説明

熱間等方圧加圧装置

【課題】熱間等方圧加圧装置において、処理室の急速冷却や均熱化において、ファン装置を用いた場合に付随する種々の問題を解消する。
【解決手段】熱間等方圧加圧装置1は、高圧容器2と、高圧容器2内に設置されてその内部で熱的に隔離させるようにして被処理物Wを圧媒ガスにより加熱・加圧処理する処理室4を形成させる断熱構造体3と、処理室4の下部に設けられて処理室4へ供給された圧媒ガスを加熱する加熱手段10と、処理室4に供給された圧媒ガスに攪拌及び循環作用を誘引させるための振動を生じる音響流発生部18と、この音響流発生部18を振動させる超音波振動子19とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間等方圧加圧装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HIP法(熱間等方圧加圧装置を用いたプレス方法)は、数10〜数100MPaの高圧圧媒ガス雰囲気のもと、焼結製品(セラミックス等)や鋳造製品等の被処理物をその再結晶温度以上の高温にして処理するものであり、被処理物中の残留気孔を消滅させることができるという特徴がある。
そのためこのHIP法は、機械的特性の向上、特性のバラツキの低減、歩留まり向上などの効果が確認されており、今日、広く工業的に使用されるに至っている。
実際の工業生産の現場では、急速冷却方式のHIP装置が使用される傾向にある。この場合、急速冷却を可及的に促進させる目的で、高圧容器内において、密度差を主因とした自然対流を起こさせるようにした冷却方法(例えば、特許文献1)が提案されている。
【0003】
しかし自然対流だけでは不十分な場合、高圧容器内にファン装置等を設置することで、自然対流に強制対流をも付加させた冷却方法(例えば、特許文献2)や、更に独立制御が可能な2つのファン装置を設置することで、処理室の上方が高温で下方が低温に偏る温度不均一の問題を払拭する提案もされている(例えば、特許文献3)。
また、被処理物をアルミ合金鋳物とするHIP処理では処理温度が500℃程度である。そのため、被処理物の下方にのみべースヒータ(加熱手段)を配置すると共に、ヒータの下方にファン装置を配置してこれで処理室の高圧ガスを循環させ、均熱化を図る方法が提案されている(例えば、特許文献4)。この場合、ファンの受ける温度も500℃程度に抑えられることから、ファンの材料は耐熱性のステンレス材やNi基の超合金でよいとされている。
【特許文献1】米国特許第4217087号公報
【特許文献2】実公平3−34638号公報
【特許文献3】特開2007−313553号公報
【特許文献4】特開2003−336972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のHIP法では、数10〜数100MPaもの高圧に耐えさせるために高価な高圧容器を使用する点や、処理工程時間の過半を冷却時間が占める点などがネックとなって、処理コストの低減及び生産性の向上などが課題とされている。
特許文献2や特許文献3の熱間等方圧加圧装置の場合、ファンの材料には、高温の処理室温度(殊にNi基の超合金鋳物の処理では1200℃以上になる)に耐える高価なモリンブデン合金等を用いざるを得ない。しかも、この種の材料は脆化しやすくまた比重が大きいために、ファン回転時の遠心力でクリープ変形を起こすおそれがあるなどの問題が指摘されている。なお、ファン装置には、高温部に設置されるファンと低温部に設置されるファンモータとを接続する軸に、過大な回転曲げ応力が発生するという問題もあった。
【0005】
特許文献4の如く、アルミ合金鋳物のように500℃程度の比較的低温が使用条件であれば、ファン装置に関してのファン材料による高コストの問題はないが、被処理物が鋳物であるという特質上、被処理物から鋳砂がファン装置上へ落下するという上記とは異種の事情があり、ファン軸の軸受け部分が損傷しやすい問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高圧容器内(殊に処理室)の急速冷却や均熱化において、ファン装置を用いた場合に付随するファン材料の高コスト化の問題をはじめ、曲げ応力やブレの問題、ファンモータ等のスペース制約の問題、更にはアルミ合金鋳物のHIP処理に関してファンモータ等の軸受け部品損傷の問題などを解消することができる熱間等方圧加圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る熱間等方圧加圧装置は、被処理物が収納されると共に圧媒ガスが注入される高圧容器と、該高圧容器内に設置されて且つ被処理物を圧媒ガスにより加熱・加圧処理する処理室を形成すると共に前記処理室を熱的に隔離する断熱構造体と、前記処理室の下部に設けられて該処理室へ供給された圧媒ガスを加熱する加熱手段とを備えたものであって、前記加熱手段の下方には、前記圧媒ガスを攪拌及び循環させる音響流を発生させる音響流発生部と、電圧の印加で駆動して前記音響流発生部を振動させる超音波振動子とが設けられていることを特徴とする。
【0007】
このように本発明は、処理室の急速冷却や均熱化にはファン装置を用いず、超音波を使用して、圧媒ガスに攪拌及び循環作用を起こさせるためのガス流(音響流)を発生させる構成である。そのため、ファン装置を用いた場合に付随していたファン材料の高コスト化の問題をはじめ、曲げ応力やブレの問題、ファンモータ等のスペース制約の問題などを解消することができる。
また、アルミ合金鋳物のHIP処理で問題とされた鋳砂落下を原因としたファンモータ等の軸受け部品損傷の問題も解消される。結果として、機能面では、処理室の均熱性と冷却速度を独立且つ実用上十分な範囲と精度で実現することができる。
【0008】
従って例えば、処理室の内径が2mを越えるような大型のHIP装置でも短時間の処理が可能になり、被処理物の大型化に対応して大型のHIP装置を実現できることに繋がる。
また装置コストの低減及び生産性の改善が可能であり、これらに伴うHIP処理コストの大幅な低減効果が得られる。そのため、これまで技術的効果の高さからHIP法を採用したくてもコスト面で諦めざるを得なかった多くの製品(自動車用のアルミ合金鋳造品等)への適用が、今後、可能となる。
【0009】
好ましくは、前記音響流発生部は超音波振動子により超音波振動が付与されて上方へ向けた音響流を発生するホーンを有しており、前記ホーンは、前記加熱手段より下方に配備されているとよい。
また、前記加熱手段と前記音響流発生部のホーンとの上下間には、中央部に開口部を有するデフューザ部が設けられており、前記デフューザ部の下方に存在する圧媒ガスが処理室に向けたガス流となるように、前記開口部が音響流発生部のホーン振動面より径大に形成されているとよい。
【0010】
さらに好ましくは、前記処理室に設けられた温度センサと、前記温度センサの出力に基づいて前記処理室内が所定温度となるように超音波振動子を制御する制御手段とを有するとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る熱間等方圧加圧装置は、高圧容器内(殊に処理室)の急速冷却や均熱化において、ファン装置を用いた場合に付随するファン材料の高コスト化の問題をはじめ、曲げ応力やブレの問題、ファンモータ等のスペース制約の問題、更にはアルミ合金鋳物のHIP処理に関してファンモータ等の軸受け部品損傷の問題などを解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図3は、本発明に係る熱間等方圧加圧装置の第1実施形態を示している。第1実施形態の熱間等方圧加圧装置1は、1000℃以上の処理温度で使用するものに適用している。
図1に示すように、熱間等方圧加圧装置1は、高圧容器2の内部に蓋付き円筒形状の断熱構造体3が設置され、この断熱構造体3の内部に、熱的に隔離された状態で処理室4が形成されたものである。
【0013】
高圧容器2は、縦型の高圧円筒2aと、この高圧円筒2aの上端を塞ぐ上蓋2bと、高圧円筒2aの下端を塞ぐ下蓋2cとが、それぞれ高シール部を介して連結されることによって形成されている。上蓋2bに、高圧容器2の内外を連通させる状態で圧媒ガスの流通路5が設けられており、高圧に昇圧されたアルゴンガス等の不活性ガスが注入又は排出可能となっている。
高圧容器2と断熱構造体3との周間には第1整流筒6が設けられている。この第1整流筒6は上部が整流筒蓋7で塞がれた円筒形に形成されており、高圧容器2の内面(高圧円筒2aの内周面及び上蓋2bの下面)と第1整流筒6の外面との間に隙間が確保されており、また第1整流筒6の内面と断熱構造体3の外面との間にも隙間が確保されている。
【0014】
第1整流筒6において、整流筒蓋7は必要に応じて上下動可能となっており、温度圧力保持時には下降して第1整流筒6の上部を密閉し、筒内の比較的高温の圧媒ガスと筒外(高圧円筒2aとの隙間)の低温の圧媒ガスとが自然対流を起こさないよう抑制する。また温度圧力保持後の降温・冷却時(以降、降温・冷却工程と呼ぶこともある)には上昇し、第1整流筒6の上部を開放して放熱するようになっている。
また第1整流筒6の下端外周部には、筒内外を貫通する多数のガス連通孔6aが互いに所定間隔をおいて設けられている。このようにして成る第1整流筒6の下端部から少し上の位置に、筒内方へ向けて張り出す状態で支持枠8が設けられており、この支持枠8上で上記した断熱構造体3が支持される構造となっている。
【0015】
なお、断熱構造体3の下端には筒内外を貫通する多数のガス連通孔3aが互いに所定間隔をおいて設けられている。
またこの支持枠8によって支持される状態で、断熱構造体3の更に内側(即ち、処理室4)に所定高さを保持するようにして物品支持台9が設けられている。この物品支持台9の内方は空洞とされており、この空洞部分の上側域で加熱室10が形成されるものとなっている。
物品支持台9の台板11には上下に貫通するガス流通孔11aが多数形成されており、この物品支持台9(台板11)の上部には第2整流筒12が載置されている。
【0016】
この第2整流筒12は、その筒内部で被処理物Wの収納ケースを兼ねるようになったものであって、筒内の上下方向に互いに所定間隔をおいて複数の棚板13が設けられ、これら各棚板13上に被処理物Wが載置される。各棚板13にも、上下に貫通するガス流通孔13aが多数形成されており、処理室4でのガス流の循環が容易且つ均一化されるようになっている。
なお、被処理物Wは、各棚板13上だけでなく、物品支持台9の台板11上にも載置されるようになっている。
【0017】
物品支持台9の立ち上がり部分を形成している短筒壁15には、筒内外を貫通する複数のガス連通孔15aが互いに所定間隔をおいて設けられている。またこの短筒壁15には、その内周全周から筒内方へ張り出す状態で底板16が設けられており、この底板16より上側の領域(底板16と台板11とで挟まれた領域)が、上記した加熱室10とされる。
この底板16は、平面視すると中央に開口部16aが形成された円環状を呈するようになったものであって、加熱室10は、この中央の開口部16a内を介して断熱構造体3の下方側へと連通した状態にある。
【0018】
加熱室10には加熱手段17が設けられている。この加熱手段17は、台板11の下面に沿って分散配置されるようにして複数のベースヒータ17aを有している。
加熱室10の下方部には音響流発生部18と、この音響流発生部18を駆動させるための超音波振動子19とが設けられている。
音響流発生部18は、処理室4の均熱化促進を図るためのもので、平面視した状態で処理室4の中央となるように配置されたメインホーン20と、このメインホーン20のまわりに配置されたサブホーン21とを有している。
【0019】
メインホーン20やサブホーン21は、内部が空洞もしくは中実で外観が円筒状となっていて、先端に行くと共に径大となっている。メインホーン20やサブホーン21の径大部(すなわち先端部)は上方を向くように配備されており、先端は振動面(ホーン振動面)となっている。
ホーン振動面の材料は、暴露される温度等によって選定されるが、音波の減衰が少ない高ヤング率のタングステンやモリブデン、又はNi基の超合金等の金属材料、或いは炭化ケイ素、窒化ケイ素等の耐熱セラミックスを使用可能である。
【0020】
超音波振動子19は、メインホーン20及びサブホーン21のそれぞれに1対1対応となるように、メインホーン20やサブホーン21の基端部(下端部)に設けられており、それぞれ、周囲が上方からの輻射熱による温度上昇を防止するための断熱保護材22によって包囲され、この断熱保護材22ごと、取付カバー23を介して高圧容器2における下蓋2cの上面に固定されている。
これら超音波振動子19に電圧を印加して駆動させると、各超音波振動子19に結合された各メインホーン20やサブホーン21がホーン振動面を振動させるようになり、この振動に誘起されて上向きに音響直進波(音響流)が発生することになる。この音響直進波が、加熱室10から処理室4へ向けてメインホーン20によるガス流及びサブホーン21によるガス流を発生させることになる。
【0021】
ここにおいて、メインホーン20によるガス流は主として処理室4での循環流を促進させるものとして用いられ、サブホーン21によるガス流は主として冷却用の循環流を発生させるものとして用いられる。
メインホーン20用の超音波振動子19には、板状の圧電体素子を振動方向に重ねて使用するランジュバン型のものを使用することができる他、1MHz程度の高い周波数で駆動させることを条件として厚さが10mm以下と薄い単一素子型のものを使用することもできる。単一素子型を使用する場合、投入電力は制限されるものの、メインホーン20からの熱伝導で超音波振動子19が過熱することを防止できる利点がある。
【0022】
これに対してサブホーン21用の超音波振動子19には、冷却用の循環流を発生させるという主目的を果たさせるうえで大電力の投入が必要となるため、ランジュバン型のものを使用するのが好適となる。この場合、20〜30KHzの周波数で駆動させるのが好ましい。
加熱室10には、その内周面から所定高さで室内へ張り出すようにして円板形状のデフューザ部25が設けられている。このデフューザ部25が設けられる高さは、音響流発生部18のメインホーン20(すなわち、処理室4に対してその中央位置に配置されたホーン)のホーン振動面と、その上方に配置される加熱手段17(ベースヒータ17a)との上下間に配置されるように、位置決められている。
【0023】
デフューザ部25の中央部には開口部25aを形成されている。この開口部25aは、メインホーン20に対向する位置関係(平面視して同心円となる関係)にあり、このメインホーン10よりも径大(面積大)に形成されている。
そのため、メインホーン20で上昇流となるガス流を発生させた場合、このガス流に対してデフューザ部25の下方に存在する圧媒ガスが加熱室10へ引き込まれて吸引ガス流となるといったエジェクタ効果が誘起される。
このような吸引ガス流は、メインホーン20によるガス流(処理室内循環流)の発生促進や、サブホーン21によるガス流(冷却用循環流)の発生促進をさらに効率よく行わせ、循環ガスの流量を増幅させるうえで極めて有効である。
【0024】
なお、開口部25aの縁部(即ち、デフューザ部25の張り出し端)は、その全周を上方へ向けてリブ状に突出させておくのが、エジェクタ効果を早期に且つ効率よく発生させるうえで更に好適となる。
処理室4にはその上部と下部に温度センサ30,31が設けられている。これら上部温度センサ30及び下部温度センサ31からの検出信号(検出温度)は、制御手段32で取り込まれ、制御手段32は、上部温度センサ30と下部温度センサ31との温度差が所定の閾値を超えたときに、超音波振動子19を駆動すべく制御し、もって処理室4の均熱性が保たれるようになっている。
【0025】
このような構成を具備してなる本発明の熱間等方圧加圧装置1にあって、高圧容器2内を昇温したり昇温後の温度を保持したりする際(以降、昇温・温度保持工程と呼ぶ)には、図2に示すように、第1整流筒6の整流筒蓋7を下降させ、第1整流筒6の上部を密封状態にさせることにより、処理室4の熱が断熱構造体3自体及び第1整流筒6自体によって放散するのを抑制した状態にする。
そのうえで、加熱手段17のベースヒータ17aに加熱電力を投入して加熱室10を加熱させる。また音響流発生部18ではメインホーン20の超音波振動子19に電圧を印加して駆動させる。
【0026】
これにより加熱室10に存在する圧媒ガスは加熱され、物品支持台9の台板11に形成されたガス流通孔11aを介し、処理室4へ向けた自然対流が生じると共に、この自然対流に対し、メインホーン20の音響直進波により発生したガス流が合流した状態となる(図2中の矢符参照)。そのため、ベースヒータ17aに投入した加熱電力が有効活用され、処理室4の均熱化を保持させるように作用する。
なお、この昇温・温度保持工程では、音響流発生部18におけるサブホーン21の超音波振動子19は駆動させない。
【0027】
昇温・温度保持工程を経た後、次の降温・冷却工程に移ると、図3に示すように音響流発生部18ではメインホーン20の超音波振動子19だけでなく、サブホーン21の超音波振動子19にも電圧を印加して駆動させる。
また、これと同時に第1整流筒6の整流筒蓋7を上昇させ、第1整流筒6の上部を開放させることでガス流通を許容させ、放熱させる。
かくして、サブホーン21の音響直進波で発生したガス流(冷却用循環流)は、メインホーン20の近傍にて、当該メインホーン20の音響直進波で発生したガス流(処理室内循環流)と合流しつつ上昇し、加熱室10から処理室4へと流れ込んで被処理物Wを冷却することになる(図3中の矢符参照)。
【0028】
このように処理室4へと打ち込まれたガス流は、断熱構造体3の内周面に沿って下降し、その下端部のガス連通孔3aから漏れ出すようにして第1整流筒6の内側に流れ込む。そして第1整流筒6の内周面に沿って上昇し、第1整流筒6の上端部(整流筒蓋7が開いた部分)から筒外、即ち、高圧容器2における高圧円筒2aの内面へ散逸され、冷却される。その結果、処理室4が効率よく冷却されることになる。
ところで、処理室4にはそもそも、加熱手段17のベースヒータ17aにより発生する自然対流が存在する。そのため昇温・温度保持工程の際には、この対流を更に促進させるような、強制対流を誘起することが目的となる。
【0029】
すなわち昇温・温度保持工程の際において、音響流発生部18で起こすガス流にはそれほど大きな出力は必要なく、この音響流発生部18としては、メインホーン20と超音波振動子19とは1組みだけとしても十分である。
これに対して降温・冷却工程のガス流は、処理室4の圧媒ガスを断熱構造体3の下端に設けられたガス連通孔3aから漏れ出させるような状態で循環させることが好ましいとされ、このようなガス流を発生さるためには、大きな流速と流量が必要となる。
すなわち降温・冷却工程において、音響流発生部18としては、サブホーン21と超音波振動子19との組み合わせは複数組み設けるのが好ましいことになる。
【0030】
言うまでもなく、昇温・温度保持工程であれ降温・冷却工程であれ、ガス流の速度及び流量は、ホーン(メインホーン20やサブホーン21)及び超音波振動子19の大きさや設置数、印加電圧、周波数に依存する。
なお、ファン装置を使った方式(従来公知の方法)において、ガス流の流量を多くさせようとすればファンの直径や厚さを大型化する必要があり、また高速回転化も必要になる。従ってファンモータも大型化が必定となる。
従って、本発明において、音響流発生部18が上記したようにメインホーン20と複数のサブホーン21を有した構成であるとしても、超音波振動子19がコンパクトであることから、従来のファン装置と同一流量を条件に比べれば、設置空間を必要最小限に抑制できる利点がある、と言うことができる。
【0031】
図4及び図5は、本発明に係る熱間等方圧加圧装置1の第2実施形態を示している。本第2実施形態の熱間等方圧加圧装置1は500℃程度の処理温度で使用するもの(アルミ合金鋳造品等)に適用してある。
第2実施形態の熱間等方圧加圧装置1では、高圧容器2の高圧円筒2aに、その外周を取り囲むように流水用ジャケット50が設けられ、この流水用ジャケット50に対して下部の注水部51から冷却水が給水され上部の排水部52で排水されるようにして冷却水が循環される構成である。
【0032】
また、第1実施形態の熱間等方圧加圧装置1とは異なって、高圧容器2内において断熱構造体3との周間に第1整流筒6は設けられていない。
断熱構造体3自体についても、被処理物Wが低廉であることが多く、処理室4を可及的に大型化すると共に容積利用効率を上げて、可及的に多くの被処理物Wを装填できるようにするため、薄肉化してある。これらの明確な差異を除いては、細部で違いはあるが、HIP装置としての基本的な構成は略同様なものである。
本発明の主要構成として第1実施形態と最も異なるところは、音響流発生部18がメインホーン20だけを有したものとなっている点にある。すなわち、昇温・温度保持工程(図5参照)で均熱化を図るガス流だけが得られるようにしてある。
【0033】
これは、アルミ合金鋳物は300℃乃至400℃で大気に暴露しても酸化損傷することがないことから、処理後の減圧時にあって、被処理物Wがまだ熱いうちでも大気中に取り出すことができるためである。
なお、第2実施形態では、被処理物Wがアルミ合金鋳物であることに関連し、被処理物Wに付着した鋳砂が落下するという事情があるが、音響流発生部18(メインホーン20)や超音波振動子19には機械的な可動部や機構が無いため、落下鋳砂を原因とする損傷は起こらない。従って安定した操業が可能となっている。
【0034】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
例えば、超音波振動子19に対して投入可能な電力及び周波数は、超音波振動子19としてのタイプごとに異なり、効率もガスの密度や粘性により適宜選択が可能である。
熱間等方圧加圧装置1が小型の場合には、音響流発生部18(メインホーン20やサブホーン21)を使用せずに、超音波振動子19の振動面をそのまま音響直進波の発生に利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る熱間等方圧加圧装置の第1実施形態を示した側断面図である。
【図2】第1実施形態の熱間等方圧加圧装置において昇温・温度保持工程で生じるガス流を説明した側断面図である。
【図3】第1実施形態の熱間等方圧加圧装置において降温・冷却工程で生じるガス流を説明した側断面図である。
【図4】本発明に係る熱間等方圧加圧装置の第2実施形態を示した側断面図である。
【図5】第2実施形態の熱間等方圧加圧装置において昇温・温度保持工程で生じるガス流を説明した側断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 熱間等方圧加圧装置
2 高圧容器
3 断熱構造体
4 処理室
10 加熱室
17 加熱手段
17a ベースヒータ
18 音響流発生部
19 超音波振動子
20 メインホーン
21 サブホーン
25 デフューザ部
25a 開口部
30 上部温度センサ
31 下部温度センサ
32 制御手段
W 被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物が収納されると共に圧媒ガスが注入される高圧容器と、該高圧容器内に設置されて且つ被処理物を圧媒ガスにより加熱・加圧処理する処理室を形成すると共に前記処理室を熱的に隔離する断熱構造体と、前記処理室の下部に設けられて該処理室へ供給される圧媒ガスを加熱する加熱手段とを備えた熱間等方圧加圧装置において、
前記加熱手段の下方には、前記圧媒ガスを攪拌及び循環させる音響流を発生させる音響流発生部と、前記音響流発生部を振動させる超音波振動子と、が設けられていることを特徴とする熱間等方圧加圧装置。
【請求項2】
前記音響流発生部は、超音波振動子により超音波振動が付与され上方へ向けた音響流を発生するホーンを有しており、
前記ホーンは、前記加熱手段より下方に配備されていることを特徴とする請求項1に記載の熱間等方圧加圧装置。
【請求項3】
前記加熱手段と音響流発生部との上下間には、前記音響流発生部のホーン振動面に対面する開口部を備えたデフューザ部が設けられており、
前記デフューザ部の下方に存在する圧媒ガスが処理室に向けたガス流となるように、前記開口部の面積がホーン振動面の面積より大に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の熱間等方圧加圧装置。
【請求項4】
前記処理室に設けられた温度センサと、前記温度センサの出力に基づいて処理室内が所定温度となるように超音波振動子を制御する制御手段と、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱間等方圧加圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−208088(P2009−208088A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50743(P2008−50743)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】