説明

熱硬化性樹脂組成物

【課題】低温溶融はんだ粒子を活用して低温でのリフロープロセスによる部品実装が可能であり、且つ室温での保存安定性が良好な導電性の熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
熱硬化性樹脂組成物に、融点が180℃以下のはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー、及びカルボン酸無水物を含むフラックス成分を含有させる。この熱硬化性樹脂組成物は室温下ではフラックス成分のフラックス作用が抑制され、粘度上昇が抑制される。またこの熱硬化性樹脂組成物を用い、低温加熱下で部品実装を行うと、はんだ粒子が溶融すると共に、フラックス成分のカルボン酸無水物が加水分解されてカルボキシル基が生成してフラックス作用を発揮し、はんだ粒子の表面の酸化層が除去されてはんだ粒子の一体化が促進され、これにより電気的接合性を確保することができる。また、熱硬化性樹脂バインダーが熱硬化し、その硬化物により機械的接合性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品実装のための導電ペースト、特に熱硬化性低温はんだペーストとして使用される熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線板等に半導体チップ等の電子部品を実装するにあたって、クリームはんだと呼ばれる材料が使用されている。クリームはんだは、はんだ粒子、フラックス成分及び溶剤を含む組成物である。このクリームはんだを使用した部品実装では、クリームはんだがリフロー炉中ではんだ粒子の融点以上の温度に加熱されることで、はんだ粒子が溶融すると共に、高温でフラックス成分によりはんだ粒子表面の酸化層が除去されて、はんだ粒子が一体化し、これにより配線板等の導体配線と電子部品との間の導通が確保される。このようなクリームはんだを使用した部品実装プロセス(はんだリフロープロセス)では多くの部品を一括して接続でき、生産性が高いものである。クリームはんだに添加されるフラックス成分としては、アビエチン酸に代表されるロジン成分材料や各種アミン及びその塩、さらにはセバシン酸、アゼライン酸、コルク酸等の脂肪族骨格に両末端カルボン酸を有する有機酸などが知られている。
【0003】
ところで、従来の代表的なはんだであるPb共晶はんだの融点は183℃であるが、昨今のPbを排除するトレンドにしたがって、いわゆる“Pbフリーはんだ”が使用され始めている。Pbフリーはんだの融点は一般的にPb共晶はんだよりも高く、例えばその代表格であるAg−Sn−Cu系はんだの場合はPb共晶はんだよりも30℃程度高いものである。このため、Pbフリーはんだを使用したはんだリフロープロセスでは、最高温度で215−260℃という高温での部品実装が行われている。
【0004】
このため、高温耐性の低い部品を含む電子部品を配線板等に実装する場合、その電子部品のみに別工程においてスポットはんだを施すことで実装したり、あるいは銀ペースト等を用いて実装したりする必要があり、生産性を著しく低下させていた。
【0005】
また、Biを添加するなどといったはんだ合金組成の変更により、融点を180℃以下としたPbフリーの低融点はんだも多く知られている。しかし、これを使用するには、以下の2つの課題があった。
【0006】
(1)上記低融点はんだは、Pb共晶はんだやAg−Sn−Cu系はんだに比較して、強度、靱性の点で充分でなく、はんだ接続部だけで部品を固定すると、欠落が起こったり、温度サイクルや衝撃によりはんだ部にクラックが起こりやすい。
【0007】
(2)従来のフラックス成分は、高温で解離し、金属酸化物に対して強い化学的作用を及ぼすものであり、低温のリフロー条件では効果的にはフラックス作用を発揮せず、溶融しても一体化が起こりにくい。
【0008】
そこで、上記(1)の課題を解決するために、バインダーとして熱硬化性樹脂を用い、このバインダーに低融点はんだ粒子を分散させてなるはんだペーストを使用することが考えられる。このはんだペーストを用いてはんだ接合を行えば、部品ははんだ接続部だけでなく、熱硬化性樹脂の硬化物によっても固定されるため、強度や靱性を大きく改善することができる。しかし、このようなはんだペースト中で低融点はんだ粒子と共存させ得る効果的なフラックス成分は知られていなかった。
【0009】
また、上記(2)の課題を解決するためには、Biのような特殊な低融点金属に対して、良好なフラックス特性を発揮する活性剤が必須である。しかし、先に挙げたアビエチン酸に代表されるロジン成分材料や各種アミン及びその塩、さらにはセバシン酸、アゼライン酸、コルク酸等の脂肪族骨格に両末端カルボン酸を有する有機酸などでは、180℃以下の低温で金属表面の酸化膜を還元させるためには、還元性が不足気味であり、十分な特性が得られていないというのが現状であった。しかも、これらの活性剤はBiやInのような低融点の特殊な金属類を含むはんだに対しては、その還元性は十分に満足出来るレベルではなかった。
【0010】
それで、本発明者らは、特許文献2に示すように、Biのような特殊な低融点金属に対して良好なフラックス特性を発揮する活性剤を見出し、これをはんだペースト等のフラックス成分とすることを提案している。
【0011】
特許文献2では、両末端にカルボキシル基を有する脂肪族骨格の化合物のうち、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸は分子量が小さく、180℃以下の温度でエポキシ樹脂に溶解することができ、フラックス成分として有効であることを示している。これらは、100℃以上の温度に晒されると溶融し、優れたフラックス作用(還元性)が顕在化する。更に、脂肪族骨格の化合物ではなくても、両末端にカルボキシル基を有し、且つ、主骨格に酸素原子、及び1個もしくは2個の硫黄原子が結合した構造の化合物は、脂肪族骨格の化合物と比べて、優れた還元性を有していることを見出した。具体的化合物としては、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、ジチオジグリコール酸が、優れたフラックス作用を発揮することを見出した。これらの化合物は130℃以下の低温でフラックス作用を発揮し、低融点金属の表面の酸化膜を効率的に還元し取り除くことができる。
【0012】
しかし、これらのジカルボン酸は、低温でのフラックス作用が優れるがゆえに、室温での保存性が十分ではない事が判明してきた。これらの化合物は融点が室温よりも高いため、室温では粉体(=固体)であり、本来は還元反応は起こり難い。しかし、これらの化合物が液状エポキシ中に分散して存在する場合、室温下でも親水性のジカルボン酸が液状エポキシ樹脂中に溶解してフラックス作用を発揮してしまい、はんだとの間で還元反応を生じて、増粘してしまうものである。このため、室温ではんだペーストを放置すると、その粘度が次第に上昇してしまい、このはんだペーストを室温下でディスペンスや印刷方式により塗布する際、はんだペーストの粘度が次第に上昇し、塗布性が悪化してしまい、取扱性に難があるという問題がある。
【特許文献1】特開2004−185884号公報
【特許文献2】特開2007−119750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、低温溶融はんだ粒子を活用して低温でのリフロープロセスによる部品実装が可能であり、且つ室温での保存安定性が良好な導電性の熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意研究の結果、室温下では活性が低く、且つ180℃以下に加熱された場合に優れたフラックス作用を発揮するフラックス成分を開発し、本発明の完成に至った。
【0015】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、融点が180℃以下のはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー、及びカルボン酸無水物を含むフラックス成分を含有することを特徴とする。
【0016】
このため、この熱硬化性樹脂組成物は室温下ではフラックス成分のフラックス作用が抑制され、粘度上昇が抑制される。またこの熱硬化性樹脂組成物を用い、低温加熱下で部品実装をおこなうと、はんだ粒子が溶融すると共に、フラックス成分のカルボン酸無水物が加水分解されてカルボキシル基が生成してフラックス作用を発揮し、はんだ粒子の表面の酸化層が除去されてはんだ粒子の一体化が促進され、これにより電気的な接合性を確保することができる。また、熱硬化性樹脂バインダーが熱硬化し、その硬化物により機械的な接合性を確保することができる。
【0017】
本発明においては、上記カルボン酸無水物は、下記構造式(1)〜(5)で示される化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
この場合、構造式(1)〜(3)で示されるカルボン酸無水物は、内部歪のある環状構造を有することから化学的および熱的に開環を生じやすく、また高分子型酸無水物である構造式(4)〜(5)で示されるカルボン酸無水物は分子内部に加水分解し易い“−(C=O)−O−(C=O)−”というエステル類似構造を有することから化学的および熱的に開環が生じやすい。このためこれらのカルボン酸無水物は加水分解反応の反応性が高く、フラックス成分が低温の加熱温度下で優れたフラックス作用を発揮する。
【0024】
本発明においては、上記カルボン酸無水物が、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物、チオジグリコール酸無水物、及び構造式(6)〜(7)で示される高分子型酸無水物から選択される少なくとも一種の化合物を含むことも好ましい。
【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
この場合、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物、チオジグリコール酸無水物は、環状構造の内部歪が特に大きいことから開環が特に生じやすく、また、構造式(6)〜(7)で示される高分子型酸無水物も分子内部に加水分解し易い“−(C=O)−O−(C=O)−”というエステル類似構造を有することから開環が特に生じやすい。このためこれらのカルボン酸無水物は加水分解反応の反応性が非常に高く、フラックス成分が低温の加熱温度下で特に優れたフラックス作用を発揮する。
【0028】
本発明においては、熱硬化性樹脂組成物が、窒素原子を有する複素環化合物、ポリアミン化合物及びそのアダクトから選択される少なくとも一種の化合物を含む反応促進剤を含有することも好ましい。
【0029】
この場合、低温の加熱温度下におけるカルボン酸無水物の加水分解反応が促進され、フラックス成分が低温の加熱温度下で更に優れたフラックス作用を発揮する。
【0030】
本発明においては、上記熱硬化性樹脂バインダーがエポキシ樹脂であることも好ましい。
【0031】
この場合、低温の加熱温度下におけるカルボン酸無水物の加水分解反応が促進され、フラックス成分が低温の加熱温度下で更に優れたフラックス作用を発揮する。
【0032】
本発明においては、熱硬化性樹脂組成物中の、熱硬化性樹脂バインダーに対するフラックス成分の含有量が1〜50phrの範囲であることも好ましい。
【0033】
この場合、低温の加熱温度下でフラックス成分が優れたフラックス作用を発揮すると共に、熱硬化性樹脂組成物の硬化物による機械的接合性を更に向上することができる。
【0034】
本発明においては、熱硬化性樹脂組成物中の、組成物全量に対する熱硬化性樹脂バインダーとフラックス成分の合計量の割合が5〜30質量%の範囲であることも好ましい。
【0035】
この場合、熱硬化性樹脂組成物の硬化物による機械的接合性と電気的接合性とを更に向上することができる。
【0036】
本発明においては、熱硬化性樹脂組成物が、カルボン酸無水物の加水分解を促進する反応促進剤が、カルボン酸無水物に対して5〜50質量%の範囲で含有していることも好ましい。
【0037】
この場合、熱硬化性樹脂組成物の室温下での粘度上昇を更に抑制することができ、また、低温での加熱温度下でカルボン酸無水物の加水分解反応が充分に促進されると共に、この熱硬化性樹脂組成物の急激な粘度上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、部品実装に使用した場合、優れた機械的接合性を発揮すると共に、実装時の加熱温度が低温であっても優れた電気的接合性を発揮し、しかも室温での粘度上昇が抑制されて保存安定性が高く、取扱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0040】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、はんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー、及びフラックス成分を含有する。
【0041】
はんだ粒子としては、融点が180℃以下のはんだ粒子が用いられる。このはんだ粒子の融点の下限は、80℃であることが好ましい。このはんだ粒子としては適宜のものが使用されるが、例えばSnをベースとした合金が挙げられ、具体的にはSnとBi、Zn、In等の金属との合金が挙げられる。
【0042】
熱硬化性樹脂組成物中のはんだ粒子の含有量は、70〜95質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が70質量%に満たないと熱硬化性樹脂組成物中のはんだ粒子の割合が少なくなり、はんだ粒子の溶融一体化が阻害されて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物による部品の電気的接合性が充分に発揮されなくなるおそれがある。また、この含有量が95質量%より大きいと組成物が高粘度化してしまい、塗布作業性に支障をきたすおそれがある。
【0043】
熱硬化性樹脂バインダーとしては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリエステル樹脂など、適宜の熱硬化性樹脂が使用される。また熱硬化性樹脂バインダーは、低い加熱温度でも充分な補強性(機械的接合性)を発揮して部品実装を可能にするために、前記加熱温度でも十分な硬化性を有する必要がある。このような低温硬化性及び接着性の観点からは、熱硬化性樹脂バインダーはエポキシ樹脂であることが特に好ましい。エポキシ樹脂を熱硬化性樹脂バインダーとして用いるにあたっては、通常は熱硬化性樹脂バインダーが液状エポキシ樹脂を含有し、さらに硬化剤を含有し、さらに必要に応じて硬化促進剤等を含有することが好ましい。
【0044】
そして、本実施形態では、フラックス成分がカルボン酸無水物を含む。カルボン酸無水物は分子中に酸無水物構造“−(C=O)−O−(C=O)−”を有しており、還元性を発揮するカルボキシル基を有していないため、本来、フラックス作用を起こさず、例えばクリームはんだのフラックスとしての作用は期待できない。しかし、本実施形態のような熱硬化性樹脂バインダーを含む熱硬化性樹脂組成物中では、熱硬化性樹脂バインダー中に微少量の水分が含まれるため、180℃以下の低温はんだが溶融する低温の加熱温度下でカルボン酸無水物の加水分解反応が促進されてカルボキシル基が生成し、フラックス作用を発揮する。一方、室温下ではカルボン酸無水物の加水分解反応は起こりにくく、フラックス作用が抑制されるものである。特に熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂が使用される場合は、この液状エポキシ樹脂が微少量の水分を含有しやすいため、低温の加熱温度下でのカルボン酸無水物の加水分解が促進される。
【0045】
カルボン酸無水物としては適宜の化合物が使用されるが、特に上記構造式(1)〜(5)で示される化合物から選択される少なくとも一種の化合物が好ましい。
【0046】
これらの化合物のうち、構造式(1)〜(3)で示される化合物は、二つのカルボキシル基が無水物化して閉環した構造を有する。これらの低分子量のカルボン酸無水物は、構造的に環を形成する原子の数が少ないため、内部歪が大きく、化学的および熱的に開環を生じやすい。このためこれらのカルボン酸無水物は加水分解反応の反応性が高く、低温の加熱温度下で加水分解反応が進行し、優れたフラックス作用を発揮する。
【0047】
これらの化合物のうち、構造式(1)で示される化合物としては、特にコハク酸無水物(n=0)、グルタル酸無水物(n=1)、アジピン酸無水物(n=2)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。また、構造式(2)で示される化合物としては、特にジグリコール酸無水物(n=1)が好ましい。また、構造式(3)で示される化合物としては、特にチオジグリコール酸無水物(n=1)が好ましい。これらの酸無水物は特に内部歪が大きく、化学的および熱的に開環が特に生じやすく、加水分解反応の反応性が特に高いものである。
【0048】
また、構造式(4),(5)で示される化合物は、高分子タイプの化合物であり、両末端にカルボキシル基が存在するが、分子鎖中に“−(C=O)−O−(C=O)−”というエステル類似の酸無水物構造を有している。
【0049】
これらの構造式(4),(5)で示されるカルボン酸無水物は、加水分解反応によりカルボキシル基を生じさせることで、フラックス作用を発揮する。すなわち例えば構造式(1)〜(3)に示す化合物では加水分解反応により開環してカルボキシル基が生じ、フラックス作用を発揮する。また構造式(4),(5)に示す化合物では、両末端にカルボキシル基を有するが、高分子タイプの化合物であるためカルボキシル基の当量が大きく、このままでは充分なフラックス作用は発揮せず、フラックス成分としての働きは顕在化しない。この構造式(4),(5)に示す化合物では加水分解により分子鎖中の無水物構造“−(C=O)−O−(C=O)−”が開裂してカルボキシル基の数が増加して充分なフラックス作用を発揮し、フラックス成分としての働きが顕在化する。また高分子型酸無水物である構造式(4),(5)で示されるカルボン酸無水物は分子内部に加水分解し易い“−(C=O)−O−(C=O)−”というエステル類似構造を有することから化学的および熱的に開環が生じやすい。このためこれらのカルボン酸無水物は加水分解反応の反応性が高く、フラックス成分が低温の加熱温度下で優れたフラックス作用を発揮する。
【0050】
構造式(4)に示す化合物としては、特に式中のmが10である上記構造式(6)に示す化合物が好ましい。また構造式(5)に示す化合物としては、特に式中のmが6である上記構造式(7)に示す化合物が好ましい。これらのカルボン酸無水物は加水分解反応の反応性が特に高いものである。
【0051】
フラックス成分に含まれるカルボン酸無水物は、一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。また、フラックス成分はカルボン酸無水物のみからなることが好ましいが、カルボン酸無水物以外の一般にフラックスとして用いられる化合物を含んでいてもよい。
【0052】
熱硬化性樹脂組成物中のフラックス成分の含有量は適宜設定されるが、特に熱硬化性樹脂バインダーに対するフラックス成分の割合が1〜50phrの範囲であることが好ましい。この含有量が1phrに満たないとフラックス成分の濃度が薄すぎて充分なフラックス作用を発揮することができなくなるおそれがあり、またこの含有量が50phrよりも大きいと熱硬化性樹脂組成物の硬化物による部品の機械的接合性が充分に発揮されなくなるおそれがある。
【0053】
熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂バインダーとフラックス成分の合計量は、熱硬化性樹脂組成物全量に対して5〜30質量%の範囲であることが好ましい。この割合が5質量%に満たないと硬化前の熱硬化性樹脂組成物の流動性が不充分となったり、熱硬化性樹脂組成物の硬化物中でのボイドの発生量が増大したりすることで、熱硬化性樹脂組成物の硬化物による部品の機械的接合性が充分に発揮されなくなるおそれがある。またこの割合が30質量%より大きいと、熱硬化性樹脂組成物中のはんだ粒子の割合が少なくなり、はんだ粒子の溶融一体化が阻害されて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物による部品の電気的接合性が充分に発揮されなくなるおそれがある。
【0054】
また、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、カルボン酸無水物の加水分解反応を促進させる酸性物質、塩基性物質等の反応促進剤を含有することが好ましい。
【0055】
反応促進剤としては適宜の化合物が使用されるが、窒素原子を含む複素環化合物、ポリアミン化合物及びそのアダクトは、カルボン酸無水物の加水分解反応の促進作用が高く、反応促進剤として特に有効である。ポリアミン化合物のアダクトとは、高反応性の3級アミンの水素原子に他の化合物を反応させて得られる化合物を意味する。具体的な反応促進剤としては、各種イミダゾール類およびその塩、DBU(ジアザビシクロウンデセン)やDBN(ジアザビシクロノネン)とその塩、また各種のアミン化合物及びそのアダクト等が挙げられる。これらの化合物は、一般的にエポキシ樹脂組成物の硬化反応を促進する硬化促進剤として用いられる化合物と重複している。このため、熱硬化性樹脂バインダーとしてエポキシ樹脂が使用される場合、これらの反応促進剤は、カルボン酸無水物の加水分解後、生成するカルボン酸とエポキシ樹脂との反応をも促進し、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の架橋密度向上にも寄与する。
【0056】
熱硬化性樹脂組成物中の反応促進剤の含有量は、低温での加熱温度下でカルボン酸無水物の加水分解反応が充分に促進されてフラックス作用が発揮されるように適宜調整される。但し、この含有量が多すぎると室温下でもカルボン酸無水物の加水分解反応を促進してしまって粘度上昇を引き起こし、室温下での熱硬化性樹脂組成物の保存安定性が充分に確保できなくなるおそれがあり、また特に熱硬化性樹脂バインダーとしてエポキシ樹脂が用いられる場合にエポキシ樹脂の硬化反応が過度に促進され、カルボン酸無水物の加水分解反応と並行してエポキシ樹脂の硬化反応が進行してしまい、粘度上昇の原因となるおそれもある。このため、反応促進剤の含有量は、カルボン酸無水物に対して5〜50質量%であることが好ましい。
【0057】
また、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、本発明の目的に反しない限り、上記以外の、通常用いられる改質剤、添加剤等を含有してもよい。例えばこの熱硬化性樹脂組成物は、粘度低減や流動性付与等の目的のため、低沸点の溶剤や可塑剤を含有してもよい。
【0058】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、例えばはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー及びフラックス成分、並びに必要に応じて種々の添加物等を混合し、混練することにより製造することができる。この熱硬化性樹脂組成物は、スクリーン印刷法等により塗布可能な程度の適宜の粘度に調製されることが好ましい。
【0059】
この熱硬化性樹脂組成物は、上記のとおりカルボン酸無水物を含むフラックス成分を含有するため、室温下ではフラックス成分のフラックス作用が抑制される。このため、室温下での熱硬化性樹脂組成物の粘度上昇が抑制され、保存安定性が高いものである。
【0060】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を用いて、導体配線を有する基板等に電子部品を実装することができる。例えば電子部品として表面実装用のチップ部品を用い、基板としてプリント配線板を用いる場合に、熱硬化性樹脂組成物をスクリーン印刷法等によりプリント配線板上のパッドに塗布し、このプリント配線板上にチップ部品を、このチップ部品の端子と前記パッドの位置が合致するように配置する。この状態で、チップ部品が配置されたプリント配線板をリフロー炉内で加熱するはんだリフロープロセス等により、熱硬化性樹脂組成物を低温の加熱温度まで加熱する。この加熱温度は、はんだ粒子が充分に溶融し、且つ熱硬化性樹脂バインダーの硬化反応が充分に進行する適宜の温度に設定される。また、この加熱温度は、はんだ粒子が溶融しきる前にエポキシ樹脂の硬化反応が進行してはんだ粒子の凝集が阻害されるようなことがないように設定されることが好ましい。そのための好ましい加熱温度は、はんだの粒子の融点よりも10℃高い温度以上であり、且つ前記融点よりも60℃高い温度以下である。例えばはんだ粒子がJIS Z3282で規定されるBi58Sn42のはんだ組成を有する場合、その融点は139℃であり、この場合の加熱温度は140〜200℃の範囲が好ましく、150〜180℃の範囲が特に好ましい。
【0061】
このように熱硬化性樹脂組成物が加熱されると、はんだ粒子が溶融すると共に、熱硬化性樹脂組成物中のフラックス成分に含まれるカルボン酸無水物が加水分解反応されてカルボキシル基が生成し、フラックス成分がフラックス作用を発揮する。このフラックス作用によりはんだ粒子の表面の酸化層が除去され、はんだ粒子の一体化が促進されると共にはんだ粒子がパッド及び端子とも溶融接合し、チップ部品の端子とのプリント配線板のパッドとの間の電気的接合がなされる。更に、熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂バインダーの熱硬化反応が進行し、チップ部品とプリント配線板との機械的接合がなされる。これにより、プリント配線板にチップ部品が実装され、プリント回路板が作製される。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0063】
(実施例1)
JIS Z3282に規定されたBi58Sn42のはんだ組成を有するはんだ合金を用い、このはんだ合金から、常法に従い、はんだ粒子を作製した。はんだ粒子の平均粒径は15μm、融点は139℃であった。
【0064】
このはんだ粒子85重量部、液状エポキシ樹脂(東都化成製「YD128」)10重量部、反応促進剤(変性脂肪族ポリアミン;富士化成工業製「フジキュアFXB−1050」)1重量部、コハク酸無水物4重量部を配合し、ディスパーを用いて均一に混合して、ペースト状の熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0065】
(実施例2)
実施例1においてフラックス成分としてグルタル酸無水物を用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0066】
(実施例3)
実施例1においてフラックス成分としてジグリコール酸無水物を用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0067】
(実施例4)
実施例1において、フラックス成分としてチオジグリコール酸無水物を用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0068】
(実施例5)
実施例1において、フラックス成分として上記構造式(6)に示す高分子型酸無水物(岡村製油製「SL−12AH」)を用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0069】
(実施例6)
実施例1において、フラックス成分として上記構造式(7)に示す高分子型酸無水物(岡村製油製「IPU−22AH」)を用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0070】
(実施例7)
実施例1において、反応促進剤としてジアザビシクロウンデセン(DBU)を0.5重量部、フラックス成分としてグルタル酸無水物4.5重量部用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0071】
(実施例8)
実施例1において、反応促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)を1.5重量部、ジグリコール酸無水物3.5重量部用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0072】
(実施例9)
実施例1において、はんだ粒子の配合量を95重量部、液状エポキシ樹脂の配合量を3重量部、反応促進剤の配合量を0.5重量部、コハク酸無水物の配合量を1.5重量部に変更した。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0073】
(実施例10)
実施例1において、はんだ粒子の配合量を70重量部、液状エポキシ樹脂の配合量を25重量部、反応促進剤の配合量を1.5重量部、コハク酸無水物の配合量を3.5重量部に変更した。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0074】
(実施例11)
実施例1において、フラックス成分としてジグリコール酸無水物を0.5重量部、上記構造式(6)に示す高分子型酸無水物(岡村製油製「SL−12AH」)を0.5重量部用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同じはんだ粒子85重量部、液状エポキシ樹脂(東都化成製「YD128」)10重量部、フラックス成分としてセバシン酸3重量部、硬化剤としてアミキュアPN23(味の素ファインテクノ製)2重量部を配合し、ディスパーを用いて均一に混合して、ペースト状の熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0076】
(比較例2)
フラックス成分を配合しない以外は実施例1と同一の条件で、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0077】
(比較例3)
液状エポキシ樹脂を配合しない以外は実施例1と同一の条件で、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0078】
(比較例4)
実施例1におけるはんだ粒子に代えて、銀粒子(融点950℃)を85重量部用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0079】
(保存安定性評価)
各実施例及び各比較例により調製された直後の熱硬化性樹脂組成物の粘度を、B型粘度計で測定した。この熱硬化性樹脂組成物を室温で48時間放置した後、再びその粘度をB型粘度計で測定した。後者の測定値を前者の測定値で除することにより粘度比を算出した。
【0080】
(はんだ一体化性評価)
Auメッキされたパッドを有するFR−4タイプのプリント配線板を用意し、このプリント配線板上のパッドに上記熱硬化性樹脂組成物をスクリーン印刷法により塗布した。パッド上の熱硬化性樹脂組成物の塗布厚みは約70μmであった。
【0081】
このプリント配線板上にチップ部品として半導体チップを配置すると共に、この半導体チップの端子の位置をパッドの位置と合致させて、端子とチップとの間に熱硬化性樹脂組成物を介在させた。
【0082】
この半導体チップが配置されたプリント配線板をオーブン内で150℃で10分間加熱することで、半導体チップをプリント配線板に実装し、プリント回路板を得た。
【0083】
このプリント回路板における熱硬化性樹脂組成物の硬化物を顕微鏡で観察し、この硬化物中におけるはんだの一体化の程度を下記のようにして評価した。
◎:全てのはんだ粒子が一体化して球体となり、その周りにはんだ粒子を含まない硬化樹脂の層が取り囲む完全な二層分離構造が確認される。
○:ほとんどのはんだ粒子が一体化し、その周りに若干の粒子を含む硬化樹脂の層が確認される。
△:かなりのはんだ粒子が球状に集まるが、その周りに多くのはんだ粒子を含む硬化樹脂の層が確認される。
×:はんだ粒子の一体化が確認されない。
【0084】
(タック性評価)
熱硬化性樹脂組成物の硬化物の硬化の程度を確認するため、上記はんだ一体化性評価のために作製されたプリント回路板における熱硬化性樹脂組成物の硬化物の表面におけるタック性の有無を、手触試験により確認した。
【0085】
(部品接続抵抗値評価)
チップ部品として、上記半導体チップに代えて0Ωの1608チップ抵抗器(錫電極)を使用し、このチップ抵抗器を、上記はんだ一体化性評価の場合と同様にしてプリント配線板に実装した後、更に乾燥機で150℃で30分間加熱するアフターベークを施した。
【0086】
このようにして得られたプリント回路板における、チップ抵抗器が接続されているパッド間の抵抗値を測定した。
【0087】
(チップ部品シェア強度)
上記部品接続抵抗値評価のために作製されたプリント回路板におけるチップ抵抗器のシェア強度を、ボンドテスター(dage社製のシリーズ4000)を用いた揃断引き剥がし試験により測定した。
【0088】
(評価結果)
以上の評価試験の結果を下記表1に示す。
【0089】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が180℃以下のはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー、及びカルボン酸無水物を含むフラックス成分を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
上記カルボン酸無水物が、下記構造式(1)〜(5)で示される化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項3】
上記カルボン酸無水物が、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物、チオジグリコール酸無水物、及び構造式(6)〜(7)で示される高分子型酸無水物から選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化6】

【化7】

【請求項4】
窒素原子を有する複素環化合物、ポリアミン化合物及びそのアダクトから選択される少なくとも一種の化合物を含む反応促進剤を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
上記熱硬化性樹脂バインダーがエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
熱硬化性樹脂バインダーに対するフラックス成分の含有量が1〜50phrの範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
組成物全量に対する熱硬化性樹脂バインダーとフラックス成分の合計量の割合が5〜30質量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
カルボン酸無水物の加水分解を促進する反応促進剤が、カルボン酸無水物に対して5〜50質量%の範囲で含有していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−144150(P2010−144150A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326415(P2008−326415)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】