説明

燃料噴射装置

【課題】燃料噴射装置から燃料を噴射するに当たり、燃料流に旋回流を形成させて燃料噴射時の分散性を向上させる。この旋回流の形成に当たり、従来よりも加工精度を低くしても旋回流を発生させることのできる燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】噴射ノズル16の構造を、複数の燃料通路30と、複数の燃料通路30に連通する噴射開口部32から構成する。さらに、燃料通路30の中心線が噴射開口部32の壁面に交わるように燃料通路30が噴射開口部32に連通される。燃料通路30から噴射開口部32に流入した燃料流は、噴射開口部32の壁面に衝突することにより、当該壁面に沿って流れる2次流れが形成される。この2次流れ同士の相互作用によって旋回流が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の内燃機関には燃焼室が設けられており、この燃焼室に直接または間接に燃料を噴射する装置としてインジェクタと呼ばれる燃料噴射装置が知られている。インジェクタは燃料を微粒化(霧化)した状態で噴射する。噴射された燃料は燃焼室または燃焼室に接続された吸気管において空気と混合される。燃焼室へ導入された混合気は燃焼室の点火プラグによって燃焼される。
【0003】
インジェクタから噴射される燃料の噴射量は、車両の制御を行うエンジンコントロールユニットと呼ばれる制御部によって定められる。制御部では、トルク要求に基づいてエンジン出力を定め、エンジン出力に基づいて混合気の空燃比を設定している。さらに吸気管に設けられたエアフローメータから吸気管に送られる空気量を検知し、制御部は、設定された空燃比と検知された空気量とから燃料の噴射量を算出している。
【0004】
ここで、インジェクタから噴射された燃料が均一に分散しない(分散性が悪い)と、混合気において燃料と空気の分布が不均一になる。例えば混合気中に燃料の濃い部分と薄い部分とが生じる。つまり、混合気中に制御部が設定した空燃比とは異なる部分が生じる。その結果、制御部が設定した空燃比と異なる空燃比で混合気が燃焼されることから、制御部が設定したエンジン出力が得られないことになる。
【0005】
そこで、インジェクタから噴射される燃料の分散性を向上させる技術が従来から知られている。例えば特許文献1においては、燃料流に旋回流を発生させることにより燃料流の分散性を向上させている。
【0006】
特許文献1においては、インジェクタのノズル構造を、二個の燃料通路と、当該二個の燃料通路が合流する合流噴孔から構成している。各燃料通路を通る燃料流は合流噴孔で衝突する。燃料流同士の衝突により、噴射方向に沿って流れる一次流れの他に合流噴孔の壁面に向かう二次流れが発生する。合流噴孔の壁面は円形状をしており、二次流れが合流噴孔の壁面に沿って流れることで二次流れは旋回流となる。この旋回流の遠心力により噴射方向に対して垂直な速度成分が付与され、分散性の高い燃料流がインジェクタのノズルから噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−255834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術においては、旋回流を発生させるために2つの燃料流を衝突させる必要がある。2つの燃料流を衝突させるためには各燃料通路の中心線を正確に交差させる必要がある。燃料通路は長さ、幅ともに数100μmという微少な構造であり、さらにインジェクタのノズル部分は高温、高圧に耐え得るために高剛性の、すなわち加工の困難な材料から構成されており、燃料通路の中心線を交差させるには高い加工精度が要求される。その結果、生産コストの増加や生産性の低下を招いていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、燃料タンクに接続された燃料流入路と、燃料流入路と連通し、燃料を噴射する噴射ノズルと、を備えた、燃料噴射装置に関するものである。噴射ノズルは、燃料通路と、噴射開口部とを備え、燃料通路は、燃料流入路に連通されるとともに、燃料通路の中心線が噴射開口部の壁面に交わるようにして噴射開口部に連通されている。
【0010】
また、上記発明において、好適には、燃料通路は複数設けられ、燃料通路から流出した燃料流が噴射開口部の壁面に衝突することにより、壁面に沿う2次流れが形成され、燃料通路の各々は、2次流れ同士の相互作用により旋回流を形成し得るように噴射開口部に連通されている。
【0011】
また、上記発明において、好適には、隣接する燃料通路は、噴射開口部に流入する燃料流の流れ方向が互いに異なるように噴射開口部に連通され、互いに異なる流れ方向の燃料流から生じた2次流れ同士の相互作用により旋回流が形成される。
【0012】
また、上記発明において、好適には、噴射開口部の壁面は、対向する内壁面を有し、内壁面の各々には、複数の燃料通路が並べて連通され、対向する内壁面の1つに連通された燃料通路は、対向する内壁面の他方に連通された燃料通路に対して、燃料通路が並べられた配列方向に互いにオフセットされている。
【0013】
また、上記発明において、好適には、燃料通路の配列方向の幅Wに対して、対向する内壁面の1つに連通された燃料通路の中心線と、対向する内壁面の他方に連通された燃料通路の中心線との、配列方向の距離Dが、D≧Wとなるように複数の燃料通路が配置されている。
【0014】
また、上記発明において、好適には、内壁面に連通された複数の燃料通路のうち、配列方向における両端の燃料通路は、配列方向外側に向かって傾斜するように連通されている。
【0015】
また、上記発明において、好適には、噴射開口部の壁面は、対向する内壁面を備え、内壁面のいずれか一方には、複数の燃料通路が内壁面に沿って並んで連通され、燃料通路が並べられた配列方向について、隣り合う燃料通路の離間距離が、前記配列方向における前記燃料通路の幅Wに対して、W〜2Wとなるように燃料通路が配列されている。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によれば、従来よりも加工精度を低くしても旋回流を発生させることのできる燃料噴射装置を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る燃料噴射装置の全体構造を例示する図である。
【図2】燃料噴射装置の噴射ノズル構造を例示する図である。
【図3】旋回流の形成過程を説明する図である。
【図4】旋回流の形成過程を説明する図である。
【図5】燃料流の衝突角を説明する図である。
【図6】旋回流の形成過程を説明する図である。
【図7】旋回流の形成過程を説明する図である。
【図8】旋回流の形成過程を説明する図である。
【図9】旋回流の形成過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、本実施形態に係る燃料噴射装置を示す。燃料噴射装置10は、燃料タンク(図示せず)と接続されている。さらに燃料噴射装置10と燃料タンクとの間には、燃料を加圧するためのフューエルポンプ(図示せず)が接続されている。フューエルポンプによって燃料は4〜13MPa程度に加圧され、燃料噴射装置10に供給される。
【0019】
燃料噴射装置10は内部が中空構造の略円柱形状のケーシング12を備えている。ケーシング12の後端部、つまり噴射側とは対向する側には燃料タンク(図示せず)から燃料の供給を受ける燃料供給口14が備えられている。さらに、ケーシング12の先端部には燃料を噴射する噴射ノズル16が形成されている。
【0020】
ケーシング12内には噴射ノズル16に対する開閉動作を行うニードル弁18が設けられている。図1はニードル弁18が開状態のときを示している。また、ケーシング12の内周面とニードル弁18との間には隙間が形成され、この隙間が燃料流入路20となる。ニードル弁18が開状態のとき、燃料流入路20は噴射ノズル16と連通する。このとき、燃料供給口14から供給された燃料は燃料流入路20を経由して噴射ノズル16から噴射される。
【0021】
ニードル弁18の先端部22は先細りのテーパ形状となっており、この先端部22の形状に適合する着座部24がケーシング12内周面の先端部に設けられている。ニードル弁18の先端部22が着座部24に当接することで燃料流入路20と噴射ノズル16との連通が遮断される。すなわち、ニードル弁18の先端部22が着座部24に当接した状態が閉状態となり、ニードル弁18が着座部24から引き上げられた状態が開状態となる。なお、ニードル弁18の先端部22とケーシング12の着座部24との隙間は、燃料噴射装置10に燃料を噴射させる量に応じて決められる。例えば噴射流量を14mm/msにしたい場合、先端部22と着座部24の隙間は約50μmに設計される。
【0022】
さらにニードル弁18の周囲にはニードル弁18を着座部24側に付勢するリターンスプリング26が設けられている。ニードル弁18にはばね受け部27が設けられ、ばね受け部27がリターンスプリング26からの力を受けることにより、ニードル弁18が付勢される。リターンスプリング26の付勢力は数十ニュートン程度になるように設計されている。
【0023】
また、ニードル弁18の周囲にはソレノイドコイル28が設けられている。さらにニードル弁18には金属等の磁性材料からなるプランジャーコア29が設けられている。ソレノイドコイル28に電流を流すことによりソレノイドコイル28周辺に磁界が発生し、この磁界によってプランジャーコア29が引き付けられる。例えば1Aのパルス電流をソレノイドコイル28に流すと、プランジャーコア29を引きつける力は数十ニュートンになる。
【0024】
プランジャーコア29が引き付けられることによりニードル弁18はリターンスプリング26の付勢に抗して着座部24から引き上げられる。これによりニードル弁18が開状態となる。ソレノイドコイル28への電流の供給を止めるとニードル弁18はリターンスプリング26に付勢されて再び着座部24に当接する、すなわち閉状態となる。したがって、ソレノイドコイル28に電流を供給する時間を制御することでニードル弁18の開閉を制御することができる。なお、図1においてはニードル弁18の昇降動作をソレノイドコイル28によって行っているが、これに代えてニードル弁18をピエゾ素子からなるピエゾスタックに接続し、ピエゾ素子の圧電効果によりニードル弁18の昇降動作を行うようにしても良い。車両の統合的な制御を行う制御部であるエンジンコントロールユニット(ECU)は、ソレノイドコイル28やピエゾスタックに対する電流供給時間を制御することによりニードル弁18の開閉を制御し、噴射ノズル16からの燃料噴射量を制御している。通電時間はミリセカンド単位で行われており、例えば1〜5msの範囲で決められる。
【0025】
上述したように、燃料噴射装置10には4〜13MPa程度の高圧の燃料が供給される。また、ニードル弁18は数億回にも及ぶ開閉動作に耐える必要がある。そこで、ケーシング12およびニードル弁は焼入れを施されたステンレス系の材料等、剛性の高い材料から製作される。また、数十ニュートンのリターンスプリング26の付勢力および4〜13MPaの燃料圧力に抗してニードル弁18を素早く引き上げる必要があるため、ソレノイドコイル28のコアおよびその周辺には透磁性の高い電磁ステンレスなどの材料が設けられている。
【0026】
次に、噴射ノズル16の詳細な構造について説明する。噴射ノズル16の構造を図2に示す。図2の上段には噴射ノズル16の縦断面図が示され、下段には噴射ノズル16の横断面図が示されている。なお、以下では燃料噴射装置10の中心軸25(図1参照)に平行な平面による断面図を縦断面図と呼び、中心軸25に垂直な平面による断面図を横断面図と呼ぶ。
【0027】
噴射ノズル16は燃料流入路20に連通する燃料通路30を有している。この燃料通路30は複数個設けられており、図2下段に示すようにケーシング12の先端部の内周面には燃料通路30の始端開口31が複数個形成されている。
【0028】
さらに、噴射ノズル16は燃料通路30と連通する噴射開口部32を有している。この噴射開口部32において複数の燃料通路30を通過した燃料流が合流し、合流した燃料流が噴射開口部32の噴射開口34から噴射される。
【0029】
図2下段に示すように、噴射開口部32の壁面は対向する内壁面40、42と、これら内壁面40、42を繋ぐ短内壁面44、46とから構成されている。燃料通路30は、内壁面40、44から噴射開口部32に連通している。図2上段に示されているように、内壁面40、42には燃料通路30の終端開口48が形成されている。
【0030】
また、燃料通路30は、当該燃料通路30の中心線C(図2下段)が噴射開口部32の壁面に交わるようにして噴射開口部32に連通している。つまり、燃料通路30から噴射開口部32に流入した燃料流が、噴射開口部32の壁面に衝突し得るように燃料通路30が噴射開口部32に連通されている。
【0031】
さらに、隣接して配置される燃料通路30は、噴射開口部32に流入する燃料流の流れ方向が互いに異なるように噴射開口部32に連通されている。燃料通路30は対向する内壁面40、42の長手方向(燃料噴射装置10の中心軸25に垂直な方向)に沿って並んで形成されている。さらに、内壁面40に連通される燃料通路30の各々は、対向する内壁面42に連通された燃料通路30に対して、燃料通路30が並べられた配列方向についてオフセットされて内壁面40に連通されている。ここで、「オフセット」とは、対向する燃料通路30の中心線Cが交わらずに互いにずれた位置にあることを意味している。図2下段に示すように、燃料通路30の終端開口48は内壁面40、42の長手方向に沿って並んで形成されている。さらに内壁面40の終端開口48は、対面する内壁面42に形成された終端開口48に対し、内壁面の長手方向にオフセットされて形成されている。
【0032】
加えて、燃料通路30の配列方向における、対向する燃料通路30の中心線間の距離をオフセット幅Dと呼ぶことにすると、燃料通路30の、配列方向における幅Wに対してD≧Wとなるようにオフセット幅Dが定められている。このようにオフセット幅Dを定めることで、それぞれの燃料通路30から噴射開口部32に流入した燃料流はすれ違うようにして流れる。したがって燃料流は他の燃料通路30からの燃料流と衝突することなく内壁面40、42に到達することができる。なお、図2においては燃料通路30の幅Wは何れも等しく形成されているが、それぞれの燃料通路30の幅Wをそれぞれ異なるようにしてもよい。
【0033】
図3に燃料通路30および噴射開口部32の射視図を示す。燃料通路30の終端開口48(図2参照)を通過した燃料流は噴射開口部32の内壁面40、42に衝突する。このとき、図3に示すように、燃料流は噴射開口34に向かう1次流れと内壁面40、42に沿って流れる2次流れとが生じる。
【0034】
内壁面40の終端開口48から流入した燃料流49は対向する内壁面42に衝突し、噴射開口34に向かう1次流れ50と内壁面42に沿って流れる2次流れ52が生じる。2次流れ52は内壁面42に沿って流れた後に内壁面42の終端開口48から流入した燃料流53に巻き込まれる。
【0035】
一方、内壁面42の終端開口48から流入した燃料流52は対向する内壁面40に衝突し、噴射開口34に向かう1次流れ54と内壁面40に沿って流れる2次流れが生じる。この2次流れは短内壁面46に向かって流れる2次流れ56とこれに対向する方向に流れる2次流れ58から構成される。2次流れ58は内壁面40に沿って流れた後に内壁面40の終端開口48から流入した燃料流49に巻き込まれる。
【0036】
このように、内壁面40に沿って流れる2次流れ58は内壁面40から流入した燃料流49に巻き込まれて内壁面42に向かう。一方、内壁面42に沿って流れる2次流れ52は内壁面42から流入した燃料流53に巻き込まれて内壁面40に向かう。この両者の流れの相互作用により旋回流が形成される。すなわち流れ方向が逆方向である2つの2次流れが隣り合って流れることにより旋回流が形成される。
【0037】
また、短内壁面46に向かって流れる2次流れ56は内壁面40→短内壁面46→内壁面42に沿って流れる。この3つの壁面を繋げるとコ字状となり、2次流れ56がこれらの壁面に沿って流れることで2次流れ56も旋回流となる。
【0038】
図4に示すように、2次流れから旋回流60が形成され、当該旋回流60が1次流れ50(図3参照)の周囲に形成される。これにより1次流れ50には噴射方向に対して垂直な速度成分が付与される。その結果、燃料流は拡散しながら噴射開口34(図2参照)から噴射される。このように、本実施形態においては燃料流を内壁面40、42に衝突させることで旋回流を形成している。したがって、燃料通路を形成する際には対面する燃料通路と中心線が一致しないように燃料通路をオフセットさせればよい。この加工は燃料通路の中心線同士を交差させる従来技術に比べて容易に行うことができる。つまり従来要求されていた加工精度よりも低い加工精度で旋回流を形成する噴射ノズルを製作することができる。そのため、従来技術に比べて生産性が向上し、生産コストの低減につながる。
【0039】
ここで、図5に示すように、1次流れ50と2次流れ52の割合は、内壁面40、42と内壁面40、42に向かう燃料流62との成す角(衝突角)に応じて変化する。図5に示す様に、衝突角θが180°に近づくにつれて2次流れ52に対する1次流れ50の割合は増加する。他方、衝突角θが90°に近づくにつれて1次流れ50に対する2次流れ52の割合は増加する。1次流れ50は燃料流の貫徹力に影響し、また2次流れ52は燃料流の拡散力に影響する。1次流れ50の割合が過多になると燃料流の拡散効果が低減するから、混合気中の燃料の均一性は低下する。一方、2次流れ52の割合が過多になると燃料流の貫徹力が減少し、燃料流は噴射ノズル16近傍にのみ分布することになり、この場合においても混合気中の燃料の均一性は低下する。また、衝突角θが180°に近づくほど噴射開口部21における2次流れ52の回転数(旋回数)は少なくなり、1次流れ50に噴射方向に対する垂直方向の速度成分を付与し難くなる。これらのことを考慮して衝突角θ、すなわち、噴射開口部32の内壁面40、42に対する燃料通路30の中心線の角度を定めることが好ましい。
【0040】
例えば燃料通路30の終端開口48から噴射開口部32の噴射開口34まで2次流れ52が1/2回転〜3/2回転できるように噴射角θを設定する場合、噴射開口部32の噴射開口34までの距離をL(図2上段参照)とすると、下記数式1に基づいて噴射角θが定められる。
【0041】
【数1】

【0042】
なお、図2〜4においては、燃料通路30の配置につき、対向する燃料通路30から流入する燃料流同士の衝突を防ぐため、対向する燃料通路30の終端開口48同士が重ならないように燃料通路30をオフセットして配置していたが、対向する燃料通路30の終端開口48の一部が重なるように終端開口48を形成し、燃料流の一部を意図的に衝突させるように燃料通路30を配置しても良い。
【0043】
図6には対向する燃料通路30からの燃料流の一部が互いに衝突するように燃料通路30を配置した噴射ノズル16が開示されている。図6においては、対向する燃料通路30の終端開口48の一部が重なり、かつ、対向する燃料通路30の中心線C同士が交わらないように各燃料通路30のオフセット幅D(燃料通路30の配列方向における、燃料通路30の中心線同士の距離)を定めている。すなわち、燃料通路30の配列方向における、個々の燃料通路30の幅Wに対し、0<D<Wとの条件でオフセット幅を定めている。ここで、燃料通路30の幅Wは何れも等しいものとする。
【0044】
燃料通路30から噴射開口部32に流入した燃料流の一部は、対向する燃料通路30から流入した燃料流の一部と衝突し、他の一部はそのまま内壁面40、42に向かう。つまり燃料流には対向する燃料流と衝突して堰き止められる部分とそのまま直進する部分とが発生する。堰き止められた燃料流はより圧力の低い方向に流れようとして、対向する燃料流の直進流れ(内壁面に向かう流れ)に移動する。この移動の結果、燃料通路30の終端開口48の縁部近傍に小規模の旋回流66が発生する。また、燃料流同士が衝突しない部分については図5と同様に旋回流60が発生する。この旋回流60、66の発生により、燃料流の分散性が向上する。
【0045】
また、図2〜6に示す実施形態では、燃料通路30の配列方向に対して、燃料通路30の中心線Cが垂直となるように燃料通路30を配置していたが、図7に示すように、燃料通路30の配列方向から見て両端、すなわち、噴射開口部32の短内壁面44、46に最も近い燃料通路68の設置角度を燃料通路30の配列方向外側、すなわち、短内壁面44、46に向かうように傾斜して形成しても良い。上述したように、2次流れが短内壁面44、46に沿って流れることで旋回流70が発生する。全ての燃料通路30が配列方向に対して垂直に形成されている場合、短内壁面44、46部分で形成される旋回流70は2つの対向する燃料流から形成される旋回流60と比べて流量が少なくなる。つまり旋回流の流量に偏りが生じる。そこで図7に示す実施形態においては燃料通路30の配列方向から見て両端にある燃料通路30を、配列方向外側に向かって傾斜させて連通させ、短内壁面44、46に向かう2次流れの流量を増加させている。これにより旋回流の流量の偏りが緩和される。例えば、配列方向に垂直な角度を0°に取ると、傾斜角αは、下記数式2に基づいて定められる。
【0046】
【数2】

【0047】
また、図2〜7に示す実施形態では、燃料通路30の流路断面積が始端から終端まで変わらない形状を採ったが、図8に示すように、始端から終端に向かって流路断面積が減少するテーパ形状に燃料通路30を形成しても良い。また、噴射開口部32の形状について、燃料通路30の終端開口48(図2参照)が設けられた位置から噴射開口34に向かって通路段面積が増加する逆テーパ形状に噴射開口部32を形成しても良い。
【0048】
燃料通路30をテーパ形状とし、噴射開口部32を逆テーパ形状とすることで、各燃料通路30の終端開口48の総面積は、各燃料通路30の始端開口31の総面積および噴射開口部32の噴射開口34の面積よりも小さくなる。ここで、燃料流の流量をQ、燃料流の速度をV、流路の断面積をAとすると、流量QはQ=AVで表すことができる。燃料通路30を通過する燃料流の流量がどの位置においても変わらないとすると、燃料通路30を通過する燃料流の速度Vは流路面積Aが最小である終端開口48で最大となる。燃料流の速度を高めることで強い旋回流を形成し、拡散性をより高めることが可能となる。
【0049】
さらに、図1〜8に示す実施形態では、対向する2つの燃料流から旋回流を形成していたが、この形態に限らない。例えば図9に示すように、噴射開口部32の対向する内壁面40、42のうち片方のみに燃料通路30の終端開口48を設けるようにしても良い。この形態によれば、内壁面42の終端開口48から噴射開口部32に流入した燃料流72は対向する内壁面40に衝突する。衝突によって発生した2次流れ74は内壁面40に沿って流れる。一方、燃料流72に隣接する燃料流76から発生した2次流れ78は、内壁面40に沿って、2次流れ74の流れ方向とは逆の方向に流れる。その後、2次流れ74、78が衝突し、これにより内壁面42に向かう流れが生じる。この2次流れ74、78の衝突により旋回流が形成される。すなわち、それぞれの2次流れの相互作用によって旋回流が形成される。
【0050】
ここで、燃料通路30の間隔が広すぎると2次流れの衝突が弱くなり、旋回流を形成することができなくなる。そこで本実施形態においては、燃料通路30が並べられた配列方向について、隣り合う燃料通路30の離間距離Dを、燃料通路30の配列方向の幅Wに対して、W〜2Wとなるように配列して内壁面42に連通させている。燃料通路30の間隔を定めることで旋回流を確実に形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
10 燃料噴射装置、12 ケーシング、14 燃料供給口、16 噴射ノズル、18 ニードル弁、20 燃料流入路、22 先端部、24 着座部、25 中心軸、26 リターンスプリング、27 ばね受け部、28 ソレノイドコイル、29 プランジャーコア、30 燃料通路、31 始端開口、32 噴射開口部、34 噴射開口、38 燃料噴射装置の中心軸、40 内壁面、42 対向する内壁面、44 短内壁面、46 対向する短内壁面、48 終端開口、60 旋回流、62 燃料流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクに接続された燃料流入路と、前記燃料流入路と連通し、燃料を噴射する噴射ノズルと、を備えた、燃料噴射装置であって、
前記噴射ノズルは、燃料通路と、噴射開口部とを備え、
前記燃料通路は、前記燃料流入路に連通されるとともに、前記燃料通路の中心線が前記噴射開口部の壁面に交わるようにして前記噴射開口部に連通されていることを特徴とする、燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1記載の燃料噴射装置であって、前記燃料通路は複数設けられ、
前記燃料通路から流出した燃料流が前記噴射開口部の前記壁面に衝突することにより、前記壁面に沿う2次流れが形成され、
前記燃料通路の各々は、前記2次流れ同士の相互作用により旋回流を形成し得るように前記噴射開口部に連通されていることを特徴とする、燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項2記載の燃料噴射装置であって、
隣接する前記燃料通路は、前記噴射開口部に流入する燃料流の流れ方向が互いに異なるように前記噴射開口部に連通され、
互いに異なる流れ方向の前記燃料流から生じた2次流れ同士の相互作用により前記旋回流が形成されることを特徴とする、燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の燃料噴射装置であって、
前記噴射開口部の前記壁面は、対向する内壁面を有し、
前記内壁面の各々には、前記複数の燃料通路が並べて連通され、
前記対向する内壁面の1つに連通された前記燃料通路は、前記対向する内壁面の他方に連通された前記燃料通路に対して、前記燃料通路が並べられた配列方向に互いにオフセットされていることを特徴とする、燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項4記載の燃料噴射装置であって、
前記燃料通路の前記配列方向の幅Wに対して、前記対向する内壁面の1つに連通された前記燃料通路の中心線と、前記対向する内壁面の他方に連通された前記燃料通路の中心線との、前記配列方向の距離Dが、D≧Wとなるように前記複数の燃料通路が配置されていることを特徴とする、燃料噴射装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の燃料噴射装置であって、
前記内壁面に連通された複数の前記燃料通路のうち、前記配列方向における両端の燃料通路は、前記配列方向外側に向かって傾斜するように連通されていることを特徴とする、燃料噴射装置。
【請求項7】
請求項2記載の燃料噴射装置であって、
前記噴射開口部の前記壁面は、対向する内壁面を備え、
前記内壁面のいずれか一方には、前記複数の燃料通路が前記内壁面に沿って並んで連通され、前記燃料通路が並べられた配列方向について、隣り合う前記燃料通路の離間距離が、前記配列方向における前記燃料通路の幅Wに対して、W〜2Wとなるように前記燃料通路が配列されていることを特徴とする、燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−231745(P2011−231745A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105587(P2010−105587)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】