燃料電池の構造体
【課題】「横縞型」の燃料電池の構造体であって、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、隣り合う燃料極間の領域に介在する介在物にクラック等が発生し難いものの提供。
【解決手段】燃料ガス流路11が内部に形成された長手方向を有する平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置される。隣り合う発電素子部Aにそれぞれ属する隣り合う燃料極20、20の間の領域に「介在物」(支持基板10の一部等)が介在している。隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に隙間がそれぞれ形成される。「隙間」が「緩衝領域」として機能し、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、「介在物」が燃料極から引っ張り・圧縮応力を受け難い。
【解決手段】燃料ガス流路11が内部に形成された長手方向を有する平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置される。隣り合う発電素子部Aにそれぞれ属する隣り合う燃料極20、20の間の領域に「介在物」(支持基板10の一部等)が介在している。隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に隙間がそれぞれ形成される。「隙間」が「緩衝領域」として機能し、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、「介在物」が燃料極から引っ張り・圧縮応力を受け難い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板」と、「前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順に積層されてなる複数の発電素子部」と、「1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部」と、「1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、前記燃料極に供給される燃料ガスと前記空気極に供給される酸素を含むガスとの混合を防止する緻密材料からなるガスシール部」と、を備えた固体酸化物形燃料電池の構造体が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。このような構成は、「横縞型」とも呼ばれる。
【0003】
以下、隣り合う発電素子部にそれぞれ属する隣り合う燃料極の間の領域に介在する介在物に着目する。特許文献1の図1に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、隣り合う燃料極2,2の間の領域に、電気的接続部(インターコネクタ5)の一部とガスシール部(固体電解質3)の一部からなる介在物が隙間なく介在している。特許文献1の図4に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、隣り合う燃料極13,13の間の領域に、支持基板(基体管11)の一部からなる介在物が隙間なく介在している。特許文献2の図2に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、隣り合う燃料極(23+13a),(23+13a)の間の領域に、ガスシール部(固体電解質33)の一部からなる介在物が隙間なく介在している。このように、上記文献に記載の構造体では、隣り合う燃料極の間の領域に、前記介在物が隙間なく介在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−106916号公報
【特許文献2】特開2008−226789号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、通常、燃料極の材料として、NiO系サーメットが使用される。燃料電池の作動の際、燃料極に導電性と電極活性とを持たせるため、NiOに対して燃料ガスの還元作用を利用した還元処理が施される。このようにNiOがNiに還元された状態で燃料電池が作動させられる。
【0006】
一方、燃料電池の作動中において、その作動が急に停止した場合等、支持基板の内部に形成された燃料ガス流路内に空気が一時的に流入する等の現象が発生し得る。この場合、燃料ガス流路に流入した空気に含まれる酸素の酸化作用により、燃料極のNiがNiOに再酸化する現象が発生し得る。
【0007】
以上のように、燃料極では、燃料ガスの還元作用によりNiOがNiに還元される現象、並びに、酸素の酸化作用によりNiがNiOに再酸化される現象が発生し得る。ここで、NiOがNiに還元される際、所謂還元収縮により燃料極は収縮する(燃料極の体積が減少する)。一方、NiがNiOに再酸化される際、所謂酸化膨張により燃料極は膨張する(燃料極の体積が増大する)。
【0008】
上記文献に記載の構造体のように、隣り合う燃料極の間の領域に前記介在物が隙間なく介在している場合(即ち、燃料極と前記介在物とが接触している場合)、上述した燃料極の収縮・膨張の影響により、前記介在物が燃料極から引張・圧縮応力を受け得る。この結果、前記介在物の内部や、「燃料極などの前記介在物を取り巻く物体と前記介在物との界面近傍」に、クラック等が発生する虞がある。この結果、ガスシール部のガスシール機能が低下したり、電気的接続部の導電性が低下するなどの問題が発生し得る。
【0009】
本発明は、「横縞型」の燃料電池の構造体であって、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、隣り合う燃料極の間の領域に介在する介在物にクラック等が発生し難いものを提供することを目的とする。
【0010】
本発明に係る燃料電池の構造体は、燃料ガス流路が内部に形成された電子伝導性を有さない多孔質の支持基板と、前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ「少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順に積層されてなる複数の発電素子部」と、1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する電子伝導性を有する1つ又は複数の電気的接続部と、1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、前記燃料極に供給される燃料ガスと前記空気極に供給される酸素を含むガスとの混合を防止する緻密材料からなるガスシール部と、を備える。即ち、この構造体は、「横縞型」の燃料電池の構造体である。支持基板は、平板状であっても円筒状であっても、内部に燃料ガス流路が形成されている限りにおいて如何なる形状であってもよい。
【0011】
本発明に係る燃料電池の構造体では、隣り合う前記発電素子部にそれぞれ属する隣り合う前記燃料極の間の領域に、前記支持基板の一部、前記電気的接続部の一部、及び前記ガスシール部の一部のうちの何れか1つ又は2つ以上からなる介在物が介在している。
【0012】
本発明に係る燃料電池の構造体の特徴は、隣り合う前記燃料極の一方又は両方と前記介在物との間に隙間、又は、前記燃料極及び前記介在物と比べて気孔率が大きい高気孔率部が形成されたことにある。この場合、隣り合う前記燃料極の両方と前記介在物との間に前記隙間又は前記高気孔率部がそれぞれ形成されると、より好ましい。
【0013】
これによれば、「隙間」又は「高気孔率部」の形成により、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、前記介在物が燃料極から引張・圧縮応力を受け難い。換言すれば、「隙間」又は「高気孔率部」が「緩衝領域」として機能する。この結果、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、前記介在物の内部等にクラック等が発生し難くなる。この結果、ガスシール部のガスシール機能が低下したり、電気的接続部の導電性が低下するなどの問題が発生し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る燃料電池の構造体を示す斜視図である。
【図2】図1に示す燃料電池の構造体の2−2線に対応する断面図である。
【図3】図1に示す燃料電池の構造体の作動状態を説明するための図である。
【図4】図1に示す燃料電池の構造体の作動状態における電流の流れを説明するための図である。
【図5】図1に示す支持基板を示す斜視図である。
【図6】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第1段階における図2に対応する断面図である。
【図7】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第2段階における図2に対応する断面図である。
【図8】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第3段階における図2に対応する断面図である。
【図9】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第4段階における図2に対応する断面図である。
【図10】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第5段階における図2に対応する断面図である。
【図11】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第6段階における図2に対応する断面図である。
【図12】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第7段階における図2に対応する断面図である。
【図13】本発明に係る燃料電池の構造体の第1変形例の図2に対応する断面図である。
【図14】本発明に係る燃料電池の構造体の第2変形例の図2に対応する断面図である。
【図15】本発明に係る燃料電池の構造体の第3変形例の図2に対応する断面図である。
【図16】本発明に係る燃料電池の構造体の第4変形例の図2に対応する断面図である。
【図17】図16に示す支持基板の凹部に埋設された燃料極及びインターコネクタの状態を示した平面図である。
【図18】本発明に係る燃料電池の構造体の第5変形例の図2に対応する断面図である。
【図19】本発明に係る燃料電池の構造体の第6変形例の図14に対応する断面図である。
【図20】本発明に係る燃料電池の構造体の第7変形例の図15に対応する断面図である。
【図21】本発明に係る燃料電池の構造体の第8変形例の図16に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構造体を示す。このSOFCの構造体は、長手方向を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
【0016】
このSOFCの構造体の全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが5〜50cmで長手方向に直交する幅方向の長さが1〜10cmの長方形である。このSOFCの構造体の全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCの構造体の全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、図1に加えて、このSOFCの構造体の図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このSOFCの構造体の詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
【0017】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する図5に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、各凹部12は、周方向に閉じた4つの側壁と、底壁とで画定された直方体状の窪みである。
【0018】
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。支持基板10の厚さは、1〜5mmである。以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0019】
図2に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、直方体状の燃料極20の全体が、燃料極20の側壁と凹部12の側壁との間に(燃料極20の周囲に亘って)「隙間」が形成されるように、埋設されている。即ち、本例では、隣り合う燃料極20、20の間の領域に「支持基板10の一部からなる介在物」が介在していて、隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に隙間がそれぞれ形成されている。この隙間の幅L(図2を参照)は、0.5〜100μmである。本例では、「支持基板10の一部からなる介在物」は、支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部に対応する。
【0020】
燃料極20は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。燃料極20は、後述する固体電解質膜40に接する燃料極活性部22と、燃料極活性部22以外の残りの部分である燃料極集電部21とから構成される。燃料極活性部22を上方からみた形状は、凹部12が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。
【0021】
燃料極20の上面(外側面)と支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。
【0022】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0023】
各燃料極20(より具体的には、各燃料極集電部21)の上面の所定箇所には、インターコネクタ30が形成されている。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。インターコネクタ30を上方からみた形状は、燃料極20が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。インターコネクタ30は、例えば、LaCrO3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0024】
複数の燃料極20が埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成された部分を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0025】
即ち、複数の燃料極20が埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。ここで、緻密材料からなる「インターコネクタ30及び固体電解質膜40」が、「ガスシール部」に対応する。
【0026】
なお、図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0027】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0028】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0029】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0030】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0031】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0032】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0033】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、「電気的接続部」に対応する。
【0034】
以上、説明した「横縞型」のSOFCの構造体に対して、図3に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O2+2e−→O2− (於:空気極60) …(1)
H2+O2−→H2O+2e−
(於:燃料極20) …(2)
【0035】
発電状態においては、図4に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図3に示すように、このSOFCの構造体全体から(具体的には、図3において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0036】
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のSOFCの構造体の製造方法の一例について図5〜図12を参照しながら簡単に説明する。図5〜図12において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0037】
先ず、図5に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図5に示す6−6線に対応する部分断面を表す図6〜図12を参照しながら説明を続ける。
【0038】
図6に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図7に示すように、支持基板の成形体10gの上下面における各凹部に、燃料極の成形体(21g+22g)が埋設・形成される。この成形体(21g+22g)は、成形体の側壁と凹部の側壁との間に(成形体の周囲に亘って)「隙間」が形成されるように、埋設・形成される。各燃料極の成形体(21g+22g)は、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0039】
次に、図8に示すように、各燃料極の成形体21gの外側面の所定箇所に、インターコネクタの成形膜30gが形成される。各インターコネクタの成形膜30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO3)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0040】
次に、図9に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)が埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成された部分を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0041】
次に、図10に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0042】
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体において空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0043】
次に、図11に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0044】
次に、図12に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0045】
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体が得られる。以上、図1に示したSOFCの構造体の製造方法の一例について説明した。
【0046】
(作用・効果)
以上、説明したように、上記本発明の実施形態に係る「横縞型」のSOFCの構造体では、隣り合う燃料極20、20の間の領域に「支持基板10の一部からなる介在物」(=支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部)が介在していて、隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に「隙間」がそれぞれ形成されている。ここで、「隙間」が形成されているとは、両者が完全に離間している状態を指す。
【0047】
これによれば、上記「隙間」の形成により、燃料極20において(特に、支持基板10の主面の延在方向に沿う方向に)還元収縮・酸化膨張が発生しても、「介在物」が燃料極から引っ張り・圧縮応力を受け難い。換言すれば、「隙間」が「緩衝領域」として機能する。この結果、燃料極20の還元収縮・酸化膨張に起因して、「介在物」を取り巻く固体電解質膜40と「介在物」との界面近傍等にクラック等が発生する事態が発生し難くなる。この結果、ガスシール部(=固体電解質膜40+インターコネクタ30)のガスシール機能の低下などの問題が発生し難くなる。
【0048】
また、上記実施形態では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、複数の発電素子部Aが設けられている。これにより、支持基板の片側面のみに複数の発電素子部が設けられる場合に比して、構造体中における発電素子部の数を多くでき、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0049】
また、上記実施形態では、固体電解質膜40が、燃料極20の外側面及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、燃料極20の外側面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、図5等に示すように、支持基板10に形成された凹部12の平面形状(支持基板10の主面に垂直の方向からみた場合の形状)が、長方形になっているが、例えば、正方形、円形、楕円形等であってもよい。
【0051】
また、上記実施形態においては、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられているが、図13に示すように、支持基板10の片側面のみに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。また、上記実施形態においては、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。
【0052】
また、上記実施形態においては、隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に「隙間」がそれぞれ形成されている(即ち、隣り合う燃料極20、20の何れとも「介在物」が接触していない)が、隣り合う燃料極20、20の一方と「介在物」との間にのみ「隙間」が形成され、隣り合う燃料極20、20の他方と「介在物」との間に「隙間」が形成されていなくてもよい。即ち、隣り合う燃料極20、20の一方と「介在物」とが接触しておらず、隣り合う燃料極20、20の他方と「介在物」とが接触していてもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、隣り合う燃料極20、20の間の領域に介在する「介在物」として、「支持基板10の一部からなる介在物」(=支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部)が存在しているが、図14に示すように、「介在物」として、「ガスシール部の一部からなる介在物」が存在していてもよい。図14に示す例では、「介在物」として、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と同じ材質の緻密膜」が存在しているが、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と異なる材質の緻密膜」が存在していてもよい。
【0054】
また、図15に示すように、「介在物」として、「ガスシール部の一部と電気的接続部の一部とからなる介在物」が存在していてもよい。図15に示す例では、「介在物」として、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と同じ材質の緻密膜」と「電気的接続部の一部」である「インターコネクタ30と同じ材質の緻密膜」とが存在しているが、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と異なる材質の緻密膜」と「電気的接続部の一部」である「インターコネクタ30と異なる材質の緻密膜」とが存在していてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、インターコネクタ30が燃料極20の外側面に形成(積層)されているが、図16及び図17に示すように、インターコネクタ30が燃料極20の外側面に形成された凹部内に埋設されていてもよい。以下、上記実施形態に対する、図16及び図17に示す形態の主たる相違点について簡単に説明する。
【0056】
図16及び図17に示す形態では、支持基板10の主面(上下面)には、複数の凹部12が長手方向において所定の間隔をおいて形成されている。各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。支持基板10の上面(主面)に形成された各凹部12には、直方体状の燃料極集電部21の全体が、燃料極集電部21の側壁と凹部12の側壁との間に(燃料極集電部21の周囲に亘って)「隙間」が形成されるように、埋設されている。換言すれば、隣り合う燃料極集電部21、21の間の領域に「支持基板10の一部からなる介在物」が介在していて、隣り合う燃料極集電部21、21の両方と「介在物」との間に隙間がそれぞれ形成されている。本例では、「支持基板10の一部からなる介在物」は、支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部に対応する。
【0057】
なお、この例では、隣り合う燃料極集電部21,21の両方と「介在物」(=隣り合う凹部12、12間の突出部)との間に「隙間」がそれぞれ形成されている(即ち、隣り合う燃料極20、20の何れとも「介在物」が接触していない)が、隣り合う燃料極集電部21、21の一方と「介在物」との間にのみ「隙間」が形成され、隣り合う燃料極集電部21、21の他方と「介在物」との間に「隙間」が形成されていなくてもよい。即ち、隣り合う燃料極集電部21、21の一方と「介在物」とが接触しておらず、隣り合う燃料極集電部21、21の他方と「介在物」とが接触していてもよい。
【0058】
各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0059】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0060】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0061】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の4つの側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0062】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
【0063】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0064】
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸化性イオン(酸素イオン)伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0065】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0066】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0067】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。
【0068】
図16に示すように、この例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0069】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0070】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0071】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0072】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図16を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0073】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図16では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図16では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0074】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0075】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図16では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図16では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、前記「電気的接続部」に対応する。
【0076】
なお、インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における前記「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、前記「電気的接続部」における前記「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
【0077】
以上、図16及び図17に示す形態では、上記実施形態と同様の理由によって、「隙間」が「緩衝領域」として機能する。この結果、燃料極20の還元収縮・酸化膨張に起因して、「介在物」を取り巻く固体電解質膜40と「介在物」との界面近傍等にクラック等が発生する事態が発生し難くなる。この結果、ガスシール部(=固体電解質膜40+インターコネクタ30)のガスシール機能の低下などの問題が発生し難くなる。
【0078】
また、燃料極20を埋設するための複数の凹部12のそれぞれが、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁を有している。換言すれば、支持基板10において各凹部12を囲む枠体がそれぞれ形成されている。従って、この構造体は、支持基板10が外力を受けた場合に変形し難い。
【0079】
また、支持基板10の各凹部12内に燃料極20及びインターコネクタ30等の部材が隙間なく充填・埋設された状態で、支持基板10と前記埋設された部材とが共焼結される。従って、部材間の接合性が高く且つ信頼性の高い焼結体が得られる。
【0080】
また、インターコネクタ30が、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bに埋設され、この結果、直方体状のインターコネクタ30の4つの側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。従って、燃料極集電部21の外側平面上に直方体状のインターコネクタ30が積層される(接触する)構成が採用される場合に比べて、燃料極20(集電部21)とインターコネクタ30との界面の面積を大きくできる。従って、燃料極20とインターコネクタ30との間における電子伝導性を高めることができ、この結果、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0081】
また、上記実施形態では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、複数の発電素子部Aが設けられている。これにより、支持基板の片側面のみに複数の発電素子部が設けられる場合に比して、構造体中における発電素子部の数を多くでき、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0082】
また、上記実施形態では、固体電解質膜40が、燃料極20の外側面、インターコネクタ30の外側面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、燃料極20の外側面とインターコネクタ30の外側面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。なお、上記実施形態では、「内側電極」及び「外側電極」がそれぞれ燃料極及び空気極となっているが、逆であってもよい。
【0083】
また、図2、図14、図15、図16に示した上記各実施形態では、燃料極集電部21と「介在物」との間に「隙間」がそれぞれ形成されている。これに対し、図2、図14、図15、図16にそれぞれ対応する図18、図19、図20、図21に示す形態のように、燃料極集電部21と「介在物」との間に、「隙間」に代えて、「高気孔率部B」が形成されてもよい。高気孔率部Bは、多孔質で構成されていて、燃料極集電部21及び「介在物」と比べて気孔率が大きい部分である。具体的には、「介在物」が多孔質の場合(図18及び図21に示す支持基板10の突出部の場合)、「介在物」の気孔率が20〜60%であり、燃料極集電部21(内側電極)の気孔率が25〜50%であり、高気孔率部Bの気孔率が25〜80%である。
【符号の説明】
【0084】
10…支持基板、11…燃料ガス流路、12…凹部、20…燃料極、21…燃料極集電部、21a,21b…凹部、22…燃料極活性部、30…インターコネクタ、40…固体電解質膜、50…反応防止膜、60…空気極、70…空気極集電膜、A…発電素子部
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板」と、「前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順に積層されてなる複数の発電素子部」と、「1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部」と、「1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、前記燃料極に供給される燃料ガスと前記空気極に供給される酸素を含むガスとの混合を防止する緻密材料からなるガスシール部」と、を備えた固体酸化物形燃料電池の構造体が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。このような構成は、「横縞型」とも呼ばれる。
【0003】
以下、隣り合う発電素子部にそれぞれ属する隣り合う燃料極の間の領域に介在する介在物に着目する。特許文献1の図1に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、隣り合う燃料極2,2の間の領域に、電気的接続部(インターコネクタ5)の一部とガスシール部(固体電解質3)の一部からなる介在物が隙間なく介在している。特許文献1の図4に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、隣り合う燃料極13,13の間の領域に、支持基板(基体管11)の一部からなる介在物が隙間なく介在している。特許文献2の図2に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、隣り合う燃料極(23+13a),(23+13a)の間の領域に、ガスシール部(固体電解質33)の一部からなる介在物が隙間なく介在している。このように、上記文献に記載の構造体では、隣り合う燃料極の間の領域に、前記介在物が隙間なく介在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−106916号公報
【特許文献2】特開2008−226789号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、通常、燃料極の材料として、NiO系サーメットが使用される。燃料電池の作動の際、燃料極に導電性と電極活性とを持たせるため、NiOに対して燃料ガスの還元作用を利用した還元処理が施される。このようにNiOがNiに還元された状態で燃料電池が作動させられる。
【0006】
一方、燃料電池の作動中において、その作動が急に停止した場合等、支持基板の内部に形成された燃料ガス流路内に空気が一時的に流入する等の現象が発生し得る。この場合、燃料ガス流路に流入した空気に含まれる酸素の酸化作用により、燃料極のNiがNiOに再酸化する現象が発生し得る。
【0007】
以上のように、燃料極では、燃料ガスの還元作用によりNiOがNiに還元される現象、並びに、酸素の酸化作用によりNiがNiOに再酸化される現象が発生し得る。ここで、NiOがNiに還元される際、所謂還元収縮により燃料極は収縮する(燃料極の体積が減少する)。一方、NiがNiOに再酸化される際、所謂酸化膨張により燃料極は膨張する(燃料極の体積が増大する)。
【0008】
上記文献に記載の構造体のように、隣り合う燃料極の間の領域に前記介在物が隙間なく介在している場合(即ち、燃料極と前記介在物とが接触している場合)、上述した燃料極の収縮・膨張の影響により、前記介在物が燃料極から引張・圧縮応力を受け得る。この結果、前記介在物の内部や、「燃料極などの前記介在物を取り巻く物体と前記介在物との界面近傍」に、クラック等が発生する虞がある。この結果、ガスシール部のガスシール機能が低下したり、電気的接続部の導電性が低下するなどの問題が発生し得る。
【0009】
本発明は、「横縞型」の燃料電池の構造体であって、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、隣り合う燃料極の間の領域に介在する介在物にクラック等が発生し難いものを提供することを目的とする。
【0010】
本発明に係る燃料電池の構造体は、燃料ガス流路が内部に形成された電子伝導性を有さない多孔質の支持基板と、前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ「少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順に積層されてなる複数の発電素子部」と、1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する電子伝導性を有する1つ又は複数の電気的接続部と、1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、前記燃料極に供給される燃料ガスと前記空気極に供給される酸素を含むガスとの混合を防止する緻密材料からなるガスシール部と、を備える。即ち、この構造体は、「横縞型」の燃料電池の構造体である。支持基板は、平板状であっても円筒状であっても、内部に燃料ガス流路が形成されている限りにおいて如何なる形状であってもよい。
【0011】
本発明に係る燃料電池の構造体では、隣り合う前記発電素子部にそれぞれ属する隣り合う前記燃料極の間の領域に、前記支持基板の一部、前記電気的接続部の一部、及び前記ガスシール部の一部のうちの何れか1つ又は2つ以上からなる介在物が介在している。
【0012】
本発明に係る燃料電池の構造体の特徴は、隣り合う前記燃料極の一方又は両方と前記介在物との間に隙間、又は、前記燃料極及び前記介在物と比べて気孔率が大きい高気孔率部が形成されたことにある。この場合、隣り合う前記燃料極の両方と前記介在物との間に前記隙間又は前記高気孔率部がそれぞれ形成されると、より好ましい。
【0013】
これによれば、「隙間」又は「高気孔率部」の形成により、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、前記介在物が燃料極から引張・圧縮応力を受け難い。換言すれば、「隙間」又は「高気孔率部」が「緩衝領域」として機能する。この結果、燃料極の還元収縮・酸化膨張が発生しても、前記介在物の内部等にクラック等が発生し難くなる。この結果、ガスシール部のガスシール機能が低下したり、電気的接続部の導電性が低下するなどの問題が発生し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る燃料電池の構造体を示す斜視図である。
【図2】図1に示す燃料電池の構造体の2−2線に対応する断面図である。
【図3】図1に示す燃料電池の構造体の作動状態を説明するための図である。
【図4】図1に示す燃料電池の構造体の作動状態における電流の流れを説明するための図である。
【図5】図1に示す支持基板を示す斜視図である。
【図6】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第1段階における図2に対応する断面図である。
【図7】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第2段階における図2に対応する断面図である。
【図8】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第3段階における図2に対応する断面図である。
【図9】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第4段階における図2に対応する断面図である。
【図10】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第5段階における図2に対応する断面図である。
【図11】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第6段階における図2に対応する断面図である。
【図12】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第7段階における図2に対応する断面図である。
【図13】本発明に係る燃料電池の構造体の第1変形例の図2に対応する断面図である。
【図14】本発明に係る燃料電池の構造体の第2変形例の図2に対応する断面図である。
【図15】本発明に係る燃料電池の構造体の第3変形例の図2に対応する断面図である。
【図16】本発明に係る燃料電池の構造体の第4変形例の図2に対応する断面図である。
【図17】図16に示す支持基板の凹部に埋設された燃料極及びインターコネクタの状態を示した平面図である。
【図18】本発明に係る燃料電池の構造体の第5変形例の図2に対応する断面図である。
【図19】本発明に係る燃料電池の構造体の第6変形例の図14に対応する断面図である。
【図20】本発明に係る燃料電池の構造体の第7変形例の図15に対応する断面図である。
【図21】本発明に係る燃料電池の構造体の第8変形例の図16に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構造体を示す。このSOFCの構造体は、長手方向を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
【0016】
このSOFCの構造体の全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが5〜50cmで長手方向に直交する幅方向の長さが1〜10cmの長方形である。このSOFCの構造体の全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCの構造体の全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、図1に加えて、このSOFCの構造体の図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このSOFCの構造体の詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
【0017】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する図5に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、各凹部12は、周方向に閉じた4つの側壁と、底壁とで画定された直方体状の窪みである。
【0018】
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。支持基板10の厚さは、1〜5mmである。以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0019】
図2に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、直方体状の燃料極20の全体が、燃料極20の側壁と凹部12の側壁との間に(燃料極20の周囲に亘って)「隙間」が形成されるように、埋設されている。即ち、本例では、隣り合う燃料極20、20の間の領域に「支持基板10の一部からなる介在物」が介在していて、隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に隙間がそれぞれ形成されている。この隙間の幅L(図2を参照)は、0.5〜100μmである。本例では、「支持基板10の一部からなる介在物」は、支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部に対応する。
【0020】
燃料極20は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。燃料極20は、後述する固体電解質膜40に接する燃料極活性部22と、燃料極活性部22以外の残りの部分である燃料極集電部21とから構成される。燃料極活性部22を上方からみた形状は、凹部12が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。
【0021】
燃料極20の上面(外側面)と支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。
【0022】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0023】
各燃料極20(より具体的には、各燃料極集電部21)の上面の所定箇所には、インターコネクタ30が形成されている。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。インターコネクタ30を上方からみた形状は、燃料極20が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。インターコネクタ30は、例えば、LaCrO3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0024】
複数の燃料極20が埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成された部分を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0025】
即ち、複数の燃料極20が埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。ここで、緻密材料からなる「インターコネクタ30及び固体電解質膜40」が、「ガスシール部」に対応する。
【0026】
なお、図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0027】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0028】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0029】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0030】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0031】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0032】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0033】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、「電気的接続部」に対応する。
【0034】
以上、説明した「横縞型」のSOFCの構造体に対して、図3に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O2+2e−→O2− (於:空気極60) …(1)
H2+O2−→H2O+2e−
(於:燃料極20) …(2)
【0035】
発電状態においては、図4に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図3に示すように、このSOFCの構造体全体から(具体的には、図3において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0036】
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のSOFCの構造体の製造方法の一例について図5〜図12を参照しながら簡単に説明する。図5〜図12において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0037】
先ず、図5に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図5に示す6−6線に対応する部分断面を表す図6〜図12を参照しながら説明を続ける。
【0038】
図6に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図7に示すように、支持基板の成形体10gの上下面における各凹部に、燃料極の成形体(21g+22g)が埋設・形成される。この成形体(21g+22g)は、成形体の側壁と凹部の側壁との間に(成形体の周囲に亘って)「隙間」が形成されるように、埋設・形成される。各燃料極の成形体(21g+22g)は、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0039】
次に、図8に示すように、各燃料極の成形体21gの外側面の所定箇所に、インターコネクタの成形膜30gが形成される。各インターコネクタの成形膜30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO3)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0040】
次に、図9に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)が埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成された部分を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0041】
次に、図10に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0042】
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体において空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0043】
次に、図11に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0044】
次に、図12に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0045】
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体が得られる。以上、図1に示したSOFCの構造体の製造方法の一例について説明した。
【0046】
(作用・効果)
以上、説明したように、上記本発明の実施形態に係る「横縞型」のSOFCの構造体では、隣り合う燃料極20、20の間の領域に「支持基板10の一部からなる介在物」(=支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部)が介在していて、隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に「隙間」がそれぞれ形成されている。ここで、「隙間」が形成されているとは、両者が完全に離間している状態を指す。
【0047】
これによれば、上記「隙間」の形成により、燃料極20において(特に、支持基板10の主面の延在方向に沿う方向に)還元収縮・酸化膨張が発生しても、「介在物」が燃料極から引っ張り・圧縮応力を受け難い。換言すれば、「隙間」が「緩衝領域」として機能する。この結果、燃料極20の還元収縮・酸化膨張に起因して、「介在物」を取り巻く固体電解質膜40と「介在物」との界面近傍等にクラック等が発生する事態が発生し難くなる。この結果、ガスシール部(=固体電解質膜40+インターコネクタ30)のガスシール機能の低下などの問題が発生し難くなる。
【0048】
また、上記実施形態では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、複数の発電素子部Aが設けられている。これにより、支持基板の片側面のみに複数の発電素子部が設けられる場合に比して、構造体中における発電素子部の数を多くでき、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0049】
また、上記実施形態では、固体電解質膜40が、燃料極20の外側面及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、燃料極20の外側面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、図5等に示すように、支持基板10に形成された凹部12の平面形状(支持基板10の主面に垂直の方向からみた場合の形状)が、長方形になっているが、例えば、正方形、円形、楕円形等であってもよい。
【0051】
また、上記実施形態においては、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられているが、図13に示すように、支持基板10の片側面のみに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。また、上記実施形態においては、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。
【0052】
また、上記実施形態においては、隣り合う燃料極20、20の両方と「介在物」との間に「隙間」がそれぞれ形成されている(即ち、隣り合う燃料極20、20の何れとも「介在物」が接触していない)が、隣り合う燃料極20、20の一方と「介在物」との間にのみ「隙間」が形成され、隣り合う燃料極20、20の他方と「介在物」との間に「隙間」が形成されていなくてもよい。即ち、隣り合う燃料極20、20の一方と「介在物」とが接触しておらず、隣り合う燃料極20、20の他方と「介在物」とが接触していてもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、隣り合う燃料極20、20の間の領域に介在する「介在物」として、「支持基板10の一部からなる介在物」(=支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部)が存在しているが、図14に示すように、「介在物」として、「ガスシール部の一部からなる介在物」が存在していてもよい。図14に示す例では、「介在物」として、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と同じ材質の緻密膜」が存在しているが、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と異なる材質の緻密膜」が存在していてもよい。
【0054】
また、図15に示すように、「介在物」として、「ガスシール部の一部と電気的接続部の一部とからなる介在物」が存在していてもよい。図15に示す例では、「介在物」として、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と同じ材質の緻密膜」と「電気的接続部の一部」である「インターコネクタ30と同じ材質の緻密膜」とが存在しているが、「ガスシール部の一部」である「固体電解質膜40と異なる材質の緻密膜」と「電気的接続部の一部」である「インターコネクタ30と異なる材質の緻密膜」とが存在していてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、インターコネクタ30が燃料極20の外側面に形成(積層)されているが、図16及び図17に示すように、インターコネクタ30が燃料極20の外側面に形成された凹部内に埋設されていてもよい。以下、上記実施形態に対する、図16及び図17に示す形態の主たる相違点について簡単に説明する。
【0056】
図16及び図17に示す形態では、支持基板10の主面(上下面)には、複数の凹部12が長手方向において所定の間隔をおいて形成されている。各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。支持基板10の上面(主面)に形成された各凹部12には、直方体状の燃料極集電部21の全体が、燃料極集電部21の側壁と凹部12の側壁との間に(燃料極集電部21の周囲に亘って)「隙間」が形成されるように、埋設されている。換言すれば、隣り合う燃料極集電部21、21の間の領域に「支持基板10の一部からなる介在物」が介在していて、隣り合う燃料極集電部21、21の両方と「介在物」との間に隙間がそれぞれ形成されている。本例では、「支持基板10の一部からなる介在物」は、支持基板10における隣り合う凹部12、12間の突出部に対応する。
【0057】
なお、この例では、隣り合う燃料極集電部21,21の両方と「介在物」(=隣り合う凹部12、12間の突出部)との間に「隙間」がそれぞれ形成されている(即ち、隣り合う燃料極20、20の何れとも「介在物」が接触していない)が、隣り合う燃料極集電部21、21の一方と「介在物」との間にのみ「隙間」が形成され、隣り合う燃料極集電部21、21の他方と「介在物」との間に「隙間」が形成されていなくてもよい。即ち、隣り合う燃料極集電部21、21の一方と「介在物」とが接触しておらず、隣り合う燃料極集電部21、21の他方と「介在物」とが接触していてもよい。
【0058】
各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0059】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0060】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0061】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の4つの側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0062】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
【0063】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0064】
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸化性イオン(酸素イオン)伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0065】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0066】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0067】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。
【0068】
図16に示すように、この例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0069】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0070】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0071】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0072】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図16を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0073】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図16では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図16では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0074】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0075】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図16では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図16では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、前記「電気的接続部」に対応する。
【0076】
なお、インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における前記「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、前記「電気的接続部」における前記「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
【0077】
以上、図16及び図17に示す形態では、上記実施形態と同様の理由によって、「隙間」が「緩衝領域」として機能する。この結果、燃料極20の還元収縮・酸化膨張に起因して、「介在物」を取り巻く固体電解質膜40と「介在物」との界面近傍等にクラック等が発生する事態が発生し難くなる。この結果、ガスシール部(=固体電解質膜40+インターコネクタ30)のガスシール機能の低下などの問題が発生し難くなる。
【0078】
また、燃料極20を埋設するための複数の凹部12のそれぞれが、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁を有している。換言すれば、支持基板10において各凹部12を囲む枠体がそれぞれ形成されている。従って、この構造体は、支持基板10が外力を受けた場合に変形し難い。
【0079】
また、支持基板10の各凹部12内に燃料極20及びインターコネクタ30等の部材が隙間なく充填・埋設された状態で、支持基板10と前記埋設された部材とが共焼結される。従って、部材間の接合性が高く且つ信頼性の高い焼結体が得られる。
【0080】
また、インターコネクタ30が、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bに埋設され、この結果、直方体状のインターコネクタ30の4つの側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。従って、燃料極集電部21の外側平面上に直方体状のインターコネクタ30が積層される(接触する)構成が採用される場合に比べて、燃料極20(集電部21)とインターコネクタ30との界面の面積を大きくできる。従って、燃料極20とインターコネクタ30との間における電子伝導性を高めることができ、この結果、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0081】
また、上記実施形態では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、複数の発電素子部Aが設けられている。これにより、支持基板の片側面のみに複数の発電素子部が設けられる場合に比して、構造体中における発電素子部の数を多くでき、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0082】
また、上記実施形態では、固体電解質膜40が、燃料極20の外側面、インターコネクタ30の外側面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、燃料極20の外側面とインターコネクタ30の外側面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。なお、上記実施形態では、「内側電極」及び「外側電極」がそれぞれ燃料極及び空気極となっているが、逆であってもよい。
【0083】
また、図2、図14、図15、図16に示した上記各実施形態では、燃料極集電部21と「介在物」との間に「隙間」がそれぞれ形成されている。これに対し、図2、図14、図15、図16にそれぞれ対応する図18、図19、図20、図21に示す形態のように、燃料極集電部21と「介在物」との間に、「隙間」に代えて、「高気孔率部B」が形成されてもよい。高気孔率部Bは、多孔質で構成されていて、燃料極集電部21及び「介在物」と比べて気孔率が大きい部分である。具体的には、「介在物」が多孔質の場合(図18及び図21に示す支持基板10の突出部の場合)、「介在物」の気孔率が20〜60%であり、燃料極集電部21(内側電極)の気孔率が25〜50%であり、高気孔率部Bの気孔率が25〜80%である。
【符号の説明】
【0084】
10…支持基板、11…燃料ガス流路、12…凹部、20…燃料極、21…燃料極集電部、21a,21b…凹部、22…燃料極活性部、30…インターコネクタ、40…固体電解質膜、50…反応防止膜、60…空気極、70…空気極集電膜、A…発電素子部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板と、
前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順に積層されてなる複数の発電素子部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、前記燃料極に供給される燃料ガスと前記空気極に供給される酸素を含むガスとの混合を防止する緻密材料からなるガスシール部と、
を備えた燃料電池の構造体において、
隣り合う前記発電素子部にそれぞれ属する隣り合う前記燃料極の間の領域に、前記支持基板の一部、前記電気的接続部の一部、及び前記ガスシール部の一部のうちの何れか1つ又は2つ以上からなる介在物が介在していて、隣り合う前記燃料極の一方又は両方と前記介在物との間に、隙間、又は、前記燃料極及び前記介在物と比べて気孔率が大きい高気孔率部が形成された、燃料電池の構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の構造体において、
隣り合う前記燃料極の両方と前記介在物との間に前記隙間又は前記高気孔率部がそれぞれ形成された、燃料電池の構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池の構造体において、
前記燃料極は、前記固体電解質に接する燃料極活性部と、前記燃料極活性部以外の残りの部分である前記燃料極活性部に対して酸化性イオン伝導性を有する物質の含有割合が小さい燃料極集電部とから構成された、燃料電池の構造体。
【請求項4】
ガス流路が内部に形成された平板状の多孔質の支持基板と、
前記平板状の支持基板の主面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、少なくとも内側電極、固体電解質、及び外側電極が積層されてなる複数の発電素子部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の内側電極と他方の外側電極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
を備えた燃料電池の構造体において、
前記各電気的接続部は、緻密な材料で構成された第1部分と、前記第1部分と接続され且つ多孔質の材料で構成された第2部分とで構成され、
前記平板状の支持基板の主面における前記複数の箇所に、前記支持基板の材料からなる底壁と全周に亘って前記支持基板の材料からなる周方向に閉じた側壁とを有する第1凹部がそれぞれ形成され、
前記各第1凹部に、対応する前記発電素子部の内側電極がそれぞれ埋設され、
前記埋設された各内側電極の外側面に形成された第2凹部に、対応する前記電気的接続部の前記第1部分がそれぞれ埋設され、
対応する前記電気的接続部の第1部分が埋設された前記各第2凹部は、前記内側電極の材料からなる底壁と、全周に亘って前記内側電極の材料からなる周方向に閉じた側壁とを有し、
前記支持基板における隣り合う前記第1凹部の間の突出部と、前記隣り合う第1凹部にそれぞれ埋設された隣り合う前記内側電極の一方又は両方と、の間に、隙間、又は、前記内側電極及び前記突出部と比べて気孔率が大きい高気孔率部が形成された、燃料電池の構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記隙間が形成される場合、前記隙間の幅は0.5〜100μmである、燃料電池の構造体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記高気孔率部が形成される場合、前記介在物又は前記突出部の気孔率が20〜60%であり、前記燃料極又は前記内側電極の気孔率が25〜50%であり、前記高気孔率部の気孔率が25〜80%である、燃料電池の構造体。
【請求項1】
燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の支持基板と、
前記支持基板の外側面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順に積層されてなる複数の発電素子部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、前記燃料極に供給される燃料ガスと前記空気極に供給される酸素を含むガスとの混合を防止する緻密材料からなるガスシール部と、
を備えた燃料電池の構造体において、
隣り合う前記発電素子部にそれぞれ属する隣り合う前記燃料極の間の領域に、前記支持基板の一部、前記電気的接続部の一部、及び前記ガスシール部の一部のうちの何れか1つ又は2つ以上からなる介在物が介在していて、隣り合う前記燃料極の一方又は両方と前記介在物との間に、隙間、又は、前記燃料極及び前記介在物と比べて気孔率が大きい高気孔率部が形成された、燃料電池の構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の構造体において、
隣り合う前記燃料極の両方と前記介在物との間に前記隙間又は前記高気孔率部がそれぞれ形成された、燃料電池の構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池の構造体において、
前記燃料極は、前記固体電解質に接する燃料極活性部と、前記燃料極活性部以外の残りの部分である前記燃料極活性部に対して酸化性イオン伝導性を有する物質の含有割合が小さい燃料極集電部とから構成された、燃料電池の構造体。
【請求項4】
ガス流路が内部に形成された平板状の多孔質の支持基板と、
前記平板状の支持基板の主面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、少なくとも内側電極、固体電解質、及び外側電極が積層されてなる複数の発電素子部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の内側電極と他方の外側電極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
を備えた燃料電池の構造体において、
前記各電気的接続部は、緻密な材料で構成された第1部分と、前記第1部分と接続され且つ多孔質の材料で構成された第2部分とで構成され、
前記平板状の支持基板の主面における前記複数の箇所に、前記支持基板の材料からなる底壁と全周に亘って前記支持基板の材料からなる周方向に閉じた側壁とを有する第1凹部がそれぞれ形成され、
前記各第1凹部に、対応する前記発電素子部の内側電極がそれぞれ埋設され、
前記埋設された各内側電極の外側面に形成された第2凹部に、対応する前記電気的接続部の前記第1部分がそれぞれ埋設され、
対応する前記電気的接続部の第1部分が埋設された前記各第2凹部は、前記内側電極の材料からなる底壁と、全周に亘って前記内側電極の材料からなる周方向に閉じた側壁とを有し、
前記支持基板における隣り合う前記第1凹部の間の突出部と、前記隣り合う第1凹部にそれぞれ埋設された隣り合う前記内側電極の一方又は両方と、の間に、隙間、又は、前記内側電極及び前記突出部と比べて気孔率が大きい高気孔率部が形成された、燃料電池の構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記隙間が形成される場合、前記隙間の幅は0.5〜100μmである、燃料電池の構造体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記高気孔率部が形成される場合、前記介在物又は前記突出部の気孔率が20〜60%であり、前記燃料極又は前記内側電極の気孔率が25〜50%であり、前記高気孔率部の気孔率が25〜80%である、燃料電池の構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−38719(P2012−38719A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151495(P2011−151495)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【特許番号】特許第4846061号(P4846061)
【特許公報発行日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【特許番号】特許第4846061号(P4846061)
【特許公報発行日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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