説明

熱電酸化物材料

【課題】従来の特許文献1に記載の熱電変換素子用酸化物部材は、希少元素である希土類元素を用いるため、熱電変換素子用酸化物部材を安価に製造することができない。また、特許文献2に記載の熱電素子材料及び特許文献3に記載の酸化物熱電変換材料は、いずれも製造方法が煩雑である。
【解決手段】本発明の熱電酸化物材料は、少なくとも二つの異なる結晶構造を有する結晶粒子を含んで構成されており、上記少なくとも二つの異なる結晶構造は、ABO(但し、Aサイトはアルカリ土類金属元素を含み、Bサイトは遷移金属元素を含み、A、Bのいずれのサイトも貴金属類を含まない。)で表されるペロブスカイト構造及びA(但し、Aサイトはアルカリ土類金属元素を含み、Bサイトは遷移金属元素を含み、A、Bのいずれのサイトも貴金属類を含まない。)で表されるブラウンミラライト構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電酸化物材料に関し、更に詳しくは、ゼーベック係数及び導電率が改善された高い出力因子を有する熱電酸化物材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の熱電酸化物材料としては、例えば特許文献1〜特許文献3において提案されたものがある。
【0003】
特許文献1には、化学式(La1−XSr)FeO3−σ(但し、0<X<1、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト単相構造を有する金属酸化物を含有し、1273Kでの性能指数が0.5×10−4−1以上の熱電変換素子用酸化物部材及び熱電変換素子が提案されている。この熱電変換素子用酸化物部材及び熱電変換素子は、合成プロセスが単純で簡単に製造することができると共に、高温、特に600〜1000℃において大きな性能指数を示す。
【0004】
SrFeOは毒性元素や希少元素を含まないため、安全で安価なP型熱電材料として広く用いられている。しかしながら、SrFeOの出力因子は、200〜600℃の範囲において2×10−7W/Kmと非常に低いため、実用化、つまり量産化には適していない。そこで、特許文献1に記載の発明では、SrFeOのAサイトであるSrの一部を希土類金属元素であるLaで置換することによって性能指数を高めている。
【0005】
また、特許文献2には、A型構造を有する熱電素子材料が提案されている。この熱電素子材料は、Mn、Fe、Co、Ni、Cuより選ばれた一種または二種以上の元素の水酸化物または酸化物の板状結晶と、アルカリ金属塩と、を混合し、金属水酸化物の粒子または金属酸化物の粒子が一方向に配向するように成形し、この成形体を焼成して緻密化させることにより一方向(例えば、C軸方向)に配向した焼結体として得られるものである。これにより単結晶構造の熱電素子材料と同等、若しくはそれ以上の優れた熱電特性を有する熱電素子材料を得ることができ、製造コストを低減することができる。
【0006】
特許文献3では、ABO絶縁層及びBO導電層が交互に積層された構造を有するA(Aはアルカリ土類金属元素、Bは遷移金属元素及び/または希土類元素、Oは酸素)から構成された酸化物熱電変換材料が提案されている。この酸化物熱電変換材料は、Aの酸化物粉末及びBの酸化物粉末を混合し、仮焼結させ、その後、仮焼体の粉末を成形し、この成形体をゾーンメルト法、ブリッジマン法及びチョクラルスキー法によって加熱溶融し、b軸に沿って結晶成長を進行させることによって得られるものである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−340519号公報
【特許文献2】特開2000−211971号公報
【特許文献3】特開2002−111077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の熱電変換素子用酸化物部材は、希少元素である希土類元素を用いるため、熱電変換素子用酸化物部材を安価に製造することができないという課題があった。また、特許文献2に記載の熱電素子材料は、Mn、Fe、Co、Ni、Cuより選ばれた一種または二種以上の元素の水酸化物または酸化物の板状結晶と、アルカリ金属塩と、を混合し、金属水酸化物の粒子または金属酸化物の粒子が一方向に配向するように成形する必要があり、製造方法が煩雑であるという課題があった。更に、特許文献3に記載の酸化物熱電変換材料は、ゾーンメルト法等を用いて混合酸化物を加熱溶融して結晶成長を一方向に進行させるため、結晶成長の条件設定等、製造方法が煩雑であるという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、簡単な製造工程で高い出力因子を得ることができると共に、希土類金属元素等の希少元素を用いることなく安価に製造することができる熱電酸化物材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の熱電酸化物材料は、少なくとも二つの異なる結晶構造を有する結晶粒子を含んで構成されており、上記少なくとも二つの異なる結晶構造は、ABO(但し、Aサイトはアルカリ土類金属元素を含み、Bサイトは遷移金属元素を含み、A、Bのいずれのサイトも貴金属類を含まない。)で表されるペロブスカイト構造及びA(但し、Aサイトはアルカリ土類金属元素を含み、Bサイトは遷移金属元素を含み、A、Bのいずれのサイトも貴金属類を含まない。)で表されるブラウンミラライト構造であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載の熱電酸化物材料は、請求項1に記載の発明において、上記結晶構造のAサイトには、Sr及び/またはCaが含まれ、上記結晶構造のBサイトには、FeまたはFeとCuが含まれることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載の熱電酸化物材料は、請求項2に記載の発明において、上記結晶構造のAサイトに含まれるCaの量は、20〜60モル%であり、且つ、上記結晶構造のBサイトに含まれるCuの量は、4〜8モル%であることを特徴とするものである。
【0013】
而して、本発明の熱電酸化物材料は、少なくとも二つの結晶構造を有する結晶粒子を含んでいる。つまり、熱電酸化物材料が多結晶構造であっても、それぞれの結晶粒子は、少なくとも二つの結晶構造を有している。各結晶粒子の結晶構造は、ABOで表されるペロブスカイト構造及びAで表されるブラウンミラライト構造の少なくとも二つの結晶構造を含んでいる。換言すれば、本発明における結晶粒子の結晶構造は、主としてペロブスカイト構造及びブラウンミラライト構造であるが、これら以外の結晶構造を含んでいても良い。
【0014】
ABOで表されるペロブスカイト構造は、一般的にゼーベック係数は小さいが、導電率が高く、また、Aで表されるブラウンミラライト構造は、一般的にゼーベック係数は大きいが、導電率が低く、ペロブスカイト構造とは逆の特性を有している。ところが、ペロブスカイト構造とブラウンミラライト構造は、共に酸素6配位の八面体構造を有し構造的に近似し、互いに相性の良い結晶構造を有している。そこで、本発明では、ペロブスカイト構造とブラウンミラライト構造が結晶構造上の相性の良い点を活用し、これら両者を共存させることによって互いに利点を引き出してゼーベック係数及び導電率を高め、延いては下記式で表される出力因子Pを高めて熱電変換効率を高めた熱電酸化物材料を実現したものである。尚、下記式において、Sはゼーベック係数、σは導電率である。
P=S・σ
【0015】
ペロブスカイト構造とブラウンミラライト構造は構造的に近似していることと相俟って、更に、それぞれの結晶構造を形成するAサイト、Bサイトの各元素に対して周期律表で同一の族に属する元素を用いることによって、それぞれの結晶構造のAサイト間及びBサイト間での元素の固溶を促進することができ、延いては煩雑な工程を経ることなく比較的簡単にペロブスカイト構造とブラウンミラライト構造を同時に生成させることができる。
【0016】
本発明では、結晶粒子の結晶構造(ペロブスカイト構造及びブラウンミラライト構造)のAサイトにはアルカリ土類金属元素が含まれ、アルカリ土類金属元素は二種以上含まれていても良い。Aサイトに含まれるアルカリ土類金属元素としては、例えばSr及び/またはCa、即ち、Sr、Caの少なくともいずれか一方が含まれていることが好ましい。Srの量が多くなるとブラウンミラライト構造の結晶構造が生成し難くなる傾向にあり、また、Caの量が多くなるとペロブスカイト構造の結晶構造が生成し難くなる傾向にある。Srの一部をCaで置換することによって、ペロブスカイト構造及びブラウンミラライト構造の双方を生成し、出力因子を高めることができる。
【0017】
Aサイトに含まれるCaの量、つまりAサイトにおけるSrに対するCaの置換量は、20〜60モル%が好ましい。Caの量が20〜60モル%、より好ましくは20〜50モル%の範囲で200〜800℃の温度範囲で高い出力因子を得ることができる。
【0018】
更に、上記結晶構造(ペロブスカイト構造及びブラウンミラライト構造)のBサイトには遷移金属元素が含まれ、遷移金属元素は二種以上含まれていても良い。Bサイトに含まれる遷移金属元素としては例えばFeまたはFeとCuとが含まれていることが好ましい。Feの一部をCuによって置換してFeとCuが含まれることによって200〜600℃の温度範囲での出力因子を高めることができる。
【0019】
Bサイトに含まれるCuの量、つまりBサイトにおけるFeに対するCuの置換量は、4〜8モル%が好ましい。Cuの量が4〜8モル%の範囲では高い出力因子を得ることができる。Cuの置換量が4〜8モル%の範囲外でもCuで置換しない場合よりも高い出力因子を得ることができるが、4〜8モル%の範囲内の出力因子よりも低下する。また、Cuの置換量が8モル%を超えると、出力因子が低下するだけでなく、焼成温度が1100℃以下になり、熱電酸化物材料として高温での使用が難しくなる。
【0020】
また、本発明では、結晶構造のAサイト、Bサイトは、いずれも貴金属類を含まず、貴金属類が除外される。貴金属類には、希少元素である希土類金属元素や、遷移金属元素のうちのPt等の白金族元素が含まれる。貴金属類は、一般的に高価であり、製造コストを高める要因になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の請求項1〜請求項3に記載の発明によれば、簡単な製造工程で高い出力因子を得ることができると共に、希土類金属元素等の希少元素を用いることなく安価に製造することができる熱電酸化物材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図1〜図4を参照しながら本発明の熱電酸化物材料の各実施例ついて説明する。尚、図1は本発明の熱電酸化物材料の一実施形態の結晶構造をX線回折による分析結果を示すチャート、図2は図1に示す結晶構造の熱電酸化物材料のCu置換量と出力因子との関係を示すグラフ、図3は本発明の熱電酸化物材料の他の実施形態の結晶構造をX線回折による分析結果を示すチャート、図4は図3に示す結晶構造の熱電酸化物材料のCu置換量と出力因子との関係を示すグラフである。
【実施例】
【0023】
実施例1
本実施例では組成式(Sr0.60Ca0.40)(Fe1−xCu)Oで表される熱電酸化物材料を作製し、Cuの量と出力因子との関係について検証した。
【0024】
〔試料の作製〕
出発原料としてSrCO、CaCO、Fe及びCuOを使用した。尚、出発原料は炭酸塩及び酸化物に制限されるものではなく、水酸化物等の他の無機材料や、アセチルアセナート錯体のような有機金属化合物を使用することもできる。このことは他の実施例についても同様である。
【0025】
これらの出発原料を、組成式(Sr0.60Ca0.40)(Fe1−xCu)Oにおいて表1に示す組成となるように秤量し、これらの秤量物を、メノウ乳鉢を使用して粉砕し、混合し、所望の原料粉末を得た。この原料粉末を大気雰囲気中、950℃で8時間熱処理し、所定の熱電酸化物粉末を試料No.1〜6として作製した。これらの熱電酸化物粉末は未反応物質を含んでいても良い。
【0026】
次いで、各試料の熱電酸化物粉末に、有機バインダを各試料に対して1重量%の割合で混合し、アセトン等の有機溶媒を用いてメノウ乳鉢内で粉砕し、混合した。有機バインダで混合した試料を十分に乾燥させた後、一軸プレス機を使用して1kN/cmの圧力で各試料の成形体を作製した。これらの成形体を大気雰囲気中、1000〜1300℃の範囲で2時間焼成を行い、熱電酸化物の焼結体を得た。焼成温度は、Cuの含有量によって異なり、相対密度が80%以上、好ましくは90%以上になるように設定した。ここで、Cuはその含有量の増加により、低温で焼結が進行するため、Cuの含有量が高いほど焼成温度を下げた。尚、相対密度とは、アルキメデス法で実測した焼結体の密度を、X線回折法で得られた格子定数から算出された理論密度で除した値である。
【0027】
ところで、熱電酸化物の焼結体がペロブスカイト構造とブラウンミラライト構造との混合物となるSrとCaの比率、つまり、Srに対するCaの置換量は、20〜60モル%の範囲であった。熱電酸化物としては、Ca置換量が40モル%の時、最も高い出力因子を示した。そこで、本実施例ではCa置換量を40モル%に設定し、Feに対するCuの置換量を表1に示すように変化させて試料No.1〜6を作製した。
【0028】
〔特性の評価方法〕
1.結晶構造の評価
試料No.1〜6の焼結体の結晶構造は、X線回折によって同定し、その分析結果を図1に示した。また、表2にはX線回折によって検出された結晶構造を示した。
【0029】
2.出力因子の評価
試料No.1〜6の焼結体を所定の寸法(例えば、縦4mm×横15mm×厚さ4mm)に切断した後、100〜900℃に設定した温度槽内に各試料を設置し、各測定温度において直流四端子法を用いて各試料の抵抗値を測定し、測定した抵抗値と試料寸法から、各試料の導電率σを算出した。導電率σの場合と同様に、100〜900℃に設定した温度槽内に各試料を設置し、高温部と低温部に所定の温度差が得られるように試料両端の温度を調整し、試料間に得られる起電力を測定し、測定した起電力とその時の測定温度差からゼーベック係数Sを算出した。次いで、各試料の導電率σ及びゼーベック係数Sを下記式に代入して各試料の出力因子Pを求め、その結果を表2及び図2に示した。
P=S・σ
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
〔評価の結果〕
1.結晶構造
図1及び表2に示す結果によれば、FeサイトにCuを置換した試料No.2〜6は全てABOで表されるペロブスカイト構造のSrFeOと、Aで表されるブラウンミラライト構造のCaFeの混合物であった。
【0033】
2.出力因子
図2及び表2に示す結果によれば、SrFeO単一相の試料と比較して、Srの一部をCaで置換した試料No.1〜6は200〜800℃の高い温度範囲で出力因子が高い値を示すことが判った。従って、Srの一部をCaで置換し、ペロブスカイト構造及びブラウンミラライト構造を含む混合物を得ることによって、出力因子を改善できることが判った。
【0034】
更に、図2に示す結果によれば、Srの一部をCaで置換し、Feの一部をCuで置換した試料No.2〜6は、200〜600℃の温度範囲で高い出力因子を示し、出力因子を改善できることが判った。この温度範囲で高い出力因子を示すCuの置換量は4〜8モル%の範囲にある試料No.3〜5であった。Cuの置換量が2モル%では無置換のものと比較すれば高い出力因子を示すが、最も高い出力因子より低下し、また、Cuの置換量が10モル%では出力因子が低下するだけでなく、焼成温度が1100℃以下となり、熱電酸化物材料として高温での使用が難しくなることが判った。
【0035】
以上説明したように本実施例によれば、環境に負荷を与える元素や希土類等の希少元素を含まず、簡単な製造工程で高い出力因子を有する熱電酸化物材料を得ることができ、BサイトのFeの一部をCuで置換することによって200〜600℃での出力因子(熱電特性)を向上させることができる。
【0036】
実施例2
本実施例では組成式(Sr1−y,Ca)FeOで表される熱電酸化物材料を作製し、Caの量と出力因子との関係について検証した。
【0037】
〔試料の作製〕
出発原料としてSrCO、CaCO及びFeを使用した。これらの出発原料を、組成式(Sr1−y,Ca)FeOにおいて表3に示す組成となるように秤量し、これらの秤量物を、メノウ乳鉢を使用して粉砕し、混合し、所望の原料粉末を得た。この原料粉末を大気雰囲気中、950℃で8時間熱処理し、所定の熱電酸化物粉末を作製した。これらの試料は未反応物質を含んでいても良い。
【0038】
次いで、各試料である熱電酸化物粉末に、有機バインダを各試料に対して1重量%の割合で混合し、アセトン等の有機溶媒を用いてメノウ乳鉢内で粉砕し、混合した。有機バインダで混合した試料を十分に乾燥させた後、一軸プレス機を使用して1kN/cmの圧力で成形体を作製した。この成形体を大気雰囲気中、1000〜1300℃の範囲で2時間焼成を行い、熱電酸化物の焼結体を表4に示すNo.11〜19の試料として得た。焼成温度は、Caの含有量によって異なり、相対密度が80%以上、好ましくは90%以上になるように設定した。
【0039】
〔特性の評価方法〕
1.結晶構造の評価
試料No.11〜19の焼結体の結晶構造は、X線回折によって同定し、その結果を図3に示した。また、表4にはX線回折によって検出された結晶構造を示した。
【0040】
2.出力因子の評価
試料No. 11〜19の焼結体について、温度槽内の温度を200〜800℃に設定した以外は実施例1の場合と同一の要領で各試料の抵抗値を測定し、測定寸法を加味して各試料の導電率σを算出した。また、温度槽内の温度を200〜800℃に設定した以外は実施例1の場合と同一の要領でゼーベック係数を求めた後、実施例1と同一の要領で各試料の出力因子Pを求め、その結果を表4及び図4に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
〔評価の結果〕
1.結晶構造
図3及び表4に示す結果によれば、Srに対するCaの置換量yが0.20〜0.60の範囲の試料No.12〜16はABOで表されるペロブスカイト構造のSrFeOと、Aで表されるブラウンミラライト構造のCaFeの混合物であった。尚、ペロブスカイト構造のSrFeOのSrの一部がCaで置換されていても良く、同様にブラウンミラライト構造のCaFeのCaの一部がSrで置換されていても良い。
【0044】
2.出力因子
表4及び図4に示す結果によれば、Srに対するCaの置換量yが0.00、つまり無置換の試料No.1と比較して、Caの置換量yが0.20〜0.50の試料No.12〜15は200〜800℃の高い温度範囲で出力因子が向上していることが判った。特に、Caの置換量yが0.40及び0.50の試料No.14、15は、それぞれの温度特性が平坦で、広い温度範囲で高い出力因子を示すことが判った。最も高い温度である800℃ではCaの置換量yが0.40の試料No.14は出力因子が1.55×10−5W/Kmを示し、同置換量yが0.00(無置換)や1.00(100%置換)の試料11、19と比較して約2倍の値を示すことが判った。
【0045】
以上説明したように本実施例によれば、実施例1と同様の作用効果を期することができ、しかもAサイトのSrの一部をCaで置換することによって400〜800℃での出力因子(熱電特性)を向上させることができる。
【0046】
尚、本発明は上記各実施例に何等制限されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限り、本発明に包含される。例えば、上記各実施例ではAサイトのアルカリ土類金属元素としてSr及びCaを例に挙げ、また、Bサイトの遷移金属元素としてFe及びCuを例に挙げて説明したが、希土類金属や白金族元素以外であれば、その他の金属元素についても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば熱電変換素子に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の熱電酸化物材料の一実施形態の結晶構造をX線回折による分析結果を示すチャートである。
【図2】図1に示す結晶構造の熱電酸化物材料のCu置換量と出力因子との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の熱電酸化物材料の他の実施形態の結晶構造をX線回折による分析結果を示すチャートである。
【図4】図3に示す結晶構造の熱電酸化物材料のCu置換量と出力因子との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つの異なる結晶構造を有する結晶粒子を含んで構成されており、上記少なくとも二つの異なる結晶構造は、ABO(但し、Aサイトはアルカリ土類金属元素を含み、Bサイトは遷移金属元素を含み、A、Bのいずれのサイトも貴金属類を含まない。)で表されるペロブスカイト構造及びA(但し、Aサイトはアルカリ土類金属元素を含み、Bサイトは遷移金属元素を含み、A、Bのいずれのサイトも貴金属類を含まない。)で表されるブラウンミラライト構造であることを特徴とする熱電酸化物材料。
【請求項2】
上記結晶構造のAサイトには、Sr及び/またはCaが含まれ、上記結晶構造のBサイトには、FeまたはFeとCuが含まれることを特徴とする請求項1に記載の熱電酸化物材料。
【請求項3】
上記結晶構造のAサイトに含まれるCaの量は、20〜60モル%であり、且つ、上記結晶構造のBサイトに含まれるCuの量は、4〜8モル%であることを特徴とする請求項2に記載の熱電酸化物材料。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−108598(P2006−108598A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296986(P2004−296986)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】