説明

燃料アルコール濃度検出装置

【課題】 燃料温度の変化に対し検出誤差を可及的に小さくする燃料アルコール濃度検出装置を提供する。
【解決手段】 内側電極20と外側電極30との間に介在する絶縁部50を有している。絶縁部50は、外側電極30の基端から電極の中央部のやや下まで配置されている。絶縁部50は、弾性部材51及びシール部52で形成されている。弾性部材51は、フッ素ゴムで形成されており、外側電極30の基端側に配置されている。一方、シール部52は、弾性部材51に隣接するよう先端側に配置されている。このシール部52は、硝子封止にて形成されている。これら弾性部材51及びシール部は、共に燃料のハウジング10側への漏れを抑止するシール機能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の内燃機関(以下「エンジン」という)に使用される燃料のアルコール濃度を検出する燃料アルコール濃度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車などのエンジンに用いられる燃料として、低公害なアルコール混合ガソリンが注目されている。このような混合ガソリンは、ガソリンのみの燃料と比べ、最適な空燃比が異なっている。そこで、混合ガソリンが最適な空燃比となるように制御するため、混合ガソリン中のアルコールの含有量、すなわちアルコール濃度を測定することが重要となってくる。
【0003】
アルコール濃度を精度よく測定するためには、変化比率の比較的高い物理定数を用いることが望ましい。そのため、従来、比誘電率の変化を検出する方法が開示されている。例えば、比誘電率は静電容量の変化から求められるため、対向する電極を燃料中に晒して静電容量を測定する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この種の装置では、電極の内部にサーミスタなどを配置し、燃料の温度を検出して、温度による補正を行っている。具体的には、静電容量と燃料温度との対応関係を温度特性として持っており、この温度特性に基づく補正を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−61563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、静電容量は燃料温度の変化によって大きく変わるため、温度補正誤差が大きくなるという問題がある。特に温度変化が生じる過渡期には検出誤差が大きくなる。
【0006】
例えばエタノールの温度特性は図5に示す如く右下がりのグラフとして表される。図5では、横軸が「燃料温度」を示し、縦軸が「静電容量」を示している。このとき、燃料中のエタノール濃度が0%の場合の温度特性を「E0」と示した。同様に、エタノール濃度が25%の場合を「E25」とし、50%の場合を「E50」とし、75%の場合を「E75」とし、100%の場合を「E100」と示した。このような表記は、他の図面でも同様とする。図5から分かるように、エタノール濃度が大きくなるほど、グラフの傾きが大きくなり、燃料温度の変化による静電容量の変化が大きくなっている。したがって、特に高濃度側で検出誤差が大きくなる。
【0007】
なお、ここではエタノールを例に挙げて説明したが、これに限られず、一対の電極を用い温度による補正を行って燃料のアルコール濃度を検出する場合には同様に生じ得る問題である。
【0008】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、その目的は、燃料温度の変化に対し検出誤差を可及的に小さくする燃料アルコール濃度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の燃料アルコール濃度検出装置は、温度センサにて検出される燃料温度に基づき燃料に晒される電極間の静電容量を補正して、燃料中のアルコール濃度を検出する。
【0010】
燃料アルコール濃度検出装置は、基部から突出する筒状の内側電極、及び、基部から突出し、内側電極と対向するように当該内側電極を囲繞する外側電極を備えている。ここで基部は、例えば基板を収容するハウジングとして構成することが考えられる。例えば、この基部が燃料タンクに取り付けられ、突出する内側電極及び外側電極が燃料に晒されるという具合である。
【0011】
本発明では特に、絶縁機能を有する絶縁部が、内側電極と外側電極との間に介在している。この絶縁部は、燃料に晒される電極間の静電容量と燃料温度との対応関係である温度特性とは反対の温度特性を具備する。「反対の温度特性」とは、例えば、図5に示したように、エタノールに関し、両電極間の温度特性が「右下がり」である場合、これとは反対の「右上がり」の温度特性をいう。なお、燃料温度及び静電容量の大小関係を図5に示すように表した場合の「右下がり」を「負温度特性」といい、「右上がり」を「正温度特性」ということにする。
【0012】
つまり、本発明では、燃料に晒される電極間の温度特性が「負温度特性」になることに着目し、両電極間に「正温度特性」の絶縁部を介在させることで、温度特性を調整するのである。このような絶縁部が介在することで、温度特性は、燃料に晒される電極が対向する部分と絶縁部が介在する部分とのトータルで示されることになり、燃料温度の変化に対する静電容量の変化が小さくなる。これにより、燃料温度の変化に対し検出誤差を可及的に小さくすることができる。
【0013】
なお、本発明の技術思想は、燃料に晒される電極が対向する部分と絶縁部が介在する部分とのトータルで温度特性が示されるため、燃料温度の変化に対する静電容量の変化を小さくするような温度特性を具備する絶縁部を介在させるというものである。そこで、「前記内側電極と前記外側電極との間に介在し、電極間の燃料温度に対する静電容量の変化を小さくするような温度特性を具備し、絶縁機能を有する絶縁部」としてもよい。
【0014】
具体的な構成として、両電極間の先端側が燃料に晒されることを考えると、例えば請求項2に示すように、両電極間の基部側に絶縁部を介在させることが考えられる。
【0015】
また、絶縁部は、請求項3に示すように、弾性変形可能な弾性部材で構成することが例示される。例えばフッ素ゴムなどを用いることが考えられる。このとき、請求項4に示すように、弾性部材が基部側への燃料漏れを抑止する燃料シール機能を有する構成としてもよい。基部側にプリント基板などが収容される場合、基部側への燃料漏れを抑止する必要が生じる。このようにすれば、燃料に対するシール性能の向上に寄与する。
【0016】
燃料に対するシール性能の向上という観点からは、請求項5に示すように、弾性部材と、弾性部材に対し基部の反対側である先端側に配置されシール機能を有するシール部とで、絶縁部を構成してもよい。このようにすれば、燃料に対するシール性能が一層向上する。具体的には請求項6に示すように、シール部は、硝子封止で形成することが例示される。硝子封止の場合、燃料温度の変化による影響を受けにくいため、シール部の温度変化による検出誤差を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態の燃料アルコール濃度センサの全体構成を示す概略断面図である。
【図2】フッ素ゴムのみを介在させた場合の温度特性を示す説明図である。
【図3】フッ素ゴムを介在させた場合の温度特性の変化を示す説明図である。
【図4】別実施形態の燃料アルコール濃度センサの全体構成を示す概略断面図である。
【図5】エタノール混合燃料の温度特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本形態の燃料アルコール濃度センサは、車両の燃料タンクに取り付けられ、燃料中のエタノール濃度を測定するものである。
【0019】
図1に示すように、燃料アルコール濃度センサ1は、ハウジング10、内側電極20、及び、外側電極30を備えている。
ハウジング10は、樹脂製であり、上部が開口する容器状を呈している。容器状となっていることで、ハウジング10の内部には、電気回路のプリントされた基板11が収容配置されている。基板11は、ネジ12によってハウジング10に対し螺着されている。また、基板11から上方へ向けて、3本のコネクタ端子13が突出している。これにより、上部開口からコネクタ(不図示)が嵌合する構成となっている。
【0020】
内側電極20は、ハウジング10の底部中央に設けられた穴部14を挿通するように支持されて、ハウジング10から下方へ突出している。内側電極20は、金属製であり、ハウジング10側が開口する有底円筒状となっている。この内側電極20の内部には、サーミスタ40が収容されている。
【0021】
外側電極30は、金属製であり、円筒状を呈し、径外方向へ突出するフランジ部31を有している。外側電極30は、ハウジング10の穴部14の周囲から下方へ向かって立設された円筒壁15の内側に、その基端が入り込むように組み付けられて支持されている。かかる構成により、内側電極20と対向するように内側電極20を囲繞する。外側電極30の先端には、「U」字状の切り欠き32が形成されており、内側電極20との間に形成される空間に燃料が十分に流入するようになっている。
【0022】
外側電極30の基端からは、端子33が上方へ延びている。この端子33は、基板11に電気的に接続されている。一方、内側電極20からも端子が上方へ延びており、基板11との導通が図られている(不図示)。
【0023】
サーミスタ40は、内側電極20の先端側から順に、センサ部41、センサ部41に接続されたリード部42、リード部42が接続された導電板43、導電板43を覆う樹脂部44、及び、導電板43と基板11との導通を図る端子45を有している。なお、導電板43は、一枚の金属板の状態で樹脂部44のモールド成形が行われた後、中心線に沿って切断されることで形成される。
【0024】
このような構成において、本形態では特に、内側電極20と外側電極30との間に介在する絶縁部50を有している。絶縁部50は、外側電極30の基端から両電極20,30の中央部のやや下まで配置されている。絶縁部50は、弾性部材51及びシール部52で形成されている。弾性部材51は、フッ素ゴムで形成されており、外側電極30の基端側に配置されている。一方、シール部52は、弾性部材51に隣接するよう先端側に配置されている。このシール部52は、硝子封止にて形成されている。これら弾性部材51及びシール部52は、共に燃料のハウジング10側への漏れを抑止するシール機能を有している。
【0025】
かかる構成により、内側電極20と外側電極30との間に燃料が満たされた状態で静電容量が検出される。また、サーミスタ40は、内側電極20を介して外部に満たされる燃料温度を検出する。その結果、エタノール混合ガソリンの温度特性に基づいて、エタノール濃度が検出される。なお、このようなエタノール濃度の検出は、ハウジング10に嵌合するコネクタ(不図示)を介して接続される外部の演算装置で行うようにしてもよいし、基板11上に演算部を設け、当該演算部で行うようにしてもよい。
【0026】
以上詳述したように、本発明では、フッ素ゴムから形成された弾性部材51を両電極20,30間に介在させたため、燃料温度の変化に対する静電容量の変化を抑えることができ、燃料温度の変化に対し検出誤差を可及的に小さくすることができる。
【0027】
このような効果に対する理解を容易にするため、図面を用いて説明する。
図2は、弾性部材51を形成するフッ素ゴムの温度特性を示している。図2では、横軸がフッ素ゴムの「温度」となっており、縦軸が「静電容量」を示している。ここでいう静電容量は、電極20,30間にフッ素ゴムのみが介在した場合の当該電極間の静電容量を意味する。
【0028】
図2から分かるように、フッ素ゴムの温度特性は、温度が高くなるにしたがって静電容量が大きくなる「右上がり」の特性、すなわち「正温度特性」となっている。一方、図3に実線で示すように、エタノールの温度特性(E100)は、「右下がり」の特性、すなわち「負温度特性」となっている(図5参照)。
【0029】
つまり、本形態では、燃料に晒される電極20,30間の温度特性が「負温度特性」になることに着目し、両電極20,30間に「正温度特性」を有するフッ素ゴムの弾性部材51を介在させることで、温度特性を調整するのである。このような弾性部材51が介在することで、温度特性は、燃料に晒される電極20,30が対向する部分と弾性部材51及びシール部52が介在する部分とのトータルで示されることになり、燃料温度の変化に対する静電容量の変化が小さくなる。具体的には、図3に二点鎖線で示したようにグラフの傾きが小さくなる。従来は、燃料温度が−40℃〜100℃まで変化した場合、静電容量の変化は記号Jで示す範囲となっていたが、本形態では、静電容量の変化が記号Kで示す範囲に抑えられる。これにより、燃料温度の変化に対し検出誤差を可及的に小さくすることができる。
【0030】
また、本形態によれば、シール部52に加え、弾性部材51もシール機能を有しているため、ハウジング10側への燃料漏れを十分に抑止することができる。これにより、燃料に対するシール性能が大きい。
さらにまた、本形態によれば、シール部52が硝子封止にて形成されているため、燃料の温度変化の影響を受けにくく、シール部52自体の温度変化による検出誤差を抑えることができる。
【0031】
なお、本形態における燃料アルコール濃度センサ1が、[特許請求の範囲]の「燃料アルコール濃度検出装置」を構成し、ハウジング10が「基部」を構成し、内側電極20が「内側電極」を構成し、外側電極30が「外側電極」を構成し、絶縁部50が「絶縁部」を構成し、弾性部材51が「弾性部材」を構成し、シール部52が「シール部」を構成する。
【0032】
以上、本発明は、上記実施形態に何等限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施可能である。
(イ)上記形態では弾性部材51がシール機能を有するものとしたが、シール部52のみがシール機能を有する構成としてもよい。
【0033】
(ロ)図4に示すような、絶縁部500を採用してもよい。絶縁部500は、外側電極30の基端から両電極20,30の中央部のやや下まで配置されている。この絶縁部500は、フッ素ゴムで形成されシール機能を有する弾性部材510で構成されている。
【0034】
このようにすれば、幾分シール性能が低減するものの、部品点数が少なくなるという点で有利である。また、フッ素ゴムで形成された弾性部剤510の占める割合が上記形態と比べて大きくなるため、燃料温度の変化に対する静電容量の変化を一層小さくすることができ、燃料温度の変化に対し検出誤差を可及的に小さくすることができる。
なお、この場合、絶縁部500が「絶縁部」を構成し、弾性部材510が「弾性部材」を構成する。
【0035】
(ハ)上記形態では、エタノール濃度を測定するものとしたが、メタノールなどのアルコール濃度を測定する場合でも同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1:燃料アルコール濃度センサ、10:ハウジング、11:基板、12:ネジ、13:コネクタ端子、14:穴部、15:円筒壁、20:内側電極、30:外側電極、31:フランジ部、32:切り欠き、33:端子、40:サーミスタ、41:センサ部、42:リード部、43:導電板、44:樹脂部、45:端子、50:絶縁部、51:弾性部材、52:シール部、500:絶縁部、510:弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサにて検出される燃料温度に基づき燃料に晒される電極間の静電容量を補正して、燃料中のアルコール濃度を検出する燃料アルコール濃度検出装置であって、
基部と、
前記基部から突出する筒状の内側電極と、
前記基部から突出し、前記内側電極と対向するように当該内側電極を囲繞する外側電極と、
前記内側電極と前記外側電極との間に介在し、燃料に晒された電極間の静電容量と燃料温度との対応関係である温度特性とは反対の温度特性を具備し、絶縁機能を有する絶縁部と、
を備えていることを特徴とする燃料アルコール濃度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料アルコール濃度検出装置において、
前記絶縁部は、前記両電極間の基部側に介在していること
を特徴とする燃料アルコール濃度検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料アルコール濃度検出装置において、
前記絶縁部は、弾性変形可能な弾性部材で構成されていること
を特徴とする燃料アルコール濃度検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料アルコール濃度検出装置において、
前記弾性部材は、基部側への燃料漏れを抑止する燃料シール機能を有していること
を特徴とする燃料アルコール濃度検出装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の燃料アルコール濃度検出装置において、
前記絶縁部は、前記弾性部材と、当該弾性部材に対し基部の反対側である先端側に配置されシール機能を有するシール部とで構成されていること
を特徴とする燃料アルコール濃度検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料アルコール濃度検出装置において、
前記シール部は、硝子封止によって形成されていること
を特徴とする燃料アルコール濃度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−145201(P2011−145201A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6949(P2010−6949)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】