説明

燃料電池の構造体

【課題】「横縞型」の燃料電池の構造体であって、隣り合う発電素子部の間における段差が形成された表面を連続して覆う緻密膜にクラックが生じ難いものを提供すること。
【解決手段】隣り合う発電素子部A,A間における固体電解質膜40(緻密膜)と、発電素子部A内の固体電解質膜40とがディッピングにより連続して形成される。このディッピングは、隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの燃料極20が支持基板10の外側面から突出した状態にある支持基板10に対してなされる。即ち、「緻密膜」は、段差が形成された表面を連続して覆うように充填・形成される。「緻密膜」における隣り合う燃料極20,20の間の特定部分41の外側面Zの表面粗さが、算術平均粗さRaで0.01〜5μmである。ここで、算術平均粗さRaは、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997に準拠)に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板」と、「前記支持基板の外表面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、少なくとも内側電極、固体電解質膜、及び外側電極が積層されてなる複数の発電素子部」と、「1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ形成され、前記隣り合う発電素子部の一方の内側電極と他方の外側電極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部」とを備えた固体酸化物形燃料電池の構造体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。このような構成は、「横縞型」とも呼ばれる。
【0003】
特許文献1に記載の「横縞型」の燃料電池の構造体では、各内側電極が、支持基板の外側面から外側に突出するように設けられている。加えて、この構造体では、隣り合う発電素子部の間に、内側電極に供給されるガスと外側電極に供給されるガスとの混合を防止する緻密材料からなる緻密膜が形成されている。この緻密膜は、支持基板の外側面から突出する隣り合う内側電極における互いに向き合う両端部、並びに、隣り合う内側電極の間の支持基板の外側面を連続して覆うように形成されている。換言すれば、この緻密膜は、段差が形成された表面を連続して覆うように形成されている。この文献では、この緻密膜は、発電素子部内の固体電解質膜と同じ材料から構成されていて、固体電解質膜と緻密膜とが、同じ材料からなるスラリーを使用したディッピング法を用いて同時に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−16000号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上述したように、上記緻密膜は、段差が形成された表面を連続して覆うように形成されている。従って、特に、緻密膜における段差を覆う部分等において応力が集中し易い。この結果、緻密膜にクラックが生じ易いと考えられる。緻密膜にクラックが生じると、2種類のガスが混合する事態が発生し得るので好ましくない。
【0006】
本発明者は、このように段差が形成された表面を連続して覆う緻密膜に関し、クラックを生じ難くするための緻密膜の外側面の形状の特徴を見出した。以上、本発明の目的は、「横縞型」の燃料電池の構造体であって、隣り合う発電素子部の間における段差が形成された表面を連続して覆う緻密膜にクラックが生じ難いものを提供することを目的とする。
【0007】
本発明に係る燃料電池の構造体は、ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板と、前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられた「少なくとも内側電極、固体電解質膜、及び外側電極が積層されてなる複数の発電素子部であって、前記各内側電極が前記支持基板の外側面から外側に突出するように設けられた複数の発電素子部」と、1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ形成され、前記隣り合う発電素子部の一方の内側電極と他方の外側電極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部とを備える。即ち、この構造体は、「横縞型」の燃料電池の構造体である。
【0008】
ここにおいて、前記内側電極及び前記外側電極はそれぞれ、空気極及び燃料極であってもよいし、燃料極及び空気極であってもよい。前記内側電極が燃料極の場合には前記ガス流路は燃料ガス用の流路であり、前記内側電極が空気極の場合には前記ガス流路は酸素を含むガス用の流路である。また、前記燃料極は、前記固体電解質に接する燃料極活性部と、前記燃料極活性部以外の残りの部分である燃料極集電部とから構成され得る。
【0009】
また、本発明に係る燃料電池の構造体は、1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ形成され、前記内側電極に供給されるガスと前記外側電極に供給されるガスとの混合を防止する緻密材料からなる緻密膜であって、前記支持基板の外側面から突出する隣り合う前記内側電極における互いに向き合う両端部、並びに、前記隣り合う内側電極の間の前記支持基板の外側面を連続して(直接)覆うように形成された緻密膜を備える。即ち、この緻密膜は、段差が形成された表面を連続して覆うように形成される。
【0010】
ここで、前記緻密膜が前記固体電解質膜と同じ材料からなり、前記緻密膜が前記固体電解質膜と連続して形成されることが好ましい。この場合、前記固体電解質膜と前記緻密膜とが同じ材料からなるスラリーを使用したディッピング法を用いて形成され得る。
【0011】
本発明に係る燃料電池の構造体の特徴は、前記緻密膜における前記隣り合う内側電極の間の部分(以下、「特定部分」と呼ぶ。)の外側面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.01〜5μmにあることにある。ここで、算術平均粗さRaは、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997に準拠)に基づく。
【0012】
本発明者は、上記構成のように、緻密膜の特定部分の外側面の表面粗さが算術平均粗さRaで0.01〜5μmにあると、そうでない場合と比べて、緻密膜にクラックが生じ難いことを見出した(詳細は後述する)。従って、上記構成によれば、クラックの発生に起因して2種類のガスが混合する事態の発生を抑制することができる。
【0013】
上記本発明に係る燃料電池の構造体では、前記電気的接続部は、前記隣り合う発電素子部の一方の内側電極の外側面に形成されたインターコネクタと、前記インターコネクタと前記隣り合う発電素子部の他方の外側電極とを電気的に接続する多孔質材料からなる接続部材であって、前記緻密膜における前記特定部分を覆うように形成された接続部材と、を含んで構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の燃料電池の構造体を示す斜視図である。(a)は構造体の上面の電流の方向と構造体の下面の電流の方向とが逆になるタイプを示し、(b)は構造体の上面の電流の方向と構造体の下面の電流の方向とが同じになるタイプを示す。
【図2】図1に示した燃料電池の構造体の平面図である。
【図3】図1に示した燃料電池の構造体の主要部分を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図1に示した燃料電池の作動時の電流の流れを示す図3に対応する図である。
【図5】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第1の図である。
【図6】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第2の図である。
【図7】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第3の図である。
【図8】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第4の図である。
【図9】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第5の図である。
【図10】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第6の図である。
【図11】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第7の図である。
【図12】図1に示した燃料電池の構造体の製造工程を示す第8の図である。
【図13】隣り合う発電素子部間における固体電解質膜の外側面の表面粗さの特徴を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る燃料電池の構造体を示す斜視図であり、図2はその平面図である。図1、及び図2は、発電素子接続部材60(図3を参照)を貼り付ける前の状態を示している。
【0016】
本発明に係る燃料電池の構造体では、中空かつ扁平板状の支持基板10に、複数の発電素子部Aが支持基板10の長手方向に沿って複数個配置され、これらがインターコネクタ30(及び発電素子接続部材60)で電気的に直列に接続されている。この構造は「横縞型」とも呼ばれる。発電素子部Aは、支持基板10の上面及び下面にそれぞれ形成されている。
【0017】
図1(a)は、燃料電池の構造体の上面の長手方向の一方側端部の発電素子部A(図示せず)と、構造体の下面の長手方向の一方側端部の発電素子部A(図示せず)とが、構造体を長手方向に沿って周回する金属バンドによって電気的に直列に接続され、構造体の上面の電流の方向と構造体の下面の電流の方向とが逆になるタイプを示している。
【0018】
図1(b)は、燃料電池の構造体の上面の各発電素子部Aと、構造体の下面の対応する発電素子部Aとが、構造体を幅方向に沿って周回するインターコネクタ30によりそれぞれ接続されて、全体としてみれば構造体の上面の発電素子部Aと構造体の下面の発電素子部Aとが電気的に並列に接続されて、構造体の上面の電流の方向と構造体の下面の電流の方向とが同じになるタイプを示している。図3は、図2の3ー3線に対応する、発電素子部Aが形成された部分を示す構造体の断面図である。
【0019】
この燃料電池の構造体では、支持基板10の表面に、その長手方向に所定間隔をおいて、複数の発電素子部Aが配列されている。それぞれの発電素子部Aは、集電燃料極21、活性燃料極22(集電燃料極21、活性燃料極22を総称して「燃料極20」という)、固体電解質膜40及び空気極50を順次積層して得られる層構造となっている。
【0020】
隣り合う発電素子部A,Aは、インターコネクタ30及び発電素子接続部材60により電気的に直列に接続されている。即ち、一方の発電素子部Aの燃料極20の上にインターコネクタ30が形成されていて、このインターコネクタ30と他方の発電素子部Aの空気極50とが発電素子接続部材60により電気的に接続されている。インターコネクタ30及び発電素子接続部材60は、前記「電気的接続部」に対応している。
【0021】
支持基板10の内部には、内径の小さな複数の燃料ガス流路11が長手方向に貫通して形成されている(図1参照)。このように、支持基板10の内部に燃料ガス流路11を複数形成することにより、支持基板10の内部に大きな燃料ガス流路を1本形成する場合に比べて、支持基板10を扁平板状とすることができる。この結果、複数の支持基板を配列してスタックを作製する際、円筒形状に比べて複数の支持基板を密に配列することができる。この結果、よりコンパクトなスタックを作成することができる。
【0022】
この燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス)を流し、且つ、空気極50を空気等の酸素含有ガスに曝すことにより、空気極50及び燃料極20間で酸素分圧差に応じた起電力が発生する。この状態で、外部に負荷を接続することにより、下記(1)式、(2)式に示す電極反応が生じる。この結果、両極間に電位差が発生し、図4に矢印Cで示すように電流が流れ、発電するようになっている。
空気極: 1/2O2+2e-→ O2-(固体電解質) …(1)
燃料極: O2-(固体電解質)+H2→ H2O+2e- …(2)
【0023】
以下、この燃料電池の構造体を構成する各部材の材質を詳しく説明する。
【0024】
先ず、支持基板10は、Ni若しくはNi酸化物(NiO)と、例えば希土類元素酸化物が固溶したZrO2とからなっている。なお、希土類元素酸化物を構成する希土類元素としては、Y,La,Yb,Tm,Er,Ho,Dy,Gd,Sm,Prなどが例示され得るが、好ましいものは、Yの酸化物である。Y23やYb23、特にY23が好ましい。また、支持基板10として、希土類元素酸化物が固溶したZrO2に代えて、例えばスピネル、フォルステライト、ジルコン酸カルシウム等を用いることもできる。
【0025】
Ni若しくはNiO(NiOは、発電時には、通常、水素ガスにより還元されてNiとして存在する)は、Ni換算で5〜25体積%、特に5〜10体積%の範囲で支持基板10中に含有されているのがよい。この支持基板10の熱膨張係数は、通常、10.5〜11.5×10-6(1/K)程度である。
【0026】
支持基板10は、発電素子部間の電気的ショートを防ぐために電気絶縁性であることが必要である。Ni等の含量を前記範囲としたとき、10Ω・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。また、Ni等以外の残量の全ては、通常、希土類元素酸化物が固溶しているZrO2である。しかしながら、例えば5重量%以下の少量の範囲で、MgOやSiO2などの他の酸化物、若しくは複合酸化物例えばジルコン酸カルシウムなどが含有していてもよい。
【0027】
なお、支持基板10は、燃料ガス流路11内の燃料ガスを燃料極20の表面まで導入可能でなければならず、このため、多孔質であることが必要である。一般に、その開気孔率は25%以上、特に30〜40%の範囲にあるのがよい。
【0028】
燃料極20は、前記式(2)の電極反応を生じせしめるものであり、本実施形態においては、固体電解質側の活性燃料極22と、支持基板10側の集電燃料極21との二層構造に形成されている。固体電解質側の活性燃料極22は、多孔質の導電性セラミックスから形成される。例えば、希土類元素が固溶しているZrO2(安定化ジルコニア)と、Ni及び/又はNi酸化物NiO(以下、Ni等と呼ぶ)とからなる。この希土類元素が固溶した安定化ジルコニアとしては、後述する固体電解質膜40に使用されているものと同様のものを用いることができる。また、希土類元素酸化物が固溶したZrO2に代えて、例えばスピネル、フォルステライト、ジルコン酸カルシウム等を用いることもできる。
【0029】
活性燃料極22中の安定化ジルコニア含量は、35〜65体積%の範囲にあることが好ましく、またNi等の含量は、良好な集電性能を発揮させるため、Ni換算で65〜35体積%の範囲にあるのがよい。更に、活性燃料極22の開気孔率は、20%以上、特に25〜40%の範囲にあるのがよい。
【0030】
活性燃料極22の熱膨張係数は、通常、12.3×10-6(1/K)程度である。また、活性燃料極22の厚さは、3μm以上、10μm未満の範囲にあることが望ましい。厚さが10μm以上であれば、固体電解質膜40との熱膨張差に起因して発生する熱応力を吸収できないようになり、活性燃料極の割れや剥離などを生じるおそれがある。活性燃料極22は、導電性であることが好ましく、Ni等の含量が前記範囲として、400S/cm以上の導電率を持たせることができる。
【0031】
一方、燃料極20のうち支持基板10側の集電燃料極21は、Ni若しくはNi酸化物と、希土類元素酸化物との混合体である。希土類元素酸化物を構成する希土類元素としては、Y,La,Yb,Tm,Er,Ho,Dy,Gd,Sm,Prなどを例示することができるが、好ましいものは、Yの酸化物である。Y23やYb23、特にY23が好ましい。
【0032】
Ni或いはNi酸化物(NiOは、発電時には、通常、水素ガスにより還元されてNiとして存在する)は、Ni換算で35体積%〜60体積%の範囲で希土類元素酸化物中に含有されているのがよい。この範囲で調製することにより、集電燃料極21の熱膨張係数は、通常、11.5×10-6(1/K)程度となる。従って、支持基板10と集電燃料極21との熱膨張差を1.0×10-6/°C以下とすることができる。
【0033】
集電燃料極21も、活性燃料極22と同様、電流の流れを損なわないように、導電性であることが好ましく、Ni等の含量が前記範囲として、400S/cm以上の導電率をもたせることができる。また、この集電燃料極21の厚さは、100μm以上であることが望ましい。厚さが100μm未満であれば、長手方向に電流が流れるときの抵抗が増加して、燃料電池の構造体の内部に無視できない電圧降下が発生してしまう。
【0034】
以上のように、燃料極20を、固体電解質側の活性燃料極22と支持基板側の集電燃料極21との2層に形成した構造であれば、支持基板側の集電燃料極21のNi換算でのNi量あるいはNiO量を35〜60体積%の範囲内で調製することにより、活性燃料極22との接合性を損なうことなく、その熱膨張係数を、支持基板10の熱膨張係数に近づけることができる。例えば、両者の熱膨張差を、1.0×10-6/℃未満とすることができる。
【0035】
従って、燃料電池の構造体の作製時、加熱時、冷却時などにおいて燃料極20と支持基板10との熱膨張差に起因して発生する熱応力を小さくすることができるため、燃料極20の割れや剥離などを抑制することができる。そして、燃料ガス(水素ガス)を流して発電を行う場合においても、支持基板10との熱膨張係数の整合性は安定に維持される。
【0036】
固体電解質膜40は、電極間の電子の橋渡しをする電解質としての機能を有するとともに、燃料ガスと空気等の酸素含有ガスとのリークを防止するためにガス遮断性を有していることが必要である。従って、固体電解質膜40としては、このような特性を備えている緻密質なセラミックス、例えば、3〜15モル%の希土類元素が固溶した安定化ZrO2を用いるのが好ましい。この安定化ZrO2中の希土類元素としては、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを例示することができるが、安価であるという点で、Y,Ybが好適である。また、8YSZ(8モル%のYが固溶している安定化ZrO2)と熱膨張係数がほぼ等しいランタンガレート系固体電解質なども好適に用いることができる。
【0037】
固体電解質膜40は、ガス透過を防止するという点から10〜100μmの厚さを有し、さらに相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上であることが望ましい。この固体電解質膜40は、前記「緻密膜」に対応する。
【0038】
固体電解質膜40上に形成される空気極50は、前述した式(1)の電極反応を生じさせるものであり、所謂ABO3型のペロブスカイト型酸化物からなる導電性セラミックスから形成される。このようなペロブスカイト型酸化物としては、遷移金属型ペロブスカイト酸化物、特にAサイトにLaを有するLaMnO3系酸化物、LaFeO3系酸化物、LaCoO3系酸化物の少なくとも一種が好適である。600〜1000℃程度の比較的低温での電気伝導性が高いという点から、LaFeO3系酸化物が特に好適である。
【0039】
なお、前記ペロブスカイト型酸化物においては、AサイトにLaと共にSrが存在していてもよいし、さらにBサイトには、Fe,Co,Mnが共存していてもよい。また、空気極50は、ガス透過性を有していなければならず、その開気孔率は20%以上、特に30〜50%の範囲にあるのがよい。更に、その厚みは、集電性という点から30〜100μmであることが望ましい。
【0040】
隣り合う発電素子部同士を電気的に直列に接続するために使用されるインターコネクタ30は、一方の発電素子部の燃料極20と他方の発電素子部の空気極50とを接続するものであり、導電性セラミックスから形成される。インターコネクタ30は、燃料ガス(水素ガス)及び空気等の酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。
【0041】
インターコネクタ30は、厚さ10μmから100μm程度の導電体である。インターコネクタ30は、一方の発電素子部の活性燃料極22と他方の発電素子部の空気極50とを、発電素子接続部材60を介して接続するものであり、導電性セラミックスから形成される。燃料ガス(水素ガス)及び空気等の酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。このため、かかる導電性セラミックスとしては、一般に、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO3系酸化物)が使用される。また、燃料ガス流路11を通る燃料ガスと空気極50の外部を通る空気等の酸素含有ガスとのリークを防止するため、かかる導電性セラミックスは緻密質でなければならず、例えば93%以上、特に95%以上の相対密度(アルキメデス法)を有していることが好適である。なお、このインターコネクタ30の端面と、固体電解質膜40の端面との間には、適当な接合層(例えばY23)を介在させることにより、シール性を向上させることもできる。
【0042】
発電素子接続部材60は、隣り合う一方の発電素子部Aのインターコネクタ30と他方の発電素子部Aの空気極50とを電気的に接続するものであり、インターコネクタ30と同様、導電性、耐酸化性を有する材料で形成される。ただし、ガスの遮断性は要求されないので、インターコネクタ30のように緻密でなくてもよい。
【0043】
前述した燃料電池の構造体は、例えば、以下のようにして製造することができる。先ず、支持基板10の材料として、平均粒径が0.1〜10μmのY23等の希土類元素酸化物が固溶したZrO2粉末と、Ni粉末(NiO粉末でもよい)とが用意される。これらの粉末が、所定の比率で混合される。この混合粉末に、ポアー剤と、セルロース系有機バインダーと、水とからなる溶媒とを混合し、押し出し成形して、内部に燃料ガス流路11を有する中空形状、扁平状の支持基板成形体10が作製される。
【0044】
次に、集電燃料極の材料を作製する。例えば、NiO粉末、Ni粉末と、Y23等の希土類元素酸化物粉末とが混合され、これにポアー剤が添加され、アクリル系バインダーとトルエンが加えられてスラリーが得られる。このスラリーを用いて、ドクターブレード法にて、厚さ100〜150μmの集電燃料極テープが作製される。以下、燃料電池の構造体の製造工程図である図5〜図12を参照しながら説明する。
【0045】
次に、切断された集電燃料極テープ21において、隣り合う燃料極間の領域に対応する部分が打ち抜かれる(図5)。次いで、この集電燃料極テープ21上の全面に、活性燃料極22が印刷される(図6)。続いて、この活性燃料極22上に、インターコネクタ30が印刷される(図7)。
【0046】
次に、この状態にて、燃料極テープ21が、支持基板成形体10に横縞状に貼り付けられる。その際、隣り合う燃料極テープ21、21は、3mm程度の間隔をあけて配置される。そして、この積層体が乾燥され、900〜1100℃の温度範囲で仮焼される。(図8)。
【0047】
次に、インターコネクタ30の長手方向の中央部分に、有機物シート(マスキングテープ)70が貼り付けられる(図9)。次いで、この積層体が、8YSZ(8モル%のYが固溶したZrO2粉末)にアクリル系バインダーとトルエンを加えてスラリーとした固体電解質溶液に漬けられる。その後、この積層体が固体電解質溶液から取り出される。このディップにより、積層体の一面に固体電解質膜40の層が塗布されるとともに、図5で打ち抜いた空間(即ち、隣り合う燃料極間の領域)に絶縁体である固体電解質膜40が充填される。
【0048】
この状態で、800°C、1時間仮焼きがなされる。この仮焼き中に、有機物シート70とその上に塗布された固体電解質膜40の層が除去される(図10)。次に、固体電解質膜40における空気極の形成部分に空気極50が印刷されて、1050°C、2時間焼き付けられる(図11)。最後に、1つの発電素子部のインターコネクタ30と、これに隣接する発電素子部の空気極50とを接続するための発電素子接続部材60が貼り付けられて(図12)、燃料電池の構造体が完成する。
【0049】
(隣り合う発電素子部間における緻密膜の外側面の表面粗さ)
上述したように、固体電解質膜40は、それぞれの燃料極20が支持基板成形体10の外側面から突出した状態にある支持基板成形体10に対して、ディッピングにより形成される(図10を参照)。この結果、図13に示すように、隣り合う発電素子部A,A間において、緻密な固体電解質膜40が、発電素子部内の固体電解質膜40と連続して形成されている。以下、隣り合う発電素子部A,A間における固体電解質膜40を、特に、「緻密膜」と呼ぶ。「緻密膜」は、燃料ガスと空気等の酸素含有ガスとのリークを防止する機能を発揮する。
【0050】
図13に示すように、「緻密膜」は、支持基板10の外側面から突出する隣り合う燃料極20,20における互いに向き合う両端部、並びに、隣り合う燃料極20,20の間の支持基板10の外側面を連続して覆うように充填・形成されている。換言すれば、「緻密膜」は、段差が形成された表面を連続して覆うように充填・形成されている。従って、特に、「緻密膜」における段差(隣り合う燃料極20,20の互いに向き合う両端部)を覆う部分等において応力が集中し易い。この結果、「緻密膜」にクラックが生じ易いと考えられる。「緻密膜」にクラックが生じると、上述したガスリーク防止機能が達成し得なくなり、好ましくない。
【0051】
本発明者は、クラックを生じ難くするための「緻密膜」の外側面の表面粗さの特徴を見出した。その特徴とは、図13に示すように、「緻密膜」における隣り合う燃料極20,20の間の部分(以下、「特定部分41」と呼ぶ。)の全域の外側面Zの表面粗さが、算術平均粗さRaで0.01〜5μmにあること、である。ここで、算術平均粗さRaは、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997に準拠)に基づく。
【0052】
以下、このことを確認するために行われた試験について説明する。この試験では、上述した図1〜図3、及び図13等に示した実施形態に対応する燃料電池の構造体について、表1に示すように、外側面Zの表面粗さの値が異なる複数のサンプルが作製された。外側面Zの表面粗さの値以外についての各部材の形状、サイズ、材質等は、全てのサンプルについて同じとされた。外側面Zの表面粗さの調整は、上述したディッピング時において使用されるスラリーの原料となる各粉末の粒径等を調整することによりなされた。具体的には、粉末の平均粒径が0.1〜10μmの範囲とされ、ディッピング用の種々のスラリーが調製された。そして、ディッピングによるコート後の乾燥膜の相対密度を制御すること、並びに、焼成温度を1350〜1500℃の範囲で調整することにより、外側面Zの表面粗さが調整された。
【0053】
各サンプルについて、燃料電池が所定パターンに従って稼働させられた。具体的には、燃料極20側にAr、空気極50側に空気を供給した状態で、燃料電池が800℃まで昇温され、800℃にて、燃料極20側に30℃で加湿した水素が供給されて燃料極20が還元された。その後、電流密度0.20A/cm、燃料利用率80%という条件下で発電試験が実施された。発電試験の終了後、燃料極20側にAr、空気極50側に空気を供給した状態で、燃料電池が室温まで降温された。その後、各サンプルについて、「緻密膜」のクラックの有無が調査された。この調査は、目視、及び顕微鏡等を用いて行われた。この結果を表1に示す。なお、外側面Zの表面粗さの測定は、接触式の表面粗さ計を用いて行われた。具体的には、Taylor
Hobson製のフォームタリサーフプラスが用いられた。表1の「クラック発生率」の欄において、分母は、サンプルの総数を示し、分子は、クラックが発生していたサンプルの数を示す。クラックは、主として、外側面Zの両端部付近に形成されていた。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から理解できるように、外側面Zの表面粗さが算術平均粗さRaで0.01〜5μmにある場合、そうでない場合と比べて、クラックの発生率が小さい。以上、「緻密膜」のクラック発生を抑制するためには、「緻密膜」の「特定部分41」の全域の外側面Zの表面粗さが、算術平均粗さRaで0.01〜5μmにあることが好ましい、といえる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、「緻密膜」と発電素子部A内の固体電解質膜40とが同じ材料からなり、且つ、「緻密膜」と発電素子部A内の固体電解質膜40とがディッピングにより同時に形成されているが、「緻密膜」と発電素子部A内の固体電解質膜40とが異なる材料から構成されてもよいし、「緻密膜」と発電素子部A内の固体電解質膜40とが個別に形成されてもよい。また、「緻密膜」と発電素子部A内の固体電解質膜40とがディッピングとは異なる手法を用いて形成されてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、「緻密膜」の「特定部分41」の全域の外側面Zの表面粗さのみが着目されているが、「緻密膜」における「特定部分41を挟む両側の部分」、即ち、「緻密膜」における「隣り合う燃料極20,20の互いに向き合う両端部に対応する部分」の外側面の表面粗さも、特定部分41と同様、算術平均粗さRaで0.01〜5μmにあることが好適である。
【0058】
加えて、上記実施形態では、支持基板10が平板状を呈し、且つ支持基板10の内部に複数の燃料ガス流路11が設けられているが、支持基板10は、円筒状を呈していてもよく、また、燃料ガス流路11の数は1つでもよいことはいうまでもない。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…支持基板、11…燃料ガス流路、20…燃料極、21…集電燃料極、22…活性燃料極、30…インターコネクタ、40…固体電解質膜、41…特定部分、50…空気極、60…発電素子接続部材、A…発電素子部、Z…特定部分の外側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板と、
前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、少なくとも内側電極、固体電解質膜、及び外側電極が積層されてなる複数の発電素子部であって、前記各内側電極が前記支持基板の外側面から外側に突出するように設けられた複数の発電素子部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ形成され、前記隣り合う発電素子部の一方の内側電極と他方の外側電極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ形成され、前記内側電極に供給されるガスと前記外側電極に供給されるガスとの混合を防止する緻密材料からなる緻密膜であって、前記支持基板の外側面から突出する隣り合う前記内側電極における互いに向き合う両端部、並びに、前記隣り合う内側電極の間の前記支持基板の外側面を連続して覆うように形成された緻密膜と、
を備えた燃料電池の構造体において、
前記緻密膜における前記隣り合う内側電極の間の部分の外側面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.01〜5μmである、燃料電池の構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の構造体において、
前記緻密膜が前記固体電解質膜と同じ材料からなり、前記緻密膜が前記固体電解質膜と連続して形成された、燃料電池の構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池の構造体において、
前記固体電解質膜と前記緻密膜とが同じ材料からなるスラリーを使用したディッピング法を用いて形成された、燃料電池の構造体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記電気的接続部は、
前記隣り合う発電素子部の一方の内側電極の外側面に形成されたインターコネクタと、
前記インターコネクタと前記隣り合う発電素子部の他方の外側電極とを電気的に接続する多孔質材料からなる接続部材であって、前記緻密膜における前記部分を覆うように形成された接続部材と、
を含んで構成された、燃料電池の構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記内側電極及び前記外側電極はそれぞれ、燃料極及び空気極であり、
前記支持基板の内部に形成されたガス流路は、燃料ガス用の流路であり、
前記燃料極は、前記固体電解質膜に接する燃料極活性部と、前記燃料極活性部以外の残りの部分である燃料極集電部とから構成された、燃料電池の構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−38585(P2012−38585A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177826(P2010−177826)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】