説明

熱現像性感光材料用変性ポリビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料

【課題】 熱現像性感光材料の感光層を構成するバインダー樹脂として用いたときに、高
い生産性で熱現像性感光材料を製造することができる熱現像性感光材料用変性ポリビニル
アセタール樹脂及び熱現像性感光材料を提供する。
【解決手段】 主鎖中にα−オレフィン単位を1〜20モル%含有する熱現像性感光材料
用変性ポリビニルアセタール樹脂であって、メチルエチルケトン中に溶解して、E型粘度
計を用いて25℃において剪断速度60s−1の条件で測定した粘度が4.0Pa・sと
なるように調整した溶液において、E型粘度計を用いて25℃において剪断速度600s
−1の条件で測定した粘度が3.0Pa・s以下である熱現像性感光材料用変性ポリビニ
ルアセタール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱現像性感光材料の感光層を構成するバインダー樹脂として用いたときに、高
い生産性で熱現像性感光材料を製造することができる熱現像性感光材料用変性ポリビニル
アセタール樹脂及び熱現像性感光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から広範囲に用いられているハロゲン化銀感光材料は、その優れた写真特性により、
高品質な素材として画像形成分野に広範囲に利用されている。しかし、従来のハロゲン化
銀感光材料は、現像及び定着が複雑であることに加え、処理工程が湿式であることから多
量の化学廃液を排出するという問題があった。
これに対して、現像工程を熱処理で行う熱現像性感光材料が開発され、実用化されている

【0003】
熱現像性感光材料としては、主に、脂肪酸の銀塩、有機還元剤、必要に応じて少量の感光
性ハロゲン化銀をバインダー樹脂中に分散させた感光層を、紙、プラスチックフイルム、
金属箔、ガラス板等の支持体上に積層したものが考えられている。このような熱現像性感
光材料としては、例えば、特許文献1には、有機銀塩、還元剤及び有機銀イオンに対して
触媒的に接触しているハロゲン化銀からなる熱現像性感光材料が開示されている。
【0004】
熱現像性感光材料の感光層を構成するバインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール等
のポリビニルアセタール樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリ
酢酸ビニル樹脂、酢酸プロピオン酸セルロース樹脂、酢酸酪酸セルロース樹脂等の成膜性
に優れた樹脂が用いられている。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂が最適のものとし
て用いられている。
【0005】
熱現像性感光材料を工業的に高い生産性で製造するためには、感光層組成物を支持体上に
積層することが容易であることが重要である。感光層組成物を支持体上に積層する方法と
しては、一般に、バインダー樹脂を適当な有機溶媒に溶解した溶液に脂肪酸の銀塩、有機
還元剤、感光性ハロゲン化銀を分散させて感光層組成物分散液を調製し、これをドクター
ナイフ等を用いて均一な膜厚になるように塗工した後、乾燥させる方法が採られる。この
場合、高い効率で塗工でき、しかも、均一な膜厚の感光層を得るためには、感光層組成物
分散液に、塗工の際には粘度が充分に低く塗工が容易で、一方、塗工後に静置して乾燥さ
せる際には粘度が充分に高く自然流延してしまわないという、いわゆるチキソトロピー性
が求められる。しかしながら、ポリビニルアセタール樹脂をメチルエチルケトン等の有機
溶媒に溶解した溶液はチキソトロピー性に乏しいことから、この溶液に脂肪酸の銀塩、有
機還元剤、感光性ハロゲン化銀等を分散させた感光層組成物分散液を支持体上に塗工して
感光層を形成することは困難であるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特公昭43−4924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、熱現像性感光材料の感光層を構成するバインダー樹脂として
用いたときに、高い生産性で熱現像性感光材料を製造することができる熱現像性感光材料
用変性ポリビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、主鎖中にα−オレフィン単位を1〜20モル%含有する熱現像性感光材料用変
性ポリビニルアセタール樹脂であって、メチルエチルケトン中に溶解して、E型粘度計を
用いて25℃において剪断速度60s−1の条件で測定した粘度が4.0Pa・sとなる
ように調整した溶液において、E型粘度計を用いて25℃において剪断速度600s−1
の条件で測定した粘度が3.0Pa・s以下である熱現像性感光材料用変性ポリビニルア
セタール樹脂である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、主鎖中にα−オレフィン単位を含有する変性ポリビニル
アセタール樹脂は、高い透明性や成膜性等の熱現像性感光材料の感光層のバインダー樹脂
として要求される性能を維持した上で、メチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解した溶液
が高いチキソトロピー性を発現し、この溶液に脂肪酸の銀塩、有機還元剤、感光性ハロゲ
ン化銀等を分散させた分散液を用いれば、極めて容易かつ高精度に支持体上に塗工できる
ことを見出し、本発明を完成するに至った。更に、主鎖中にα−オレフィン単位を含有す
る変性ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂に比較して疎水性が高い
ことから感光層の透湿度を一定の数値以下にすることができ、従来のポリビニルアセター
ル樹脂をバインダー樹脂とする感光層の問題点であった、水分の浸透によるかぶりや保存
性の低下等をも解決できる。
【0010】
本発明の熱現像性感光材料用変性ポリビニルアセタール樹脂(以下、単に変性ポリビニル
アセタール樹脂ともいう)は、主鎖中にα−オレフィン単位を含有する。上記α−オレフ
ィン単位としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜20の直鎖状又は環状のアル
キル基に由来するものが好適である。上記範囲内であれば分岐や直鎖状の部位と環状の部
位の両方を含んでいても良い。上記α−オレフィン単位の炭素数が20を超えると、原料
として用いる変性ポリビニルアルコール樹脂の溶剤溶解性が低下するためにアセタール化
反応が充分に進行せず変性ポリビニルアセタール樹脂を得ることができなかったり、得ら
れた変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低く熱現像性感光材料の感光層のバイ
ンダー樹脂として用いることができなかったりすることがある。より好ましくは炭素数1
〜10の直鎖状又は環状のアルキル基に由来するものであり、更に好ましくは炭素数2〜
6の直鎖状アルキル基に由来するものである。具体的には、例えば、メチレン、エチレン
、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シ
クロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレン等に由来する単位
が好適である。
【0011】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の主鎖中における上記α−オレフィン単位の含有
量の下限は1モル%、上限は20モル%である。1モル%未満であると、充分なチキソト
ロピー性が発揮できず、また、充分な透湿性低減効果が得られない。20モル%を超える
と、原料として用いる変性ポリビニルアルコール樹脂の溶剤溶解性が低下するためにアセ
タール化反応が充分に進行せず変性ポリビニルアセタール樹脂を得ることができず、得ら
れたとしても変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低く熱現像性感光材料の感光
層のバインダー樹脂として用いることができない。好ましい上限は10モル%である。
【0012】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の好ましい下限が40モル%
、好ましい上限が78モル%である。40モル%未満であると、有機溶剤に不溶となり熱
現像性感光材料の感光層のバインダー樹脂として用いることができないことがあり、78
モル%を超えると、残存水酸基量が少なくなって変性ポリビニルアセタール樹脂の強靱性
が損なわれ塗膜の強度が低下することがある。
なお、本明細書において、アセタール化度の計算方法としては、変性ポリビニルアセター
ル樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、
アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を計算
する。
【0013】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、残存水酸基量の好ましい下限が17モル%、
好ましい上限が35モル%である。17モル%未満であると、バインダー樹脂として用い
たときに銀塩の分散性が悪く、感度が低下してしまうことがある。35モル%を超えると
、得られる熱現像性感光材料の感光層の透湿性が高く、かぶりが発生したり、保存安定性
が悪化したり、画像濃度が低下したりすることがある。
【0014】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、残存アセチル基量の好ましい上限が25モル
%である。25モル%を超えると、得られる熱現像性感光材料同士のブロッキングが生じ
たり、得られる画像が鮮明でなくなったりすることがある。より好ましい上限は15モル
%である。
【0015】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、重合度の好ましい下限が200、好ましい上
限が3000である。この範囲内であると、銀塩の分散性や、塗工したときの塗膜の強度
、塗工性等のバランスを取り易い。より好ましい下限は300、より好ましい上限は10
00である。
【0016】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、メチルエチルケトン中に溶解して、E型粘度
計を用いて25℃において剪断速度60s−1の条件で測定した粘度が4.0Pa・sと
なるように調整した溶液において、E型粘度計を用いて25℃において剪断速度600s
−1の条件で測定した粘度が3.0Pa・s以下である。このようなチキソトロピー性を
有することにより、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を適当な有機溶媒に溶解し、
この溶液に脂肪酸の銀塩、有機還元剤、感光性ハロゲン化銀等を分散させた感光層組成物
分散液は、塗工時には粘度が充分に低く塗工が容易である。即ち、高剪断速度時の粘度が
低いために速い速度で塗工しても均一に塗工できることから、熱現像性感光材料の生産性
を著しく向上させることができる。一方、塗工後に静置して乾燥させる際には粘度が充分
に高く自然流延してしまったりすることがない。
上記溶液をE型粘度計を用いて25℃において剪断速度600s−1の条件で測定した粘
度が3.0Pa・sを超えると、通常のポリビニルアセタール樹脂と同程度であり、生産
性改善の効果が期待できない。好ましくは2.5以下である。
【0017】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、厚さ20μmのフィルム状に成形したときに
、JIS Z 0208に準ずるカップ法により測定した透湿度が500g/m・da
y以下であることが好ましい。500g/m・dayを超えると、得られる熱現像性感
光材料の感光層に浸透する水分が多くなり、かぶりが発生したり、保存安定性が悪化した
り、得られる画像濃度が低下したりすることがある。
【0018】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、残存するハロゲン化物量が100ppm以下
であることが好ましい。100ppmを超えると、感光性ハロゲン化銀が生成して、得ら
れる熱現像性感光材料の保存性が低下したり、かぶり等の原因となったりすることがある
。より好ましくは50ppm以下である。
【0019】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、けん化度が75モル%以上、主鎖中にα−オ
レフィン単位を1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化するこ
とにより製造することができる。
上記変性ポリビニルアルコールは、ビニルエステルとα−オレフィンとを共重合した共重
合体をケン化することにより得ることができる。この場合に用いるビニルエステルとして
は、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げ
られ、なかでも経済的な観点から酢酸ビニルが好適である。また、上記エチレン性不飽和
単量体に由来する成分を含有する変性ポリビニルアセタールを得る場合には、更にエチレ
ン性不飽和単量体を共重合させる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチ
オール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とα−オレフィンを共
重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いる
ことができる。
【0020】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記変性ポリビニルアルコールをアセタール
化することにより製造することができる。アセタール化の方法としては特に限定されず、
従来公知の方法を用いることができ、例えば、酸触媒の存在下で上記変性ポリビニルアル
コールの水溶液、アルコール溶液、水/アルコール混合溶液、ジメチルスルホキシド(D
MSO)溶液中に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。また、ポリ酢酸ビニル
のアルコール溶液中に酸触媒とアルデヒドとを添加することによっても製造することがで
きる。
【0021】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒ
ド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、プロピルアルデヒド等のアセタール化できる
アルデヒドであればどのようなアルデヒドを用いてもよい。なかでも、ブチルアルデヒド
とアセトアルデヒドとをそれぞれ単独で用いるか、又は、ブチルアルデヒドとアセトアル
デヒドとを併用すること好ましい。
また、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化された部分のうちアセトア
ルデヒドによりアセタール化された部分の割合が、全アセタール化部分に対して30%以
上であることが好ましい。30%未満であると得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の
ガラス転移点が80℃以下となり、感光性銀塩の核成長が進み過ぎたり、銀塩の分散性が
不充分で画像の解像度や鮮明度が不充分となったりすることがある。より好ましくは50
%以上である。
【0022】
上記酸触媒としては特に限定されず、有機酸、無機酸のどちらでも使用可能であり、例え
ば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。なかでも、非ハ
ロゲン性のものが好適である。非ハロゲン性の酸触媒を用いれば、残存ハロゲン化物量を
100ppm以下とすることが容易になる。また、ハロゲン性の酸触媒を用いる場合には
、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を水や水/アルコールの混合溶液等により充分
に洗浄して精製することが好ましい。
また、上記合成反応を停止するために、通常アルカリ中和を行うが、その際使用されるア
ルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリ
ウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げ
られる。
【0023】
なお、ポリビニルアルコールとアルデヒドとのアセタール化反応においては、アルデヒド
の酸化防止のため、又は、得られる樹脂の酸化防止及び耐熱性向上のために、反応系又は
樹脂系にヒンダードフェノール系、ビスフェノール系、リン酸系等の酸化防止剤を添加す
ることが知られている。しかし、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を製造する場合
には、これらの酸化防止剤を使用しないことが好ましい。酸化防止剤を使用すると、これ
が変性ポリビニルアセタール樹脂中に残存し、塗工溶液のポットライフの低下、得られる
熱現像性感光材料の保存性の低下等を引き起こし、かぶりや画像/階調部の鮮明性を損な
うことがある。
【0024】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、上述の構成からなることから、熱現像性感光
材料の感光層を構成するバインダー樹脂として極めて好適である。即ち、本発明の変性ポ
リビニルアセタール樹脂を適当な有機溶媒に溶解し、更に脂肪酸の銀塩、有機還元剤、感
光性ハロゲン化銀等を分散させた熱現像性感光材料用組成物分散液は、チキソトロピー性
に優れ、塗工の際には粘度が充分に低く塗工が容易で、一方、塗工後に静置して乾燥させ
る際には粘度が充分に高く自然流延してしまうことがない。
本発明の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂とする感光層を
有する熱現像性感光材料もまた、本発明の1つである。
【0025】
本発明の熱現像性感光材料は、支持体と、支持体に積層された感光層とからなる。
上記感光層は、本発明の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂
として、これに脂肪酸の銀塩、有機還元剤、感光性ハロゲン化銀等を分散させたものであ
る。
上記有機銀塩としては、光に比較的安定な無色又は白色の銀塩であり、感光したハロゲン
化銀の存在下で80℃以上に加熱されたときに有機還元剤と反応して銀を生ずるものであ
れば特に限定されない。
上記有機銀塩としては、例えば、メルカプト基、チオン基又はカルボキシル基を有する有
機化合物の銀塩、ベンゾトリアゾール銀等が挙げられる。
【0026】
上記有機銀塩としては、具体的には例えば、3−メルカプト−4−フェニル1,2,4−
トリアゾールの銀塩、2−メルカプト−ベンツイミダゾールの銀塩、2−メルカプト−5
−アミノチアゾールの銀塩、1−フェニル−5−メルカプトテトラチアゾールの銀塩、2
−メルカプトベンゾチアゾールの銀塩、チオグリコール酸の銀塩、ジチオ酢酸の銀塩等の
ジチオカルボン酸の銀塩、チオアミド銀、チオピリジン銀塩ジチオヒドロキシベンゾール
の銀塩、メルカプトトリアジンの銀塩、メルカプトオキサジアゾールの銀塩、脂肪族カル
ボン酸の銀塩:カプリン酸銀、ラウリン酸銀、ミリスチン酸銀、パルミチン酸銀、ステア
リン酸銀、ベヘン酸銀、マレイン酸銀、フマル酸銀、酒石酸銀、フロイン酸銀、リノール
酸銀、オレイン酸銀、ヒドロキシステアリン酸銀、アジピン酸銀、セバシン酸銀、こはく
酸銀、酢酸銀、酪酸銀、樟脳酸銀等、芳香族カルボン酸銀、チオンカルボン酸銀、チオエ
ーテル基を有する脂肪族カルボン酸銀、テトラザインデンの銀塩、S−2−アミノフェニ
ルチオ硫酸銀、含金属アミノアルコール、有機酸金属キレート等が挙げられる。なかでも
、脂肪族カルボン酸の銀塩が好ましく、より好ましくはベヘン酸銀である。
上記有機酸銀塩の粒子径としては特に限定されないが、好ましい下限は0.01μm、好
ましい上限は10μmであり、より好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は5μ
mである。
【0027】
上記感光層における上記有機銀塩の配合量としては特に限定されないが、ポリビニルアセ
タール樹脂に対して重量比で1:10〜10:1が好ましく、より好ましくは1:5〜5
:1である。
【0028】
上記有機酸銀塩は、感光性ハロゲン化銀が触媒的に接触させられていてもよい。この場合
は、例えば、予め調製された有機銀塩の溶液や分散液、又は、有機銀塩を含むフィルム材
料に、ハロゲン化銀形成成分を作用させて有機銀の一部をハロゲン化銀に形成する方法等
が挙げられる。
【0029】
上記感光性ハロゲン化銀としては、有機銀塩に作用してハロゲン化銀を形成するものであ
れば特に限定されない。
上記感光性ハロゲン化銀の使用量としては特に限定されず、有機銀塩100重量部に対し
て好ましい下限が0.0005重量部、好ましい上限が0.2重量部であり、より好まし
い下限が0.01重量部である。
【0030】
上記有機還元剤としては特に限定されず、上記有機銀塩の種類により適宜選択され、例え
ば、置換フェノール類、ビスフェノール類、ナフトール類、ビスナフトール類、ポリヒド
ロキシベンゼン類、ジ又はポリヒドロキシナフタレン類、ハイドロキノンモノエーテル類
、アスコルビン酸又はその誘導体、還元性糖類、芳香族アミノ化合物、ヒドロキシアミン
類、ヒドラジン類等が挙げられる。なかでも、光分解性の有機還元剤が好ましく用いられ
るが、熱分解性の有機還元剤も用いることができる。また、光分解を促進する化合物を併
用することができるし、ハロゲン化銀と還元剤との反応を阻害するための被覆剤を併用す
ることもできる。
【0031】
上記感光層は、銀により黒色画像を形成させる場合には、添加剤として色調剤を含有して
もよい。また、カラー画像を形成させる場合には、カラーカプラー、ロイコ染料等を含有
してもよい。更に、必要に応じて増感剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0032】
上記支持体としては特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボ
ネート、ポリエチレン、ポリビニルアセタール、セルロースエステル、セルローストリア
セテート、ニトロセルロース、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフイルム;ア
ルミニウム板等の金属板;ガラス、紙等が挙げられる。
【0033】
上記支持体上に感光層を積層して本発明の熱現像性感光材料を製造する方法としては特に
限定されないが、本発明の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂を適当な有機溶
媒に溶解し、更に脂肪酸の銀塩、有機還元剤、感光性ハロゲン化銀及び必要に応じて添加
する添加剤をボールミル等の分散機を用いて分散させた分散液を支持体上に有機銀塩が規
定の量となるように塗工し、溶剤を蒸発させる方法等が挙げられる。
本発明の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂はチキソトロピー性を有すること
から、本発明の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂を用いれば、容易にかつ高
精度に熱現像性感光材料を製造することができる。
なお、上記有機銀塩と有機還元剤とは、これらを一括して熱現像性感光材料用ポリビニル
アセタール樹脂に配合し支持体上に一層に形成してもよいし、上記有機銀塩と有機還元剤
とを各別に変性ポリビニルアセタール樹脂に配合し、これらを支持体上に各別に二層に形
成してもよい。
【0034】
上記支持体上に塗布される銀の量としては、支持体1mあたりの好ましい下限が0.1
g、好ましい上限が5gである。0.1g未満であると、画像濃度が低くなることがあり
、5g以上を超えても、画像濃度の向上はみられない。より好ましい下限は0.3g、よ
り好ましい上限は3gである。
【0035】
上記有機溶剤としては、本発明の熱現像性感光材料用ポリビニルアセタール樹脂を溶解で
き、かつ、水分の含有量がほとんどないものであれば特に限定されないが、例えば、ケト
ン、エステル類が好適である。なかでも、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、酢酸エ
チル等がより好適である。また、上記有機溶剤としてエタノール、ノルマルプロピルアル
コール、イソプロピルアルコール等を用いる場合には、充分に脱水したものを用いること
が好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、熱現像性感光材料の感光層を構成するバインダー樹脂として用いたとき
に、高い生産性で熱現像性感光材料を製造することができる熱現像性感光材料用変性ポリ
ビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定
されるものではない。
【0038】
(実施例1)
重合度500、ケン化度98%、エチレン単位の含有量が6モル%である変性ポリビニル
アルコール100gを700gの蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%
塩酸29gを加え、更にブチルアルデヒド14gを添加した。次に、5℃まで冷却し、ブ
チルアルデヒド64gを加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、塩酸10
8gを加え35℃に昇温して6時間保った。反応終了後、蒸留水にて洗浄し、水洗後のポ
リビニルブチラール樹脂分散溶液に水酸化ナトリウムを添加し溶液のPHを8に調整した
。溶液を50℃で5時間保持した後冷却した。このとき溶液のPHは8であった。
次いで、固形分に対し100倍量の蒸留水により溶液を水洗した後、更に、溶液を50℃
で5時間保持した後10倍量の蒸留水で水洗し、脱水した後に乾燥して変性ポリビニルア
セタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルブチラール樹脂について分析したところ、残存水酸基量は20モ
ル%、残存アセチル基量は1.7モル%、重合度は500であった。
【0039】
得られた変性ポリビニルブララール樹脂5gに、ベヘン酸銀5gとメチルエチルケトン4
0gを加えて24時間ボールミルで混合し、更に、N−ラウリル−1−ヒドロキシ−2−
ナフトアミド0.2gを加え、再びボールミルで混合して組成物分散液を得た。
【0040】
(実施例2)
重合度1700、ケン化度90%、エチレン単位の含有量が4モル%である変性ポリビニ
ルアルコールを用いた以外は実施例1と同様の方法により、変性ポリビニルブチラール樹
脂を得た。
得られた変性ポリビニルブチラール樹脂について分析したところ、残存水酸基量は27モ
ル%、残存アセチル基量は1.8モル%、重合度が1700であった。
得られた変性ポリビニルブチラール樹脂を用いた以外は実施例1と同様の方法により組成
物分散液を調製した。
【0041】
(実施例3)
変性ポリビニルアセタール樹脂の原料として、重合度1000、ケン化度98%、エチレ
ン単位の含有量が4モル%である変性ポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同
様の方法により、変性ポリビニルブチラール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルブチラール樹脂について分析したところ、残存水酸基量は21モ
ル%、残存アセチル基量は1.9モル%、重合度が1000であった。
得られた変性ポリビニルブチラール樹脂を用いた以外は実施例1と同様の方法により組成
物分散液を調製した。
【0042】
(実施例4)
重合度1200、ケン化度98%、エチレン単位の含有量が8モル%の変性ポリビニルア
ルコール132gを1600gの蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%
塩酸110gを加え、更にアセトアルデヒド30gを添加した。次に、12℃まで冷却し
、ブチルアルデヒド40gを加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後50℃
に昇温して4時間保った。反応終了後、蒸留水にて洗浄し、水洗後のポリビニルアセター
ル樹脂分散液に炭酸水素ナトリウムを添加して溶液のPHを8に調整した。溶液を70℃
で4時間保持した後冷却した。このときの溶液のPHは8であった。
次いで、溶液を固形分に対し100倍量の蒸留水により再び水洗した後、溶液を50℃に
て5時間保持した後10倍量の蒸留水で水洗し、脱水した後に乾燥して変性ポリビニルア
セタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂について分析したところ、残存水酸基量は23モ
ル%、残存アセチル基量は2モル%、アセトアセタール化度は38モル%(全アセタール
化部分における割合は58.5%)、ブチラール化度は27モル%であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様の方法により組成
物分散液を調製した。
【0043】
(実施例5)
重合度1700、ケン化度90%、エチレン単位の含有量が4モル%である変性ポリビニ
ルアルコールを用いた以外は実施例1と同様の方法により、変性ポリビニルブチラール樹
脂を得た。
得られた変性ポリビニルブチラール樹脂について分析したところ、残存水酸基量は24モ
ル%、残存アセチル基量は2モル%、アセトアセタール化度74モル%(全アセタール化
部分に対するアセトアセタール化部分の割合は100%)であった。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様の方法により組成
物分散液を調製した。
【0044】
(比較例1)
重合度500、ケン化度98%、エチレン単位を含有しないポリビニルアルコールを用い
た以外は実施例1と同様の方法により、重合度500、残存水酸基量35モル%、残存ア
セチル基2モル%のポリビニルブチラール樹脂を調製した。
得られたポリビニルブチラール樹脂を用いた以外は実施例1と同様の方法により組成物分
散液を調製した。
【0045】
(評価)
実施例1〜5及び比較例1で調製した変性ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルアセタ
ール樹脂)及び組成物分散液について以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0046】
(1)変性ポリビニルアセタール樹脂溶液のチキソトロピー性の評価
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルアセタール樹脂)をメチルエチルケ
トンに溶解して、E型粘度計を用いて25℃において剪断速度60s−1の条件で測定し
た粘度が4.0Pa・sである溶液を調製した。
得られた溶液の粘度を、E型粘度計を用いて25℃において剪断速度600s−1の条件
で測定した。
【0047】
(2)変性ポリビニルアセタール樹脂膜の透湿度の評価
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルアセタール樹脂)をメチルエチルケ
トンに溶解して、フッ素樹脂基材上に流延し、乾燥させることにより厚さ20μmのフィ
ルムを得た。
得られたフィルムについて、JIS Z 0208に準ずるカップ法により透湿度を測定
した。
【0048】
(3)塗工性の評価
得られた組成物分散液を、ポリエステル基材上に乾燥後の厚みが10μmとなるように塗
布して乾燥することにより熱現像性感光材料を作製した。このときの塗工性を以下の基準
により評価した。
〇:組成物分散液の粘度が低く、早く速度で塗工を行っても均一に塗工することができた

×:組成物分散液の粘度が高く、早く速度で塗工しようとすると均一に塗工できないこと
があった。
【0049】
(4)熱現像性感光材料の画像の評価
(3)で得られた熱現像性感光材料を階調パターンフイルムを通して250Wの高圧水銀
灯を用いて20cmの距離から0.3秒間露光後、120℃の熱板を用いて5秒間加熱た
。得られた画像について、白色光に曝した後のパターンのコントラストの変化を目視にて
評価した。
〇:変化は殆どなかった。
×:かぶりが発生した。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、熱現像性感光材料の感光層を構成するバインダー樹脂として用いたとき
に、高い生産性で熱現像性感光材料を製造することができる熱現像性感光材料用変性ポリ
ビニルアセタール樹脂及び熱現像性感光材料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖中にα−オレフィン単位を1〜20モル%含有する熱現像性感光材料用変性ポリビニ
ルアセタール樹脂であって、
メチルエチルケトン中に溶解して、E型粘度計を用いて25℃において剪断速度60s
の条件で測定した粘度が4.0Pa・sとなるように調整した溶液において、E型粘度
計を用いて25℃において剪断速度600s−1の条件で測定した粘度が3.0Pa・s
以下である
ことを特徴とする熱現像性感光材料用変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項2】
残存アセチル基量が25モル%以下、残存水酸基量が17〜35モル%、かつ、重合度が
200〜3000であることを特徴とする請求項1記載の熱現像性感光材料用変性ポリビ
ニルアセタール樹脂。
【請求項3】
アセタール化された部分のうちアセトアルデヒドによりアセタール化された部分の割合が
、全アセタール化部分に対して30%以上であることを特徴とする請求項1及び2記載の
熱現像性感光材料用変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項4】
請求項1、2、3又は4記載の熱現像性感光材料用変性ポリビニルアセタール樹脂をバイ
ンダー樹脂とする感光層を有することを特徴とする熱現像性感光材料。

【公開番号】特開2006−17877(P2006−17877A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193702(P2004−193702)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】