説明

熱硬化性樹脂複合材料及びその製造方法

【課題】 黒鉛を薄層化し、熱硬化性樹脂中に均一に分散させることにより、機械的強度及び高温での耐摩耗性の優れた熱硬化性樹脂複合材料を提供する。
【解決手段】 黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を熱硬化性樹脂と混合してなることを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料、およびその製造方法。有機化黒鉛は、熱硬化性樹脂に混合させて、層の厚さが0.1〜100nm、層の長さが100nm〜100μm、アスペクト比が100〜1,000,000に薄層化されてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度及び高温での耐摩耗性に優れ、摩擦材、成形材料、機械部品、構造用部材、構造用接着剤などに応用することができる熱硬化性樹脂複合材料に関するものであり、更に詳しくは黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛フィラーが薄層化し均一に分散されてなる熱硬化性樹脂複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アスペクト比(粒子の大きさ/厚さ)の大きい層状粘土鉱物を薄層化して樹脂中に均一に分散し、機械的強度や耐熱性、ガスバリア性などの樹脂特性を向上させることが行われている。また、上記特性向上の効果は、アスペクト比の大きいほど有利である(例えば、特許文献1参照)。層状ケイ酸塩および可塑剤を含有し、層状ケイ酸塩が微細に分散されている複合材料が開示されており、これはスメクタン系粘土鉱物などの層状ケイ酸塩の層間がカチオン系界面活性剤(4級アンモニウム塩など)で有機化処理して微細に分散させる手段が示されている(特許文献2参照)。また、ナノサイズのオーダーで炭素材を分散したコンポジット材料として、樹脂とこの樹脂中に分散された層状炭素とで構成されている複合樹脂組成物であって、前記層状炭素が修飾又は可溶化処理されている複合樹脂組成物が示されている(特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−330534号公報
【特許文献2】特開2001−26724号公報
【特許文献3】特開2003−268245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した層状粘土鉱物を薄層化して樹脂中に均一分散した複合樹脂材料は、強度、弾性率、熱変性温度の向上などの機械的性質の改善、難燃性やガスバリア性の向上が得られるとされ、層状ケイ酸塩および可塑剤を含有し、層状ケイ酸塩が微細に分散されている複合材料では、マトリックスの物性が飛躍的に向上すると言われているが、いずれも機械的性質の改善は大きいものではない。また、樹脂とこの樹脂中に分散された、修飾又は可溶化処理されている層状炭素とで構成されている複合樹脂組成物では、層状炭素が修飾又は可溶化処理される関係で、炭素原料として難黒鉛化前駆体や易黒鉛化性炭素前駆体、炭化物などが使用されるために、物理的特性、機械的特性、熱的特性がそれほど向上しなかった。
【0005】
前記特許文献3の修飾又は可溶化処理されている層状炭素を樹脂中に分散させた複合樹脂組成物では、層状炭素として黒鉛を使用することができるかのように説明しているが、通常粉粒状として使用するの記述があるように、薄層化が十分ではなく、そのための手段が開発されていない。
そこで、構造上強固な層状構造を有する物質として知られている黒鉛を処理して層の間で離間した構造のものとすることができれば、さらにアスペクト比が大きく、特性向上の効果が大きい層状物質としての黒鉛が得られるはずである。通常、層状粘土鉱物のアスペクト比は最大でも500程度であるのに対して、黒鉛は薄層化によりそれ以上のアスペクト比を得ることが可能で、大きな特性向上が期待できる。
しかしながら、黒鉛層の積層構造は六員環構造のファンデルワールス力が支配的で、表面特性が不活性であるため、薄層化が非常に困難である。また、アスペクト比の大きな黒鉛ほど薄層化が困難となるため、実用化されていなかった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、黒鉛を薄層化し、熱硬化性樹脂中に均一に分散させることにより、機械的強度及び高温での耐摩耗性の優れた熱硬化性樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記した従来の技術の問題点を解決すべく鋭意研究を行い、黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を生成し、この有機化黒鉛を熱硬化性樹脂と混合すると、黒鉛が薄層化して熱硬化性樹脂中に均一に分散され、熱硬化性樹脂複合材料の機械的強度及び高温での耐摩耗性が向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の構成からなるものである。
(1)黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を熱硬化性樹脂と混合してなることを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料。
(2)有機化黒鉛は、熱硬化性樹脂に混合させて、層の厚さが0.1〜100nm、層の長さが100nm〜100μm、アスペクト比が100〜1,000,000に薄層化されてなることを特徴とする前記(1)記載の熱硬化性樹脂複合材料。
【0009】
(3)黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を熱硬化性樹脂の前駆体と混合して重合反応を行うことを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料の製造方法。
(4)未硬化の熱硬化性樹脂を熱溶融、もしくは溶剤で溶解し、それに、黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を添加してニーダー又はロール等の混練機を用いて混練することを特徴とする前記(3)記載の熱硬化性樹脂複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、黒鉛が薄層化し均一分散した熱硬化性樹脂複合材料を得ることができる。また、従来よりもアスペクト比の大きい黒鉛を添加するため、熱硬化性樹脂複合材料の機械的強度を向上し、さらに黒鉛の高耐熱性による酸化劣化の抑制効果により、高温での耐摩耗性を向上させることが可能になり、機械部品や構造材料の高温寿命向上に貢献する。
黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を作製することができる。この有機化黒鉛は熱硬化性樹脂と混合する際に、均一に混合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の構成をより詳細に説明する。
本発明の複合材料における熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(カシュー、ゴム、シリコーン、フェノールアラルキル、リン、ホウ素、ポリビニルブチラール、アクリル、エポキシ、メラミン、オイルなどによる各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリゼンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂を1種又は2種以上混合して使用する。
また、薄層化された黒鉛の出発原料として用いる黒鉛は、黒鉛層面の広がりが大きく結晶性の高い黒鉛が好ましい。たとえば、天然リン状黒鉛や高配向性熱分解黒鉛などが好ましい。
【0012】
本発明の複合材料は、上記の熱硬化性樹脂と、該樹脂中に薄層化して均一に分散された黒鉛とからなる。ここで、熱硬化性樹脂中に分散した黒鉛の薄層化の範囲としては、層厚さ0.1nm〜100nm、アスペクト比100〜1,000,000である。黒鉛の平均粒径(平板方向)としては100nm〜100μmの範囲が好適である。
熱硬化性樹脂に対する黒鉛の配合量としては、0.1〜20wt%であることが望ましい。これは、この範囲よりも少ない場合は、添加の効果が発現し難く、反対に多い場合には、樹脂中への黒鉛の分散が困難となるからである。
【0013】
次に、本発明の熱硬化性複合材料を製造する方法について説明する。この製造方法は、黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を作製する工程と、得られた黒鉛層間化合物を有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を作製する工程と、得られた有機化黒鉛を熱硬化性樹脂の前駆体と混合して重合反応を行う重合工程とからなる。
【0014】
先ず、黒鉛の酸による酸化処理により黒鉛層間化合物を作製する工程について説明する。
上記の黒鉛層間化合物の作製方法としては、下記の方法が挙げられる。
(a)浸漬法、溶媒法
層間挿入したい低分子物質を含む溶液に黒鉛を浸漬する方法。
(b)蒸気反応法
層間挿入したい低分子物質の蒸気を含む蒸気に黒鉛を接触させる方法。
(c)電気化学的方法
黒鉛電極を層間挿入したい物質を含む液中で通電反応させる方法。
(d)加圧法
層間挿入したい低分子物質の粉末と黒鉛を混合・加圧して反応させる方法。
なお、層間挿入させる低分子物質としては、以下のものが挙げられる。
酸、ハロゲン及びハロゲン化物、金属酸化物、
アルカリ及びアルカリ土類金属、遷移金属及び遷移金属化合物、
上記物質と溶媒との混合物。
【0015】
次に、有機化黒鉛の作製方法について説明する。
黒鉛層間に有機化合物分子を挿入する手段として、有機化剤溶液に浸漬する方法を使用している。
本発明において好ましく使用される有機化剤としては、下記のものが挙げられる。
アルキルアミンとその塩・・・ドデシルアミン、オクタデシルアミンなど。
アルキルアンモニウムとその塩・・・ドデシルトリメチルアンモニウム塩など。
アルキルジアミン・・・・・・1,12−ドデカンジアミンなど。
アルキルアミノカルボン酸・・・12−アミノドデカン酸など。
機械的強度の向上を目的として黒鉛に酸処理などを施し、黒鉛末端に極性官能基を導入して熱硬化性樹脂と黒鉛の結合力を向上させることが有効である。その他、各種カップリング剤や界面活性剤による処理や、プラズマ・コロナ処理などによる表面改質技術を合わせて用いることも有効である。
【0016】
続いて、有機化黒鉛と熱硬化性樹脂の重合工程について説明する。熱硬化性樹脂中への有機化黒鉛の混合方法としては、下記の方法を用いることができる。
(a)有機化黒鉛を熱硬化性樹脂の前駆体と混合すると同時に樹脂の重合反応を行い、樹脂の重合とともに黒鉛分散を行う方法。
(b)熱硬化性樹脂の初期縮合物又は前駆体を熱溶融、もしくは溶剤で溶解し、有機化黒鉛を添加してニーダーやロールなどを用いて混練する方法。
【0017】
次に、前記混合工程で得られた混合物中の初期縮合物の硬化反応を行い複合材料を得る。
この反応は、前記混合物そのままで行ってもよいが、該混合物を極性溶媒中に分散させて行ってもよい。
【0018】
上記極性溶媒としては、水、エーテル、二硫化炭素、四塩化炭素、グリセリン、グリコール、トルエン、アニリン、ベンゼン、クロロホルム、N,N′−ジメチルホルムアミド、フェノール、テトラヒドロフラン、アセトン、プロピレンカーボネート、酢酸、メタノール、エタノール、プロパノール、メチルエチルケトン、ピリジン、ベンゾニトリル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン、ニトロメタン等が挙げられ、これらを1種または2種以上混合して使用する。
上記の重合は、前記混合物に重合開始剤あるいは熱や光を加える等により行う。また、重合の種類は、どのような重合方法でもよく、それぞれの重合形式に適した開始剤を用いればよい。
【0019】
上記の混合材料は、直接射出成形や加熱加圧成形などで成形して利用してもよいし、予め他の高分子と混合して所定の混合割合としてもよい。また、上記の重合反応を所定の型中で進行させて成形体を得てもよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
【0021】
実施例1 熱硬化性樹脂複合材料の製造
平均粒径20μmのリン状黒鉛50gを濃硫酸800g、濃硝酸50gの混酸に一昼夜浸漬した後、溶液をろ過して残渣Aを得た。
残渣Aを1wt%ドデシルアミン水溶液10リットルに投入して30分撹拌した後、溶液をろ過して黒鉛層の層間にドデシルアミン分子が挿入した有機化黒鉛200gを得た。
容量1000mlの四つ口フラスコに有機化黒鉛200g(リン状黒鉛50g当量)、フェノール500g、ホルムアルデヒド324g、シュウ酸二水和物〔(COOH)・2HO〕1.8gと消泡剤(金属石鹸)0.2mlを投入し、撹拌しながら還流下(100℃)で8時間重合反応を行った。重合反応の後、減圧蒸留により水と未反応物の除去を行い、得られた粘性液体をバットに移して自然冷却し熱硬化性樹脂複合材料を得た。
【0022】
比較例1 従来法による熱硬化性樹脂の製造
容量1000mlの四つ口フラスコにフェノール500g、ホルムアルデヒド324g、シュウ酸二水和物1.8gと消泡剤0.2mlを投入し、撹拌しながら還流下(100℃)で8時間重合反応を行った。
重合反応の後、減圧蒸留により水と未反応物の除去を行い、得られた粘性液体をバットに移して自然冷却し熱硬化性樹脂材料を得た。
【0023】
比較例2 黒鉛配合熱硬化性樹脂の製造
容量1000mlの四つ口フラスコにリン状黒鉛50g、フェノール500g、ホルムアルデヒド324g、シュウ酸二水和物1.8gと消泡剤0.2mlを投入し、撹拌しながら還流下(100℃)で8時間重合反応を行った。
重合反応の後、減圧蒸留により水と未反応物の除去を行い、得られた粘性液体をバットに移して自然冷却し黒鉛配合熱硬化性樹脂材料を得た。
【0024】
(熱硬化性樹脂材料の構造評価)
実施例1〜比較例2で作製した樹脂複合材料を粉砕して粉末X線回折測定を行い、黒鉛層の積層に由来する回折ピーク(2θ=26.5°)のピーク強度を比較した。結果を第1表に示す。実施例1の複合材料には、2θ=26.5°のピークがないことから、黒鉛が十分に薄層化していることを確認した。
【0025】
【表1】

【0026】
(熱硬化性樹脂材料の耐摩耗性評価)
(1)平均粒径30μmに粉砕した樹脂複合材料5gと炭酸カルシウム11gを混合した粉末を、熱成形型に投入し加圧力2.5t、150℃で10分間加熱圧縮成形して20×40×10mmのテストピースを作製した。
(2)テストピースは、摩擦試験機を用いて下記条件で温度別に摩耗試験を行った。
・相手材:鋳鉄
・摩擦温度(相手材温度):100℃、200℃、300℃
・摩擦回数:500回
・初速度:15m/sec
・減速度:2.94m/s
【0027】
温度別摩耗試験の結果から摩耗率(単位運動エネルギー当りの摩耗体積)を算出し比較した。結果を第2表に示す。実施例1の複合材料は200℃、300℃での摩耗率が小さく、高温時の耐摩耗性に優れていることがわかる。
【0028】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の熱硬化性樹脂複合材料は、アスペクト比の大きい薄層化黒鉛が、熱硬化性樹脂中に均一に分散しているので、複合材料の機械的強度が向上するとともに、高温での耐摩耗性も優れているので、摩擦材、成形材料、機械部品、構造用部材等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を熱硬化性樹脂と混合してなることを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料。
【請求項2】
有機化黒鉛は、熱硬化性樹脂に混合させて、層の厚さが0.1〜100nm、層の長さが100nm〜100μm、アスペクト比が100〜1,000,000に薄層化されてなることを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂複合材料。
【請求項3】
黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を熱硬化性樹脂の前駆体と混合して重合反応を行うことを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項4】
未硬化の熱硬化性樹脂を熱溶融、もしくは溶剤で溶解し、それに、黒鉛に化学的処理を施して、黒鉛層間に低分子物質を挿入した黒鉛層間化合物を生成させた後に、有機化剤溶液に浸漬して黒鉛層間に有機化合物分子が挿入された有機化黒鉛を添加してニーダー又はロール等の混練機を用いて混練することを特徴とする請求項3記載の熱硬化性樹脂複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2006−199813(P2006−199813A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12852(P2005−12852)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】