説明

燃料噴射ポンプ

【課題】燃料中への潤滑油の混入を防止できる燃料噴射ポンプを提供する。
【解決手段】プランジャバレル11内に往復摺動可能に設けられているプランジャ10がプランジャバレル11から突出してタペット20に連動可能に構成され、該タペット20がカム21によりポンプケース12に形成されているタペット室16内を往復摺動可能に構成されている燃料噴射ポンプ1において、前記タペット20の上端部は、往復摺動の最上位置から最下位置の間の摺動ストローク203の全域で、前記タペット室16の上端部16aから前記プランジャバレル11側に常に突出し、前記プランジャ10に潤滑油がかかること防止する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに搭載される燃料噴射装置の燃料噴射ポンプに関し、より詳細には、燃料噴射ポンプにおいて燃料中への潤滑油の混入防止に係る構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンに搭載される燃料噴射装置の燃料噴射ポンプにおいて、燃料中への潤滑油の混入防止に係る構造は公知となっている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の燃料噴射ポンプは、タペット内部とタペット外部とを連通する連通路を備える。特許文献1に記載の燃料噴射ポンプは、タペット内部に流入した潤滑油が連通路によってタペット外部に排出されることにより、潤滑油がタペット内部に溜まって燃料中に混入することを防止可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−146984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の燃料噴射ポンプは、潤滑油がプランジャにかかることは防止できない。つまり、特許文献1に記載の燃料噴射ポンプは、プランジャにかかった潤滑油がプランジャとプランジャバレルとの隙間を通って燃料中に混入してしまい、これにより、燃料の黒色化、不完全燃焼による燃料噴射ノズル噴口部へのカーボンフラワー付着に起因する排気煙の悪化が発生する、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上のとおりであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
請求項1においては、プランジャバレル(11)内に往復摺動可能に設けられているプランジャ(10)がプランジャバレル(11)から突出してタペット(20)に連動可能に構成され、該タペット(20)がカム(21)によりポンプケース(12)に形成されているタペット室(16)内を往復摺動可能に構成されている燃料噴射ポンプ(1)において、前記タペット(20)の上端部は、往復摺動の最上位置から最下位置の間の摺動ストローク(203)の全域で、前記タペット室(16)の上端部(16a)から前記プランジャバレル(11)側に常に突出し、前記プランジャ(10)に潤滑油がかかること防止する構成としたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0008】
請求項1においては、プランジャバレル(11)内に往復摺動可能に設けられているプランジャ(10)がプランジャバレル(11)から突出してタペット(20)に連動可能に構成され、該タペット(20)がカム(21)によりポンプケース(12)に形成されているタペット室(16)内を往復摺動可能に構成されている燃料噴射ポンプ(1)において、前記タペット(20)の上端部は、往復摺動の最上位置から最下位置の間の摺動ストローク(203)の全域で、前記タペット室(16)の上端部(16a)から前記プランジャバレル(11)側に常に突出し、前記プランジャ(10)に潤滑油がかかること防止する構成としたので、潤滑油がプランジャにかかるのをタペットの突出部分によって防止できて、燃料中への潤滑油の混入を防止できるため、燃料の黒色化、不完全燃焼による燃料噴射ノズル噴口部へのカーボンフラワー付着に起因する排気煙の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】燃料噴射ポンプであってローラタペットが上死点に位置した状態を示した側面断面図。
【図2】図1の正面断面図。
【図3】燃料噴射ポンプであってローラタペットが下死点に位置した状態を示した側面断面図。
【図4】図3の正面断面図。
【図5】カムを示した側面図。
【図6】流入防止部材を示した平面図。
【図7】流入防止部材を示した図4におけるA―A’断面図。
【図8】流入防止部材を示した断面図。
【図9】ローラタペットを示した正面一部断面図。
【図10】ローラタペットを備える燃料噴射ポンプを示した正面断面図。
【図11】燃料噴射ポンプに備えるローラタペットを示した正面一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、発明を実施するための形態を説明する。
【0011】
先ず、燃料噴射ポンプ1について、図1から図9により説明する。
【0012】
なお、以下では便宜上、燃料噴射ポンプ1をエンジンに取り付けたときの姿勢を基準として重力が作用する方向を「下方」と定義するとともに重力が作用する方向の逆方向を「上方」と定義することにより「上下方向」を定義し、上下方向に対して垂直な方向として「前後方向」を定義し、上下方向および前後方向に対して垂直な方向として「左右方向」を定義し、これら定義された方向を用いて説明を行う。
【0013】
図1から図4に示すように、燃料噴射ポンプ1は、エンジンの燃料噴射装置を構成する部品であり、燃料を高圧にして圧送するものである。燃料噴射ポンプ1は、エンジンの各シリンダ(図示省略)に一本のプランジャ10によって燃料を分配・圧送する分配形燃料噴射ポンプである。
【0014】
プランジャ10は、プランジャバレル11内に上下方向に往復摺動可能に設けられる。プランジャバレル11は、ポンプケース12の上部に設けられたハイドロリックヘッド13に挿嵌される。ハイドロリックヘッド13においてプランジャバレル11を挟んで右方には、低温始動タイマ機構であるサーモエレメント14が設けられ、プランジャバレル11を挟んで左方には、アキュムレータ37が設けられる。プランジャバレル11とプランジャ10の上端部との間には、燃料タンク(図示省略)に連通される加圧室15が形成される。
【0015】
プランジャバレル11の下端部は、ポンプケース12の上部に上下方向に形成されたタペット室16に挿嵌される。タペット室16内においてプランジャバレル11の下端部からは、プランジャ10が下方に突出する。プランジャバレル11の下端部外周には、上部バネ受け17が固設されるとともに、プランジャ10の下端部には下部バネ受け18が固設される。下部バネ受け18の上面と上部バネ受け17の下面との間には、プランジャ10に下方への付勢力を付与するバネ19が介装される。プランジャ10の下端部には、ローラタペット20がタペット室16内を上下方向に往復摺動可能に設けられる。
【0016】
なお、図1および図2は、ローラタペット20が上死点に位置した状態の燃料噴射ポンプ1を示したものであり、図3および図4は、ローラタペット20が下死点に位置した状態の燃料噴射ポンプ1を示したものである。
【0017】
ローラタペット20は、上方に開口した円筒状である。ローラタペット20内には、下部バネ受け18が固設されており、下部バネ受け18を介してバネ19によってローラタペット20がプランジャ10とともに下方へ付勢される。ローラタペット20の下部には、カム21に当接するローラ部201がローラ軸202を介して回動自在に軸支される。ローラタペット20内の上面と下部バネ受け18の下面との間には、調整シム206が設けられる。調整シム206は、カム21とローラタペット20との隙間を適正値に調整する。
【0018】
カム21は、カム軸22上に固設されて、ポンプケース12の下部に形成されたカム室23内の前部に収容される。カム室23内は潤滑油によって満たされており、カム21はこの潤滑油によって潤滑される。カム軸22は、カム室23内に前後方向に架設され、軸受け221を介してポンプケース12に回動可能に軸支される。
【0019】
ポンプケース12の前部からはカム軸22の前端部が前方に突出しており、カム軸22の前方突出部分にはエンジンのクランク軸(図示省略)からの動力が伝達されるギヤ222が固設される。ポンプケース12の後部からはカム軸22の後端部が後方に突出しており、カム軸22の後方突出部分には、ガバナ機構(図示省略)を構成する部品であるガバナスリーブ24およびガバナウエイト25が設けられる。
【0020】
カム室23内の後部には、カム軸22上に固設されたベベルギヤ223が収容される。カム室23内の後部上面からは、ポンプケース12に回動可能に軸支され、上下方向に架設された伝達軸26の下端部が下方に突出する。伝達軸26の下端部には、ベベルギヤ223に噛合するベベルギヤ261が固設される。
【0021】
伝達軸26の上端部は、ポンプケース12の軸支部121に回動可能に軸支されるとともに、軸方向(上下方向)の位置が位置決め部材28によって位置決めされる。伝達軸26の上方においてポンプケース12の上面には、燃料噴射ポンプ1の噴射量調節機構を構成する部品であるラック(図示省略)を内装するラック室27が形成される。ラック室27は、カム室23と気抜穴30・30によって連通される。
【0022】
気抜穴30・30は、ポンプケース12においてラック室27からカム室23まで連通される。気抜穴30・30の上端部の開口端面(ラック室27側の開口端面)は、流入防止部材31(図6、図7参照)によって覆われる。
【0023】
伝達軸26の上端部には、伝達軸26と同一軸心上に分配軸32がジョイント33を介して固設される。分配軸32内部と加圧室15とは、ハイドロリックヘッド13内に形成される油路131によって連通される。ハイドロリックヘッド13において分配軸32の後側には、燃料噴射ポンプ1の噴射終了時に逆止弁となって噴射管(図示省略)内の燃料が加圧室15内に流出することを防止するデリベリバルブ34がホルダ341を介して設けられる。
【0024】
このような構成に係る燃料噴射ポンプ1において、カム21が回転されると、カム21の回転によってローラタペット20が上下方向に往復動されるとともに、ローラタペット20に固設された下部バネ受け18を介してプランジャ10も往復動される。このとき、ローラタペット20の往復動によってカム室23内を満たす潤滑油およびローラタペット20の外周面に注油される潤滑油が、ローラタペット20の外周面とタペット室16の内周壁との隙間を通って上方に移行する。そして、プランジャ10の往復動によって、加圧室15への燃料の吸入行程と加圧室15からの燃料の吐出行程とが交互に行われる。つまり、吸入行程においてはプランジャ10がバネ19の付勢力によって押し下げられて下降すると、燃料タンクからの燃料が加圧室15に吸入されるとともに、吐出行程においてはプランジャ10がバネ19の付勢力によって押し上げられて上昇すると、加圧室15に吸入されている燃料が加圧されて油路131を通って分配軸32に圧送される。その後、分配軸32に圧送された燃料は、分配軸32によってデリベリバルブ34へ分配されて噴射管を通って燃料噴射ノズル(図示省略)から噴射される。
【0025】
次に、カム21について、図5により説明する。図5に示すように、カム21は、基礎円部211の周縁に基礎円部211の中心213回りに一定の間隔(中心213に対して120度間隔)で三つのカム山部212・212・212が設けられる。
【0026】
なお、カム山部212・212・212の構造は略同一であるため、以下の説明では、一のカム山部212を中心に説明し、他のカム山部212については必要な場合にのみ説明する。
【0027】
カム山部212は、カムトップ部212Aを有する。カムトップ部212Aは、基礎円部211の中心213から一定の半径rで形成された円弧形状である。つまり、カムトップ部212Aは、ローラタペット20が上死点に位置した状態で保持できる形状である。
【0028】
次に、流入防止部材31について、図6、図7により説明する。図6、図7に示すように、流入防止部材31は、基板311と、一対の側板312・312と、を有する。流入防止部材31は、位置決め部材28とともにポンプケース12の軸支部121にボルト29・29によって固定される。つまり、流入防止部材31は、ボルト29・29によって位置決め部材28と共締めしてポンプケース12の軸支部121に取り付けられる。基板311の伝達軸26側の長辺は、伝達軸26の外周形状に沿った形状(略円弧状)に切り欠かれる。
【0029】
基板311および一対の側板312・312は、それぞれ略長方形状の板状部材である。基板311の一対の短辺には、一対の側板312・312の長辺がそれぞれ連なる。
【0030】
本実施例では、基板311の一対の短辺となる部分から一対の側板312・312が基板311の板面に対して平行に突出する一枚の金属板が成形された後、基板311の一対の短辺となる部分と一対の側板312・312との境界線にて、基板311の板面と一対の側板312・312の板面とが略垂直を成すように金属板が折り曲げられることにより、流入防止部材31が構成される。つまり、流入防止部材31は、左右方向から見たとき気抜穴30・30の外側(一方の気抜穴30と他方の気抜穴30とが対向する側の反対側)に一対の側板312・312が位置する「略門形状」である。
【0031】
流入防止部材31とポンプケース12との間には、気抜穴30・30による気抜きが円滑に行われるように所定の隙間D1、D2、D3、D4が形成される。
【0032】
具体的には、ポンプケース12の水平面123に対向する側の基板311の板面と、気抜穴30・30の上端部の開口端面(ラック室27側の開口端面)との間に隙間D1(図7参照)、ポンプケース12の垂直面122と、垂直面122に対向する基板311の長辺および一対の側板312・312の短辺との間に隙間D2、軸支部121と、軸支部121に対向する一対の側板312・312の短辺との間に隙間D3、ポンプケース12の水平面123と、水平面123に対向する一対の側板312・312の長辺との間に隙間D4、が形成される。
【0033】
なお、流入防止部材31は、板状部材を折り曲げて成形(プレス加工)したものであるが、流入防止部材は、例えば複数の部材を溶接あるいはネジ止め等により組み合わせたもの、あるいは図8に示すようにバッフルプレート35で構成してもよい。
【0034】
図8に示すように、バッフルプレート35は、気抜穴30・30の上端部の開口端面(ラック室27側の開口端面)との間に所定の隙間D5が形成されるような形状(例えば、気抜穴30・30の開口端面に対して離間する方向に折れ曲がる形状)とされる。バッフルプレート35は、ラック室27内においてポンプケース12の水平面123等に溶接あるいはネジ止め等によって固定される。
【0035】
次に、ローラタペット20の燃料中への潤滑油の混入防止に係る構造ついて、図9により説明する。図9に示すように、ローラタペット20の上部は、上部バネ受け17の外周およびプランジャバレル11の下端部外周を覆うように延出される。ローラタペット20の上部は、摺動ストローク203(図2におけるタペット(20)の最上位置から、図4におけるタペット(20)の最下位置)の全域においてタペット室16から上方向(プランジャバレル11側)に常に突出する。つまり、ローラタペット20の上端部は、タペット室16の上端部16aよりも上方(プランジャバレル11側)に常に位置する。ローラタペット20の上部には、飛散防止部材204が設けられる。
【0036】
飛散防止部材204は、ローラタペット20の外周面の全周にわたって水平方向(ローラタペット20の摺動方向に対して直交する方向)に突出し、潤滑油がプランジャ10にかかることを防止する。飛散防止部材204の形状は、ローラタペット20の摺動方向(上下方向)から見たとき、例えば「略リング状」である。
【0037】
なお、飛散防止部材の形状は、タペットの外周面とタペット室の内周壁との間の隙間を覆う形状であればよい。好ましくは、例えば飛散防止部材204の形状は、飛散防止部材204の外周に囲まれた範囲の面積が、タペット室16の開口面積よりも大きく、かつ、飛散防止部材204の外周に囲まれた範囲内にローラタペット20の外周面とタペット室16の内周壁との間の隙間が位置する(上方から見たとき飛散防止部材204によってローラタペット20の外周面とタペット室16の内周壁との間の隙間が隠れる)形状とすることにより、潤滑油がプランジャ10にかかるのを確実に防止できる。
【0038】
このような構成により、ローラタペット20の往復動にともなって、カム室23側からの潤滑油がローラタペット20の外周面とタペット室16の内周壁との間の隙間を通って上方に移行(以下、「移行潤滑油」という。)してきても、移行潤滑油はローラタペット20の上端部を越えることができず、移行潤滑油の飛沫等も飛散防止部材204によって遮られることになる(図9に示す矢印205参照)。
【0039】
以上のように燃料噴射ポンプ1は、プランジャバレル11内にプランジャ10が往復摺動可能に設けられ、プランジャ10の一端とプランジャバレル11との間に燃料が加圧される加圧室15が設けられる一方、プランジャ10の他端は、加圧室15とは反対方向にプランジャバレル11から突出してタペットとしてのローラタペット20に連動可能とされ、ローラタペット20は、カム部材としてのカム21による直接駆動によりプランジャバレル11およびプランジャ10を収容するタペット室16内を往復摺動可能とされる燃料噴射ポンプ1であって、ローラタペット20は、摺動ストロークの全域においてタペット室16からプランジャバレル11側に常に突出するものである。このような構成により、潤滑油がプランジャ10にかかるのをローラタペット20の突出部分によって防止できて、燃料中への潤滑油の混入を防止できるため、燃料の黒色化、不完全燃焼による燃料噴射ノズル噴口部へのカーボンフラワー付着に起因する排気煙の悪化を抑制できる。
【0040】
そして、ローラタペット20の摺動方向に対して直交する方向に突出して潤滑油がプランジャ10にかかること防止する飛散防止部材204を備えるものである。このような構成により、潤滑油がプランジャ10にかかるのを飛散防止部材204によって防止できて、燃料中への潤滑油の混入を防止できるため、燃料の黒色化、不完全燃焼による燃料噴射ノズル噴口部へのカーボンフラワー付着に起因する排気煙の悪化を抑制できる。
【0041】
また、飛散防止部材204は、ローラタペット20と別体構造とされるものである。このような構成により、ローラタペット20の外形が複雑にならないため、ローラタペット20外周の研磨加工が容易であり、製造コストを抑えることができる。
【0042】
さらに、燃料噴射ポンプ1ではカム室23とラック室27とが気抜穴30・30によって連通されており、気抜穴30・30内に潤滑油が流入することを防止する流入防止部材31を備えるものである。このような構成により、潤滑油が気抜穴30・30内に流入することを流入防止部材31によって防止できるため、気抜穴30・30を通った潤滑油がプランジャ10にかかることがない。これにより、燃料中への潤滑油の混入を防止できるため、燃料の黒色化、不完全燃焼による燃料噴射ノズル噴口部へのカーボンフラワー付着に起因する排気煙の悪化を抑制できる。
【0043】
そして、前記燃料噴射ポンプ1の分配軸32と同軸上に設けられて分配軸32に動力を伝達する伝達軸26と、伝達軸26の軸方向の位置を位置決めする位置決め部材28と、を備え、流入防止部材31は、位置決め部材28と共締めして取り付けられるものである。このような構成により、流入防止部材31と位置決め部材28とを一度に取り付けることができるため、取付作業の効率性が向上する。
【0044】
また、カム21は、ローラタペット20が上死点に位置した状態を保持するカムトップ部212Aを有するものである。このような構成により、ローラタペット20が上死点で保持されることにより、カム室23側からの潤滑油がプランジャ10にかかりにくくなって、燃料中への潤滑油の混入を防止できるため、燃料の黒色化、不完全燃焼による燃料噴射ノズル噴口部へのカーボンフラワー付着に起因する排気煙の悪化を抑制できる。
【0045】
また、燃料噴射ポンプ1は、ローラタペット20の上部に飛散防止部材204を設けたものであるが、図10に示すように、ローラタペット20の上部に飛散防止部材を設けずに燃料噴射ポンプ1を構成することも可能である。
【0046】
次に、燃料噴射ポンプ1について、図11により説明する。なお、図11において前述と同一符号の部材は、前述と同一構成であるため詳細な説明は省略する。
【0047】
図11に示すように、燃料噴射ポンプ1は、被覆部材36を備える。
【0048】
被覆部材36は、ローラタペット20とプランジャバレル11との隙間をローラタペット20の摺動ストローク全域にわたって覆う。被覆部材36は、下方に開口した円筒状である。被覆部材36の内径は、ローラタペット20の外径よりも若干大きい。つまり、被覆部材36内をローラタペット20が摺動可能となる。被覆部材36は、受け部361と、被覆部362とを有する。
【0049】
受け部361は、バネ19の上端部(プランジャバレル11側の端部)を受ける部分である。被覆部362は、ローラタペット20とプランジャバレル11との隙間をローラタペット20の摺動ストローク全域にわたって覆う部分である。被覆部362には、ローラタペット20内部の気抜きを行う気抜穴362Aが形成される。
【0050】
気抜穴362Aは、ローラタペット20の摺動ストローク全域にわたって、ローラタペット20の上端部よりも上方に位置する。つまり、気抜穴362Aは、ローラタペット20によって塞がれることがない位置に設けられる。
【0051】
なお、気抜穴の形状、個数、設置位置は限定しない。つまり、気抜穴は、タペット内部の気抜きを行うことが可能な形状、個数、設置位置であればよい。
【0052】
このような構成により、移行潤滑油は被覆部材36(被覆部362)に遮られてローラタペット20内部に流入することができず、移行潤滑油の飛沫等も被覆部材36(被覆部362)によって遮られることになる。
【0053】
以上のように燃料噴射ポンプ1は、プランジャバレル11内にプランジャ10が往復摺動可能に設けられ、プランジャ10の一端とプランジャバレル11との間に燃料が加圧される加圧室15が設けられる一方、プランジャ10の他端は、加圧室15とは反対方向にプランジャバレル11から突出してローラタペット20に連動可能とされ、ローラタペット20は、カム21による直接駆動によりプランジャバレル11およびプランジャ10を収容するタペット室16内を往復摺動可能とされる燃料噴射ポンプ1であって、ローラタペット20とプランジャバレル11との隙間をローラタペット20の摺動ストローク全域にわたって覆う被覆部材36を備えるものである。このような構成により、ローラタペット20とプランジャバレル11との隙間が被覆部材36によって覆われるため、潤滑油がローラタペット20とプランジャバレル11との隙間を通ってプランジャ10にかかることを防止できる。これにより、燃料中への潤滑油の混入を防止できるため、燃料の黒色化、不完全燃焼による燃料噴射ノズル噴口部へのカーボンフラワー付着に起因する排気煙の悪化を抑制できる。
【0054】
そして、被覆部材36は、ローラタペット20内部の気抜きを行う気抜穴362Aを有するものである。このような構成により、ローラタペット20とプランジャバレル11との隙間が被覆部材36によって覆われる場合であっても、ローラタペット20内部の気抜きを確実にできる。
【0055】
また、プランジャ10をカム21の方向に付勢する付勢部材としてのバネ19を備え、被覆部材36は、バネ19のプランジャバレル11側の端部を受ける受け部361を有するものである。このような構成により、バネ19を受ける専用の部材を設ける必要がないため、部品点数を削減できて部品コストを低減できる。
【符号の説明】
【0056】
1 燃料噴射ポンプ
11 プランジャバレル
10 プランジャ
15 加圧室
16 タペット室
19 バネ(付勢部材)
20 ローラタペット(タペット)
21 カム(カム部材)
23 カム室
26 伝達軸
27 ラック室
28 位置決め部材
30 気抜穴
31 流入防止部材
32 分配軸
36 被覆部材
204 飛散防止部材
212A カムトップ部
361 受け部
362A 気抜穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャバレル(11)内に往復摺動可能に設けられているプランジャ(10)がプランジャバレル(11)から突出してタペット(20)に連動可能に構成され、該タペット(20)がカム(21)によりポンプケース(12)に形成されているタペット室(16)内を往復摺動可能に構成されている燃料噴射ポンプ(1)において、
前記タペット(20)の上端部は、往復摺動の最上位置から最下位置の間の摺動ストローク(203)の全域で、前記タペット室(16)の上端部(16a)から前記プランジャバレル(11)側に常に突出し、前記プランジャ(10)に潤滑油がかかること防止する構成とした
ことを特徴とする燃料噴射ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−100826(P2013−100826A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−35162(P2013−35162)
【出願日】平成25年2月25日(2013.2.25)
【分割の表示】特願2009−1094(P2009−1094)の分割
【原出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】