説明

熱間圧延における温度制御方法

【課題】粗圧延機最終段が固定速主機の熱延ラインに対し、圧延材の搬送時刻の大幅な変更をともなわず、仕上入側位置における所定の温度を確保することができる、熱間圧延における温度制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】粗圧延機群入側に配置した温度計により、被圧延材の温度を計測する温度計測工程と、計測された被圧延材の温度と、材料諸元、各パス板厚設定、および搬送時間などの前記被圧延材に関するデータとに基いて、仕上圧延機入側位置における前記圧延材の温度を予測計算する、仕上入側位置温度計算工程と、予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度に対する許容値範囲内にあるかどうかを判断する、仕上入側位置温度判断工程と、該仕上入側位置温度判断工程で許容値範囲内にない場合に、前記各パス板厚設定の値を修正する、各パス板厚修正計算工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延ラインにおいて、圧延材の搬送時間をほとんど変更することなく、仕上入側位置にける材料温度を所定の温度に制御する、熱間圧延における温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱間圧延ラインにおいては、加熱炉から抽出された後、粗圧延された被圧延材を、仕上圧延機の入側(以後、仕上入側とも称する)位置で所定の目標温度にする方法として、粗圧延機群出側の搬送テーブル、あるいは、粗圧延機群最終段入側の搬送テーブルにおいて、それぞれの位置における目標温度との偏差を縮小するため、搬送テーブルを前進、後退させるオシレーション機能により目標温度を確保し、その後材料搬送を再開する方法が実用化されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−126814号公報
【特許文献2】特許第4081844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した粗圧延機群あるいは粗圧延機群出側の搬送テーブルにおけるオシレーションによる温度制御方法では、オシレーション動作により材料搬送が停滞し圧延能率の低下を招くこととなる。
【0005】
また、粗圧延機最終段の圧延主機の可変速化は、粗圧延機最終段の圧延主機が固定速でない場合には、改造が必要となり多額の投資を必要とすることになる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、粗圧延機最終段が固定速主機の熱延ラインに対し、圧延材の搬送時刻の大幅な変更をともなわず、仕上入側位置における所定の温度を確保することができる、熱間圧延における温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る発明は、粗圧延機群入側に配置した温度計により、被圧延材の温度を計測する温度計測工程と、計測された被圧延材の温度と、材料諸元、各パス板厚設定、および搬送時間などの前記被圧延材に関するデータとに基いて、仕上圧延機入側位置における前記圧延材の温度を予測計算する、仕上入側位置温度計算工程と、予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度に対する許容値範囲内にあるかどうかを判断する、仕上入側位置温度判断工程と、該仕上入側位置温度判断工程で許容値範囲内にない場合に、前記各パス板厚設定の値を修正する、各パス板厚修正計算工程とを有することを特徴とする熱間圧延における温度制御方法である。
【0008】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の熱間圧延における温度制御方法において、前記各パス板厚修正計算工程にあたっては、予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度より高い場合には、粗圧延機群の各パスのうち、前段における板厚設定を大きく、後段における板厚設定を小さく修正し、また反対に、予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度より低い場合には、粗圧延機群の各パスのうち、前段における板厚設定を小さく、後段における板厚設定を大きく修正することを特徴とする熱間圧延における温度制御方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱間圧延ライン上の圧延材の粗圧延機群の各パス板厚設定を調整することによって、仕上入側の所定温度を確保するため、搬送時刻を遅らせることがなく加熱炉からの圧延材の抽出時刻が明確になり、待ち時間が削減される。その結果、電力原単位の低減、燃料原単位の低減、圧延能率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用する装置構成例ならびに本発明の処理手順例を示す図である。
【図2】本発明に係る熱間圧延における温度制御方法の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従来の技術による、粗圧延における圧延機群の各パスの設定は、材料諸元ならびに粗圧延機における幅成形による板厚の増分により決定されている。また、加熱炉における抽出温度は、その粗圧延機群の各パスの板厚設定ならびに搬送時間により求められる仕上入側の温度を所定値となるように決定されている。
【0012】
しかしながら、加熱炉における温度制御は、炉帯における炉内ゾーン燃焼制御により実施されるため、異なる抽出温度が与えられ、かつ隣接して装入された材料同士では、精度よく抽出温度の制御ができない場合が多い。このため、加熱炉より材料を抽出した後、粗圧延機群において上述したオシレーションによる温度制御方法を用いることによって、仕上入側の所定温度を確保する方法が採られている。
【0013】
本発明では、抽出した材料、つまり粗圧延機群入側の位置における材料の温度を計測、あるいは演算し、以降の粗圧延機群における各パスの板厚設定値を変更することにより、搬送予定時間を変えることなく、仕上入側位置における所定の温度を確保するものである。すなわち、板厚設定を薄くとれば、単位時間あたりの温度降下量が大きくなり、一方反対に、板厚設定を厚くとれば温度降下量が小さくなることを利用して、仕上入側の材料温度を所定温度にするものである。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を具体的に説明してゆく。図1は、本発明を適用する装置構成例ならびに本発明の処理手順例を示す図である。図中、1は被圧延材、2は加熱炉、3は粗圧延機、4は仕上圧延機、5はコイラー、6は温度計、および7は温度計をそれぞれ表す。
【0015】
加熱炉2から抽出された被圧延材1は、粗圧延機3の入側に配置された温度計6にて温度が計測される。そして、被圧延材1は、粗圧延機3(R1〜R5)で粗圧延され、粗圧延機出側に配置された温度計7での計測温度が所定の温度になってから、仕上圧延機4(F1〜F7)にて所定の板厚までシート状に仕上圧延され、コイラー5で巻き取られる。
【0016】
従来は、仕上圧延機入側での被圧延材の温度が所定の温度になるように、粗圧延機群あるいは粗圧延機群出側の搬送テーブルにおけるオシレーションを行っていた。
【0017】
本発明では、図1に示す処理手順例に従って、粗圧延機3の板厚再設定を行う。すなわち、先ずStep01にて、材料諸元、各パス板厚設定、搬送時間などの対象とする被圧延材1に関するデータを上位コンピュータ(図示せず)より、または手動で入力する。
【0018】
さらにStep02にて、加熱炉2から抽出された被圧延材1の温度を計測する。そして、Step03にて、上記データに基いて仕上圧延機4入側位置での被圧延材1の温度を予測計算する。粗圧延機入側における実測温度より、仕上入側位置における温度を圧延機群の各パス板厚設定ならびに搬送予定時間から予測計算するものである。
【0019】
次に、Step04にて、予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度に対する許容値範囲内にあるかどうかを判断する。
【0020】
もし、許容値範囲内になければ、Step05にて、各パス板厚修正計算を行う。例えば、許容値範囲内になく、予測値が目標とする所定温度より高い場合には、粗圧延機群の各パスのうち、前段(R1〜R2)における板厚設定を大きく、後段(R3〜R5)における板厚設定を小さく修正する。これにより、板厚の小さい後段パスにおいて温度降下量を大きくとれ、仕上入側位置における温度偏差を縮小することができる。
【0021】
また反対に、許容値範囲内になく、仕上入側位置の温度予測値が目標とする所定温度より低い場合には、粗圧延機群の各パスのうち、前段における板厚設定を小さく、後段における板厚設定を大きく修正することにより、仕上入側位置の温度偏差を縮小できる。
【0022】
Step05にて各パス板厚修正計算を終了すれば、Step03に戻り、修正した各パス板厚に基き仕上入側位置温度計算を再度行い、Step04での許容値範囲内にあるかどうかの判定を行う。Step04での判定がYesになるまで、Step05〜Step03〜Step04のループを繰り返す。
【0023】
Step04での判定がYesになれば、Step06でその時点での各パス板厚修正値を、粗圧延機群の各パス板厚として再設定する。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例を以下に示す。仕上入側の所定温度:1020℃の場合の、本発明を適用する前(修正前)と本発明を適用した後(修正後)における、各粗圧延機での板厚設定値と板温度の値を、以下の表1に示している。さらに、図2は、本発明の実施例を示す図である。
【0025】
【表1】

【0026】
この実施例は、仕上入側の目標温度:1020℃であり、本発明を適用しない(修正前)場合の各粗圧延機での板厚設定値(R1:216〜R5:35)で仕上入側の予測値を計算すると1030℃となるケースを示している。すなわち、上述した、予測値が目標とする所定温度より高い場合を示している。
【0027】
本発明を適用して、粗圧延機群の各パスのうち、前段(R1〜R2)における板厚設定を修正前の値より大きく、後段(R3〜R5)における板厚設定を小さく修正することにより、仕上入側の予測値を修正前の1030℃から10℃低い、1020℃すなわち仕上入側の目標温度ピッタリにすることができている。なお、表および図の中で示す、R2-1〜R2-3は、R2ではリバース圧延を行っており、パス番号を付記したものである。
【0028】
以上説明をしたように、本発明により粗圧延機群の各パスの板厚を適切に変更することにより、仕上入側の所定温度を達成することが可能である。本発明は、従来のように材料搬送を中断して(オシレーションして)温度を制御する手法と比較して、搬送予定時間を変更することなく所定の温度を確保することができる。そしてこの結果、温度制御にともなう圧延能率の低下をなくすことが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 被圧延材
2 加熱炉
3 粗圧延機
4 仕上圧延機
5 コイラー
6 温度計
7 温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗圧延機群入側に配置した温度計により、被圧延材の温度を計測する温度計測工程と、
計測された被圧延材の温度と、材料諸元、各パス板厚設定、および搬送時間などの前記被圧延材に関するデータとに基いて、仕上圧延機入側位置における前記圧延材の温度を予測計算する、仕上入側位置温度計算工程と、
予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度に対する許容値範囲内にあるかどうかを判断する、仕上入側位置温度判断工程と、
該仕上入側位置温度判断工程で許容値範囲内にない場合に、前記各パス板厚設定の値を修正する、各パス板厚修正計算工程とを有することを特徴とする熱間圧延における温度制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱間圧延における温度制御方法において、
前記各パス板厚修正計算工程にあたっては、
予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度より高い場合には、粗圧延機群の各パスのうち、前段における板厚設定を大きく、後段における板厚設定を小さく修正し、
また反対に、予測した仕上入側位置温度が目標とする所定温度より低い場合には、粗圧延機群の各パスのうち、前段における板厚設定を小さく、後段における板厚設定を大きく修正することを特徴とする熱間圧延における温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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