説明

熱硬化性樹脂組成物及び光学部材

【課題】無色透明で、高耐熱性を有する光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料等として有用な硬化物を与えることができ、さらに、短時間で成型可能な熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記平均組成式(I)及び条件(1)を満たす変性オルガノポリシロキサンと、カチオン硬化剤とを含有し、150℃における熱板ゲルタイムが30秒以下であり、硬化後の組成物のガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とするものである。
平均組成式(I):
(R13SiO1/2)m(R22SiO)n(R3SiO3/2)p(R4SiO3/2)q(SiO2)r
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数が1〜10である一価の炭化水素基を示し、R4は3,4−エポキシシクロヘキシル基を末端に有する炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
条件(1):
m、n、p、q及びrは、0.3≦q/(m+n+p+q+r)≦0.6を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、及び光学部材に関する。より詳しくは、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料等として有用な耐熱性に優れた熱硬化性樹脂組成物、及びこの熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂組成物は、加熱により硬化する組成物であって、例えば、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電子部品材料等の他、自動車部品材料、土木建築材料、成型材料、塗料や接着剤等の各種用途に広く用いられている。
【0003】
これらの用途の中で、光学用途やオプトデバイス用途のように光学特性が要求される用途においては、透明性や屈折率といった光学特性と同時に、硬化物として機能するために成型性が良好であることが必要とされている。さらに、デジタルカメラモジュールに使用する場合においては、携帯電話等の小型機器に搭載することから小型化、低コスト化が求められている。したがって、これらの用途においては、熱硬化性樹脂組成物よりも成型性が良好なPMMA(メタクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、ポリシクロオレフィン等の熱可塑性樹脂組成物が一般的に用いられている。
【0004】
しかしながら、近年、デジタルカメラモジュール等の製造における低コスト化の要請に対応する観点から、予めハンダがポッティングされた基板に対して、IC(Integrated Circuits)チップ等の電子部品と光学素子とを載置した状態でリフロー処理(加熱処理)を行い、ハンダを溶融させることによって電子部品と光学素子とを基板に同時に実装する技術が実用化され始めているため、このリフロー処理に対応可能な高い耐熱性を備える樹脂組成物の開発が求められている。
すなわち、熱可塑性樹脂組成物よりも優れた耐熱性を備えると共に、成型性に優れ、且つ成型サイクル(成型時間)が熱可塑性樹脂組成物と同程度に短い組成物の開発が強く望まれている。
【0005】
このような要請に対応すべく開発された組成物として、特許文献1には、芳香族エポキシ化合物と、脂環式エポキシ化合物及び/又は水添エポキシ化合物と、カチオン硬化触媒とを含む熱硬化性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−84310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載される熱硬化性樹脂組成物は、従来の熱硬化性樹脂組成物に比べて光学特性に優れるものであるが、短時間での成形性が十分ではなく、更なる改善が望まれている。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、無色透明で、高耐熱性を有する光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料等として有用な硬化物を与えることができ、さらに、短時間で成形可能な熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
[1]下記平均組成式(I)及び条件(1)を満たす変性オルガノポリシロキサンと、カチオン硬化剤とを含有し、150℃における熱板ゲルタイムが30秒以下であり、硬化後の組成物のガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
平均組成式(I):
(R13SiO1/2)m(R22SiO)n(R3SiO3/2)p(R4SiO3/2)q(SiO2)r
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数が1〜10である一価の炭化水素基を示し、R4は3,4−エポキシシクロヘキシル基を末端に有する炭素数1〜5のアルキル基を示す。m、n、p及びrは、正数又は0であり、qは正数である。)
条件(1):
m、n、p、q及びrは、0.3≦q/(m+n+p+q+r)≦0.6を満たす。
[2]R4が、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基である、[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3]さらに、脂環式エポキシ化合物を含有する、[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4]脂環式エポキシ化合物が、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである、[3]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5]変性オルガノポリシロキサン100質量部に対して、カチオン硬化剤を0.01〜2質量部配合し、脂環式エポキシ化合物を配合量5〜80質量部配合する、[3]又は[4]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6]25℃における粘度が100〜50,000mPa・sである、[1]〜[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる光学部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無色透明で、高耐熱性を有する光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料等として有用な硬化物を与えることができ、さらに、短時間で成型可能な熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる光学部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、特定の変性オルガノポリシロキサンと、カチオン硬化剤とを含有し、150℃における熱板ゲルタイムが30秒以下であり、硬化後の組成物のガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とするものである。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0013】
<変性オルガノポリシロキサン>
本発明において用いる変性オルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(I)及び条件(1)を満たすものである。
平均組成式(I):
(R13SiO1/2)m(R22SiO)n(R3SiO3/2)p(R4SiO3/2)q(SiO2)r
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数が1〜10である一価の炭化水素基を示し、R4は3,4−エポキシシクロヘキシル基を末端に有する炭素数1〜5のアルキル基を示す。m、n、p及びrは、正数又は0であり、qは正数である。)
条件(1):
m、n、p、q及びrは、0.3≦q/(m+n+p+q+r)≦0.6を満たす。
【0014】
平均組成式(I)において、R1、R2及びR3で示される一価の炭化水素基としては、炭素数1〜10のものである。この炭素数としては、1〜8がより好ましく、1〜6が更に好ましい。このような炭化水素基の中では、脂肪族飽和炭化水素基がさらに好ましい。
このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基等のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等を挙げることができる。なお、「各種」とは、n−、sec−、tert−、iso−を含む各種異性体を意味する。
【0015】
本発明においては、変性オルガノポリシロキサンとして、前記平均組成式(I)におけるR4が、3,4−エポキシシクロヘキシル基を末端に有する炭素数1〜5のアルキル基を用いる。ケイ素原子に結合した前記3,4−エポキシシクロヘキシル基を有するアルキル基は、カチオン硬化性が非常に高いため、これにより短時間での成形が可能となる。
この3,4−エポキシシクロヘキシル基を有するアルキル基は、変性オルガノポリシロキサンのカチオン硬化させるための官能基であり、一分子中に少なくとも2個、好ましくは2〜30個含有する。2個未満では、硬化しても強度、耐熱性共に不十分な硬化物しか得ることができない。この3,4−エポキシシクロヘキシル基を末端に有するアルキル基としては、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基が好ましい。
【0016】
上記平均組成式(I)において、m、n、p、q及びrは、0.3≦q/(m+n+p+q+r)≦0.6の関係(条件(1))を満たしている。前記条件(1)[q/(m+n+p+q+r)]が0.3未満であると、熱硬化後の組成物の強度、及び組成物の耐熱性が低下する場合がある。一方、前記条件(1)[q/(m+n+p+q+r)]が0.6を超えると、変性オルガノポリシロキサンの粘度が高くなり、作業性が悪化するという不具合が生じたり、成形時に組成物中に泡が混入するという不具合が生じる場合がある。よって、本発明においては、0.4≦[q/(m+n+p+q+r)]≦0.5がより好ましい。
このような変性オルガノポリシロキサンは、例えば、特開2008−74931号公報等に開示されている方法で合成することができる。
なお、変性オルガノポリシロキサンの粘度としては、500〜20,000mPa・sが好ましく、1,000〜15,000mPa・sがより好ましく、5,000〜12,000mPa・sが更に好ましい。
【0017】
前記変性オルガノポリシロキサンの熱硬化性樹脂組成物中の含有量は、20質量%以上100質量%未満が好ましく、30質量%以上100質量%未満がより好ましい。変性オルガノポリシロキサンの含有量が前記範囲内であれば、硬化物の耐熱性が十分高いものとなる。
【0018】
<カチオン硬化剤>
本発明において用いるカチオン硬化剤としては、熱によりカチオン種又はルイス酸を発生する熱カチオン硬化剤が好ましい。
熱カチオン硬化剤としては、例えば、トリフル酸(Triflic acid)塩、三フッ化ホウ素等のようなカチオン系触媒やプロトン酸触媒を挙げることができ、中でもトリフル酸塩等のカチオン系触媒が好ましい。
トリフル酸塩としては、例えば、トリフル酸ジエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、及びトリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウムを挙げることができる。
熱カチオン硬化剤の市販品としては、具体的には、(株)ADEKA製:商品名「アデカオプトンCP−66」、「CP−77」、三新化学工業(株)製:商品名「サンエイドSI−60L」、「SI−80L」、「SI−100L」、「SI−110L」、「SI−180L」、住友スリーエム(株)製:商品名「FC−520」等を挙げることができる。
これらの熱カチオン重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記カチオン硬化剤の配合量は、変性オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.01〜2.0質量部が好ましく、0.05〜1.0質量部がより好ましく、0.1〜0.7質量部が更に好ましい。カチオン硬化剤の配合量が前記範囲内であると、硬化反応が速やかに進行し、さらに、得られる硬化物に着色が生じず、無色透明の熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
本発明においては、前述の熱カチオン硬化剤と共に、以下に記載する光カチオン重合開始剤を併用してもよい。光カチオン重合開始剤としては、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩等を挙げることができる。これらはカチオン部分がそれぞれ芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族スルホニウムであり、アニオン部分がテトラフルオロボレート(BF4-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6-)、及び式[BX4-で表される化合物(但し、Xは少なくとも2個以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基である。)等により構成されたオニウム塩である。
光カチオン重合開始剤の具体例としては、例えば、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素のジフェニルヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン−鉄錯体等を挙げることができる。
【0021】
前記オニウム塩からなる光カチオン重合開始剤の市販品としては、SARTOMER製:商品名「CD−1012」、日本化薬(株)製:商品名「PCI−019」、「PCI−021」、(株)ADEKA製:商品名「オプトマーSP−150」、「オプトマーSP−170」、「オプトマーSP−172」、ダウケミカル日本(株)製:商品名「UVI−6990」、サンアプロ(株)製:商品名「CPI−100P」、「CPI−101A」、「CPI−200K」、Rhodia製:商品名「RHODORSILPHOTOINITIATOR2074」等を挙げることができる。
【0022】
光カチオン重合開始剤の配合量は、変性オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.01〜2.0質量部が好ましく、0.05〜1.0質量部がより好ましく、0.1〜0.7質量部が更に好ましい。光カチオン重合開始剤が前記範囲内であると、重合反応が速やかに進行し、効率的に目的とする熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0023】
<脂環式エポキシ化合物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物を含んでいてもよい。脂環式エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ダイセル化学工業(株)製:商品名「セロキサイド2021P」)、イプシロン−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ダイセル化学工業(株)製:商品名「セロキサイド2081」)、1,2,8,9−ジエポキシリモネン(例えば、ダイセル化学工業(株)製:商品名「セロキサイド3000」)、ビニルシクロヘキセンモノオキサイド1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン(例えば、ダイセル化学工業(株)製:商品名「セロキサイド2000」)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(例えば、ダイセル化学工業(株)製:商品名「EHPE−3150」)、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等の脂環式エポキシ化合物、環状脂肪族炭化水素に直接又は炭化水素を介して付加したエポキシ化合物、トリグリシジルイソシアヌレート等のヘテロ環含有のエポキシ化合物等の脂環式エポキシド等を挙げることができる。これらの中では、エポキシシクロヘキシル基を有するエポキシ化合物が好ましく、低粘度の液状化合物である3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートがより好ましい。
【0024】
脂環式エポキシ化合物を配合する場合、その配合量は、変性オルガノポリシロキサン100質量部に対して5〜80質量部が好ましく、10〜70質量部がより好ましく、20〜60質量部が更に好ましい。脂環式エポキシ化合物の配合量が前記範囲内であると、硬化物の耐熱性がより一層優れたものとなる。
【0025】
<その他の成分>
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、カチオン硬化剤の効果を阻害しない範囲で、公知のカチオン重合性化合物を添加することができる。カチオン重合性化合物としては、1分子中に少なくとも1個のカチオン重合性基を有する化合物を挙げることができる。
このようなカチオン重合性化合物としては、例えば、ビニルエーテル化合物、プロペニルエーテル、チオビニルエーテル化合物等の不飽和結合含有エーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物等の環状エーテル化合物、エチレンスルフィド(チイラン)化合物等の環状チオエーテル化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、スピロオルソエステル化合物等を挙げることができる。これらのカチオン重合性化合物の中では、ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物が好ましい。
これらのカチオン重合性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
カチオン重合性化合物の配合量は、変性オルガノポリシロキサン100質量部に対して0〜10質量部が好ましく、0〜5質量部がより好ましい。カチオン重合性化合物の配合量が前記範囲内であると、カチオン硬化性が向上すると共に、硬化させた組成物の耐熱性が優れたものとなる。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて前記必須成分以外の硬化触媒、硬化剤、硬化促進剤、反応性希釈剤、不飽和結合を有さない飽和化合物、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、熱重合開始剤、嫌気重合開始剤、重合禁止剤、無機充填剤や有機充填剤、カップリング剤等の密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤・分散剤、沈降防止剤、増粘剤・タレ防止剤、色分かれ防止剤、乳化剤、スリップ・スリキズ防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、防汚剤、帯電防止剤、及び導電剤(静電助剤)等を配合してもよい。
【0027】
<熱硬化性樹脂組成物の硬化方法>
本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化方法としては、通常用いられている方法を好適に使用することができる。例えば、成形する金型(樹脂金型を含む)へ注入する射出成形、コーティングにより所望の形状にした後、加熱硬化する方法を挙げることができる。
加熱硬化の硬化温度としては、80〜180℃が好ましく、100〜150℃がより好ましい。硬化温度が80℃以上であると、組成物が硬化不良となることがなく、180℃以下とすることにより組成物の透明度を向上させることができる。硬化時間は使用する熱硬化性樹脂組成物、カチオン硬化剤、硬化温度によって異なるが、60秒以下であることが好ましく、30秒以下であることがより好ましい。
本発明においては、さらに、60秒以内で硬化させた後、ポストキュア(ベーク)を行うことが好ましい。ポストキュアを行うことにより、硬化物が充分な硬度となるため、種々の用途に好適に用いることができる。ポストキュアの硬化時間としては、硬化温度にも依存するが、1〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。
【0028】
<熱板ゲルタイム>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、150℃における熱板ゲルタイムが30秒以下である。この熱板ゲルタイムが、30秒を超えると、硬化速度が遅く、成形時間が長くなってしまうため、生産効率が低下する。したがって、この150℃における熱板ゲルタイムは、5〜25秒がより好ましく、5〜20秒が更に好ましい。
なお、熱板ゲルタイムとは、所定温度の熱板上に組成物を一滴(約2g)置いた後、ゲル化が生じるまでの時間を測定した値である。なお、本明細書において「ゲル化」とは、熱板上の組成物に対してガラス棒を接触させた場合にタックがないことをいう。
【0029】
<ガラス転移温度>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、組成物を硬化させた後のガラス転移温度が100℃以上であるため、吸湿性を低く抑えることができる点で有利である。ガラス転移温度が100℃未満であると、吸湿性が大きくなったり、熱による変形が生じたりする可能性があり好ましくない。また、リフロー処理に供することが困難となる。したがって、前記ガラス転移温度は、120℃以上がより好ましく、150〜200℃が更に好ましい。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、100〜50,000mPa・sが好ましく、200〜10,000mPa・sがより好ましく、300〜5,000mPa・sが更に好ましい。粘度が前記範囲内である場合には、成形時の流動性が高くなるため、成形時に気泡が混入するという不具合を抑制することができる。
【0031】
[光学部材]
本発明の光学部材は、前記熱硬化性樹脂組成物を前述の方法等により硬化させてなるものである。前記熱硬化性樹脂組成物よりなる光学部材は、眼鏡レンズ、カメラ、デジタルカメラ、携帯電話、車載カメラ等のカメラレンズ、フィルター、回折格子、プリズム、光案内子、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ、ウォッチガラス、表示装置用のカバーガラス等の透明ガラス、カバーガラス等の光学用途、フォトセンサー、フォトスイッチ、LED、発光素子、光導波管、合波器、分波器、断路器、光分割器、光ファイバー接着剤等のオプトデバイス用途、LCD、有機EL、PDP等の表示素子用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、ディスプレイ保護膜、ディスプレイバックライト、導光板、反射防止フィルム、防曇フィルム等の表示デバイス用途等に用いることが好適である。
上記硬化物の形状としては、用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されず、異形品等の成形体、フィルム、シート、ペレット等の形態も挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例において、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0033】
<原料>
以下の実施例及び比較例において、使用した原料は以下のとおりである。
・変性オルガノポリシロキサン :下記合成例1〜3により合成したもの
・脂環式エポキシ化合物(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) :「セロキサイド2021P」(商品名)
ダイセル化学工業(株)製
・水添ビスフェノールAエポキシ化合物:「YX−8000」(商品名)
三菱化学(株)製
・カチオン硬化剤 :「サンエイドSI−80L」(商品名)
三新化学工業(株)製
【0034】
<合成例1〜3>
合成例1(変性オルガノポリシロキサン(A−1))
下記手順にしたがって、条件(1)が[q/(m+n+p+q+r)]=0.42となるように変性オルガノポリシロキサンの合成を行った。
すなわち、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン100g、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン61.6g(0.25mol)、メチルトリメトキシシラン6.8g(0.05mol)、ジメチルジメトキシシラン24.0g(0.2mol)、トリメチルメトキシシラン10.4g(0.1mol)を投入し、次いで1mol/Lの濃度の塩酸4gを蒸留水18gで希釈したもの(水1.2mol)を添加し、20℃で3時間攪拌しアルコキシシランの加水分解を行った。その後、無水酢酸280g(2.7mol)を添加し、40℃で12時間攪拌した。冷却後、系内に蒸留水を添加し内容物を洗浄し、水層を除去するという水洗浄操作を3回行い、さらに有機層のメチルイソブチルケトンを留去することにより目的とする変性オルガノポリシロキサン(A−1)を得た。粘度は10,000mPa・sであった。
【0035】
合成例2(変性オルガノポリシロキサン(A−2))
合成例1と同様の手順により、条件(1)が[q/(m+n+p+q+r)]=0.17となるように変性オルガノポリシロキサンの合成を行った。
すなわち、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランの量を24.6g(0.1mol)、メチルトリメトキシシランの量を27.2g(0.2mol)、に変更したこと以外は合成例1と同様に合成を行い、目的とする変性オルガノポリシロキサン(A−2)を得た。粘度は7,000mPa・sであった。
【0036】
合成例3(変性オルガノポリシロキサン(A−3))
合成例1と同様の手順により、条件(1)が[q/(m+n+p+q+r)]=0.67となるように変性オルガノポリシロキサンの合成を行った。
β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランの量を98.6g(0.4mol)、メチルトリメトキシシランの量を0g(0mol)、ジメチルジメトキシシランの量を12.0g(0.1mol)に変更したこと以外は合成例1と同様に合成を行い目的とする変性オルガノポリシロキサン(A−3)を得た。粘度は90,000mPa・sであった。
【0037】
<実施例1,2、比較例1〜4>
前記原料を表1に記載の配合によりエバポレーターを用いて混合し、各組成物を得た。次に下記の手順に従って各組成物の評価を行った。
(1)ガラス転移温度
熱硬化性樹脂組成物を用いてガラス注型により作製した。100℃で1時間加熱し、さらに150℃で2時間熱硬化させ試験片を得た。この試験片のガラス転移温度を下記条件に従って測定した。結果を表1に示す。
<ガラス転移温度測定条件>
試験片 :長さ10mm×幅5mm×厚さ5mm
測定装置 :「TMA/SS6000」
セイコーインスツルメンツ(株)製、熱機械的分析装置(TMA)
測定モード:圧縮(針入)、定荷重測定
昇温速度 :5℃/分
【0038】
(2)熱板ゲルタイム
150℃の熱板上に組成物を一滴(約2g)載置した後、組成物がゲル化するまでの時間を目視にて確認し、ゲル化するまでに要した時間を測定した。載置してからゲル化するまでの時間が30秒以下である場合を合格(P)、30秒を超えた場合を不合格(F)として評価した。結果を表1に示す。
【0039】
(3)光線透過率
厚さ1mmの試験片をガラス注型により作製し、100℃で1時間加熱し、さらに150℃で2時間熱硬化させた。試料としてこれを用い、JIS K7105に準拠して光線透過率を測定した。測定装置としては、分光光度計「UV−3100S」((株)島津製作所製)を用い、波長400nmで測定した。結果を表1に示す。
【0040】
(4)粘度
熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度をE型粘度計「RE−80U」(東機産業(株)製)によって10〜100rpmで測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1,2の結果より、前記条件(1)を満たす変性オルガノポリシロキサン(A−1)を配合した熱硬化性樹脂組成物は、透明性に優れていることが分かる。
また、粘度及び熱板ゲルタイムが合格基準を満たしていることから、成形を非常に短時間で効率よく行うことができる。
比較例1は、前記条件(1)が0.17である変性オルガノポリシロキサンを使用しているため、ガラス転移温度が低い。したがって、リフロー処理に使用することが難しい材料であることがわかる。
比較例2では、条件(1)が0.67である変性オルガノポリシロキサンを使用していることから、粘度が高い。したがって、型通りの成型品を得にくく、また、成形時間も長くなる。
比較例3は、変性オルガノポリシロキサンを使用していないため、光線透過率が低く、光学部材に使用することが難しい。
比較例4は、変性オルガノポリシロキサンを使用していないため、光線透過率が低く、さらに、熱板ゲルタイムが基準を満たしていないため、成形サイクルが長いことがわかる。
前記実施例及び比較例の結果から明らかなように、本発明の熱硬化性樹脂組成物が与える硬化物は、速硬化性、光線透過率、ガラス転移温後に優れると共に、成形サイクルが短い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記平均組成式(I)及び条件(1)を満たす変性オルガノポリシロキサンと、カチオン硬化剤とを含有し、150℃における熱板ゲルタイムが30秒以下であり、硬化後の組成物のガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
平均組成式(I):
(R13SiO1/2)m(R22SiO)n(R3SiO3/2)p(R4SiO3/2)q(SiO2)r
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数が1〜10である一価の炭化水素基を示し、R4は3,4−エポキシシクロヘキシル基を末端に有する炭素数1〜5のアルキル基を示す。m、n、p及びrは、正数又は0であり、qは正数である。)
条件(1):
m、n、p、q及びrは、0.3≦q/(m+n+p+q+r)≦0.6を満たす。
【請求項2】
4が、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、脂環式エポキシ化合物を含有する、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
脂環式エポキシ化合物が、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである、請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
変性オルガノポリシロキサン100質量部に対して、カチオン硬化剤を0.01〜2質量部配合し、脂環式エポキシ化合物を配合量5〜80質量部配合する、請求項3又は4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
25℃における粘度が100〜50,000mPa・sである、請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる光学部材。

【公開番号】特開2012−241118(P2012−241118A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113265(P2011−113265)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】