説明

熱膨張係数の測定方法

【課題】一般的な熱膨張係数の測定方法である示差式測定法において、試料の傾きや治具との摩擦により、測定値に誤差が発生する。
【解決手段】短冊状の試料の熱膨張係数を、固定治具の溝で支持し、温度変化による試料の伸縮によって測定する、熱膨張係数の測定方法において、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする熱膨張係数の測定方法。上記溝の断面形状が楔状あるいは曲線状にすることにより、試料の傾き及び固定治具との摩擦により生ずる誤差を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は短冊状の試料の熱膨張係数を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な熱膨張係数の測定方法として、次のような示差式測定法が知られている。この測定方法は、図3に示すように測定試料と石英ガラスなど予め熱膨張係数の知られている試料とを加熱炉内にセットし、これらの試料に石英製の押し棒(検出棒)をそれぞれ接触させ、検出棒の先端部の変位を検出し、両試料の熱膨張の差から、測定試料の熱膨張係数を計算によって求めるものである。
【0003】
初期には、試料単体で熱膨張を測定していたが、より高い測定精度が必要とされ、上記のような方法が行われている。この方法においては、試料を単体で直立させるような形状にすることが難しいこと、検出棒を試料に正確に当てることが難しいこと、等の理由により、試料と検出棒を溝にセットして横向きに測定するのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−123076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した方法により、高精度の測定が可能となった。しかし、最近電子材料などではより高精度(10−8/℃)の測定が求められており、この方法でも測定誤差が問題となってきた。この場合実際の値よりも小さい値が測定されることが多く、この原因は以下の2点による。
【0005】
1)試料の傾きによる誤差:通常試料をセットする溝は矩形状であり、該溝に隙間なくセットされるような寸法の試料を用意することになっている。ところが、測定試料の、測定に関わる長さ方向の寸法でなく、幅方向の寸法を精度良く作成するのはそれほど簡単ではない。溝よりも幅が大きいとセット出来ないため、どうしても溝の幅よりも小さい試料となる。この場合、図4に示すように試料が測定中に斜めになってしまい、測定値が小さくなってしまう恐れがある。測定精度がそれほど必要とされない場合、これによる誤差は小さいが、高精度が必要な場合は問題となる。例えば、50mmの長さの試料において、0.1度傾いた場合、10−6/℃オーダーの誤差になる。
【0006】
これを防ぐ方法として、試料の幅が溝よりも小さく、隙間が開いた場合は、図5のように隙間を薄い石英板などで埋める方法や、図6のように溝を斜めにして試料が溝の片壁面に自然に着くようにして試料の傾きを防ぐ方法が考えられている。しかし、これらの方法は、次に述べる2)の誤差を拡大する原因となる。
【0007】
2)試料と溝との摩擦による誤差:測定は温度を変化させ、そのときの試料の伸縮を見るが、溝と試料の摩擦により伸縮が邪魔され追いつかない場合がある。この現象は以前から知られ、溝と接する試料面は精密加工し、摩擦を減らすことが行われているが、それでも10−8/℃オーダーの誤差があることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、短冊状の試料の熱膨張係数を、固定治具の溝で支持し、温度変化による試料の伸縮によって測定する、熱膨張係数の測定方法において、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする熱膨張係数の測定方法である。
【0009】
また、上記溝の断面形状が楔状であり、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする上記の熱膨張係数の測定方法である。
【0010】
さらに上記溝の断面形状が曲線状であり、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする、上記の熱膨張係数の測定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短冊状の試料の熱膨張係数を、固定治具の溝で支持し、温度変化による試料の伸縮によって測定する、熱膨張係数の測定方法において、極めて高精度の測定結果を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、短冊状の試料の熱膨張係数を、固定治具の溝で支持し、温度変化による試料の伸縮によって測定する、熱膨張係数の測定方法において、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする、熱膨張係数の測定方法である。
【0013】
先に述べたように、このような測定方法では、試料の傾きと溝との摩擦が誤差原因となる。従って、このようなことが起きない溝形状にすることが必要である。
【0014】
このような形状としては、図1に示すような断面が楔形の形状や、図2に示すような断面が曲線状の溝形状が挙げられる。これらの場合、試料と溝が面で接触しないために摩擦も小さくなり、また溝に試料をセットした場合に測定方向に対して傾くこともない。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により説明する。
【0016】
測定試料として、4.5mm×4.5mm×45mmの板状ガラスを用意した。これは、ほぼ85×10−7/℃になるように組成を調整したものである。リファレンス用の試料として5mm×5mm×50mmの石英ガラスを用意した。なお、両試料の側面は全て鏡面加工している。
【0017】
測定は、(株)リガク製:横型熱膨張計TMA3680を使用し、A:図1に示すような断面が楔上の溝にセットしたもの、B:図6に示すような断面が方形であり幅が50mmで0.5度傾いた溝に、測定試料と0.5mm厚の石英ガラスをセットして隙間を埋めたもの、C:Bと同様の溝に測定試料のみをセットしたもの、の3通りのセット方法で50℃〜350℃まで5℃/minの速度で昇温し、熱膨張係数を求めた。なお、リファレンス側はすべて楔状の溝にセットしている。
【0018】
それぞれの条件で10回繰り返し測定した結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
測定値はC<B<Aのようになっており、Cは試料の傾きと摩擦により熱膨張係数が小さくばらつきの大きい測定値になっている。Bの値がCより大きいのは、試料の傾きをなくしたためであると思われる。しかし、Aの値よりは小さく、まだ摩擦を起因とする誤差が残っていることが分かる。Aの値は一番大きく、原理的に最も正しい値に近いと考えられ、本発明の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明における、試料をセットする断面形状が楔状の溝の断面図である。
【図2】本発明における、試料をセットする断面形状が曲線状の溝の断面図である。
【図3】一般的な熱膨張係数の測定方法である、示差式測定法を説明する図である。
【図4】測定試料が斜めになった場合の誤差を示す図である。
【図5】溝と測定試料の間に薄い板を入れて試料の傾きを防ぐ図である。
【図6】下面を斜めにすることで、試料の傾きを防ぐ溝の図である。
【符号の説明】
【0022】
1 測定試料
2 溝付き治具
3 押し棒(検出棒)
4 リファレンス用試料
5 測定試料の傾きによる測定誤差
6 隙間を埋めるための薄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短冊状の試料の熱膨張係数を、固定治具の溝で支持し、温度変化による試料の伸縮によって測定する、熱膨張係数の測定方法において、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする熱膨張係数の測定方法。
【請求項2】
上記溝の断面形状が楔状であり、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする請求項1に記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項3】
上記溝の断面形状が曲線状であり、該溝と試料が面で接触しないことを特徴とする請求項1または2に記載の熱膨張係数の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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