説明

熱電池

【課題】高容量を維持しつつ、負極の成形性、化学的安定性、および反応性を向上させて、高負荷放電特性に優れた高信頼性の熱電池を提供する。
【解決手段】熱電池は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配された電解質からなる素電池を複数個備え、前記電解質は前記熱電池の作動温度で溶融する塩を含み、前記負極が活物質としてリチウム含有複合窒化物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電池に関し、特に熱電池の負極に用いられる活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱電池は、負極、正極、および両電極間に介在させた電解質からなる素電池を複数個備える。電解質には、高温で溶融する塩が用いられる。この電解質は、常温では、イオン伝導性を有しないため、熱電池は不活性状態である。電解質は高温に加熱されると溶融状態となり、良好なイオン伝導体となるため、熱電池は活性状態となり、外部へ電気を供給することができる。
【0003】
熱電池は貯蔵型電池の一種であり、電解質が溶融しない限り、電池反応は進行しない。このため、5〜10年またはそれ以上の期間貯蔵した後でも、製造直後と同じ電池特性を発揮することができる。また、熱電池では、高温下で電極反応が進行する。このため、水溶液電解液や有機電解液などを用いる他の電池に比べて電極反応が格段に速く進行する。従って、熱電池は優れた高負荷放電特性を有する。さらに、熱電池は、加熱手段によっても異なるが、電池使用時に電池に起動信号を送ると1秒以内の短時間で電力を取り出すことができるという利点を有する。このため、その特性を活かして、誘導機器といった各種防衛機器の電源や緊急用電源として好適に用いられている。
【0004】
これらの特性を向上させることを目的として、負極活物質にリチウムを用いた熱電池の研究が行われている。例えば、負極活物質に、リチウム金属や、リチウム金属と他の金属からなるリチウム合金を用いることが検討されている。
リチウム金属は電解質より低融点(181℃)である。このため、熱電池での一般的な電池作動温度域(400〜600℃)では完全に液化し、溶融したリチウムが負極から漏れだして、これが正極に達することにより短絡を生じる可能性がある。従って、リチウムを固定化する技術が必要となる。リチウムの固定化方法としては、例えば、リチウムを鉄粉末等の金属粉末に保持させて負極を構成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
負極活物質にリチウム合金を用いた負極の作製方法としては、負極の成形性や強度の向上を目的として、リチウム合金粉末を金属粉末と混合し、この混合物を加圧成形することが提案されている。また、容量の向上を目的として、リチウム合金粉末を共晶組成の塩の混合物(以下、共晶塩と表す)と混合することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、リチウム金属を用いる場合、上記のようにリチウム金属の保持材を添加する必要があり、保持材を添加した分だけリチウム金属の量が減少するため、負極の容量が低下する。リチウム金属自体についても、取り扱いや設備上の制約事項が多い。場合によっては、リチウム金属を溶融する作業が必要となるなど煩雑な工程を必要とする。
【0006】
また、リチウム合金を用いる場合、上記のように金属粉末や塩を添加する必要があり、金属粉末や塩を添加した分だけリチウム合金の量が減少するため、負極の容量が低下する。また、リチウム合金自体が加工性に乏しい性質を有する。
さらに、400〜600℃の高温の作動温度領域では、上記のようにリチウム金属に保持材を添加した場合でも、負極からのリチウムの漏出を確実に防ぐことは困難である。また、上記のようにリチウム合金に金属粉末や塩を添加した場合でも、負極の割れやひびの発生を確実に防ぐことは困難である。
【0007】
ところで、熱電池では、電池作製時においてリチウムを含む活物質が水分と触れるのを防ぐため、乾燥空気中で作業を行う。しかし、乾燥空気中に窒素が存在すると、それがリチウム金属と反応して、電気化学的に不活性な窒素化合物(Li3Nなど)が自然に形成される。このため、上記のような窒素化合物を形成しないように、より厳密に作業環境を設定・管理する必要がある。特に、優れた高負荷放電特性を得るためには、この点が非常に重要となる。
【0008】
非水電解質二次電池では、充放電サイクル特性の向上を目的として、一般式:LiabN(式中、Mは遷移金属、aは活物質中のリチウムの含有量を示し、充放電に伴いその値は変化する。)で表されるリチウム含有複合窒化物を負極活物質に用いることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、熱電池では、上記の理由により、これまで、高負荷放電特性の向上を目的として活物質にリチウムを含む窒素化合物を用いることは検討されていなかった。
【特許文献1】特開昭61−230263号公報
【特許文献2】特開平6−203844号公報
【特許文献3】特許第3277631号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するため、高容量を維持しつつ、負極の成形性、化学的安定性、および反応性を向上させて、高負荷放電特性に優れた高信頼性の熱電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配された電解質からなる素電池を複数個備えた熱電池であって、前記電解質は前記熱電池の作動温度で溶融する塩を含み、前記負極が活物質としてリチウム含有複合窒化物を含むことを特徴とする。
前記リチウム含有複合窒化物は、一般式:Li3-x-yxN(式中、MはCo、Ni、Cu、MnおよびFeからなる群より選ばれた少なくとも一種であり、xおよびyは、それぞれ0.1≦x≦0.8および0≦y≦2−xを満たす。)で表される化合物であるのが好ましい。
【0011】
前記負極は、さらに、鉄、銅、ニッケル、マンガン、および炭素材料からなる群より選ばれた少なくとも一種を含むのが好ましい。
前記負極は、さらに前記熱電池の作動温度で溶融する塩を含むのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高容量を維持しつつ、負極の成形性、化学的安定性、および反応性が向上するため、高負荷放電特性に優れた高信頼性の熱電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の熱電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配され、熱電池の作動温度で溶融する塩(溶融塩)を含む電解質(換言すると、常温では不活性であり、所定温度で溶融することにより活性となる電解質)とからなる素電池を複数個備え、前記負極が活物質としてリチウム含有複合窒化物を含む点に特徴を有する。
上記のように負極活物質にリチウム含有複合窒化物を用いることにより、高容量を有するとともに、負極の成形性、化学的安定性、および放電時の反応性が向上するため、放電特性、特に高負荷放電特性に優れた高信頼性の熱電池が得られる。
【0014】
リチウム含有複合窒化物は、例えば、Li3NにおけるLiの一部を遷移金属Mで置換した一般式:Li3-x-yxNで表される化合物である。
MはCo、Ni、Cu、MnおよびFeからなる群より選ばれた少なくとも一種の遷移元素であり、xおよびyは、それぞれ0.1≦x≦0.8および0≦y≦2−xを満たすのが好ましい。
ここで、xは遷移元素Mの置換量を表す。yは化学量論組成からのずれを表し、y=0のとき、化学量論組成であることを示す。放電が進むにつれて、yの値が増加する。従って、y>0の場合は、放電時の組成に相当する。
【0015】
x<0.1では負極容量が低下する。0.8<xでは単一相からなるリチウム含有複合窒化物が得られない。2−x<yでは、負極電位が1.5V vs. Li/Li+を超えて電池電圧が低下し、放電特性が十分に得られない。
高容量が得られる点で、元素MはCoがより好ましい。結晶性の向上などにより放電電圧の平坦性を維持することができるため、xは0.2〜0.6がより好ましい。高容量が得られるため、yは0.8〜1.9がより好ましい。
【0016】
上記リチウム含有複合窒化物は、例えば、出発物質として窒化リチウム(Li3N)の粉末と、置換種である遷移金属Mの粉末とを所定量混合し、高純度の窒素雰囲気中で焼成することにより得られる。
【0017】
ここで、本発明の熱電池の一実施の形態を、図1を参照しながら説明する。
素電池7と発熱剤5とを交互に複数個積み重ねた発電部が、金属製の外装ケース1に収納されている。発電部の最上部には、着火パッド4が配され、着火パッド4の上部に近接して点火栓3が設置されている。発電部の周囲には導火帯6が配されている。発熱剤5は鉄粉を含み、導電性を有するため、素電池7は発熱剤5を介して電気的に直列に接続されている。発熱剤5は、例えば、FeとKClO4の混合物からなり、電池の活性化時には発熱剤5の燃焼にともないFe粉が焼結するため、放電初期(燃焼初期)から放電末期(燃焼末期)まで、発熱剤5の導電性は維持される。
【0018】
外装ケース1は、一対の点火端子2、ならびに正極端子10aおよび負極端子10bを備えた電池蓋11により封口されている。正極端子10aは、正極リード板を介して発電部最上部の素電池7の正極に接続されている。一方、負極端子10bは、負極リード板8を介して発電部最下部の素電池7の負極に接続されている。電池蓋11と着火パッド4との間には、断熱材9aが配され、外装ケース1と発電部との間には、断熱材9bが充填されている。
【0019】
素電池7は、図2に示すように、負極12、正極13、および負極12と正極13との間に配される電解質14からなる。
負極12は、図2に示すように、負極活物質としてリチウム含有複合窒化物を含む負極合剤層15、および負極合剤層15を収納する鉄製のカップ状集電体16からなる。負極合剤層15は、高容量を有するとともに、化学的に安定であり、反応性に優れた上記負極活物質を含む。このため、負極合剤層15の成形性が向上し、高負荷放電時の容量が大幅に増大する。
【0020】
負極合剤層15は、負極合剤層15の電子伝導性を向上するために、導電材として、鉄、銅、ニッケル、マンガン、炭素材料、もしくはそれらの混合物を含むのが好ましい。負極12の容量が低下することなく、負極合剤層15の電子伝導性が十分に向上するため、負極合剤層15中の導電材の含有量は、1〜10重量%であるのが好ましい。
【0021】
負極合剤層15は、負極合剤層15のイオン伝導性を向上するために、後述する電解質14に用いられる塩を含むのが好ましい。負極12の容量が低下することなく、負極合剤層15のイオン伝導性が十分に向上するため、負極合剤層15中の塩の含有量は、1〜25重量%であるのが好ましい。
正極13は、例えば、FeS2、MnO2、V25などの正極活物質と、後述する電解質14に用いられる電解質との混合物からなる。
【0022】
電解質14は、例えば、高温すなわち熱電池の作動温度で溶融する塩と、MgO等の保持材との混合物からなる。塩としては、アルカリ金属塩、またはその混合物もしくは共晶塩など熱電池で使用可能なものであればよい。例えば、LiClもしくはKClなどのアルカリ金属塩、またはLiCl−KCl、LiCl−LiBr−LiF、LiCl−LiBr−KBr、もしくはLiNO3−KNO3などの共晶塩が用いられる。
【0023】
上記導電材や塩は、負荷電流や負極合剤層15の成形性などを考慮して、単独もしくは組み合わせて用いてもよい。
負極合剤層15は、例えば、リチウム含有複合窒化物粉末を加圧成形することにより得られる。負極合剤層15の成形体としての強度を上げるために、加圧成形時に、リチウム含有複合窒化物の粉末に、上記導電材の粉末等を添加してもよい。
【0024】
上記熱電池の動作を以下に説明する。
点火端子2に接続された電源より、点火端子2に高電圧が印加されると点火栓3が発火する。これにより、着火パッド4および導火帯6へ燃焼が伝わり、発熱剤5が燃焼して素電池7が加熱される。そして、素電池7の電解質14が溶融して、溶融塩すなわちイオン伝導体となる。このようにして、電池が活性化し、放電が可能となる。
【0025】
なお、上記では電池内部に点火栓を備え、電池内部より発電部を加熱して電池を活性化する内部加熱方式の熱電池について説明したが、本発明は、電池内部に点火栓を備えずに、バーナ等により電池外部から発電部を加熱して電池を活性化する外部加熱方式の熱電池にも適用することができる。
以下に、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
《実施例1》
以下の手順で図2に示す素電池を作製した。
(1)負極の作製
LiとCoの原子比が2.6:0.4となるようにLi3N粉末とCo粉末とを混合した。そして、この混合物を高純度(99.9%以上)の窒素雰囲気下において700℃で8時間焼成して、Li2.6Co0.4Nの焼成物を得た。得られた焼成物を、ボールミルなどを用いて粉砕した後、篩にかけて、100メッシュ以下のLi2.6Co0.4N粉末を得た。
【0027】
上記方法で得られた負極活物質としてのLi2.6Co0.4N粉末を2ton/cm2の圧力で直径24mmおよび厚さ0.7mmの円盤状に加圧成形して、負極合剤層15を得た。そして、負極合剤層15をステンレス鋼SUS308製のカップ状の集電体16に入れ、集電体16の開口端部を内方に折り曲げて、負極合剤層15の周縁部をかしめて、集電体16の折り曲げ部と底部との間で締め付けた。このようにして、負極合剤層15を集電体16内に固定し、直径26mmおよび厚さ1.2mmの円盤状の負極12を得た。
【0028】
(2)素電池の作製
上記で得られた負極12を、電解質14を介して正極13と重ね合わせて素電池7を得た。
電解質14は、共晶塩としてLiCl−KClと、保持材としてMgOとを重量比60:40で混合し、得られた混合物を2ton/cm2の圧力で直径26mmおよび厚さ0.4mmの円盤状に加圧成形して得た。
また、正極13は、正極活物質としてFeS2粉末と、共晶塩としてLiCl−KClとシリカ粉末を重量比70:20:10で混合し、得られた混合物を2ton/cm2の圧力で直径26mmおよび厚さ0.4mmの円盤状に加圧成形して得た。
【0029】
このとき、負極の性能を比較するため、負極の容量に比べて正極の容量が大きくなるように正極活物質量および負極活物質量を調整した。
なお、上記素電池の作製は、露点−45℃以下の乾燥空気中で水分の影響を極力排除した環境下で行った。また、リチウム含有複合窒化物を取り扱う場合は、必要に応じ高純度(99.9%以上)の窒素雰囲気で作業した。
【0030】
《実施例2》
実施例1のLi2.6Co0.4N粉末と、炭素材料としてケッチェンブラックとを重量比95:5で混合した。この混合粉末を2ton/cm2の圧力で直径24mmおよび厚さ0.7mmの円盤状に加圧成形して負極合剤層を得た。この負極合剤層を用いて実施例1と同様の方法により素電池を構成した。
【0031】
《実施例3》
実施例1のLi2.6Co0.4N粉末と、共晶塩としてLiCl−KClとを重量比95:5で混合した。この混合粉末を2ton/cm2の圧力で直径24mmおよび厚さ0.7mmの円盤状に加圧成形して負極合剤層を得た。この負極合剤層を用いて実施例1と同様の方法により素電池を構成した。
【0032】
《実施例4》
実施例1のLi2.6Co0.4N粉末と、炭素材料としてケッチェンブラックと、共晶塩としてLiCl−KClとを重量比90:5:5で混合した。この混合粉末を2ton/cm2の圧力で直径24mmおよび厚さ0.7mmの円盤状に加圧成形して負極合剤層を得た。この負極合剤層を用いて実施例1と同様の方法により素電池を構成した。
【0033】
《実施例5》
Co粉末の代わりにNi粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりLi2.6Ni0.4N粉末を作製した。負極活物質にLi2.6Ni0.4N粉末を用いて実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0034】
《実施例6》
実施例1のLi2.6Co0.4N粉末の代わりに実施例5のLi2.6Ni0.4N粉末を用いた以外は、実施例4と同様の方法により素電池を作製した。
【0035】
《実施例7》
Co粉末の代わりにCu粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりLi2.6Cu0.4N粉末を作製した。負極活物質にLi2.6Cu0.4N粉末を用いて実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0036】
《実施例8》
実施例1のLi2.6Co0.4N粉末の代わりに実施例7のLi2.6Cu0.4N粉末を用いた以外は、実施例4と同様の方法により素電池を作製した。
【0037】
《実施例9》
Co粉末の代わりにMn粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりLi2.6Mn0.4N粉末を作製した。負極活物質にLi2.6Mn0.4N粉末を用いて実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0038】
《実施例10》
実施例1のLi2.6Co0.4N粉末の代わりに実施例9のLi2.6Mn0.4N粉末を用いた以外は、実施例4と同様の方法により素電池を作製した。
【0039】
《実施例11》
Co粉末の代わりにFe粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりLi2.6Fe0.4N粉末を作製した。負極活物質にLi2.6Fe0.4N粉末を用いて実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0040】
《実施例12》
実施例1のLi2.6Co0.4N粉末の代わりに実施例11のLi2.6Fe0.4N粉末を用いた以外は、実施例4と同様の方法により素電池を作製した。
【0041】
《実施例13〜16》
LiとCoの原子比が3−x:x(x=0.05、0.1、0.8または0.9)となるようにLi3N粉末と、Co粉末とを混合した以外は、実施例1と同様の方法によりLi3-xCoxN(x=0.05、0.1、0.8または0.9)の負極活物質粉末を得た。得られた負極活物質粉末を用いて実施例1と同様の方法によりそれぞれ素電池を作製した。
【0042】
《実施例17〜20》
LiとNiの原子比が3−x:x(x=0.05、0.1、0.8または0.9)となるようにLi3N粉末と、Ni粉末とを混合した以外は、実施例5と同様の方法によりLi3-xNixN(x=0.05、0.1、0.8または0.9)の負極活物質粉末を得た。得られた負極活物質粉末を用いて実施例1と同様の方法によりそれぞれ素電池を作製した。
【0043】
《実施例21〜24》
LiとCuの原子比が3−x:x(x=0.05、0.1、0.8または0.9)となるようにLi3N粉末と、Cu粉末とを混合した以外は、実施例7と同様の方法によりLi3-xCuxN(x=0.05、0.1、0.8または0.9)の負極活物質粉末を得た。得られた負極活物質粉末を用いて実施例1と同様の方法によりそれぞれ素電池を作製した。
【0044】
《実施例25〜28》
LiとMnの原子比が3−x:x(x=0.05、0.1、0.8または0.9)となるようにLi3N粉末と、Mn粉末とを混合した以外は、実施例9と同様の方法によりLi3-xMnxN(x=0.05、0.1、0.8または0.9)の負極活物質粉末を得た。得られた負極活物質粉末を用いて実施例1と同様の方法によりそれぞれ素電池を作製した。
【0045】
《実施例29〜32》
LiとFeの原子比が3−x:x(x=0.05、0.1、0.8または0.9)となるようにLi3N粉末と、Fe粉末とを混合した以外は、実施例11と同様の方法によりLi3-xFexN(x=0.05、0.1、0.8または0.9)の負極活物質粉末を得た。得られた負極活物質粉末を用いて実施例1と同様の方法によりそれぞれ素電池を作製した。
【0046】
《比較例1》
図3の負極17を以下のように作製した。
平均粒径2μmの鉄粉を0.5ton/cm2の圧力で加圧成形して得られた鉄層18上に、直径24mmの円盤状のリチウム金属箔19を配した。さらにリチウム金属箔19の上面および周囲に鉄粉を配置し、2ton/cm2の圧力で直径26mmおよび厚さ1.2mmの円盤状に成形した。このようにして、図3に示すような、リチウム金属箔19が鉄層18で覆われた負極17を得た。なお、リチウム金属と鉄との重量比は20:80とした。この負極17を用いて実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0047】
《比較例2》
リチウム金属と鉄粉の重量比を35:65とした以外は、比較例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0048】
《比較例3》
リチウム金属と鉄粉の重量比を3:97とした以外は、比較例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0049】
《比較例4》
図4の負極20を以下のように作製した。
300℃に加熱された溶融状態のリチウム金属に平均粒径2μmの鉄粉を加えて均一に混合した。この時、リチウム金属と鉄粉との重量比を20:80とした。この混合物をシート状に引き伸ばした後、室温まで冷却し、リチウム金属箔を円盤状に打ち抜いて、直径24mmおよび厚さ0.7mmの負極合剤層21を得た。
【0050】
負極合剤層21をSUS308製のカップ状の集電体22に入れ、集電体22の開口端部を内方に折り曲げて、負極合剤層21の周縁部をかしめることにより、負極合剤層21を集電体22内に固定した。このとき、負極合剤層21の周縁部と集電体22の開口端部との間に、リング状の断熱体23を配した。このようにして、直径26mmおよび厚さ1.2mmの負極20を得た。
この負極20を用いて実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0051】
《比較例5》
リチウム金属と鉄粉との重量比を35:65とした以外は、比較例4と同様の方法により素電池を作製した。
【0052】
《比較例6》
リチウム金属と鉄粉と重量比を10:90とした以外は、比較例4と同様の方法により素電池を作製した。
【0053】
《比較例7》
Li−Al合金粉末(リチウム含有量:20重量%)と、アルミニウム金属粉末とを重量比50:50で混合した。Li2.6Co0.4N粉末の代わりに、この混合物を用いた以外は実施例1と同様の方法により、負極合剤層を得た。この負極合剤層を用いて、実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0054】
《比較例8》
Li−Al合金粉末(リチウム含有量:20重量%)と、アルミニウム金属粉末との重量比を80:20とした以外は比較例7と同様の方法により素電池を作製した。
【0055】
《比較例9》
Li−Al合金粉末(リチウム含有量:20重量%)と、アルミニウム金属粉末との重量比を20:80とした以外は比較例7と同様の方法により素電池を作製した。
【0056】
《比較例10》
Li−Al合金粉末(リチウム含有量:20重量%)と、共晶塩としてLiCl−KClとを重量比65:35で混合した。Li2.6Co0.4N粉末の代わりに、この混合物を用いた以外は実施例1と同様の方法により、負極合剤層を得た。この負極合剤層を用いて、実施例1と同様の方法により素電池を作製した。
【0057】
《比較例11》
Li−Al合金粉末と、共晶塩との重量比を75:25とした以外は、比較例10と同様の方法により素電池を作製した。
【0058】
《比較例12》
Li−Al合金粉末と、共晶塩との重量比を55:45とした以外は、比較例10と同様の方法により素電池を作製した。
【0059】
上記で作製した各電池について以下の評価を行った。
(3)負極合剤層の成形性の評価
各負極を10個ずつ作製し、負極合剤層の割れやひびの発生の有無を目視で確認した。
【0060】
(4)電池の放電特性の評価
温度の制御が可能な2枚の熱板で素電池を挟み試験用セルを構成した。そして、試験用セルを定電流放電し、素電池の放電容量を調べた。
放電試験は、熱板により、共晶塩としてLiCl−KClを用いた熱電池の平均的な動作温度である500℃で素電池を加熱し、0.5A/cm2の比較的小さい電流密度で定電流放電試験(終止電圧:0.4V)を行った。
【0061】
また、2A/cm2の大きな電流密度で定電流放電試験(終止電圧:0.4V)を行った。このとき、熱板により放電試験時の加熱温度を450℃、500℃、および550℃と変えてそれぞれ放電試験を行なった。
なお、電池の試験数は10個とした。
【0062】
(5)素電池の信頼性の評価
各素電池を10個ずつ準備し、上記の放電試験と同様に500℃に加熱しながら電流密度2A/cm2で定電流放電(終止電圧:0.4V)した。その後、各素電池の負極についてリチウム漏れの有無を目視で確認した。
上記の評価結果を表1および2に示す。なお、表1および2中の2A/cm2放電時の容量は、上記の0.5A/cm2放電時の容量の値を100とした相対値(指数)として表した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
実施例1〜32の負極では、いずれも負極合剤層に割れやひびは無く、成形性に起因する不具合はなかった。また、カーボンなどの導電材や共晶塩を負極合剤層に添加した場合でも、負極合剤層の成形性が悪くなることはなかった。また、実施例1〜32の素電池では、いずれもリチウム漏れはなかった。
一方、表2に示すように、負極中のリチウム含有量が多い比較例2、5、8および11では、割れやひびの発生した負極がみられ、負極合剤層の成形性が悪くなった。
【0066】
また、表2に示すように、比較例2および5では、上記の不具合以外に、保持材として用いた鉄粉に対するリチウム金属の相対比率が増大したため、高温放電時に保持材がリチウム金属を保持しきれず、局部的にリチウム金属が外部に漏れ出した負極がみられた。外部に漏れ出したリチウム金属は正極と接触してショートする可能性がある。
表1および2に示すように、電流密度0.5A/cm2の低負荷放電時では、実施例1〜32の素電池は、比較例1〜12の素電池と同等以上の容量を示した。
【0067】
また、実施例2〜4の素電池は、実施例1の素電池と比べて容量が増大した。
この理由は以下のように考えられる。実施例2の電池では、カーボンの添加により、Li2.6Co0.4N粉末における粒子間の接触抵抗が低減し、負極合剤層の電子伝導性が向上したためである。実施例3の電池では、共晶塩の添加により負極合剤層のイオン伝導性が向上したためである。実施例4の電池では、上記カーボンおよび共晶塩の添加による効果が発揮されて、負極合剤層の利用率が向上したためである。
【0068】
また、実施例6、8、10、および12の素電池は、それぞれ実施例5、7、9、および11の素電池に比べて容量が増大した。
負極活物質にリチウム金属を使用した比較例1、3、4および6の素電池では、リチウム金属の保持性を改善するために保持材として鉄粉を添加した。しかし、それを添加した分だけリチウム金属量が減少し、本実施例1〜32を超える容量は得られなかった。
【0069】
負極活物質にLi―Al合金を使用した比較例7および9の素電池では、負極合剤層の成形性を改善するためにAl粉末を添加した。しかし、それを添加した分だけ、Li−Al合金量が減少し、容量が低下した。
負極活物質にLi−Al合金を使用した比較例10および12の素電池では、負極合剤層の反応性を改善するために共晶塩を添加した。しかし、それを添加した分だけ、Li−Al合量が減少し、容量が低下した。
【0070】
電流密度2A/cm2の高負荷放電時では、実施例1〜32の電池では、いずれの作動温度でも、90以上の高容量が得られ、比較例1、3、4、6、7、9、10、および12の素電池よりも優れた高負荷放電特性を示した。特に、実施例2〜4、6、8、10、および12の素電池では、それぞれ実施例1、5、7、9、および11の素電池よりも優れた高負荷放電特性が得られた。
【0071】
リチウム含有複合窒化物の元素MがCoである実施例1〜4では、特に優れた放電特性が得られた。
上記実施例では、Li3-x-yxNにおいてy=0の場合を示したが、yが0〜2−xの範囲であれば、上記実施例と同様にxが0.1〜0.8の範囲において良好な放電特性が得られる。
【0072】
《実施例33〜43》
本実施例では、Li3-x-yxNにおいて、MをCoとし、xおよびyが表3に示す値となるようにLi3N粉末とCo粉末との混合比を変えた以外は、実施例1と同様の方法により負極活物質の粉末を作製した。そして、表3に示す負極活物質を用いて、実施例1と同様の方法により素電池を作製し、上記と同様の放電特性の評価を行った。その結果を、表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例33〜43の素電池は、電流密度2A/cm2の高負荷放電時では、いずれの動作温度でも90以上の高容量を示した。これより、xが0.1〜0.8の範囲であれば、yが0〜2−xの範囲において優れた高負荷放電特性が得られることがわかった。
なお、本実施例では、元素MがCoの場合を示したが、元素MはNi、Cu、MnまたはFeの場合でも、本実施例と同様の効果が得られる。
【0075】
《実施例44》
実施例1の素電池を用いて、上述した図1と同じ構造の熱電池を作製した。なお、熱電池の作製は、露点−45℃以下の乾燥空気中で水分の影響を極力排除した環境下で行った。また、リチウム含有複合窒化物を取り扱う場合は、必要に応じ高純度(99.9%以上)の窒素雰囲気で作業した。
素電池7と発熱剤5とを交互に積み重ね発電部を構成した。このとき、素電池7を13個用いた。発熱剤5には、FeとKClO4との混合物を用い、電池作動中の平均温度が500℃となるように混合比を調整した。
【0076】
発電部の上部に着火パッド4を配し、その周囲を導火帯6で覆った。着火パッド4および導火帯6には、Zr、BaCrO4、およびガラス繊維の混合物を用いた。
点火栓3の点火剤には、硝酸カリウム、硫黄、および炭素を重量比75:10:15の割合で混合したものを用いた。断熱材9aおよび9bには、シリカとアルミナを主成分とするセラミック繊維材料を用いた。
このようにして、作動温度が500℃の熱電池を作製した。
【0077】
《実施例45》
実施例1の素電池の代わりに実施例5の素電池を用いた以外は、実施例44と同様の方法により熱電池を作製した。
【0078】
《実施例46》
実施例1の素電池の代わりに実施例7の素電池を用いた以外は、実施例44と同様の方法により熱電池を作製した。
【0079】
実施例44〜46の熱電池について以下のように放電試験を行った。点火端子に接続された電源より高電圧を印加し、点火栓を発火させ熱電池を活性化させた。そして、熱電池を0.5A/cm2(終止電圧:7.8V)または2A/cm2(終止電圧:6.5V)の電流密度で放電した。
その結果、素電池を複数個積層した熱電池においても、素電池と同様の容量が得られることが確かめられた。
【0080】
上記実施例では、負極合剤層中の導電材の添加量を5重量%とし、共晶塩の添加量を5重量%としたが、添加量は特に制限されない。これらを添加しなくても十分性能が発揮できるが、電池性能をさらに向上することを目的として適宜必要量を添加すればよい。
【0081】
また、上記実施例では、円盤状の負極合剤層を、有底円筒形の金属製カップに入れた直径が26mmの円盤状の負極を用いたが、負極としての性能を発揮できれば、大きさ、形状、および材料は特に限定されない。例えば、中心部に穴の空いたドーナツ状、半円状、四角形状などでもよい。
さらに、上記実施例では、素電池の作製を窒素雰囲気下で行ったが、アルゴン雰囲気下で行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の熱電池は、誘導機器といった各種防衛機器の電源や緊急用電源として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施の形態に係る熱電池の一部を切り欠いて断面とした斜視図である。
【図2】図1の熱電池に用いられる素電池の分解断面図である。
【図3】比較例1の素電池に用いられる負極の縦断面図である。
【図4】比較例4の素電池に用いられる負極の縦断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 外装ケース
2 点火端子
3 点火栓
4 着火パッド
5 発熱剤
6 導火帯
7 素電池
8 負極リード板
9a、9b 断熱材
10a 正極端子
10b 負極端子
11 電池蓋
12、17、20 負極
13 正極
14 電解質
15、21 負極合剤層
16、22 集電体
18 鉄層
19 リチウム金属箔
23 断熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配された電解質からなる素電池を複数個備えた熱電池であって、
前記電解質は前記熱電池の作動温度で溶融する塩を含み、前記負極が活物質としてリチウム含有複合窒化物を含む熱電池。
【請求項2】
前記リチウム含有複合窒化物は、一般式:Li3-x-yxN(式中、MはCo、Ni、Cu、MnおよびFeからなる群より選ばれた少なくとも一種であり、xおよびyは、それぞれ0.1≦x≦0.8および0≦y≦2−xを満たす。)で表される化合物である請求項1記載の熱電池。
【請求項3】
前記負極は、さらに、鉄、銅、ニッケル、マンガン、および炭素材料からなる群より選ばれた少なくとも一種を含む請求項1記載の熱電池。
【請求項4】
前記負極は、さらに前記熱電池の作動温度で溶融する塩を含む請求項1記載の熱電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−236990(P2006−236990A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16723(P2006−16723)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】