説明

熱電子源

【課題】熱陰極からの放熱を減らすことにより、集積化および大面積化を可能とするとともに、消費電力を少なくでき、さらに、通電後の高速応答を可能とすることにより、待機電力を不要とし消費電力を少なくできる熱電子源を提供する。
【解決手段】基板2と、基板2上に設けられ、表面に複数の微細な穴6を有する導電性の熱陰極3とを備え、熱陰極3からの放熱を減らし集積化および大面積化を可能とするとともに、通電後の高速応答を可能とすることにより、消費電力を少なくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電子を放出する熱電子源に関する。
【背景技術】
【0002】
物質を高温にした際に放出される熱電子を使用する熱陰極は、X線管または高周波電子管のような真空中で動作する真空管の電子源として、あるいは、蛍光灯のようなガス中で動作する放電管の電子源として使用されている。ここで、熱陰極における熱電子の電流密度は、陰極表面の仕事関数および動作温度によって決まる。温度が一定の場合は、熱陰極材料の仕事関数が小さくなると、より大きな電流密度を得ることができ、電流密度が一定の場合は、熱陰極材料の仕事関数が小さくなると、より低い温度で動作させることができる。
【0003】
真空中であれば、熱陰極の寿命は陰極材料の蒸発によって決まるので、動作温度を低くすれば長寿命化が達成できる。さらに動作温度を低くすることで、加熱に要する電力を低減することもできる。低い温度で動作する熱陰極としてはBaO(酸化バリウム)のような酸化物陰極が良く知られているが、より低い温度で動作する熱陰極材料が求められている。
【0004】
そのような熱陰極材料の候補としては、ダイヤモンドが考えられる。例えば、特許文献1には、窒素もしくは燐をドーピングしたn型半導体ダイヤモンドを熱陰極材料として使用する旨の記載がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−339632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱陰極材料にダイヤモンドを使用したとしても、熱陰極に対して加熱が必要であり、その結果、熱陰極からの放熱により他の部材に与える熱ダメージの問題から熱電子源の集積化および大面積化が難しいという問題とともに、熱電子源の消費電力が多くなり、熱電子源の電力効率が著しく低いという問題が生じていた。
【0007】
また熱陰極は、その使用時には温度が高くなっている必要があるため、温度が低い状態から通電しても高速に応答できず、このため熱陰極を常時加熱しておき、熱陰極上に設けたグリッド電極により熱電子流を制御する必要があり、この常時加熱のための待機電力により消費電力が多くなり、熱電子源の電力効率が著しく低いという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、熱陰極からの放熱を減らすことにより、集積化および大面積化を可能とするとともに、消費電力を少なくでき、さらに、通電後の高速応答を可能とすることにより、待機電力を不要とし消費電力を少なくできる熱電子源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、表面に複数の微細な穴を有する導電性の熱陰極と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、集積化および大面積化が可能になるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明によれば、消費電力が少なくなるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる熱電子源の最良な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下において示す図面では、説明の便宜上、図面の各部材の縮尺を異ならせて記載してある場合がある。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる熱電子源の上面図と側面図である。また、図2は、図1の熱電子源のA−A矢視断面図である。熱電子源1は、基板2、熱陰極3、支持部4、および、固定部5を備えて構成される。
【0014】
基板2は、Si(シリコン)からなる。熱陰極3は、電流が流れ、加熱されると熱電子を放出する。熱陰極3は、8μm(マイクロメートル)程度の厚さのn型多結晶ダイヤモンド膜からなり、その上側の表面に多数のマイクロキャビティ(微細な穴)6を有する。図では、マイクロキャビティ6は正方形をしているが、長方形や円形でもよく、その形状は特に限定されるものではない。マイクロキャビティ6が円形の場合、その開口径は、1μm程度であり、その深さは、2〜4μm程度である。なお、熱陰極3がマイクロキャビティ6を有する理由は、後ほど詳しく説明する。
【0015】
支持部4は、熱陰極3を支持し、固定部5は、支持部4を基板2へ固定する。従って、熱陰極3は、支持部4と固定部5とにより、基板2から分離し空中に浮いた構造となっている。本実施の形態では支持部4および固定部5は、熱電子源1の製造方法の関係でn型多結晶ダイヤモンド膜からなるが、他の物質であってもよい。
【0016】
次に、熱陰極3がマイクロキャビティ6を有する理由を説明する。白熱光源の分野においては、マイクロキャビティー光源と呼ばれる次世代の高発光効率白熱光源が期待されている。この高発光効率白熱光源は、フィラメント表面に1μmよりも小さい径のマイクロキャビティー(微細な穴)が多数形成されており、その穴径は、カットオフ(遮断)波長λcの1/2となっている。そして、この高発光効率白熱光源に電流を流すと、カットオフ波長λc以上の波長の光を放出しないというものである。
【0017】
この高発光効率白熱光源は、Waymouthが提案し、その発光特性を予測したもので、例えば、文献(関根征士:照明学会誌,vol.87,p.251,2003)に、その予測の紹介と文献の著者による詳細な理論検討の結果が紹介されている。
【0018】
図3は、マイクロキャビティ光源の構造を示す概略図である。マイクロキャビティ光源(高発光効率白熱光源)7は、その熱フィラメント8がW(タングステン)からなり、その表面にはマイクロキャビティ(微細な穴)9が多数存在している。マイクロキャビティ9は正方開口の導波管であり、そのカットオフ波長λcは700nm(ナノメートル)である。その正方開口の一辺は、λc/2=350nmで、深さはカットオフ波長λcの数倍(1〜5倍程度)となっている。
【0019】
そして、このように形成されたマイクロキャビティ9からは、カットオフ波長λc以上のフォトン(光子)は放出されないので、700nm以上の波長を持つ赤外光は放射されない。一方、カットオフ波長λcより短波長である可視光については、マイクロキャビティ9から何の障害も無く放射される。従って、波長700nm以上の赤外光が放出される場所は、隣接するマイクロキャビティ9間の分離壁の外側表面だけとなり、マイクロキャビティ光源7の赤外光の放射量は、通常の白熱光源(熱フィラメント)と比べて、非常に少なくなる。この結果、マイクロキャビティ光源7は、投入する電力の大部分が赤外光放射の形で失われる通常の白熱光源(熱フィラメント)と比べて、電力効率が高くなる。
【0020】
図4は、白熱光源と熱電子源における光の波長と放射エネルギーの関係を示したグラフである。図をみると、フィラメントの温度がT=2000Kになる白熱光源では、カットオフ波長λc=700nm以上の赤外領域での放射エネルギーが大部分であることがわかる。従って、マイクロキャビティ光源7では、可視発光に障害を与えること無く赤外放射が抑えられるため、発光効率が大幅に向上することが期待されている。
【0021】
本実施の形態にかかる熱電子源も同様な原理に基づくものである。通常の熱電子源では、熱陰極であるフィラメントからの赤外放射とフィラメント支持部分からの熱伝導とにより失われるエネルギーが加熱電力として必要となるが、フィラメントの温度が高い(1000℃以上)ため赤外放射の割合が圧倒的である。
【0022】
これに対し、熱電子源1では、熱陰極3の表面には多数のマイクロキャビティー6が形成されているため、固定部5を介して通電加熱を行なっても、赤外放射を抑えることが可能である。ここで、熱電子源は、白熱光源と比べてフィラメントの温度が低いため、赤外放射される波長が白熱光源よりも長く、カットオフ波長λcの値を大きくしても赤外放射の大部分を抑えることが可能である。図をみると、例えば、フィラメントの温度がT=800Kになる熱電子源の場合、カットオフ波長λc=2μmとすると、赤外放射の大部分が抑えられることがわかる。
【0023】
従って、マイクロキャビティ6は、半導体プロセスで容易に作成が可能なマイクロメートル単位の開口径があればよい。本実施の形態では、マイクロキャビティ9の開口径は、1μm程度としているが、赤外放射を抑えたい割合や熱電子源の製造プロセス等により、適宜、変更可能である。
【0024】
さらに、熱陰極3は、熱陰極材料に電子を放出しやすいn型多結晶ダイヤモンド膜を使用しており、通常の熱電子源よりさらに動作温度が低い(400〜600℃)ため、マイクロキャビティ光源で問題となる高熱によるキャビティ構造の形状劣化も問題とならない。さらに、熱陰極3は、赤外放射が抑えられているため放熱量が少ないことと、その動作温度が低いこととに加え、基板2から分離し空中に浮いた構造をしているため、支持部4を介して熱伝導により失われるエネルギーも小さい。
【0025】
結果として、熱電子源1を加熱する電力が非常に少なくなるので、熱電子源1は消費電力を少なくすることとができ、電力の高効率化が達成できる。さらに、熱陰極から発せられる赤外放射が抑えられているため、放熱量も少なくなり、熱陰極の周囲に存在する部材に対して熱によるダメージを与えることが少なくなる。以上の理由により、熱電子源1は集積化および大面積化に適したものとなる。これは大面積の電子源、例えば電子源を集積した平面ディスプレイや電子ビーム露光装置に適用する際には大きな利点となる。
【0026】
図5は、熱電子源1を使用した回路の一例を示した図である。図をみると、熱電子源1に通電加熱のための電源10が接続され、さらに、熱電子源1と電源10の間に電流をオン・オフできるスイッチ11が設けられている。
【0027】
通常の熱電子源の場合、熱電子源の温度を高温まで上げる必要があるため、電源を入れてから動作可能状態になるまで時間がかかり、高速に応答することができない。このため、熱電子源を使用する場合、熱陰極を常時加熱しておき、熱陰極上に設けたグリッド電極により熱電子流を制御するという方法が一般的である。この常時加熱のための待機電力により、通常の熱電子源では、電力効率が著しく低いという問題がある。
【0028】
一方、本実施の形態では、熱電子源1の赤外放射と熱伝導によるエネルギー損失が抑えられていること、熱電子源1の動作温度が低いこと、および、熱電子源1の大きさが微小でありその熱容量が小さいことから、常時加熱をせずに、通電加熱により高速に温度を上げ、熱電子電流をオンすることが可能である。
【0029】
これに対し、熱電子電流をオフする場合、従来のように熱電子源の温度を下げて熱電子電流をオフする方法では、熱電子源1のエネルギー損失が小さいため、高速に応答することができない。そのため、本実施の形態では、熱電子源1と電源10の間にスイッチ11を設け、このスイッチ11をオフすることにより熱電子源1への電流の供給を絶ち、熱電子源1の熱電子電流を強制的にオフする方法を採用している。
【0030】
結果として、熱電子源1は、常時加熱をせずに通電加熱のみで高速に応答することができるため待機電力が不要となり、消費電力を少なくすることとができるので、電力の高効率化が達成できる。
【0031】
熱電子源1の製造方法について説明する。図6−1〜図6−7は、第1の実施の形態にかかる熱電子源1の断面工程図であり、図1のA−A矢視断面に相当する。初めに、図6−1に示すようにSi基板2を準備し、その上に犠牲層となるSiO2(二酸化シリコン)膜12を成膜し、図のようにパターンニングする。
【0032】
次に、図6−2に示すようにマイクロ波プラズマCVD法により、8μm程度の厚さのn型多結晶ダイヤモンド膜13を形成する。n型多結晶ダイヤモンド膜13の成長条件は、マイクロ波パワーを1.5kW、水素流量を200sccm、メタンガス流量を4sccmとし、原料ガスのメタン濃度は2%とする。そして原料ガスの圧力は80Torrとし、基板は750℃に加熱する。n型のドーパントには燐を用い、ダイヤモンド膜成長時にPH3(リン化水素)ガスを同時に供給する。
【0033】
次に、図6−3に示すようにAl(アルミニウム)膜を成膜し、パターンニングを行い第1のマスク14を形成する。そして、第1のマスク14を用いてn型多結晶ダイヤモンド膜13に対して、RIE(反応性イオンエッチング)を用いた異方性エッチングを行う。RIEはCF4(四フッ化炭素)ガスとO2(酸素)ガスとを用いて行い、その後、第1のマスク14を除去する。その結果、図6−4に示すように、n型多結晶ダイヤモンド膜13は、熱陰極3と支持部4に分離される。
【0034】
次に、図6−5に示すように、再度Al膜を成膜し、パターンニングを行い第2のマスク15を形成する。次に、第2のマスク15を用いて、n型多結晶ダイヤモンド膜13の熱陰極3の部分に対して、RIEを用いた異方性エッチングを行い、その後、第2のマスク15を除去する。その結果、図6−6に示すように、開口径Cが1μm程度で、深さDが2〜4μm程度である多数の微細な穴6が形成される。最後に、図6−7に示すように、犠牲層であるSiO2膜12を除去し、熱電子源1が完成する。
【0035】
このように、第1の実施の形態にかかる熱電子源によれば、熱陰極に多数のマイクロキャビティを設けることにより、熱陰極からの赤外放射を抑えることができるので、放熱量を減らすことができ、周囲に存在する部材に対して熱によるダメージを与えることを少なくすることが可能となる。この結果、集積化および大面積化が可能となる。
【0036】
さらに、第1の実施の形態にかかる熱電子源によれば、熱陰極に多数のマイクロキャビティを設けることにより、熱陰極からの赤外放射を抑えることができるので、放熱量を減らすことができ、消費電力を少なくすることが可能となる。
【0037】
さらに、第1の実施の形態にかかる熱電子源によれば、熱陰極が基板から分離し空中に浮いた構造をしているため、支持部を介して熱伝導により失われるエネルギーを小さくすることができるので、消費電力を少なくすることが可能となる。
【0038】
さらに、第1の実施の形態にかかる熱電子源によれば、熱陰極にn型ダイヤモンドを使用することにより、その動作温度を低くすることができるので、加熱に要する電力を低減することができ、消費電力を少なくすることが可能となる。
【0039】
さらに、第1の実施の形態にかかる熱電子源によれば、常時加熱をせずに通電加熱のみで高速に応答することができるため待機電力が不要となり、消費電力を少なくすることが可能となる。
【0040】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、第1の実施の形態と比べて、熱陰極の構成が異なっており、さらに熱陰極の下方にリフレクターが設けられている。第2の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。本実施の形態にかかる熱電子源の構成について、第1の実施の形態と異なる部分を説明する。他の部分については第1の実施の形態と同様であるので、同一の符号が付された箇所については、上述した説明を参照し、ここでの説明を省略する。
【0041】
図7は、第2の実施の形態にかかる熱電子源の上面図と側面図である。また、図8は、図7の熱電子源のA−A矢視断面図である。熱電子源21は、基板2、熱陰極23、支持部24、固定部25、および、リフレクター26を備えて構成される。
【0042】
熱陰極23は、電流が流れ、加熱されると熱電子を放出する。熱陰極23は、その上面に多数の微細な穴(マイクロキャビティ)6を有する8μm程度の厚さのポリシリコン膜27と、ポリシリコン膜27の上に成膜されている100nm程度のn型ナノダイヤモンド膜28とで構成されている。このように、低温成長できるナノダイヤモンド膜を熱陰極材料として使用することにより、以下で説明する熱電子源21の製造方法の自由度を向上させることが可能となる。
【0043】
支持部24は、熱陰極23を支持し、固定部25は、支持部24を基板2へ固定する。従って、熱陰極23は、支持部24と固定部25とにより、基板2から分離し空中に浮いた構造となっている。本実施の形態では支持部24および固定部25は、熱電子源1の製造方法の関係でポリシリコン膜からなるが、他の物質であってもよい。リフレクター26は、上方に存在する熱陰極23とその大きさがほぼ重なるように、基板2上に設けられ、熱陰極23の底部からの赤外放射を反射する。リフレクター26は、W(タングステン)からなる。
【0044】
このようにリフレクター26を設けることにより、熱陰極23底部からの赤外放射は、リフレクター26で反射され、再び熱陰極23へ戻る。このため、基板2に対して熱によるダメージを与えることを少なくすることが可能となる。この結果、集積化および大面積化が可能となる。
【0045】
さらに、この反射した赤外放射によって、熱陰極23が加熱され、その温度を素早く上昇させることが可能となる。
【0046】
熱電子源21の製造方法について説明する。図9−1〜図9−6は、第2の実施の形態にかかる熱電子源21の断面工程図であり、図7のA−A矢視断面に相当する。初めに、図9−1に示すようにSi基板2を準備し、その上にリフレクター26となるW層を成膜し、図のようにパターンニングする。次に、図9−2に示すように、犠牲層となるPSG(リン珪素ガラス)膜29を成膜し、図のようにパターンニングする。
【0047】
次に、8μm程度の厚みのポリシリコン膜27を成膜する。そして、第1のマスクを形成後、RIEを用いた異方性エッチングを行い、第1のマスクを除去する。第1のマスクには、Al膜が使用される。その結果、図9−3に示すように、ポリシリコン膜27は、熱陰極23を構成する部分と支持部24とを含む形状に分離される。
【0048】
次に、第2のマスクを形成後、RIEによる異方性エッチングを行い、第2のマスクを除去する。第2のマスクには、Al膜が使用される。その結果、図9−4に示すように、熱陰極23を構成する部分のポリシリコン膜27に、開口径Cが1μm程度で、深さDが2〜4μm程度である多数の微細な穴6が形成される。
【0049】
次に、図9−5に示すように、熱陰極23を構成する部分のポリシリコン膜27上に、マイクロ波プラズマCVD法により、100nm程度の薄いn型ナノダイヤモンド膜28を形成する。第1の実施の形態のn型多結晶ダイヤモンド膜13は、メタンと水素ガスを用いて成膜されたが、本実施の形態のn型ナノダイヤモンド膜28は、メタンとアルゴンガスを用いて成膜される。そして、n型多結晶ダイヤモンド膜13の結晶粒のサイズが一般にマイクロメートル単位であるのに対し、n型ナノダイヤモンド膜28の結晶粒のサイズはナノメートル単位である。このため、n型ナノダイヤモンド膜28は、本実施の形態のような薄い膜を形成することが可能であり、凹凸に対する被覆性も良く、200〜400℃の低温での成膜が可能である。また、n型のドーパントには窒素を用い、ダイヤモンド膜成長時にN2ガスを同時に供給する。
【0050】
なお、本工程を行う前に、n型ナノダイヤモンド膜28を形成しない部分に、あらかじめ第3のマスクをする工程と、本工程を行った後に、当該第3のマスクを除去する工程が必要であるが、詳しい説明は省略する。
【0051】
最後に、図9−6に示すように、犠牲層であるPSG膜29を除去し、熱電子源21が完成する。
【0052】
このように、第2の実施の形態にかかる熱電子源によれば、リフレクターを設けることにより、熱陰極から基板へ向かう赤外放射を反射させることができるので、基板が吸収する放熱量を減らすことができ、基板に対して熱によるダメージを与えることを少なくすることが可能となる。この結果、集積化および大面積化が可能となる。
【0053】
さらに、第2の実施の形態にかかる熱電子源によれば、リフレクターを設けることにより、リフレクターが反射した赤外放射によって熱陰極23が加熱され、その温度を素早く上昇させることができるので、加熱に要する電力を低減することができ、消費電力を少なくすることが可能となる。
【0054】
さらに、第2の実施の形態にかかる熱電子源によれば、低温成長できるナノダイヤモンド膜を熱陰極材料として使用しているので、熱電子源の製造方法の自由度を向上させることが可能となる。
【0055】
(変形例)
なお、本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではない。例えば、各実施の形態では、Si基板を用いているが、ガラス基板を用いることも可能である。ガラス基板を使用した場合、大面積の熱電子源の作成が容易になるという利点がある。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、熱陰極を用いて放電を行う放電装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1の実施の形態にかかる熱電子源の上面図と側面図である。
【図2】図1の熱電子源のA−A矢視断面図である。
【図3】マイクロキャビティ光源の構造を示す概略図である。
【図4】白熱光源と熱電子源における光の波長と放射エネルギーの関係を示したグラフである。
【図5】熱電子源を使用した回路の一例を示した図である。
【図6−1】第1の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図6−2】第1の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図6−3】第1の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図6−4】第1の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図6−5】第1の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図6−6】第1の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図6−7】第1の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図7】第2の実施の形態にかかる熱電子源の上面図と側面図である。
【図8】図7の熱電子源のA−A矢視断面図である。
【図9−1】第2の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図9−2】第2の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図9−3】第2の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図9−4】第2の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図9−5】第2の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【図9−6】第2の実施の形態にかかる熱電子源の断面工程図である。
【符号の説明】
【0058】
1、21 熱電子源
2 基板
3、23 熱陰極
4、24 支持部
5、25 固定部
6、9 マイクロキャビティ(微細な穴)
7 マイクロキャビティ光源(高発光効率白熱光源)
8 熱フィラメント
10 電源
11 スイッチ
12 SiO2(二酸化シリコン)膜
13 n型多結晶ダイヤモンド膜
14 第1のマスク
15 第2のマスク
26 リフレクター(W層)
27 ポリシリコン膜
28 n型ナノダイヤモンド膜
29 PSG(リン珪素ガラス)膜
λc カットオフ(遮断)波長
C 開口径
D 深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、表面に複数の微細な穴を有する導電性の熱陰極と、
を備えることを特徴とする熱電子源。
【請求項2】
前記微細な穴の開口部の寸法は、所定の赤外線波長の略2分の1に相当すること、
を特徴とする請求項1に記載の熱電子源。
【請求項3】
前記微細な穴の開口径は、1マイクロメートルであり、前記穴の深さは、2〜4マイクロメートルであること、
を特徴とする請求項1または2に記載の熱電子源。
【請求項4】
前記基板と前記熱陰極の間に設けられ、前記熱陰極を前記基板から浮かした状態で支持し、
前記熱陰極へ電流を供給するとともに、前記熱陰極から前記基板への熱伝導を抑制する支持部、
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱電子源。
【請求項5】
前記基板と前記熱陰極との間に、前記熱陰極からの赤外放射を反射する反射部、
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱電子源。
【請求項6】
前記支持部に接続され、前記熱陰極へ電流を供給する電源と、
前記支持部に接続され、前記電流を遮断するスイッチと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱電子源。
【請求項7】
前記熱陰極は、n型ダイヤモンドを含むこと、
を特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱電子源。
【請求項8】
前記熱陰極は、シリコンと、前記シリコンが前記基板と向かい合う面と反対側の表面に成膜されたn型ダイヤモンドとを含むこと、
を特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱電子源。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図6−3】
image rotate

【図6−4】
image rotate

【図6−5】
image rotate

【図6−6】
image rotate

【図6−7】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9−1】
image rotate

【図9−2】
image rotate

【図9−3】
image rotate

【図9−4】
image rotate

【図9−5】
image rotate

【図9−6】
image rotate