説明

燃料カートリッジ

【課題】携帯電話、ノート型パソコン、PDA、デジタルカメラ及び電子手帳などの携帯用電子機器の電源として用いられる小型の燃料電池用に好適な燃料カートリッジを提供する。
【解決手段】液体燃料Fを充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋10と、該燃料貯蔵袋10を収容する外容器20とを備え、該外容器20は、空気置換口30以外で密閉されており、その空気置換孔30に、毛管力を有する直流防止部材40が挿入されていることを特徴とする燃料カートリッジA。
【効果】燃料を燃料電池本体へ安定的に供給することができ、更に、燃料電池本体に燃料が充分満たされた後の、余剰の燃料直流を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料カートリッジに関し、更に詳しくは、携帯電話、ノート型パソコン、PDA、デジタルカメラ及び電子手帳などの携帯用電子機器の電源として用いられる小型の燃料電池用に好適な燃料カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、空気電極層、電解質層及び燃料電極層が積層された燃料電池セルと、燃料電極層に還元剤としての燃料を供給するための燃料供給部と、空気電極層に酸化剤としての空気を供給するための空気供給部とからなり、燃料と空気中の酸素とによって燃料電池セル内で電気化学反応を生じさせ、外部に電力を得るようにした電池であり種々の形式のものが開発されている。
【0003】
近年、環境問題や省エネルギーに対する意識の高まりにより、クリーンなエネルギー源としての燃料電池を、各種用途に用いることが検討されており、特に、メタノールと水を含む液体燃料を直接供給するだけで発電できる燃料電池が注目されてきている(例えば、特許文献1及び2参照)。
これらの燃料電池に用いる燃料カートリッジとしては、例えば、燃料室に、容易に破れず、燃料が染み出すことが無い物質からできたラミネートパウチによる燃料袋を用いて、燃料の体積の変化に対応してカートリッジの見掛け体積を変化し得る機構を備えた燃料カートリッジが知られている(例えば、特許文献3参照)。この燃料カートリッジに用いる燃料袋は、外容積に対する燃料充填効率が高い点、燃料カートリッジを透明体で構成すれば燃料袋の変形度合いに応じて残量を視認できる点、カートリッジの向きによらず燃料供給が可能な点及び形状の自由度が高い点などの利点がある。
【0004】
しかしながら、パウチ方式の燃料袋を収容した燃料カートリッジは、燃料保持力が無いため、燃料排出口が開いた状態では、燃料の直流を止めることができなかった。アクティブ方式の燃料供給では、流路は密閉され且つ流出をバルブやポンプで制御するので、パウチ方式の燃料袋からの直流を防止できるが、毛管力にて燃料を供給するパッシブ方式では、燃料を供給した後、パウチ方式の燃料袋からの直流を止めることができないという課題を有しているのが現状である。
【0005】
一方、バルブやポンプで制御しない燃料カートリッジとしては、例えば、ケーシングに形成した出口に接続された第1室と前記出口に非接続の第2室とに前記ケーシング内を区画する区画部材と、前記区画部材を介して前記第1室内に収容された燃料を加圧するための先端側に可動部材を備えた伸縮可能のベローズからなる体積膨張手段を加圧手段として備えたことを特徴とする燃料電池用等の液体カートリッジが知られている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、この特許文献4記載の液体カートリッジにおいても、燃料消費に伴い空気を取り込まないため、燃料の排出の制御が困難となる課題がある。
【特許文献1】特開平5−258760号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開平5−307970号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2006−24400号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開2004−142831号公報(特許請求の範囲、実施例、図3等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の燃料カートリッジにおける課題及び現状に鑑み、これを解消するためになされたものであり、燃料を燃料電池本体へ安定的に供給することができ、更に、燃料電池本体に燃料が充分満たされた後の、余剰の燃料の直流を防止できる燃料カートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題等について、鋭意検討した結果、液体燃料を充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋と、該燃料貯蔵袋を収容する外容器とを備え、このハードケースとなる外容器を空気置換口以外で密閉すると共に、上記空気置換孔に、特定構造となる直流防止部材を挿入することより、上記目的の燃料カートリッジが得られることに成功し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(16)に存する。
(1) 液体燃料を充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋と、該燃料貯蔵袋を収容する外容器とを備え、該外容器は、空気置換口以外で密閉されており、その空気置換孔に、毛管力を有する直流防止部材が挿入されていることを特徴とする燃料カートリッジ。
(2) 直流防止部材は、溶剤を含浸した多孔体から構成されることを特徴とする上記(1)記載の燃料カートリッジ。
(3) 多孔体は、繊維収束体、フェルト、不織布、焼結体、発泡体及びスリット体の何れか一つから構成されることを特徴とする上記(2)記載の燃料カートリッジ。
(4) 溶剤は、不揮発性溶剤であることを特徴とする上記(2)又は(3)記載の燃料カートリッジ。
(5) 不揮発性溶剤は、炭化水素系オイル、シリコンオイル及び鉱油の少なくとも1種から構成されることを特徴とする上記(4)記載の燃料カートリッジ。
(6) 直流防止部材は、支持部材又は支持部によって外容器に支持されるが、多孔体の端面が支持部材又は支持部に接触しないように支持されていることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
(7) 直流防止部材によって発生する毛管力は、液体燃料の自重を支えることのできる毛管力を有することを特徴とする上記(1)〜(6)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
(8) 毛管力は、0.8kPa以上であることを特徴とする上記(7)記載の燃料カートリッジ。
(9) 毛管力は、液体燃料の自重の5倍未満であることを特徴とする上記(7)又は(8)記載の燃料カートリッジ。
(10) 毛管力は、3.9kPa未満であることを特徴とする上記(7)〜(9)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
(11) 燃料貯蔵袋は、その燃料貯蔵袋単体での最大燃料貯蔵量が外容器の容積よりも大きいことを特徴とする上記(1)〜(10)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
(12) 燃料貯蔵袋は、ラミネートフィルムを融着してなるラミネートパウチからなることを特徴とする上記(1)〜(11)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
(13) ラミネートパウチには、燃料を排出するためのスパウトが融着されてなることを特徴とする上記(12)記載の燃料カートリッジ。
(14) スパウトは、ラミネートフィルムの接着層と同一の素材から構成される構成されることを特徴とする上記(13)記載の燃料カートリッジ。
(15) スパウトには、逆止弁が挿入されていることを特徴とする上記(13)又は(14)に記載の燃料カートリッジ。
(16) スパウトは、ラミネートフィルムとラミネートフィルムとの接着部に挿入されておらず、ラミネートフィルムを貫通した状態でラミネートフィルムに融着されていることを特徴とする上記(13)〜(15)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料を燃料電池本体へ安定的に供給することができ、更に、燃料電池本体に燃料が充分満たされた後の、余剰の燃料直流を防止できる燃料カートリッジが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳しく説明する。
図1〜図4は、本発明の燃料カートリッジの実施形態の一例を示すものである。
本実施形態の燃料カートリッジAは、図1及び図2に示すように、燃料電池本体に連結自在となるものであり、液体燃料を充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋10と、該燃料貯蔵袋10を収容するハードケースとなる外容器20とを備え、該外容器20は、空気置換口30以外で密閉されており、その空気置換孔30に、毛管力を有する直流防止部材40が挿入されていることを特徴とするものである。
【0011】
燃料貯蔵袋10は、燃料の充填効率の点、変形度合いに応じて残量を視認できる点、カートリッジの向きによらず燃料供給が可能な点及び形状の自由度が高い点から、変形可能な可撓性袋からなるものであれば、特に限定されないが、更に簡便に製造する点、更に強度を高める点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、セロハン、紙、布、不織布からなる表面層を有するラミネートフィルムを融着してなるラミネートパウチからなるものが好ましく、また、ラミネートフィルムには、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂からなる接着層を有することが好ましい。
上記表面層の厚みは、ラミネートパウチの強度を更に高める点、コスト、製造性の点から、好ましくは、10〜1000μm、特に好ましくは、10〜100μmが望ましい。また、接着層の厚みは、ラミネートパウチの接着強度を更に高める点、コスト、製造性の点から、20〜200μmであるものが好ましく、特に好ましくは、20〜100μmが望ましい。
【0012】
更に、ラミネートフィルムには、アルミ箔、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、アルミ若しくはシリカ蒸着フィルムからなるバリア層を有することが好ましく、このバリア層の厚みはラミネートパウチの空気バリア製を更に高めることができ、更に後述する液体燃料からの揮発減量を更に低減する点、コスト、製造性の点から、5〜100μmであるものが好ましく、特に好ましくは、10〜30μmが望ましい。
【0013】
燃料貯蔵袋10となるラミネートパウチは、その形状は特に限定されないが、外容器20内でのラミネートパウチの強度を更に確保する点から、3方シール袋、2方シール袋若しくはピロー袋形状であるものが好ましい。
図3は、本実施形態となる燃料貯蔵袋10の一例であり、接着層が厚さ40μmのポリエチレン、表面(基材)層が厚さ20μmのナイロン、バリア層が厚さ10μmのアルミ箔から構成されるものであり、図4に示すように、一枚のラミネートフィルムの接着部(接着層)11をそれぞれ折り返された状態で接着することにより、図3に示す燃料貯蔵袋10が作製され、外容器20内に収容されている。なお、図4中の12は折曲部、13は燃料貯蔵袋10内の液体燃料を排出する排出口部となるスパウト25を取り付けるための貫通部を示す。
【0014】
この燃料貯蔵袋10を収容する外容器20は、好ましくは、燃料貯蔵袋単体10での最大燃料貯蔵量以下の内容積となるものが望ましい。これにより、燃料貯蔵袋10である可撓性袋をその最大容積よりも小さな内容積の外容器20で覆うことにより、可撓性袋10内の液体燃料が揮発し内部が加圧されても、その内圧を可撓性袋自体ではなく、その外側の外容器20で押さえる構造となるものである。
また、この外容器20は、スパウト25を取り付けるための取付孔21を有する容器本体部22と、該容器本体部22の後方開口部を嵌合等に固着する平板状の蓋部材23とを有し、該蓋部材23には空気取り込み用の空気置換孔30が形成されている。
【0015】
外容器20の材質としては、耐久性、ガス不透過性(酸素ガス、窒素ガス等に対するガス不透過性)、更に、液体燃料の残量を視認できるように視認性があるものから構成されるものが挙げられる。
外容器20としては、例えば、視認性が要求されない場合であれば、耐圧性をさらに確保する点から、アルミニウム、ステンレスなどの金属、合成樹脂、ガラスなどが挙げられるが、前記した液体燃料の残量の視認性、ガス不透過性、製造や組立時のコスト低減及び製造の容易性などから、好ましくは、上記各特性を有するポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアクリルニトリル、ナイロン、セロハン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの単独もしくは2種以上の樹脂を含む単層構造、2層以上の多層構造からものが挙げられる。多層構造の場合は、少なくとも1層が、前記した性能(ガス透過度)を持つ樹脂で構成されていれば、残りの層は通常の樹脂でも実使用上問題はない。このような多層構造のチューブは、押出し成形、射出成形、共押出し成形などにより製造することができる。
上記外容器20の大きさとしては、特に限定されないが、5〜50×5〜100×30〜200mmとすることができる。また,外容器20の厚みは、耐圧性、製造や組立時のコスト低減及び製造の容易性の点から、0.1〜5mmであることが好ましい。
【0016】
本実施形態では、ラミネートパウチからなる燃料貯蔵袋10には、ラミネートパウチを破くことなく燃料を効率よく排出し、更に再封止しないために、液体燃料を排出するための燃料排出部材となるスパウト25が融着されている。
液体燃料を排出するためのスパウト25は、図1に示すように、基部25aと本体部25bと排水口部25cとから構成されており、ラミネートパウチとスパウトとの接着強度を更に高める点から、ラミネートフィルムの接着層、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂等と同一素材から構成されることが好ましい。
本実施形態のスパウト25は、ラミネートフィルムとラミネートフィルムの接着部11に挿入されておらず、ラミネートフィルムを貫通した状態、貫通部13を貫通して基部25aがラミネートフィルムに融着されている。この取り付け構造となるスパウト25では、ラミネートフィルムの接着部にスパウトを設置しないことで、ラミネートフィルムの接着部を折り返して外容器20に挿入することができ、また、スパウト25とラミネートフィルムとの接着部も、同様に、内圧上昇時に外容器20内面に押し付けることができるため、スパウト25の融着部分の強度を高めて、燃料カートリッジの耐熱性を更に高めることができることとなる。
【0017】
このスパウト25内には、図1に示すように、外容器20内の燃料貯蔵袋10に充填される液体燃料を外容器20外に排出するための弁体、例えば、逆止弁26を備えており、本実施形態ではスパウト25内に逆止弁26が筒状の弁体支持部材27を介して収納される構造となっている。この逆止弁26により、燃料排出時及び保管時に、燃料貯蔵袋10内に空気などの異物が混入すること及び燃料が零れることを防止することができる。
この逆止弁26は、例えば、液体燃料供給管などの液体燃料供給部材を挿入することで、燃料貯蔵袋10と内部とを連通させ、燃料貯蔵袋10内部の液体燃料Fを外部へ供給させる直線状のスリットからなる連通部が形成されると共に、前記弁体26がスパウト25内に収納された際に、弁体26が径方向に圧縮されることで、連通部に圧縮力が作用するようにしたものである。
この構造のスリット弁型の弁体26により、使用休止(未使用)時にも空気などの異物の浸入を防止する構造となっている。これは、空気などの浸入により燃料貯蔵袋10内の圧力増加などによる燃料漏れ、噴出しなどの事故を防止するためである。
【0018】
この弁体26は、液体燃料の漏洩をより効果的に防止する点から、上記構造等で、液体燃料Fに対して気体透過性の低い材質からなり、かつ、JIS K 6262−1997で規定される圧縮永久歪み率が20%以下の材料から構成されるものが好ましい。
これらの特性を有する弁体26としては、収容される液体燃料Fに対して保存安定性、耐久性、ガス不透過性、燃料供給管に密着できる弾性を有し、上記特性を有するものであれば、特に限定されず、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアクリルニトリル、ナイロン、セロハン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム、熱可塑性エラストマーが挙げられ、通常の射出成形や加硫成形などによって製造することができる。
【0019】
本発明では、上記液体燃料Fを充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋10を収容する外容器20は、空気置換口30以外で密閉されており、この空気置換孔30に、毛管力を有する直流防止部材40が支持部材又は支持部によって外容器20に取り付けられる構造となるものであり、本実施形態では平板状の蓋部材23に一体成形される筒状の支持部24内に挿入することにより取り付けられる構造となっている。なお、別成形の筒状の支持部材を空気置換孔30に固着し、上記支持部材内に直流防止部材40を取り付けいてもよいものである。
【0020】
この直流防止部材40は、微小な圧力差により、開放密閉を制御できることから、溶剤を含浸した多孔体41から構成されている。多孔体41は、例えば、繊維収束体、フェルト、不織布、焼結体、発泡体、スリット体の何れか一つから構成することができる。
繊維収束体としては、例えば、1〜100デニールの天然繊維や樹脂繊維を収束させた繊維束体が挙げられる。フェルトや不織布としては、例えば、例えば、1〜100デニールの天然繊維や樹脂繊維を用いたものが挙げられる。
また、焼結体としては、例えば、ポリエチレンなどの樹脂微粒子を熱焼結させたものが上げられ、発泡体としては、スポンジなどが挙げられ、スリット体としては、例えば、0.05〜1mm幅の溝を外容器20に設けてスリット体とすることができる。
【0021】
(段落番号のみ追加)
これらの多孔体41に含浸せしめる溶剤としては、不揮発性溶剤が好ましく、更に好ましく常圧下での沸点が100℃以下の溶剤、具体的には、炭化水素系オイル、シリコンオイル、鉱油の少なくとも1種から構成されることが望ましい。
【0022】
これらの溶剤を含浸した多孔体41から構成される直流防止部材40によって発生する毛管力は、直流防止部材の毛管力を十分直流を更に防止できるように設計する点から、液体燃料の自重を支えることのできる毛管力を有することが好ましく、更に、液体燃料の自重の5倍未満であるが望ましい。
この毛管力を有する直流防止部材40により、空気置換孔30に毛管力を発生させ、ハードケースとなる外容器20(燃料貯蔵袋10の外側)への空気置換を制御することができることとなる。
液体燃料Fとしてメタノール(MeOH)液を用いた場合、燃料供給に伴う圧力損失を更に低減するために、直流防止部材40によって発生する毛管力は、0.8kPa以上で、3.9kPa未満であることが望ましい。
この直流防止部材40によって発生する毛管力は、多孔体41の種類、材質、気孔率、含浸させる溶剤種などを好適に組み合わせることにより、最適な毛管力を調整することができる。
【0023】
これらの特性を有する直流防止部材40は、上記支持部24(又は支持部材)によって外容器20に取り付けられるものであるが、良好な空気置換を発揮せしめる点から、多孔体21の鉛直方向の両端面が筒状の支持部24に接触しないように支持されていることが好ましい。
この空気を取り込める毛管力を有する直流防止部材40により、燃料貯蔵袋10内の液体燃料Fが消費されても、ハードケースとなる外容器20(燃料貯蔵袋10の外側)への空気置換を制御することができ、負圧を生じさせることなく、液体燃料を効率よく排出することができることとなる。
【0024】
用いる液体燃料Fとしては、上記メタノールと水とからなるメタノール液が挙げられるが、燃料電池本体の燃料電極体において燃料として供給された化合物から効率良く水素イオン(H)と電子(e)が得られるものであれば、液体燃料は特に限定されず、燃料電極体の構造などにもよるが、例えば、ジメチルエーテル(DME)、エタノール液、ギ酸、ヒドラジン、アンモニア液、エチレングリコール、水素化ホウ素ナトリウム水溶液、ショ糖水溶液などの液体燃料も用いることができる。好ましい液体燃料としては、効率性、コストの点などから、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル若しくはその水溶液からなる揮発性燃料であるものが望ましい。
また、これらの液体燃料の濃度は、燃料電池の構造、特性等により種々の濃度の液体燃料を用いることができ、例えば、1〜100%濃度の液体燃料を用いることができる。
【0025】
本発明において、用いる液体燃料Fは、溶存酸素濃度が50%airsatur.以下、好ましくは、0〜10%airsatur.であることが望ましい。なお、上記50%airsatur.以下とは、液体燃料中における飽和酸素濃度(100%)に対して、50%以下とすることを意味する。
液体燃料中における酸素の存在は、燃料電池の稼動率に悪影響を及ぼすものであり、極力少ないほうが良い。用いる液体燃料中の溶存酸素濃度を低下せる手段としては、例えば、減圧超音波脱気にて(10kPa、10min)脱気処理する方法等により溶存酸素濃度を所定値以下とすることができる。
【0026】
このように構成される本発明の燃料カートリッジAでは、液体燃料を充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋10と、該燃料貯蔵袋10を収容するハードケースとなる外容器20とを備え、該外容器20は、空気置換口30以外で密閉されており、その空気置換孔30に、毛管力を有する直流防止部材40が挿入されているので、該直流防止部材40により、空気置換孔30に毛管力を発生させ、ハードケースとなる外容器20(燃料貯蔵袋10の外側)への空気置換を好適に制御することができるため、燃料貯蔵袋内10の液体燃料Fを燃料電池本体へ安定的に供給することができ、更に、燃料電池本体に燃料が充分満たされた後の、余剰の燃料直流を防止できる燃料カートリッジが得られることとなる。
更に、液体燃料を充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋10単体での最大燃料貯蔵量以下の内容積となる外容器20とから構成することにより、可撓性袋10内の液体燃料が揮発し内部が加圧されても、その内圧を可撓性袋自体ではなく、その外側の外容器20で押さえることができるので、可撓性袋の耐内圧性に依ることなく、燃料カートリッジの耐温度性を高めることができるので、稼動時などの加熱時の耐久性に優れると共に、液体燃料を燃料電池本体へ安定的に供給することができる燃料カートリッジが得られることとなる。
【0027】
本発明の燃料カートリッジは、上記各実施形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内で種々変更することができる。
例えば、燃料排出部材となるスパウト25内に装着する弁体26をゴム部材により構成したが、スプリング部材を備えた逆止弁等を用いてもよく、また、燃料カートリッジを連結自在となる発電セルを含む燃料電池本体の構造も特に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例及び比較例により、更に詳述するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1〕
下記作製法により、燃料カートリッジを得た後、その燃料排出性及び直流防止効果を評価した。
(外容器の構成、図1に準拠)
ポリプロピレン製容器:外寸法 20×30×50mm
:内寸法 18×28×48mm
:内容積 24.2cc
(外容器、蓋部材の構成)
ポリプロピレン製:外寸法 20×30×3mm
(直流部材の構成)
直流防止部材:毛管力 1kPa(自重の2倍の毛管力を有する)
多孔体:ポリエチレンテレフタレート繊維束体、φ1×3mm、気孔率60%
溶剤:流動パラフィン(和光純薬工業社製)、1.4mg
【0030】
(燃料貯蔵袋の構成、図2、3に準拠)
ラミネートフィルム:寸法 120×100mm
:接着層 ポリエチレン 40μm
:バリア層 アルミ箔 10μm
:基材層 ナイロン20μm
:スパウト挿入用貫通孔 φ6.4mm
図3に準拠し、パウチ(マチ付きピロー袋)作製。なお、接着部厚みは5mmである。
【0031】
(スパウトの構成)
材質:ポリエチレン製、最大外径10mm、筒部外径6mm、筒部内径5mm、長さ10mm
(逆止弁の構成)
材質:ブチルゴム製、外径5mm、長さ3mm、スリット長2mm
上記構成部材を用いて、図2に準拠し、パウチ折り返し、最大内容積60ccの燃料貯蔵袋を作成した。
【0032】
〔燃料カートリッジ〕
図1に準拠し、外容器内に燃料貯蔵袋を挿入した後、蓋部材にて密閉した。最大内容積は23.5ccである。
燃料種:メタノール99.8%、燃料充填量:23cc(溶存酸素濃度は3%airsatur)
【0033】
〔比較例1、図5準拠、図1に対して直流防止部材40がない形態〕
燃料貯蔵袋の作製方法は、実施例1に準拠し、外容器20内に燃料貯蔵袋10を挿入した後、蓋部材にて密閉した。
燃料種:メタノール99.8%、燃料充填量:23cc(溶存酸素濃度は3%airsatur)
(空気置換孔の構成、直流部材なし)
蓋部材:ポリプロピレン製、外寸法20×30×3mm、空気置換孔:φ1mm
【0034】
〔排出性試験〕
上記実施例1及び比較例1を、それぞれポンプにて0.5cc/minで排出させ、その排出性を評価した。
この排出性試験は、実施例1及び比較例1共に、95%以上排出できた。
〔直流防止性試験〕
上記実施例1及び比較例1の逆止弁に、φ1mm(内径0.7mm)、長さ50mmのステンレス製パイプを挿入し、下向き放置での燃料直流を観察した。
この直流防止性試験は、実施例1では、燃料の直流は無かった。これに対して、比較例1では、50%以上の燃料が直流した。
【0035】
以上の結果から明らかなように、本発明の範囲内である実施例1では、燃料の排出性及び耐直流性が確保されているが、本発明の範囲外である比較例1では、排出性は問題がないが、耐直流性が不足しているため、燃料を安定に保存することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
燃料を燃料電池本体へ安定的に供給することができ、更に、燃料電池本体に燃料が充分満たされた後の、余剰の燃料直流を防止できる燃料カートリッジが得られるので、携帯電話、ノート型パソコン、PDA、デジタルカメラ及び電子手帳などの携帯用電子機器の電源としての燃料電池用の燃料カートリッジに有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態の一例となる燃料カートリッジの縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態の一例となる燃料カートリッジの斜視図である。
【図3】燃料貯蔵袋の斜視図である。
【図4】燃料貯蔵袋をラミネートフィルムで作製するときの接着前展開図である。
【図5】比較例1に用いる燃料カートリッジの縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
A 燃料カートリッジ
F 液体燃料
10 燃料貯蔵袋
20 外容器
25 スパウト
26 弁体(逆止弁)
30 空気置換孔
40 直流防止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料を充填してなる変形可能な可撓性袋からなる燃料貯蔵袋と、該燃料貯蔵袋を収容する外容器とを備え、該外容器は、空気置換口以外で密閉されており、その空気置換孔に、毛管力を有する直流防止部材が挿入されていることを特徴とする燃料カートリッジ。
【請求項2】
直流防止部材は、溶剤を含浸した多孔体から構成されることを特徴とする請求項1記載の燃料カートリッジ。
【請求項3】
多孔体は、繊維収束体、フェルト、不織布、焼結体、発泡体及びスリット体の何れか一つから構成されることを特徴とする請求項2記載の燃料カートリッジ。
【請求項4】
溶剤は、不揮発性溶剤であることを特徴とする請求項2又は3記載の燃料カートリッジ。
【請求項5】
不揮発性溶剤は、炭化水素系オイル、シリコンオイル及び鉱油の少なくとも1種から構成されることを特徴とする請求項4記載の燃料カートリッジ。
【請求項6】
直流防止部材は、支持部材又は支持部によって外容器に支持されるが、多孔体の端面が支持部材又は支持部に接触しないように支持されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【請求項7】
直流防止部材によって発生する毛管力は、液体燃料の自重を支えることのできる毛管力を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【請求項8】
毛管力は、0.8kPa以上であることを特徴とする請求項7記載の燃料カートリッジ。
【請求項9】
毛管力は、液体燃料の自重の5倍未満であることを特徴とする請求項7又は8記載の燃料カートリッジ。
【請求項10】
毛管力は、3.9kPa未満であることを特徴とする請求項7〜9の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【請求項11】
燃料貯蔵袋は、その燃料貯蔵袋単体での最大燃料貯蔵量が外容器の容積よりも大きいことを特徴とする請求項1〜10の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【請求項12】
燃料貯蔵袋は、ラミネートフィルムを融着してなるラミネートパウチからなることを特徴とする請求項1〜11の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【請求項13】
ラミネートパウチには、燃料を排出するためのスパウトが融着されてなることを特徴とする請求項12記載の燃料カートリッジ。
【請求項14】
スパウトは、ラミネートフィルムの接着層と同一の素材から構成される構成されることを特徴とする請求項13記載の燃料カートリッジ。
【請求項15】
スパウトには、逆止弁が挿入されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の燃料カートリッジ。
【請求項16】
スパウトは、ラミネートフィルムとラミネートフィルムとの接着部に挿入されておらず、ラミネートフィルムを貫通した状態でラミネートフィルムに融着されていることを特徴とする請求項13〜15の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−78848(P2009−78848A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250433(P2007−250433)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】