説明

熱間押出用ガラス潤滑剤、並びにこれを用いる金属材料の熱間押出方法および金属管の製造方法

【課題】熱間押出後の被加工材に残存するガラスおよびコンテナ内部に付着するガラスを効率的に除去することができる熱間押出用ガラス潤滑剤を提供する。
【解決手段】(1)線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤である。(2)正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用いられ、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が102.5〜104ポアズであることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤である。(3)外面潤滑剤として用いられ、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が100〜102.5ポアズであることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤である。(4)この潤滑剤を用いる金属材料の熱間押出方法、および金属管、特に継目無管に適用するのが好適な製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管材、棒材および型材等の熱間押出しに適用できる熱間押出用ガラス潤滑剤、並びにこの潤滑剤を用いる金属材料の熱間押出方法、および金属管、特に継目無管に適用するのが好適な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、Crを含有する合金鋼、ステンレス鋼および耐熱合金などからなる金属材料は、潤滑剤にガラスを用いたユジーン・セジュルネ法に代表される熱間押出法によって加工される。なかでも、金属管として例示される継目無管は、上記の鋼種に限定されず炭素鋼からなる広い鋼種に亘り、ユジーン・セジュルネ法による熱間押出製管法で製造される。
【0003】
図1は、継目無管の製造に用いられる熱間押出製管法を説明する断面図である。中心部に貫通孔が設けられたビレット8(本願明細書では、単に「中空ビレット」ということがある)がコンテナ6内に装着され、このコンテナ6の一方端には、ダイホルダ4とダイバッカー5を介してダイス2が着脱自在に装着されている。また、ビレット8の貫通孔には、マンドレル3が挿入されるとともに、その後端面にはダミーブロック7が配置されている。
【0004】
このような構成において、図示を省略したステムを作動させてダミーブロック7を白抜き矢印方向に押圧すると、ビレット8がアップセットされた後、ダイス2とマンドレル3とで形成される環状空隙から押し出され、ダイス2の内径に対応する外径と、マンドレル3の外径に対応する内径とを有する継目無管が製造される。
【0005】
上記図1に示す熱間押出製管法で潤滑剤として用いられるガラスの供給は、一般に、被加工材である中空ビレット8を押出加工温度(通常、1000〜1250℃)に加熱した後に行われる。
【0006】
すなわち、コンテナ6内面とビレット8外面との潤滑を行う外面潤滑剤の供給は、加熱後のビレットを粉末ガラスが散布されたテーブル上で転動転写させてビレット外面にガラスを被覆することにより行われる。また、マンドレル3外面とビレット8内面との潤滑を行う内面潤滑剤の供給は、ターニングローラ上で回転中または上記のテーブル上で転動中のビレットの貫通孔内に、半円筒状のスプーンを用いて粉末ガラスを挿入塗布してビレット内面にガラスを被覆することにより行われる。
【0007】
一方、ダイホルダ4に装着されたダイス2内面と中空ビレット8の先端面および外面との潤滑を行う正面潤滑剤の供給は、上記図1に示すように、水ガラスなどの適宜なバインダーを用いてガラス粉末を中空円盤状に成形したガラスディスク1をダイス2の入側面に固定装着することにより行われる。
【0008】
熱間押出法による金属材料の加工において、潤滑剤の性能が被加工材の品質性状に影響を及ぼすことから、従来から、ガラス潤滑剤について多くの提案がなされている。例えば、特許文献1には、熱間押出し時の焼付きを防止するため、押出加工の温度域における粘度が105ポアズ以下のガラス粉末に固体潤滑粉末を配合し、バインダーを加えて成形したガラスディスクを正面潤滑剤として使用する熱間押出製管方法が開示されている。
【0009】
特許文献2には、特定組成を有し、低粘度によるガラス層の破損による焼付き、または高粘度での潤滑不足による焼付きを防止するため、押出加工の温度域での適正粘度を300〜3000ポアズとする熱間押出用のガラス潤滑剤が開示されている。
【0010】
また、特許文献3には、押出加工比が30%以上となる高加工度での押出加工において、スケール起因の押込み疵や焼付きを防止するため、ビレット表面に耐火性物質を塗布し、加熱時に生成または生成付着したビレット表面のスケールをこの耐火性物質中に溶融させ、その上に押出加工の温度域における粘度が101.5〜104ポアズであるガラス潤滑剤を塗布して加工する金属材料の熱間押出方法が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献4には、正面潤滑剤の粘度を103ポアズ以上とすることで外面への縦じわの形成を防止するとともに、外面潤滑剤の粘度を10ポアズ以下として摩擦係数を低下させて外面すじ疵の発生を防止することにより、特にフェライト系ステンレス鋼管や二相ステンレス鋼管の外面欠陥の発生を抑制する熱間押出製管方法が開示されている。
【0012】
上記特許文献1〜4で提案されたガラス潤滑剤を用いること、さらにこれらを用いた熱間押出製管方法を採用することにより、熱間押出加工にともなう押込み疵や焼付き等の外面欠陥の発生を抑制することができ、所期の効果を発揮することが可能になる。
【0013】
【特許文献1】特開平06−170437号公報
【特許文献2】特開平11−92169号公報
【特許文献3】特開平11−123443号公報
【特許文献4】特開2004−174536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
通常、熱間押出製管法で製造された継目無管は、水冷された後、沸硝酸の酸洗およびショットブラストによって残存するガラスを除去する。このとき、管表面に残存するガラスは、水冷により大部分が熱衝撃により剥離され、さらに沸硝酸の酸洗により剥離されなかった残り部分も完全に溶解し除去される。
【0015】
ところが、水冷で剥離されずに残ったガラスを酸洗するには時間を要し、またガラスが残存する部分は管表面の一部であるため、他の大部分は過酸洗の状態となり表面に肌荒れを発生し、歩留りを悪化させる等の問題を生じる。このため、沸硝酸による酸洗時間を短縮し、管表面に発生する肌荒れを抑制するには、水冷により残存するガラスを全て除去するのが望ましい。
【0016】
また、熱間押出法では、押出加工される被加工材の外面を拘束するコンテナ内面にもガラスが付着する。この付着したガラスは、冷却後に固化し、コンテナ内面に堆積する。通常、コンテナ内面に付着したガラスは、放水や除去治具(例えば、回転ブラシ)により除去されるが、付着したガラスの除去が不十分な場合には、残存したガラスが被加工材の外面疵の原因となる。このため、コンテナ内面に付着したガラスを放水や除去治具により容易に除去する必要がある。
【0017】
前述したように、従来から提案されているガラス潤滑剤は、いずれも潤滑剤の粘度に着目して、熱間押出加工にともなう押込み疵や焼付き等の外面欠陥の発生を抑制することを課題としているが、ガラス潤滑剤そのものの除去性について検討がなされていない。
【0018】
本発明は、このような金属材料の熱間押出方法におけるガラス潤滑剤の新たな課題に鑑みてなされたものであり、熱間押出にともなう被加工材に残存するガラスおよびコンテナ内部に付着するガラスの剥離性を改善し、優れた除去性能を発揮することができる熱間押出用ガラス潤滑剤、並びにこれを用いる金属材料の熱間押出方法および金属管の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、金属材料の熱間押出に際し、種々のガラス潤滑剤を用いて除去性能の比較検討を行った。その結果、ガラス潤滑剤に優れた除去性能を発揮させるには、水冷による熱衝撃での剥離性の改善が有効であることに着目した。
【0020】
被加工材に残存するガラスおよびコンテナ内部に付着するガラスを、金属材料の表面から剥離させるには、ガラスの線膨張係数αが大きく関与している。すなわち、線膨張係数αは温度の変動に対応して長さが変化する割合であるが、ガラスと金属材料との差が大きくなるほど、金属材料の表面からガラスの剥離を生じ易くなる。
【0021】
通常、ガラスの線膨張係数αは金属材料に比べ、同程度または小さな値となる。このため、ガラスの線膨張係数αが小さいものを選択することにより、その剥離性を改善できる。また、ガラスの粘度は適正な範囲を選択することにより、押出加工の温度域において潤滑剤の軟化、溶融を促し、被加工材と加工工具との接触界面に十分な量の潤滑剤を流入させることができ、潤滑性を向上できる。
【0022】
したがって、金属材料の熱間押出に際し、熱間押出時の潤滑性は主にガラスの粘度に支配され、熱間押出後の被加工材に残存するガラスおよびコンテナ内部に付着するガラスの除去性能は、ガラスの線膨張係数αに支配されることを見出した。
【0023】
本発明は、上述した知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)〜(3)の熱間押出用ガラス潤滑剤、および(4)〜(6)の金属材料の熱間押出方法を要旨としている。
(1)線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤である。
(2)熱間押出で加工される金属材料の正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用いられる熱間押出用ガラス潤滑剤であって、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が102.5〜104ポアズであることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤である。
(3)熱間押出で加工される金属材料の外面潤滑剤として用いられる熱間押出用ガラス潤滑剤であって、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が100〜102.5ポアズであることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤である。
【0024】
本発明の上記(1)〜(3)の熱間押出用ガラス潤滑剤では、20質量%以上のCrを含有する被加工材に適用するのが望ましい。
(4)線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であるガラス潤滑剤を、加工される金属材料の正面潤滑剤、外面潤滑剤および内面潤滑剤の少なくとも一つとして用いることを特徴とする金属材料の熱間押出方法である。
(5)線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が102.5〜104ポアズのガラスを、加工される金属材料の正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用いることを特徴とする金属材料の熱間押出方法である。
(6)線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が100〜102.5ポアズのガラス潤滑剤を、加工される金属材料の外面潤滑剤として用いることを特徴とする金属材料の熱間押出方法である。
【0025】
本発明の上記(4)〜(6)の金属材料の熱間押出方法では、20質量%以上のCrを含有する被加工材を対象とするのが望ましい。また、本発明の熱間押出方法で施されたガラス潤滑処理により、中空ビレットを被加工材として熱間押出加工を行うのが金属管の製造方法として望ましい。
【0026】
本発明で規定する「金属材料の熱間押出方法」は、本願明細書では多くの部分を継目無管のユジーン・セジュルネ法に基づいて説明しているが、単に管材だけに限定されるものではなく、棒材および型材等の熱間押出しに適用できるものである。同様に、本発明で規定する「金属管」は、継目無管に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0027】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤によれば、金属材料の熱間押出に用いることにより、熱間押出時の潤滑性を確保できるとともに、ガラスの線膨張係数αを適正にすることにより、熱間押出後の被加工材に残存するガラスおよびコンテナ内部に付着するガラスを、効率的に除去することができる。
【0028】
本発明の金属材料の熱間押出方法および金属管の製造方法によれば、この熱間押出用ガラス潤滑剤を適用することにより、熱間押出後の被加工材表面へのガラス付着が防止できるとともに、コンテナ内表面へのガラス付着も防止できる。これにより、熱間押出後の脱ガラス酸洗工程が簡略化でき、過酸洗による表面肌荒れの発生をなくし、さらにコンテナ内部に付着するガラスに起因する、被加工材の外面欠陥を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤は、線膨張係数αが80×10-7(cm/cm/℃)以下であることを特徴とする。線膨張係数αが80×10-7(cm/cm/℃)を超えるようになると、金属材料との線膨張係数αの差が小さくなり過ぎ、熱間押出後の水冷における熱衝撃による剥離が少なくなり、ガラスの剥離性が低下する。
【0030】
本発明における望ましい線膨張係数αは、60×10-7(cm/cm/℃)以下である。また、本発明において、線膨張係数αの下限は規定しないが、通常、線膨張係数αが40×10-7(cm/cm/℃)未満のガラスは製造が難しいとされていることから、この値を下限とすることができる。ただし、低線膨張係数のガラスが、容易かつ安価に製造しうる技術が確立されるようになれば、下限値はこの限りではない。
また、線膨張係数αは測定温度により変動するが、本発明では、常温(25℃)での値として規定する。
【0031】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤は、熱間押出時の潤滑性を確保するため、上記の線膨張係数αに加え、ガラス粘度を調整する。このとき、ガラス潤滑剤を正面潤滑剤、外面潤滑剤、または内面潤滑剤として使用する場合に、それぞれの潤滑剤の作用に応じてガラス粘度を調整する必要がある。
【0032】
正面潤滑剤は、粉末状にしたものに水ガラスなどのバインダーを少量加え、型に嵌めるなどしてドーナツ状に成形し、常温から200℃位までの環境下で充分乾燥し、ドーナツ状のディスクガラスとして用いられ、加熱された被加工材とダイスの間にセットされる。このため、正面潤滑剤は被加工材の保有熱により少しずつ軟化、溶融して、被加工材の外周面に塗布された外面潤滑剤のガラス粉末とともにダイスと被加工材の外周面との潤滑剤として作用する。
【0033】
正面潤滑剤に用いるバインダーとしては、Na系、K系およびLi系の水ガラス、並びに硼砂などが使用できる。また、炭素分の金属材料への残存が問題とならない場合には、酢酸ビニル水溶液などの有機系のバインダーも使用できる。
【0034】
外面潤滑剤は、ガラス粉末として使用する。通常、ガラス粉末を敷き詰めたテーブル上を加熱された被加工材を転動転写させて、外表面を被覆する。このため、外面潤滑剤は、被加工材とコンテナ内面との潤滑剤およびダイスと被加工材の外周面との潤滑剤として作用する。
【0035】
内面潤滑剤は、ガラス粉末として使用し、加熱された被加工材に設けられた内孔に投入される。このため、内面潤滑剤は被加工材の内周面に塗布され、マンドレルと被加工材の内周面との潤滑剤として作用する。
【0036】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤は、正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用いられる場合には、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が102.5〜104ポアズであることを特徴とする。
【0037】
すなわち、正面潤滑剤および内面潤滑剤は、焼付き防止や摩擦係数低減のために用いられるため、押出し温度域において粘度を102.5〜104ポアズで管理することにより、潤滑剤の軟化、溶融を促し、被加工材と加工工具との接触界面に十分な量の潤滑剤を流入させることができる。
【0038】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤は、外面潤滑剤として用いられる場合には、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が100〜102.5ポアズであることを特徴とする。
【0039】
すなわち、外面潤滑剤は、被加工材の表面を被覆した後のハンドリング中に被覆したガラスが脱落するのを防ぐため、押出加工の温度域において粘度を100〜102.5ポアズで管理することにより、被加工材表面への付着性を向上させることができる。
【0040】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤において、正面潤滑剤、外面潤滑剤および内面潤滑剤として用いられる場合に規定する粘度は、慣用される熱間押出での加工度を対象とするものである。このため、軽微な加工度による熱間押出、例えば、炭素鋼の中空ビレットを用いて熱間製管する場合に、押出加工度が10%程度の熱間押出では、上記で規定する粘度範囲を外れても、潤滑性が確保できることが予測できる。
【0041】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤は、従来から慣用されているガラス潤滑剤の供給方法を採用することができ、外面潤滑剤および内面潤滑剤は粉末状で、加熱された被加工材に直接塗布し、または転動転写させて被覆させることができる。また、正面潤滑剤は、ガラス粉末にバインダーを用いてドーナツ状に成形して使用され、その形状も慣用される形状をそのまま使用できる。
【0042】
本発明で使用されるガラス粉末の粒径は、慣用のメッシュサイズのものでよく、数μmから数百μmに粉砕したものを用いることができる。
【0043】
通常、熱間押出に用いられるガラス潤滑剤は、組成の異なるガラス粉末を数種混ぜて調整される。同様に、本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤においても、2種類以上のガラス粉末を混合して調整してもよい。その場合の線膨張係数αおよび粘度は、混合物のバルク性能によって規定される。
【0044】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤は、炭素鋼、Cr合金、Cr−Ni合金などの他、Ni基合金等の金属材料を対象にすることができるが、20質量%以上のCrを含有するCr合金、同Cr−Ni合金、Ni基合金などに適用するのが望ましい。
【0045】
これらの20質量%以上のCrを含有する金属材料は、熱間押出のために高温加熱しても酸化スケールを生成し難い。一方、酸化スケールの生成する金属材料であれば、熱間押出後の脱ガラス処理においてスケールごとガラスを剥離できることから、比較的、剥離性を確保し易くなる。上記の酸化スケールの生成し難い金属材料では、このような効果が期待できないことから、剥離性に優れる熱間押出用ガラス潤滑剤を適用するのが有効である。
【0046】
本発明の金属材料の熱間押出方法は、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であるガラス潤滑剤を、加工される金属材料の正面潤滑剤、外面潤滑剤および内面潤滑剤の少なくとも一つとして用いることを特徴とする。金属材料との線膨張係数αの差を確保し、熱間押出後の被加工材に残存するガラスおよびコンテナ内部に付着するガラスの剥離性を改善することができる。
【0047】
本発明の金属材料の熱間押出方法は、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が102.5〜104ポアズのガラスを、加工される金属材料の正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用いることを特徴とする。焼付き防止や摩擦係数低減のために用いられる正面潤滑剤および内面潤滑剤の潤滑性能が発揮でき、熱間押出後の剥離性を改善できる。
【0048】
本発明の金属材料の熱間押出方法は、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が100〜102.5ポアズのガラス潤滑剤を、加工される金属材料の外面潤滑剤として用いることを特徴とする。熱間押出時の被加工材のハンドリングにともなうガラス脱落を防ぎ、被加工材表面への付着性を向上させるとともに、熱間押出後の剥離性を改善することができる。
【0049】
本発明の金属管の製造方法は、線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であるガラス潤滑剤を、正面潤滑剤、外面潤滑剤および内面潤滑剤の少なくとも一つとして用い、さらに加工温度域での粘度が102.5〜104ポアズのガラスを正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用い、加えて加工温度域での粘度が100〜102.5ポアズのガラス潤滑剤を外面潤滑剤として用いるガラス潤滑処理を施した中空ビレットを被加工材として熱間押出加工を行うことを特徴とする。
【0050】
本発明の金属管の製造方法を適用すれば、継目無管の製造に際し、熱間押出後の脱ガラス酸洗工程が簡略化でき、過酸洗による表面肌荒れの発生をなくし、さらにコンテナ内部に付着するガラスに起因する、被加工材の外面欠陥を防止することができることから、最適なユジーン・セジュルネ法による熱間押出製管法となる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
表1に示す組成からなる6種のガラス潤滑剤A〜F(粒径:約180μm)を準備し、その剥離性を調査した。鋼種SUS316のブロック状試験片(20mm×20mm×20mm)を準備し、その試験表面に各ガラス粉末2gをまぶし、大気雰囲気下の加熱炉内で温度が1250℃で1時間加熱した後、ブロック状試験片を取出し、直ちに水槽中に浸漬し急冷した。
【0052】
得られたブロック状試験片の試験表面を観察し、試験表面の全体に対するガラスが剥離した面積の割合を剥離面積率として測定し、その測定結果を表1に示した。ここで、剥離面積率が80%以上の場合を良好な剥離性と評価した。なお、ガラス潤滑剤の線膨張係数αは市販の熱機械分析装置(TMA)で測定した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示す測定結果から、線膨張係数αが80×10-7(cm/cm/℃)以下であるガラス潤滑剤A、B、CおよびDでは、いずれも剥離面積率が80%を超えており、剥離性が良好であることが分る。
【0055】
特に、線膨張係数αが60×10-7(cm/cm/℃)以下となるガラス潤滑剤AおよびBでは、剥離面積率が90%を超えており、顕著な剥離性を示した。
(実施例2)
鋼種SUS316を被加工材として、前記図1に示す熱間押出製管法により継目無管を製造した。使用したガラス潤滑剤は、表2に示す主組成からなる6種類の潤滑剤G〜Lとし、製造された継目無管の内外表面状態およびガラスの付着状況、並びに押出コンテナ内表面のガラス付着状況を調査した。なお、ガラス潤滑剤の粘度は白金引き上げ法により測定した。また、ガラスの線膨張係数αは市販の熱機械分析装置(TMA)で測定した。
【0056】
【表2】

【0057】
ガラス潤滑剤は、正面潤滑剤として使用する際には、市販の水ガラス3号を用いてディスク状に成形して用いた。また、内面潤滑剤または外面潤滑剤として使用する際には粉末のまま塗布した。ここで使用したガラス粉末の粒径は約180μmとした。
【0058】
熱間押出加工に際しては、被加工材として外径174mm×内径44mm×長さ800mmで、先端に20Rの加工を施した中空ビレットを使用し、加熱温度を1250℃とした。製造された継目無管の寸法は、外径47mm×内径41mm×肉厚3mm×長さ40mとした。
【0059】
得られた継目無管を3つに切断し、冷却床にて水をシャワー方式で散布し、管を常温まで冷却した。その後、管表面のガラス剥離状況、欠陥発生など管表面状況を観察した。また、熱間押出の加工毎にコンテナ内面に放水し、金属ブラシでコンテナ内表面に付着したガラス潤滑剤を除去した際に、コンテナ内表面のガラス付着状況を観察した。これらの観察結果を表3に示した。
【0060】
表3に示すガラス剥離状況の評価は、◎:完全に剥離、○:ほぼ剥離(残存面積3%未満)、△:一部ガラスが剥離していない部位あり(残存面積3〜10%未満)、×:ガラスが剥離してない部位が広範囲に存在(残存面積で10%以上)で示した。
【0061】
同様に、管表面状態の評価は、◎:良好、○:潤滑不足による光沢または潤滑過多による表面粗度の上昇が見受けられるが問題ないレベル、×:潤滑不足による焼付き、または潤滑過多による象肌が見受けられる、との区分で示した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示すように、本発明で規定する範囲を外れるガラス潤滑剤を内面潤滑剤として用いた試験No.1および試験No.2では、熱間押出し後の管内周面でガラスが一部剥離していない部分があったが、試験No.1、試験No.2の外周面および試験No.3〜5では、いずれも熱間押出後の管表面にはガラスは残存しておらず、剥離性が良好であることが分る。また、試験No.1〜5では焼き付きや象肌などの表面欠陥も発生しなかった。
【0064】
一方、比較例として本発明で規定しないガラス潤滑剤を用いた試験No.6〜8は、ガラス剥離状況では、管の外周面および内周面に管表面の面積にして10%未満であるもののガラスが付着している部位が確認された。また、試験No.7〜8では、管表面状態で焼き付きや象肌などの表面欠陥が発生した。
【0065】
また、コンテナ内表面の観察でも、本発明で規定するガラス潤滑剤を用いた試験No.1〜5ではガラスが付着していなかったが、比較例である試験No.6〜8では、ガラスが残存している部位が多く見受けられた。
(実施例3)
被加工材としてCr−Ni合金(質量%で、Cr:25%、Ni:35%およびFe:40%)を用いて、前記図1に示す熱間押出製管法を適用して継目無管を製造した。実施例2と同様に、使用したガラス潤滑剤は、表2に示す主組成からなる6種類の潤滑剤G〜Lとし、管の内外表面状態およびガラスの付着状況、並びに押出コンテナ内表面のガラス付着状況を調査した。正面潤滑剤の成形法、内面潤滑剤および外面潤滑剤の塗布法、並びに使用したガラス粉末の粒径は実施例2の場合と同様とした。
【0066】
Cr−Ni合金の熱間押出加工に際しては、被加工材として外径330mm×内径206mm×長さ1100mmの中空ビレットを使用し、加熱温度は1250℃とした。製造された押出し管の寸法は、外径223mm×内径195mm×肉厚14mm×長さ5.3mとした。
【0067】
得られた管は、実施例2の場合と同様に、3つに切断し、冷却床にて水をシャワー方式で散布し、管を常温まで冷却した。その後、管表面のガラス剥離状況、欠陥発生など管表面状況を観察した。また、熱間押出の加工毎にコンテナ内面に放水し、金属ブラシでコンテナ内表面に付着したガラス潤滑剤を除去した際に、コンテナ内表面のガラス付着状況を観察した。これらの観察結果を表4に示した。
【0068】
表4に示すガラス剥離状況の評価および管表面状態の評価は、実施例2の表3に示す評価と同様とした。
【0069】
【表4】

【0070】
表4に示すように、本発明で規定する範囲を外れるガラス潤滑剤を内面潤滑剤として用いた試験No.9および試験No.10では、熱間押出し後の管内周面でガラスが一部剥離していない部分があったが、試験No.9、試験No.10の外周面および試験No.11〜13ではいずれも熱間押出後の管表面にはガラスは残存しておらず、剥離性が良好であることが分る。また、試験No.1〜5では焼き付きや象肌などの表面欠陥も発生しなかった。
【0071】
一方、比較例として本発明で規定しないガラス潤滑剤を用いた試験No.14〜16は、ガラス剥離状況では、管の外周面および内周面に管表面の面積にして10%以上ものガラスが付着している部位が確認された。また、試験No.15〜16では、管表面状態で焼き付きや象肌などの表面欠陥が発生した。
【0072】
また、コンテナ内表面の観察でも、本発明で規定するガラス潤滑剤を用いた試験No.9〜13ではガラスが付着していなかったが、比較例である試験No.14〜16では、ガラスが残存している部位が多く見受けられた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の熱間押出用ガラス潤滑剤によれば、金属材料の熱間押出に用いることにより、熱間押出時の潤滑性を確保できるとともに、ガラスの線膨張係数αを適正にすることにより、熱間押出後の被加工材に残存するガラスおよびコンテナ内部に付着するガラスを、効率的に除去することができる。
【0074】
本発明の金属材料の熱間押出方法および金属管の製造方法によれば、この熱間押出用ガラス潤滑剤を適用することにより、熱間押出後の被加工材表面へのガラス付着が防止できるとともに、コンテナ内表面へのガラス付着も防止できる。これにより、熱間押出後の脱ガラス酸洗工程が簡略化でき、過酸洗による表面肌荒れの発生をなくし、さらにコンテナ内部に付着するガラスに起因する、被加工材の外面欠陥を防止することができることから、熱間加工方法として広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】継目無管の製造に用いられる熱間押出製管法を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1:ガラスディスク、正面潤滑剤、 2:ダイス
3:マンドレル、 4:ダイホルダ
5:ダイバッカー、 6:コンテナ
7:ダミーブロック、 8:ビレット、中空ビレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤。
【請求項2】
熱間押出で加工される金属材料の正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用いられる熱間押出用ガラス潤滑剤であって、
線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が102.5〜104ポアズであることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤。
【請求項3】
熱間押出で加工される金属材料の外面潤滑剤として用いられる熱間押出用ガラス潤滑剤であって、
線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が100〜102.5ポアズであることを特徴とする熱間押出用ガラス潤滑剤。
【請求項4】
前記金属材料が20質量%以上のCrを含有する被加工材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱間押出用ガラス潤滑剤。
【請求項5】
線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であるガラス潤滑剤を、加工される金属材料の正面潤滑剤、外面潤滑剤および内面潤滑剤の少なくとも一つとして用いることを特徴とする金属材料の熱間押出方法。
【請求項6】
線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が102.5〜104ポアズのガラスを、加工される金属材料の正面潤滑剤および/または内面潤滑剤として用いることを特徴とする金属材料の熱間押出方法。
【請求項7】
線膨張係数が80×10-7(cm/cm/℃)以下であり、かつ1000℃から1250℃での粘度が100〜102.5ポアズのガラス潤滑剤を、加工される金属材料の外面潤滑剤として用いることを特徴とする金属材料の熱間押出方法。
【請求項8】
前記金属材料が20質量%以上のCrを含有する被加工材であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の金属材料の熱間押出方法。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれかに記載のガラス潤滑処理を施した中空ビレットを被加工材として熱間押出加工を行うことを特徴とする金属管の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−90326(P2009−90326A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263207(P2007−263207)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】