説明

熱溶着用抵抗発熱体

【技術課題】
溶着強度とシール性を高めることの出来る熱溶着用抵抗発熱体を提供する。
【解決手段】
抵抗発熱体1の両エッジに沿って交互に切り込み2を形成する。
被溶着部材10の溶着面に形成した溶着溝11内に抵抗発熱体1を組み付け、被溶着部材12側の溶着リブ13を抵抗発熱体1に押圧しながら抵抗発熱体1の給電部3、3aに電圧を印加すると、抵抗発熱体1が発熱し、この熱でこの周囲の樹脂が溶融し、抵抗発熱体1の切り込み2内に溶融樹脂が入り込むことにより、固化した時に抵抗発熱体1は溶着部において強固に固定される。
この結果、抵抗発熱体1と樹脂との熱膨張率の差に起因して発生する抵抗発熱体1の伸縮にともなう応力により、溶着部に亀裂等が発生するのが防止され、これにより溶着強度及びシール性が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する際に用いられる熱溶着用抵抗発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂で成形されたお互いの成形品を接合する方法の一つとして、その接合面に電気抵抗に基づく抵抗発熱体を挟み込み、成形品を適宜な力で押圧しながら前記抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させ、その熱で接合面の樹脂を溶融し、その後、電圧の印加を止めて冷却することにより溶着した樹脂を冷却硬化させて成形品同士を溶着する熱溶着方法と抵抗発熱体が特許文献1に紹介されている。
【0003】
ここで紹介されている抵抗発熱体の場合、その一例として、溶着強度を高めるためにこの抵抗発熱体に孔13を設け、この孔13を経由して被溶着体の樹脂が強固に結合するようにしている。
【0004】
又、特許文献2には、抵抗発熱体が発熱したときの軸線方向の伸びを逃がす手段として、発熱体の一部に逃し部62を形成した技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−59050号公報
【特許文献2】特開2005−319597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし乍ら、前記した特許文献1において、溶着強度を高めるために発熱体に孔13を設けた場合、この孔13を経由しての溶着による溶着強度の向上は見込めるが、通常使用される発熱体は、溶着が終った後はただの挟雑物として接合面内に残り、この部分では溶着が無く、強度不足の原因となることから、溶着強度を高めるために発熱体が偏平な場合には、その幅は可能な限り小さく設定されている。
【0007】
例えば、通常の発熱体の場合、その幅は0.5〜2.0mmであり、ここに孔13を設ける場合、この孔13の直径は0.2〜1.0mmが限度となるが、特にこの幅の小さい発熱体の場合は、孔13の直径は極めて小径となり、孔を形成した効果は極めて小さくなる。
【0008】
また、発熱体は常温から250℃〜350℃まで急激に加熱され一気に熱膨張し、固化時、つまり冷却時には発熱体が収縮し、この収縮により溶着部において樹脂側に大きな負荷が発生し、この負荷により溶着部に亀裂が発生して強度及びシール性が低下する要因となる。
【0009】
また、発熱体に孔13が設けてあると、この孔13の両サイドの発熱体の断面積は孔13の無い部分に比較して数分の1となり、この孔13の部分における発熱量は、電気発熱の特性から孔の無い部分に比較して高温となり、この高温と低温が発熱体の長手方向において繰り返しとなる。
【0010】
このため、熱膨張と収縮率の差の繰り返しが長手方向において発生し、これが樹脂側に負荷を与え、亀裂発生やシール性低下の要因となる。
【0011】
また、引用文献2の抵抗発熱体においては、逃がし部で線膨張を吸収することはできても、収縮時にはこの逃がし部において固化した樹脂が収縮抵抗となり、この逃がし部に応力が集中して亀裂等の要因となり、実用化には問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、熱溶着用抵抗発熱体において、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に断面偏平形状の抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する方法に用いられる抵抗発熱体において、前記抵抗発熱体の長手方向に沿った左右のエッジ部分に交互に切り込みを形成したことを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記エッジ部分の切り込みは、左右のエッジに沿って全体に、又は部分的に形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記切り込みは、平面視コ字状又はV字状又は円弧状又はI字状を呈していることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記熱溶着用抵抗発熱体は、閉形状に形成され、且つ周長方向において2等分割されていると共に、この2等分割された位置に給電部が形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記熱溶着用抵抗発熱体は、その長手方向が直線状又は曲線状を呈し、両端に給電部が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果は次のとおりである。
【0018】
本発明によると、抵抗発熱体の両エッジにおいて交互に形成された切り込み部分においては被溶着物双方の溶融した樹脂が切り込み内に入り込み、この切り込み内においても互いに融合するため、切り込みの無い抵抗発熱体に比較して14〜37%溶着強度をアップすることができる。
【0019】
この点、抵抗発熱体に孔を設けた引用文献1の場合、孔の部分においては溶着強度のアップは図れるが、孔と孔との間の部分においてはこの強度アップが図れないことから、軸線方向において強度的に高い部分と低い部分の繰り返しとなり、連続的に切り込みを形成した本発明に比較して強度は20〜50%低下する。
【0020】
また、抵抗発熱体に形成した特許文献1の孔の場合、抵抗発熱体が収縮する際に発生する剪断応力は孔の径で決まるが、抵抗発熱体のエッジに沿って切り込みを形成し、この切り込み内において溶着を図る本発明の場合、この切り込み内に入り込んだ樹脂は独立せず、被溶着物側とは上下方向及び左右方向においてそれぞれ一体化しているため、軸線方向に作用する剪段応力が高い。
【0021】
この結果、溶着部に発生する亀裂等の障害を抑えて溶着強度のアップとシール性の向上を図ることができる。
【0022】
また、熱溶着の場合、抵抗発熱体の温度は約250〜350℃にその発熱を制御するため、樹脂から溶融ガスが発生するが、引用文献1の場合、抵抗発熱体の下方の樹脂から発生した溶融ガスは孔と孔の間からは上方に逃げることが出来ないため、最終的には微量の溶融ガスが残留してしまい、溶着強度に悪影響が出る。
【0023】
一方、抵抗発熱体の左右のエッジに沿って交互に切り込みを形成すると、溶融ガスはこの左右の切り込みから上方に均一に逃げることができるため、残留ガスによる溶着強度への影響は少ない。
【0024】
また、本発明は、抵抗発熱体の左右のエッジに沿って交互に切り込みを形成したことにより、軸線方向への膨張時に、この切り込みにより発生した隙間で膨張した分を吸収するため、抵抗発熱体が線膨張したときに溝内において左右あるいは上下方向に変形したりすることがなく、溶着強度に悪影響が出ない。
【0025】
一方、引用文献1の場合、孔は抵抗発熱体の中央に形成されているため、抵抗発熱体自体はテープ状を呈していることから、孔で線膨張を吸収することはできず、線膨張時に抵抗発生体が変形して溶着強度に悪影響が出る。
【0026】
以上のように、本発明によると、引用文献1の抵抗発熱体に比較して溶着強度及び亀裂等の要因発生防止において顕著な効果がある。
【0027】
特に、成形品が温度差の大きい環境の下に置かれるとき、そして、毎日この繰り返しの熱影響を受ける環境下に置かれるとき、樹脂に対して金属である発熱体の熱膨張率は1ケタ違う(小さい)ことから、抵抗発熱体と樹脂の溶着境界面には繰り返し応力が発生し、溶着強度の低下が経時的に発生する機会が多く、このような問題の解消に本発明は有効である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】抵抗発熱体の左右のエッジに沿って交互にコ字状の切り込みを形成した例の説明図。
【図2】V字状の切り込みを形成した例の説明図。
【図3】円弧状の切り込みを形成した例の説明図。
【図4】I字状の切り込みを形成した例の説明図。
【図5】閉形状の抵抗発熱体を2等分割した例の説明図。
【図6】四角形状の抵抗発熱体の説明図。
【図7】四角形の抵抗発熱体においてコーナー部分に切り込みを形成した例の説明図。
【図8】直線状の抵抗発熱体の説明図。
【図9】(A),(B)樹脂成形品を熱溶着する形態の説明図であって、(A)は被溶着物に抵抗発熱体を組み付ける直前の説明図、(B)は抵抗発熱体に電圧を印加するために給電部に電極を結んだ状態の説明図。
【図10】(A)〜(E)熱溶着工程の説明図。
【図11】比較例に使用した抵抗発熱体の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着するもので、対象となる熱可塑性樹脂の種類としては次のようなものを挙げることができる。
【0030】
ABS、PP、PS、PE、PC、POM、PMMA、PBT、ABSとPCのアロイ、PPS、PPA、PET、LCP、PAなどの熱可塑性樹脂が代表例として挙げられるが、これについても限定するものではない。また、ガラスフィラー入り等の強化材を樹脂に混合したものにも適用が可能である。
【0031】
抵抗発熱体の材料としては、SUS、SECC、SPCC、NCHW等が代表例として挙げられるがこれに限定するものではない。
【0032】
抵抗発熱体は、上記例示した材質の平板材をプレス加工又はレーザー加工又はワイヤーカット加工等で形成する。
【実施例1】
【0033】
図1〜図6は本発明に係る抵抗発熱体の実施形態を表すもので、図1〜図5は円形、図6は四角形状である。但し、図5は円形を2等分割した形態である。
【0034】
これらの形態において、図1の抵抗発熱体1には、その両エッジ(内縁と外縁)に沿って等間隔にコ字状の切り込み2…が形成されており、板厚は1.0mm、板幅は1.5mm、給電部3、3aの板幅は3.0mm、長さは8mm、コ字状の切り込み2…の幅は0.5mm、深さ(奥行)は1.0mm、切り込み2…のピッチは2.0mmである。
【0035】
図2はV字状の切り込み2a…を形成した例、図3は円弧形状の切り込み2bを形成した例、図4はI字状の切り込み2cを形成した例である。
【0036】
図5は、図1〜図4が閉形状であるのに対し、給電部3、3a間で2等分割した例である。
【0037】
図6は四角形状、図7は四角形状の抵抗発熱体1のコーナー部1aに切り込み2…を形成した例であって、コーナー部1aにおいて切り込み2の効果を発揮する趣旨である。
【0038】
図8は直線状を呈した抵抗発熱体1であって、溶着部が直線状を呈した成形品の溶着に用いられる。
【0039】
以上に説明した抵抗発熱体1の寸法及び形状、切り込み2の形状等は、溶着部の形状、材質などに合わせて最適な発熱と溶着条件となるように選定する。
【0040】
次に、上記した抵抗発熱体1を用いて行う熱溶着工程を図9及び図10に基づいて説明する。
【0041】
図9は溶着装置を示すもので、被溶着部材10はテーブル上に固定され、被溶着部材12は上下動する可動部材に固定される。そして、被溶着部材10の溶着面には凹状の溶着溝11が形成され、被溶着部材12側には前記溶着溝11に上方から侵入できる寸法の溶着リブ13が形成されている。
【0042】
溶着に際してはテーブル上の被溶着部材10の溶着溝11内に抵抗発熱体1を組み付け、給電部3、3aには図外の給電装置から延長されたコード15、15aに結ばれた電極14、14aが結ばれ、図10(A)から(B)に示すように抵抗発熱体1に対する給電と同時又は先行して可動部材を下降させて溶着溝11内の抵抗発熱体1に溶着リブ13の先端を押しつけることにより、抵抗発熱体1の熱でこの抵抗発熱体1に接している部分の樹脂が溶融aを開始する。
【0043】
この溶融aの進行(C)に合わせて可動部材を更に下降させて、面圧をかけることにより溶融した樹脂は切り込み2内に侵入し(C)、所定の溶融aが完了し(D)、給電が止る。
【0044】
この給電が止ると、抵抗発熱体1及び溶融aが急激に冷却し、(E)に示すように最終的な溶着部a’が形成され、被溶着部材10と12は結合される。
【0045】
なお、以上に説明した給電タイミング及び被溶着部材11の下降、停止のタイミングは制御回路により自動制御した。
【0046】
以上で熱溶着した製品(N=5)について、次の条件で熱負荷テストを行った。その時のデータを次に示す。
1. 抵抗発熱体 切りこみ無し、切りこみあり
2.樹脂 PPS GF30%
3.負荷温度 −40℃ 1時間
+120℃ 1時間
この温度サイクル100回繰り返し毎に、ヘリウムガスを用いたリークテストを実施し1000回まで繰り返し後もリークが発生しない事を確認した。
【表1】

【0047】
同様に、熱溶着した製品(N=5)の引っ張り破壊応力を測定した。
1. 抵抗発熱体 切りこみ無し、切りこみあり
2.樹脂 PPS GF30%
3. 溶着リブ寸法 W=1.8 H=3.0 (φ34.2×φ37.8の環状)
切りこみ無しの発熱体に対し、本発明の切りこみを形成した発熱体は溶着強度が平均28%向上した。
【表2】

【比較例】
【0048】
本比較例に用いた抵抗発熱体1は、図11に示すように、前記実施例と同一の条件で成形した。但し、抵抗発熱体1には、直径0.6mmの孔4を9mm間隔で形成し、引用
文献1の第2図に示された抵抗発熱体に近似させ、N=5の平均を求めた。
1. 抵抗発熱体 引用文献1を模した孔あき、切りこみあり
2.樹脂 PPS GF30%
3. 溶着リブ寸法 W=2.0 H=3.0 (φ34×φ38の環状)
孔あり発熱体は溶着強度のバラツキが多い。本発明の切りこみを形成した発熱体は溶着強度が平均42%向上したことが確認できた。
【表3】

【符号の説明】
【0049】
1 抵抗発熱体
2 切り込み
3、3a 給電部
10 被溶着部材A
11 溶着溝
12 被溶着部材B
13 溶着リブ
14、14a 電極
15、15a リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に断面偏平形状の抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する方法に用いられる抵抗発熱体において、
前記抵抗発熱体の長手方向に沿った左右のエッジ部分に交互に切り込みを形成したことを特徴とする熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項2】
前記エッジ部分の切り込みは、左右のエッジに沿って全体に、又は部分的に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項3】
前記切り込みは、平面視コ字状又はV字状又は円弧状又はI字状を呈していることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項4】
前記熱溶着用抵抗発熱体は、閉形状に形成され、且つ周長方向において2等分割されていると共に、この2等分割された位置に給電部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項5】
前記熱溶着用抵抗発熱体は、その長手方向が直線状又は曲線状を呈し、両端に給電部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱溶着用抵抗発熱体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−101475(P2012−101475A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252855(P2010−252855)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】