説明

熱硬化性樹脂用硬化剤およびその組成物

【課題】 高屈折率、低誘電率、感光性などの特性を熱硬化性樹脂(又はその硬化物)に付与できるとともに、熱硬化性樹脂の硬化性を向上又は促進できるポリシランを提供する。
【解決手段】 ポリシランに、鉄、亜鉛などの金属(a)を含有させる。このような金属を含むポリシランにおいて、金属(a)の割合は、重量換算で、ポリシラン全体に対して1000ppm以上である。また、前記ポリシランは、分岐状構造単位を有するポリシランであってもよい。このような分岐状構造を有するポリシランは、金属を取り込みやすく、効率よくポリシランに金属(a)を含有させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率、低誘電率、感光性などの特性を熱硬化性樹脂に付与できるとともに、熱硬化性樹脂の硬化性(熱硬化性)を向上又は促進できる化合物(硬化剤)、この化合物を含む熱硬化性樹脂組成物、およびこの樹脂組成物が硬化した硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシランは、導電性材料、フォトレジスト、光重合開始剤などに利用され、高屈折率、低誘電率などの特異な物性を有するケイ素含有ポリマーであり、セラミックス前駆体、光電子材料(例えば、フォトレジスト、有機感光体などの光電子写真材料、光導波路などの光伝送材料、光メモリなどの光記録材料、エレクトロルミネッセンス素子用材料など)などとして注目されている。このような材料において、ポリシランは、通常、薄膜の形態で使用される。しかし、主鎖がケイ素のみからなるポリシランの薄膜は、硬くてもろく、機械的強度が低いので、クラックなどの欠陥を生じやすい。また、各種プロセスに使用する溶媒に対する耐久性(耐溶媒性)も不足している場合がある。
【0003】
そして、このようなポリシランと熱硬化性樹脂とを組み合わせることにより、両成分の特性を有する優れた材料を得る試みもなされている。例えば、特開2000−265064号公報(特許文献1)には、水酸基を有するポリシラン化合物とエポキシ化合物とを含有する樹脂組成物が開示されている。この文献には、ポリシラン化合物中の水酸基とエポキシ化合物中のエポキシ基とが加熱処理により反応することで架橋構造を形成し、ポリシラン化合物は、エポキシ化合物の耐薬品性や耐熱性を向上できるとともに、エポキシ化合物に低誘電率などの物性を付与できることが記載されている。前記樹脂組成物の硬化物又は成形体は層間絶縁膜に利用できる。
【0004】
なお、ポリシランの代表的な合成方法として、例えば、WO98/29476号公報(特許文献2)には、非プロトン性溶媒中、リチウム塩及び金属ハロゲン化物の存在下で、ジハロシランにマグネシウム又はマグネシウム合金を作用させることにより、ポリシランを得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−265064号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】WO98/29476号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、ポリシランの特性(高屈折率、低誘電率、感光性など)を熱硬化性樹脂(又はその硬化物)に付与できるとともに、熱硬化性樹脂の硬化性を向上又は促進できるポリシラン、このポリシランを含む熱硬化性樹脂組成物、およびこの樹脂組成物が硬化した硬化物を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、熱硬化性樹脂の硬化物の耐溶媒性を向上できるポリシラン、このポリシランを含む熱硬化性樹脂組成物、およびこの樹脂組成物が硬化した硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、汎用のポリシランの存在下で、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を硬化させた場合、硬化物において、機械的強度、耐摩耗性などの特性は、ポリシラン単独の場合よりも向上するが、耐溶媒性などの特性が逆に低下する場合が多いことを見出した。そして、このような硬化物において、耐溶媒性などの特性を改善又は向上するため、熱硬化性樹脂の含有量を増大させたり、他の成分を添加すると、相対的に硬化物中のポリシランの含量が減少し、ポリシランの物性を十分に付与できなかったり、薄膜の平滑性を失うなどの問題があることを見出した。
【0008】
本発明者らは、これらの知見に基づいて、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、重合触媒として金属触媒を用いるなどの方法により、ポリシラン構造中に金属成分が取り込まれること、このポリシランは、金属成分を含んでいるため、熱硬化性樹脂の硬化性を向上する硬化剤としての作用を有しており、このような金属成分を含むポリシランと熱硬化性樹脂とを組み合わせると、熱硬化性樹脂にポリシランの優れた特性を付与できるだけでなく、熱硬化性樹脂の硬化性を著しく促進又は向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のポリシランは、熱硬化性樹脂の硬化性を向上させるためのポリシランであって、重量換算で、ポリシラン全体に対して100ppm以上の金属(a)を含む。このような本発明のポリシランにおいて、金属(a)の含有量は、例えば、重量換算で、ポリシラン全体に対して500ppm以上であってもよい。
【0010】
前記金属(a)は、周期表第3〜14族金属から選択された少なくとも1種であってもよく、特に、鉄、亜鉛、アルミニウムおよび鉛から選択された少なくとも1種であってもよい。このような金属は、特に、ポリシランの構造中に取り込まれやすいようである。
【0011】
前記ポリシランは、下記式(2)で表される構造単位、および下記式(3)で表される構造単位から選択された少なくとも1種の分岐状構造単位を有するポリシランであってもよい
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rは、水素原子、有機基又はシリル基を示し、s及びtはそれぞれ1以上の整数である。)
前記分岐状構造を有するポリシランにおいて、分岐状構造単位の割合は、ポリシランを構成するケイ素原子換算(モル換算)で、10モル%以上であってもよい。
【0014】
代表的な本発明のポリシランには、重量換算で、ポリシラン全体に対して500ppm以上の金属(a)を含み、かつ少なくとも前記式(2)で表される構造単位で構成された分岐状構造単位を、ポリシランを構成するケイ素原子換算(モル換算)で30モル%以上有するポリシランなどが含まれる。
【0015】
本発明のポリシランは、前記のように熱硬化性樹脂と組み合わせて用いる硬化剤として有用である。そのため、本発明には、前記ポリシランと、熱硬化性樹脂とで構成された組成物(熱硬化性樹脂組成物)も含まれる。前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂)であってもよい。特に、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂を使用すると、高い耐熱性や高い屈折率を付与できる。本発明には、さらに、前記組成物が硬化した硬化物も含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリシランは、金属を含むことにより、ポリシランの特性(高屈折率、低誘電率、感光性など)を熱硬化性樹脂(又はその硬化物)に付与できるとともに、熱硬化性樹脂の硬化性を向上又は促進できる。そして、このような本発明のポリシランは、熱硬化性樹脂の硬化剤として作用するため、通常のポリシラン(金属を含まないポリシランなど)に比べて、熱硬化性樹脂の硬化物の特性(機械的強度、耐磨耗性、耐溶媒性など、特に、耐溶媒性)を向上できる。このような本発明のポリシランは、慣用のポリシランの合成方法を利用して、特殊な装置を用いることなく、簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリシランは、金属(a)を含む。そして、このような本発明のポリシランは、熱硬化性樹脂の熱硬化性を向上させるためのポリシラン(硬化剤)として使用できる。
【0018】
[金属(a)を含むポリシラン]
(金属(a))
本発明の金属(a)を含むポリシランにおいて、金属(a)の割合は、金属(a)の重量換算(又は金属(a)を構成する原子の重量換算)で、ポリシラン全体に対して、100ppm以上(例えば、300〜100000ppm程度)の範囲から選択でき、例えば、500ppm以上(例えば、500〜50000ppm程度)、好ましくは1000ppm以上(例えば、1000〜40000ppm程度)、さらに好ましくは1500ppm以上(例えば、1500〜30000ppm程度)、特に3000ppm以上(例えば、3000〜20000ppm程度)であってもよい。
【0019】
金属(a)を含むポリシランにおいて、金属(a)としては、特に限定されず、種々の金属原子(又は金属イオン)、例えば、アルカリ又はアルカリ土類金属(例えば、ナトリウム、マグネシウムなど)、遷移金属(例えば、サマリウム、スカンジウムなどの周期表第3族金属;チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの周期表第4族金属;バナジウム、ニオブなどの周期表第5族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6族金属;マンガンなどの周期表第7族金属;鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金などの周期表第8〜10族金属;銅、銀、金などの周期表第11族金属など)、周期表第12族金属(例えば、亜鉛、カドミウム、水銀など)、周期表第13族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表第14族金属(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛など)、周期表15族金属(例えば、アンチモン、ビスマスなど)などが挙げられる。金属(a)は、単独又は2種以上組み合わせてポリシランに含まれていてもよい。
【0020】
これらの金属(a)のうち、周期表第3〜14族金属[例えば、周期表第4族金属(特に、チタン)、周期表第8〜10族金属(特に、鉄、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウム)、周期表第12族金属(特に、亜鉛)、周期表第13族金属(特に、アルミニウム)、および周期表第14族金属(特に、鉛、スズなど)から選択された1種、特に鉄、亜鉛、アルミニウムおよび鉛から選択された少なくとも1種]は、ポリシランに取り込まれやすく、熱硬化性樹脂の硬化性を高める能力が高く好ましい。特に、これらの金属(a)のうち、周期表第8属金属(特に鉄)、周期表第12族金属(亜鉛など)などの金属は、後述のハロシラン類の重合触媒を構成する金属などとして有効であり、しかも、ポリシランに取り込まれやすく好適である。
【0021】
金属(a)の含有形態は、特に限定されず、例えば、ポリシランのポリマー構造に金属化合物などの形態で取り込まれていてもよく、ポリシランの構成原子(例えば、ケイ素原子など)に対する配位などによりポリシランに結合していてもよい。また、金属(a)は、例えば、金属イオン、金属(a)を含む金属化合物(又は金属(a)に対応する金属化合物、例えば、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩などの金属と無機酸との塩、金属錯体など)などのいずれの形態でポリシランに含まれていてもよいが、経時変化(不安定性)、腐食性などの観点から、ポリシラン構造に結合しているのが好ましい。
【0022】
なお、金属(a)は、いかなる経緯でポリシランに含有させても(又は取り込ませても)よいが、通常、後述するように、ポリシランを合成する過程においてポリシランに含有させることができる。このような金属(a)としては、例えば、(i)金属化合物の存在下で、ポリシラン類の原料(例えば、ハロシラン類)を重合させることによりポリシランに取り込まれる金属化合物由来の金属、(ii)ポリシラン類の原料(ハロシラン類など)に含まれる金属などが挙げられる。上記(i)において、金属化合物は、ポリシランの重合に関与しない金属化合物であってもよく、ポリシラン類の原料(例えば、ハロシラン類)を重合させるための重合触媒(又は金属触媒、例えば、後述のマグネシウム成分及び/又は金属ハロゲン化物)であってもよい。
【0023】
通常、ポリシランに含まれる金属(a)の大部分が、上記態様(i)である場合が多く、特に、ポリシラン類の原料(例えば、ハロシラン類)を重合させることによりポリシランに取り込まれる重合触媒由来の金属成分であってもよい。重合触媒由来の金属は、ポリシラン中に取り込まれると、慣用の精製方法(例えば、有機溶媒、水などによる洗浄など)では、ポリシランから除去されにくい(又は脱離しにくい)ようである。
【0024】
なお、金属(a)がポリシランに取り込まれる理由は定かではないが、Si−O−MもしくはSi−M(Mは金属)の形態でポリシランに結合しているものと考えられる。特に、ポリシランの合成において用いられる金属触媒由来の金属(a)(特に、鉄、亜鉛など)は、重合に関与するためか、ポリシランに対する親和性(又は残留性)が高いようである。
【0025】
(ポリシラン)
金属(a)を含むポリシランにおいて、ポリシランとしては、Si−Si結合を有する直鎖状、環状、分岐状、又は網目状の化合物であれば特に限定されないが、通常、前記ポリシランは、下記式(1)〜(3)で表された構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有するポリシランで構成されている場合が多い。
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、R〜Rは、同一又は相異なって、水素原子、有機基又はシリル基を示し、r、s及びtはそれぞれ1以上の整数を示す。)
前記式(1)及び(2)において、R〜Rで表される有機基としては、炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヒドロキシル基、置換されていてもよいアミノ基[例えば、アミノ基(−NH)、置換アミノ基(前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基などで置換されたN−モノ又はN,N−ジ置換アミノ基など)など]などが挙げられる。なお、これらの置換基は、さらに1又は複数の他の置換基で置換されていてもよい。
【0028】
前記式(1)及び(2)のR〜Rにおいて、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどのC1−10アルキル基、(好ましくはC1−6アルキル基、さらに好ましくはC1−4アルキル基)が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシなどのC1−10アルコキシ基(好ましくはC1−6アルコキシ基、さらに好ましくはC1−4アルコキシ基)が挙げられる。アルケニル基としては、ビニルなどのC2−14アルケニル基(好ましくはC2−10アルケニル基、さらに好ましくはC2−6アルケニル基)が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC5−10シクロアルキル基(好ましくはC5−8シクロアルキル基)などが挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、シクロヘキシルオキシなどのC5−10シクロアルキルオキシ基(好ましくはC5−8シクロアルキルオキシ基)などが挙げられる。シクロアルケニル基としては、シクロヘキセニルなどのC5−10シクロアルケニル基(好ましくはC5−8シクロアルケニル基)などが挙げられる。
【0029】
アリール基としては、フェニル、ナフチルなどのC6−20アリール基(好ましくはC6−14アリール基、さらに好ましくはC6−10アリール基);トリル、ジメチルフェニル(キシリル)、エチルフェニル、メチルナフチル基などのC1−6アルキルC6−10アリール基(好ましくはモノ乃至トリC1−4アルキルC6−10アリール基、さらに好ましくはモノ又はジC1−4アルキルフェニル基など);メトキシフェニル、エトキシフェニル、メトキシナフチル基などのC1−10アルコキシC6−10アリール基(好ましくはC1−6アルコキシC6−10アリール基、さらに好ましくはC1−4アルコキシフェニル基など)などが挙げられる。アリールオキシ基としては、フェノキシなどのC6−10アリールオキシ基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジルなどのC6−20アリール−C1−4アルキル基(好ましくはC6−10アリール−C1−2アルキル基)などが挙げられる。アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシなどのC6−20アリール−C1−4アルキルオキシ基(好ましくはC6−10アリール−C1−2アルキルオキシ基)などが挙げられる。
【0030】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基などのSi1−10シラニル基(好ましくはSi1−6シラニル基)、置換シリル基(例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基などで置換された置換シリル基)などが挙げられる。
【0031】
通常、基R〜Rは、炭化水素基(置換基を有していてもよい炭化水素基)又は炭化水素基に対応するエーテル基(置換基を有していてもよい炭化水素基が結合又は置換したエーテル基)であってもよい。好ましい基Rには、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などの炭化水素基が含まれ、特にアルキル基(例えば、メチル基などのC1−4アルキル基など)又はアリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)が好ましい。なお、置換基R〜Rは、r、s、又はtによって同一又は異なっていてもよい。
【0032】
ポリシランが非環状構造(直鎖状、分岐鎖状、網目状)の場合、末端基(末端置換基)は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(塩素原子など)、アルキル基、アルコキシ基、シリル基などであってもよい。特に、ポリシランの末端は、ヒドロキシル基以外の基(例えば、ハロゲン原子、アルキル基など)などであってもよい。なお、ヒドロキシル基を少なくすると、経時安定性を向上できる。
【0033】
具体的なポリシランとしては、例えば、前記式(1)で表される構造単位を有する直鎖状又は環状ポリシラン、前記式(2)又は(3)で表される構造単位を有する分岐状ポリシラン(又は網目状ポリシラン)、前記式(1)〜(3)で表される構造単位を組み合わせて有する分岐状ポリシランなどが挙げられる。また、ポリシランがコポリマーである場合、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーのいずれであってもよい。さらに、前記ポリシランは、前記式(1)〜(3)で表される構造単位のそれぞれを単独で又は2種以上組み合わせて有するポリシランであってもよい。
【0034】
なお、前記式(2)で表される構造単位および前記式(3)で表される構造単位から選択された少なくとも1つの分岐状構造単位を有する分岐状構造を有するポリシラン(分岐状ポリシラン)は、前記式(1)で表される構造単位を有する直鎖状又は環状ポリシランなどに比べて、分岐状構造を有しているためか、金属(a)を取り込みやすく、好適に使用できる。
【0035】
分岐状ポリシランにおいて、前記分岐状構造単位の割合は、ポリシランを構成するケイ素原子換算(モル換算)で、例えば、ポリシラン全体の1モル%以上(例えば、5〜100モル%)、好ましくは10モル%以上(例えば、20〜100モル%程度)、さらに好ましくは30モル%以上(例えば、35〜95モル%程度)、特に40モル%以上(例えば、50〜90モル%程度)であってもよい。
【0036】
代表的なポリシランとしては、例えば、ポリジアルキルシラン[例えば、ポリジメチルシラン、ジメチルシラン−メチルへキシルシラン共重合体などのポリジC1−6アルキルシラン、好ましくはポリジC1−4アルキルシラン]、ポリアルキルアリールシラン[例えば、ポリメチルフェニルシラン、メチルフェニルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体などのポリC1−6アルキルC6−10アリールシラン、好ましくはポリC1−4アルキルC6−8アリールシラン]、ポリジアリールシラン(例えば、ポリジフェニルシランなどのポリジC6−15アリールシラン、好ましくはポリジC6−10アリールシラン)、ジアルキルシラン−アルキルアリールシラン共重合体(例えば、ジメチルシラン−メチルフェニルシラン共重合体などのジC1−6アルキルシラン−C1−4アルキルC6−10アリールシラン共重合体)などの前記式(1)で表される構造単位を有するポリシラン;ポリアリールシラン[例えば、ポリフェニルシラン(ポリフェニルシリン)などのポリC6−10アリールシラン、好ましくはポリC6−8アリールシラン]などの前記式(2)で表される構造単位又は前記式(3)で表される構造単位を有する分岐状ポリシラン;ジアルキルシラン−アリールシラン共重合体(例えば、ジメチルシラン−フェニルシラン共重合体などのジC1−6アルキルシラン−C6−10アリールシラン共重合体、好ましくはジC1−6アルキルシラン−C6−8アリールシラン共重合体)、アルキルアリールシラン−アリールシラン共重合体(例えば、メチルフェニルシラン−フェニルシラン共重合体などのC1−6アルキルC6−10アリールシラン−C6−10アリールシラン共重合体、好ましくはC1−4アルキルC6−8アリールシラン−C6−8アリールシラン共重合体)などの前記式(1)で表される構造単位と前記式(2)で表される構造単位又は前記式(3)で表される構造単位を有する分岐状ポリシランなどが挙げられる。このようなポリシランの詳細は、例えば、R.D.Miller、J.Michl;Chemical Review、第89巻、1359頁(1989)、N.Matsumoto;Japanese Journal of Physics、第37巻、5425頁(1998)などに例示されている。また、ポリシランは、ポリシラン原料(ハロシラン類など)とビニル化合物とのコポリマーであってもよい。このような共重合体の詳細は、例えば、特開2002−128897号公報に開示されている。
【0037】
これらのポリシランは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
ポリシランの数平均重合度(又は、構造単位(1)〜(3)におけるr、sおよびtの合計)は、2以上であればよく、例えば、5〜400、好ましくは10〜350、さらに好ましくは20〜300程度であってもよい。
【0039】
ポリシランの分子量は、重量平均分子量で200〜100000、好ましくは300〜50000、さらに好ましくは400〜30000程度であってもよい。なお、ポリシランが環状である場合、環状ポリシランの環の員数は、通常、4〜12程度であってもよく、好ましくは4〜10、さらに好ましくは5〜10(特に5〜8)程度であってもよい。
【0040】
なお、本発明のポリシランは、構造に応じて、汎用の溶媒(例えば、トルエンなどの炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソールなどのエーテル類などの有機溶媒)に対する溶解性を有しており、取扱性に優れている。
【0041】
[金属(a)を含むポリシランの製造方法]
本発明の金属含有ポリシランは、前記のように、ポリシランに金属を含有させることができる限り、製造方法において特に限定されないが、通常、金属(a)又は金属(a)を含む金属化合物(又は金属(a)に対応する金属化合物)の存在下で、ポリシランの原料(例えば、ハロシラン類)を重合させることにより、効率よくポリシラン(又はポリシラン構造)に金属(a)を含有させる(取り込ませる)ことができる。すなわち、本発明の金属(a)を含むポリシランは、単にポリシランと金属(a)又は金属(a)に対応する金属化合物とを混合(物理混合)して得られる組成物のようなものではない場合が多い。
【0042】
ポリシランの代表的な合成方法(重合方法)としては、金属ナトリウムなどのアルカリ金属を用いてトルエン溶媒中のジアルキルジハロシランあるいはジハロテトラアルキルジシランを100℃以上の温度で強力に撹拌し、還元的にカップリングさせる方法[J.Am.Chem.Soc.,103(1981)7352]が知られている。しかし、この方法は、空気中で発火するアルカリ金属を加熱し、強力に攪拌・分散させる必要があるため、工業的規模での生産における安全性が懸念され、また、得られるポリシランの分子量分布が多峰性となり品質的にも十分でない場合が多い。
【0043】
ポリシランの製造方法として、他にも(a)ビフェニルなどでマスクしたジシレンをアニオン重合させる方法(特開平1−23063号公報)、(b)環状シラン類を開環重合させる方法(特開平5−170913号公報)、(c)ヒドロシラン類を遷移金属錯体触媒により脱水素縮重合させる方法(特公平7−17753号公報)、(d)ジハロシラン類を室温以下の温度で電極還元してポリシランを製造する方法(特開平7−309953号公報)、(e)マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(いわゆる「マグネシウム還元法」、例えば、WO98/29476号公報、特開2003−277507号公報、特開2005−36139号公報に記載の方法など)が挙げられる。
【0044】
特に、マグネシウム還元法では、(1)汎用の化学合成装置により安定で安価な原料を用いて合成でき、安全性、コスト面で優位性がある、(2)ナトリウムや有機溶媒への不溶物等、光・電子材料などの用途として不適当な不純物が混入しない、(3)分子量のばらつきが少なく、有機溶媒に対する溶解性や透明性の高いポリシランが得られる、(4)ポリシランが高収率で得られるなどの優れた特徴を有する。
【0045】
そのため、ポリシランは、マグネシウム還元法により得られるポリシランを好適に使用してもよい。このようなマグネシウム還元法では、少なくともマグネシウム金属成分の存在下で、ハロシラン類を重合させることによりポリシランを合成できる。
【0046】
本発明の金属含有ポリシランは、このような上記種々のポリシランの合成方法において、金属(a)又は金属(a)に対応する金属化合物を存在させることにより得ることができる。特に、前記マグネシウム還元法では、より効率よく高性能のポリシランを得るため、触媒として、マグネシウム金属成分と他の金属成分[例えば、リチウム化合物、金属ハロゲン化物(リチウム化合物(リチウムハロゲン化物、ハロゲン化リチウム)ではない金属ハロゲン化物)]とを使用する場合が多い。そして、このような触媒は、金属で構成されており、ポリシランに効率よく残留して金属(a)として作用する。
【0047】
以下に、マグネシウム還元法について詳述する。
【0048】
マグネシウム還元法では、少なくともマグネシウム金属成分の存在下、ハロシラン類(ハロシラン化合物)を反応させることによりポリシランを得る。
【0049】
ハロシラン類としては、ジハロシラン類、トリハロシラン類、テトラハロシラン類などが挙げられる。ポリシランが前記式(1)〜(3)で表される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有するポリシランである場合には、これらのジ乃至テトラハロシラン類は、それぞれ、下記式で表されるハロシランのうち少なくとも1つのハロシラン(ジ乃至テトラハロシラン類)で構成してもよい。
【0050】
【化3】

【0051】
(式中、X〜Xはハロゲン原子、R〜R、r、s及びtは前記と同じ。)
上記式(1A)〜(3A)において、X〜Xで表されるハロゲン原子は、前記と同様であり、塩素原子および臭素原子(特に塩素原子)が好ましく、同一又は異なるハロゲン原子であってもよい。また、上記式(1A)〜(3A)において、r、s及びtは、それぞれ、前記と同様に1以上であればよく、単量体(r=s=t=1)であってもよく、多量体(r、sおよびtが2以上)であってもよい。例えば、式(1A)で表されるジハロシランにおいて、rは、1〜1000、好ましくは1〜500、さらに好ましくは1〜100(例えば、1〜10)程度であってもよい。rが大きい多量体を用いると、ブロックコポリマーを得やすく、単量体又はrが小さい多量体を用いるとランダムコポリマーを得やすい。コポリマーの製造効率の点からは、単量体又はrが小さい多量体(例えば、rが1〜2程度のハロシラン)を好適に用いてもよい。なお、トリハロシラン類およびテトラハロシラン類は、通常、単量体(s=t=1)で使用する場合が多い。
【0052】
代表的なハロシランとしては、例えば、ジハロシラン類[例えば、ジアルキルジハロシラン(例えば、ジメチルジクロロシランなどのジC1−4アルキルジハロシラン及びその多量体)、アルキル−アリールジハロシラン(例えば、メチルフェニルジクロロシランなどのC1−4アルキル−C6−10アリールジハロシラン及びその多量体)、アルキル−シクロアルキルジハロシラン(例えば、メチルシクロヘキシルジクロロシランなどのC1−4アルキル−C5−10シクロアルキルジハロシラン及びその多量体)、ジアリールジハロシラン(例えば、ジフェニルジハロシラン、ジトリルジハロシラン、ジキシリルジハロシラン、フェニルトリルジハロシラン、ジメトキシフェニルジハロシランなどのジC6−10アリールジハロシラン及びその多量体など)などの式(1A)で表されるジハロシラン類など]、トリハロシラン類[例えば、アルキルトリハロシラン(例えば、メチルトリクロロシランなどのC1−4アルキルトリハロシラン)、シクロアルキルトリハロシラン(例えば、シクロヘキシルトリクロロシランなどのC5−10シクロアルキルトリハロシラン及びその多量体)、アリールトリハロシラン(例えば、フェニルトリクロロシランなどのC6−10アリールトリハロシラン及びその多量体)などの式(2A)で表されるトリハロシラン類]、テトラハロシラン類(例えば、テトラクロロシランなどのテトラハロシランなどの式(3A)で表されるテトラハロシラン類)などが例示できる。これらのハロシランは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0053】
なお、前記分岐状ポリシランは、トリハロシラン類(又は前記式(2A)で表されるトリハロシラン類)及びテトラハロシラン類(又は前記式(3A)で表されるテトラハロシラン類)から選択された少なくとも1種で構成されたハロシラン類を重合させることにより得られる。
【0054】
また、前記ハロシラン類は、ポリシランの末端を封鎖するため、必要に応じて、さらにモノハロシラン類[例えば、トリアルキルハロシラン(例えば、トリメチルクロロシランなどのトリC1−4アルキルハロシラン)、トリアリールハロシラン(例えば、トリフェニルクロロシランなどのトリC6−10アリールハロシラン)など]で構成してもよい。
【0055】
なお、ハロシラン類は、できるだけ高純度であるのが好ましい。例えば、液体のハロシラン類については、水素化カルシウムなどの乾燥剤を用いて乾燥し、蒸留して使用するのが好ましく、固体のハロシラン類については、再結晶法などにより、精製して使用するのが好ましい。
【0056】
(マグネシウム金属成分)
前記ハロシラン類の反応は、マグネシウム金属成分の存在下で好適に行うことができ、マグネシウム金属成分を作用させることにより、ポリシランを効率よく生成できる。
【0057】
マグネシウム金属成分は、少なくともマグネシウムが含まれていればよく、マグネシウム金属単体又はマグネシウム系合金、あるいは前記マグネシウム金属又は合金を含む混合物などであってもよい。マグネシウム合金の種類は特に制限されず、慣用のマグネシウム合金、例えば、アルミニウム、亜鉛、希土類元素(スカンジウム、イットリウムなど)などの成分を含むマグネシウム合金が例示できる。これらのマグネシウム金属成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0058】
マグネシウム金属成分の形状は、ハロシラン化合物の反応を損なわない限り特に限定されないが、粉粒状(粉体、粒状体など)、リボン状体、切削片状体、塊状体、棒状体、板状体(平板状など)などが例示され、特に表面積の大きい形状(粉体、粒状体、リボン状体、切削片状体など)であるのが好ましい。マグネシウム金属成分が粉粒状の場合、平均粒径は、1〜10000μm、好ましくは10〜5000μm、さらに好ましくは20〜1000μm程度である。
【0059】
なお、マグネシウム金属成分の保存状況などによっては、金属表面に被膜(酸化被膜など)が形成されることがある。この被膜は反応に悪影響を及ぼすことがあるので、必要に応じて、切削などの適当な方法によって除去してもよい。
【0060】
マグネシウム金属成分の使用量は、通常、ハロシラン類のハロゲン原子に対して、マグネシウム換算で、1〜10当量であり、好ましくは1.1〜5当量、さらに好ましくは1.2〜3当量程度である。また、マグネシウム金属成分の使用量は、通常、ハロシラン化合物に対してモル数でマグネシウムとして1〜20倍であり、好ましくは1.1〜14倍であり、より好ましくは1.2〜10倍(例えば、1.2〜5倍)程度である。
【0061】
マグネシウム金属成分は、前記ハロシラン類を還元して、ポリシランを形成させるとともに、マグネシウム自身は酸化されてハロゲン化物を形成する。
【0062】
反応は、少なくとも前記マグネシウム金属成分の存在下で行ってもよく、ハロシランの重合を促進するため、リチウム化合物及び金属ハロゲン化物から選択された少なくとも一種(促進剤又は触媒)の共存下、特に、マグネシウム金属成分及び金属ハロゲン化物の存存下で行うのが有利である。そして、これらの触媒成分としてのマグネシウム金属成分、リチウム化合物および金属ハロゲン化物(又はこれらに対応する金属成分、特に、金属ハロゲン化物)は、重合して得られたポリシランに取り込まれやすい。
【0063】
(金属ハロゲン化物)
金属ハロゲン化物(リチウムハロゲン化物を除く金属ハロゲン化物)としては、多価金属ハロゲン化物、例えば、遷移金属(例えば、サマリウムなどの周期表3A族元素、チタンなどの周期表4A族元素、バナジウムなどの周期表5A族元素、鉄、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウムなどの周期表8族元素、銅などの周期表1B族元素、亜鉛などの周期表2B族元素など)、周期表3B族金属(アルミニウムなど)、周期表4B族金属(スズなど)などの金属のハロゲン化物(塩化物、臭化物又はヨウ化物など)が挙げられる。金属ハロゲン化物を構成する前記金属の価数は、特に制限されないが、好ましくは2〜4価、特に2又は3価である。これらの金属ハロゲン化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
金属ハロゲン化物としては、チタン、鉄、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウム、亜鉛、およびスズから選択された少なくとも一種の金属の塩化物又は臭化物が好ましい。
【0065】
このような金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化物(FeCl、FeClなどの塩化鉄;ZnCl、SnCl、CoCl、VCl、TiCl、PdCl、SmClなど)、臭化物(FeBr、FeBrなどの臭化鉄など)、ヨウ化物(SmIなど)などが例示できる。これらの金属ハロゲン化物のうち、塩化物(例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)などの塩化鉄、塩化亜鉛など)及び臭化物が好ましい。通常、塩化鉄及び/又は塩化亜鉛、特に塩化亜鉛などが使用される。このような金属ハロゲン化物(又は金属ハロゲン化物を構成する金属)は、触媒活性を向上できるとともに、ポリシラン中に金属(a)として残留しやすいため、好適に使用できる。
【0066】
金属ハロゲン化物の割合は、前記ハロシラン類の総量100重量部に対して、0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは2〜20重量部程度であってもよい。溶媒(反応液)中の金属ハロゲン化物の濃度を上記のような範囲にすると、金属をポリシラン中に効率よく含有させることができる。
【0067】
(リチウム化合物)
リチウム化合物としては、ハロゲン化リチウム(塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムなど)、無機酸塩(硝酸リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、塩酸リチウム、硫酸リチウム、過塩素酸リチウム、リン酸リチウムなど)などが使用できる。これらのリチウム化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。好ましいリチウム化合物は、ハロゲン化リチウム(特に塩化リチウム)である。
【0068】
リチウム化合物の割合は、ハロシラン類の総量100重量部に対して、0.1〜200重量部、好ましくは1〜150重量部、さらに好ましくは5〜100重量部(例えば、5〜75重量部)程度であり、通常、10〜80重量部程度である。
【0069】
なお、リチウム化合物は、ポリシラン中に取り込まれて、生成したポリシランの溶解性を向上させる効果がある。そして、このようなリチウム化合物は、前記金属ハロゲン化物と組み合わせる反応助剤として好適に利用できる。
【0070】
ハロシラン類の重合反応は、例えば、密閉可能な反応容器に、ハロシラン類(ハロシラン化合物)、マグネシウム金属成分、および金属ハロゲン化物を溶媒とともに、収容し、好ましくは機械的又は磁気的に攪拌しつつ行ってもよい。また、さらに、前記のように、反応助剤としてリチウム化合物を添加してもよい。出発原料のハロシラン類が異なるハロシラン類で構成されている場合は、予め、異なるハロシラン類の混合物として用いてもよいし、各ハロシラン類を併行して添加(例えば、一方のハロシラン類を添加して、ある程度反応を進行させた後、他方のハロシラン類を添加する方法など)してもよい。ハロシラン類の混合物として用いる方法は、ランダムコポリマーを得るのに好適であり、一方のハロシラン類の反応途中で他方のハロシラン類を添加する方法は、ブロックコポリマーを得るのに好適である。
【0071】
反応容器は、密閉できる限り、形状や構造についての制限は特にない。反応容器内は、乾燥雰囲気であればよく、乾燥した不活性ガス(例えば、アルゴンガス)雰囲気、特に、脱酸素し、乾燥したアルゴンガス雰囲気が好ましい。
【0072】
溶媒(反応溶媒)としては、通常、反応に不活性な溶媒が挙げられる。代表的な溶媒としては、非プロトン性溶媒(不活性溶媒)が広く使用でき、例えば、エーテル類(1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどの環状C4−6エーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテルなどの鎖状C4−6エーテル)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ハロゲン含有化合物(塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素など)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、シクロオクタンなどの鎖状又は環状炭化水素類)などが挙げられ、これらの溶媒は混合溶媒として使用してもよい。溶媒としては、極性溶媒単独(テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンなど)、2種以上の極性溶媒の混合物、極性溶媒と非極性溶媒との混合物などが好ましい。極性溶媒と非極性溶媒との混合物を使用する場合、両者の割合は、前者/後者(重量比)=1/0.01〜1/20程度である。
【0073】
溶媒(反応液)中のハロシラン類の濃度は、通常、0.05〜20モル/L、好ましくは0.2〜15モル/L、特に0.3〜13モル/L程度であってもよい。
【0074】
溶媒中の金属ハロゲン化物の濃度は、通常、0.001〜6モル/L程度であり、好ましくは0.005〜4モル/L程度であり、より好ましくは0.01〜3モル/L程度である。
【0075】
溶媒(反応液)中のリチウム化合物の濃度は、通常、0.05〜5モル/L、好ましくは0.1〜4モル/L、特に0.15〜3モル/L程度である。
【0076】
反応時間は、ハロシラン類、金属ハロゲン化物及びマグネシウム金属成分の量などに異なるが、5分以上であり、通常、30分〜100時間程度である。反応時間を調整することにより、ポリシランの分子量制御が可能となる。
【0077】
反応温度は、通常、−20℃から使用する溶媒の沸点までの温度範囲内にあり、好まし<は0〜70℃、さらに好ましくは10〜50℃程度の範囲内にある。なお、得られたポリシランは、再沈法、抽出法などの慣用の方法により精製してもよい。なお、精製において、ポリシランに金属を残留させやすくするため、中性の水を好適に使用してもよい。
【0078】
以上のようにして得られるポリシランは、金属(a)が構造中に取り込まれており、例えば、反応溶液から溶媒によりポリシラン成分を抽出しても、取り込まれた金属(a)はポリシラン構造に結合などにより残留している。例えば、反応系を、ポリシランを溶解しない溶媒(例えば、水性溶媒)で抽出しても、余剰の金属成分(例えば、金属ハロゲン化物)が抽出される程度であり、ポリシランから取り込まれた金属(a)が脱離又は流出することはない。
【0079】
[熱硬化性樹脂組成物およびその硬化物]
本発明のポリシランは、前記のように、熱硬化性樹脂の硬化性を向上させるための硬化剤として有用であり、熱硬化性樹脂(又は熱硬化性化合物)と組み合わせて好適に熱硬化性樹脂組成物を構成できる。すなわち、本発明のポリシランは、金属を含んでおり、安定性が向上されているため、経時変化を小さくでき、硬化剤として好適である。また、硬化剤として用いると、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)の硬化温度を小さくすることができる。
【0080】
熱硬化性樹脂(又は光硬化性樹脂)としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、アミノ樹脂(尿素樹脂、メラミン樹脂など)、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ケイ素系樹脂(シリコーン樹脂、本発明の範疇に属さないポリシラン(例えば、金属(a)を含まないポリシランなど)など)、光重合性モノマー又はオリゴマー(例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系化合物)などが例示できる。熱硬化性樹脂は初期縮合物であってもよい。熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0081】
特に、本発明のポリシランは、エポキシ樹脂(エポキシ化合物)の硬化を促進するために有用である。エポキシ樹脂(エポキシ系樹脂)としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、4,4−ビフェノール、2,2−ビフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールAなどのビスフェノール類とエピクロロヒドロリンとの反応物(縮合物)、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物など)、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型グリシジルエーテル、クレゾールノボラック型グリシジルエーテルなど)、アミン系エポキシ樹脂などが含まれる。
【0082】
ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物としては、例えば、9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン類のグリシジルエーテル、9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体のグリシジルエーテルなどが含まれる。
【0083】
9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン類のグリシジルエーテルとしては、例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−グリシジルオキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(シクロアルキル−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリールグリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類のグリシジルエーテル;これらの化合物に対応する9,9−ビス[ジ又はトリ(ヒドロキシ)フェニル]フルオレン類のグリシジルエーテル{例えば、9,9−ビス[3,4−ジ(グリシジルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3,4,5−トリ(グリシジルオキシ)フェニル]フルオレンなど}が挙げられる。
【0084】
また、9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体のグリシジルエーテルとしては、例えば、9,9−ビス(グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシエトキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど]、置換基を有する9,9−ビス(グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキルグリシジルオキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(シクロアルキルグリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリールグリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン類;これらの化合物に対応する9,9−ビス(グリシジルオキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−グリシジルオキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体(例えば、ヒドロキシル基1モルに対してアルキレンオキシド2〜10モル程度が付加した付加体)のジグリシジルエーテル;これらの化合物に対応する9,9−ビス[ジ又はトリ(ヒドロキシ)フェニル]フルオレン類のアルキレンオキシド付加体(例えば、ヒドロキシル基1モルに対してアルキレンオキシド1〜10モル程度が付加した付加体)のグリシジルエーテル{例えば、9,9−ビス[3,4−ジ(2−グリシジルオキシ)(ポリ)C2−4アルコキシ)フェニル]フルオレンなど}などが挙げられる。
【0085】
熱硬化性樹脂組成物において、前記ポリシランの割合は、例えば、熱硬化性樹脂100重量部に対して、1〜1000重量部、好ましくは5〜500重量部(例えば、10〜400重量部)、さらに好ましくは20〜300重量部(例えば、30〜200重量部)、特に50〜150重量部程度であってもよい。
【0086】
なお、前記熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、酸類、塩基類、増感剤、架橋剤又は硬化剤[例えば、有機系架橋剤(多価カルボン酸又はその酸無水物、エチレンジアミンなどのポリアミン化合物など)、無機系架橋剤(ホウ酸又はホウ酸塩(硼砂など)、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物、アルミニウム化合物、リン化合物、シランカップリング剤など)など]、硬化触媒又は硬化促進剤(有機スズ化合物、有機アルミニウム化合物など)などを含んでいてもよい。これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0087】
また、前記樹脂組成物には、用途に応じて種々の添加剤、例えば、溶剤、充填剤、強化剤、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、加硫剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、流動調整剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0088】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、コーティング組成物(塗布剤)として用いることもできる。コーティング組成物は、前記ポリシランおよび熱硬化性樹脂で少なくとも構成すればよく、無溶剤型コーティング組成物(コーティング剤)であってもよく、溶媒を含むコーティング組成物(コーティング剤)であってもよい。溶媒を含むコーティング組成物は、溶液であってもよく、分散液であってもよい。コーティング組成物(塗布液)において、溶媒としては、特に限定されず、慣用の溶媒、例えば、炭化水素類(ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタンなどのハロアルカン、モノクロロベンゼンなどのハロアレーンなど)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルキルアルコール類など)、ジオール類(エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルカンジオール類、ジエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコールなどの(ポリ)オキシアルキレングリコールなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、エステル類(酢酸エチルなどの酢酸エステル類など)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトンなどのジアルキルケトン類、シクロヘキサノンなどの環状ケトン類など)、グリコールエーテルエステル類(エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、セロソルブアセテートなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(カルビトールなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0089】
溶媒の割合は、塗布性を損なわない範囲であればよく、前記組成物の固形分(例えば、ポリシランおよび熱硬化性樹脂)1重量部に対して、溶媒0.5〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは2〜30重量部程度であってもよい。
【0090】
本発明には、前記熱硬化性樹脂組成物が硬化(又は架橋)した硬化物(又は成形体)も含まれる。このような硬化物は、前記熱硬化性樹脂組成物を硬化処理することにより得ることができる。硬化処理において、加熱温度としては、例えば、50〜500℃、好ましくは80〜400℃、さらに好ましくは100〜300℃程度であってもよい。また、加熱時間は、例えば、10分〜10時間、好ましくは30分〜7時間、さらに好ましくは1〜5時間程度であってもよい。このような硬化処理は、硬化物の形状に応じて、熱硬化性樹脂組成物を成形しつつ又は成形(又は予備成形)した後、行ってもよい。なお、硬化物の形状としては、三次元的硬化物、硬化膜や硬化パターンなどの一次元又は二次元的硬化物、点又はドット状硬化物などであってもよいなどが挙げられる。三次元的硬化物に成形する方法としては、例えば、射出成形、圧縮成形、注型成形、トランスファー成形などの慣用の方法が挙げられる。
【0091】
また、硬化物を膜状(フィルム状、薄膜状)に形成する場合には、前記熱硬化性樹脂組成物(コーティング組成物)を、基板(又は基体)に塗布することにより形成してもよい。基板は、例えば、樹脂、ガラス、セラミックなどの絶縁性基板、結晶シリコンやアモルファスシリコン等の半導体基板、金属等の導体基板、これらの基板上に導体層を形成したもの、さらにはこれらを複合したものなどが挙げられる。
【0092】
基板に塗膜(薄膜)を形成する塗布法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコーティング法、ロールコーティング法、バーコーティング法、スリットコーティング、グラヴィアコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法などを挙げることができる。
【0093】
塗膜の厚みは、硬化物の用途によって応じて、0.01μm〜10mm、0.05μm〜1mm、さらに好ましくは0.1〜100μm程度であってもよい。
【0094】
基板に塗布した前記樹脂組成物は、必要に応じて、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、公知の方法を用いて行うことができる。乾燥処理は、例えば、常圧下、加圧下または減圧下において行ってもよく、加熱手段(ホットプレート、オーブンなど)により加温して行ってもよい。加温時の温度は、使用する溶媒や乾燥方法によっても異なるが、通常、40〜200℃、好ましくは50〜170℃、さらに好ましくは60〜150℃程度であってもよい。
【0095】
基板に塗布された塗膜は、上記のように、必要に応じて乾燥処理されたのち、通常、硬化処理される。硬化処理は、水蒸気の存在する気体中又は空気中、通常、空気中において、加熱処理して行うことができる。硬化において、加熱処理温度は、通常、60〜500℃程度、好ましくは100〜450℃程度、さらに好ましくは150〜400℃程度、特に好ましくは180〜350℃程度であってもよい。なお、硬化処理は、必要に応じて、加熱とともに光照射して行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のポリシランは、金属を含んでいるため、熱硬化性樹脂の熱硬化性を著しく高めることができ、熱硬化性樹脂と組み合わせる硬化剤として好適に用いることができる。また、このようなポリシランは、熱硬化性樹脂に添加することにより、硬化剤として作用するだけでなく、ポリシランの優れた特性、例えば、高屈折率、低誘電率、感光性などを熱硬化性樹脂(又はその硬化物)に付与できる。さらに、本発明のポリシランは、熱硬化性樹脂の硬化剤として作用するため、通常のポリシランに比べて、硬化物の機械的強度、耐磨耗性、耐溶媒性などを向上できる。
【0097】
そのため、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、例えば、セラミックス前駆体、光電子材料(例えば、フォトレジスト、有機感光体などの光電子写真材料、光導波路などの光伝送材料、光メモリなどの光記録材料、エレクトロルミネッセンス素子用材料、耐熱ハードコート、耐プラズマハードコート、層間絶縁膜、各種オーバーコート材料など)、光学用部材(例えば、光学フィルタ、ミラー、レンズ、遮光膜、回折素子、偏光ビームスプリッタ、マイクロレンズなど)などの用途にも利用できる。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0099】
なお、実施例において金属成分の含有量は、ICP及びWDX蛍光X線分析により測定した。
【0100】
(実施例1)
三方コックを装着した内容積1000mlの丸型フラスコに、粒状(粒径20〜1000μm)のマグネシウム30.0g、無水塩化リチウム(LiCl)12.5g、無水塩化亜鉛(ZnCl)16.2gを仕込み、50℃で1mmHg(=133kPa)に加熱減圧して、反応混合物を乾燥した後、乾燥アルゴンガスを反応器内に導入し、予めナトリウム−ベンゾフェノンケチルで乾燥したテトラヒドロフラン500mlを加え、室温で約30分間撹拌した。この反応混合物に、予め蒸留により精製したフェニルトリクロロシラン105.8g(0.50mol)を加え、30℃で約24時間撹拌した。反応終了後、トルエン300mlを加えた後、減圧濾過により反応によって生成した塩化マグネシウム、余剰のマグネシウムを除去した。ろ液を純水200mlで10回洗浄し、トルエン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、トルエン、テトラヒドロフランを留去することにより、亜鉛を約15000ppm含有したポリフェニルシリン(重量平均分子量3000)を得た。
【0101】
(実施例2)
実施例1において、フェニルトリクロロシラン105.8g(0.50mol)に代えて、フェニルトリクロロシラン63.5g(0.30mol)およびメチルフェニルジクロロシラン38.2g(0.20mol)の混合物を用いる以外は実施例1と同様に合成を行い、亜鉛を10000ppm含有したポリフェニルシリン−ポリメチルフェニルシラン共重合体(重量平均分子量2500、前者/後者(共重合比、モル)=3/2)を得た。
【0102】
(実施例3)
実施例1において、無水塩化亜鉛(ZnCl)16.2gに代えて、無水塩化鉄(FeCl)15.0gを用いる以外は実施例1と同様に合成を行い、鉄を約2000ppm含有したポリフェニルシリン(重量平均分子量4000)を得た。
【0103】
(比較例1)
実施例1において、無水塩化亜鉛(ZnCl)16.2gを加えない以外は、実施例1と同様に合成を行った。その結果、亜鉛を含有しないポリフェニルシリン(重量平均分子量4500)を得た。
【0104】
(比較例2)
無水塩化亜鉛(ZnCl)16.2gを加えない以外は、実施例2と同様に合成を行った。その結果、亜鉛を含有しないポリフェニルシリン−ポリメチルフェニルシラン共重合体(重量平均分子量3000)を得た。
【0105】
(比較例3)
実施例1で得られた亜鉛を約15000ppm含有したポリフェニルシリンを、再度500mlのトルエンに溶解した後、5重量%塩酸水溶液200mlで10回、5重量%水酸化ナトリウム水溶液200mlで10回、さらに、純水で5回洗浄することにより、亜鉛を90ppm含むポリフェニルシリンを得た。
【0106】
そして、実施例1〜2および比較例1〜3で得られたポリシランについて、熱硬化性樹脂の熱硬化性に与える影響を以下のようにして調べた。
【0107】
実施例1〜2および比較例1〜3で得られた各ポリシランと、フルオレン骨格を有する2官能性エポキシ化合物[BPEFG(ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル又は9,9−ビス(4−グリシジルオキシエトキシフェニル)フルオレン)、大阪ガスケミカル社製]とを、それぞれ10重量%含有するトルエン溶液を作製した。そして、得られたトルエン溶液を、硝子基板上にスピンコートを行った後、100℃で1時間加熱してトルエンを除去し、硝子基板上に厚み1μmの薄膜を形成した。
【0108】
さらに、得られた薄膜を表1に示す加熱温度で3時間熱処理したのち、トルエンを浸した布で薄膜を擦り、擦った後の薄膜の状態を観察し、以下の基準で評価した。すなわち、熱処理後の薄膜のトルエンヘの溶解が少ないほど硬化が進行している。
【0109】
◎…激しく擦ってもトルエンに全く溶解しない
○…薄膜はほぼ完全に硬化しているが、激しく擦ると傷がつく
△…薄膜が白濁する
×…膜が溶出する。
【0110】
結果を表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
表1の結果から明らかなように、構造中に多量の金属成分を含むポリシランは、熱硬化性樹脂の熱硬化性を向上させることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂の硬化性を向上させるためのポリシランであって、重量換算で、ポリシラン全体に対して100ppm以上の金属(a)を含むポリシラン。
【請求項2】
重量換算で、ポリシラン全体に対して500ppm以上の金属(a)を含む請求項1記載のポリシラン。
【請求項3】
金属(a)が、周期表第3〜14族金属から選択された少なくとも1種である請求項1記載のポリシラン。
【請求項4】
金属(a)が、鉄、亜鉛、アルミニウムおよび鉛から選択された少なくとも1種である請求項1記載のポリシラン。
【請求項5】
ポリシランが、下記式(2)で表される構造単位、および下記式(3)で表される構造単位から選択された少なくとも1種の分岐状構造単位を有するポリシランである請求項1記載のポリシラン。
【化1】

(式中、Rは、水素原子、有機基又はシリル基を示し、s及びtはそれぞれ1以上の整数である。)
【請求項6】
分岐状構造単位の割合が、ポリシランを構成するケイ素原子換算(モル換算)で、10モル%以上である請求項5記載のポリシラン。
【請求項7】
重量換算で、ポリシラン全体に対して500ppm以上の金属(a)を含み、かつ少なくとも前記式(2)で表される構造単位で構成された分岐状構造単位を、ポリシランを構成するケイ素原子換算(モル換算)で30モル%以上有するポリシランである請求項5記載のポリシラン。
【請求項8】
請求項1記載のポリシランと、熱硬化性樹脂とで構成された組成物。
【請求項9】
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である請求項8記載の組成物。
【請求項10】
熱硬化性樹脂が、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂である請求項8記載の組成物。
【請求項11】
請求項8記載の組成物が硬化した硬化物。

【公開番号】特開2007−262171(P2007−262171A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86966(P2006−86966)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】