熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法
【課題】 水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れた熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法を提供する。
【解決手段】 熱移動システムは、水系冷却液Lを収容し、密閉された冷却流路3と、水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路30と、循環ポンプ100と、水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域82と、導入口83と、排出口84とを有した容器と、第1開閉部と、第2開閉部とを備えている第1開閉部は、ガス充満領域82に不活性ガスを導入可能な開状態と、容器の気密性を保持可能な閉状態とに切替え可能である。第2開閉部は、ガス充満領域82から外部にガスを排出可能な開状態と、容器の気密性を保持可能な閉状態とに切替え可能である。
【解決手段】 熱移動システムは、水系冷却液Lを収容し、密閉された冷却流路3と、水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路30と、循環ポンプ100と、水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域82と、導入口83と、排出口84とを有した容器と、第1開閉部と、第2開閉部とを備えている第1開閉部は、ガス充満領域82に不活性ガスを導入可能な開状態と、容器の気密性を保持可能な閉状態とに切替え可能である。第2開閉部は、ガス充満領域82から外部にガスを排出可能な開状態と、容器の気密性を保持可能な閉状態とに切替え可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱移動システムとしてのX線管装置は、陰極及び陽極ターゲットを真空外囲器内に収納した回転陽極型X線管、回転陽極型X線管を収納するハウジング、ステータなどを備えている。このような回転陽極型X線管は、陽極ターゲットなどが発生する熱を放出する場合、これを冷却するための冷却機構を備えている。
【0003】
冷却機構を備えたX線管装置としては、以下のような提案が成されている。
回転陽極型X線管及びステータを絶縁油中に浸し、発熱が大きい部分たとえば陽極ターゲット近傍に設けられる反跳電子捕捉体や真空外囲器の一部に設けられた流路に冷却性能に優れた水系冷却液を流して冷却し、この冷却液をこれら流路と熱交換器との間で循環させるX線管装置。
【0004】
水系冷却液を使用し、循環冷却機構を備えたX線管装置は、例えば、特許文献1乃至3に開示されている。循環冷却機構は、専用の熱交換器、循環ポンプ、ホース等を使用している。特に、水系冷却液が高電圧部を冷却する場合には、使用中に水系冷却液の電気伝導度が上昇することを防ぐために、X線管装置にイオン交換樹脂フィルタが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−65766号公報
【特許文献2】特表2004−532505号公報
【特許文献3】国際公開第2005/38853号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来のX線管装置では、水系冷却液の流路中の金属が腐食され、以下のような問題が発生する恐れがある。
例1(銅を主成分とする金属からなる陽極ターゲット支持体内部の冷却流路の腐食問題):
陽極ターゲット支持体は高熱伝導性が必要とされるため、銅で構成される場合が多い。この陽極ターゲット支持体の内部の冷却流路が腐食して、内面に腐食孔が形成される場合がある。腐食孔の内部では冷却液の流れが阻害されるため、時間の経過とともに腐食孔が深くなり、陽極ターゲット支持体が冷却不足となり、陽極ターゲットの温度が上昇し、結果、X線管の放電が発生する。
【0007】
また、陽極ターゲットにも穴が開いて腐食孔と繋がってX線管内の真空が保たれなくなるといった不具合が生じてしまう恐れがある。このような不具合発生防止のため、従来は陽極ターゲット支持体の内部の冷却流路内面を金のような腐食し難い貴金属の膜で覆うことが行われている。
【0008】
しかし、貴金属の膜として比較的低コストである貴金属メッキを採用すると、冷却液の流れによって短時間で膜が摩耗し(メッキが剥がれ)、地肌の銅が露出し、銅の腐食が進行してしまうという問題があった。また、陽極ターゲット支持体の内面に、より厚い貴金属板をろう付けして長寿命化を図る方法もあるが、この場合、高コストとなってしまう。
【0009】
例2(陽極ターゲットからの反跳電子補足体の内部流路の腐食問題):
反跳電子補足体は高熱伝導性が必要とされるため、銅を主成分とする金属から構成される場合が多い。この陽極ターゲット支持体の内部の冷却流路が腐食して、内面に腐食孔が形成されることがある。腐食孔の内部では冷却液の流れが阻害されるため、時間の経過とともに腐食孔が深くなり、反跳電子補足体が冷却不足となり、反跳電子補足体の温度が上昇し、その結果、X線管の放電が発生する。
【0010】
また、X線管内の真空空間と腐食孔とが繋がってX線管内の真空が保たれなくなるといった不具合が生じてしまう恐れがある。例1のような貴金属膜を使用する防止策を採用すると、例1で述べた問題と同様の問題が生じることになる。
【0011】
例3(冷却液の熱交換器部の流路を構成する金属配管の腐食問題):
熱交換器部の流路を構成する金属配管は銅を主成分とする金属から構成される場合が多い。冷却液の流路を構成する金属配管の内部が腐食して金属配管に孔が開き、冷却液が外部に漏れ出すことがある。そこで、耐腐食性を向上させるため、銅に代えてステンレス鋼やチタンを使用して流路を構成することにより、上記の腐食の問題を回避することができる。しかしながら、これらの代替え材料は熱伝導率が低いため、熱交換性能が低下してしまい、高い冷却率が求められる場合には採用することができない。
【0012】
例4(腐食に伴う堆積物によるつまりや気密不良の問題):
上記したような各種の循環流路中の銅を主成分とする金属の腐食に伴い、冷却液中に溶け出した銅イオンは金属銅または銅化合物として循環流路の内部に堆積する。これら堆積物により循環流路につまりが生じる結果、冷却液の流量が低下し、X線管の冷却不足を招く恐れがある。
【0013】
また、これら堆積物は剥離して移動し易いため、着脱が可能なようなコネクタにより配管がX線管に取り付けられている場合には、コネクタの気密シール部に堆積物が介在して気密性が損なわれ、冷却液が漏れる不具合が発生する恐れがある。冷却機構は、このようなコネクタ付き配管がX線管との接続に使用される場合が多い。
【0014】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れた熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一実施形態に係る熱移動システムは、
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、
前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、
前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、
前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
また、一実施形態に係る熱移動システムの立上げ方法は、
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記循環ポンプを稼動させ、前記水系冷却液を前記循環流路と前記冷却流路との間を循環させ、
前記水系冷却液を循環させる期間と重複する期間を含み、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする。
【0017】
また、一実施形態に係る熱移動システムの保守方法は、
外部からの熱が伝導され不活性ガスを溶存させた水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示したX線管の断面図である。
【図3】図2に示したX線管の一部の拡大断面図である。
【図4】第2の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図5】第3の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図6】第4の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図7】第5の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図8】第6の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図9】上記第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置の比較例を示す概略構成図である。
【図10】上記第5及び第6の実施形態に係るX線管装置の比較例を示す概略構成図である。
【図11】第7の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図12】第8の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図13】第9の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図14】第10の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図15】第11の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図16】第12の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図17】第13の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図18】第14の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図19】第15の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図20】第16の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図21】第17の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図22】第18の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図23】第19の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図24】第20の実施形態に係る冷却システムを示す概略構成図である。
【図25】上記X線管を冷却するための冷却流路の変形例を示す概略図である。
【図26】上記X線管を冷却するための冷却流路の他の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法について説明する。特に、熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法としてのX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。
【0020】
始めに、第1の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。まず、上記X線管装置の立上げ方法によって立上げられたX線管装置の構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。
【0022】
図1、図2及び図3に示すように、X線管1は、真空外囲器151を備えている。真空外囲器151は、真空容器152と、陽極ターゲット支持体153とを備えている。真空容器152は、例えば金属で形成されている。陽極ターゲット支持体153は、高電圧絶縁部材で形成されている。陽極ターゲット支持体153には陽極ターゲット155が取り付けられ、陽極ターゲット支持体153は、真空外囲器151の一部を形成している。陽極ターゲット支持体153は、筒部と、筒部の一端に接続された環部とが一体となって形成されている。
【0023】
陽極ターゲット155は、陽極ターゲット支持体153に接合されている。陽極ターゲット155は、金属として、例えば銅で形成されている。陽極ターゲット155は、凹部155dを有している。凹部155dは、溝状に窪めて形成されている。陽極ターゲット155は、ターゲット層155aを有している。ターゲット層155aは、例えばタングステン合金で形成されている。
【0024】
陽極ターゲット155及び陰極156は、真空外囲器151に収納されている。陽極ターゲット155及び集束電極157には相対的に正の電圧が印加される。陰極156には相対的に負の電圧が印加される。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加され、陰極156は接地されている。真空外囲器151の内部は真空状態である。真空容器152の一部には、X線を透過するX線出力窓154が気密に設けられている。
【0025】
陰極156は、電子を放出するものである。陽極ターゲット155(ターゲット層155a)は、陰極156から放出される電子が照射されることによりX線を放出するものである。
【0026】
また、X線管1は、管部161と、壁部162と、を備えている。管部161は、高電圧絶縁材で形成されている。管部161は、陽極ターゲット支持体153の内部に設けられている。管部161の一端部は、真空外囲器151の外部に延出している。管部161は、この内部に水系冷却液Lを導入する導入路C1を形成している。陽極ターゲット支持体153及び管部161は、これらの間に水系冷却液Lを排出するための排出路C2を形成している。
【0027】
壁部162は、凹部155d及び陽極ターゲット支持体153で囲まれた領域に設けられている。壁部162は、管部161の端部の側面を囲むように管部161と一体に形成されている。壁部162は、凹部155d及び陽極ターゲット支持体153に隙間を置いて設けられている。陽極ターゲット155は、内部に設けられた通路C3を有している。通路C3は、導入路C1及び排出路C2に繋げられている。
【0028】
導入路C1、排出路C2及び通路C3は、水系冷却液Lが流れるX線管1の冷却流路3を形成している。冷却流路3は、外部からの熱が伝導される水系冷却液Lを気密に収容している。ここでは、冷却流路3は、陽極ターゲット155(X線管1)から放出される熱の少なくとも一部が伝導される水系冷却液Lを気密に収容している。導入路C1から導入された水系冷却液Lは、通路C3を循環して、排出路C2から排出される。
【0029】
静電偏向電極158は、陰極156から放出される電子の軌道を取り囲むように真空外囲器151の内側に設けられている。静電偏向電極158は、陰極156から放射される電子を偏向させるものである。
【0030】
循環装置5は、気密性の継手6を介して水系冷却液Lを冷却流路3との間で循環させるものである。
ここでは、継手6は、ホース11、ホース12、コネクタ13、コネクタ14、プラグ15及びプラグ16を有している。ホース11の一端にコネクタ13が気密に接続され、他端にプラグ15が気密に接続されている。ホース12の一端にコネクタ14が気密に接続され、他端にプラグ16が気密に接続されている。コネクタ13は上記X線管1の導入路C1に気密に接続され、コネクタ14は上記X線管1の排出路C2に気密に接続されている。
【0031】
循環装置5は、筐体20と、循環流路30と、熱交換器60と、流量センサ70と、容器としてのタンク80と、循環ポンプ100と、バルブ111と、バルブ112と、第1開閉部としてのバルブ121と、第2開閉部としてのバルブ122と、を有している。
【0032】
筐体20には、ソケット21及びソケット22が気密に取付けられている。ソケット21にはプラグ15が気密に連結されている。ソケット22にはプラグ16が気密に連結されている。ソケット21及びプラグ15は、着脱可能な連結器としてのカプラ8を形成している。ソケット22及びプラグ16は、着脱可能な連結器としてのカプラ9を形成している。
【0033】
循環流路30は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路30は、水系冷却液Lを収容し、気密性を保持可能である。循環流路30は、導管31、導管32、導管33及び導管35を有している。導管31はソケット22に気密に接続され、導管35はソケット21に気密に接続されている。導管31、導管32、導管33及び導管35は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管31は、銅で形成され、導管32、導管33及び導管35は、ステンレス鋼で形成されている。
【0034】
熱交換器60は、循環流路30に気密に取付けられ、水系冷却液Lの熱を外部に放出するものである。熱交換器60は、導管31の一部と導管61とで形成されている。導管61の両端は、筐体20の外側に引き出されている。導管61の両端には、バルブ111及びバルブ112が接続されている。ここでは、導管61の中は、冷却液として水道水が流れる。水道水を導管61の中を流す場合、バルブ111を水道水が導入可能な開状態とし、バルブ112を水道水が排出可能な開状態とすればよい。これにより、二次冷却系である導管31を流れる水系冷却液Lの熱が、一次冷却系である導管61を流れる水道水に伝導され、水系冷却液Lは冷却される。
流量センサ70は、導管31及び導管32間に気密に接続されている。
【0035】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、導管32及び導管33に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81と、水系冷却液Lと接触分離された状態で不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域82と、不活性ガスの導入口83と、ガスの排出口84とを有している。このため、ガス充満領域82は、水系冷却液Lと接触分離されることにより区域されている。ここでは、タンク80は、1つのガス充満領域82を有している。タンク80は、導入口83及び排出口84を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0036】
タンク80には、ベローズ機構としてのベローズ85と、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86と、不活性ガス導入パイプ87と、ガス排出パイプ88とが設けられている。
【0037】
ベローズ85は、タンク80に気密に取付けられている。ベローズ85は伸縮自在であり、冷却液の温度による体積変化分を吸収してガス充満領域82内の圧力を一定に保つことができる。また、後述するように使用中に外部から密閉系に空気(酸素)が徐々に侵入する場合、その空気の大部分はガス充満領域82に収容されることになるが、ベローズ85によりガス充満領域82内の圧力を一定に保つことができる。ここでは、ベローズ85はゴムで形成されている。ベローズ85は、ガスを透過させ難い材料、すなわち、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。また、ベローズ85は、表面に無定形カーボン皮膜などのガスバリア膜をコーティングして形成することが好ましい。ベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。
【0038】
なお、この場合、後述するように、X線管装置の立上げ時に、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するのを待たずに、不活性ガスの導入を止めたり、X線管装置の稼動を開始したりしてもよい。
【0039】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、導管33の先端に取付けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じるイオンの増加を防止して、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0040】
不活性ガス導入パイプ87は導入口83に気密に取付けられている。不活性ガス導入パイプ87は、一端に、タンク80内の水系冷却液L中に没し、導入口83から導入される不活性ガスを吐出す吐出し口87aを有している。不活性ガス導入パイプ87の他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0041】
この実施形態において、循環装置5は、不活性ガスの吐出し口87aを有しているため、ガス置換法としてのガスバブリング法を採ることができる。このため、この実施形態では、ガスバブリング法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0042】
ガス排出パイプ88は排出口84に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ88の一端は排出口84に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0043】
第1開閉部としてのバルブ121は、タンク80の導入口83に気密に取付けられている。ここでは、バルブ121は、不活性ガス導入パイプ87に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ87を介して導入口83に気密に取付けられている。バルブ121の他方には、不活性ガスボンベ7を接続することができる。なお、不活性ガスボンベ7は、X線管装置を立上げる際に使用するものであり、X線管装置を立上げる際にバルブ121に接続されていればよく、常時バルブ121に接続されていなくともよい。バルブ121は、ガス充満領域82に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0044】
第2開閉部としてのバルブ122は、タンク80の排出口84に気密に取付けられている。ここでは、バルブ122は、ガス排出パイプ88に気密に取付けられ、ガス排出パイプ88を介して排出口84に気密に取付けられている。バルブ122の他方は開放されている。バルブ122は、ガス充満領域82から外部にガスを排出可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0045】
その他、バルブ122の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ122を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域82を真空引きすることができる。
【0046】
循環ポンプ100は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、循環ポンプ100は、導管33及び導管35に気密に取付けられている。循環ポンプ100は、水系冷却液Lを循環装置5と冷却流路3との間で循環させるものである。
【0047】
ここで、上記水系冷却液Lについて説明する。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液Lは、タンク80内において、ガス充満領域82の不活性ガスと接触している。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0048】
上記水系冷却液Lは、溶存酸素量が低いため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。
【0049】
ここで、不活性ガスについて説明する。
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等、金属腐食を生じさせない各種不活性ガスを利用することができる。製造費用やメンテナンス費用を考慮すると、不活性ガスとしては、安価な窒素ガスを利用することが望ましい。
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0050】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0051】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0052】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0053】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0054】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、ガスバブリング法により、バルブ121に接続された不活性ガスボンベ7からバルブ121、不活性ガス導入パイプ87及び導入口83を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去する。なお、不活性ガス導入パイプ87の吐出し口87aは水系冷却液L中に没しているため、不活性ガスは水系冷却液L中をバブリングしてからガス充満領域82に導入することができる。
【0055】
これにより、水系冷却液Lに不活性ガスが溶解するとともに効率良く溶存酸素を除去することができる。ガス充満領域82の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域82は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0056】
この際、ガス充満領域82に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0057】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82に不活性ガスが充満する程度に、より好ましくは、ベローズ85が不活性ガスで膨張する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0058】
続いて、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止し、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80の気密性を保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0059】
ここで、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82を一定期間真空引きする。そして、ガス充満領域82を真空引きした後、バルブ122を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0060】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0061】
上記のように構成された第1の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0062】
ガスバブリング法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0063】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる。
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0064】
バルブ121及びバルブ122等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ121及びバルブ122等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素はガス充満領域82で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0065】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0066】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0067】
次に、第2の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第1の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0068】
図4に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0069】
上記のように構成された第2の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0070】
このため、上述した第1の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0071】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0072】
次に、第3の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0073】
図5に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加され、陰極156は接地されている。
【0074】
循環流路30は、導管34をさらに有している。循環ポンプ100は、導管34及び導管35に気密に取付けられている。不活性ガス導入パイプ87は、水系冷却液L中に没した吐出し口87aを有していない。不活性ガス導入パイプ87は、一端が導入口83に気密に取付けられ、他端が筐体20の外側に引き出されている。
【0075】
循環装置5は、容器としてのケース90と、第1開閉部としてのバルブ131と、第2開閉部としてのバルブ132と、をさらに有している。
ケース90は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、ケース90は、導管33及び導管34に気密に取付けられている。ケース90は、不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域91と、不活性ガスの導入口92と、ガスの排出口93とを有している。ここでは、ケース90は、1つのガス充満領域91を有している。ケース90は、導入口92及び排出口93を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0076】
ケース90には、ガス交換膜としての中空糸膜と、不活性ガス導入パイプ96と、ガス排出パイプ97とが設けられている。ここでは、中空糸膜として例えば中空糸膜フィルタ94を利用している。
中空糸膜フィルタ94は、ケース90内に設けられている。中空糸膜フィルタ94は、内部に水系冷却液Lの流路95を形成している。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させるものであり、ガスは透過させるが水系冷却液Lは透過させない性質を有している。
【0077】
すなわち、中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域98及びガス充満領域91を区域し、水系冷却液Lに対して不透過性を示し、ガスに対して透過性を示すものである。ガス充満領域91は、水系冷却液L(流路95、冷却液充満領域98)と接触分離された状態で不活性ガスが満たされている。
【0078】
この実施形態において、循環装置5は、中空糸膜フィルタ94を有しているため、ガス置換法としての膜脱気法を採ることができる。このため、この実施形態では、膜脱気法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0079】
不活性ガス導入パイプ96は導入口92に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ96の一端は導入口92に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0080】
ガス排出パイプ97は排出口93に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ97の一端は排出口93に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0081】
バルブ131は、ケース90の導入口92に気密に取付けられている。ここでは、バルブ131は、不活性ガス導入パイプ96に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ96を介して導入口92に気密に取付けられている。バルブ131の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ131は、ガス充満領域91に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0082】
バルブ132は、ケース90の排出口93に気密に取付けられている。ここでは、バルブ132は、ガス排出パイプ97に気密に取付けられ、ガス排出パイプ97を介して排出口93に気密に取付けられている。バルブ132の他方は開放されている。バルブ132は、ガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0083】
その他、バルブ132の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ132を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域91を真空引きすることができる。
【0084】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82及びケース90のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0085】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0086】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0087】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0088】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、バルブ121に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ121、不活性ガス導入パイプ87及び導入口83を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流す。
【0089】
これにより、ガス充満領域82の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域82は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0090】
また、ガス充満領域82に不活性ガスを流すと同時に、膜脱気法により、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってケース90のガス充満領域91に不活性ガスを流し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去する。
【0091】
中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。ガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口93、ガス排出パイプ97及びバルブ132を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0092】
この際、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0093】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0094】
続いて、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80及びケース90の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0095】
ここで、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122及びバルブ132を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82を一定期間真空引きし、同時に、バルブ132、ガス排出パイプ97及び排出口93を介してガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0096】
そして、ガス充満領域82及びガス充満領域91を真空引きした後、バルブ122及びバルブ132を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82及びガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0097】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0098】
上記のように構成された第3の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ121と、バルブ122と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0099】
膜脱気法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0100】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0101】
バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82及びガス充満領域91は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82及びガス充満領域91が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合にも、その酸素はガス充満領域82及びガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0102】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0103】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0104】
次に、第4の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第3の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第3の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0105】
図6に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0106】
上記のように構成された第4の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ121と、バルブ122と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0107】
このため、上述した第3の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0108】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0109】
ここで、上述した第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置の比較例について説明する。この比較例において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0110】
図9に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加されて、陰極156は接地されている。
【0111】
循環装置5は、タンク80ではなく、水系冷却液充満領域81及び開口部を有したタンク89aと、タンク89aの開口部を塞ぐ蓋部89bとを有している。蓋部89bは、タンク89aの開口部を気密に塞ぐものではない。タンク89a及び蓋部89bで囲まれた領域内は、水系冷却液Lの他、大気で満たされている。
【0112】
水系冷却液L中には大気成分(酸素等)が溶存している。このため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食が促進することになる。このため、上述した第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置の比較例では、第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置のように、X線管装置の内部腐食を抑制することができないものである。
【0113】
次に、第5の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。始めに、上記X線管装置の立上げ方法によって立上げられたX線管装置の構成について説明する。
【0114】
図7に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。
【0115】
X線管1としては、第1の実施形態で示したX線管1を用いることができる。ここでは、陽極ターゲットは接地され、陰極に高電圧が印加されている。
循環装置5は、気密性の継手6を介して水系冷却液Lを冷却流路3との間で循環させるものである。
ここでは、継手6は、ホース11、ホース12、コネクタ13、コネクタ14、プラグ15及びプラグ16を有している。ホース11の一端にコネクタ13が気密に接続され、他端にプラグ15が気密に接続されている。ホース12の一端にコネクタ14が気密に接続され、他端にプラグ16が気密に接続されている。コネクタ13及びコネクタ14は上記X線管1に気密に接続されている。
【0116】
循環装置5は、筐体20と、循環流路30と、ベローズ機構としての空盆50と、熱交換器60と、流量センサ70と、容器としてのケース90と、循環ポンプ100と、バルブ131と、バルブ132と、を有している。
【0117】
筐体20には、ソケット21及びソケット22が気密に取付けられている。ソケット21にはプラグ15が気密に連結されている。ソケット22にはプラグ16が気密に連結されている。ソケット21及びプラグ15は、着脱可能な連結器としてのカプラ8を形成している。ソケット22及びプラグ16は、着脱可能な連結器としてのカプラ9を形成している。
【0118】
循環流路30は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路30は、水系冷却液Lを収容し、気密性を保持可能である。循環流路30は、導管41、導管42、導管43及び導管45を有している。導管41はソケット22に気密に接続され、導管45はソケット21に気密に接続されている。導管41、導管42、導管43及び導管45は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管42は銅で形成され、導管41、導管43及び導管45は、ステンレス鋼で形成されている。
【0119】
空盆50は、循環流路30に気密に連通されている。空盆50は、開口部51aを有したケース51を有している。開口部51aは、循環流路30の導管41に気密に連通されている。空盆50は、ケース51内を開口部51aと繋がった第1領域53及び第2領域54に区域するベローズ52を有している。ベローズ52は、ケース51に液密に取付けられている。ベローズ52は伸縮自在である。ここでは、ベローズ52はゴムで形成されている。ベローズ52は、水系冷却液Lの体積の膨張及び収縮を吸収することができる。ベローズ52は、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。
【0120】
循環ポンプ100は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、循環ポンプ100は、導管41及び導管42に気密に取付けられている。循環ポンプ100は、水系冷却液Lを循環装置5と冷却流路3との間で循環させるものである。
【0121】
熱交換器60は、導管42の一部とファン62とで形成されている。導管42を流れる水系冷却液Lはファン62によって空冷される。
流量センサ70は、導管42及び導管43間に気密に接続されている。
【0122】
ケース90は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、ケース90は、導管43及び導管45に気密に取付けられている。ケース90は、不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域91と、不活性ガスの導入口92と、ガスの排出口93とを有している。ここでは、ケース90は、1つのガス充満領域91を有している。ケース90は、導入口92及び排出口93を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0123】
ケース90には、ガス交換膜としての中空糸膜と、不活性ガス導入パイプ96と、ガス排出パイプ97とが設けられている。ここでは、中空糸膜として例えば中空糸膜フィルタ94を利用している。
【0124】
中空糸膜フィルタ94は、ケース90内に設けられている。中空糸膜フィルタ94は、内部に水系冷却液Lの流路95を形成している。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させるものであり、ガスは透過させるが水系冷却液Lは透過させない性質を有している。
【0125】
すなわち、中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域98及びガス充満領域91を区域し、水系冷却液Lに対して不透過性を示し、ガスに対して透過性を示すものである。ガス充満領域91は、水系冷却液L(流路95、冷却液充満領域98)と接触分離された状態で不活性ガスが満たされている。
【0126】
この実施形態において、循環装置5は、中空糸膜フィルタ94を有しているため、ガス置換法としての膜脱気法を採ることができる。このため、この実施形態では、膜脱気法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0127】
不活性ガス導入パイプ96は導入口92に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ96の一端は導入口92に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0128】
ガス排出パイプ97は排出口93に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ97の一端は排出口93に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0129】
バルブ131は、ケース90の導入口92に気密に取付けられている。ここでは、バルブ131は、不活性ガス導入パイプ96に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ96を介して導入口92に気密に取付けられている。バルブ131の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ131は、ガス充満領域91に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0130】
バルブ132は、ケース90の排出口93に気密に取付けられている。ここでは、バルブ132は、ガス排出パイプ97に気密に取付けられ、ガス排出パイプ97を介して排出口93に気密に取付けられている。バルブ132の他方は開放されている。バルブ132は、ガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0131】
その他、バルブ132の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ132を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域91を真空引きすることができる。
【0132】
ここで、上記水系冷却液Lについて説明する。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0133】
上記水系冷却液Lは、溶存酸素量が低いため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0134】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、ケース90のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0135】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0136】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0137】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0138】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。
【0139】
そして、バルブ131に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってケース90のガス充満領域91に不活性ガスを流す。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。
【0140】
これにより、ガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口93、ガス排出パイプ97及びバルブ132を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0141】
この際、ガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0142】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0143】
続いて、ガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態に切替える。このため、ケース90の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0144】
ここで、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ132を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ132、ガス排出パイプ97及び排出口93を介してガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0145】
そして、ガス充満領域91を真空引きした後、バルブ132を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0146】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0147】
上記のように構成された第5の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、ケース90と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0148】
膜脱気法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲットに穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0149】
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
バルブ131及びバルブ132等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域91は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域91が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ131及びバルブ132等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合にも、その酸素はガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0150】
空盆50は、水系冷却液Lの体積の膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
【0151】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0152】
次に、第6の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第5の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第5の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0153】
図8に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0154】
循環流路30は、導管44、ホース46、ホース47、連結器としてのカプラ48及び連結器としてのカプラ49をさらに有している。導管43及びホース46は、着脱可能な連結器としてのカプラ48を介して気密に連結されている。導管44及びホース47は、着脱可能な連結器としてのカプラ49を介して気密に連結されている。
ケース90は、導管44及び導管45に気密に取付けられている。
【0155】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、ホース46及びホース47に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81を有している。タンク80は、液密に形成されている。
【0156】
タンク80には、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86が設けられている。
【0157】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、ホース46の先端に取付けられており、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じる、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0158】
上記のように構成された第6の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0159】
このため、上述した第5の実施形態と同一の効果を得ることができる。金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができ、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができる。
【0160】
さらに、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止することができ、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0161】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0162】
ここで、上述した第5及び第6の実施形態に係るX線管装置の比較例について説明する。この比較例において、他の構成は上述した第5の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0163】
図10に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲットは接地され、陰極に高電圧が印加されている。循環装置5は、ケース90を有していない。
【0164】
水系冷却液L中には大気成分(酸素等)が溶存している。このため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食が促進することになる。このため、上述した第5及び第6の実施形態に係るX線管装置の比較例では、第5及び第6の実施形態に係るX線管装置のように、X線管装置の内部腐食を抑制することができないものである。
【0165】
次に、第7の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第5の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第5の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0166】
図11に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0167】
循環装置5は、容器としてのケース200及びベローズ機構としてのベローズ210を備えている。ケース200は、ケース90に気密に連通されている。ベローズ210は、ケース200に気密に取付けられている。ベローズ210は伸縮自在である。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、例えばゴム風船状であってもよい。ベローズ210は、ガスを透過させ難い材料、すなわち、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。また、ベローズ210は、表面に無定形カーボン皮膜などのガスバリア膜をコーティングして形成することが好ましい。なお、ベローズ52もベローズ210と同じ材料を用いて同様に形成することができる。
【0168】
ケース200及びベローズ210は、ケース90とともにガス充満領域91を区域している。ケース90、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域91の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
【0169】
ここで、使用中に密閉系のどこからか、外部からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素がガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されて、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができるメカニズムについて説明する。
【0170】
ガス充満領域91と冷却液充満領域98とはガス透過性の膜を介して接している。ガスとして金属腐食の原因となる酸素に注目し、ガス充満領域91中の酸素分圧をP、冷却液充満領域全体の中に溶解している酸素量をnとすると、ヘンリーの法則により、次の式が成立する。
【0171】
n=P/K・R・T
ここで、Tは絶対温度、Rは気体定数、Kは温度Tにおける平衡定数である。
【0172】
これにより、冷却液充満領域全体の中に溶解している酸素量nはガス充満領域91中の酸素分圧Pに比例することが分かる。
【0173】
(不活性ガスが窒素の場合)
次に、不活性ガスが窒素の場合について説明する。冷却液充満領域全体の容積(全水系冷却液Lの容積)をV1[cc]、ガス充満領域91の容積をV2[cc]とする。ガス充満領域91には最初、窒素ガスが充満し、全水系冷却液Lには最初、窒素ガスが飽和状態で溶解しているとする。
【0174】
冷却流路3、継手6及び循環装置5は、密閉系であるが、次に挙げるように密閉系に空気が混入する恐れがある。
【0175】
(1)密閉系のどこかに僅かなリーク個所があって、そこから密閉系内に徐々に空気が侵入する。
【0176】
(2)樹脂部品を通して空気が拡散して密閉系内に徐々に空気が侵入する。
【0177】
(3)配管の接続時に僅かな空気が混入する。
【0178】
また、ある時点で水系冷却液L中に侵入している全空気量をN[cc]とする。空気中の酸素の分圧は1/5気圧であるので酸素量n=N/5[cc]である。なお残りの4N/5[cc]は窒素であるが、既に水系冷却液L中には窒素ガスが飽和状態で溶解しているので、溶解せず気泡として存在する。酸素は一端冷却液中に溶解するが、上記のヘンリーの法則に従って一部がガス充満領域中に気体として放出されて平衡状態が保たれる。
【0179】
平衡状態での全水系冷却液中に溶解している酸素量をΔn[cc]とする。ここで、水冷却液Lは純水またはグリコール水溶液であるとすると、1気圧の酸素に接している場合の酸素の平衡溶解量は、水系冷却液Lで、1[cc]当たり約0.025[cc]である。すると、ヘンリーの法則から次の式が成立する。
【0180】
Δn=0.025V1(n−Δn)/(V2+n−Δn)
そして、V1、V2<<nであることを考慮して上記の式をΔnについて解くと、
Δn/n=0.025V1/V2
となる。
【0181】
この式から、Δn/n<0.1、つまり侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解する割合を10%以下とするためには、ガス充満領域91の容積V2を冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上にしておけばよいことが分かる。
【0182】
(不活性ガスが窒素以外の場合)
次に、不活性ガスが窒素以外の場合について説明する。ある時点で水系冷却液L中に侵入している全空気量をn[cc]とする。初期は水系冷却液L中には窒素ガスも酸素ガスも溶解していないので、空気は一端水系冷却液L中に溶解するが、上記のヘンリーの法則に従って一部がガス充満領域中に気体として放出されて平衡状態が保たれる。
【0183】
平衡状態での冷却液充満領域中に溶解している空気量をΔn[cc]とする。ここで水系冷却液Lは純水またはグリコール水溶液であるとすると、1気圧の空気に接している場合の空気の平衡溶解量は、水系冷却液Lで、1[cc]当たり約0.025[cc]である。すると、ヘンリーの法則から、不活性ガスが窒素の場合と全く同じ式が成立する。Δn/n<0.1、つまり侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解する割合を10%以下とするためには、ガス充満領域91の容積V2を冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上にしておけばよいことが分かる。
【0184】
上記のように構成された第7の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、ケース90と、バルブ131と、バルブ132とを有している。このため、上述した第5の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0185】
循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域91の容積V2は、冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上である。このため、水系冷却液L中の溶存酸素を低コストで除去することができる。また、密閉系にわずかに酸素が侵入する経路がある場合でも、不活性ガスが充満して水系冷却液と接している空間で酸素が自動的に除去されるため、水系冷却液Lによる金属腐食を低減することが可能となる。また、X線管1のみ交換する場合にも、装置が設置されている現地で、水系冷却液Lの溶存酸素の除去作業を容易に実施することが可能となるため、装置の停止時間を短縮することが可能となる。
【0186】
ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。これにより、不活性ガスを流して行う水系冷却液L中の溶存酸素の追い出し時間の分、X線管装置の立上げにかかる時間を短縮することができる。つまり、不活性ガスを流す時間を、不活性ガスが飽和値まで溶存する時間だけにすることができる。このため、飽和溶存する不活性ガスの体積分、ベローズ210を膨張させておけばよく、ずっと不活性ガスを流し続ける必要はない。また、その場合、不活性ガスが飽和値まで溶存するのを待たずにX線管装置の稼動を開始することも可能である。
【0187】
不活性ガスボンベ7は、常時バルブ131に接続し、ガス充満領域91に不活性ガスを流し続ける必要はない。少なくともX線管装置をモジュールに組立てた後、かつ装置を稼動する前に、不活性ガスボンベ7を用いて脱酸素処理を実施すればよい。また、定期的な保守点検時に追加実施してもよい。真空ポンプを使用する場合も同様である。
【0188】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0189】
次に、第8の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第6の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第6の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0190】
図12に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。
【0191】
この実施形態では、循環装置5は、ケース90を備えていない。循環装置5は、容器としてのケース200及びベローズ機構としてのベローズ210を備えている。ケース200は、ケース51に気密に連通されている。ベローズ210は、ケース200に気密に取付けられている。ベローズ210は伸縮自在である。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。
【0192】
ケース200及びベローズ210は、ケース51とともに第2領域54(ガス充満領域)を区域している。ケース51、ケース200及びベローズ210で区域された第2領域54(ガス充満領域)の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
【0193】
ベローズ52は、水系冷却液Lが存在する第1領域53(冷却液充満領域)及び第2領域54(ガス充満領域)を区域し、水系冷却液Lに対して不透過性を示し、ガスに対して透過性を示すものである。
【0194】
ケース200は、不活性ガスの導入口201と、ガスの排出口202とを有している。ケース200は、導入口201及び排出口202を閉じた状態で気密性を保持可能である。ケース200には、不活性ガス導入パイプ221と、ガス排出パイプ222とが設けられている。
【0195】
不活性ガス導入パイプ221は導入口201に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ221の一端は導入口201に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0196】
ガス排出パイプ222は排出口202に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ222の一端は排出口202に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0197】
バルブ231は、ケース200の導入口201に気密に取付けられている。ここでは、バルブ231は、不活性ガス導入パイプ221に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ221を介して導入口201に気密に取付けられている。バルブ231の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ231は、ガス充満領域(第2領域54)に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0198】
バルブ232は、ケース200の排出口202に気密に取付けられている。ここでは、バルブ232は、ガス排出パイプ222に気密に取付けられ、ガス排出パイプ222を介して排出口202に気密に取付けられている。バルブ232の他方は開放されている。バルブ232は、ガス充満領域(第2領域54)から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0199】
その他、バルブ232の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ232を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域を真空引きすることができる。
【0200】
上記のように構成された第8の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ231と、バルブ232とを有している。
【0201】
このため、上述した第6の実施形態と概ね同一の効果を得ることができる。金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができ、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができる。
【0202】
循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域91の容積V2は、冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上である。このため、上述した第7の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0203】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0204】
次に、第9の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第1の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0205】
図13に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。
【0206】
この実施形態では、循環装置5は、容器としてのケース200及びベローズ機構としてのベローズ210を備えている。ケース200は、タンク80に気密に連通されている。ベローズ210は、ケース200に気密に取付けられている。ベローズ210は伸縮自在である。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。
【0207】
ケース200及びベローズ210は、タンク80とともにガス充満領域82を区域している。タンク80、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域82の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
【0208】
上記のように構成された第9の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0209】
このため、上述した第1の実施形態と概ね同一の効果を得ることができる。金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができ、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができる。
【0210】
循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。この実施形態のように、ケース200及びベローズ210は、水系冷却液Lと接触分離されたガス充満領域82を区域していてもよい。ガス充満領域91の容積V2は、冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上である。このため、上述した第7及び第8の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0211】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0212】
次に、第10の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0213】
図14に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。
【0214】
X線管装置は、脱酸素剤310、酸素検知剤320、保持部材330及び覗き窓340を備えている。脱酸素剤310は、ガス充満領域82内に設置され、ガス充満領域82内に存在する酸素を酸化反応によって取り除くものである。脱酸素剤310とは一般的に食品包装で利用されている。脱酸素剤310としては、鉄の酸化を利用して酸素を吸収するタイプが主流である。脱酸素剤310は、例えば、三菱ガス化学株式会社で製造・販売されているエージレスや、パウダーテック株式会社のワンダーキープを使用することができる。
【0215】
酸素検知剤320は、ガス充満領域82内に設置され、ガス充満領域82内に存在する酸素に反応して色調が変化するものである。酸素検知剤320を利用することにより、ガス充満領域82内の酸素濃度を簡便にモニタすることができる。酸素検知剤320も一般的に食品包装で利用されている。酸素検知剤320は、例えば、三菱ガス化学株式会社が製造・販売するエージレスアイや、パウダーテック株式会社のワンダーセンサーなどを使用することができる。
【0216】
保持部材330は、タンク80に固定され、ガス充満領域82内に位置している。上記脱酸素剤310及び酸素検知剤320は、保持部材330により保持されている。保持部材330は、通気性に優れ、脱酸素剤310及び酸素検知剤320を保持可能に形成されている。保持部材330の形状は特に限定されるものではないが、例えば、メッシュ状や格子状であってもよい。
【0217】
覗き窓340は、タンク80の開口を気密に閉塞するよう、タンク80に気密に取付けられている。覗き窓340は、酸素検知剤320の色調を外部から確認するためのものである。言い換えると、酸素検知剤320の色調は、タンク80に気密に取り付けられた覗き窓340を通してタンク80の外部から確認することができるものである。この実施形態では、覗き窓340は脱酸素剤310や酸素検知剤320を出し入れするための開閉自在扉を兼ねている。
【0218】
覗き窓340をタンク80に取付ける際、例えばOリングを介して覗き窓340をタンク80にネジ止めすることができる。
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0219】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0220】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0221】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0222】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0223】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、ガスバブリング法により、バルブ121に接続された不活性ガスボンベ7からバルブ121、不活性ガス導入パイプ87及び導入口83を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去する。なお、不活性ガス導入パイプ87の吐出し口87aは水系冷却液L中に没しているため、不活性ガスは水系冷却液L中をバブリングしてからガス充満領域82に導入することができる。
【0224】
これにより、水系冷却液Lに不活性ガスが溶解するとともに効率良く溶存酸素を除去することができる。ガス充満領域82の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域82は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0225】
この際、ガス充満領域82に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0226】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82に不活性ガスが充満する程度に、より好ましくは、ベローズ85が不活性ガスで膨張する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0227】
また、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させた後であり、かつ、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止する前(バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替える前)に、タンク80から覗き窓340を取外し、ガス充満領域82に脱酸素剤310及び酸素検知剤320をすばやく設置する。設置する際、保持部材330上に脱酸素剤310及び酸素検知剤320を配置する。その後、覗き窓340をタンク80に気密に取り付け、そして、外部からガス充満領域82内に持ち込まれた空気(酸素)を追い出すためにしばらくガス充満領域82への不活性ガスの流しを継続する。
【0228】
続いて、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止し、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80の気密性を保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0229】
ここで、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82を一定期間真空引きする。そして、ガス充満領域82を真空引きした後、バルブ122を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮および不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0230】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0231】
次に、使用中(稼動後)のX線管装置の保守方法について以下に説明する。
まず、使用中(稼動後)のX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、水系冷却液Lには、不活性ガスが溶存されている。なお、水系冷却液Lには、不活性ガスが飽和状態で溶存されている場合もある。
【0232】
次いで、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ開状態とし、ガス充満領域82に不活性ガスを流す。その後、不活性ガスの流しを中止し、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替え、タンク80の気密性を保持する。
【0233】
また、上記X線管装置の保守方法において、覗き窓340を通して酸素検知剤320の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、脱酸素剤310及び酸素検知剤320の少なくとも一方を未使用品に交換することも効果的である。交換する時期としては、ガス充満領域82に不活性ガスを流し始める前、及びガス充満領域82に不活性ガスを流している間の何れであってもよい。上記X線管装置の保守方法を用いることにより、例えばX線管装置の製品寿命を長くすることができる。
【0234】
上記のように構成された第10の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0235】
ガス充満領域82内には脱酸素剤310は設置されているため、ガス充満領域82内に存在する酸素を酸化反応によって取り除くことができる。ガス充満領域82内には酸素検知剤320が設置されているため、ガス充満領域82内の酸素濃度を簡便にモニタすることができる。
【0236】
ガスバブリング法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0237】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる。
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0238】
バルブ121及びバルブ122等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ121及びバルブ122等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素はガス充満領域82で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0239】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0240】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0241】
次に、第11の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第10の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第10の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0242】
図15に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0243】
上記のように構成された第11の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0244】
このため、上述した第10の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0245】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0246】
次に、第12の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第10の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0247】
図16に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加され、陰極156は接地されている。
【0248】
循環流路30は、導管34をさらに有している。循環ポンプ100は、導管34及び導管35に気密に取付けられている。不活性ガス導入パイプ87は、水系冷却液L中に没した吐出し口87aを有していない。不活性ガス導入パイプ87は、一端が導入口83に気密に取付けられ、他端が排出口93に気密に取付けられている。
【0249】
循環装置5は、容器としてのケース90と、第1開閉部としてのバルブ131と、をさらに有している。
ケース90は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、ケース90は、導管33及び導管34に気密に取付けられている。ケース90は、不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域91と、不活性ガスの導入口92と、ガスの排出93とを有している。ここでは、ケース90は、1つのガス充満領域91を有している。ケース90は、導入口92及び排出口93を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0250】
ケース90には、ガス交換膜としての中空糸膜と、不活性ガス導入パイプ96とが設けられている。ここでは、中空糸膜として例えば中空糸膜フィルタ94を利用している。
【0251】
中空糸膜フィルタ94は、ケース90内に設けられている。中空糸膜フィルタ94は、内部に水系冷却液Lの流路95を形成している。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させるものであり、ガスは透過させるが水系冷却液Lは透過させない性質を有している。ガス充満領域91は、水系冷却液L(流路95、冷却液充満領域98)と接触分離された状態で不活性ガスが満たされている。
【0252】
この実施形態において、循環装置5は、中空糸膜フィルタ94を有しているため、ガス置換法としての膜脱気法を採ることができる。このため、この実施形態では、膜脱気法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0253】
ここで、図16に示した中空糸膜フィルタ94は、図5、図6、図7、図8及び図11に示した中空糸膜フィルタと同一のものである。なお、図5、図6、図7、図8及び図11では、中空糸膜フィルタの概念を説明するために、簡略化した中空糸膜フィルタを示している。また、図5、図6、図7、図8及び図11に示した中空糸膜フィルタは、図16に示した中空糸膜フィルタ94の一部を拡大したものに相当すると言い換えることもできる。
【0254】
不活性ガス導入パイプ96は導入口92に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ96の一端は導入口92に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0255】
バルブ131は、ケース90の導入口92に気密に取付けられている。ここでは、バルブ131は、不活性ガス導入パイプ96に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ96を介して導入口92に気密に取付けられている。バルブ131の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ131は、ガス充満領域91及びガス充満領域82に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ケース90の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0256】
なお、バルブ122は、ガス充満領域82及びガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。その他、バルブ122の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ122を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域82及びガス充満領域91を真空引きすることができる。
【0257】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82及びケース90のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0258】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0259】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0260】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0261】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、バルブ131に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流す。
【0262】
これにより、ガス充満領域82及びガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。同時に、膜脱気法により、水系冷却液L中の溶存酸素は除去される。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。このため、ガス充満領域82及びガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0263】
この際、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0264】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0265】
また、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させた後であり、かつ、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止する前(バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態に切替える前)に、タンク80から覗き窓340を取外し、ガス充満領域82に脱酸素剤310及び酸素検知剤320をすばやく設置する。設置する際、保持部材330上に脱酸素剤310及び酸素検知剤320を配置する。その後、覗き窓340をタンク80に気密に取り付け、そして、外部からガス充満領域82内に持ち込まれた空気(酸素)を追い出すためにしばらくガス充満領域82への不活性ガスの流しを継続する。
【0266】
続いて、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80及びケース90の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0267】
ここで、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82及びガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0268】
そして、ガス充満領域82及びガス充満領域91を真空引きした後、バルブ122を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82及びガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮および不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0269】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0270】
次に、使用中(稼動後)のX線管装置の保守方法について以下に説明する。
まず、使用中(稼動後)のX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、水系冷却液Lには、不活性ガスが溶存されている。なお、水系冷却液Lには、不活性ガスが飽和状態で溶存されている場合もある。
【0271】
次いで、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ開状態とし、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す。その後、不活性ガスの流しを中止し、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態に切替え、タンク80の気密性を保持する。
【0272】
また、上記X線管装置の保守方法において、覗き窓340を通して酸素検知剤320の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、脱酸素剤310及び酸素検知剤320の少なくとも一方を未使用品に交換することも効果的である。交換する時期としては、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流し始める前、及びガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流している間の何れであってもよい。上記X線管装置の保守方法を用いることにより、例えばX線管装置の製品寿命を長くすることができる。
【0273】
上記のように構成された第12の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ122と、バルブ131とを有している。
【0274】
膜脱気法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0275】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる。
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0276】
バルブ122及びバルブ131等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82及びガス充満領域91は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82及びガス充満領域91が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ122及びバルブ131等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合にも、その酸素はガス充満領域82及びガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0277】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0278】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0279】
次に、第13の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第12の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第12の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0280】
図17に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0281】
上記のように構成された第13の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ122と、バルブ131とを有している。
【0282】
このため、上述した第12の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0283】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0284】
次に、第14の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第11の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第11の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
図18に示すように、熱交換器60は、導管31の一部とファン62とで形成されている。導管31を流れる水系冷却液Lはファン62によって空冷される。
【0285】
上記のように構成された第14の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0286】
このため、上述した第11の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0287】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0288】
次に、第15の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第7の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0289】
図19に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0290】
ケース200は、不活性ガスの導入口201と、ガスの排出口202とを有している。ケース200及びケース90は、導入口92及び排出口202を閉じた状態で気密性を保持可能である。導入口201は、ケース90のガスの排出口93に気密に連通されている。ケース200には、ガス排出パイプ222が設けられている。ガス排出パイプ222は排出口202に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ222の一端は排出口202に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0291】
バルブ232は、ケース200の排出口202に気密に取付けられている。ここでは、バルブ232は、ガス排出パイプ222に気密に取付けられ、ガス排出パイプ222を介して排出口202に気密に取付けられている。バルブ232の他方は開放されている。バルブ232は、ケース90、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0292】
その他、バルブ232の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ232を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域を真空引きすることができる。
【0293】
なお、バルブ131は、ガス充満領域91に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域91の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0294】
X線管装置は、脱酸素剤310、酸素検知剤320、保持部材330及び覗き窓340を備えている。脱酸素剤310及び酸素検知剤320は、ガス充満領域82内に設置されている。保持部材330は、タンク80に固定され、ガス充満領域82内に位置している。保持部材330は、通気性に優れ、脱酸素剤310及び酸素検知剤320を保持可能に形成されている。
【0295】
覗き窓340は、タンク80の開口を気密に閉塞するよう、タンク80に気密に取付けられている。覗き窓340は、酸素検知剤320の色調を外部から確認するためのものである。この実施形態では、覗き窓340は脱酸素剤310や酸素検知剤320を出し入れするための開閉自在扉を兼ねている。
【0296】
ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、例えばゴム風船状であってもよい。ベローズ210は、ガスを透過させ難い材料、すなわち、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。また、ベローズ210は、表面に無定形カーボン皮膜などのガスバリア膜をコーティングして形成することが好ましい。なお、ベローズ52もベローズ210と同じ材料を用いて同様に形成することができる。
【0297】
ケース90、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域91の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。X線管装置の使用中に密閉系(循環流路30)のどこからか、外部からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素がガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されて、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができるメカニズムについては第7の実施形態等の場合と同じであるため、説明を省略する。
【0298】
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0299】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、ケース90、ケース200及びベローズ210のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0300】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0301】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0302】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0303】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。
【0304】
そして、バルブ131に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってケース90、ケース200及びベローズ210のガス充満領域91に不活性ガスを流す。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。
【0305】
これにより、ガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口202、ガス排出パイプ222及びバルブ232を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0306】
この際、ガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0307】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0308】
続いて、ガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ閉状態に切替える。このため、ケース90、ケース200及びベローズ210の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0309】
ここで、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ232を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ232、ガス排出パイプ222及び排出口202を介してガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0310】
そして、ガス充満領域91を真空引きした後、バルブ232を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0311】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0312】
次に、使用中(稼動後)のX線管装置の保守方法について以下に説明する。
まず、使用中(稼動後)のX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、水系冷却液Lには、不活性ガスが溶存されている。なお、水系冷却液Lには、不活性ガスが飽和状態で溶存されている場合もある。
【0313】
次いで、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ開状態とし、ガス充満領域91に不活性ガスを流す。その後、不活性ガスの流しを中止し、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ閉状態に切替え、ケース90、ケース200及びベローズ210の気密性を保持する。
【0314】
また、上記X線管装置の保守方法において、覗き窓340を通して酸素検知剤320の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、ガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、脱酸素剤310及び酸素検知剤320の少なくとも一方を未使用品に交換することも効果的である。交換する時期としては、ガス充満領域91に不活性ガスを流し始める前、及びガス充満領域91に不活性ガスを流している間の何れであってもよい。上記X線管装置の保守方法を用いることにより、例えばX線管装置の製品寿命を長くすることができる。
【0315】
上記のように構成された第15の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、ケース90と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。このため、上述した第7の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0316】
ガス充満領域82内には脱酸素剤310は設置されているため、ガス充満領域82内に存在する酸素を酸化反応によって取り除くことができる。ガス充満領域82内には酸素検知剤320が設置されているため、ガス充満領域82内の酸素濃度を簡便にモニタすることができる。
【0317】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0318】
次に、第16の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第15の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0319】
図20に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0320】
循環流路30は、導管44、ホース46、ホース47、連結器としてのカプラ48及び連結器としてのカプラ49をさらに有している。導管43及びホース46は、着脱可能な連結器としてのカプラ48を介して気密に連結されている。導管44及びホース47は、着脱可能な連結器としてのカプラ49を介して気密に連結されている。
ケース90は、導管44及び導管45に気密に取付けられている。
【0321】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、ホース46及びホース47に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81を有している。タンク80は、液密に形成されている。
【0322】
タンク80には、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86が設けられている。
【0323】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、ホース46の先端に取付けられており、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じる、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0324】
上記のように構成された第16の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0325】
さらに、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止することができ、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0326】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0327】
次に、第17の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第8の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0328】
図21に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。
この実施形態では、循環装置5は、タンク80、導管44、ホース46、ホース47、カプラ48及びカプラ49を有していない。
【0329】
ケース200の排出口202は、ケース51に気密に連通されている。ケース200及びベローズ210は、ケース51とともに第2領域54(ガス充満領域)を区域している。ケース51、ケース200及びベローズ210で区域された第2領域54(ガス充満領域)の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
ケース51はガスの排出口56を有している。ケース51、ケース200及びベローズ210は、導入口201及び排出口56を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0330】
不活性ガス導入パイプ221は導入口201に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ221の一端は導入口201に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0331】
ガス排出パイプ222は排出口56に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ222の一端は排出口56に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0332】
バルブ231は、ケース200の導入口201に気密に取付けられている。ここでは、バルブ231は、不活性ガス導入パイプ221に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ221を介して導入口201に気密に取付けられている。バルブ231の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ231は、ガス充満領域(第2領域54)に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0333】
バルブ232は、ケース51の排出口56に気密に取付けられている。ここでは、バルブ232は、ガス排出パイプ222に気密に取付けられ、ガス排出パイプ222を介して排出口56に気密に取付けられている。バルブ232の他方は開放されている。バルブ232は、ガス充満領域(第2領域54)から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0334】
その他、バルブ232の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ232を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域を真空引きすることができる。
【0335】
X線管装置は、脱酸素剤310、酸素検知剤320、保持部材330及び覗き窓340を備えている。脱酸素剤310及び酸素検知剤320は、ガス充満領域82内に設置されている。保持部材330は、タンク80に固定され、ガス充満領域82内に位置している。保持部材330は、通気性に優れ、脱酸素剤310及び酸素検知剤320を保持可能に形成されている。
【0336】
覗き窓340は、タンク80の開口を気密に閉塞するよう、タンク80に気密に取付けられている。覗き窓340は、酸素検知剤320の色調を外部から確認するためのものである。この実施形態では、覗き窓340は脱酸素剤310や酸素検知剤320を出し入れするための開閉自在扉を兼ねている。
【0337】
上記のように構成された第17の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、空盆50と、ケース200と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0338】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0339】
次に、第18の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第17の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0340】
図22に示すように、循環流路30は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路30は、水系冷却液Lを収容し、気密性を保持可能である。循環流路30は、導管31、導管36、導管37を有している。導管31はソケット22及び流量センサ70に気密に接続されている。導管36は、流量センサ70及び循環ポンプ100に気密に接続されている。導管37はソケット21及び循環ポンプ100に気密に接続されている。導管31、導管36及び導管37は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管31は銅で形成され、導管36及び導管37はステンレス鋼で形成されている。
【0341】
空盆50の開口部51aは、循環流路30の導管31に気密に連通されている。
熱交換器60は、循環流路30に気密に取付けられ、水系冷却液Lの熱を外部に放出するものである。熱交換器60は、導管31の一部と導管61とで形成されている。導管61の両端は、筐体20の外側に引き出されている。導管61の両端には、バルブ111及びバルブ112が接続されている。ここでは、導管61の中は、冷却液として水道水が流れる。水道水を導管61の中を流す場合、バルブ111を水道水が導入可能な開状態とし、バルブ112を水道水が排出可能な開状態とすればよい。これにより、二次冷却系である導管31を流れる水系冷却液Lの熱が、一次冷却系である導管61を流れる水道水に伝導され、水系冷却液Lは冷却される。
【0342】
上記のように構成された第18の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、空盆50と、ケース200と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0343】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0344】
次に、第19の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第17の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0345】
図23に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0346】
循環流路30は、導管44、ホース46、ホース47、連結器としてのカプラ48及び連結器としてのカプラ49をさらに有している。導管43及びホース46は、着脱可能な連結器としてのカプラ48を介して気密に連結されている。導管44及びホース47は、着脱可能な連結器としてのカプラ49を介して気密に連結されている。導管44はソケット21及びカプラ49に気密に接続されている。
【0347】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、ホース46及びホース47に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81を有している。タンク80は、液密に形成されている。
【0348】
タンク80には、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86が設けられている。
【0349】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、ホース46の先端に取付けられており、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じる、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0350】
上記のように構成された第19の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、空盆50と、ケース200と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0351】
さらに、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止することができ、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0352】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0353】
次に、第20の実施形態に係る熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法について説明する。ここでは、熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法としての冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法について詳細に説明する。また、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法は、第11の実施形態のX線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0354】
図24に示すように、冷却システムは、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、不活性ガスボンベ7と、絶縁油IOと、絶縁油IOの循環装置400と、継手6とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0355】
循環装置5は、第14の実施形態の循環装置と同様に構成されている。循環装置5は、
プラグ15及びプラグ16間に気密に接続され、筐体20の外側に引き出されている導管17をさらに備えている。導管17は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成することができる。導管17は、冷却流路として機能している。
【0356】
循環装置400は、気密性の継手6を介して絶縁油IOを冷却流路3との間で循環させるものである。
ここでは、継手6は、ホース11、ホース12、コネクタ13及びコネクタ14を有している。ホース11の一端にコネクタ13が気密に接続され、ホース12の一端にコネクタ14が気密に接続されている。コネクタ13は上記X線管1の導入路C1に気密に接続され、コネクタ14は上記X線管1の排出路C2に気密に接続されている。
【0357】
循環装置400は、循環流路410と、ベローズ機構としての空盆420と、循環ポンプ430と、熱交換器440と、流量センサ450とを有している。
循環流路410は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路410は、絶縁油IOを収容し、気密性を保持可能である。循環流路410は、導管411、導管412及び導管413を有している。導管411は着脱可能な連結器としてのカプラ417を介してホース12に気密に接続され、導管413は着脱可能な連結器としてのカプラ418を介してホース11に気密に接続されている。導管411、導管412及び導管413は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管411は、銅で形成され、導管412及び導管413は、ステンレス鋼で形成されている。
【0358】
空盆420は、循環流路410に気密に連通されている。空盆420は、開口部421aを有したケース421を有している。開口部421aは、循環流路410の導管411に気密に連通されている。空盆420は、ケース421内を開口部421aと繋がった第1領域423及び第2領域424に区域するベローズ422を有している。ベローズ422は、ケース421に液密に取付けられている。ベローズ422は伸縮自在である。ここでは、ベローズ422はゴムで形成されている。ベローズ422は、絶縁油IOの体積の膨張及び収縮を吸収することができる。
【0359】
熱交換器440は、循環流路410に気密に取付けられ、絶縁油IOの熱を外部に放出するものである。熱交換器440は、導管412の一部と導管17とで形成されている。上述したように、導管17の中は、水系冷却液Lが流れる。これにより、二次冷却系である導管412を流れる絶縁油IOの熱が、一次冷却系である導管17を流れる水系冷却液Lに伝導され、絶縁油IOは冷却される。
【0360】
循環ポンプ430は、循環流路410に気密に取付けられている。詳しくは、循環ポンプ430は、導管411及び導管412に気密に取付けられている。循環ポンプ430は、絶縁油IOを循環装置400と冷却流路3との間で循環させるものである。
流量センサ450は、導管412及び導管413間に気密に接続されている。
【0361】
上記のように構成された第20の実施形態に係る冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法によれば、冷却システムは、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5と、循環装置400とを備えている。循環装置5は、循環装置400の絶縁油IOを冷却することにより、X線管1を間接的に冷却している。
【0362】
循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第11の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0363】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れた冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法を得ることができる。
【0364】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0365】
例えば、冷却流路3は、陽極ターゲットから放出される熱の少なくとも一部が伝導される水系冷却液Lを収容し、密閉されていればよい。このため、図25に示すように、X線管1がハウジング2に収容され、ハウジング2内が水系冷却液Lで満たされている場合、冷却流路3は、X線管1の内部及びハウジング2内部で形成することができる。また、図26に示すように、X線管1が水系冷却液Lの取入れ口及び吐出し口を有していない場合、冷却流路3は、ハウジング2内部で形成することができる。
【0366】
タンク80には、ガス充満領域82を真空引きするための真空排気パイプやバルブを別途設けてもよい。同様に、ケース90には、ガス充満領域91を真空引きするための真空排気パイプやバルブを別途設けてもよい。なお、ケース200についても同様である。
【0367】
水系冷却液Lと接する循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分に、金等の貴金属メッキを施してもよい。これにより、X線管装置の製品寿命の長期化を図ることができる。
【0368】
ガス充満領域に不活性ガスを流す場合について説明したが、ガス充満領域には、絶縁ガスとして例えばSF6等も使用することができる。性能上は、ヘリウムガス、ネオンガス及びSF6等が好適であるが、製造費用やメンテナンス費用を考慮すると、ガス充満領域には安価な窒素ガスを流すことが望ましい。
【0369】
第7乃至第9及び第15乃至第10の実施形態に係るX線管装置、並びに第20の実施形態に係る冷却システムに限らず、他の実施の形態においても、ガス充満領域の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上であってもよい。
上記X線管装置の保守方法は、第1乃至第9の実施形態のX線管装置に用いてもよい。
【0370】
本発明は、上述したX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法や、冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法に限定されるものではなく、各種の熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法に適用することができる。上述した以外の各種のX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法にも本発明を適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0371】
1…X線管、3…冷却流路、5…循環装置、6…継手、20…筐体、30…循環流路、17,31,32,33,34,35,36,37,41,42,43,44,45…導管、46,47…ホース、48,49…カプラ、50…空盆、56…排出口、60…熱交換器、61…導管、62…ファン、70…流量センサ、80…タンク、81…水系冷却液充満領域、82…ガス充満領域、83…導入口、84…排出口、85…ベローズ、86…イオン交換樹脂フィルタ、87…不活性ガス導入パイプ、87a…吐出し口、88…ガス排出パイプ、90…ケース、91…ガス充満領域、92…導入口、93…排出口、94…中空糸膜フィルタ、95…流路、96…不活性ガス導入パイプ、97…ガス排出パイプ、98…冷却液充満領域、100…循環ポンプ、121,122,131,132…バルブ、200…ケース、201…導入口、202…排出口、210…ベローズ、221…不活性ガス導入パイプ、222…ガス排出パイプ、231,232…バルブ、310…脱酸素剤、320…酸素検知剤、330…保持部材、340…覗き窓、400…循環装置、410…循環流路、420…空盆、430…循環ポンプ、440…熱交換器、450…流量センサ、L…水系冷却液、IO…絶縁油、V1,V2…容積。
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱移動システムとしてのX線管装置は、陰極及び陽極ターゲットを真空外囲器内に収納した回転陽極型X線管、回転陽極型X線管を収納するハウジング、ステータなどを備えている。このような回転陽極型X線管は、陽極ターゲットなどが発生する熱を放出する場合、これを冷却するための冷却機構を備えている。
【0003】
冷却機構を備えたX線管装置としては、以下のような提案が成されている。
回転陽極型X線管及びステータを絶縁油中に浸し、発熱が大きい部分たとえば陽極ターゲット近傍に設けられる反跳電子捕捉体や真空外囲器の一部に設けられた流路に冷却性能に優れた水系冷却液を流して冷却し、この冷却液をこれら流路と熱交換器との間で循環させるX線管装置。
【0004】
水系冷却液を使用し、循環冷却機構を備えたX線管装置は、例えば、特許文献1乃至3に開示されている。循環冷却機構は、専用の熱交換器、循環ポンプ、ホース等を使用している。特に、水系冷却液が高電圧部を冷却する場合には、使用中に水系冷却液の電気伝導度が上昇することを防ぐために、X線管装置にイオン交換樹脂フィルタが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−65766号公報
【特許文献2】特表2004−532505号公報
【特許文献3】国際公開第2005/38853号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来のX線管装置では、水系冷却液の流路中の金属が腐食され、以下のような問題が発生する恐れがある。
例1(銅を主成分とする金属からなる陽極ターゲット支持体内部の冷却流路の腐食問題):
陽極ターゲット支持体は高熱伝導性が必要とされるため、銅で構成される場合が多い。この陽極ターゲット支持体の内部の冷却流路が腐食して、内面に腐食孔が形成される場合がある。腐食孔の内部では冷却液の流れが阻害されるため、時間の経過とともに腐食孔が深くなり、陽極ターゲット支持体が冷却不足となり、陽極ターゲットの温度が上昇し、結果、X線管の放電が発生する。
【0007】
また、陽極ターゲットにも穴が開いて腐食孔と繋がってX線管内の真空が保たれなくなるといった不具合が生じてしまう恐れがある。このような不具合発生防止のため、従来は陽極ターゲット支持体の内部の冷却流路内面を金のような腐食し難い貴金属の膜で覆うことが行われている。
【0008】
しかし、貴金属の膜として比較的低コストである貴金属メッキを採用すると、冷却液の流れによって短時間で膜が摩耗し(メッキが剥がれ)、地肌の銅が露出し、銅の腐食が進行してしまうという問題があった。また、陽極ターゲット支持体の内面に、より厚い貴金属板をろう付けして長寿命化を図る方法もあるが、この場合、高コストとなってしまう。
【0009】
例2(陽極ターゲットからの反跳電子補足体の内部流路の腐食問題):
反跳電子補足体は高熱伝導性が必要とされるため、銅を主成分とする金属から構成される場合が多い。この陽極ターゲット支持体の内部の冷却流路が腐食して、内面に腐食孔が形成されることがある。腐食孔の内部では冷却液の流れが阻害されるため、時間の経過とともに腐食孔が深くなり、反跳電子補足体が冷却不足となり、反跳電子補足体の温度が上昇し、その結果、X線管の放電が発生する。
【0010】
また、X線管内の真空空間と腐食孔とが繋がってX線管内の真空が保たれなくなるといった不具合が生じてしまう恐れがある。例1のような貴金属膜を使用する防止策を採用すると、例1で述べた問題と同様の問題が生じることになる。
【0011】
例3(冷却液の熱交換器部の流路を構成する金属配管の腐食問題):
熱交換器部の流路を構成する金属配管は銅を主成分とする金属から構成される場合が多い。冷却液の流路を構成する金属配管の内部が腐食して金属配管に孔が開き、冷却液が外部に漏れ出すことがある。そこで、耐腐食性を向上させるため、銅に代えてステンレス鋼やチタンを使用して流路を構成することにより、上記の腐食の問題を回避することができる。しかしながら、これらの代替え材料は熱伝導率が低いため、熱交換性能が低下してしまい、高い冷却率が求められる場合には採用することができない。
【0012】
例4(腐食に伴う堆積物によるつまりや気密不良の問題):
上記したような各種の循環流路中の銅を主成分とする金属の腐食に伴い、冷却液中に溶け出した銅イオンは金属銅または銅化合物として循環流路の内部に堆積する。これら堆積物により循環流路につまりが生じる結果、冷却液の流量が低下し、X線管の冷却不足を招く恐れがある。
【0013】
また、これら堆積物は剥離して移動し易いため、着脱が可能なようなコネクタにより配管がX線管に取り付けられている場合には、コネクタの気密シール部に堆積物が介在して気密性が損なわれ、冷却液が漏れる不具合が発生する恐れがある。冷却機構は、このようなコネクタ付き配管がX線管との接続に使用される場合が多い。
【0014】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れた熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一実施形態に係る熱移動システムは、
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、
前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、
前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、
前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
また、一実施形態に係る熱移動システムの立上げ方法は、
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記循環ポンプを稼動させ、前記水系冷却液を前記循環流路と前記冷却流路との間を循環させ、
前記水系冷却液を循環させる期間と重複する期間を含み、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする。
【0017】
また、一実施形態に係る熱移動システムの保守方法は、
外部からの熱が伝導され不活性ガスを溶存させた水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示したX線管の断面図である。
【図3】図2に示したX線管の一部の拡大断面図である。
【図4】第2の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図5】第3の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図6】第4の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図7】第5の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図8】第6の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図9】上記第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置の比較例を示す概略構成図である。
【図10】上記第5及び第6の実施形態に係るX線管装置の比較例を示す概略構成図である。
【図11】第7の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図12】第8の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図13】第9の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図14】第10の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図15】第11の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図16】第12の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図17】第13の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図18】第14の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図19】第15の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図20】第16の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図21】第17の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図22】第18の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図23】第19の実施形態に係るX線管装置を示す概略構成図である。
【図24】第20の実施形態に係る冷却システムを示す概略構成図である。
【図25】上記X線管を冷却するための冷却流路の変形例を示す概略図である。
【図26】上記X線管を冷却するための冷却流路の他の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法について説明する。特に、熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法としてのX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。
【0020】
始めに、第1の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。まず、上記X線管装置の立上げ方法によって立上げられたX線管装置の構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。
【0022】
図1、図2及び図3に示すように、X線管1は、真空外囲器151を備えている。真空外囲器151は、真空容器152と、陽極ターゲット支持体153とを備えている。真空容器152は、例えば金属で形成されている。陽極ターゲット支持体153は、高電圧絶縁部材で形成されている。陽極ターゲット支持体153には陽極ターゲット155が取り付けられ、陽極ターゲット支持体153は、真空外囲器151の一部を形成している。陽極ターゲット支持体153は、筒部と、筒部の一端に接続された環部とが一体となって形成されている。
【0023】
陽極ターゲット155は、陽極ターゲット支持体153に接合されている。陽極ターゲット155は、金属として、例えば銅で形成されている。陽極ターゲット155は、凹部155dを有している。凹部155dは、溝状に窪めて形成されている。陽極ターゲット155は、ターゲット層155aを有している。ターゲット層155aは、例えばタングステン合金で形成されている。
【0024】
陽極ターゲット155及び陰極156は、真空外囲器151に収納されている。陽極ターゲット155及び集束電極157には相対的に正の電圧が印加される。陰極156には相対的に負の電圧が印加される。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加され、陰極156は接地されている。真空外囲器151の内部は真空状態である。真空容器152の一部には、X線を透過するX線出力窓154が気密に設けられている。
【0025】
陰極156は、電子を放出するものである。陽極ターゲット155(ターゲット層155a)は、陰極156から放出される電子が照射されることによりX線を放出するものである。
【0026】
また、X線管1は、管部161と、壁部162と、を備えている。管部161は、高電圧絶縁材で形成されている。管部161は、陽極ターゲット支持体153の内部に設けられている。管部161の一端部は、真空外囲器151の外部に延出している。管部161は、この内部に水系冷却液Lを導入する導入路C1を形成している。陽極ターゲット支持体153及び管部161は、これらの間に水系冷却液Lを排出するための排出路C2を形成している。
【0027】
壁部162は、凹部155d及び陽極ターゲット支持体153で囲まれた領域に設けられている。壁部162は、管部161の端部の側面を囲むように管部161と一体に形成されている。壁部162は、凹部155d及び陽極ターゲット支持体153に隙間を置いて設けられている。陽極ターゲット155は、内部に設けられた通路C3を有している。通路C3は、導入路C1及び排出路C2に繋げられている。
【0028】
導入路C1、排出路C2及び通路C3は、水系冷却液Lが流れるX線管1の冷却流路3を形成している。冷却流路3は、外部からの熱が伝導される水系冷却液Lを気密に収容している。ここでは、冷却流路3は、陽極ターゲット155(X線管1)から放出される熱の少なくとも一部が伝導される水系冷却液Lを気密に収容している。導入路C1から導入された水系冷却液Lは、通路C3を循環して、排出路C2から排出される。
【0029】
静電偏向電極158は、陰極156から放出される電子の軌道を取り囲むように真空外囲器151の内側に設けられている。静電偏向電極158は、陰極156から放射される電子を偏向させるものである。
【0030】
循環装置5は、気密性の継手6を介して水系冷却液Lを冷却流路3との間で循環させるものである。
ここでは、継手6は、ホース11、ホース12、コネクタ13、コネクタ14、プラグ15及びプラグ16を有している。ホース11の一端にコネクタ13が気密に接続され、他端にプラグ15が気密に接続されている。ホース12の一端にコネクタ14が気密に接続され、他端にプラグ16が気密に接続されている。コネクタ13は上記X線管1の導入路C1に気密に接続され、コネクタ14は上記X線管1の排出路C2に気密に接続されている。
【0031】
循環装置5は、筐体20と、循環流路30と、熱交換器60と、流量センサ70と、容器としてのタンク80と、循環ポンプ100と、バルブ111と、バルブ112と、第1開閉部としてのバルブ121と、第2開閉部としてのバルブ122と、を有している。
【0032】
筐体20には、ソケット21及びソケット22が気密に取付けられている。ソケット21にはプラグ15が気密に連結されている。ソケット22にはプラグ16が気密に連結されている。ソケット21及びプラグ15は、着脱可能な連結器としてのカプラ8を形成している。ソケット22及びプラグ16は、着脱可能な連結器としてのカプラ9を形成している。
【0033】
循環流路30は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路30は、水系冷却液Lを収容し、気密性を保持可能である。循環流路30は、導管31、導管32、導管33及び導管35を有している。導管31はソケット22に気密に接続され、導管35はソケット21に気密に接続されている。導管31、導管32、導管33及び導管35は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管31は、銅で形成され、導管32、導管33及び導管35は、ステンレス鋼で形成されている。
【0034】
熱交換器60は、循環流路30に気密に取付けられ、水系冷却液Lの熱を外部に放出するものである。熱交換器60は、導管31の一部と導管61とで形成されている。導管61の両端は、筐体20の外側に引き出されている。導管61の両端には、バルブ111及びバルブ112が接続されている。ここでは、導管61の中は、冷却液として水道水が流れる。水道水を導管61の中を流す場合、バルブ111を水道水が導入可能な開状態とし、バルブ112を水道水が排出可能な開状態とすればよい。これにより、二次冷却系である導管31を流れる水系冷却液Lの熱が、一次冷却系である導管61を流れる水道水に伝導され、水系冷却液Lは冷却される。
流量センサ70は、導管31及び導管32間に気密に接続されている。
【0035】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、導管32及び導管33に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81と、水系冷却液Lと接触分離された状態で不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域82と、不活性ガスの導入口83と、ガスの排出口84とを有している。このため、ガス充満領域82は、水系冷却液Lと接触分離されることにより区域されている。ここでは、タンク80は、1つのガス充満領域82を有している。タンク80は、導入口83及び排出口84を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0036】
タンク80には、ベローズ機構としてのベローズ85と、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86と、不活性ガス導入パイプ87と、ガス排出パイプ88とが設けられている。
【0037】
ベローズ85は、タンク80に気密に取付けられている。ベローズ85は伸縮自在であり、冷却液の温度による体積変化分を吸収してガス充満領域82内の圧力を一定に保つことができる。また、後述するように使用中に外部から密閉系に空気(酸素)が徐々に侵入する場合、その空気の大部分はガス充満領域82に収容されることになるが、ベローズ85によりガス充満領域82内の圧力を一定に保つことができる。ここでは、ベローズ85はゴムで形成されている。ベローズ85は、ガスを透過させ難い材料、すなわち、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。また、ベローズ85は、表面に無定形カーボン皮膜などのガスバリア膜をコーティングして形成することが好ましい。ベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。
【0038】
なお、この場合、後述するように、X線管装置の立上げ時に、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するのを待たずに、不活性ガスの導入を止めたり、X線管装置の稼動を開始したりしてもよい。
【0039】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、導管33の先端に取付けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じるイオンの増加を防止して、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0040】
不活性ガス導入パイプ87は導入口83に気密に取付けられている。不活性ガス導入パイプ87は、一端に、タンク80内の水系冷却液L中に没し、導入口83から導入される不活性ガスを吐出す吐出し口87aを有している。不活性ガス導入パイプ87の他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0041】
この実施形態において、循環装置5は、不活性ガスの吐出し口87aを有しているため、ガス置換法としてのガスバブリング法を採ることができる。このため、この実施形態では、ガスバブリング法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0042】
ガス排出パイプ88は排出口84に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ88の一端は排出口84に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0043】
第1開閉部としてのバルブ121は、タンク80の導入口83に気密に取付けられている。ここでは、バルブ121は、不活性ガス導入パイプ87に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ87を介して導入口83に気密に取付けられている。バルブ121の他方には、不活性ガスボンベ7を接続することができる。なお、不活性ガスボンベ7は、X線管装置を立上げる際に使用するものであり、X線管装置を立上げる際にバルブ121に接続されていればよく、常時バルブ121に接続されていなくともよい。バルブ121は、ガス充満領域82に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0044】
第2開閉部としてのバルブ122は、タンク80の排出口84に気密に取付けられている。ここでは、バルブ122は、ガス排出パイプ88に気密に取付けられ、ガス排出パイプ88を介して排出口84に気密に取付けられている。バルブ122の他方は開放されている。バルブ122は、ガス充満領域82から外部にガスを排出可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0045】
その他、バルブ122の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ122を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域82を真空引きすることができる。
【0046】
循環ポンプ100は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、循環ポンプ100は、導管33及び導管35に気密に取付けられている。循環ポンプ100は、水系冷却液Lを循環装置5と冷却流路3との間で循環させるものである。
【0047】
ここで、上記水系冷却液Lについて説明する。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液Lは、タンク80内において、ガス充満領域82の不活性ガスと接触している。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0048】
上記水系冷却液Lは、溶存酸素量が低いため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。
【0049】
ここで、不活性ガスについて説明する。
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等、金属腐食を生じさせない各種不活性ガスを利用することができる。製造費用やメンテナンス費用を考慮すると、不活性ガスとしては、安価な窒素ガスを利用することが望ましい。
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0050】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0051】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0052】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0053】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0054】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、ガスバブリング法により、バルブ121に接続された不活性ガスボンベ7からバルブ121、不活性ガス導入パイプ87及び導入口83を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去する。なお、不活性ガス導入パイプ87の吐出し口87aは水系冷却液L中に没しているため、不活性ガスは水系冷却液L中をバブリングしてからガス充満領域82に導入することができる。
【0055】
これにより、水系冷却液Lに不活性ガスが溶解するとともに効率良く溶存酸素を除去することができる。ガス充満領域82の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域82は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0056】
この際、ガス充満領域82に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0057】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82に不活性ガスが充満する程度に、より好ましくは、ベローズ85が不活性ガスで膨張する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0058】
続いて、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止し、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80の気密性を保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0059】
ここで、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82を一定期間真空引きする。そして、ガス充満領域82を真空引きした後、バルブ122を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0060】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0061】
上記のように構成された第1の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0062】
ガスバブリング法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0063】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる。
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0064】
バルブ121及びバルブ122等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ121及びバルブ122等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素はガス充満領域82で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0065】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0066】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0067】
次に、第2の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第1の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0068】
図4に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0069】
上記のように構成された第2の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0070】
このため、上述した第1の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0071】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0072】
次に、第3の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0073】
図5に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加され、陰極156は接地されている。
【0074】
循環流路30は、導管34をさらに有している。循環ポンプ100は、導管34及び導管35に気密に取付けられている。不活性ガス導入パイプ87は、水系冷却液L中に没した吐出し口87aを有していない。不活性ガス導入パイプ87は、一端が導入口83に気密に取付けられ、他端が筐体20の外側に引き出されている。
【0075】
循環装置5は、容器としてのケース90と、第1開閉部としてのバルブ131と、第2開閉部としてのバルブ132と、をさらに有している。
ケース90は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、ケース90は、導管33及び導管34に気密に取付けられている。ケース90は、不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域91と、不活性ガスの導入口92と、ガスの排出口93とを有している。ここでは、ケース90は、1つのガス充満領域91を有している。ケース90は、導入口92及び排出口93を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0076】
ケース90には、ガス交換膜としての中空糸膜と、不活性ガス導入パイプ96と、ガス排出パイプ97とが設けられている。ここでは、中空糸膜として例えば中空糸膜フィルタ94を利用している。
中空糸膜フィルタ94は、ケース90内に設けられている。中空糸膜フィルタ94は、内部に水系冷却液Lの流路95を形成している。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させるものであり、ガスは透過させるが水系冷却液Lは透過させない性質を有している。
【0077】
すなわち、中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域98及びガス充満領域91を区域し、水系冷却液Lに対して不透過性を示し、ガスに対して透過性を示すものである。ガス充満領域91は、水系冷却液L(流路95、冷却液充満領域98)と接触分離された状態で不活性ガスが満たされている。
【0078】
この実施形態において、循環装置5は、中空糸膜フィルタ94を有しているため、ガス置換法としての膜脱気法を採ることができる。このため、この実施形態では、膜脱気法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0079】
不活性ガス導入パイプ96は導入口92に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ96の一端は導入口92に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0080】
ガス排出パイプ97は排出口93に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ97の一端は排出口93に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0081】
バルブ131は、ケース90の導入口92に気密に取付けられている。ここでは、バルブ131は、不活性ガス導入パイプ96に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ96を介して導入口92に気密に取付けられている。バルブ131の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ131は、ガス充満領域91に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0082】
バルブ132は、ケース90の排出口93に気密に取付けられている。ここでは、バルブ132は、ガス排出パイプ97に気密に取付けられ、ガス排出パイプ97を介して排出口93に気密に取付けられている。バルブ132の他方は開放されている。バルブ132は、ガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0083】
その他、バルブ132の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ132を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域91を真空引きすることができる。
【0084】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82及びケース90のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0085】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0086】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0087】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0088】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、バルブ121に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ121、不活性ガス導入パイプ87及び導入口83を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流す。
【0089】
これにより、ガス充満領域82の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域82は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0090】
また、ガス充満領域82に不活性ガスを流すと同時に、膜脱気法により、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってケース90のガス充満領域91に不活性ガスを流し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去する。
【0091】
中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。ガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口93、ガス排出パイプ97及びバルブ132を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0092】
この際、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0093】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0094】
続いて、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80及びケース90の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0095】
ここで、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122及びバルブ132を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82を一定期間真空引きし、同時に、バルブ132、ガス排出パイプ97及び排出口93を介してガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0096】
そして、ガス充満領域82及びガス充満領域91を真空引きした後、バルブ122及びバルブ132を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82及びガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0097】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0098】
上記のように構成された第3の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ121と、バルブ122と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0099】
膜脱気法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0100】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0101】
バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82及びガス充満領域91は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82及びガス充満領域91が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ121、バルブ122、バルブ131及びバルブ132等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合にも、その酸素はガス充満領域82及びガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0102】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0103】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0104】
次に、第4の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第3の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第3の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0105】
図6に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0106】
上記のように構成された第4の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ121と、バルブ122と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0107】
このため、上述した第3の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0108】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0109】
ここで、上述した第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置の比較例について説明する。この比較例において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0110】
図9に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加されて、陰極156は接地されている。
【0111】
循環装置5は、タンク80ではなく、水系冷却液充満領域81及び開口部を有したタンク89aと、タンク89aの開口部を塞ぐ蓋部89bとを有している。蓋部89bは、タンク89aの開口部を気密に塞ぐものではない。タンク89a及び蓋部89bで囲まれた領域内は、水系冷却液Lの他、大気で満たされている。
【0112】
水系冷却液L中には大気成分(酸素等)が溶存している。このため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食が促進することになる。このため、上述した第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置の比較例では、第1乃至第4の実施形態に係るX線管装置のように、X線管装置の内部腐食を抑制することができないものである。
【0113】
次に、第5の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。始めに、上記X線管装置の立上げ方法によって立上げられたX線管装置の構成について説明する。
【0114】
図7に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。
【0115】
X線管1としては、第1の実施形態で示したX線管1を用いることができる。ここでは、陽極ターゲットは接地され、陰極に高電圧が印加されている。
循環装置5は、気密性の継手6を介して水系冷却液Lを冷却流路3との間で循環させるものである。
ここでは、継手6は、ホース11、ホース12、コネクタ13、コネクタ14、プラグ15及びプラグ16を有している。ホース11の一端にコネクタ13が気密に接続され、他端にプラグ15が気密に接続されている。ホース12の一端にコネクタ14が気密に接続され、他端にプラグ16が気密に接続されている。コネクタ13及びコネクタ14は上記X線管1に気密に接続されている。
【0116】
循環装置5は、筐体20と、循環流路30と、ベローズ機構としての空盆50と、熱交換器60と、流量センサ70と、容器としてのケース90と、循環ポンプ100と、バルブ131と、バルブ132と、を有している。
【0117】
筐体20には、ソケット21及びソケット22が気密に取付けられている。ソケット21にはプラグ15が気密に連結されている。ソケット22にはプラグ16が気密に連結されている。ソケット21及びプラグ15は、着脱可能な連結器としてのカプラ8を形成している。ソケット22及びプラグ16は、着脱可能な連結器としてのカプラ9を形成している。
【0118】
循環流路30は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路30は、水系冷却液Lを収容し、気密性を保持可能である。循環流路30は、導管41、導管42、導管43及び導管45を有している。導管41はソケット22に気密に接続され、導管45はソケット21に気密に接続されている。導管41、導管42、導管43及び導管45は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管42は銅で形成され、導管41、導管43及び導管45は、ステンレス鋼で形成されている。
【0119】
空盆50は、循環流路30に気密に連通されている。空盆50は、開口部51aを有したケース51を有している。開口部51aは、循環流路30の導管41に気密に連通されている。空盆50は、ケース51内を開口部51aと繋がった第1領域53及び第2領域54に区域するベローズ52を有している。ベローズ52は、ケース51に液密に取付けられている。ベローズ52は伸縮自在である。ここでは、ベローズ52はゴムで形成されている。ベローズ52は、水系冷却液Lの体積の膨張及び収縮を吸収することができる。ベローズ52は、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。
【0120】
循環ポンプ100は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、循環ポンプ100は、導管41及び導管42に気密に取付けられている。循環ポンプ100は、水系冷却液Lを循環装置5と冷却流路3との間で循環させるものである。
【0121】
熱交換器60は、導管42の一部とファン62とで形成されている。導管42を流れる水系冷却液Lはファン62によって空冷される。
流量センサ70は、導管42及び導管43間に気密に接続されている。
【0122】
ケース90は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、ケース90は、導管43及び導管45に気密に取付けられている。ケース90は、不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域91と、不活性ガスの導入口92と、ガスの排出口93とを有している。ここでは、ケース90は、1つのガス充満領域91を有している。ケース90は、導入口92及び排出口93を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0123】
ケース90には、ガス交換膜としての中空糸膜と、不活性ガス導入パイプ96と、ガス排出パイプ97とが設けられている。ここでは、中空糸膜として例えば中空糸膜フィルタ94を利用している。
【0124】
中空糸膜フィルタ94は、ケース90内に設けられている。中空糸膜フィルタ94は、内部に水系冷却液Lの流路95を形成している。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させるものであり、ガスは透過させるが水系冷却液Lは透過させない性質を有している。
【0125】
すなわち、中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域98及びガス充満領域91を区域し、水系冷却液Lに対して不透過性を示し、ガスに対して透過性を示すものである。ガス充満領域91は、水系冷却液L(流路95、冷却液充満領域98)と接触分離された状態で不活性ガスが満たされている。
【0126】
この実施形態において、循環装置5は、中空糸膜フィルタ94を有しているため、ガス置換法としての膜脱気法を採ることができる。このため、この実施形態では、膜脱気法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0127】
不活性ガス導入パイプ96は導入口92に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ96の一端は導入口92に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0128】
ガス排出パイプ97は排出口93に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ97の一端は排出口93に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0129】
バルブ131は、ケース90の導入口92に気密に取付けられている。ここでは、バルブ131は、不活性ガス導入パイプ96に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ96を介して導入口92に気密に取付けられている。バルブ131の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ131は、ガス充満領域91に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0130】
バルブ132は、ケース90の排出口93に気密に取付けられている。ここでは、バルブ132は、ガス排出パイプ97に気密に取付けられ、ガス排出パイプ97を介して排出口93に気密に取付けられている。バルブ132の他方は開放されている。バルブ132は、ガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0131】
その他、バルブ132の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ132を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域91を真空引きすることができる。
【0132】
ここで、上記水系冷却液Lについて説明する。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0133】
上記水系冷却液Lは、溶存酸素量が低いため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0134】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、ケース90のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0135】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0136】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0137】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0138】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。
【0139】
そして、バルブ131に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってケース90のガス充満領域91に不活性ガスを流す。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。
【0140】
これにより、ガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口93、ガス排出パイプ97及びバルブ132を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0141】
この際、ガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0142】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0143】
続いて、ガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ131及びバルブ132をそれぞれ閉状態に切替える。このため、ケース90の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0144】
ここで、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ132を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ132、ガス排出パイプ97及び排出口93を介してガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0145】
そして、ガス充満領域91を真空引きした後、バルブ132を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0146】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0147】
上記のように構成された第5の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、ケース90と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0148】
膜脱気法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲットに穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0149】
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
バルブ131及びバルブ132等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域91は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域91が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ131及びバルブ132等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合にも、その酸素はガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0150】
空盆50は、水系冷却液Lの体積の膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
【0151】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0152】
次に、第6の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第5の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第5の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0153】
図8に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0154】
循環流路30は、導管44、ホース46、ホース47、連結器としてのカプラ48及び連結器としてのカプラ49をさらに有している。導管43及びホース46は、着脱可能な連結器としてのカプラ48を介して気密に連結されている。導管44及びホース47は、着脱可能な連結器としてのカプラ49を介して気密に連結されている。
ケース90は、導管44及び導管45に気密に取付けられている。
【0155】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、ホース46及びホース47に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81を有している。タンク80は、液密に形成されている。
【0156】
タンク80には、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86が設けられている。
【0157】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、ホース46の先端に取付けられており、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じる、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0158】
上記のように構成された第6の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ131と、バルブ132とを有している。
【0159】
このため、上述した第5の実施形態と同一の効果を得ることができる。金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができ、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができる。
【0160】
さらに、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止することができ、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0161】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0162】
ここで、上述した第5及び第6の実施形態に係るX線管装置の比較例について説明する。この比較例において、他の構成は上述した第5の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0163】
図10に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲットは接地され、陰極に高電圧が印加されている。循環装置5は、ケース90を有していない。
【0164】
水系冷却液L中には大気成分(酸素等)が溶存している。このため、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食が促進することになる。このため、上述した第5及び第6の実施形態に係るX線管装置の比較例では、第5及び第6の実施形態に係るX線管装置のように、X線管装置の内部腐食を抑制することができないものである。
【0165】
次に、第7の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第5の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第5の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0166】
図11に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0167】
循環装置5は、容器としてのケース200及びベローズ機構としてのベローズ210を備えている。ケース200は、ケース90に気密に連通されている。ベローズ210は、ケース200に気密に取付けられている。ベローズ210は伸縮自在である。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、例えばゴム風船状であってもよい。ベローズ210は、ガスを透過させ難い材料、すなわち、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。また、ベローズ210は、表面に無定形カーボン皮膜などのガスバリア膜をコーティングして形成することが好ましい。なお、ベローズ52もベローズ210と同じ材料を用いて同様に形成することができる。
【0168】
ケース200及びベローズ210は、ケース90とともにガス充満領域91を区域している。ケース90、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域91の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
【0169】
ここで、使用中に密閉系のどこからか、外部からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素がガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されて、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができるメカニズムについて説明する。
【0170】
ガス充満領域91と冷却液充満領域98とはガス透過性の膜を介して接している。ガスとして金属腐食の原因となる酸素に注目し、ガス充満領域91中の酸素分圧をP、冷却液充満領域全体の中に溶解している酸素量をnとすると、ヘンリーの法則により、次の式が成立する。
【0171】
n=P/K・R・T
ここで、Tは絶対温度、Rは気体定数、Kは温度Tにおける平衡定数である。
【0172】
これにより、冷却液充満領域全体の中に溶解している酸素量nはガス充満領域91中の酸素分圧Pに比例することが分かる。
【0173】
(不活性ガスが窒素の場合)
次に、不活性ガスが窒素の場合について説明する。冷却液充満領域全体の容積(全水系冷却液Lの容積)をV1[cc]、ガス充満領域91の容積をV2[cc]とする。ガス充満領域91には最初、窒素ガスが充満し、全水系冷却液Lには最初、窒素ガスが飽和状態で溶解しているとする。
【0174】
冷却流路3、継手6及び循環装置5は、密閉系であるが、次に挙げるように密閉系に空気が混入する恐れがある。
【0175】
(1)密閉系のどこかに僅かなリーク個所があって、そこから密閉系内に徐々に空気が侵入する。
【0176】
(2)樹脂部品を通して空気が拡散して密閉系内に徐々に空気が侵入する。
【0177】
(3)配管の接続時に僅かな空気が混入する。
【0178】
また、ある時点で水系冷却液L中に侵入している全空気量をN[cc]とする。空気中の酸素の分圧は1/5気圧であるので酸素量n=N/5[cc]である。なお残りの4N/5[cc]は窒素であるが、既に水系冷却液L中には窒素ガスが飽和状態で溶解しているので、溶解せず気泡として存在する。酸素は一端冷却液中に溶解するが、上記のヘンリーの法則に従って一部がガス充満領域中に気体として放出されて平衡状態が保たれる。
【0179】
平衡状態での全水系冷却液中に溶解している酸素量をΔn[cc]とする。ここで、水冷却液Lは純水またはグリコール水溶液であるとすると、1気圧の酸素に接している場合の酸素の平衡溶解量は、水系冷却液Lで、1[cc]当たり約0.025[cc]である。すると、ヘンリーの法則から次の式が成立する。
【0180】
Δn=0.025V1(n−Δn)/(V2+n−Δn)
そして、V1、V2<<nであることを考慮して上記の式をΔnについて解くと、
Δn/n=0.025V1/V2
となる。
【0181】
この式から、Δn/n<0.1、つまり侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解する割合を10%以下とするためには、ガス充満領域91の容積V2を冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上にしておけばよいことが分かる。
【0182】
(不活性ガスが窒素以外の場合)
次に、不活性ガスが窒素以外の場合について説明する。ある時点で水系冷却液L中に侵入している全空気量をn[cc]とする。初期は水系冷却液L中には窒素ガスも酸素ガスも溶解していないので、空気は一端水系冷却液L中に溶解するが、上記のヘンリーの法則に従って一部がガス充満領域中に気体として放出されて平衡状態が保たれる。
【0183】
平衡状態での冷却液充満領域中に溶解している空気量をΔn[cc]とする。ここで水系冷却液Lは純水またはグリコール水溶液であるとすると、1気圧の空気に接している場合の空気の平衡溶解量は、水系冷却液Lで、1[cc]当たり約0.025[cc]である。すると、ヘンリーの法則から、不活性ガスが窒素の場合と全く同じ式が成立する。Δn/n<0.1、つまり侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解する割合を10%以下とするためには、ガス充満領域91の容積V2を冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上にしておけばよいことが分かる。
【0184】
上記のように構成された第7の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、ケース90と、バルブ131と、バルブ132とを有している。このため、上述した第5の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0185】
循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域91の容積V2は、冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上である。このため、水系冷却液L中の溶存酸素を低コストで除去することができる。また、密閉系にわずかに酸素が侵入する経路がある場合でも、不活性ガスが充満して水系冷却液と接している空間で酸素が自動的に除去されるため、水系冷却液Lによる金属腐食を低減することが可能となる。また、X線管1のみ交換する場合にも、装置が設置されている現地で、水系冷却液Lの溶存酸素の除去作業を容易に実施することが可能となるため、装置の停止時間を短縮することが可能となる。
【0186】
ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。これにより、不活性ガスを流して行う水系冷却液L中の溶存酸素の追い出し時間の分、X線管装置の立上げにかかる時間を短縮することができる。つまり、不活性ガスを流す時間を、不活性ガスが飽和値まで溶存する時間だけにすることができる。このため、飽和溶存する不活性ガスの体積分、ベローズ210を膨張させておけばよく、ずっと不活性ガスを流し続ける必要はない。また、その場合、不活性ガスが飽和値まで溶存するのを待たずにX線管装置の稼動を開始することも可能である。
【0187】
不活性ガスボンベ7は、常時バルブ131に接続し、ガス充満領域91に不活性ガスを流し続ける必要はない。少なくともX線管装置をモジュールに組立てた後、かつ装置を稼動する前に、不活性ガスボンベ7を用いて脱酸素処理を実施すればよい。また、定期的な保守点検時に追加実施してもよい。真空ポンプを使用する場合も同様である。
【0188】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0189】
次に、第8の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第6の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第6の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0190】
図12に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。
【0191】
この実施形態では、循環装置5は、ケース90を備えていない。循環装置5は、容器としてのケース200及びベローズ機構としてのベローズ210を備えている。ケース200は、ケース51に気密に連通されている。ベローズ210は、ケース200に気密に取付けられている。ベローズ210は伸縮自在である。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。
【0192】
ケース200及びベローズ210は、ケース51とともに第2領域54(ガス充満領域)を区域している。ケース51、ケース200及びベローズ210で区域された第2領域54(ガス充満領域)の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
【0193】
ベローズ52は、水系冷却液Lが存在する第1領域53(冷却液充満領域)及び第2領域54(ガス充満領域)を区域し、水系冷却液Lに対して不透過性を示し、ガスに対して透過性を示すものである。
【0194】
ケース200は、不活性ガスの導入口201と、ガスの排出口202とを有している。ケース200は、導入口201及び排出口202を閉じた状態で気密性を保持可能である。ケース200には、不活性ガス導入パイプ221と、ガス排出パイプ222とが設けられている。
【0195】
不活性ガス導入パイプ221は導入口201に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ221の一端は導入口201に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0196】
ガス排出パイプ222は排出口202に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ222の一端は排出口202に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0197】
バルブ231は、ケース200の導入口201に気密に取付けられている。ここでは、バルブ231は、不活性ガス導入パイプ221に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ221を介して導入口201に気密に取付けられている。バルブ231の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ231は、ガス充満領域(第2領域54)に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0198】
バルブ232は、ケース200の排出口202に気密に取付けられている。ここでは、バルブ232は、ガス排出パイプ222に気密に取付けられ、ガス排出パイプ222を介して排出口202に気密に取付けられている。バルブ232の他方は開放されている。バルブ232は、ガス充満領域(第2領域54)から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0199】
その他、バルブ232の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ232を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域を真空引きすることができる。
【0200】
上記のように構成された第8の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ231と、バルブ232とを有している。
【0201】
このため、上述した第6の実施形態と概ね同一の効果を得ることができる。金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができ、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができる。
【0202】
循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域91の容積V2は、冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上である。このため、上述した第7の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0203】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0204】
次に、第9の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法は、第1の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0205】
図13に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。
【0206】
この実施形態では、循環装置5は、容器としてのケース200及びベローズ機構としてのベローズ210を備えている。ケース200は、タンク80に気密に連通されている。ベローズ210は、ケース200に気密に取付けられている。ベローズ210は伸縮自在である。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。
【0207】
ケース200及びベローズ210は、タンク80とともにガス充満領域82を区域している。タンク80、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域82の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
【0208】
上記のように構成された第9の実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の立上げ方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0209】
このため、上述した第1の実施形態と概ね同一の効果を得ることができる。金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができ、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができる。
【0210】
循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。この実施形態のように、ケース200及びベローズ210は、水系冷却液Lと接触分離されたガス充満領域82を区域していてもよい。ガス充満領域91の容積V2は、冷却液充満領域全体の容積V1の25%以上である。このため、上述した第7及び第8の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0211】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0212】
次に、第10の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第1の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0213】
図14に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。
【0214】
X線管装置は、脱酸素剤310、酸素検知剤320、保持部材330及び覗き窓340を備えている。脱酸素剤310は、ガス充満領域82内に設置され、ガス充満領域82内に存在する酸素を酸化反応によって取り除くものである。脱酸素剤310とは一般的に食品包装で利用されている。脱酸素剤310としては、鉄の酸化を利用して酸素を吸収するタイプが主流である。脱酸素剤310は、例えば、三菱ガス化学株式会社で製造・販売されているエージレスや、パウダーテック株式会社のワンダーキープを使用することができる。
【0215】
酸素検知剤320は、ガス充満領域82内に設置され、ガス充満領域82内に存在する酸素に反応して色調が変化するものである。酸素検知剤320を利用することにより、ガス充満領域82内の酸素濃度を簡便にモニタすることができる。酸素検知剤320も一般的に食品包装で利用されている。酸素検知剤320は、例えば、三菱ガス化学株式会社が製造・販売するエージレスアイや、パウダーテック株式会社のワンダーセンサーなどを使用することができる。
【0216】
保持部材330は、タンク80に固定され、ガス充満領域82内に位置している。上記脱酸素剤310及び酸素検知剤320は、保持部材330により保持されている。保持部材330は、通気性に優れ、脱酸素剤310及び酸素検知剤320を保持可能に形成されている。保持部材330の形状は特に限定されるものではないが、例えば、メッシュ状や格子状であってもよい。
【0217】
覗き窓340は、タンク80の開口を気密に閉塞するよう、タンク80に気密に取付けられている。覗き窓340は、酸素検知剤320の色調を外部から確認するためのものである。言い換えると、酸素検知剤320の色調は、タンク80に気密に取り付けられた覗き窓340を通してタンク80の外部から確認することができるものである。この実施形態では、覗き窓340は脱酸素剤310や酸素検知剤320を出し入れするための開閉自在扉を兼ねている。
【0218】
覗き窓340をタンク80に取付ける際、例えばOリングを介して覗き窓340をタンク80にネジ止めすることができる。
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0219】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0220】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0221】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0222】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0223】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、ガスバブリング法により、バルブ121に接続された不活性ガスボンベ7からバルブ121、不活性ガス導入パイプ87及び導入口83を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去する。なお、不活性ガス導入パイプ87の吐出し口87aは水系冷却液L中に没しているため、不活性ガスは水系冷却液L中をバブリングしてからガス充満領域82に導入することができる。
【0224】
これにより、水系冷却液Lに不活性ガスが溶解するとともに効率良く溶存酸素を除去することができる。ガス充満領域82の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域82は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0225】
この際、ガス充満領域82に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0226】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82に不活性ガスが充満する程度に、より好ましくは、ベローズ85が不活性ガスで膨張する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0227】
また、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させた後であり、かつ、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止する前(バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替える前)に、タンク80から覗き窓340を取外し、ガス充満領域82に脱酸素剤310及び酸素検知剤320をすばやく設置する。設置する際、保持部材330上に脱酸素剤310及び酸素検知剤320を配置する。その後、覗き窓340をタンク80に気密に取り付け、そして、外部からガス充満領域82内に持ち込まれた空気(酸素)を追い出すためにしばらくガス充満領域82への不活性ガスの流しを継続する。
【0228】
続いて、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止し、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80の気密性を保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0229】
ここで、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82を一定期間真空引きする。そして、ガス充満領域82を真空引きした後、バルブ122を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮および不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0230】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0231】
次に、使用中(稼動後)のX線管装置の保守方法について以下に説明する。
まず、使用中(稼動後)のX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、水系冷却液Lには、不活性ガスが溶存されている。なお、水系冷却液Lには、不活性ガスが飽和状態で溶存されている場合もある。
【0232】
次いで、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ開状態とし、ガス充満領域82に不活性ガスを流す。その後、不活性ガスの流しを中止し、バルブ121及びバルブ122をそれぞれ閉状態に切替え、タンク80の気密性を保持する。
【0233】
また、上記X線管装置の保守方法において、覗き窓340を通して酸素検知剤320の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、ガス充満領域82への不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、脱酸素剤310及び酸素検知剤320の少なくとも一方を未使用品に交換することも効果的である。交換する時期としては、ガス充満領域82に不活性ガスを流し始める前、及びガス充満領域82に不活性ガスを流している間の何れであってもよい。上記X線管装置の保守方法を用いることにより、例えばX線管装置の製品寿命を長くすることができる。
【0234】
上記のように構成された第10の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0235】
ガス充満領域82内には脱酸素剤310は設置されているため、ガス充満領域82内に存在する酸素を酸化反応によって取り除くことができる。ガス充満領域82内には酸素検知剤320が設置されているため、ガス充満領域82内の酸素濃度を簡便にモニタすることができる。
【0236】
ガスバブリング法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0237】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる。
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0238】
バルブ121及びバルブ122等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ121及びバルブ122等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素はガス充満領域82で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0239】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0240】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0241】
次に、第11の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第10の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第10の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0242】
図15に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0243】
上記のように構成された第11の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0244】
このため、上述した第10の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0245】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置及び上記X線管装置の立上げ方法を得ることができる。
【0246】
次に、第12の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第10の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0247】
図16に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲット155に高電圧が印加され、陰極156は接地されている。
【0248】
循環流路30は、導管34をさらに有している。循環ポンプ100は、導管34及び導管35に気密に取付けられている。不活性ガス導入パイプ87は、水系冷却液L中に没した吐出し口87aを有していない。不活性ガス導入パイプ87は、一端が導入口83に気密に取付けられ、他端が排出口93に気密に取付けられている。
【0249】
循環装置5は、容器としてのケース90と、第1開閉部としてのバルブ131と、をさらに有している。
ケース90は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、ケース90は、導管33及び導管34に気密に取付けられている。ケース90は、不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域91と、不活性ガスの導入口92と、ガスの排出93とを有している。ここでは、ケース90は、1つのガス充満領域91を有している。ケース90は、導入口92及び排出口93を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0250】
ケース90には、ガス交換膜としての中空糸膜と、不活性ガス導入パイプ96とが設けられている。ここでは、中空糸膜として例えば中空糸膜フィルタ94を利用している。
【0251】
中空糸膜フィルタ94は、ケース90内に設けられている。中空糸膜フィルタ94は、内部に水系冷却液Lの流路95を形成している。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させるものであり、ガスは透過させるが水系冷却液Lは透過させない性質を有している。ガス充満領域91は、水系冷却液L(流路95、冷却液充満領域98)と接触分離された状態で不活性ガスが満たされている。
【0252】
この実施形態において、循環装置5は、中空糸膜フィルタ94を有しているため、ガス置換法としての膜脱気法を採ることができる。このため、この実施形態では、膜脱気法により、水系冷却液L中の酸素ガスを不活性ガスに置換し、水系冷却液L中の溶存酸素を除去するものである。
【0253】
ここで、図16に示した中空糸膜フィルタ94は、図5、図6、図7、図8及び図11に示した中空糸膜フィルタと同一のものである。なお、図5、図6、図7、図8及び図11では、中空糸膜フィルタの概念を説明するために、簡略化した中空糸膜フィルタを示している。また、図5、図6、図7、図8及び図11に示した中空糸膜フィルタは、図16に示した中空糸膜フィルタ94の一部を拡大したものに相当すると言い換えることもできる。
【0254】
不活性ガス導入パイプ96は導入口92に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ96の一端は導入口92に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0255】
バルブ131は、ケース90の導入口92に気密に取付けられている。ここでは、バルブ131は、不活性ガス導入パイプ96に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ96を介して導入口92に気密に取付けられている。バルブ131の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ131は、ガス充満領域91及びガス充満領域82に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ケース90の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0256】
なお、バルブ122は、ガス充満領域82及びガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、タンク80の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。その他、バルブ122の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ122を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域82及びガス充満領域91を真空引きすることができる。
【0257】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、タンク80のガス充満領域82及びケース90のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0258】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0259】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0260】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0261】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。そして、バルブ131に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってタンク80のガス充満領域82に不活性ガスを流す。
【0262】
これにより、ガス充満領域82及びガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口84、ガス排出パイプ88及びバルブ122を介して、外部に排出される。同時に、膜脱気法により、水系冷却液L中の溶存酸素は除去される。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。このため、ガス充満領域82及びガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0263】
この際、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0264】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0265】
また、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させた後であり、かつ、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止する前(バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態に切替える前)に、タンク80から覗き窓340を取外し、ガス充満領域82に脱酸素剤310及び酸素検知剤320をすばやく設置する。設置する際、保持部材330上に脱酸素剤310及び酸素検知剤320を配置する。その後、覗き窓340をタンク80に気密に取り付け、そして、外部からガス充満領域82内に持ち込まれた空気(酸素)を追い出すためにしばらくガス充満領域82への不活性ガスの流しを継続する。
【0266】
続いて、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態に切替える。このため、タンク80及びケース90の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0267】
ここで、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域82及びガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ122を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ122、ガス排出パイプ88及び排出口84を介してガス充満領域82及びガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0268】
そして、ガス充満領域82及びガス充満領域91を真空引きした後、バルブ122を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域82及びガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮および不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0269】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0270】
次に、使用中(稼動後)のX線管装置の保守方法について以下に説明する。
まず、使用中(稼動後)のX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、水系冷却液Lには、不活性ガスが溶存されている。なお、水系冷却液Lには、不活性ガスが飽和状態で溶存されている場合もある。
【0271】
次いで、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ開状態とし、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流す。その後、不活性ガスの流しを中止し、バルブ122及びバルブ131をそれぞれ閉状態に切替え、タンク80の気密性を保持する。
【0272】
また、上記X線管装置の保守方法において、覗き窓340を通して酸素検知剤320の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、ガス充満領域82及びガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、脱酸素剤310及び酸素検知剤320の少なくとも一方を未使用品に交換することも効果的である。交換する時期としては、ガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流し始める前、及びガス充満領域82及びガス充満領域91に不活性ガスを流している間の何れであってもよい。上記X線管装置の保守方法を用いることにより、例えばX線管装置の製品寿命を長くすることができる。
【0273】
上記のように構成された第12の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ122と、バルブ131とを有している。
【0274】
膜脱気法により、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。このため、低コストにて水系冷却液L中の酸素ガスを除去することができる。また、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分の腐食を抑制することができる。金属部分が腐食し易い銅を主成分とする材料で形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。すなわち、水系冷却液LによるX線管装置の内部腐食を低減することができる。陽極ターゲット155に穴が形成される等の腐食によって生じる不良を低減できるため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0275】
また、金属部分の腐食によって生じる金属イオン等の発生を抑制することができるため、イオン交換樹脂86の寿命を延ばすことができる。
水系冷却液Lを使用できるため、冷却液が絶縁油である場合に比べて冷却性能に優れたX線管装置を得ることができる。
【0276】
バルブ122及びバルブ131等、冷却流路3、継手6及び循環装置5の密閉系にわずかに大気(酸素)が侵入する経路がある場合であっても、ガス充満領域82及びガス充満領域91は不活性ガスで満たされている。ガス充満領域82及びガス充満領域91が真空状態でないことは言うまでもない。バルブ122及びバルブ131等の経路からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合にも、その酸素はガス充満領域82及びガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されるため、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができ、ひいてはX線管装置の内部腐食を低減することができる。
【0277】
タンク80に設けられたベローズ85は、水系冷却液Lの膨張及び収縮を吸収することができる。このため、この冷却流路3、継手6及び循環装置5が密閉系を形成しても、水系冷却液Lが膨張した場合の水系冷却液Lの漏れや、水系冷却液Lが収縮した場合の水系冷却液Lへの空気の吸い込みを防止することができる。
循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止でき、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0278】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0279】
次に、第13の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第12の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第12の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0280】
図17に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。この実施形態では、水系冷却液L中のイオンの増加を防止しなくとも問題がないため、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有していない。
【0281】
上記のように構成された第13の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ122と、バルブ131とを有している。
【0282】
このため、上述した第12の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0283】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0284】
次に、第14の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第11の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第11の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
図18に示すように、熱交換器60は、導管31の一部とファン62とで形成されている。導管31を流れる水系冷却液Lはファン62によって空冷される。
【0285】
上記のように構成された第14の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。
【0286】
このため、上述した第11の実施形態と同一の効果を得ることができる。また、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用し、陽極ターゲットは接地されているため、イオン交換樹脂フィルタ86無しに循環装置5を形成することができる。
【0287】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0288】
次に、第15の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第7の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0289】
図19に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。
【0290】
ケース200は、不活性ガスの導入口201と、ガスの排出口202とを有している。ケース200及びケース90は、導入口92及び排出口202を閉じた状態で気密性を保持可能である。導入口201は、ケース90のガスの排出口93に気密に連通されている。ケース200には、ガス排出パイプ222が設けられている。ガス排出パイプ222は排出口202に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ222の一端は排出口202に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0291】
バルブ232は、ケース200の排出口202に気密に取付けられている。ここでは、バルブ232は、ガス排出パイプ222に気密に取付けられ、ガス排出パイプ222を介して排出口202に気密に取付けられている。バルブ232の他方は開放されている。バルブ232は、ケース90、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域91から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域91(ケース90、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0292】
その他、バルブ232の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ232を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域を真空引きすることができる。
【0293】
なお、バルブ131は、ガス充満領域91に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域91の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0294】
X線管装置は、脱酸素剤310、酸素検知剤320、保持部材330及び覗き窓340を備えている。脱酸素剤310及び酸素検知剤320は、ガス充満領域82内に設置されている。保持部材330は、タンク80に固定され、ガス充満領域82内に位置している。保持部材330は、通気性に優れ、脱酸素剤310及び酸素検知剤320を保持可能に形成されている。
【0295】
覗き窓340は、タンク80の開口を気密に閉塞するよう、タンク80に気密に取付けられている。覗き窓340は、酸素検知剤320の色調を外部から確認するためのものである。この実施形態では、覗き窓340は脱酸素剤310や酸素検知剤320を出し入れするための開閉自在扉を兼ねている。
【0296】
ベローズ210は、ガスに対して不透過性を示すものでる。ベローズ210の形状は特に限定されるものではない。ベローズ210は、例えばゴム風船状であってもよい。ベローズ210は、ガスを透過させ難い材料、すなわち、ガスに対して不透過性を示す材料で形成することが好ましい。また、ベローズ210は、表面に無定形カーボン皮膜などのガスバリア膜をコーティングして形成することが好ましい。なお、ベローズ52もベローズ210と同じ材料を用いて同様に形成することができる。
【0297】
ケース90、ケース200及びベローズ210で区域されたガス充満領域91の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。X線管装置の使用中に密閉系(循環流路30)のどこからか、外部からの大気(酸素)のわずかな侵入があり、侵入した酸素が水系冷却液Lに溶解した場合でも、その酸素がガス充満領域91で不活性ガスに自然に置換されて、水系冷却液Lの溶存酸素量の上昇を抑制することができるメカニズムについては第7の実施形態等の場合と同じであるため、説明を省略する。
【0298】
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0299】
次に、上記X線管装置の立上げ方法について説明する。
まず、X線管1と、循環装置5とを備えたX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、ケース90、ケース200及びベローズ210のガス充満領域91は、まだ不活性ガスで満たされておらず、大気で満たされている。
【0300】
続いて、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入し、冷却流路3に、継手6を介して循環流路30を連通させ、水系冷却液Lが導入されたX線管装置をモジュールに組立てる。
【0301】
ここでは、冷却流路3、継手6及び循環装置5に水系冷却液Lを導入した後、冷却流路3及び循環流路30を連通させたが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、管球を交換するメンテナンス時においては、管球を交換したX線管1の冷却流路3にのみ水系冷却液Lを導入し、継手6及び循環装置5においては、既に導入されている水系冷却液Lを引続き利用することができる。または、継手6及び循環装置5においては、水系冷却液Lを入れ換えてもよい。
【0302】
次いで、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環流路30と冷却流路3との間を循環させる。なお、循環ポンプ100を稼動させ、水系冷却液Lを循環させている間、熱交換器60は、稼動させてさせなくてもよい。
【0303】
その後、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ開状態とする。ここでは、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ閉状態から開状態に切替えることで行う。
【0304】
そして、バルブ131に接続された不活性ガスボンベ7から、バルブ131、不活性ガス導入パイプ96及び導入口92を通ってケース90、ケース200及びベローズ210のガス充満領域91に不活性ガスを流す。中空糸膜フィルタ94は、水系冷却液Lと不活性ガスとを接触分離させることができ、水系冷却液Lに不活性ガスを溶解させるとともに溶存酸素を除去することができる。
【0305】
これにより、ガス充満領域91の不活性ガス及び酸素ガスは、排出口202、ガス排出パイプ222及びバルブ232を介して、外部に排出される。そして、ガス充満領域91は、次第に不活性ガスで充満されることになる。
【0306】
この際、ガス充満領域91に不活性ガスを一定期間流すことにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を低下させることができる。ここで、上記一定期間とは、例えば、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間である。
【0307】
なお、上記一定期間は、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存するまでの期間より短期間であってもよい。すなわち、不活性ガスが水系冷却液Lに飽和値まで溶存しない期間であってもよい。この場合、ガス充満領域91に不活性ガスが充満する程度に不活性ガスを導入すればよく、これにより、水系冷却液Lの溶存酸素量を次第に低下させることができる。
また、上記のように、ガス充満領域91に不活性ガスを流す期間は、水系冷却液Lを循環させる期間と重複していればよい。
【0308】
続いて、ガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止し、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ閉状態に切替える。このため、ケース90、ケース200及びベローズ210の気密性をそれぞれ保持することができる。これにより、X線管装置の立上げが終了する。
【0309】
ここで、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。例えば、水系冷却液Lを循環させた後であり、かつ、ガス充満領域91に不活性ガスを流す前に、さらに、ガス充満領域91の真空引きを行ってもよい。この場合、水系冷却液Lの循環を維持した状態で、バルブ232を開状態とし、真空ポンプを用い、バルブ232、ガス排出パイプ222及び排出口202を介してガス充満領域91を一定期間真空引きする。
【0310】
そして、ガス充満領域91を真空引きした後、バルブ232を閉状態に切替え、真空引きを中止すればよい。これにより、ガス充満領域91における酸素及び水系冷却液Lの溶存酸素の外部への排出時間の短縮、及び不活性ガスを流す時間の短縮を図ることができる。
【0311】
上記X線管装置の立上げ方法は、X線管装置を初めてモジュールに組立てた後や、管球の交換等のX線管装置のメンテナンス時に行えばよく、常時行う必要なない。これにより、立上げ時以降、水系冷却液Lの溶存酸素量の低い状態を維持することができる。
【0312】
次に、使用中(稼動後)のX線管装置の保守方法について以下に説明する。
まず、使用中(稼動後)のX線管装置を用意する。ここで用意した循環装置5において、水系冷却液Lには、不活性ガスが溶存されている。なお、水系冷却液Lには、不活性ガスが飽和状態で溶存されている場合もある。
【0313】
次いで、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ開状態とし、ガス充満領域91に不活性ガスを流す。その後、不活性ガスの流しを中止し、バルブ131及びバルブ232をそれぞれ閉状態に切替え、ケース90、ケース200及びベローズ210の気密性を保持する。
【0314】
また、上記X線管装置の保守方法において、覗き窓340を通して酸素検知剤320の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、ガス充満領域91への不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、脱酸素剤310及び酸素検知剤320の少なくとも一方を未使用品に交換することも効果的である。交換する時期としては、ガス充満領域91に不活性ガスを流し始める前、及びガス充満領域91に不活性ガスを流している間の何れであってもよい。上記X線管装置の保守方法を用いることにより、例えばX線管装置の製品寿命を長くすることができる。
【0315】
上記のように構成された第15の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、ケース90と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。このため、上述した第7の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0316】
ガス充満領域82内には脱酸素剤310は設置されているため、ガス充満領域82内に存在する酸素を酸化反応によって取り除くことができる。ガス充満領域82内には酸素検知剤320が設置されているため、ガス充満領域82内の酸素濃度を簡便にモニタすることができる。
【0317】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0318】
次に、第16の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第15の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0319】
図20に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0320】
循環流路30は、導管44、ホース46、ホース47、連結器としてのカプラ48及び連結器としてのカプラ49をさらに有している。導管43及びホース46は、着脱可能な連結器としてのカプラ48を介して気密に連結されている。導管44及びホース47は、着脱可能な連結器としてのカプラ49を介して気密に連結されている。
ケース90は、導管44及び導管45に気密に取付けられている。
【0321】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、ホース46及びホース47に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81を有している。タンク80は、液密に形成されている。
【0322】
タンク80には、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86が設けられている。
【0323】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、ホース46の先端に取付けられており、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じる、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0324】
上記のように構成された第16の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、ケース90と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0325】
さらに、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止することができ、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0326】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0327】
次に、第17の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第8の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0328】
図21に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。水系冷却液Lには不活性ガスが溶解されている。この実施形態において、水系冷却液Lには不活性ガスが飽和状態で溶解されている。水系冷却液L(純水)中に溶解した酸素ガスを不活性ガスに置換した状態となる。ここでは、陽極ターゲット155は接地され、陰極156に高電圧が印加されている。
この実施形態では、循環装置5は、タンク80、導管44、ホース46、ホース47、カプラ48及びカプラ49を有していない。
【0329】
ケース200の排出口202は、ケース51に気密に連通されている。ケース200及びベローズ210は、ケース51とともに第2領域54(ガス充満領域)を区域している。ケース51、ケース200及びベローズ210で区域された第2領域54(ガス充満領域)の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上である。
ケース51はガスの排出口56を有している。ケース51、ケース200及びベローズ210は、導入口201及び排出口56を閉じた状態で気密性を保持可能である。
【0330】
不活性ガス導入パイプ221は導入口201に気密に取付けられている。ここでは、不活性ガス導入パイプ221の一端は導入口201に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0331】
ガス排出パイプ222は排出口56に気密に取付けられている。ここでは、ガス排出パイプ222の一端は排出口56に気密に取付けられ、他端は筐体20の外側に引き出されている。
【0332】
バルブ231は、ケース200の導入口201に気密に取付けられている。ここでは、バルブ231は、不活性ガス導入パイプ221に気密に取付けられ、不活性ガス導入パイプ221を介して導入口201に気密に取付けられている。バルブ231の他方は、不活性ガスボンベ7に接続することができる。バルブ231は、ガス充満領域(第2領域54)に不活性ガスボンベ7から不活性ガスを導入可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0333】
バルブ232は、ケース51の排出口56に気密に取付けられている。ここでは、バルブ232は、ガス排出パイプ222に気密に取付けられ、ガス排出パイプ222を介して排出口56に気密に取付けられている。バルブ232の他方は開放されている。バルブ232は、ガス充満領域(第2領域54)から外部にガスを排出可能な開状態と、ガス充満領域(ケース51、ケース200及びベローズ210)の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能である。
【0334】
その他、バルブ232の他方には、必要に応じて真空ポンプを接続してもよい。この場合、バルブ232を開状態とすることにより、真空ポンプにてガス充満領域を真空引きすることができる。
【0335】
X線管装置は、脱酸素剤310、酸素検知剤320、保持部材330及び覗き窓340を備えている。脱酸素剤310及び酸素検知剤320は、ガス充満領域82内に設置されている。保持部材330は、タンク80に固定され、ガス充満領域82内に位置している。保持部材330は、通気性に優れ、脱酸素剤310及び酸素検知剤320を保持可能に形成されている。
【0336】
覗き窓340は、タンク80の開口を気密に閉塞するよう、タンク80に気密に取付けられている。覗き窓340は、酸素検知剤320の色調を外部から確認するためのものである。この実施形態では、覗き窓340は脱酸素剤310や酸素検知剤320を出し入れするための開閉自在扉を兼ねている。
【0337】
上記のように構成された第17の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、空盆50と、ケース200と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0338】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0339】
次に、第18の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第17の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0340】
図22に示すように、循環流路30は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路30は、水系冷却液Lを収容し、気密性を保持可能である。循環流路30は、導管31、導管36、導管37を有している。導管31はソケット22及び流量センサ70に気密に接続されている。導管36は、流量センサ70及び循環ポンプ100に気密に接続されている。導管37はソケット21及び循環ポンプ100に気密に接続されている。導管31、導管36及び導管37は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管31は銅で形成され、導管36及び導管37はステンレス鋼で形成されている。
【0341】
空盆50の開口部51aは、循環流路30の導管31に気密に連通されている。
熱交換器60は、循環流路30に気密に取付けられ、水系冷却液Lの熱を外部に放出するものである。熱交換器60は、導管31の一部と導管61とで形成されている。導管61の両端は、筐体20の外側に引き出されている。導管61の両端には、バルブ111及びバルブ112が接続されている。ここでは、導管61の中は、冷却液として水道水が流れる。水道水を導管61の中を流す場合、バルブ111を水道水が導入可能な開状態とし、バルブ112を水道水が排出可能な開状態とすればよい。これにより、二次冷却系である導管31を流れる水系冷却液Lの熱が、一次冷却系である導管61を流れる水道水に伝導され、水系冷却液Lは冷却される。
【0342】
上記のように構成された第18の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、空盆50と、ケース200と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0343】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0344】
次に、第19の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法について詳細に説明する。この実施形態において、他の構成は上述した第17の実施形態と同一であり、同一の部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法は、第15の実施形態と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0345】
図23に示すように、X線管装置は、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、継手6と、不活性ガスボンベ7とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lに純水を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0346】
循環流路30は、導管44、ホース46、ホース47、連結器としてのカプラ48及び連結器としてのカプラ49をさらに有している。導管43及びホース46は、着脱可能な連結器としてのカプラ48を介して気密に連結されている。導管44及びホース47は、着脱可能な連結器としてのカプラ49を介して気密に連結されている。導管44はソケット21及びカプラ49に気密に接続されている。
【0347】
タンク80は、循環流路30に気密に取付けられている。詳しくは、タンク80は、ホース46及びホース47に気密に取付けられている。タンク80は、水系冷却液Lが充満した水系冷却液充満領域81を有している。タンク80は、液密に形成されている。
【0348】
タンク80には、イオン交換樹脂としてのイオン交換樹脂フィルタ86が設けられている。
【0349】
イオン交換樹脂フィルタ86は、タンク80の内部に設けられている。イオン交換樹脂フィルタ86は水系冷却液L中に浸漬されている。ここでは、イオン交換樹脂フィルタ86は、ホース46の先端に取付けられており、循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分が腐食した場合に生じる、水系冷却液Lの導電率の上昇を抑制することができる。これにより、純水である水系冷却液Lの非導電性を維持することができ、X線管1で生じる放電等の電気的な不良を抑制することができる。
【0350】
上記のように構成された第19の実施形態に係るX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法によれば、X線管装置は、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5とを備えている。循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、空盆50と、ケース200と、バルブ131と、バルブ232とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第15の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0351】
さらに、循環装置5は、イオン交換樹脂フィルタ86を有しているため、水系冷却液L中の金属イオン等のイオンの増加を防止することができ、水系冷却液Lの非導電性を一層維持することができる。
【0352】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れたX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法を得ることができる。
【0353】
次に、第20の実施形態に係る熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法について説明する。ここでは、熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法としての冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法について詳細に説明する。また、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法は、第11の実施形態のX線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法と同一であり、その詳細な説明を省略する。
【0354】
図24に示すように、冷却システムは、X線管1と、X線管1の冷却流路3と、水系冷却液Lと、水系冷却液Lの循環装置5と、不活性ガスボンベ7と、絶縁油IOと、絶縁油IOの循環装置400と、継手6とを備えている。この実施形態において、水系冷却液Lにグリコール水溶液を利用している。ここでは、陽極ターゲットに高電圧が印加され、陰極は接地されている。
【0355】
循環装置5は、第14の実施形態の循環装置と同様に構成されている。循環装置5は、
プラグ15及びプラグ16間に気密に接続され、筐体20の外側に引き出されている導管17をさらに備えている。導管17は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成することができる。導管17は、冷却流路として機能している。
【0356】
循環装置400は、気密性の継手6を介して絶縁油IOを冷却流路3との間で循環させるものである。
ここでは、継手6は、ホース11、ホース12、コネクタ13及びコネクタ14を有している。ホース11の一端にコネクタ13が気密に接続され、ホース12の一端にコネクタ14が気密に接続されている。コネクタ13は上記X線管1の導入路C1に気密に接続され、コネクタ14は上記X線管1の排出路C2に気密に接続されている。
【0357】
循環装置400は、循環流路410と、ベローズ機構としての空盆420と、循環ポンプ430と、熱交換器440と、流量センサ450とを有している。
循環流路410は、冷却流路3に継手6を介して連通されている。循環流路410は、絶縁油IOを収容し、気密性を保持可能である。循環流路410は、導管411、導管412及び導管413を有している。導管411は着脱可能な連結器としてのカプラ417を介してホース12に気密に接続され、導管413は着脱可能な連結器としてのカプラ418を介してホース11に気密に接続されている。導管411、導管412及び導管413は、銅、鉄、鉄合金、鋼等の金属で形成されている。ここでは、導管411は、銅で形成され、導管412及び導管413は、ステンレス鋼で形成されている。
【0358】
空盆420は、循環流路410に気密に連通されている。空盆420は、開口部421aを有したケース421を有している。開口部421aは、循環流路410の導管411に気密に連通されている。空盆420は、ケース421内を開口部421aと繋がった第1領域423及び第2領域424に区域するベローズ422を有している。ベローズ422は、ケース421に液密に取付けられている。ベローズ422は伸縮自在である。ここでは、ベローズ422はゴムで形成されている。ベローズ422は、絶縁油IOの体積の膨張及び収縮を吸収することができる。
【0359】
熱交換器440は、循環流路410に気密に取付けられ、絶縁油IOの熱を外部に放出するものである。熱交換器440は、導管412の一部と導管17とで形成されている。上述したように、導管17の中は、水系冷却液Lが流れる。これにより、二次冷却系である導管412を流れる絶縁油IOの熱が、一次冷却系である導管17を流れる水系冷却液Lに伝導され、絶縁油IOは冷却される。
【0360】
循環ポンプ430は、循環流路410に気密に取付けられている。詳しくは、循環ポンプ430は、導管411及び導管412に気密に取付けられている。循環ポンプ430は、絶縁油IOを循環装置400と冷却流路3との間で循環させるものである。
流量センサ450は、導管412及び導管413間に気密に接続されている。
【0361】
上記のように構成された第20の実施形態に係る冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法によれば、冷却システムは、X線管1と、冷却流路3と、循環装置5と、循環装置400とを備えている。循環装置5は、循環装置400の絶縁油IOを冷却することにより、X線管1を間接的に冷却している。
【0362】
循環装置5は、循環流路30と、循環ポンプ100と、タンク80と、バルブ121と、バルブ122とを有している。循環装置5は、ケース200及びベローズ210を備えている。ガス充満領域82内には脱酸素剤310及び酸素検知剤320が設置されている。このため、上述した第11の実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0363】
上記したことから、水系冷却液による内部腐食を低減することができ、長期にわたって信頼性が高く、冷却性能に優れた冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法を得ることができる。
【0364】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0365】
例えば、冷却流路3は、陽極ターゲットから放出される熱の少なくとも一部が伝導される水系冷却液Lを収容し、密閉されていればよい。このため、図25に示すように、X線管1がハウジング2に収容され、ハウジング2内が水系冷却液Lで満たされている場合、冷却流路3は、X線管1の内部及びハウジング2内部で形成することができる。また、図26に示すように、X線管1が水系冷却液Lの取入れ口及び吐出し口を有していない場合、冷却流路3は、ハウジング2内部で形成することができる。
【0366】
タンク80には、ガス充満領域82を真空引きするための真空排気パイプやバルブを別途設けてもよい。同様に、ケース90には、ガス充満領域91を真空引きするための真空排気パイプやバルブを別途設けてもよい。なお、ケース200についても同様である。
【0367】
水系冷却液Lと接する循環流路30、X線管1及び冷却流路3等の金属部分に、金等の貴金属メッキを施してもよい。これにより、X線管装置の製品寿命の長期化を図ることができる。
【0368】
ガス充満領域に不活性ガスを流す場合について説明したが、ガス充満領域には、絶縁ガスとして例えばSF6等も使用することができる。性能上は、ヘリウムガス、ネオンガス及びSF6等が好適であるが、製造費用やメンテナンス費用を考慮すると、ガス充満領域には安価な窒素ガスを流すことが望ましい。
【0369】
第7乃至第9及び第15乃至第10の実施形態に係るX線管装置、並びに第20の実施形態に係る冷却システムに限らず、他の実施の形態においても、ガス充満領域の容積は、水系冷却液Lが存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上であってもよい。
上記X線管装置の保守方法は、第1乃至第9の実施形態のX線管装置に用いてもよい。
【0370】
本発明は、上述したX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法や、冷却システム、冷却システムの立上げ方法及び冷却システムの保守方法に限定されるものではなく、各種の熱移動システム、熱移動システムの立上げ方法及び熱移動システムの保守方法に適用することができる。上述した以外の各種のX線管装置、X線管装置の立上げ方法及びX線管装置の保守方法にも本発明を適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0371】
1…X線管、3…冷却流路、5…循環装置、6…継手、20…筐体、30…循環流路、17,31,32,33,34,35,36,37,41,42,43,44,45…導管、46,47…ホース、48,49…カプラ、50…空盆、56…排出口、60…熱交換器、61…導管、62…ファン、70…流量センサ、80…タンク、81…水系冷却液充満領域、82…ガス充満領域、83…導入口、84…排出口、85…ベローズ、86…イオン交換樹脂フィルタ、87…不活性ガス導入パイプ、87a…吐出し口、88…ガス排出パイプ、90…ケース、91…ガス充満領域、92…導入口、93…排出口、94…中空糸膜フィルタ、95…流路、96…不活性ガス導入パイプ、97…ガス排出パイプ、98…冷却液充満領域、100…循環ポンプ、121,122,131,132…バルブ、200…ケース、201…導入口、202…排出口、210…ベローズ、221…不活性ガス導入パイプ、222…ガス排出パイプ、231,232…バルブ、310…脱酸素剤、320…酸素検知剤、330…保持部材、340…覗き窓、400…循環装置、410…循環流路、420…空盆、430…循環ポンプ、440…熱交換器、450…流量センサ、L…水系冷却液、IO…絶縁油、V1,V2…容積。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、
前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、
前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、
前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えていることを特徴とする熱移動システム。
【請求項2】
前記容器に気密に取付けられ、前記容器とともに前記ガス充満領域を区域した伸縮自在のベローズ機構をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項3】
前記容器内に設けられ、前記水系冷却液が存在する冷却液充満領域及び前記ガス充満領域を区域し、前記水系冷却液に対して不透過性を示し、前記ガスに対して透過性を示すガス交換膜をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱移動システム。
【請求項4】
前記ガス交換膜は、中空糸膜であることを特徴とする請求項3に記載の熱移動システム。
【請求項5】
前記ガス交換膜は、ベローズであることを特徴とする請求項3に記載の熱移動システム。
【請求項6】
前記ガス充満領域の容積は、前記水系冷却液が存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上であることを特徴とする請求項2に記載の熱移動システム。
【請求項7】
前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素を酸化反応によって取り除く脱酸素剤をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項8】
前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素に反応して色調が変化する酸素検知剤をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は7に記載の熱移動システム。
【請求項9】
前記容器に気密に取付けられ、前記酸素検知剤の色調を外部から確認するための覗き窓をさらに備えていることを特徴とする請求項8に記載の熱移動システム。
【請求項10】
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液の熱を外部に放出する熱交換器をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項11】
前記循環流路に気密に取付けられた伸縮自在のベローズ機構をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項12】
前記ベローズ機構は、前記ガスに対して不透過性を示すことを特徴とする請求項2又は11に記載の熱移動システム。
【請求項13】
前記水系冷却液は、グリコール水溶液を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項14】
前記水系冷却液は、純水であることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項15】
前記容器の内部及び前記循環流路に気密に取付けられた他の容器の内部の少なくとも一方に設けられたイオン交換樹脂をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項16】
前記導入口に取付けられ、前記容器内の前記水系冷却液中に没し前記導入口から導入される前記不活性ガスを吐出す吐出し口を有した不活性ガス導入パイプをさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項17】
前記水系冷却液に接する部材の少なくとも一部は、銅を主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至16の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項18】
X線を透過する出力窓が一部に形成された真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられ電子を放出する陰極と、前記真空外囲器内に設けられ前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットと、を有するX線管をさらに備え、
前記水系冷却液に伝導される外部からの熱は、前記X線管から放出される熱の少なくとも一部であることを特徴とする請求項1乃至17の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項19】
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記循環ポンプを稼動させ、前記水系冷却液を前記循環流路と前記冷却流路との間を循環させ、
前記水系冷却液を循環させる期間と重複する期間を含み、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする熱移動システムの立上げ方法。
【請求項20】
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流す前に、さらに、
前記第1開閉部を閉状態とし、前記第2開閉部を開状態とし、前記第2開閉部及び排出口を介して前記ガス充満領域を真空引きし、
前記ガス充満領域を真空引きした後、前記第2開閉部を閉状態に切替え、前記真空引きを中止する、ことを特徴とする請求項19に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項21】
前記ガス充満領域への前記不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、
前記ガス充満領域内に、前記ガス充満領域内に存在する酸素を酸化反応によって取り除く脱酸素剤を設置することを特徴とする請求項19に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項22】
前記ガス充満領域への前記不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、
前記ガス充満領域内に、前記ガス充満領域内に存在する酸素に反応して色調が変化する酸素検知剤を設置することを特徴とする請求項19に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項23】
X線を透過する出力窓が一部に形成された真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられ電子を放出する陰極と、前記真空外囲器内に設けられ前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットと、を有するX線管をさらに備えた、熱移動システムの立上げ方法であって、
前記水系冷却液に伝導される外部からの熱は、前記X線管から放出される熱の少なくとも一部であることを特徴とする請求項19乃至22の何れか1項に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項24】
外部からの熱が伝導され不活性ガスを溶存した水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする熱移動システムの保守方法。
【請求項25】
前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素を酸化反応によって取り除く脱酸素剤と、前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素に反応して色調が変化する酸素検知剤と、をさらに備え、前記容器は前記酸素検知剤の色調を外部から確認するための覗き窓をさらに有している熱移動システムの保守方法であって、
前記覗き窓を通して前記酸素検知剤の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、前記ガス充満領域への前記不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、
前記脱酸素剤及び酸素検知剤の少なくとも一方を未使用品に交換することを特徴とする請求項24に記載の熱移動システムの保守方法。
【請求項26】
X線を透過する出力窓が一部に形成された真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられ電子を放出する陰極と、前記真空外囲器内に設けられ前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットと、を有するX線管をさらに備えた、熱移動システムの保守方法であって、
前記水系冷却液に伝導される外部からの熱は、前記X線管から放出される熱の少なくとも一部であることを特徴とする請求項24又は25に記載の熱移動システムの保守方法。
【請求項1】
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、
前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、
前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、
前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えていることを特徴とする熱移動システム。
【請求項2】
前記容器に気密に取付けられ、前記容器とともに前記ガス充満領域を区域した伸縮自在のベローズ機構をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項3】
前記容器内に設けられ、前記水系冷却液が存在する冷却液充満領域及び前記ガス充満領域を区域し、前記水系冷却液に対して不透過性を示し、前記ガスに対して透過性を示すガス交換膜をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱移動システム。
【請求項4】
前記ガス交換膜は、中空糸膜であることを特徴とする請求項3に記載の熱移動システム。
【請求項5】
前記ガス交換膜は、ベローズであることを特徴とする請求項3に記載の熱移動システム。
【請求項6】
前記ガス充満領域の容積は、前記水系冷却液が存在する冷却液充満領域全体の容積の25%以上であることを特徴とする請求項2に記載の熱移動システム。
【請求項7】
前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素を酸化反応によって取り除く脱酸素剤をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項8】
前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素に反応して色調が変化する酸素検知剤をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は7に記載の熱移動システム。
【請求項9】
前記容器に気密に取付けられ、前記酸素検知剤の色調を外部から確認するための覗き窓をさらに備えていることを特徴とする請求項8に記載の熱移動システム。
【請求項10】
前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液の熱を外部に放出する熱交換器をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項11】
前記循環流路に気密に取付けられた伸縮自在のベローズ機構をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱移動システム。
【請求項12】
前記ベローズ機構は、前記ガスに対して不透過性を示すことを特徴とする請求項2又は11に記載の熱移動システム。
【請求項13】
前記水系冷却液は、グリコール水溶液を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項14】
前記水系冷却液は、純水であることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項15】
前記容器の内部及び前記循環流路に気密に取付けられた他の容器の内部の少なくとも一方に設けられたイオン交換樹脂をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項16】
前記導入口に取付けられ、前記容器内の前記水系冷却液中に没し前記導入口から導入される前記不活性ガスを吐出す吐出し口を有した不活性ガス導入パイプをさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項17】
前記水系冷却液に接する部材の少なくとも一部は、銅を主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至16の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項18】
X線を透過する出力窓が一部に形成された真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられ電子を放出する陰極と、前記真空外囲器内に設けられ前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットと、を有するX線管をさらに備え、
前記水系冷却液に伝導される外部からの熱は、前記X線管から放出される熱の少なくとも一部であることを特徴とする請求項1乃至17の何れか1項に記載の熱移動システム。
【請求項19】
外部からの熱が伝導される水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記循環ポンプを稼動させ、前記水系冷却液を前記循環流路と前記冷却流路との間を循環させ、
前記水系冷却液を循環させる期間と重複する期間を含み、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする熱移動システムの立上げ方法。
【請求項20】
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流す前に、さらに、
前記第1開閉部を閉状態とし、前記第2開閉部を開状態とし、前記第2開閉部及び排出口を介して前記ガス充満領域を真空引きし、
前記ガス充満領域を真空引きした後、前記第2開閉部を閉状態に切替え、前記真空引きを中止する、ことを特徴とする請求項19に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項21】
前記ガス充満領域への前記不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、
前記ガス充満領域内に、前記ガス充満領域内に存在する酸素を酸化反応によって取り除く脱酸素剤を設置することを特徴とする請求項19に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項22】
前記ガス充満領域への前記不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、
前記ガス充満領域内に、前記ガス充満領域内に存在する酸素に反応して色調が変化する酸素検知剤を設置することを特徴とする請求項19に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項23】
X線を透過する出力窓が一部に形成された真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられ電子を放出する陰極と、前記真空外囲器内に設けられ前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットと、を有するX線管をさらに備えた、熱移動システムの立上げ方法であって、
前記水系冷却液に伝導される外部からの熱は、前記X線管から放出される熱の少なくとも一部であることを特徴とする請求項19乃至22の何れか1項に記載の熱移動システムの立上げ方法。
【請求項24】
外部からの熱が伝導され不活性ガスを溶存した水系冷却液を収容し、密閉された冷却流路と、前記冷却流路に気密性の継手を介して連通され、前記水系冷却液を収容し、気密性を保持可能である循環流路と、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液を前記冷却流路との間で循環させる循環ポンプと、前記循環流路に気密に取付けられ、前記水系冷却液と接触分離されることにより区域され不活性ガスが満たされた少なくとも1つのガス充満領域と、前記不活性ガスの導入口と、ガスの排出口と、を有し、前記導入口及び排出口を閉じた状態で気密性を保持可能である容器と、前記容器の導入口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを導入可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第1開閉部と、前記容器の排出口に気密に取付けられ、前記ガス充満領域から外部に前記ガスを排出可能な開状態と、前記容器の気密性を保持可能な閉状態と、に切替え可能な第2開閉部と、を備えた熱移動システムを用意し、
前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ開状態とし、前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流し、
前記ガス充満領域に前記不活性ガスを流した後に、前記不活性ガスの流しを中止し、前記第1開閉部及び第2開閉部をそれぞれ閉状態に切替え、前記容器の気密性を保持する、ことを特徴とする熱移動システムの保守方法。
【請求項25】
前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素を酸化反応によって取り除く脱酸素剤と、前記ガス充満領域内に設置され、前記ガス充満領域内に存在する酸素に反応して色調が変化する酸素検知剤と、をさらに備え、前記容器は前記酸素検知剤の色調を外部から確認するための覗き窓をさらに有している熱移動システムの保守方法であって、
前記覗き窓を通して前記酸素検知剤の色調が酸素に反応して変化したと確認された場合、前記ガス充満領域への前記不活性ガスの流しを中止する前に、さらに、
前記脱酸素剤及び酸素検知剤の少なくとも一方を未使用品に交換することを特徴とする請求項24に記載の熱移動システムの保守方法。
【請求項26】
X線を透過する出力窓が一部に形成された真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられ電子を放出する陰極と、前記真空外囲器内に設けられ前記陰極から放出される電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットと、を有するX線管をさらに備えた、熱移動システムの保守方法であって、
前記水系冷却液に伝導される外部からの熱は、前記X線管から放出される熱の少なくとも一部であることを特徴とする請求項24又は25に記載の熱移動システムの保守方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2011−29173(P2011−29173A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148306(P2010−148306)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】
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