説明

燃料噴射装置

【課題】従来の燃料噴射装置においては、燃料噴射孔41へ流入する際の燃料流れが曲がり損失の左右差によって不均一化となることに対する制御について具体的に考慮されていない状態であり、噴霧不均一化の抑制としては不十分にものである。
【解決手段】燃料噴射孔41を有する弁座4と、弁座4の燃料噴射孔3を開閉する開閉弁5とを有する燃料噴射弁3、燃料噴射弁3の開閉弁5を燃料噴射弁3の中心軸方向に作動させる弁作動装置7を備え、弁作動装置7の作動により、開閉弁5を燃料噴射弁3の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に内燃機関の燃料供給系に使用される燃料噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射装置として、燃料噴射孔を有する弁座と、この弁座の燃料噴射孔を開閉する例えばニードル弁などの開閉弁とを有する燃料噴射弁を設け、外部から供給される燃料を燃料噴射孔に供給するものがある。
【0003】
図8は従来の燃料噴射装置を示す断面図、図9は図8の弁座付近を示す拡大断面図、図10は図9における弁座内での燃料の流れを模式的に示す拡大断面図である。これら各図において、1は燃料噴射装置、2は燃料噴射装置1の外部ハウジング、3は燃料噴射弁であり、弁本体31、燃料噴射孔41を有する弁座4、この弁座4の燃料噴射孔41を開閉する例えばニードル弁からなる開閉弁5(以下、ニードル弁と称す)、旋回体6の各部品がアッセンブルされた構造を有している。旋回体6は図示しない燃料供給管から供給される燃料に旋回エネルギーを与えて弁座4の燃料噴射孔41に供給する。7は電磁コイル71その他を有し、ニードル弁5を作動させる弁作動装置である。
【0004】
なお、弁座4の燃料噴射孔41は燃料噴射孔3の中心軸に対し傾斜されている。42は弁シート面、43はテーパ面である。弁作動装置7の電磁コイル71を励磁してニードル弁5を燃料噴射孔3の中心軸方向の上方向に吸引して燃料噴射孔41を開弁し、外部より供給される燃料を旋回体6により旋回エネルギーを与え、弁座4において弁シート面42、テーパ面43、燃料噴射孔41の内壁面に沿って旋回しながら下流側へと流れ燃料噴射孔41出口より噴射させる。
【0005】
以上のような従来の燃料噴射装置においては、燃料噴射孔41は燃料噴射弁3の中心軸に対し傾斜した構造となっており、この燃料噴射孔41の傾斜に伴い燃料の流れが燃料噴射孔41内で軸対称とならず、噴霧が非対称、即ち、周方向で不均一な状態となるが、この従来の燃料噴射装置においては燃料噴射孔41の長さを全内周面にわたって略対称とし噴霧分布を均一化することを狙っている。
【0006】
【特許文献1】特許第3614381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の燃料噴射装置においては、燃料噴射孔41へ流入する際の燃料流れが曲がり損失の左右差によって不均一化となることに対する制御について具体的に考慮されていない状態であり、噴霧不均一化の抑制としては不十分なものである。
【0008】
燃料噴射孔41を傾斜させたことによる燃料流れの不均一化の発生原因の一つに、燃料噴射孔41に流入する際の燃料の流れの曲がり損失が周方向(図においては左右)で不均一になることがある。この状態について図10にて説明する。図10は燃料噴射弁3内での燃料の流れを模式的に示す拡大断面図である。弁座4を流れる燃料は旋回体6によって付与された旋回エネルギーにより弁シート面42、テーパ面43、燃料噴射孔41内において内壁面に沿って流れる。この燃料の流れをC1,C2で示す。燃料流れC1,C2は弁シート面42とテーパ面43とのつなぎ部A1,A2、テーパ面43と燃料噴射孔41とのつなぎ部B1,B2において、流れ角度変化によって燃料の流れの曲がり損失による速度低下(流量低下)が生じる。このとき、燃料噴射孔41が傾斜したことにより、テーパ面43部から燃料噴射孔41への流入時の曲がり損失が図中左側B1と図中右側B2とで異なることで流れの周方向の不均一が発生する。これは燃料噴射孔41が傾斜したことにより必然的に生じるものであるが、上述した従来の燃料噴射装置ではこれに対する対策が示されておらず、噴霧不均一化の制御として不十分なものとなっている。
【0009】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、弁座と燃料噴射孔のなす角に左右差があることにより生じる噴霧の不均一を抑制することができる燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、燃料噴射孔を有する弁座と、弁座の燃料噴射孔を開閉する開閉弁とを有する燃料噴射弁、燃料噴射弁の開閉弁を燃料噴射弁の中心軸方向に作動させる弁作動装置を備え、弁作動装置の作動により、開閉弁を燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたものである。
【0011】
また、開閉弁の上部に傾斜部を設け、この傾斜部により開閉弁を燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたものである。
【0012】
また、開閉弁の開弁方向の移動量を規制するストッパを設け、このストッパの開閉弁と当接する面を傾斜状に形成し、開閉弁を燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたものである。
【0013】
また、開閉弁の開弁方向の移動量を規制するストッパを設け、開閉弁のストッパ当接部に形成された傾斜部とを設け、開閉弁を燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたものである。
【0014】
また、弁作動装置の開閉弁当接部に傾斜部を設け、この傾斜部により開閉弁を燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたものである。
【0015】
また、弁座の燃料噴射孔は燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜され、燃料噴射孔の傾斜方向と所定の方向に傾斜されるように開閉弁を開弁するようにしたものである。
【0016】
また、開閉弁の傾斜方向は燃料噴射孔の傾斜方向と反対方向としたものである。
【0017】
また、開閉弁はニードル弁からなるものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明の燃料噴射装置によれば、開閉弁を燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたことにより、噴霧の不均一を抑制することができる。
【0019】
また、開閉弁の開弁方向の移動量を規制するストッパを設け、このストッパの開閉弁と当接する面を傾斜状に形成することにより、容易に開閉弁を燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁することができ、噴霧の不均一を抑制することができる。
【0020】
また、燃料噴射孔は燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜され、この燃料噴射孔の傾斜方向と所定の方向に傾斜させるように開閉弁を開弁することにより、噴霧の不均一をさらに抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1を図1〜図3に基づいて説明する。図1はこの発明の実施の形態1による燃料噴射装置を示す断面図、図2は開閉弁上部付近を示す拡大断面図、図3は弁座付近を示す拡大断面図である。これら各図において、1は燃料噴射装置、2は外部ハウジング、3は燃料噴射弁、31は弁本体、4は弁座、41は燃料噴射孔、5開閉弁としてのニードル弁、6は旋回体、7は弁作動装置、71は電磁コイルである。
【0022】
次に動作について説明する。ニードル弁5が弁作動装置7の電磁コイル71により燃料噴射弁3の中心軸P方向の上方向に吸引されると、ニードル弁5の上部が弁作動装置7のニードル弁5との当接部72に突き当たることで移動量が規制される。ニードル弁5の弁作動装置7当接面5Aにはメッキ51が施されており、メッキ量でエアギャップ量を規定する。ニードル弁5の弁作動装置7当接面5Aは燃料噴射弁3の中心軸Pに対して垂直ではなく傾斜して形成されており、ニードル弁5が弁作動装置7に突き当たるとニードル弁5が燃料噴射弁3の中心軸Pに対し傾斜することになる。したがって、図3に示すように弁座4付近において、ニードル弁5が燃料噴射弁3の中心軸Pに対し矢印Q方向に傾斜し、ニードル弁5と弁座4との間に形成される燃料通路Dは周方向で不均一となる。即ち、ニードル弁5の傾斜方向側の燃料通路D2が反対側の燃料通路D1より狭くなる。これにより、ニードル弁5の傾斜方向を適切な方向に配置し、燃料噴射弁3をアッセンブルすることによってニードル弁5と弁座4との間に形成される燃料通路Dが周方向で不均一となり、周方向の流路面積を調整することができる。即ち、周方向の噴霧の濃淡を調整することができ、エンジンに合わせた噴霧を形成することができるので、燃焼性の向上、未燃成分の抑制を実現することができる。
【0023】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2を図4〜図6に基づいて説明する。図4はこの発明の実施の形態2による燃料噴射装置を示す断面図、図5は開閉弁上部付近を示す拡大断面図、図6は弁座付近を示す拡大断面図である。これら各図において、1は燃料噴射装置、2は外部ハウジング、3は燃料噴射弁、31は弁本体、4は弁座、41は燃料噴射孔、5開閉弁としてのニードル弁、6は旋回体、7は弁作動装置、71は電磁コイルである。8はニードル弁5の開弁方向、即ち、燃料噴射弁3の中心軸P方向の上方向の移動量を規制するストッパであり、ニードル弁5との当接面8aを傾斜状に形成し、その当接面8aにニードル弁5の上部が突き当たることでニードル弁5の移動が規制される。
【0024】
次に動作について説明する。ニードル弁5が弁作動装置7の電磁コイル71により燃料噴射弁3の中心軸P方向の上方向に吸引されると、ニードル弁5の上部がストッパ8のニードル弁5との当接面8aに突き当たることで移動量が規制される。ストツパ8のニードル弁5との当接面8aに燃料噴射弁3の中心軸Pに対して垂直ではなく傾斜して形成されており、ニードル弁5がストツパ8に突き当たるとニードル弁5が燃料噴射弁3の中心軸Pに対し傾斜することになる。したがって、図6に示すように弁座4付近において、ニードル弁5が燃料噴射弁3の中心軸Pに対し矢印Q方向に傾斜し、ニードル弁5と弁座4との間に形成される燃料通路Dは周方向で不均一となる。即ち、ニードル弁5の傾斜方向側の燃料通路D2が反対側の燃料通路D1より狭くなる。これにより、ニードル弁5の傾斜方向を適切な方向に配置し、燃料噴射弁3をアッセンブルすることによってニードル弁5と弁座4との間に形成される燃料通路Dが周方向で不均一となり、周方向の流路面積を調整することができる。即ち、周方向の噴霧の濃淡を調整することができ、エンジンに合わせた噴霧を形成することができるので、燃焼性の向上、未燃成分の抑制を実現することができる。
【0025】
また、ニードル弁5の開弁方向の移動量を規制するストッパ8のニードル弁5との当接面8aを傾斜状に形成したことにより、ニードル弁5を燃料噴射弁3の中心軸Pに対し容易に傾斜させることができる。
【0026】
また、ストッパ8は燃料噴射弁3と弁作動装置7との間で完全に固定されているため、経年変化でニードル弁5の傾斜方向が回転しずれる心配がなく、適切な方向にストッパ8の傾斜方向を配置し固定すればニードル弁5の傾斜方向が規定でき、位置決めが容易となる。さらに、簡易な構造にて噴霧の濃淡を調整することができ、噴霧特性のばらつき低減による歩留まり向上を図ることができる。
【0027】
また、ストッパ8のニードル弁5との当接面8aの傾斜状の形成は、例えばプレス加工、冷鍛加工、放電加工等により容易に加工して製作することができる。
【0028】
実施の形態3.
上述した実施の形態2においては、ストッパ8のニードル弁5との当接面8aを傾斜状に形成してニードル弁5を燃料噴射弁3の中心軸Pに対し傾斜して開弁する場合について述べたが、ストッパ8のニードル弁5との当接面8aは傾斜状に形成せずに、ニードル弁5のストッパ8当接部に傾斜部を設け、この傾斜部によりニードル弁5が燃料噴射弁3の中心軸Pに対し傾斜して開弁するようにしてもよい。
【0029】
実施の形態4.
上述した実施の形態1においては、ニードル弁5の弁作動装置7当接面5Aを燃料噴射弁3の中心軸Pに対して垂直ではなく傾斜させ、ニードル弁5が燃料噴射弁3の中心軸Pに対し傾斜して開弁するようにしたが、ニードル弁5の弁作動装置7当接面5Aは傾斜状に形成せずに、弁作動装置7のニードル弁5当接部を傾斜状に形成することにより、ニードル弁5を燃料噴射弁3の中心軸Pに対し傾斜して開弁するようにしてもよい。
【0030】
実施の形態5.
この発明の実施の形態5を図7に基づいて説明する。図7は弁座付近を示す拡大断面図である。弁座4の燃料噴射孔41は燃料噴射弁3の中心軸Pに対し矢印R方向に傾斜され、燃料噴射孔41の傾斜方向と所定の方向に傾斜されるようにニードル弁5を開弁するようになっている。図は一例として、ニードル弁5の傾斜方向Qを燃料噴射孔41の傾斜方向Rに対し周方向で180度回転させた方向に配置した場合を示している。
【0031】
燃料噴射孔41が燃料噴射弁3の中心軸Pに対し傾斜している場合、燃料が燃料噴射孔41に流入する際の流れの曲がり損失が周方向に不均一になり、噴霧の不均一の原因の一つであるが、燃料噴射孔41の傾斜方向Rと反対側の燃料の流れC2が燃料噴射孔41の傾斜方向Rの燃料の流れC1より流れやすく液膜厚さも厚くなり、円周方向の燃料の流れの不均一を打ち消すことができ、周方向の噴霧均一化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施の形態1による燃料噴射装置を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による燃料噴射装置における開閉弁上部付近を示す拡大断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による燃料噴射装置における弁座付近を示す拡大断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2による燃料噴射装置を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2よる燃料噴射装置における開閉弁上部付近を示す拡大断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2による燃料噴射装置における弁座付近を示す拡大断面図である。
【図7】この発明の実施の形態5による燃料噴射装置における弁座付近を示す拡大断面図を示す斜視図である。
【図8】従来の燃料噴射装置を示す断面図である。
【図9】従来の燃料噴射装置における弁座付近を示す拡大断面図である。
【図10】従来の燃料噴射装置における弁座内での燃料の流れを模式的に示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1:燃料噴射装置、3:燃料噴射弁、4:弁座、41:燃料噴射孔、5:開閉弁、7:弁作動装置、8:ストッパ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射孔を有する弁座と、上記弁座の上記燃料噴射孔を開閉する開閉弁とを有する燃料噴射弁、上記燃料噴射弁の開閉弁を上記燃料噴射弁の中心軸方向に作動させる弁作動装置を備え、上記弁作動装置の作動により、上記開閉弁を上記燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
上記開閉弁の上部に傾斜部を設け、上記傾斜部により上記開閉弁を上記燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたことを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
上記開閉弁の開弁方向の移動量を規制するストッパを設け、上記ストッパの上記開閉弁と当接する面を傾斜状に形成し、上記開閉弁を上記燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたことを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
上記開閉弁の開弁方向の移動量を規制するストッパを設け、上記開閉弁の上記ストッパ当接部に形成された傾斜部とを設け、上記開閉弁を上記燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたことを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
上記弁作動装置の上記開閉弁当接部に傾斜部を設け、上記傾斜部により上記開閉弁を上記燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜して開弁するようにしたことを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
上記弁座の上記燃料噴射孔は上記燃料噴射弁の中心軸に対し傾斜され、上記燃料噴射孔の傾斜方向と所定の方向に傾斜されるように上記開閉弁を開弁するようにしたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
上記開閉弁の傾斜方向は上記燃料噴射孔の傾斜方向と反対方向としたことを特徴とする請求項6記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
上記開閉弁はニードル弁からなることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−281257(P2009−281257A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133451(P2008−133451)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】