説明

熱電変換素子及び熱電変換モジュール並びに熱電変換モジュールの製造方法

【課題】高い熱電変換効率を確保でき、低コストで熱的安定性、化学的耐久性にも優れた薄膜構造の熱電変換素子及び熱電変換モジュール、並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】この熱電変換モジュールは、絶縁体(10)の上面に離隔して形成された複数個の第1の電極膜(11,12,13)と、この第1の電極膜の上面にp型とn型が交互に離隔して配置された複数個のp型及びn型熱電半導体素子膜(16,19)及び(17,18)と、この第1の電極膜の離隔位置をまたぐようにp型熱電半導体素子膜(19)とn型熱電半導体素子膜(18)とを接続する第2の電極膜(20)とを有し、端部に位置するp型及びn型熱電半導体素子膜(16,17)にそれぞれ端子電極が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の表裏面の温度差を電気エネルギーに変換し、あるいは電気エネルギーを前記表裏面の温度差に変換する熱電変換素子及びこの熱電変換素子を用いた熱電変換モジュール並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からゼーベック及びペルチェ効果を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換したり、逆に電気エネルギーを熱エネルギーに変換する熱電変換システムが実用化されてきている。この熱電変換システムには熱電変換素子と称されるp型、n型の熱電半導体が用いられるが、一般にこれらの素子は1素子当りの発生電圧が小さいので、複数の素子を直列に接続して実用可能な発生電力を得るようにしている。
【0003】
例えば、特開平05−63243号公報(特許文献1)に示すように、合金タイプの一対のp型、n型熱電半導体素子の上面どおしを接合するとともに、その下面を、その両側に隣接した他の一対の熱電半導体素子の下面と接合し、このようにして上下面交互に接合して直列接続構造を得ている。配列した各素子の上下面を絶縁板によって挟み、端子を絶縁板の端部に形成した構造を有している。
【0004】
また、特開2006−49796号公報(特許文献2)では、セラミックスモジュールが開示されており、主に熱的安定性、化学的耐久性を有するセラミックスの切断によるπ型モジュール作製における接合法について述べている。
【0005】
また、他の例として、特開2005−217353号公報(特許文献3)のように熱電半導体の微粉末と導電性微粉末を添加物として有機系樹脂を主体とするペースト状に混合した熱電半導体素子を、基板に穿った孔に充填し、かつ基板の上下面を平滑面に研磨してから、この上下面に電極を形成した熱電変換モジュールが開示されている。この場合、基板の孔に熱電半導体素子を埋め込む手段として、スキージにより埋め込む印刷法を採用することが提案されている。
【0006】
さらに、特開2004−281726号公報(特許文献4)には、気相蒸着法を採用し、セラミックスを用いた場合の薄膜状熱電変換モジュールの作成方法が開示されている。
【特許文献1】特開平05−63243号公報
【特許文献2】特開2006−49796号公報
【特許文献3】特開2005−217353号公報
【特許文献4】特開2004−281726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載の熱電半導体素子及び熱電変換モジュールは、熱電半導体素子のp型、n型を交互に並べて配置し、隣接する素子の端子どおしを接合して直列接続構造を得るという構成をとっているので、製造に手間がかかり、また形状も嵩高になるという問題があり、セラミックスの熱電変換素子の場合、電極である金属との熱膨脹係数の差による剥離、及び電気的障壁の緩和を目的として熱的緩衝材を複数導入するため複雑な素子となり、工業的大量生産に向かないという問題もある。
【0008】
また、特許文献3の構造は、基板に孔を穿つ機械的な工程が必要となり、さらに、この孔に埋め込んだ熱電半導体素子と基板上下面に貼着する電極との間の確実な接続を得るために、前記孔から若干前記熱電半導体素子が突出するように、例えばマスク用のフィルムを孔位置の外側に設けてから該半導体素子を前記孔に埋め込み、その後で基板上下面を研磨して電極で前記半導体素子の露出頭部全体を覆うという工程が必要である。
【0009】
このように特許文献3のモジュール構成では、p型熱電半導体素子と、n型熱電半導体素子と、電極とを同一平面上で平面的に接続するという構造であるため、確実な接続を得るための工程が複雑となり、さらに、基板の孔に前記半導体素子を埋め込む構造から全体を薄形化するのに難点があった。
【0010】
さらに、特許文献4では、素子の堆積方法が気相蒸着法(パルスレーザー)であり、真空中での膜形成処理が必要となるため、蒸着装置のコストが高くなる(酸化物系の場合、単に混合材を素子とすると発電特性がでないので、膜構造のモジュールを作製する場合は100%熱電材料の焼結体もしくは単結晶膜作製技術を使用する必要がある。)。また、上記蒸着処理では、p、nの各焼結温度が異なるため、モジュール化する際にp、n素子の両方を同時に焼成処理できないという問題がある。
【0011】
本発明は、上述した製造工程の複雑化、薄形化の困難性など、従来の問題点を解決し、さらに、熱電変換素子単体での良好なゼーベック係数を保ち、かつ高い熱電変換効率を確保でき、また、低コストで熱的安定性、化学的耐久性にも優れた薄膜構造の熱電変換素子及び熱電変換モジュール、並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明に係る熱電変換素子は、熱電変換材料の粉末に結着材を混合してペースト化したものを電極上面に薄膜状に硬化させたものである。
すなわち、本発明によれば下記の熱電変換素子、熱電変換モジュール及び熱電変換モジュールの製造方法が提供される。
【0013】
1.熱電変換材料の粉末に結着材を混合してペースト化したものを電極上面に薄膜状に硬化させたことを特徴とする熱電変換素子。
2.前記熱電変換材料が、合成された酸化物熱電半導体であり、前記酸化物熱電半導体の粉末の粒径を0.1〜10μmとし、前記酸化物熱電半導体の粉末に金属酸化物を結着材として前記熱電半導体に対し0.5〜50質量%の割合で加えて混合し、ペースト化したものを電極上面に薄膜状に硬化させた前項1に記載の熱電変換素子。
3.焼成硬化させた時の膜厚が1〜100μmであることを特徴とする前項1または前項2に記載の熱電変換素子。
4.焼成硬化させた時の膜厚が10〜20μmである前項3に記載の熱電変換素子。
5.絶縁体の上面に形成された第1の電極膜と、前記第1の電極膜の上面に互いに離隔して成膜されたp型及びn型熱電変換素子膜と、前記p型及びn型熱電変換素子膜の上面に形成された第2の電極膜とを有し、前記第1の電極膜と前記第2の電極のいずれか一方が前記p型及びn型熱電変換素子膜の間で離隔されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
6.絶縁体の上面に離隔して形成された複数個の第1の電極膜と、前記第1の電極膜の上面にp型とn型が交互に離隔して配置された複数個のp型及びn型熱電変換素子膜と、前記第1の電極膜の離隔位置をまたぐように前記p型熱電変換素子膜と前記n型熱電変換素子膜とを接続する第2の電極膜とを有し、端部に位置するp型及びn型熱電変換素子膜にそれぞれ端子電極膜が接続されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
7.前記第1の電極膜の離隔部分、及びこの離隔部分に臨む前記p型及びn型熱電変換素子膜の間にガラス膜が介在される前項6に記載の熱電変換モジュール。
8.前記p型及びn型熱電変換素子膜は、熱電変換材料の粉末に結着材を混合してペースト化したものを膜厚10〜20μmの薄膜状に硬化させた熱電変換素子膜である前項6または7に記載の熱電変換モジュール。
9.前記p型及びn型熱電変換素子膜は、熱電変換材料の粉末に結着材を混合してペースト化したものを膜厚10〜20μmの薄膜状に硬化させた熱電変換素子膜である前項8に記載の熱電変換モジュール。
10.絶縁体の上面に複数個の互いに離隔した第1の電極膜をスクリーン印刷により形成する工程と、
前記第1の電極膜の離隔部分にガラス膜を形成する工程と、
前記ガラス膜を挟んでp型及びn型熱電変換素子膜を前記第1の電極膜上にスクリーン印刷により形成する工程と、
前記ガラス膜をまたいで前記p型及びn型熱電変換素子膜の上面をスクリーン印刷により第2の電極膜で接続する工程と、
前記第2の電極膜で接続されていない端部位置の前記p型及びn型熱電変換素子膜に端子電極膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
背景技術及びその問題点の箇所で述べたように、従来技術においては、導電率を向上させるため、酸化物系の素子として、高圧処理した通常の焼結体(密度95%以上)か単結晶が用いられる(そのため熱伝導率も高くなる。)。これに対し本発明では、熱電材料の微粉末ペーストを焼成するため、粒子間の隙間が大きくなり、熱伝導率が低下する効果が得られる。本発明では、ペースト内に酸化物結着材を適量混合したペーストを利用し、さらに10〜20μmの厚みの層構造に制御したときのみ、導電率の急激な低下(30,000mΩcm→500mΩcm)が観察され、耐久性、同時焼成による一体成形以外に予期し得ない効果が達成される。
【0015】
本発明によれば、熱電変換素子として酸化物材料を用い、これを薄膜化したので、大気環境下での性能劣化が防止され、また素子内の温度差を大きくすることが可能である。従来のセラミック切り出しによるπ型ブロック結合に比べて、はるかに薄形であるため、熱による歪みが小さく、長期間安定した性能が得られる。さらに、スクリーン印刷により薄膜化するため、平面に限らず、曲面などの形状への印刷にも対応でき、製造コストも低減され、安価に大面積を利用した発電、数十度の温度差での発電も可能となる。
【0016】
本発明による薄膜型熱電変換モジュール及び熱電変換デバイスの適用例としては、工業用水冷設備における流入水(通常約60℃)と流出水(約15〜20℃)の温度差による発電、下水処理場等の処理水が温水となる排水に対する外気あるいは常温水との温度差による発電が挙げられる。
その他、焼却炉をはじめとする熱処理炉における排ガス設備(通常100°C以上)の部材表面部位に設置し、内部の排ガス温度と外気温との温度差による発電が可能である。さらに、熱媒体として空気、水、アンモニアなどを利用して地温と外気温との温度差で発電、建築構造物の外壁に設置し、外気温度と構造物温度との温度差を利用した発電、建物や温室ハウスのガラス部分の内外面に設置し、その室内温度と外気に触れるガラス面との温度差を利用した発電が可能である。さらには、バイオマスエネルギーとしての堆肥施設における、発酵温度と外気温、あるいは用水との温度差による発電も可能となるなど、多くの応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の1つの実施形態によれば、293〜1073Kの温度範囲において、熱起電力が20μV/K以上である熱電変換素子が提供される。
【0018】
また、本発明の他の実施形態によれば、293〜1073Kの温度範囲において、電気抵抗率が500mΩcm以下である熱電変換素子が提供される。
【0019】
また、本発明に係る熱電変換モジュールは、絶縁体の上面に形成された第1の電極膜と、前記第1の電極膜の上面に互いに離隔して成膜されたp型及びn型熱電変換素子膜と、前記p型及びn型熱電変換素子膜の上面に形成された第2の電極膜とを有し、前記第1の電極膜と前記第2の電極のいずれか一方が前記p型及びn型熱電変換素子膜の間で離隔されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の他の形態による熱電変換モジュールは、絶縁体の上面に離隔して形成された複数個の第1の電極膜と、前記第1の電極膜の上面にp型とn型が交互に離隔して配置された複数個のp型及びn型熱電変換素子膜と、前記第1の電極膜の離隔位置をまたぐように前記p型熱電変換素子膜と前記n型熱電変換素子膜とを接続する第2の電極膜とを有し、端部に位置するp型及びn型熱電変換素子膜にそれぞれ端子電極膜が接続されている。
【0021】
さらに、本発明によれば、絶縁体の上面に複数個の互いに離隔した第1の電極膜をスクリーン印刷により形成する工程と、前記第1の電極膜の離隔部分にガラス膜を形成する工程と、前記ガラス膜を挟んでp型及びn型熱電変換素子膜を前記第1の電極膜上にスクリーン印刷により形成する工程と、前記ガラス膜をまたいで前記p型及びn型熱電変換素子膜の上面をスクリーン印刷により第2の電極膜で接続する工程と、前記第2の電極膜で接続されていない端部位置の前記p型及びn型熱電変換素子膜に端子電極膜を形成する工程とを有する熱電変換モジュールの製造方法が提供される。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。
図1(A),(B)は、本発明の1実施形態に係る熱電変換モジュールの平面図及び側部断面図である。熱伝導率の比較的良好な窒化物や炭化珪素などを含む絶縁性セラミック板(1)の上面に第1の電極膜(2)が形成され、この電極膜(2)の上面に熱電変換素子となるp型熱電半導体素子膜(3)及びn型熱電半導体素子膜(4)が互いに離隔して形成されている。また、基板(1)の両端上面には、それぞれp型熱電半導体素子膜(3)及びn型熱電半導体素子膜(4)に隣接してガラス膜(5)が貼着され、さらに、p型熱電半導体素子膜(3)の上面からガラス膜(5)の上面にかけて、及びn型熱電半導体素子膜(4)の上面からガラス膜(5)の上面にかけて、第2の電極膜(6,7)が形成されている。各々のガラス膜(5)上の電極膜(6,7)は基板(1)に設けた端子電極(図示省略)に接続される。この構成により、基板下面側と第2の電極膜側との温度差により、端子電極間に起電力が生じる。
【0023】
図2(A),(B)は本発明の他の実施形態に係る熱電変換モジュールの平面図及び側部断面図である。図1の実施形態と同様な絶縁性基板(1)上に第1の電極膜(2,2)が互いに離隔して形成され、基板上面に接して、この電極膜(2,2)の離隔部分にガラス膜(5)が形成されている。そして、第1の電極膜(2,2)の上面に、熱電変換素子となるp型熱電半導体素子膜(3)及びn型熱電半導体素子膜(4)が形成されている。図示のように、これらのp型、n型熱電半導体素子膜(3,4)はその間に介在されるガラス膜(5)によって互いに離隔されている。さらに、ガラス膜(5)をまたぐようにしてp型熱電半導体素子膜(3)とn型熱電半導体素子膜(4)を接合する第2の電極膜(8)が形成されている。第1の電極膜(2)は、それぞれ基板(1)に設けられた端子電極(図示省略)に基板上で接続されて熱電変換モジュールが構成される。基板下面側と第2の電極膜側との間の温度差により、端子電極間に起電力が生じることは図1の実施形態と同様である。
【0024】
図1,図2の熱電変換モジュールは本発明の電極膜及びp型、n型熱電半導体素子膜の配置関係の基本形であり、この基本形だけの構成では発生する起電力は極めて微弱でり、実用上の点では不充分である。したがって、実際には図1あるいは図2の形態のものをそのまま複数個1列につなぎ、さらに、この1列につないだものを複数個平行に配置してこれらの端部を直列接続となるように接合して熱電変換デバイスとして構成する。
【0025】
図3(A),(B)は図1,図2の基本形の熱電変換モジュールを複数個直列につないだ場合の熱電変換モジュール(デバイス)の平面図及び側部断面図である。
【0026】
また、図4(A)〜(D)は図3に示す熱電変換モジュールの製造工程を示す図である。
図3(A),(B)を参照して、この実施形態の薄膜タイプ熱電変換モジュールを説明すれば、絶縁性セラミック基板(10)の上面に矩形状の3体の第1の電極膜(11,12,13)が形成され、また第1の電極膜(11,13)の外端部にそれぞれ断熱材となるガラス膜(14)が、さらに第1の電極膜(11,12)の離隔部分及び第1の電極膜(12,13)の離隔部分にそれぞれ同様のガラス膜(15)が、基板(10)に接して形成されている。
【0027】
第1の電極膜(11,13)の端部上面には、端部ガラス膜(14)に接して、それぞれp型熱電半導体素子膜(16)、n型熱電半導体素子膜(17)が形成され、さらに内側にある2つのガラス膜(15)に接して第1の電極膜(11,12,13)上にn型熱電半導体素子膜(18)及びp型熱電半導体素子膜(19)が形成されている。なお、これらのp型、n型熱電半導体素子膜(16,19)及び(17,18)は全体としてモジュールの一方から他方へ向ってp型とn型が交互に配列されるように形成される。
【0028】
ガラス膜(15)を挟むn型熱電半導体素子膜(18)とp型熱電半導体素子膜(19)とを橋絡するように、それぞれのガラス膜(15)をまたいで、第2の電極膜(20)が形成され、さらに、端部側のp型熱電半導体素子膜(16)及びn型熱電半導体素子膜(17)の上面に端部側電極膜(21)が形成される。この端部側電極膜(21)は基板(10)上に設けた端子電極に接続されている。なお、図示の例では、熱電変換モジュールの上面、すなわち第2の電極膜側は露出されているが、この面を適当な樹脂体や絶縁性ガラス体で覆うようにしてもよい。基板下面側と第2の電極膜側との間の温度差により、端子電極間に起電力が発生する。
【0029】
図1〜図3の実施形態においては、基板を除くモジュールの膜厚が1μm以上100μm以下の膜構造となっている。特に熱電半導体素子膜の膜厚は10〜20μm程度とするのが好ましい。熱電半導体素子の材質は、酸化物及び金属を有効成分として含むものが採用される。p型あるいはn型熱電変換材料としては、例えば、NaCO24、CaCo49、CaMnO3、TiO2、ZnO、SrTiO3やFe34等の酸化物系半導体材料が挙げられる。
【0030】
熱電変換材料の母材となる成分としては、p型あるいはn型熱電変換材料としては、例えば、NaCO24、CaCo49、CaMnO3、TiO2、ZnO、SrTiO3やFe34等であり、これらに導電経路となり得る金属、あるいは半導体セラミックを混合させることにより、熱的に励起された電荷を効率的に抽出できる。
【0031】
熱電半導体素子の粉末にスクリーン印刷用ペースト添加剤として添加される結着材は、金属酸化物または金属イオンを有効成分として含む高分子または溶剤が採用される。特に焼成時に酸化銅になるもの、例えば有機酸の銅塩、有機系のアルコキシド(Cu)、炭酸銅、硝酸銅が挙げられる。その他、CuO、Bi23、Cu2O、PbO、LiO、Fe23、Fe34等の金属酸化物の1種または2種以上のものが採用されてもよい。また、H3BO3、Na2CO3、Li−Bi−Si系低融点ガラスの1種または2種以上を用いてもよい。
【0032】
熱電半導体素子材料と結着材との割合は0.5〜50質量%であり、例えばCuOを結着材とした場合、熱電半導体素子材料に対してCuOを0.5〜50質量%、好ましくは5〜40質量%含む構成とするのが好ましい。
【0033】
また上記の第1、第2の電極膜の材質としては、酸素雰囲気下で焼成できるもの、例えばPt、Ag、Al等が用いられる。図1〜図3の実施形態では銀(Ag)が採用されている。
【0034】
基板としては、熱伝導が比較的良好な窒化物や炭化珪素等のセラミック基板、表面を絶縁処理した金属板、例えば、鉄の表面にアルミナや酸化ニッケルの拡散層を設けたもので、割れにくい材質のもの、高炉に酸素を吹き込んでアルミニウム合金の表面浸透を行ういわゆるカロライジング処理を施したもの、その他、セラミック薄板、セラミック管、あるいはガラス板、ガラス管なども採用可能である。
【実施例】
【0035】
次に、図4(A)〜(D)を参照して本発明の実施形態に係る熱電変換モジュールの製造工程を説明する。
【0036】
実施例として、まず、この実施形態で用いる熱電半導体素子の準備をした。p型材料として、以下のようにしてカルシウム・コバルト系酸化物熱電材料(Ca2.7La0.3Co49)を調製した。すなわち、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ランタン(La23)及び酸化コバルト(Co32)を所定の組成:Ca2.7La0.3Co49となるように秤量し、混合・プレス成形後、780℃で大気フロー(200ml/min)にて2時間仮焼成した。再度、粉砕・混合・プレス成形した後、800℃で大気フロー(200ml/min)にて3時間仮焼成した後、粉砕後、プレス成形・CIP(冷間等方圧加圧)成形(200MPa)し、870℃大気中にて10時間本焼成した。
また、n型材料として、以下のようにしてカルシウム・マンガン系酸化物熱電材料(Ca0.9La0.1MnO3)を調製した。すなわち、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ランタン(La23)及び酸化マンガン(MnO2)を所定の組成:Ca0.9La0.1MnO3となるように秤量し、混合・プレス成形後、800℃で大気フロー(200ml/min)にて1時間仮焼成した。次いでボールミルにて粉砕後、プレス成形・CIP成形(200MPa)し、1200℃大気中にて10時間本焼成した。
上記で合成したp、n型の酸化物半導体をボールミルにて18〜24時間粉砕して、粒径0.5〜3μmの微粉末を得た。
【0037】
この各熱電半導体粉末に結着材として金属酸化物、例えば酸化銅(CuO)、酸化ビスマス(Bi23)を熱電半導体に対し、0.5〜50質量%、好ましくは5〜40質量%の範囲で加える。また、樹脂、溶剤分として例えばエチルセルロース、α−テルピネオールを適量加え、混練しペースト状にする。
【0038】
次に、ある巾寸法をもつ長尺のアルミナ等セラミック基板(10)上に矩形状の第1の電極膜(11,12,13)を互いに長手方向に離隔して銀ペーストにて3面パターンスクリーン印刷、大気中で850°Cで焼成する(図4(A))。そして、この第1の電極膜(11〜13)の上に、前述したペースト状のp型熱電半導体素子とn型熱電半導体素子とを互いに離隔して、かつ前記p型とn型が交互に配列されるようにパターンスクリーン印刷する(図4(B))。この時の膜厚1〜100μmとし、必要により2回以上の重ね印刷としてもよい。この実施形態ではp型、n型熱電半導体素子膜(16〜19)がそれぞれ3体ずつ設けられ、図の左側から順にp型(左端)、n型、……p型、n型(右端)と交互に配置される。
【0039】
次いで、図4(C)に示すように、第1の電極膜(11)と(12)との間及び第1の電極膜(12)と(13)との間の離隔した部分に臨むn型とp型の熱電半導体素子膜(18,19)の間(2組)に断熱材としてのガラス膜(15)を印刷するとともに、端部(左端)のp型熱電半導体素子膜(16)に隣接してその外側、同様に端部(右側)のn型熱電半導体素子膜(17)に隣接してその外側にそれぞれ断熱層としてのガラス膜(14)を印刷する。続いて、両端のガラス膜(14)に被さるように両端のp型、n型熱電半導体素子膜(16,17)の上面に、また、内側2つのガラス膜(15)をそれぞれまたぐように、第1の電極膜の離隔部分に臨むn型、p型熱電半導体素子膜(18,19)をそれぞれ橋絡するように、第2の電極膜(21,20)をスクリーン印刷にて形成し、大気中で850℃で焼成する(図4(D))。両端に位置する第2の電極膜(21)はそれぞれ基板端部に這わせた端子電極に接合される。
【0040】
製造工程におけるスクリーン印刷後のペースト状の素材の焼成は、上述の如く各印刷毎に行っても良いし、また、すべてを印刷した後に行うか、あるいは任意の回数の印刷後に行うようにしてもよい。焼成方法としては、電気、ガス、燃料油などを熱源とする焼成炉、高周波による焼成などが採用される。なお、図4の実施形態では、基板(10)に形成される第1の電極膜(11〜13)を3体とし、p型、n型熱電半導体素子膜を6体としたが、基板(10)の長さ方向に沿ってさらに多くの電極膜及び熱電半導体素子膜を形成してもよいことは勿論である。
【0041】
上述の実施形態は、板状の基板上にスクリーン印刷によって各電極及び熱電素子を形成する例であるが、硬質基板の代わりに紙転写技術を用いて各構成素子を形成することもできる。
【0042】
図5(A)〜(C)は転写紙を用いて熱電変換モジュールを形成する実施態様を示したものである。
【0043】
この転写紙を用いた実施形態を以下に説明する。まず、図4の実施形態と同様に、合成されたp型の酸化物熱電半導体素子及びn型の酸化物熱電半導体素子をそれぞれボールミルなどで粉砕し粉末状にする。その粒径は0.1〜10μmであるが、好ましくは0.5〜3μmとするのがよい。この各熱電半導体素子粉末に結着材として金属酸化物、例えば酸化銅(CuO)、酸化ビスマス(Bi23)を熱電半導体に対し0.5〜50質量%、好ましくは5〜40質量%の範囲で加える。また、樹脂、溶剤分として例えばエチルセルロース、α−テルピネオールを適量加え、混練しペースト状にする。
【0044】
印刷紙としては、紙表面に水溶性樹脂コートを施したものを用いる。この水溶性樹脂コート紙(22)に、図5(A)に示すように、第1の電極膜(23)を形成し、その上にペースト状にしたp型熱電半導体素子とn型熱電半導体素子をスクリーン印刷により、図4の実施形態と同様に膜状に形成する。膜厚は1μm〜100μmとし、2回以上の重ね印刷を行ってもよい。また、図3及び図4でも説明したように、互いに離隔したn型熱電半導体素子膜(18)とp型熱電半導体素子膜(19)との間に、かつ樹脂コート紙(22)上に断熱層としてガラスペーストをスクリーン印刷し、続いて各ガラス膜(15)をまたいでn型、p型熱電半導体素子膜(18,19)を橋絡するように第2の電極膜(20)を印刷し、その上に樹脂コート(24)を形成する。
【0045】
このようにして転写紙に担持された積層体を水に浸積する。これによって水溶性樹脂が溶け、下側の転写紙(22)がフィルム状に剥がれる(図5(B))。この状態で残った積層体(25)を焼き付けたい対象物(26)の表面に貼り付けた後、焼付け温度700℃〜900℃で焼成し、図5(C)の如く外側の樹脂コートを除去する。この薄膜状の積層体(25)は対象物の平坦面部分に限らず、曲面箇所にも貼り付けることができ、したがって管状物の内、外面、あるいは、例えば車輛等の車体のわん曲面など任意の表面に付着させて用いることができる。
【0046】
上述した帯状の熱電変換モジュールを複数個平面状に配置し、それぞれの端子電極を直列に接続して平面体熱電変換デバイスとして構成することができる。
図6はこの場合の実施形態を示す平面図である。基板(31)上に、各列(横列)に3個のp型熱電半導体素子膜(27)と3個のn型熱電半導体素子膜(28)からなる熱電変換モジュール(30)を行方向に8体平行に配置し、1列目の端部に位置するp型熱電半導体素子膜(27)と2列目の端部に位置するn型熱電半導体素子膜(28)とを電極膜を介して接続し、同様に2列目の反対側端部に位置するp型熱電半導体素子膜(27)と3列目の端部に位置するn型熱電半導体素子膜(28)とを電極膜を介して接続し、以下このようにして各列のp型熱電半導体素子膜とn型熱電半導体素子膜とを各列の間で直列に接続し、また1列目の反対側端部に位置するn型熱電半導体素子膜(28)及び最後の行の熱電変換モジュールのp型熱電半導体素子膜(27)を基板(31)の端部で一対の端子電極(32,33)に接続する。
【0047】
上述のように平面基板に複数個の熱電変換モジュールを設けた平面体熱電変換デバイスを複数枚積層して各層どおしの端子電極を直列に接続してさらに大きな容量の立体型熱電変換デバイスとして構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の1実施形態に係る熱電変換モジュールの平面図(A)及び側部断面図(B)である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る熱電変換モジュールの平面図(A)及び側部断面図(B)である。
【図3】図1、図2の基本形の熱電変換モジュールを複数個直列につないだ場合の本発明の他の実施形態に係る熱電変換モジュール(デバイス)の平面図及び側部断面図である。
【図4】図3に示す熱電変換モジュールの製造工程を示す図である。
【図5】(A)〜(C)は、HA転写紙を用いて形成した熱電変換モジュールの製造工程を示す図である。
【図6】(A)〜(D)帯状の熱電変換モジュールを複数個平面状に配置して平面体熱電変換デバイスを構成した平面図である。
【符号の説明】
【0049】
1,10,31 (絶縁性セラミック)基板
2,11,12,13,20 第1の電極膜
3,16,19,27 p型熱電半導体素子膜
4,17,18,28 n型熱電半導体素子膜
5,14,15 ガラス膜
6,7,8,20,21,23 第2の電極膜
22 水溶性樹脂コート紙(転写紙)
24 樹脂コート
25 積層体
30 熱電変換モジュール
32,33 端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換材料の粉末に結着材を混合してペースト化したものを電極上面に薄膜状に硬化させたことを特徴とする熱電変換素子。
【請求項2】
前記熱電変換材料が、合成された酸化物熱電半導体であり、前記酸化物熱電半導体の粉末の粒径を0.1〜10μmとし、前記酸化物熱電半導体の粉末に金属酸化物を結着材として前記熱電半導体に対し0.5〜50質量%の割合で加えて混合し、ペースト化したものを電極上面に薄膜状に硬化させた請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
焼成硬化させた時の膜厚が1〜100μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
焼成硬化させた時の膜厚が10〜20μmである請求項3に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
絶縁体の上面に形成された第1の電極膜と、前記第1の電極膜の上面に互いに離隔して成膜されたp型及びn型熱電変換素子膜と、前記p型及びn型熱電変換素子膜の上面に形成された第2の電極膜とを有し、前記第1の電極膜と前記第2の電極のいずれか一方が前記p型及びn型熱電変換素子膜の間で離隔されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項6】
絶縁体の上面に離隔して形成された複数個の第1の電極膜と、前記第1の電極膜の上面にp型とn型が交互に離隔して配置された複数個のp型及びn型熱電変換素子膜と、前記第1の電極膜の離隔位置をまたぐように前記p型熱電変換素子膜と前記n型熱電変換素子膜とを接続する第2の電極膜とを有し、端部に位置するp型及びn型熱電変換素子膜にそれぞれ端子電極膜が接続されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記第1の電極膜の離隔部分、及びこの離隔部分に臨む前記p型及びn型熱電変換素子膜の間にガラス膜が介在される請求項6に記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
前記p型及びn型熱電変換素子膜は、熱電変換材料の粉末に結着材を混合してペースト化したものを膜厚1〜100μmの薄膜状に硬化させた熱電変換素子膜である請求項6または7に記載の熱電変換モジュール。
【請求項9】
前記p型及びn型熱電変換素子膜は、熱電変換材料の粉末に結着材を混合してペースト化したものを膜厚10〜20μmの薄膜状に硬化させた熱電変換素子膜である請求項8に記載の熱電変換モジュール。
【請求項10】
絶縁体の上面に複数個の互いに離隔した第1の電極膜をスクリーン印刷により形成する工程と、
前記第1の電極膜の離隔部分にガラス膜を形成する工程と、
前記ガラス膜を挟んでp型及びn型熱電変換素子膜を前記第1の電極膜上にスクリーン印刷により形成する工程と、
前記ガラス膜をまたいで前記p型及びn型熱電変換素子膜の上面をスクリーン印刷により第2の電極膜で接続する工程と、
前記第2の電極膜で接続されていない端部位置の前記p型及びn型熱電変換素子膜に端子電極膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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