説明

熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラム

【課題】 長手形状物体を含む対象領域の熱解析を行う方法、装置、プログラムにおいて、計算コストを低減し、長手形状物体の熱問題を精確に評価する、信頼度の高い熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラムを提供すること。
【解決手段】 長手形状物体の、被接触物体との接触面部の温度として仮想温度を取得する工程を有する。長手形状物体の熱的な有効長さを求め、長手形状物体を、有効長さを含む等価モデルによって表し、熱解析を行う。計算結果として得られた温度分布のうち、前記接触面部の温度と、計算開始前に取得した仮想温度とを比較する。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になれば、計算を終了する。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になっていなければ、計算結果を仮想温度として取得して計算を繰返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手形状物体を含む対象領域の熱問題を解析する熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
長手形状物体を解析対象物として含み、熱解析を行う場合、解析対象物に含まれる長手形状物体を等価モデルとして表す必要がある。LSIチップと回路基板とを電気的に接続するボンディングワイヤを等価モデルとして表す方法として、ボンディングワイヤとボンディングワイヤの周囲の物体とについて、合成熱抵抗値と等価熱伝導率とを求める方法が開示されている(たとえば非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】“CDAJ Work Shop Vol.7 電子機器向け熱流体解析ツールFLOTHERM 活用事例と最新機能ご紹介セミナー 資料集”、シーディー・アダプコ・ジャパン(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし前記合成熱抵抗値と等価熱伝導率とを求めるモデル化方法では、ボンディングワイヤ全体についてモデル化されており、この方法に従って有限要素法などを用いて熱解析を行う場合には、ボンディングワイヤが長くなればなるほど、有限要素の数が多くなり、計算コストが増大する。ボンディングワイヤが細くなればなるほど、またボンディングワイヤの数が増えれば増えるほど、ボンディングワイヤの表面積は多くなり、ボンディングワイヤの表面から周囲に拡散していく熱量は多くなる。これにつれてボンディングワイヤについての熱移動を解析する場合の誤差が大きくなり、ボンディングワイヤを含む熱問題の精確な解析が難しくなる。
【0005】
本発明の目的は、長手形状物体を含む対象領域の熱解析を行う方法、装置、プログラムにおいて、計算コストを低減し、長手形状物体の熱問題を精確に評価する、信頼度の高い熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、長手形状物体と、長手形状物体が接触している被接触物体とを含む解析対象物を、有限個の要素に分割し、前記解析対象物のうち、少なくとも長手形状物体を含む対象領域の熱問題を解析する熱解析方法であって、
前記被接触物体の形状情報、物性情報、熱的条件情報、境界条件情報および初期条件情報を取得する第1工程と、
長手形状物体の形状情報および物性情報を取得する第2工程と、
長手形状物体の、前記被接触物体との接触面部の温度として、仮想温度情報を取得する第3工程と、
前記第1、第2および第3の工程で取得した情報から、長手形状物体の熱的な有効長さと、該熱的な有効長さを含む等価モデルとを算出する第4工程と、
前記等価モデルを用い、前記対象領域の温度分布を計算する第5工程と、
第5工程で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度と第3工程で取得した仮想温度情報の仮想温度とを比較して、その差が予め定める値以下であるか否かを判定する第6工程とを含み、
判定結果が予め定める値以下であるときは、計算を終了し、予め定める値を超えるときは、第5工程で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度を、前記仮想温度として取得し、第3、第4、第5および第6工程を繰返すことを特徴とする熱解析方法である。
【0007】
また本発明は、前記解析対象物は、長手形状物体としてセンサおよびケーブルのうちのいずれか1つを含むことを特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記第4工程および前記第5工程のうち少なくともいずれか1つの工程に、有限要素法を用いることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、長手形状物体と、長手形状物体が接触している被接触物体とを含む解析対象物を、有限個の要素に分割し、前記解析対象物のうち、少なくとも長手形状物体を含む対象領域の熱問題を解析する熱解析装置であって、
前記被接触物体の形状情報、物性情報、熱的条件情報、境界条件情報および初期条件情報を取得する第1手段と、
長手形状物体の形状情報および物性情報を取得する第2手段と、
長手形状物体の、前記被接触物体との接触面部の温度として、仮想温度を取得する第3手段と、
前記前記第1、第2および第3の手段で取得した情報から、長手形状物体の熱的な有効長さと、該熱的な有効長さを含む等価モデルとを算出する第4手段と、
前記等価モデルを用い、前記対象領域の温度分布を計算する第5手段と、
第5手段で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度と第3手段で取得した仮想温度とを比較して、その差が予め定める値以下であるか否かを判定する第6手段とを含み、
判定結果が予め定める値以下であるときは、計算を終了し、予め定める値を超えるときは、第5手段で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度を、前記仮想温度として取得する第7手段とを有することを特徴とする熱解析装置である。
【0010】
また本発明は、前記熱的な有効長さと、
第5手段で計算された温度分布のうちの少なくとも前記接触面部の温度とを記憶する記憶手段を、さらに有することを特徴とする熱解析装置である。
【0011】
また本発明は、前記長手形状物体は、前記長手形状物体を含むセンサおよびケーブルのうちのいずれか1つであることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記第4手段および前記第5手段のうち少なくともいずれか1つが、有限要素法を用いた計算を行う手段であることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記熱解析方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長手形状物体の、被接触物体との接触面部の温度として仮想温度を取得する工程を有することによって、熱解析の計算についての初期条件を1つ増やすことができる。したがって仮想温度を取得する工程を省略して計算を行うよりも計算コストを低減することができる。長手形状物体の熱的な有効長さを求め、長手形状物体を、有効長さを含む等価モデルによって表し、熱解析を行うことによって、長手形状物体の長さが有効長さよりも長い場合、熱解析の対象領域を長手形状物体の有効長さの範囲として、長手形状物体全体よりも小さくすることができる。計算結果として得られた温度分布のうち、前記接触面部の温度と、計算開始前に取得した仮想温度とを比較する工程を有することによって、本発明に係る熱解析方法による解析に伴う誤差が予め定める値以下になったか否かを判定することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になれば、計算を終了することによって、余分な計算が行われることを防ぐことができ、熱解析にかかる計算コストを低減することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になっていなければ、計算結果を仮想温度情報として取得して計算を繰返すことによって、解析に伴う誤差が予め定める値以下になるまで計算の精度を上げることができる。したがって、計算コストを低減し、長手形状物体の熱問題を精確に評価する熱解析方法を提供することができる。
【0015】
また本発明によれば、熱解析を行う解析対象物が、長手形状物体としてセンサおよびケーブルのうちのいずれか1つを含むことによって、長手形状物体がセンサの一部分である場合には、センサを被接触物体に接触させたときの、センサに移動する熱量を予測し、センサの温度を予測することができる。したがって、センサの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にセンサが対応し得るのかを予想することができる。長手形状物体がケーブルである場合には、ケーブルを被接触物体に接続したときの、ケーブルに移動する熱量を予測することができる。したがってケーブルの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にケーブルが対応し得るのかを予想することができる。被接触物体が熱を発する場合には、ケーブルの温度上昇による断線を予想することができ、断線を防止することが可能となる。さらにケーブルによって被接触物体の熱がどの程度放散されるのかを予測することができる。
【0016】
また本発明によれば、長手形状物体の有効長さおよび等価モデルを算出する第4工程および温度分布を計算する第5工程の少なくともいずれか1つにおいて、有限要素法を用いる。これによって、第4工程または第5工程をコンピュータを用いて行うことができる。したがって計算の迅速化を図ることができ、熱解析にかかる時間を短縮することができる。
【0017】
また本発明によれば、長手形状物体の、被接触物体との接触面部の温度として仮想温度を取得する手段を有することによって、熱解析の計算についての初期条件を1つ増やすことができる。したがって仮想温度を取得する手段を用いずに計算を行うよりも計算コストを低減することができる。長手形状物体の熱的な有効長さを求め、長手形状物体を、有効長さを含む等価モデルによって表す手段を有することによって、長手形状物体の長さが有効長さよりも長い場合、熱解析の対象領域を長手形状物体の有効長さの範囲とし、長手形状物体全体よりも小さくして、計算を行うことができる。計算結果として得られた温度分布のうち、前記接触面部の温度と、計算開始前に取得した仮想温度情報の仮想温度とを比較する手段を有することによって、前記等価モデルを用いた計算の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になったか否かを判定することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になれば、計算を終了することによって、余分な計算が行われることを防ぐことができ、熱解析にかかる計算コストを低減することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になっていなければ、計算結果を仮想温度情報として取得して計算を繰返すことによって、解析に伴う誤差が予め定める値以下になるまで計算の精度を上げることができる。したがって、計算コストを低減し、長手形状物体の熱問題を精確に評価する熱解析装置を提供することができる。
【0018】
また本発明によれば、長手形状物体の熱的な有効長さと、第5手段で計算された温度分布のうちの少なくとも前記接触面部の温度とを記憶する記憶手段をさらに有する。これによって、熱解析の結果を熱解析終了後も保存することが可能になる。被接触物体および長手形状物体の情報のうちの少なくとも一部が同一である条件下で、熱解析を複数回行う場合に、同一の情報を含む2回目以降の熱解析において、同一部分の情報の取得を容易にすることができる。
【0019】
また本発明によれば、熱解析を行う解析対象物が、長手形状物体としてセンサおよびケーブルのうちのいずれか1つを含むことによって、長手形状物体がセンサである場合には、センサを被接触物体に接触させたときの、センサに移動する熱量を予測し、センサの温度を予測することができる。したがって、センサの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にセンサが対応し得るのかを予想することができる。長手形状物体がケーブルである場合には、ケーブルを被接触物体に接続したときの、ケーブルに移動する熱量を予測することができる。したがってケーブルの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にケーブルが対応し得るのかを予想することができる。被接触物体が熱を発する場合には、ケーブルの温度上昇による断線を予想することができ、断線を防止することが可能となる。さらにケーブルによって被接触物体の熱がどの程度放散されるのかを予測することができる。
【0020】
また本発明によれば、長手形状物体の有効長さおよび等価モデルを算出する第4手段、または温度分布を計算する第5手段は、有限要素法を用いて計算、算出を行う。これによって、第4手段または第5手段としてコンピュータを用いることができる。したがって有限要素法を用いずに計算を行うときよりも、計算の迅速化を図ることができ、熱解析にかかる時間を短縮することができる。
【0021】
また本発明によれば、前記第1〜第6工程を含む熱解析方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムを有する。したがって前記第1〜第6工程をコンピュータ制御によって行うことができ、コンピュータを用いずに熱解析を行うときよりも、熱解析の迅速化を図ることができ、熱解析にかかる時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。以下の説明においては、各形態に先行する形態ですでに説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0023】
本発明において、ある物体の任意の一端と、該一端から最も遠ざかった位置に存する前記物体の他端までの長さの2乗が、該長さの方向と垂直な面で前記ある物体を切断したときの、どの断面積よりも大きい場合、前記ある物体を、「長手形状物体」と称する。長手形状物体中の一部分の温度を、前記一端からの長手形状物体の長さの関数として表した温度分布のモデルを、「等価モデル」と称する。長手形状物体の長手方向の一端部が接触する物体のうち、熱解析の解析対象物とするものを「被接触物体」と称する。本明細書本文中において、23℃以上27℃以下を「室温」と称する。長手形状物体の環境温度よりも高い温度を「高温」と称し、長手形状物体の環境温度よりも低い温度を「低温」と称する。
【0024】
第1実施形態において、長手形状物体の長手方向一端部を、長手形状物体の環境温度と温度が異なる被接触物体に接触させ、熱移動について定常状態となり、温度分布について平衡状態が成立しているときの、長手形状物体を、熱解析の対象領域とする。前記長手方向一端部から長手方向に遠ざかった長手形状物体中の一部分の温度が、前記環境温度と前記被接触物体の温度との間であり、かつ前記長手形状物体中の一部分の温度と環境温度との温度差が、被接触物体の温度と環境との差の100分の1となるとき、前記長手形状物体中の一部分から、前記長手方向の一端部までの長手形状物体の長さを、「熱的な有効長さ」または「有効長さ」と称する。ただし他の実施形態において前記長手形状物体の一部分の温度と環境温度との温度差は、前記被接触物体の温度と環境温度との差の1000分の1以上100分の5以下の範囲で任意に決めてもよい。前記「等価モデル」は「有効長さ」を含むものとする。本明細書本文中において、被接触物体に接触する長手形状物体の接触面部を、長手形状物体の「一端部」と称することもある。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱解析方法の工程を表すフローチャートである。第1実施形態に係る熱解析方法は、被接触物体の情報取得工程、長手形状物体の情報取得工程、接触面部の仮想温度取得工程、有効長さ算出工程、等価モデル算出工程、温度分布計算工程、温度差判定工程および記憶工程を含んでいる。第1実施形態において、長手形状物体はLSI(Large-Scale Integration),VLSI(Very-Large-Scale
Integration),ULSI(Ultra-Large-Scale Integration)などの集積回路に接続されるボンディングワイヤとし、長手形状物体の周囲に存在する流体は空気とし、被接触物体は、環境温度としての周囲の空気の温度よりも温度が高い集積回路とする。以下、該集積回路を「高温部品」と称する。
【0026】
本処理を開始した後、ステップa1の被接触物体の情報取得工程に移行し、長手形状物体が接触している被接触物体の形状情報、物性情報、熱的条件の情報、境界条件の情報および初期条件の情報を取得する。本発明では、被接触物体の情報取得工程を「第1工程」と称することもある。次にステップa2の長手形状物体の情報取得工程に移行し、長手形状物体の形状情報、物性情報および長手形状物体の周囲の流体の温度情報を取得する。本発明では、長手形状物体の情報取得工程を、「第2工程」と称することもある。第1および第2工程における情報の取得は、熱解析を行う者に対する問いかけ、入力の催促を含んでいてもよいし、後述するステップa8の記憶工程においてすでに記憶されている情報の中からの情報取得を含んでいてもよいし、該記憶されている情報の中から、熱解析を行う者に選択させることによる情報の特定および取得含んでいてもよい。
【0027】
次いでステップa3の接触面部の仮想温度取得工程に移行し、長手形状物体の、前記被接触物体との接触面部の温度として、仮想温度を取得する。本発明において、被接触物体に接触している長手形状物体の一端部を「接触面部」と称し、接触面部の仮想温度取得工程を、「第3工程」と称することもある。次にステップa4の有効長さ算出工程に移行し、ステップa1の第1工程、ステップa2の第2工程およびステップa3の第3工程で取得した情報から、長手形状物体の熱的な有効長さを取得する。
【0028】
次にステップa5の等価モデル算出工程に移行し、ステップa1の第1工程、ステップa2の第2工程およびステップa3の第3工程で取得した情報から、長手形状物体を含む対象領域について、等価モデルを算出する。本発明では、前記有効長さ算出工程および等価モデル算出工程を合わせて「第4工程」と称することもある。次にステップa6の温度分布計算工程に移行し、前記等価モデルを用い、対象領域の温度分布を計算する。第1実施形態のように、長手形状物体の長手方向の長さが有効長さよりも長い場合、等価モデルにおける長手形状物体の長さは有効長さと同じとし、温度分布の算出は、高温部品に接している長手形状物体の一端部から有効長さの範囲について行うものとする。本発明では、温度分布工程を、「第5工程」と称することもある。
【0029】
次いでステップa7の温度差判定工程に移行し、第5工程で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度と、第3工程で取得した仮想温度とを比較して、その差が予め定める値以下であるか否かを判定する。第1実施形態において、温度差判定工程における、予め定める温度差は0.10℃とするけれども、他の実施形態においては、0.010℃以上1.0℃以下の範囲で任意に設定することができるものとする。換言すれば、温度差判定工程における、予め定める値は、本発明に係る熱解析において許容される誤差として、予め定める温度差である。本発明において、温度差判定工程を、「第6工程」と称することもある。次にステップa8の記憶工程に移行し、熱的な有効長さおよび第5手段で計算された温度分布のうちの少なくとも前記接触面部の温度を記憶する。記憶工程を、「第7工程」と称することもある。その後、本処理は終了する。
【0030】
図2は、本発明の第1実施形態に係る熱解析方法および熱解析装置10の解析対象物の斜視図である。第1実施形態に係る熱解析方法の解析対象物は、長手形状物体11と、長手形状物体11が接触している高温部品12とを含んで構成される。第1実施形態において長手形状物体11の長手方向の一端部は高温部品12に接しており、長手形状物体11の他端部と高温部品12は非接触である。高温部品12に接している長手形状物体11の一端部から、長手形状物体11中のある微小部位までの、長手形状物体11の長さを「z」とおく。図2では、長手形状物体11中の各微小部位における長手方向が、常に一定で、長手形状物体11が直線状であるときの状態を図示しているけれども、長手形状物体11中の各微小部位における長手方向が、長手形状物体11中の各微小部位の位置に依存して変化し、長手形状物体11が曲がっていてもよい。
【0031】
長手形状物体11を長さがL1の円柱状物体とし、長手形状物体11を長さ方向に垂直な面で切断したときの断面は円形で、半径をRとする。長手形状物体11の長さL1は、断面の円の半径Rに対して充分に長いものとする。長手形状物体11は、熱伝導率について等方的な材質から形成されているものとし、長手形状物体11中を、長さ方向および長さ方向に垂直な平面内に熱が伝わるときの熱伝導率をλとする。長手形状物体11の周囲の流体に長手形状物体11から熱伝達が起こるときの熱伝達係数をhとする。熱移動に関して定常状態となったとき、長手形状物体11の長さ方向両端部のうち、高温部品12に接する一端部における長手形状物体11の温度をT、長手形状物体11の長さ方向両端部のうち、高温部品12から遠い方の他端部の温度をTs2とする。長手形状物体11の周囲の気体は、温度Tの空気であるものとする。
【0032】
Δzを可及的に微小な値とし、z=z1の面を中心に長さΔzの微小空間に注目し、この微小空間に単位時間に流入する熱量とこの微小空間から単位時間に流出する熱量とのつり合いを考え、定常状態が成立っている状態の方程式を立てる。z=z1−(Δz/2)の面において長手形状物体11中をZ方向正の向きに通過する熱流束を「(q)z1−(Δz/2)」、z=z1+(Δz/2)の面において長手形状物体11中をZ方向正の向きに通過する熱流束を「(q)z1+(Δz/2)」と表す。高温部品12の温度が周囲の空気の温度よりも高い場合、z=z1−(Δz/2)からz=z1+(Δz/2)までの長さΔzの長手形状物体11の円柱状の区間に流入する熱流束は、「(q)z1−(Δz/2)−(q)z1+(Δz/2)」と表せる。長さΔzの長手形状物体11の区間の円柱の外周面から放出される熱流束を「(q)air_z」と表すと、長さΔzの長手形状物体11の円柱状の区間に出入りする熱量が釣り合って平衡状態に達したときには、出入りする熱量の釣り合いの式は、
【0033】
【数1】

【0034】
となる。フーリエの法則により、
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
が成立する。式(2)および式(3)をそれぞれテイラー展開し、3階以上の微分を含む第4項以降は無視できるので、第4項以降を省略すると、
【0038】
【数4】

【0039】
【数5】

【0040】
と表すことができる。式(1)を求めるために、式(4)の両辺から式(5)の両辺をそれぞれ差引くことによって、
【0041】
【数6】

【0042】
が得られる。長手形状物体11は、熱伝導率について等方的な材質から形成されており、長手形状物体11の熱伝導率λは、長手形状物体の長手方向に沿った長さzに依存しないので、
【0043】
【数7】

【0044】
と表せる。また長さΔzの長手形状物体11の区間の円柱の外周面から放出される熱流束は、該外周面からの熱伝達が無視できる程度に該外周面から離れた位置の空気の温度を「T」、長手形状物体11の熱伝達係数を「h」とすると、熱伝達の定義式から、
【0045】
【数8】

【0046】
となる。式(7)および式(8)を式(1)に代入することによって、
【0047】
【数9】

【0048】
が得られる。式(9)の両辺をλπRΔzで割ることによって、2階非同次線形微分方程式
【0049】
【数10】

【0050】
が得られる。式(10)の特性方程式をx+ax−b=0と置くと、a=0、b=(2h)/(λR)と表わすことができ、判別式Dは、D=a+4b>0となるので、特性方程式の解は、
【0051】
【数11】

【0052】
となる。したがって式(10)の同次形の一般解は、
【0053】
【数12】

【0054】
となる。式(12)においてCおよびCは積分定数であり、「constant」は「定数」を表している。
【0055】
c=−(2hT)/(λR)
と置くと、式(10)は
【0056】
【数13】

【0057】
と表せる。ただし式(13)において括弧内に示している、左辺が「b」となっている等式は文字式の置換関係を示す式である。式(10)の非同次項は定数なので、式(10)の特殊解は、
【0058】
【数14】

【0059】
と置くことができる。式(14)においてEは定数であり、「constant」は「定数」を表している。式(14)においてTをzで2回微分すると、
【0060】
【数15】

【0061】
となるので、式(14)および式(15)を式(13)に代入して、−bE=c、したがってE=−(c/b)となり、式(10)の特殊解は、
【0062】
【数16】

【0063】
となる。以上によって、2階非同次線形微分方程式(10)の解は、
【0064】
【数17】

【0065】
となる。ただし式(17)において括弧内の、左辺が「b」となっている等式は、文字式の置換関係を示す式である。
【0066】
長手形状物体11の長さ方向両端部のうち、高温部品12に接する一端部における境界条件(T,z)=(T,0)を式(17)に代入すると、式(17)は、T=C+C+Tとなる。したがって、
【0067】
【数18】

【0068】
となる。次に、z→∞のとき、(b)1/2z>>1となるので(bの平方根とzとの積は、無次元数である)z→∞のときは、
【0069】
【数19】

【0070】
と近似できる。z→∞のとき、T=Tとなる境界条件から、
【0071】
【数20】

【0072】
となり、C=0と決定される。ただし式(10)に基づいて計算を行うとき、z→∞のときに、T=Tとなるという境界条件は、高温部品12に接している長手形状物体11の一端部から長手形状物体11中のある微小部位までの長さ「z」を無限大とするという仮定に基づくものであって、実際の長手形状物体11の長さL1が有限であることとは関係なく利用可能である。式(17)は式(18)と「C=0」とから、
【0073】
【数21】

【0074】
となる。式(21)において、長手形状物体11の長さL1の値が半径Rの値に対して充分に大きいとき、
【0075】
【数22】

【0076】
という条件を満たす温度範囲Tに、温度が等しくなる位置が長手形状物体11中に存在し、温度が
【0077】
【数23】

【0078】
という関係を満たすT1と温度が等しくなる位置が、長手形状物体11内に存在する。温度がT1に等しくなる長手形状物体11中の位置のz座標が有効長さであり、有効長さを「Lef」と表すことにする。温度T1は、長手形状物体11の温度が、高温部品12に接する一端部においてTであったのに対し、高温部品12からの距離が離れるに従って周囲の空気の温度Tに近づき、その変化量がT1とTとの温度差の99%に達したときの温度である。有効長さLefは高温部品12に接する一端部から、温度がT1となる位置までの長手形状物体11の長さを表したものである。この有効長さLefは式(23)と、式(21)とによって算出するとこができる。具体的には、式(23)でT1が決定され、T1を式(21)のTに代入することによって、
【0079】
【数24】

【0080】
のAに相当する値を決定することができる。式(24)で表され、有効長さLefを変数とする指数関数Aは、単調増加関数または単調減少関数であるので、Aが決まれば有効長さLefは一義的に決定される。
【0081】
有効長さLefは、長手形状物体11の断面の半径R,熱伝導率λ、長手形状物体11から周囲の流体へ熱移動が起こるときの熱伝達係数h、高温部品12に接触している長手形状物体11の接触部の温度T、および周囲の空気の温度T、によって決定される。第1実施形態では、長手形状物体11を熱解析の対象領域とし、長手形状物体11中のある微小部位の温度を、被接触物体に接している長手形状物体11の一端部から前記ある微小部位までの、長手形状物体11の長さzに対する関数として表し、長手形状物体11を捉える。換言すれば長手形状物体11に対する前記関数が、第1実施形態における、長手形状物体11の等価モデルである。
【0082】
図3は、本発明の第1実施形態に係る熱解析装置10の構成を表すブロック図である。第1実施形態に係る熱解析装置10は、被接触物体の情報取得部15と、長手形状物体の情報取得部16と、接触面部の仮想温度取得部17と、有効長さおよび等価モデル算出部18と、温度分布計算部19と、計算結果の判定部20と、仮想温度の再代入部21と、記憶手段22と、制御部23とを含んで構成されている。記憶手段22は、被接触物体の形状情報蓄積部24と、被接触物体の物性蓄積部25と、長手形状物体の形状情報蓄積部26と、長手形状物体の物性蓄積部27と、計算結果蓄積部28とを含んで構成されている。
【0083】
被接触物体の情報取得部15は、高温部品12の形状、大きさ、材質に加え、熱伝導率、温度、単位時間当たりの発熱量、熱伝達係数などの熱的特性についての情報を取得する。この情報は、コンピュータの出力装置を通じて熱解析装置10の使用者に問いかけ、入力を促して取得してもよいし、記憶手段22の中から取得してもよいし、記憶手段22の中の情報の中から熱解析装置10の使用者に選択させることによって情報を特定し、取得してもよい。被接触物体の情報取得部15で取得した高温部品12の情報のうち、形状および大きさについては記憶手段22内の被接触物体の形状情報蓄積部24で蓄積され、材質、熱伝導率、温度、単位時間当たりの発熱量および熱伝達係数の情報は、記憶手段22内の被接触物体の物性情報取得部25で蓄積される。本発明では、被接触物体の情報取得部を「第1手段」と称することもある。
【0084】
長手形状物体の情報取得部16は、長手形状物体11の形状、大きさ、材質に加え、熱伝導率、温度、熱伝達係数などの熱的特性、長手形状物体11の周囲の流体の温度についての情報を取得する。この情報は、コンピュータの出力装置を通じて熱解析装置10の使用者に問いかけ、入力を促して取得してもよいし、記憶手段22の中から取得してもよいし、記憶手段22の中の情報の中から熱解析装置10の使用者に選択させることによって情報を特定し、取得してもよい。長手形状物体の情報取得部16で取得した長手形状物体11の情報のうち、形状および大きさについては記憶手段22内の長手形状物体の形状情報蓄積部26で蓄積され、材質、熱伝導率、温度、熱伝達係数および長手形状物体11の周囲に存在する流体の温度の情報は、記憶手段22内の長手形状物体の物性蓄積部27で蓄積される。本発明では、長手形状物体の情報取得部を「第2手段」と称することもある。
【0085】
接触面部の仮想温度取得部17では、長手形状物体11の高温部品12との接触面部の温度として、仮想温度を取得する。該仮想温度は、長手形状物体11の有効長さ、等価モデルおよび温度分布を算出するときに計算に用いられる。熱解析の結果として正しいと予想される接触面部の温度は、計算結果の一部として求められるもので、初期に入力した仮想温度と計算結果との差が大きいときは、計算が続行され、差が小さいときには計算は終了されるから、初期に入力した仮想温度と正しい値との差は、計算結果に影響することはない。本発明では、接触面部の仮想温度取得部を「第3手段」と称することもある。
【0086】
有効長さおよび等価モデル算出部18では、高温部品12および長手形状物体11について取得した形状、大きさ、物性および熱的特性に基づいて、長手形状物体11の有効長さおよび等価モデルを算出する。第1実施例では、等価モデルを表す単位は国際単位系であるものとするけれども、他の実施形態においては等価モデルにおける長手形状物体11の長さは有効長さLefを単位として表示してもよい。本発明では、有効長さおよび等価モデル算出部を「第4手段」と称することもある。温度分布計算部19では、有効長さおよび等価モデル算出部18で算出された有効長さおよび等価モデルに基づいて、長手形状物体11についての温度分布を計算する。本発明では、温度分布計算部を「第5手段」と称することもある。
【0087】
計算結果の判定部20では、温度分布計算部19で求められた温度分布のうちの、接触面部の温度と、計算に先立って取得された仮想温度との比較を行い、それらの差の大きさを判定する。たとえば計算結果の接触面部の温度と、仮想温度との差が0.10℃以内であるならば、該計算結果はほぼ正しいものと判定される。ただし計算結果の接触面部の温度と、仮想温度との差について、他の実施形態においては、基準とする温度差を0.010℃以上1.0℃以下の範囲内で任意に決定し、該基準とする温度以下であればほぼ正しいものとして判定してもよい。該基準とする温度差は、予め定める温度差である。本発明では、計算結果の判定部を「第6手段」と称することもある。
【0088】
計算結果の接触面部の温度と、仮想温度との差が基準とする温度差を超える場合、仮想温度の再代入部21が計算結果の接触面部の温度を、改めて仮想温度として第3手段17に取得させる。その後、第3手段17と、第4手段18と、第5手段19との駆動を再度行う。その結果、第6手段19で再度、計算結果の接触面部の温度と、仮想温度との差を求め、予め定める温度差よりも小さければ計算を終了する。また予め定める温度差よりも大きいときは、仮想温度の再代入部21が再度、計算結果の温度を仮想温度として第3手段17に取得させ、第3手段17〜第6手段20の駆動を行う。
【0089】
被接触物体の形状情報蓄積部24は、第1手段15で取得した高温部品12の情報のうち、形状および大きさについての情報を記憶、蓄積する。同時に、高温部品12の製品名、商品名などの情報が与えられれば、これらについても記憶、蓄積する。被接触物体の物性蓄積部25は、第1手段15で取得した高温部品12の情報のうち、物性および熱的特性についての情報を記憶、蓄積する。同時に、高温部品12の製品名、商品名などの情報が与えられれば、これらについても記憶、蓄積する。
【0090】
長手形状物体の形状情報蓄積部26は、第2手段16で取得した長手形状物体11の情報のうち、形状および大きさについての情報を記憶、蓄積する。同時に、長手形状物体11の製品名、商品名などの情報が与えられれば、これらについても記憶、蓄積する。長手形状物体の物性蓄積部27は、第2手段16で取得した長手形状物体11の情報のうち、物性、熱的特性および長手形状物体11の周囲に存在した流体の温度についての情報を記憶、蓄積する。同時に長手形状物体11の製品名、商品名などの情報が与えられれば、これらについても記憶、蓄積する。
【0091】
計算結果蓄積部28は、第4手段18で算出した有効長さ、等価モデルを記憶、蓄積する。このとき、解析した長手形状物体11を特定するための、たとえば製品名、商品名、記号番号、熱解析を行った日時などの情報と合わせて記憶し、記憶手段22内の他の部分に記憶、蓄積されている情報を参照できるようにする。また計算結果蓄積部28は、第5手段19によって計算された温度分布の結果を記憶、蓄積する。このとき、解析した長手形状物体11および高温部品12を特定するための、たとえば製品名、商品名、記号番号、熱解析を行った日時などの情報と合わせて記憶し、記憶手段22内の他の部分に記憶、蓄積されている情報を参照できるようにする。記憶内容は、行った熱解析に関係する情報をすべて記憶することが好ましいけれども、行った熱解析に関係する情報の一部分のみを記憶、蓄積することも可能であるものとする。本発明において、記憶手段を「第7手段」と称することもある。
【0092】
第1手段15および第2手段16で高温部品12、長手形状物体11および長手形状物体11の周囲に存在する流体の温度についての情報を取得するとき、記憶手段22内に、すでに高温部品12、長手形状物体11および長手形状物体11の周囲に存在した流体の温度についての情報が蓄積されており、特定することが可能であるならば、製品名、商品名、記号番号、熱解析を行った日時などの情報のみから形状、大きさ、材質、熱的特性などの全ての情報を取得してもよい。
【0093】
制御部23は、第1手段15〜第7手段22および仮想温度の再代入部21のそれぞれと電気的に接続されており、それらを制御する。制御手段、第1手段15〜第6手段20および仮想温度の再代入部21は、中央演算処理装置(Central Processing Unit 略称:CPU)で構成されている。第7手段22は、ランダムアクセスメモリ(Random Access Memory 略称:RAM)、リードオンリーメモリ(Read Only Memory 略称:ROM)、フロッピディスク(Flexible Disk 略称:FD)、ハードディスク(Hard Disk 略称:HDD)、コンパクトディスク(Compact Disk 略称:CD)、光磁気ディスク(Magneto Optical 略称:MO)、デジタルバーサタイルディスク(Digital Versatile Disk 略称:DVD)、光カード(Optical Card)などを含む、内部記憶装置または外部記憶装置とする。
【0094】
本発明に係る第1実施形態によれば、長手形状物体11の、高温部品12との接触面部の温度として仮想温度を取得する、接触面部の仮想温度取得工程を有することによって、熱解析の計算についての初期条件を1つ増やすことができる。したがって接触面部の仮想温度取得工程を省略して計算を行うよりも、計算コストを低減することができる。長手形状物体11の熱的な有効長さを求め、長手形状物体11を、有効長さを含む等価モデルによって表し、熱解析を行うことによって、長手形状物体11の長さが有効長さよりも長い場合、熱解析の対象領域を長手形状物体11の有効長さの範囲として、長手形状物体11全体よりも小さくすることができる。計算結果として得られた温度分布のうち、前記接触面部の温度と、計算開始前に取得した仮想温度とを比較する、温度差判定工程を有することによって、本発明に係る熱解析方法による解析に伴う誤差が予め定める値以下になったか否かを判定することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になれば、計算を終了することによって、余分な計算が行われることを防ぐことができ、熱解析にかかる計算コストを低減することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になっていなければ、計算結果を仮想温度として取得して計算を繰返すことによって、解析に伴う誤差が予め定める値以下になるまで計算の精度を上げることができる。したがって、計算コストを低減し、長手形状物体の熱問題を精確に評価する熱解析方法を提供することができる。
【0095】
また第1実施形態によれば、熱解析を行う解析対象物が、長手形状物体11としてボンディングワイヤを含むことによって、ボンディングワイヤを、集積回路などの高温部品12に接触させたときの、ボンディングワイヤに移動する熱量を予測し、ボンディングワイヤの温度を予測することができる。したがってボンディングワイヤの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にボンディングワイヤが対応し得るのかを、予想することができる。高温部品12が熱を発する場合には、ボンディングワイヤの温度上昇による断線を予想することができ、断線を防止することが可能となる。さらにボンディングワイヤによって高温部品12の熱がどの程度放散されるのかを予測することができる。
【0096】
また第1実施形態によれば、長手形状物体11の有効長さおよび等価モデルを算出する第4工程、または温度分布を計算する第5工程において、有限要素法を用いる。これによって、第4工程または第5工程を、コンピュータを用いて行うことができる。したがって計算の迅速化を図ることができ、熱解析にかかる時間を短縮することができる。
【0097】
また第1実施形態によれば、長手形状物体11の、被接触物体との接触面部の温度として仮想温度を取得する手段を有することによって、熱解析の計算についての初期条件を1つ増やすことができる。したがって仮想温度を取得する手段を用いずに計算を行うよりも計算コストを低減することができる。長手形状物体11の熱的な有効長さを求め、長手形状物体を、有効長さを含む等価モデルによって表す手段を有することによって、長手形状物体11の長さが有効長さよりも長い場合、熱解析の対象領域を長手形状物体11の有効長さの範囲として、長手形状物体11全体よりも小さくして、計算を行うことができる。計算結果として得られた温度分布のうち、前記接触面部の温度と、計算開始前に取得した仮想温度とを比較する手段を有することによって、前記等価モデルを用いた計算の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になったのか否かを判定することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になれば、計算を終了することによって、余分な計算が行われることを防ぐことができ、熱解析にかかる計算コストを低減することができる。前記比較の結果、解析に伴う誤差が予め定める値以下になっていなければ、計算結果を仮想温度として取得して計算を繰返すことによって、解析に伴う誤差が予め定める値以下になるまで計算の精度を上げることができる。したがって、計算コストを低減し、長手形状物体11の熱問題を精確に評価する熱解析装置10を提供することができる。
【0098】
また第1実施形態によれば、長手形状物体11の熱的な有効長さと、第5手段19で計算された温度分布のうちの少なくとも前記接触面部の温度とを記憶する記憶手段22をさらに有する。これによって、熱解析の結果を熱解析終了後も保存することが可能になる。被接触物体および長手形状物体11の情報のうちの少なくとも一部が同一である条件下で、熱解析を複数回行う場合に、同一の情報を含む2回目以降の熱解析において、同一部分の情報の取得を容易にすることができる。
【0099】
また第1実施形態によれば、熱解析を行う解析対象物が、長手形状物体11としてボンディングワイヤを含むことによって、ボンディングワイヤを、集積回路などの高温部品12に接触させたときの、ボンディングワイヤに移動する熱量を予測し、ボンディングワイヤの温度を予測することができる。したがってボンディングワイヤの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にボンディングワイヤが対応し得るのかを、予想することができる。高温部品12が熱を発する場合には、ボンディングワイヤの温度上昇による断線を予想することができ、断線を防止することが可能となる。さらにボンディングワイヤによって高温部品12の熱がどの程度放散されるのかを予測することができる。
【0100】
また第1実施形態によれば、長手形状物体11の有効長さおよび等価モデルを算出する第4手段18、または温度分布を計算する第5手段19は、有限要素法を用いて計算、算出を行う。これによって、第4手段18または第5手段19としてコンピュータを用いることができる。したがって計算の迅速化を図ることができ、熱解析にかかる時間を短縮することができる。
【0101】
また第1実施形態によれば、第1〜第6工程を含む熱解析方法を、コンピュータに実行させるプログラムを制御部23または記憶手段22が備えている。これによって第1〜第6工程を、CPUを含む制御部23によって制御することが可能となる。これによって、コンピュータを用いずに熱解析を行うときよりも、熱解析の迅速化を図ることができ、熱解析にかかる時間を短縮することができる。
【0102】
図4は、本発明の第2実施形態において、長手形状物体11と被接触物体との温度分布を算出するときに有限要素法を用いた状態を表す側面図である。図5は、本発明の第2実施形態に係る熱解析方法のフローチャートである。第2実施形態では被接触物体からの発熱量に加えて、さらに被接触物体から周囲の流体に放散される放熱量および被接触物体表面部の温度を考慮して被接触物体の温度分布を算出する、被接触物体の温度算出工程を有する。被接触物体は、発熱電化製品の一部品で、室温よりも温度の高い物体とし、第2実施形態においては「高温物体」と称するけれども、他の実施形態において被接触物体は、室温あるいは室温よりも低い温度の物体でもよく、吸熱する物体であってもよい。長手形状物体11は、電化製品に使用される配線ケーブルおよびその被膜であるものとする。熱解析の対象領域は、長手形状物体11および被接触物体である高温物体13とする。
【0103】
図5において、ステップb7の被接触物体の温度算出工程は、ステップb6の、長手形状物体11に対する温度分布計算工程の後、ステップb8の温度差判定工程の前に処理されているけれども、ステップb3の接触面部の仮想温度取得工程の後、ステップb8の温度差判定工程よりも前に処理されるならば、どの段階で処理されても構わないし、ステップb4の有効長さ算出工程〜ステップb6の温度分布計算工程のいずれか1つ以上の工程と同時並行に処理されてもよい。被接触物体の温度算出工程では、高温物体13からの単位時間の発熱量と、高温物体1の材質、比熱、熱伝導率、周囲の流体に対して熱が移動するときの熱伝達係数に基づいて、高温物体13からの発熱量と、高温物体13および長手形状物体11によって放散した熱量を比較し、平衡状態に到達したときの高温物体13の温度を算出する。この工程では、高温物体13の表面部の温度についてのみを算出してもよい。
【0104】
第2実施形態において、長手形状物体11は、有効長さより長い場合も短い場合もあり得る。有効長さよりも長い場合には、長手形状物体11のうち、高温物体13に接触する長手形状物体11の一端部から有効長さの範囲について等価モデルを算出し、温度分布を計算する。これは第1実施形態と同様である。長手形状物体11が有効長さよりも短い場合には、高温物体13に接触していない長手形状物体11の他端部の条件を考慮する。有効長さ自体は、長手形状物体11の断面の半径R,熱伝導率λ、長手形状物体11から周囲の流体へ熱移動が起こるときの熱伝達係数h、高温部品12に接触している長手形状物体11の接触部の温度T、および周囲の空気の温度Tによって決定されるので、長手形状物体11の長さL1が有効長さLefよりも短い場合でも、値として求めることができる。
【0105】
前記長手形状物体11の他端部が空気などの流体に接している場合には、前記他端部と流体との間に生じる熱伝達の熱伝達係数を考慮し、前記長手形状物体11の他端部が固体に接している場合には、熱伝導率を考慮して、計算を行う。長手形状物体11の他端部についての条件は、前記2階非同次線形微分方程式を立てるときに考慮してもよいし、有効長さの等価モデルを算出した後、等価モデルの長さを長手形状物体11の長さL1に限定し、かつ他端部についての条件を加えることによって等価モデルを補正し、温度分布を計算してもよい。第2実施形態において図5のフローチャートに示した工程を実行するプログラムは、制御部23に記録されている。
【0106】
本発明に係る第2実施形態によれば、熱解析の対象領域は長手形状物体11に加えて被接触物体を含む。これによって、長手形状物体11のみならず被接触物体の材質、比熱、熱伝導率、被接触物体の表面部からの放熱量などを計算に含めることができる。したがって、被接触物体を熱解析の対象領域に含まないときの熱解析に比べて、信頼度および精度の高い熱解析を実現することができる。
【0107】
また第2実施形態によれば、長手形状物体11が有効長さLefよりも短い場合には、高温物体13に接触していない長手形状物体11の他端部における熱移動を考慮する。これによって長手形状物体11が有効長さLefよりも短い場合についても熱解析を行うことができる。したがって前記長手形状物体11の他端部における熱移動を考慮しないときの熱解析に比べて、信頼度および精度の高い熱解析を実現することができる。
【0108】
また第2実施形態によれば、熱解析を行う解析対象物が、長手形状物体11としてケーブルを含むことによって、ケーブルを、電化製品などに含まれる高温あるいは低温の物体に接触させたときの、ケーブルに移動する熱または冷熱の量を予測し、ケーブルの温度を予測することができる。したがってケーブルの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にケーブルが対応し得るのかを、予想することができる。被接触物体が熱を発する高温物体13である場合には、ケーブルの温度上昇による断線を予想することができ、断線を防止することが可能となる。さらにボンディングワイヤによって高温物体13の熱がどの程度放散されるのかを予測することができる。被接触物体が吸熱する物体である場合には、ケーブルに移動する冷熱の熱量を予測し、ケーブルの温度を予測することができる。
【0109】
図6は、本発明の第3実施形態における解析対象物の側面図である。図7は、本発明の第3実施形態に係る熱解析方法および熱解析装置10によって等価モデルとして算出した解析対象物の形状を表す側面図である。図6に示すように、第3実施形態における解析対象物は、熱電対のケーブル30と、発熱部品31と、熱電対による温度計測対象32とを含むものとし、対象領域は熱電対のケーブル30とする。図6において温度計測対象32は、発熱する部品31を実装した回路基板32とし、回路基板32は室温よりも高い一定の温度を保っているものとしたけれども、温度計測対象32は、回路基板32に限らない。温度計測対象32は、固体、液体、気体のいずれか1つ以上から成る純物質または混合物質であるものとする。
【0110】
熱電対のケーブル30は、材質の異なる2本の金属線から成る長手形状物体である。該2本の金属線はその両端部で互いに接続されており、その一端部を温度計測対象32に接触させる。他端部は一定の温度条件に保たれている。熱電対のケーブル30の長さは、温度計測対象32からの熱が、一端部から他端部にまで伝わることがないように、有効長さLefよりも長く設定されている。したがって等価モデルとして算出したときの熱電対のケーブル30Aの長さは有効長さLefに等しい。図6における熱電対のケーブル30は、直線状ではなく、部分的に曲がっているけれども、図7において等価モデルとして算出した解析対象物の中では、熱電対のケーブル30Aは直線状をしている。
【0111】
図6の熱電対のケーブル30を、長さ方向に垂直な平面で切断したときの断面形状は円形ではないけれども、図7では、断面の周囲の長さが円周となるような円形の断面形状を有する1本の長手形状物体11としてモデル化し、熱電対のケーブル30Aとした。ただし他の実施形態においては、熱電対のケーブル30がどの大きさの断面を有する長手形状物体11としてモデル化できるのか、ということについて、他の情報、たとえば実験結果からの情報を利用してもよい。
【0112】
さらに他の実施形態においては、長手形状物体11に対して、長さ方向に垂直な平面で切断したときの断面形状に基づいた、熱移動に基づく方程式を立て、これを解くあるいは数値計算することによって等価モデルを算出してもよい。換言すれば、該実施形態における等価モデルの算出の方法は、長手形状物体11中の微小空間に流入および流出する熱流量について、長手形状物体11の断面形状に基づいた方程式を立て、これを解くあるいは数値計算することによる方法である。ただし方程式を立てるときには微小空間に流入および流出する熱流量について定常近似を用いることとする。
【0113】
熱電対のケーブル30を異なる温度を持つ温度測定対象32に接触させると、熱電対のケーブル30には、ゼーベック効果による熱起電力が生じ、熱電対のケーブル30には、電流が生じる。しかし該電流によって熱電対のケーブル30に生じる発熱量は、温度測定対象32から移動する熱量に比べて小さいので、無視する。たとえばKタイプの熱電対における各温度での熱起電力の電圧は、0℃で0V、100℃で4279μV、400℃で20872μVである。単位時間当たりの発熱量をW、抵抗値をR、起電力の電圧をVとすると、単位時間当たりの発熱量Wは、W=V/Rと表される。金属の電気抵抗値は、2×10−8Ω〜100×10−8Ωであるものとできる。金属の比熱は、0.1Jg−1−1〜1.0Jg−1−1であるものとできる。
【0114】
簡単のため、仮に400℃における起電力電圧を2×10−2Vとし、金属の電気抵抗値を金属の中でも、比較的小さい値であったとして、2×10−8Ωとする。すると1秒間あたりの発熱量は
(2×10−2V)/(2×10−8Ω)=2×10−4
となる。すると、1秒間あたり2×10−4Ws=2×10−4Jの熱量が発生することになる。熱電対のケーブル30として用いた比熱が、比較的小さく、0.1Jg−1であったとすると、400℃の温度に達した熱電対のケーブル30に発生した熱起電力は、1秒間に1gの金属を、2×10−3K上昇させる。熱電対のケーブル30に使用されている金属が1gであったとして、測定に50秒間かかったとすれば、10−1℃の温度上昇が予測される。条件によってはこの温度上昇の値の10分の1以下の温度上昇が予測される。したがって第3実施形態において、温度測定を行うときの、熱起電力による熱電対のケーブル30の温度上昇は、無視する。
【0115】
本発明に係る第3実施形態によれば、熱解析を行う解析対象物が、長手形状物体11として熱電対のケーブル30を含む。これによって、熱電対のケーブル30を、温度測定対象32に接触させたときの、熱電対のケーブル30に移動する熱量を予測し、熱電対のケーブル30の温度を予測することができる。したがって熱電対のケーブル30の使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化に熱電対のケーブル30が対応し得るのかを、予想することができる。温度測定対象32が熱を発する高温の物体である場合には、熱電対のケーブル30の温度上昇による断線を予想することができ、断線を防止することが可能となる。さらに、熱電対のケーブル30の温度変化に応じて、変化する抵抗値を予測することができる。したがって熱電対のケーブル30に対する熱解析を行わない場合に比べて、熱電対による温度測定の精度を高くすることができる。
【0116】
また第3実施形態によれば、等価モデルにおける熱電対のケーブル30Aの形状を、直線状とすることによって、熱解析に伴う計算を簡単化することができる。したがって直線状としてモデル化しない場合に比べ、計算コストを低減することができる。熱電対のケーブル30を、長手方向に垂直な面で切断したときの断面形状を、等価モデルの熱電対のケーブル30Aでは、円形とすることによって、熱解析に伴う計算を簡単化することができる。したがって断面形状を円形としてモデル化しない場合に比べ、計算コストを低減することができる。
【0117】
第1〜第3実施形態において、被接触物体は、室温よりも温度が高い高温部品12または高温物体13としたけれども、本発明に係る熱解析方法および熱解析装置10によって熱解析を行う解析対象物内の被接触物体は、高温でなくてもよい。室温あるいは室温よりも低い温度の物体でもよく、吸熱する物体であってもよい。
【0118】
また他の実施形態において、長手形状物体の有効長さが短く、長手形状物体の一端部に接触する被接触物体から前記一端部に流入する熱あるいは冷熱と、長手形状物体の他端部に接する、他の被接触物体から前記他端部に流入する熱あるいは冷熱とが、互いに影響しあう場合にも、本発明を適用する。この場合には、前記一端部に流入する熱あるいは冷熱の移動についての方程式と、前記他端部に流入する熱あるいは冷熱の移動についての方程式とを線形結合することによって、新たな方程式を立てて、該新たな方程式に基づいて計算を行うことによって、等価モデルの算出を行う。この場合、有効長さは、前記一端部に接する被接触物体からの熱量に対応する、前記一端部からの有効長さと、前記他端部に接する他の被接触物体からの熱量に対応する前記他端部からの有効長さとの、2つの有効長さが仮想的に求められ、計算が行われる。
【0119】
第1〜第3実施形態において、長手形状物体11の環境温度である、周囲の流体の温度は、室温とは限らない。流体の温度をTとして計算を行う。周囲の流体は空気としたけれども、液体、気体のいずれか1つ以上から成る純物質または混合物質であるものし、長手形状物体からの熱の移動について熱伝達係数hを用いて式(8)で表すことができる物質であればよい。
【0120】
第1〜第3実施形態において、前記予め定める温度差は、0.10℃としたけれども、他の実施形態において予め定める温度差は、0.010℃以上1.0℃以下であればよい。さらに他の実施形態において、予め定める温度差は、第1〜第3実施形態に係る熱解析装置の使用者が、任意に設定することができるものとする。この場合、予め定める温度差の設定は前記接触面部の仮想温度取得工程において、前記工程内容に加えて行う。熱解析装置10内においては、前記接触面部の仮想温度取得部において、仮想温度の取得と共に、予め定める温度差の取得を行う。
【0121】
第1〜第3実施形態において、等価モデルとして表した長手形状物体11の形状は、直線状としたけれども、直線状ではなく、少なくとも一部分に曲線を有する形状または屈曲した部分を含む形状としてもよい。
【0122】
長手形状物体11を長さ方向に垂直な面で切断したときの断面積が、長手形状物体11の長さL1の2乗に対して無視できないほど大きい部位を、長手形状物体11が部分的に有する場合、該部位については長手形状物体11と長手形状物体11の周囲の流体とについて、合成熱抵抗値と等価熱伝導率とを求める方法を利用してもよい。長手形状物体11を長さ方向に垂直な面で切断したときの断面が矩形の場合には、該断面が矩形であることに基づいて、長手形状物体11から周囲の流体に単位時間当たりに伝えられる熱量を計算してもよいし、該断面の面積と同じ面積を有する円形の断面形状を有する長手形状物体11として計算してもよい。また長手形状物体11から周囲の流体に伝えられる単位時間当たりの熱の移動量について、他の情報、たとえば実験結果からの情報を利用してもよい。
【0123】
本発明の計算で利用する有限要素法は、差分法を含む。長手形状物体11の等価長さおよび温度分布を計算するときには、有限要素法において長手形状物体11の長さに基づいて要素を分割するけれども、被接触物体について計算を行う場合、要素は体積に基づいて分割されるので、有限体積法と呼ばれることもある。しかし被接触物体の温度分布がある方向において一定と仮定して計算を行っても、誤差を無視できるような場合は、有限要素法における要素を体積ではなく面積あるいは長さで分割して、計算を行ってもよい。
【0124】
等価モデルの算出、温度分布の計算で計算結果が収束した値として得られず、発散する場合には、被接触物体の情報取得工程および長手形状物体の情報取得工程を再度行うように、制御部23が制御を行う。接触面部の仮想温度取得工程〜温度差判定工程を繰返し行ったときに、計算結果が収束した値として得られず発散する場合には、被接触物体の情報取得工程および長手形状物体の情報取得工程を再度行うように、制御部23が制御を行う。再度行われる被接触物体の情報取得工程および長手形状物体の情報取得工程は、熱解析を行う者に対する問いかけ、入力の催促を含んでいてもよいし、記憶工程においてすでに記憶されている情報の中からの情報取得を含んでいてもよいし、該記憶されている情報の中から、熱解析を行う者に選択させることによる情報の特定および取得含んでいてもよい。
【0125】
第1〜第3実施形態において、熱解析方法を実行するプログラムは制御部23に記録されているけれども、他の実施形態においては、記録手段22に記録されていてもよい。第3実施形態において、長手形状物体11は、熱電対のケーブル30としたけれども、長手形状物体11は熱電対のケーブルに限らない。長手形状物体を含むセンサ、またはケーブルであればよい。たとえば温度変化に応じて膨張あるいは収縮する金属の性質を利用した温度計であってもよく、温度上昇が予想される機械部品に接続され、電流または電圧を測定するためのケーブルであってもよい。第1、第2実施形態に記載したように、ボンディングワイヤ、電化製品に接続されるケーブルでもよく、また熱交換を行うためのフィンであってもよい。
【0126】
本発明に係る熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラムで被接触物体は、室温あるいは室温よりも低い温度の物体でもよく、吸熱する物体であってもよい。第1〜第3実施形態における熱の移動を、冷熱の移動として捉えることによって、第1〜第3実施形態と同じ熱解析が可能となる。したがって長手形状物体を含むセンサおよびケーブルのうちのいずれか1つを被接触物体に接触させたときの、センサまたはケーブルに移動する冷熱の熱量を予測し、センサまたはケーブルの温度を予測することができる。したがって、センサまたはケーブルの使用状況が熱的に適切かどうか、および使用時の温度変化にセンサまたはケーブルが対応し得るのかを予想することができる。被接触物体が吸熱する物体場合には、センサまたはケーブルの温度低下による結露などを予想することができ、結露を防止することが可能となる。さらに長手形状物体がセンサに含まれる物体である場合、温度変化による結露、電気抵抗値の変化などを予想することができる。したがってセンサの長手形状物体に対する熱解析を行わない場合に比べて、該センサによる測定の精度を高くすることができる。
【0127】
また本発明において長手形状物体の周囲の流体は、液体、気体のいずれか1つ以上から成る純物質または混合物質であり、長手形状物体からの熱の移動について熱伝達係数hを用いて式(8)で表すことができる物質とする。これによって、長手形状物体がセンサに含まれる物体である場合、液体、気体のいずれか1つ以上から成る純物質または混合物質に長手形状物体を長く差入れることによって、温度測定が可能となる。
【0128】
また本発明において、長手形状物体の長手方向の両端部が被接触物体に接するときには、長手形状物体の一端部からの熱あるいは冷熱の流入と、他端部からの熱あるいは冷熱の流入について、それぞれ方程式を立て、これらを線形結合することによって新たな方程式とし、該新たな方程式を解くことによって、熱解析を行う。これによって、長手形状物体の有効長さが、長手形状物体の実際の長さよりも短く、長手形状物体の両端部から流入する熱あるいは冷熱が、互いに影響しあう場合にも、本発明を適用することができる。したがって、汎用性の高い熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラムを実現することができる。
【0129】
また本発明において、長手形状物体の等価モデルは、少なくとも一部分に曲線を有する形状または屈曲した部分を含む形状であってもよい。これによって等価モデルの形状を直線としたときよりも、信頼度および精度の高い熱解析を実現することができる。
【0130】
また本発明において、長手形状物体を長さ方向に垂直な面で切断したときの断面が矩形の場合には、該断面が矩形であることに基づいて、長手形状物体から周囲の流体に単位時間当たりに伝えられる熱量を計算してもよい。これによって長手形状物体の断面を円形とする等価モデルで表したときよりも、矩形の断面を持つ長手形状物体に対して、信頼度および精度の高い熱解析を実現することができる。他の実施形態においては、長手形状物体の断面の形状が円形でない場合、長手形状物体の断面の面積と同じ面積を有する円形の断面形状を有する等価モデルとして計算してもよい。これによって、計算コストを低減することができ、熱解析の迅速化を図ることができ、熱解析に係る時間を短縮することができる。
【0131】
また本発明において、等価モデルの算出、温度分布の計算で、計算結果が収束した値として得られず、発散する場合には、被接触物体の情報取得工程および長手形状物体の情報取得工程を再度行うように、制御部23が制御を行う。これによって熱解析プログラムが計算結果を出力することなく動作しつづけることを防止することができる。接触面部の仮想温度取得工程〜温度差判定工程を繰返し行ったときに、計算結果が収束した値として得られず発散する場合には、被接触物体の情報取得工程および長手形状物体の情報取得工程を再度行うように、制御部23が制御を行う。これによって熱解析プログラムが計算結果を出力することなく動作しつづけることを防止することができる。
【0132】
また本発明において、長手形状物体は、熱交換を行うための長手形状のフィンであってもよい。これによって該フィンが行う熱交換の効率を予測することが可能となり、熱交換器に配設するフィンとして必要な数を、設計段階で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の第1実施形態に係る熱解析方法の工程を表すフローチャートである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る熱解析方法および熱解析装置10の解析対象物の斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る熱解析装置10の構成を表すブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態において、長手形状物体11と被接触物体との温度分布を算出するときに有限要素法を用いた状態を表す側面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る熱解析方法のフローチャートである。
【図6】本発明の第3実施形態における解析対象物の側面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る熱解析方法および熱解析装置10によって等価モデルとして算出した解析対象物の形状を表す側面図である。
【符号の説明】
【0134】
11 長手形状物体
12 高温部品
13 高温物体
15 第1手段
16 第2手段
17 第3手段
18 第4手段
19 第5手段
20 第6手段
21 仮想温度の再代入部
22 第7手段
23 制御部
24 被接触部の形状情報蓄積部
25 被接触部の物性蓄積部
26 長手形状物体の形状情報蓄積部
27 長手形状物体の物性蓄積部
28 計算結果蓄積部
30 熱電対のケーブル
31 発熱部品
32 温度計測対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手形状物体と、長手形状物体が接触している被接触物体とを含む解析対象物を、有限個の要素に分割し、前記解析対象物のうち、少なくとも長手形状物体を含む対象領域の熱問題を解析する熱解析方法であって、
前記被接触物体の形状情報、物性情報、熱的条件情報、境界条件情報および初期条件情報を取得する第1工程と、
長手形状物体の形状情報および物性情報を取得する第2工程と、
長手形状物体の、前記被接触物体との接触面部の温度として、仮想温度情報を取得する第3工程と、
前記第1、第2および第3の工程で取得した情報から、長手形状物体の熱的な有効長さと、該熱的な有効長さを含む等価モデルとを算出する第4工程と、
前記等価モデルを用い、前記対象領域の温度分布を計算する第5工程と、
第5工程で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度と第3工程で取得した仮想温度情報の仮想温度とを比較して、その差が予め定める値以下であるか否かを判定する第6工程とを含み、
判定結果が予め定める値以下であるときは、計算を終了し、予め定める値を超えるときは、第5工程で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度を、前記仮想温度として取得し、第3、第4、第5および第6工程を繰返すことを特徴とする熱解析方法。
【請求項2】
前記解析対象物は、長手形状物体としてセンサおよびケーブルのうちのいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の熱解析方法。
【請求項3】
前記第4工程および前記第5工程のうち少なくともいずれか1つの工程に、有限要素法を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の熱解析方法。
【請求項4】
長手形状物体と、長手形状物体が接触している被接触物体とを含む解析対象物を、有限個の要素に分割し、前記解析対象物のうち、少なくとも長手形状物体を含む対象領域の熱問題を解析する熱解析装置であって、
前記被接触物体の形状情報、物性情報、熱的条件情報、境界条件情報および初期条件情報を取得する第1手段と、
長手形状物体の形状情報および物性情報を取得する第2手段と、
長手形状物体の、前記被接触物体との接触面部の温度として、仮想温度を取得する第3手段と、
前記前記第1、第2および第3の手段で取得した情報から、長手形状物体の熱的な有効長さと、該熱的な有効長さを含む等価モデルとを算出する第4手段と、
前記等価モデルを用い、前記対象領域の温度分布を計算する第5手段と、
第5手段で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度と第3手段で取得した仮想温度とを比較して、その差が予め定める値以下であるか否かを判定する第6手段とを含み、
判定結果が予め定める値以下であるときは、計算を終了し、予め定める値を超えるときは、第5手段で計算された温度分布のうちの前記接触面部の温度を、前記仮想温度として取得する第7手段とを有することを特徴とする熱解析装置。
【請求項5】
前記熱的な有効長さと、
第5手段で計算された温度分布のうちの少なくとも前記接触面部の温度とを記憶する記憶手段を、さらに有することを特徴とする請求項4に記載の熱解析装置。
【請求項6】
前記長手形状物体は、前記長手形状物体を含むセンサおよびケーブルのうちのいずれか1つであることを特徴とする請求項4または5に記載の熱解析装置。
【請求項7】
前記第4手段および前記第5手段のうち少なくともいずれか1つが、有限要素法を用いた計算を行う手段であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の熱解析装置。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱解析方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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