説明

熱電変換装置及びその製造方法

【目的】従来の(1)単位面積中に配置する熱電素子数を大幅に増やすことができない点、(2)熱電変換装置内の熱電素子数や熱電変換装置のサイズを容易に変更できない点、(3)熱電変換装置として軽量実装することができない点、(4)熱電変換装置として生産コストの低減ができない点を解決することを目的とする。
【構成】可撓性及び絶縁性のある帯状の基材2と、p型熱電変換材料3aとn型熱電変換材料3bとが基材2の伸びる方向で交互に電気的に直列になると共に基材2の幅方向に熱的に並列となるように基材2上に薄膜又は薄板状に形成された熱電素子3とからなる熱電基材20を有する。熱電基材20は、基材2の伸びる方向において基材2を折り曲げ又は巻回することによって変形させて、少なくとも一部の熱電素子3を絶縁性を維持した状態で重合させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電素子の高密度かつ軽量実装を可能とし、生産コスト低減に適した構造を有する熱電変換装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、p型熱電材料およびn型熱電材料をそれぞれ角柱型に成形し、これら一対を熱電素子として、多数の熱電素子を並列に立てて配置し、電気的に直列になるように素子間を配線したものを熱電変換装置としている。
【0003】
しかし、従来技術では、熱電材料を角柱型に切り出すために材料の歩留まりが悪いという欠点だけでなく、電極接合を別途行う必要があるため工程が多くなるという問題があった。
【特許文献1】WO03/019681A1
【非特許文献1】酒井三佳 他著 「熱電変換シンポジウム2003論文集(熱電変換研究会)」 2003年 第24頁〜第25頁「Bi−Te系薄膜上熱電モジュールの研究開発」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術において角柱型の熱電素子を立てるためにはある程度の角柱の断面積が必要であるため、単位面積あたりに配置できる熱電素子数が制限される。このため、電気的に直列配列される熱電素子数が少数に制限され、熱電変換装置の特性を向上させることが困難であった。また、従来技術では、熱電素子数やサイズの異なる熱電変換装置を製造しようとすると、その都度設計変更が必要となり、用途に応じて熱電素子数やサイズの異なる熱電変換装置を製造することが困難であった。
【0005】
本発明が、解決しようとする問題点は、(1)単位面積中に配置する熱電素子数を大幅に増やすことができない点、(2)熱電変換装置内の熱電素子数や熱電変換装置のサイズを容易に変更できない点、(3)熱電変換装置として軽量実装することができない点、(4)熱電変換装置として生産コストの低減ができない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決することを目的とする。この目的を達成するためになされた請求項1に記載の熱電変換装置は、可撓性及び絶縁性のある帯状の基材と、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とが該基材の伸びる方向で交互に電気的に直列になると共に前記基材の幅方向に熱的に並列となるように該基材上に薄膜又は薄板状に形成された熱電素子とからなる熱電基材を有し、該熱電基材は、前記基材の伸びる方向において該基材を折り曲げ又は巻回することによって変形させて、少なくとも一部の前記熱電素子を絶縁性を維持した状態で重合させていることを特徴とする。
【0007】
また、上述した問題点を解決する熱電変換装置を製造するためになされた請求項7に記載の熱電変換装置の製造方法は、可撓性及び絶縁性のある帯状の基材上に、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とが該基材の伸びる方向で交互に電気的に直列になると共に前記基材の幅方向に熱的に並列となるように薄膜又は薄板状に形成された熱電素子を配設してなる熱電基材を作製する熱電基材作製工程と、該熱電基材を、前記基材の伸びる方向において該基材を折り曲げ又は巻回することによって変形させて、少なくとも一部の前記熱電素子を絶縁性を維持した状態で重合させる基材変形工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明で得られる熱電変換装置は、角柱型の熱電素子を用いる代わりに、薄膜又は薄板状の熱電素子を用いる。ただし、薄膜又は薄板状の熱電素子を直立させることはできないので、帯状かつ可撓性のある基材上に、基材の幅方向が熱流および電流の方向となるように、蒸着等の方法で薄膜又は薄板状の熱電素子を成形する。この帯状基材を基材の伸びる方向において折り曲げ又は巻回することによって変形させて、少なくとも一部の熱電素子を電気絶縁性を維持して重ね合わせることによって、高密度の熱電素子を軽量実装することができる熱電変換装置とする。
なお、ここでいう重ね合わせ(重合)とは、接触、非接触は問わず、透視した際に熱電素子の少なくとも一部が重なり合う状態をいう。
【0009】
薄膜又は薄板状の熱電素子は角柱状の素子に比べて断面積がきわめて小さいので、単位面積中に配置する熱電素子数を飛躍的に増大させることが可能となる。また、帯状基材を上記のごとく基材の伸びる方向において折り曲げ又は巻回することにより、折り曲げ又は巻き取り軸に平行に多数の熱電素子が並列に配置した構造を容易に実現する。
【0010】
このように、上記基材の変形によって重合させた薄膜又は薄板状の熱電素子を用いて単位面積中に配置する熱電素子数を飛躍的に増大させることにより、従来の熱電変換装置と比べて熱電変換性能が向上し、ごくわずかな温度差しかない熱源からも大電圧を取り出すことが可能となる。
また、この熱電変換装置の構造では、変形させる基材の長さや変形させる際の基材間の間隔を容易に変えることができるので、従来の構造に比べると、熱電変換装置の用途に応じて熱電素子数やサイズの異なる熱電変換装置を組み立てることが容易であり、熱電変換装置の生産効率そのものが大幅に向上する。
さらに、薄膜又は薄板状の熱電素子は、例えば、蒸着やスパッタリングなどの方法により帯状基材上に連続的に作製することもできるので、その場合には特に、熱電変換装置の生産コストそのものが大幅に低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
可撓性及び絶縁性のある帯状の基材としては、柔軟性を有する樹脂フィルムなどを採用できる。例えば、ポリイミドやカプトン、ポリカーボネート、ポリエチレンのほか、PET(ポリエチレンテフタレート)、PES(ポリサルフォン)、PEEK(ポリエーテルエチルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイト)等を採用することができる。
前記基材の厚みとしては、1〜100μmの薄膜であることが好ましい。この場合には、特に、可撓性、加工性、熱電素子の高密度性の向上に適している。
【0012】
p型熱電変換材料(以下、適宜p型熱電材料という)及びn型熱電変換材料(以下、適宜、n型熱電材料という)としては、Bi−Te系、Fe−Si系、Mg−Si系、Si−Ge系、Pb−Te系等の熱電半導体やカルコゲナイト系、スクッテルダイト系、フィルドスクッテルダイト系、ホイスラー系、ハーフホイスラー系、炭化ホウ素系等を採用することができる。
例えば、p型熱電変換材料としては(Bi2Te30.25(Sb2Te30.35、n型熱電変換材料としてはBi2Te2.7Se0.3のように、いずれもBi2Te3をベースとする熱電材料を採用することができる。この場合、上記「非特許文献1」に記載のように、メカニカルアロイング法とパルス通電焼結法により作製した各熱電材料のターゲットを使用して、厚さ50μmのポリイミド基材に特殊マスキング治具を用いることにより、n型に続けてp型のスパッタを行い、それぞれ厚さ30μmでp−n接合されたπ型熱電素子を作製することができる。
【0013】
さらに後述の実施例2に記載のように、Fe2VAlをベースとする熱電材料を用いれば、環境汚染の恐れの少ない熱電変換装置を提供することができる。この場合、n型熱電材料としてはFe2V(Al,Ge)、Fe2(V,Mo)Al、(Fe,Pt)2VAlなど、またp型熱電材料としてはFe2(V,Ti)Alなどを使用することができる。
【0014】
上記熱電材料を基材上に形成する方法としては、蒸着、スパッタリング、圧延加工等の手段を採用することができる。また、形成する熱電材料の厚みは、薄膜状の場合には1〜100μmとすることが好ましい。1μm未満は形成することが難しいが、機械的な強度を維持する限り薄い方が熱電素子の可撓性、加工性、熱電素子の高密度性の向上に適している。例えば、上記蒸着、スパッタリング等の成膜技術を用いれば、100μm以下の熱電素子を得ることが容易である。一方、圧延加工等の塑性加工を用いる場合には800μm以下、より好ましくは500μm以下のできる限り小さい厚さに成形し、これを基材上に貼設することによって、成膜の場合と同等の効果を有する熱電変換装置を構成することができる。
【0015】
p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とは基材の幅方向の両側で熱的に並列とされる。つまり、熱の流れが基材の幅方向に沿って平行になるようにp型熱電変換材料とn型熱電変換材料とが配置される。
この場合、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料との間の電気的接続は、両者の間に電極材料を介在させる構造をとることができる。この電極材料としては、基材上に配設してもよいし、後述するごとく伝熱板を設ける場合には、この伝熱板に配設してもよい。
また、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料との間の電気的接続は、他の電極材料を用いることなく、部分的に一方の材料を他方の材料に接触(例えば積層)させて形成することによって行うこともできる。
【0016】
次に、前記熱電基材を変形させる好ましい形態としては、複数種類挙げられる。
例えば、請求項2に記載のように、前記熱電基材は、一端が最内周側に位置すると共に他端が最外周側に位置するように渦巻き状に巻回されており、最外周側の前記熱電素子と最内周側の前記熱電素子とに直流電流を通電可能に構成されていることが好ましい。
この場合には、基材の変形が容易であり、また、熱電素子の配設密度の向上も容易である。
【0017】
また、請求項3に記載のように、前記熱電基材は、2つ折りに折り曲げた折り曲げ部が最内周側に位置するように渦巻き状に巻回されており、外周側に位置する両端の前記熱電素子の間に直流電流を通電可能に構成されていることも好ましい。
この場合には、通電可能とするためのいわゆる端子部分を2つとも外周側に位置させることができるので、配線構造を簡易化することができる。
【0018】
また、請求項4に記載のように、前記熱電基材は、交互に反対方向に折りたたんだ屏風折り状(つづら折り状)に形成されており、両端面に位置する両端の前記熱電素子の間に直流電流を通電可能に構成されていることも好ましい。
この場合には、例えば、全体形状を円柱状ではなく角状とするニーズがある場合に、容易に対応することができる。
【0019】
また、請求項5に記載のように、変形させた前記熱電基材の幅方向両端には、絶縁性のある伝熱板が備えられていることが好ましい。
この場合には、導電性部材に対して上記熱電変換装置を配設する場合に、上記伝熱板の存在によって、絶縁性の問題を簡単に解消することができる。また、上記伝熱板の配設によって、構造的にも強固なものにすることができる。
上記伝熱板を熱電基材の両端に固定する方法としては、熱電基材の両端に伝熱板を当接させておいて全体を例えばシリコン樹脂等によって封止する方法、あるいは、伝熱板と熱電基材の端面との間に電気絶縁性かつ高伝熱性の接着剤(例えばシリコン系またはエポキシ系)を介在させる方法、あるいは両者を採用した方法などがある。
また、上記伝熱板としては、例えばアルミナ板を採用することができる。
【0020】
また、上記熱電基材は、基材の幅方向全幅に渡って上記熱電素子(p型熱電変換材料とn型熱電変換材料)を形成して基材の端面に露出させることが好ましい。これにより、変形させた熱電基材が直接所望の部材に接触する場合であっても、上記伝熱板に接触する場合であっても、その接触部分との間における伝熱性を高めることができる。
【0021】
また、請求項6に記載のように、前記p型熱電変換材料と前記n型熱電変換材料とは、前記基材の幅方向で互い違いに、部分的に一方の材料を他方の材料に接触させることにより電気的に接続されていることが好ましい。これにより、両者を接続するための部材を別途準備する必要がなく、電気的な直列接続を容易に行うことができる。この場合の接触としては、端面同士のみを接触させるのではなく、両者を積層(接触状態で重なり合わせる)することが最も好ましい。
【0022】
また、上記の熱電変換装置の製造方法においては、請求項8に記載のように、上記基材変形工程の後に、変形させた前記熱電基材の幅方向両端に、絶縁性のある伝熱板を配設する伝熱板配設工程を有することが好ましい。この場合には、上述した伝熱板を有する優れた熱電変換装置を得ることができる。
【0023】
また、請求項9に記載のように、前記熱電基材作製工程では、前記p型熱電変換材料と前記n型熱電変換材料とを、前記基材の幅方向で互い違いに、部分的に一方の材料を他方の材料に接触させることにより電気的に接続することが好ましい。この場合には、上述したごとく、両者を接続するための部材を別途準備する必要がなく、電気的な直列接続を容易に行うことができる。それ故に、製造コストを低減することができる。
【0024】
次に、本発明の熱電変換装置は、様々な用途に応用することができる。
すなわち、本発明による熱電変換装置は、両端子間に電圧を印加すれば、正孔の移動及び電子の移動が起こり、変形させた熱電基材の両端に、一対の伝熱板を設けた場合にはその間に温度差が発生する。このペルチェ効果を利用すれば、冷却用または温度調整用の素子として用いることができる。
また、この熱電変換装置は、上記のごとく変形させた熱電基材の幅方向(軸方向)両端に温度差を与えれば、やはり正孔の移動及び電子の移動が起こり、両端子間に起電力が発生する。このゼーベック効果を利用すれば、廃熱を利用した発電装置用の素子として用いることができる。
なお、本発明による熱電変換装置では薄膜又は薄板状の熱電変換材料を用いるため、従来の熱電変換装置に比べて電気抵抗が高くなることもあるので、複数個の熱電変換装置を並列に配線することにより、比較的高い電気伝導が得られるため効率的に熱電変換を行うことが可能である。
【0025】
さらに、本発明による熱電変換装置は従来の熱電変換装置に比べて、熱電変換による電圧信号が格段に高いという特徴を有する。そのため、ガスセンサーとして応用することも可能である。可燃性ガスと触媒材との触媒反応による発熱を、熱電変換効果により電圧信号に変換し、それを検出信号として検出するガスセンサーについては、例えば特許文献(特開2003−156461号公報)によりすでに知られている。
【0026】
特に、可燃性ガス検出センサーとしては、触媒反応を起こす触媒材が白金(Pt)パラジウム(Pd)、金(Au)から選ばれる1種以上であることとすることが必要であるが、このうち白金の触媒材を用いれば、水素ガスのみに選択的に応答するという特徴がある。上記特許文献の実施例では、アルミナ基材の上に熱電変換材料膜を形成し、その表面の半分だけに触媒材である白金膜を形成して素子を構成している。つまり、1つの素子から得られる電圧信号を取り出すことになる。一方、本発明による熱電変換装置では、絶縁性の有る伝熱板を設け、その一方に触媒材となる白金膜を形成するだけで水素ガス検出センサーを構成することができる。この場合、従来の熱電変換装置に比べ、素子密度が格段に高いため、極めて希薄な水素ガス濃度であっても検出電圧としては大幅に増幅して検知することが可能となるため、高性能の水素ガスセンサーを提供することができる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる熱電変換装置につき、図1〜図4を用いて説明する。
本例の熱電変換装置5は、図4に示すごとく、可撓性及び絶縁性のある帯状の基材2と、p型熱電変換材料3aとn型熱電変換材料3bとが該基材2の伸びる方向で交互に電気的に直列になると共に前記基材2の幅方向に熱的に並列となるように該基材2上に薄膜状に形成された熱電素子3とからなる熱電基材20を有する。そして、熱電基材20は、前記基材2の伸びる方向において該基材2を巻回することによって変形させて、少なくとも一部の前記熱電素子3を絶縁性を維持した状態で重合させている。より具体的には、図3に示すごとく、熱電基材20は、一端21が最内周側に位置すると共に他端22が最外周側に位置するように渦巻き状に巻回されており、最外周側の前記熱電素子3と最内周側の前記熱電素子3とに直流電流を通電可能に構成されている。
【0028】
以下、これを詳説する。
図1は、本例における帯状の基材2の平面図である。図2は、この基材2上にp型熱電変換材料3aとn型熱電変換材料3bとを蒸着した後の平面図である。図3は、このようにして得られたものを渦巻き状に巻き、上下に伝熱板1aと1bを設けた斜視図である。これにリード線4aと4bを接続した熱電変換装置5の斜視図を図4に示す。
【0029】
図3に示すごとく、可撓性のある帯状の絶縁性の基材2としては、厚さ50μmのポリイミド薄膜を使用し、その基材2上には、薄膜状のp型熱電変換材料3aとして、厚さ約30μmの(Bi2Te30.25(Sb2Te30.35よりなるp型熱電素子薄膜を形成し、n型熱電変換材料3bとして、厚さ約30μmのBi2Te2.7Se0.3よりなるn型熱電素子薄膜を形成した。また、これらは基材2の伸びる方向(長手方向)に交互に配列し、互いに電気的に直列に繋がるように形成してある。
【0030】
このような構造の熱電変換装置5を製造するに当たっては、まず、可撓性及び絶縁性のある帯状の基材2上に、p型熱電変換材料3aとn型熱電変換材料3bとが該基材2の伸びる方向で交互に電気的に直列になると共に前記基材2の幅方向に熱的に並列となるように薄膜状に形成された熱電素子3を配設してなる熱電基材20を作製する熱電基材作製工程を実施する。
【0031】
具体的には、上述した「非特許文献1」に記載された方法と同様に、メカニカルアロイング法とパルス通電焼結法により作製した各熱電材料のターゲットを使用することができる。
まず、厚さ50μm、幅4mmの帯状ポリイミド基材を、図5に示す特殊マスキング治具81で覆い、p型熱電材料を周知のスパッタリング法により薄膜形成する。p型熱電材料のマスキング治具81にはL字型(幅A=約0.5mm、長さB=5mm)の開口部810が10個設けてあり、ポリイミド基材上に同一形状のp型熱電材料薄膜が厚さ30μmで転写形成される。マスキング治具の開口部長さが帯状基材の幅より長いのは、帯状基材の端まで薄膜が形成されることが必要なためであり、この端の部分から熱伝導ができるように設計してある。
p型熱電材料には、上述したように、(Bi2Te30.25(Sb2Te30.35を用いた。また薄膜形成にはRFスパッタ装置を用い、スパッタガスとしてArを使用し、出力を40W、Arガス圧を1×10−1Paとした。
【0032】
次に、上記の帯状の基材2をスパッタ装置から取り出し、図6に示すn型熱電材料のマスキング治具82で覆う。n型熱電材料のマスキング治具82には逆L字型(幅A=約0.5mm、長さB=5mm)の開口部820が10個設けてあり、p型熱電材料薄膜の端部に重ねてn型熱電材料薄膜が形成されるようにマスキング治具を設置する必要がある。p型熱電材料と同様にn型熱電材料をスパッタ法によりマスキング治具を介して転写形成する。
n型熱電材料には、上述したように、Bi2Te2.7Se0.3を用いた。また薄膜形成にはRFスパッタ装置を用い、スパッタガスとしてArを使用し、出力を40W、Arガス圧を1×10−1Paとした。
【0033】
この薄膜形成後には、p型熱電変換材料3aとn型熱電変換材料3bは、それぞれ、一方のL字型(逆L字型)の横棒の部分の先端部分を、他方のL字型(逆L字型)の縦棒部分に積層した状態となって電気的に直列に接続される。
なお、上記マスキング治具81、82の材料には一般的な金属材料や無機材料を使用することができる。たとえば、ステンレス鋼、チタン、モリブデン、タンタル、シリカ,アルミナなどを使用できる。
【0034】
以上の操作により、図2に示すごとく、帯状の基材2の上にp型とn型で1対となる熱電素子3が10対形成される。引き続いて、p型熱電材料のマスキング治具を上記のn型熱電材料薄膜の端部に重なるように設置して、上記と同様の工程を繰り返すことにより、所望の長さの帯状基材上に熱電変換素子を形成していくことができる。
【0035】
またスパッタ法により得られた熱電材料薄膜は、アモルファス状態であるので、上述した「非特許文献1」に記載された方法と同様に、パルス通電焼結法によって加熱する熱処理を行う。具体的には、カーボン粉末を熱電モジュールの周囲に充填して、真空状態にしてから10Paの圧力を上下方向に加えながら600Kまで通電加熱して熱処理を行うことで、結晶性のよい熱電材料薄膜を作製することができる。
【0036】
次に、このように得られた熱電基材20を用いて、基材変形工程を行う。すなわち、熱電基材20を、前記基材2の伸びる方向において該基材2を巻回することによって変形させて、少なくとも一部の熱電素子3を絶縁性を維持した状態で重合させる。具体的には、図3に示すごとく、熱電基材20の一端21が最内周側に位置すると共に他端22が最外周側に位置するように渦巻き状に巻回する。この作業は、手作業でもできるが、工業的に量産する場合には、専用の装置を用いることが好ましい。
【0037】
次に、上記のごとく渦巻き状に変形させた熱電基材20の幅方向(軸方向)両端に、絶縁性のある伝熱板1a、1bを配設する伝熱板配設工程を行う。具体的には、アルミナ板よりなる円形の伝熱板1a、1bを用意し、これを熱電基材20の軸方向両端に絶縁性の接着剤(シリコーン系又はエポキシ系)を用いて接合する。
なお、この工程を行う前又は後に、熱電基材20の最内周に位置する熱電素子3と最内周側の前記熱電素子3とに直流電流を通電可能とするためのリード線4a、4bを接合する。このとき、内周側に用いるリード線4aは、伝熱板1aの中央に設けた貫通穴15を通して配設する。なお、本例では、伝熱板1aには貫通穴15のみを設けたが、上記リード線4aを伝熱板表面から突出しないように、リード線4aを収容する溝あるいは切り欠きを設けることも可能である。
【0038】
以上のようにして得られた本例の熱電変換装置5によれば、薄膜又は薄板状の熱電素子を用いて単位面積中に配置する熱電素子数を飛躍的に増大させることにより、従来の熱電変換装置と比べて熱電変換性能が向上し、ごくわずかな温度差しかない熱源からも大電圧を取り出すことが可能となる。
【0039】
また、この熱電変換装置の構造では、巻き取る基材の長さや巻き取る際の基材間の間隔を容易に変えることができるので、従来の構造に比べると、熱電変換装置の用途に応じて熱電素子数やサイズの異なる熱電変換装置を組み立てることが容易であり、また、薄膜又は薄板状の熱電素子を帯状基材上に連続的に作製することが可能であるため、熱電変換装置の生産効率そのものが大幅に向上する。
【0040】
(実施例2)
本例は、実施例1で用いたp型熱電変換材料3aとn型熱電変換材料3bに代えて、上述した特許文献1に記載の、Fe2VAlをベースとする各種の金属間化合物を利用する例である。この場合には、環境汚染の恐れの少ない熱電変換装置を提供することができる。この場合にも、上記と同様の作用効果が得られる。
【0041】
(実施例3)
本例は、実施例1の場合と同様にして、同一長さの帯状の絶縁基材上にp−n接合された熱電基材20を複数枚作製し、複数枚の熱電基材2を重ね合わせて渦巻状に巻き取ったあと、図3と同様にして熱電変換装置を構成する例である(図示略)。この場合、複数枚の熱電基材20をリード線で並列に接続することにより、熱電発電による電流値を高くすることが可能である。
【0042】
(実施例4)
本例は、実施例1における薄膜状の熱電素子3に代えて、薄板状の熱電素子を用いる例である。
すなわち、p型およびn型熱電素子薄板の作製するに当たって、圧延等の塑性加工あるいは切断加工により、厚みを200〜800μmの厚さの熱電変換材料を得る。次いで、可撓性及び絶縁性のある帯状の基材2の上にp型およびn型熱電材料を熱的には並列になるように固定し、電気的には直列となるように接続する。これにより、実施例1と同等の効果を有する熱電変換装置を構成することができる。
【0043】
(実施例5)
本例は、図7に示すごとく、熱電基材20の変形方法を実施例1の場合から変更した例である。すなわち、同図に示すごとく、熱電基材20は、熱電素子3同士が向かい合うように中央から2つ折りに折り曲げられ、その折り曲げ部25が最内周側に位置するように渦巻き状に巻回されており、外周側に位置する両端の前記熱電素子の間に直流電流を通電可能に構成されている。
【0044】
また、本例では、2つ折りに折り曲げることによって重なり合う熱電変換材料同士の直接的な接触を防止するために、電気絶縁性の帯状絶縁板7を、折りたたんだ熱電基材20の間に介在させた。
また、上記のごとく、外周側に位置する両端の前記熱電素子の間に直流電流を通電可能とすべく、両端の熱電素子にリード線4a、4bを接続した。その他の構造は実施例1と同様である。
この場合には、リード線4aが2本とも外周側に位置するので、伝熱板1aにリード線4aを挿通する貫通穴を設ける必要がなく、構造的に簡単となる。その他は実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0045】
(実施例6)
本例は、図8に示すごとく、熱電基材20の変形方法を実施例1の場合から変更した例である。すなわち、同図に示すごとく、熱電基材20は、交互に反対方向に折りたたんだ屏風折り状(つづら折り状)に形成されており、両端面に位置する両端の前記熱電素子の間に直流電流を通電可能に構成されている。
【0046】
また、本例では、対面する熱電変換材料同士が電気的に絶縁状態となるように、重合はするものの接触しないように隙間を設けて折り曲げた。
また、全体を角状とするため、両端に設ける伝熱板(図示略)は四角形とした。その他は実施例1と同様である。
この場合には、角状の形状が望まれる用途に容易に適用させることができる。その他は実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0047】
(実験例)
次に、上述した実施例の熱電変換装置の優れた点を定量的に評価すべく、次のような実験を行った。
まず、断面が1.5mm×1.5mmの正方形で長さ4mmの正四角柱型の熱電変換材料を用いて1辺が5mmの正方形状の従来型熱電変換装置を作製する。この場合、一つの熱電変換装置内に9本の熱電材料を配置できる。熱電変換材料として、Bi2Te3(ゼーベック係数0.2mV/K、電気伝導度100S/mm、熱伝導率0.0014W/mmK)を用いると、100℃の温度差に対して、0.18Vの電圧を発生した。
【0048】
これに対して、実施例1に示すような渦巻き型熱電変換装置5では,長さ206mm幅4mm厚さ50μm基材の上に、幅1.5mm厚さ30μmの熱電材料を0.25mm間隔で117本配置するができ、これを内径2mm外径5mmの円筒形状に巻きとる。熱電変換材料として、Bi2Te3(ゼーベック係数0.2mV/K、電気伝導度100S/mm、熱伝導率0.0014W/mmK)を用いると、100℃の温度差に対して、2.34Vの電圧を発生した。
このように、同等の外形寸法をもつ従来型熱電変換装置と本発明による渦巻き型熱電変換装置とで性能を比較すると、同じ温度差に対して、13倍の電圧を発生した。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1における、帯状の基材の平面図。
【図2】実施例1における、基材上にp型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを蒸着した後の平面図。
【図3】実施例1における、熱電基材を渦巻き状に巻き、上下に伝熱板とを設けた斜視図。
【図4】実施例1における、図3のようにして得られたものにリード線を接続した熱電変換装置を示す斜視図。
【図5】実施例1における、p型熱電材料のマスキング治具を示す説明図。
【図6】実施例1における、n型熱電材料のマスキング治具を示す説明図。
【図7】実施例5における、熱電基材を中央で2つ折りにし、その間に帯状絶縁板を挿入してから渦巻き状に巻いた構造の熱電変換装置を示す斜視図。
【図8】実施例6における、熱電基材を屏風折り状(つづら折り状)に畳んだ構造の熱電変換装置を示す斜視図。
【符号の説明】
【0050】
1a 伝熱板
1b 伝熱板
2 基材
20 熱電基材
3a p型熱電変換材料
3b n型熱電変換材料
4a リード線
4b リード線
5 熱電変換装置
7 帯状絶縁板
81 p型熱電材料のマスキング治具
82 n型熱電材料のマスキング治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性及び絶縁性のある帯状の基材と、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とが該基材の伸びる方向で交互に電気的に直列になると共に前記基材の幅方向に熱的に並列となるように該基材上に薄膜又は薄板状に形成された熱電素子とからなる熱電基材を有し、
該熱電基材は、前記基材の伸びる方向において該基材を折り曲げ又は巻回することによって変形させて、少なくとも一部の前記熱電素子を絶縁性を維持した状態で重合させていることを特徴とする熱電変換装置。
【請求項2】
請求項1において、前記熱電基材は、一端が最内周側に位置すると共に他端が最外周側に位置するように渦巻き状に巻回されており、最外周側の前記熱電素子と最内周側の前記熱電素子とに直流電流を通電可能に構成されていることを特徴とする熱電変換装置。
【請求項3】
請求項1において、前記熱電基材は、2つ折りに折り曲げた折り曲げ部が最内周側に位置するように渦巻き状に巻回されており、外周側に位置する両端の前記熱電素子の間に直流電流を通電可能に構成されていることを特徴とする熱電変換装置。
【請求項4】
請求項1において、前記熱電基材は、交互に反対方向に折りたたんだ屏風折り状に形成されており、両端面に位置する両端の前記熱電素子の間に直流電流を通電可能に構成されていることを特徴とする熱電変換装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、変形させた前記熱電基材の幅方向両端には、絶縁性のある伝熱板が備えられていることを特徴とする熱電変換装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、前記p型熱電変換材料と前記n型熱電変換材料とは、前記基材の幅方向で互い違いに、部分的に一方の材料を他方の材料に接触させることにより電気的に接続されていることを特徴とする熱電変換装置。
【請求項7】
可撓性及び絶縁性のある帯状の基材上に、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とが該基材の伸びる方向で交互に電気的に直列になると共に前記基材の幅方向に熱的に並列となるように薄膜又は薄板状に形成された熱電素子を配設してなる熱電基材を作製する熱電基材作製工程と、
該熱電基材を、前記基材の伸びる方向において該基材を折り曲げ又は巻回することによって変形させて、少なくとも一部の前記熱電素子を絶縁性を維持した状態で重合させる基材変形工程とを含むことを特徴とする熱電変換装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、変形させた前記熱電基材の幅方向両端に、絶縁性のある伝熱板を配設する伝熱板配設工程を有することを特徴とする熱電変換装置。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記熱電基材作製工程では、前記p型熱電変換材料と前記n型熱電変換材料とを、前記基材の幅方向で互い違いに、部分的に一方の材料を他方の材料に接触させることにより電気的に接続することを特徴とする熱電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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