熱電変換素子
【課題】従来の酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体と比較して、より高い熱電変換特性を発揮すると共に、高い耐熱性を有する酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体(n型熱電変換素子)を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛を主成分とする基部11の表面を、基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、金属酸化物からなる被膜部12で覆っており、該金属酸化物を周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物とする。
【解決手段】酸化亜鉛を主成分とする基部11の表面を、基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、金属酸化物からなる被膜部12で覆っており、該金属酸化物を周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに用いられる金属酸化物系の熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の金属化合物系の熱電変換モジュールで問題となっていた高温耐久性・有毒性を解決する技術として、金属酸化物を用いた熱電変換モジュールが提案され、その研究が急速に進展している。通常、熱電変換素子の特性は、単位温度差あたりの熱起電力であるゼーベック係数α(μV・K−1)、導電率σ(S・cm−1)、および熱伝導率κ(W・m−1・K−1)を用いたいくつかの特性因子によって表される。その一つとして、α2σで表される熱電出力因子があり、さらに、熱電出力因子を熱伝導率で除した性能指数Z(=α2σ/κ)、そして、性能指数Zに絶対温度Tを乗じた無次元性能指数ZTが性能指標として用いられる。一般的に、これらの値が大きいほど熱電特性が優れていることになる。
【0003】
ここで、熱電変換モジュールは通常2種類の金属または半導体を組み合わせることにより作製されるが、高効率に発電するために、キャリアが正孔であるp型半導体と、電子がキャリアとなるn型半導体の組合せることが求められる。現状の酸化物半導体においては、p型NaCo2O4多結晶体では約0.7、n型AlドープZnOでは約0.3程度のZTが報告されている。近年は、実用化に向けて、n型材料の特性向上が活発に研究されており、酸化亜鉛ZnOを主成分とする材料系は、有力な候補材料として知られている。
【0004】
従来、高い熱電物性を発揮するn型酸化物半導体として、アルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(Al−ZnO)が知られている(特許文献1)。しかしながら、Al−ZnOでは、デバイ温度が高く、音響フォノンの速度が速いことに起因して、熱伝導率が非常に高いことが、更なるZTの向上を妨げる要因となっている。これまでにAl−ZnOをベースとした材料の熱伝導率を低下させるため、AlとともにMgやNiをZnOに固溶させる等の検討がなされている(非特許文献1)。さらに、Al−ZnOをベースとして、Laをドープした系(特許文献2)、Ceをドープした系(特許文献3)についても報告がある。
【0005】
また、イットリウム(Y)をドープしたZnO焼結体も検討されている(特許文献4)。また同様にプラセオジミウム(Pr)をドープした酸化亜鉛焼結体も検討されている(非特許文献2)。
【0006】
さらに、本発明者らは、Al−ZnOをベースとして、Yをドープした系(特許文献5)において、0.41のZTを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−132380号公報
【特許文献2】特開2001−284661号公報
【特許文献3】特開2006−347861号公報
【特許文献4】特開昭62−179781号公報
【特許文献5】WO2010/079841号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Mater. Chem., 1998, 8(2), 409-412
【非特許文献2】J. Mater. Sic (2008) 43:368-377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の提案にもかかわらず、十分な熱電特性を有するn型酸化物半導体(n型熱電変換素子)への希求が依然として存在している。
一方で、高い熱電特性を有する酸化亜鉛を主成分とする材料系は、従来の金属材料系と比較して高い耐熱性を有しているため、高温用途への応用が期待されているが、現在までに高温環境下での十分な評価がなされてこなかった。本発明者らは、高い耐熱性を有する酸化亜鉛を主成分とする材料系であっても、連続的に加熱をする、すなわち長期間に亘って例えば500℃を超える高温状態に晒した場合、熱電特性が徐々に劣化するという新たな課題を見出した。
本発明は、従来の酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体と比較して、より高い熱電変換特性を発揮する酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体(n型熱電変換素子)を提供しようとするものである。さらに、本発明は上記新たな課題に着目し、長期間高温に晒したとしても熱電性能の劣化を抑制することが可能な酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体(n型熱電変換素子)を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、酸化亜鉛を主成分とする基部からなる熱電変換素子において、該基部の表面を、該基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、金属酸化物からなる被膜部で覆っており、該金属酸化物は、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物の被膜部とした。
このように構成された熱電変換素子において、酸化亜鉛を主成分とする基部の表面を、該基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物の被膜部で覆ったので、初期の熱電性能を向上させることが可能となった。さらに、連続的に高温状態に晒された場合においても熱電性能の劣化を大幅に抑制することが可能となり、初期の高い熱電特性を長期間に亘って持続することが可能となった。
【0011】
本発明による熱電変換素子がこのような高い熱電特性を有する理由は定かではないが、次のように予想される。但し、以下の理論はあくまで予想であって、本発明はこの理論に限定されるものではない。
酸化亜鉛を主成分とする材料系は、ドーパントによる電子キャリアのドープ、あるいは格子間亜鉛の存在による金属過剰や、酸素欠陥の存在する金属:酸素の不定比性により、大量の自由電子を有している。しかしながら、大気中かつ高温状態に長時間晒されると、基部表面から再酸化されると考えられる。この再酸化によって上述の過剰電子が酸化され、また酸素欠陥が再酸化することで自由電子が減少して導電率が低下することが初期からの性能低下につながっていると考えられる。
一方本発明では、酸化亜鉛を主成分とする基部に、化数が4価、5価、6価の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属の金属酸化物の被膜部を形成する際に、該金属酸化物の被膜部に含まれる該金属元素の一部が基部と若干の反応を生じ、基部への金属酸化物の被膜部に含まれる該金属元素のドーピングが起こったと考えられる。それにより、電子状態密度の変化が生じてゼーベック係数が向上し、これによって高い熱電特性が発現していると考えられる。
【0012】
また、被膜部を構成する金属酸化物として、基部を構成する主成分である酸化亜鉛との反応性が低いものを選択している。具体的には価数が4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素の酸化物で被膜部を構成するように工夫している。具体的には酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タングステン(WO2)、三酸化タングステン(WO3)、酸化モリブデン(MoO2、MoO3)、酸化バナジウム(V2O3)、酸化ゲルマニウム(GeO2)を好適に用いることができる。
これらの金属元素は、いずれも、4価、5価、6価で安定に存在するため、基部を構成する主成分である酸化亜鉛と反応してZn2+M3+2O4型スピネルを生成することがない。つまり、被膜部と基部との間で反応が生じないため、被膜部を設けたことによる熱電特性の低下を防ぐことが可能となる。
本発明の被膜部を構成する金属酸化物の熱伝導率は、基部を構成する主成分である酸化亜鉛のそれよりも小さい。それによって、基部における高温側と低温側での温度差を損なうことを防止でき、被膜部を設けることによる熱電特性の低下を抑制できる。
【0013】
さらに、被膜部により、酸化亜鉛を主成分とする基部は大気と直接接することが抑制されるため、長期間高温に晒された場合においても再酸化による性能低下を抑制することが可能となる。
【0014】
本発明において、好ましくは、被膜部を構成する金属酸化物が、TiO2あるいはZrO2から選ばれる一種である。
このように構成された熱電変換素子において、金属酸化物をTiO2あるいはZrO2としたので、基部を構成する主成分であるZnOとの反応性が特に低く、さらにZnOと一部反応が起こっても、ZnOと同程度の導電性を有する安定な半導体を形成し、自由電子の大幅な減少を抑制可能である。
【0015】
本発明において、好ましくは、酸化亜鉛を主成分とする基部が、Zn(1−x−y)AlxMyO (式中、Znは亜鉛であり、Alはアルミニウムであり、MはZn及びAl以外の金属元素であり、x>0であり、y≧0であり、x+y<0.1である)で表される材料で構成されている。
このように構成された熱電変換素子において、基部の組成をZn(1−x−y)AlxMyOとしたので、熱電特性をより向上させることが可能となる。
【0016】
本発明において、好ましくは、基部は、電極を接続して熱電変換モジュールを構成するための陽極接続部及び陰極接続部を備え、陽極接続部および前記陰極接続部以外の、大気と接触する各面に該被膜部が形成される。
このように構成された熱電変換素子において、陽極接続部および前記陰極接続部以外の、大気と接触する各面に該被膜部を形成したので、基部の再酸化を非常に効果的に抑制することが可能となる。
【0017】
本発明においては、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子とを電極により接続した熱電変換モジュールであって、n型熱電変換素子として本発明の熱電変換素子とした熱電変換モジュールが提供される。
このように構成された熱電変換モジュールはn型熱電変換素子として本発明の熱電変換素子を用いたので、長期間に亘り高い性能を発揮することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による熱電変換素子は、高い熱電変換特性を長期間に亘り発現できる。したがって、高効率な熱電変換モジュールへの適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態における熱電変換素子の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における熱電変換モジュールの構成を示す模式図である。
【図3】623℃における各試料の導電率を示すグラフである。
【図4】973℃における各試料の導電率を示すグラフである。
【図5】623℃における各試料のゼーベック係数を示すグラフである。
【図6】973℃における各試料のゼーベック係数を示すグラフである。
【図7】623℃における各試料の出力因子および性能維持率を示すグラフである。
【図8】973℃における各試料の出力因子および性能維持率を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例1で作製した素子被膜部の表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例2で作製した素子被膜部の表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例2で作製した素子被膜部の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
熱電変換素子
図1は本発明の熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。本発明による熱電変換素
子1は、酸化亜鉛を主成分とする基部11の表面に、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物の被膜部12が形成されているものである。
【0021】
図2は本発明の熱電変換モジュールを模式的に示した側面図である。本発明の熱電変換モジュール2は、n型熱電変換素子21とp型熱電変換素子22とが電極22を介して電気的に交互に接続されて構成されるものである。
【0022】
本発明の熱電変換素子1は、図2の熱電変換モジュールで電極22と接合しているn型熱電変換素子21である。本発明の熱電変換素子1は、基部の一部のみに被膜部を形成した場合であっても、初期の熱電特性を向上させたり長期的な熱電特性の低下を抑制したりすることは可能であるが、電極22と接合している面以外の、大気と接触する各面に、該金属酸化物の被膜部を設置することがより好ましい。それによって、高温で大気暴露される環境においても、大気酸素によるn型熱電変換素子の表面からの酸化を効果的に抑制でき、素子内部に存在する自由電子の減少を妨げることから、素子の高い導電性を長期間にわたり維持することが可能となる。
【0023】
本発明における被膜部としては、基部と大気との接触を防ぐとともに、酸化亜鉛を主成分とする基部に対する高温での反応性が低く、熱伝導率が低いものが好ましく、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物を用いることができる。好ましくはTiO2、ZrO2から選ばれる一種を好適に用いることができる。これらの金属酸化物を用いることで、基部を構成する主成分であるZnOとの反応性が特に低く、さらにZnOと一部反応が起こっても、ZnOと同程度の導電性を有する安定な半導体を形成し、自由電子の大幅な減少を抑制することで可能となる。
【0024】
また、本発明における酸化亜鉛を主成分とする基部としては、式(I):Zn(1−x−y)AlxMyOで表される亜鉛酸化物を主成分とする材料を好適に用いることができる。ここで、Znは亜鉛であり、Alはアルミニウムであり、Mは亜鉛及びアルミニウム以外の金属元素であり、x>0であり、y≧0である。本発明における熱電変換素子に適用可能なMの種類としては、ZnOに固溶することにより熱伝導率の低減が可能なフォノン散乱中心として機能することが期待できる元素であればよく、具体的には、Mg、Ca、B、Ga、In、Ni、Co、Cu、Ti、Zr、Sn、Si、Ge、Sc、Y、ランタノイド元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、導電率の低下を引き起こさずに熱伝導率のみを低減可能な元素として、より好ましくは、Ga、In、Cu、Ti、Zr、Y、La、Ceから選ばれる一種であり、最も好ましくは、Y、La、Ceから選ばれる1種である。
また、ZnとAlとMとの合計モル量に対するAlとMとの合計モル量の比率(すなわち式(I)のx+y)は0.10より小さいことが好ましい。
【0025】
熱電変換素子の製造方法
本発明による熱電変換素子は、そのモジュール形態に合わせて、薄膜状、厚膜状やバルク成型体のいずれもの形態を取ることが可能であるが、好ましい実用的な熱電素子の形状としてはバルク成型体である。
【0026】
本発明の熱電変換素子のバルク成型体の形状は、熱電変換素子のモジュール化に最も好ましく要求されるものである。バルク成型体を作成するためには、従来のセラミック成型プロセスを利用することができ、例えば、原料として市販の酸化物粉末を用いて作成することができる。本発明の好ましい態様によれば、酸化亜鉛(ZnO)粉末、酸化アルミニウム(Al2O3)粉末、及び更にドーピングの為の他の金属酸化物(MOx)粉末、を乾式もしくは湿式ミリングにより混合し、成型した後、所定温度で成型体を焼結処理することで、バルク成型体の作成が可能である(以下、本明細書においてこの方法を「固相法」と呼ぶことがある)。また上記粉末を予め所定温度以上で焼成して、酸化亜鉛中に希土類金属やアルミニウムが十分固溶した後に、成型処理し、焼結処理することで、作成することも可能である。また、亜鉛、アルミニウム、およびドーピング金属の硝酸塩、水酸化物塩、または塩化物塩等を水に溶解し、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、ドーピング金属イオンを含んでなる水溶液から酸化物前駆体を生成し、この前駆体を焼成することで酸化物とし、これを焼成、加工処理することを含んでなる、金属酸化物を得ることのできる公知または一般的な手法を用いることも可能である(以下、本明細書においてこの方法を「湿式反応法」と呼ぶことがある)。ここで、酸化物前駆体を得るための手法としては、共沈法、均一沈殿法、クエン酸法、錯体重合法などを挙げることができる。この方法によって得られた熱電変換材料からなる基部にあっては、アルミニウムおよびドーピング金属が、酸化亜鉛の粒内に入り込んで存在するため、すなわち酸化亜鉛の結晶格子中または結晶格子間に存在する構造であるため、より高い熱電特性が実現できているものと考えられる。より具体的には、ZnO粒子中に、ZnAl2O4の組成の微粒子が生成しており、このZnOとは異なる組成の微粒子が電子の移動のしやすさを維持し(つまり高い伝導率)、他方、この微粒子が熱を反射することで熱伝導率を低下させているものと考えられる。
その結果、良好な熱電特性が得られているものと考えられる。
【0027】
成型方法としては、乾式成型法、湿式成型法のいずれも好適に用いることができる。乾式成型法としては、例えば、一軸プレス成型法、ホットプレス法、ホットフォージ法、等が挙げられる。湿式成型法としては、例えば、射出成型法、鋳込成型法、押出し成型法、加圧成型法、遠心成型法、等が挙げられる。また上記成型方法により成型した成型体の充填密度を向上させるために、静水圧プレス(CIP)処理を行っても良い。
【0028】
本発明において、酸化亜鉛を主成分とする基部を製造するための焼成温度は、ZnOが焼結し、さらにドーパントがZnO結晶格子中に固溶する温度であれば良く、1000〜1500℃が好ましい。また、焼結性を向上させるために、スパークプラズマ焼結(SPS)法等を利用しても良い。更に、本発明の熱電変換材料からなる基部の導電性を向上させるため、窒素等の不活性ガス中で焼成しても良い。この方法によれば、酸素欠陥の増加により、導電性が大きく向上することが期待できる。
【0029】
本発明にかかる金属酸化物の被膜部の作製方法
本発明における基部表面に形成される金属酸化物の被膜の作製方法としては、金属を含む前駆体モノマーを塗布・焼成して酸化物膜を形成するゾル-ゲル法や、金属酸化物微粒子を分散させたコーティング液を塗布・焼成して焼き付けるコロイド塗布法(あるいはスラリーコート法)等の湿式プロセスや、スパッタリング法、PVD法、蒸着法、CVD法、溶射法、コールドスプレー法、エアロゾルポジション法等の、乾式プロセスを用いることができる。この中でも、湿式プロセスを用いた製膜は、コスト面・加工性の面から好適に用いることができる。ゾルーゲル法による製膜の場合、金属モノマーである前駆体として、アルコキシド、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等が好適を用いることができ、加水分解抑制の為に、アセチルアセトンやアセト酢酸エチル等のジケトン等の錯化剤が付与されていても良い。また、コロイド塗布法を用いて製膜する場合は、金属酸化物微粒子の一次粒子径としては、製膜性及び焼成後の緻密化を考慮すると、好ましくは、2nm〜1μmである。
【0030】
また、該金属酸化物の被膜部を焼成により焼き付ける場合、焼成温度としては、酸化亜鉛を主成分とする基部との密着性を確保することと、発電時の雰囲気温度よりも高温であることが必要であるため、500〜1200℃が好ましい。
【0031】
本発明の酸化物の被膜部の空隙率は、特に限定しないが、より小さい空隙率の膜であると、大気酸素の素子表面への侵入を抑制できることから望ましい。好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0032】
また、本発明における金属酸化物の被膜部の膜厚としては、特に制限はないが、酸化亜鉛素子と高温大気の反応による酸化反応を抑制できる膜厚として、10nm〜100μmの範囲に設定することが好ましい。
【0033】
なお、本発明における金属酸化物を構成する金属元素としては、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物を用いることができる。具体的には、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タングステン(WO2)、三酸化タングステン(WO3)、酸化モリブデン(MoO2、MoO3)、酸化バナジウム(V2O3)、酸化ゲルマニウム(GeO2)が挙げられる。
これらの金属元素を含む酸化物は基部を構成する主成分であるZnOとの高温での反応性が低く、またZnOに比べて熱伝導率が低いため、基部において高温側と低温側での温度差がつきやすく、熱電変換素子から出力を取り出せることから、好適に用いることができる。より好ましくは、ZnOとの反応性が特に低く、さらにZnOと一部反応が起こっても、ZnOと同程度の導電性を有する安定な半導体を形成し、自由電子の大幅な減少が抑制可能である金属酸化物として、TiO2、ZrO2を好適に用いることができる。
【0034】
本発明における熱電変換素子の熱電変換特性は、熱電特性測定装置(例えば、オザワ科学製“RZ2001i”)で測定することが可能である。各温度域(例えば、0〜1000℃)で、サンプル両端に温度差をつけた際の導電率(σ)やゼーベック係数(α)の測定が可能となり、これにより熱電出力因子(α2σ)を求めることができる。
【0035】
またレーザーフラッシュ熱物性測定装置(例えば、京都電子工業製、“LFA−502”)により、熱伝導率κを求めることができる。測定サンプルの表面に、エネルギー密度が均一なレーザービームをパルス状に照射し均一に加熱すると、その熱がサンプルの裏面に拡散する時間と温度変化を検出することにより熱拡散率が分かり、これとサンプル密度から、熱伝導率を求めることができる。以上の測定により、種々の温度域における導電率、ゼーベック係数、熱伝導率から、ZT(=α2σ/κ)を求めることができる。
【0036】
また、導電率測定装置(例えば、三菱化学製“ロレスタGP”)を用いて、室温の導電率を求めることができる。
【0037】
さらに、本発明の別の態様によれば、前述の「固相法」において、酸化亜鉛粉末として、その一次粒径が0.5μm以上5μm以下のものを用いる。このような粒径の粒子を用いることで、より導電性および熱電物性の高い熱電変換素子を得ることができる。さらに酸化アルミニウム粉末およびドーピング金属酸化物粉末についても、その一次粒径が100nm以下のものを用いることが好ましい。これにより、より導電性および熱電物性の高い熱電変換素子を得ることができる。この方法によって得られた熱電変換素子にあっては、アルミニウムおよびドーピング金属が、酸化亜鉛の粒内に入り込んで存在するため、すなわち酸化亜鉛の結晶格子中または結晶格子間に存在する構造であるため、より高い熱電特性が実現できているものと考えられる。
【実施例】
【0038】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
乾式混合法によるイットリウム及びアルミニウムを含む酸化亜鉛を主成分とする基部の作製
酸化亜鉛粉末(高純度化学研究所製、粒径約1μm)、酸化アルミニウム粉末(γ-Al2O3、大明化学工業製、粒径約10nm)及び酸化イットリウム粉末(Y2O3:信越化学製、粒径約30nm)を用意した。これらの原料をZn:Y:Al=95:2:3のモル比になるように秤量した後、ポリエチレン製ボトルに投入し、ナイロン被覆した鉄球ボールを加え、乾式ボールミル処理を15時間行った。金属メッシュふるいにより粉末を分取した後、一軸プレス成型機でプレス処理し、さらに静水圧プレス(CIP)処理することにより、直径約25mmで厚み約7mmの円盤状ペレットを作製した。この円盤状ペレットを、大気中で1400℃で約10時間焼成することにより焼結させることで、イットリウム及びアルミニウムをドープした酸化亜鉛を主成分とする基部を作製した。
【0040】
酸化亜鉛を主成分とする基部の表面へのTiO2被膜の形成
得られた酸化亜鉛を主成分とする基部を約5mm×約5mm×約15mmの角柱状に切出した。電極接合面である長軸側の両端面(約5mm×約5mmの面)にメンディングテープを張り付けてマスキングした。そして、短軸側の4つの側面(約5mm×約15mmの面)に、アセチルアセトンで錯化したチタンアルコキシド溶液(NDH−510C、日本曹達製)をチタン前駆体含有率が1wt%になるように酢酸エチルで希釈した溶液を、フローコートで塗布した後、メンディングテープを外し、80℃で30分乾燥させ、次いで1000℃で10分焼成することで、酸化亜鉛を主成分とする基部の表面にTiO2被膜を形成して実施例1の熱電変換素子を得た。
【0041】
酸化亜鉛を主成分とする基部の表面へのZrO2被膜の形成
得られた酸化亜鉛を主成分とする基部を約5mm×約5mm×約15mmの角柱状に切出した。電極接合面である長軸側の両端面(約5mm×約5mmの面)にメンディングテープを張り付けてマスキングした。そして、短軸側の4つの側面(約5mm×約15mmの面)に、アセチルアセトンで錯化したジルコニウムアルコキシド溶液(オルガチックスZC−540、マツモトファインケミカル製)をジルコニウム前駆体含有率が1wt%になるように酢酸エチルで希釈した溶液を、フローコートで塗布した後、メンディングテープを外し、80℃で30分乾燥させ、次いで1000℃で10分焼成することで、酸化亜鉛を主成分とする基部の表面にZrO2被膜を形成して実施例2の熱電変換素子を得た。
【0042】
被膜部を形成する前の酸化亜鉛を主成分とする基部を約5mm×約5mm×約15mmの角柱状に切出して、比較例の熱電変換素子を得た。
【0043】
評価1:熱電物性測定
上記で作製した実施例1、2、および比較例のサンプルについて、熱電物性測定装置(オザワ科学製、“RZ2001i”)を用いて、各温度域(例えば、0〜1000℃)におけるサンプル両端に温度差をつけた際の導電率(σ)及びゼーベック係数(α)の測定を行い、この際の出力因子(=α2σ)の値を初期出力因子(PF1)とした。
更に、加熱試験として、マッフル炉にて、上記サンプルを1000℃で100時間保持した後、再度熱電物性測定を行い、この際の出力因子の値を、加熱試験後の出力因子(PF2)とした。
また、加熱試験前後における性能維持率を、PF2/PF1として算出した。
【0044】
623℃及び973℃における各出力因子の値を表1〜6に示す。
表1および図3には623℃における各試料の初期導電率EC1および加熱試験後の導電率EC2を示す。導電率であるEC1およびEC2はそれぞれ値が小さいほど好ましい。
【0045】
【表1】
【0046】
表2および図4には973℃における各試料の初期導電率EC1および加熱試験後の導電率EC2を示す。導電率であるEC1およびEC2はそれぞれ値が小さいほど熱電特性が高いことを示している。
【0047】
【表2】
【0048】
表3および図5には623℃における各試料の初期ゼーベック係数SC1および加熱試験後のゼーベック係数SC2を示す。ゼーベック係数であるSC1およびSC2はそれぞれ値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0049】
【表3】
【0050】
表4および図6には973℃における各試料の初期ゼーベック係数SC1および加熱試験後のゼーベック係数SC2を示す。ゼーベック係数であるSC1およびSC2はそれぞれ値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0051】
【表4】
【0052】
表5および図7には623℃における各試料の初期出力因子PF1、加熱試験後の出力因子PF2、および加熱試験後の出力因子PF2を初期出力因子PF1で除した性能維持率PF2/PF1を示す。出力因子であるPF1およびPF2および性能維持率PF2/PF1はいずれも値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0053】
【表5】
【0054】
表6および図8には973℃における各試料の初期出力因子PF1、加熱試験後の出力因子PF2、および加熱試験後の出力因子PF2を初期出力因子PF1で除した性能維持率PF2/PF1を示す。出力因子であるPF1およびPF2および性能維持率PF2/PF1はいずれも値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0055】
【表6】
【0056】
表1〜6及び図3〜図8の結果より、TiO2及びZrO2で被覆したサンプルは、コートしないサンプルに比べて、加熱試験前後とも出力因子PFの値が高いことが分かった。また、性能維持率PF2/PF1もコートしないサンプルよりもTiO2及びZrO2で被覆したサンプルのほうが高いことが分かった。
【0057】
図9及び図10に、日立製作所製走査型電子顕微鏡S−800による、実施例1及び2で作製した素子被膜部の表面を観察した写真を示す。図9では、TiO2粒子と見られる200〜400nmの微粒子、図10では、ZrO2粒子と見られる100〜200nmの微粒子から、それぞれなる緻密な被膜が形成されており、基部となる酸化亜鉛素子表面が完全に覆われていることが分かる。
【0058】
図11に、日立製作所製走査型電子顕微鏡S−800による、実施例2で作成した素子被膜部の断面構造を観察した写真を示す。写真中、矢印の部分が被膜部に相当する。図11より、ZrO2からなる被膜部の膜厚は、約400nmであった。
【符号の説明】
【0059】
1 熱電変換素子
11 基部
12 被膜部
2 熱電変換モジュール
21 n型熱電変換素子
22 p型熱電変換素子
23 電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに用いられる金属酸化物系の熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の金属化合物系の熱電変換モジュールで問題となっていた高温耐久性・有毒性を解決する技術として、金属酸化物を用いた熱電変換モジュールが提案され、その研究が急速に進展している。通常、熱電変換素子の特性は、単位温度差あたりの熱起電力であるゼーベック係数α(μV・K−1)、導電率σ(S・cm−1)、および熱伝導率κ(W・m−1・K−1)を用いたいくつかの特性因子によって表される。その一つとして、α2σで表される熱電出力因子があり、さらに、熱電出力因子を熱伝導率で除した性能指数Z(=α2σ/κ)、そして、性能指数Zに絶対温度Tを乗じた無次元性能指数ZTが性能指標として用いられる。一般的に、これらの値が大きいほど熱電特性が優れていることになる。
【0003】
ここで、熱電変換モジュールは通常2種類の金属または半導体を組み合わせることにより作製されるが、高効率に発電するために、キャリアが正孔であるp型半導体と、電子がキャリアとなるn型半導体の組合せることが求められる。現状の酸化物半導体においては、p型NaCo2O4多結晶体では約0.7、n型AlドープZnOでは約0.3程度のZTが報告されている。近年は、実用化に向けて、n型材料の特性向上が活発に研究されており、酸化亜鉛ZnOを主成分とする材料系は、有力な候補材料として知られている。
【0004】
従来、高い熱電物性を発揮するn型酸化物半導体として、アルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(Al−ZnO)が知られている(特許文献1)。しかしながら、Al−ZnOでは、デバイ温度が高く、音響フォノンの速度が速いことに起因して、熱伝導率が非常に高いことが、更なるZTの向上を妨げる要因となっている。これまでにAl−ZnOをベースとした材料の熱伝導率を低下させるため、AlとともにMgやNiをZnOに固溶させる等の検討がなされている(非特許文献1)。さらに、Al−ZnOをベースとして、Laをドープした系(特許文献2)、Ceをドープした系(特許文献3)についても報告がある。
【0005】
また、イットリウム(Y)をドープしたZnO焼結体も検討されている(特許文献4)。また同様にプラセオジミウム(Pr)をドープした酸化亜鉛焼結体も検討されている(非特許文献2)。
【0006】
さらに、本発明者らは、Al−ZnOをベースとして、Yをドープした系(特許文献5)において、0.41のZTを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−132380号公報
【特許文献2】特開2001−284661号公報
【特許文献3】特開2006−347861号公報
【特許文献4】特開昭62−179781号公報
【特許文献5】WO2010/079841号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Mater. Chem., 1998, 8(2), 409-412
【非特許文献2】J. Mater. Sic (2008) 43:368-377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の提案にもかかわらず、十分な熱電特性を有するn型酸化物半導体(n型熱電変換素子)への希求が依然として存在している。
一方で、高い熱電特性を有する酸化亜鉛を主成分とする材料系は、従来の金属材料系と比較して高い耐熱性を有しているため、高温用途への応用が期待されているが、現在までに高温環境下での十分な評価がなされてこなかった。本発明者らは、高い耐熱性を有する酸化亜鉛を主成分とする材料系であっても、連続的に加熱をする、すなわち長期間に亘って例えば500℃を超える高温状態に晒した場合、熱電特性が徐々に劣化するという新たな課題を見出した。
本発明は、従来の酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体と比較して、より高い熱電変換特性を発揮する酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体(n型熱電変換素子)を提供しようとするものである。さらに、本発明は上記新たな課題に着目し、長期間高温に晒したとしても熱電性能の劣化を抑制することが可能な酸化亜鉛を主成分とするn型酸化物半導体(n型熱電変換素子)を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、酸化亜鉛を主成分とする基部からなる熱電変換素子において、該基部の表面を、該基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、金属酸化物からなる被膜部で覆っており、該金属酸化物は、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物の被膜部とした。
このように構成された熱電変換素子において、酸化亜鉛を主成分とする基部の表面を、該基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物の被膜部で覆ったので、初期の熱電性能を向上させることが可能となった。さらに、連続的に高温状態に晒された場合においても熱電性能の劣化を大幅に抑制することが可能となり、初期の高い熱電特性を長期間に亘って持続することが可能となった。
【0011】
本発明による熱電変換素子がこのような高い熱電特性を有する理由は定かではないが、次のように予想される。但し、以下の理論はあくまで予想であって、本発明はこの理論に限定されるものではない。
酸化亜鉛を主成分とする材料系は、ドーパントによる電子キャリアのドープ、あるいは格子間亜鉛の存在による金属過剰や、酸素欠陥の存在する金属:酸素の不定比性により、大量の自由電子を有している。しかしながら、大気中かつ高温状態に長時間晒されると、基部表面から再酸化されると考えられる。この再酸化によって上述の過剰電子が酸化され、また酸素欠陥が再酸化することで自由電子が減少して導電率が低下することが初期からの性能低下につながっていると考えられる。
一方本発明では、酸化亜鉛を主成分とする基部に、化数が4価、5価、6価の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属の金属酸化物の被膜部を形成する際に、該金属酸化物の被膜部に含まれる該金属元素の一部が基部と若干の反応を生じ、基部への金属酸化物の被膜部に含まれる該金属元素のドーピングが起こったと考えられる。それにより、電子状態密度の変化が生じてゼーベック係数が向上し、これによって高い熱電特性が発現していると考えられる。
【0012】
また、被膜部を構成する金属酸化物として、基部を構成する主成分である酸化亜鉛との反応性が低いものを選択している。具体的には価数が4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素の酸化物で被膜部を構成するように工夫している。具体的には酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タングステン(WO2)、三酸化タングステン(WO3)、酸化モリブデン(MoO2、MoO3)、酸化バナジウム(V2O3)、酸化ゲルマニウム(GeO2)を好適に用いることができる。
これらの金属元素は、いずれも、4価、5価、6価で安定に存在するため、基部を構成する主成分である酸化亜鉛と反応してZn2+M3+2O4型スピネルを生成することがない。つまり、被膜部と基部との間で反応が生じないため、被膜部を設けたことによる熱電特性の低下を防ぐことが可能となる。
本発明の被膜部を構成する金属酸化物の熱伝導率は、基部を構成する主成分である酸化亜鉛のそれよりも小さい。それによって、基部における高温側と低温側での温度差を損なうことを防止でき、被膜部を設けることによる熱電特性の低下を抑制できる。
【0013】
さらに、被膜部により、酸化亜鉛を主成分とする基部は大気と直接接することが抑制されるため、長期間高温に晒された場合においても再酸化による性能低下を抑制することが可能となる。
【0014】
本発明において、好ましくは、被膜部を構成する金属酸化物が、TiO2あるいはZrO2から選ばれる一種である。
このように構成された熱電変換素子において、金属酸化物をTiO2あるいはZrO2としたので、基部を構成する主成分であるZnOとの反応性が特に低く、さらにZnOと一部反応が起こっても、ZnOと同程度の導電性を有する安定な半導体を形成し、自由電子の大幅な減少を抑制可能である。
【0015】
本発明において、好ましくは、酸化亜鉛を主成分とする基部が、Zn(1−x−y)AlxMyO (式中、Znは亜鉛であり、Alはアルミニウムであり、MはZn及びAl以外の金属元素であり、x>0であり、y≧0であり、x+y<0.1である)で表される材料で構成されている。
このように構成された熱電変換素子において、基部の組成をZn(1−x−y)AlxMyOとしたので、熱電特性をより向上させることが可能となる。
【0016】
本発明において、好ましくは、基部は、電極を接続して熱電変換モジュールを構成するための陽極接続部及び陰極接続部を備え、陽極接続部および前記陰極接続部以外の、大気と接触する各面に該被膜部が形成される。
このように構成された熱電変換素子において、陽極接続部および前記陰極接続部以外の、大気と接触する各面に該被膜部を形成したので、基部の再酸化を非常に効果的に抑制することが可能となる。
【0017】
本発明においては、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子とを電極により接続した熱電変換モジュールであって、n型熱電変換素子として本発明の熱電変換素子とした熱電変換モジュールが提供される。
このように構成された熱電変換モジュールはn型熱電変換素子として本発明の熱電変換素子を用いたので、長期間に亘り高い性能を発揮することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による熱電変換素子は、高い熱電変換特性を長期間に亘り発現できる。したがって、高効率な熱電変換モジュールへの適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態における熱電変換素子の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における熱電変換モジュールの構成を示す模式図である。
【図3】623℃における各試料の導電率を示すグラフである。
【図4】973℃における各試料の導電率を示すグラフである。
【図5】623℃における各試料のゼーベック係数を示すグラフである。
【図6】973℃における各試料のゼーベック係数を示すグラフである。
【図7】623℃における各試料の出力因子および性能維持率を示すグラフである。
【図8】973℃における各試料の出力因子および性能維持率を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例1で作製した素子被膜部の表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例2で作製した素子被膜部の表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例2で作製した素子被膜部の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
熱電変換素子
図1は本発明の熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。本発明による熱電変換素
子1は、酸化亜鉛を主成分とする基部11の表面に、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物の被膜部12が形成されているものである。
【0021】
図2は本発明の熱電変換モジュールを模式的に示した側面図である。本発明の熱電変換モジュール2は、n型熱電変換素子21とp型熱電変換素子22とが電極22を介して電気的に交互に接続されて構成されるものである。
【0022】
本発明の熱電変換素子1は、図2の熱電変換モジュールで電極22と接合しているn型熱電変換素子21である。本発明の熱電変換素子1は、基部の一部のみに被膜部を形成した場合であっても、初期の熱電特性を向上させたり長期的な熱電特性の低下を抑制したりすることは可能であるが、電極22と接合している面以外の、大気と接触する各面に、該金属酸化物の被膜部を設置することがより好ましい。それによって、高温で大気暴露される環境においても、大気酸素によるn型熱電変換素子の表面からの酸化を効果的に抑制でき、素子内部に存在する自由電子の減少を妨げることから、素子の高い導電性を長期間にわたり維持することが可能となる。
【0023】
本発明における被膜部としては、基部と大気との接触を防ぐとともに、酸化亜鉛を主成分とする基部に対する高温での反応性が低く、熱伝導率が低いものが好ましく、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物を用いることができる。好ましくはTiO2、ZrO2から選ばれる一種を好適に用いることができる。これらの金属酸化物を用いることで、基部を構成する主成分であるZnOとの反応性が特に低く、さらにZnOと一部反応が起こっても、ZnOと同程度の導電性を有する安定な半導体を形成し、自由電子の大幅な減少を抑制することで可能となる。
【0024】
また、本発明における酸化亜鉛を主成分とする基部としては、式(I):Zn(1−x−y)AlxMyOで表される亜鉛酸化物を主成分とする材料を好適に用いることができる。ここで、Znは亜鉛であり、Alはアルミニウムであり、Mは亜鉛及びアルミニウム以外の金属元素であり、x>0であり、y≧0である。本発明における熱電変換素子に適用可能なMの種類としては、ZnOに固溶することにより熱伝導率の低減が可能なフォノン散乱中心として機能することが期待できる元素であればよく、具体的には、Mg、Ca、B、Ga、In、Ni、Co、Cu、Ti、Zr、Sn、Si、Ge、Sc、Y、ランタノイド元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、導電率の低下を引き起こさずに熱伝導率のみを低減可能な元素として、より好ましくは、Ga、In、Cu、Ti、Zr、Y、La、Ceから選ばれる一種であり、最も好ましくは、Y、La、Ceから選ばれる1種である。
また、ZnとAlとMとの合計モル量に対するAlとMとの合計モル量の比率(すなわち式(I)のx+y)は0.10より小さいことが好ましい。
【0025】
熱電変換素子の製造方法
本発明による熱電変換素子は、そのモジュール形態に合わせて、薄膜状、厚膜状やバルク成型体のいずれもの形態を取ることが可能であるが、好ましい実用的な熱電素子の形状としてはバルク成型体である。
【0026】
本発明の熱電変換素子のバルク成型体の形状は、熱電変換素子のモジュール化に最も好ましく要求されるものである。バルク成型体を作成するためには、従来のセラミック成型プロセスを利用することができ、例えば、原料として市販の酸化物粉末を用いて作成することができる。本発明の好ましい態様によれば、酸化亜鉛(ZnO)粉末、酸化アルミニウム(Al2O3)粉末、及び更にドーピングの為の他の金属酸化物(MOx)粉末、を乾式もしくは湿式ミリングにより混合し、成型した後、所定温度で成型体を焼結処理することで、バルク成型体の作成が可能である(以下、本明細書においてこの方法を「固相法」と呼ぶことがある)。また上記粉末を予め所定温度以上で焼成して、酸化亜鉛中に希土類金属やアルミニウムが十分固溶した後に、成型処理し、焼結処理することで、作成することも可能である。また、亜鉛、アルミニウム、およびドーピング金属の硝酸塩、水酸化物塩、または塩化物塩等を水に溶解し、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、ドーピング金属イオンを含んでなる水溶液から酸化物前駆体を生成し、この前駆体を焼成することで酸化物とし、これを焼成、加工処理することを含んでなる、金属酸化物を得ることのできる公知または一般的な手法を用いることも可能である(以下、本明細書においてこの方法を「湿式反応法」と呼ぶことがある)。ここで、酸化物前駆体を得るための手法としては、共沈法、均一沈殿法、クエン酸法、錯体重合法などを挙げることができる。この方法によって得られた熱電変換材料からなる基部にあっては、アルミニウムおよびドーピング金属が、酸化亜鉛の粒内に入り込んで存在するため、すなわち酸化亜鉛の結晶格子中または結晶格子間に存在する構造であるため、より高い熱電特性が実現できているものと考えられる。より具体的には、ZnO粒子中に、ZnAl2O4の組成の微粒子が生成しており、このZnOとは異なる組成の微粒子が電子の移動のしやすさを維持し(つまり高い伝導率)、他方、この微粒子が熱を反射することで熱伝導率を低下させているものと考えられる。
その結果、良好な熱電特性が得られているものと考えられる。
【0027】
成型方法としては、乾式成型法、湿式成型法のいずれも好適に用いることができる。乾式成型法としては、例えば、一軸プレス成型法、ホットプレス法、ホットフォージ法、等が挙げられる。湿式成型法としては、例えば、射出成型法、鋳込成型法、押出し成型法、加圧成型法、遠心成型法、等が挙げられる。また上記成型方法により成型した成型体の充填密度を向上させるために、静水圧プレス(CIP)処理を行っても良い。
【0028】
本発明において、酸化亜鉛を主成分とする基部を製造するための焼成温度は、ZnOが焼結し、さらにドーパントがZnO結晶格子中に固溶する温度であれば良く、1000〜1500℃が好ましい。また、焼結性を向上させるために、スパークプラズマ焼結(SPS)法等を利用しても良い。更に、本発明の熱電変換材料からなる基部の導電性を向上させるため、窒素等の不活性ガス中で焼成しても良い。この方法によれば、酸素欠陥の増加により、導電性が大きく向上することが期待できる。
【0029】
本発明にかかる金属酸化物の被膜部の作製方法
本発明における基部表面に形成される金属酸化物の被膜の作製方法としては、金属を含む前駆体モノマーを塗布・焼成して酸化物膜を形成するゾル-ゲル法や、金属酸化物微粒子を分散させたコーティング液を塗布・焼成して焼き付けるコロイド塗布法(あるいはスラリーコート法)等の湿式プロセスや、スパッタリング法、PVD法、蒸着法、CVD法、溶射法、コールドスプレー法、エアロゾルポジション法等の、乾式プロセスを用いることができる。この中でも、湿式プロセスを用いた製膜は、コスト面・加工性の面から好適に用いることができる。ゾルーゲル法による製膜の場合、金属モノマーである前駆体として、アルコキシド、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等が好適を用いることができ、加水分解抑制の為に、アセチルアセトンやアセト酢酸エチル等のジケトン等の錯化剤が付与されていても良い。また、コロイド塗布法を用いて製膜する場合は、金属酸化物微粒子の一次粒子径としては、製膜性及び焼成後の緻密化を考慮すると、好ましくは、2nm〜1μmである。
【0030】
また、該金属酸化物の被膜部を焼成により焼き付ける場合、焼成温度としては、酸化亜鉛を主成分とする基部との密着性を確保することと、発電時の雰囲気温度よりも高温であることが必要であるため、500〜1200℃が好ましい。
【0031】
本発明の酸化物の被膜部の空隙率は、特に限定しないが、より小さい空隙率の膜であると、大気酸素の素子表面への侵入を抑制できることから望ましい。好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0032】
また、本発明における金属酸化物の被膜部の膜厚としては、特に制限はないが、酸化亜鉛素子と高温大気の反応による酸化反応を抑制できる膜厚として、10nm〜100μmの範囲に設定することが好ましい。
【0033】
なお、本発明における金属酸化物を構成する金属元素としては、周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物を用いることができる。具体的には、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タングステン(WO2)、三酸化タングステン(WO3)、酸化モリブデン(MoO2、MoO3)、酸化バナジウム(V2O3)、酸化ゲルマニウム(GeO2)が挙げられる。
これらの金属元素を含む酸化物は基部を構成する主成分であるZnOとの高温での反応性が低く、またZnOに比べて熱伝導率が低いため、基部において高温側と低温側での温度差がつきやすく、熱電変換素子から出力を取り出せることから、好適に用いることができる。より好ましくは、ZnOとの反応性が特に低く、さらにZnOと一部反応が起こっても、ZnOと同程度の導電性を有する安定な半導体を形成し、自由電子の大幅な減少が抑制可能である金属酸化物として、TiO2、ZrO2を好適に用いることができる。
【0034】
本発明における熱電変換素子の熱電変換特性は、熱電特性測定装置(例えば、オザワ科学製“RZ2001i”)で測定することが可能である。各温度域(例えば、0〜1000℃)で、サンプル両端に温度差をつけた際の導電率(σ)やゼーベック係数(α)の測定が可能となり、これにより熱電出力因子(α2σ)を求めることができる。
【0035】
またレーザーフラッシュ熱物性測定装置(例えば、京都電子工業製、“LFA−502”)により、熱伝導率κを求めることができる。測定サンプルの表面に、エネルギー密度が均一なレーザービームをパルス状に照射し均一に加熱すると、その熱がサンプルの裏面に拡散する時間と温度変化を検出することにより熱拡散率が分かり、これとサンプル密度から、熱伝導率を求めることができる。以上の測定により、種々の温度域における導電率、ゼーベック係数、熱伝導率から、ZT(=α2σ/κ)を求めることができる。
【0036】
また、導電率測定装置(例えば、三菱化学製“ロレスタGP”)を用いて、室温の導電率を求めることができる。
【0037】
さらに、本発明の別の態様によれば、前述の「固相法」において、酸化亜鉛粉末として、その一次粒径が0.5μm以上5μm以下のものを用いる。このような粒径の粒子を用いることで、より導電性および熱電物性の高い熱電変換素子を得ることができる。さらに酸化アルミニウム粉末およびドーピング金属酸化物粉末についても、その一次粒径が100nm以下のものを用いることが好ましい。これにより、より導電性および熱電物性の高い熱電変換素子を得ることができる。この方法によって得られた熱電変換素子にあっては、アルミニウムおよびドーピング金属が、酸化亜鉛の粒内に入り込んで存在するため、すなわち酸化亜鉛の結晶格子中または結晶格子間に存在する構造であるため、より高い熱電特性が実現できているものと考えられる。
【実施例】
【0038】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
乾式混合法によるイットリウム及びアルミニウムを含む酸化亜鉛を主成分とする基部の作製
酸化亜鉛粉末(高純度化学研究所製、粒径約1μm)、酸化アルミニウム粉末(γ-Al2O3、大明化学工業製、粒径約10nm)及び酸化イットリウム粉末(Y2O3:信越化学製、粒径約30nm)を用意した。これらの原料をZn:Y:Al=95:2:3のモル比になるように秤量した後、ポリエチレン製ボトルに投入し、ナイロン被覆した鉄球ボールを加え、乾式ボールミル処理を15時間行った。金属メッシュふるいにより粉末を分取した後、一軸プレス成型機でプレス処理し、さらに静水圧プレス(CIP)処理することにより、直径約25mmで厚み約7mmの円盤状ペレットを作製した。この円盤状ペレットを、大気中で1400℃で約10時間焼成することにより焼結させることで、イットリウム及びアルミニウムをドープした酸化亜鉛を主成分とする基部を作製した。
【0040】
酸化亜鉛を主成分とする基部の表面へのTiO2被膜の形成
得られた酸化亜鉛を主成分とする基部を約5mm×約5mm×約15mmの角柱状に切出した。電極接合面である長軸側の両端面(約5mm×約5mmの面)にメンディングテープを張り付けてマスキングした。そして、短軸側の4つの側面(約5mm×約15mmの面)に、アセチルアセトンで錯化したチタンアルコキシド溶液(NDH−510C、日本曹達製)をチタン前駆体含有率が1wt%になるように酢酸エチルで希釈した溶液を、フローコートで塗布した後、メンディングテープを外し、80℃で30分乾燥させ、次いで1000℃で10分焼成することで、酸化亜鉛を主成分とする基部の表面にTiO2被膜を形成して実施例1の熱電変換素子を得た。
【0041】
酸化亜鉛を主成分とする基部の表面へのZrO2被膜の形成
得られた酸化亜鉛を主成分とする基部を約5mm×約5mm×約15mmの角柱状に切出した。電極接合面である長軸側の両端面(約5mm×約5mmの面)にメンディングテープを張り付けてマスキングした。そして、短軸側の4つの側面(約5mm×約15mmの面)に、アセチルアセトンで錯化したジルコニウムアルコキシド溶液(オルガチックスZC−540、マツモトファインケミカル製)をジルコニウム前駆体含有率が1wt%になるように酢酸エチルで希釈した溶液を、フローコートで塗布した後、メンディングテープを外し、80℃で30分乾燥させ、次いで1000℃で10分焼成することで、酸化亜鉛を主成分とする基部の表面にZrO2被膜を形成して実施例2の熱電変換素子を得た。
【0042】
被膜部を形成する前の酸化亜鉛を主成分とする基部を約5mm×約5mm×約15mmの角柱状に切出して、比較例の熱電変換素子を得た。
【0043】
評価1:熱電物性測定
上記で作製した実施例1、2、および比較例のサンプルについて、熱電物性測定装置(オザワ科学製、“RZ2001i”)を用いて、各温度域(例えば、0〜1000℃)におけるサンプル両端に温度差をつけた際の導電率(σ)及びゼーベック係数(α)の測定を行い、この際の出力因子(=α2σ)の値を初期出力因子(PF1)とした。
更に、加熱試験として、マッフル炉にて、上記サンプルを1000℃で100時間保持した後、再度熱電物性測定を行い、この際の出力因子の値を、加熱試験後の出力因子(PF2)とした。
また、加熱試験前後における性能維持率を、PF2/PF1として算出した。
【0044】
623℃及び973℃における各出力因子の値を表1〜6に示す。
表1および図3には623℃における各試料の初期導電率EC1および加熱試験後の導電率EC2を示す。導電率であるEC1およびEC2はそれぞれ値が小さいほど好ましい。
【0045】
【表1】
【0046】
表2および図4には973℃における各試料の初期導電率EC1および加熱試験後の導電率EC2を示す。導電率であるEC1およびEC2はそれぞれ値が小さいほど熱電特性が高いことを示している。
【0047】
【表2】
【0048】
表3および図5には623℃における各試料の初期ゼーベック係数SC1および加熱試験後のゼーベック係数SC2を示す。ゼーベック係数であるSC1およびSC2はそれぞれ値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0049】
【表3】
【0050】
表4および図6には973℃における各試料の初期ゼーベック係数SC1および加熱試験後のゼーベック係数SC2を示す。ゼーベック係数であるSC1およびSC2はそれぞれ値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0051】
【表4】
【0052】
表5および図7には623℃における各試料の初期出力因子PF1、加熱試験後の出力因子PF2、および加熱試験後の出力因子PF2を初期出力因子PF1で除した性能維持率PF2/PF1を示す。出力因子であるPF1およびPF2および性能維持率PF2/PF1はいずれも値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0053】
【表5】
【0054】
表6および図8には973℃における各試料の初期出力因子PF1、加熱試験後の出力因子PF2、および加熱試験後の出力因子PF2を初期出力因子PF1で除した性能維持率PF2/PF1を示す。出力因子であるPF1およびPF2および性能維持率PF2/PF1はいずれも値が大きいほど熱電特性が高いことを示している。
【0055】
【表6】
【0056】
表1〜6及び図3〜図8の結果より、TiO2及びZrO2で被覆したサンプルは、コートしないサンプルに比べて、加熱試験前後とも出力因子PFの値が高いことが分かった。また、性能維持率PF2/PF1もコートしないサンプルよりもTiO2及びZrO2で被覆したサンプルのほうが高いことが分かった。
【0057】
図9及び図10に、日立製作所製走査型電子顕微鏡S−800による、実施例1及び2で作製した素子被膜部の表面を観察した写真を示す。図9では、TiO2粒子と見られる200〜400nmの微粒子、図10では、ZrO2粒子と見られる100〜200nmの微粒子から、それぞれなる緻密な被膜が形成されており、基部となる酸化亜鉛素子表面が完全に覆われていることが分かる。
【0058】
図11に、日立製作所製走査型電子顕微鏡S−800による、実施例2で作成した素子被膜部の断面構造を観察した写真を示す。写真中、矢印の部分が被膜部に相当する。図11より、ZrO2からなる被膜部の膜厚は、約400nmであった。
【符号の説明】
【0059】
1 熱電変換素子
11 基部
12 被膜部
2 熱電変換モジュール
21 n型熱電変換素子
22 p型熱電変換素子
23 電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を主成分とする基部からなる熱電変換素子であって、
該基部の表面が、該基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、金属酸化物からなる被膜部で覆っており、
該金属酸化物は周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物であることを特徴とする、熱電変換素子。
【請求項2】
前記金属酸化物が、TiO2、ZrO2から選ばれる一種であることを特徴とする、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記酸化亜鉛を主成分とする基部が、下記式(I)の組成式で表される材料で構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱電変換素子。
Zn(1−x−y)AlxMyO (I)
(式中、Znは亜鉛であり、Alはアルミニウムであり、MはZn及びAl以外の金属元素であり、x>0であり、y≧0であり、x+y<0.1である)。
【請求項4】
前記基部は、電極を接続して熱電変換モジュールを構成するための陽極接続部及び陰極接続部を備え、
前記陽極接続部および前記陰極接続部以外の、大気と接触する各面に該被膜部が形成されたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱電変換素子
【請求項5】
n型熱電変換素子とp型熱電変換素子とを電極により接続した熱電変換モジュールであって、前記n型熱電変換素子が請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱電変換素子であることを特徴とする、熱電変換モジュール。
【請求項1】
酸化亜鉛を主成分とする基部からなる熱電変換素子であって、
該基部の表面が、該基部を構成する酸化亜鉛の再酸化を抑制するように、金属酸化物からなる被膜部で覆っており、
該金属酸化物は周期律表の4A族、5A族、6A族の遷移金属元素、および4B族の典型金属元素のうち、価数が4価、5価、あるいは6価のいずれかである金属元素の金属酸化物であることを特徴とする、熱電変換素子。
【請求項2】
前記金属酸化物が、TiO2、ZrO2から選ばれる一種であることを特徴とする、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記酸化亜鉛を主成分とする基部が、下記式(I)の組成式で表される材料で構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱電変換素子。
Zn(1−x−y)AlxMyO (I)
(式中、Znは亜鉛であり、Alはアルミニウムであり、MはZn及びAl以外の金属元素であり、x>0であり、y≧0であり、x+y<0.1である)。
【請求項4】
前記基部は、電極を接続して熱電変換モジュールを構成するための陽極接続部及び陰極接続部を備え、
前記陽極接続部および前記陰極接続部以外の、大気と接触する各面に該被膜部が形成されたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱電変換素子
【請求項5】
n型熱電変換素子とp型熱電変換素子とを電極により接続した熱電変換モジュールであって、前記n型熱電変換素子が請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱電変換素子であることを特徴とする、熱電変換モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−114417(P2012−114417A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230801(P2011−230801)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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