説明

燃料電池、端部シール部材および端部シール部材の製造方法

【課題】クリープによるシール圧の低下を抑え、経時的なガス漏洩の発生を抑止する。
【解決手段】多孔質基材120a,120b,120c,120dのガス流路に平行な外縁部には、それぞれのガスが対極に漏洩しないように端部シール部材140a,140b,140c,140dが配置される。この端部シール部材140a,140b,140c,140dは、膨張黒鉛シート等の端部シール材をそれぞれ多孔質基材120a,120b,120c,120d側となる面を除く表面に、はっ水処理を施されて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池、その端部シール部材および端部シール部材の製造方法に関し、特に電解質を保持した電解質層を燃料極触媒層と空気極触媒層とで挟み、燃料極触媒層に燃料ガスのガス流路を有する第1の多孔質基材を配置し、空気極触媒層に酸化剤ガスのガス流路を有する第2の多孔質基材を配置した単位セルと、ガス不透過性のセパレータとが積層される燃料電池、その端部シール部材および端部シール部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換できることから発電効率が高く環境にもやさしいとして、多様な用途への普及が期待されている。
図5は、燃料電池の単位セルを2積層した状態を示した概略構成図である。燃料電池200は、セパレータ210a,210bの間に、ガス流路を有するリブ付きの多孔質基材220a,220bと、対極を構成する電極部230a,230bが挟持されている。電極部230a,230bの間には、図示しない電解質層が形成されている。同様に、セパレータ210b,210cの間に、多孔質基材220c,220dと、対極を構成する電極部230c,230dが挟持されている。多孔質基材220a,220b,220c,220dのガス流路に平行な外延部には、それぞれのガスが対極に漏洩しないように端部シール部材240a,240b,240c,240dが配置されている。ここで、端部シール部材240a,240b,240c,240dという場合、それぞれ多孔質基材220a,220b,220c,220dを挟んで配置される1対の端部シール部材を示す。
【0003】
端部シール部材240a,240b,240c,240dの部材には、ガス不透過性とともに電解質に対する耐食性が求められている。また、ガス流路の高さを確保する必要もあることから、2mm程度の厚さが要求される。更に、電解質を多く含んでしまうと端部シール部材240a,240b,240c,240dの端面において上下セル間で電解質が液絡し、上下セル間での電解質の移動などの問題が発生する可能性があるため、端面で電解質が液絡しないことが求められた。これらの条件を満足する端部シール部材240a,240b,240c,240dの部材として、従来は黒鉛化された緻密な炭素材や、セパレータの部材を端部シール部材の幅に切断してフッ素樹脂フィルムを介して積層したものが使用されている。
【0004】
また、ガス通路を形成する多孔質基材220a,220bや電極部230a,230bと端部シール部材240a,240bとは、それぞれの材料の製作時の寸法誤差により段差が生じる。例えば、多孔質基材220aおよび電極部230aの高さの合計が、端部シール部材240aの高さよりも大きい場合は、端部シール部材240aに掛かる圧力が弱くなり、シール性が悪くなりガス漏洩の原因となる。また、端部シール部材240aの高さが、多孔質基材220aおよび電極部230aの高さの合計よりも大きい場合は、電極部230a,230bの接触抵抗が大きくなる。
【0005】
この問題に対して、端部シール部材240a,240bの上面や下面にクッション部材を挿入して多孔質基材220a,220bや電極部230a,230bと端部シール部材240a,240bとの寸法誤差を吸収する方法が知られている。
【0006】
また、上記の問題に対して、端部シール部材に膨張黒鉛シートを用い、その圧縮歪率を最適化して上記の寸法誤差を吸収し、所望のシール性能を得る方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−023654号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のクッション部材を用いる方法および特許文献1に記載の方法では、長時間使用しているとクッション部材や端部シール部材の経時的な形状変化(クリープ)により、クッション部材や端部シール部材に掛かる圧力(シール圧)が低下する可能性がある。そして、シール圧が低下すると、ガス漏洩の原因となってしまうという課題がある。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、経時的なガス漏洩の発生を抑止する燃料電池、その端部シール部材および端部シール部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
電解質を保持した電解質層を燃料極触媒層と空気極触媒層とで挟み、燃料極触媒層に燃料ガスのガス流路を有する第1の多孔質基材を配置し、空気極触媒層に酸化剤ガスのガス流路を有する第2の多孔質基材を配置した単位セルと、ガス不透過性のセパレータとが積層される燃料電池が提供される。この燃料電池は、第1の端部シール部材および第2の端部シール部材を有する。第1の端部シール部材は、第1の多孔質基材に形成される燃料ガスのガス流路と平行な相対する二辺の第1の多孔質基材の端部に、膨潤性を有する所定の第1の端部シール材を配置する時、第1の端部シール材の第1の多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施して形成される。第2の端部シール部材は、第2の多孔質基材に形成される酸化剤ガスのガス流路と平行な相対する二辺の第2の多孔質基材の端部に、膨潤性を有する所定の第2の端部シール材を配置する時、第2の端部シール材の第2の多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施して形成される。
【0010】
このような燃料電池によれば、第1の端部シール部材が、膨潤性を有する所定の第1の端部シール材の配置時に第1の多孔質基材側となる面を除く表面にはっ水処理を施して形成される。そして、第1の端部シール部材が第1の多孔質基材に形成されるガス流路と平行な相対する二辺の第1の多孔質基材の端部に配置される。また、第2の端部シール部材が、膨潤性を有する所定の第2の端部シール材の配置時に第2の多孔質基材側となる面を除く表面にはっ水処理を施して形成される。そして、第2の端部シール部材が第2の多孔質基材に形成されるガス流路と平行な相対する二辺の第2の多孔質基材の端部に配置される。
【0011】
また、上記課題を解決するために、上記の燃料電池に配置される端部シール部材であって、膨潤性を有する所定の端部シール材が、配置時に多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施されて形成される端部シール部材が提供される。
【0012】
更に、上記課題を解決するために、上記の端部シール部材の製造方法であって、膨潤性を有する所定の端部シール材の配置時に多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施す手順、を有する端部シール部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記の燃料電池、その端部シール部材および端部シール部材の製造方法によれば、膨潤性を有する端部シール材の、燃料電池への配置時に多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理が施される。このようにすると、端部シール材が、電解質層、または燃料極触媒層、または多孔質基材に保持される電解質を含んで膨潤する。これにより、クリープによるシール圧の低下を抑え、経時的なガス漏洩の発生を抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の燃料電池の端部シール部材単体を示した図であって、(A)は斜視図、(B)は長手方向に対する片側端の側面図である。端部シール部材140は、端部シール材141がフッ素樹脂膜142によって被覆することによる、はっ水処理が施されている。端部シール部材140は、直方体の形状である。また、端部シール部材140は、燃料電池内に配置される向きに対して内側面143、外側面144、上面145および下面146を有する。
【0015】
端部シール材141は、図1では点線によって表されており、膨張黒鉛シートを含む膨潤性を有する所定の端部シール材で形成される。なお、図1では、説明のため端部シール材141とフッ素樹脂膜142との間に隙間があるが、実際には密着される。また、端部シール材141として、膨張黒鉛シートの他に、例えば、多孔質カーボン板、焼成カーボン板等を用いることもできる。
【0016】
フッ素樹脂膜142は、フッ素樹脂が長手方向の1つの面(内側面143)を除いて端部シール材141を被覆する。フッ素樹脂には、例えば、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP:Fluorinated Ethylene Propylene copolymer、融点250〜280℃)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE:Poly Tetra Fluoro Ethylene、融点327℃)、フッ化アルキコキシエチレン樹脂(PFA:Poly tetra Fluoro ethylene-perfluoro Alkyl vinyl ether copolymer、融点300〜310℃)およびフッ化エチレンプロピレン樹脂(TFP:Tetra Fluoro Propanol、融点290〜300℃)等を用いることができる。
【0017】
内側面143は、端部シール部材140のフッ素樹脂膜142によって被覆されない面である。内側面143は、端部シール材141の表面が露出している。端部シール部材140は、燃料電池内に内側面143が多孔質基材側(内側)を向くよう配置される(図2で詳しく説明する)。
【0018】
外側面144は、内側面143と平行かつ対向する面である。外側面144は、フッ素樹脂膜142によって被覆される。
上面145は、内側面143および外側面144と垂直な面である。上面145は、フッ素樹脂膜142によって被覆される。
【0019】
下面146は、上面145と平行かつ対向する面である。下面146は、フッ素樹脂膜142によって被覆される。
なお、端部シール材141の長手方向の両端面もフッ素樹脂膜142によって被覆される。
【0020】
このように、端部シール部材140の内側面143をフッ素樹脂膜142によって被覆せず、端部シール材141が電解質等の液体を含むようにする。
これにより、端部シール材141が適宜膨潤して、クリープによるシール圧の低下を防止することができ、経時的なガスリークの発生を抑止することができる。
【0021】
また、外側面144、上面145、下面146および長手方向の両端面をフッ素樹脂膜142によって被覆することで、はっ水効果を得ることができる。これにより、端部シール材141が電解質を含んでも、外側面144、上面145、下面146および長手方向の両端面等から電解質が漏れることを防止することができる。電解質の漏れの防止は、燃料電池のセル間での液絡防止の効果もある。
【0022】
なお、端部シール材141は、電解質を含むことができれば、内側面143の全面が露出されている必要は無く、例えば、内側面143の一部がフッ素樹脂膜142で被覆されていてもよい。
【0023】
以下、本実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図2は、本実施の形態の燃料電池の単位セルを2積層した状態を示した図である。燃料電池100は、セパレータ110aおよびセパレータ110bの間に形成される単位セルと、セパレータ110bおよびセパレータ110cの間に形成される単位セルとが2層に積層された状態を示している。
【0024】
セパレータ110a,110b,110cは、ガス不透過性および電解質に対する耐食性を満たしている。セパレータ110a,110b,110cは、例えば、セルロース繊維からなる紙に熱硬化性樹脂を含浸し、乾燥後積層してプレスし、更に焼成して作成される。
【0025】
セパレータ110a,110bに挟持される単位セルは、図示しない電解質層を挟んで配置された触媒層を有する電極部130a(燃料電極)と電極部130b(空気電極)を有する。更に、上記単位セルは、電解質層、電極部130aおよび電極部130bを挟んで配置された、酸化剤ガスまたは空気の流路(以下、空気流路とする)を形成するリブ付きの多孔質基材120a,120bを有する。多孔質基材120aおよび電極部130aを含む層を燃料極触媒層と称する。また、多孔質基材120bおよび電極部130bを含む層を空気極触媒層と称する。多孔質基材120a,120bの材料としては、例えば、多孔質カーボンを用いることができる。燃料電池100の例では、燃料ガス流路と空気流路とは、互いに直交するように重ね合わされている。
【0026】
また、セパレータ110b,110cに挟持される単位セルについても同様に、電解質層を挟んだ両面に多孔質基材120cおよび電極部130cと、多孔質基材120dおよび電極部130dが配置されている。
【0027】
なお、電解質層には、例えば、電解質としてリン酸が保持される。更に、電解質層で電界質として使用するリン酸が不足しないよう、多孔質基材120a,120b,120c,120dおよび電極部130a,130b,130c,130dにもリン酸水溶液を含浸し、保持する。これにより、電解質層に電界質であるリン酸を供給し続けることができる。
【0028】
多孔質基材120a,120b,120c,120dのガス流路に平行な外縁部には、それぞれのガスが対極に漏洩しないように端部シール部材140a,140b,140c,140dが配置される。
【0029】
端部シール部材140a,140b,140c,140dは、図1に示した端部シール部材140と同様に形成されている。すなわち、端部シール部材140a,140b,140c,140dは、膨張黒鉛シート等の端部シール材の多孔質基材側の面を除く表面が、フッ素樹脂により被覆されて形成される。ここで、端部シール部材140a,140b,140c,140dという場合、それぞれ多孔質基材120a,120b,120c,120dを挟んで配置される1対の端部シール部材を示す。
【0030】
また、端部シール部材140aの下面には、多孔質基材120aおよび電極部130aと端部シール部材140aの製作誤差を吸収するクッション部材150aが挿入される。ここで、クッション部材150a,150bという場合、それぞれ多孔質基材120a,120cを挟んで配置される1対のクッション部材を示す。
【0031】
クッション部材150aは、多孔質基材120bおよび電極部130bと端部シール部材140bの製作誤差も吸収する。また、クッション部材150bも同様に、多孔質基材120cおよび電極部130cと端部シール部材140cの製作誤差や多孔質基材120dおよび電極部130dと端部シール部材140dの製作誤差を吸収する。クッション部材150a,150bとしては、端部シール材141と同様の材料を用いることができる。クッション部材150a,150bの材料として、例えば、発泡PTFEが用いられる。
【0032】
このような構成の燃料電池100では、セパレータ110a,110b,110cによって、端部シール部材140a,140b,140c,140dやクッション部材150a,150bが、ガス漏洩が発生しない適切なシール圧で保持される。しかし、燃料電池100を長時間使用していると端部シール部材140a,140b,140c,140dやクッション部材150a,150bのクリープによって、シール圧が低下し、ガス漏洩の原因となる。
【0033】
図3は、燃料電池の一部拡大図であって、(A)は使用開始時、(B)は長時間使用後の状態を示している。図3は、図2における記号Xで示した箇所を燃料電池100の奥行き方向から見た拡大図である。図2で示した構成に加えて、電解質層160aを更に図示している。燃料電池100は、使用開始時では、(A)に示すように端部シール部材140a,140bやクッション部材150aが、セパレータ110a,110bによりガス漏洩が発生しない適切なシール圧で保持されている。しかし、(B)に示すように長時間の使用後には、端部シール部材140a,140bやクッション部材150aのクリープによる形状変化(シール圧方向の厚さ減少)が生じ、シール圧が低下する。
【0034】
なお、図3は、クリープによる厚さ減少分が分かり易いよう模式的に示している。
これに対し、燃料電池100では、端部シール部材140a,140b,140c,140dのそれぞれ多孔質基材120a,120b,120c,120d側(内側)の面は、フッ素樹脂膜によって被覆しないこととしている。すなわち、端部シール部材140a,140b,140c,140dに用いられる端部シール材は、多孔質基材120a,120b,120c,120d等に保持された電解質を含んで膨潤可能としている。
【0035】
図4は、燃料電池の一部拡大図であって、(A)は端部シール部材への電解質の含浸、(B)は膨潤後の端部シール部材を示している。燃料電池100は、(A)に示すように端部シール部材140a,140bやクッション部材150aのシール圧方向の厚さ減少の分だけ電解質を含んで膨潤する。そして、(B)に示すように厚さ減少によるシール圧の低下を補てんして、ガス漏洩が発生しない適切なシール圧を保持する。
【0036】
このように、燃料電池100の端部シール部材140a,140b,140c,140dは、端部シール部材140a,140b,140c,140dやクッション部材150a,150bのクリープによる厚さ減少の分だけ膨潤してシール圧の低下を防止する。これにより、燃料電池100の経時的なガス漏洩の発生を抑止することができる。
【0037】
また、端部シール部材140a,140b,140c,140dの多孔質基材側の面以外の面はフッ素樹脂膜によって被覆されており、はっ水効果を有している。このため、端部シール材141が電解質を含んでも、端部シール部材140a,140b,140c,140dの多孔質基材側の面以外の外側面に電解質が漏れることを防止することができる。電解質の漏れの防止は、燃料電池100のセル間での液絡防止の効果もある。このようにして、端部シール部材140a,140b,140c,140dは、燃料電池100での使用に際して所望されるガス不透過性および電解質不漏洩性を備える。
【0038】
次に、このような端部シール部材140の製造方法の具体例について説明する。
(製造方法例1)
まず、昭和電工(株)製ガラス状カーボン板(SG−3、厚さ0.6mm)を130×130mmに切断してセパレータとする。そして、東洋炭素(株)製膨張黒鉛シート(PF250、厚さ2.5mm、かさ密度0.65g/cm3)を18×130mmに切断し、端部シール材とする。更に、セパレータと端部シール材との間に端部シール材と同寸法に切断した厚さ50μmのデュポン社製FEP(融点250〜280℃)シートを挿入し、温度約290℃で1.0kg/cm2の圧力を掛けて圧力保持時間10分の条件で熱融着し、セパレータと端部シール材とを一体化する。そして、端部シール材の多孔質基材側となる面を除く外側面の表面にFEPシートを温度約290℃で1.0kg/cm2の圧力を掛けて圧力保持時間10分の条件で熱融着して、端部シール部材を形成する。
【0039】
(製造方法例2)
まず、製造方法例1と同様に、東洋炭素(株)製膨張黒鉛シート(PF250、厚さ2.5mm、かさ密度0.65g/cm3)を18×130mmに切断し、端部シール材とする。そして、端部シール材を予め三井フロロケミカル製FEPディスパージョンである「テフロン(登録商標)120J」中にディップし、290℃の電気炉中で1時間焼成して、はっ水処理を施す。その際、端部シール材の多孔質基材側となる面には、はっ水処理を施さないようにする。このために、例えば、端部シール材の多孔質基材側となる面がテフロン液に接触しないよう、端部シール材がテフロン液に浸かる液面高さを調整する治具を用意する。そして、この治具に端部シール材を設置してテフロン液にディップすることで、容易に多孔質基材側となる面に、はっ水処理が施されないよう端部シール部材を形成することができる。
【0040】
その後、セパレータ上に端部シール部材を配置し、約290℃で1.0kg/cm2の圧力を掛けて圧力保持時間10分の条件で熱融着し、セパレータと端部シール部材とを一体化する。
【0041】
なお、製造方法例1,2で使用するフッ素樹脂には、FEPの他にも、例えば、PTFE、PFAおよびTFP等を用いることができる。これらは、例えば、厚さ50μmのシート状やディスパージョンの状態で使用する。
【0042】
上記の方法を用いて製作した端部シール部材を利用して製作された燃料電池は、端部シール部材を透過してのガス漏れ量が300mmAqの差圧化で0.1ml/min以下であった。また、電流密度300mA/cm2で2000時間運転後も漏れの増加は無く、端部シール部材やクッション部材のクリープによるガス漏れ量の増加は見られなかった。更に、運転後の分解調査の結果、端部シール部材の腐食や端部シール部材表面における電解質の液絡も発生しなかった。すなわち、好的な端部シール部材を備えた燃料電池が得られることが確認された。
【0043】
なお、本実施の形態では、燃料電池にクッション部材を使用する構成を例示して説明した。しかし、クッション部材は、端部シール部材による適切なシール効果を得るために必要に応じて挿入されるものである。このため、端部シール部材のみよって適切なシール効果を得られる場合には、クッション部材を使用する必要は無い。クッション部材を使用しない場合でも、本実施の形態の端部シール部材を適用可能である。
【0044】
また、本実施の形態では、端部シール部材を直方体の形状として例示したが、燃料電池の設計に応じて他の柱体に形成されてもよい。
更に、従来では、所望のシール性能を有する端部シール部材を得るために、例えば、端部シール材として使用する膨張黒鉛シートのかさ密度等の性質も最適となるよう管理する必要があった。これに対して、本発明の端部シール部材では、このような管理が不要となるため、かさ密度等の性質毎に多種の端部シール材を用意する必要が無くなる。このため、部品の管理工数や在庫数を抑えることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施の形態の燃料電池の端部シール部材単体を示した図であって、(A)は斜視図、(B)は長手方向に対する片側端の側面図である。
【図2】本実施の形態の燃料電池の単位セルを2積層した状態を示した図である。
【図3】燃料電池の一部拡大図であって、(A)は使用開始時、(B)は長時間使用後の状態を示している。
【図4】燃料電池の一部拡大図であって、(A)は端部シール部材への電解質の含浸、(B)は膨潤後の端部シール部材を示している。
【図5】燃料電池の単位セルを2積層した状態を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0046】
100 燃料電池
110a,110b,110c セパレータ
120a,120b,120c,120d 多孔質基材
130a,130b,130c,130d 電極部
140,140a,140b,140c,140d 端部シール部材
141 端部シール材
142 フッ素樹脂膜
143 内側面
144 外側面
145 上面
146 下面
150a,150b クッション部材
160a 電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を保持した電解質層を燃料極触媒層と空気極触媒層とで挟み、前記燃料極触媒層に燃料ガスのガス流路を有する第1の多孔質基材を配置し、前記空気極触媒層に酸化剤ガスのガス流路を有する第2の多孔質基材を配置した単位セルと、ガス不透過性のセパレータとが積層される燃料電池において、
前記第1の多孔質基材に形成される前記燃料ガスのガス流路と平行な相対する二辺の前記第1の多孔質基材の端部に、膨潤性を有する所定の第1の端部シール材を配置する時、前記第1の端部シール材の前記第1の多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施して形成される第1の端部シール部材と、
前記第2の多孔質基材に形成される前記酸化剤ガスのガス流路と平行な相対する二辺の前記第2の多孔質基材の端部に、膨潤性を有する所定の第2の端部シール材を配置する時、前記第2の端部シール材の前記第2の多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施して形成される第2の端部シール部材と、
を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記第1の端部シール材および前記第2の端部シール材が、膨張黒鉛シートであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記はっ水処理は、前記第1の端部シール材および前記第2の端部シール材の表面をフッ素樹脂材により被覆して施されることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第1の端部シール部材または前記第2の端部シール部材の上面または下面に配置されたクッション部材を更に有することを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項5】
電解質を保持した電解質層を燃料極触媒層と空気極触媒層とで挟み、前記燃料極触媒層に燃料ガスのガス流路を有する第1の多孔質基材を配置し、前記空気極触媒層に酸化剤ガスのガス流路を有する第2の多孔質基材を配置した単位セルと、ガス不透過性のセパレータとが積層される燃料電池の前記第1の多孔質基材に形成される前記燃料ガスのガス流路と平行な相対する二辺の前記第1の多孔質基材の端部と、前記第2の多孔質基材に形成される前記酸化剤ガスのガス流路と平行な相対する二辺の前記第2の多孔質基材の端部と、に配置される端部シール部材において、
膨潤性を有する所定の端部シール材が、前記配置時に前記多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施されて形成されることを特徴とする端部シール部材。
【請求項6】
前記端部シール材は、膨張黒鉛シートであることを特徴とする請求項5記載の端部シール部材。
【請求項7】
前記はっ水処理は、フッ素樹脂材により被覆して施されることを特徴とする請求項5記載の端部シール部材。
【請求項8】
電解質を保持した電解質層を燃料極触媒層と空気極触媒層とで挟み、前記燃料極触媒層に燃料ガスのガス流路を有する第1の多孔質基材を配置し、前記空気極触媒層に酸化剤ガスのガス流路を有する第2の多孔質基材を配置した単位セルと、ガス不透過性のセパレータとが積層される燃料電池の前記第1の多孔質基材に形成される前記燃料ガスのガス流路と平行な相対する二辺の前記第1の多孔質基材の端部と、前記第2の多孔質基材に形成される前記酸化剤ガスのガス流路と平行な相対する二辺の前記第2の多孔質基材の端部と、に配置される端部シール部材の製造方法において、
膨潤性を有する所定の端部シール材が、前記配置時に前記多孔質基材側となる面を除く表面に、はっ水処理を施す手順を有することを特徴とする端部シール部材の製造方法。
【請求項9】
前記端部シール材は、膨張黒鉛シートであることを特徴とする請求項8記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項10】
前記はっ水処理は、フッ素樹脂材により被覆して施されることを特徴とする請求項8記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項11】
前記フッ素樹脂材はシート状に形成されており、
前記はっ水処理は、シート状の前記フッ素樹脂材を前記端部シール材に熱融着して被覆することを特徴とする請求項10記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項12】
前記フッ素樹脂材は液体状であり、
前記はっ水処理は、前記端部シール材の前記配置時に前記多孔質基材側となる面が前記フッ素樹脂材に触れないように液体状の前記フッ素樹脂材に浸し、その後、前記端部シール材に付着した前記フッ素樹脂材を前記端部シール材に熱融着して被覆することを特徴とする請求項10記載の端部シール部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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