説明

燃料電池、燃料電池の製造方法、電子機器、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体、酵素反応利用装置、タンパク質固定化電極およびタンパク質固定化担体

【課題】電極に固定化したニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体の溶出を防止することができ、溶出による性能劣化を防止することができる燃料電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成されるバイオ燃料電池において、負極を、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、この炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極により構成する。炭素として炭素粒子、炭素シートまたは炭素ファイバーを用いる。炭素粒子としては、バイオカーボン、ケッチェンブラック、活性炭などを用いる。この炭素に酵素反応に必要な酵素を、必要に応じてピレン誘導体などを介して固定化させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池、燃料電池の製造方法、電子機器、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体、酵素反応利用装置、タンパク質固定化電極およびタンパク質固定化担体に関する。より詳細には、本開示は、例えば、燃料または基質としてグルコースを用いるバイオ燃料電池、バイオセンサー、バイオリアクターなど、あるいはバイオ燃料電池を電源に用いた各種の電子機器に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを補酵素とする酵素には、基質特異性が高くバイオセンサーに適している酵素や、多段階の酵素反応を利用する燃料電池(バイオ燃料電池)に適している高活性の酵素などがある(例えば、特許文献1〜12参照。)。
【0003】
バイオセンサー、バイオ燃料電池、バイオリアクターなどにおいて、電極や担体にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを固定化する試みが従来より行われている。例えば、NAD+ の誘導体を共有結合によりセファロースなどの担体へ結合させることが提案されている(特許文献13参照。)。また、NAD+ およびNADHをセルロースアセテートなどの0.1〜10μmの細孔サイズの多孔性高分子に吸着させたバイオリアクターが提案されている(特許文献14参照。)。また、NAD誘導体をポリアクリルアミドゲルに結合させることが報告されている(非特許文献1参照。)。また、NAD+ 誘導体を電極に共有結合させることが報告されている(非特許文献2参照。)。また、ナノ粒子シリカをエッチングし、NAD+ 誘導体を共有結合させることが報告されている(非特許文献3参照。)。また、NAD+ 誘導体をキトサンに共有結合し、バイオセンサーに応用することが報告されている(非特許文献4参照。)。また、アルキル化によるポリマーへのNADHの共有結合による固定化が報告されている(非特許文献5参照。)。また、メソポーラスシリカへのNADHの共有結合による固定化が報告されている(非特許文献6参照。)。さらに、カーボンナノチューブにNAD+ を吸着させて固定化し、バイオセンサーに応用することが報告されている(非特許文献7参照。)。
【0004】
また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに各種の官能基を付加することにより、アミド結合などの様々なカップリング反応を応用してニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを電極に固定化する検討が行われている(非特許文献1〜6参照。)。
【0005】
なお、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの固定化に関するものではないが、2〜50nmの平均細孔径を有するカーボン多孔体とこのカーボン多孔体に担持された酸化還元酵素とを備えた電極材料を備えたバイオセンサーおよび燃料電池が提案されている(特許文献15参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−133297号公報
【特許文献2】特開2003−282124号公報
【特許文献3】特開2004−71559号公報
【特許文献4】特開2005−13210号公報
【特許文献5】特開2005−310613号公報
【特許文献6】特開2006−24555号公報
【特許文献7】特開2006−49215号公報
【特許文献8】特開2006−93090号公報
【特許文献9】特開2006−127957号公報
【特許文献10】特開2006−156354号公報
【特許文献11】特開2007−12281号公報
【特許文献12】特開2007−35437号公報
【特許文献13】特開平5−328996号公報
【特許文献14】特開平8−304329号公報
【特許文献15】特開2007−218795号公報
【特許文献16】特開2008−273816号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"Application of polylysine bound succinyl-NA to a membrane reactor",Yamazaki,Y.,Maeda,H.,Suzuki,H,Biotechnol.Bioeng 1976.,18(12),1761-1775
【非特許文献2】"NAD+ -Dependent Enzyme Electrodes:Electrical Contact of Cofactor-Dependent Enzymes and Electrodes",Amos Bardea,Eugenii Katz,Andreas F.Bulckmann and Itamar Willner,J.Am.Chem.Soc.1997,119,9114-9119
【非特許文献3】" Nanoparticle-supported multi-enzyme biocatalysis with in situ cofactor Regeneration",Wenfang Liu,Songping Zhang and Ping Wang,Journal of Biotechnology 139(2009)102-107
【非特許文献4】" Coimmobilization of Dehydrogenases and Their Cofactors inElectrochemical Biosensors",Maogen Zhang,Conor Muller and Waldemar Gorski,Anal.Chem.2007,79,2446-2450
【非特許文献5】"A Simple Procedure for Covalent Immobilization of NADH in a Soluble and Enzymically Active Form",Carl W. Fuller,Joyce Rachel Rubin, and Harold J. Bright, Eur. J. Biochem.103, 421-430(1980)
【非特許文献6】"Enabling Multienzyme Biocatalysis Using Nanoporous Materials",Bilal E1-Zahab,Hongfei Jia, Ping Wang,Biotechnol.Bioeng.2004,87(2),178-183
【非特許文献7】" Noncovalent Attachment of NAD + Cofactor onto Carbon Nanotubes for Preparation of Integrated Dehydrogenase-Based Electrochemical Biosensors",Haojie Zhou,Zipin Zhang,Ping Yu,Lei Su,Takeo Ohsaka and Lanqun Mao,Langmuir 2010,26(8),6028-6032
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献13、14および非特許文献1〜7の方法によっても、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの固定化は不十分であり、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出を有効に防止することはできない。このため、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出により、バイオセンサー、バイオ燃料電池、バイオリアクターなどの性能劣化が生じてしまう。
【0009】
また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに各種の官能基を付加する引用文献1〜6の方法は、これらの官能基の付加により酵素の基質反応性が著しく損なわれてしまうという新たな問題が発生するため、得策でない。
【0010】
以上のような理由により、バイオセンサーに有効な、基質特異性が高いニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを補酵素とする酵素や、バイオ燃料電池で有効な、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを補酵素とする酵素群や、バイオセンサーとバイオ燃料電池との双方で有効なニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを補酵素とする高活性な酵素などの利用が避けられてきたのが実情である。
【0011】
また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを補酵素とする酵素を用いたバイオリアクターにおいては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドは比較的高価であるにもかかわらず、毎時反応ごとに新規もしくは再精製したものを添加しなければならず、高コストとなる。
【0012】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、電極に固定化したニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体あるいは酵素の溶出を有効に防止することができ、溶出による性能劣化を防止することができる燃料電池およびその製造方法を提供することである。
【0013】
本開示が解決しようとする他の課題は、上記の優れた燃料電池を用いた高性能の電子機器を提供することである。
【0014】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、燃料電池、バイオセンサー、バイオリアクターなどの酵素反応利用装置に用いて好適なニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体を提供することである。
【0015】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、電極または担体に固定化したニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体あるいは酵素の溶出を有効に防止することができ、溶出による性能劣化を防止することができる酵素反応利用装置を提供することである。
【0016】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、電極または担体に固定化した酵素などのタンパク質の溶出を有効に防止することができ、溶出による性能劣化を防止することができるタンパク質固定化電極およびタンパク質固定化担体を提供することである。
【0017】
上記課題およびその他の課題は、添付図面を参照した本明細書の以下の記述によって明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、ナノメートルサイズの極微小の細孔を表面に有する炭素を用いることにより、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを酵素などとの反応性を高く保持したまま、強固に固定化することができ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出を有効に防止することができることを見出した。さらに鋭意検討を行った結果、炭素の代わりに、炭素と類似の性質を有する無機化合物や他の無機化合物を用いても、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを酵素などとの反応性を高く保持したまま、強固に固定化することが可能であり、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出を有効に防止することができるという結論に至った。
【0019】
さらに検討を行った結果、ナノメートルサイズの極微小の細孔を表面に有する炭素を用い、この炭素にピレン誘導体などの特定の化合物を介して酵素などのタンパク質を結合することにより、タンパク質を活性、より一般的には機能を高く保持したまま、強固に固定化することができ、タンパク質の溶出を有効に防止することができることも見出した。
【0020】
すなわち、上記課題を解決するために、本開示は、
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極との間に設けられたプロトン伝導体とを有し、
上記負極が、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極からなる燃料電池である。
【0021】
また、本開示は、
正極と、負極と、上記正極と上記負極との間に設けられたプロトン伝導体とを有する燃料電池を製造する場合に、
上記負極として、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有する電極を用い、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を固定化する工程を有する燃料電池の製造方法である。
【0022】
また、本開示は、
一つまたは複数の燃料電池を有し、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極との間に設けられたプロトン伝導体とを有し、
上記負極が、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極からなるものである電子機器である。
【0023】
本開示において、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドはNAD+ /NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの誘導体はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+ /NADPH)のほか、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドのアデニン骨格の窒素(N)にアミンやカルボン酸などの化学修飾を行ったものなどである。例えば、NAD+ とNADP+ とでは、分子量がそれぞれ663、744であるので、両者の大きさはほぼ同じである。その他の誘導体は官能基が小さいため、NAD+ との差はより少ないと考えられる。NAD+ 自体も元々、骨格内にリン酸基を二つ持っているため、NADP+ になっても電荷は変わるが、炭素または無機化合物の表面との化学的相互作用は大きく変化しないと考えられる。
【0024】
炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体をより確実に固定化し、さらに酵素との反応性を高く保持するために、好適には、炭素および/または無機化合物の表面は、大きさ(細孔径)が2nm以上100nm以下の細孔に加えて、大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔をさらに有する。より好適には、炭素および/または無機化合物の表面は、大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔および大きさが4nm以上20nm以下の細孔を有する。
【0025】
大きさが2nm以上100nm以下の細孔あるいはさらに大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面に有する炭素としては、例えば、炭素粒子、炭素シートおよび炭素ファイバーからなる群より選ばれた少なくとも一種類を用いることができる。炭素粒子は、例えば、活性炭、カーボンブラックおよびバイオカーボンからなる群より選ばれた少なくとも一種類を含むが、これら以外のものであってもよい。活性炭には、例えば、カシ炭、クヌギ炭、スギ炭、ナラ炭、ヒノキ炭などの木炭や、ゴム炭、竹炭、オガ炭、ヤシ殻炭などが含まれる。カーボンブラックには、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなどが含まれる。バイオカーボンは、ケイ素(シリコン)の含有率が5重量%以上である植物由来の材料を原料とし、窒素BET法による比表面積の値が10m2 /g以上、ケイ素の含有率が1重量%以下、BJH法およびMP法による細孔の容積が0.1cm3 /g以上である多孔質炭素材料である(特許文献16参照。)。
【0026】
無機化合物は、例えば、各種の金属やケイ素(Si)などを含む化合物であり、典型的には、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、硫酸塩、リン酸塩および塩化物からなる群より選ばれた少なくとも一種類である。金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、リチウム(Li)、銅(Cu)、イリジウム(Ir)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ルテニウム(Ru)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)(SiO2 )、酸化アルミニウム(アルミナ)(Al2 3 )、酸化チタン(TiO2 )、酸化タンタル(Ta2 5 )、酸化ハフニウム(HfO2 )、酸化ジルコニウム(ZrO2 )、酸化ニオブ(NbO)、酸化バナジウム(V2 5 、V2 3 、VO2 )、酸化セリウム(CeO2 )、酸化スズ(SnO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga2 O)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)、酸化インジウム(InO2 )、酸化リチウム(Li2 O)、酸化銅(Cu2 O、CuO)、酸化イリジウム(IrO2 )、酸化カルシウム(CaO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、酸化ルテニウム(RuO2 )などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。窒化物としては、例えば、窒化シリコン(Si3 4 )、窒化チタン(TiN)、窒化タングステン(WN)、窒化ホウ素(BN)、窒化リチウム(LiN)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。炭化物としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、HfC(炭化ハフウニウム)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)、炭化クロム(CrC)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。硫化物としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。硫酸塩としては、例えば、硫酸ニッケル(NiSO4 )などが挙げられるが、これに限定されるものではない。リン酸塩としては、例えば、リン酸アルミニウム(AlPO4 )などが挙げられるが、これに限定されるものではない。塩化物として、例えば、塩化アルミニウム(AlCl3 )、塩化銅(CuCl2 )などが挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの無機化合物の中でも、好適には、例えば、固体酸(表面が酸性を示す固体物質)の性質を有するもの、例えば、Al2 3 、V2 5 、ZnS、NiSO4 、AlPO4 、AlCl3 などが用いられる。これらの無機化合物は、静電相互作用、極性、ファンデルワールス力などによるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体との結合性は炭素と類似しており、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体の吸着が可能である。これらの無機化合物には導電性のものと非導電性のものとがあるが、非導電性であっても、電極に最終的に電子を受け渡すのは電子メディエーターであるため、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体や酵素をこの無機化合物に保持し、電子メディエーターによって電極に電子を受け渡すことができる。
【0027】
電極の材料としては、例えば、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)およびハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた少なくとも一種類の金属の単体または合金を用いることができる。電極の材料としては、そのほかに、アルメル、黄銅(真鍮)、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、パーマロイ、パーメンダー、洋銀、リン青銅などの合金、ポリアセチレンなどの導電性高分子、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維または炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料、HfB2 、NbB、CrB2 およびB4 Cなどのホウ化物、TiN、ZrNなどの窒化物、VSi2 、NbSi2 、MoSi2 、TaSi2 などのケイ化物、ならびにこれらの複合材料などを用いることができる。
【0028】
必要に応じて、電極の全体を大きさが2nm以上100nm以下の細孔あるいはさらに大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物により構成してもよい。電極の全体を大きさが2nm以上100nm以下の細孔あるいはさらに大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物により構成する場合には、結着剤として例えばポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)などのフッ素原子を含むポリマーおよびこれらの共重合体やこれらのモノマーとエチレンやスチレンなどとの共重合体のポリマーを用いてもよい。さらに、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリマーのほか、ポリアクリル酸、ポリリジン、カルボキシメチルセルロースなどの親水性ポリマー、ポリアニリン、ポリピロールおよびそれらの誘導体であるポリアニリンスルホン酸などの導電性ポリマーを用いてもよい。また、これらのポリマーをブレンドして用いてもよい。
【0029】
燃料としては、グルコースなどの種々のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。グルコース以外の燃料としては、例えば、クエン酸回路に関与する各種の有機酸や、ペントースリン酸回路および解糖系に関与する糖および有機酸などが挙げられる。クエン酸回路に関与する各種の有機酸は、乳酸、ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸、イソクエン酸、αケトグルタル酸、スクシニルCoA、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸などである。ペントースリン酸回路および解糖系に関与する糖および有機酸は、グルコース6リン酸、6ホスホグルコノラクトン、6ホスホグルコン酸、リブロース5リン酸、グリセルアルデヒド3リン酸、フルクトース6リン酸、キシルロース5リン酸、セドヘプツロース7リン酸、エリトロース4リン酸、ホスホエノールピルビン酸、1,3ビスホスホグリセリン酸、リボース5リン酸などである。燃料としては、メタノールやエタノールなどのアルコールを用いてもよい。
【0030】
これらの燃料は、典型的には、これらの燃料をリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの従来公知の緩衝液に溶かした燃料溶液の形で用いる。
【0031】
大きさが2nm以上100nm以下の細孔あるいはさらに大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有する電極の炭素および/または無機化合物には、典型的には、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体に加えて、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を補酵素とする一種または複数種の酵素が固定化される。これらの酵素ならびにニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を用いて燃料から電子が取り出される。これらの酵素は、典型的には、グルコースなどの燃料の酸化を促進し分解する酸化酵素を含み、さらに、燃料の酸化に伴って還元された補酵素を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を負極に渡す補酵素酸化酵素を含む。具体的には、好適には、これらの酵素は、グルコースなどの燃料の酸化を促進し分解する酸化酵素と、この酸化酵素によって還元される補酵素を酸化体に戻す補酵素酸化酵素とを含む。この補酵素酸化酵素の作用により、補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが酸化体に戻るときに電子が生成され、補酵素酸化酵素から電子メディエーターを介して負極に電子が渡される。例えば燃料としてグルコースを用いる場合、酸化酵素としては例えばグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(特に、NAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼ)が、補酵素酸化酵素としては例えばジアホラーゼ(DI)が用いられる。
【0032】
上記の炭素および/または無機化合物に酵素を固定化する場合には、酵素をより強固に固定化する観点より、好適には、炭素および/または無機化合物と結合する部位と酵素と結合する部位とを有する酵素固定化用化合物を用い、この酵素固定化用化合物を介して上記炭素および/または無機化合物に結合させる。この酵素固定化用化合物は、典型的には、炭素および/または無機化合物の表面の細孔の内部における炭素および/または無機化合物に結合する。この酵素固定化用化合物としては従来公知の種々の化合物を用いることができ、必要に応じて選ばれる。このように酵素固定化用化合物を介して酵素を炭素および/または無機化合物に結合させることは、酵素から炭素および/または無機化合物への直接電子移動にも効果的である。
【0033】
大きさが2nm以上100nm以下の細孔あるいはさらに大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有する電極の炭素および/または無機化合物には、典型的には、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体に加えて、電子メディエーターが、酵素などとの反応性を高く保持したまま固定化される。電子メディエーターとしては基本的にはどのようなものを用いてもよいが、好適には、キノン骨格を有する化合物が用いられ、具体的には、例えば、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)や、ナフトキノン骨格を有する化合物、例えば、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK1などの各種のナフトキノン誘導体が用いられる。キノン骨格を有する化合物としては、例えば、アントラキノンやその誘導体を用いることもできる。電子メディエーターには、必要に応じて、キノン骨格を有する化合物以外に、電子メディエーターとして働く一種または二種以上の他の化合物を含ませてもよい。
【0034】
正極に酵素が固定化される場合、この酵素は、典型的には酸素を還元する酵素を含む。この酸素を還元する酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどを用いることができる。この場合、正極には、好適には、酵素に加えて電子メディエーターも固定化される。電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、オクタシアノタングステン酸カリウムなどを用いる。電子メディエーターは、好適には、十分に高濃度、例えば、平均値で0.64×10-6mol/mm2 以上固定化する。
【0035】
プロトン伝導体としては種々のものを用いることができ、必要に応じて選択されるが、具体的には、例えば、セロハン、パーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、PSSA−PVA(ポリスチレンスルホン酸ポリビニルアルコール共重合体)や、PSSA−EVOH(ポリスチレンスルホン酸エチレンビニルアルコール共重合体)、含フッ素カーボンスルホン酸基を有するイオン交換樹脂(ナフィオン(商品名、米国デュポン社)など)などからなるものが挙げられる。
【0036】
プロトン伝導体として緩衝液(緩衝物質)を含む電解質を用いる場合には、高出力動作時に十分な緩衝能を得ることができ、酵素が本来持っている能力を十分に発揮することができるようにするのが望ましい。このために、電解質に含まれる緩衝物質の濃度を0.2M以上2.5M以下にすることが有効であり、好適には0.2M以上2M以下、より好適には0.4M以上2M以下、さらに好適には0.8M以上1.2M以下とする。緩衝物質は、一般的には、pKa が6以上9以下のものであれば、どのようなものを用いてもよいが、具体例を挙げると、リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(略称トリス)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、カコジル酸、炭酸(H2 CO3 )、クエン酸水素イオン、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(略称トリシン)、グリシルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(略称ビシン)などである。リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )を生成する物質は、例えば、リン酸二水素ナトリウム(NaH2 PO4 )やリン酸二水素カリウム(KH2 PO4 )などである。緩衝物質としてはイミダゾール環を含む化合物も好ましい。イミダゾール環を含む化合物は、具体的には、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体(ヒスチジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール−2−カルボン酸エチル、イミダゾール−2−カルボキシアルデヒド、イミダゾール−4−カルボン酸、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、イミダゾール−1−イル−酢酸、2−アセチルベンズイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、N−(3−アミノプロピル) イミダゾール、5−アミノ−2−(トリフルオロメチル) ベンズイミダゾール、4−アザベンズイミダゾール、4−アザ−2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール)などである。必要に応じて、これらの緩衝物質に加えて、例えば、塩酸(HCl)、酢酸(CH3 COOH)、リン酸(H3 PO4 )および硫酸(H2 SO4 )からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸を中和剤として加えてもよい。こうすることで、酵素の活性をより高く維持することができる。緩衝物質を含む電解質のpHは、好適には7付近であるが、一般的には1〜14のいずれであってもよい。
【0037】
正極の電極材料としては各種のものを用いることができるが、例えば、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパーなどのカーボン系材料が用いられる。電極の材料としては、多孔体材料からなる骨格と、この骨格の少なくとも一部の表面を被覆する、カーボン系材料を主成分とする材料とを含む多孔体導電材料を用いることもできる(特許文献12参照。)。
【0038】
この燃料電池はおよそ電力が必要なものすべてに用いることができ、大きさも問わないが、例えば、電子機器、移動体(自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船など)、動力装置、建設機械、工作機械、発電システム、コージェネレーションシステムなどに用いることができ、用途などによって出力、大きさ、形状、燃料の種類などが決められる。
【0039】
電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器(携帯情報端末機(PDA)など)、ロボット、パーソナルコンピュータ(デスクトップ型、ノート型の双方を含む)、ゲーム機器、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)、車載機器、家庭電気製品、工業製品などである。
【0040】
また、本開示は、
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極からなるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極である。
【0041】
また、本開示は、
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている担体からなるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体である。
【0042】
このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体は、医薬品や化粧品などの製造を含む各種の用途に用いることができる。すなわち、このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体をバイオリアクターに用いて医薬品や化粧品などを製造してもよいし、このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体そのものを成分に用いて医薬品や化粧品などを製造してもよい。このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体は、具体的には、例えば、経口薬、インプラント、体外における血液製剤の調剤などに用いることができる。NAD+ /NADHを基質とする酸化還元酵素は非常に多いため、それらの酵素の欠乏した患者に対しては、酵素およびNADHの両方を活性を保ったまま表面に保持させた、細孔を有する炭素または無機化合物が効果的にかつ持続的に機能する。例えば、アセトアルデヒド脱水素酵素およびNAD+ の両方を活性を保ったまま表面に保持させた、細孔を有する炭素または無機化合物は、アルコール中毒の解毒に使用することが可能である。また、アルツハイマー病に対してはNAD+ /NADHそのものが効果的であることが知られているため、アルツハイマー病の患者の治療に用いることができる。
【0043】
また、本開示は、
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されているニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体を有する酵素反応利用装置である。
【0044】
この酵素反応利用装置は、例えば、燃料電池(バイオ燃料電池)、バイオセンサーまたはバイオリアクターである。
【0045】
上記のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体および酵素反応利用装置においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法に関連して説明したことが成立する。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体においては、細孔を表面に有する材料は導電性であっても非導電性であってもよい。
【0046】
上記のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体においては、必要に応じて、上記炭素および/または無機化合物に様々な電荷(正および/または負)または反応性を有する少なくとも一種類の官能基を付与することができる。
【0047】
さらに、本開示は、
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にタンパク質が固定化されている電極からなるタンパク質固定化電極である。
【0048】
また、本開示は、
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にタンパク質が固定化されている担体からなるタンパク質固定化担体である。
【0049】
上記のタンパク質固定化電極およびタンパク質固定化担体は種々の用途に用いることができる。タンパク質は、基本的にはどのようなものであってもよいが、例を挙げると、酵素、抗体、ホルモン、アルブミン、蛍光タンパク質(GFP、RFPなど)、ケラチン、コラーゲン、アクチン、ミオシンなどである。
【0050】
タンパク質として酵素を用いた場合には、タンパク質固定化電極およびタンパク質固定化担体はそれぞれ酵素固定化電極および酵素固定化担体となる。酵素固定化電極は、例えば、燃料電池の負極やバイオセンサーの電極などに用いることができる。また、酵素固定化担体は、例えば、バイオリアクターに用いることができる。これらのタンパク質固定化電極およびタンパク質固定化担体においては、タンパク質をより強固に固定化する観点より、好適には、炭素および/または無機化合物と結合する部位とタンパク質と結合する部位とを有するタンパク質固定化用化合物を用い、このタンパク質固定化用化合物を介して上記炭素および/または無機化合物に結合させる。このタンパク質固定化用化合物は、典型的には、炭素および/または無機化合物の表面の細孔の内部における炭素および/または無機化合物に結合する。このようにタンパク質固定化用化合物を介してタンパク質を炭素および/または無機化合物に結合させることは、タンパク質から炭素および/または無機化合物への直接電子移動にも効果的である。
【0051】
また、本開示は、
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にペプチドが固定化されている電極からなるペプチド固定化電極である。
【0052】
また、本開示は、
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にペプチドが固定化されている担体からなるペプチド固定化担体である。
【0053】
上記のペプチド固定化電極およびペプチド固定化担体は種々の用途に用いることができる。ペプチドは、基本的にはどのようなものであってもよい。これらのペプチド固定化電極およびペプチド固定化担体については、その性質に反しない限り、上記のタンパク質固定化電極およびタンパク質固定化担体に関連して説明したことが成立する。
【0054】
上記のタンパク質固定化電極、タンパク質固定化担体、ペプチド固定化電極およびペプチド固定化担体は、例えば、下記のような種々の用途に適用することができる。
・タンパク質およびペプチドの化学的、生物学的特長を保持することが可能となり、さらに保持量を制御することも可能である。
・タンパク質として酵素を用いたタンパク質固定化電極をバイオ燃料電池またはバイオセンサーに用いた場合には、酵素の使用量の低減を図ることが可能となり、さらに繰り返し特性などの安定性の向上を図ることも可能となる。
・あらかじめナノ細孔に吸着物を含む炭素および/または無機化合物にタンパク質を固定化することにより、吸着物の溶出を抑制することができ、これによって、例えばバイオ燃料電池においては、吸着物としての電子メディエーターや補酵素(NADHなど)の使用量の低減を図ることが可能となる。
・高価なポリ−L−リジンなどへの架橋を行わなくても、より安価にタンパク質の強固な固定化が可能である。また、炭素および/または無機化合物のナノ細孔に抗体などの特定の物質(抗原など)と特異的な相互作用を行うタンパク質を保持することにより、このタンパク質と相互作用する液体やガスなどの浄化剤を安定にかつ容易に実現することができる。また、例えばピレン誘導体においてピレンに修飾された官能基や反応基と結合させることにより、特定の物質を溶液中や大気中から除去することが可能である。
・NHSエステルなどのタンパク質と結合反応を起こす活性化物質を保持するピレン誘導体などをナノ細孔に吸着させた炭素および/または無機化合物は、溶液中などからのタンパク質除去剤として使用することができる。
・炭素および/または無機化合物のナノ細孔に抗体などの特定の物質(抗原など)と特異的な相互作用を行うタンパク質を保持することにより、医療用、衛生用の診断、検査デバイスを安定にかつ容易に実現することができる。
・例えば、固定化された抗体などに抗原となるリガンドを結合して保持させ、それらをエリザ(ELISA,enzyme-linked immunosorbent assay)などのセンシングに用いることができる。
・主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に抗原となるリガンドを結合して保持させることにより、抗原提示する炭素および/または無機化合物の粒子を得ることができ、これらを経口、経鼻、注射などにより、粘膜や皮下に導入し、ワクチンとして使用することができる。
・不溶性のタンパク質製剤に応用することで、安定な固定化と表面への保持量調整により活性の制御が可能になる。
・ナノ細孔に抗体などの特定の物質と特異的な相互作用を持つタンパク質を保持させることで、これを担体とした安定かつ再利用可能なリアクターもしくは不均一系触媒を実現することができる。
・各種官能基を保持するピレン誘導体などをナノ細孔に吸着させることでそれらの官能基が高密度に付与された、ナノ細孔を有する炭素/無機化合物を構築することができる。これによって、例えば、正または負に荷電した、ナノ細孔を有する炭素/無機化合物の粒子を容易に構築することができ、電子ペーパー用のインクなどに使用することができる。
【0055】
上述のように、本開示においては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体は、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素または無機化合物の細孔に吸着により強固に固定化される。また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体に加えて酵素も細孔に固定化することができ、特に、炭素および/または無機化合物と結合する部位と酵素と結合する部位とを有する酵素固定化用化合物を介して酵素を固定化することにより酵素を強固に固定化することができる。このため、電極または担体からニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体あるいは酵素が溶出するのが防止される。また、この場合、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体あるいは酵素は、酵素などとの反応性を高く保持したまま炭素または無機化合物の細孔に固定化される。
【0056】
また、本開示においては、タンパク質またはペプチドは、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素または無機化合物の細孔に吸着により強固に固定化される。このため、電極または担体からタンパク質またはペプチドが溶出するのが防止される。また、この場合、タンパク質またはペプチドは、活性を高く保持したまま炭素または無機化合物の細孔に固定化される。
【発明の効果】
【0057】
本開示によれば、電極に固定化したニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体の溶出を有効に防止することができ、溶出による性能劣化を防止することができる燃料電池を得ることができる。そして、この優れた燃料電池を用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。
【0058】
また、電極または担体からのニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体の溶出を有効に防止することができるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体を得ることができる。そして、これらのニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体を用いることにより、優れた酵素反応利用装置を得ることができる。
【0059】
また、電極または担体からのタンパク質またはペプチドの溶出を有効に防止することができるタンパク質固定化電極またはタンパク質固定化担体あるいはペプチド固定化電極またはペプチド固定化担体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1の実施の形態によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を示す略線図である。
【図2】第1の実施の形態によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極におけるナノ細孔を有する炭素の具体例を示す略線図である。
【図3】第1の実施の形態によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極におけるナノ細孔を有する炭素として炭素粒子を用いた場合にこの炭素粒子の表面に存在するナノ細孔の断面形状を模式的に示す略線図である。
【図4】第1の実施の形態によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の電極材料として繊維状炭素を用いた場合の繊維状炭素および炭素粒子の分布の様子を模式的に示す略線図である。
【図5】第1の実施の形態によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の電極材料として発泡金属を用いた場合の発泡金属および炭素粒子の分布の様子を模式的に示す略線図である。
【図6】第1の実施の形態による多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を示す略線図である。
【図7】図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行った定電圧測定の結果を示す略線図である。
【図8】図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行ったニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出率の測定結果を示す略線図である。
【図9】図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行ったサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す略線図である。
【図10】図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行ったサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す略線図である。
【図11】図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行ったサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す略線図である。
【図12】各種の炭素を用いた図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行った定電圧測定の結果を示す略線図である。
【図13】各種の炭素を用いた図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行った定電流測定の結果を示す略線図である。
【図14】各種の炭素を用いた図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行った定電流測定の結果を示す略線図である。
【図15】繊維状炭素からなる炭素電極上に繊維状炭素、バイオカーボンおよびケッチェンブラックを設けたものの走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図16】繊維状炭素からなる炭素電極上に繊維状炭素、バイオカーボンおよびケッチェンブラックを設けたものの走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図17】バイオカーボンおよびケッチェンブラックの細孔分布の測定結果を示す略線図である。
【図18】各種の炭素の細孔分布の測定結果を示す略線図である。
【図19】各種の炭素を用いた図6に示す多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行ったサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示す略線図である。
【図20】第2の実施の形態によるバイオ燃料電池を示す略線図である。
【図21】第2の実施の形態によるバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化されたリポソームに封入された酵素群および補酵素の一例およびこの酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す略線図である。
【図22】第2の実施の形態によるバイオ燃料電池の具体的な構成例を示す略線図である。
【図23】第3の実施の形態によるバイオリアクターを示す略線図である。
【図24】第4の実施の形態による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を示す略線図である。
【図25】第4の実施の形態による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の具体例を示す略線図である。
【図26】実施例5による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて定電流測定を行った結果を示す略線図である。
【図27】実施例5による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて酵素の溶出率の測定を行った結果を示す略線図である。
【図28】実施例5による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極においてニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの固定化量を変えて定電流測定を行った結果を示す略線図である。
【図29】バイオカーボンの表面にNHSピレンを塗布した場合と塗布しない場合の細孔分布の測定結果を示す略線図である。
【図30】バイオカーボンのナノ細孔にNHSピレンを介して酵素が固定化された酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を示す略線図である。
【図31】酵素固定化用化合物として5種類の化合物を用いた酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の酵素の固定化能を比較して示す略線図である。
【図32】酵素固定化用化合物として5種類の化合物を用いた酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行って定電圧測定を行った結果を比較して示す略線図である。
【図33】酵素固定化用化合物として5種類の化合物を用いた酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極からの酵素の溶出率の測定結果を比較して示す略線図である。
【図34】酵素固定化用化合物として5種類の化合物を用いた酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて行った定電圧測定の結果を比較して示す略線図である。
【図35】第5の実施の形態による物質除去剤を説明するための略線図である。
【図36】第5の実施の形態による物質除去剤において用いる炭素粒子を示す略線図である。
【図37】第7の実施の形態による抗原除去剤を説明するための略線図である。
【図38】第7の実施の形態による抗原除去剤において用いる炭素シートを示す略線図である。
【図39】第8の実施の形態によるワクチンを説明するための略線図である。
【図40】第8の実施の形態によるワクチンにおいて用いる炭素粒子を示す略線図である。
【図41】第9の実施の形態によるバイオリアクターを示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極およびその製造方法)
2.第2の実施の形態(バイオ燃料電池)
3.第3の実施の形態(バイオリアクター)
4.第4の実施の形態(酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極およびその製造方法)
5.第5の実施の形態(物質除去剤)
6.第6の実施の形態(タンパク質除去剤)
7.第7の実施の形態(抗原除去剤)
8.第8の実施の形態(ワクチン)
9.第9の実施の形態(バイオリアクター)
【0062】
〈1.第1の実施の形態〉
[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極]
図1は第1の実施の形態によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を示す。
【0063】
図1に示すように、このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極においては、電極11の表面に、ナノメートルサイズ、具体的には2nm以上100nm以下、好適には2nm以上30nm以下、より好適には4nm以上20nm以下の大きさの細孔、あるいはさらに0.5nm以上2nm未満の細孔(以下、これらの細孔を「ナノ細孔」という。)を有する炭素12が形成されている。図1においては、ナノ細孔を有する炭素12は電極11上に層状に設けられた形で示されているが、電極11が繊維状炭素などからなり、多孔体のように隙間のある構造を有する場合には、この電極11の内部に分散して形成される場合もある。このナノ細孔を有する炭素12のナノ細孔に1分子または2分子以上のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が吸着して固定化されている。なお、電極11を用いず、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化された炭素12だけでニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を構成してもよい。
【0064】
ナノ細孔を有する炭素12は、例えば、炭素粒子、炭素シート、炭素ファイバーなどのうちの一種または二種類からなる。図2A、BおよびCはそれぞれ炭素粒子、炭素シートおよび炭素ファイバーを示す。
【0065】
図2Aに示すように、炭素粒子13は表面に複数のナノ細孔13aを有する。図2Aにおいては、炭素粒子13が球状に描かれているが、炭素粒子13の形状は問わず、楕円体状、立方体状、直方体状などのいずれであってもよい。また、互いに形状が異なる二種類以上の炭素粒子13を混在させてもよい。炭素粒子13の大きさは特に限定されないが、例えば、10nm以上1mm以下、典型的には100nm以上500μm以下である。
【0066】
図2Bに示すように、炭素シート14は、表面に複数のナノ細孔14aを有する。図2Bにおいては、炭素シート14が平板状に描かれているが、炭素シート14は全部または一部が湾曲していてもよい。炭素シート14の形状は問わず、正方形、長方形、円形、楕円形、三角形、六角形などのいずれであってもよい。炭素シート14の厚さは特に限定されないが、例えば、10nm以上1mm以下、典型的には100nm以上500μm以下である。
【0067】
図2Cに示すように、炭素ファイバー15は表面に複数のナノ細孔15aを有する。図2Bにおいては、炭素ファイバー15が円形の断面形状を有するように描かれているが、炭素ファイバー15の断面形状は問わず、円形、楕円状、正方形状、長方形状などのいずれであってもよい。また、互いに断面形状が異なる二種類以上の炭素ファイバー15を混在させてもよい。炭素ファイバー15の太さ(径)は特に限定されないが、例えば、10nm以上1mm以下、典型的には100nm以上500μm以下である。
【0068】
図3は、ナノ細孔を有する炭素12の一例としての炭素粒子13の表面のナノ細孔13aの断面形状を模式的に示したものである。図3に示すように、ナノ細孔13aには断面形状、細孔径、深さなどが互いに異なるものが存在してもよい。また、ナノ細孔13aの内部に、より小さいナノ細孔が存在することもある。このナノ細孔13aの内壁に1分子または2分子以上のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体16が吸着し、固定化されている。
【0069】
ナノ細孔を有する炭素12は、既に述べたように、例えば、活性炭、カーボンブラックおよびバイオカーボンからなる群より選ばれた少なくとも一種類を含むものであるが、これら以外のものであってもよい。
【0070】
電極11の材料は、例えば、既に述べたものの中から必要に応じて選ばれる。電極11の材料として繊維状炭素を用いた場合のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の一例を図4に示す。図4に示すように、繊維状炭素17の集合体において各繊維状炭素17の隙間に、ナノ細孔13aを有する炭素粒子13が分散して存在している。
【0071】
電極11の材料としては、発泡金属、例えば発泡ニッケルを用いてもよい。電極11の材料として発泡金属を用いた場合のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の一例を図5に示す。図5に示すように、三次元網目状構造の多孔体材料からなる骨格18に固定化されて、ナノ細孔を有する炭素として炭素粒子13が分散して存在している。骨格18の表面はカーボン系材料により被覆するようにしてもよい。骨格18の表面を被覆するカーボン系材料の形態は問わず、繊維状(針状)、粒状などのいずれであってもよい。発泡金属またはカーボン系材料により被覆した発泡金属の多孔率は一般的には85%以上、あるいは90%以上であり、その孔径は、一般的には例えば10nm〜1mm、あるいは10nm〜600μm、あるいは1〜600μm、典型的には50〜300μm、より典型的には100〜250μmである。カーボン系材料としては、例えばケッチェンブラックなどの高導電性のものが好ましいが、カーボンナノチューブやフラーレンなどの機能性カーボン材料を用いてもよい。この多孔体導電材料の多孔率は一般的には80%以上、あるいは90%以上であり、孔径は、一般的には例えば9nm〜1mm、あるいは9nm〜600μm、あるいは1〜600μm、典型的には30〜400μm、より典型的には80〜230μmである。
【0072】
図6に示すように、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極は、電極11とナノ細孔を有する炭素12とを交互に積層したものにより構成してもよい。それぞれのナノ細孔を有する炭素12には1分子または2分子以上のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている。このようにニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を、電極11とナノ細孔を有する炭素12とを交互に積層したものにより構成することにより、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されたナノ細孔を有する炭素12は電極11の間に挟まれるので、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が外部に溶出するのをより有効に防止することができる。
【0073】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極には、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を補酵素とする一種または複数種の酵素あるいはさらに、電子メディエーターを固定化してもよい。こうすることで、酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極あるいは酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド/電子メディエーター固定化電極を得ることができる。例えば、基質としてグルコースを用いる場合には、酵素としてNAD+ /NAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼを用い、電子メディエーターとして例えばキノン骨格を有するものを用いる。
【0074】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極における酵素および電子メディエーターの固定化について説明する。一例として、ナノ細孔を有する炭素12として図3に示す炭素粒子13を用いる場合を考える。図3において、酵素19は、炭素粒子13の表面に吸着して固定化され得るが、この酵素19よりも大きいナノ細孔13aに入り込むと強固に吸着し、炭素粒子13に強固に固定化されると考えられる。図3においては、一つの酵素19だけが示されているが、一種または二種以上の酵素が二つ以上固定化されることもある。さらに、電子メディエーター20もナノ細孔13aに入り込み、固定化されると考えられる。このようにナノ細孔13aに酵素19および電子メディエーター20が固定化されると、同じくこのナノ細孔13aに固定化されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体16とこの酵素19とが接近するため、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体16を補酵素とする酵素反応が効率的かつ迅速に行われる。電子メディエーター20もナノ細孔13aに固定化されると、電子メディエーター20と酵素19とが接近するため、酵素19から電子メディエーター20への電子の受け渡し反応も、電子メディエーター20から炭素粒子13に対する電子の受け渡し反応も効率的かつ迅速に行われる。具体的には、ナノ細孔13aに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体16、酵素19としてのNAD+ /NAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼおよびキノン骨格を有する電子メディエーターが全て固定化されると、グルコースを燃料あるいは基質とする酵素反応全体が極めて効率的かつ迅速に行われる。
【0075】
必要に応じて、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体や酵素などの固定化をより強固なものにするために、ナノ細孔を有する炭素12を覆うように固定化材を形成するようにしてもよい。固定化材としては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。固定化材としては、具体的には、例えば、グルタルアルデヒド(GA)とポリLリジン(PLL)とを組み合わせたものや、ポリLリジン(PLL)をはじめとしたポリカチオンまたはその塩とポリアクリル酸(例えば、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAcNa))をはじめとしたポリアニオンまたはその塩とを用いて形成されるポリイオンコンプレックスなどを用いることができる。
【0076】
[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の製造方法]
このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極は、例えば、次のようにして製造することができる。一例として、ナノ細孔を有する炭素12として炭素粒子13を用いる場合について説明する。
【0077】
まず、炭素粒子を水溶性ポリマーと混合して水に分散させた分散液を調製する。この分散液を電極11上に塗布し、乾燥することにより、電極11上に炭素粒子13を固定化する。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン2−スルホン酸、ポリエチレングリコールなどを用いる。あるいは、非水溶性ポリマーと炭素粒子13とを有機溶剤中で分散させた分散液を調製し、この分散液を電極11上に塗布し、乾燥することにより、炭素粒子13を電極11上に固定化するようにしてもよい。非水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)などのフッ素原子を含むポリマーおよびこれらの共重合体やこれらのモノマーとエチレンやスチレンなどとの共重合体のポリマーなどを用いることができる。ポリマーと混合せずに炭素粒子だけで分散液を調製してもよい。
【0078】
次に、緩衝液にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体16を含む溶液を調製し、この溶液をナノ細孔を有する炭素粒子13が固定化された電極11上に塗布し、乾燥する。こうすることで、炭素粒子13のナノ細孔13aにニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体16が吸着して固定化される。こうして炭素粒子13にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体16を吸着させた後、例えば、室温もしくは40℃程度の温度で完全に乾燥させるようにすることが好ましい。酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極あるいは酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド/電子メディエーター固定化電極を形成する場合には、同様にして、酵素19、あるいはさらに電子メディエーター20を電極11に固定化する。この際、酵素19などの大きい分子によって、それより小さい細孔を塞ぐ可能性があることから、分子量が小さい分子から先に塗布することが好ましい。具体的には、一般に、電子メディエーター20、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体16、酵素19の順に分子量が大きくなるので、最初に電子メディエーター20、次にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはその誘導体16、最後に酵素19を塗布するのが好ましい。なお、酵素塗布後、ポリマーを添加して炭素粒子を結着させてもよいし、表面にポリマー膜を形成して炭素粒子をより強固に固定化させてもよい。
【0079】
〈実施例1〉
次のようにしてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。電極11として繊維状炭素からなる炭素電極を用いた。
【0080】
炭素粒子を水溶性ポリマーと混合して水に分散させた分散液を調製した。この分散液を炭素電極上に塗布し、乾燥することにより、炭素電極上に炭素粒子を固定化した。
【0081】
炭素粒子としては、バイオカーボンを用いた。このバイオカーボンは特許文献16の実施例1と同様にして作製した。具体的には、まず、粉砕した籾殻(鹿児島県産、イセヒカリの籾殻)を、窒素気流中において500℃、5時間加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。その後、この炭化物の10gをアルミナ製のるつぼに入れ、窒素気流(10リットル/分)において5℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温させた。そして、1000℃で5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。なお、炭素化および冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46体積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することにより酸処理を行った後、水およびエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。そして、最後に乾燥させることにより、多孔質炭素材料、すなわちバイオカーボンを得た。
【0082】
NADH(シグマアルドリッチ製、N−8129)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、NADH緩衝溶液を調製した。このNADH緩衝溶液を上述のようにして炭素粒子が固定化された炭素電極上に塗布し、室温で乾燥した。
【0083】
上記のプロセスを繰り返し行うことにより、図6に示す構造の多層構造のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0084】
〈実施例2〉
実施例2では、炭素粒子としてケッチェンブラック(KB)を用いることを除いて実施例1と同様にしてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0085】
〈実施例3〉
実施例3では、炭素粒子として塩化亜鉛で賦活した活性炭(活性炭1)を用いることを除いて実施例1と同様にしてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0086】
〈実施例4〉
実施例4では、炭素粒子として水蒸気で賦活した活性炭(活性炭2)を用いることを除いて実施例1と同様にしてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0087】
〈比較例1〉
比較例1(Ctrl)では、炭素粒子として繊維状炭素を用いることを除いて実施例1と同様にしてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0088】
〈比較例2〉
比較例2では、炭素粒子としてメソ炭素マイクロビーズ(MCMB)を用いることを除いて実施例1と同様にしてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0089】
〈比較例3〉
比較例3では、炭素粒子としてグラッシーカーボン(GC)粒子を用いることを除いて実施例1と同様にしてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0090】
〈実験結果〉
燃料としてグルコースを用い、これを10mMリン酸緩衝液(pH7)に溶解して燃料溶液を調製した。この燃料溶液中に、酵素としてNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)およびジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)、電子メディエーターとしてキノン誘導体であるAQ2S(アントラキノン−2−スルホン酸)を溶解した。
【0091】
実施例1、2および比較例1のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて繰り返し特性を酵素による触媒電流の電気化学的観察により検証した。このために、電気化学測定装置の作用電極として実施例1、2および比較例1のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極、参照電極としてAg|AgCl、対極として白金ワイヤーを用いた。燃料溶液添加後、ピペッティングを行い、定電圧−0.2Vで電流値を測定後、超純水にて20回以上ピペッティングにより洗浄し、再び超純水を入れ換えて同様の洗浄を行った。洗浄後、再度燃料溶液を添加し、ピペッティング後、同様の定電圧測定を行った。これらの一連の動作を数回繰り返すことにより、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化性能を検証した。
【0092】
その結果を図7に示す。図7では、測定開始から5分後の測定電流値の一回目の測定に対する比を示している。図7に示すように、炭素粒子としてバイオカーボン(BC)またはケッチェンブラック(KB)を用いた場合には、超純水による洗浄を含む燃料溶液の交換を行っても、電流値は一割程度の変化しかなく、大きな電流値の低下は見られない。これに対し、炭素粒子として繊維状炭素を用いた場合、したがって炭素電極および炭素粒子とも繊維状炭素からなる場合には、燃料溶液の交換により毎回電流値が半減するほどの大きな電流値の低下が見られる。これは、バイオカーボン(BC)またはケッチェンブラック(KB)では、これらの表面のナノ細孔にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが固定化されていることにより溶出が防止されるが、表面にナノ細孔が存在しない繊維状炭素を用いた場合には、燃料溶液の交換によりニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが容易に溶出してしまうためである。
【0093】
上記と同様な試験において、毎回の燃料溶液中のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した結果を図8に示す。図8より、ナノ細孔を有する炭素粒子であるバイオカーボン(BC)またはケッチェンブラック(KB)を用いた場合には、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが炭素粒子に強固に吸着され、溶出がほとんど見られないことが確認された。
【0094】
繊維状炭素からなる炭素電極上に炭素粒子としてバイオカーボン(BC)を設けたものに酵素としてNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(DI)のみを固定化し、グルコースに加えてニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび電子メディエーターを含む燃料溶液を繰り返し交換してサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。その結果を図9に示す。図9より、初期には燃料溶液交換により電流値が低下するものの、その後は一定の電流値を示すようになった。この結果より、酵素もナノ細孔を有するバイオカーボン(BC)に反応可能な状態で強固に吸着することが確認された。
【0095】
繊維状炭素からなる炭素電極上に炭素粒子としてバイオカーボン(BC)を設けたものを用い、グルコースに加えて、酵素としてNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(DI)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび電子メディエーターを含む燃料溶液を繰り返し交換してCV測定を行った。その結果を図10に示す。図10より、燃料溶液交換ごとに電子メディエーターのピーク電流値が上昇することから、毎回の燃料溶液に含まれる電子メディエーターが、ナノ細孔を有するバイオカーボン(BC)に反応可能な状態で強固に保持されていることが確認された。
【0096】
繊維状炭素からなる炭素電極上に炭素粒子としてバイオカーボン(BC)を設けたものに電子メディエーターを固定化し、グルコースに加えて、酵素としてNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(DI)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む燃料溶液を繰り返し交換してCV測定を行った。その結果を図11に示す。図11より、燃料溶液交換に関わらず、触媒電流値が保持されていることが確認された。つまり、電子メディエーターが、ナノ細孔を有するバイオカーボン(BC)に反応可能な状態で強固に保持されていることが確認された。
【0097】
繊維状炭素からなる炭素電極上に炭素粒子としてバイオカーボン(BC)、活性炭1または繊維状炭素(Ctrl)を設けたものにNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(DI)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび電子メディエーターを塗布し、燃料溶液を繰り返し交換して定電圧測定(−0.35V)および定電流測定(1.5mAcm-2)を行った。
【0098】
定電圧測定の結果を図12に示す。図12は燃料溶液の交換回数に対して定電圧測定における一時間後の電流値(電流密度i)を、炭素粒子としてバイオカーボン(BC)または繊維状炭素(Ctrl)を用いた場合について比較して示したものである。図12に示すように、炭素粒子としてバイオカーボン(BC)を用いた場合には、超純水による洗浄を含む燃料溶液の交換を行っても、電流値は二割程度の減少しかなく、大きな電流値の低下は見られない。これに対し、炭素粒子として繊維状炭素を用いた場合には、燃料溶液の交換回数が増すごとに急速に電流値が低下する。これは、バイオカーボン(BC)では、表面のナノ細孔にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが固定化されていることにより溶出が防止されるのに対し、表面にナノ細孔が存在しない繊維状炭素を用いた場合には、燃料溶液の交換によりニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが容易に溶出してしまうためである。
【0099】
炭素粒子としてバイオカーボン(BC)または繊維状炭素(Ctrl)を用いた場合の定電流測定の結果を図13に示す。図13は2時間ごとに12時間後まで燃料溶液の交換を行った時の電位Eの経時変化を、炭素粒子としてバイオカーボン(BC)または繊維状炭素(Ctrl)を用いた場合について比較して示したものである。図13に示すように、炭素粒子としてバイオカーボン(BC)を用いた場合には、超純水による洗浄を含む燃料溶液の交換を行っても、電位Eの変化は少ない。これに対し、炭素粒子として繊維状炭素(Ctrl)を用いた場合には、燃料溶液を2回交換すると、電位Eは0になってしまう。これは、バイオカーボン(BC)では、表面のナノ細孔にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが固定化されていることにより溶出が防止されるのに対し、表面にナノ細孔が存在しない繊維状炭素を用いた場合には、燃料溶液の交換によりニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが容易に溶出してしまうためである。
【0100】
炭素粒子としてバイオカーボン(BC)または活性炭1を用いた場合の定電流測定の結果を図14に示す。図14は2時間ごとに12時間後まで燃料溶液の交換を行った時の電位Eの経時変化を、炭素粒子としてバイオカーボン(BC)または活性炭1を用いた場合について比較して示したものである。図14に示すように、炭素粒子としてバイオカーボン(BC)を用いた場合も活性炭1を用いた場合も、超純水による洗浄を含む燃料溶液の交換を行っても、電位Eの変化は少ない。これは、バイオカーボン(BC)および活性炭1では、表面のナノ細孔にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが固定化されていることにより、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出が防止されているためである。また、図14より、活性炭1を用いた場合よりもバイオカーボン(BC)を用いた場合の方が、より効果的にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出が防止されていることが分かる。
【0101】
繊維状炭素からなる炭素電極上に炭素粒子として天然黒鉛(Ctrl)、バイオカーボン(BC)またはケッチェンブラック(KB)を固定化したものの走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察した。その結果を図15A、BおよびCならびに図16A、BおよびCに示す。図15A、BおよびCはそれぞれ、炭素粒子として天然黒鉛(Ctrl)、バイオカーボン(BC)およびケッチェンブラック(KB)を固定化したもの、図16A、BおよびCは図15A、BおよびCより倍率を大きくしたものである。図15BおよびCならびに図16BおよびCより、バイオカーボン(BC)およびケッチェンブラック(KB)の表面にナノ細孔が観察される。
【0102】
繊維状炭素からなる炭素電極上に炭素粒子として天然黒鉛(Ctrl)、バイオカーボン(BC)、ケッチェンブラック(KB)、活性炭1、活性炭2、メソ炭素マイクロビーズ(MCMB)およびグラッシーカーボン(GC)粒子を固定化したものの細孔分布を測定した。図17AおよびBにバイオカーボン(BC)およびケッチェンブラック(KB)の細孔分布の測定結果を示す。また、図18にNLDFT/GCMC法により見積もったバイオカーボン(BC)、ケッチェンブラック(KB)、活性炭1および活性炭2の細孔分布を示す。天然黒鉛(Ctrl)、メソ炭素マイクロビーズ(MCMB)およびグラッシーカーボン(GC)粒子は低比表面積のため(つまり細孔が無いか非常に少ないため)細孔分布は測定できなかった。表1に、バイオカーボン(BC)、ケッチェンブラック(KB)、活性炭1および活性炭2のBET法による比表面積および細孔容積をまとめて示す。表1に示すように、BET法による比表面積は、天然黒鉛(Ctrl)、メソ炭素マイクロビーズ(MCMB)およびグラッシーカーボン(GC)粒子は1m2 /gから5m2 /g程度、バイオカーボン(BC)は2050m2 /g、ケッチェンブラック(KB)は1170m2 /g、活性炭1(塩化亜鉛賦活)は1850m2 /g、活性炭2(水蒸気賦活)は1310m2 /gであり、細孔容積は天然黒鉛(Ctrl)、メソ炭素マイクロビーズ(MCMB)およびグラッシーカーボン(GC)粒子は約0.01cm3 /g、バイオカーボン(BC)は1.95cm3 /g、ケッチェンブラック(KB)は2.44cm3 /g、活性炭1は1.73cm3 /g、活性炭2は0.90cm3 /g、である。図17および図18より、バイオカーボン(BC)では0.5nmから2nm位までのマイクロ細孔および2nmから20nm位までのメソ細孔が顕著に存在し、一方でケッチェンブラック(KB)では0.5nmから2nm位までのマイクロ細孔および20nm付近のメソ細孔が存在し、さらに100nm付近のメソ細孔とマクロ孔との境界領域にも細孔が存在することが見積もられた。活性炭1ではマイクロ細孔は乏しいが、2nmから20nm位までのメソ細孔が顕著に存在する。活性炭2では0.5nmから2nm位までのマイクロ細孔が顕著に存在するが、4nm以上のメソ細孔は乏しい。
【0103】
表1 BET法による比表面積および細孔容積
比表面積(m2 /g) 細孔容積(cm3 /g)
BC 2050 1.95
KB 1170 2.44
活性炭1 1850 1.73
活性炭2 1310 0.90
【0104】
表1より、概ね、比表面積1500(m2 /g)以上、細孔容積1.5cm3 /g以上が好ましいと言える。
【0105】
繊維状炭素からなる炭素電極上に炭素粒子として活性炭1、活性炭2、メソ炭素マイクロビーズ(MCMB)およびグラッシーカーボン(GC)粒子を設けたものに電子メディエーターを固定化し、グルコースに加えて、酵素としてNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(DI)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む燃料溶液を繰り返し交換してCV測定を行った。その結果を図19に示す。図19より、細孔が無いか非常に少ないメソ炭素マイクロビーズ(MCMB)およびグラッシーカーボン(GC)粒子では、燃料溶液交換により触媒電流値が激減するのに対し、活性炭1および活性炭2では、燃料溶液交換に関わらず、触媒電流値が保持されていることが確認された。つまり、電子メディエーターが、ナノ細孔を有する活性炭1および活性炭2に反応可能な状態で強固に保持されていることが確認された。また、図19より、水蒸気で賦活した活性炭1を用いた場合よりも塩化亜鉛で賦活した活性炭2を用いた場合の方が、より効果的にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出が防止されていることが分かる。
【0106】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、電極11上にナノ細孔を有する炭素12を形成しているので、この炭素12のナノ細孔にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を酵素などとの反応性を高く保持したまま強固に固定化することができる。このため、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極からのニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体の溶出を有効に防止することができる。また、このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極に酵素や電子メディエーターを固定化する場合にも、これらの酵素や電子メディエーターの溶出を有効に防止することができる。
【0107】
〈2.第2の実施の形態〉
[バイオ燃料電池]
次に、第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態においては、バイオ燃料電池の負極として、第1の実施の形態による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いる。
【0108】
図20はこのバイオ燃料電池を模式的に示す。このバイオ燃料電池では、燃料としてグルコースを用いる。図21は、このバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化されたリポソーム12に封入された酵素群および補酵素の一例およびこの酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す。
【0109】
図20および図21に示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構造を有する。負極21は、燃料として供給されたグルコースを酵素により分解し電子を取り出すとともにプロトン(H+ )を発生する。正極22は、負極21から電解質層23を通って輸送されたプロトンと負極21から外部回路を通って送られた電子と例えば空気中の酸素とにより水を生成する。
【0110】
負極21としては、第1の実施の形態による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極が用いられる。この酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極は、具体的には、電極11上に、脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な穴17を有するリポソーム12が固定化されたものである。このリポソーム12の内部には、グルコースの分解に関与する酵素、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素および補酵素の還元体を酸化する補酵素酸化酵素が封入されている。電極11上には、必要に応じて、リポソーム12に加えて、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーターも固定化される。
【0111】
グルコースの分解に関与する酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、好適にはNAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼを用いることができる。この酸化酵素を存在させることにより、例えば、β−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化することができる。
【0112】
さらに、このD−グルコノ−δ−ラクトンは、グルコノキナーゼとフォスフォグルコネートデヒドロゲナーゼ(PhGDH)との二つの酵素を存在させることにより、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに分解することができる。すなわち、D−グルコノ−δ−ラクトンは、加水分解によりD−グルコネートになり、D−グルコネートは、グルコノキナーゼの存在下、アデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸とに加水分解することでリン酸化されて、6−フォスフォ−D−グルコネートになる。この6−フォスフォ−D−グルコネートは、酸化酵素PhGDHの作用により、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに酸化される。
【0113】
また、グルコースは上記分解プロセスのほかに、糖代謝を利用してCO2 まで分解することもできる。この糖代謝を利用した分解プロセスは、解糖系によるグルコースの分解およびピルビン酸の生成ならびにTCA回路に大別されるが、これらは広く知られた反応系である。
【0114】
単糖類の分解プロセスにおける酸化反応は、補酵素の還元反応を伴って行われる。この補酵素は作用する酵素によってほぼ定まっており、GDHの場合、補酵素にはNAD+ が用いられる。すなわち、GDHの作用によりβ−D−グルコースがD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化されると、NAD+ がNADHに還元され、H+ を発生する。
【0115】
生成されたNADHは、ジアホラーゼ(DI)の存在下で直ちにNAD+ に酸化され、二つの電子とH+ とを発生する。したがって、グルコース1分子につき1段階の酸化反応で二つの電子と二つのH+ とが生成されることになる。2段階の酸化反応では、合計四つの電子と四つのH+ とが生成される。
【0116】
上記プロセスで生成された電子はジアホラーゼから電子メディエーターを介して電極11に渡され、H+ は電解質層23を通って正極22へ輸送される。
【0117】
上記の酵素、補酵素および電子メディエーターは、電極反応が効率よく定常的に行われるようにするために、電解質層23に含まれるリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの緩衝液によって、酵素にとって最適なpH、例えばpH7付近に維持されていることが好ましい。リン酸緩衝液としては、例えばNaH2 PO4 やKH2 PO4 が用いられる。さらに、イオン強度(I.S.)は、あまり大きすぎても小さすぎても酵素活性に悪影響を与えるが、電気化学応答性も考慮すると、適度なイオン強度、例えば0.3程度であることが好ましい。ただし、pHおよびイオン強度は、用いる酵素それぞれに最適値が存在し、上述した値に限定されない。
【0118】
図21には、一例として、グルコースの分解に関与する酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ 、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーターがACNQである場合が図示されている。
【0119】
正極22は、例えば多孔質カーボンなどの電極材料からなる電極に、例えばビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの酸素を分解する酵素を固定化したものである。この正極22の外側の部分(電解質層23と反対側の部分)は通常、多孔質カーボンよりなるガス拡散層により形成されるが、これに限定されるものではない。正極22には、好適には、酵素に加えて、この正極22との間で電子の受け渡しを行う電子メディエーターも固定化される。
【0120】
この正極22においては、上記の酸素を分解する酵素の存在下で、電解質層23からのH+ と負極21からの電子とにより空気中の酸素を還元し水を生成する。
【0121】
電解質層23は負極21において発生したH+ を正極22に輸送するためのもので、電子伝導性を持たず、H+ を輸送することが可能な材料により構成されている。電解質層23としては、具体的には、例えば、セロハンなどの既に挙げたものが用いられる。
【0122】
以上のように構成されたバイオ燃料電池において、負極21側にグルコースが供給されると、このグルコースが酸化酵素を含む分解酵素により分解される。この単糖類の分解プロセスで酸化酵素が関与することで、負極21側で電子とH+ とを生成することができ、負極21と正極22との間で電流を発生させることができる。
【0123】
次に、バイオ燃料電池の具体的な構造例について説明する。
図22AおよびBに示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構成を有している。この場合、正極22の下および負極21の下にそれぞれTi集電体41、42が置かれ、集電を容易に行うことができるようになっている。符号43、44は固定板を示す。これらの固定板43、44はねじ45により相互に締結され、それらの間に、正極22、負極21、電解質層23およびTi集電体41、42の全体が挟み込まれている。固定板43の一方の面(外側の面)には空気取り込み用の円形の凹部43aが設けられ、この凹部43aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴43bが設けられている。これらの穴43bは正極22への空気の供給路となる。一方、固定板44の一方の面(外側の面)には燃料装填用の円形の凹部44aが設けられ、この凹部44aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴44bが設けられている。これらの穴44bは負極21への燃料の供給路となる。この固定板44の他方の面の周辺部にはスペーサー46が設けられており、固定板43、44をねじ45により相互に締結したときにそれらの間隔が所定の間隔になるようになっている。
【0124】
図22Bに示すように、Ti集電体41、42の間に負荷47を接続し、固定板44の凹部44aに燃料として例えばリン酸緩衝液にグルコースを溶かしたグルコース溶液を入れて発電を行う。
【0125】
この第2の実施形態によれば、負極21として第1の実施の形態による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いていることにより、負極21からのニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出を有効に防止することができる。このため、負極21からのニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの溶出によるバイオ燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0126】
〈3.第3の実施の形態〉
[バイオリアクター]
図23は第3の実施の形態によるバイオリアクターを示す。
【0127】
図23に示すように、このバイオリアクターにおいては、カラムリアクター内にニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体51が設置されている。このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体51は、第1の実施の形態によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極と同様に、ナノ細孔を有する炭素12を所定の基板上に設け、この炭素12にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を固定化し、加えてニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を補酵素とする酵素を固定化したものである。
【0128】
このバイオリアクターにおいては、反応物を含む溶液をカラムリアクターに流してニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体51と接触させる。そして、このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体51に固定化された酵素による酵素反応により反応物から生成物が得られる。
【0129】
このバイオリアクターにおいては、上記以外のことは、その性質に反しない限り、第1の実施の形態と同様である。
【0130】
この第3の実施の形態によれば、バイオリアクターにおいて第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。加えて、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体51からのニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体の溶出を有効に防止することができることにより、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を、毎時反応ごとに新規もしくは再精製したものを添加する必要がなくなり、低コスト化を図ることができる。
【0131】
〈4.第4の実施の形態〉
[酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極]
図24は第4の実施の形態による酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を示す。
【0132】
図24に示すように、この酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極においては、電極(図示せず)の表面に形成された、ナノ細孔を有する炭素12の表面に、炭素と結合する部位と酵素と結合する部位とを有する酵素固定化用化合物61を介して酵素19が結合している。より詳細には、炭素12の表面に酵素固定化用化合物61の炭素と結合する部位が結合しており、この酵素固定化用化合物61の酵素と結合する部位に酵素19が結合している。典型的には、酵素固定化用化合物61の炭素と結合する部位は、炭素12のナノ細孔の内部に入り込んで炭素12の表面に吸着し、あるいは、π結合などにより結合している。炭素12のナノ細孔への吸着性から、酵素固定化用化合物61の分子量は、好適には例えば1000以下、電荷は好適には2価以下である。
【0133】
酵素固定化用化合物61としては、例えば、炭素12のナノ細孔の内部に入り込んで炭素12の表面に吸着可能なビオチン(Biotin)分子、π結合により炭素12の表面に吸着するフルオレセン(Fluorescein)やキラリティを有する分子、各種の多環芳香族化合物(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon,PAHs)などを用いることができ、必要に応じて選ばれる。酵素固定化用化合物61の具体例を挙げると次の通りである。
【0134】
〈多環芳香族化合物〉
・ピレン(Pyrene)誘導体
・コロネン(Coronene)誘導体
・クリセン(Chrysene)誘導体
・ナフタセン(Naphtacene)誘導体
・ペンタセン(Pentacene)誘導体
・ピセン(Picene) 誘導体
・ペリレン(Perylene) 誘導体
・アントラセン(Anthracene)誘導体
・フェナントレン(Phenanthrene)誘導体
・フルオレン(Fluorene)誘導体
・ナフタレン(Naphtalene)誘導体
・フルオランテン(Fluoranthene)誘導体
・アセナフテン(Acenaphthene)誘導体
・アセナフチレン(Acenaphthylene)誘導体
・トリフェニレン(Triphenylene)誘導体
【0135】
〈π結合により炭素と結合する物質〉
・ターチオフェン(Terthiophene)誘導体
・テトラフェニルベンジジン(Tetraphenylbenzidine)誘導体
・テトラフェニルナフタセン(Tetraphenylnaphtacene)誘導体
・ベンゾチオフェン(Benzothiophene)誘導体
・チオフェン(Thiophene)誘導体
・ピロール(Pyrrole)誘導体
・カルバゾール(Carbazole)誘導体
・フェナントロリン(Phenanthroline) 誘導体
・フェニルピリジン(Phenylpyridine) 誘導体
・キノリン(Quinoline)誘導体
・トリフェニルアミン(Triphenylamine) 誘導体
・ジフェニルアミン(Diphenylamine)誘導体
・オキサゾール(Oxazole)誘導体
・オキサジアゾール(Oxadiazole) 誘導体
・p−フェニル(p-Phenyl) 誘導体
・キナクリドン(Quinacridone) 誘導体
・フルクレノン(Flucrenone) 誘導体
・フタロシアニン(Phthalocyanine) 誘導体
・スピロピラン(Spiropyran) 誘導体
・ビオロゲン(Viologen) 誘導体
・スピロペリミジン(Spiroperimidine)誘導体
・フェニルエステル(Phenyl Esters)
・ベンゾ酸(Benzoic Acids)
・ビフェニル(Biphenyl) 誘導体
・ベンゾフェノン(Benzophenone) 誘導体
・ジフェニルアミン(Diphenylamine)誘導体
・ジフェニルエーテル(Diphenyl Ethers)
・ジフェニルスルフィド(Diphenyl Sulfides)
・ジフェニルスルホン(Diphenyl Sulfones)
・ビスフェノール(Bisphenol)誘導体
・アントラキノン(Anthraquinone)誘導体
・ホスホニウム(Phosphonium)化合物
・フルオレセン(Fluorescein)誘導体
・ローダミン(Rhodamine)誘導体
・クマリン(Coumarin) 誘導体
・シアニン(Cyanine)誘導体
【0136】
〈その他の化合物〉
ヌクレオシド、ヌクレオチド、リボース、糖、アミノ酸、脂質、ステロール、テルペン、ステロイド、プロパノイド、アルカノイド、アルコール、アミン、アミノアルコール、イソシアナート、アミド、エステル、ジオール、グリシジル化合物、ヒドラジン、シラン、ポリケチド、ポリアミン、ポルフィリン、ビタミン、クラウンエーテル、シクロデキストリン、ジアクリラート、ジメタクリレート、テトラカルボン酸、ピロリジン、アルカノール、カルボン酸、アズレン、第四級アンモニウム、フルオロカーボン、アリールやシクロアルカンなどの環式有機化合物を含む化合物。
【0137】
酵素固定化用化合物61の中でもピレン誘導体が好適である。ピレン誘導体は、例えば、アミン基、スルホン基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、水酸基、アジ基、アゾ基、ニトロ基、ニトリル基、シアノ基、アレン基、イソニトリル基、ウレア基、アルデヒド基、ケトン基、NHSエステル、イミドエステル、マレイミド、ピリジルジチオール、アリルアジド、ハロアセテート、イソシアナート、カルボジイミド、アリルアジド、ジアジリン、ヒドラジド、ソラレン、ヨード、ピリジンジスルフィド、ビニルスルホンなどの官能基および反応基を有する。また、官能基および反応基とピレンとの間はアルキル基や、ポリエチレングリコールなどをスペーサーとして隔てられていてもよい。また、これらの官能基および反応基、スペーサーなどの修飾はピレンのどの位置の炭素に結合していてもよい。ピレン誘導体はその官能基および反応基を介してタンパク質と結合することができる。また、ピレン誘導体にビオチン、グルタチオン、糖分子もしくは抗原となる分子を修飾させておくことで、これらに特異的に結合するタンパク質を固定化することもできる。
【0138】
〈実施例5〉
実施例5では、繊維状炭素からなる炭素電極上にナノ細孔を有する炭素12としてバイオカーボン(BC)を塗布したもののナノ細孔に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに加えて、電子メディエーターとしてAQ2S(アントラキノン−2−スルホン酸)を固定化し、酵素としてNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)およびジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)をNHSピレンを介して固定化し、酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。図25に、酵素固定化用化合物61がNHSピレンである場合を示す。
【0139】
〈比較例2〉
比較例2では、酵素固定化用化合物61としてのNHSピレンを用いないことを除いて実施例5と同様にして酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製した。
【0140】
〈実験結果〉
燃料としてグルコースを用い、これを1.0Mのリン酸緩衝液(KPB、KH2 PO4 )に溶解してグルコース濃度が0.8Mの燃料溶液(pH7.5)を調製した。この燃料溶液中で実施例5および比較例2の酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて定電流測定(1.5mA/cm2 )を行い、その際、1時間ごとに燃料溶液を交換してその繰り返し特性を測定した。燃料溶液の交換の際に20回、酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極の直上から強くピペッティングを行った。
【0141】
測定結果を図26に示す。図26に示すように、GDHおよびDIをNHSピレンを用いずに直接バイオカーボンに吸着させた比較例2では1時間で電圧が低下するのに対し、GDHおよびDIをNHSピレンを介してバイオカーボンに吸着させた実施例5では7時間電圧が維持される。
【0142】
上記の定電流測定において燃料溶液を1時間ごとに交換する際に廃液を回収し、その1回目、2回目の廃液中に含まれる酵素をSDS−PAGEにより分析することで溶出した酵素を分析した。ナノ細孔を有する炭素12としてバイオカーボンを用い、酵素としてGDHおよびDIを用いた場合の測定結果を図27Aに示す。また、ナノ細孔を有する炭素12としてケッチェンブラックを用い、酵素としてビリルビンオキシダーゼ(BOD)を用いた場合の測定結果を図27Bに示す。図27AおよびBより、NHSピレンを用いないで酵素を直接バイオカーボンまたはケッチェンブラックに固定化した場合には2回目の燃料溶液の交換時には70%から90%に近い酵素が溶出していることになり、その結果として電圧が低下したことが示唆される。これに対し、NHSピレンを用いて酵素をバイオカーボンまたはケッチェンブラックに固定化した場合には酵素の溶出は10%以下に抑制されており、このことから酵素がNHSピレンによって強固に固定化されることが示された。また、NHSピレンを用いて固定化する効果は、ナノ細孔を有する炭素12がバイオカーボンであるかケッチェンブラックであるか、あるいは酵素の種類によらずに得られることが分かる。
【0143】
図28は、ナノ細孔を有する炭素12としてバイオカーボンを用い、そのナノ細孔に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに加えて、電子メディエーターとしてAQ2Sを固定化し、酵素としてのGDHおよびDIをNHSピレンを介して固定化した酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極において、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの固定化量を変えて定電流測定(1.5mA/cm2 )を行った結果を示す。図28より、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの固定化量を低減させても出力や繰り返し特性が維持されることが分かる。これは、NHSピレンによって酵素がナノ細孔近傍に固定化されることで、ナノ細孔に吸着固定化されているニコチンアミドアデニンジヌクレオチドや電子メディエーターの溶出を効果的に防止する役割(いわば蓋の役割)を担っていると考えられる。実際、図29に示すように、表面にNHSピレンを塗布したバイオカーボンとNHSピレンを塗布しないバイオカーボンとについて細孔分布を測定したところ、NHSピレンの塗布によってナノ細孔の容積の低下が確認された。このことは、図30に示すように、バイオカーボン62のナノ細孔62aの内部の表面にNHSピレン63を介して酵素64が固定化されていることを示すものと考えられる。符号65は電子メディエーターを示す。
【0144】
次に、酵素固定化用化合物61の種類による酵素の固定化能、電極性能を比較検討した結果について説明する。酵素固定化用化合物61として次の5種類の化合物を用いた。
【0145】
・1-Pyrenebutanoic acid,succinimidyl ester(Pyrene)
化学構造は下記の通りである。
【化1】

このPyrene(分子量は385)はπ結合能が高く(π電子数=8)、蛍光物質であるので蛍光検出が可能である。
【0146】
・N-[(9H-Fluoren-9-ylmethoxy)carbonyloxylsuccinimide (Fmoc)
化学構造は下記の通りである。
【化2】

このFmoc(分子量は431)は平面的であり、π結合能を有し(π電子数=6)、蛍光物質であるので蛍光検出が可能である。
【0147】
・NHS-Fluorescein(Fluorescein)
化学構造は下記の通りである。
【化3】

このFluorescein (分子量は473)はπ結合能を有するが(π電子数=9)、分子内で回転が起きるため平面的でない。このFluorescein は蛍光物質であるので蛍光検出が可能である。
【0148】
・Succinimidyl(2R)-6-(Tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylate(NPCA)
化学構造は下記の通りである。
【化4】

このNPCA(分子量は431)はπ結合能を有するが(π電子数=3)、Pyreneに比べると弱いと考えられる。このNPCAは光学活性を有し、応用によっては光学分割能や光学的立体識別能が期待される。
【0149】
・NHS-Biotin(Biotin)
化学構造は下記の通りである。
【化5】

このBiotin(分子量は341)はπ結合能を有していない。このBiotin自体は水溶性のビタミンB7 で安全性は高いと考えられる。このBiotinはアジピンタンパク質により高感度かつ特異的に検出可能である。
【0150】
〈実験結果〉
酵素固定化用化合物61として上記の5種類の化合物を同重量用い、実施例5と同様の方法でバイオカーボンを用いた酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を作製し、酵素溶出の比較検討および定電圧測定(−0.35V)による電流値を測定した。
【0151】
酵素の固定化能の比較結果を図31に、電流値(電流密度I(mA/cm2 ))の比較結果を図32に示す。図31に示すように、Pyreneの固定化能を1としたときの相対的な固定化能は、Pyrene、FmocおよびNPCAは同程度であるのに対し、Fluorescein は半分程度であった。一方、BiotinはPyreneと比較して倍の固定化能を示した。また、図32に示すように、電流値に関しては、Pyreneが一番高く、Biotinでは若干低くなり、FmocおよびNPCAではさらに低くなり、Fluorescein では最も低い。
【0152】
以上より、Pyrene同様にFmocやNPCAなどの平面的なπ結合部分を有する分子でも、同様な効果が確認された。また、π結合は有していないものの、バイオカーボンのナノ細孔によく吸着すると考えられるBiotin分子でも、効果的にアンカリングして酵素を固定化することができることが確認された。一方、π電子を多く有するものの、分子内のπ結合部分が回転可能なFluorescein では固定化能および電流値がPyreneに比べてかなり低いことが確認された。
【0153】
この酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極を用いて実施例5と同様に燃料溶液の交換を一回行った時の酵素溶出率の比較結果を図33に、電流値(電流密度I(mA/cm2 ))の比較結果を図34に示す。図33および図34においては、比較のために、酵素固定化用化合物を用いないで酵素を固定化したことだけが異なる酵素/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極(Ctrl)を用いた場合の酵素溶出率および電流値も示す。図33に示すように、Pyrene、Fmoc、Fluorescein 、NPCAおよびBiotinを用いて酵素を固定した場合には、これらを用いないで酵素を固定化した場合に比べて酵素溶出率は極めて低くなっている。また、図34に示すように、Pyrene、Fmoc、Fluorescein 、NPCAおよびBiotinを用いて酵素を固定した場合には、これらを用いないで酵素を固定化した場合と同様な電流値が得られる。
【0154】
この第4の実施の形態によれば、ナノ細孔を有する炭素12の表面に酵素固定化用化合物61を介して酵素19が結合していることにより、酵素19をその活性を保持したまま強固に固定化することができ、溶出を極めて有効に防止することができる。また、酵素固定化用化合物61をナノ細孔を有する炭素12、取り分けナノ細孔13aを有する炭素粒子13のナノ細孔13aに吸着させた電極では、配向制御などにより酵素19による直接電子移動の効率の向上を図ることができる。
【0155】
〈5.第5の実施の形態〉
[物質除去剤]
第5の実施の形態においては、物質除去剤について説明する。
【0156】
図35に示すように、この物質除去剤においては、酵素固定化用化合物61と同様な化合物であって正または負に帯電したものを、ナノ細孔13aを表面に有する炭素粒子13に吸着させることで、それぞれ正または負に帯電させた炭素粒子13を得る。そして、例えば毒性物質やウイルスなどの除去したい物質81が溶存する溶液中にこの炭素粒子13を分散させる。すると、溶液中に含まれる、除去したい物質81は炭素粒子13の表面に吸着した、正または負に帯電した化合物の反応基に捕捉される。その後、この溶液に電界を印加することにより、除去したい物質81が捕捉された炭素粒子13を電気泳動させることにより回収することができる。こうして、溶液中から、除去したい物質81を除去することができる。図36に、一例として上記の化合物がピレン誘導体71であり、このピレン誘導体71に除去したい物質81が捕捉された様子を示す。
【0157】
なお、正負への帯電だけでなく、各種の官能基を先端に保持したピレンなどの、ナノ細孔13aの表面に吸着可能な分子を炭素粒子13の表面に吸着保持させることで、この炭素粒子13にその官能基に応じた様々な性質を付与することができる。例えば、タンパク質と結合能を有するNHSを先端に保持したNHSピレンを吸着させた炭素粒子13を利用すると、エアロゾル中や溶液中のタンパク質を捕捉して炭素粒子13の表面に強固に固定化することができ、この炭素粒子13を濾過などにより回収することで、結果的にエアロゾル中や溶液中からタンパク質を除去することが可能である。また、NHSの代わりに正または負に帯電した化合物の反応基を保持させることで、その静電相互作用で標的分子を捕捉し、その後、この溶液の濾過や電界印加に伴う電気泳動などにより回収分離することができる。
【0158】
この第5の実施の形態によれば、新規な物質除去剤を実現することができる。
【0159】
〈6.第6の実施の形態〉
[タンパク質除去剤]
第6の実施の形態においては、タンパク質除去剤について説明する。
【0160】
このタンパク質除去剤においては、タンパク質固定化用化合物と同様な化合物であってタンパク質に結合可能な官能基を有するものを、ナノ細孔13aを表面に有する炭素粒子13に吸着させることで、それぞれ正または負に帯電させた炭素粒子13を得る。そして、除去したいタンパク質が溶存する溶液中にこの炭素粒子13を分散させる。すると、溶液中に溶存する、除去したいタンパク質は炭素粒子13の表面に吸着した、正または負に帯電した化合物の反応基に捕捉される。その後、この溶液に電界を印加することにより、除去したいタンパク質が捕捉された炭素粒子13を電気泳動させることにより回収することができる。こうして、溶液中から、除去したいタンパク質を除去することができる。
【0161】
この第6の実施の形態によれば、新規なタンパク質除去剤を実現することができる。
【0162】
〈7.第7の実施の形態〉
[抗原除去剤]
第7の実施の形態においては、抗原除去剤について説明する。
【0163】
図37に示すように、この抗原除去剤においては、ナノ細孔14aを有する炭素シート14の表面に、タンパク質固定化用化合物と同様な化合物を介して、抗原と特異的な相互作用を有する抗体を結合させる。そして、除去したい抗原101が溶存する溶液中にこの炭素シート14を入れる。すると、溶液中に溶存する抗原101は炭素シート14の表面に吸着した抗体と結合する。こうして、溶液中に溶存する抗原101を除去することができる。図38に、一例として上記の化合物がピレン誘導体71であり、このピレン誘導体71に抗体102が結合し、この抗体102に抗原101が結合している様子を示す。
【0164】
図37に示すように、炭素シート14を検出器103と接続することにより、抗原101をセンシングする測定装置を得ることができる。
【0165】
この第7の実施の形態によれば、新規な抗原除去剤を実現することができる。
【0166】
なお、抗原抗体反応以外にも、レセプタータンパク質など基質特異性を有するタンパク質を用いることで特定の基質を捕捉することが可能である。
【0167】
〈8.第8の実施の形態〉
[ワクチン]
第8の実施の形態においては、ワクチンについて説明する。
【0168】
図39に示すように、このワクチンにおいては、MHCクラスIもしくはMHCクラスIIもしくはそれらの細胞外領域(以下、これらをまとめてMHCと称する)を、結合用化合物を介して、ナノ細孔13aを表面に有する炭素粒子13に結合させる。この炭素粒子13の表面に結合したMHCに、病原体やそれに由来するペプチドなどの抗原111を結合させる。こうして炭素粒子13の表面にMHC−抗原複合体が固定化される。
【0169】
このMHC−抗原複合体が固定化された炭素粒子13を経口、経鼻、腹腔、皮下注射などにより体内に取り込み、粘膜や血液中の免疫反応系に抗原提示することでワクチンとして機能させることができる。この際、例えば、図39に示すように、T細胞112のTCR112aが抗原111と結合することにより、T細胞112が活性化される。図40に、一例として上記の結合用化合物がピレン誘導体71であり、このピレン誘導体71にMHC113が結合し、このMHC113に抗原101が結合し、この抗原101にT細胞112のTCR112aが結合している様子を示す。
【0170】
この第8の実施の形態によれば、新規なワクチンを実現することができる。
【0171】
〈9.第9の実施の形態〉
[バイオリアクター]
図41は第9の実施の形態によるバイオリアクターを示す。
【0172】
図41に示すように、このバイオリアクターにおいては、カラムリアクター内に酵素などのタンパク質が固定化されたタンパク質固定化担体151が設置されている。このタンパク質固定化担体151は、ナノ細孔を有する炭素12を所定の基板上に設け、この炭素12にタンパク質固定化用化合物を介して酵素などのタンパク質を固定化したものである。この炭素12には、必要に応じて、タンパク質に加えて、その他の化合物などを固定化してもよい。
【0173】
このバイオリアクターにおいては、反応物を含む溶液をカラムリアクターに流してタンパク質固定化担体151と接触させることで、このタンパク質固定化担体151に固定化された酵素などのタンパク質による反応物が得られる。
【0174】
この第9の実施の形態によれば、タンパク質固定化担体151のタンパク質による反応生成物を効率的かつ容易に生産し、回収することができる。あるいは、タンパク質固定化担体151のタンパク質と相互作用する物質の精製分離が可能である。また、タンパク質固定化担体151からのタンパク質の溶出を有効に防止することができることにより、繰り返し使用性能の向上やタンパク質使用量の低減による低コスト化を図ることができる。
【0175】
以上、本開示の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、各種の変形が可能である。
【0176】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【0177】
また、必要に応じて、炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体に加えて、他の補酵素やペプチドなどを固定化してもよい。他の補酵素としては、例えば、ビタミンB群、ビタミンC、葉酸などの水溶性ビタミンや、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKベータカロチンなどの脂溶性ビタミンや、ユビキノン、フラビンモノヌクレオチド(FMN/MMNH2 )、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD/FADH2 )、シトクロム、クロロフィルなどの電子伝達物質)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、ペプチドとしては、各種ホルモン、サイトカインなどとして機能するポリペプチド(アミノ酸残基100未満)や低分子ペプチド(アミノ酸残基10未満)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらには、炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を固定化する代わりに、これらの補酵素やペプチドなどを固定化してもよい。炭素および/または無機化合物には、これらの補酵素、ペプチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体に加えて、酵素を含む各種のタンパク質を固定化してもよいことは言うまでもない。
【0178】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)正極と、負極と、上記正極と上記負極との間に設けられたプロトン伝導体とを有し、上記負極が、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極からなる燃料電池。
(2)上記炭素および/または無機化合物は大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面にさらに有する前記(1)に記載のバイオ燃料電池。
(3)上記炭素および/または無機化合物は大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔および大きさが4nm以上20nm以下の細孔を表面に有する前記(1)または(2)に記載の燃料電池。
(4)上記炭素は、炭素粒子、炭素シートおよび炭素ファイバーからなる群より選ばれた少なくとも一種類を含む前記(1)から(3)のいずれかに記載の燃料電池。
(5)上記炭素粒子は、活性炭、カーボンブラックおよびバイオカーボンからなる群より選ばれた少なくとも一種類を含む前記(4)に記載の燃料電池。
(6)上記電極は繊維状炭素からなる前記(1)から(5)のいずれかに記載の燃料電池。
(7)上記炭素および/または無機化合物にさらに酵素が固定化され、上記酵素および上記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を有する前記(1)から(6)のいずれかに記載の燃料電池。
(8)上記炭素および/または無機化合物と結合する部位と上記酵素と結合する部位とを有する酵素固定化用化合物を有する前記(7)に記載の燃料電池。
(9)上記酵素固定化用化合物は、ビオチン分子、フルオレセン、キラリティを有する分子および多環芳香族化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種類である前記(8)に記載の燃料電池。
(10)上記酵素固定化用化合物はピレン誘導体である前記(8)または(9)に記載の燃料電池。
(11)上記酵素は、上記酵素固定化用化合物を介して上記炭素および/または無機化合物と結合している前記(8)から(10)のいずれかに記載の燃料電池。
(12)上記酵素固定化用化合物は上記細孔の内部における上記炭素および/または無機化合物と結合している前記(8)から(11)のいずれかに記載の燃料電池。
(13)上記酵素はNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼである前記(7)から(12)のいずれかに記載の燃料電池。
(14)上記無機化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、硫酸塩、リン酸塩および塩化物からなる群より選ばれた少なくとも一種類である前記(1)から(13)のいずれかに記載の燃料電池。
【符号の説明】
【0179】
11…電極、12…ナノ細孔を有する炭素、13…炭素粒子、13a…ナノ細孔、14…炭素シート、14a…ナノ細孔、15…炭素ファイバー、15a…ナノ細孔、16…ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体、17…繊維状炭素、18…骨格、19…酵素、20…電子メディエーター、21…負極、22…正極、23…電解質層、41、42…Ti集電体、43、44…固定板、47…負荷、51…ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化担体、61…酵素固定化用化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極との間に設けられたプロトン伝導体とを有し、
上記負極が、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極からなる燃料電池。
【請求項2】
上記炭素および/または無機化合物は大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面にさらに有する請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
上記炭素および/または無機化合物は大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔および大きさが4nm以上20nm以下の細孔を表面に有する請求項2記載の燃料電池。
【請求項4】
上記炭素は、炭素粒子、炭素シートおよび炭素ファイバーからなる群より選ばれた少なくとも一種類を含む請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
上記炭素粒子は、活性炭、カーボンブラックおよびバイオカーボンからなる群より選ばれた少なくとも一種類を含む請求項4記載の燃料電池。
【請求項6】
上記電極は繊維状炭素からなる請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
上記炭素および/または無機化合物にさらに酵素が固定化され、上記酵素および上記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体を有する請求項6記載の燃料電池。
【請求項8】
上記炭素および/または無機化合物と結合する部位と上記酵素と結合する部位とを有する酵素固定化用化合物を有する請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
上記酵素固定化用化合物は、ビオチン分子、フルオレセン、キラリティを有する分子および多環芳香族化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種類である請求項8記載の燃料電池。
【請求項10】
上記酵素固定化用化合物はピレン誘導体である請求項8記載の燃料電池。
【請求項11】
上記酵素は、上記酵素固定化用化合物を介して上記炭素および/または無機化合物と結合している請求項8記載の燃料電池。
【請求項12】
上記酵素固定化用化合物は上記細孔の内部における上記炭素および/または無機化合物と結合している請求項8記載の燃料電池。
【請求項13】
上記酵素はNAD+ /NADH依存型グルコースデヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼである請求項7記載の燃料電池。
【請求項14】
上記無機化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、硫酸塩、リン酸塩および塩化物からなる群より選ばれた少なくとも一種類である請求項1記載の燃料電池。
【請求項15】
一つまたは複数の燃料電池を有し、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極との間に設けられたプロトン伝導体とを有し、
上記負極が、大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極からなるものである電子機器。
【請求項16】
上記炭素および/または無機化合物は大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面にさらに有する請求項15記載の電子機器。
【請求項17】
上記炭素および/または無機化合物は大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔および大きさが4nm以上20nm以下の細孔を表面に有する請求項16記載の電子機器。
【請求項18】
大きさが2nm以上100nm以下の細孔を表面に有する炭素および/または無機化合物を有し、上記炭素および/または無機化合物にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはその誘導体が固定化されている電極からなるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極。
【請求項19】
上記炭素および/または無機化合物は大きさが0.5nm以上2nm未満の細孔を表面にさらに有する請求項18記載のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極。
【請求項20】
上記炭素および/または無機化合物に電荷または反応性を有する少なくとも一種類の官能基が付与されている請求項19記載のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド固定化電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−178335(P2012−178335A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−271224(P2011−271224)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】