説明

熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物

(a)ポリイミド樹脂、(b)シアン酸エステル、(c)ビスマレインイミドと、(d)ナノ充填剤を含有する熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物に関する。
【解決手段】熱硬化性樹脂のポリイミド樹脂組成物は、熱可塑性ポリイミドの熱膨張係数の高すぎる問題を解消し、同時に耐熱性を改善し、樹脂の熱安定性を増し、低温で銅箔と貼り合わせてプリント回路板を製造することに使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは耐高温性、優れた化学特性、高絶縁性および優異な機械強度など優れた特性を有するので、多くの技術分野において広く使用されている。例えば、芳香族ポリイミドフィルムは、連続式芳香族ポリイミドフィルム/金属フィルムの複合シートとして、フレキシブルプリント配線板(FPC)の製造に使用され、自動粘着テープのキャリヤーテープ(TAB)およびリード
オン チップ(lead-on-chip)(LOC)テープなどに用いられ、特に、フレキシブルプリント配線板はすでにノート型コンピューター、消費型電子製品、携帯電話などの通信設備材料として広く利用されている。
【0003】
プリント回路板の製造において、ポリイミド絶縁性フィルム上、主に高温性接着剤を用いて塗布した後、例えば、銅箔などの金属箔が圧着されて、フレキシブルプリント回路板が製造され、ノート型コンピューター、消費型電子製品、携帯電話などの通信設備材料などに使用される。
【0004】
現在使用されている接着剤としては、熱可塑性ポリイミド系接着剤を主としているが、その熱膨張係数は高く、耐熱性が劣り、且つサイズ安定性も良くなく、しかもポリイミド絶縁性フィルムと金属箔とを圧着加工する際、高温下で行う必要があり、多くの課題を有する。
【0005】
上記の熱可塑性接着剤によるフレキシブル基板を製造する際の欠点に鑑み、熱可塑性ポリイミドの膨張係数の高すぎる問題を解決すると共に、耐熱性とサイズ安定性を改善し、且つ高温を必要としないでも金属箔を貼り合せることが可能の接着剤が求められる。
【0006】
本発明者らは、ポリイミド樹脂の構造について深く研究を行い、上記の課題を解決することが可能のポリイミド樹脂組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は熱硬化性樹脂より変性したポリイミド樹脂組成物に関し、下記組成物分を含む:(a)ポリイミド樹脂、(b)シアン酸エステル、(c)ビスマレインイミドと(d)ナノ充填剤。
【0008】
本発明の熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物により、熱可塑性ポリイミドの熱膨張係数の高すぎる問題を解決し、更に耐熱性を改善することで樹脂の熱安定性を高め、低温で銅箔と貼り合せてプリント回路板を製造することに使用される。
【0009】
これにより、本発明は下記成分を含む熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂塑性物を提供する:(a)ポリイミド樹脂、(b)シアン酸エステル、(c)ビスマレインイミドと(d)ナノ充填剤。上記成分の使用量は組成物総重量当り、(a)ポリイミド樹脂60〜95重量%、(b)シアン酸エステル0.1〜10重量%、(c)ビスマレインイミド0.1〜10重量%、(d)ナノ充填剤1〜40重量%によりそれぞれ構成される。
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物により、加熱条件下ビスマレインイミドとシアン酸エステルは、それぞれ自体と相互の間で熱架橋反応を行い、これによりポリイミドの熱膨張係数を低下させ、樹脂の熱安定性を高め、低温下で金属箔との貼り合わせが可能となり、フレキシブルプリント回路板を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、下記成分を含む熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂塑性物を提供する:(a)ポリイミド樹脂、(b)シアン酸エステル、(c)ビスマレインイミドと(d)ナノ充填剤。上記成分の使用量は組成物総重量当り、(a)ポリイミド樹脂60〜95重量%、(b)シアン酸エステル0.1〜10重量%、(c)ビスマレインイミド0.1〜10重量%、(d)ナノ充填剤1〜40重量%によりそれぞれ構成される。
【0012】
本発明によると、成分(a)のポリイミド樹脂は、下式(I)[化7]により示されるジアミンと、
【化7】

下式(II)[化8]により示されるジカルボン酸無水物との反応により得られる:
【化8】

【0013】
本発明において、ポリアミド酸の製造に用いられるジカルボン酸無水物の具体例としては、例えば、無水ピロメリト酸(PMDA)、無水4,4’−オキシジフタル酸(ODPA)、無水ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(BPDA)、無水ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(BTDA)、無水エチレンテトラカルボン酸、無水ブタンテトラカルボン酸、無水シクロペンタンテトラカルボン酸、無水ベンゾフェノン−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸、無水ビフェニル−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸、無水2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、無水2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、無水ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、無水ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、無水1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、無水ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、無水ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、無水4,4’−(P−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、無水4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、無水ナフタリン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、無水ナフタリン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、無水ナフタリン−1,2,5,6−テトラカルボン酸、無水ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、無水ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸、無水アントラセン−2,3,6,7−テトラカルボン酸と無水フェナントレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらジカルボン酸無水物は単独で使用、又は2種以上混合して使用しても良い。上記のうち、好ましくは無水ピロメリト酸(PMDA)、無水4,4’−オキシジフタル酸(ODPA)、無水ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(BPDA)、無水ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、無水ビフェニルスルホン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(DSDA)が使用される。
【0014】
本発明において、ポリアミド酸の製造に使用されるジアミンの具体例としては、例えば、パラ−フェニルジアミン(PDA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジ(メタ−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ジ(パラ−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、オルト−フェニレンジアミン、メターフェニレンジアミン、パラ−フェニレンジアミン、ベンジジン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニル−2,2’−プロパン、1,5−ジアミノナフタリン、1,8−ジアミノナフタリン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ドデカジアミン、ジ(パラ−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,4−ジ(3−アミノプロピルジアミノシラン)ベンゼン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、オルト−トリルジアミン、メタ−トリルジアミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、1,1−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン,4,4’−ジ(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ジ〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ジ〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ジ〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホキシド、ジ〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ジ(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)エーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記のジアミンは単独又は多くを混合して使用しても良い。
【0015】
これらジカルボン酸無水物とジアミンとの反応は、非プロトン極性溶媒中で行われ、非プロトン極性溶媒としては特に制限はなく、反応物と生成物と反応しないものであれば良く、その具体例としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタンなどが挙げられる。特に好ましくはN−メチルピロリドン(NMP)とN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)が使用される。
【0016】
該ジカルボン酸無水物とジアミンとの反応は、通常、室温から90℃の温度範囲で行われ、より好ましくは30℃から75℃の温度範囲で行われる。芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸無水物とのモル比(芳香族ジアミン/芳香族ジカルボン酸無水物)は0.5〜2.0の範囲が好ましく、より好ましくは0.75〜1.25の範囲である。
【0017】
本発明において、成分(b)のシアン酸エステルは、下式(III)[化9]により示される:
【化9】

(i)C6〜10芳香族炭化水素より誘導される少なくも2価を示す基、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセン基又はピレン基より誘導される基;
(ii)複数の芳香環により直接結合又は架橋原子或いは基により結合された有機の基、例えば、下式(1)[化10]から誘導された有機基:
【化10】

これら有機基の具体例としては、例えば、ビフェニル、ジフェニルメタン、α,α−ジメチルフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルジメチレンエーテル、ジフェニルスルフィド、ベンゾフェノン、ジフェニルアミン、ジフェニルスルホキシド、ジフェニルスルホン、亜リン酸トリフェニルエステルとリン酸トリフェニルエステルなどから誘導された基が挙げられ;
(iii)ノボラックがたフェノール樹脂から誘導された基。
成分(b)のシアン酸エステルは、それ自身周知の方法で製造されるか、例えば、チバ(株)製品の商品名AroCy B−10、AroCy M−10、AroCy L−10などにより市販されているものを入手して使用することができる。上記市販より入手されるシアン酸エステルの化学構造とその他の具体例を下記[化11]に示す:
【化11】

【0018】
本発明において、成分(c)のビスマレインイミドは下式(IV)[化12]により示される化合物であり:
【化12】

(ii)下式(1)[化13]により示された基を示す:
【化13】

上記式(IV)において、R芳香族基又は脂環族有機基を示す場合、その芳香族環又は脂環族上、反応に寄与しない有機基、例えば、C1−4アルキル基(例えば、メチル基又はエチル基)、又はC1−4アルコキシ基(例えば、メトキシ基又はエトキシ基)を含むことができる。
【0019】
本発明において、成分(c)のビスマレインイミドは、それ自身周知の方法により製造され、例えば、無水マレイン酸とジアミン類とを反応させ、次に得られたビスマレインアミドを脱水素環化することにより得る。上記のジアミンとしては、反応性の立場から、プライマリジアミンが好ましいが、セカンダリジアミンを使用しても良い。そのジアミンの好ましい具体例としては、例えば、メターフェニルジアミン、メタ−又はパラージメチルフェニルジアミン、1,4−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロキシリレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルメタン、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、ジ(4−アミノ−3−メチルフェニル)メタン(MDT)、ジ(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(MDX)、4,4’−ジアミノフェニルシクロヘキサン、4,4’−ジアミノフェニルエーテル、2,2−ジ(4’−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノ−3−メチルフェニル)メタンとα,α−ジ(4−アミノフェニル)フェニルメタンなどが挙げられる。
【0020】
これらマレインイミドは、1種類又は2種以上混合として使用され、その具体例としては、例えば、N,N’−エチレン−ビスマレインイミド、N,N’−ブチレン−ビスマレインイミド、N,N’−フェニレン−ビスマレインイミド、N,N’−ヘキサメチレン−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルメタン−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテル−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルスルホン−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジシクロヘキシルメタン−ビスマレインイミド、N,N’−キシリレン−ビスマレインイミド、N,N’−ジフェニルシクロヘサン−ビスマレインイミドなどが挙げられる。
【0021】
本発明において、成分(d)のナノ充填剤としては、シラン変性による有機性粉末又は無機性粉末又はそれらの混合物で、且つ粒径約10nm〜10μmよりなるものが使用され、その具体例としては、例えば、酸化アルミニウム、硅酸アルミニウム、酸化ケイ素酸化アルミニウム、アルカリ金属のアルミニウム硅酸塩、ホウ素硅酸塩ガラス、二酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化ケイ素、ネフェリン、閃長岩(syenite)、ブッデルウイト(Buddeluyite)、ユージアライト(eudialyte)、二酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化クロム、3酸化マグネシウム・4二酸化ケイ素・1含水物(3MgO.4SiO2.H2O)、酸化アルミニウム・二酸化ケイ素・x含水物(Al2O3.SiO2.xH2O)、水酸化亜酸化鉄(FeOOH)、タルク、炭酸カルシウム、日本日産(株)より入手した商品MT−ST、MEK−ST、MIBK−ST、クラリアント(株)より購入したHIGHLINK
OG,MEK−ST,MIBK−STなどの30%ナノ酸化ケイ素を含む分散液で、その内に表面処理を施したナノ酸化ケイ素が含まれ、非水酸基系溶剤に十分に分散した分散液などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物は、ナイフコーターやバーなどを用いて基材上に塗布し、次に、例えば、150〜220℃範囲の温度下で加熱して溶剤を除去した後、例えば、銅箔などの金属箔とを、例えば、280〜340℃、80〜120kgfの温度と圧力下で貼り合わせ、その後、窒素雰囲気のオーブン中、例えば、260〜300℃の温度下で硬化させて、高耐熱性、サイズ安定性の高いフレキシブルプリント回路板を得る。
【実施例】
【0023】
以下実施例により詳しく本発明を説明するが、これら実施例の目的は本発明を説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。なお、固有粘度(Inherent Viscosity、以下IVと略す)およびガラス転移温度は、以下の条件に従って求めた。
【0024】
《固有粘度(IV)》
(a)ポリアミド酸溶液の調製
ポリイミド0.5gを計りとり、15mlフラスコに入れ、N−メチルピロリドンを加えて全量を15mlとし、攪拌によってポリイミドを溶解させた。得られたポリアミック酸溶液を毛細管粘度計(#100 Ubbehold Viscometer)に入れ、25℃の恒温槽に15分間保持した。
【0025】
安全バルブを用いて、該溶液を吸引した後、バルブを開放し、該溶液が2つのマーク間を通過する時間を3回測定し、これらの平均値(t:単位秒)を求めた。
【0026】
また、溶液としてN−メチルピロリドンのみを用い、上記と同様に平均値(t0:単位秒)を求めた。
【0027】
(b)固形分の測定
まず、アルミニウム基材の重量(W1)を測定した。さらにポリイミド溶液10gを該アルミニウム基材に塗布し、再度重量(W2)を測定した。
【0028】
次いで、ポリイミド溶液を塗布したアルミニウム基材を190℃のオーブンに入れ、5時間経過後に取り出し、乾燥させた後、10分間冷却した。このポリイミド溶液を塗布したアルミニウム基材の重量(W3)を再度測定した。
【0029】
得られたW1〜W3の値より、次式を用いて固形分の重量(SC)を算出した。
SC=[(W3−W1)/(W2−W1)]×100(単位:%)
上記値より、次式を用いて固有粘度(IV)を算出した。
C=SC×W×100/15(単位:g/dL)
IV=Ln(t/t)/C
【0030】
(A 合成例1 ポリアミド酸の合成)
攪拌機と窒素導入管を有する四口反応フラスコ中、窒素ガスを20cc/分の通気量で吹き込みながら、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)41g(0.1モル)を加え、N−メチルピロリドン(NMP)302gで溶解させる。攪拌して溶解した後、15℃に保持する。攪拌端子をそれぞれ有するフラスコを三つ準備し、各フラスコにそれぞれ無水フェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(BPDA)2.94g(0.01モル)とNMP10gを加え、第二のフラスコには、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸無水物(BTDA)22.54g(0.07モル)を加え、第三のフラスコには無水4,4’−オキシジフタル酸(ODPA)6.2g(0.02モル)を加え、攪拌して溶解させる。次に、第一のフラスコの溶液を前記の反応器中に加え、窒素ガスを継続して導入しながら、攪拌し1時間反応させた後、第二のフラスコの溶液を加え、更に1時間反応を行い、次に、第三のフラスコの溶液を加え、窒素ガスを導入しながら反応を4時間続けた後、ポリアミド酸樹脂を得る。窒素ガスの導入を止めて、反応器にディンスタックを配置して水分を除去する。反応器中にトルエン87gを加え、185℃に升温して脱水閉環反応を行い、ポリアミド酸樹脂のイミド化によりポリイミド樹脂を合成する。トルエンの共沸作用を利用して水分を引き続き除外し、水分が排除されないことを確認した後、室温まで温度をさげる。メタノールを直接加えてポリイミド樹脂を沈澱させて、ろ過する。メタノールにより2回沈殿物を洗浄し、オーブンに入れて乾燥し、ポリイミド樹脂の粉末を得る。このポリイミド樹脂を0.5g取り、NMP100mlに溶かし、25℃で粘度(IV)を測定した結果0.65dl/グラムを示した。合成例1により得たポリイミド樹脂を以下P1−1と略称し、その組成分を表1に示す。
【表1】

【0031】
(合成例2〜5)
合成例1に記述の類似した方法により、下記表1に記載のジアミンとジカルボン酸無水物及びその組成を使用してポリイミドを合成し、得たポリイミド樹脂をそれぞれPI−2(合成例2)〜PI−5(合成例5)と略称する。
BPDA:無水ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、
BTDA:無水ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、
ODPA:無水4,4’−オキシジフタル酸
DSDA:無水ビフェニルスルホン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、
BAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、
BABP:4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、
BAPS:ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、
TPE−R:1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、
APB:1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン
【0032】
(B、ポリイミド樹脂ワニスの調製)
上記の各合成例の反応により得たポリイミド樹脂粉末をそれぞれ15g取り150mlのフラスコ内に入れて、NMP85gを加え、攪拌し溶解させることにより、固形物15%のポリイミド樹脂ワニスを調製した。
【0033】
(C、ナノ充填剤の調整)
デグサ(株)製品のナノ酸化ケイ素(Nano SiO2)(平均粒径:200nm)2gをNMP30gに加え、高速ホモゲナイザーを用い4000rpmの回転速度により分散して、2.5%の層状酸化ケイ素を含む溶液を得る。
【0034】
(D、熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物の調製)
下記表2に示す組成物を用いて熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物を調製した。ここで%は重量%を示す。先ず、室温下でAroCyB−10(2,2−ジ(4−イソシアナトフェニル)プロパン)0.6gとNMP5グラムとを10分間攪拌し、次に、上記(a)項で調製した固形分15%を含むポリイミド樹脂ワニス中に加え、1時間攪拌し、その後、別途N,N’−4,4’−ジフェニルメタン−ビスマレインイミド(BMI)2.4gをNMP15gに溶かした後、上記の混合物中に添加し、続いて前記(b)項で製備した充填剤分散液32gを添加して、最終組成物を得る。その固形分は12.9%であり、粘度は2300cpを示す。
【表2】

BMI:N,N’−4,4’−ジフェニルメタン−ビスマレインイミド
シアン酸エステルB−10:2,2−ジ(4−イソシアナトフェニル)プロパン
充填剤:デグサ(株)製品のナノ二酸化ケイ素(Nano SiO2)(平均粒径200nm)
【0035】
(E、フレキシブルプリント回路板の製造)
前記により調製された本発明の熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物を、バーを用い厚さ1/2ミル(mil)のアピカルポリイミドフィルム(カネガフチ(株)製品)上3ミクロンの厚さで均一に塗布し、次に、オーブン中200℃で30分間乾燥して溶剤を除去する。プレートプレス又はローラープレスを用い、320℃の温度と100kgfの圧力下、先に乾燥したポリイミドフィルムと銅箔とを貼り合わせ、その後、窒素ガス雰囲気のオーブン中、280℃で1時間硬化させて、耐熱性とサイズ安定性の優れたフレキシブルプリント回路板を製作する。又、本発明の熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物をポリイミドフィルムの両面に塗布し、両面にそれぞれ銅箔を圧着して、両面プリント回路板を製作することもできる。
【0036】
IPC−TM650 2.2.9により、得られたプリント回路板の剥離強さ(kgf/cm)を測定し、熱比重計を用いてプリント回路板全体の熱膨張係数(CTE)を測定する。α1は組成物のガラス転移温度(Tg)より低い温度で測定した熱膨張係数を示し、α2は組成物のガラス転移温度より高い温度で測定した熱膨張係数を測定し、それぞれppm/℃で示し、耐熱性は340℃、360℃の錫炉中に10分間放置した後、プリント回路板の表面にしわができたか、又は溶解したかを調べ、表面が平坦を保持したものを合格とみなし、IPC−TM650 2.2.4によりサイズ安定性を測定し、処理後の回路板に対する処理前のサイズの変化比率で示した。それらの結果を表3に示す。
【表3】

【0037】
上記資料より本発明のビスマレインイミドとシアン酸エステルを含むものから変性されたポリイミド樹脂組成物を用いて製造したプリント回路板は、加熱過程において、本発明のポリイミド樹脂組成物中、それに含まれるビスマレインイミドとシアン酸エステルとの相互架橋及びそれ自身の架橋反応により、それら組成物を用いて製造したプリント回路板は、比較例におけるビスマレインイミドとシアン酸エステルとを同時に含まないものに比べ、サイズ安定性、CTE共に優れており、熱可塑性ポリイミド樹脂における熱膨張係数が高すぎる問題を解消し、同時に耐熱性を改善し、且つ比較して低い温度下で貼り合わせることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分:(a)ポリイミド樹脂、(b)シアン酸エステル、(c)ビスマレインイミドと、(d)ナノ充填剤からなり、組成物総重量当り、上記成分(a)ポリイミド樹脂重60〜95重量%;(b)シアン酸エステル重0.1〜10重量%;(c)ビスマレインイミド重0.1〜10重量%;(d)ナノ充填剤重1〜40重量%を組成とすることを特徴とする熱硬化性樹脂変性のポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
成分(a)のポリイミド樹脂が下式(I)[化1]のジアミンと:
【化1】

下式II[化2]により示されるジカルボン酸無水物との反応により得られる請求項1記載のポリイミド樹脂組成物:
【化2】

【請求項3】
成分(b)のシアン酸エステルが下式(III)[化3]で示される請求項1記載のポリイミド樹脂組成物:
【化3】

(i)C6−16芳香族炭化水素より誘導される少なくとも2価を示す基;
(ii)複数の芳香環により直接結合、又は架橋原子或いは基により結合される下式(1)[化4]から誘導された有機の基:
【化4】

(iii)ノボラック型フェノール樹脂から誘導される基。
【請求項4】
上記(III)において、R5で示される有機基(ii)がビフェニル、ジフェニルメタン、α,α−ジメチルフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルジメチレンエーテル、ジフェニルスルフィド、ベンゾフェノン、ジフェニルアミン、ジフェニルスルホキシド、ジフェニルスルホン、亜リン酸トリフェニルエステル、又はリン酸トリフェニルエステルの基などから誘導される基である請求項3記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
成分(c)のビスマレインイミドが下式(IV)[化5]で示される化合物である請求項1記載のポリイミド樹脂組成物:
【化5】

(ii)下式(I)[化6]により示される基を示す:
【化6】

【請求項6】
上記C6−16の二価の芳香族基、又は脂環族有機基がフェニレン基、ナフチレン基、キシリレン基、シクロへキシレン基、又はヘキサヒドロキシリレン基である請求項5記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項7】
成分(c)のビスマレインイミドがN,N’−エチレン−ビスマレインイミド、N,N’−ブチレン−ビスマレインイミド、N,N’−フェニレン−ビスマレインイミド、N,N’−ヘキサメチレン−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルメタン−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテル−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルスルホン−ビスマレインイミド、N,N’−4,4’−ジシクロヘキシルメタン−ビスマレインイミド、N,N’−キシリレン−ビスマレインイミド、N,N’−ジフェニルシクロヘキサン−ビスマレインイミドからなる群より選ばれる請求項5記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項8】
成分(d)のナノ充填剤がシラン変性による有機性粉末、又は無機性粉末、或いはその混合物である請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項9】
成分(d)のナノ充填剤が酸化アルミニウム、硅酸アルミニウム、酸化ケイ素酸化アルミニウム、アルカリ金属アルミニウム硅酸塩、ホウ素硅酸塩ガラス、二酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒素ケイ素、ネフェリン、閃長岩、ブッデルウィト、ユージアライト、二酸化ジルコン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化クロム、3MgO.4SiO2.H2O、Al2O3.SiO2.xH2O、水酸化亜酸化鉄(FeOOH)、タルクと炭酸カルシウムからなる群より選ばれる請求項8記載のポリイミド樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−174708(P2008−174708A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132451(P2007−132451)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(506253012)長春人造樹脂廠股▲ふん▼有限公司 (9)
【Fターム(参考)】