説明

熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物および造形物

【課題】FDM方式やSLS方式において使用され、熱安定性に優れ、造形物の着色が起こらない熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレン−α・オレフィン系共重合ゴム、アクリル系ゴム、水素添加ゴム及びシリコーンゴムの群から選ばれた少なくとも1種のゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物(b)をグラフト共重合して得られる共重合体(A)と、芳香族ビニル化合物(b)を重合して得られる重合体(B)とから成り、共重合体(A):重合体(B)の重量比が5〜100:95〜0であり、共重合体(A)と重合体(B)の合計量に対するゴム質重合体(a)の割合が3〜50重量%である熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物および造形物に関し、詳しくは、特に熱溶解造形時の熱安定に優れた熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物および当該熱可塑性樹脂組成物から成る造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
キャド(CAD)上で入力された3次元形状を直接に立体モデル化するシステムはラピッドプロトタイピング(RP)システム、ラッピッドニューファクチャリング(RM)システム等と呼ばれる(以下、これらを纏めて「RPシステム」という)。このRPシステムの中には、使用する熱可塑性樹脂によって決定される所定の温度に維持された恒温室(構築チャンバ)内において、熱可塑性樹脂のストランドを溶融押出して積層する方式(FDM方式)、熱可塑性樹脂の粉末を溶融接着して積層する方式(SLS方式)等がある。
【0003】
上記の熱可塑性樹脂としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ABS樹脂と芳香族ポリカーボネート(PC)樹脂から成る組成物などが知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特表2004−532753号公報
【0004】
しかしながら、FDM方式やSLS方式において、モデリング材料として上記の様なABS樹脂などを使用した場合、構築チャンバ内の温度は50〜130℃となり、モデルの大きさによっては構築に長時間要するため、モデリング材料の初期の色調が変化して黄色や褐色に造形物が着色するという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、FDM方式やSLS方式において使用され、熱安定性に優れ、造形物の着色が起こらない熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物および当該熱可塑性樹脂組成物から成る造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定組成の熱可塑性樹脂組成物によって上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、エチレン−α・オレフィン系共重合ゴム、アクリル系ゴム、水素添加ゴム及びシリコーンゴムの群から選ばれた少なくとも1種のゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物(b)をグラフト共重合して得られる共重合体(A)と、芳香族ビニル化合物(b)を重合して得られる重合体(B)とから成り、共重合体(A):重合体(B)の重量比が5〜95:95〜5であり、共重合体(A)と重合体(B)の合計量に対するゴム質重合体(a)の割合が15〜70重量%であることを特徴とする熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物に存する。
【0008】
そして、本発明の第2の要旨は、上記の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物から成る造形物に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、FDM方式やSLS方式において使用され、造形物の着色が起こらない熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物および当該熱可塑性樹脂組成物から成る造形物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質重合体(a)の存在下に芳香族ビニル化合物(b)をグラフト共重合して得られる共重合体(A)と芳香族ビニル化合物(b)を重合して得られる重合体(B)とから成る。
【0011】
<共重合体(A)>
本発明においては、共重合体(A)の製造に際し、ゴム質重合体(a)として、エチレン−α・オレフィン系共重合ゴム、アクリル系ゴム、水素添加ゴム及びシリコーンゴムの群から選ばれた少なくとも1種を使用する。
【0012】
上記のエチレン−α・オレフィン系共重合ゴムとしては、エチレン/炭素数3〜20のα・オレフィン/非共役ジエン=5〜95/95〜5/0〜30重量%の混合比から成る単量体を共重合して得られる共重合ゴムが好ましい。
【0013】
上記の炭素数3〜20のα・オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられるが、好ましくは、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、更に好ましくはプロピレンである。これらは2種以上を併用することが出来る。
【0014】
α・オレフィンの炭素数は、通常3〜20であるが、好ましくは3〜12、更に好ましくは3〜8である。炭素数が20を超える場合は、共重合性が極端に低下するため好ましくない。エチレンとα・オレフィンの重量比は、通常5〜95/95〜5であるが、好ましくは60〜88/40〜12、更に好ましくは70〜85/30〜15である。
【0015】
また、上記の非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類などが挙げられるが、好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネン又はジシクロペンタジエンである。これらは2種以上を併用することが出来る。エチレン−α・オレフィン系共重合ゴム中の非共役ジエンの含有量は、通常0〜30重量%であるが、好ましくは0〜15重量%である。なお、上記の共重合ゴムの不飽和基量は、ヨウ素価に換算して、通常0〜40の範囲である。
【0016】
上記のエチレン−α・オレフィン系共重合ゴムの製造においては、不均一系または均一系の何れの触媒を使用してもよい。不均一系触媒としては、例えばバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とを組み合わせたバナジウム系触媒を挙げることが出来る。また、均一系触媒としては、例えばメタロセン系触媒を挙げることが出来る。特に、炭素数6〜20のα・オレフィンを使用する場合はメタロセン系触媒が有効である。
【0017】
なお、エチレン−α・オレフィン系共重合ゴムのムーニー粘度(ML1+4 ,100℃)は、通常40以下、好ましくは25〜35である。ムーニー粘度は、分子量調節剤の種類・量の他、モノマー濃度および反応温度などを変更することにより、調整することが出来る。また、エチレン−α・オレフィン系共重合ゴムにおいて、ポリスチレン換算の重量平均分子量100万以上の成分の含有率は、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下である。このような共重合ゴムは、分子量調節剤の種類・量および触媒の種類・量を変更することにより、製造することが出来る。更に、エチレン−α・オレフィン系共重合ゴムのガラス転移温度(Tg)は、通常−110〜−40℃、好ましくは −70〜−50℃、融点(Tm)は、通常30〜110℃、好ましくは40〜70℃である。
【0018】
前記のアクリル系ゴムとしては、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルの重合体であり、アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは2種以上を併用することが出来る。好ましいアクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸(n−,i)−ブチル又はアクリル酸2−エチルヘキシルである。なお、アクリル酸アルキルエステルの一部は、最高20重量%まで、共重合可能な他の単量体で置換することが出来る。この他の単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、アクリル酸、スチレン等が挙げられる。
【0019】
上記のアクリル系ゴムは、ゴム質重合体のガラス転移温度を−10℃以下になるように、単量体の種類と共重合量を選ぶことが好ましい。また、アクリル系ゴムは、適宜、架橋性単量体を共重合することが好ましく、架橋性単量体の使用量は、アクリル系ゴム中の割合として、通常0〜10重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0020】
架橋性単量体の具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート等のモノ又はポリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート等のモノ又はポリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルサクシネート、トリアリルトリアジン等のジ又はトリアリル化合物、アリルメタクリレート、アリルアクリレート等のアリル化合物、1,3−ブタジエン等の共役ジエン化合物などが挙げられる。上記アクリル系ゴムは、公知の重合法で製造されるが、好ましい重合法は乳化重合法である。
【0021】
前記の水素添加ゴムは共役ジエン系ゴム質重合体の水素化物である。この共役ジエン系ゴム質重合体の水素化物としては、共役ジエン重合体の水素添加物、共役ジエンと芳香族ビニル化合物のランダム共重合体の水素添加物などの共役ジエン系重合体の水素添加物が挙げられるが、好ましくは、ブタジエン系重合体の水素添加物、共役ジエン重合体ブロックと芳香族ビニル化合物重合体ブロックとのブロック共重合体の水素添加物、これらを組み合わせたブロック共重合体である。このうち、ブタジエン系重合体の水素添加物には、芳香族ビニル化合物重合体ブロックと芳香族ビニル化合物−共役ジエンランダム共重合体ブロックとから成るブロック共重合体の水素添加物、ポリブタジエン中の1,2−ビニル結合含量が20重量%以下のブロックと1,2−ビニル結合含量が20重量%を超えるポリブタジエンブロックとから成るブロック共重合体の水素添加物などが含まれる。
【0022】
また、上記の共役ジエン重合体ブロックと芳香族ビニル化合物重合体ブロックから成るブロック共重合体には、AB型、ABA型、(AB)n型、(AB)nA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型などが含まれる。
【0023】
ここで使用される芳香族ビニル化合物としては、後述する芳香族ビニル化合物の全てが使用できるが、好ましくはスチレンである。また、共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等が挙げられるが、好ましくは、1,3−ブタジエン、イソプレン又は1,3−ペンタジエン、更に好ましくは1,3−ブタジエン又はイソプレンである。
【0024】
上記の水素添加ゴムにおいて、共役ジエン系ゴム質重合体の水素添加率は、通常90%以上である。また、水素添加ゴムの数平均分子量は、通常3万〜100万である。
【0025】
前記のシリコーンゴムとしては、公知の重合法で得られる全てのものが使用できるが、グラフト重合の容易さから、乳化重合でラテックスの状態で得られるポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体ラテックスが好ましい。
【0026】
上記のポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体のラテックスは、公知の方法、例えば米国特許第2,891,920号明細書、同第3,294,725号明細書などに記載された方法で得ることが出来る。例えば、ホモミキサー又は超音波混合機を使用し、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸などのスルホン酸系乳化剤の存在下に、オルガノシロキサンと水とを剪断混合した後に縮合させる方法が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸は、オルガノシロキサンの乳化剤として作用すると共に重合開始剤として作用するので好適である。この際、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸金属塩などを併用すると、グラフト重合を行う際に、ポリマーを安定に維持するのに効果があるので好ましい。また、必要により、本発明の目的の性能を損なわない範囲でグラフト交叉剤または架橋剤を共縮合させてもよい。
【0027】
使用されるオルガノシロキサンは、例えば、一般式Rm SiO(4-m)/2(式中、Rは置換または非置換の1価の炭化水素基であり、mは0〜3の整数を示す)で表される構造単位を有するものであり、直鎖状、分岐状または環状構造を有するが、好ましくは環状構造を有するオルガノシロキサンである。このオルガノシロキサンの有する置換または非置換の1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、それらをシアノ基などで置換した置換炭化水素基などを挙げることが出来る。
【0028】
オルガノシロキサンの具体例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン等の環状化合物の他に、直鎖状または分岐状のオルガノシロキサンを挙げることが出来る。これらは2種以上を併用することが出来る。
【0029】
なお、上記のオルガノシロキサンは、予め縮合された、例えばポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜10,000程度のポリオルガノシロキサンであってもよい。また、オルガノシロキサンがポリオルガノシロキサンである場合、その分子鎖末端は、例えば、水酸基、アルコキシ基、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基、メチルジフェニルシリル基などで封鎖されていてもよい。
【0030】
グラフト交叉剤は、例えば、不飽和基とアルコキシシリル基とを併せ持ち、次の一般式で表される化合物である。
【0031】
【化1】

【0032】
上記の一般式において、R1は、好ましくは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、更に好ましくは水素原子またはメチル基であり、nは好ましくは0である。
【0033】
上記の化合物の具体例としては、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、1−(m−ビニルフェニル)メチルジメチルイソプロポキシシラン、2−(p− ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、3−(p−ビニルフェノキシ)プロピルメチルジエトキシシラン、3−(p−ビニルベンゾイロキシ)プロピルメチルジメトキシシラン、1−(o−ビニルフェニル)−1,1,2−トリメチル−2,2−ジメトキシジシラン、1−(p−ビニルフェニル)−1,1−ジフェニル−3−エチル−3,3−ジエトキシジシロキサン、m−ビニルフェニル−〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕ジフェニルシラン、〔3−(p−イソプロペニルベンゾイルアミノ)プロピル〕フェニルジプロポキシシラン、2−(m−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、2−(o−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、1−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、1−(m−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、1−(o−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン等の他、これらの混合物を挙げることが出来る。これらの中では、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、2−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、3−(p−ビニルベンゾイロキシ)プロピルメチルジメトキシシランが好ましく、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシランが更に好ましい。
【0034】
グラフト交叉剤の使用割合は、オルガノシロキサンとグラフト交叉剤および架橋剤の合計量100重量部に対し、通常0〜10重量部、好ましくは0.2〜10重量部、更に好ましくは0.5〜5重量部である。グラフト交叉剤の使用量が多い場合は、グラフトしたビニル系ポリマーの分子量が低下し、その結果、充分な耐衝撃性が得られない。また、グラフト化後のポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体の2重結合より酸化劣化が進行し易く、耐候性の良好なグラフト共重合体が得られない。
【0035】
なお、ポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体ラテックスの粒子の平均粒子径は、通常0.5μm以下、好ましくは0.4μm以下、更に好ましくは0.1〜0.4μmである。この平均粒子径は、上記の乳化剤および水の量、ホモミキサー又は超音波混合機を使用して混合したときの分散の程度またはオルガノシロキサンのチャージ方法によって、容易に制御することが出来る。ラテックスの粒子の平均粒子径が0.5μmを超える場合は光沢が劣る。
【0036】
また、上記のようにして得られるポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は、通常3万〜100万、好ましくは5万〜30万である。3万未満では、得られるグラフト共重合体およびこれを使用した樹脂組成物の耐衝撃性が劣る。一方、100万を超える場合は、高分子鎖の絡み合いが強いため、ゴム粒子のゴム弾性が低下し、耐衝撃性が低下する。
【0037】
上記の重量平均分子量の調整は、ポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体調製時の縮重合温度と時間を変えることにより、容易に調整することが出来る。すなわち、縮重合温度が低いほど、冷却時間が長いほど、高分子量化する。また、架橋剤を少量添加することでも、高分子量化することが出来る。
【0038】
なお、ポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体の分子鎖末端は、例えば、水酸基、アルコキシ基、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基、メチルジフェニルシリル基などで封鎖されていてもよい。
【0039】
前記の乳化剤の使用量は、オルガノシロキサンとグラフト交叉剤および架橋剤の合計量100重量部に対し、通常0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部である。なお、この際の水の使用量は、オルガノシロキサンとグラフト交叉剤および架橋剤の合計量100重量部に対し、通常100〜500重量部、好ましくは200〜400重量部である。また、縮合温度は、通常5〜100℃である。
【0040】
なお、ポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体の製造に際し、得られるグラフト共重合体の耐衝撃性を改良するために、第3成分として架橋剤を添加することも出来る。この架橋剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等の3官能性架橋剤、テトラエトキシシラン等の4官能性架橋剤を挙げることが出来る。これらは2種以上を併用することが出来る。また、これら架橋剤として、予め縮重合させた架橋プレポリマーを使用してもよい。この架橋剤の添加量は、オルガノシロキサンとグラフト交叉剤および架橋剤の合計量100重量部に対し、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下、更に好ましくは0.01〜5重量部である。10重量部を超える場合は、ポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体の柔軟性が損なわれるため、摺動性、耐衝撃性が低下する。
【0041】
本発明において、芳香族ビニル化合物(b)としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p− アミノメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルキシレン、モノクロルスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、フルオロスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられるが、好ましくはスチレン又はα−メチルスチレンである。これらは2種以上を併用することが出来る。
【0042】
本発明において、芳香族ビニル化合物(b)と共にこれと共重合可能な他のビニル系単量体(c)を使用することが出来る。
【0043】
上記のビニル系単量体(c)としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−(p−メチルフェニル)マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のα,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物;グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有不飽和化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和カルボン酸アミド;アクリルアミン、メタクリル酸アミノメチル、メタクリル酸アミノエーテル、メタクリル酸アミノプロピル、アミノスチレン等のアミノ基含有不飽和化合物;3− ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシスチレン等の水酸基含有不飽和化合物;ビニルオキサゾリン等のオキサゾリン基含有不飽和化合物などが挙げられる。これらは2種以上を併用することが出来る。
【0044】
共重合体(A)は、公知の重合法である乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、これらを組み合わせた重合法によって得ることが出来る。共重合体(A)中のゴム質重合体の含量は、通常3〜80重量%、好ましくは5〜65重量%、更に好ましくは5〜50重量%である。共重合体(A)のグラフト率は、通常5〜150重量%である。グラフト率が5重量%未満の場合は樹脂組成物の機械的強度や外観が劣ることがあり、グラフト率が150重量%を超える場合は樹脂組成物の機械的強度が劣ることがある。また、共重合体(A)のアセトン可溶分のジメチルホルムアミド中にて30℃で測定した極限粘度は通常0.1〜0.8dl/gである。極限粘度が0.1dl/g未満の場合は樹脂組成物の機械的強度が劣ることがあり、極限粘度が0.8dl/gを超える場合は樹脂組成物の加工性が劣ることがある。また、共重合体(A)に分散しているゴム粒子の平均粒径は通常0.05〜10μmである。平均粒径が0.05μm未満の場合は樹脂組成物の機械的強度が劣ることがあり、平均粒径が10μmを超える場合は樹脂組成物の機械的強度や外観が劣ることがある。
【0045】
<重合体(B)>
本発明において、重合体(B)の製造に使用される芳香族ビニル化合物(b)としては、共重合体(A)にて説明したのと同様の香族ビニル化合物(b)が挙げられる。また、重合体(B)の製造に際しては、共重合体(A)にて説明したのと同様のビニル系単量体(c)を共重合成分として使用することが出来る。
【0046】
本発明においては、芳香族ビニル化合物と共にシアン化ビニル化合物を使用するのが好ましい。この場合、芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物の割合は、通常95〜50/5〜50重量%、好ましくは75〜65/25〜35重量%、更に好ましくは73〜69/27〜31重量%である。そして、重合体(B)中の共重合可能な他のビニル系単量体(シアン化ビニル化合物以外の単量体)の割合は、通常0〜30重量%、好ましくは0〜20重量%である。
【0047】
重合体(B)の極限粘度〔η〕は、通常0.1〜1.0dl/g、好ましくは0.2〜0.9dl/g上、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。極限粘度が1.1dl/g未満の場合は、樹脂組成物の機械的強度が不十分となることがあり、1.0dl/gを超える場合は、樹脂組成物の加工性が劣ることがある。ここで、極限粘度〔η〕は、ジメチルホルムアミド100mlに重合体(B)0.1gを溶解し、30℃の温度条件下、ウベローデ型粘度計で測定した値である。
【0048】
重合体(B)の上記の極限粘度、重量平均分子量、数平均分子量は、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶媒などの種類や量を変えることにより制御することが出来る。また、単量体成分の添加方法、添加時間、更に重合時間、重合温度などを変えることによって、制御することが出来る。ここで、重合方法としては、公知の重合法である乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、これらを組み合わせた重合法が使用できる。
【0049】
通常、上述の重合体(B)は乳化重合で得られ、乳化重合には、公知のラジカル重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤などが使用される。
【0050】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト等の有機ハイドロパーオキサイド類から成る酸化剤と、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方、含糖ピロリン酸鉄処方/スルホキシレート処方の混合処方などの還元剤との組み合わせによるレドックス系の開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2′−アゾビスイソブチレート、2−カルバモイルアザイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物などを挙げることが出来る。好ましいラジカル重合開始剤は過硫酸カリウム等の水溶性開始剤である。これらのラジカル重合開始剤の使用量は、使用される単量体成分100重量部に対し、通常0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部程度である。
【0051】
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、コハク酸ジアルカリエステルスルホン酸ナトリウム、炭素数10〜20の脂肪族カルボン酸のナトリウム塩もしくはカリウム塩、ロジン酸のナトリウム塩もしくはカリウム塩などのアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル等のノニオン系乳化剤などが挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。乳化剤の使用量は、上記の単量体成分100重量部に対し、通常0.5〜5重量部である。
【0052】
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;テトラエチルチウラムスルフィド、四塩化炭素、臭化エチレン、ペンタンフェニルエタン等の炭化水素塩類;テルペン類の他、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコール、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。これらは2種以上を併用することが出来る。連鎖移動剤の使用量は、単量体成分100重量部に対し、通常0〜1重量である。
【0053】
重合体(B)を製造するための乳化重合は、単量体成分100重量部に対し、通常100〜500重量部の水を使用して行われ、重合温度は、通常40〜100℃、好ましくは50〜90℃、重合時間は通常1〜10時間である。乳化重合により得られるラテックスは常法により凝固させられ、得られる粉末は、水洗した後に乾燥される。
【0054】
上記の凝固剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、塩化第2鉄、硫酸アルミニウム、活性シリカ、リン酸カルシウム、硫酸、酢酸などが挙げられる。
【0055】
<任意成分>
本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物は、その好ましい態様において酸化防止剤を含有する。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0056】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコールビス〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5− メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、1,3,5−トリメチル −2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,2′−エチリデンビス(2,4−ジ−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−エチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0057】
リン系酸化防止剤としては、例えば、ジステアリル ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル) フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル) ペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル) 4,4′−ビフェニレンジフォスフォナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル) ペンタエリスリトール ジフォスファイト、2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチル フォスファイト、テトラトリデシル 4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル)ジフォスファイト、2,2′−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フルオロフォスファイト、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル) ペンタエリスリトール ジフォスファイト等が挙げられる。
【0058】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル 3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル 3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル 3,3′−チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0059】
本発明においては、高温加工時の熱安定性を図るため、所謂2官能型加工安定剤を使用することが出来る。上記の2官能型加工安定剤としては、例えば、特開平7−26107号公報に記載のアクリレート系化合物:2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルメタクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル メタクリレート等が挙げられる。
【0060】
本発明においては、フェノール系酸化防止剤にリン系酸化防止剤および/またはイオウ系酸化防止剤を組合せて使用するのが好ましい。更に、酸化防止剤に官能型加工安定剤を組合せて使用するのが好ましい。
【0061】
また、本発明においては、不活性および/または活性な充填剤材料を使用し、RF遮蔽特性、導電性特性または高周波不透過特性などを向上させることが出来る。代表的な充填剤としては、ガラスファイバー、カーボンファイバー、カーボンブラック、ガラスマイクロスフェア、炭酸カルシウム、雲母、タルク、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素、ケイ灰石、グラファイト、金属および塩が挙げられる。また、色素または顔料を使用して着色することも可能である。
【0062】
<熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物において、共重合体(A):重合体(B)の重量比は、5〜100:95〜0、好ましくは10〜90:90〜10であり、共重合体(A)と重合体(B)の合計量に対するゴム質重合体(a)の割合は、3〜50重量%、好ましくは5〜40重量%である。
【0063】
共重合体(A)の重量比が上記の範囲より小さい場合は、樹脂組成物の機械的強度が劣る。また、ゴム質重合体(a)の割合が上記の範囲より小さい場合は、樹脂組成物の機械的強度が劣り、上記の範囲より大きい場合は樹脂組成物の加工性が劣る。
【0064】
本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物において、酸化防止剤および所謂2官能型加工安定剤の使用割合は、それぞれ、熱可塑性樹脂組成物100重量部に対し、通常0.01〜1重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部である。また、充填剤材料の量の上限は約20重量%である。
【0065】
本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物のISO 1133に準拠し、温度220℃、荷重10kgの条件下に測定したメルトフローレート(MFR)は、通常5〜100g/10min、好ましくは10〜80g/10minである。MFRが5min未満の場合は、FDM方式でモデルを構築する際、後述するフィラメントが形成できないか或いは連続ロード(溶融ストランド)が得られずにモデルの構築ができないことがあり、更に、モデル表面の外観が低下することがある。これらの問題は、樹脂組成物の溶融温度や構築チャンバー内の温度を上げることによって解決し得る場合もあるが、モデリング材料の初期の色調が変化して黄色や褐色に造形物が着色するという問題が惹起される。MFRが100minを超える場合は、後述するフィラメントが形成できない、形成されたフィラメントが切れる、連続ロード(溶融ストランド)が得られない等によりモデルの構築ができないことがある。
【0066】
<RPシステム>
本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物は、FDM方式やSLS方式において使用されるが、CAD上で入力された3次元形状を直接に立体モデル化するRPシステムそれ自体は、公知の方法を採用することが出来る。なお、本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物は、FDM方式ではフィラメント化して使用され、SLS方式では粒状化して使用される。通常、フィラメントの直径は1〜3mm、粒子の直径は0.01〜0.5mmである。
【0067】
<支持材料>
例えばFDM方式によって複雑の形状を形成する場合、本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物(モデリング材料)と共に「支持材料」と呼ばれる物質が使用される。モデリング材料および支持材料は、両方の材料(フィラメント)が同じ構築チャンバ内に首尾良く押し出され得るように、同じ熱変形特性を有するべきである。勿論、支持材料は造形後にモデリング材料から容易に除去し得る様な特性(例えば非相溶性)を有する必要がある。本発明の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物(モデリング材料)と共に使用し得る支持材料の一例としては、ポリフェニレンエーテル40〜80重量%とポリスチレン20〜60重量%から成る耐衝撃性ポリスチレン系組成物が挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の緒例において、「部」及び「%」は、特に断らない限り重量部および重量%である。
【0069】
<評価方法>
使用した評価方法は以下の通りである。
【0070】
(1)極限粘度:
共重合体を、ジメチルホルムアミドに完全に溶解させ、濃度の異なる5点を作り、ウベローデ粘度管を用い、30℃の各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度〔η〕を求めた。
【0071】
(2)重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn):
GPC装置としてウォーターズ社製「GPC−244」、カラムとして東ソー(株)製「TSK−gel−GMH」、溶媒としてジメチルホルムアミドを使用し、流速0.8ml/分、温度23℃の条件で測定し、ポリスチレン基準で較正した。
【0072】
(3)平均粒径:
大塚電子(株)製のレーザー粒径解析システム「LPA−3100」を使用して測定した。
【0073】
(4)グラフト率:
アセトンに試料の一定量(x)を投入し、振とう機で2時間振とうし、遊離の共重合体を溶解させた後、23,000rpmで30分間、遠心分離して不溶分を得た後、120℃で1時間真空乾燥し、不溶分(y)及び遊離の重合体を得、次の式よりグラフト率を算出した。
【0074】
【数1】

【0075】
(6)MFR:
ISO 1133に準じ、温度220℃、荷重10kgにて測定した。
【0076】
(7)溶融状態:
直径5cmのアルミ皿に試料ペレット1gを秤量し、230℃にて1時間放置し、その溶融状態の表面形状および色調を以下表1及び表2に示す基準で評価した。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
<共重合体(A)の調製>
共重合体(A)の調製に使用したゴム質重合体は次の(1)〜(7)に示す通りである。
【0080】
(1)ゴム質重合体1(エチレン−α・オレフィン系共重合ゴム):
エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン=47/38/5%の組成で、ムーニー粘度(ML1+4 、100℃)34、重量平均分子量(Mw)27万、分子量分布(Mw/Mn)3.4のゴム質重合体を使用した。
【0081】
(2)ゴム質重合体2(エチレン−α・オレフィン系共重合ゴム):
デュポン社製「ENGAGE 8450」(エチレン−オクテン共重合体)を使用した。
【0082】
(3)ゴム質重合体3(水素添加ゴム):
シェルケミカル社製「KRATON G1650」(水素添加ブロック共重合体(SEBS))を使用した。
【0083】
(4)ゴム質重合体4(水素添加ゴム):
(i)内容積5リットルのオートクレーブに、脱気・脱水したシクロヘキサン2,500g、1,3−ブタジエン350gを仕込んだ後、n−ブチルリチウム0.50gを加え、重合温度が50℃の等温重合を行った。重合転化率が31%となった後、テトラヒドロフラン12.5gを添加し、50℃から80℃の昇温重合を行った。重合転化率がほぼ100%となった後、スチレン150gを加え、15分間重合を行った。得られたA−B−Cトリブロック共重合体(未水添重合体)の分子特性を以下の表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
(i i)次に、別の容器でチタノセンジクロライド1.95gをシクロヘキサン30mlに分散させて、室温でトリエチルアルミニウム2.68gと反応させた。得られた暗青色の見かけ上、均一な溶液を、(i)で得られたポリマー溶液に加え、50℃で5.0kgf/cm2 の水素圧力下、2時間、水素化反応を行った。その後、メタノール・塩酸を加えた後、2,6−ジ−t−ブチルカテコールを加えて減圧乾燥を行い、水素化A−B−Cトリブロック共重合体を得た。
【0086】
(5)ゴム質重合体5(アクリル系ゴム):
重合反応器中を窒素で充分に置換した後、蒸留水、乳化剤としてロジン酸カリウムと脂肪酸カリウムを添加した。単量体として、アクリル酸n−ブチル100部、架橋剤としてアリルメタクリレート5部を仕込み、昇温した。内温40℃でクメンハイドロパーオキサイド及びスルホキシレート系レドックス開始助剤(硫酸第1鉄/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/ED)を添加し、重合反応を行い、重合転化率99%で冷却した。40℃まで冷却した後、電解質を添加し、粒径肥大化させ、0.3μmの平均粒径を有するアクリルゴムラテックスを得た。
【0087】
(6)ゴム質重合体6(シリコーンゴム):
p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン1.3部およびオクタメチルシクロテトラシロキサン98.7部を混合し、これを、ドデシルベンゼンスルホン酸2.0部を溶解した蒸留水300部中に入れ、ホモジナイザーにより3分間攪拌して乳化分散させた。この混合液を、コンデンサー、窒素導入口および攪拌機を備えたセパラブルフラスコに移し、攪拌混合しながら、90℃で6時間加熱し、5℃で24時間保持し、縮合を完結させた。得られたポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体の縮合率は、93%であった。このラテックスを、炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。得られたポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体ラテックスの平均粒径は0.3μmであった。
【0088】
(7)ゴム質重合体7(ブタジエン系ゴム):
先ず、ブタジエン100部、蒸留水150部、オレイン酸カリウム2.0部、水酸化カリウム0.1部、t−ドデシルベンゼン0.2部、過硫酸カリウム0.25部の混合物を調製した。次いで、耐圧反応器に上記の混合物を仕込み55℃で重合を開始し、更に、重合転化率に応じて反応温度を上げ、最終的には、75℃、50時間で転化率90%に達した。重合終了後、未反応ブタジエンを水蒸気蒸留で除去し、ポリブタジエンラテックスを得た。ゲル含率は74%、平均粒子径は0.3μmであった。
【0089】
上記の各ゴム質重合体(1)〜(7)の存在下または不存在下、各種のビニル系単量体を重合し、以下の表4に示す組成および極限粘度[η]の共重合体A−1〜9とB−1〜4を得た。なお、表中の溶液重合における溶媒にはトルエンを使用した。
【0090】
【表4】

【0091】
実施例1〜11及び比較例1〜2:
前記の共重合体と以下の表5に示す助剤とを後述の表6及び表7に示す配合処方で混合し、二軸押出機で溶融混練し、ペレット形状に押し出した。得られたペレットを充分に乾燥し、MFRの測定および溶融状態の評価を行った。結果を表6及び表7に示す。
【0092】
【表5】

【0093】
【表6】

【0094】
【表7】

【0095】
表6及び表7示す結果から次のことが分かる。すなわち、樹脂組成物の調製に本発明で規定するゴム質重合体を使用した実施例1〜7は試料ペレットの溶融状態の表面形状および色調が優れ、更に上記の樹脂組成物のMFRを高めた実施例8及び9は表面形状が一層優れ、更に上記の樹脂組成物に特定の酸化防止剤および2官能型加工安定剤を配合した実施例10及び11は色調が一層優れている。これに対し、樹脂組成物の調製に本発明で規定するゴム質重合体を使用していない比較例1及び2は、色調が黒色や褐色に変化している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−α・オレフィン系共重合ゴム、アクリル系ゴム、水素添加ゴム及びシリコーンゴムの群から選ばれた少なくとも1種のゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物(b)をグラフト共重合して得られる共重合体(A)と、芳香族ビニル化合物(b)を重合して得られる重合体(B)とから成り、共重合体(A):重合体(B)の重量比が5〜100:95〜0であり、共重合体(A)と重合体(B)の合計量に対するゴム質重合体(a)の割合が3〜50重量%であることを特徴とする熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
共重合体(A)のグラフト率が5〜150重量%である請求項1に記載の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
共重合体(A)のアセトン可溶分のジメチルホルムアミド中にて30℃で測定した極限粘度が0.1〜0.8dl/gである求項1又は2に記載の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ISO 1133に準拠し、温度220℃、荷重10kgの条件下に測定したメルトフローレートが5〜100g/10minである請求項1〜3の何れかに記載の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
フェノール系酸化防止剤を含有して成る請求項1〜4の何れかに記載の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤および/またはイオウ系酸化防止剤とを含有して成る請求項1〜5の何れかに記載の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
2官能型加工安定剤を含有して成る請求項1〜6の何れかに記載の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の熱溶解造形用熱可塑性樹脂組成物から成る造形物。

【公開番号】特開2007−51237(P2007−51237A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238390(P2005−238390)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】