説明

熱発泡性粒子及び発泡体の製造方法

【課題】高い発泡度の発泡体を得ることを可能とする熱発泡性粒子及び発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる粒子本体と、粒子本体内に含有されており、比表面積が100m/gである薄片化黒鉛と、粒子本体内に含有されており、加熱によりガスを発生させる発泡剤とを含む熱発泡性粒子、もしくは熱可塑性樹脂よりなる粒子本体と、該粒子本体内に含有されており、加熱によりガスを発生させる発泡剤が層間に挿入されている膨張化黒鉛とを含む熱発泡性粒子、並びに上記熱発泡性粒子と熱可塑性樹脂とを混練し、加熱下において発泡成形する発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱によりガスを発生させる発泡剤を用いた熱発泡性粒子及び該熱発泡性粒子を用いた発泡体の製造方法に関し、特に高発泡度の発泡体を得ることを可能とする熱発泡性粒子及び発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂中に加熱によりガスを発生させる発泡剤を含有してなる熱発泡性粒子が種々提案されている。例えば、下記の特許文献1には、ニトリル系モノマー80重量%以上、非ニトリル系モノマー20重量%以下、及び架橋剤0.1〜1重量%を含有する成分から得られるポリマーを用いて、該ポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤をマイクロカプセル化してなる熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。上記熱膨張性マイクロカプセルは、様々な発泡体の製造に用いられる。すなわち、発泡体の製造に際し、上記熱膨張性マイクロカプセルを様々な合成樹脂やゴムと混合する。次に、得られた混合物を加熱下で成形すると共に発泡させる。それによって発泡体を得ることができ、軽量化、クッション性付与あるいは剛性向上を図ることができるとされている。
【0003】
また、加熱発泡成形時のガス抜きを防止するために、無機添加剤を発泡性粒子に含有させる方法も従来より試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2894990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように、従来、加熱によりガスを発生させる発泡剤を含有する様々な熱発泡性粒子が提案されている。しかしながら、従来の熱発泡性粒子を合成樹脂と混合して発泡性材料を得、加熱下において発泡成形する場合、発泡度を十分に高めることができないという問題があった。
【0006】
より具体的には、加熱発泡成形を行うと、時間の経過と共に、発泡性材料の温度が上昇し、発泡が進行し、温度の上昇と共に発泡度が高くなっていく。しかしながら、発泡性材料の温度がある一定の温度以上に高くなっていくと、発泡度はそれ以上高くならず、逆に低下し始める。これは、加熱によりガスが発生し、発泡が進行するが、発泡度が高くなると熱発泡粒子のシェルからガスが抜けていくため、発泡セルが小さくなることによると考えられる。すなわち、従来の熱発泡性粒子を用いた加熱発泡成形では、温度が高くなると、ガス抜けにより発泡度が低下するという問題があった。従って、高発泡度の発泡体を得ることが困難であった。
【0007】
上記発泡度の低下を抑制するには、ガス抜けを抑制するために、加熱発泡成形に際しての最高温度を低くすればよいとも考えられる。しかしながら、その場合には、発泡体の主成分である樹脂の最適成型温度での成形が困難となり、様々な形状の発泡成形品を提供することが困難となる。
【0008】
前述した無機添加剤は、上記ガス抜けを抑制すると共に、発泡性粒子の熱可塑性樹脂からなるセルの強度を高めるために添加されている。しかしながら、かなりの量の無機添加剤を添加しなければセルの強度を十分に高めることができなかった。また、このような無機添加剤の添加では、上記ガス抜けを十分に抑制することはできなかった。従って、上記のように、高発泡度の発泡体を得ることが困難であった。そのため、所望とする良好な断熱性や十分な機械的強度を有する発泡体を得ることができなかった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、加熱発泡成形に用いた場合の得られる発泡体の発泡度を効果的に高めることができる熱発泡性粒子及び該熱発泡性粒子を用いた発泡体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の第1の発明に係る熱発泡性粒子は、熱可塑性樹脂からなる粒子本体と、該粒子本体内に含有されており、比表面積が100m/g以上の薄片化黒鉛と、前記粒子本体内に含有されており、かつ加熱によりガスを発生させる発泡剤とを含む。
【0011】
本願の第2の発明に係る熱発泡性粒子は、熱可塑性樹脂からなる粒子本体と、該粒子本体内に含有されており、層間に加熱によりガスを発生させる発泡剤が挿入されている膨張化黒鉛とを含む。
【0012】
本発明に係る熱発泡性粒子のある特定の局面では、上記薄片化黒鉛の面方向の面積は50nm以上であり、熱発泡性粒子の表面積の半分以下とされる。薄片化黒鉛の面方向の大きさがこの範囲内にある場合、加熱発泡により形成されたセルの内壁に付着し易い。従って、ガス抜けによる発泡度の低下をより一層確実に抑制することができる。
【0013】
本発明に係る発泡体の製造方法は、本発明に従って構成されている熱発泡性粒子と、熱可塑性樹脂とを含む熱可塑性樹脂組成物を用意する工程と、前記熱可塑性樹脂組成物を加熱下において成形すると共に、前記熱発泡性粒子を発泡させて発泡体を得る工程とを備える。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係る熱発泡性粒子は、発泡剤と比表面積が100m/g以上の薄片化黒鉛が粒子本体内に含有されているので、加熱により発泡剤が気化し、ガスを内包したコアシェル粒子が形成されると、該シェルの内壁に比表面積が大きい薄片化黒鉛が付着する。従ってガス抜けを効果的に抑制することができ、発泡倍率の高い発泡粒子が得られる。また、この熱発泡性粒子を用いることで発泡体の発泡度を高めることが可能となる。
【0015】
同様に、第2の発明に係る熱発泡性粒子では、層間に発泡剤が挿入された膨張化黒鉛が含有されているので、加熱発泡時に際し、発泡剤が気化すると、膨張化黒鉛が剥離され、薄片化黒鉛とされる。従って、生成した薄片化黒鉛が熱発泡性粒子のシェル内壁に付着し、ガス抜けを効果的に抑制する。よって、発泡倍率の高い発泡粒子が得られる。また、この熱発泡性粒子を用いることで発泡度の高い発泡体を得ることが可能となる。
【0016】
本発明に係る発泡体の製造方法では、本発明に係る熱発泡性粒子を含む発泡性材料を加熱下により発泡するため、温度の上昇と共に発泡が進行し、さらに薄片化黒鉛が発泡セルの内壁に付着することになる。従って、発生したガスが抜け難いため、発泡セルが小さくなり難い。そのため、得られる発泡体の発泡度を高めることができる。また、200℃を超える高温領域でも熱膨張したセル壁が収縮しにくく、膨張した状態を維持しやすいため、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象を抑制することができ、より高い温度で成型することが可能となる。逆に、低い温度で発泡する発泡剤を用いた場合には、より低い温度で発泡成型を行ったとしても、発泡度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0018】
(熱発泡性粒子)
本発明の熱発泡性粒子は、熱可塑性樹脂からなる粒子本体内に比表面積が100m/g以上の薄片化黒鉛と、加熱によりガスを発生させる発泡剤とが含有される。
【0019】
上記粒子本体を構成する熱可塑性樹脂については特に限定されないが、ニトリル系モノマー(I)を含有するモノマー混合物を重合させてなる樹脂であることが好ましい。
【0020】
上記ニトリル系モノマー(I)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル、又は、これらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが特に好ましい。
【0021】
上記ニトリル系モノマー(I)を添加することで、シェルのガスバリア性を向上させることができる。
【0022】
上記モノマー混合物中のニトリル系モノマー(I)の含有量の好ましい下限は30重量%、好ましい上限は90重量%である。上記モノマー混合物中のニトリル系モノマー(I)の含有量が30重量%未満であると、シェルのガスバリア性が低くなるため発泡倍率が低下することがある。上記モノマー混合物中のニトリル系モノマー(I)の含有量が90重量%を超えると、耐熱性が上がってこないことがある。上記モノマー混合物中のニトリル系モノマー(I)の含有量のより好ましい下限は40重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0023】
上記モノマー混合物は、更にカルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)を含有することが好ましい。
【0024】
上記カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)としては、例えば、イオン架橋させるための遊離カルボキシル基を分子当たり1個以上持つものを用いることができ、具体的には例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物又はマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0025】
上記モノマー混合物中における、上記カルボキシル基を有し、炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は50重量%である。上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量が10重量%未満であると、最大発泡温度が180℃以下となることがあり、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量が50重量%を超えると、最大発泡温度は向上するものの、発泡倍率が低下する。上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量のより好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0026】
上記モノマー混合物は、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有することが好ましい。上記重合性モノマー(III)は、架橋剤としての役割を有する。上記重合性モノマー(III)を含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。
【0027】
上記重合性モノマー(III)としては、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが挙げられ、具体例には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでは、ポリエチレングリコール等の2官能性のものが、200℃を超える高温領域でも熱膨張したセル壁が収縮しにくく、膨張した状態を維持しやすいため、好適に用いられる。
【0028】
上記モノマー混合物中における、上記重合性モノマー(III)の含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は3重量%である。上記重合性モノマー(III)の含有量が0.1重量%未満であると、架橋剤としての効果が発揮されないことがあり、上記重合性モノマー(III)を3重量%を超えて添加した場合、熱発泡性粒子の粒子形状が歪なものとなり、結果として嵩比重が低下してしまう。上記重合性モノマー(III)の含有量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は1重量%である。
【0029】
上記モノマー混合物は、更に金属カチオン塩(IV)を含有してもよい。
【0030】
上記金属カチオン塩(IV)を含有することで、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)のカルボキシル基との間でイオン架橋が起こることから、架橋効率が上がり、耐熱性を高くすることが可能となる。その結果、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱発泡性粒子とすることが可能となる。また、高温領域においてもセル壁の弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱発泡性粒子の破裂、収縮が起こることがない。
【0031】
また、共有結合でなくイオン架橋が起こることによって、熱発泡性粒子の粒子形状が真球に近くなり、歪みが生じにくくなる。これは、イオン結合による架橋が、共有結合による架橋に比べて結合力が弱いため、重合中のモノマーからポリマーへ転化時において、熱発泡性粒子の体積が収縮する際に均一に収縮が生じることが原因と考えられる。
【0032】
上記金属カチオン塩(IV)の金属カチオンとしては、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と反応してイオン架橋させる金属カチオンであれば、特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、特にZnのイオンが好適である。これらの金属カチオン塩(IV)は、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記モノマー混合物中における、上記金属カチオン塩(IV)の含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限が10重量%である。上記金属カチオン塩(IV)の含有量が0.1重量%未満であると、耐熱性に効果が得られないことがあり、上記金属カチオン塩(IV)の含有量が10重量%を超えると、発泡倍率が著しく悪くなることがある。上記金属カチオン塩(IV)の含有量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0034】
上記モノマー混合物中には、上記ニトリル系モノマー(I)、ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)等に加えて、これら以外の他のモノマーを添加してもよい。上記他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等が挙げられる。これら他のモノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに必要な特性に応じて適宜選択されて使用され得るが、これらのなかでメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル等が好適に用いられる。シェルを構成する全モノマー中の他のモノマーの含有量は10重量%未満が好ましい。上記他のモノマーの含有量が10重量%を超えると、シェルのガスバリア性が低下し、発泡倍率が悪化しやすいので好ましくない。
【0035】
上記モノマー混合物中には、上記モノマーを重合させるため、重合開始剤を含有させる。上記重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化ジアルキル、イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化ジアシル、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等のパーオキシエステル、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0036】
上記シェルを構成する熱可塑性樹脂の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。重量平均分子量が10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、重量平均分子量が200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0037】
上記熱発泡性粒子は、発泡剤と薄片化黒鉛もしくは発泡剤を層間に挿入した膨張化黒鉛を含有する。
【0038】
上記薄片化黒鉛もしくは膨張化黒鉛を含有することでガスバリア性が向上し、高温又は長時間加熱した場合でも、発泡した粒子からガスが抜けず、高い発泡倍率を実現することができる。また、熱発泡性粒子の耐熱性を向上させることができ、熱発泡性粒子に「へたり」が生じて、高温時に潰れてしまうことを防止することができる。
【0039】
上記薄片化黒鉛は、層状黒鉛を剥離することにより得られる。層状黒鉛は、通常の黒鉛原料であり、多数のグラフェンシートが積層されている積層体である。この層状黒鉛の層間に、層間物質を挿入することで、層状黒鉛の層間距離が拡げられ、いわゆる膨張化黒鉛が得られる。この膨張化黒鉛を急速加熱することにより層間に挿入された電解質が気化し、気化圧によりグラフェンシートが剥離されてグラフェンシートの積層数が100層以下の多数の薄片化黒鉛とすることができる。好ましくは、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、100層以下、より好ましくは20層以下である。グラフェンシートの積層数が少ない程、薄片化黒鉛は柔軟さを増し、発泡粒子のシェル内壁に沿って付着することができる。
【0040】
このような層間物質としては、硝酸、硫酸、などを用いることができる。また、発泡剤を層間に挿入した膨張化黒鉛を用いる場合は、必要に応じて硝酸や硫酸で膨張化黒鉛を作製してグラフェンシートの層間を広げた後に、本来含有させるべき発泡剤を層間に挿入することで発泡剤の層間への挿入を容易にすることが出来る。
【0041】
また、発泡剤を層間に挿入した膨張化黒鉛を熱発泡性粒子に含有させる場合であっても、薄片化黒鉛と発泡剤を熱発泡性粒子に含有させる場合であっても、発泡剤としては、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になることが必要であり、低沸点有機溶剤が好適である。層状黒鉛に発泡剤を挿入する方法としては発泡剤中に層状黒鉛を浸漬する方法が挙げられる。
【0042】
上記発泡剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。なかでも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテル、及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明の熱発泡性粒子では、上述した発泡剤のなかでも、炭素数が5以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱発泡性粒子とすることができる。
【0044】
また、発泡剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0045】
本発明の熱発泡性粒子において、発泡剤の含有量の好ましい下限はモノマー混合物100重量%に対して10重量%、好ましい上限は40重量%である。
【0046】
上記シェルの厚みは発泡剤の含有量によって変化するが、発泡剤の含有量を減らして、シェルが厚くなり過ぎると発泡性能が低下し、発泡剤の含有量を多くすると、シェルの強度が低下する。上記発泡剤の含有量を10〜40重量%とした場合、熱発泡性粒子のへたり防止と発泡性能向上とを両立させることが可能となる。
【0047】
本発明の熱発泡性粒子において、層状黒鉛もしくは薄片化黒鉛の含有量の好ましい上限はモノマー混合物100重量%に対して1重量%、好ましい下限は0.001重量%である。1重量%を超えると発泡剤の発泡を阻害し、0.001重量%を下回るとガス抜け抑制の効果が少ない。
【0048】
本発明では、上記薄片化黒鉛として、比表面積が100m/g以上のものが用いられる。それによって、後述するように、発泡粒子のシェル内壁に高アスペクト比の薄片化黒鉛が付着した際に、ガス抜けを効果的に抑制することができる。従って、発泡度を効果的に高めることができる。
【0049】
なお、上記層状黒鉛を膨張化黒鉛とし、単に薄片化黒鉛を得る方法は、上記電解質を層間に挿入して加熱する電気化学的方法の他、様々な方法を用いることができる。
【0050】
上記薄片化黒鉛の面方向の平均大きさは50nm以上であり、熱発泡性粒子の表面積の半分以下が好ましい。また、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、100層以下、より好ましくは20層以下である。薄片化黒鉛の面方向の大きさ及びグラフェンシートの積層数がこの範囲内にある場合、薄片化黒鉛は加熱発泡により形成されたシェルの内壁に付着し易い。従って、ガス抜けによる発泡度の低下をより一層確実に抑制することができる。
【0051】
なお、本願の第2の発明では、熱可塑性樹脂中に膨張化黒鉛が含有されているが、この膨張化黒鉛は、上述した通り、層状黒鉛の層間に他の物質を挿入し、層間距離を拡げた状態のものをいうものとする。第2の発明では、この挿入される物質として、加熱により発泡する発泡剤が用いられる。第2の発明では、発泡剤を挿入することにより膨張化黒鉛を得ているので、加熱下により発泡成形した場合、発泡成形時に膨張化黒鉛が剥離され、薄片化黒鉛とされる。
【0052】
上記発泡剤が層間に挿入する方法については、発泡剤中に層状黒鉛を浸漬するなどの方法を用いることができる。
【0053】
(熱発泡性粒子の製造方法)
上記熱発泡性粒子の製造方法については、特に限定されない。例えば、第1の発明の熱発泡性粒子の製造方法としては、例えば、水性媒体を調製する工程、重合性モノマー、揮発性膨張剤及び粘土鉱物を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、並びに、前記重合性モノマーを重合させる工程を行うことにより製造する方法、上記粒子本体を構成する熱可塑性樹脂に、上記薄片化黒鉛及び発泡剤を混練する方法などが挙げられる。前者の場合、熱可塑性樹脂からなる粒子内に上記薄片化黒鉛及び発泡剤が包含されているマイクロカプセル型の発泡性粒子とすることができる。このようなマイクロカプセル型の発泡性粒子の製造は、例えば特許文献1に記載のように、従来周知の方法により行うことができる。
【0054】
また、第2の発明の熱発泡性粒子の製造方法としては、上記膨張化黒鉛の存在下で粒子本体を構成する熱可塑性樹脂をモノマー組成から重合して得る方法、上記膨張化黒鉛と、粒子本体を構成する熱可塑性樹脂とを混合する方法を挙げることができる。この場合においても、前者の場合には、周知のマイクロカプセル型発泡性粒子の製造方法に従って、熱可塑性樹脂からなる粒子を形成し、該粒子内に膨張化黒鉛が包含されているマイクロカプセル型の熱発泡性粒子を得てもよい。
【0055】
(発泡体の製造方法)
本発明に係る発泡体の製造方法では、第1または第2の発明に係る熱発泡性粒子を熱可塑性樹脂と共に混練し、発泡性材料を得る。次に、この発泡性材料を加熱下において発泡成形する。混練方法は特に限定されず、プラストミル、スクリューなどの適宜の混練方法を用いることができる。それによって、マスターバッヂとしての発泡性材料を得ることができる。
【0056】
上記発泡性材料を、射出成形装置や押出成形装置などの適宜の成形装置において、加熱下発泡成形する。加熱温度は、上記熱発泡性粒子が混合される熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度に加熱する。この場合、加熱及び成形の進行に従って、発泡剤が気化もしくは分解し、ガスが発生する。ガス発生量が増大するにつれて、発泡粒子の大きさが大きくなる。
【0057】
従来の熱発泡性粒子を用いた発泡成形方法では、前述したように、発生したガスが抜けることにより、発泡性材料もしくは発泡体の温度がある一定の温度以上高くなると、発泡粒子が小さくなり、発泡度がむしろ低くなることがあった。これに対して、本発明では、上記薄片化黒鉛または膨張化黒鉛が解枠されて生成した薄片化黒鉛が、発泡セルの内壁に付着することとなる。従って、ガス抜けが抑制され、発泡粒子が小さくなり難いため、発泡度の低下が生じ難い。よって、より高い温度で発泡成形を行うことができ、その場合であっても、発泡度の高い発泡体を得ることができる。
【0058】
逆に、低い温度で発泡する発泡剤を用いた場合には、より低い温度で発泡成形した場合であっても、発泡度を高めることができる。
【0059】
従って、本発明によれば、高発泡度の発泡体を容易に得ることができるので、十分な断熱性や機械的特性を有する発泡体を提供することが可能となる。
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げることにより本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
1)薄片化黒鉛の調製
電解液に60%硝酸を用い、層状黒鉛に東洋炭素社製黒鉛シートPF100−UHP 1gを用い、この層状黒鉛を陽極、白金線を陰極として電解液に浸し、500mAで2時間通電することにより、層状黒鉛に硝酸が挿入された膨張化黒鉛を得た。この膨張化黒鉛を風乾して余分な水分を取り除き、アルゴンガス雰囲気下で550℃まで急速に加熱することで薄片化黒鉛を得た。この薄片化黒鉛の比表面積を島津製作所製の比表面積測定装置ASAP2020により求めたところ、750m/gであった。単層に剥離されたグラフェンシートの理論比表面積が約2600m/gであるので、得られた薄片化黒鉛のグラフェンシートの積層数は、平均で約3.5層と算出できた。また、得られた薄片化黒鉛をn−ペンタン溶液に加え、28kHzにて3時間超音波処理した後、マイクロガラス上に塗布しn−ペンタンを揮発させたものを試料としてSEM観察を行ったところ、薄片化黒鉛の面方向の大きさは100nm〜2μmの範囲であった。
【0062】
2)熱発泡性粒子の作製
重合反応容器に、水8Lと、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製)10重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.3重量部と、1N塩酸0.7重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合量のモノマー、架橋剤及び重合開始剤からなる油性混合液に、表1に示した種類の薄片化黒鉛をn−ペンタンに分散させたものを添加した後、更に水性分散媒体に添加することにより、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)し、60℃で20時間反応させることにより、反応生成物を調製した。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥して熱発泡性粒子を得た。
【0063】
上記のようにして得た熱発泡性粒子の粒径をSEMで測定したところ、平均粒径は約12μmであった。
【0064】
3)熱発泡性粒子の性能評価
(3−1)発泡倍率
得られた熱発泡性粒子を約0.1g計量し、10mLのメスシリンダーに入れた。その後、150℃に加熱したオーブンに5分間投入し、メスシリンダー内で膨張した粒子の容積を測定した。8mL以上である場合を◎、5mL以上8mL未満である場合を○、2mL以上5mL未満である場合を△、2mL未満である場合を×とした。
【0065】
(3−2)へたり
上記(3−1)で測定した試料を更に200℃に加熱したオーブンに10分間投入し、メスシリンダー内の粒子の容積(H)を測定し、(2−1)で測定した容積(L)に対する比(H/L)を算出した。H/Lが0.8以上である場合を◎、H/Lが0.6以上0.8未満である場合を○、H/Lが0.4以上0.6未満である場合を△、H/Lが0.4未満である場合を×とした。
【0066】
上記各評価結果を、下記の表2に示す。
【0067】
(実施例2)
薄片化黒鉛と発泡剤に代えて、発泡剤を含有した膨張化黒鉛を用いたことを除いては実施例1と同様にして、熱発泡性粒子を得た。発泡剤を含有した膨張化黒鉛は実施例1と同様に硝酸を挿入した膨張化黒鉛を作製した後、50℃にて真空乾燥処理を施して硝酸成分を除去した後、硝酸により各グラフェンシート層間が開いた膨張化黒鉛をn−ヘキサン溶液に浸漬して、40kHzにて30分超音波処理をした後、1日静置することにより作成した。
【0068】
得られた熱発泡性粒子の発泡倍率及びへたりを実施例1と同様にして評価した。結果を下記の表2に示す。
【0069】
(比較例1〜3)
油性混合液の組成を下記の表1に示すように変更したこと、並びに薄片化黒鉛及び膨張化黒鉛をいずれをも含有させなかったことを除いては、実施例1と同様にして熱発泡性粒子を作成した。また、得られた熱発泡性粒子について、発泡倍率及びへたりを実施例1と同様にして評価した。結果を下記の表2に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる粒子本体と、該粒子本体内に含有されており、かつ比表面積が100m/g以上である薄片化黒鉛と、前記粒子本体内に含有されている加熱によりガスを発生させる発泡剤とを備える、熱発泡性粒子。
【請求項2】
熱可塑性樹脂からなる粒子本体と、該粒子本体内に含有されており、層間に加熱によりガスを発生させる発泡剤が挿入されている膨張化黒鉛とを備える熱発泡性粒子。
【請求項3】
前記薄片化黒鉛の面方向の面積が50nm以上であり、熱発泡性粒子の表面積の1/2以下の範囲にある、請求項1に記載の熱発泡性粒子。
【請求項4】
前記膨張化黒鉛を加熱して得られる薄片化黒鉛の面方向の面積が50nm2以上であり、熱発泡性粒子の表面積の1/2以下の範囲にある、請求項2に記載の熱発泡性粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱発泡性粒子と、熱可塑性樹脂とを含む熱可塑性樹脂組成物を用意する工程と、
前記熱可塑性樹脂組成物を加熱下において成形すると共に、前記熱発泡性粒子を発泡させて発泡体を得る工程とを備える、発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2012−126827(P2012−126827A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279641(P2010−279641)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】