説明

熱風による霜処理機能を具備する吸音処理被覆材

【課題】本発明の目的は、航空機の表面の位置、特に航空機のナセルの空気取り入れ口のような翼前縁の位置に関する吸音処理被覆材であって、該被覆材は音響抵抗層、少なくとも一つのセル状構造(30)及び反射層を備え、該セル状構造(30)は一方が架空の第一の表面(34)の位置に、もう一方が架空の第二の表面(36)の位置に開口する複数の管を備える被覆材において、セル状構造(30)は複数の管の側壁の位置に形成された切込みまたは孔(38)を備え、それによって、隣接する管を連通させ、少なくとも一つの管または連通していない一群の管を分離する、連通する管の網を形成して、少なくとも一つの連通する管は少なくとも一つの熱風の流入口(40)に接続されることを特徴とする被覆材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱風による霜処理機能を具備する吸音処理被覆材に関するものであり、該被覆材は、特に航空機の翼前縁、さらに詳しく言えば、航空機のナセルの空気取り入れ口に使用される。
【背景技術】
【0002】
空港の近隣での騒音影響を制限するため、国際規格は、音響発生物質について、次第に厳しくなっている。
【0003】
ナセルの管の壁の位置で、特に、ヘルムホルツ(Helmholtz)共鳴器の原理を使用して、音響エネルギーの一部分を吸収することを目的とする被覆材を使用して、航空機によって発生する騒音を減少させる技術が開発された。公知のように、この吸音処理被覆材は、外側から内側に向けて、音響抵抗性の多孔質層、セル状構造、及び、音波不透過性の反射層を備えており、それによって、この被覆材は効果的である。
【0004】
現在のところ、様々な制約、例えば、成形または他の装備との両立性の理由で、処理される表面の範囲は、限定されている。このように、被覆材は、この区域に必要な氷及び/または霜の形成及び/または蓄積を防止することができる装置との両立が困難である。
【0005】
これらの装置は、二つの大きな類に分けられ、第一の装置は、氷結防止装置と呼ばれ、氷及び/または霜の生成を制限することができ、第二の装置は霜取り装置と呼ばれるものであり、氷及び/また霜の蓄積を制限し、且つ、いったん生成した氷及び/または霜に作用する。以下の説明では、霜処理装置または方法とは、氷結防止装置または方法、または、霜取り装置または方法を意味する。
【0006】
本発明は、さらに詳しく言えば、モータの位置で取り出され、翼前縁の内側壁の位置に送り出される熱風を使用することからなる霜処理方法に関するものである。この実行装置は、吸音処理被覆材が比較的厚く、絶縁体として作用する空気を含むセル状構造によって構成されているという点から、吸音処理被覆材との両立が困難である。
【0007】
吸音処理及び霜処理を両立できるものにする試みとして、特許文献1及び2に記載された解決法では、反射壁に孔を備えて、吸音処理被覆材のセルに熱風が侵入するようにすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第1103462号
【特許文献2】アメリカ合衆国特許第5841079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この解決法は、下記の理由で、満足できるものではない。反射層の位置に一つまたは複数の孔を備えるセル状構造のセルは、吸音処理に関してあまり性能が高くなく、音波は該セルの中であまり消散しない。この変化を小さくするための解決法は、孔の断面積を小さくすることである。この場合、一定流量の空気の容積が小さくなり、霜取りがあまり有効でなくなる。さらに、この断面積が小さくなった孔は、より簡単に詰まるようになり、それによって、対応する区域での霜取り機能が取り消される。
【0010】
別の問題によると、蜂の巣状に構成されたセル状構造が配置されると変形するので、反射層の孔のいくつかは二つのセルを区画する側壁の真横に配置されることになる。この場合、孔は部分的に壁によって塞がれるので、吸音処理に関する機能性は変化し、霜取り機能もまた変化する。
【0011】
また、別の問題によると、空気取り入れ口の縁の内部に圧力均衡が形成され、縁の部分を分離させ、そこに、特に霜がより大量に堆積した箇所に、より大きな霜取り空気圧を吹き込むことはできない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、吸音処理と熱風による霜処理を両立できるようにする被覆材を提案して、従来技術の欠点を解消することを目的とするが、該被覆材は、特に翼前縁、さらに詳しく言えば、ナセルの空気取り入れ口用である。
【0013】
そのため、本発明は、航空機の表面の位置、特に航空機のナセルの空気取り入れ口のような翼前縁の位置に関する吸音処理被覆材であって、該被覆材は音響抵抗層、少なくとも一つのセル状構造及び反射層を備え、該セル状構造は一方が架空の第一の表面の位置に、もう一方が架空の第二の表面の位置に開口する複数の管を備える被覆材において、セル状構造は複数の管の側壁の位置に形成された切込みまたは孔を備え、それによって、隣接する管を連通させ、少なくとも一つの管または連通していない一群の管を分離する、連通する管の網を形成して、少なくとも一つの連通する管は少なくとも一つの熱風の流入口に接続されることを特徴とする被覆材を目的とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、被覆材のいくつかのセルは、完全に吸音処理専用であり、音響抵抗層の外部に全く孔を備えていない。
【0015】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照しておこなう以下の説明から明らかになるであろう。但し、その説明は、単に一例にすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、航空機の推進装置の斜視図である。
【図2】図2は、本発明によるナセルの空気取り入れ口を図示した縦断面図である。
【図3】図3は、本発明の第一の実施態様によるセル状構造の上方から見た図面である。
【図4】図4は、本発明の別の実施態様によるセル状構造の上方から見た図面である。
【図5】図5は、半径平面に配置された縦方向のストリップを図示した立面図である。
【図6A】図6Aは、半径平面に交わる第一の面に沿って配置された横方向の第一のストリップを図示した立面図である。
【図6B】図6Bは、図6Aに図示した第一のストリップを透視図法で図示した斜視図である。
【図7A】図7Aは、半径平面に交わる第二の面に沿って配置された横方向の第二のストリップを図示した立面図であり、該第二の面は、ナセルの空気取り入れ口の縁の頂部に続いている。
【図7B】図7Bは、湾曲して、第一のストリップに重なることができる図7Aに図示した第二のストリップを図示した斜視図である。
【図8】図8は、空気取り入れ口の角の部分に合わせることができる本発明によるセル状構造を図示した、第一の視点による斜視図である。
【図9】図9は、縦方向のストリップと横方向のストリップとの間の結合を詳細に図示した斜視図である。
【図10】図10は、空気取り入れ口の角の部分に合わせることのできる本発明によるセル状構造を図示した第二の視点による斜視図である。
【図11】図11は、空気流入口を詳細に図示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を航空機の推進装置の空気取り入れ口に適用して、以下に記載する。しかし、本発明は、吸音処理及び霜取り処理が実行される、航空機の様々な前縁の位置、例えば、翼前縁に利用することができる。
【0018】
以下の説明では、霜とは、霜及び氷を意味し、種類、構造及び厚さはいずれでもよい。
【実施例】
【0019】
図1には、マスト12を介して、翼面に結合される航空機の推進装置10が図示されている。しかし、この推進装置は、航空機の他の区域に結合されることもある。
【0020】
この推進装置は、ナセル14を備え、その内部には、ほぼ同心に動力装置が配置されており、その装置がシャフト16に取り付けられた送風装置を駆動する。ナセルの縦軸には、参照番号18を付した。
【0021】
ナセル14は、前部の空気取り入れ口22と共に管を区画する内側壁20を備える。
【0022】
空気取り入れ口22の頂部24は、ほぼ円形の形状であり、図2に図示したように縦方向の軸線18にほぼ垂直であることもあり、または、頂部がわずかに前進した12時の位置にあり、垂直でないこともある。しかし、他の形状の空気取り入れ口を考えることもできる。
【0023】
以下の説明では、空気力学表面とは、空気力学流と接触する航空機のジャケットを意味する。
【0024】
騒音影響を制限するため、特にヘルムホルツ(Helmholtz)共鳴器の原理を使用して、音響エネルギーの一部分を吸収することを目的とする被覆材26が、特に空気力学表面の位置に備えられる。公知のように、音響パネルとも呼ばれる、この音響被覆材は、外側から内側に向かって、音響抵抗層28、少なくとも一つのセル状構造30及び反射層32を備える。
【0025】
層とは、同じ種類または異なる種類の、一つまたは複数の層を意味する。
【0026】
音響抵抗層28は、多孔質構造であり、その構造を通過する音波の音響エネルギーを部分的に熱に変換して、消散させる役割を有する。
【0027】
反射層32は、音波に不透過性であり、吸音処理に影響する可能性のある孔を全く備えていない。
【0028】
これらの様々な層は、当業者には公知であるので、これ以上詳細に説明することはない。
【0029】
セル状構造30は、図8に図示したように、一方が、反射層32をその上に付加することができる架空の第一の表面34によって、もう一方がその上に音響抵抗層28を付加することができる架空の第二の表面36によって区画される容積に対応する。
【0030】
架空の第一の表面34と架空の第二の表面36を隔てる距離は、一定でなくてもよい。したがって、この距離は、空気取り入れ口の縁の位置でより大きくなることができ、それによって、該構造に特により大きい耐衝撃性を付与することができる。
【0031】
セル状構造30は、一方が第一の表面に、もう一方が第二の表面に開口する管を複数備える。これらの管は、一方が音響抵抗多孔質層によって、もう一方が反射層によって塞がれており、それによって、セルを形成する。
【0032】
好ましくは、二つの隣接する管は、側壁によって分離されている。
【0033】
また、音響騒音を小さくするために、空気取り入れ口22は、空気力学表面の少なくとも一部分に音響被覆材26を備える。
【0034】
一実施態様によると、この音響被覆材26は、ナセルの内側壁20から空気取り入れ口の頂部24まで、その空気取り入れ口の周縁部全体に延びている。好ましくは、図2及び6に図示したように、音響被覆材26は、空気取り入れ口の頂部24を越えて延びて、ナセルの外側面34の一部分を被覆する。
【0035】
霜の生成及びその堆積を制限するために、空気取り入れ口22は、霜を処理する手段を備える。
【0036】
本発明は、さらに詳しく言えば、モータの位置で取り出され、空気力学表面の内側壁の位置に送り出される熱風を使用することからなる霜処理方法に関するものである。
【0037】
本発明によると、セル状構造30は、いくつかの管の側壁に位置に形成された切込みまたは孔38を備え、それによって、隣接する管を連通させて、連通していない少なくとも1つの管または一組の管を分離させる管の網を形成することができる。そのうえ、セル状構造は、セル状構造の地板の位置に高温ガスの流入口40を少なくとも一つ備える。
【0038】
一実施態様によると、セル状構造は、側壁の縁部の位置に切り込みを備え、それによって、音響抵抗層によって被覆される架空の第二の表面36の位置に配置することができる。
【0039】
このように、従来技術とは異なり、セル状構造は、互いに連通しておらず、音波透過性の面を一つだけ有するセルを保持しており、このセルは音響抵抗層によって被覆されている。したがって、これらの互いに連通していないセルの機能性は、霜取り処理によって変化することはなく、反射層は不透過性を保持している。
【0040】
図3に図示した第一の実施態様によると、セル状構造は、蜂の巣状に構成されている。したがって、管は六角形の形状をとり、隣接する管は複数の側壁によって分離されている。本発明によると、ある対角線に沿って配置された管は、切り込みまたは孔38によって連通している。好ましくは、管は、第一の方向に沿った向きの第一の対角線42及び第二の方向に沿った向きの第二の対角線44に沿って連通している。この形状によって、連通しない管の組46をその側壁によって分離させることができる。例として、図3に灰色の部分で示した連通する管によって、九本の連通しない管を分離させることができる。
【0041】
図4、5、6A、6B、7A、7B、8〜11に図示した別の実施例によると、セル状構造30は、一方に縦方向の軸線18を含む半径平面との容積の交差に対応する、縦方向のストリップと呼ばれる複数の第一のストリップ48、及び、もう一方に、半径平面に交わる表面との容積の交差に対応する横方向のストリップと呼ばれる複数の第二のストリップ50を備える。好ましくは、架空の第二の表面36との交点の位置で、各縦方向のストリップ50は、観察点の架空の第二の表面36の接線にほぼ垂直である。
【0042】
好ましくは、横方向のストリップ50との各交点の位置で、縦方向の各ストリップ48は、その観察点での横方向の各ストリップ50の接線にほぼ垂直である。
【0043】
交わる表面とは、架空の第一の表面34及び架空の第二の表面36と交わる平面または表面を意味する。
【0044】
より一般的には、セル状構造は、交わる表面の位置に配置された一連の第一のストリップ48を備えており、該第一のストリップ48は、そのストリップ間では交わらず、互いに離れており、また、交わる表面の位置に配置された少なくとも一つの第二連の第二のストリップ50を備えており、該第二のストリップ50は、そのストリップ間では交わらず、互いに離れている。第一のストリップ48は、第二のストリップと交わっており、それによって、一方では二つの隣接する第一のストリップと、もう一方では二つの隣接する第二のストリップとの間に管を区画する。
【0045】
このようにして、四つの側面を有する管が形成される。
【0046】
また、概念を単純化するために、ナセルの縦方向の軸線を含む半径平面内に第一のストリップを配置する。
【0047】
より堅固な構造を得るために、第二のストリップを、第一のストリップとほぼ垂直になるように配置して、断面が正方形または長方形の管を形成する。この解決法によって、また、概念を単純化することができる。しかし、別の形状の断面、例えば、ひし形を考えることもできる。
【0048】
湾曲区域の位置では、管の断面は、変化する。したがって架空の第二の表面36の位置での大きな断面と架空の第一の表面34の位置のより小さな断面の間で変化する。
【0049】
交差する異なる連のストリップを組み合わせるために、縦方向のストリップ48の位置に第一の切り込み52が備えられており、その切り込みは、横方向のストリップ50の位置で、第二の切り込み54と協働する。ストリップの連の数が2より大きくなる場合には、各ストリップ上の切り込みの数を大きくすれば十分であることが分かる。
【0050】
第一の切り込み52及び第二の切り込み54は、一方の端部からもう一方の端部までは延びておらず、それによって、組立てが容易である。
【0051】
第一の切り込み52の長さと第二の切り込み54の長さは、縦方向及び横方向のストリップの縁部が架空の表面34及び36の位置に配置されるように、調節される。
【0052】
一実施態様によると、第一の切り込み52は、架空の第二の表面36の位置に配置された縦方向のストリップの縁部から延びている。さらに、第二の切り込み54は、架空の第一の表面34の位置に配置された横方向のストリップの縁部から延びている。
【0053】
一実施態様によると、セル状構造30が処理すべき表面の位置に配置されたとき保有することになる形状を数値化する。そのとき、縦方向及び横方向のストリップをバーチャルに位置決定し、各々について、幾何学的形状を決定する。網掛けソフトウェアと同様な方法によって表面を離散させることができる。その表面の離散は、幾何学投射によって実行される。
【0054】
したがって、図5に図示したように、空気取り入れ口の場合、縦方向のストリップ48は、C字型であり、架空の第一の表面34と一致することができる第一の縁部56と、架空の第二の表面36と一致することができる第二の縁部58を有する。別の実施例によると、縁部56及び58を隔てる距離は、一つのストリップから他のストリップへ、または、同一ストリップの輪郭に沿って変化する。縦方向のストリップ48は、ほぼ平坦なプレート内で切断される。この平坦な切断によって、製造が単純になる。縦方向のストリップ48が半径平面に配置されている限り、横方向のストリップ50との組立てのときに、湾曲することはない。
【0055】
図6A、6B、7A及び7Bに図示したように、空気取り入れ口の場合、横方向のストリップ50は、輪の形状をとり、架空の第一の表面34と一致することができる第一の縁部60と、架空の第二の表面36と一致することができる第二の縁部62を有する。縁部60及び62は、図6Aに示したように、横方向のストリップ50用のナセルを形成する管の曲率半径にほぼ一致する値Rから、頂部24と離れるのにつれて、徐々に変動することができる曲率半径及び無限半径を保有し、空気取り入れ口の頂部24の位置に配置された横方向のストリップ50では、図7Aに図示したように、縁部60及び62はほぼ直線である。
【0056】
横方向のストリップ50は、ほぼ平坦なプレート内で切断されるのが好ましい。
【0057】
本発明の利点は、横方向及び縦方向のストリップを平坦に切断し、それによって、製造が単純化されることと、成形作業を全く受けないので、反射層及び音響抵抗層上のセルの調節が保証されることにある。
【0058】
横方向のストリップは、その位置に応じて、十分に可撓性であり、場合によっては湾曲させて、縦方向のストリップに重なることができる。図6Bに図示したように、単一の曲率半径を有するセル状構造の区域に配置された横方向のストリップ50、特に、ほぼ円筒形の部分は、一度組み立てられた平面内に配置されている。
【0059】
横方向のストリップ50の大部分は、セル状構造の位置でのその配置に応じて、図7Bに図示したように、場合によっては、ストリップの表面に垂直な曲率半径rによって湾曲することができるように十分に可撓性である。したがって、頂部24から離れた横方向のストリップ50は、湾曲せず、この横方向のストリップ50は、頂部24から、頂部24の位置に配置された、図7A及び7Bに図示した、横方向のストリップ50の頂部の半径にほぼ等しい半径rまで、該横方向のストリップを隔てる距離に応じて徐々に小さくなる曲率半径rを有するので、これは無限曲率半径rに一致する。
【0060】
本発明の重要な利点によると、ストリップは、いったん組み立てられると、または、反射または音響抵抗層が配置されると、その後変形することはない。
【0061】
このように構成された音響被覆材は、処理すべき表面の形状に適合した形状を備えるので、該処理される表面の位置に配置されると、変形することがなくなる。その結果、従来技術とは異なり、セル状構造と反射層、または音響抵抗層との結合は損傷する危険性がなくなり、ストリップに対応する管の壁の位置は、完全に公知であり、側壁は数値化のとき所望の位置に一致する。
【0062】
図9に図示したように、縦方向のストリップ48及び横方向のストリップ50を、組み合わせて、はんだ付け、例えば、ろう付け、または糊付けによって、その間を接合する。しかしながら、ストリップ間を確実に接合するその他の解決法も考えられる。
【0063】
別の実施例によると、ストリップの縁部は、より複雑な形状を有し、複数の曲率半径を備えることがあり、それによって、さらに複雑な表面が得られる。
【0064】
場合によっては、同じ連なりのストリップ間での間隔を変化させることができる。
【0065】
したがって、連続した第一の切り込み52’及び52”の間隔をより小さくして、図8に図示したように、連続した横方向のストリップ50’及び50”の間隔を小さくすることができる。同様に、連続した第二の切り込み54’及び54”の間隔をより小さくして、図8に図示したように、連続した縦方向のストリップ48’及び48”の間隔を小さくすることができる。
【0066】
この配置によって、断面が変化するセルを得ることができる。
【0067】
本発明によると、霜処理機能を得るために、ストリップ48及び50は、切り込み38を備え、いくつかのセルをそのセル間で連通させ、管の網を形成することができる。この解決法によって、近づけられて連続したストリップ48及び50間に備えられる管の網を形成することができ、図4に図示したように、熱風を送り、霜処理機能を得るために使用できる。
【0068】
連通していないセルは、吸音処理機能に使用される。
【0069】
この形状では、被覆材のいくつかのセル、すなわち、セル間で連通していないセルは吸音処理専用に備えられ、他のセル、すなわち、セル間で連通しているセルは霜処理専用に備えられているので、霜処理機能と吸音処理機能を両立させることができる。
【0070】
蜂の巣状のセル状構造を使用する解決法に反して、この配置によって、セルの断面をその機能に応じて調整することができる。したがって、霜処理用の熱風の通路用のセル66は、断面が小さくなり、隣接したストリップ48、50によって区画されており、一方、吸音処理用のセル68は、より大きい断面を有する。したがって、図10に図示したように、霜処理用のセル66が占める表面は、架空の第二の表面の位置で小さくなり、それによって、吸音処理を確実におこなうセル68に対応する表面の表面積を小さくすることはない。
【0071】
図11に図示したように、高温ガス、特に動力装置から来る熱風の少なくとも一つの流入口が開口したくぼみまたは管70が、空気40のセル状構造30の周囲の少なくとも一部分に備えられており、少なくとも一つの該くぼみまたは管70は、孔または切り込み38を介して、少なくとも一つの霜処理用セル66に連通する。
【0072】
特に図10に図示した実施態様による別の利点は、セル状構造30はストリップの組立て後変形しないので、蜂の巣状の解決法では被覆材を配置したとき側壁がランダムに変形し、それによって、いくつかの管が押しつぶされることになるのに反して、霜処理用の管が押しつぶされる危険性が全くないことである。
【0073】
別の利点によると、ストリップ間の距離を調整して、より盛んに霜取りが必要な箇所に応じて通過断面積を小さくして、より正確に霜取り空気を分配することができることである。
【0074】
好ましくは、架空の第二の表面上に備えられた音響抵抗層28は、セル状構造の内部を外部に連通させるための穿孔またはミクロ穿孔を備えることがある。このように、いくつかの穿孔またはミクロ穿孔は、吸音処理用であり、他の穿孔は霜処理用である。
【0075】
好ましくは、少なくとも霜処理用に備えられた穿孔またはミクロ穿孔は、傾斜しており、音響抵抗層の外側表面の法線ではなく、それによって、処理すべき外側表面の位置に層流状に熱風を輩出することができる。また、この形状によって、特に汚染によって、孔(穿孔またはミクロ穿孔)が塞がる危険性を小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、図示し、上記に記載した実施態様に限定されるものでないことは明らかであり、それどころか、反対にあらゆる変形例を含むものである。したがって、本発明は、翼前縁に限定されず、熱風による霜処理の可能な吸音処理被覆材の全てに適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
28 音響抵抗層
30 セル状構造
32 反射層
34 第一の表面
36 第二の表面
38 切り込みまたは孔
40 高温ガス流入口
48 第一のストリップ
50 第二のストリップ
52 第一の切り込み
54 第二の切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の表面の位置、特に航空機のナセルの空気取り入れ口のような翼前縁の位置に関する吸音処理被覆材であって、該被覆材は音響抵抗層(28)、少なくとも一つのセル状構造(30)及び反射層(32)を備え、該セル状構造(30)は一方が架空の第一の表面(34)の位置に、もう一方が架空の第二の表面(36)の位置に開口する複数の管を備える被覆材において、セル状構造(30)は複数の管の側壁の位置に形成された切込みまたは孔(38)を備え、それによって、隣接する管を連通させ、少なくとも一つの管または連通していない一群の管を分離する、連通する管の網を形成して、少なくとも一つの連通する管は少なくとも一つの熱風の流入口(40)に接続されることを特徴とする被覆材。
【請求項2】
セル状構造(30)は、その間では交わらず、互いに離れている一連の第一のストリップ(48)及びその間では交わらず、互いに離れている少なくとも一つの第二連の第二のストリップ(50)を備え、第一のストリップ(48)は第二のストリップ(50)と交わり、それによって、一方では、隣接する二つの第一のストリップ(48)と、もう一方では隣接する二つの第二のストリップ(50)との間に管を区画することを特徴とする請求項1に記載の吸音処理被覆材。
【請求項3】
航空機のナセルの空気取り入れ口の位置に配置され、いわゆる縦方向の第一のストリップは、ナセルの縦方向の軸線(18)を含む半径平面内に配置されることを特徴とする請求項2に記載の吸音処理被覆材。
【請求項4】
いわゆる横方向のストリップである第二の各ストリップ(50)は、架空の第二の表面(36)の接線にほぼ垂直であることを特徴とする請求項2または3に記載の吸音処理被覆材。
【請求項5】
縦方向の各ストリップ(48)は、横方向の各ストリップ(50)の接線にほぼ垂直であることを特徴とする請求項3または4に記載の吸音処理被覆材。
【請求項6】
縦方向のストリップ(48)は、第一の切り込み(52)を備え、その切り込みは、横方向のストリップ(50)の位置に備えられた第二の切り込みと協働することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一つに記載の吸音処理被覆材。
【請求項7】
一方で、隣接したストリップ(48、50)によって区画され、断面が小さい霜処理用の熱風の通路用の第一のセル(66)を、及び、第一のセルを区画するストリップ(48、50)の間隔より大きな間隔をあけたストリップ(48、50)によって区画された、断面がより大きい吸音処理用の第二のセル(68)を備えることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一つに記載の吸音処理被覆材。
【請求項8】
セル状構造の周囲の一部分の位置に配置され、高温ガスの通路用の少なくとも一つのセル(66)と連通することができる、高温ガスの流入口(40)に接続されたくぼみまたは管(70)を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の吸音処理被覆材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の吸音処理被覆材を組み込んだ航空機の翼前縁。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の吸音処理被覆材を組み込んだ航空機のナセルの空気取り入れ口。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−519098(P2010−519098A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549455(P2009−549455)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050244
【国際公開番号】WO2008/104714
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(508009851)エアバス フランス (19)