うねり曲線の平均波長WSmを表し、その単位はmmである。)
【0035】
ここで、Raとは、JIS B0610に従って測定された算術平均粗さのことである。上記において、好ましくはRa:0.05μm以下およびy:0.4μm以下であり、より好ましくはRa:0.03μm以下およびy:0.3μm以下であり、に好ましくはRa:0.02μm以下およびy:0.2μm以下である。一方、製造コスト低減と現状求められる表面性状との両立の観点からは、Raの下限は好ましくは0.001μm、より好ましくは0.002μm、更に好ましくは0.005μmであり、yの下限は、好ましくは0.05μm、より好ましくは0.1μmである。かかる面性状の成形品を製造するには、同様の性状を満足する金型を用いて、射出成形(射出圧縮成形を含む)ことが好ましい。かかる面性状の詳細は、特開2002−128909号公報に記載され、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0036】
本発明の熱成形品には、印刷やハードコートの如きコーティング処理を施すことができる。かかる処理を行う場合、以下の(工程順序−1)〜(工程順序−6)のいずれの工程で行ってもよい。
(工程順序−1):1.シート準備工程/2.コート工程/3.印刷工程/4.熱成形工程
(工程順序−2):1.シート準備工程/2.コート工程/3.熱成形工程/4.印刷工程
(工程順序−3):1.シート準備工程/2.熱成形工程/3.印刷工程/4.コート工程
(工程順序−4):1.シート準備工程/2.熱成形工程/3.コート工程/4.印刷工程
(工程順序−5):1.シート準備工程/2.印刷工程/3.コート工程/4.熱成形工程
(工程順序−6):1.シート準備工程/2.印刷工程/3.熱成形工程/4.コート工程
【0037】
樹脂製グレージングを考慮した場合により好適な工程順序は、工程順序−6である。シートに印刷が施された場合、かかるシートは型の所定の位置に正確に設置される必要がある。かかる位置決めの方法としては、シートのクランプへの取り付け位置と、型の位置とが予め搬送装置のプログラムに正確に入力され、シートをクランプへジグなどを用いて正確な取りつけることにより達成される方法、並びに型にシートをセットする際に、シートの位置または印刷の位置をセンサーで読み取り、該位置をフィードバックしてクランプ位置を制御する方法が好適に例示される。本発明においてはいずれも利用可能である。印刷方法は特に限定されず、従来公知の方法で、平板のもしくは湾曲したシート表面に印刷できる。印刷方法としては、例えば、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、およびインクジェット印刷などの方法が例示される。工程順序−6の場合には、スクリーン印刷が、その簡便性、印刷精度、および生産性の観点で好ましい。
【0038】
本発明の熱成形品は、トリム工程により所定の形状を形成することができる。かかるトリム工程においては、切削加工法、切断法、および打ち抜き法などの従来樹脂の加工方法として公知の方法が利用でき、これらを適宜組み合わせることもできる。切削加工法としては、ルーター、エンドミル、フライス、およびロータリーバイトなどの各種切削工具を用いて、NC旋盤、フライス盤、およびマシニングセンタなどにより切削加工を行う方法が例示される。
【実施例】
【0039】
(I)評価項目
(I−1)偏光板観察
射出圧縮成形して製造されたシートを連続して100回熱成形を行い、最終の成形品にクロスニコルの偏光板観察により、接合線に対応した歪み線が認められるか否かを観察した。
【0040】
(II)ポリカーボネート樹脂組成物の製造
下記の原料表記に従い、熱可塑性樹脂製シートの原料となる樹脂組成物のペレットの製造方法について説明する。9.43重量部のPC、0.1重量部のVPG、0.02重量部のSA、0.03重量部のPEPQ、0.05重量部のIRGN、0.3重量部のUV1577、0.07重量部のIRA、および1×10−4重量部のBLをスーパーミキサーで均一混合した。かかる混合物10.0001重量部に対して、90重量部のPCとをV型ブレンダーで均一に混合し、押出機に供給するための予備混合物を得た。得られた予備混合物をスクリュ径77mmφのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX77CHT(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー))に供給し、吐出量320kg/h、スクリュ回転数160rpm、およびベントの真空度3kPa、並びに第1供給口230℃からダイス部分280℃まで段階的に上昇させる温度構成とする条件で押出した。押出されたストランドを冷却後、ペレタイザーにより切断してペレットを得た。
【0041】
尚、上記使用原料は下記の通りである。
PC: ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造された粘度平均分子量25,000のポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1250WQ(商品名))
VPG:ペンタエリスリトールと脂肪族カルボン酸(ステアリン酸およびパルミチン酸を主成分とする)とのフルエステル(コグニスジャパン(株)製:ロキシオールVPG861)
SA:脂肪酸部分エステル(理研ビタミン(株)製:リケマールS−100A)
PEPQ:ホスホナイト系熱安定剤(BASFジャパン(株)製:Irgafos P−EPQ)
IRGN:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製:Irganox1076)
UV1577:2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール(BASFジャパン(株)製:Tinuvin1577)
BL:ブルーイング剤(バイエル社製:マクロレックス バイオレットB)
IRA:有機分散樹脂と無機赤外線吸収剤としてCs0.33WO(平均粒子径5nm)とからなり、無機赤外線吸収剤含有量が約23重量%からなる赤外線遮蔽剤(住友金属鉱山(株)製YMDS−874)
【0042】
(III)射出成形品の製造
参考例で製造されたポリカーボネート樹脂組成物のペレットを120℃にて5時間クリーンオーブン中で乾燥した後、成形機としてシリンダー内径50mmφの超高速射出装置を備えた射出プレス成形の可能な射出成形機である日精樹脂工業(株)製FN−8000−36ATNを使用し、板状成形品(寸法:300mm×300mm×4mmt、ゲートは長さ同一厚みかつ流動方向に長さ50mmのファンゲートであり、そのゲート中央部の端にホットランナー口を有する)をいわゆる射出プレス成形法による射出圧縮成形をして製造した。ホットランナー部分の温度は310℃とした。射出プレス成形はコア圧縮法で行い、拡大されたキャビティに溶融樹脂が完全に充填されない状態でコア圧縮する方法で実施した。シリンダ温度は280℃、および金型温度は100℃とした。射出プレス成形の成形条件は、射出速度:35mm/sec、プレスストローク(キャビティ容量拡大のための金型後退幅):6mm、プレス速度(キャビティ容量減少のための金型前進速度):5mm/sec、オーバーラップ時間(キャビティ容量減少(圧縮)開始から射出工程が終了するまでの時間):0.5sec、冷却時間:70secとした。
【0043】
(IV)シートの熱成形
熱プレス成形機を用いて、木型からなる雌型および雄型の両表面に綿フランネルを接着剤により貼着した。木型は、長さ×厚み×幅が300mm×50mm×50mmのメープル材からなる小ブロックをレゾルシノール系接着剤で接合した集成構造体から、NCマシンで削り出しを行い、表面の仕上げにエポキシ樹脂系のコーティングを施したもの(図1)を、従来型として使用した。一方、雌型の両端部分にのみに長さ×厚み×幅が300mm×50mm×25mmのメープル材からなる小ブロックを用いて、雌型の両端部分以外および雄型は長さ×厚み×幅が300mm×50mm×50mmのメープル材からなる小ブロックをレゾルシノール系接着剤で接合した集成構造体から、NCマシンで削り出しを行い、表面の仕上げにエポキシ樹脂系のコーティングを施し、雄型と雌型との狭持部表面における接合線が重ならないようにしたもの(図3)を、本発明の熱成形品を得るための型として使用した。
シートをクランプ留めした状態で、炉内温度200℃の空気強制循環式加熱炉に送り、加熱炉内で4分間留めた後、熱プレス成形工程に即座に送り、雄型が下、雌型が上に配置された両型間に狭持して熱成形した。型内に2分間とどめた後、型から取り出して熱成形品を得た。木型は温度制御することなく使用した。かかる工程を連続して100回行い、最終時の成形品の状態を確認した。この後、平坦部分をトリム処理し、湾曲されたグレージング成形品を得た。
【0044】
(実施例1および比較例1)
評価方法(I−1)に基づき評価を行った。図1に示す構造の型を用いて得られた熱成形品は、偏光板観察により明確な歪み線が認められた(比較例1)。一方、図3に示す構造の本発明の熱成形品を得るための型を用いて得られた熱成形品は、明確な歪み線は認められなかった(実施例1)。かかる結果から明らかなように本発明の熱成形品を得るための型を用いた製造方法では、より多数の熱成形品において良品が製造できることがわかる。
【0045】
(実施例2)
上記実施例1において、射出圧縮成形して製造されたシート上に下記(V)に示すブラックアウト印刷を施した後、熱成形を行った以外は実施例1と同様に行い、図5に示す成形品を得た。かかる熱成形は、実施例1の試験後の型をそのまま使用した。その後、下記(VI)に示すハードコート処理を行い、トリム処理をした後、図6に示す樹脂製グレージングを得た。かかる樹脂製グレージングにおける偏光板観察においても、大きな歪みは認められなかった。
【0046】
(V)シートへの印刷
シートにスクリーン印刷によりブラックアウト印刷を施した。印刷は、清浄な空気を循環した23℃、相対湿度50%の雰囲気下で行われた。スクリーン版は200メッシュを用い、得られた印刷層の膜厚は約8μmであった。印刷後30分の風乾を行い、その後90℃で60分の処理によりインキ層を乾燥および固定した。印刷で使用したインキはアクリルポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン樹脂をバインダーとする2液性インキ(POSスクリーンインキ:100重量部、210硬化剤:5重量部、およびP−002溶剤:15重量部の均一混合物(原料はいずれも帝国インキ(株)製))を使用した。
【0047】
(VI)印刷成形品へのハードコート処理
印刷および熱成形された成形品の両面に、下記のHP−1を第1層用として、HT−1を第2層用として塗布し、それぞれ塗布後に加熱硬化した。HP−1塗布後の加熱条件は125℃で60分間、HT−1塗布後の加熱条件は125℃で60分間とした。加熱は空気強制循環式加熱炉内に保管して行った。ハードコートの膜厚は、第1層および第2層共に5μmであった。
【0048】
(VI−1)アクリル樹脂塗料HP−1の調製
還流冷却器および撹拌装置を備え、窒素置換したフラスコ中にエチルメタクリレート(以下EMAと省略する)74.2重量部、シクロヘキシルメタクリレート(以下CHMAと省略する)33.6重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMAと省略する)13.0重量部、LA−82(旭電化工業(株)製ヒンダードアミン系光安定性基含有メタクリレート;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート12.0重量部、メチルイソブチルケトン(以下MIBKと省略する)132.8重量部および2−ブタノール(以下2−BuOHと省略する)66.4重量部を添加混合した。混合物に窒素ガスを15分間通気して脱酸素した後、窒素ガス気流下にて70℃に昇温し、アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと省略する)0.33重量部を加え、窒素ガス気流中、70℃で5時間攪拌下に反応させた。さらにAIBN:0.08重量部を加えて80℃に昇温し、3時間反応させ、不揮発分濃度が39.7重量%のアクリル共重合体溶液を得た。アクリル共重合体の重量平均分子量はGPCの測定(カラム;Shodex GPCA−804、溶離液;THF)からポリスチレン換算で115,000であった。アクリル共重合体溶液100重量部に、MIBK:71.5重量部、2−BuOH:35.7重量部、1−メトキシ−2−プロパノール(以下IPAと省略する):112重量部を加えて混合し、チヌビン400(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製トリアジン系紫外線吸収剤)4.24重量部、およびチヌビン479(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製トリアジン系紫外線吸収剤)1.06重量部、アクリル共重合体溶液中のアクリル共重合体のヒドロキシ基1当量に対してイソシアネート基が1.0当量になるようにVESTANAT B1358/100(デグサ・ジャパン(株)製ブロック化されたポリイソシアネート化合物)10.3重量部を添加し、さらにジメチルチンジネオデカノエート:0.022重量部、APZ−6601(東レダウコーニング製シランカップリング剤加水分解縮合物の溶液:固形分4.5重量%)15.7重量部を加えて25℃で1時間攪拌し、アクリル樹脂塗料(HP−1)を得た。
【0049】
(VI−2)コーティング塗料HT−1の調製
水分散型コロイダルシリカ分散液(触媒化成工業(株)製カタロイドSN−30、固形分濃度30重量%):100重量部に、濃塩酸(12M):0.1重量部を加えよく攪拌した。この分散液を10℃まで冷却し、その中にメチルトリメトキシシラン:161重量部を滴下した。メチルトリメトキシシランの滴下直後から反応熱で混合液の温度は上昇を開始し、かかる開始から数分後に60℃まで昇温した。60℃に到達後、氷水浴で冷却しながら、徐々に反応液の温度を低下させた。反応液の温度が35℃になった段階で、この温度を維持するようにして5時間攪拌し、これに、硬化触媒として45%コリンメタノール溶液:0.7重量部、pH調整剤としての酢酸:1.2重量部を混合し、コーティング塗料原液(α)を得た。かかるコーティング塗料原液(α)209重量部にIPA:138重量部を加えて攪拌し、コーティング塗料HT−1を得た。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱成形法では、低歪みが求められる樹脂製グレージングの分野においても、通常試作用と認識される木型の如き初期投資の低い型から、比較的多数の製品を製造することを可能としている。かかる発明の利点は、特に、少量多品種となりがちな樹脂製グレージングの分野において好適であると共に、同様にかかる少量多品種性が求められる各種の産業資材の分野において極めて有用である。
【符号の説明】
【0051】
101 実施例で従来技術として使用した集成構造体からなる雌型
102 該雌型の小ブロック(幅50mm)
103 雌型101の挟持部表面の接合線−1
104 同じく接合線−2
105 同じく接合線−3
106 同じく接合線−4
107 同じく接合線−5
108 雌型厚み(50mm)
110 雌型101の曲面部
121 熱成形品本体
122 熱成形品曲面部(グレージング部本体;上面(表面)は水平面からの最大高さ10mmであり、面は球面状である)
123 雌型101の挟持部表面の接合線−1に対応する熱成形品121表面上の位置
124 同じく接合線−2に対応する位置
125 同じく接合線−3に対応する位置
126 同じく接合線−4に対応する位置
127 同じく接合線−5に対応する位置
133 雄型141の挟持部表面の接合線−1に対応する熱成形品121表面上の位置
134 同じく接合線−2に対応する位置
135 同じく接合線−3に対応する位置
136 同じく接合線−4に対応する位置
137 同じく接合線−5に対応する位置
141 実施例で従来技術として使用した集成構造体からなる雄型
142 該雄型の小ブロック
143 雄型141の挟持部表面の接合線−1
144 同じく接合線−2
145 同じく接合線−3
146 同じく接合線−4
147 同じく接合線−5
148 雄型の厚み(44mm)
149 曲面部の高さ(6mm)
150 雄型141の曲面部
301 実施例で使用した集成構造体からなる雌型
302 該雌型の小ブロック(幅50mm)
303 端に存在する該雌型の小ブロック(幅25mm)
304 雌型301の挟持部表面の接合線−1
305 同じく接合線−2
306 同じく接合線−3
307 同じく接合線−4
308 同じく接合線−5
309 同じく接合線−6
310 雌型301の曲面部
321 熱成形品本体
322 熱成形品曲面部(グレージング部本体;上面(表面)は水平面からの最大高さ10mmであり、面は球面状である)
324 雌型301の挟持部表面の接合線−1に対応する熱成形品321表面上の位置
325 同じく接合線−2に対応する位置
326 同じく接合線−3に対応する位置
327 同じく接合線−4に対応する位置
328 同じく接合線−5に対応する位置
329 同じく接合線−6に対応する位置
333 雄型341の挟持部表面の接合線−1に対応する熱成形品321表面上の位置
334 同じく接合線−2に対応する位置
335 同じく接合線−3に対応する位置
336 同じく接合線−4に対応する位置
337 同じく接合線−5に対応する位置
341 実施例で使用した集成構造体からなる雄型
342 該雄型の小ブロック(幅50mm)
343 雄型341の挟持部表面の接合線−1
344 同じく接合線−2
345 同じく接合線−3
346 同じく接合線−4
347 同じく接合線−5
350 雄型341の曲面部
501 ブラックアウト印刷後の熱成形品
502 熱成形品の曲面部
503 熱成形品のブラックアウト印刷部
601 ブラックアウト印刷部の幅(20mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)
(a)熱可塑性樹脂製シートを準備する工程(工程(a))、
(b)該シートを熱成形可能な温度まで予備加熱し軟化させる工程(工程(b))、
(c)一対の雄型および雌型からなる型に、かかる軟化した熱可塑性樹脂製シートを狭持し、曲面を有する熱成形品を得る工程(工程(c))、
の工程を含み、
工程(c)に用いる一対の雄型および雌型は、いずれもその狭持部表面において、複数の小ブロックが接合された集成構造により接合線を有しており、両型の狭持方向を法線とする投影面に対してかかる接合線を投影したとき、雄型側の接合線と雌型側の接合線とが重ならないこと
を特徴とする熱成形品を得るための製造方法。
【請求項2】
雄型側の接合線と雌型側の接合線とは、投影面において互いに平行である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記の型は、少なくともその狭持部表面が、実質的に同一材質の四角柱形状の小ブロックを接着剤により接合して形成された集成構造体から所定の形状に削り出されたものである請求項1〜2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
上記の接着剤は、水性高分子イソシアネート系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、およびレゾルシノール系接着剤からなる群から選択される少なくとも1種の接着剤である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
上記の熱可塑性樹脂製シートは、透明性を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
上記の熱可塑性樹脂製シートは、射出圧縮成形法により製造されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
上記請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた樹脂製グレージング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223941(P2012−223941A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92022(P2011−92022)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】