説明

熱架橋性化合物

【課題】室温保存時の粘度安定性が良く、熱硬化膜を作成した際の熱硬化膜の吸湿性能が低下しない感光性樹脂組成物を調整するのに使用する新規な熱架橋性化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1):


{式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の有機基である。}で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品や表示素子の絶縁材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の表面保護膜や層間絶縁膜の用途には、優れた耐熱性、電気特性、及び機械特性を併せ持つポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂が好適であることは広く知られている。この用途に使用されるポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂は、一般にその前駆体を使用して、感光性樹脂組成物の形で供され、これをシリコンウエハ等の基板に塗布し、活性光線によるパターニング露光、現像、及び熱処理を順次施すことにより、微細なレリーフパターンを有する耐熱性樹脂皮膜を該基板上に容易に形成させることができる。
【0003】
この耐熱性樹脂皮膜には、優れたガラス転移温度や優れた耐薬品性が求められる。耐熱性樹脂皮膜となる感光性樹脂組成物に熱架橋性化合物を添加することで、熱処理時に、該熱架橋性化合物が作用を発揮し、耐熱性樹脂皮膜の性能を向上することが知られている(例えば、以下の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−016214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来公知の熱架橋性化合物は、組成物にした際に、室温保存時に感光性樹脂組成物の粘度安定性が悪い、耐熱性樹脂組成物の吸湿性能が低下する等の問題があった。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ポリイミド前駆体樹脂やポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂とともに感光性樹脂組成物とした際に、室温保存時に感光性樹脂組成物の粘度安定性が良く、感光性樹脂組成物を使用して、熱硬化膜を作成した際の熱硬化膜の吸湿性能が低下しないという観点から好適な新規な熱架橋性化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討し実験を重ねた結果、下記に示す特定の構造を有す化学成分が、感光性樹脂組成物に好適な熱架橋性化合物であることを発見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0007】
[1]下記一般式(1):
【化1】

{式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の有機基である。}で表される化合物。
【0008】
[2]下記式(2):
【化2】

で表される化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、感光性樹脂組成物とした際に、室温保存時に感光性樹脂組成物の粘度安定性が良く、感光性樹脂組成物の吸湿性能が低下しない熱架橋性化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で合成した化合物Bの1H−NMRスペクトル図である。
【図2】実施例1で合成した化合物BのFT−IRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の化合物は下記一般式(1):
【化3】

{式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の有機基である。}で表される化合物である。
【0012】
一般式(1)中、R及びRは、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、及びt−ブチル基から選ばれる基であることが好ましく、各R及び各Rの間並びにR及びRの間で互いに同一でも異なっていてもよい。
これらの中でR及びRがメチル基であることが、合成時の容易性の観点から、好ましい。
例えば、下記の合成手順:
【化4】

に従って、目的の化合物を得ることができる。
【0013】
出発原料の化合物Aとしては、1,3,5−トリメトキシベンゼン、1,3,5−トリエトキシベンゼン、1,3,5−トリプロポキシベンゼン、1,3,5−トリイソプロポキシベンゼン、1,3,5−トリブトキシベンゼン、1,3,5−トリ-t−ブトキシベンゼンが挙げられる。
これら化合物に氷酢酸中でアセトアルデヒドを加え、スラリー状態で攪拌し、70℃前後で臭化水素水溶液と酢酸の混合液を適量滴下し、3時間以上攪拌し、冷却した後、クロロホルムと水を用いて、目的物を分液精製し、クロロホルム層を真空乾燥することで、化合物Bが得られる。この化合物をトルエン等の溶媒に溶解し、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウム−t−ブトキシド等を室温で加え、30時間時間以上反応させる。更に、この溶液にトルエンと食塩水を加え、分液精製し、トルエン層を真空乾燥し、溶媒を留去することで、化合物Cを得ることができる。得られた化合物Cを、シリカゲルカラムクロマトを使用して、更に精製してもよい。このようにして得られる化合物Cのなかで、下記式(2):
【化5】

で表される化合物が、合成の容易性、感光性樹脂組成物に添加した際の保存安定性が高い点、耐熱性の向上力の観点から好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明の実施形態を説明する。
<実施例1>
攪拌棒、乾燥管、温度計を備えた5Lセパラブルフラスコに、1,3,5−トリメトキシベンゼンを235g(1.4モル)、アセトアルデヒド156g(5.19モル)、氷酢酸532gを加え、20℃〜25℃で2時間、スラリー状態で攪拌した。これに、7.41モル相当の30%臭化水素水溶液と酢酸を混合した溶液2000gを滴下すると、発熱により56℃まで温度が上昇した。滴下に従い、溶液の色が白から黄色、紫色に変化した。滴下終了後、70℃で50分攪拌すると完全に溶解し、さらに3時間攪拌すると、褐色に反応液が変化した。その後、20℃に冷却し、水7860gに反応液を投入した。これにクロロホルム9000gを加え、反応物を抽出した。これに5重量%重曹水4080gを加えて洗浄した。その後、20重量%食塩水4080gを加え、硫酸マグネシウム600gを加えて脱水し、クロロホルム層を濾過洗浄後、溶媒を50℃に加温し、8mmHgで真空乾燥することで溶媒を留去し、褐色液体456gの下記化合物B:
【化6】

を得た。
【0015】
攪拌棒、窒素導入管、温度計を備えた1L4つ口フラスコに、化合物B108.28g(0.2435モル)をトルエン435gに溶解した。これに28%ナトリウムメトキシド溶液235.05g(1.217モル)を23℃前後で8分かけて滴下した。35℃で27時間攪拌した後、更に28重量%ナトリウムメトキシド溶液46.97g(1.0モル)を加え、25時間攪拌した。この反応液を5℃の冷水2176gに投入し、トルエン1741gを加え、有機溶媒層と水層に分液した。20重量%食塩水1306gを加えて水層を廃棄し、これを3回繰り返した。硫酸マグネシウム200gをトルエン層に加え、トルエン300mlを加えた後、硫酸マグネシウムを濾過洗浄し、溶媒を50℃に加温し、10mmHgで真空乾燥することでトルエン溶媒を留去し、81.9gの目的物の粗体を得、これをヘキサンとエタノールを4:1で混合した展開溶媒を使用したシリカゲル3kgでカラムクロマトグラム精製を行い、メインクロマトグラム物を回収し、真空乾燥50℃で40時間行うことで、56gの下記目的精製化合物C:
【化7】

を得た。これをCL-1とする。
【0016】
化合物Cを重水素化クロロホルムに3%の濃度で溶解し、日立製作所製 R−90H NMR(測定条件:溶媒:重水素化クロロホルム、共鳴周波数:90MHz)を使用し、積算回数24回で測定したプロトンNMRの結果を図1に示す。
また、化合物Cをパーキンエルマー社製 FT−IR Paragon1000(サンプル:KBr板に直接散布 積算回数:10回)を使用してFT−IRスペクトルを測定した。その結果を図2に示す。
【0017】
(参考例1)<樹脂の合成>
容量2リットルのセパラブルフラスラスコ中で、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン197.8g(0.54mol)、ピリジン71.2g(0.9mol)、DMAc692gを室温(25℃)で混合攪拌し、ジアミンを溶解させた。これに、別途DMDG(ジエチレングリコールジメチルエーテル)88g中に5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物29.6g(0.18mol)を溶解させたものを、滴下ロートより滴下した。滴下に要した時間は40分、反応液温は最大で28℃であった。
【0018】
滴下終了後、湯浴により50℃に加温し18時間撹拌したのち反応液のIRスペクトルの測定を行い1385cm-1及び1772cm-1のイミド基の特性吸収が現れたことを確認した。
次にこれを水浴により8℃に冷却し、これに別途DMDG398g中に4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロリド132.8g(0.45mol)を溶解させたものを、滴下ロートより滴下した。滴下に要した時間は80分、反応液温は最大で12℃であった。
滴下終了から3時間後、上記反応液を12Lの水に高速攪拌下で滴下し重合体を分散析出させ、これを回収し、適宜水洗、脱水の後に真空乾燥を施し、ポリベンゾオキサゾール前駆体(P−1)を得た。
このようにして合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体(P−1)のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)による重量平均分子量は、ポリスチレン換算(東ソー株式会社製、TSK標準ポリスチレン)で8900であった。GPCの分析条件を以下に記す。
カラム:昭和電工社製 商標名 Shodex KF807/806M/806M/802.5
容離液:テトラヒドロフラン 40℃
流速 :1.0ml/分
検出器:昭和電工製 商標名 Shodex RI RI−101
【0019】
<ポジ型感光性樹脂組成物の調製及びその評価>
上記参考例1にて得られた、アルカリ可溶性樹脂としてのポリベンゾオキサゾール前駆体(P−1)100質量部を220質量部の溶媒(ガンマブチロラクトン)に溶解し、以下の:
【化8】

で表される化合物のフェノール性水酸基の77%をナフトキノンジアジドー4−スルホン酸エステル化した感光性化合物(PAC-1)(東洋合成社品)18質量部を加えた。
【0020】
更に、実施例1にて得られた化合物(CL−1)を表1に示す組合せでそれぞれ感光性樹脂組成物を調製した[実施例2及び実施例3]。その後、1μmのフィルターで濾過してポジ型感光性樹脂組成物を調製し、その室温保存時の粘度安定性及び熱硬化膜の吸水率及びガラス転移温度(Tg)を評価した。また、本発明の化合物の比較例1と比較例2として、従来技術(公知)の以下の:
【化9】

で表される化合物(三和ケミカル社製 商品名 MX270)を表1に示す組み合わせで含む感光性樹脂組成物を調製した。更に、PAC-1以外何も添加していない感光性樹脂組成物を比較例3として調製した。
【0021】
このようにして得られた感光性樹脂組成物をそれぞれ、6インチシリコンウェハー上に、スピンコーター(東京エレクトロン社製 クリーントラックMark7)により塗布し、130℃で180秒間乾燥し、12μmの膜厚の塗膜を得た。この様にして得られたシリコンウェハーを昇温式オーブン(光洋サーモシステム社製 VF200B)を用いて窒素雰囲気下、290℃で1時間加熱し、熱硬化膜が付いたシリコンウェハーを得た。これらシリコンウェハーの熱硬化膜の膜厚を測定した後に、3%フッ酸水溶液に15分浸漬し、熱硬化膜を剥離し、純水で洗浄し、乾燥することで、熱硬化膜を得た。硬化膜のガラス転移温度(Tg)の測定をそれぞれ行った。結果を以下の表2に示す。
【0022】
実施例1で得られた化合物を加えた実施例2と実施例3は、何も添加しなかった比較例3と比較してガラス転移温度が向上した。また、それぞれの熱硬化膜を窒素雰囲気下150℃に加熱したホットプレート上で5分間加熱脱水し、窒素ガス雰囲気下で室温まで冷却し、素早く精密天秤で重量を測定しこれを乾燥時重量と規定し、同じサンプルを湿度60%温度23℃の環境で、8時間放置した後の重量を吸湿重量と規定し、重量変化を乾燥時重量で割り、100倍したものを吸湿後重量変化率と定義し、それぞれのサンプルで測定を行った。その結果も表2に示す。実施例1で得られた化合物を加えた実施例2と3は、従来技術の化合物を使用した比較例1と2と比較して、吸湿後重量変化率が小さいため好ましいことが分かる。
【0023】
さらに、それぞれの感光性樹脂組成物を室温で4週間放置した後の粘度変化率を測定した。その結果も表2に示す。実施例1で得られた化合物を加えた実施例2と3は、従来技術の化合物を使用した比較例1と2と比較して、粘度変化率が小さいため好ましいことが分かる。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の新規な熱架橋性化合物を用いた感光性樹脂組成物は、半導体用の保護膜、層間絶縁膜、液晶配向膜等の分野で、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

{式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の有機基である。}で表される化合物。
【請求項2】
下記式(2):
【化2】

で表される化合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−275200(P2010−275200A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126736(P2009−126736)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】