説明

熱線式流量計測装置及び熱線式流量計測方法

【課題】気液混合流体の流量を気体と液体に分けて計測できる熱線式流量計測装置を提供する。
【解決手段】熱線式流量計測装置は、第1の測定点1Pに配置された第1の温度センサ1Sと、第1の測定点1Pの下流の第2の測定点2Pに上下方向に並べて配置された複数の第2の温度センサ2Sと、これらのセンサ2Sのそれぞれに対応して設けられた複数のヒータHとを備え、複数の第2の温度センサ2Sにより測定されたそれぞれの温度について、第1の温度センサ1Sにより測定された温度との差を所定値に保つために、複数のヒータHをフィードバック制御し、この制御によって複数のヒータHのそれぞれから出力されたエネルギーを比較して、気液混合流体Fの気体Gと液体Lの界面Sの位置を判定し、界面Sより下に位置する第2の温度センサ2S−1〜2S−3に対応するヒータH−1〜H−3から出力されたエネルギーを用いる液体Lの流量の演算を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体水素のような低温液化ガスの流量を計測する熱線式流量計測装置及び熱線式流量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流量計の一つとして熱線式流量計が知られている。熱線式流量計としては、流路内に挿入された酸化物高温超伝導セラミックス材料からなる線材と、該線材中を流れる電流の値を測定する電流計と、を備えたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−101051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低温液化ガスは容易に気化するので、上層が気体、下層が液体である気液混合流体の状態で流れていることがある。この状態で低温液化ガスの流量(液体の流量)を計測した場合、低温液化ガスの気体の流量が含まれて計測されるので、流量を正確に計測することができない。
【0005】
本発明は、上層が気体、下層が液体である気液混合流体について、気体と液体に分けて流量を計測することができる熱線式流量計測装置及び熱線式流量計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の一の局面に係る熱線式流量計測装置は、水平方向に配置され、上層が気体、下層が液体である気液混合流体が流れることができる管路と、前記管路の第1の測定点に配置されており、前記気液混合流体の基準となる温度を測定する第1の温度センサと、前記気液混合流体が流れる方向において前記第1の測定点と異なる位置の第2の測定点で上下方向に並べて配置されており、前記気液混合流体の温度を測定する複数の第2の温度センサと、前記複数の第2の温度センサのそれぞれに対応して設けられており、対応する第2の温度センサを加温する複数のヒータと、前記複数の第2の温度センサにより測定されたそれぞれの温度について、前記第1の温度センサにより測定された温度との差を所定値に保つために、前記複数のヒータをフィードバック制御する制御部と、前記制御部によるフィードバック制御によって前記複数のヒータのそれぞれから出力されたエネルギーを比較して、前記気液混合流体の気体と液体の界面の位置を判定する判定部と、前記制御部によるフィードバック制御によって前記複数のヒータのそれぞれから出力されたエネルギーのうち、前記判定部で判定された界面より下に位置する第2の温度センサに対応するヒータから出力されたエネルギーを用いる前記気液混合流体の液体の流量の演算、及び前記判定部で判定された界面より上に位置する第2の温度センサに対応するヒータから出力されたエネルギーを用いる前記気液混合流体の気体の流量の演算の少なくとも一方を実行する演算部と、を備える。
【0007】
この構成によれば、フィードバック制御によって複数のヒータのそれぞれから出力されたエネルギーを比較して気液混合流体の気体と液体の界面の位置を判定しているので、判定された界面の位置を基にして気液混合流体の流量を気体と液体に分けて演算することができる。ヒータから出力されたエネルギーを比較することによって界面の位置を判定できるのは、気体と液体では比熱が異なるので、出力されたエネルギーの値が異なるからである。
【0008】
上記構成において、前記複数の第2の温度センサは前記管路の内周面に沿って上下方向に並べて配置されている構成にすることができる。
【0009】
この構成によれば、気液混合流体の流れに対する複数の第2の温度センサの物理的抵抗を下げることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1の温度センサは複数あり、前記第1の測定点で上下方向に並べて配置されており、前記複数の第1の温度センサのそれぞれは、対応する第2の温度センサと同じ高さに位置しており、前記制御部は、同じ高さに位置する第1の温度センサと第2の温度センサにより測定された温度の差を所定値に保つフィードバック制御をする構成にすることができる。
【0011】
この構成によれば、フィードバック制御において、気液混合流体の気体どうし及び液体どうしで温度の差を所定値に保つ制御をすることができるので、気液混合流体の流量の計測精度を向上させることができる。
【0012】
本発明の他の局面に係る熱線式流量計測方法は、上層が気体、下層が液体である気液混合流体が水平方向に流れている管路の第1の測定点において、前記気液混合流体の基準となる温度を測定し、かつ前記気液混合流体が流れる方向における前記第1の測定点と異なる位置の第2の測定点において、上下方向の複数の箇所で前記気液混合流体の温度を測定する温度測定ステップと、前記温度測定ステップ中に前記第2の測定点の前記複数の箇所をそれぞれ個別に加温する加温ステップと、前記温度測定ステップ中に前記第2の測定点で測定された前記複数の箇所のそれぞれの温度について、前記第1の測定点で測定された温度との差を所定値に保つために、前記加温ステップにおいてフィードバック制御をする制御ステップと、前記制御ステップによるフィードバック制御によって前記第2の測定点の前記複数の箇所のそれぞれに与えられたエネルギーを比較して、前記気液混合流体の気体と液体の界面の位置を判定する判定ステップと、前記制御ステップによるフィードバック制御によって前記第2の測定点の前記複数の箇所のそれぞれに与えられたエネルギーのうち、前記判定ステップで判定された界面より下の箇所に与えられたエネルギーを用いる前記気液混合流体の液体の流量の演算及び前記判定ステップで判定された界面より上の箇所に与えられたエネルギーを用いる前記気液混合流体の気体の流量の演算の少なくとも一方を実行する演算ステップと、を備える。
【0013】
この方法によれば、フィードバック制御によって第2の測定点の複数の箇所のそれぞれに与えられたエネルギーを比較して気液混合流体の気体と液体の界面の位置を判定しているので、判定された界面の位置を基にして気液混合流体の流量を気体と液体に分けて演算することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上層が気体、下層が液体である気液混合流体について、気体と液体に分けて流量を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱線式流量計測装置の使用状態の一例を示す図である。
【図2】上記熱線式流量計測装置に備えられる管路、第1の温度センサ、第2の温度センサ及びヒータの配置関係を示す図である。
【図3】上記熱線式流量計測装置の構成を示すブロック図である。
【図4】上流側及び下流側の温度センサで測定された温度を示すグラフである。
【図5】流量とヒータから出力されたエネルギーの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る熱線式流量計測方法を説明するフローチャートである。
【図7】ある時点で上記熱線式流量計測装置のヒータから出力されたエネルギーを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る熱線式流量計測装置20の使用状態の一例を示す図である。熱線式流量計測装置20は、流量計測の対象となる流体が流れることができる管路10と、流量計測に必要な制御、演算等を実行するパソコンPCとを備える。熱線式流量計測装置20は、タンク2とタンク4をつなぐ輸送管6を流れる流体(例えば液体水素)の流量を計測する。輸送管6は、水平方向に延びて上流側のタンク2につながる輸送管6Aと、水平方向に延びて下流側のタンク4につながる輸送管6Bに分けられている。輸送管6Aと輸送管6Bの間には、水平方向に管路10が配置されている。上流側のタンク2に入っている液体水素は、輸送管6A、管路10、輸送管6Bを流れて、下流側のタンク4に入れられる。
【0017】
図2は熱線式流量計測装置20に備えられる管路10、第1の温度センサ1S−1〜1S−6、第2の温度センサ2S−1〜2S−6及びヒータH−1〜H−6の配置関係を示す図である。符号のハイフン及びその次の数字は省略して記載することがある。例えば、第1の温度センサ1S−1〜1S−6のそれぞれを区別する必要がなければ、第1の温度センサ1Sと記載することがある。
【0018】
管路10の両端にはフランジ12が形成されており、管路10はフランジ12の箇所で輸送管6Aと輸送管6Bにそれぞれ連結される。輸送管6を流れる流体は、上層が気体G、下層が液体Lの気液混合流体Fの状態であり、輸送管6Aから流れてきた気液混合流体Fは矢印Dで示すように、管路10を通り、輸送管6Bへ導かれる。管路10の第1の測定点1Pには第1の温度センサ1Sが配置されており、第1の測定点1Pの下流にある第2の測定点2Pには第2の温度センサ2Sが配置されている。気液混合流体Fが流れる方向(矢印D)において第1の測定点1Pと異なる位置に第2の測定点2Pがあればよいので、第1の測定点1Pの上流側に第2の測定点2Pを設けてもよい。
【0019】
第2の測定点2Pにおいて、12個の第2の温度センサ2Sが管路10の内周面14に沿って環状に配置されている。左側の第2の温度センサ2S−1〜2S−6と右側の第2の温度センサ2S−1〜2S−6は左右対称にそれぞれ半円状に配置されている。第2の測定点2Pにおいて、管路10の底部から上部に向けて第2の温度センサ2S−1,2S−2,2S−3,2S−4,2S−5,2S−6が並べられているので、複数の第2の温度センサ2Sが第2の測定点2Pで上下方向に並べて配置されていることになる。
【0020】
第2の温度センサ2Sは液体水素、液体ヘリウム等の低温液化ガスの温度を測定できるものであり、材料がマンガニン、ルブレン等からなる熱電対が用いられる。
【0021】
ヒータH−1〜H−6は、第2の温度センサ2S−1〜2S−6のそれぞれに対応して設けられており、本実施形態ではヒータH−1〜H−6が管路10の周壁に埋め込まれた状態で第2の温度センサ2S−1〜2S−6のそれぞれに接触して配置されている。ヒータH−1〜H−6は第2の温度センサ2S−1〜2S−6と同様に環状に配置されている。
【0022】
ヒータH−1〜H−6は、対応する第2の温度センサ2S−1〜2S−6を加温する。例えば、第2の温度センサ2S−3はヒータH−3で加温される。第2の温度センサ2Sは気液混合流体Fにより冷却されると同時に、ヒータHにより加温される。
【0023】
ヒータHは低温液化ガスの温度領域で動作可能な電気抵抗素子であり、材料がステンレス、マンガニン等からなる。低温液化ガスの温度領域における電気抵抗変化の温度勾配が正である電気抵抗素子(例えばマンガニンを材料とする電気抵抗素子)は、第2の温度センサ2Sと兼用することができる。液体ヘリウムの温度領域でもヒータHが動作できるように、ヒータHに流される電流は直流である。
【0024】
第1の測定点1Pにおいて、第1の温度センサ1Sは、第2の温度センサ2Sと同様の構造で管路10の内周面14に配置されている。すなわち、管路10の内周面14に沿って、12個の第1の温度センサ1Sが環状に配置されている。左側の第1の温度センサ1S−1〜1S−6と右側の第1の温度センサ1S−1〜1S−6は左右対称にそれぞれ半円状に配置されている。管路10の底部から上部に向けて第1の温度センサ1S−1,1S−2,1S−3,1S−4,1S−5,1S−6が並べられている。したがって、複数の第1の温度センサ1Sが第1の測定点1Pで上下方向に並べて配置されていることになる。
【0025】
第1の温度センサ1S−1〜1S−6のそれぞれは、対応する第2の温度センサ2Sと同じ高さに位置している。例えば、第1の温度センサ1S−3と第2の温度センサ2S−3が位置する高さは同じである。
【0026】
第1の温度センサ1Sは、気液混合流体Fの基準となる温度を測定するものであり、第2の温度センサ2Sと同様の熱電対が用いられる。図示はしていないが、隣り合う第1の温度センサ1Sどうしの間及び隣り合う第2の温度センサ2Sどうしの間には、これらを電気的に絶縁する断熱性の部材が介在している。このような部材としては、FRP(Fiber Reinforced Plastics)又はグラスファイバー系のテープ類を例示することができる。第1の温度センサ1S、第2の温度センサ2S及びヒータHは集積回路の構造を有している。
【0027】
本実施形態では管路10の内周面14に沿って12個の第1の温度センサ1Sが環状に配置されているが、複数の第1の温度センサ1Sが第1の測定点1Pで上下方向に並べて配置されていればよいので、半円状の左側の第1の温度センサ1S−1〜1S−6又は半円状の右側の第1の温度センサ1S−1〜1S−6だけであってもよい。12個の第2の温度センサ2Sについても同じことが言える。また、第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sの数は12個に限定されない。
【0028】
図3は、本発明の一実施形態に係る熱線式流量計測装置20の構成を示すブロック図である。熱線式流量計測装置20は、第1の温度センサ1S、第2の温度センサ2S及びヒータH、並びにバス22で相互に接続されたCPU(Central Processing Unit)24、インターフェース26、ROM(Read Only Memory)28、RAM(Random Access Memory)30、表示部32及び操作部34と、を備える。CPU24、インターフェース26、ROM28、RAM30、表示部32及び操作部34は図1のパソコンPCに備えられている。
【0029】
CPU24は気液混合流体Fの流量を計測するために必要な制御を、熱線式流量計測装置20を構成する上記ハードウェアに対して実行する。
【0030】
インターフェース26には第1の温度センサ1S、第2の温度センサ2S及びヒータHが接続される。第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sから出力された温度の測定信号がインターフェース26に入力する。第2の温度センサ2Sで測定された気液混合流体Fの温度をフィードバック制御するために、ヒータHへ送られる信号がインターフェース26を経由して出力される。
【0031】
ROM28はフラッシュメモリ等により実現されており、気液混合流体Fの流量の演算に必要なデータベース及び熱線式流量計測装置20の動作に必要なソフトウェア等を記憶している。RAM30には上記ソフトウェアの実行時に発生するデータが一時的に記憶される。RAM30はDRAM(Dynamic Random Access Memory)等により実現される。
【0032】
表示部32はLCD(Liquid Crystal Display)等により実現されており、熱線式流量計測装置20を用いて計測された気液混合流体Fの流量等が表示される。操作部34には熱線式流量計測装置20の操作に必要となるキーが備えられている。
【0033】
後で説明する制御ステップを実行する制御部は、第1の温度センサ1S、第2の温度センサ2S、ヒータH、CPU24、ROM28及びRAM30により実現される。また、判定ステップを実行する判定部、演算ステップを実行する演算部は、いずれもCPU24、ROM28及びRAM30により実現される。
【0034】
次に、熱線式流量計測装置20を用いた気液混合流体Fの流量の計測方法を理解するために必要となる流量に関する原理を説明する。図4は上流側及び下流側の温度センサで測定された温度を示すグラフである。横軸は流体が流れる方向における第1の測定点1P及び第2の測定点2Pの位置を示している。第1の測定点1Pには上流側の温度センサ、第2の測定点2Pには下流側の温度センサが配置されている。縦軸は上流側及び下流側の温度センサで測定された温度を示している。
【0035】
上流側の温度センサでの測定値が温度T1の場合、下流側の温度センサでの測定値が温度T2になるように、下流側の温度センサがヒータにより加温されている。Eaは下流側の温度センサで温度T2aが測定された時にヒータから出力されたエネルギーを示し、Ebは下流側の温度センサで温度T2bが測定された時にヒータから出力されたエネルギーを示している。
【0036】
流速(流量)が大きければ下流側の温度センサの冷却量が大きくなるので、ヒータから出力されるエネルギー(ヒータの加温量)を大きくしなければならない。一方、流速(流量)が小さければ下流側の温度センサの冷却量が小さくなるので、ヒータから出力されるエネルギーを小さくしなければならない。
【0037】
図4では、ヒータから出力されたエネルギーがEa>Ebなので、Eaが出力されたときに下流側の温度センサで測定された温度T2aは、Ebが出力されたときに測定された温度T2bよりも低いことなる。
【0038】
流量とヒータから出力されたエネルギーは図5に示すように、相関関係にあることが知られている。よって、ヒータから出力されたエネルギーを基にして、流量を計測することができる。以上が流量に関する原理である。
【0039】
熱線式流量計測装置20を用いた気液混合流体Fの流量の計測方法、言い換えれば本発明の一実施形態に係る熱線式流量計測方法について図2及び図6を用いて説明する。図6はこの方法を説明するフローチャートである。
【0040】
[温度測定ステップST1]
管路10には上層が気体G、下層が液体Lである気液混合流体Fが流れている。第1の測定点1Pに配置された第1の温度センサ1Sによって、上下方向の複数の箇所で気液混合流体Fの基準となる温度を測定する。これと同時に、第2の測定点2Pに配置された第2の温度センサ2Sによって、上下方向の複数の箇所で気液混合流体Fの温度を測定する。
【0041】
[加温ステップST2]
温度測定ステップST1中に第2の測定点2Pの複数の箇所をそれぞれ個別に加温する。すなわち、第2の温度センサ2S−1〜2S−6が、対応するヒータH−1〜H−6により加温される。例えば、第2の温度センサ2S−3はヒータH−3により加温される。
【0042】
[制御ステップST3]
このステップでは、温度測定ステップST1中に第2の測定点2Pで測定された複数の箇所のそれぞれの温度について、第1の測定点1Pで測定された複数の箇所のそれぞれの温度との差を所定値に保つために、加温ステップST2においてフィードバック制御を実行する。
【0043】
詳しく説明すると、制御ステップST3では、同じ高さに位置する第1の温度センサ1Sと第2の温度センサ2Sにより測定された温度の差を所定値に保つために、ヒータH−1〜H−6から出力されるエネルギーを補正するフィードバック制御が実行される。つまり、第1の温度センサ1S−1と第2の温度センサ2S−1で測定された温度の差、第1の温度センサ1S−2と第2の温度センサ2S−2で測定された温度の差、・・・、第1の温度センサ1S−6と第2の温度センサ2S−6で測定された温度の差を所定値に保つために、ヒータH−1〜H−6を個別にフィードバック制御する。
【0044】
[判定ステップST4]
フィードバック制御によってヒータH−1〜H−6のそれぞれから出力されたエネルギーを比較して、気液混合流体Fの気体Gと液体Lの界面Sの位置を判定する。言い換えれば、制御ステップST3によるフィードバック制御によって第2の測定点2Pの複数の箇所のそれぞれに与えられたエネルギーを比較して、気液混合流体Fの気体Gと液体Lの界面Sの位置を判定する。
【0045】
図7を用いて判定ステップST4を詳細に説明する。図7は、ある時点で熱線式流量計測装置20のヒータH−1〜H−6から出力されたエネルギーを示すグラフである。横軸はエネルギー、縦軸はヒータH−1〜H−6の上下方向の位置を示している。ヒータH−1〜H−6の上下方向の位置は第2の温度センサ2S−1〜2S−6の上下方向の位置と対応している。
【0046】
ヒータH−1(ヒータH−2、ヒータH−3)から出力されたエネルギーEa、ヒータH−4から出力されたエネルギーEb、ヒータH−5(ヒータH−6)から出力されたエネルギーEcは、Ea>Eb>Ecの関係が成立している。これは、第1の温度センサ1S−4及び第2の温度センサ2S−4の箇所に界面Sが位置しており、第1の温度センサ1S−1〜1S−3及び第2の温度センサ2S−1〜2S−3の箇所に気液混合流体Fの液体Lが流れており、第1の温度センサ1S−5〜1S−6及び第2の温度センサ2S−5〜2S−6の箇所に気液混合流体Fの気体Gが流れているからである。つまり、同じ物質であっても、気体状態と液体状態では比熱が異なるからである。第2の温度センサ2S−4の箇所に界面Sがあるので、ヒータH−4から出力されるエネルギーEbはEaとEcの間にある。
【0047】
したがって、ヒータH−1〜H−6から出力されたエネルギーを比較することにより、気液混合流体Fの気体Gと液体Lの界面Sの位置を判定することができる。
【0048】
[演算ステップST5]
本実施形態では気液混合流体Fの液体L、気体Gのそれぞれについて流量を演算する。液体Lの流量の演算には、フィードバック制御によってヒータHのそれぞれから出力されたエネルギーのうち、判定ステップST4で判定された界面Sより下に位置する第2の温度センサ(本実施形態では第2の温度センサ2S−1〜2S−3)に対応するヒータ(本実施形態ではヒータH−1〜H−3)から出力されたエネルギーが用いられる。
【0049】
一方、気体Gの流量の演算には、フィードバック制御によってヒータHのそれぞれから出力されたエネルギーのうち、判定ステップST4で判定された界面Sより上に位置する第2の温度センサ(本実施形態では第2の温度センサ2S−5〜2S−6)に対応するヒータ(本実施形態ではヒータH−5〜H−6)から出力されたエネルギーが用いられる。演算により計測された流量の値が図3の表示部32に表示される。なお、目的に応じて液体Lの流量だけ演算してもよいし、気体Gの流量だけ演算してもよい。
【0050】
以上説明したように本実施形態は、気体Gと液体Lでは比熱が異なるので、ヒータHから出力されたエネルギーの値が異なる点に着目したものである。
【0051】
本実施形態によれば、フィードバック制御によってヒータH−1〜H−6のそれぞれから出力されたエネルギーを比較して気液混合流体Fの気体Gと液体Lの界面Sの位置を判定しているので、判定された界面Sの位置を基にして気液混合流体Fの流量を気体Gと液体Lに分けて演算することができる。このため、低温液化ガスが気液混合流体Fの状態で管路10に流れていても、気体Gを除いた気液混合流体Fの流量(液体Lの流量)を計測することができるので、低温液化ガスの流量(液体の流量)の計測精度を向上させることができる。
【0052】
また、気体G、液体Lに応じてヒータH−1〜H−6から出力されるエネルギーを補正するので、一律に補正する場合に比べてヒータHから出力されるエネルギーを小さくすることができる。したがって、ヒータHから出力されるエネルギーにより低温液化ガスが気化する量を少なくすることができる。
【0053】
また、制御ステップにおいて、同じ高さに位置する第1の温度センサ1Sと第2の温度センサ2Sにより測定された温度の差を所定値に保つために、ヒータHから出力されるエネルギーを補正するフィードバック制御が実行される。これにより、気液混合流体Fの気体Gどうし及び液体Lどうしで温度の差を所定値に保つ制御をすることができるので、気液混合流体Fの流量の計測精度を向上させることができる。
【0054】
本実施形態では、第2の温度センサ2S−1〜2S−6に対応させて、第1の温度センサ1S−1〜1S−6を設けているが、第1の温度センサ1Sは気液混合流体Fの基準温度を測定するものなので、一つでも可能である。
【0055】
また、本実施形態によれば、第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sが管路10の内周面14に沿って上下方向に並べて配置しているので、気液混合流体Fの流れに対する第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sの物理的抵抗を下げることができる。第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sをそれらの表面が管路10の内周面14と同一の高さで管路10の側壁に埋め込んだ構造にすれば、管路10を流れる気液混合流体Fに対して、第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sが物理的抵抗にならないようにすることができる。
【0056】
なお、気液混合流体Fの流れに対する第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sの物理的抵抗が問題とならなければ、第1の温度センサ1S及び第2の温度センサ2Sを管路10の断面の径方向に配置することも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1S−1〜1S−6 第1の温度センサ
2S−1〜2S−6 第2の温度センサ
H−1〜H−6 ヒータ
F 気液混合流体
G 気体
L 液体
S 界面
D 矢印(気液混合流体の流れの方向)
1P 第1の測定点
2P 第2の測定点
PC パソコン
2、4 タンク
6、6A、6B 輸送管
10 管路
12 フランジ
14 内周面
20 熱線式流量計測装置
22 バス
24 CPU
26 インターフェース
28 ROM
30 RAM
32 表示部
34 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に配置され、上層が気体、下層が液体である気液混合流体が流れることができる管路と、
前記管路の第1の測定点に配置されており、前記気液混合流体の基準となる温度を測定する第1の温度センサと、
前記気液混合流体が流れる方向において前記第1の測定点と異なる位置の第2の測定点で上下方向に並べて配置されており、前記気液混合流体の温度を測定する複数の第2の温度センサと、
前記複数の第2の温度センサのそれぞれに対応して設けられており、対応する第2の温度センサを加温する複数のヒータと、
前記複数の第2の温度センサにより測定されたそれぞれの温度について、前記第1の温度センサにより測定された温度との差を所定値に保つために、前記複数のヒータをフィードバック制御する制御部と、
前記制御部によるフィードバック制御によって前記複数のヒータのそれぞれから出力されたエネルギーを比較して、前記気液混合流体の気体と液体の界面の位置を判定する判定部と、
前記制御部によるフィードバック制御によって前記複数のヒータのそれぞれから出力されたエネルギーのうち、前記判定部で判定された界面より下に位置する第2の温度センサに対応するヒータから出力されたエネルギーを用いる前記気液混合流体の液体の流量の演算、及び前記判定部で判定された界面より上に位置する第2の温度センサに対応するヒータから出力されたエネルギーを用いる前記気液混合流体の気体の流量の演算の少なくとも一方を実行する演算部と、を備えることを特徴とする熱線式流量計測装置。
【請求項2】
前記複数の第2の温度センサは前記管路の内周面に沿って上下方向に並べて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の熱線式流量計測装置。
【請求項3】
前記第1の温度センサは複数あり、前記第1の測定点で上下方向に並べて配置されており、
前記複数の第1の温度センサのそれぞれは、対応する第2の温度センサと同じ高さに位置しており、
前記制御部は、同じ高さに位置する第1の温度センサと第2の温度センサにより測定された温度の差を所定値に保つフィードバック制御をすることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱線式流量計測装置。
【請求項4】
上層が気体、下層が液体である気液混合流体が水平方向に流れている管路の第1の測定点において、前記気液混合流体の基準となる温度を測定し、かつ前記気液混合流体が流れる方向における前記第1の測定点と異なる位置の第2の測定点において、上下方向の複数の箇所で前記気液混合流体の温度を測定する温度測定ステップと、
前記温度測定ステップ中に前記第2の測定点の前記複数の箇所をそれぞれ個別に加温する加温ステップと、
前記温度測定ステップ中に前記第2の測定点で測定された前記複数の箇所のそれぞれの温度について、前記第1の測定点で測定された温度との差を所定値に保つために、前記加温ステップにおいてフィードバック制御をする制御ステップと、
前記制御ステップによるフィードバック制御によって前記第2の測定点の前記複数の箇所のそれぞれに与えられたエネルギーを比較して、前記気液混合流体の気体と液体の界面の位置を判定する判定ステップと、
前記制御ステップによるフィードバック制御によって前記第2の測定点の前記複数の箇所のそれぞれに与えられたエネルギーのうち、前記判定ステップで判定された界面より下の箇所に与えられたエネルギーを用いる前記気液混合流体の液体の流量の演算及び前記判定ステップで判定された界面より上の箇所に与えられたエネルギーを用いる前記気液混合流体の気体の流量の演算の少なくとも一方を実行する演算ステップと、を備えることを特徴とする熱線式流量計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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