説明

熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の製造方法、その製造法によって得られる熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及びその(メタ)アクリル系重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物

【課題】熱硬化性樹脂中で低せん断性の分散機でも良好な分散性を示し、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物に優れた耐衝撃性等の物性を付与することができる熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の製造方法、その製造法によって得られる熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及び熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体を含有する熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】特定のゴム状重合体粒子(CP)を形成し、次いでゴム状重合体粒子(CP)の存在下で、特定のビニル基含有単量体(SM−a)、窒素系官能基を含む単量体(SM−b)及び架橋性単量体(SM−c)を含む単量体混合物(SM)を重合して重合体(SP)を形成する熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の製造方法、熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体並びに熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及び熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の製造方法、その製造法によって得られる熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及び熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体を含有する熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は高い耐熱性、機械的強度等の種々の優れた性質を持つため、様々な分野で使用されている。熱硬化性樹脂の中でもエポキシ樹脂は、例えば、電子回路封止剤、塗料、接着剤及び繊維強化材料のマトリックス樹脂として幅広い用途に用いられている。このエポキシ樹脂は耐熱性、耐薬品性、絶縁性等に優れているが、熱硬化性樹脂の特徴である耐衝撃性が不十分という問題を有している。
【0003】
エポキシ樹脂の耐衝撃性を改良する方法としては、例えば、(1)架橋点間の分子量を調整する方法、(2)軟質の分子骨格を導入する方法、(3)内部を可塑化する方法及び(4)異種の構造又は素材を導入する方法が挙げられる。
【0004】
これらの中で、(4)異種の構造又は素材を導入する方法の具体例として、エポキシ樹脂をエラストマー等で変性し、硬化物中に海島構造を生じさせる方法が多く用いられている。
【0005】
エポキシ樹脂を変性するための変性材料としては、例えば、アミノ基又は酸基末端のニトリルブタジエンゴム及び架橋ゴム粒子が良く用いられる。この場合、エポキシ樹脂中に海島構造を生じさせるためには、上記変性材料がエポキシ樹脂中で優れた分散性を有していることが必要である。
【0006】
エポキシ樹脂中へのゴム粒子等の分散性が優れた樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂中にゴム状粒子が安定に分散され、接着性、耐衝撃性、耐熱性などに優れた変性エポキシ組成物を提供するために、エポキシ基を有する化合物に官能基を有する不飽和化合物を含むモノマーから得られる部分架橋ゴム状ランダム共重合体を配合した組成物が提案されている。しかしながら、エポシキ基を有する化合物中への部分架橋ゴム状ランダム共重合体の分散はホモディスパ等の高せん断性の混練により実施されており、通常の低せん断性の混練での分散性は充分とはいえない。
【0007】
また、特許文献2には、耐衝撃性及び引張りせん断強度やT字剥離強度などの接着性能に優れるとともに、疑似硬化性が付与されたエポキシ樹脂系接着剤組成物を提供するために、エポキシ樹脂に特定のコアシェル型粉末状重合体及びエポキシ樹脂用潜在型硬化剤を含有させたエポキシ樹脂系接着性組成物が提案されている。しかしながら、特許文献2の技術においては、真空ミキサー等の低せん断性の混練ではエポキシ樹脂中へのコアシェル型粉末状重合体の分散性は充分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−160,859号公報
【特許文献2】特開平5−65,391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱硬化性樹脂中で低せん断性の分散機でも良好な分散性を示し、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物に優れた耐衝撃性等の物性を付与することができる熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の製造方法、その製造法によって得られる熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及び熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体を含有する熱硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨とするところは、アルキル基の炭素数が2〜18であるアルキルアクリレート単量体(CM−1)及び架橋性単量体(CM−2)を含む単量体混合物(CM)を重合してゴム状重合体(CP)を形成し、次いでゴム状重合体(CP)の存在下で、芳香族ビニル単量体(SM−a−1)及びアルキル(メタ)アクリレート単量体(SM−a−2)から選ばれる少なくとも1種のビニル基含有単量体(SM−a)、窒素系官能基を含む単量体(SM−b)並びにビニル基含有単量体(SM−a)及び窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の合計量100質量部に対して0.1〜20質量部の架橋性単量体(SM−c)を含む単量体混合物(SM)を重合して重合体(SP)を形成する熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の製造方法を第1の発明とする。
【0011】
また、本発明の要旨とするところは、上記の製造方法によって得られた熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体を第2の発明とする。
【0012】
更に、本発明の要旨とするところは、上記で得られた熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及び熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物を第3の発明とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体を低せん断性の分散機で熱硬化性樹脂中に分散することができ、耐衝撃性等の物性に優れた熱硬化性樹脂組成物の硬化物を得ることが可能となることから、電子回路封止剤、塗料、接着剤、繊維強化材料のマトリックス樹脂用途等の各種用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、「(メタ)アクリル」及び「(メタ)アクリレート」はそれぞれ「アクリル」及び「メタクリル」から選ばれる少なくとも1種並びに「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味する。

アルキルアクリレート単量体(CM−1)

本発明で使用されるアルキルアクリレート単量体(CM−1)は、後述するゴム状重合体(CP)を形成するための重合用原料として使用される単量体混合物(CM)の構成成分の1つである。
【0015】
アルキルアクリレート単量体(CM−1)は炭素数が2〜18のアルキル基を有している。
【0016】
アルキルアクリレート単量体(CM−1)としては、例えば、エチルアクリレート,n−プロピルアクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート及びn−ラウリルアクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらの中で、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐衝撃性の点で、n−ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。

架橋性単量体(CM−2)

本発明で使用される架橋性単量体(CM−2)はゴム状重合体(CP)を形成するための重合用原料として使用される単量体混合物(CM)の構成成分の1つである。
【0017】
本発明において、架橋性単量体(CM−2)は分子中に2個以上の不飽和結合を有し、架橋剤又はグラフト交叉剤としての役割を有する単量体をいう。
【0018】
架橋性単量体(CM−2)としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。

単量体混合物(CM)

本発明で使用される単量体混合物(CM)は後述するゴム状重合体(CP)を形成するための重合用原料であり、アルキルアクリレート単量体(CM−1)及び架橋性単量体(CM−2)を含有する。
【0019】
単量体混合物(CM)には、必要に応じてアルキルアクリレート単量体(CM−1)以外のビニル単量体を含有することができる。
【0020】
アルキルアクリレート単量体(CM−1)以外のビニル単量体としては、例えば、メチルメタクリレート及びスチレンが挙げられる。
【0021】
単量体混合物(CM)中の架橋性単量体(CM−2)の含有量としては、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐衝撃性の点で、アルキルアクリレート単量体(CM−1)100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.1〜2質量部がより好ましい。架橋性単量体(CM−2)の含有量が0.1質量部以上で、本発明の熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体が後述する熱硬化性樹脂に対し不溶となる傾向にある。また、架橋性単量体(CM−2)の含有量が10質量部以下で、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐衝撃性が良好となる傾向にある。

ゴム状重合体粒子(CP)

ゴム状重合体(CP)の製造方法としては、上述の単量体混合物(CM)を1回の重合により得る方法及び単量体混合物(CM)を2回以上に分割して重合する方法のいずれの方法でもよく、目的に応じて任意に選択することができる。また、単量体混合物(CM)を2回以上に分割して重合する場合、アルキルアクリレート単量体(CM−1)及び架橋性単量体(CM−2)の組成比は同じでも異なっていてもよく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0022】
ゴム状重合体(CP)の重合方法としては、例えば、乳化重合法、シード重合法、分散重合法及び微細懸濁重合法が挙げられる。

芳香族ビニル単量体(SM−a−1)

本発明において、芳香族ビニル単量体(SM−a−1)は、後述する重合体(SP)を形成するための重合用原料として使用される単量体混合物(SM)の構成成分の1つであるビニル基含有単量体(SM−a)を構成することができる単量体の1つである。
【0023】
芳香族ビニル単量体(SM−a−1)としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン及びブロモスチレンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。

アルキル(メタ)アクリレート単量体(SM−a−2)

本発明において、アルキル(メタ)アクリレート単量体(SM−a−2)は、後述する重合体(SP)を形成するための重合用原料として使用される単量体混合物(SM)の構成成分の1つであるビニル基含有単量体(SM−a)を構成することができる単量体の1つである。
【0024】
アルキル(メタ)アクリレート単量体(SM−a−2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート及びステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらの中で、重合体(SP)のTgを50℃以上とする点で、メチルメタクリレートが好ましい。

ビニル基含有単量体(SM−a)

本発明で使用されるビニル基含有単量体(SM−a)は後述する重合体(SP)を形成するための重合用原料として使用される単量体混合物(SM)の構成成分の1つである。
【0025】
ビニル基含有単量体(SM−a)は芳香族ビニル単量体(SM−a−1)及びアルキル(メタ)アクリレート単量体(SM−a−2)から選ばれる少なくとも1種から構成される。

窒素系官能基を含む単量体(SM−b)

本発明で使用される窒素系官能基を含む単量体(SM−b)は後述する重合体(SP)を形成するための重合用原料として使用される単量体混合物(SM)の構成成分の1つである。
【0026】
窒素系官能基を含む単量体(SM−b)としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の脂肪族アミノ(メタ)アクリレート、脂環式アミノ(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾール、2-ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルイミダゾリン、N−ビニルピロリドン等の複素環を有するビニル化合物、ビニルアニリン、ビニルベンジルアミン、アリルアミン及びアミノスチレンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。

架橋性単量体(SM−c)

本発明で使用される架橋性単量体(SM−c)は後述する重合体(SP)を形成するための重合用原料として使用される単量体混合物(SM)の構成成分の1つである。
【0027】
架橋性単量体(SM−c)は、架橋性単量体(CM−2)と同様に、分子中に2個以上の不飽和結合を有し、架橋剤又はグラフト交叉剤としての役割を有する単量体であり、具体例としては架橋性単量体(CM−2)と同様のものが挙げられる。

単量体混合物(SM)

単量体混合物(SM)は後述する重合体(SP)を形成するための重合用原料であり、ビニル基含有単量体(SM−a)、窒素系官能基を含む単量体(SM−b)及び架橋性単量体(SM−c)を含有する。
【0028】
本発明においては、架橋性単量体(SM−c)の含有量は、ビニル基含有単量体(SM−a)及び窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の合計量100質量部に対して0.1〜20質量部である。架橋性単量体(SM−c)の含有量を0.1質量部以上とすることにより、本発明の熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性を良好とすることができる。また、架橋性単量体(SM−c)の含有量を20質量部以下、好ましくは15質量部以下とすることにより本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐衝撃性を良好とすることができる。
【0029】
単量体混合物(SM)中の窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の含有量としては、ビニル基含有単量体(SM−a)及び窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の混合物中に0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の含有量は、本発明の熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の熱硬化性樹脂中での分散性の点で、0.1質量%以上が好ましい。また、窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の含有量は、後述する、窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の官能基と熱硬化性樹脂との反応により得られる、熱硬化性樹脂組成物の硬化の際の粘度上昇の抑制の点で、20質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0030】
本発明で使用される単量体混合物(SM)は、単量体混合物(SM)中の架橋性単量体(SM−c)以外の単量体成分から得られる重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」という)が50℃以上となるものが好ましい。
【0031】
尚、本発明において、Tgは下記の式(1)のFOXの式より求められるものである。重合体が単独重合体の場合は、高分子学会編「高分子データハンドブック」等に記載されている標準的な分析値を採用することができ、共重合体の場合は、各単量体単位の単独重合体のTgから式(1)により算出することができる。

<式1>
【0032】

式(1)中、Tgは共重合体のTg(℃)、Tgiはi成分の単独重合体のTg(℃)、Wiはi成分の質量比率を示し、ΣWi=1である。
【0033】
単量体混合物(SM)中の架橋性単量体(SM−c)以外の単量体成分から得られる重合体のTgが50℃以上、より好ましくは70℃以上となる単量体混合物(SM)とすることにより、本発明の熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性を良好とすることができる傾向にあり、本発明の熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体を回収する際に噴霧乾燥を行う場合にもノズルの詰まり等の問題を抑制することができる傾向にある。

重合体(SP)

重合体(SP)はゴム状重合体(CP)の存在下で単量体混合物(SM)を重合することにより得られる。
【0034】
重合体(SP)の製造方法としては、上述の単量体混合物(SM)を1回の重合により得る方法及び単量体混合物(SM)を2回以上に分割して重合する方法のいずれの方法でもよく、目的に応じて任意に選択することができる。また、単量体混合物(SM)を2回以上に分割して重合する場合、ビニル基含有単量体(SM−a)、窒素系官能基を含む単量体(SM−b)及び架橋性単量体(SM−c)の組成比は同じでも異なっていてもよく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0035】
重合体(SP)を得るための重合方法としては、例えば、乳化重合法、シード重合法、ソープフリー重合法、分散重合法及び微細懸濁重合法が挙げられる。また、本発明においては、本発明の目的を達成する上で、ゴム状重合体(CP)の存在下で単量体混合物(SM)をグラフト重合させることが好ましい。

熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体

本発明の熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体は前述のゴム状重合体(CP)の存在下で単量体混合物を重合して得られる重合体である。
【0036】
熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体中におけるゴム状重合体(CP)と重合体(SP)の含有量は特に限定されないが、ゴム状重合体(CP)と重合体(SP)の含有量の比(ゴム状重合体(CP)/重合体(SP))としては40/60〜90/10が好ましい。
【0037】
熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体が前記の乳化重合法、シード重合法等で得られる場合、熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体は水中に分散した粒子状態のものとして得られる。
【0038】
上記の方法で得られた熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の状態としては、熱硬化性樹脂中に熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子を分散させる時に生じるせん断力で熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の凝集物が解砕されて熱硬化性樹脂中に分散するように、粒子同士が強固に結合又は融着せず、緩い凝集状態であることが好ましい。
【0039】
熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の1次粒子径としては0.01〜30μmが好ましい。熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の1次粒子径を0.01μm以上とすることにより、熱硬化性樹脂中への熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の分散性を良好とすることができ、本発明の熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性を良好とすることができる傾向にある。また、熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の1次粒子径を30μm以下とすることにより、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐衝撃性を良好とすることができる傾向にある。
【0040】
熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の2次粒子径としては5〜200μmが好ましい。熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の2次粒子径を5μm以上とすることにより、熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の取り扱い性が良好となる傾向にある。また、熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子の2次粒子径を200μm以下とすることにより、本発明の熱硬化性樹脂組成物を接着剤や薄膜形成用途に使用した際に本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物中にブツの発生等を抑制することができ、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の性能を良好とすることができる傾向にある。
【0041】
熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体が粒子状に分散した分散液からの熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粉体化の方法としては、例えば、噴霧乾燥法(スプレードライ法)、酸凝固や塩凝固とそれに続く乾燥プロセスによる方法、凍結乾燥法及び遠心分離法が挙げられる。

熱硬化性樹脂

本発明に使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂及びウレア樹脂が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらの中で、硬化物が優れた接着性、低収縮性及び強度並びに強靱性、電気特性及び耐薬品性を兼ね備える点や、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化中に放出される揮発分がない点で、エポキシ樹脂が好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ結合を少なくとも2個有するものであれば特に限定されない。
【0043】
エポキシ樹脂の具体例としてはジシクロペンタジエン型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、ビスフェノール型及びビフェニル型の各種エポキシ樹脂が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらの中で、経済性及び入手のし易さの点で、ビスフェノール型エポキシ樹脂を主成分とするものが好ましい。
【0044】
尚、本発明においては、必要に応じて本発明の熱硬化性樹脂組成物中に硬化剤や硬化促進剤を配合することができる。
【0045】
硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、アミン系硬化剤及び酸無水物硬化剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0046】
硬化剤や効果促進剤の配合量としては、反応するエポキシ基量に対応する化学量論量を加えることが好ましい。

熱硬化性樹脂組成物

本発明の熱硬化性樹脂組成物は本発明の熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及び熱硬化性樹脂を含有するものである。
【0047】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を製造する為の混練機器としては、例えば、真空ミキサー、チェンジキャンミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパー、バタフライミキサー、ヘンシェルミキサー及びニーダーが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を用いて詳述する。また、実施例中の評価方法と評価基準は以下の通りである。尚、以下において、「部」は「質量部」を示す。
(1)1次粒子径及び2次粒子径
(メタ)アクリル系重合体の粒子の1次粒子径及び2次粒子径は堀場製作所(株)製レーザー回折粒度分布測定装置(HORIBA LA−920、商品名)を使用して測定した。
【0049】
尚、(メタ)アクリル系重合体の粒子の1次粒子径については、重合して得られた(メタ)アクリル系重合体の粒子の分散液をイオン交換水に分散したものを使用して測定した。
【0050】
また、(メタ)アクリル系重合体の粒子の2次粒子径については、噴霧乾燥で得られた(メタ)アクリル系重合体の粒子の粉体をイオン交換水に分散したものを使用して測定した。
(2)分散度
真空ミキサーによる混練後の分散度評価用熱硬化性樹脂組成物における分散度及び真空ミキサーによる混練後に更に3本ロールミル混練した後の熱硬化性樹脂組成物における分散度について粒度測定器(テスター産業(株)製、A型グラインドメータ(商品名))を用いて下記基準で評価した。
○:凝集粒子は認められない。
×:凝集粒子が認められるが、凝集粒子径は100μm以下。
××:凝集粒子径が100μmを超える。
(3)貯蔵安定性

貯蔵安定性評価用熱硬化性樹脂組成物を25℃の恒温槽で2時間保温した後、BH型粘度計((株)東京計器製、ローター:NO.7)を用いて、回転数4rpmにおいて1分後の粘度を測定し、初期粘度(α)とした。
【0051】
この組成物を40℃雰囲気下で2週間保管した後に、初期粘度と同様の方法で粘度を測定し、保管後粘度(β)とした。
【0052】
上記で得られた保管後粘度(β)と初期粘度(α)から、下記の式(2)により増粘率(%)を求め、以下の基準により貯蔵安定性を評価した。
【0053】
増粘率(%)=〔(β−α)/α〕×100・・・(2)
◎:増粘率が50%以下。
○:増粘率が50%を超え、100%以下。
×:増粘率が100%を超える。[実施例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗及び冷却管を装備した2リットルの4つ口フラスコにイオン交換水340gを入れ、30分間十分に窒素ガスを通気し、イオン交換水中の溶存酸素を置換した。窒素ガスの通気を停止した後、250rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、n−ブチルアクリレート26.3g、アリルメタクリレート0.26g及び過硫酸カリウム0.25gの単量体混合物(CM−イ)(1)を一括投入した。続いて30分後に過硫酸カリウム0.25gを投入した後、n−ブチルアクリレート400g、アリルメタクリレート4g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスOT−P)4g及びイオン交換水675gの単量体混合物(CM−ロ)(1)を3時間かけて滴下して重合を完了し、ゴム状重合体(CP)(1)の分散液を得た。次いで、ゴム状重合体(CP)(1)の分散液中に、メチルメタクリレート97.2g、エチルアクリレート2g、ジメチルアミノエチルメタククリレート0.8g、ペレックスOT−P、1g及びイオン交換水175gの単量体混合物(SM)(1)を70分間かけて滴下した。後80℃にて1時間攪拌を継続して重合体(SP)(1)の重合を完了させ、(メタ)アクリル系重合体(1)の分散液を得た。尚、得られた重合体(SP)(1)のTgは99.5℃であった。
【0054】
得られた(メタ)アクリル系重合体(1)の分散液をL−8型スプレードライヤー(大河原化工機(株)製)を用いて入口温度/出口温度=150/65℃及びディスク回転数20,000rpmの条件で噴霧乾燥し、(メタ)アクリル系重合体の粒子(CSP−1)を得た。
【0055】
次いで、(メタ)アクリル系重合体の粒子(CSP−1)20部及びビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、JER828(商品名))100部の混合物を真空ミキサー((株)シンキー製、製品名:ARV−200)にて大気圧(0.1MPa)で5秒間混合した後、2.7kPaに減圧して295秒間混合し、分散度評価用熱硬化性樹脂組成物を得た。この分散度評価用熱硬化性樹脂組成物を使用して真空ミキサーによる混練後の分散度評価用熱硬化性樹脂組成物における分散度(真空ミキサー)について評価した。
【0056】
また、上記で得られた分散度評価用熱硬化性樹脂組成物を更に3本ロールミル(EXAKT Technologies, Inc.製、EXAKT50(商品名))を3パスさせた分散度評価用熱硬化性樹脂組成物についても上記と同様にして3本ロールによる分散度(3本ロール)を評価した。
【0057】
また、(メタ)アクリル系重合体の粒子(CSP−1)20部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、JER828(商品名))100部、ジシアンジアミド8部(ジャパンエポキシレジン(株)製、DICY7(商品名))を真空ミキサー((株)シンキー製、ARV−200(製品名))にて大気圧(0.1MPa)で5秒間混合した後、2.7kPaに減圧して115秒間混合し、貯蔵安定性評価用熱硬化性樹脂組成物を得た。この貯蔵安定性評価用熱硬化性樹脂組成物を使用して貯蔵安定性を評価した。
評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

表中の略称は以下の化合物を示す。
n−BA:アクリル酸n−ブチル(三菱化学(株)製)
AMA:メタクリル酸アリル(三菱レイヨン(株)製)
KPS:過硫酸カリウム
ペレックスOT−P:ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名)
MMA:メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製)
EA:アクリル酸エチル(三菱化学(株)製)
DMAEMA:メタクリル酸ジメチルアミノエチル(三菱レイヨン(株)製)
MAA:メタクリル酸(三菱レイヨン(株)製)
HEMA:メタクリル酸2−エチルへキシル(三菱レイヨン(株)製)
GMA:メタクリル酸グリシジル(三菱レイヨン(株)製)
N−ビニルイミダゾール(BASF社製)
[実施例2及び比較例1〜4]
単量体混合物(CM−イ)、単量体混合物(CM−ロ)及び単量体混合物(SM)として表1に示すものを使用した。それ以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル系重合体の粒子(CSP−2)〜(CSP−6)を得、各種評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0059】
以上の結果から明らかなように、実施例1及び2では熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子は低せん断性の分散機を使用しても熱硬化性樹脂中で良好な分散性を示し、得られた熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性も良好であった。
【0060】
これに対して、比較例1〜4ではいずれの熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の粒子も低せん断性の分散機の使用では熱硬化性樹脂中で良好に分散していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が2〜18であるアルキルアクリレート単量体(CM−1)及び架橋性単量体(CM−2)を含む単量体混合物(CM)を重合してゴム状重合体(CP)を形成し、次いでゴム状重合体(CP)の存在下で、芳香族ビニル単量体(SM−a−1)及びアルキル(メタ)アクリレート単量体(SM−a−2)から選ばれる少なくとも1種のビニル基含有単量体(SM−a)、窒素系官能基を含む単量体(SM−b)並びにビニル基含有単量体(SM−a)及び窒素系官能基を含む単量体(SM−b)の合計量100質量部に対して0.1〜20質量部の架橋性単量体(SM−c)を含む単量体混合物(SM)を重合して重合体(SP)を形成する熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって得られた熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体。
【請求項3】
請求項2で得られた熱硬化性樹脂用(メタ)アクリル系重合体及び熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−280761(P2010−280761A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133291(P2009−133291)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】