説明

熱硬化性樹脂成形体

【課題】 成形品表面にヒケやシワが少なく、金型転写性、に優れ、かつ残留応力すなわち複屈折の少ない成形体を提供すること。
【解決手段】 23℃において液状の熱硬化性樹脂組成物から成形されたゲル分率が35%〜85%の範囲にある熱硬化性樹脂シートを経由して、更に当該シートを二次加工することにより、複屈折が50nm以下となることを特徴とし、熱硬化性樹脂組成物がシリコーン樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、硬化性アクリル樹脂組成物、硬化性ノルボルネン組成物、および硬化性ポリイミド組成物からなる群より選ばれるものであることを特徴とする熱硬化性樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物から得られる熱硬化性樹脂シートを、さらに二次加工させて得られた熱硬化性樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズ、LED照明、光半導体の封止材料、反射板、拡散板、導光板など光学用途として、透明性材料が使用されている。その中でも、近年、特に耐熱性の観点から熱硬化性樹脂組成物が特に注目されている(特許文献1)。
しかし、熱硬化性樹脂組成物は熱可塑性樹脂組成物に比べて成形時の収縮量が非常に大きいため、成形品表面にシワやヒケなどが発生し易く、金型表面を上手く転写しにくいなどの課題があった。
【0003】
これらの課題を解決するために、例えば熱可塑性樹脂組成物の射出成形に用いられる保持圧力などを加える考え方が挙げられるが、熱硬化性樹脂組成物の場合には、樹脂組成物の硬化が進みゲル化が起こり始めると、ゲートシールされるために保持圧力を樹脂組成物全体に十分に加えることができないのが現状である。また、ゲートシールされるまでのタイミングで圧力を高めに設定し、樹脂を過充填させるような手段も挙げられるが、得られた成形体の一部に応力が残るという課題があった。
他方、熱硬化性樹脂組成物は、その粘度が非常に低いので、ゲートやランナーの厚みが薄くても充填し易い利点はあるものの、例えば熱可塑性樹脂組成物の成形などで用いられる一般の金型などを使用すると、パーティングラインの僅かな隙間や、エジェクターピン外周部などの摺動部でさえも、低粘度の樹脂が入ってしまい安定した連続成形ができないのが現状である。
【0004】
上下の金型の対向方向に変形可能な弾性変形部材を備えた圧縮成形用金型(特許文献2)も存在するが、これらは上記の課題を解決するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−292779
【特許文献2】特開2009−083422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、このような状況の下、成形品表面にヒケやシワが少なく、金型転写性、成形安定性に優れ、かつ残留応力の少ない成形体およびその成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、液状である熱硬化性樹脂組成物を用いて、ゲル分率が35%〜85%の範囲にある流動性の無い樹脂シートを作成し、当該シートをさらに二次加工することにより、金型転写性、や複屈折の少ない成形体が得られることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の構成よりなる。
1)液状の熱硬化性樹脂組成物から成形されたゲル分率が35%〜85%の範囲にある熱硬化性樹脂シートを経由して、更に当該シートを二次加工することにより、複屈折が50nm以下となることを特徴とする熱硬化性樹脂成形体。
2) 熱硬化性樹脂組成物がシリコーン樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、硬化性アクリル樹脂組成物、硬化性ノルボルネン組成物、および硬化性ポリイミド組成物からなる群より選ばれるものであることを特徴とする、1)に記載の熱硬化性樹脂成形体。
3)シリコーン樹脂組成物が、下記(A)成分、(B)成分、(C)成分から構成されることを特徴とする1)〜2)記載の熱硬化性樹脂成形体。
A)1分子中にSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個以上有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒
4)(A)成分が、下記一般式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは炭素数1〜50の一価の酸素、窒素、硫黄、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)、および/または、下記一般式(II)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは炭素数1〜50の一価の酸素、窒素、硫黄、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)の構造を有する有機化合物であることを特徴とする、3)に記載の熱硬化性樹脂成形体。
5)(B)成分が、下記一般式(I)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Rは炭素数1〜50の一価の有機基であって、酸素、窒素、硫黄、またはハロゲン原子で置換されていてもよい。それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)の構造を有する化合物を含有することを特徴とする、3)記載の熱硬化性樹脂成形体。
6)熱硬化性樹脂シートのDSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である1)に記載の熱硬化性樹脂成形体。
7)光学部品であることを特徴とする1)〜6)いずれか記載の熱硬化性樹脂成形体。
8)レンズおよび/またはレンズアレイであることを特徴とする1)〜7)いずれか記載の熱硬化性樹脂成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物を使用して、金型転写性、成形安定性に優れ、かつ複屈折が小さい耐熱性に優れたプラスチック製光学部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例で用いた金型 本発明の実施例に用いた金型について説明する。図1に示すとおり、凸金型、凹金型の2対よりなる簡易金型である。両金型ともに材質は任意であるが、本金型においては、HRC硬度が58の鋼材で作られている。凸金型と凹金型のクリアランス(摺動部の隙間)は、約5μmである。凸金型を凹金型にはめ込んだ場合、内部は直径約30mm、高さ約1.5mmの円柱状の空間が存在するようにできている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本発明の熱硬化性樹脂成形体は、液状である熱硬化性樹脂組成物から熱硬化性樹脂シートを作成し、さらに当該熱硬化性樹脂シートを二次加工することにより得られるものである。まず、本発明にある熱硬化性樹脂シートは、23℃において液状の熱硬化性樹脂組成物から成形され、23℃において固体状である熱硬化性樹脂シートを示すものである。本発明の熱硬化性樹脂シートのゲル分率は、23±5℃にてトルエン中に24時間浸漬後のゲル分率で定義している。測定方法として、23±5℃の条件下において、約1gのサンプルをステンレス製の金網に包み、トルエンに24時間浸漬した後、金網に残った物の100℃×5時間の条件で乾燥させた際の、試験前後のサンプル重量を測定し、ゲル分率を算出することができる。
【0019】
具体的には、(ゲル分率)=[(試験後の重量)/(試験前の重量)]×100の計算式にて算出することができる。本発明では、取り扱い易さの観点からは、ゲル分率が35%〜85%の熱硬化性樹脂シートを使用することが好ましく、さらに好ましくは40%〜70%である。ゲル分率が35%未満の場合、熱硬化性樹脂シート表面のタック感(べと付き感、接着性)が強く、埃がつきやすい等の課題やシート強度が弱くなり取扱難くなる傾向があり、一方で85%以上になると、二次加工性などが低下する傾向がある。
【0020】
本発明における熱硬化性樹脂シートは、任意の成形加工方法を用いて作成することができる。例えば、2枚のガラス板の間に任意の厚みのスペーサーを挟みこみ、そのガラス間に樹脂を注ぎ込み、ガラス板の表面同士をクリップで挟んだものを熱風乾燥機などに入れ硬化させて熱硬化性樹脂シートを得る方法、凹型の金型キャビティに樹脂組成物を充填し、上から凸型の金型キャビティを徐々に下げて、凹型と凸型を合わせて、金型に取り付けられたカートリッジヒーターなどで昇温し、樹脂組成物を硬化させて熱硬化性樹脂シートを得る方法、押出機のホッパーや専用供給タンクに樹脂組成物を投入し、T型ダイスより熱硬化性樹脂シートを連続排出して得る方法などが挙げられる。
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂シートの厚みに制限は無いが、厚みが5mm以下であることが好ましく、更に好ましくは3mm以下、特に好ましくは1mm以下であることが、二次加工性が容易な点で好ましい。特に、厚みが1mm以下の熱硬化性樹脂シートを用いることにより、熱可塑性樹脂組成物では困難な薄肉の成形体を得ることも可能となる。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂シートを更に二次加工して、熱硬化性樹脂成形体を得る方法についても、特に限定されず、一般に知られた射出成形、プレス成形、圧縮成形、真空成形、トランスファー成形、押出成形、注型成形などで二次加工させることができる。二次加工方法の例を挙げると、ゲル分率が35%〜85%である熱硬化性樹脂シートを横型射出成形機の金型キャビティ部にインサートし、そのまま金型キャビティを閉じて所定の硬化条件で成形して成形体を得る方法、微細模様が彫りこまれた金属性鋼板が付帯したプレス機に熱硬化性樹脂シートを挟み込みプレスさせることで成形体を得る方法などが挙げられる。
【0023】
尚、本発明でいう二次加工とは、熱硬化性樹脂組成物から熱硬化性樹脂シートを作成する工程を一次加工と位置づけているため、その熱硬化性樹脂シートを更に加工するために二次加工という表現を使っているが、目的とする成形品を得るための加工回数には特に制限は無い。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂成形体を得るために熱硬化性樹脂シートを二次加工させる金型としては、凹型と凸型、凹型と凹型、凸型と凸型、平型と凹型、平型と凸型、平型と平型のいずれかの金型間に熱硬化性樹脂シートを挟みこみ二次加工させることができる。凹型、凸型、平型キャビティの形状は目的の成形品により任意に決めることができ、キャビティの鋼材種や表面粗度についても特に制限は受けない。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂シートから得られる熱硬化性樹脂成形体の複屈折は50nm以下であることが成形体の形状保持や、光学物性の安定性の点で好ましい。測定方法についても特に制限は無く、屈折率系、偏光顕微鏡、位相差・偏光測定装置などが用いられる。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂シートから得られる熱硬化性樹脂成形体のゲル分率は、85%以上であることが好ましい。ゲル分率が85%以上であると、優れた金型転写性を維持した成形体の形状が安定するため好ましい。尚、本発明の熱硬化性樹脂シートから熱硬化性樹脂成形体に至る二次加工の加工回数についてもゲル分率が85%以上であれば特に制限はされない。
【0027】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、特に限定されず、一般に知られるシリコーン樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、硬化性アクリル樹脂組成物、硬化性ノルボルネン組成物、硬化性ポリイミド組成物を用いることができる。
【0028】
本発明でいうシリコーン樹脂組成物とは、樹脂骨格中にシロキサン(−SiOSi−)単位を有するものを示す。例えば、シロキサン単位のみからなるものや、構成元素がC、H、N、O、Sおよびハロゲンからなる有機骨格を含むシロキサン―有機ブロックポリマー、シロキサン―有機グラフトポリマーといったものが含まれる。
【0029】
本発明でいうエポキシ樹脂組成物とは、反応性基としてエポキシ基を有する化合物の群を示す。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ビスフェノールF型エポキシ樹脂:テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテル等の臭素化エポキシ樹脂:ノボラック型エポキシ樹脂:ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂:芳香族カルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応物、芳香族カルボン酸の水素添加物とエピクロルヒドリンとの反応物等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂:N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂:ウレタン変性エポキシ樹脂:水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等の脂環式系エポキシ樹脂:トリグリシジルイソシアヌレート:ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのグリシジルエーテル類:ヒダントイン型エポキシ樹脂:石油樹脂等の不飽和重合体のエポキシ化物などが例示できるが、これらに限定されるものではなく、一般に知られているエポキシ樹脂であれば使用しうる。耐熱変色性の観点からは、前記シロキサン骨格を有する樹脂が好ましい。
【0030】
本発明でいう硬化性アクリル樹脂組成物とは、アクリル骨格を有する樹脂の群を示す。アクリロイル基やメタクリロイル基等の反応性基で硬化する樹脂に限定するものではない。
【0031】
本発明でいう硬化性ノルボルネン組成物とは、ノルボルネン骨格を有し、反応させることにより硬化して成形体を与えるものを示す。一般に、反応射出成形(RIM)により、ジシクロペンタジエン(DCP)やメチルテトラシクロドデセン(MTD)等のノルボルネン系モノマーを、金型内でメタセシス触媒系の存在下に塊状重合することによりノルボルネン系ポリマーを得ることは周知の技術である(特開昭58−129013号、特開昭59−51911号、特開昭61−179214号、特開昭61−293208号等)。一般にこれらの塊状重合においては、メタセシス触媒とノルボルネン系モノマーを含む反応原液と、共触媒とノルボルネン系モノマーを含む反応原液とをそれぞれ調製し、この両反応原液を混合後、メタセシス重合を開始し、未反応モノマーが実質的に残留しない程度まで反応させて、重合を完結させる。本発明において用いるノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環をもつものであればいずれでもよいが、三環体以上の多環ノルボルネン系モノマーを用いると、熱変形温度の高い重合体が得られる。また、生成する開環重合体を熱硬化型とするために、全モノマー中の少なくとも10重量%、好ましくは30重量%以上の架橋性モノマーを使用する必要がある。ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエンやジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、トリシクロペンタジエン等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体、これらのアルキル置換体(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルケニル置換体(例えば、ビニル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体など)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル、ナフチル置換体など)、エステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン原子などの極性基を有する置換体等が例示される。これらのモノマーは、1種以上を組合わせて用いてもよい。なかでも、入手の容易さ、反応性、耐熱性等の見地から、三環体ないし五環体が好ましい。
【0032】
これらの熱硬化性樹脂組成物の中でも、耐熱性、耐候性、あるいは成形体への応力の残りにくさなどから、シリコーン樹脂組成物が好適に用いることができる。また、シリコーン樹脂組成物においては、特に(A)1分子中にSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個以上有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒からなるシロキサン骨格を有する熱硬化性樹脂構成を有するものが好ましい。以下に、各成分について説明する。
【0033】
まず、(A)成分に挙げた1分子中にSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個以上有する化合物であるが、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の結合位置は特に限定されず、化合物内のどこに存在してもよい。
【0034】
化合物としては、C、H、N、O、Sおよびハロゲン原子からなる有機分子やオリゴマー、ポリシロキサン−有機ブロックコポリマーやポリシロキサン−有機グラフトコポリマーのようなシロキサン単位(Si−O−Si)からなるものが好ましい。例えば、飽和炭化水素系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアクリル酸エステル系、ポリカーボネート系、ポリアリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、フェノール−ホルムアルデヒド系(フェノール樹脂系)等の有機重合体骨格や、フェノール系、ビスフェノール系、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系、脂肪族炭化水素系、脂肪族アルコール系、環状炭化水素系等及びこれらの2種以上からなる有機単量体骨格、シリコーン系が挙げられる。ここで、シリコーンとは、(RSiO1/2)p(RSiO2/2)q(RSiO3/2)r(SiO4/2)t(Rはそれぞれ同一または異種の非置換または置換の1価炭化水素基を示し、p、q、r及びtは各シロキサン単位のモル数を示し、p、q、r、tは0または正数であり、p+q+r+t=1である)のように、主鎖がSiO結合の連続のみからなる骨格をいう。
【0035】
分子量についても特に限定はないが、取扱い性の観点から、分子量5万以下のものが好ましい。本特許において、分子量とは、GPCによるスチレン換算の数平均分子量を示す。
【0036】
本発明における、A)1分子中にSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個以上有する化合物の成分の中でも、特に線膨張係数が小さくなることにより、温度変化による変形が抑えられるという観点からは、下記一般式(I)で表されるトリアリルイソシアヌレート及びその誘導体
【0037】
【化4】

【0038】
(式中Rは炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)や、下記一般式(II)で表される
【0039】
【化5】

【0040】
(式中、Rは炭素数1〜50の一価の酸素、窒素、硫黄、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)の構造を有するものが好ましい。
【0041】
また、成分(A)のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合としては特に限定されないが、下記一般式(III)
【0042】
【化6】

【0043】
(式中Rは水素原子あるいはメチル基を表す。)で示される基が反応性の点から好適である。また、原料の入手の容易さからは、上記一般式中のRが水素原子である基が特に好ましい。
【0044】
また、成分(A)のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合としては、下記一般式(IV)で表される部分構造を環内に有する脂環式の基が、硬化物の耐熱性が高いという点から好適である。
【0045】
【化7】

【0046】
(式中Rは水素原子あるいはメチル基を表す。)また、原料の入手の容易さからは、上記一般式(IV)においてRが共に水素原子である部分構造を環内に有する脂環式の基が好適である。
【0047】
SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合は成分(A)の骨格部分に直接結合していてもよく、2価以上の置換基を介して共有結合していても良い。2価以上の置換基としては炭素数0〜10の置換基であれば特に限定されないが、構成元素としてC、H、N、O、S、および、ハロゲンからなる群から選ばれる元素のみを含むものが好ましい。また、これらの2価以上の置換基の2つ以上が共有結合によりつながって1つの2価以上の置換基を構成していてもよい。
【0048】
以上のような骨格部分に共有結合する基の例としては、ビニル基、アリル基、メタリル基、アクリル基、メタクリル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、2−アリルフェニル基、3−アリルフェニル基、4−アリルフェニル基、2−(アリルオキシ)フェニル基、3−(アリルオキシ)フェニル基、4−(アリルオキシ)フェニル基、2−(アリルオキシ)エチル基、2、2−ビス(アリルオキシメチル)ブチル基、3−アリルオキシ−2、2−ビス(アリルオキシメチル)プロピル基、ビニルエーテル基等が挙げられる。
【0049】
成分(A)のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の数は、平均して1分子当たり2〜6個あればよいが、硬化物の力学強度をより向上したい場合には2を越えることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。成分(A)のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の数が1分子中当たり1個以下の場合は、成分(B)と反応してもグラフト構造となるのみで架橋構造とならない。一方、成分(A)のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の数が1分子中当たり6個より多い場合は、硬化性組成物の貯蔵安定性が悪くなる。
【0050】
成分(A)としては、力学的耐熱性が高いという観点および原料液の糸引き性が少なく成形性、取扱い性、塗布性が良好であるという観点からは、分子量が30000未満のものが好ましく、10000未満のものがより好ましく、3000未満のものがさらに好ましい。また成分(A)の分子量は、150以上であることが好ましい。
【0051】
成分(A)は、単独又は2種以上のものを用いることが可能であり、得られる硬化物の柔軟性を調整するために、適宜、炭素−炭素二重結合を1個のみ有する有機化合物を混合しても良い。
【0052】
次に(B)成分である、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する化合物は、SiH基の結合位置は特に限定されず、化合物内のどこに存在してもよい。
化合物としては、(A)成分で記載したような構造のものが利用できる。
【0053】
入手性の観点からは、シリコーン系化合物を使用することが好ましい。
(A)成分に有機系化合物を使用した場合、相溶性や硬化時の揮発性を低減させる観点より、ポリオルガノシロキサン化合物と有機化合物とを一部反応させたもの(変性)が好ましい。変性のための反応は特に限定はされず、付加反応、縮合反応、脱水素反応等が使用できるが、副反応が進行しにくく安定的にSiH基含有化合物が得られやすいという観点より、下記有機化合物(M)とポリオルガノシロキサン化合物(N)とのヒドロシリル化生成物(以下、「変性ポリオルガノシロキサン化合物」と称することがある。)であることが好ましい。
【0054】
以下に、有機化合物(M)について説明する。
【0055】
有機化合物(M)は、1分子中にSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を1個以上有する有機化合物であればよく、上記成分(A)に挙げた化合物も同様に使用することができる。
【0056】
本発明においては、特に成分(A)との相溶性の観点から、下記一般式(I)
【0057】
【化8】

【0058】
(式中Rは水素原子または炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよく、少なくとも1個のRはSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を含む)が好ましい。
また、下記一般式(II)
【0059】
【化9】

【0060】
(式中、Rは炭素数1〜50の一価の酸素、窒素、硫黄、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)で表される有機化合物(M)も使用することができ、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌル酸、モノアリルイソシアヌル酸、ジビニルベンゼン類、ジビニルビフェニル、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、およびそれらのオリゴマーや、ビスフェノールAジアリルエーテルや、ビス〔4−(2−アリルオキシ)フェニル〕スルホン、フェノールノボラック樹脂等の芳香環含有エポキシ樹脂に結合するグリシジル基の一部あるいは全部をアリル基に置換したものが好ましい。中でも、有機化合物(M)は耐熱性をより向上し得るという観点から、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ビスフェノールAジアリルエーテルや、ビス〔4−(2−アリルオキシ)フェニル〕スルホンジアリルエーテルが好ましい。
【0061】
上記した各種有機化合物(M)には単独もしくは2種以上のものを混合して用いることが可能である。
【0062】
次に、ポリオルガノシロキサン化合物(N)について説明する。
【0063】
ポリオルガノシロキサン化合物(N)については1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するポリオルガノポリシロキサン化合物であれば特に限定されず、例えば国際公開WO96/15194に記載される化合物で、1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するもの等が使用でき、耐酸化劣化性の観点から、1分子中に少なくとも3個のSiH基を有する、鎖状、環状、分岐状またはかご型のポリオルガノシロキサン化合物が好適である。
【0064】
上述した一般式(I)や(II)の骨格を有する1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物を得るための反応について説明する。
【0065】
SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個含有する有機系化合物(M)と1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するポリオルガノシロキサン(N)とをヒドロシリル化反応させる場合の混合比率は、1分子中に2個以上SiH基が残る範囲であれば、特に限定されない。
【0066】
得られる硬化物の強度を考えた場合、(M)成分中のSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合のモル数(m)と、(N)成分中のSiH基のモル数(n)との比は、n/m≧2であることが好ましく、n/m≧3であることがより好ましい。
【0067】
ヒドロシリル化させる場合には適当な触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば後述する(C)成分を用いることができる。
【0068】
触媒の添加量は特に限定されないが、十分な硬化性を有し、かつ硬化性組成物のコストを比較的低く抑えるため好ましい添加量の下限は、SiH基を有するポリオルガノシロキサン(N)成分のSiH基1モルに対して10−10モル、より好ましくは10−8モルであり、好ましい添加量の上限はSiH基を有するポリオルガノシロキサン(N)成分のSiH基1モルに対して10−1モル、より好ましくは10−3モルである。
【0069】
また、上記触媒には助触媒を併用することが可能であり、例としてトリフェニルホスフィン等のリン系化合物、ジメチルマレート等の1、2−ジエステル系化合物、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブチン等のアセチレンアルコール系化合物、単体の硫黄等の硫黄系化合物、トリエチルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。助触媒の添加量は特に限定されないが、ヒドロシリル化触媒1モルに対しての好ましい添加量の下限は、10−2モル、より好ましくは10−1モルであり、好ましい添加量の上限は10モル、より好ましくは10モルである。
【0070】
反応温度としては種々設定できるが、好ましい温度範囲の下限は30℃、より好ましくは50℃であり、好ましい温度範囲の上限は200℃、より好ましくは150℃である。反応温度が低いと十分に反応させるための反応時間が長くなる傾向があり、反応温度が高いと工業的に不利な場合がある。反応は一定の温度で行ってもよく、また必要に応じて多段階あるいは連続的に温度を変化させてもよい。反応時間、反応時の圧力も必要に応じ種々設定できる。反応時間については特に限定されない。経済的な面からは、好ましくは20時間以内、さらに好ましくは10時間以内である。
【0071】
圧力も特に限定されないが、特殊な装置が必要になったり、操作が煩雑になったりする、という面から、好ましくは大気圧〜5MPa、さらに好ましくは大気圧〜2MPaである。
【0072】
ヒドロシリル化反応の際に溶媒を使用してもよい。使用できる溶剤はヒドロシリル化反応を阻害しない限り特に限定されるものではなく、具体的に例示すれば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1, 4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、1, 2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒を好適に用いることができる。溶媒は2種類以上の混合溶媒として用いることもできる。溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、クロロホルムが好ましい。使用する溶媒量も適宜設定できる。
【0073】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、反応を均一、かつ、促進させるためには、(M)成分を完全に溶解できる量が好ましい。(M)成分100重量部に対して20重量部以上500重量部以下が好ましく、50重量部以上300重量部以下がより好ましい。
その他、反応性を制御する目的等のために種々の添加剤を用いてもよい。
【0074】
ヒドロシリル化反応後に、溶媒並びに/または未反応のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個含有する有機系化合物(M)と1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するポリオルガノシロキサン(N)を除去することもできる。これらの揮発分を除去することにより、得られる硬化剤が揮発分を有さなくなるため、硬化の場合に揮発分の揮発によるボイド、クラックの問題が生じにくい。除去する方法としては例えば、減圧脱揮の他、活性炭、ケイ酸アルミニウム、シリカゲル等による処理等が挙げられる。減圧脱揮する場合には低温で処理することが好ましい。この場合の好ましい温度の上限は120℃であり、より好ましくは100℃である。高温で処理すると増粘等の変質を伴いやすい。
【0075】
以上のような、硬化剤の例としては、トリアリルイソシアヌレートと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、モノアリルジグリシジルイソシアヌレートと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、ジビニルベンゼンと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、ビスフェノールAジアリルエーテルと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物や、ビス〔4−(2−アリルオキシ)フェニル〕スルホンと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物がより好ましい。
【0076】
本発明では、(B)成分は単独又は2種以上のものを混合して用いることが可能である。
【0077】
次に、成分(C)であるヒドロシリル化触媒について説明する。
【0078】
成分(C)のヒドロシリル化触媒としては、ヒドロシリル化反応の触媒活性があれば特に限定されないが、例えば、白金の単体;アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの;塩化白金酸;塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体;白金−オレフィン錯体(例えば、Pt(CH=CH(PPh、Pt(CH=CHCl);白金−ビニルシロキサン錯体(例えば、Pt(ViMeSiOSiMeVi)、Pt[(MeViSiO));白金−ホスフィン錯体(例えば、Pt(PPh、Pt(PBu);白金−ホスファイト錯体(例えば、Pt[P(OPh)、Pt[P(OBu))(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、a、bは、整数を示す。);ジカルボニルジクロロ白金;カールシュテト(Karstedt)触媒;アシュビー(Ashby)の米国特許第3159601号及び第3159662号明細書中に記載された白金−炭化水素複合体;ラモロー(Lamoreaux)の米国特許第3220972号明細書中に記載された白金アルコラート触媒等が挙げられる。さらに、モディック(Modic)の米国特許第3516946号明細書中に記載された塩化白金−オレフィン複合体も本発明において有用である。
【0079】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh)、RhCl、RhAl、RuCl、IrCl、FeCl、AlCl、PdCl・2HO、NiCl、TiCl等が挙げられる。
【0080】
これらの中では、触媒活性の点から、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体等が好ましい。また、これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0081】
成分(C)の添加量は特に限定されないが、十分な硬化性を有し、かつ硬化性組成物のコストを比較的低く抑えるために好ましい添加量の下限は、成分(A)のSiH基1モルに対して10−8モル、より好ましくは10−6モルであり、好ましい添加量の上限は成分(A)のSiH基1モルに対して10−1モル、より好ましくは10−2モルである。
【0082】
本発明の熱硬化性樹脂組成物から成形される熱硬化性樹脂シートの未反応率は、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により求めることができる。未反応率の求め方としては、まず、全く未反応状態にある熱硬化性樹脂組成物を完全に硬化させた時の発熱量(X)を求める。一方で、本発明の熱硬化性樹脂シートのDSC測定により、この熱硬化性樹脂シートをさらに完全に硬化させる際の発熱量(Y)を求める。(Y)を(X)で除することにより、未反応率が算出される。本発明の熱硬化性樹脂シートの未反応率は30%−70%であるが、好ましくは35%−65%である。未反応率が30%未満では、組成物中の反応が進み過ぎていることにより、金型転写性が低下する傾向があり、70%を越えると、熱硬化性樹脂シート表面のタック感(べと付き感、接着性)が強すぎて、埃が付きやすい等の問題が発生するし、取り扱いが困難となる傾向があるので好ましくない。
【0083】
本発明の熱硬化性樹脂シートは、透明性の観点からは、単一成形体であることが好ましい。単一成形体とは、任意の成形加工方法を用いて、成形用金型や治具に熱硬化性樹脂組成物のみを充填させて得られた成形体を意味するものである。他の樹脂組成物や異種材料との積層体、あるいは繊維系充填剤に熱硬化性液状樹脂組成物を含浸させた成形体を示すものではない。なお、ここでいう熱硬化性液状樹脂組成物には、目的を阻害しない範囲で、通常一般的に用いられる無機充てん材や、カップリング材、老化防止剤など、添加剤を含んでもよい。
【0084】
本発明の熱硬化性樹脂成形体は家電用品、家庭用品、車両部品、光学部品、医療品、通信部材、機能性フィルム、など様々な分野で用いることができるが、特に光学部品として好適に用いることができる。これは、残留応力が小さく、複屈折が小さい成形体を得られるためである。光学部品としては、特にレンズ部品がその優れた特長を発揮することができ、具体的な用途としては、撮影レンズ、ファインダーレンズ、焦点板などのカメラ用レンズ、プロジャクターレンズ、コピー機の読み取りレンズ、FAXの読み取りレンズ、スキャナーの読み取りレンズ、レーザービームプリンターのFθレンズ、投射テレビレンズ、CDやDVDや次世代DVDレコーダーの光ピックアップレンズ、CDやDVDや次世代DVDレコーダーの対物レンズなどのOA機器用レンズ、サングラス、近視用レンズ、遠視用レンズ、老眼用レンズ、ファッションレンズ、水中眼鏡レンズなどのメガネ用途レンズ、ハードレンズ、ソフトレンズなどのコンタクト用途レンズ、LEDなどの封止レンズなどが挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明は以下によって限定されるものではない。
・ゲル分率の算出方法
23±5℃の条件下において、約1gのサンプルをステンレス製の金網に包み、トルエンに24時間浸漬した後、金網に残った物の100℃x5時間の条件で乾燥させた際の、試験前後のサンプル重量を測定し、下記式に従いゲル分率を求めた。
(ゲル分率)=[(試験後の重量)/(試験前の重量)]x100
【0086】
・未反応率の算出方法
未反応であるシリコーン系熱硬化性液状樹脂組成物(23℃における粘度:1.0Pa・s)を示差走査熱量測定:DSC(島津製作所製)を用いて、40℃から250℃までの温度範囲で10℃/minの条件で昇温させ、組成物が硬化するのに必要な発熱量(X)を先に求めた。次に同じシリコーン系熱硬化性液状樹脂組成物から得られた成形材料を、40℃から250℃までの温度範囲で10℃/minの条件で昇温させたときの発熱量(Y)を求め、(X)に対する(Y)の割合を未反応率とした。
【0087】
・金型転写性の評価
図1に示される金型内で硬化させた最終成形品の表面について、金型表面自身に付いている数μmの研磨溝(研磨跡)が最終成体表面に転写されているかを顕微鏡にて確認し、転写されているものは○を、転写されていないものは、×の判定を行った。
【0088】
・複屈折の評価
最終成形品を、王子計測社製KOBRA−CCDを用いて複数回測定し、全面の複屈折を測定した。50nm以上の複屈折が生じているものを×、ないものを〇で評価した。
【0089】
(合成例1)
2Lオートクレーブに1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(分子内SiH数4)650g、トルエン600gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。トリアリルイソシアヌレート(分子内二重結合数3)90g、トルエン110g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として0.03wt%含有)3.5gの混合溶液を10回に分けて分割添加した。滴下終了から6時間加熱撹拌した後、冷却により反応を終了した。
【0090】
トルエン及び未反応の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンを60℃で2時間、80℃で2時間減圧脱揮し、無色透明の液体を得た。1H−NMRによりこのものは1、3、5、7−テトラメチルシクロテトラシロキサンのSiH基の一部とトリアリルイソシアヌレートのアリル基が反応したもの((γ1)と称す。(γ1)は混合物であるが、主成分として1分子中に9個のSiH基を含有する以下の化合物を含有する)であることがわかった。また、1,2−ジブロモエタンを内部標準に用いて1H−NMRによりSiH基の含有量を求めたところ、9.0mmol/g含有していることがわかった。
【0091】
【化10】

【0092】
(実施例1)
トリアリルイソシアヌレート100重量部に対して、合成例1で得られた化合物を145重量部、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)を0.12重量部、1-エチニル−3−シクロヘキサノールを0.12部配合し、熱硬化性樹脂組成物(S1)を調製した。尚、(S1)の23℃における粘度は1.0Pa・sであった。次に、2枚のガラス板に2mm厚みのシリコーンゴムシートをスペーサーとして挟み込んで作製したセルに、熱硬化性液状樹脂(S1)を流し込み熱風循環式オーブンで120℃で20分加熱を行い、熱硬化性樹脂シート(S1−1)を得た。また、得られた熱硬化性樹脂シート(S1−1)は、図1に示す金型内に投入し、上部から約5kgの圧力を加えて成形したものを最終成形品とした。
【0093】
(実施例2)
実施例1同様に、熱硬化性樹脂組成物(S1)を用いて、熱風循環式オーブンで120℃で40分加熱を行い、熱硬化性樹脂シート(S1−2)を得た。シートの硬化条件を変更した以外は実施例1と同様の作業を実施した。
【0094】
(実施例3)
実施例1同様に、熱硬化性樹脂組成物(S1)を用いて、熱風循環式オーブンで120℃で60分加熱を行い、熱硬化性樹脂シート(S1−3)を得た。シートの硬化条件を変更した以外は実施例1と同様の作業を実施した。
【0095】
(比較例1)
実施例1で調整した熱硬化性樹脂組成物(S1)を液状のまま図1記載の金型に流し込み最終成形体品を得た。このとき、凹型と凸型の摺動部から樹脂が漏れ出した。
【0096】
(比較例2)
実施例1同様に、熱硬化性樹脂組成物(S1)を用いて、熱風循環式オーブンで120℃で120分加熱を行い、熱硬化性樹脂シート(S1−4)を得た。シートの硬化条件を変更した以外は実施例1と同様の作業を実施した。
実施例1〜3および、比較例1〜2のゲル分率、未反応率、金型転写性、複屈折の結果を表1に示した。
【0097】
【表1】

【0098】
表1の実施例1〜3に示したように本発明の成形温度において得られた樹脂シートは成形安定性があり、得られた最終成形体も表面の金型転写性、複屈折は良好な傾向を示した。一方で、比較例1のように直接金型キャビティに熱硬化性樹脂組成物を添加したものは、樹脂が漏れ出すために、硬化収縮が大きく金型表面の両面を綺麗に転写できず、所定の寸法の成形体を得ることができない。比較例2は、本発明の範囲にある成形温度で熱硬化性樹脂シートを作成したが、ゲル分率において本発明の範囲外のものを使用したために、金型転写性などが低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の熱硬化性樹脂組成物から成形されたゲル分率が35%〜85%の範囲にある熱硬化性樹脂シートを経由して、更に当該シートを二次加工することにより、複屈折が50nm以下となることを特徴とする熱硬化性樹脂成形体。
【請求項2】
熱硬化性樹脂組成物がシリコーン樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、硬化性アクリル樹脂組成物、硬化性ノルボルネン組成物、および硬化性ポリイミド組成物からなる群より選ばれるものであることを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化性樹脂成形体。
【請求項3】
シリコーン樹脂組成物が、下記(A)成分、(B)成分、(C)成分から構成されることを特徴とする請求項1〜2記載の熱硬化性樹脂成形体。
A)1分子中にSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個以上有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒
【請求項4】
(A)成分が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜50の一価の酸素、窒素、硫黄、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)、および/または、下記一般式(II)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜50の一価の酸素、窒素、硫黄、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい有機基を表し、それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)の構造を有する有機化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の熱硬化性樹脂成形体。
【請求項5】
(B)成分が、下記一般式(I)
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜50の一価の有機基であって、酸素、窒素、硫黄、またはハロゲン原子で置換されていてもよい。それぞれのRは異なっていても同一であってもよい。)の構造を有する化合物を含有することを特徴とする、請求項3記載の熱硬化性樹脂成形体。
【請求項6】
熱硬化性樹脂シートのDSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である請求項1に記載の熱硬化性樹脂成形体。

【請求項7】
光学部品であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の熱硬化性樹脂成形体。
【請求項8】
レンズおよび/またはレンズアレイであることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の熱硬化性樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102262(P2012−102262A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252978(P2010−252978)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】