燃料電池のシール方法、燃料電池のシール構造、及び、燃料電池
【課題】電池単セルの各構成部材の寸法精度誤差を吸収して十分なシール性能が確保できる燃料電池のシール方法、燃料電池のシール構造、及び燃料電池を提供する。
【解決手段】隣接するセパレータ25,25のそれぞれの内面に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置し、この端部シール部材30どうしを、弾性シート33を介して接合して、燃料電池の端部をシールしたシール構造を備えた燃料電池。
【解決手段】隣接するセパレータ25,25のそれぞれの内面に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置し、この端部シール部材30どうしを、弾性シート33を介して接合して、燃料電池の端部をシールしたシール構造を備えた燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、更に詳しくは、燃料電池の端部シール方法及びシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、りん酸形燃料電池の基本単位となる電池単セルの一般的な構成を示す斜視図であり、図11は、同電池単セルの分解断面図であり、図12は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図であり、図13は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0003】
図10〜13に見られるように、りん酸形燃料電池の電池単セル10は、電解質層11を、燃料電極12と、酸化剤電極13とで挟持し、その外面に燃料ガス流路付多孔質基材14aと酸化剤ガス流路付多孔質基材14bとをそれぞれ配して構成される。そして、このようにして構成される電池単セル10を、ガス不透過性の良導電性材料よりなるセパレータ15で遮蔽し、電池単セル10とセパレータ15を所望の電圧となるように所定数を積層し、両端を冷却板で閉じて、最終的に締め付けられてりん酸形燃料電池が形成される。また、電池単セル10の端部から反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)が漏洩すると、開回路電圧の低下につながり、ガス利用率の低下、安全性の低下などの不具合につながることから、それぞれの多孔質基材の外周に端部シール部材16を配置し、積層構造体を締め付ける際に、図13に示すように、端部シール部材16を押し潰してシール性を保持している。なお、図中の17は、フレームシートであって、額縁状のプラスティックシートである。端部シール部材16の端部エッジのコーナー部では2枚のシールが重なり段差が発生するので、見かけ上、平坦な1枚のシートにするため、フレームシート17が配置される。
【0004】
電池単セル10の積層構造体を締め付ける際における端部シール部材16の潰れ率(=圧縮率)は、電池単セル10の各構成材料の厚みで決まる。電池単セル10の各構成材料の厚みは規定されているが、加工精度によってバラつきが生じることがある。このため、構成部材の加工精度による厚み寸法のバラつきによって、端部シール部材16の圧縮率が変化する。端部シール部材16の圧縮率が小さいと、電池単セル10のエッジ界面からのガス漏れが懸念される。また、端部シール部材16の圧縮率が大きいと、電池単セル10の端部エッジが挫屈したり、偏った圧力集中などの不具合が懸念される。
【0005】
例えば、特許文献1には、電解質膜を介在させた空気電極と燃料電極とをガス供給溝を有するセパレータによりガスケットを介装して挟持された電池単セルが積み重ねられている燃料電池において、セパレータに電極を収容する凹部を設けることで、ガスケットの十分な圧縮後に電極が圧縮されるようになって、電極層の圧縮し過ぎによるガス拡散能の低下を防止する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、燃料電池の端部シール部材として、膨張黒鉛を用い、膨張黒鉛の嵩密度を調整することで、最適な圧縮歪を調整することが開示されている。
【0007】
また、特許文献3、4には、端部シール部材とセパレータとの間に接着剤を塗布して端部シール部材とセパレータとを接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−263004号公報
【特許文献2】特開2001−23654号公報
【特許文献3】特開昭62−223974号公報
【特許文献4】特開平4−282565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、ガス流路付の多孔質基材に、電極を収容する凹部を形成する必要があったので、加工に手間がかかり、材料コストがかさむ問題があった。更には、端部シール部材の圧縮率を一定にするには、各構成材料の厚さの精度に加え、凹部の厚み方向の寸法を精度よく加工する必要があったので、より高い加工精度が要求される。
【0010】
また、特許文献2では、燃料電池の端部シール部材として弾性のある膨張黒鉛を用い、締付け圧力で膨張黒鉛を押し潰してシールを行っているが、十分なシール性を確保するには燃料電極、酸化剤電極およびガス流路付の基材などの構成部材厚みの寸法精度差を吸収するために最適な圧縮歪が必要になる。ここでは膨張黒鉛の嵩密度を規定しているが、膨張黒鉛を均一な嵩密度で制御し、且つ、シールとなる燃料電極側と酸化剤電極側のエッジ界面を均等な圧縮率ですき間なく長時間保持するのは、極めて困難であった。
【0011】
また、特許文献3,4に開示された方法では、端部シール部材とセパレータとの間の気密性は高められるものの、端部シール部材間のシール性は向上できなかった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、電池単セルの各構成部材の寸法精度誤差を吸収して十分なシール性能が確保できる燃料電池のシール方法、燃料電池のシール構造、及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するにあたって、本発明の第1は、複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする方法において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材を配置し、この端部シール部材どうしを、弾性シートを介して接合することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2は、複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする構造において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第3は、電解質層と、該電解質層の両外面に配設された電極層と、各電極層の両外面に配設されたガス流路を有する多孔質基材とで構成された電池単セルを、セパレータを介して複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの多孔質基材の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第4は、電解質層と、該電解質層の両面に配置された電極層と、各電極層の両外面に配置されたガス流路を有するセパレータとで構成された電池単セルを複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの電極層の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、樹脂フィルムはその表面が平滑であるため、セパレータとの密着性が良い。このため、隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材を配置することで、端部シール部材の圧縮率が小さくても、端部シール部材が、セパレータに対しほぼ隙間なく密着して張り付くので、良好なシール性が得られる。そして、端部シール部材どうしの間に、弾性シートを配置することで、端部シール部材の圧縮率を大きくしても、締め付け荷重が弾性シートによって吸収されるので、端部の挫屈や偏った応力集中等の不具合を抑制できる。その結果、電池単セルの各構成部材の寸法精度誤差を吸収して十分なシール性能が確保できる。
【0018】
本発明は、上記第1〜第4において、前記樹脂フィルムとして、フッ素樹脂系フィルムを用いることが好ましい。
【0019】
本発明は、上記第1〜第4において、前記弾性シートとして、フッ素樹脂系多孔質シートを用いることが好ましい。
【0020】
上記各態様によれば、シール部における耐熱性、耐食性などの耐久性をより向上できるので、長期にわたって良好なシール状態を確保できる。
【0021】
本発明は、上記第1〜第4において、前記セパレータと前記樹脂フィルムとを、フッ素樹脂系接着層を介して接合することが好ましい。この態様によれば、セパレータと樹脂フィルムとの密着性が向上し、セパレータと樹脂フィルムとの間からのガスリークを防止して、シール性能がより向上する。
【0022】
本発明は、上記第1〜第4において、端部シール部材本体として膨張黒鉛シートを用いることが好ましい。膨張黒鉛シートは柔軟性があり、ガス不透過性、耐食性に優れるので、シール性能をより向上できる。
【0023】
本発明は、上記第1〜第4において、前記端部シール部材本体として、角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されているもの、もしくは、辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されているものを用いることが好ましい。この態様によれば、端部シール部材本体を被覆する樹脂フィルムが熱収縮したり、端部シール部材本体が熱膨張しても、該樹脂フィルムに応力集中が発生し難くなるので、樹脂フィルムの損傷を抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電池単セルの各構成部材の寸法精度誤差を吸収して十分なシール性能が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態における、燃料電池の基本単位となる電池単セルの分解断面図である。
【図2】同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図である。
【図3】同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【図4】端部シール部材本体の概略図である。
【図5】本発明の第2の実施形態における、燃料電池の基本単位となる電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態における、燃料電池の基本単位となる電池単セルの分解断面図である。
【図7】同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図である。
【図8】同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【図9】実施例2の燃料電池を構成する電池単セルの端部シール部材とセパレータとの接合界面の状態を記す断面写真である。
【図10】従来のりん酸形燃料電池の基本単位となる電池単セルの一般的な構成を示す斜視図である。
【図11】同燃料電池の基本単位となる電池単セルの分解断面図である。
【図12】同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図である。
【図13】同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の燃料電池の第1の実施形態について、図1〜3を用いて説明する。図1は、燃料電池の基本単位となる電池単セル20の分解断面図であり、図2は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図であり、図3は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0027】
図1〜3に示すように、この電池単セル20は、電解質層21を、燃料電極22と、酸化剤電極23とで挟持し、それぞれの電極の外面に、燃料ガス流路付の多孔質基材24aと酸化剤ガス流路付の多孔質基材24bとを配して構成される。また、それぞれの多孔質基材24a,24bの外周には、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30が配置されている。また、各端部シール部材30の上面には、弾性シート33が配置されている。また、各弾性シート33の間には、額縁状に切り抜かれたフレームシート35が配置されている。
【0028】
この電池単セル20は、セパレータ25を介して複数積層され、電池単セル積層体の両端を冷却板で閉じて、最終的に締め付けられて燃料電池が形成される。この電池単セル20の端部は、図3に示すように、電池単セル積層体の締め付け時の締め付け圧によって、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされてシールされる。
【0029】
上記端部シール部材30は、例えば、端部シール部材本体31の周囲に、チューブ状の樹脂フィルム32を装着させ、樹脂チューブの熱収縮温度(例えば、フッ素系樹脂フィルムの場合は約300℃)で加熱することで製造できる。
【0030】
端部シール部材本体31は、柔軟性、ガス不透過性、耐食性に優れた材質が好ましく用いられ、膨張黒鉛シートが特に好ましく用いられる。
【0031】
また、端部シール部材本体31は、図4(a)〜(e)に示す形状をなすものが好ましく用いられる。図4(a)は、角形状に成形された端部シール部材本体である。図4(b)は、図4(a)に示す端部シール部材本体の角部31aを三角形状に面取り加工した端部シール部材本体である。図4(c)は、図4(a)に示す端部シール部材本体の辺部31bを面取り加工した端部シール部材本体である。図4(d)は、図4(a)に示す端部シール部材本体の角部31a及び辺部31bを面取り加工した端部シール部材本体である。図4(e)は、辺部の四辺を円弧状に成形した端部シール部材本体である。なかでも、図4(b)〜(e)に示す形状をなす端部シール部材本体が好ましい。角部や辺部が面取り加工されていたり、辺部が円弧状に形成されている端部シール部材本体は、樹脂フィルムが熱収縮したり、端部シール部材本体31が熱膨張しても、端部シール部材本体を覆う樹脂フィルムに応力集中が発生し難くなる。このため、端部シール部材30の樹脂フィルム32の損傷を効果的に抑制でき、電極間の短絡の発生を効果的に抑制できる。
【0032】
角部を面取り加工する場合(図4(b)、(d))は、一辺が0.1〜0.5mmの三角形状に面取り加工することが好ましい。一辺の長さが0.1mm未満であると、応力集中の回避の効果が乏しい。また、0.5mmを超えると、樹脂フィルム32と端部シール部材本体31とを一体化させにくくなる。
【0033】
辺部を面取り加工する場合(図4(c)、(d))は、辺の短手方向に0.1〜0.5mm面取り加工することが好ましい。0.1mm以下では応力集中の回避の効果が乏しい。また、0.5mmを超えると、端部シール部材本体の側部に突起を形成させてしまう可能性があり、熱収縮の際、応力集中を招く恐れがある。
【0034】
辺部を円弧状に形成する場合(図4(e))は、オーバル型の円弧状に成形することが好ましい。この場合、円弧の半径は、端部シール部材本体の厚みの1/2相当となる。
【0035】
端部シール部材本体31の平均かさ密度は、0.5〜1.7g/ccが好ましく、0.8〜1.5g/ccがより好ましい。平均かさ密度が0.5g/cc未満であると、端部シール部材本体のガス透過量が増大する傾向があり、シール性が充分得られない傾向にあり、1.7g/ccを超えると、端部シール部材本体の柔軟性が低下し、締め付け時に圧縮し難くなる傾向にある。
【0036】
端部シール部材本体31の厚みは、1.0〜2.0mmが好ましく、1.4〜1.8mmがより好ましい。厚みが1.0mm未満であると、電極層と外周の厚みの違いで生じるすき間が小さくなり、弾性シートの圧縮が不足する傾向にあり、厚みが2.0mmを超えると、逆に電極層と外周の厚みの違いで生じる隙間が大きくなり、締付けたときに弾性シートが圧縮しきっても電極層に隙間が残ってしまい、さらに締付けると端部シール部材本体を座屈させてしまうことがある。
【0037】
端部シール部材30に用いる樹脂フィルム32としては、特に限定はなく、耐熱性と耐食性を兼ね備えた材質からなるものが好ましく用いられる。特に耐熱性、耐食性に優れるという理由から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂フィルムが特に好ましく用いられる。
【0038】
樹脂フィルム32の厚みは、20〜100μmが好ましく、40〜80μmがより好ましい。厚みが20μm未満であると、強度不足となる傾向にあり、100μmを超えると、剛性が高くなりすぎて端部シール部材本体の形状に沿わないことがある。また、樹脂フィルム32の表面粗度Raは、0.01〜2μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。表面粗度Raが0.01μm未満を実現しようとすると、樹脂フィルム32の厚みが大きくなる傾向にあり、材料コスト的にもかさむ傾向にある。また、2μmを超えると、平滑性がなくなり、低圧縮率となった場合、界面のすき間からガス漏れが生じ易くなる傾向にある。
【0039】
端部シール部材30の上面に配置される弾性シート33としては、特に限定はなく、フッ素系多孔質シート、発泡ウレタンシート、シリコーンゴム等が挙げられる。特に耐熱性、耐食性に優れるという理由から、フッ素系多孔質シートが特に好ましく用いられる。
【0040】
弾性シート33の圧縮弾性率は、電池単セル積層体の締め付け圧に応じて異なるので特に限定はしないが、例えば、締め付け圧が0.2〜0.5MPaの場合、弾性シート33の圧縮弾性率は、0.3〜1MPaが好ましく、0.5〜0.8MPaがより好ましい。
【0041】
弾性シート33の厚みは、0.2〜1.0mmが好ましく、0.3〜0.8mmがより好ましい。厚みが0.2mm未満であると、シール性能が不足する傾向にあり、厚みが1.0mmを超えると、材料費が増加して高コストとなる傾向にある。
【0042】
次に、本発明の燃料電池のシール方法について説明する。
【0043】
図2に示すように、隣接するセパレータ25,25のそれぞれの内面であって、電池単セル20の外周に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置する。そして、それぞれの端部シール部材30,30の上面に弾性シート33を配置し、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35を配置する。そして、セパレータ25,25の外側から締め付け荷重をかけ、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35を圧縮する。これによって、図3に示すように、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされて端部エッジ部分がシールされる。
【0044】
圧縮率は、特に限定はないが、10〜80%が好ましく、30〜60%がより好ましい。上記圧縮率であれば、高いシール性が得られ、更には、端部の強度低下が生じにくい。なお、この実施形態において、圧縮率は、以下の式(1)で算出した値である。
【0045】
【数1】
【0046】
本発明の燃料電池のシール方法によれば、樹脂フィルム32はその表面が平滑であるため、セパレータ25との密着性が良い。このため、隣接するセパレータ25,25のそれぞれの内面に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置することで、圧縮率が小さくても、端部シール部材が、セパレータに対しほぼ隙間なく密着して張り付くので、良好なシール性が得られる。そして、端部シール部材の上面に、弾性シート33を配置することで、端部シール部材30の圧縮率を大きくしても、荷重が弾性シート33によって吸収される。このため、電池単セルの端部の挫屈や偏った応力集中等の不具合を効果的に抑制でき、電池単セルの構成材料の寸法にバラつきが生じても、良好なシール性が得られる。
【0047】
本発明の燃料電池の第2の実施形態について、図5を用いて説明する。図5は、燃料電池の基本単位となる電池単セル20の端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0048】
この実施形態では、端部シール部材30とセパレータ25とが、フッ素樹脂系接着層50を介して接合している点が、上記第1の実施形態と相違する。
【0049】
端部シール部材30とセパレータ25とをフッ素樹脂系接着層50を介して接合するには、電池単セルを組み立てる際に、セパレータ25と、端部シール部材30との接合面に、シート型のフッ素樹脂を配置する、あるいは、塗布型のフッ素樹脂を塗布し、セパレータ25と端部シール部材30とを接合する。
【0050】
フッ素樹脂系接着層50を構成するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が挙げられる。なかでも、軟化温度が低いという理由からFEPが好ましい。
【0051】
上記フッ素樹脂の軟化温度は、200〜250℃が好ましく、210〜240℃がより好ましい。軟化温度が200℃以下であると、燃料電池の運転温度においては、フッ素樹脂系接着層50が部分的に硬くなってしまい、セパレータ25と端部シール部材30との接着性にムラが生じる。また、軟化温度が250℃を超えるものは素材そのものに制限がかかり現実的ではない。
【0052】
セパレータ25と、端部シール部材30とを接合する際の接合条件は、接合温度が燃料電池の運転温度以上が好ましく、200〜240℃がより好ましい。また、接合圧力は、端部シール部材30を座屈させない圧力以下で行うことが好ましく、0.5〜3.0MPaがより好ましい。接合圧力が0.5MPa未満であると、セパレータ25と端部シール部材30との密着性が十分でないことがある。接合圧力が3.0MPaを超えると、端部シール部材30が破壊される恐れがある。
【0053】
これにより、セパレータ25と端部シール部材30とが、フッ素樹脂系接着層50を介して接合される。そして、上記第1の実施形態と同じように、それぞれの端部シール部材30,30の上面に弾性シート33を配置し、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35を配置し、セパレータ25,25の外側から締め付け荷重をかけ、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35を圧縮することにより、図5に示されるように、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされて端部エッジ部分がシールされる。
【0054】
この実施形態では、セパレータ25と端部シール部材30とが、フッ素樹脂系接着層50を介して接合しているので、セパレータ25と端部シール部材30との密着性が高い。このため、セパレータ25と端部シール部材30との間からのガスリークが抑制され、より優れたシール性能が得られる。
【0055】
本発明の燃料電池の第3の実施形態について、図6〜8を用いて説明する。図6は、燃料電池の基本単位となる電池単セル40の分解断面図であり、図7は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図であり、図8は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0056】
図8に示すように、この電池単セル40は、電解質層41を、燃料電極42と、酸化剤電極43とで挟持し、それぞれの電極の外面に、酸化剤ガス流路付の多孔質基材からなるセパレータ44aと燃料ガス流路付の多孔質基材からなるセパレータ44bとを配して構成される。また、それぞれの電極42、43の外周には、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30が配置されている。また、各端部シール部材30の上面には、弾性シート33が配置されている。また、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35が配置されている。
【0057】
この実施形態では、図7に示すように、隣接するセパレータ44a,44bのそれぞれの内面であって、各電極42,43の外周に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置し、それぞれの端部シール部材30,30の上面に弾性シート33を配置し、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35を配置したのち、セパレータ44a,44bの外側から締め付け荷重をかけ、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35を圧縮する。これによって、図8に示すように、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされて端部エッジ部分がシールされる。
【0058】
圧縮率は、特に限定はないが、10〜80%が好ましく、30〜70%がより好ましい。上記圧縮率であれば、高いシール性が得られ、更には、端部の強度低下が生じにくい。なお、この実施形態において、圧縮率は、以下の式(2)で算出した値である。
【0059】
【数2】
【0060】
この実施形態の燃料電池においても、上記第1の実施形態同様、隣接するセパレータ44a,44bのそれぞれの内面に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30が配置されているので、圧縮率が小さくても、端部シール部材が、各多孔質基材に対しほぼ隙間なく密着して張り付き、良好なシール性が得られる。そして、端部シール部材の上面に、弾性シート33が配置されているので、端部シール部材30の圧縮率を大きくしても、荷重が弾性シート33によって吸収される。このため、電池単セルの端部の挫屈や偏った応力集中等の不具合を効果的に抑制でき、電池単セルの構成材料の寸法にバラつきが生じても、良好なシール性が得られる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例、比較例を用いて本発明の作用効果を説明する。なお、以下の実施例及び比較例で用いたガス流路付き多孔質基材、電解質層、燃料電極、酸化剤電極、端部シール部材(PFAフィルム被覆膨張黒鉛シート)、弾性シート(PTFE多孔質シート)は、表1に示すような標準偏差を持つものを用いた。
【0062】
【表1】
【0063】
[試験例1]
(実施例1)
図4(a)に示す角形状の膨張黒鉛シート(商品名「ニカフィルムFL−400」、日本カーボン(株)製、厚さ1.6mm、かさ密度1.2g/cm3)を、熱収縮性のあるチューブ状フッ素系フィルム(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、商品名「SMT」、グンゼ(株)製、厚さ=50μm、表面粗さRa=0.05μm)に挿入し、260℃、2時間で熱収縮させて端部シール部材を得た。この端部シール部材は、膨張黒鉛の周囲にPFAチューブがしっかりと密着していた。
次に、電解質層21を、燃料電極22及び酸化剤電極で挟持し、各電極の外側にガス流路付き多孔質基材を配置した。そして、隣接するセパレータの内面であって、それぞれの多孔質基材の外周に、上記端部シール部材を配置した。そして、PTFE多孔質シート(商品名「SM−860」、ゴアテックス(株)製、厚み=0.5mm、かさ密度=0.3265g/cm3、圧縮弾性率=0.6MPa)を端部シール部材上に配置し、締め付け圧0.3MPaで締め付け、圧縮率5〜80%で端部をシールし、図3に示す断面形状をなす電池単セルを製作し、燃料電池を得た。
【0064】
(比較例1)
実施例1において、端部シール部材として、膨張黒鉛シート(日本カーボン(株)製、型式:「ニカフィルムFL−400」、厚さ1.6mm、かさ密度1.2g/cm3)を用い、端部シール部材上にPTFE多孔質シートを配置しなかった以外は実施例1と同様にして圧縮率5〜80%で端部をシールし、燃料電池を得た。
【0065】
(比較例2)
実施例1において、端部シール部材(PFAフィルム被覆膨張黒鉛シート)上にPTFE多孔質シートを配置しなかった以外は実施例1と同様にして圧縮率5〜80%で端部をシールし、燃料電池を得た。
【0066】
(比較例3)
実施例1において、端部シール部材として、膨張黒鉛シートを用いた以外は実施例1と同様にして圧縮率5〜80%で端部をシールし、燃料電池を得た。
【0067】
実施例1、2及び比較例1〜3の燃料電池のガス漏れ量(単位:ml/min)を測定した。ガス漏れ量は、100mmAq差圧下で、窒素ガスにて行った。結果を表2に示す。また、表3に、実施例1,2及び比較例1〜3の燃料電池の端部シール構造の構成素材を記す。また、図9に実施例2の燃料電池を構成する電池単セルの端部シール部材とセパレータとの接合界面の状態を記す断面写真を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
上記結果より、実施例1,2の燃料電池は、構成材料の寸法がばらつきにより変化した場合であっても、圧縮率5〜80%という広範囲で高いシール性を保持でき、特に圧縮率が10%以上であれば、ガス漏れ量が50ml/min以下であり、十分なシール性が得られた。なかでも、端部シール部材とセパレータと、フッ素樹脂接着層を介して接合した、実施例2の燃料電池は、特に優れたシール特性を保持できた。
これに対し、PTFE多孔質シート(弾性シート)を使用していない比較例1,2は、圧縮率を上げると、端部の強度低下が起こり、挫屈等が生じた。また、樹脂フィルムで被覆していない膨張黒鉛シートを使用した比較例1,3は、シール性が悪く、特に圧縮率が低い場合でのシール性が悪かった。
【0071】
(実施例2)
実施例1において、端部シール部材とセパレータとの界面に、フッ素樹脂シート(商品名「FEPシート」、淀川ヒューテック(株)製、軟化温度200〜300℃、厚さ25μm)を設置し、300℃、2.0MPaの条件で20分間にて、端部シール部材とセパレータとを接合した以外は、実施例1と同様に行い、図5に示す断面形状をなす電池単セルを製作し、燃料電池を得た。
この電池単セルのセパレータとフッ素樹脂系接着層との接着強度は0.2N/mmであり、端部シール部材とフッ素樹脂系接着層は0.1N/mmであり、十分な接着強度を有していた。なお、接着強度は、引張り試験機(AG−50kNX、島津製作所)を用い、25℃にて180°ピール強度の条件で測定した値である。
【0072】
(実施例3)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、角部31aを一辺0.5mmの三角形状に面取り加工をした、図4(b)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0073】
(実施例4)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、辺部31bを短手方向に0.5mm面取り加工をした、図4(c)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0074】
(実施例5)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、角部31aを一辺0.5mmの三角形状に面取り加工をし、辺部31bを短手方向に0.5mmの面取り加工をした、図4(d)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0075】
(実施例6)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、辺部16aが半径寸法R=0.8mmにRを形成した、図4(e)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0076】
実施例1,3〜6の燃料電池に用いた端部エッチ部材の、膨張黒鉛シートの角部31a、辺部31b、面部31cに接する部分の樹脂フィルムの190℃における破断強度を調べた。結果を表4に記す。
なお、破断強度は、引張り試験機(型式「AG−50KNX」、島津製作所)を用い、25℃、引張り速度100mm/minの条件で測定した。
【0077】
【表4】
【0078】
上記結果より、角部や辺部が面取り加工されていたり、辺部が円弧状に形成されている黒鉛膨張シートを用いた実施例3〜6は、角部31a、辺部31bにおける破断強度が高かった。また、樹脂フィルムの破損による電極間の短絡の有無を評価したところ、実施例1,3〜6の燃料電池は、いずれも6.5万時間までは、短絡は生じなかった。なかでも、実施例5の燃料電池は、13万時間を超えても短絡は生じなかった。
【符号の説明】
【0079】
10,20,40:電池単セル
11,21,41:電解質層
12,22,42:燃料電極
13,23,43:酸化剤電極
14a,24a:燃料ガス流路付多孔質基材
14b,24b:酸化剤ガス流路付多孔質基材
15,25:セパレータ
16:端部シール部材
17,35:フレームシート
30:端部シール部材
31:端部シール部材本体
32:樹脂フィルム
33:弾性シート
44a,44b:ガス流路付きセパレータ
50:フッ素樹脂系接着層
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、更に詳しくは、燃料電池の端部シール方法及びシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、りん酸形燃料電池の基本単位となる電池単セルの一般的な構成を示す斜視図であり、図11は、同電池単セルの分解断面図であり、図12は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図であり、図13は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0003】
図10〜13に見られるように、りん酸形燃料電池の電池単セル10は、電解質層11を、燃料電極12と、酸化剤電極13とで挟持し、その外面に燃料ガス流路付多孔質基材14aと酸化剤ガス流路付多孔質基材14bとをそれぞれ配して構成される。そして、このようにして構成される電池単セル10を、ガス不透過性の良導電性材料よりなるセパレータ15で遮蔽し、電池単セル10とセパレータ15を所望の電圧となるように所定数を積層し、両端を冷却板で閉じて、最終的に締め付けられてりん酸形燃料電池が形成される。また、電池単セル10の端部から反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)が漏洩すると、開回路電圧の低下につながり、ガス利用率の低下、安全性の低下などの不具合につながることから、それぞれの多孔質基材の外周に端部シール部材16を配置し、積層構造体を締め付ける際に、図13に示すように、端部シール部材16を押し潰してシール性を保持している。なお、図中の17は、フレームシートであって、額縁状のプラスティックシートである。端部シール部材16の端部エッジのコーナー部では2枚のシールが重なり段差が発生するので、見かけ上、平坦な1枚のシートにするため、フレームシート17が配置される。
【0004】
電池単セル10の積層構造体を締め付ける際における端部シール部材16の潰れ率(=圧縮率)は、電池単セル10の各構成材料の厚みで決まる。電池単セル10の各構成材料の厚みは規定されているが、加工精度によってバラつきが生じることがある。このため、構成部材の加工精度による厚み寸法のバラつきによって、端部シール部材16の圧縮率が変化する。端部シール部材16の圧縮率が小さいと、電池単セル10のエッジ界面からのガス漏れが懸念される。また、端部シール部材16の圧縮率が大きいと、電池単セル10の端部エッジが挫屈したり、偏った圧力集中などの不具合が懸念される。
【0005】
例えば、特許文献1には、電解質膜を介在させた空気電極と燃料電極とをガス供給溝を有するセパレータによりガスケットを介装して挟持された電池単セルが積み重ねられている燃料電池において、セパレータに電極を収容する凹部を設けることで、ガスケットの十分な圧縮後に電極が圧縮されるようになって、電極層の圧縮し過ぎによるガス拡散能の低下を防止する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、燃料電池の端部シール部材として、膨張黒鉛を用い、膨張黒鉛の嵩密度を調整することで、最適な圧縮歪を調整することが開示されている。
【0007】
また、特許文献3、4には、端部シール部材とセパレータとの間に接着剤を塗布して端部シール部材とセパレータとを接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−263004号公報
【特許文献2】特開2001−23654号公報
【特許文献3】特開昭62−223974号公報
【特許文献4】特開平4−282565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、ガス流路付の多孔質基材に、電極を収容する凹部を形成する必要があったので、加工に手間がかかり、材料コストがかさむ問題があった。更には、端部シール部材の圧縮率を一定にするには、各構成材料の厚さの精度に加え、凹部の厚み方向の寸法を精度よく加工する必要があったので、より高い加工精度が要求される。
【0010】
また、特許文献2では、燃料電池の端部シール部材として弾性のある膨張黒鉛を用い、締付け圧力で膨張黒鉛を押し潰してシールを行っているが、十分なシール性を確保するには燃料電極、酸化剤電極およびガス流路付の基材などの構成部材厚みの寸法精度差を吸収するために最適な圧縮歪が必要になる。ここでは膨張黒鉛の嵩密度を規定しているが、膨張黒鉛を均一な嵩密度で制御し、且つ、シールとなる燃料電極側と酸化剤電極側のエッジ界面を均等な圧縮率ですき間なく長時間保持するのは、極めて困難であった。
【0011】
また、特許文献3,4に開示された方法では、端部シール部材とセパレータとの間の気密性は高められるものの、端部シール部材間のシール性は向上できなかった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、電池単セルの各構成部材の寸法精度誤差を吸収して十分なシール性能が確保できる燃料電池のシール方法、燃料電池のシール構造、及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するにあたって、本発明の第1は、複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする方法において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材を配置し、この端部シール部材どうしを、弾性シートを介して接合することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2は、複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする構造において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第3は、電解質層と、該電解質層の両外面に配設された電極層と、各電極層の両外面に配設されたガス流路を有する多孔質基材とで構成された電池単セルを、セパレータを介して複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの多孔質基材の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第4は、電解質層と、該電解質層の両面に配置された電極層と、各電極層の両外面に配置されたガス流路を有するセパレータとで構成された電池単セルを複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの電極層の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、樹脂フィルムはその表面が平滑であるため、セパレータとの密着性が良い。このため、隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材を配置することで、端部シール部材の圧縮率が小さくても、端部シール部材が、セパレータに対しほぼ隙間なく密着して張り付くので、良好なシール性が得られる。そして、端部シール部材どうしの間に、弾性シートを配置することで、端部シール部材の圧縮率を大きくしても、締め付け荷重が弾性シートによって吸収されるので、端部の挫屈や偏った応力集中等の不具合を抑制できる。その結果、電池単セルの各構成部材の寸法精度誤差を吸収して十分なシール性能が確保できる。
【0018】
本発明は、上記第1〜第4において、前記樹脂フィルムとして、フッ素樹脂系フィルムを用いることが好ましい。
【0019】
本発明は、上記第1〜第4において、前記弾性シートとして、フッ素樹脂系多孔質シートを用いることが好ましい。
【0020】
上記各態様によれば、シール部における耐熱性、耐食性などの耐久性をより向上できるので、長期にわたって良好なシール状態を確保できる。
【0021】
本発明は、上記第1〜第4において、前記セパレータと前記樹脂フィルムとを、フッ素樹脂系接着層を介して接合することが好ましい。この態様によれば、セパレータと樹脂フィルムとの密着性が向上し、セパレータと樹脂フィルムとの間からのガスリークを防止して、シール性能がより向上する。
【0022】
本発明は、上記第1〜第4において、端部シール部材本体として膨張黒鉛シートを用いることが好ましい。膨張黒鉛シートは柔軟性があり、ガス不透過性、耐食性に優れるので、シール性能をより向上できる。
【0023】
本発明は、上記第1〜第4において、前記端部シール部材本体として、角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されているもの、もしくは、辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されているものを用いることが好ましい。この態様によれば、端部シール部材本体を被覆する樹脂フィルムが熱収縮したり、端部シール部材本体が熱膨張しても、該樹脂フィルムに応力集中が発生し難くなるので、樹脂フィルムの損傷を抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電池単セルの各構成部材の寸法精度誤差を吸収して十分なシール性能が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態における、燃料電池の基本単位となる電池単セルの分解断面図である。
【図2】同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図である。
【図3】同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【図4】端部シール部材本体の概略図である。
【図5】本発明の第2の実施形態における、燃料電池の基本単位となる電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態における、燃料電池の基本単位となる電池単セルの分解断面図である。
【図7】同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図である。
【図8】同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【図9】実施例2の燃料電池を構成する電池単セルの端部シール部材とセパレータとの接合界面の状態を記す断面写真である。
【図10】従来のりん酸形燃料電池の基本単位となる電池単セルの一般的な構成を示す斜視図である。
【図11】同燃料電池の基本単位となる電池単セルの分解断面図である。
【図12】同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図である。
【図13】同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の燃料電池の第1の実施形態について、図1〜3を用いて説明する。図1は、燃料電池の基本単位となる電池単セル20の分解断面図であり、図2は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図であり、図3は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0027】
図1〜3に示すように、この電池単セル20は、電解質層21を、燃料電極22と、酸化剤電極23とで挟持し、それぞれの電極の外面に、燃料ガス流路付の多孔質基材24aと酸化剤ガス流路付の多孔質基材24bとを配して構成される。また、それぞれの多孔質基材24a,24bの外周には、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30が配置されている。また、各端部シール部材30の上面には、弾性シート33が配置されている。また、各弾性シート33の間には、額縁状に切り抜かれたフレームシート35が配置されている。
【0028】
この電池単セル20は、セパレータ25を介して複数積層され、電池単セル積層体の両端を冷却板で閉じて、最終的に締め付けられて燃料電池が形成される。この電池単セル20の端部は、図3に示すように、電池単セル積層体の締め付け時の締め付け圧によって、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされてシールされる。
【0029】
上記端部シール部材30は、例えば、端部シール部材本体31の周囲に、チューブ状の樹脂フィルム32を装着させ、樹脂チューブの熱収縮温度(例えば、フッ素系樹脂フィルムの場合は約300℃)で加熱することで製造できる。
【0030】
端部シール部材本体31は、柔軟性、ガス不透過性、耐食性に優れた材質が好ましく用いられ、膨張黒鉛シートが特に好ましく用いられる。
【0031】
また、端部シール部材本体31は、図4(a)〜(e)に示す形状をなすものが好ましく用いられる。図4(a)は、角形状に成形された端部シール部材本体である。図4(b)は、図4(a)に示す端部シール部材本体の角部31aを三角形状に面取り加工した端部シール部材本体である。図4(c)は、図4(a)に示す端部シール部材本体の辺部31bを面取り加工した端部シール部材本体である。図4(d)は、図4(a)に示す端部シール部材本体の角部31a及び辺部31bを面取り加工した端部シール部材本体である。図4(e)は、辺部の四辺を円弧状に成形した端部シール部材本体である。なかでも、図4(b)〜(e)に示す形状をなす端部シール部材本体が好ましい。角部や辺部が面取り加工されていたり、辺部が円弧状に形成されている端部シール部材本体は、樹脂フィルムが熱収縮したり、端部シール部材本体31が熱膨張しても、端部シール部材本体を覆う樹脂フィルムに応力集中が発生し難くなる。このため、端部シール部材30の樹脂フィルム32の損傷を効果的に抑制でき、電極間の短絡の発生を効果的に抑制できる。
【0032】
角部を面取り加工する場合(図4(b)、(d))は、一辺が0.1〜0.5mmの三角形状に面取り加工することが好ましい。一辺の長さが0.1mm未満であると、応力集中の回避の効果が乏しい。また、0.5mmを超えると、樹脂フィルム32と端部シール部材本体31とを一体化させにくくなる。
【0033】
辺部を面取り加工する場合(図4(c)、(d))は、辺の短手方向に0.1〜0.5mm面取り加工することが好ましい。0.1mm以下では応力集中の回避の効果が乏しい。また、0.5mmを超えると、端部シール部材本体の側部に突起を形成させてしまう可能性があり、熱収縮の際、応力集中を招く恐れがある。
【0034】
辺部を円弧状に形成する場合(図4(e))は、オーバル型の円弧状に成形することが好ましい。この場合、円弧の半径は、端部シール部材本体の厚みの1/2相当となる。
【0035】
端部シール部材本体31の平均かさ密度は、0.5〜1.7g/ccが好ましく、0.8〜1.5g/ccがより好ましい。平均かさ密度が0.5g/cc未満であると、端部シール部材本体のガス透過量が増大する傾向があり、シール性が充分得られない傾向にあり、1.7g/ccを超えると、端部シール部材本体の柔軟性が低下し、締め付け時に圧縮し難くなる傾向にある。
【0036】
端部シール部材本体31の厚みは、1.0〜2.0mmが好ましく、1.4〜1.8mmがより好ましい。厚みが1.0mm未満であると、電極層と外周の厚みの違いで生じるすき間が小さくなり、弾性シートの圧縮が不足する傾向にあり、厚みが2.0mmを超えると、逆に電極層と外周の厚みの違いで生じる隙間が大きくなり、締付けたときに弾性シートが圧縮しきっても電極層に隙間が残ってしまい、さらに締付けると端部シール部材本体を座屈させてしまうことがある。
【0037】
端部シール部材30に用いる樹脂フィルム32としては、特に限定はなく、耐熱性と耐食性を兼ね備えた材質からなるものが好ましく用いられる。特に耐熱性、耐食性に優れるという理由から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂フィルムが特に好ましく用いられる。
【0038】
樹脂フィルム32の厚みは、20〜100μmが好ましく、40〜80μmがより好ましい。厚みが20μm未満であると、強度不足となる傾向にあり、100μmを超えると、剛性が高くなりすぎて端部シール部材本体の形状に沿わないことがある。また、樹脂フィルム32の表面粗度Raは、0.01〜2μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。表面粗度Raが0.01μm未満を実現しようとすると、樹脂フィルム32の厚みが大きくなる傾向にあり、材料コスト的にもかさむ傾向にある。また、2μmを超えると、平滑性がなくなり、低圧縮率となった場合、界面のすき間からガス漏れが生じ易くなる傾向にある。
【0039】
端部シール部材30の上面に配置される弾性シート33としては、特に限定はなく、フッ素系多孔質シート、発泡ウレタンシート、シリコーンゴム等が挙げられる。特に耐熱性、耐食性に優れるという理由から、フッ素系多孔質シートが特に好ましく用いられる。
【0040】
弾性シート33の圧縮弾性率は、電池単セル積層体の締め付け圧に応じて異なるので特に限定はしないが、例えば、締め付け圧が0.2〜0.5MPaの場合、弾性シート33の圧縮弾性率は、0.3〜1MPaが好ましく、0.5〜0.8MPaがより好ましい。
【0041】
弾性シート33の厚みは、0.2〜1.0mmが好ましく、0.3〜0.8mmがより好ましい。厚みが0.2mm未満であると、シール性能が不足する傾向にあり、厚みが1.0mmを超えると、材料費が増加して高コストとなる傾向にある。
【0042】
次に、本発明の燃料電池のシール方法について説明する。
【0043】
図2に示すように、隣接するセパレータ25,25のそれぞれの内面であって、電池単セル20の外周に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置する。そして、それぞれの端部シール部材30,30の上面に弾性シート33を配置し、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35を配置する。そして、セパレータ25,25の外側から締め付け荷重をかけ、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35を圧縮する。これによって、図3に示すように、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされて端部エッジ部分がシールされる。
【0044】
圧縮率は、特に限定はないが、10〜80%が好ましく、30〜60%がより好ましい。上記圧縮率であれば、高いシール性が得られ、更には、端部の強度低下が生じにくい。なお、この実施形態において、圧縮率は、以下の式(1)で算出した値である。
【0045】
【数1】
【0046】
本発明の燃料電池のシール方法によれば、樹脂フィルム32はその表面が平滑であるため、セパレータ25との密着性が良い。このため、隣接するセパレータ25,25のそれぞれの内面に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置することで、圧縮率が小さくても、端部シール部材が、セパレータに対しほぼ隙間なく密着して張り付くので、良好なシール性が得られる。そして、端部シール部材の上面に、弾性シート33を配置することで、端部シール部材30の圧縮率を大きくしても、荷重が弾性シート33によって吸収される。このため、電池単セルの端部の挫屈や偏った応力集中等の不具合を効果的に抑制でき、電池単セルの構成材料の寸法にバラつきが生じても、良好なシール性が得られる。
【0047】
本発明の燃料電池の第2の実施形態について、図5を用いて説明する。図5は、燃料電池の基本単位となる電池単セル20の端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0048】
この実施形態では、端部シール部材30とセパレータ25とが、フッ素樹脂系接着層50を介して接合している点が、上記第1の実施形態と相違する。
【0049】
端部シール部材30とセパレータ25とをフッ素樹脂系接着層50を介して接合するには、電池単セルを組み立てる際に、セパレータ25と、端部シール部材30との接合面に、シート型のフッ素樹脂を配置する、あるいは、塗布型のフッ素樹脂を塗布し、セパレータ25と端部シール部材30とを接合する。
【0050】
フッ素樹脂系接着層50を構成するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が挙げられる。なかでも、軟化温度が低いという理由からFEPが好ましい。
【0051】
上記フッ素樹脂の軟化温度は、200〜250℃が好ましく、210〜240℃がより好ましい。軟化温度が200℃以下であると、燃料電池の運転温度においては、フッ素樹脂系接着層50が部分的に硬くなってしまい、セパレータ25と端部シール部材30との接着性にムラが生じる。また、軟化温度が250℃を超えるものは素材そのものに制限がかかり現実的ではない。
【0052】
セパレータ25と、端部シール部材30とを接合する際の接合条件は、接合温度が燃料電池の運転温度以上が好ましく、200〜240℃がより好ましい。また、接合圧力は、端部シール部材30を座屈させない圧力以下で行うことが好ましく、0.5〜3.0MPaがより好ましい。接合圧力が0.5MPa未満であると、セパレータ25と端部シール部材30との密着性が十分でないことがある。接合圧力が3.0MPaを超えると、端部シール部材30が破壊される恐れがある。
【0053】
これにより、セパレータ25と端部シール部材30とが、フッ素樹脂系接着層50を介して接合される。そして、上記第1の実施形態と同じように、それぞれの端部シール部材30,30の上面に弾性シート33を配置し、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35を配置し、セパレータ25,25の外側から締め付け荷重をかけ、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35を圧縮することにより、図5に示されるように、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされて端部エッジ部分がシールされる。
【0054】
この実施形態では、セパレータ25と端部シール部材30とが、フッ素樹脂系接着層50を介して接合しているので、セパレータ25と端部シール部材30との密着性が高い。このため、セパレータ25と端部シール部材30との間からのガスリークが抑制され、より優れたシール性能が得られる。
【0055】
本発明の燃料電池の第3の実施形態について、図6〜8を用いて説明する。図6は、燃料電池の基本単位となる電池単セル40の分解断面図であり、図7は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮前の状態の断面図であり、図8は、同電池単セルの端部シール部材の圧縮後の状態の断面図である。
【0056】
図8に示すように、この電池単セル40は、電解質層41を、燃料電極42と、酸化剤電極43とで挟持し、それぞれの電極の外面に、酸化剤ガス流路付の多孔質基材からなるセパレータ44aと燃料ガス流路付の多孔質基材からなるセパレータ44bとを配して構成される。また、それぞれの電極42、43の外周には、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30が配置されている。また、各端部シール部材30の上面には、弾性シート33が配置されている。また、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35が配置されている。
【0057】
この実施形態では、図7に示すように、隣接するセパレータ44a,44bのそれぞれの内面であって、各電極42,43の外周に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30を配置し、それぞれの端部シール部材30,30の上面に弾性シート33を配置し、各弾性シート33の間に、額縁状のフレームシート35を配置したのち、セパレータ44a,44bの外側から締め付け荷重をかけ、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35を圧縮する。これによって、図8に示すように、端部シール部材30、弾性シート33、フレームシート35が押しつぶされて端部エッジ部分がシールされる。
【0058】
圧縮率は、特に限定はないが、10〜80%が好ましく、30〜70%がより好ましい。上記圧縮率であれば、高いシール性が得られ、更には、端部の強度低下が生じにくい。なお、この実施形態において、圧縮率は、以下の式(2)で算出した値である。
【0059】
【数2】
【0060】
この実施形態の燃料電池においても、上記第1の実施形態同様、隣接するセパレータ44a,44bのそれぞれの内面に、端部シール部材本体31を樹脂フィルム32で被覆してなる端部シール部材30が配置されているので、圧縮率が小さくても、端部シール部材が、各多孔質基材に対しほぼ隙間なく密着して張り付き、良好なシール性が得られる。そして、端部シール部材の上面に、弾性シート33が配置されているので、端部シール部材30の圧縮率を大きくしても、荷重が弾性シート33によって吸収される。このため、電池単セルの端部の挫屈や偏った応力集中等の不具合を効果的に抑制でき、電池単セルの構成材料の寸法にバラつきが生じても、良好なシール性が得られる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例、比較例を用いて本発明の作用効果を説明する。なお、以下の実施例及び比較例で用いたガス流路付き多孔質基材、電解質層、燃料電極、酸化剤電極、端部シール部材(PFAフィルム被覆膨張黒鉛シート)、弾性シート(PTFE多孔質シート)は、表1に示すような標準偏差を持つものを用いた。
【0062】
【表1】
【0063】
[試験例1]
(実施例1)
図4(a)に示す角形状の膨張黒鉛シート(商品名「ニカフィルムFL−400」、日本カーボン(株)製、厚さ1.6mm、かさ密度1.2g/cm3)を、熱収縮性のあるチューブ状フッ素系フィルム(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、商品名「SMT」、グンゼ(株)製、厚さ=50μm、表面粗さRa=0.05μm)に挿入し、260℃、2時間で熱収縮させて端部シール部材を得た。この端部シール部材は、膨張黒鉛の周囲にPFAチューブがしっかりと密着していた。
次に、電解質層21を、燃料電極22及び酸化剤電極で挟持し、各電極の外側にガス流路付き多孔質基材を配置した。そして、隣接するセパレータの内面であって、それぞれの多孔質基材の外周に、上記端部シール部材を配置した。そして、PTFE多孔質シート(商品名「SM−860」、ゴアテックス(株)製、厚み=0.5mm、かさ密度=0.3265g/cm3、圧縮弾性率=0.6MPa)を端部シール部材上に配置し、締め付け圧0.3MPaで締め付け、圧縮率5〜80%で端部をシールし、図3に示す断面形状をなす電池単セルを製作し、燃料電池を得た。
【0064】
(比較例1)
実施例1において、端部シール部材として、膨張黒鉛シート(日本カーボン(株)製、型式:「ニカフィルムFL−400」、厚さ1.6mm、かさ密度1.2g/cm3)を用い、端部シール部材上にPTFE多孔質シートを配置しなかった以外は実施例1と同様にして圧縮率5〜80%で端部をシールし、燃料電池を得た。
【0065】
(比較例2)
実施例1において、端部シール部材(PFAフィルム被覆膨張黒鉛シート)上にPTFE多孔質シートを配置しなかった以外は実施例1と同様にして圧縮率5〜80%で端部をシールし、燃料電池を得た。
【0066】
(比較例3)
実施例1において、端部シール部材として、膨張黒鉛シートを用いた以外は実施例1と同様にして圧縮率5〜80%で端部をシールし、燃料電池を得た。
【0067】
実施例1、2及び比較例1〜3の燃料電池のガス漏れ量(単位:ml/min)を測定した。ガス漏れ量は、100mmAq差圧下で、窒素ガスにて行った。結果を表2に示す。また、表3に、実施例1,2及び比較例1〜3の燃料電池の端部シール構造の構成素材を記す。また、図9に実施例2の燃料電池を構成する電池単セルの端部シール部材とセパレータとの接合界面の状態を記す断面写真を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
上記結果より、実施例1,2の燃料電池は、構成材料の寸法がばらつきにより変化した場合であっても、圧縮率5〜80%という広範囲で高いシール性を保持でき、特に圧縮率が10%以上であれば、ガス漏れ量が50ml/min以下であり、十分なシール性が得られた。なかでも、端部シール部材とセパレータと、フッ素樹脂接着層を介して接合した、実施例2の燃料電池は、特に優れたシール特性を保持できた。
これに対し、PTFE多孔質シート(弾性シート)を使用していない比較例1,2は、圧縮率を上げると、端部の強度低下が起こり、挫屈等が生じた。また、樹脂フィルムで被覆していない膨張黒鉛シートを使用した比較例1,3は、シール性が悪く、特に圧縮率が低い場合でのシール性が悪かった。
【0071】
(実施例2)
実施例1において、端部シール部材とセパレータとの界面に、フッ素樹脂シート(商品名「FEPシート」、淀川ヒューテック(株)製、軟化温度200〜300℃、厚さ25μm)を設置し、300℃、2.0MPaの条件で20分間にて、端部シール部材とセパレータとを接合した以外は、実施例1と同様に行い、図5に示す断面形状をなす電池単セルを製作し、燃料電池を得た。
この電池単セルのセパレータとフッ素樹脂系接着層との接着強度は0.2N/mmであり、端部シール部材とフッ素樹脂系接着層は0.1N/mmであり、十分な接着強度を有していた。なお、接着強度は、引張り試験機(AG−50kNX、島津製作所)を用い、25℃にて180°ピール強度の条件で測定した値である。
【0072】
(実施例3)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、角部31aを一辺0.5mmの三角形状に面取り加工をした、図4(b)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0073】
(実施例4)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、辺部31bを短手方向に0.5mm面取り加工をした、図4(c)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0074】
(実施例5)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、角部31aを一辺0.5mmの三角形状に面取り加工をし、辺部31bを短手方向に0.5mmの面取り加工をした、図4(d)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0075】
(実施例6)
実施例1において、膨張黒鉛シートとして、辺部16aが半径寸法R=0.8mmにRを形成した、図4(e)に示す膨張黒鉛シートを用いた以外は、実施例1と同様に行い、燃料電池を得た。
【0076】
実施例1,3〜6の燃料電池に用いた端部エッチ部材の、膨張黒鉛シートの角部31a、辺部31b、面部31cに接する部分の樹脂フィルムの190℃における破断強度を調べた。結果を表4に記す。
なお、破断強度は、引張り試験機(型式「AG−50KNX」、島津製作所)を用い、25℃、引張り速度100mm/minの条件で測定した。
【0077】
【表4】
【0078】
上記結果より、角部や辺部が面取り加工されていたり、辺部が円弧状に形成されている黒鉛膨張シートを用いた実施例3〜6は、角部31a、辺部31bにおける破断強度が高かった。また、樹脂フィルムの破損による電極間の短絡の有無を評価したところ、実施例1,3〜6の燃料電池は、いずれも6.5万時間までは、短絡は生じなかった。なかでも、実施例5の燃料電池は、13万時間を超えても短絡は生じなかった。
【符号の説明】
【0079】
10,20,40:電池単セル
11,21,41:電解質層
12,22,42:燃料電極
13,23,43:酸化剤電極
14a,24a:燃料ガス流路付多孔質基材
14b,24b:酸化剤ガス流路付多孔質基材
15,25:セパレータ
16:端部シール部材
17,35:フレームシート
30:端部シール部材
31:端部シール部材本体
32:樹脂フィルム
33:弾性シート
44a,44b:ガス流路付きセパレータ
50:フッ素樹脂系接着層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする方法において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材を配置し、この端部シール部材どうしを、弾性シートを介して接合することを特徴とする燃料電池のシール方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムとして、フッ素樹脂系フィルムを用いる、請求項1記載の燃料電池のシール方法。
【請求項3】
前記弾性シートとして、フッ素樹脂系多孔質シートを用いる、請求項1又は2記載の燃料電池のシール方法。
【請求項4】
前記セパレータと前記樹脂フィルムとを、フッ素樹脂系接着層を介して接合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項5】
前記端部シール部材本体として、膨張黒鉛シートを用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項6】
前記端部シール部材本体として、角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されているものを用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項7】
前記端部シール部材本体として、辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されているものを用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項8】
複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする構造において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項9】
前記樹脂フィルムがフッ素樹脂系フィルムである、請求項8記載の燃料電池のシール構造。
【請求項10】
前記弾性シートがフッ素樹脂系多孔質シートである、請求項8又は9記載の燃料電池のシール構造。
【請求項11】
前記セパレータと前記樹脂フィルムとが、フッ素樹脂系接着層を介して接合されている、請求項8〜10のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項12】
前記端部シール部材本体が、膨張黒鉛シートである、請求項8〜11のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項13】
前記端部シール部材本体の角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されている、請求項8〜12のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項14】
前記端部シール部材本体の辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されている、請求項8〜12のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項15】
電解質層と、該電解質層の両外面に配設された電極層と、各電極層の両外面に配設されたガス流路を有する多孔質基材とで構成された電池単セルを、セパレータを介して複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの多孔質基材の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項16】
電解質層と、該電解質層の両面に配置された電極層と、各電極層の両外面に配置されたガス流路を有するセパレータとで構成された電池単セルを複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの電極層の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項17】
前記樹脂フィルムがフッ素樹脂系フィルムである、請求項15又は16記載の燃料電池。
【請求項18】
前記弾性シートがフッ素樹脂系多孔質シートである、請求項15〜17のいずれか1つに記載の燃料電池。
【請求項19】
前記セパレータと前記樹脂フィルムとが、フッ素樹脂系接着層を介して接合されている、請求項15〜18のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項20】
前記端部シール部材本体が、膨張黒鉛シートである、請求項15〜19のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項21】
前記端部シール部材本体の角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されている、請求項15〜20のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項22】
前記端部シール部材本体の辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されている、請求項15〜20のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項1】
複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする方法において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材を配置し、この端部シール部材どうしを、弾性シートを介して接合することを特徴とする燃料電池のシール方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムとして、フッ素樹脂系フィルムを用いる、請求項1記載の燃料電池のシール方法。
【請求項3】
前記弾性シートとして、フッ素樹脂系多孔質シートを用いる、請求項1又は2記載の燃料電池のシール方法。
【請求項4】
前記セパレータと前記樹脂フィルムとを、フッ素樹脂系接着層を介して接合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項5】
前記端部シール部材本体として、膨張黒鉛シートを用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項6】
前記端部シール部材本体として、角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されているものを用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項7】
前記端部シール部材本体として、辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されているものを用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池のシール方法。
【請求項8】
複数の電池単セルを積層して構成される燃料電池の周縁において、隣接するセパレータどうしをシールする構造において、
隣接するセパレータのそれぞれの内面に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項9】
前記樹脂フィルムがフッ素樹脂系フィルムである、請求項8記載の燃料電池のシール構造。
【請求項10】
前記弾性シートがフッ素樹脂系多孔質シートである、請求項8又は9記載の燃料電池のシール構造。
【請求項11】
前記セパレータと前記樹脂フィルムとが、フッ素樹脂系接着層を介して接合されている、請求項8〜10のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項12】
前記端部シール部材本体が、膨張黒鉛シートである、請求項8〜11のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項13】
前記端部シール部材本体の角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されている、請求項8〜12のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項14】
前記端部シール部材本体の辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されている、請求項8〜12のいずれか1項に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項15】
電解質層と、該電解質層の両外面に配設された電極層と、各電極層の両外面に配設されたガス流路を有する多孔質基材とで構成された電池単セルを、セパレータを介して複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの多孔質基材の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項16】
電解質層と、該電解質層の両面に配置された電極層と、各電極層の両外面に配置されたガス流路を有するセパレータとで構成された電池単セルを複数積層した燃料電池において、
隣接するセパレータ間であって、それぞれの電極層の外周に、端部シール部材本体を樹脂フィルムで被覆してなる端部シール部材が配置され、この端部シール部材どうしが、弾性シートを介して接合されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項17】
前記樹脂フィルムがフッ素樹脂系フィルムである、請求項15又は16記載の燃料電池。
【請求項18】
前記弾性シートがフッ素樹脂系多孔質シートである、請求項15〜17のいずれか1つに記載の燃料電池。
【請求項19】
前記セパレータと前記樹脂フィルムとが、フッ素樹脂系接着層を介して接合されている、請求項15〜18のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項20】
前記端部シール部材本体が、膨張黒鉛シートである、請求項15〜19のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項21】
前記端部シール部材本体の角部及び/又は辺部の少なくとも一部が面取り加工されている、請求項15〜20のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項22】
前記端部シール部材本体の辺部の少なくとも一部が円弧状に形成されている、請求項15〜20のいずれか1項に記載の燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9】
【公開番号】特開2011−82078(P2011−82078A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234744(P2009−234744)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
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